説明

ハイスループットおよびハイコンテント・スクリーニングのための蛋白質断片の相補性アッセイ

本発明は、薬の発見のための、特に細胞経路を賦活もしくは阻害する化合物を同定するための蛋白質断片の相補性アッセイ法を提供する。適切なPCAレポータと組み合わせた相互作用する蛋白質ペアを選択することによって、これらのアッセイをハイスループットもしくはハイコンテント様式で用いることができると共に、化合物ライブラリの自動化スクリーニングにおいて用いることができる。この相互作用するペアは、cDNAライブラリ・スクリーニング;遺伝子毎の相互作用マッピング;もしくは経路に関する予備知識により選択することができる。また、本明細書に記載した方法を用いて蛍光および発光アッセイ法を構築することができる。ハイスループットもしくはハイコンテント(ハイコンテキスト)アッセイに適切なレポータの選択について、種々のレポータに関し、特に単量体酵素および蛍光蛋白質の例を詳しく示して説明する。また、生化学的経路の1つまたは1つ以上の段階に対するこのようなアッセイ法を構築する方法、コンビナトリアル、天然物、ペプチド、抗体、核酸その他の種々のライブラリからの化合物の対象蛋白質もしくは経路に対する作用をテストする方法、およびこのスクリーニングの結果を用いて対象蛋白質もしくは経路を賦活もしくは阻害する特定の化合物を同定する方法について説明する。単色および多色アッセイ法についても開示する。さらに、多数かつ多様な遺伝子/レポータの組合せに対するアッセイ法の迅速な構築を可能にするカセットを有する汎用発現ベクターについても開示する。このようなアッセイ法の開発は容易であることが示され、これにより薬の発見に対する広範で柔軟な、生物学的に適切な基盤が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関係各位殿:
本書をもって次のことを証する。我々、カナダ国モントリオールの居住者でカナダ国の公民ステファン・W・ミフニク(Stephen W. Michnick)、カナダ国モントリオールの居住者でカナダ国の公民イングリッド・レミー(Ingrid Remy)、カリフォルニア州リバーモアの居住者でアメリカ合衆国の公民ジェイン・ラマーディン(Jane Lamerdin)、カリフォルニア州マウンテンビューの居住者でアメリカ合衆国の公民ヘレン・ユー(Helen Yu)、カリフォルニア州サンラモンの居住者でアメリカ合衆国の公民ジョン・ウエストウィック(John Westwick)、およびカリフォルニア州プレザントンの居住者でアメリカ合衆国の公民マルニエ・L・マクドナルド(Marnie L. MacDonald)は、以下を明細書とする「ハイスループットおよびハイコンテント・スクリーニングのための蛋白質断片の相補性アッセイ」においていくつかの新規で有用な改良発明を行った。
【0002】
本出願は、2003年2月6日に提出した「ハイスループットおよびハイコンテントスクリーニングのための蛋白質断片の相補性アッセイ」と題する出願番号第60/445,225号の米国仮特許出願の優先権による利益を米国特許法119条に基づき主張するものであり、この仮出願については全文引用により本明細書に組み込まれている。また、本出願は、2002年5月24日出願の係属中米国特許出願第10/154,758号の継続出願であり、2000年2月7日出願の米国特許出願第09/499,464号で既に付与されている米国特許第6,428,951号の継続出願であり、1998年2月2日出願の米国出願第09/017,412号で既に付与されている米国特許第6,270,964号の継続出願である、2003年1月29日出願の係属中米国特許出願第10/154,758号の一部継続出願でもある。これらの全ての特許および特許出願の内容は、全文引用により本明細書に組み込まれている。
【背景技術】
【0003】
新薬の発見および開発に対する製薬会社の投資は、この10年間で飛躍的に増加したが、新薬として承認される割合はこれに見合ったものとなっていない。前臨床および臨床上の失敗が高価なものにつくことが、現行のプロセスの非効率の大部分の原因となっている。現在、薬の発見と共に、生物学的に適切なアッセイを高い処理能力で実施することができる迅速で強力な方法の開発が望まれている。特に、化合物の生物活性および新規な生物学的標的に対する作用メカニズムの推定には、細胞を利用したアッセイが不可欠である。
【0004】
また、多数の化合物を迅速で安価にスクリーニングすることも必要とされている。この必要性が生じているのは、種々の生物学的標的、例えば、受容体、酵素、シグナル伝達蛋白質などに対する作用について化合物のテストを日常的に行っている製薬業界である。こうした化合物は、化合物の種類が百万種を超えることもある大きなライブラリとして収集されている。化合物という用語は、広義に解釈して使用するよう意図されており、このため、例えば、単純な有機および無機分子、蛋白質、ペプチド、抗体、核酸とオリゴヌクレオチド、炭水化物、脂質、もしくは生物学的に重要な任意の化学物質が含まれるが、これらに限定されるものではない。また、化学物質ライブラリという用語も、広義に解釈して使用するよう意図されており、例えば、分子のコレクションが含まれるが、これに限定されるものではない。
【0005】
化学物質ライブラリのスクリーニングの多くは、インビトロ(試験管内で)のアッセイ法により行われている。このようなアッセイ法は、ひとたび構築されれば、高感度で再現性があり、費用をかけずに実施できる。シンチレーション近接法、蛍光偏光法と時間分解蛍光共鳴エネルギー転移法(FRET)、表面プラズモン共鳴分光法などの技術により、リガンド−受容体結合、プロテインキナーゼ活性などの種々の生化学的過程のスクリーニングを大規模に行うことが可能になっている。このようなアッセイ法は費用をかけずに実施することができるが、構築するのに6ヶ月以上かかることがある。また、大きな問題となるのは、インビトロ・アッセイ法を構築するには、スクリーニング実施の対象となる標的に対する精製蛋白質など、対象の標的ごとに特異試薬が必要になることである。目的の蛋白質を発現させ、および/または十分な量のその蛋白質を純品として得ることは困難な場合が多い。さらに、インビトロ・アッセイ法は薬理および構造活性相関の研究における最も基準になる方法であるが、インビトロ・アッセイ法では、ヒットした化合物の生物学的な利用能もしくは活性についての情報は得られない。
【0006】
細胞利用のHTSおよびHCSアッセイ法は、特性が十分に明らかにされていない標的に対して最も迅速なスクリーニング方法となろう。ゲノミクスに基づく方法から得られる薬剤の標的の数が増加したことにより、特性が十分に明らかにされていない標的から直接情報を得るための、その多くが細胞アッセイ系を利用する多数の「遺伝子スクリーニング」法の開発が促進されている。例えば、細胞利用のスクリーニング法は、(リガンドが知られていない)受容体もどき(orphan receptor)に対して頻繁に用いられてきた。こうした推測上の標的は、この標的を生理学的に最も適切な様式で発現させ、制御する方式で極めて容易にスクリーニングすることができる。こうしたものとしては、生化学的経路を調節する標的、このような過程に関与している不明なところの多いパートナによってそれ自体が調節されている標的、または転写制御複合体の構築を必要とする標的が挙げられる。必要な構成成分が全て事前に構築され、調節されている細胞の自然な状態を利用してこのような標的をスクリーニングすることが最良と考えられる。
【0007】
本発明は、ハイスループットおよびハイコンテント・スクリーニングのための蛋白質−断片の相補性アッセイ法(Protein−fragment complementation assay)(PCA)の構築および用途に関する。薬の発見への特異的で広範な用途、具体的には、(1)特定の生化学的経路の機能を変える化学物質の同定のための化合物および化学物質ライブラリのスクリーニング法、ならびに(2)特定の生化学的経路においてある役割を果たしている遺伝子を同定するためのcDNAライブラリのスクリーニング法を提供する。
【0008】
我々は、これまでに、生化学的経路からインビボ(生体内で)で直接情報を得るためのPCAについて報告している。基本的に、PCAは、完全な状態の生細胞を用いて蛋白質−蛋白質相互作用を測定する方法である。しかしながら、これには、薬の発見においてこれが重要な手段となるだけの以下のような特定の独特な特徴がある:即ち、(a)このPCA法は、ヒト細胞を含む任意の対象細胞に適用可能な最初で唯一の直接的、定量的な機能的アッセイ法であり、(b)酵母ツーハイブリッド法もしくは転写レポータ法とは異なり、PCAは、シグナルの解析時または二次もしくは三次実験において(酵母転写装置などの)別の細胞機構を利用しない、(c)遺伝子が細胞の適切な状況において発現され、生じる蛋白質が、適正な翻訳後の修飾など、自然のままの生物学的状態を反映しており、(d)蛋白質および薬剤の作用を適切な細胞内状況で評価することができ、(e)蛍光もしくは発光計測値を用いるPCAにより定量的なハイスループットおよびハイコンテント・アッセイ法を容易に構築することができ、(f)シグナル強度、安定性、分光特性、色彩などの必要な特性を全て有するアッセイ法を作成できるように、PCA用断片を合成および/または遺伝子操作により作製することができ、(g)発現ベクターの設計に柔軟性をもたせることにより、ユーザーが、アッセイ上の必要性に応じて、種々の遺伝子配置、リンカーの長さ、レポータの種類、構成的なもしくは誘導性のプロモータ、および種々の選択可能な標識法から選択することができ、最後に、(h)蛍光分光法もしくはサブユニット相補性アプローチと異なり、蛋白質ペアの発現レベルを注意深く調整する必要がない。
【0009】
細胞利用のレポータおよび計測
細胞スクリーニング法は、細胞可溶化物を分析する準生化学的な方法、もしくは生細胞アッセイ法の2群に大別することができる。本発明では、主として細胞全体を用いるアッセイに焦点を当てている。細胞全体を用いるアッセイ方法は、アッセイの原理によって異なるが、大部分は共通して発光もしくは蛍光の検出様式を採る。発光とは、エネルギーが特異的に分子に誘導されて励起状態を生じる現象である。発光には、蛍光、リン光、化学発光および生物発光が含まれる。
【0010】
蛍光蛋白質は増加の一途をたどっているが、これらのものとしては、オワンクラゲ(Aequorea Victoria)由来のGFPおよびそのスペクトル変異体が挙げられ、広く用いられている。枚挙されるものの中には、他の海洋生物、細菌、真菌、藻類、渦鞭毛藻類および一部の陸生種に由来する種々の蛍光蛋白質が含まれる(表I参照)。これらのレポータは、シグナルの発生に外来性の基質もしくは補因子を何ら必要としないという利点を有するが、内在性蛍光体の励起のために外部の放射線源を必要とする。さらに、広範囲の蛍光レポータ蛋白質をコードする遺伝子が入手しやすくなって、特定の用途、細胞種および検出系のためにカスタマイズされたアッセイ法の構築が可能になっている。
【0011】
別のクラスの発光蛋白質−ルシフェラーゼ−が細菌および真核生物で見つかっている。ルシフェラーゼは、天然の基質の可視スペクトルの光を発する産物への転換を触媒する蛋白質であり、従って、外部の放射線源を必要としない。いくつかの例を表Iに挙げた。単量体型のルシフェラーゼは、ホタル、Renillaその他の生物からクローニングされている。ホタル・ルシフェラーゼは、生物発光レポータのうちで最も一般的なものであり、2段階酸化反応を触媒して光を生じる61kDの単量体酵素である。Renillaルシフェラーゼは、セレンテラジンの酸化を触媒してセレンテラミドおよび480nmの青色を生じる31kDの単量体酵素である。ルシフェラーゼの基質は、プロメガ社(Promega Corporation)、インビトロゲン・モレキュラー・プローブズ社(Invitrogen Molecular Probes)などの販売元から広く入手することができる。
【0012】
種々の有用な酵素レポータは、蛍光シグナルを発生し、または蛍光部分で標識することができる小分子を結合して蛍光プローブとしての機能を果たすことができる酵素である。例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)は、高い親和性でメトトレキサートと結合させることができ、メトトレキサート−蛍光体結合体は、細胞内のDHFR量を定量的に測定するための蛍光試薬とすることができる。フルオレセイン、ローダミン、テキサスレッド(Texas Red)、BODIPYおよび他の市販分子(例えば、モレキュラー・プローブズ社/インビトロゲン社その他の供給元から入手可能なもの)などのいくつかの蛍光分子のうちの任意のものでメトトレキサートを標識することにより、広範な種類の蛍光情報を得ることができる。免疫組織化学および免疫細胞化学のこうした広範囲の技術は、まるごとの細胞(whole cell)に対して適用することができる。例えば、リガンドその他のプローブは、フルオレセインもしくは別の蛍光体で直接標識することにより細胞蛋白質への結合を検出することができ、またはアルカリ・ホスファターゼ、西洋わさびペルオキシダーゼなどの酵素で標識することによりシグナルを間接的に検出しその位置を確認することができる。
【0013】
蛍光を発するか、酵素による切断時に蛍光スペクトルをシフトする特定の細胞透過性基質を用いることで蛍光シグナルを生細胞内で発生させるのに、他の多くの酵素を使用することができる。例えば、ベータ・ラクタマーゼの場合、蛍光体が結合するベータ・ラクタム・コア部分が切断されると蛍光放射特性が測定可能な形で変化する基質が存在する。こうした変化としては、蛍光体の吸収もしくは放射波長のシフト、または放射と吸収がマッチした蛍光体ペアの共有結合構築物の切断が挙げられ、この構築物では共有結合により構築されている形ではこれら2つの蛍光体間の共鳴エネルギー移動が維持されているが、これら2つが分離されると、この移動がなくなる。広く用いられているCCF2/AMなどの膜を通過する蛍光性BLA基質により、生物活性化学物質のライブラリからの化合物の非存在下もしくは存在下で哺乳動物生細胞内の遺伝子発現を測定することが可能になる。
【0014】
発光、蛍光もしくは生物発光シグナルは、蛍光マルチウェルプレート・リーダ、蛍光細胞分析分離装置(FACS)、およびシグナルの空間分解能を有する細胞利用の自動イメージングシステムを含む種々の自動および/または高性能計測システムのうちの任意のシステムを用いて容易に検出および定量することができる。セロミクス社(Cellomics)、アマーシャム社(Amersham)、TTP社、Q3DM社、エボテック社(Evotec)、ユニバーサル・イメージング社(Universal Imaging)およびツァイス社(Zeiss)により開発された自動蛍光イメージングおよび自動顕微鏡システムなど、HCSを自動化するための種々の計測システムが開発されている。また、生細胞内の蛋白質の移動を検討するのに、光退色後蛍光回復法(FRAP)および経時的蛍光顕微鏡法(time lapse fluorescence microscopy)が用いられている。光学的計測法およびハードウェアはあらゆる生物発光シグナルを高感度、高性能で検出することができるまで進歩したが、既存のアッセイ法の選択には、その適用範囲、方式、生物学的妥当性に関して、または使い勝手の良さに関して制約がある。
【0015】
転写レポータ・アッセイ
シグナル伝達および遺伝子発現を伴う細胞事象のモニタリングを可能にする転写レポータ・アッセイを構築するのに、細胞利用のレポータがよく用いられている。レポータ遺伝子アッセイでは、標的の生物活性を検出が容易な酵素もしくは蛋白質レポータの発現と結びつける。種々のレポータ遺伝子に転写制御エレメントを融合させることによって、こうした系から細胞内の遺伝子発現に対する一連のシグナル伝達事象の影響が「報知(report)」される。特定の反応エレメントの合成繰返し体をこのレポータ遺伝子の上流に挿入することにより、生細胞内の特定の経路を賦活化することで生成されるシグナル伝達分子に反応したその発現を調節することができる。転写レポータ遺伝子およびその応用の多様性は極めて広く、例えば、ベ−タ・ガラクトシダーゼ(beta−gal)、ルシフェラーゼ、アルカリ・ホスファターゼ(発光アッセイ)、GFP、エクオリンおよび種々の比較的新しい生物発光もしくは蛍光レポータを用いた薬剤スクリーニング系が挙げられる。
【0016】
一般に、転写レポータ・アッセイでは、1つまたは1つ以上の生化学的経路の天然もしくは合成化学物質に対する経路の反応に関する情報を得ることができるが、経路の賦活化もしくは阻害の結果を測定することで経路に対する物質の作用が間接的に判定されるに過ぎず、この化合物の作用部位が判定されるものではない。このため、細胞の生化学的経路の機能エレメントを含む蛋白質−蛋白質相互作用を直接定量し、こうした経路を利用した薬の発見向けのアッセイ法を構築するための哺乳動物細胞を用いる方法が求められている。
【0017】
蛍光体もしくは発光団で標識した個々の蛋白質の細胞アッセイ
シグナル伝達蛋白質の細胞内区画化は、生化学的経路の賦活化のされ方を規定する点のみならず、経路の賦活化による所望の生理学的な結果に影響を及ぼす点でも、重要な現象である。薬の発見に関しては、異なる分子特性を有するそれ自体蛍光性の種々の蛋白質がクローニングされ入手可能となった結果、上記の面で大きな進展が見られている。ハイコンテント(ハイコンテキストとも呼ばれる)スクリーニング(HCS)は、細胞の画像に基づく解析を利用して、細胞過程の刺激もしくは阻害剤への反応による蛋白質の細胞内配置および再分布を検出する生細胞使用のアッセイ法である。HCSでは蛍光プローブを使用することができ、例えば、受容体の細胞内移行は、トランスフェリン受容体に結合する蛍光標識リガンドを用いて測定することができる。多くの場合、個々の蛋白質は、−対象とする蛋白質をGFPなどの検出可能部分と融合させた−融合蛋白質として発現させるか、固定後、Cy3もしくは別の適切な色素に結合させた抗体を用いるなどして免疫組織化学法により検出する。このような方法で、蛋白質の細胞内配置を実時間でイメージングし、追跡することができる。最大の開発領域の1つは、GFPの色を変えた変異体その他の比較的最近単離された新規な蛍光蛋白質の用途にあり、これらの蛋白質を用いると、マルチカラー・アッセイなどのさらに一層進歩した生細胞利用アッセイ法の構築が可能になる。生細胞内のGFP融合蛋白質の再分布を追跡することにより主要な細胞内シグナル伝達経路を分析する一連のGFPアッセイ法が開発されている。HCSによる薬物スクリーニングの目標は、主要なシグナル伝達蛋白質のその細胞内作用部位への移動を阻害することにより病的経路を遮断する治療化合物を同定することにある。
【0018】
蛍光体もしくは発色団で蛋白質を標識すると、細胞刺激もしくは阻害剤に反応したその特定の蛋白質の追跡が可能になる。例えば、TNFによる細胞シグナル伝達の賦活化は、NFkB転写複合体のp65サブユニットをGFP融合体として発現させ、次いで、生細胞のTNFによる刺激後数分以内に細胞質区画から細胞の核区画への蛍光の再分布を追跡することにより、検出することができる(JAシュミットほか(JA Schmid et al.)、2000年、「緑色蛍光蛋白質(GFP)融合蛋白質によるNFkBおよびIkBaの動態の検討(Dynamics of NFkB and IkBa studied with green fluorescent protein (GFP) fusion proteins)」ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)275:p17035−17042)。こうした方法に関して特有であったことは、生細胞内の個々の蛋白質移動の動態のモニタリングを可能にすることにより、シグナル伝達の空間的側面と時間的側面を共に扱うことができたことである。
【0019】
蛋白質-蛋白質相互作用の測定
単一蛋白質のモニタリングとは対照的に、蛋白質−蛋白質相互作用アッセイは、2種の蛋白質間の複合体の存在および量を評価することができる。
【0020】
古典的な酵母ツーハイブリッド(Y2H)系は、このようなアッセイの広く用いられてきた例であり、哺乳動物のツーハイブリッド系に合うように改良されてきた。特に、このアッセイ法は、cDNAライブラリをスクリーニングしてある既知の蛋白質と相互作用する蛋白質を同定する際に用いられてきた。既知の「おとり(bait)」蛋白質と相互作用することが明らかにされることによって、cDNA産物は、この既知の蛋白質が関与する生化学的経路に関与している可能性があると推論することができる。Y2Hによるおとり対ライブラリ・スクリーニングは高い処理能力で実施することができるが、Y2Hのいくつかの特質によって機能蛋白質の標的としてのバリデーションおよび化学物質ライブラリのスクリーニングのための有用性が制約されている。第一に、Y2Hでは酵母細胞などの細胞の核内での対象蛋白質の発現を必要とする場合が多く、このことは多くのヒト蛋白質には不自然な状況であり、受容体などのヒト膜蛋白質にはこれを用いることはできない。第二に、酵母は、薬の発見に重要なヒトの生化学的経路を有せず、このことが、薬物の標的となる可能性のある新規な蛋白質の、経路を利用した発見およびバリデーションを妨げている。第三に、蛋白質−蛋白質相互作用を直接阻害する化学物質は別として、哺乳動物の生化学的経路を阻害する薬理学的に活性な分子を同定するのにY2Hは役立たない。
【0021】
原理的には、細胞利用の蛋白質−蛋白質相互作用アッセイは、蛋白質の動的な結合および解離をモニターすることの他に、生細胞の生化学的経路の活性をモニターすると共に、こうした経路に対する化学物質の作用を直接調べるのに用いることができる。転写レポータ・アッセイ法とは異なり、蛋白質−蛋白質相互作用のモニタリングにより得られる情報は、特に、細胞のシグナル伝達経路の終点ではなく、その特定の分枝もしくは分岐点で発生するものである。
【0022】
最も広く普及している蛍光、細胞利用の蛋白質−蛋白質相互作用アッセイ法は、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)もしくは生物発光共鳴エネルギー転移(BRET)の現象を利用したものである。FRETアッセイでは、FRETを行うことができる2種の蛍光レポータの遺伝子を対象をコードする遺伝子に別々に融合させ、これらの融合蛋白質を生細胞内で共発現させる。対象蛋白質間に蛋白質複合体が形成される時、これらの2つの蛋白質の発光および励起が重なり合い、蛍光体が近接して組み込まれている場合には、第1の「ドナー」蛍光体から光子が放出されると、第2の「アクセプター」蛍光体によりその放出された光子が効率的に吸収される。このFRETのペアは、生細胞内でいずれかの蛍光体単独のものとは識別できる励起および発光波長の特有の組み合わせにより蛍光を発する。FRETアッセイに用いられてきた具体例としては、シアンブルー、レモン色、強化緑色および強化青色蛍光蛋白質などの各種GFP変異体が挙げられる。BRETの場合には、発光蛋白質、例えば、酵素Renillaルシフェラーゼ(RLuc)がドナーとして用いられ、緑色蛍光蛋白質(GFP)がアクセプター分子として用いられる。RLucの基質となる化合物を加えた状態で、RLucが発する青色光の量をGFPが発する緑色光の量と比較することによりFRETシグナルが測定される。これら2つの蛋白質が近くに組み込まれているほど、青色に対する緑色の割合は増加する。FRETもしくはBRETの定量は技術的に困難なことがあり、蛋白質−蛋白質相互作用のイメージングへの使用は、FRETシグナルが極弱いため、極めて限定される。多くの場合、FRETは、アクセプターの蛍光体がドナーの励起によって間接的に励起されるに過ぎないので、余り明るいシグナルを生じない。FRETではドナーの発光とアクセプターの励起との重なりを必要とするので、ドナーおよびアクセプターの蛍光波長は、FRETが機能するにはかなり接近していなければならない。ブリードスルー(bleedthrough)および自己蛍光からのFRETの解析を可能にするさらに新しい方法が開発中である。さらに、蛍光寿命画像顕微鏡法(FLIM)では、単一のFRET強度の定量に伴うアーチファクト不随物の多くが除かれる。しかしながら、後述のように、現在のところ、FRETおよびBRETはcDNAライブラリもしくは化学物質ライブラリのハイスループット・スクリーニングに容易には適用できない。
【0023】
これまでに、野性型ベータ・ガラクトシダーゼの活性、またはアルファもしくはオメガ相補性の現象を利用して、種々のアッセイ法が構築されている。beta−galは最大百万ダルトンまでの4量体および8量体複合体を形成する多量体酵素である。beta−galサブユニットは自己オリゴマー形成を行って活性を生じる。この自然に起こる現象を利用して、30件を超える特許の対象となっている各種のインビトロ均一系アッセイ法が開発されている。beta−galのアルファもしくはオメガ相補性は1965年に最初に報告されたが、その後これを利用して、抗体−抗原、薬物−蛋白質、蛋白質−蛋白質その他の生体分子相互作用を検出するためのアッセイ法が開発されている。しかしながら、上記現象が自然に起こる結果、かなりのバックグラウンド活性が生じるため、生細胞アッセイに対するbeta−gal相補性の適合性は限定されている。このバックグラウンド活性の問題は、自然に相補性を示す能力が低減もしくは皆無に近い低親和性変異体サブユニットの開発によって部分的に解決されており、このため、例えば、生細胞におけるEGF受容体のリガンド依存性活性化の検出を含む種々のアッセイが可能になっている。ところが、beta−gal反応の生成物は細胞全体に拡散するので、beta−galはハイコンテント・アッセイには適していない。
【0024】
蛋白質−断片相補性を利用した蛋白質−蛋白質相互作用アッセイ(PCA)
PCAは、細胞内蛋白質−蛋白質複合体の結合、解離もしくは局在化を測定するための、FERTおよびBRETに代わる方法となる。PCAにより生細胞内の蛋白質−蛋白質複合体の量および細胞内局在を測定し、定量化することが可能になる。PCAの場合、蛋白質は、遺伝子操作により作製するポリペプチド断片との融合体として発現されるが、このポリペプチド断片自体は(a)蛍光性もしくは発光性部分ではなく、(b)天然に存在するものではなく、(c)レポータの断片化により作製されるものである。
【0025】
ミフニクほか(Michnick et al.)(米国特許第6,270,964号)は、PCAに上記のレポータのうちの任意のものを含む任意の対象レポータ蛋白質を用いることができることを開示している。即ち、PCAに適したレポータとしては、いくつかの酵素および蛍光、発光もしくはリン光を発する蛋白質のうちの任意のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。PCA用には、単量体酵素、単量体蛍光蛋白質など、小(約150個のアミノ酸)断片が得られる小単量体蛋白質が好ましい。ミフニクほか(Michnick et al.)により確立された原理によると、任意のレポータ蛋白質を断片化することができるので、細胞種、標的、シグナル伝達プロセスおよび選択した計測器の特定の要件に合わせてアッセイ法をカスタマイズすることができる。最終的に、広範囲のレポータ断片の中から選択することができることにより、蛍光、発光、リン光またはその他の方法で検出可能なシグナルの構築およびハイコンテントもしくはハイスループット・アッセイ方式の選択が可能になる。
【0026】
これまでに本発明で明らかにしてきたように、PCA用に遺伝子操作で作製した断片は単独では蛍光性でも発光性でもない。このPCAの特徴によって、例えば、蛋白質をGFPその他の発光団で標識する米国特許第6,518,021号(タストラップほか(Thastrup et al.))など、蛍光分子もしくは発光団で蛋白質を標識する他の発明からPCAは区別される。PCAの断片は発光団ではないので、これによって個々の蛋白質の再分布をモニターすることはできない。その一方、PCAで測定できるのは、2つの蛋白質の複合体の形成である。
【0027】
最終的には、PCAは、米国特許第5,989,835号に開示されているような既存のハイコンテント計測器およびソフトウェアを含む、薬の発見のための種々の既存の自動化システムと併せて用いることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
[本発明の目的および利点]
本発明の目的は、生細胞の自然な状態を用いた大規模な薬の発見のための方法を提供することにある。
【0029】
より詳細には、本発明の目的は、対象とする任意の生化学的経路もしくは遺伝子に対する細胞利用のアッセイ法を迅速に構築することにより、ヒトの各種症状の治療剤となる可能性のある化合物の同定を迅速化することにある。
【0030】
本発明の別の目的は、新規な生化学的経路の同定、およびその経路に対するハイスループットスクリーニング・アッセイ法の迅速な構築を可能にすることにある。
【0031】
本発明の別の目的は、ハイスループットもしくはハイコンテント・アッセイ法であって、このアッセイの実施のために特化された計測法を必要とせず、既存の種々の計測原理に広く適用できるアッセイ法を提供することにある。
【0032】
さらに、本発明の別の目的は、生細胞内で検出することができるシグナルを発生する各種の有用なレポータを利用して上記のアッセイ法を構築する方法を提供することにある。
【0033】
従って、本発明の目的は、任意のレポータ蛋白質を断片化して用いることにより、生細胞内でシグナルを発生させることができ、また、ハイスループットおよびハイコンテント・アッセイ法に適した数多くのレポータが得られることを立証することにある。
【0034】
本発明の別の目的は、従来の方法ではスクリーニングするのが困難と考えられる各種標的に対する、薬の発見を迅速化するためのハイスループット・アッセイ法およびハイコンテント・アッセイ法の構築を可能にすることにある。
【0035】
本発明の別の目的は、治療に関連する生化学的経路のアゴニスト、アンタゴニストおよび阻害剤の効果を検出するのに本発明を利用することができることを立証することにある。
【0036】
本発明の別の目的は、ハイスループット・スクリーニングおよびハイコンテント・スクリーニングに有用なベクター構造およびエレメントを提供することにある。
【0037】
本発明のさらに別の目的は、薬の発見に有用な特定の経路、標的クラスおよび標的蛋白質を利用するアッセイ法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0038】
本発明には、対象とする任意の経路、遺伝子、遺伝子ライブラリ、標的クラス、レポータ蛋白質、検出方法、化学物質ライブラリ、自動化方式、自動化計測、ベクター設計および細胞種に広く適用できるという利点がある。
【0039】
本発明は、薬の発見に必要な上記のものを提供しようとするものである。本発明は、蛋白質−断片の相補性アッセイを利用して薬の発見を行うための一般的な方法を提供する。本発明は、生細胞内の特定の生化学的もしくは病的経路を阻害もしくは賦活化することができる天然物、有機分子、リガンド、抗体その他の薬理学的に活性な物質を同定するために、このアッセイ法を化合物および化学物質ライブラリのスクリーニングにどのように利用することができるかについて開示する。
【0040】
化学物質ライブラリをスクリーニングして治療的に有用となる可能性のある化合物を同定するためのハイスループット・スクリーニング(HTS)およびハイコンテント/ハイコンテキスト・スクリーニング(HCS)に関する方法および組成物を提供する。この両タイプのアッセイ法は、蛍光、生物発光、化学発光もしくはリン光などの、生細胞、固定細胞もしくは可溶化細胞アッセイで光学的に検出可能な情報を利用する。両タイプのアッセイ法とも、最新の計測法、データ入力、ソフトウェアおよび自動化に十分に適合する。
【0041】
ハイスループット・スクリーニングの場合、例えば、蛍光マイクロタイタープレート・リーダーを用いる蛍光分光法、FACSアナライザー、照度計、もしくは同様の装置により、大量の蛍光もしくは発光シグナルを検出する。ハイコンテント・スクリーニングの場合、個々の細胞をイメージングし、PCAシグナルおよびその細胞内局在を検出する。本発明で提供する方法およびアッセイは、マルチウェルフォーマット、マイクロタイタープレート、マイクロスポット方式もしくはアレイを用いて行うことができるので、アッセイの方式設定およびコンパクト化に柔軟性を持たせることができる。
【0042】
HTSもしくはHCS方式のいずれを選択するかは、前記プロセスの生物学的特質およびスクリーニングすべき蛋白質の機能によって決まる。いずれにせよ、これらのアッセイ法は特別な計測器の使用を必要としないことに注目されたい。本発明の対象であるHTSおよびHCSアッセイの結果が、選択されたレポータが生じるシグナルの検出に適した任意の計測器を用いて読み取ることができることは、当業者には理解されよう。そのような計測器システムの多くは市販されている。
【0043】
また、本出願では、スクリーニングすべき経路内で相互作用する蛋白質ペアを選択する方法を開示する。本発明では、相互作用する蛋白質ペアを同定する方法が提供されており、このような方法としては、cDNAライブラリのスクリーニング、遺伝子毎の相互作用マッピング、および経路もしくは蛋白質−蛋白質相互作用に関する予備知識の活用が挙げられる。これらの方法のそれぞれの例については、本発明により薬の発見に利用するのに適した特定の経路、標的クラスおよび個々の蛋白質の場合と同様に、本明細書に示されている。
【0044】
また、本出願では、PCAに用いる特定のレポータを選択する根拠を説明する。PCAと併用するHTSおよびHCSに適したレポータについては表Iに示したが、その特徴、および種々の断片化方法については、既にミフニクほか(Michnick et al.)(米国特許第6,270,964号)により説明されている。6種のこのようなレポータを用いたPCAの例を本明細書に示したが、そのような例として緑色蛍光蛋白質(GFP)とその2種の変異体(YFPおよびIFP)、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、ベータ・ラクタマーゼ、およびRenillaルシフェラーゼ(RLuc)が挙げられる。本発明が提示した特定のPCA、および本明細書に示した実施例においてこれが用いられた状況に限定されないことは、当業者には理解されよう。本発明は、検出可能なシグナルを生じる任意のレポータを利用することにより、薬の発見に特に必要とされている蛋白質−断片の相補性アッセイ法を構築することができることを開示する。
【0045】
【表1−1】

