説明

ハイブリッドステント

【課題】径方向の強度を相対的にほとんど又は全く犠牲にしないステントを提供する。
【解決手段】ステントは、生体吸収性ポリマーで互いに連結された一連の複数の片又は部分を備えている。複数のステント部分は、ポリマーの経時的な生分解にしたがって、分割又は分節するように設計されている。生体吸収性ポリマーの特性により、分割の時期が調整できるため、ステントの、新生内膜への埋没が可能になる。生体吸収性ポリマー製の管を用いることにより、かかる管の連続的な被覆が、ステント植込み後の最初の数週間における管壁内の塞栓形成を防止する。生体吸収性ポリマーの処方により、もはや塞栓形成のリスクがなくなったときに管の除去が起きるように、時期を調整することができる。複数のステント片又は部分の分離が起きると、片又は部分は、管内に確実に固定され、片又は部分の各々が、他のステントセグメントから独立して、管内で屈曲することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願との相互参照]
本出願は、現在放棄となっている、1998年12月3日出願の米国出願第09/204,830号の継続出願である、2002年4月5日出願の同時係属米国出願第10/116,159号の一部継続出願である、2004年6月3日出願の同時係属米国出願第10/860,735号の一部継続出願である。
【0002】
本発明は全体的にステントに関する。ステントは、体内の管を支持及び広げながら保持するため、又は管内における他の人工器官を固定及び支持するため、血管等の体内の管に植え込まれた人工器官である。
【背景技術】
【0003】
本技術分野において、各種のステントが知られている。ステントの典型としては、全体的に管状であり、未拡張の相対的に小さな直径から、拡張したより大きな直径へと拡張させることができる。植込む際にはステントを、典型的にはカテーテルの端部に取り付けるが、ステントは、未拡張の相対的に小さな直径の状態で、カテーテル上に保持される。カテーテルを用い、未拡張のステントを管腔中、意図する植込み部位に向けて誘導する。意図する植込み部位にステントが到着したら、典型的には内部圧力、例えばステントの内側のバルーンを膨張させることにより拡張させるか、又は例えば自己拡張式ステントの周囲からスリーブを除去してステントを外側方向に拡張させることにより、ステントを自己拡張させる。どちらの場合も、拡張したステントは、狭窄しようとする管の性質に抵抗することにより、管の開通性を維持する。
【0004】
ステントに関する特許のいくつかの例として、Palmazの米国特許第4,733,665号、Gianturcoの米国特許第4,800,882号及び第5,282,824号、Hillsteadの米国特許第4,856,516号及び第5,116,365号、Wiktorの米国特許第4,886,062号及び第4,969,458号、Pinchukの米国特許第5,019,090号、Palmaz及びSchatzの米国特許第5,102,417号、Wolffの米国特許第5,104,404号、Towerの米国特許第5,161,547号、Cardon et al.の米国特許第5,383,892号、Pinchasik et al.の米国特許第5,449,373号、及びIsrael et al.の米国特許第5,733,303号を挙げることができる。
【0005】
従前のステントの設計上の目的の1つは、ステントが管腔を十分に支持できるよう、ステントの拡張時の十分な径方向の強度を確保することであった。しかし、径方向の強度が高いステントはまた、縦方向の剛性がステントを植込む管よりも高い傾向がある。ステントを植込む管よりもステントのほうが縦方向の剛性が高い場合、管のステント両端部において、より重い損傷が生じる場合がある。これは管の、ステントが留置された部分と留置されていない部分との間のコンプライアンスの不整合に起因する応力集中のためである。
【特許文献1】米国特許第4,733,665号
【特許文献2】米国特許第4,800,882号
【特許文献3】米国特許第5,282,824号
【特許文献4】米国特許第4,856,516号
【特許文献5】米国特許第5,116,365号
【特許文献6】米国特許第4,886,062号
【特許文献7】米国特許第4,969,458号
【特許文献8】米国特許第5,019,090号
【特許文献9】米国特許第5,102,417号
【特許文献10】米国特許第5,104,404号
【特許文献11】米国特許第5,161,547号
【特許文献12】米国特許第5,383,892号
【特許文献13】米国特許第5,449,373号
【特許文献14】米国特許第5,733,303号
