説明

ハイドロゲル粒子

【課題】界面活性剤を含む商品に配合する場合に、ハイドロゲル粒子に内包された香料が粒子外部に可溶化するのを抑制する。
【解決手段】ハイドロゲル粒子は、水性成分のハイドロゲルの連続相内に油性成分の分散相が分散している。水性成分は(A)成分:熱可逆的にゾル−ゲル転移を生じるゲル化剤、(B)成分:界面活性剤、及び(C)成分:水を含むと共に、油性成分は(D)成分:融点40℃以上の炭化水素、及び(E)成分:香料を含む。油性成分における(D)成分の(E)成分に対する含有質量比率は1/20〜7.5/20である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイドロゲル粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可逆的にゾル−ゲル転移を生じるゲル化剤を用いると共に、界面活性剤によって固体脂と香料とを乳化・分散させた分散液からハイドロゲル粒子を製造する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、寒天溶液中にPOE(60)硬化ヒマシ油のような界面活性剤によってセバシン酸ジオクチルと香料とを含む内油相を混合分散させてO/Wエマルジョンを調製し、それを外油相に添加してO/W/Oエマルジョンを調製した後に冷却固化させるハイドロゲル粒子の製造方法が開示されている。また、同文献には、ハイドロゲル粒子内の内油相の香料が外油相に漏れないようにするために、内油相と外油相との間に極性差を持たせることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−96146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、香料を内包したハイドロゲル粒子を、洗剤、歯磨き剤、ボディーソープ、シャンプーなどのような界面活性剤を含む商品に配合する場合、界面活性剤により香料が粒子外部に可溶化されてしまうという問題がある。
【0006】
本発明の課題は、界面活性剤を含む商品に配合する場合に、ハイドロゲル粒子に内包された香料が粒子外部に可溶化するのを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水性成分のハイドロゲルの連続相と該連続相内に分散した油性成分の分散相とを有するハイドロゲル粒子であって、上記水性成分は(A)成分:熱可逆的にゾル−ゲル転移を生じるゲル化剤、(B)成分:界面活性剤、及び(C)成分:水を含むと共に、上記油性成分は(D)成分:融点40℃以上の炭化水素、及び(E)成分:香料を含み、上記油性成分における上記(D)成分の上記(E)成分に対する含有質量比率((D)成分の含有質量/(E)成分の含有質量)が1/20〜7.5/20である。
【0008】
本発明は、(A)成分:熱可逆的にゾル−ゲル転移を生じるゲル化剤、(B)成分:界面活性剤、及び(C)成分:水を含む水性成分溶液と、(D)成分:融点40℃以上の炭化水素、及び(E)成分:香料を、該(D)成分の該(E)成分に対する含有質量比率が1/20〜7.5/20となるように含む油性成分溶液と、の混合物を、200〜5000kW×分/mの攪拌エネルギーで攪拌処理して分散液を調製する攪拌処理工程を有するハイドロゲル粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、(D)成分である所定の炭化水素の(E)成分である香料に対する含有質量比率が1/20〜7.5/20であるので、界面活性剤を含む商品に配合する場合でも、ハイドロゲル粒子に内包された香料が粒子外部に可溶化するのを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0011】
(ハイドロゲル粒子)
本実施形態に係るハイドロゲル粒子は、水性成分の連続相と油性成分の分散相とを有する。
【0012】
ここで、本出願における「ハイドロゲル粒子」とは、水性成分のハイドロゲルの連続相に油性成分の分散相が分散した1個乃至複数個の粒子であり、内層である芯成分と外層である外皮とが同心状に配されたカプセルはこれには含まれない。また、本出願における「ハイドロゲル」とは、水を溶媒としてゲル化剤から得られたゲルをいう。なお、ハイドロゲル粒子における連続相に分散相が分散した構造は、例えばSEM写真の観察分析により確認することができる。
【0013】