【0046】
【表1−2】

【0047】
【表1−3】

【0048】
【表1−4】

【0049】
また、本発明は、薬の発見のための方法であって、(A)1つまたは1つ以上の蛋白質−断片の相補性アッセイを構築する工程と、(B)前記アッセイの活性に対する化合物の効果を調べる工程と、(C)前記アッセイの結果を用いて、所望の活性を有する化合物を同定する工程と、を含む方法に関する。
【0050】
また、本発明は、化合物をスクリーニングする方法であって、(A)細胞経路の1つまたは1つ以上の段階に対する蛋白質−断片の相補性アッセイを構築する工程と、(B)前記アッセイの活性に対する上記化合物の効果を調べる工程と、(C)スクリーニングの結果を用いて、対象細胞経路を賦活するもしくは阻害する化合物を同定する工程と、を含む方法に関する。
【0051】
さらに、本発明は、化合物をスクリーニングする方法であって、(A)化学物質のライブラリを選択する工程と、(B)1つまたは1つ以上の蛋白質−断片の相補性アッセイを構築する工程と、(C)前記ライブラリから前記アッセイに対する化合物の効果を調べる工程と、(D)スクリーニングの結果を用いて、上記アッセイで発生するシグナルを増強もしくは低減させる特定の化合物を同定する工程と、を含む方法に関する。
【0052】
さらに、本発明は、化合物をスクリーニングする方法であって、(A)化学物質のライブラリを選択する工程と、(B)1つまたは1つ以上の蛋白質−断片の相補性アッセイを構築する工程と、(C)前記ライブラリから前記アッセイに対する化合物の効果を調べる工程と、(D)スクリーニングの結果を用いて、前記アッセイで発生するシグナルの細胞内部位(subcellular location)を変える特定の化合物を同定する工程と、を含む方法を提供する。
【0053】
また、本発明は、アッセイを構築する方法であって、(a)相互作用する蛋白質の各遺伝子を選択する工程と、(b)適切なレポータ分子を選択する工程と、(c)前記レポータ分子を断片化することにより、前記断片化がレポータ機能を可逆的に欠損させる工程と、(d)前記レポータ分子の各断片を他の分子にそれぞれ融合もしくは結合させる工程と、(e)前記断片に融合もしくは結合している分子同士の相互作用によって前記レポータ断片を再結合させる工程と、(f)自動計測により前記レポータ分子の活性を測定する工程と、を含む方法に関する。
【0054】
さらに、本発明は、レポータ分子の個々の断片を再構築することを含み、これらのレポータ断片の再構築により光学的に検出可能なシグナルが生じる、薬の発見のための蛋白質断片の相補性アッセイを提供する。さらに、本発明は、前記アッセイのシグナルが自動計測により検出される、薬の発見のための蛋白質断片の相補性アッセイを提供する。
【0055】
また、本発明は、第1レポータ分子の相補性の断片を含む、薬の発見のためのアッセイ組成物であって、前記相補性の断片同士が結合したときに検出可能な活性を発現し、各断片が別の分子に融合されているアッセイ組成物を提供する。
【0056】
また、本発明は、
(a)1)断片同士が結合したときに検出可能な活性を発現する第1レポータ分子の第1断片と、
2)前記第1断片と融合している第2分子と、
を含む第1の融合産物と、
(b)1)前記第1レポータ分子の第2断片と、
2)前記第2断片に融合している第3分子と、
を含む第2の融合産物と、
(c)(a)および(b)の2つの融合産物と、
からなる群から選ばれる産物を含む薬の発見のためのアッセイ組成物に関する。
【0057】
さらに、本発明は、
(a)1)断片同士が結合により検出可能な活性を発現する第1レポータ分子の第1断片と、
2)前記第1断片と融合している第2分子と、
を含む第1の融合産物と、
(b)1)前記第1レポータ分子の第2断片と、
2)前記第2断片に融合している第3分子と、
を含む第2の融合産物と、
(c)(a)と(b)の2つの融合産物と、
からなる群から選ばれる産物を含む薬の発見のためのアッセイ組成物に関する。
【0058】
また、本発明は、レポータ断片融合産物をコードしている核酸分子を含む、薬の発見のためのアッセイ組成物であって、
前記核酸分子が、
(a)1)断片同士が結合により検出可能な活性を発現する第1レポータ分子の断片と、
2)前記第1レポータ分子の断片と融合している第2分子と、
を含む第1レポータ融合産物と、
(b)1)前記第1レポータ分子の第2断片と、
2)第2もしくは第3分子と、
を含む第2の融合産物と、
(c)(a)と(b)との2つの融合産物と、
からなる群から選ばれる産物をコードしている配列を含むアッセイ組成物を提供する。
【0059】
さらに、本発明は、
(a)1)断片同士が結合したときに検出可能な活性を発現する第1レポータ分子の第1断片と、
2)前記第1断片と融合している第2分子と、
を含む第1の融合産物と、
(b)1)前記第1レポータ分子の第2断片と、
2)前記第2断片に融合している第3分子と、
を含む第2の融合産物と、
(c)1)断片同士が結合したときに検出可能な活性を発現する第2レポータ分子の第1断片と、
2)この第1断片と融合している第4分子と、
を含む第3の融合産物と、
(d)1)前記第2レポータ分子の第2断片と、
2)前記第2断片に融合している第5分子と、
を含む第4の融合産物と、
(e)(a)、(b)、(c)および(d)の融合産物のの組み合わせと、
からなる群から選ばれる産物を含む、薬の発見のためのアッセイ組成物を提供する。
【0060】
別の実施態様として、本発明は、レポータ断片融合産物をコードしている核酸分子を含む、薬の発見のためのアッセイ組成物であって、
前記核酸分子が、
(a)1)断片同士が結合したときに検出可能な活性を発現する第1レポータ分子の断片と、
2)前記第1分子の断片と融合している第2分子と、
を含む第1レポータ融合産物と、
(b)1)断片同士が結合したときに検出可能な活性を発現する第2レポータ分子の断片と、
2)前記第2分子の前記断片と融合している第3分子と、
を含む第2の融合産物と、
(c)(a)と(b)との2つの融合産物と、
からなる群から選ばれる産物をコードしている配列を含むアッセイ組成物を提供する。
【0061】
最後に、本発明は、レポータ断片に動作可能に結合した、少なくとも1つの対象分子を含む発現ベクターを有する、薬の発見のためのアッセイ組成物、および(a)誘導性プロモータと、(b)レポータ断片に動作可能に結合した対象遺伝子とを含む発現ベクターを有する、薬の発見のためのアッセイ組成物を提供する。
【0062】
本発明は、ハイスループットおよびハイコンテント・スクリーニングに適した広範囲な組成物、レポータ、方式およびアッセイ特性を提供するので、薬の発見を広く可能にしている。これらのアッセイは、構築および実施が容易であり、コスト効率が良く、生物学的にも妥当なものである。こうしたアッセイでは、対象蛋白質を対象細胞内で発現させるだけでアッセイ結果が得られるので、個々の蛋白質を精製する必要がない。本明細書に記載した様々なアッセイ法は、適切な発現ベクターのアクセプター部位に対象遺伝子をサブクローニングするだけで構築することができる。一過性(trancient)アッセイはトランスフェクション時からわずか24乃至28時間内に構築することができ、ベクターカセット内に選択マーカを含ませることによって継代可能な(renewable)安定した細胞株を作製することができる。要するに、本明細書に記載した方法、アッセイおよび組成物により、生細胞の自然な状態を用いてこれまでにない規模で薬の発見を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
HTSもしくはHCSアッセイの構築
HTSもしくはHCSアッセイを構築するプロセスの概略を図1に示した。HTSもしくはHCSアッセイに用いるべき遺伝子は、相互作用する既知もしくは新規蛋白質のいずれをコードしていてもよい。これらの相互作用する蛋白質は、おとり(bait)対ライブラリスクリーニング;(遺伝子毎の)2つ1組の相互作用のマッピング;および/または経路もしくは相互作用性蛋白質ペアの予備知識の活用を含む1つまたは1つ以上の方法により選択することができる。この略図の番号3および4の蛋白質は、受容体媒介性細胞シグナル伝達経路に関与することが分かっており(もしくはこれを示すことができ)、この経路をブロックする化合物を同定するHTSもしくはHCSスクリーニングを構築するために選択することができる。全ての蛋白質−蛋白質複合体が経路のアゴニスト、アンタゴニスト、賦活剤もしくは阻害剤に反応する訳ではないことに留意されたい。PCAを用いることにより経路の活性を選び出して報知することができる「標識(sentinel)」としての機能を果たす蛋白質−蛋白質ペアを同定することができるのは本発明の利点である。いずれにせよ、一旦対象遺伝子が同定されれば、以下のスキームに従って、アッセイを構築することができる:即ち、レポータ断片ペアF1/F2を作製する(一部のレポータについては表Iに列挙してある)。例えば、図1に(3,4)として示した蛋白質−蛋白質ペアをコードする2種の対象遺伝子を用いて、一方が可変リンカーおよびF1レポータ断片にインフレームで融合させた遺伝子「3」を含み、他方が可変リンカーおよびF2レポータ断片にインフレームで融合させた遺伝子「4」を含むことにより対象遺伝子、リンカーおよびレポータ断片がインフレームとなり、プロモータに動作可能なように結合するようにした2種の発現構成体を作製する。(多シストロン性ベクターを用いることもできる。選択可能なベクターの詳細については実施例12に記載されている)。図1の遺伝子は5’末端で融合されているので、コードされている対象蛋白質はこの融合体のN−末端にあることになるが、他の組み合わせ、ならびにベクターの構築およびベクターのエレメントの詳細については図16に示した。細胞を相補性F1、F2遺伝子構成体でコトランスフェクションすることにより蛋白質を発現させる。一過性アッセイを実施することができ、また、安定な細胞株は、この株を得るのに選択マーカもしくは生存選択PCAを用いることにより、「内部にPCA」を有するものとして構築することができる。得られる細胞もしくは安定細胞株は、対象化学物質ライブラリと併せてHTSもしくはHCSのために用いる。
【0064】
本発明の以上の態様を例示するために、(Chkl/p53およびp53/p53を標識(sentinel)とする)DNA損傷応答経路、(FKBP/TORを標識とする)ラパマイシン依存性経路および(p65/p50、IkB/p65およびIkBa/ユビキチンを標識とする)TNF/NFkBシグナル伝達経路を含むいくつかの異なる細胞経路についての例を提供する。また、おとり(bait)対ライブラリ・スクリーニングおよび/または遺伝子毎の(gene−by−gene)相互作用マッピングによって相互作用する蛋白質を同定する−およびこれらが構成的な相互作用を行うのか誘導性の相互作用を行うのかを明らかにする−方法ならびに例についても示す。さらに、蛍光もしくは発光計測値の得られる様々な異なるPCAを用いて定量的なハイコンテントおよび/またはハイスループット・アッセイを行うための方法および成分について示すと共に、GFP PCAとその2つの変法(YFP PCAおよびIFP PCA)、ベータ・ラクタマーゼPCA(BLA PCA)、ルシフェラーゼPCA(RLuc PCA)、ならびにジヒドロ葉酸還元酵素PCA(DHFR PCA)の具体的な例を提供する。さらに、経路のどの段階に対してもハイコンテントおよび/またはハイスループット・アッセイおよびスクリーニングを構築することができることを明らかにすると共に、小分子および薬物ライブラリをスクリーニングして細胞プロセスを賦活もしくは阻害する化合物を同定する際のこのようなアッセイの利用例を示す。また、最後に、単色アッセイ、多色アッセイ、PCA用発現ベクターおよびエレメントの種々の選択、ならびに断片組成物の例についても示す。
【0065】
PCAに適切なレポータの選択
多種多様なレポータの中から選択することができることにより本発明が大規模な薬の発見に特に有用となることは当業者には明瞭に理解されよう。PCAの原理によれば、単一(単量体)蛋白質として天然に存在するレポータを含む任意のレポータを断片化することができることにより、このことが可能になる。従って、一連の蛋白質発現レベル、細胞種および検出方法に適していると考えられる特定の波長および強度の光を発するレポータを選択することができる。薬の発見のための対象となる生物学的プロセスおよび生化学的標的が広範囲にわたるので、柔軟性は本発明の重要な特徴である。一部の蛋白質では、経路を−例えば、受容体アゴニストもしくは薬物によって−賦活化すると、蛋白質−蛋白質複合体の形成が、この複合体の細胞内局在の変化を伴うことなく、増大もしくは低減する。蛋白質により形成された蛋白質−蛋白質複合体の数が増加もしくは減少すると、PCAが生じるシグナルがそれぞれ増強もしくは低減する。この場合、対象複合体の量を示す大量の蛍光シグナルを測定するのにハイスループット・アッセイ方式を用いることができる。本明細書には、経路標識としてChkl/p53、p53/p53、PKB/hFtl、PDKl/hFt1、FKBP/TOR(FRAP)、IkBa/p65およびIkBa/ユビキチンを選択した3種の経路の例を示した。NFkB(p50/p65)などの他の蛋白質の場合、経路を賦活化すると、ある細胞内区画の別の区画に対する(膜対細胞質、細胞基質対核などの)蛋白質−蛋白質複合体の量比に変化が生じる。後者の場合、細胞内の蛋白質−蛋白質複合体の部位に再構築されたレポータが生じる蛍光シグナルの存在部位を特定するのにハイスループット・アッセイ方式を用いることができる。
【0066】
本発明のいくつかの実施態様として、単量体酵素を用いてPCAを構築する。DHFRを用いることにより、再構築DHFRに対するメソトレキサート(MTX)の高親和性結合を利用した蛍光アッセイを構築した。メソトレキサートに蛍光体を結合させ、余剰の未結合MTXを細胞から洗い流すと、蛋白質−蛋白質複合体の量および細胞内部位(subcellular location)を明らかにすることができる。MTXに結合させる蛍光体を変えることによって種々のスペクトル特性を得ることができる。本発明では、このDHFR PCAを用いてNFkBの転位に対するハイコンテント・アッセイを構築することにより、TNF経路をブロックする物質を同定した。
【0067】
本発明の別の例として、ハイスループット・アッセイを構築するのにベータ・ラクタマーゼ(BLA)をレポータとして用いる。このBLA PCAについてはこれまでにも報告されているが、本発明では、これを新規なセファロスポリン系基質と併せて用いることにより、p53およびその上流エレメントに作用するDNA損傷応答経路の阻害剤の蛍光ハイスループット・アッセイを構築した。
【0068】
本発明の別の実施態様として、ハイスループット・アッセイを構築するのにルシフェラーゼをレポータとして用いる。PCAへのルシフェラーゼの使用についてはミフニクほか(Michnick et al.)(米国特許第6,270,964号)によって最初に報告された。本発明では、Renillaルシフェラーゼ(RLuc)PCAを選択してDNA損傷応答経路の阻害剤のハイスループット・アッセイを構築することにより、高性能計測器で数分以内に記録することができる強いシグナルを伴うアッセイ法が得られた。また、安定性を改善するために変異体RLuc断片についても提供する。
【0069】
本発明の別の実施態様として、GFPなどのそれ自体蛍光性の蛋白質を用いてPCAを構築する。GFP PCAについてはミフニクほか(Michnick et al.)(米国特許第6,270,964号)によって最初に報告された。GFPもしくはその変異体を用いるPCAは、そのシグナルが断片相補性部位にあるため、特にHCSに適している。GFP、YFP、CFPおよび他の変異体などの蛍光蛋白質ならびに表1に挙げた比較的新しいレポータは、シグナル発生に補因子もしくは基質の追加を必要としないので、本発明に特に有用である。これらの蛋白質を用いるPCAは、シグナルが蛋白質−蛋白質複合体の部位にあるので、ハイコンテント・アッセイに特に有用である。GFPおよびその2種の変異体(YFPおよび「IFP」)を用いたPCAの例を示した。これらのアッセイの結果は自動蛍光顕微鏡、自動共焦点イメージングシステムなどによるハイコンテント計測器によって読み取ることができ、または、特定のアッセイのペアが蛍光強度の全体としての増強もしくは低減を生じる場合には、図6に示したように、ハイスループット計測器によって大量の(bulk)蛍光の変化を読み取ることができる。
【0070】
高量子収率をもたらすレポータは、感度上の理由で好ましい場合が多い。例えば、完全長のYFP蛋白質では完全長のGFP蛋白質よりも明るいシグナルが得られるのと同様に、YFP PCAではGFP PCAよりも明るいシグナルが得られ、また、変異体(IFP)断片ではこれに対応するYFP断片より明るいシグナルが得られる。米国特許第6,270,964号(ミフニクほか(Michnick et al.))に開示されている方法を用いて、対象とする任意のレポータに対し、種々の有用なPCA断片を作製することができ、これらの断片を、さらに改良することにより断片再構築時により明るいシグナルが得られる。本出願では、蛋白質断片をPCR法もしくは合成法(オリゴヌクレオチド合成)により作製することにより、所望のアッセイ特性を有する断片を得た。酵素を再構成するPCA断片を種々の基質もしくはプローブと併せて用いることにより、種々のスペクトル特性を有するアッセイ法を得ることができる。本発明では、ベータ・ラクタマーゼPCAをセファロスポリン系基質と併せて用いることにより、マイクロタイター・プレート・リーダーで読み取ることができる青色蛍光産物が得られる。同様に、DHFR PCAをテキサスレッド−MTXプローブと併せて用いることにより、自動顕微鏡法によって検出することができる赤色蛍光シグナルが得られる。C152Aなどの変異型ルシフェラーゼ(表1)が報告されており、本発明と組み合わせて用いることができる。PCA用の任意のレポータ断片の有用な変異体を作製するのに遺伝子工学の標準的な技術を利用することができることは、当業者には自明であろう。
【0071】
多色PCAを用いることにより、2種以上の細胞プロセスもしくは経路を同時にモニターして、例えば、対象化合物が同一細胞内の2種以上の経路に作用するかどうかを明らかにしたり、単に、効率および費用節減上の理由でアッセイを多重化することが可能となる。多色測定を行うことができることによって、例えば、対照が赤色蛍光シグナルを示すのに対し、対象蛋白質が黄色蛍光シグナルを示す場合のように、内部アッセイ対照の使用が可能になる。本発明では、DHFR PCA(赤色蛍光)をYFP PCA(黄色蛍光)と同一細胞内で併用することにより種々の細胞内部位(subcellular location)の異なる蛋白質−蛋白質複合体の視覚化を可能にする多色PCAについて示した。GFPの黄色、シアンブルー、レモン色、SEYFP、ヴィーナスおよび赤色ホモログなど、GFPの多岐にわたる形態は、全てPCAに好適であり、また、さらに改良することにより、本発明に用いる断片のシグナル強度を向上させることができる。アッセイ計測値の数および種類は、放射される光の種々の波長に対する計測器の分離能によってのみ限定される。他の多くの多色アッセイも本発明で開示した原理および方法を用いて構築することができる。
【0072】
PCAに好適な他のレポータについては表1に記載したが、ミフニクほか(Michnick et al.)(米国特許第6,270,964号)によっても開示されており、これらのものとしては、単量体酵素および蛍光性、発光性もしくはリン光性蛋白質が挙げられる。また、抗原もしくは抗体の断片を利用するPCAを構築して単純な検出方法と組み合わせて使用することができる。例えば、外来抗原の断片を利用したPCAを構築することにより、蛋白質−蛋白質相互作用によって、ビオチン、フルオレセインなどの検出可能な成分と結合させた抗原で検出することができるエピトープを再構成することができよう。同様に、抗体断片を利用したPCAを構築することにより、分子相互作用によって、蛍光体などの検出可能な成分を結合させた抗原に結合する機能性抗体を再構成することができよう。こうしたレポータおよび類似のレポータならびにこれらの修飾体は、いずれも本発明と併せて用いることができる。
【0073】
[実施例1]
HTSおよびHCSのための蛍光および発光アッセイ
本発明のこの第1の実施例は、蛍光および発光PCAを用いる多種多様の有用なアッセイの構築方法を示すと共に、標準的なHTSおよびHCS計測を併用したハイスループットおよびハイコンテント・アッセイへのこれらの利用方法を示したものである。DNA損傷応答経路のエレメントを使用した。
【0074】
図2は、この経路の模式図、ならびにベータ・ラクタマーゼPCA(BLA PCA)を利用したHTSアッセイおよびGFP PCAを利用したHCSアッセイの結果を示す。図3は、Renillaルシフェラーゼ(RLuc PCA)を用いたHTSアッセイ結果を示す。図4は、IFP PCAを用いたハイコンテント・アッセイの結果を示す(IFPはGFPの変異体である)。これらの例では、アッセイした蛋白質は、DNA損傷応答経路内で相互作用するペア、具体的には、腫瘍抑制因子p53と相互作用するチェックポイント・キナーゼChk1(Chk1/p53 PCA)、もしくはそれ自体でホモ二量体を形成するp53である。
【0075】
BLA PCAの場合、対象遺伝子−DNA損傷応答経路に関与することが知られている−は、BLAレポータ断片に融合させ、HEK293E細胞内にペアで(6回繰り返して)コトランスフェクションさせた。具体的には、2種の主要蛋白質、p53とチェックポイント・キナーゼChk1との相互作用についてDNA損傷剤カンプトセシン(CPT)および各種の既知薬物もしくは化合物に対するその応答を評価した。p53[NM_000546]およびChk1[NM_001274]をコードしている(配列の確認された)完全長のcDNAをPCRで増幅させ、得られた断片を可変10アミノ酸リンカーを介してBLA[1]もしくはBLA[2]の3’末端にインフレームで融合させた。得られたBLA[1]−p53、BLA[2]−p53およびBLA[2]−Chk1構築物はHEK293E細胞におけるエピソーム複製のEBNA−1起点を含んでいたが、細胞培養における長期維持のための選択マーカを含んでいなかった。全ての構築物について配列決定を行い、アッセイに使用する前に、レポータ−遺伝子融合の完全性を確認した。トランスフェクションの約36乃至40時間後に、HEK293E細胞をBLA[1]−p53およびBLA[2]−Chk1融合体のDNAを250ng(合計量)用いて(もしくはBLA[1]−p53およびBLA[2]−p53を用いて)コトランスフェクションして、これを300nMのカンプトセシン2時間処理し、次いで、Chk1の触媒活性の既知の阻害剤(例えば、10μM(マイクロモル)のDBHおよび50μMのGo6976)もしくは上流ATRキナーゼの阻害剤(2mMのカフェイン)で処理するか、この処理を行わなかった。2時間(もしくは最大6時間)後に、これらの薬物を除去し、ベータ・ラクタマーゼの基質を加えた(図2(B))。この基質は、以前に報告されたセファロスポリン(クワンテほか(Quante et al.);文献参照)の誘導体とした。再構成BLAによりベータ・ラクタム環を加水分解すると、青色蛍光を有する遊離クマリンが放出される。薬物処理後、細胞を200μl(マイクロリツトル)のPBS(これにカルシウムおよびマグネシウムを加える)で洗浄し、次いでカルシウムもマグネシウムも加えない25μlのPBSで被覆した。BLA基質を新たに希釈して最終濃度が2%DMSO中20μMとなるように(最終容量を50μlとして)各ウェルに加えた。各蛋白質ペアについて、基質の加水分解反応速度は、モレキュラー・デバイシズ社(Molecular Devices)のGemini XSプレートリーダーを用いたカイネティックアッセイにより、基質添加直後から測定した。蓄積した蛍光基質は、345nmで励起し、440nmで90分間10分毎に検出した。図2(A)の棒グラフに示したデータは、各条件における加水分解反応の平均速度を表し、エラーバーは平均値の95%信頼区間を表す。図2(A)から明らかなように、Chk1とp53との相互作用に対して、2種のChk1阻害剤、DBHおよびGo6976の有意な効果を検出することができる。
【0076】
PCA用にGFPを用いるアッセイ
BLA PCAにより数値化した相互作用を確認し、その細胞内局在を評価するために、同じDNA損傷応答エレメントを用いてGFP PCAを構築し、複合体の細胞内局在を蛍光顕微鏡によりイメージングした(図2(A)、左側パネル)。PCRにより、p53およびChk1をコードしている完全長のcDNAを増幅させた。この融合遺伝子は、GFP[1]−p53のゼオシン(Zeocin)選択マーカおよびGFP[2]−Chk1およびGFP[2]−p53のハイグロマイシン・マーカを有するpCDNA3.1発現ベクター(インビトロゲン社)内にサブクローニングした。(GGGGS)2(配列番号1)からなる可変10−アミノ酸リンカーにより、対象遺伝子とYFP断片とを離隔した。対象遺伝子とこのレポータ断片との間に可変リンカーを用いることにより、融合体の配向および配列が蛋白質断片を極近接して組み込むのに最適なものとなることが保証される(J.N.ペルティエ(J.N. Pelletier)、F.−X.C.−ヴァロワ(F.-X. C.-Valois)、S.W.ミフニク(S.W. Michnick)、1998年、プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズUSA(Proc Nail Acad Sci USA)95:p12141−12146)。GFP[1]はGFPのアミノ酸1乃至158番目に相当し、GFP[2]はGFPのアミノ酸159乃至239番目に相当し、pCMS−EGFP(クロンテク社)からPCRによって増幅させた。
【0077】
HEK293T細胞は、トランスフェクションの24時間前に、48−穴細胞培養皿(コスタール社(Costar))に10,000個/ウェル接種した。細胞のトランスフェクションは、メーカーの推奨どおり、FuGene(ロッシュ社)を用い、GFP[1]−p53およびGFP[2]−Chk1、もしくはGFP[1]−p53およびGFP[2]−p53からなる150ngのトータルDNAを使用して行った。約48時間発現させた後、細胞をPBS中で一度洗い、次いで、蛍光顕微鏡で調べるために75μlの(対比染色剤を含まない)PBSをかぶせた。Chroma FITCフィルター(励起:460−500nm、発光:505−560nm、2色性ミラー:505LP)を用いたSPニコン(Nikon)蛍光顕微鏡で生細胞のイメージングを行った。
【0078】
HTSのための発光PCA
また、我々は蛋白質−断片相補性を利用する発光アッセイ(PCA)の使用について実証を試みた。ミフニクほか(Michnick et al.)(米国特許第6,270,964号)により開示された方法を用いてRenillaルシフェラーゼ(RLuc)の断片をデザインした。160番目のグルタミン酸残基(E160)が完全な状態のRLucの断片と一致するオリゴヌクレオチドを合成することを選択した。別の断片部位を使用することも可能であり、従って、本発明が本明細書で用いている特定の断片に限定されないことに留意されたい。出発/停止コドンとなるように断片内に設けたコドンには下線が引かれている。上記蛋白質断片が構築物の5’末端にある場合は開始メチオニン(atgコドン)がこれの前方に来るが、この断片が構築物の3’末端にある場合は開始メチオニン(atgコドン)が対象遺伝子の前方に来ることに留意されたい。従って、本発明は天然型のメチオニンを有するF1断片ばかりでなく、F1断片が構築物の3’末端にあることになる場合に上記開始メチオニンを除去するように修飾された同じF1断片をもカバーしている。同様に、本発明は、天然では開始メチオニンで始まらないF2断片だけでなく、F2断片が構築物の5’末端にあることになる場合に開始メチオニンを含むように修飾された同じF2断片をもカバーしている。
【0079】
我々は2種のRLuc PCAを作製した。第1のRLuc PCAは野性型Renillaルシフェラーゼを用いたものであり、この断片は以下の配列を有する:
【0080】
【化1】

【0081】
【化2】

【0082】
【化3】

【0083】
【化4】

【0084】
【化5】

【0085】
【化6】

【0086】
【化7】

【0087】
【化8】

【0088】
さらに、我々は、F1断片内の一箇所を突然変異(C124A)させた変異体RLuc PCAを作製した。リウ(Liu)とエッシャー(Escher)(ジーン(Gene)237(1999年)p153−159)は、C152A(SRUC3)ミュータントが活性の向上を示す分泌型の変異型RLucを報告した。我々のRLucにはN末端にシグナル配列がなく、従って、このC152Aミュータントは、翻訳された開始コドンから番号付けするとしてC124Aに相当する。リウとエッシャーは、こうした分泌型蛋白質内のこのミュータントがシグナル強度を高めるので、これがHTSに特に有用となることを明らかにした。従って、また、本発明において我々は以下の配列を有する、PCA用の新規F1断片(RL1[C124A])を提供する:
【0089】
【化9】