【発明の開示】
【0006】
本発明の1つの目的は、ステントを非常に長くした場合でも、ステントを植え込む管のコンプライアンスに、より厳密に適合した、径方向の強度を相対的にほとんど又は全く犠牲にしないステントを提供することである。
【0007】
本発明の一実施形態によれば、特有の「所定の分離」点をステントに設ける。これにより、前記ステントの配置後、管が運動する間にステントにかかる応力のため、前記所定の分離点でステントの分割が生じる。前記所定の分離点がステントの円周に完全に沿って配置され、周方向の「所定分離」区域を成す場合、かかる所定の分離点での分離により、前記ステントが2又は3以上の分割部分又は片(以下、複数の部分という。)に分割される。各々の部分は互いに独立して、管に従って動くことができる。分割した各々の部分は、独立して動くことができるので、一連の分割した複数の部分は、より長いステント製品よりも、管のステントを留置した部分と留置していない部分との間により高いコンプライアンスを達成することができ、それにより、管壁に対する応力が減少する。複数の短い部分は管内で潜在的に不安定であり、横倒れになる(topple over)傾向があるが、倒れないように植込みの際に、生体吸収性の構造又は経時的に分割される縦方向の構造で固定する。この複数の短い部分への分割は、ステントのストラットが新生内膜で覆われて、前記複数の短い部分が定位置に固定された後に生じることが好ましい。
【0008】
本発明のステントは、管壁を傷つけることがないように、好ましくは分離後に、かかる分離により生じた各々の部分の端部が相対的に滑らかであるように設計する。また前記ステントは好ましくは、前記分割した複数の部分の組合せが、分離後も、径方向に十分な強度を有するように構成する。このため、圧縮に対するステントの抵抗がほとんど又は実質的に全く減少しない。
【0009】
前記ステントは好ましくは、植込みの一定期間後に初めて分離が起き、分離時にはすでに新生内膜の下にステントが埋まっているように設計される。したがって、前記分離後に残される分割した複数の部分は、新生内膜によって所定の位置に保持され、管腔の動きに応じて動くことがない。即ち、前記分割した複数の部分は、互いに「入れ子状(telescope)」になることがなく、互いに遠ざかって支持のない隙間を生じさせることもない。
【0010】
前記分離を達成するため、各種の機構が用いられる場合がある。例えば、植込み後にステントにかかる応力下で、前記複数の部分が互いに選択的に分離できるほどに小さな断面領域を有する要素を、前記ステントの全長に沿った特定の地点又は区域に設けることができる。代替的に又は追加的に、植込み後にステントにかかる応力下で、前記複数の部分が選択的に分離できるほどにステントの他の部分よりも脆弱な要素及び/又は材料を、ステントの全長に沿った特定の地点又は区域に設けることができる。代替的に又は追加的に、前記所定の分離区域において、要素又はストラットの数が少なくなるようにステントを設計することができる。これにより、前記要素が受ける負荷は、前記ステントのどの場所よりも大きくなる。これらの要素は、植込み後にステントに繰り返し応力がかかるときに、前記要素が受ける負荷が増大し、かかる負荷の下で前記要素が分割するように構成する。
【0011】
前記分離に貢献する要因は、単独で又は組み合わせて適用してもよい。例えば、前記所定の分離ストラットは、小さな断面領域を有していてよく、かつ、より脆弱な材料で形成されていてよい。または、前記所定の分離区域の要素は、数が少なくてよく、断面領域が小さくても小さくなくてもよく、及び/又は、より脆弱な材料で形成されていてもよい。
【0012】
別の分離機構として、生体吸収性材料又は生分解性材料を使用する。生体吸収性材料又は生分解性材料は、能動的又は受動的な過程により身体に吸収又は分解される材料である。同様に、所定の生体適合性材料も、身体に「吸収」される。即ち、生細胞がこれらの材料にコロニーを形成しやすく、それにより、これらの材料は永久的に身体の一部となる。このような材料は、本明細書中で、生体吸収性ポリマー又は耐久性ポリマー(durable polymer)とも称される。上記の記載において、このいずれかの種類の材料に言及している場合、生体吸収性材料及び生分解性材料の両方が適用されるものとする。
【0013】
本発明は、生体吸収性材料で作製した縦方向の構造を用いることにより、互いに連結した所望の長さのステントを形成しているが、連結していない場合には分割している一連の複数の片又は部分に関する。したがって、ステントの最初の構造が最終的に分解されて、構成要素である一連の複数の短い部分又は片が残され、天然の管が有するものにより近い、縦方向の柔軟性及び拡張性をもたらす。縦方向の構造は、新生内膜の増殖を促進し、前記縦方向の構造が吸収又は分解される前に、前記複数の短い部分又は片が所望の位置に定着して、その後これらの複数の部分が移動できないように設計することが望ましい。