本実施形態に係るハイドロゲル粒子の形状は、特に限定されるものではないが、曲面で構成された回転体の形状であることが好ましい。ここで、「曲面で構成された回転体」とは、仮想軸及び連続的な曲線で構成された閉じた図を仮想軸で回転させたものをいい、三角錐や円柱等の平面を有する形状は含まない。ハイドロゲル粒子の形状は、美観の観点から、球状又は楕円状であることがより好ましい。
【0014】
本実施形態に係るハイドロゲル粒子の平均粒径は5〜10000μmであることが好ましく、30〜3000μmであることがより好ましく、50〜1000μmであることがさらに好ましく、60〜500μmであることがさらにより好ましい。ハイドロゲル粒子の平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば、堀場製作所(株)製、型番:LA−910)を用いたレーザ回折散乱法によって測定することができる。
【0015】
本実施形態に係るハイドロゲル粒子は、水性成分の連続相に対する油性成分の分散相の含有質量割合が水性成分/油性成分=40/60〜95/5であることが好ましく、60/40〜90/10であることがより好ましい。
【0016】
油性成分の分散相の平均粒径は0.01〜20μmであることが好ましく、0.02〜15μmであることがより好ましく、0.03〜10μmであることが更に好ましく、0.03〜3μmであることが更により好ましい。油性成分の平均粒径は、ハイドロゲル粒子を形成する前の分散液について、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば、堀場製作所(株)製、型番:LA−910)を用いたレーザ回折散乱法によって測定することができる。
【0017】
本実施形態に係るハイドロゲル粒子は、連続相を構成する水性成分が(A)成分:ゲル化剤、(B)成分:界面活性剤、及び(C)成分:水を含む。
【0018】
<(A)成分:ゲル化剤>
(A)成分であるゲル化剤は、熱可逆的にゾル−ゲル転移を生じるものである。従って、本実施形態に係るハイドロゲル粒子は非架橋型ハイドロゲル粒子である。ここで、「非架橋型ハイドロゲル」とは、ゲル化が、例えば、カリウムイオンやカルシウムイオン等のイオンと反応して架橋されることによって生じるのではなく、ゲル化剤が寒天である場合のようにゾル−ゲルの熱可逆性によって生じるものをいう。
【0019】
(A)成分としては、例えば、寒天、ゼラチン、ジェランガム等が挙げられる。ゲル化剤は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種で構成されていてもよい。
【0020】
ハイドロゲル粒子中における(A)成分の含有量は、ハイドロゲル粒子の化粧品や歯磨き剤への配合時の壊れを防止する観点から、0.1〜8質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましい。
【0021】
(A)成分は寒天が好ましい。寒天は、水への溶解温度が一般に75℃以上、その主なものについては75〜90℃であり、一方、水に溶解させた後、冷却したときのゲル化温度が30〜45℃である。寒天は、使用時の感触の観点から、ゼリー強度が68.6kPa(700g/cm)以下であることが好ましく、19.6〜63.7kPa(200〜650g/cm)であることがより好ましい。ここで、ゼリー強度は日寒水式法により求められる。具体的には、日寒水式法によれば、ゼリー強度は、ゲル化剤の1.5質量%水溶液を調製し、その水溶液を20℃で15時間放置して凝固せしめたゲルに、日寒水式ゼリー強度測定器((株)木屋製作所製)により荷重をかけ、20℃においてゲルが20秒間その荷重に耐えるときの表面積1cmあたりの最大質量(g)である。
【0022】
<(B)成分>
(B)成分である界面活性剤としては、例えば、非イオン性界面活性剤ではポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられ、陰イオン性界面活性剤ではアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、脂肪酸塩、N-アシルタウリン塩、及びN-アシルアミノ酸塩等が挙げられ、陽イオン性界面活性剤ではアルキルアミンアセテート、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、及びアルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられ、両イオン性界面活性剤ではアルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、及び酵素分解レシチン等が挙げられる。(B)成分は、油性成分の乳化安定性及びゲル強度低下抑制の観点から、陰イオン性界面活性剤であることが好ましく、N-アシルタウリン塩であることがより好ましく、中でもN-ステアロイルメチルタウリンナトリウムであることがさらに好ましい。(B)成分は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種で構成されていてもよい。