【0090】
【化10】

【0091】
【化11】

【0092】
【化12】

【0093】
野性型RLucF1もしくは変異体RLucF1(C124A)を前記のRLucF2断片と組み合わせて使用することにより発光PCAを作製することができる。以下の例では、野性型RLuc断片で得られた結果を示す。上記のF1およびF2断片はオリゴヌクレオチド合成(ブルー・ヘロン・バイオテクノロジー社、ボセル、WA)により作製し、RL[1](aa1−160)およびRL[2](aa161−311)と命名した。これらの合成断片は、PCRによって増幅させて、各レポータ断片配列の5’もしくは3’末端への対象遺伝子の融合が可能となる配置で、制限部位、および可変10アミノ酸ペプチドリンカーをコードするリンカー配列を組み込んだ。次いで、これらの増幅させたRL[1]およびRL[2]の断片を哺乳動物の発現ベクター(pcDNA3.1Z、インビトロゲン社)内にサブクローニングして、図16に示した4つの個別のベクター(各レポータ断片に対するN末端およびC末端融合ベクター)を作製した。
【0094】
負の対照PCAとしてSTAT1/PDK2を用いた。P53、STAT1およびPDK2の完全なコーディング配列を配列の確認された完全長のcDNAからPCRによって増幅させた。得られたPCR産物を脱塩し、定方向クローニングを可能にするため適切な制限酵素で消化させ、可変10アミノ酸ペプチド(GGGGS)2(配列番号1)をコードするリンカーを介してRL[1]、RL[2]、RL[3]もしくはRL[4]の5’もしくは3’末端にインフレームで融合させることによって、空間の融合体の配向/配列が蛍光蛋白質断片を極近接させて組み込むのに最適なものとなることが保証された。組換え構築体からのDNAは、ベックマン(Beckman)FXロボットワークステーション(ベックマン・コールター社、フラートン、CA)でキアゲン・バイオロボット・プレップ・キット(Qiagen Turbo BioRobot Prep kit)を用いて単離した。単離DNAは、定量した後、50ng/μlの濃度に標準化した。
【0095】
p53のホモ二量体化を数値化するためのルシフェラーゼPCA(p53/p53 PCA)を構築し、負の対照RLuc PCA(Pdk2/STAT1)と比較した。後者の蛋白質は互いに相互作用しない。HEK293T細胞は、トランスフェクションの24時間前に、ポリリジンでコーティングした96−穴プレートで(24時間アッセイではウェル当たり10,0001個の細胞、48時間アッセイではウェル当たり15,000個の細胞を)平板培養した。細胞は、Fugeneトランスフェクション試薬(ロッシュ・ダイアグノスティクス社、インディアナポリス、IN)をメーカーの推奨の通りに用い、0.1μg(マイクログラム)のトータルDNA(各レポータ構築物50ng)でトランスフェクションした。24時間もしくは48時間発現させた後、細胞をPBSで一度洗い、次いで、20μlのRenillaルシフェラーゼ・アッセイ用溶解緩衝液(プロメガ社、Cat#E2810))で溶解させた。各溶解液を96−穴のプレートのウェルに加え、Renillaルシフェラーゼの基質セレンテラジンの専売製剤(proprietary formulation)を含むRenillaルシフェラーゼ・アッセイ用緩衝液(プロメガ社、Cat#E2810))をサーモ・ラボ・シンテムズ社(Thermo Lab Systems)のルミノスカン・アセント(Luminoskan Ascent)照度計内に注射器を用いて加えた。各サンプルについて、放出された発光を、サンプルへの基質の添加後2秒遅れで、10秒間かけて捕捉した。データは相対発光単位(RLU)として記録し、蛋白質含量に対して標準化しなかった。
【0096】
図3(A)は、Renillaルシフェラーゼの断片に融合したp53/p53もしくはPdk2/STAT1を発現するHEK293T細胞の細胞溶解液全体から、発現後24および48時間後に生じた発光を示す。図の説明文は、各レポータ断片に対するコード蛋白質の配向を明らかにしたものである。これらの結果から、E160におけるRenillaルシフェラーゼの断片化は効率的なPCAをもたらすことが明らかであり、考えられる4種の融合ペアは全て発現の24および48時間後に検出可能な発光を生じた。
【0097】
Pdk2/STAT1 PCAの生じるシグナルは無視できるほどわずかであることに留意されたい。このことは、このアッセイのPCAシグナルが相補性PCA断片に融合した2種の相互作用蛋白質の存在に完全に依存していること、つまり、こうした断片自体は、これらの相補性の断片に融合した蛋白質により相補性が支えられない限り、活性な酵素に再構築され得ないことを示しているので、重要なポイントである。この重要な特徴は、本発明とFRET、BRETなどの別の蛋白質−蛋白質相互作用技術との違いを際立たせている。さらに、この特徴は、本発明とGFPなどの発光団による単一蛋白質の標識を利用するハイコンテント・アッセイとの違いを際立たせている。後者の場合、個々の蛋白質は蛋白質−蛋白質相互作用がなくてもシグナルを生じる。
【0098】
図3に示したように、前記p53/p53複合体は、遺伝子−断片の配向に応じて、20RLUから200RLU超までの範囲のシグナルを生じ、RLuc PCAのシグナル対バックグラウンドの比は200:1もの大きさになる。このアッセイにおけるカンプトセシンの効果を明らかにするために、HEK293T細胞を、トランスフェクションの24時間前に、ポリリジンでコーティングした96−穴プレート中で(ウェル当たり15,000個の細胞を)平板培養した。テストした各条件において、細胞は、前記のFugeneトランスフェクション試薬を用い、0.1μgのトータルDNA(各50ngのRL[1]−p53およびRL[2]−p53)でトランスフェクションし、これを4通り行った。4つのウェルでは(トランスフェクション試薬を用いるがPCA構築物を使用しない)偽トランスフェクションを行い、セレンテラジンの自己蛍光によりもたらされるバックグラウンド対照とした。30時間発現させた後、各PCAの4通りのウェルを0.1%のDMSOもしくは500nMのカンプトセシン(CPT;カルビオケム社(Calbiochem))で18時間処理した。薬物をPBSで2回洗浄して除去し、前述のようにして細胞溶解液を調製した後、Renillaルシフェラーゼ発光検出アッセイ(プロメガ社)を行った。図3(B)のグラフの各棒は、4つの個別のサンプルの平均値を表し、エラーバーはこれらの測定値の標準偏差を示す。CPT処理p53:p53 PCAでは、ビヒクルのみ(0.1%DMSO)で処理した同じPCAに対し、発光の統計的に有意な増強が認められた。同じ処理は、負の対照(Pdk2:STAT1)に対しては効果がなかった。
【0099】
以上の結果から、ルシフェラーゼPCAは感度の良いハイスループット・アッセイになることが分かる。このRLuc PCAは、全細胞アッセイもしくは細胞溶解液を用いた多数の蛋白質および治療標的のHTSに適用することができる。ルシフェラーゼPCAは、このアッセイの感度が鋭敏なため、ハイスループットおよび超ハイスループット方式で構築することができる。これらのアッセイは、1536−穴もしくはそれ以上もの方式にスケールアップすることができ、プレート全体を数分以内に読み取ることができる。さらに、遺伝子工学を利用することにより、Renillaルシフェラーゼ・ホロ酵素の発光出力を増強することが分かっている(表1の文献参照)C152Aなどの突然変異を導入して、突然変異型ルシフェラーゼPCAを構築することができる。
【0100】
我々が以前にDHFR PCAに対して明らかにしたように、また、前記のRLuc PCAに関して言えば、部位特異的突然変異誘発法、ランダム変異導入法および/またはコンビナトリアル合成法を用いることにより、当業者に公知の方法を使用して任意の適切なレポータのための新規なPCA断片を作製することができる。
【0101】
YFP PCAおよびIFP PCAの構築
GFP PCAよりも明るいシグナルを有するハイコンテント・アッセイを構築するために、黄色蛍光を生じるGFP断片の2種の変異型を作製した。第1断片の配列は、完全長のEYFPに相当する。完全長EYFPは、完全長GFPに対してスペクトル特性が向上することが分かっている(タバレほか(Tavare et at.)2001年、ジャーナル・オブ・エンドクリノロジー(Journal of Endocrinology)170:297−306)。本明細書に記載したPCAは、先ず、EGFPの既存のオリゴヌクレオチド断片にEYFPに特有の突然変異S65G、S72AおよびT203Y(24)を導入することにより作製し、完全長EYFP(21、15)の1乃至158番目および159乃至239番目のアミノ酸に相当するYFP[1]およびYFP[2]と命名した断片を得た。次いで、YFP[1]およびYFP[2]に相当する合成オリゴヌクレオチド(ブルー・ヘロン社(Blue Heron))を直接用いて開始することによりアッセイを構築した。断片YFP[1]およびYFP[2]の組成は以下の通りであった:
【0102】
【化13】

【0103】
【化14】

【0104】
【化15】

【0105】
【化16】

【0106】
【化17】

【0107】
【化18】

【0108】
【化19】

【0109】
【化20】

【0110】
別の実験のためにこれらの断片をさらに突然変異させて、さらに強度の高いPCA「IFP PCA1」を作製した。突然変異法は、SEYFP−F46L(ヴィーナス社)と呼ばれるYFP変異体に基づいて選択した。これらの突然変異は、完全な状態の蛋白質内における蛍光シグナルの成熟を促進することが明らかにされている(T.ナガイほか(T. Nagai et al.)、2002年、「細胞−生物学的用途の、成熟が迅速で効率的な黄色蛍光蛋白質の変異体(A variant of yellow fluorescent protein with maturation for cell-biological applications)」、ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotech.)20:p87−90)。PCRを用いた突然変異誘発法により、さらにSEYFP[1]内にF46L、YFP[2]内にV163AおよびS175Gの突然変異を導入して、我々がIFP[1]およびIFP[2]と命名した新規な断片を得た。
【0111】
【化21】