【0014】
前記生体吸収性材料からなる縦方向の構造は、多孔性であるか、又は小孔を有する管若しくは互いの間に隙間がある一連の繊維として形成されていてもよい。これにより新生内膜のより迅速な増殖が促進され、前記構造が分解する前に前記増殖した新生内膜がステントを被覆して適所に固定する。また小孔により、生体吸収性材料が分解する前に前記ステントのより良好な安定化を促進させることができる。小孔は、任意の所望の寸法、形状、又は数で形成することができる。
【0015】
複数の部分間の分割は、前記生体吸収性材料の特性により制御されると理解される。前記分割は好ましくは、前記ステントが新生内膜に埋まり、前記複数の短い部分が安定化してから起きる。
【0016】
生体吸収性材料を利用したステントは、単一のステントとして通常に機能し得る長さよりも短い複数の分割した部分又は片を備えていてよい。なぜなら、かかる複数の分割した部分又は片は、配置時に、縦方向の構造内に埋め込むことにより安定化し、その後、新生内膜の増殖により保持されるからである。前記ステントは、任意の所望の設計を有することができる。前記ステントは、バルーン拡張又は自己拡張のいずれかによる植込み用に作製することができ、任意の所望の安定材料で作製することができる。
【0017】
本発明は、生体吸収性材料を、任意の長さで製造することを可能にする。一実施形態において、前記支持構造中のステントを、長い管として作製し、次にかかるステントを、特定の患者への植込み用に、特注の長さに切断することができる。
【0018】
径方向に高い抵抗力を有しながら縦方向の屈曲に対する抵抗力が非常に低いという、同じ効果を達成するための別の方法として、耐久性ポリマー材料で作製した非常に柔軟な縦方向の構造によりつなぎ合わされた複数の分割した金属部分を有するステントがある。
【0019】
[図面の詳細な説明]
図1は、概念化したステント1の概略図である。ステント1は全体的に円筒形である。前記ステント1は、所定の分離区域3によって隔てられた一連の分割可能な複数の部分2を含む。前記所定の分離区域3は、1又は2以上の所定の分離要素又はストラットを含む(図3〜5を参照)。
【0020】
前記所定の分離区域3は、前記所定の分割要素が破壊されるか、さもなければ植込み後のステント1に繰り返しかかる応力下で分割が生じるように設計する。前記ステントの円周に沿った所定の分離ストラットがすべて、特定の所定の分離区域3で分離すると、図2に示すように、前記ステント自体が一連の独立した複数の部分2へと分割する。前記所定の分離区域3は、植込み後しばらくしてから分離が起きるように設計することもできる。これは、結果的に生じる分割した複数の部分2が、分離の時点では既に新生内膜下に埋まり、管腔の動きに応じて動くことがないようにするためである。
【0021】
前記複数の部分2の基本的な配置は任意の適切な状態をとっていてよく、前記複数の部分2は任意の適切な材料で形成されていてよいことを、当業者であれば理解する。前記複数の部分2の適切な構造の例としては、Israel et al.の米国特許第5,733,303号に示される構造、即ちMedinol社製のNIR(登録商標)ステントの一部を形成する構造が挙げられるが、これらに限定されない。前記特許の開示は参照により、本出願に明示的に援用される。前記複数の部分2の適切な構造の別の例としては、Pinchasik et al.の米国特許第6,723,119号及び第6,709,453号に示される構造、即ちこれもMedinol 社製のNIRflex(登録商標)ステントの一部を形成する構造が挙げられるが、これらに限定されない。これらの特許の開示もまた参照により、本出願に明示的に援用される。本発明において、他の適切なステント構造が用いられる場合があるが、当業者であれば、それがどのようなものであるか、本発明の教示により容易に理解することができる。
【0022】
図3は、所定の分離区域3により分割された複数の部分2を含むステント模様の平面配置図である。図3で具体化されているように、前記ステントの模様は、複数の部分2が、所定の分離区域3において、所定の分割要素又はストラット(4で示す)により、互いに連結されていることを除けば、米国特許第5,733,303号に記載の模様に全体的に一致する。
【0023】