【0023】
ハイドロゲル粒子中における(B)成分の含有量は、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましく、0.15〜3質量%であることがさらに好ましい。(B)成分及び(D)成分の分散液中における安定維持の観点から、当該含有量は0.01質量%以上であることが好ましく、寒天のゲル強度低下回避の観点から、当該含有量は10質量%以下であることが好ましい。
【0024】
<(C)成分>
(C)成分である水は、ハイドロゲル粒子中における含有量が40〜95質量%であることが好ましく、60〜90質量%であることがより好ましい。
【0025】
本実施形態に係るハイドロゲル粒子は、分散相を構成する油性成分が(D)成分:炭化水素、及び(E)成分:香料を含む。
【0026】
<(D)成分>
(D)成分である炭化水素は融点が40℃以上のものであり、50℃以上のものであることが好ましく、製造時の溶融の観点から95℃以下のものであることが好ましく、85℃以下のものであることがより好ましい。
【0027】
(D)成分としては、例えば、JISK2235に記載されているパラフィンワックスやマイクロクリスタリンワックス、セレシン、軟ロウ、日本薬局方のパラフィン等が挙げられる。(D)成分は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種で構成されていてもよい。
【0028】
ハイドロゲル粒子中における(D)成分の含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、分散液の増粘抑制の観点から、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
<(E)成分>
(E)成分である香料としては、メントール、カルボン、アネトール、オイゲノール、シネオール、チモール、サリチル酸メチル、プレゴン、メントン、ピネン、リモネン、メンチルアセテート等の合成香料の他、ペパーミント油、スペアミント油、ハッカ油などのミント油;レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライムなどの柑橘油;ユーカリ、セージ、ローズマリー、タイム、ローレル、バジル、シソ、ベイ、エストラゴン、パセリ、セロリ、コリアンダーなどのハーブ油;シナモン、ペッパー、ナツメグ、メース、クローブ、ジンジャー、カルダモン、アニスなどのスパイス油等の天然精油、アップル、バナナ、メロン、グレープ、ピーチ、ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリー、ブラックカラント、ライチ、スターフルーツ、パッションフルーツ、プラム、パイナップル、マスカットなどのフルーツフレーバー等が挙げられる。(E)成分は、メントール、カルボン、ペパーミント油、スペアミント油、ハッカ油、シネオール、オレンジ油、ピネン等の油溶性香料であることが好ましい。(E)成分は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種で構成されていてもよい。
【0030】
ハイドロゲル粒子中における(E)成分の含有量は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。また、分散液の増粘抑制の観点から、50質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