【0112】
【化22】

【0113】
【化23】

【0114】
【化24】

【0115】
【化25】

【0116】
【化26】

【0117】
【化27】

【0118】
【化28】

【0119】
完全長のヒトp53の各読み取り枠をIFP[1]の5’末端およびIFP[2]の3’末端にインフレームで融合させることにより、pcDNA3.1(インビトロゲン社)内に以下の構築物:p53−IFP[1]およびIFP[2]−p53を形成させた。最終のp53−IFP[1]構築物にはゼオシン(Zeocin)選択マーカを含ませ、IFP[2]−p53構築物にはハイグロマイシン選択マーカを含ませた。融合体には全て、全体を通して(GGGGS)2(配列番号1)とも呼ぶ10−アミノ酸ペプチド(GlyGlyGlyGlySer)2をコードする可変リンカーを介させた。組換え構築物からのDNAは、キアゲン・バイオロボット・プレップ・キットを用いてベックマン(Beckman)FXロボットワークステーション(ベックマン・コールター社、フラートン、CA)により、またはキアゲン・ミディ・プレップ・キット(Qiagen Midi Prep kit)を用いて手動で単離した。単離DNAは、定量した後、50ng/μlの濃度に標準化した。
【0120】
トランスフェクションの約24時間前に、細胞を、マルチドロップ(Multidrop)384蠕動ポンプ装置(サーモ・エレクトロン社)を用いて96−穴ポリ−D−リジン被覆プレート(グライナー社)に、ウェル当たり7,500個の細胞濃度で接種した。Fugene6(ロッシュ社)をメーカーのプロトコルに従って用い、計100ngのDNA(p53−IFP[1]およびIFP[2]−p53)をコトランスフェクションした。刺激作用のない状態でこのPCAペアを発現する細胞を、薬物含有培地と共に30分間、90分間および8時間インキュベートした。一方、カンプトセシン(CPT)で刺激した細胞は、薬物で2時間前処置した後、上記p53経路に作用することが知られ、もしくは考えられる以下のテスト化合物の存在下に500nM CPTと共にさらに16時間インキュベートした:図4の説明文に示された濃度のCPT、ゲニステイン、トリコスタチンA、MS−275、LY294002、SB203580、HA14−1もしくはゲルダナマイシン。薬物処理後の細胞は、33μg/mlのヘキスト33342(モレキュラー・プローブス社)および15μg/mlのテキサスレッド結合小麦胚凝集素(TxR−WGA;モレキュラー・プローブス社)で同時染色し、2%ホルムアルデヒド(テド・ペラ社(Ted Pella))で10分間固定した。次いで、細胞をHBSS(インビトロゲン社)で洗い、画像獲得の間、同じ緩衝液中に保持した。IFP PCAから生じる蛍光は、ロボットアーム(CRSキャタリスト・エキスプレス;サーモ・エレクトロン社、ウォルサム、Mass)を装備したディスカバリ−1自動撮像装置(モレキュラー・デバイス社)を用いて捕捉した。YFP蛍光(励起フィルター:480/40nm;発光フィルター:535/50nm)、ヘキスト蛍光(励起フィルター:360/40nm;発光フィルター:465/30nm)およびテキサスレッド蛍光(励起フィルター:560/50nm;発光フィルター:650/40nm)の画像を獲得した。各ウェル内の4つの特有の細胞集団をイメージングすることにより、処理条件当たり各蛍光色素の計8画像が得られた。
【0121】
p53:p53 PCAに対する薬物効果の代表的な画像を図4に示した。左パネルの3つの画像は、CPT非存在下のこのPCAに対するゲルダマイシンもしくはトリコスタチンAの効果に相当し、右のパネルは500nMのカンプトセシンの存在下のこれら薬物の効果を示す。DMSO(上端の画像)は薬物の再懸濁のために用いたピヒクルである。
【0122】
ゲルダマイシンは、野性型および突然変異型p53を含むいくつかの細胞蛋白質に対するシャペロン蛋白質であるHsp90の既知の阻害剤である(キングほか(King et al.)2001年)。この薬物の効果は、我々が観察したように、p53の安定性を低下させ、従って、シグナルを低減させることにあると考えられる。以上の結果から、Hsp90阻害剤は、PCAの少なくとも一方がHsp90クライアント蛋白質であるPCAを構築することにより検出することができることが分かる。こうしたアッセイにより、例えば、多数の蛋白質−蛋白質複合体に対するPCAを構築し、ゲルダマイシンの非存在下および存在下にこのPCAをテストしてHsp90阻害に感受性の蛋白質を同定することによって別のHsp90クライアント蛋白質の大規模なスクリーニングが可能になろう。さらに、このようなアッセイは、HTSに直接用いてHsp90活性の低分子阻害剤を同定することができる。ゲルダマイシンおよびその誘導体17−AAGは強力な抗腫瘍活性を有するので、Hsp90阻害に感受性のアッセイを構築できることにより、新しい領域の抗癌剤発見が可能になる。
【0123】
トリコスタチンAは、ヒストン脱アセチル化酵素I(HDAC1)である。カンプトセシンの存在下に脱アセチル化を阻害すると、p53のアセチル化が誘発され、従って、この蛋白質が安定化してその転写活性が増大する。我々は、PCAを用いて、カンプトセシンの存在下にp53:p53 PCAシグナルの劇的な増強を認め、この増強は、図2および3にそれぞれ示したように、16時間のCPT前処理ではこれより短時間のCPT前処理の場合よりも大きかった。従って、こうしたアッセイを用いることにより、HDACの新規阻害剤をスクリーニングすることができ、これは癌生物学のさらに重要な領域となる。
【0124】
イメージJフリーウェアを利用して自動画像解析を行うことにより、各画像の、上記PCAによってもたらされる蛍光のレベルを定量した。p53:p53 PCAの場合、細胞の自己蛍光によりもたらされるバックグラウンドは各画像から差し引き、次いで、各細胞の核内の平均画素蛍光強度を求めた。図4では、得られた値、核平均(Y−軸)が各薬物処理(X−軸)に対してグラフ化されている。刺激されなかったPCAの定量値はモーブ色で示し、CPTにより刺激したアッセイからのデータは青色で示した。図4の画像と一致して、HDAC阻害剤トリコスタチンAおよびMS−275は、CPTの存在下対照よりも有意にp53/p53相互作用を刺激した。同様な効果は、BCL−2阻害剤HA14−1でも見られた。キナーゼ阻害剤LY294002(PI3K)およびSB203580(p38MAPK)は、両アッセイにおいて結合の増大をもたらした。ゲルダナマイシンは、画像および関連のヒストグラムから明らかなように、両アッセイを有意に阻害した。これらのアッセイは、DNA損傷応答を調節する新規な物質について化学物質ライブラリをスクリーニングするのに有用となろう。
【0125】
[実施例2]
新規な蛋白質-蛋白質相互作用の確認および定量的アッセイの構築
次に、本発明で開示し、図1に示したPCA法を用いてPI−3−キナーゼおよびPKA/PKC−媒介性経路の新規な蛋白質−蛋白質相互作用を同定した後、この新規な相互作用を利用して定量的なスクリーニングを行った。先ず、GFP PCAによりcDNAライブラリのスクリーニングを行うことによってPKBと相互作用する蛋白質を同定した。このGFP PCAスクリーニングによりPKBとFt1との間の新規な相互作用が同定された。続いて、このGFP PCAを用いてPKB/Ft1およびPDK1/Ft1の蛍光アッセイ法を構築した。この経路の構成およびPKB/hFt1相互作用の位置については図5(A)に示した。以下に、PCAを用いたライブラリのスクリーニング方法およびアッセイの構築方法を記載する。
【0126】
DNA構築物。PKB、PDK1、PKCアルファ、PKA(PKAc)のサブユニット、GSK3ベータ、BAD、カスパーゼ9およびFKHRL1をコードする完全長のcDNAをそれぞれPCRにより増幅させ、真核生物発現ベクターpMT3[カウフマン(Kaufman)、1989年#23]中、GFPのF[2]断片の5‘末端にサブクローニングした。GFP[1]はGFPのアミノ酸1乃至158番目に相当し、GFP[2]はGFPのアミノ酸159乃至239番目に相当し、pCMS−EGFP(クロンテク社からPCRによって増幅させた。また、PKB−GFP[2]は、このcDNAライブラリのスクリーニングのためにアンピシリン耐性遺伝子をクロラムフェニコール耐性遺伝子により置換したpMT3ベクター(pMT3−クロラムフェニコール)に挿入した。全ての場合において、上記のcDNAとGFP断片との間に(GGGGS)2(配列番号1)からなる10アミノ酸可変リンカーを挿入することにより、空間の融合体の配向/配列が蛋白質断片を極近接させて組み込むのに最適なものとなることが保証された。GFP[1]−GCN4およびGCN4−GFP[2]構築物は、GCN4ロイシン・ジッパー形成配列との融合体からなり、対照として用いる。このGFP PCAを用いたcDNAライブラリ・スクリーニングの場合、ベクターpEXP1(クロンキャプチャー(ClonCapture)cDNAライブラリ、クロンテク社)から、SfiI制限部位を用いてヒト脳cDNAライブラリを切り取り、上記pMT3ベクター中、GFPのf[1]断片の3’末端および10アミノ酸可変リンカーに挿入した。このPCA−cDNAライブラリ融合発現ベクターは、(挿入cDNAの大きさ−0.5乃至4.6kb−によって)いくつかのプールに分け、液体培地中30℃で増幅させた。
【0127】
細胞株
COS−1細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS、ハイクローン社)を補充したDMEM(ライフ・テクノロジーズ社)中で増殖させた。ヒトTag−Jurkat T細胞株は、SV40ラージT抗原を発現し、NF−AT結合部位の3つのタンデム型コピーがlacZ遺伝子の転写を誘導する組込みβ−ガラクトシダーゼ・レポータ・プラスミドを収容している。これは、10%FBS、1mMピルビン酸ナトリウムおよび10mMヘペスを補充したRPMI−1640(ライフ・テクノロジーズ社)中で増殖させた。
【0128】
PCAを用いたcDNAライブラリのスクリーニングによる新規蛋白質−蛋白質相互作用の同定。COS−1細胞を、トランスフェクションの24時間前から150−mm皿で平板培養した。細胞は、GFPのF[1]断片に融合させたヒト脳cDNAライブラリ(GFP[1]−cDNAライブラリ)を収容するpMT3ベクターおよびGFPのF[2]断片に融合させた完全長のPKB(PKB−GFP[2])を含むpMT3−クロラムフェニコール・ベクターを用いて、約60%コンフルエンスで、リポフェクタミン試薬(ライフ・テクノロジーズ社)により(計10μgDNA/皿)トランスフェクションした。上記GFP[1]−cDNAライブラリ融合体は、その大きさに応じて、いくつかのプールを用いてトランスフェクションした。トランスフェクションの48時間後、陽性クローン(断片からのGFPの再構成)を螢光励起細胞分離捕集(FACS)分析装置(FACScalibur、ベクトン・ディッキンソン社)で収集した。陽性細胞の各プールからのトータルDNAを抽出し(組織用DNeasyキット、キアゲン社)、DH5−アルファ細菌細胞内に形質転換して、100μg/mlのアンピシリンを含むLB−寒天上で平板培養した(前記PKB−F[2]融合体を収容するクロラムフェニコール耐性ベクターの増殖なし)。個々のクローンからF[1]−cDNA融合体を含むDNAプラスミドを抽出し、これをPKB−GFP[2]もしくはGFP[2]単独(陰性対照)と共に別々に再トランスフェクションして、細胞選別過程でそのプールに入る陰性クローンを除いた。この2回目の選択の後、陽性クローンに相当するDNAプラスミドを配列分析にかけた。
【0129】
COS−1細胞は、トランスフェクションの12時間前に12−穴のプレートで分割した。細胞のトランスフェクションは、リポフェクタミン試薬(ライフ・テクノロジーズ社)をメーカーの使用説明書に従って用い、種々のDNA構築物(1μgのトータルDNA/ウェル)を収容する種々の組み合わせのpMT3プラスミドにより、約60%のコンフルエンスで行った。Tag−Jurkat T細胞は、DMRIE−C試薬(ライフ・テクノロジーズ社)を用いて1×106個/ウェル(2μgのトータルDNA/ウェル)をトランスフェクションした。各実験においてトランスフェクションしたDNAの量は、空のベクターを加えることによって一定に保った。Tag−Jurkat T細胞の場合、次の日に、増殖培地に1μg/mlのPHAおよび50ng/mlのPMAを加えることによりプロモータ活性および遺伝子発現を増強させた。COS−1細胞は、トランスフェクションの48時間後、PBSで一度洗い、穏やかにトリプシン処理した後、200μlのPBSに再懸濁した。Tag−Jurkat T細胞は、そのまま採取して200μlのPBSに再懸濁した。融合蛋白質パートナ間の相互作用の指標である再構成GFPの相対量は、蛍光分析によって検出した。全細胞懸濁液を96−穴黒色マイクロタイタープレート(ダイネックス(Dynex)、VWRサイエンティフィック社)に移し、蛍光分析(Spectra MAX GEMINI XS、モレキュラー・デバイシズ社))を行った。GFP[1]−hFt1およびPKB−GFP[2]融合体もしくはGFP[1]−hFt1およびPDK1−GFP[2]融合体を共発現する細胞を以下の通り、アゴニスト、アンタゴニストおよび阻害剤で処理した。COS−1細胞は、トランスフェクションの48時間後にPBSで2回洗浄し、無血清培地で5時間インキュベートし、最後の1時間は300nMのワートマニンもしくは50μMのLY294002(カルビオケム社)で処理または非処理とした。その後、細胞は10%血清もしくは20μg/mlインスリン(ロッシュ・ダイアグノスティクス社)で30分間刺激した。Tag−Jurkat T細胞は、300nMのワートマニンで90分間、または5μg/mlの抗CD3抗体もしくは5μg/mlのフィトヘムアグルチニン(PHA)もしくは1μMのイオノマイシンもしくは10μMのフォルスコリンまたは/および500nMのホルボール−12−ミリステート−13−アセテート(PMA)(全てカルビオケム社製)で30分間処理した後、蛍光分析を行った。その後、データを細胞溶解液の総蛋白質濃度に標準化した(バイオ−ラド蛋白質アッセイ)。GCN4ロイシン・ジッパーの構成的な二量体化を陽性対照とした。トランスフェクションしなかった細胞に対応するバックグラウンド蛍光強度は全てのサンプルの蛍光強度から差し引いた。また、hFt1/PKBおよびhFt1/PDK1蛋白質−蛋白質複合体の細胞内部位(subcellular location)は生細胞で蛍光顕微鏡法により確認した。蛍光顕微鏡法の場合、COS−1細胞はトランスフェクションの前にカバーガラス上で増殖させた。細胞は、PBSで2度洗浄した後、スライドガラスにのせた。蛍光顕微鏡法は、Zeiss Axiophot顕微鏡(対物レンズZeiss Plan Neofluar 100X/1.30)を用いて生細胞で行った。
【0130】
図5(B)のパネル1は、COS−1細胞を用いたPCAで得られた蛍光の定量結果を示し、パネル2はJurkat細胞を用いて得られた結果を示す。図5(B)のパネル3は、蛋白質−蛋白質複合体の画像およびその細胞内部位(subcellular location)を示す。この経路を刺激する物質は蛍光の増強をもたらしたのに対し、この経路を阻害する化合物はこの経路内の蛋白質−蛋白質複合体の蛍光の低減をもたらした。例えば、COS細胞では、血清およびインスリンはPKB/hFt1複合体およびPDK1/hfT1複合体の量の増加ならびに細胞基質から膜への蛋白質−蛋白質複合体の再配分をもたらしたが、これらの作用はPI3−キナーゼ阻害剤であるワートマニンおよびLY294002によってブロックすることが可能である。以上の結果から、PKB/hFT1およびPDK1/hFt1は経路活性の標識(sentinel)であり、PCAは標準的な蛍光計測器および顕微鏡による検出に適した定量的アッセイ法の構築に用いることができることが分かる。さらに、これらのアッセイ法は、インスリン−および血清−媒介性経路を賦活もしくは阻害する新規化合物の同定に有用となろう。
【0131】
[実施例3]
YFP PCAを用いたハイスループット・アッセイ
次に、我々は、適切な薬理学的情報をもたらす定量的なアッセイ法としてPCAを用いることができることを明らかにしようとした。以下の例では、FKBP(FK506結合蛋白質)およびその同族パートナFRAP(FKBP−ラパマイシン−結合性蛋白質)のよく特徴付けられた相互作用を用いた。この相互作用は未処理細胞では極低いレベルで生じるが、免疫抑制剤ラパマイシンにより顕著に誘発される。FKBP/FRAP相互作用を標識とするヒトの成長(growth)経路の構成は、図6Aに示した。
【0132】
この研究では、YFP PCAを用いた。96−穴プレート中にHEK293E細胞をウェル当たり13,000個の細胞濃度で接種した。細胞培地はMEM−アルファ増殖培地とした。総容量は100μlとした。トランスフェクションの前に、細胞を20乃至24時間増殖させた−トランスフェクション時には細胞は70乃至80%の密集状態にあった。細胞は37℃、5%CO2で維持した。細胞のトランスフェクションは、Fugene(ロッシュ社)によりウェル当たり計0.1μgのDNAを用いて行った。FKBP−YFP[l]およびmTOR−YFP[2]を発現するHEK293を、以下の通り、漸増用量のラパマイシンで処理した。トランスフェクションの24時間後、各ウェルに100μlの新鮮培地を加え、さらに20乃至24時間インキュベートした後に37℃、5%CO2でラパマイシンによる誘発を行った。各ウェルにはラパマイシンの適切な希釈液を含む100μlの培地を加えた。次いで、このプレートを組織培養インキュベータ(37℃、5%CO2)中で2.5時間インキュベートした。次に、各ウェルを(37℃に予め加温した)200μlのHBSSで洗浄した後、ウェル当たり100μlのHBSSを加えた。このプレートを組織培養インキュベータに1時間戻した後、励起485nm、発光527nmでプレートリーダーによる読み取りを行った。
【0133】
図6は、このアッセイの結果として、FKBPとmTOR(mTORは、ヒト蛋白質であるFKBP−ラパマイシン結合性蛋白質FRAPのマウス相当物である)との相互作用に対するラパマイシンの効果を示すものである。ラパマイシンはFKBPとmTORとの複合体形成を誘導したが、これは顕微鏡法により認めることができ(図6B)、それぞれ485および527nmの励起および発光波長を用いた96−穴プレートにおける蛍光分光により数値化することができる。このようなアッセイ法を、小分子、天然物、コンビナトリアル、ペプチドもしくはsiRNAのライブラリと組み合わせて用いることにより、蛋白質−蛋白質相互作用に直接作用するか、PCA標識(sentinel)の上流に作用して前記蛋白質−蛋白質複合体を賦活もしくは阻害する分子を同定することができる。
【0134】
[実施例4]
PCAによる遺伝子毎の相互作用のマッピング
図1から明らかなように、蛋白質−蛋白質相互作用は、遺伝子毎の相互作用のマッピングなどの種々の方法により同定することができる。本発明の態様をさらに明示し、PCAを系統的に適用することにより相互作用する蛋白質を迅速大量に同定することができることを示すために、遺伝子毎の相互作用のマッピングを行って新規な蛋白質−蛋白質相互作用を同定した。遺伝子毎の相互作用のマッピングは、互いに対して規定されたセットの遺伝子をテストすることが望まれる場合に、またはアッセイの最適化のために、おとり(bait)対ライブラリ・スクリーニングに代わるものとなる。さらに、遺伝子毎の相互作用のマッピングでは、完全長の蛋白質を他の完全長の蛋白質との相互作用についてテストすることが可能になる。この原理を示すために、図16によってデザインしたYFP PCA構築物内のランダムに選択した完全長cDNAを、96−穴式プレート内にYFP[l]/YFP[2]ペアとしてロボットを用いてプールし、Fugeneトランスフェクション試薬を用いて各DNAプールの50ngをHEK293T細胞中にトランスフェクションした。細胞の各96−穴マイクロタイター・プレートは異なる蛋白質−蛋白質ペア形成を示す28種のPCAおよび4組の対照(1組の陽性対照および3組の陰性対照)を含み、これらは全て3回ずつアッセイした。トランスフェクションの48時間後、細胞をヘキスト33342と短時間インキュベートすることにより、標準化のために各ウェルの細胞計数を行った。蛍光強度の測定値は、YFPもしくはヘキストに適切な個別の設定によりモレキュラー・デバイシズ(Molecular Devices)プレート・リーダーを用いて得た。データは統計解析のため転送し、リレーショナル・データベースとして保存した。陰性対照と統計的に異なる相互作用を(スチューデントt−検定により求めた)有意水準および平均蛍光単位により選別した。
【0135】
解析した641のアッセイ結果から、プレートリーダー・アッセイで得たデータと顕微鏡法で得た画像データとの一致率は88.8%であった。図7(A、B)は、2つのプレートによるスクリーニング結果を示す。各プレートは、4組の対照(1組の陽性対照と3組の陰性対照)の他に、異なる遺伝子ペア形成を示す28種のPCAを含み、これらは全て3回ずつアッセイした(x軸に表示)。y軸は各PCAの平均蛍光強度測定値を示し、測定誤差は95%信頼区間として示した。陽性対照はp65/p50とし、陰性対照はPDK1/PDK1とした。各プレートの陰性対照は赤で、陽性対照は黄色で強調表示した。陰性対照と統計的に異なる相互作用は、説明文にあるように色分けして、平均蛍光のスチューデントt−検定により求めた各測定値に関連する統計的有意水準を示した。このアッセイで得られるシグナル強度の陽性対照に対する較差を表すy軸がパネルAとパネルBで異なることに留意されたい。このアッセイは、HTSもしくはHCS方式による薬の発見のための対象経路内の蛋白質−蛋白質複合体の同定、またはアッセイ形成のための遺伝子ペア配向の最適化に用いることができる。
【0136】