本実施形態においては、各々の所定の分離ストラット4は断面積が小さい(この模様のその他の部分と比較すると)。前記断面は、植込み後に前記ステントにかかる応力下で前記所定の分離ストラット4の位置で分割が生じるように十分に小さくなっている。前記複数の部分2の、例えば参照番号5で示す要素と比較すると、前記分離ストラット4の断面積の減少量は、例えば、約数十パーセントである。前記分離ストラット4は、例えば25%〜75%、要素5よりもステントの周方向に細く又は狭くなっている。
【0024】
これらの所定の分離ストラット4は、適切な分割又は破壊を確実にするために、追加的又は代替的に、より脆弱な材料で製造してもよい。引張強度の点でより脆弱な材料は、前記所定の分離ストラット4の形成に用いる材料において提供するか、ステントの製造後に、前記所定の分離ストラット4(又は所定の分離区域3)の材料を脆弱化する処理を行うことにより提供してもよい。
【0025】
前記所定の分離ストラットを脆弱化する1つの手法としては、ステント全体をNiTiで形成し、その後、他の要素はオーステナイト相(Austenitic phase)のまま、前記所定の分離ストラットをマルテンサイト化(to be Martensitic)する処理を行うことである。他の手法としては、アニール処理される前記所定の分離区域を除き、ステンレス鋼製のステントとして全体を硬化することである。
【0026】
断面積の減少に加えて、前記所定の分離ストラットのその他の形状は、所望の効果を達成するために選択される。図3に示すように、所定の分離ストラット4の行の幅Aは、前記複数の部分2における要素の対応する行の幅、例えば参照番号5で示す要素の行の幅Bよりも狭い場合がある。前記所定の分離区域3の位置でこのように幅を狭くすると、反復される縦方向の屈曲下、前記所定の分離区域3の位置で確実に分離が起きるようにすることに役立つ。また、分割後に長い垂下端(hanging end)が残らないよう、前記所定の分離ストラット4は、分割後の自由端の長さを減少させて組織を損傷する危険性を最小化するため、十分に短く製造することができる。例えば、前記所定の分離ストラット4の長さは、要素5の長さよりも短い。
【0027】
図4は、所定の分離区域3で分離が起きた後の図3のステント模様の平面配置図を示している。図4に示すように、分離後のステントは、一連の、分割かつ独立した複数の部分2を備えている。また、前記所定の分離ストラット4は短いので、図4に示すように、分割後の自由端6の長さは、最小限に抑えられる。
【0028】
図5は代替的な設計を示しており、かかる設計では、ステントの円周に沿った所定の分離区域3が有する分離要素(7で示す)の数が少ない。図5に示す実施形態において、各所定の分離区域3は、ステントの円周に沿った所定の分離ストラット7を5個有する(図3の9個と比較)。当然ながら、本発明の一般的概念から逸脱することなく、所定の分離ストラット及びステントセグメント要素を様々な数量で用いてよい。
【0029】
前記所定の分離ストラット7は、植込み後のステントにかかる応力によってストラット7が受ける負荷の下で分離するように構成する。図5に示すように、前記所定の分離ストラット7の断面積も減少させてよい。また、他の実施形態における所定の分離ストラットと同様に、前記分離ストラット7は追加的に、より脆弱な材料で形成してよく、ステントの製造後に前記所定の分離ストラット7又は区域3を処理して脆弱化させてもよい。
【0030】
図6は、生体吸収性材料の使用の一例を図示している。図6のステント10は、全体的に周方向に延在する一連の複数の片12を備え、かかる複数の片12は、生体吸収性材料により相互に連結されている。前記生体吸収性材料は、片12同士の間の、間隔14の範囲内に配置してよく、又は片12を生体吸収性材料に埋め込んでもよい。別法として、前記複数の片12を、生体吸収性材料で被膜しても、若しくは生体吸収性材料の繊維で連結してもよく、又は構成要素である前記複数の片や部分に生体吸収性材料を適用するための当業者に周知の任意の方法を実施してもよい。周方向の複数の片上のポリマーの被膜厚、又は前記複数の片をポリマーに埋め込む深さの程度は変化させることができ、これにより前記構成要素である複数の片の分離時期を調整することができる。
【0031】
本発明が教示する方法により、生体吸収性材料を用いた様々なステント設計を利用することができる。この例において、周方向の複数の片は、単一の正弦曲線部材等の、径方向の拡張を可能にする余長を提供する任意の構造であってよい。しかし本発明は、任意の特定の構造又は設計に限定されないと理解される。前記周方向の複数の片は例えば、ステント全体にわたって同じ設計を有していてもよく、又は使用目的若しくは配置に応じて異なる複数の設計を有していてもよい。したがって本発明はまた、ステントの長さ方向に特定の所望の性質を変化させるための様々な構造上の特徴又はその他の特徴を、周方向の各種の片が有し得るステント設計を可能にする。例えばステントの末端の片は、ステントの中央の片よりも剛性が高くてもよい(例えば拡張後)。