本実施形態に係るハイドロゲル粒子では、(D)成分の(E)成分に対する含有質量比率((D)成分の含有質量/(E)成分の含有質量)が1/20〜7.5/20である。(D)成分の含有質量/(E)成分の含有質量は、保存時のハイドロゲル粒子からの流出(可溶化)を抑える観点から、1/20〜7.5/20であることが好ましく、1.5/20〜7/20であることがより好ましく、2/20〜6.5/20であることがさらに好ましく、2/20〜6/20であることがさらにより好ましい。(D)成分/(E)成分の質量比率を1/20より高くすることで、適度な大きさの炭化水素成分の結晶に香料を保持することができ、ハイドロゲル粒子から香料が流出すること(可溶化すること)を抑えることができる。また(D)成分/(E)成分の質量比率を7.5/20より低くすることで上記と同様の理由から、ハイドロゲル粒子から香料が流出すること(可溶化すること)を抑えることができる。
【0032】
本実施形態に係るハイドロゲル粒子は、さらに(F)成分である固体粒子を含んでいてもよい。(F)成分は連続相に含まれていてもよく、また、分散相に含まれていてもよく、さらに、それらの両方に含まれていてもよい。
【0033】
(F)成分である固体粒子としては、例えば、ハイドロゲル粒子の着色剤、ハイドロゲル粒子を配合した化粧品を肌に使用した際にさらさら感等を向上させる感触向上剤、ハイドロゲル粒子を配合した歯磨き剤を歯磨きに使用した際の研磨作用を向上させる研磨向上剤等が挙げられる。(F)成分の顔料としては、例えば、カーボンブラック、タルク、カオリン、雲母、雲母チタン、酸化鉄(べんがら)、黄酸化鉄、黒酸化鉄、オキシ塩化ビスマス、珪酸マグネシウム、酸化チタン、炭酸カルシウムなどの無機顔料;赤色202号、赤色204号、赤色205号、赤色206号、赤色219号、赤色228号、赤色404号、黄色205号、黄色401号、だいだい色401号、青色404号などの有機顔料が挙げられる。(F)成分の化粧料粉末としては、例えば、タルク、カオリン、セリサイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、無水ケイ酸、酸化チタン、酸化亜鉛、雲母チタン、シリカ、ゼオライト、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、金属石鹸、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末等が挙げられる。(F)成分の天然高分子系粉末としては、例えば、セルロール粉末、キトサン粉末、澱粉粉末、シルク粉末、結晶セルロース粉末等が挙げられる。(F)成分は、単一種で構成されていてもよく、また、複数種で構成されていてもよい。
【0034】
(F)成分は水不溶性であることが好ましい。ここで、「水不溶性」とは、25℃における水への溶解が0.1質量%以下であることをいう。また、(F)成分の粒径は0.05〜50μmであることが好ましい。さらに、(F)成分の水に対する比重は1.1〜8.0であることが好ましい。これらの中で、抑泡の観点より炭酸カルシウムがより好ましい。
【0035】
ハイドロゲル粒子中における(F)成分の含有量は、0.1〜30質量%であることが好ましく、0.5〜10質量%であることがより好ましい。
【0036】
本実施形態に係るハイドロゲル粒子は、上記成分以外にも、水性成分及び/又は油性成分に、必要に応じて、例えば、糖類、多価アルコール、防腐剤、水溶性着色剤、酸化防止剤等を含んでいてもよい。
【0037】
以上の構成の本実施形態に係るハイドロゲル粒子は、洗剤、歯磨き剤、ボディーソープ、シャンプーなどのような界面活性剤を含む商品に配合されるが、(D)成分である所定の炭化水素の(E)成分である香料に対する含有質量比率が1/20〜7.5/20であるので、界面活性剤を含む商品に配合する場合でも、ハイドロゲル粒子に内包された香料が粒子外部に可溶化するのを抑制することができる。
【0038】
(ハイドロゲル粒子の製造方法)
次に、本実施形態に係るハイドロゲル粒子の製造方法について説明する。
【0039】
本実施形態に係るハイドロゲル粒子の製造方法では、まず、(A)成分:熱可逆的にゾル−ゲル転移を生じるゲル化剤、(B)成分:界面活性剤、及び(C)成分:水を含む水性成分溶液、並びに(D)成分:融点40℃以上の炭化水素、及び(E)成分:香料を、(D)成分の(E)成分に対する含有質量比率が1/20〜7.5/20となるように含む油性成分溶液をそれぞれ調製した後、それらの混合物を調製する(混合物調製工程)。
【0040】
次いで、混合物調製工程で調製した混合物を攪拌処理して分散液を調製する(攪拌処理工程)。
【0041】
このとき、攪拌処理で用いる攪拌装置は、特に限定されるものではなく、公知のものが適用可能である。かかる攪拌装置としては、例えば、高い剪断力を発揮できるホモミキサー、ラインミキサー、ディスパー等が挙げられ、これらのうち操作性の観点からホモミキサーを用いることがより好ましい。