図7(C)は、自動顕微鏡法により得られた個々のウェル内の細胞の画像を示す。図7Aおよび7Bの場合、プレート・リーダーでYFP PCAの蛍光強度を定量した後、ディスカバリ−1(Discovery−1)撮像装置(ユニバーサル・イメージング社)で同じ96−穴プレートから画像を獲得した。対照ウェルのヘキスト染色細胞(図7Dの青色染色した細胞)を用いてプレート全体にわたって画像を獲得するための適切な焦点面を確立した。次いで、10×の対物レンズを用い、ヘキストおよびYFPのそれぞれに適した波長で各ウェルの2箇所から画像を獲得した。パネルCでは、プレート全体にわたって合併したビューを見ることができる。陽性および陰性対照ならびに「新規な」陽性の例をパネルDに示した。パネルDにおいて「新規」蛋白質−蛋白質相互作用が主に細胞質に局在している場合から明らかなように、細胞内局在パターンに関する情報を得ることができる。図7に示した相互作用マッピングは、同じリンカー長、プロモータおよびレポータ断片を有する「一般的なベクター」を用いて行ったことに留意されたい。これにより、完全長cDNAの半自動サブクローニングが可能になり、各アッセイのために個別にベクターを構築する必要が無くなる。陽性シグナルを示すDNAは、例えば、図5の例で新規hFt1/PKB相互作用について示したように経路の賦活剤および阻害剤を加えることによって、さらに特徴付けることができよう。従って、本発明の利点は、蛋白質−蛋白質相互作用を迅速にマッピングすることができ、ハイスループット・アッセイおよび/またはハイコンテント・アッセイで生細胞内の各相互作用を同時に特徴付けることができること、ならびに、その後、同じPCA構築物を用いることにより、これらの蛋白質複合体がPCAにおいて意味した経路を賦活もしくは阻害する分子の強固で安定なハイスループット・スクリーニング法を開発することができることにある。
【0137】
シグナル伝達経路内の一連の標的のマッピング、特徴付けおよびスクリーニング
従って、我々は、よく特徴付けられた細胞シグナル伝達経路の多数の個々の段階に対するアッセイ法の構築にPCAを適用し、また、こうしたアッセイ法を化学物質ライブラリのスクリーニングに持ち込むことを試みた。図8は、NFkB転写因子複合体(p65/p50)の役割を含む、TNF受容体から核に至る経路の構成を示したものである。TNFがその受容体に結合すると、IKK複合体が活性化され、その結果、プロテアソームによるIkBaのリン酸化および分解が起こる。IkBaが分解すると、NFkB転写因子複合体(p65/p50)が遊離型となって細胞質から核へ転位し、そこで炎症に関与する遺伝子の転写を開始させることができる。ALLN、エポキソミシン(および現在使われている抗癌剤ベルケード(Velcade)(商標))などのプロテアソーム阻害剤はIkBaの分解をブロックし、細胞基質にNFkBの貯留を生じる。
【0138】
抗TNFおよび抗プロテアソーム療法は、それぞれ炎症および癌の治療に有効であることが分かっている。このため、経口的に使用できる新規薬剤の主成分となるTNF経路の新規な小分子阻害剤を同定することに大きな関心が持たれている。我々はこの原型的経路を用いて本発明の以下の態様を明示した:(1)本発明の使用によるシグナル伝達経路の蛋白質成分のマッピングおよび経路の活性を報知する「標識(sentinel)」アッセイの構築;(2)本発明の使用による、蛋白質機能もしくは細胞内状況とは無関係な、シグナル伝達カスケードの一連の事象につてのハイコンテントおよび/またはハイスループット・アッセイ;(3)本発明の使用による一過性アッセイもしくは「PCAインサイド(Inside)」を用いた安定な細胞株の作製;(4)種々のレポータおよび計測情報と併せた本発明の使用による単色および多色アッセイを含むアッセイの構築;(5):経路の賦活および阻害を検出し数値化する際の本発明の使用;ならびに(6)小分子ライブラリのスクリーニングに本発明を使用することによる治療的性質を有すると考えられる阻害剤の同定。
【0139】
[実施例5]
生細胞内の個々の蛋白質-蛋白質複合体の可視化
図1に示した一般的なスキームに従って、TNF経路の既知のエレメントをコードする完全長のcDNAを用い、また、DHFR PCA(赤色蛍光)および/またはYFP PCA(黄色/緑色蛍光)を用いて一連のPCAを構築した(図9)。これらのPCA構築物では、p65、p50、CBP、CBPnt、TNFRI、TRAF2の読み取り枠およびユビキチンの単一コーディング単位をPCR増幅させ、DHFRもしくはYFPの相補性の断片にインフレームで融合させ、pCDNA3.1zeo中にサブクローニングした。遺伝子のREFSEQもしくはGENBANK識別子としては、NM009045(p65/Re1A)、NM003998(NFkBl/p50)、AY033600、NM004380(CBP)、NM003824(FADD)、NM003789(TRADD)、BC033810(TRAF2)、XM032491(IKKベータ)、BC000299(IKKガンマ)およびユビキチンC(BC039193)を使用した。CBPnt[(S66385(1..2313)]はCBPのアミノ末端771個のアミノ酸に相当する。ユビキチンCは76kDaユビキチン単量体に相当する。
【0140】
アッセイ法構築の方法は以下の通りであった。DHFR断片F[1,2]およびf[3]は、それぞれマウスDHFR残基1乃至105および106乃至186に相当する(ペルティエ(Pelletier)、キャンベル−バロアほか(Campbell-Valois et al.)1998年)。DHFR PCAでは、対象蛋白質をコードするDNAをDHFR−F[1,2]およびDHFR−F[3]の5’もしくは3’末端に結合させることにより、それぞれNもしくはC末端融合体を作製した。(GGGGS)3(配列番号30)からなる可変リンカーにより対象遺伝子とDHFR断片とを離隔した。DHFR PCA構築物の一過性発現では、8x104個のCHO DUKXB11(DHFR−欠損)細胞を12穴プレート中に接種し、24時間後に、Fugene(ベーリンガー・マンハイム社(Boehringer Mannheim))をメーカーの使用説明書に従って用い、融合構築物の相補性ペアを1:1のモル比で含むウェル当たり1μgのDNAでコトランスフェクションした。トランスフェクションの48時間後、細胞を増殖培地(アルファ−MEM、10%ウシ胎仔血清)中37℃で2時間、4μMのテキサスレッド−メソトレキサート(モレキュラー・プローブズ社/インビトロゲン社)と共にインキュベートした。2種の対象蛋白質を相互作用させると、TxR−MTXが再構成DHFRに結合する。未結合のTxR−MTXは、洗浄後、新鮮培地で30分間インキュベーションすることにより除去した。細胞を観察し、ニコン・エクリプス(Nikon Eclipse)TE1000蛍光顕微鏡を用いて励起波長580nmおよび発光波長625nmで画像を獲得した。
【0141】
YFP PCAでは、選択したcDNAの読み取り枠を、上記の10−アミノ酸可変リンカーにより離隔した相補性YFP断片にインフレームで融合させた。HEK293T細胞(インビトロゲン社)を、ポリ−L−リジン被覆96−穴プレート中に1.5×104個/ウェルの濃度で接種した後、融合構築物の相補性ペアを1:1のモル比で含むウェル当たり100ngのDNAでトランスフェクションした。トランスフェクションの48時間後、細胞をPBSで洗浄し、ディスカバリ(Discovery)−1自動顕微鏡(ユニバーサル・イメージング社/モレキュラー・デバイス社)を用いて励起波長485nmおよび発光波長527nmで観察した。
【0142】
TNFシグナル伝達経路に関与することが知られているいくつかの蛋白質は、生細胞内でPCAにより容易に検出することができる蛋白質−蛋白質複合体を形成した。これらの一部を図9に示した。黄色/緑色で示した蛍光シグナルはYFP PCAを表し、赤色で示したシグナルはDHFR PCAを表す。一過性にトランスフェクションした細胞においてPCAにより選択した蛋白質−蛋白質複合体の強い蛍光シグナルおよび正確な細胞内局在を検出することができた。PCAによって観察される複合体としては、TNFRI/TNFRI、TNFRI/FADD、TRADD/FADD、TRADD/TRAF2、FADD/TRAF2;IKK複合体サブユニットIKKベータ/IKKガンマ、アダプタTRADD、FADDおよびTRAF2を有する種々のIKK蛋白質;IKKガンマ/TNFRI、IKKベータ/IカッパBアルファ、IKKガンマ/IkBアルファ、IkBa/p65、IkBa/p50、ならびにホモ−およびヘテロ−2量体複合体としてのNFkBサブユニットp65およびp50;ならびにIkBa/ユビキチン(Ub)などのユビキチン複合体など、これまでに立証された全ての相互作用が挙げられる。さらに、我々は、p50、p65およびIkBaと上流アダプタ分子TRADD、FADDおよびTRAF2との間のこれまでにまだ報告されなかった相互作用を観察した。これらのアダプタ蛋白質は、リガンド媒介性の受容体三量体形成時にTNF受容体に動員される。これらの転写因子との相互作用から、シグナル伝達カスケードの末端段階に関与する蛋白質からなるマルチ・サブユニット複合体の存在が示唆される。複合体の細胞内部位(subcellular location)はその細胞内での機能と整合している。例えば、TNF受容体は、自己結合してプラズマ細胞膜に明確に局在する複合体(TNFR1/TNFR1)を形成する3つの同一サブユニットからなる。PCAにより、主として細胞質に蛋白質複合体TRAF2/IkBa、TRAF2/p65、IkBa/p65、IKKベータ/IKKガンマおよびp65/p50、主として核にCBP/CBPおよびCBP/p65複合体を明確に認めた。さらに、YFPの1断片に融合したユビキチン単量体をコードするDNAおよびYFPの相補性の断片に融合したIkBaの完全長cDNAを用いてPCAを構築することによりユビキチン結合を直接観察することができた。これは、生細胞内でのユビキチン結合蛋白質の最初の直接的な視覚化であり、我々の知る限りでは、他の技術でユビキチン−蛋白質複合体を直接検出することは可能ではない。
【0143】
[実施例6]
多色アッセイ法
また、それぞれが異なる蛍光シグナルを生成する種々のレポータを用いてPCAを構築することができることにより、多色アッセイ法の構築も可能になる。この原理の証明として、/p65複合体を、DHFR PCAにより検出されるCBP/p65複合体(赤色)を同時に発現する細胞においてYFP PCA(黄色/緑色)を用いて可視化した。同時に、前述のようにして、DHFRレポータ融合体DHFR−F[1,2]−CBPntおよびp65−DHFR−F[3]、ならびにYFPレポータ融合体IkBa−YFP[1]およびYFP[2]−p65を用いてCHO細胞をトランスフェクションした。トランスフェクションの48時間後、細胞をTxR−MTXで染色し、DHFR PCAおよびYFP PCAについてそれぞれ記載したようにして顕微鏡により視覚化した。図9から明らかなように、IkBa/p65複合体により生成されるシグナルが細胞基質内に局在する(YFP PCAにより生じる黄色/緑色シグナル)のに対して、CBP/p65により生成されるシグナルは核内に明確に局在する(テキサスレッドを用いたDHFRにより生じる赤色シグナル)。
【0144】
この実施例では、本発明と、完全な状態のGFPによるp65の標識に依存するこれまでのp65の検討結果(例えば、JAシュミットほか(JA Schmid et al.)、2000年、「緑色蛍光蛋白質(GFP)融合蛋白質を用いたNFkBおよびIkBaの動力学の検討」ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)275(22):p17035−17042)との違いを浮き彫りにしている。後者の場合、検討されているのは、p65の細胞内区画のみである。PCAの場合、図9に示したように、検討されているのは、異なる細胞内区画(それぞれ、細胞基質および核)内の種々の蛋白質(IkBaおよびCBP)とp65との相互作用である。P65はTNFのシグナル伝達カスケードの連続した段階において異なる蛋白質と相互作用するので、PCAを用いると、TNF誘導性シグナル伝達の高忠実度の検出が可能になる。さらに、PCAを用いて多色、マルチパラメトリック分析法を構築することができることにより、細胞生物学、生化学およびシグナル伝達分野において広範囲な基礎研究を可能にする柔軟な方法、ならびにアッセイのデザインおよび開発において並はずれた柔軟性および効率が得られる。
【0145】
生細胞におけるハイコンテントおよびハイスループット・アッセイ法の構築。TNF経路の前記アッセイ法のうちの3つ(p50/p65、p65/およびIkBa/ユビキチン)を用いて、動的な経路の賦活および阻害の検出が可能になることを明らかにした。図1に示したように、これらのアッセイ法の原理は、経路が、事実上、複合体内の蛋白質の物理的な結合、解離もしくは運動を含む一連の段階であるということである。これらの事象は、生細胞においてリアルタイムに特定の細胞内区画で起こる。本発明によって、任意の経路内の任意の蛋白質のこうした動的な事象を測定するアッセイ法の構築が可能になる。我々は、3つの異なる標識(sentinel)のアッセイ法を構築し、その情報が経路活性の感度の良い指標であることを示すことによって本発明のこの態様を明示する。IkBa/p65複合体の場合、TNF経路の賦活化によりプロテアソームによるIkBa/p65の分解が生じる。このため、IkBa/p65複合体から生じる全蛍光はTNF処理で低減し、この作用はプロテアソーム阻害剤によりブロックすることができる。NFkB(p65/p50)転写複合体の場合、TNF経路の賦活化によりIkBaによる阻害からp65が解放される。従って、このp65/p50複合体は、細胞基質から核へ再分配される。プロテアソーム阻害剤で前処理しておくと、IkBaの分解がブロックされることにより、NFkB複合体は細胞基質内に保持される。後者のアッセイ結果は、こうした複合体の細胞内部位(subcellular location)を検出することができるPCAを用いてハイコンテント方式で読み取ることができる。IkBa/ユビキチンの場合、IkBaの分解をブロックするプロテアソーム阻害剤によってIkBa/ユビキチン複合体の蓄積が起こる。後者のアッセイ結果は、ハイコンテント(自動顕微鏡もしくは自動イメージング)またはハイスループット(大量(bulk)の蛍光)方式で読み取ることができる。
【0146】
これらのアッセイ法のうちの任意のもの、もしくは全てがTNFシグナル伝達の阻害剤のスクリーニングに有用となる。P50/p65のハイコンテント・アッセイを利用したスクリーニング作戦(campaign)についての詳細を以下に説明する。特にこれらのアッセイ法は、抗炎症作用および/または抗癌作用を有する物質の同定に有用となろう。さらに詳細に検討した3つの「標識(sentinel)」PCAは全て、ALLNなどのプロテアソーム阻害剤の感度の良い検出手段出会った。最後に、蛋白質のユビキチン結合を検出することができることにより、ユビキチン結合によって分解される蛋白質の大規模なスクリーニングが可能となる。このような化合物に対する感度の良い特異的なアッセイ法は、プロテアソーム阻害剤である市販薬「ベルケード(商標)」が強力な抗腫瘍作用を有することから、製薬業界では特に関心が持たれている。
【0147】
[実施例7]
NFkB転位のハイコンテント・アッセイ
PCAを用いて生細胞における経路の賦活化および阻害を検出することができることを明示するために、我々は、先ず、TNF−アルファへの反応によるp65/p50複合体の核転位量を測定し、ALLNによる阻害を評価するための一過性ハイコンテント・アッセイ法を構築した。融合遺伝子は、YFP[1]−p50のゼオシン(Zeocin)選択マーカおよびYFP[2]−p65のハイグロマイシン・マーカを含むpCDNA3.1発現ベクター(インビトロゲン社)中にサブクローニングした。(GGGGS)2(配列番号1)からなるリンカーにより対象遺伝子とYFP断片を離隔した。CHO DUKXB 11細胞を96−穴プレートに8×103個/ウェルの濃度で接種し、24時間後に、Fugene(ベーリンガー・マンハイム社)をメーカーの説明書に従って用い、1:1のモル比のYFP[1]およびYFP[2]融合体遺伝子でトランスフェクションした。各サンプルにつきウェル当たり計20ngのDNAを用いた。トランスフェクションの36時間後、細胞を、0.25%FBSを補充したaMEM中でさらに16乃至18時間インキュベートすることにより、血清不足状態にした。サイトカインによる誘導を行うため、一部の細胞を25ng/mlのmTNF(ベーリンガー・マンハイム社)で30分間処理した。NFkBの核転位に対するプロテアソーム阻害の影響を調べるため、上記の血清不足状態の細胞を、mTNFアルファによる誘導期間の前および期間中に40μg/mlのALLN(カルビオケム社)で1時間処理した。次いで、この細胞をPBSで洗浄し、NFkB複合体の細胞内部位(subcellular location)を可視化して、ニコン・エクリプスTE2000蛍光顕微鏡を用いて励起波長485nmおよび発光波長527nmで画像を獲得した。蛍光強度の定量的な分析はメタモルフ(Metamorph)ソフトウェア(ユニバーサル・イメージング社、モレキュラー・デバイシズ社)を用いて行った。
【0148】
図10は、YFP PCAを用いた、CHO細胞内のNFkB(p65/p50)の細胞質から核への転位に対する一過性アッセイの結果を示す。TNFの非存在下では、このp65/p50複合体は、細胞基質と核との間で均等に分布した。TNF処理細胞では、核対細胞質蛍光比は平均2倍増加し、p65/p50複合体は、蛍光顕微鏡により生細胞の核内に可視化することができた。次いで、我々は、よく特徴付けられたプロテアソーム阻害剤ALLNによるNFkB核転位の阻害を明らかにすることを試みた。p50およびp65の相補性YFP断片融合体を共発現するCHO細胞をTNFの非存在下もしくは存在下にインキュベートした。示されている場合、細胞は、プロテアソーム阻害剤ALLNで前処理した。各細胞の核および細胞質内の平均蛍光強度を測定し、比率で表した。ALLNはYFP PCAアッセイにおいてNFkB複合体の細胞質から核へのTNF誘導性転位を阻害した。サイトカインおよび阻害剤の作用は個々の細胞の分析から容易に明らかとなったが、一過性トランスフェクションにより細胞間に著しい不均一性が生じた。従って、我々は、多様な小分子、既知薬物および天然物ライブラリのスクリーニングに用いるための、「内部にPCA」を有する安定な細胞株を確立することを試みた。
【0149】
[実施例8]
内部にPCAを有する安定な反応性細胞株
安定な細胞株は、冷凍貯蔵細胞からいつでもアッセイを再構築することができるので、HTSの標準となる。内部にPCAを有する確固たる安定細胞株の構築を明示するために、HEK293T細胞を、10%FBS(ジェミニ・バイオ−プロダクツ社(Gemini Bio−Products))、1%ペニシリンおよび1%ストレプトマイシンを補充したMEMアルファ培地(インビトロゲン社)中で増殖させ、5%CO2の37℃インキュベータ内に維持した。先ず、細胞を、YFP[2]−p65をコードするベクターを用いてコトランスフェクションし、100μg/mlのハイグロマイシンB(インビトロゲン社)を用いて安定な細胞株を選択した。次いで、選択した細胞株をYFP[l]−p50でトランスフェクションした。50μg/mlのハイグロマイシンBおよび500μg/mlのゼオシンによる二重抗菌性選択の後、YFP[l]−p50/YFP[2]−p65を発現する安定な細胞株を単離した。免疫ブロット分析および蛍光顕微鏡法により、その融合体遺伝子を安定的に発現する細胞クローンを同定した。各トランスフェクタントの単一細胞株を選択してさらに特徴付けを行った。これらの株の蛍光は、少なくとも25継代にわたって安定である(データは示されていない)。安定なMEK/ERK細胞株−下記のようにして構築した−は、TNF作用のための対照として用いた。全てのトランスフェクションで、Fugene 6(ロッシュ社)をメーカーの説明書に従って使用した。YFP[l]−p50/YFP[2]−p65を安定的に発現する細胞を、壁の黒いポリ−リジン被覆96−穴プレート(グライナー社(Greiner))中に20,000個/ウェル接種した。24時間後、これらの細胞をヒトTNF−アルファ(ロッシュ社)と共に30分間インキュベートした。次いで、核を10μg/mlのヘキスト33342で10分間染色した。細胞はHBSS(インビトロゲン社)で洗浄し、同じ緩衝液中に保存した。次に、蛍光を可視化し、それぞれ470/35および535/60の励起および発光フィルターを取り付けたディスカバリ−1(Discovery−1)自動蛍光撮像装置(モレキュラー・デバイシズ社(Molecular Devices))を用いて画像を獲得した。示されている場合、細胞を25μMのALLN(カルビオケム社)で60分間処理した後、この阻害剤を存在させたまま、TNFによる誘導を行った。下記のハイスループット・スクリーニング作戦では、細胞は、化合物(10μM)で60分間前処理した後、薬物の存在下にTNFアルファで30分間刺激した。次いで、細胞をHBSSの2%ホルムアルデヒド溶液で固定した後、ヘキスト33342で染色した。液処理は全て、バイオメック(Biomek)FX(ベックマン(Beckman))機器を用いて行い、画像は前述のようにして獲得した。画像の解析はイメージJ(Image J)を用いて行った。転位は、所与の条件のいくつかの画像に対して(nで示した)細胞集団の平均蛍光強度の核/細胞質比を算出することにより評価した。
【0150】
図11から明らかなように、上記安定細胞株では、TNF処理を行わない場合、p50/p65複合体は主として細胞質に局在した(パネルA)。TNF処理を行うと、p50/p65複合体は核内へ転位した(パネルB)。対照として用いた安定なMEK/ERK PCAでは、MEK/ERK複合体は細胞基質に局在した(パネルC)。p50/p65による結果とは対照的に、TNFはMEK/ERK PCA細胞株では作用を示さなかった(パネルD)。以上の結果から明らかなように、PCA構築物が比較的低いレベルで発現される条件下でも、強い蛍光シグナルが認められた。また、我々は、これらの遺伝子操作した細胞株が少なくとも20継代にわたって安定な蛍光を示すことを見出した(データは示されていない)。
【0151】
NFkBシグナル伝達のハイコンテント分析のためのこれまでの方法は、抗p65抗体を用いる免疫細胞化学か、完全な状態の蛍光蛋白質に融合したp65の発現に依存していた。今回の場合も、図11は、これらの断片自体はシグナルを生じないという重要な特徴を示している。図11(EおよびF)から明らかなように、単一のPCA融合体(p65−YFP[2])を含む安定細胞株は蛍光シグナルを生じなかった。PCAの場合、シグナルの生成は、相補性の断片が融合する相手の2つの分子の効果的な相互作用を介する断片の相補性に依存している。従って、本発明は、細胞内の個々の蛋白質の動きをモニターする他の方法とは明らかに異なるものである。
【0152】
さらに、我々は、定量的な画像解析により安定なp50/p65細胞株の特性を決定した(図12[A])。個々の細胞の核および細胞質の平均蛍光量を定量し、N:C蛍光比を算出した。このp50/p65細胞株を漸増用量のTNFで処理すると、N:C比は0.47から1.42へ3倍の増加を示し、10ng/mlのTNFで最大の2分の1の反応が認められた。このTNF反応の経時変化を分析すると、p50/p65の核内への転位は5分のt1/2で起こることが明らかとなった。15分で最大の反応が見られた後、60分で減少し、NFkB賦活のフィードバック回復と一致していた。細胞集団全体にわたって、p50/p65のN:C比の変化は統計的に高度に有意であった(p<0.0001)。4つの独立した実験の結果を分析すると、TNFに対するPCA反応には一貫性がある(アッセイ間CV=5.9;データは示されていない)ことが分かった。このアッセイ法は、経路刺激に対する内在性転写因子の反応を機能的に極めて忠実に再現しており、TNFシグナル伝達経路の感度の良い指標である。
【0153】
以上の安定な細胞株がTNF/NFkB依存性経路の新規阻害剤の同定に適しているかどうかを確認するために、我々は、先ず、上記p50/p65 PCAを用いてプロテアソーム阻害剤ALLNの作用を調べた(図12[b])。その結果、ALLNを4時間処理すると、p50/p65複合体のN:C比のTNFによる増加は76%ブロックされた。こうした結果から、PCAによるNFkB複合体の視覚化は、ユビキチン/プロテアソーム媒介性事象を介するTNFシグナル伝達により調節されることが明らかとなり、さらに、これはHTS設定で新規治療剤を同定するための感度の良いアッセイ法になることが示唆された。
【0154】
[実施例9]
PCAによる化学物質ライブラリのハイスループット・スクリーニング
ハイスループット・スクリーニングにおけるPCAの利用を明示するために、前記p50/p65 PCAを発現するように遺伝子操作された細胞を用いて、化合物のジェネシス・プラス・コレクション(マイクロソース・ディスカバリ・システムズ社)をアッセイした(図12[C])。ジェネシス・プラスは960種の化合物のコレクションであり、毒性もしくは蛍光性が既知の化合物を含む。このような特性を有する化合物を含めることは、これらが分析を複雑にするので、HTSアッセイのバリデーションにおいて重要である。ウェル中の化合物の最終濃度は10μMとし、全てのウェルにはDMSOを0.5%の濃度で含ませた。細胞は化合物(もしくはビヒクル)で90分間処理した後、25ng/mlのTNFで30分間処理した。固定および核の染色後、自動蛍光顕微鏡プラットホーム(ディスカバリ−1;ユニバーサル・イメージング社/モレキュラー・デバイス社)を用いて蛍光を分析した。
【0155】
平均NC比は、前述のように、自動画像解析によって得、化合物処理したウェルを非刺激およびTNF刺激対照ウェルと比較した。この的を絞ったライブラリ・スクリーニングの結果およびTNF反応のプレート間の変動については図12(C)に示した。一般に用いられているアッセイ信頼性(assay robustness)の基準値であるZ係数は、既知の活性化合物および蛍光化合物の数が大きいため、この化合物のサブセットには適用できない。我々は、対照ウェル全体にわたって同じ統計パラメータを測定してアッセイの質を推定するZ’係数を用いた。このZ’値は、平均値が0.627、12のアッセイ・プレート全体の中央値が0.67であった。蛍光性および毒性化合物はNC比の自動解析で容易に特定することができるので、これらの性質を有する化合物は、スクリーニング作戦では擬陽性として確認することができることが分かった(データは示されていない)。前記NFkB経路に作用することが知られているこのセットの化合物ロテノンおよび3−メチルキサンチンは、このアッセイのヒットと呼んだ。
【0156】
この化合物セットの中のこの経路の既知の阻害剤の他に、我々は新規なNFkB経路の阻害剤を同定した。例えば、ヒットの確認および8−ポイント用量−反応解析から、我々がODC0000160と命名した化合物は1.1μMのIC50で前記p50/65 PCAアッセイを阻害し、細胞利用のアッセイのスクリーニング・ヒットとして比較的強力であることが分かる(図12[D])。この化合物は、ヒト臨床試験で用いられたことがあるが、これまでNFkB経路と結びつけられたことはない。明らかに、このアッセイでのその活性は機構上の意味を有すると考えられ、これは、ODC0000160がヒト腫瘍細胞のアポトーシスを誘発することができるという事実(データには示されていない)により裏付けられた考え方である。標準的なプロトコルを用いたヘキスト染色による細胞数および核形態の分析で可能となる毒性化合物の同時的除外によって、これらのアッセイで得られるヒットに対する信頼性が増加する。
【0157】
[実施例10]
PCA法の一般性
さらに、PCAに対して任意のレポータを併用することができることを明らかにするため、我々は、DHFR PCAを用いたTNF経路のアッセイ法についても構築した(図13)。NFkBサブユニットp65およびp50(N−末端436個のアミノ酸に相当)のコーディング領域を、それぞれマウスおよびヒトcDNAからPCR増幅させ、pCDNA3.1zeo(インビトロゲン社)内で15アミノ酸可変リンカー(GGGGS)3(配列番号30)、次いでDHFR断片F[1,2]もしくはF[3]の下流にインフレームで結合させた。pCDNA3.1には別個にIkBaをサブクローニングした。これらの遺伝子の一過性発現のために、8×104DHFR欠損CHO DXB11細胞を12穴プレートに接種し、24時間後に、Fugene(ベーリンガー・マンハイム社)をメーカーの使用説明書に従って用い、[F1,2]−p65、[F3]−p50およびIkBaを各融合構築物のモル比1:1:1で用いてトランスフェクションした。対照には、示されている場合、IkBaの代わりに空のpCDNA3.1を用いた。DNAはウェル当たり計1μg用いた。
【0158】
トランスフェクションの48時間後、蛍光顕微鏡により[F1,2]−p65および[F3]−p50の複合体を検出した。一過性にトランスフェクションした細胞は、増殖培地((アルファ−MEM、10%ウシ胎仔血清)中37℃で2時間、4マイクロMのTxR−MTX(モレキュラー・プローブズ社)と共にインキュベートした。相補性の断片から構築したDHFRにTxR−MTXを結合させ、これをp65およびp50に融合させた。未結合TxR−MTXは、洗浄した後、新鮮培地で30分間インキュベーションすることにより洗い流した。サイトカインによる誘導を行うため、一過性にトランスフェクションした細胞を、上記30分間の洗浄時に25ng/mlのmTNFアルファ(ベーリンガー・マンハイム社)と共にインキュベーションした。
【0159】
図13はDHFR PCAの結果を示したものである。DHFR−F(3)/p50と共にDHFR−F(1,2)/p65を一過性に共発現するCHO DUKXB11細胞をI□Bでコトランスフェクションし、棒グラフに示したように、mTNFアルファの存在下もしくは非存在下に30分間インキュベートした。IkBaをコードする遺伝子をコトランスフェクションすると、TNF非存在下、細胞基質内にp65/p50複合体が保持され、TNFで処理すると、このp65/p50複合体は細胞質から核へ転位した。図13上段の顕微鏡写真は、NFkB複合体が主として細胞質に局在するIkBaを共発現するサンプルからの代表的な蛍光画像を示したものである。図13下段の顕微鏡写真は、NFkB複合体が主として核内に局在する、IkBaを共発現し、TNFで誘導されるサンプルからの代表的な蛍光画像を示したものである。我々は、一過性にコトランスフェクションした細胞においてDNA濃度が細胞内局在化に顕著な影響を与えることを観察した。NFkBは、IkBaにより非刺激細胞の細胞質内に有効に保持される。この実験においてp50/p65を高レベルで発現させると、その転写因子とこれのモジュレータとの間の均衡が妨げられた。IkBaに結合しない余剰のp50/p65複合体はこうした細胞の核に自由に転位したが、この現象はIkBaのコトランスフェクションにより是正することができ、これによりこのアッセイをTNF刺激に対し感受性にすることができる。これに対し、IkBaのコトランスフェクションは前述したより明るいYFP PCAの場合には必ずしも必要ではない。何故なら、YFPシグナルの強度が高いためにYFP PCA構築物の極めて低いレベルの異所性(exogenous)発現を利用することができるからである。
【0160】
NFkBの核への転位に及ぼすプロテアソーム阻害の影響を検討するために、DHFR PCAを発現する一過性にトランスフェクションした細胞を、TxR−MTX標識の前の1時間およびその後の実験継続期間に、40μg/mlのALLN(カルビオケム社)で処理した。次いで、この細胞をPBSで洗い、ニコン・エクリプスTE2000蛍光顕微鏡を用いて励起波長580nmおよび発光波長625nmで、NFkB複合体の細胞内局在を視覚化した。細胞の核および細胞質の平均蛍光強度は、NIHイメージ(Image)および/またはオープンラボ(OpenLab)(インプロビジョン社(Improvision))を用いて定量した。図13(B)から明らかなように、プロテアソーム阻害剤ALLNは、このDHFR PCAアッセイにおいてNFkB複合体のTNFによる細胞質から核への転位を阻害する。ALLNの存在下では、このp50/p65複合体は細胞基質内に保持される。
【0161】
以上の一過性アッセイでの細胞間のばらつきは、予想されるように、安定な細胞株に比し、大きい。従って、一過性アッセイは相互作用のマッピングおよびアッセイのバリデーションには有用であるが、安定な細胞株は確固たる(robust)HTSおよびHCSアッセイに好適である。安定な細胞株は、当業者に公知の種々の方法を用いて作製することができる。任意のPCAに対して、安定な細胞株を、本明細書に記載した抗生物質抵抗性マーカその他各種の当業者に公知の選択マーカなどの選択マーカを用いて作製することができる。上記DHFR PCAの場合、安定な細胞株は、本質的に、DHFR−細胞においてミフニクほか(Michnick et al.)がこれまでに報告しているように、生存−選択を利用して作製することができ、あるいは、DHFR PCAを発現する細胞のみが選択圧下に生存することができるように、内在性DHFRを含む細胞を用いてMTX選択圧を利用することができる。
【0162】
以上の結果から、所望の性質を操作して断片にすることによりアッセイの性能を向上させることができるというPCAの特徴が浮き彫りになる。アッセイの正確な条件、所望の検出方法、バックグラウンドに対する必要なシグナル、および検討中のプロセスおよび標的の生体環境(biology)に応じて、PCAのレポータを任意に選択することができることは、本発明の利点である。
【0163】
[実施例11]
蛍光強度の変化を利用したアッセイ:IkBa/p65
ユビキチン結合およびプロテアソーム分解の結果であるIkBaのTNF誘導性分解により、結合NFkBが解放され、この転写因子の核内への転移が起こる。従って、IkBa−NFkB複合体の分解はNFkB媒介性遺伝子制御の重要な段階である。このレベルのNFkB経路の調節を視覚化するために、我々はIkBa/p65 PCAを発現する安定な細胞株を作製した(図14)。対照としてはERK1/MEK1を用いた。ERK1をYFP[1]の5’末端に結合させると同時に、IkBaおよびMEK1をN−末端融合体としてYFP[2]に付加した。この融合遺伝子を、YFP[1]−p50、IkBa−YFP[1]およびERK1−YFP[1]のゼオシン(Zeocin)選択マーカならびにYFP[2]−p65およびERK1−YFP[2]のハイグロマイシン選択マーカを含むpCDNA3.1発現ベクター(インビトロゲン社)中にサブクローニングした。また、(GGGGS)2(配列番号1)からなるリンカーによって対象遺伝子とYFP断片を離隔した。
【0164】
IkBa−YFP[1]/YFP[2]−p65もしくは対照のMEK−YFP[2]/ERK1−YFP[1]を発現する細胞を壁の黒いポリ−リジン被覆96穴プレート(グライナー社(Greiner))に、ウェル当たり20,000個の細胞濃度で接種した。24時間後、これらの細胞をヒトTNF(ロッシュ社)と共に30分間インキュベートした。次いで、核を33μg/mlのヘキスト33342(モレキュラー・プローブス社)で10分間染色した。細胞はHBSS(インビトロゲン社)で洗浄した後、同じ緩衝液中に維持した。次に、蛍光を可視化し、それぞれ470/35および535/60の励起および発光フィルターを取り付けたディスカバリ−1自動蛍光撮像装置(モレキュラー・デバイシズ社)を用いて画像を獲得した。次いで、IkBa/p65 PCAを用いてプロテアソーム阻害剤ALLNをテストした。25μMのALLN(カルビオケム社)で60分間細胞を処理した後、この阻害剤を存在させたままTNFによる誘導を行った。
【0165】
画像の解析はイメージJ(Image J)を用いて行った。全ての細胞の全平均蛍光強度は、所与の条件の集団における個々の細胞の核および細胞質の蛍光強度の加重平均+/−標準誤差によって求めた。蛍光のイメージングにより、IkBa/p65複合体は主として細胞質に局在し、細胞をTNFで処理すると、IkBaのサイトカイン誘導性蛋白質分解およびIkBa/p65 PCA複合体の分解と一致して蛍光が著しく減少する(図14)ことが明らかとなった。ALLNで4時間処理すると、IkBa/p65複合体のTNF誘導性減少は98%抑制され、この作用は顕微鏡画像で明らかであった。定量的な画像解析では、対照(MEK/ERK)複合体ではなくIkBa/p65複合体細胞の平均蛍光強度がTNFにより用量依存性に減少することが分かった。このことから、TNFはIkBa/p65複合体の分解を特異的に誘導したことが示唆される。最大の反応は10ng/mlのTNF濃度で認められたが、IkBa/p65複合体の平均細胞蛍光強度は非刺激細胞の約40%であった。TNF反応の経時変化についての検討では、t1/2が4分、最大反応が20分に認められることが分かった。対照(MEK/ERK) PCAの蛍光強度に対してはTNF処理の影響は認められなかった。以上の結果から、PCAは、生細胞においてシグナル伝達複合体の動的な調節を評価するのに十分適していることが分かる。
【0166】
[実施例12]
蛋白質のユビキチン結合についてのアッセイおよびプロテアソーム阻害剤同定におけるその利用
多くの蛋白質の選択的な分解は、蛋白質がユビキチンへの共有結合による分解の標的となる一連の段階からなるユビキチン・システムから始まる。ユビキチンは高度に保存された76−アミノ酸ポリペプチドである。1970年代中頃に発見されて以来、ユビキチンは、損傷蛋白質の除去などの細胞のハウスキーピング機能と関連づけられてきた。最近、ユビキチンはプラズマ細胞膜から核に至る種々の細胞内部位(subcellular location)の他の重要なプロセス、例えば、細胞周期の進行、シグナル伝達、転写調節、受容体の下方制御およびエンドサイトーシスに関与していることが明らかになった。
【0167】
ユビキチンは、そのカルボキシ末端グリシンと標的蛋白質のリジンのイプシロン−アミノ基とのイソペプチド結合を介して蛋白質に共有結合する。この結合は、ユビキチン部分を活性化し、最終的にこれを基質のリジン残基に結合させる酵素によって触媒される。この後、さらに、この結合したユビキチン自体の特定のリジン残基にユビキチンが付加されることによりポリ−ユビキチン鎖が生じる。この共有結合による修飾は、このイソペプチド結合に特異的なユニークなプロテアーゼにより無効化される。ユビキチンは最も良く特徴付けられたポリペプチド変性剤であるが、他のポリペプチド(ユビキチン様もしくはUblと呼ばれることが多い)も類似の反応で標的に結合する。配列類似性はユビキチンと異なるが構造的にユビキチンに類似しているこうした「代替的な」変性剤としては、SUMO;Nedd8;Hubl、ISG15もしくはUCRP;およびApg12が挙げられる。
【0168】
ユビキチン結合蛋白質はプロテアソームの19S調節サブユニットにより認識され、これによってリサイクリングのためのユビキチン鎖が除去され、この消えゆく運命の(doomed)蛋白質が変性する。次に、変性した蛋白質はプロテアソームのコア内に送られ、短ペプチド(22残基未満)に縮小される。ユビキチン結合している蛋白質についてはすでにいくつか同定されている。これらのものとしては、サイクリンおよび関連蛋白質(サイクリンA、B、D、Eおよびサイクリン依存性キナーゼ阻害剤);p53などの腫瘍抑制因子;c−fos、c−jun、c−mycおよびN−mycなどの腫瘍遺伝子;IカッパBアルファおよびp130などの抑制性蛋白質;ならびにcdc25ホスファターゼ、チロシン・アミノトランスフェラーゼおよびトポイソメラーゼ(IおよびIIアルファ)などの酵素が挙げられる。真核生物のゲノムには2種の蛋白質モチーフ−蛋白質代謝回転の標的を識別すると考えられているF−ボックスおよびリングフィンガー−のコピーが数百個にも上り、代謝回転がユビキチン・システムによって調節されている多数の蛋白質の存在が示唆される。
【0169】
プロテアソーム機構そのものの他に、プロテアソームの上流の調節的事象(即ち、プロテアソームの基質およびそのレギュレータのリン酸化およびユビキチン結合)が薬の発見のために活発に検討されつつある。蛋白質分解の選択性は、主としてユビキチンへの結合の段階で決まる。先ず、ユビキチンはE2ユビキチン結合酵素のファミリーの酵素に結合する必要がある(E1ユビキチン活性化酵素は最初のATP依存性活性化をもたらす)。次いで、このE2酵素自体もしくは、より一般的にはE3リガーゼが、ユビキチンの標的蛋白質(リガーゼの基質)への移動に特異性を与える。通常、E1は単一であるが、E2には多くの種類があり、E3には複数のファミリーもしくは多蛋白質複合体がある。特定のE3は、主としてユビキチン−蛋白質結合(従って、蛋白質分解)の選択性に関与していると考えられる。これは、特定の識別シグナルを含む特定の蛋白基質を結合することによって行われる。ユビキチン負荷E2(ユビキチンを結合している)酵素に連結する蛋白質−蛋白質相互作用ドメインを含む蛋白質としてE3ユビキチン・リガーゼを同定することにより、基質認識とユビキチン鎖形成の触媒段階とが結びつけられる。
【0170】
NF−kBのシグナル誘導性活性化は、IkBa(IカッパBアルファ)のリン酸化依存性ユビキチン結合を含み、これがこの蛋白質をプロテアソームによる迅速な分解の標的とさせ、NFkBを解放して核へ転位させる。IkBaのTNF誘導性ユビキチン結合は、その蛋白質分解およびその後のNFkBの活性化に不可欠である。従って、ユビキチン結合した蛋白質およびプロテアソームの阻害剤を同定する際のPCAの使用を明示しようとした。
【0171】
IkBa−YFP[1]およびYFP[2]−ユビキチンを前述のようにして構築し、HEK293T細胞において一過性に発現させた。図15から明らかなように、平均蛍光強度は、対照のビヒクル処理細胞と比較して、プロテアソーム阻害剤ALLNで処理したTNF誘導細胞において著しく増加した。この結果は、PCAが基質蛋白質へのユビキチンの動的なシグナル誘導性結合を捕捉することを示し、ユビキチン−プロテアソーム経路の阻害剤の同定への利用を明示するものである。本発明は、ユビキチンおよびユビキチン様ポリペプチドにより修飾された蛋白質の大規模な同定に適用することができ、例えば、「おとり(bait)」がユビキチンもしくはユビキチン様分子である本発明の実施例2のようなライブラリ・スクリーニングを用いることにより、またはユビキチンもしくはユビキチン様分子を個々のDNAに対してテストすることによりユビキチン−蛋白質複合体を同定する実施例4のような相互作用マッピングを用いることによって適用することができる。さらに、特定の蛋白質標的に対するユビキチンPCAを構築することによって、本発明の対象であるアッセイをそのまま新規治療剤のハイスループット・スクリーニングに適用することができる。
【0172】
[実施例13]
ベクターおよびベクター・エレメント
本発明と併せて多数の異なるベクターを使用することができることは当業者には明らかであろう。有用なベクターのエレメントは、対象細胞、所望のプロモータ、レポータの選択、リンカーの長さおよびクローニング部位により必要に応じて変更することができる。本発明は、前記ベクター配列、そのエレメントもしくは前記遺伝子発現方法に限定されない。プラスミド、レトロウイルスおよびアデノウイルス・ベクターは全て、本発明に適合する。PCAに特有なベクターのデザインおよび特徴に焦点を当てたいくつかの例を以下に示す。これらの例は本発明の用途を限定するものではない。
【0173】