【0042】
そして、本実施形態に係るハイドロゲル粒子の製造方法では、混合物を攪拌処理する際に、混合物に対して200〜5000kW×分/mの攪拌エネルギーを与える。この攪拌エネルギーは、230〜4500kW×分/mとすることが好ましく、250〜4200kW×分/mとすることがより好ましい。分散液中での粒子の沈降を抑制し、かつ、ハイドロゲル粒子を水系の媒体に配合した際の油性成分の漏れを防止する観点からは、当該攪拌エネルギーは200kW×分/m以上とすることが好ましく、分散液の安定性を維持して粘度の上昇を抑制し、また、生産時間の長期化を避ける観点から、当該攪拌エネルギーは5000kW×分/m以下とすることが好ましい。
【0043】
ここで、本出願において「攪拌エネルギー」とは、攪拌動力P/V(kW/m)×時間(分)で求められるものであり、詳細な計算式は、特開2007−161683号公報に記載されている。例えば、ホモミキサーを使用したときの攪拌エネルギーの算出式は下記(I)式で示す通りである。
【0044】
攪拌エネルギー(kW×分/m
=〔攪拌動力P(kW)〕/〔処理液体積V(m)〕×攪拌時間(分) (I)
上記式(I)中、攪拌動力P(kW)は、下記の実験式1で算出する。
【0045】
攪拌動力P(kW)=Np×n×d×ρ/1000 (実験式1)
Np:動力数(ホモミキサーの場合、攪拌槽容量が10L未満のホモミキサーではNp=1.5、及び攪拌槽容量が10L以上のホモミキサーではNp=1.3である。)
n:攪拌回転数(−/sec)
d:攪拌翼の直径(m)
ρ:内容物(混合物)の密度(kg/m)。
【0046】
攪拌処理の際の混合物或いは分散液の温度は60〜90℃とすることが好ましい。また、攪拌処理の際の混合物或いは分散液のpHは5.5〜8.5(80℃)であることが好ましい。
【0047】
続いて、攪拌処理工程で調製した分散液を一般的な滴下法、噴霧法、或いは攪拌法により液滴を形成させた後、当該液滴を冷却固化してハイドロゲル粒子とする(粒子化工程)。
【0048】
滴下法は、孔から分散液を吐出させ、吐出された分散液がその表面張力又は界面張力によって液滴になる性質を利用し、その液滴を空気等の気相中又は液相中で冷却固化してハイドロゲル粒子を形成する方法である。なお、粒径の均一なハイドロゲル粒子を形成する観点から、孔から吐出される分散液に振動を与えることが好ましい。
【0049】
噴霧法は、噴霧ノズルを用い、噴霧ノズルから分散液を気相に吐出(噴霧)させると共に、その表面張力によって液滴を形成させ、その液滴を気相で冷却固化してハイドロゲル粒子を形成する方法である。噴霧法を用いる場合、連続乳化器に水性成分及び油性成分を連続供給して分散液を得て、それを連続乳化器に直結した噴霧ノズルから噴霧するようにしてもよい。このようにすれば、分散液としての保持時間がほとんどなくなるため、分散液に乳化安定性が求められず、従って、乳化安定性を低下させるような有効成分であっても、その配合量を多くすることができる。
【0050】
攪拌法は、分散液と実質的に混じり合わない性状を有し且つゲル化温度以上の温度に調製した液に分散液を投入し、攪拌による剪断力により分散液を微粒化し、界面張力によって液滴になる性質を利用し、その液滴を分散液と実質的に混じり合わない液中で冷却固化するハイドロゲル粒子を形成する方法である。
【0051】
滴下法、噴霧法、及び攪拌法のいずれの方法も、吐出時、噴霧時、或いは、投入時の分散液の温度を、ゲル化温度以上で且つ100℃以下の温度とすることが好ましい。また、美観に優れた球状の粒子を容易に製造することができるという観点からは、分散液の温度を、ゲル化温度+10℃以上とすることが好ましく、ゲル化温度+20℃以上とすることがより好ましい。なお、この温度の上限は、水の沸点である100℃である。具体的には、分散液の温度は60〜90℃とすることが好ましく、70〜80℃とすることがより好ましい。
【0052】
以上のようにして得られるハイドロゲル粒子は、分散液と構成が同一であり、従って、分散液中の各成分の含有割合がそのままハイドロゲル粒子中のその成分の含有割合となる。また、得られたハイドロゲル粒子については、必要に応じてさらに粉砕等により、微細化してもよい。
【実施例】
【0053】
(分散液の調製及びハイドロゲル粒子の作製)
以下の実施例1〜3及び比較例1〜3のそれぞれの分散液の調製及びハイドロゲル粒子の作製を行った。なお、表1及び2にもそれぞれの構成を示す。
【0054】
<実施例1>