リンカーの長さの選択。対象遺伝子と相補性の断片との間に可変リンカーを使用すると、PCAの実施が容易になる。PCAにはアミノ酸が5乃至30個の長さのリンカーが用いられている。このリンカーの長さは、相補性に必要な相互作用する分子の分子間距離を調節するために自由に変更することができる。例えば、レミー(Remy)およびミフニク(Michnick)は、対象遺伝子と相補性の断片との間の可変リンカーの長さを短くすると、リガンド結合時のエリスロポエチン受容体のアロステリックな変化を正確に検出することができることを明らかにした(文献参照)。補助された相補性−例えば、第3分子に互いに結合することによって間接的に結合している蛋白質同士、もしくは比較的長い分子間距離で構造的に結合している蛋白質同士の間でみられる相補性−についても比較的長いリンカーを用いることによって詳細に研究することができる。
【0174】
多くの用途において、アミノ酸10乃至15個の準標準リンカー−例えば、本明細書で用いている5−アミノ酸(GGGGS)(配列番号31)配列の反復配列−は、これを用いることによって断片の相補が容易になり、本発明で明らかにしたように、PCAの多くの用途に適している。その結果、一定の長さのリンカーを用い、遺伝子を迅速にサブクローニングして図1および図16のようなアッセイを構築することができる標準ベクターを作製することができる。
【0175】
選択マーカの選択およびデザイン。選択マーカの多種多様な選択肢をここに提示するが、これらが本発明に適用できることは当業者に容易に理解されよう。
【0176】
生存−選択アッセイを利用するPCA−例えば、アミノグリコシド・キナーゼ(AK PCA)もしくはハイグロマイシン・ホスホトランスフェラーゼ(HPT PCA)などの、それ自体が薬剤耐性マーカとして機能する酵素の断片を用いるPCA、またはDHFR PCAなどの、PCAが代謝経路を補完するPCA−の場合、発現プラスミドに別の薬剤耐性遺伝子を組み込む必要はない。これらの場合、断片相補時に選択マーカが再構成されることにより、選択圧下に細胞の生存が可能となる。
【0177】
上記PCAが光学的に検出可能なシグナルを生じる蛋白質を利用する場合、別の薬剤耐性もしくは生存遺伝子を発現させることによって対象蛋白質を発現する細胞を選択することを可能にすることができる。例えば、図16に示し、本発明の安定細胞株(図11および図14)の作製に用いたベクターでは、YFP[1]およびYFP[2]プラスミド上に種々の抗生物質耐性マーカ(ハイグロマイシンおよびゼオシン)を用いることによって、YFP PCAを発現する安定細胞株の作製が容易になった。
【0178】
このPCAの蛍光もしくは発光シグナルそのものを用いることによって、例えば、陽性シグナルを有する細胞を選別するためのFACSもしくはビーズ利用の選択方法を用いて、上記安定発現細胞を選択することができる。また、FACSもしくは類似の方法は、例えば、PCAが蛍光標識抗体で検出可能な非天然型細胞表面マーカを再構成する細胞表面PCAに対する抗体と併用することができる。
【0179】
抗生物質耐性遺伝子もしくはDHFRなどの代謝生存遺伝子に代わるものとして、抗原もしくは抗体を、PCAと併用する選択マーカもしくは検出プローブとして用いることもできる。例えば、抗原を断片化してPCAに用いることにより、これらのPCAに、蛍光標識抗体で検出可能な蛋白質を再構成させることができる。この再構成された抗原がトランスフェクションした細胞において異種蛋白質となる場合、この抗原を再構成する蛋白質−蛋白質相互作用が存在しなければバックグラウンド活性は生じないことになる。あるいは、抗原(もしくは抗体)を、別の動作不能なように結合したエレメントとして、遺伝子−断片融合体を有するベクター内に含ませることができる。その場合、対象とする遺伝子−断片融合体の共発現は、この抗原エレメントに特異的な抗体を用いる抗体利用の選択法により検出することができる。選択は、抗原発現細胞の単色もしくは多色FACS選別により、またはビーズもしくは固体担体に結合させた抗体による結合によって達成することができる。
【0180】
[実施例14]
HTSおよびHCS用細胞株の迅速選択が可能となる、蛍光もしくは発光PCAと生存−選択PCAとを組み合わせたデュアルPCA
PCAは、本発明のように、別々のプラスミド上に構築することができるが、図17に示したように、1つまたは1つ以上の多シストロン性ベクターをPCAと組み合わせて用いることもできる。この例によって、我々は、HTSもしくはHCSアッセイの構築が安定細胞株の作製に関連づけられる「デュアルPCA」を提供する。例えば、ロイシン・ジッパー誘導性(leucine zipper−directed)DHFR PCAを含む安定細胞株を作製するのに相補性の2シストロン性ベクターを用い、この場合、この細胞株は蛍光もしくは発光PCAをも含み、この蛍光もしくは発光シグナルは2つの対象蛋白質の相互作用により駆動される。
【0181】
2シストロン性ベクターは、選択マーカのような、あるポリペプチドの発現を別のポリペプチドの発現に関連づける能力があるIRES(内部リボソーム侵入配列)を含む。2シストロン性ベクターを作製することにより、単一のポリペプチドをコードする遺伝子および単一mRNAとして2種の蛋白質に翻訳されるDHFR遺伝子を発現することが可能になった(デービス・MV(Davies MV)、カウフマン・RJ(Kaufman RJ)、1992年、「脳心筋炎ウイルス・リーダー内の開始コドンの配列情報は内部翻訳開始の効率を調節する。(The sequence context of the initiation codon in the encephalomyocarditis virus leader modulates efficiency of internal translation initiation.)」ジャーナル・オブ・バイロロジー(J. Virol.)66:p1924−1932)。このDHFR遺伝子および単一mRNAとしての上記組換え遺伝子を発現させることにより、両遺伝子のメソトレキサート増幅が高まり、対象分子の産生が大きく増大する。
【0182】
図17に示したように、我々は、2つの2シストロン性ベクターを組み合わせることにより、HTSもしくはHCSアッセイの構築および安定細胞株の迅速で本質的な選択を可能にするデュアルPCAを構築した。それぞれが蛍光もしくは発光PCAの半分と生存−選択PCAの半分を有する2つの相補性2シストロン性ベクターを構築する。示した例では、我々は、本発明に基づく蛍光もしくは発光PCAと、活性DHFRのロイシン・ジッパー誘導性再構築による安定細胞株の迅速な選択を可能にするこれまでに報告されているDHFR PCA(ペルティエ・J.N.(Pelletier, J.N.)、C.−ヴァロワ・F.−X.(C.-Valois, F.-X.)、ミフニク・S.W.(Michnick, S.W.)、1998年、「合理的にデザインした断片からの活性ジヒドロ葉酸還元酵素のオリゴマー形成ドメイン誘導性再構築(Oligomerization domain-directed reassembly of active dihydrofolate reductase from rationally-designed fragments)」、プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ(Pro. Natl. Acad Sci)USA、98:p7678−7683)。HTS−もしくはHCS−適合性PCAの各半分の発現を、生存−選択PCAの半分の発現と結びつけることによって、細胞が選択圧の下に生存すれば、得られる細胞株はHTSもしくはHCSアッセイを含むPCAペアが陽性であることになる。
【0183】
図17に示したように、プロモータは、光学的に検出可能なレポータの各F1およびF2断片に動作可能なように結合した対象遺伝子を含む第1のPCAの発現を駆動するが、これら2つのベクターのそれぞれのIRESは第2のPCAの2つの半分をコードし、後者は(本発明の実施例9で使用したDHFRの断片のような)選択マーカの各F1およびF2断片に動作可能なように結合した(本発明の実施例2で使用した構造的に二量体化するGCN4ロイシン・ジッパーのような)2つのオリゴマー形成ドメインを含む。これら2つの2シストロン性ベクターを細胞内にコトランスフェクションした後、前記DHFR PCAについてこれまでに報告したように選択圧をかけることによって、この第2のPCAペアの共発現により第1のPCAペアをも共発現する細胞の選択が可能になる。細胞は、両断片が発現され、DHFRがロイシン・ジッパー誘導性相補により再構成される場合にのみこの細胞が生存する、これまでに我々が説明した条件下で増殖させる。従って、安定細胞株は、HTSもしくはHCS用のPCAを用いて自動的に作製することができる。このデュアルPCAは、抗生物質による選択を必要としないで安定細胞株を作製する有効な手段となり、多くのスクリーニング用途のための安定細胞株の確立を迅速化することになろう。
【0184】
プロモータの選択。本発明では、本明細書に示したいくつかの例で用いたCNVプロモータなどの構成的な(constitutive)プロモータを使用することができる。しかしながら、本発明と共に用いるには別のベクターおよびプロモータ系統が適しており、以下では特に、経路特異的および/または細胞特異的プロモータに関して説明する。
【0185】
個々の相補性の断片−融合体ペアは、誘導性プロモータの制御下に置くことができる。このような系では、これら2つの相補性の断片融合体を作動させ、発現レベルをこの誘導因子を用いた用量依存性の発現によって制御することができる。誘導性プロモータとしては、市販のもの(例えば、Tetもしくはエクジソン(Ecdysone)反応性エレメント)を用いることができる。
【0186】
また、本発明は、PCAとの組み合わせによるシス作用エレメントの新規な使用を提供する。誘導性プロモータをPCAと組み合わせることによって、PCA反応がシグナル伝達経路に対する薬物の作用により増強もしくは減弱するシステムが得られる。本発明のこの実施態様では、PCA断片コーディング配列に動作可能なように結合させた完全長のヒト遺伝子を真核生物の発現ベクター中にクローニングする。この融合蛋白質の発現は、この融合体によりコードされているヒト遺伝子の転写調節エレメント、もしくは別のシス作用調節エレメントによって制御する。これらのアッセイでは、(PCA成分を介する)蛋白質の活性と転写レベル(転写制御エレメント)で調節される蛋白質の濃度とが同時に捕捉される。
【0187】
本発明のこの態様の詳細は以下の通りである。多くのシグナル伝達事象(およびその構成要素である薬物標的)は、蛋白質コーディング情報の転写調節、翻訳調節、(リン酸化、脱リン酸化、アセチル化およびアロステリック制御を含む)蛋白質活性ならびに蛋白質の安定性および半減期を含む複数の段階で制御されている。調節されたプロモータの制御の下にPCAを発現させると、PCAアッセイの予測的な経路マッピング能と比較的オーソドックスな転写レポータ遺伝子アッセイにより特徴付けられる遺伝子調節を定量化する能力とが組み合わされる。この両タイプの情報の同時捕捉により、細胞活性の総合的なリアルタイムの評価が容易になる。
【0188】
転写調節エレメントの例としては、サイクリンD1その他のサイクリンなどの細胞周期制御蛋白質、ポロ様キナーゼ(PLK)などの細胞周期進行過程で制御されるキナーゼおよびホスファターゼが挙げられる。C−Fos、c−Myc、EGR−1、c−Jun、JunB、ATF−2、CREBなどの転写因子は、転写レベルで部分的に制御される。その他の例としては、(マトリックス金属蛋白分解酵素、EGF、TGF−ベータおよびこれらの受容体などの)サイトカインおよび成長因子誘導性蛋白質、ストレス−もしくは毒性−誘発性蛋白質(例えば、熱ショック蛋白質、ATF−3)、ならびに急性期蛋白質(例えば、ベータ2−マクログロブリンおよびトランスフェリン)が挙げられる。いずれの場合にも、その遺伝子の完全長のプロモータおよびエンハンサ配列を用いてPCA融合蛋白質の発現を誘導することができる。プロモータおよびエンハンサのシス作用エレメントは、トランス作用転写因子に対する複数の連続的な重複結合部位からなることが明らかにされている。一般に、これらの部位がその同族(cognate)mRNAの転写を誘導する作用は、結合部位の配向(orientation)および転写開始部位からの距離とは無関係であると考えられている。多くの研究は、これらのシス作用エレメントを切断する(dissect)ことにより個々の転写因子結合部位を同定することができることを明らかにしている。さらに、これらの部位を遺伝子発現ベクター中に導入することによって、発現される遺伝子の活性が、単離された部位に結合する転写因子の量および活性により決まるようにすることができる。最終的に、これらの個々の転写因子結合部位を多量体化することによって、特定の刺激に対する反応として転写によるこの遺伝子の発現の誘導を増強することができる。特定の刺激もしくは経路の賦活化に対する反応を最適化するための単一および多量体化転写反応エレメントの設計の例については、(ウェストウィックほか(Westwick et al.)、1997年、および本明細書に記載の文献)に示されている。単一体であれ多量体であれ、部分的もしくは完全長のプロモータ・エンハンサー配列、または別個のシス作用エレメントを利用することによってPCA融合体の発現を誘導することができる。
【0189】
前記TNF経路に対する誘導性プロモータの使用例は以下の通りである。前記IkBa遺伝子をPCAレポータ断片コーディング配列にインフレームで融合させる。得られたIkBa融合体は、主としてNFkB依存性シグナルにより制御されているIkBaプロモータの制御下に発現させる。この構築体(もしくは同族の作製(engineered)細胞株)を、転写因子p65などのIkBaの結合パートナをコードするベクターでコトランスフェクションする。NFkB経路の賦活をもたらす細胞刺激を行うと、IkBa−PCA融合蛋白質の発現はこの融合体の転写誘導により増強される。さらに、IkBaおよびp65 PCA融合体の翻訳後調節については、そのPCAシグナルの強度および細胞内局在により評価することができる。図11乃至14から明らかなように、NFkB経路の賦活化は、結果として、IkBaの分解(図14)およびこの複合体のp65成分の核転位(図11乃至13)をもたらす。この経路の転写および転写後調節の相互作用により、細胞内にIkBa蛋白質レベル(および活性)の周期が生じる。従って、誘導性プロモータ−PCAアッセイを用いることにより、TNF経路の複雑な生物学および類似の複雑な生体系を評価することができる。
【0190】
あるいは、PCAアッセイの相互作用するペアが発現時に構造性の活性(例えば、蛍光もしくは発光)を生じる任意の誘導性プロモータの制御を受ける遺伝子−断片融合体を構築することができる。PCAは、両プロモータが活性である場合にのみ行うことになる。これは、1つもしくは2つの遺伝子調節性シス作用エレメントの転写活性に対する生細胞利用の感度の良いリアルタイムのアッセイ法となる。核PCAエレメントを別のプロモータに融合させることによって、アッセイは、両プロモータが対象細胞内で活性である場合にのみ、陽性シグナルを生じることになる。
【0191】
「汎用(Universal)」ベクター。ひとたび発現ベクター、リンカーの長さ、レポータ断片およびプロモータを選択すれば、PCA用の対象遺伝子もしくはライブラリを迅速かつ容易にサブクローニングするためのベクターを構築することができる。手短に言えば、所与のレポータに対して、グリシンおよびセリン残基からなる可変リンカーにインフレームで融合させた(F1およびF2として示した)対象レポータ断片をコードする4種の汎用ベクターを作製することができる。次いで、対象遺伝子を上記レポータに、例えば、リンカーの唯一の制限部位を介してこの遺伝子の5’もしくは3’末端で融合させることにより、図1aおよび図16に示したような4種の可能な融合蛋白質を作製する。あるいは、本発明に好適なベクターの構築は、任意の適切な組換え方法、例えば、インビトロゲン社から販売されているゲートウェイ(Gateway)システムを用いて達成することができ、別の迅速クローニング・システムも本発明に適合する。
【0192】
文献
以下の特許および刊行物の引用文献を含む内容は全文引用により組み込まれている。
【0193】
第6,270,964号 ミフニクほか(Michnick, et al.)
第6,294,330号 ミフニクほか(Michnick, et al.)
第6,428,951号 ミフニクほか(Michnick, et al.)
第5,989,835号 ダンレイほか(Dunlay, et al.)
第6,518,021号 タストラップほか(Thastrup, et al.)
第5,583,217号 クワンテほか(Quante et al.)
第5,516,902号 クワンテほか(Quante et al.)
第5,514,561号 クワンテほか(Quante et al.)
第5,338,843号 クワンテほか(Quante et al.)
刊行物
ペルティエ・J.N.(Pelletier, J.N.)、レミー・I.(Remy, I)、ミフニク・S.W.(Michnick, S.W.)(1998年).「蛋白質−断片の相補性アッセイ:蛋白質−蛋白質相互作用のインビボ検出の一般的方法(Protein-Fragment Complementation Assays: a General Strategy for the in vivo Detection of Protein-Protein Interactions.)」ジャーナル・オブ・バイオモレキュラー・テクニークス(Journal of Biomolecular Techniques)、10:p32−39.
レミー・I.(Remy, I)、ミフニク・S.W.(Michnick, S.W.)(1998年).「クローン選択および蛋白質断片の相補性アッセイによる蛋白質相互作用のインビボ定量化(Clonal Selection and In Vivo Quantitation of Protein Interactions with Protein Fragment Complementation Assays)」プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ(Pro. Natl. Acad Sci)USA、96:p5394−5399.
レミー・I.(Remy, I)、ペルティエ・J.N.(Pelletier, J.N.)、ガラニュウ・A.( Galarneau, A.)、ミフニク・S.W.(Michnick, S.W.)(2002年)「蛋白質断片相補法による蛋白質相互作用およびライブラリ・スクリーニング(Protein Interactions and Library Screening with Protein Fragment Complementation Strategies)」プロテイン−プロテイン・インタラクションズ:ア・モレキュラー・クローニング・マニュアル(Protein-protein interactions: A molecular cloning manual)、E.A.ゴレミス(E.A. Golemis)編、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリ・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、第25章、25:p449−475.
レミー・I.(Remy, I)、ウイルソン・I.A.(Wilson, I.A.)、ミフニク・S.W.(Michnick, S.W.)(1999年)「リガンド誘発性構造変化によるエリスロポエチン受容体の賦活化(Erythropoietin receptor activation by a ligand-induced conformation change)」、サイエンス(Science)、283:p990−993.
ガラニュウ・A.(Galarneau, A.)、プリミュー・M.(Primeau, M.)、トルドー・L.−E.( Trudeau, L.-E.)、ミフニク・S.W.(Michnick, S.W.)(2002年)「蛋白質−蛋白質相互作用の検出のためのTEM1β−ラクタマーゼを用いた蛋白質断片の相補性アッセイ(A Protein fragment Complementation Assay based on TEM 1 13-lactamase for detection of protein-protein interactions)」ネイチャー・バイオテクノロジー(Nat Biotechnol)、20:p619−622.
ミフニク・S.W.(Michnick, S.W.)、レミー・I.(Remy, I)、C.−ヴァロワ・F.−X.(C.-Valois, F.-X.)、ヴァリー-ベリスル・A.(Vallee-Belisle, A.)、ガラニュウ・A.(Galarneau, A.)、ペルティエ・J.N.(Pelletier, J.N.)(2000年)「蛋白質断片相補法による蛋白質−蛋白質相互作用の検出(Detection of Protein-Protein Interactions by Protein Fragment Complementation Strategies)」パートAおよびB(ジョンN.アベルソン(John N. Abelson)、スコットDエムール(Scott D Emr)、ジェレミー・ソーナー(Jeremy Thorner)編)ア・ボリューム・オブ・メソッズ・イン・エンザイモロジー(A Volume of Methods in Enzymology)328:p208−230.
レミー・I.(Remy, I)、ミフニク・S.W.(Michnick, S.W.)(2001年)「生細胞における生化学的ネットワークの視覚化(Visualization of Biochemical Networks in Living Cells)」プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ(Pro. Natl. Acad Sci)USA、98:p7678−7683.
シュミット・J.A.ほか(Schmid, J.A., et al.)(2000年)「緑色蛍光蛋白質(GFP)融合蛋白質を用いたNFカッパBおよびIカッパBアルファの動態に関する検討(Dynamics of NFkappaB and IkappaBalpha studied with green fluorescent protein (GFP) fusion proteins)」ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)275(22):p17035−17042.
本明細書に開示した本発明の多くの形態はここでは好ましい実施態様を構成するが、他の多くの実施態様も可能であり、さらに、これらの好ましい実施態様および他の可能な実施態様の細部は限定的なものと見なされるべきではない。本明細書に用いた用語が限定的なものではなく単に記述的なものであること、および特許請求した本発明の精神もしくは範囲から逸脱することなく種々の変更および均等範囲に属する多くの変形を行い得ることは、理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0194】
【図1】PCAを用いたハイスループットもしくはハイコンテント・アッセイの構築。
【図2】DNA損傷応答経路、ならびにChk1/p53およびp53/p53相互作用に対するベータ−ラクタマーゼPCA(BLA PCA)利用のハイスループット・アッセイおよびGFP(GFP PCA)利用のハイコンテント・アッセイ。CPT=カンプトセシン
【図3A】Renillaルシフェラーゼを用いたHTSの発光PCA(RLuc PCA)。
【図3B】RLuc PCAにおけるカンプトセシンによるp53/p53相互作用の誘導。
【図4】IFP PCA利用の蛍光ハイコンテント・アッセイ。細胞画像は、CPTの非存在下および存在下のp53/p53相互作用に対するゲルダナマイシンの阻害作用およびトリコスタチンAの増強作用を示す。棒グラフは、細胞の核内の平均蛍光に対する各種既知薬剤の影響を示す。棒グラフの説明:1=ビヒクル(DMSO);2=カンプトセシン(500nM CPT);3=ゲニステイン(12.5μM);4=トリコスタチンA(0.5μM);5=MS−275(10μM);6=LY294002(25μM);7=SB 203580(25μM);8=HA 14−1(2μM);9=ゲルダナマイシン(2.5μM)。
【図5A】GFP PCAを用いたcDNAライブラリ・スクリーニングにより同定されたPKBとhFt1との新規相互作用を含む、PI−3−キナーゼおよびPKA/PKC−媒介性経路の構成。
【図5B】蛍光分光検出法を用いてGFP PCAにより検出した、生細胞内のPKB/hFt1およびhFt1/PDK1複合体の量および細胞内局在に対する活性剤および阻害剤の影響。1=COS−1細胞;2=Jurkat細胞;3=内部にPCAを有するCOS−1細胞の画像。GCN4/GCN4ロイシン・ジッパーの二量体化を対照として用いた。
【図6】(A)FRAP(FKBP−ラパマイシン−結合性蛋白質);(B)FKBPとmTOR(mTORは、FRAPのマウス相当物である)との相互作用に対する薬物ラパマイシンの効果の視覚化を可能にするYFP PCA;(C)ハイスループット・アッセイにおけるラパマイシンの用量−反応曲線。
【図7A】YFP PCAによる遺伝子毎の相互作用マッピングを行って蛋白質−蛋白質相互作用を同定した96−穴プレート・アッセイの定量結果。アッセイ結果は蛍光分光法により読み取った。
【図7B】陽性PCA対照、陰性対照および新規相互作用の拡大画像を含む、図7Aのハイスループット相互作用マッピング・アッセイからのウェルの走査画像。蛋白質−蛋白質複合体の細胞内局在を見ることができる。画像は自動顕微鏡により獲得した。
【図8】IKK(I−カッパ−B−キナーゼ)複合体;TNF刺激時に核へ再局在するNF−カッパ−B(NFkB)転写因子複合体(p65/p50);細胞質I−カッパ−B−アルファ(IkBa)/NFkB複合体;およびALLNなどのプロテアソーム阻害剤によるNFkBシグナル伝達の阻害を含む、TNF受容体から細胞核に至る経路の構成。
【図9】正確な細胞内局在を示し、任意の蛋白質に対して多色PCAを構築することができることを示す、TNF経路内の多数の蛋白質−蛋白質複合体の蛍光PCA。受容体から核まで、膜、細胞基質および核の複合体が示されている。
【図10】TNFへの反応による蛋白質−蛋白質複合体の再分布およびプロテアソーム阻害剤ALLNによるTNF反応の阻害を示す、一過性トランスフェクション細胞内のNFカッパB(NFkB、p65/p50)に対するハイコンテントPCAの結果。
【図11】「内部にPCA」を有する2種の安定細胞株。A、B:TNFによるp65/p50の核への転位の誘導;C、D:対照(MEK/ERK)細胞株に対するTNFの無影響;E、F:個々の断片が蛍光を発しないことを示す、単一PCA構築物(p65−F[2])におけるシグナルの欠如。
【図12A】図11に示した安定PCA細胞株におけるNFkB(p65/p50)の核転位誘導のTNF用量−反応曲線および経時変化。
【図12B】図11に示した安定PCA細胞株におけるプロテアソーム阻害剤ALLNによるTNF反応の阻害。
【図12C】化学物質ライブラリのハイコンテント・スクリーニングのための図11からの安定PCA細胞株の別の使用。
【図12D】図12Cに示した化学物質ライブラリ・スクリーニングからの「ヒット」の定量的用量−反応曲線。
【図13A】DHFR PCAに基づく赤色蛍光シグナルを生じる、生細胞におけるNFkB転位の別のハイコンテントPCA。
【図13B】DHFR PCAを用いることによりプロテアソーム阻害剤ALLNによるNFkBの核転位の阻害を検出することもできること。
【図14】TNFシグナル伝達経路の別の標識(sentinel)(IkBa/p65)に対する、安定細胞株を用いた定量的蛍光ハイスループットPCA。画像は、TNFへの反応によるシグナルの減少、およびこの作用のプロテアソーム阻害剤ALLNによるブロックを示す。パネルA:IkBa/p65 PCAのTNF用量−反応;パネルB:IkBa/p65 PCAに対するTNF作用の経時変化。
【図15】プロテアソーム阻害剤ALLNがTNFの存在下にユビキチン−IkBa複合体の蓄積を増大させることを示す、PCAによるユビキチン−蛋白質複合体の検出および定量。
【図16】本発明に適切なPCAベクターの例を示すためのベクター構築の概要。
【図17】HTSもしくはHCSアッセイの構築が安定細胞株の作製に結びつけられる「デュアルPCA」。例えば、ロイシン・ジッパー誘導性DHFR PCAを含む安定細胞株を作製するのに相補性の2シストロン性ベクターを用い、この場合、この細胞株は蛍光もしくは発光PCAをも含み、この蛍光もしくは発光シグナルは2つの対象蛋白質の相互作用により駆動される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬の発見のための方法であって、
(A)1つまたは1つ以上の蛋白質−断片の相補性アッセイ(protein-fragment complementation assay:PCA)を構築する工程と、
(B)前記アッセイの活性に対する化合物の効果を調べる工程と、
(C)前記アッセイの結果を用いて、所望の活性を有する化合物を同定する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
化合物をスクリーニングする方法であって、
(A)細胞経路の1つまたは1つ以上の段階について蛋白質−断片の相補性アッセイを構築する工程と、
(B)前記アッセイの活性に対する前記化合物の効果を調べる工程と、
(C)スクリーニングの結果を用いて、対象細胞経路を賦活するもしくは阻害する化合物を同定する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
化合物をスクリーニングする方法であって、
(A)化学物質のライブラリを選択する工程と、
(B)1つまたは1つ以上の蛋白質−断片の相補性アッセイを構築する工程と、
(C)前記ライブラリから前記アッセイに対する化合物の効果を調べる工程と、
(D)スクリーニングの結果を用いて、前記アッセイで発生するシグナルを増強もしくは低減させる特定の化合物を同定する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
化合物をスクリーニングする方法であって、
(A)化学物質のライブラリを選択する工程と、
(B)1つまたは1つ以上の蛋白質−断片の相補性アッセイを構築する工程と、
(C)前記ライブラリから前記アッセイに対する化合物の効果を調べる工程と、
(D)スクリーニングの結果を用いて、前記アッセイで発生するシグナルの細胞内部位(subcellular location)を変える特定の化合物を同定する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
アッセイを構築する方法であって、
(a)相互作用する蛋白質をコードする遺伝子を選択する工程と、
(b)適切なレポータ分子を選択する工程と、
(c)前記レポータ分子を断片化することにより、前記断片化がレポータ機能を可逆的に欠損させる工程と、
(d)前記レポータ分子の各断片を他の分子にそれぞれ融合もしくは結合させる工程と、
(e)前記断片に融合もしくは結合した分子同士の相互作用によって前記レポータ断片を再結合させる工程と、
(f)自動計測により前記レポータ分子の活性を測定する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
前記レポータ分子が酵素、蛍光蛋白質、発光蛋白質、リン光性蛋白質、単量体蛋白質、抗原もしくは抗体からなる群から選ばれることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記レポータ断片がオリゴヌクレオチド合成、完全な状態のレポータ分子の断片化、もしくは鋳型のDNA増幅によって作製されることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
光学的に検出可能なシグナルが前記アッセイで発生することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記アッセイで発生した前記シグナルが、蛍光、バイオルミネセンス、化学発光もしくはリン光であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記アッセイが、マルチウェルフォーマット、マイクロタイター・プレート、マルチスポットフォーマットもしくはアレイを用いて実施されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記アッセイが、蛍光分光法、発光分光法、蛍光励起細胞分析法、螢光励起細胞分離法、自動化されたの顕微鏡法、もしくは、自動化されたイメージング法(automated imaging)により実施されることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記アッセイが、生細胞、固定細胞、もしくは、細胞溶解液を用いて実施されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記PCAのレポータ断片に融合した分子が、(a)cDNAライブラリ・スクリーニング、(b)相互作用マッピング、および、(C)ペアの蛋白質間の相互作用の存在に関する予備知識、からなる群から選ばれる方法によって同定されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記アッセイのシグナルの細胞内分布、および/または、前記アッセイのシグナルの強度が測定されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記レポータ分子が、ジヒドロ葉酸還元酵素、ベータ・ラクタマーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光蛋白質もしくは黄色蛍光蛋白質であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項16】
前記化合物が、合成分子、既知薬物、天然物、ペプチド、核酸、抗体および小型干渉性RNA(small interfering RNA)からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項17】
薬の発見のための蛋白質−断片の相補性アッセイであって、レポータ分子の別個の断片の再構築を含み、前記レポータ分子の断片の再構築によって光学的に検出可能なシグナルが発生することを特徴とするアッセイ。
【請求項18】
薬の発見のための蛋白質−断片の相補性アッセイであって、前記アッセイのシグナルが自動化された計測により検出されることを特徴とするアッセイ。
【請求項19】
前記レポータ分子が、酵素、蛍光蛋白質、発光蛋白質、リン光性蛋白質、単量体蛋白質、抗原、もしくは、抗体、からなる群から選ばれることを特徴とする請求項17に記載のアッセイ。
【請求項20】
前記アッセイのシグナルが、蛍光、バイオルミネセンス、化学発光、もしくは、リン光であることを特徴とする請求項17もしくは請求項18に記載のアッセイ。
【請求項21】
マルチウェルフォーマット、マイクロタイター・プレート、マルチスポットフォーマットもしくはアレイを用いて実施されることを特徴とする請求項17に記載のアッセイ。
【請求項22】
蛍光分光法、発光分光法、蛍光励起細胞分析法、螢光励起細胞分離法、自動化された顕微鏡法、もしくは、自動化されたイメージング法により実施されることを特徴とする請求項17に記載のアッセイ。
【請求項23】
前記アッセイが、生細胞、固定細胞、もしくは、細胞溶解液を用いて実施されることを特徴とする請求項17に記載のアッセイ。
【請求項24】
前記アッセイのシグナルの細胞内分布、および/または、前記アッセイのシグナルの強度が測定されることを特徴とする請求項17に記載のアッセイ。
【請求項25】
前記レポータ分子が、ジヒドロ葉酸還元酵素、ベータ・ラクタマーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光蛋白質、もしくは、黄色蛍光蛋白質であることを特徴とする請求項17に記載のアッセイ。
【請求項26】
薬の発見のためのアッセイ組成物であって、第1レポータ分子の複数の相補性の断片を含む、前記相補性の断片同士が結合したときに検出可能な活性を発現し、各断片が別の分子に融合されていることを特徴とするアッセイ組成物。
【請求項27】
薬の発見のためのアッセイ組成物であって、
(a)1)断片同士が結合したときに検出可能な活性を発現する第1レポータ分子の第1断片と、
2)前記第1断片と融合している第2分子と、
を含む第1の融合産物と、
(b)1)前記第1レポータ分子の第2断片と、
2)前記第2断片に融合している第3分子と、
を含む第2の融合産物と、
(c)(a)および(b)の2つの融合産物と、
からなる群から選ばれる産物を含むことを特徴とするアッセイ組成物。
【請求項28】
薬の発見のためのアッセイ組成物であって、
(a)1)断片同士が結合したときに検出可能な活性を発現する第1レポータ分子の第1断片と、
2)前記第1断片と融合している第2分子と、
を含む第1の融合産物と、
(b)1)前記第1レポータ分子の第2断片と、
2)前記第2断片に融合している第3分子と、
を含む第2の融合産物と、
(c)(a)および(b)の2つの融合産物と、
からなる群から選ばれる産物を含むことを特徴とするアッセイ組成物。
【請求項29】
薬の発見のためのアッセイ組成物であって、
レポータ断片の融合産物をコードしている核酸分子を含み、
前記核酸分子が、
(a)1)断片同士が結合したときに検出可能な活性を発現する第1レポータ分子の複数の断片と、
2)前記第1レポータ分子の断片と融合している第2分子と、
を含む第1レポータ融合産物と、
(b)1)前記第1レポータ分子の第2断片と、
2)第2もしくは第3分子と、
を含む第2の融合産物と、
(c)(a)および(b)の2つの融合産物と、
からなる群から選ばれる産物をコードしている配列を含む、
ことを特徴とするアッセイ組成物。
【請求項30】
薬の発見のためのアッセイ組成物であって、
(a)1)断片同士が結合したときに検出可能な活性を発現する第1レポータ分子の第1断片と、
2)前記第1断片と融合している第2分子と、
を含む第1の融合産物と、
(b)1)前記第1レポータ分子の第2断片と、
2)前記第2断片に融合している第3分子と、
を含む第2の融合産物と、
(c)1)断片同士が結合したときに検出可能な活性を発現する第2レポータ分子の第1断片と、
2)前記第1断片と融合している第4分子と、
を含む第3の融合産物と、
(d)1)前記第2レポータ分子の第2断片と、
2)前記第2断片に融合している第5分子と、
を含む第4の融合産物と、
(e)(a)、(b)、(c)および(d)の融合産物の組み合わせと、
からなる群から選ばれる産物を含むことを特徴とするアッセイ組成物。
【請求項31】
薬の発見のためのアッセイ組成物であって、
レポータ断片融合産物をコードしている核酸分子を含み、
前記核酸分子が、
(a)1)断片同士が結合したときに検出可能な活性を発現する第1レポータ分子の断片と、
2)前記第1レポータ分子の断片と融合している第2分子と、
を含む第1レポータ融合産物と、
(b)1)断片同士が結合したときに検出可能な活性を発現する第2レポータ分子の断片と、
2)前記第2レポータ分子の前記断片と融合している第3分子と、
を含む第2の融合産物と、
(c)(a)および(b)の2つの融合産物と、
からなる群から選ばれる産物をコードしている配列を含むことを特徴とするアッセイ組成物。
【請求項32】
薬の発見のためのアッセイ組成物であって、レポータ断片に動作可能に結合した少なくとも1つの対象分子を含む発現ベクターを有することを特徴とするアッセイ組成物。
【請求項33】
薬の発見のためのアッセイ組成物であって、
(a)構成的なもしくは誘導性プロモータと、
(b)レポータ断片に動作可能に結合した対象遺伝子(gene of interest)と、を含む発現ベクターを有することを特徴とするアッセイ組成物。
【請求項34】
薬の発見のためのアッセイ組成物であって、
(a)第1レポータの断片に動作可能に結合した第1の対象分子と、
(b)第2レポータの断片に動作可能に結合した第2分子と、を含む少なくとも1つの発現ベクターを有することを特徴とするアッセイ組成物。
【請求項35】
1つまたは1つ以上のレポータ断片が、蛍光蛋白質、生物発光蛋白質、化学発光蛋白質、リン光性蛋白質、酵素、単量体蛋白質、抗体、および、抗原からなる群から誘導されることを特徴とする請求項26に記載のアッセイ組成物。
【請求項36】
レポータ断片に融合する分子のうちの少なくとも1つが、受容体、腫瘍抑制遺伝子、キナーゼ、キナーゼ基質、腫瘍遺伝子、アダプタ蛋白質、ユビキチン様分子、および、転写因子からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1、17もしくは26のうちのいずれか1項による方法、アッセイもしくは組成物。
【請求項37】
レポータ断片に融合する分子のうちの少なくとも1つが、p53、Chkl、ATR、ATM、Rad 51、PDK2、STAT1、FKBP、FRAP、p70S6キナーゼ、S6蛋白質、4E−BP1、PPP2A、TNFR、TRADD、FADD、NFカッパBのp65サブユニット、NFカッパBのp50サブユニット、CBP、TRAF2、ユビキチン、IKK−ベータ、IKK−ガンマ、IカッパBアルファ、MEK、ERK、PI−3−キナーゼ、PKB、Ft1、GCN4、PDK1、GSK3、NF−AT、および、カルシニューリン、ならびに、これらのドメイン、断片、もしくは、相同物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1、17もしくは26のうちのいずれか1項による方法、アッセイ、もしくは、アッセイ組成物。
【請求項38】
前記経路が、DNA損傷応答経路、受容体チロシンキナーゼ経路、サイトカイン依存性経路、栄養素活性化経路、プロテアソーム経路、成長因子依存性経路、マイトジェン活性化経路、ホルモン依存性経路、熱ショック蛋白質経路、ユビキチン経路、細胞周期経路、T細胞経路、もしくは、アポトーシス経路であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項39】
前記アッセイが、受容体アゴニスト、受容体アンタゴニスト、キナーゼ阻害剤、ホスファターゼ阻害剤、細胞周期阻害剤、熱ショック蛋白質阻害剤、E3リガーゼ阻害剤、転写因子阻害剤、蛋白質−蛋白質相互作用阻害剤もしくはプロテアソーム阻害剤をスクリーニングするために用いられるることを特徴とする請求項1、17もしくは26のうちのいずれか1項に記載の方法、アッセイ、もしくは、アッセイ組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2006−518853(P2006−518853A)
【公表日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502989(P2006−502989)
【出願日】平成16年2月6日(2004.2.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/002008
【国際公開番号】WO2004/070351
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(505298364)オデッセイ セラ, インコーポレイテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】ODYSSEY THERA, INC.
【住所又は居所原語表記】4550 Norris Canyon Road, Suite 140, San Ramon, CA 94583 U. S. A.
【Fターム(参考)】