(A)成分である寒天(伊那食品工業社製 商品名:AX−200)、(B)成分であるN-ステアロイルメチルタウリンナトリウム(日光ケミカルズ社製 商品名:SMT)、及び(F)成分である炭酸カルシウム(東洋電化工業社製 商品名:トヨホワイト)を、常温の(C)成分であるイオン交換水に加え、それを90℃で30分間加熱混合した後、80℃に冷却して水溶液A(水性成分)を調製した。
【0055】
また、(D)成分であるセレシン(日興リカ社製 商品名:セレシン810K(融点:74.1℃))、並びに(E)成分であるI−メントール(高砂香料社製 商品名メントールクリスタル)及び精油(小川香料社製 商品名:オレンジ油)を80℃に加熱混合して油性成分を調整した。なお、上記(D)セレシンの融点は、DSC(示差走査熱量計:株式会社リガク製、Thermo plus DSC8230)を用い、試料の昇温速度を2℃/minとしたときの吸熱ピーク温度である(以下の(D)マイクロクリスタリンワックス及びベヘニルアルコールの場合も同様)。
【0056】
各成分の配合量は、全体における含有量が(A)寒天3.00質量%、(B)ステアロイルメチルタウリンNa0.38質量%、(F)炭酸カルシウム4.00質量%、(D)セレシン2.50質量%、(E)I−メントール10.00質量%及び精油10.00質量%、そして、(C)イオン交換水が残部となるように設定した。従って、(D)成分の含有質量/(E)成分の含有質量は2.5/20である。
【0057】
水溶液Aに油性成分を加えて800gの混合物を得て、その混合物をホモミキサー(プライミクス社製 商品名:T.K.ロボミクス、動力数Np=1.5、攪拌翼の直径d=0.025m)に投入し、攪拌翼を攪拌回転数n=250回/secで攪拌時間t=1.5分間だけ回転させることにより攪拌処理して分散液を調製した。内容物(混合物)の密度ρ=950kg/m、及び処理液体積V=0.00084mであった。従って、攪拌動力P=0.217kWであり、攪拌エネルギーは387kW/m・minである。
【0058】
そして、得られた分散液を、孔径0.9mmの1流体ノズルを用いて、流量30L/hr及び噴霧圧1.1〜1.3MPaで冷却空気中に噴霧し、それによって分散液の液滴が冷却固化されたハイドロゲル粒子を作製した。
【0059】
<実施例2>
(D)セレシンの配合量を全体の5.00質量%としたことを除いて、実施例1と同様に分散液を調製すると共にハイドロゲル粒子を作製した。(D)成分の含有質量/(E)成分の含有質量は5/20である。
【0060】
<比較例1>
(D)セレシンを配合しなかったことを除いて、実施例1と同様に分散液を調製すると共にハイドロゲル粒子を作製した。(D)成分の含有質量/(E)成分の含有質量は0/20である。
【0061】
<比較例2>
(D)セレシンの配合量を全体の10.00質量%としたことを除いて、実施例1と同様に分散液を調製すると共にハイドロゲル粒子を作製した。(D)成分の含有質量/(E)成分の含有質量は10/20である。
【0062】
<実施例3>
(D)セレシンの代わりに(D)マイクロクリスタリンワックス(Sonneborn社製 商品名:マルチワックスW−835(融点:77.8℃))を、全体における含有量が5.00質量%となるように配合したことを除いて、実施例1と同様に分散液を調製すると共にハイドロゲル粒子を作製した。(D)成分の含有質量/(E)成分の含有質量は5/20である。
【0063】
<比較例3>
(D)セレシンの代わりにベヘニルアルコール(花王社製 商品名:カルコール220−80(融点:72.0℃))を、全体における含有量が5.00質量%となるように配合したことを除いて、実施例1と同様に分散液を調製すると共にハイドロゲル粒子を作製した。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
(試験評価方法)
<分散液中の油性成分の平均粒径>
実施例1〜3及び比較例1〜3のそれぞれで調製した分散液について、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(堀場製作所(株)製)を用いてメジアン径を測定し、それを分散液中の油性成分の平均粒径とした。この油性成分の平均粒径はハイドロゲル粒子中の油性成分の平均粒径にほぼ一致する。
【0067】
<ハイドロゲル粒子の平均粒径>
実施例1〜3及び比較例1〜3のそれぞれで作製したハイドロゲル粒子について、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(堀場製作所(株)製)を用いてメジアン径を測定し、それをハイドロゲル粒子の平均粒径とした。
【0068】
<香料の抽出率>
実施例1〜3及び比較例1〜3のそれぞれで作製したハイドロゲル粒子について、3gを採取し、それを濃度1質量%のアルキル硫酸ナトリウム水溶液27gに分散させた後、スクリュー管に移して50℃で24時間静置保存した。その後、シリンジフィルターにてハイドロゲル粒子とアルキル硫酸ナトリウム水溶液を分離した後、水溶液を10g秤量し、塩化カルシウム0.5gを加えて10分間スターラーで攪拌した後、ジエチルエーテル10mL及び内部標準物質1%エタノール液1mLを加えて10分間スターラーで攪拌し、エーテル層をガスクロマトグラフィーにて分析し、オレンジ油の主成分であるリモネンが水溶液側に可溶化した量を測定した。
【0069】
(試験評価結果)
表1に試験結果を示す。
【0070】
分散液中の油性成分の平均粒径は、実施例1が0.49μm、実施例2が0.55μm、一方、比較例1が0.45μm、比較例2が0.80μm、並びに実施例3が0.59μm、比較例3が0.79μmであった。
【0071】
ハイドロゲル粒子の平均粒径は、実施例1が140μm、実施例2が130μm、一方、比較例1が132μm、比較例2が135μm、並びに実施例3が142μm、比較例3が138μmであった。
【0072】
(E)精油(オレンジ油)の抽出率は、実施例1が6.19%、実施例2が6.02%、一方、比較例1が7.87%、比較例2が10.22%、並びに実施例3が5.96%、比較例3が8.33%であった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明はハイドロゲル粒子及びその製造方法について有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性成分のハイドロゲルの連続相と該連続相内に分散した油性成分の分散相とを有するハイドロゲル粒子であって、
上記水性成分は(A)成分:熱可逆的にゾル−ゲル転移を生じるゲル化剤、(B)成分:界面活性剤、及び(C)成分:水を含むと共に、上記油性成分は(D)成分:融点40℃以上の炭化水素、及び(E)成分:香料を含み、
上記油性成分における上記(D)成分の上記(E)成分に対する含有質量比率が1/20〜7.5/20である、ハイドロゲル粒子。
【請求項2】
(F)成分:固体粒子をさらに含む、請求項1に記載のハイドロゲル粒子。
【請求項3】
上記(D)成分が、セレシン、パラフィン、及びマイクロクリスタリンワックスからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のハイドロゲル粒子。
【請求項4】
上記(A)成分が寒天であり、且つ該(A)成分である寒天の含有量が0.1〜8.0質量%である、請求項1〜3の何れか1項に記載のハイドロゲル粒子。
【請求項5】
上記(B)成分が陰イオン界面活性剤であり、且つ該(B)成分である陰イオン界面活性剤の含有量が0.01〜10質量%である、請求項1〜4の何れか1項に記載のハイドロゲル粒子。
【請求項6】
上記(B)成分である陰イオン界面活性剤がN-アシルタウリン塩である、請求項5に記載のハイドロゲル粒子。
【請求項7】
上記油性成分の平均粒径が0.01〜20μmである、請求項1〜6の何れか1項に記載のハイドロゲル粒子。
【請求項8】
(A)成分:熱可逆的にゾル−ゲル転移を生じるゲル化剤、(B)成分:界面活性剤、及び(C)成分:水を含む水性成分溶液と、(D)成分:融点40℃以上の炭化水素、及び(E)成分:香料を、該(D)成分の該(E)成分に対する含有質量比率が1/20〜7.5/20となるように含む油性成分溶液と、の混合物を、200〜5000kW×分/mの攪拌エネルギーで攪拌処理して分散液を調製する攪拌処理工程を有する、ハイドロゲル粒子の製造方法。
【請求項9】
上記攪拌処理工程で得られた分散液を、噴霧ノズルから吐出して液滴を形成させた後、該液滴を冷却固化する粒子化工程をさらに有する、請求項8に記載のハイドロゲル粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の製造方法により得られる、ハイドロゲル粒子。

【公開番号】特開2010−275269(P2010−275269A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131989(P2009−131989)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】