【0032】
この例は説明として挙げているに過ぎず、本発明の範囲の限定を意味するものではない。本発明においては、任意のステント設計を用いることができる。各周方向の片の個々の設計は、そのステントの用途によって、均一であってもなくてもよい。
【0033】
長さのある病変を被覆するために管に配置する際、構成要素である一連の複数の片又は部分を、前記生体吸収性材料により互いに連結する。前記材料が分解すると、前記構成要素である複数の片又は部分が互いに分割される。これにより、管が屈曲又は伸縮するとき、前記個々の部分は、それぞれ独立して、連接し、運動し、又は屈曲することができ、これにより管壁の自然な運動が可能になる。したがって、本発明のこの実施形態においてステントは、管壁の自然な湾曲に従って複数の部分間又は片の間で屈曲する。
【0034】
ステントの縦方向構造として生体吸収性材料を用いた際の分割時間は、前記生体吸収性材料の特性により調節することができる。前記複数のステント部分は、好ましくは新生内膜の層に埋没し、前記複数の短い部分は生体吸収性材料が吸収される前に安定化する。
【0035】
生体吸収性材料の使用には、いくつかの利点がある。上記したように、生体吸収性材料の特性を改変又は選択することにより、前記構成要素である複数の片又は部分の解放を調節できるという利点がある。
【0036】
さらに生体吸収性材料は、レントゲン写真又はMRI/CTスキャンを不明瞭にすることがないので、治療経過のより正確な評価を可能にする。生体吸収性材料を用いる別の利点として、ステントを管に配置した後、生体吸収性材料が提供する連続的な被覆が、塞栓形成のリスクを抑制又は減少させると考えられている。別の利点としては、「ステント・ジェイル(stent jail)」現象、即ちステントが覆った側枝への通路における合併症を防止する。
【0037】
生体吸収性材料被膜の減少は、生体吸収性材料の特性を改変又は選択することにより調節することができる。これにより、前記複数の部分が管壁内に固定されて、もはや塞栓のリスクがなくなった時点での分解が可能になる。ポリマーの材料特性を改変又は変化させることにより生分解性材料又は生体吸収性材料を変質させた例を、材料が分解し得る程度及び速度に関連して後述する。これらの改変及び特性は例に過ぎず、本発明をかかる実施形態に限定するものではない。
【0038】
前記複数の部分は、バルーン拡張型ステント又は自己拡張型ステント用に、所望の特性を有する任意の材料で製造することができる。この種類の材料には例えば、ステンレス鋼、ニチノール、コバルトクロム、又は少なくとも最低限、これらの材料が示す特有の物理的特性と一致する任意の合金が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
生体吸収性材料の材料は、身体により容易に分解されて自然に代謝され得るもの、又は身体に吸収され得るものであれば、どのような材料でもよい。生体吸収性材料は特に、生体組織が容易にコロニー形成でき、前記材料が永久に身体の一部となるような、軽量かつ多孔質な材料から選択される。前記生体吸収性材料は例えば、生体吸収性ポリマーであってよいが、これに限定されない。例えば本発明では、ポリエステル類、ポリ酸無水物類、ポリオルトエステル類、ポリホスファゼン類、及びそれらの任意の組合せによる混合物類、若しくはコポリマー類等の任意の生体吸収性ポリマーを用いることができる。その他の使用可能な生体吸収性ポリマー類としては、ポリグリコリド、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサン、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、トリメチレンカーボネート、及び上記ポリマー類による任意の混合物類及びコポリマー類が挙げられる。
【0040】
合成縮合系ポリマー類は、付加型ポリマー類と比較すると、一般に生分解性の程度が鎖の結合により異なる。例えば、次の種類のポリマー類では、生分解性の程度が異なる(ポリエステル類はポリエーテル類よりも生分解性が高く、ポリエーテル類はポリアミド類よりも生分解性が高く、ポリアミド類はポリウレタン類よりも生分解性が高い)。形態(morphology)もまた、生分解性にとって考慮するべき重要な事柄である。アモルファスポリマー類は、結晶性ポリマー類よりも生分解性が高い。ポリマーの分子量も重要である。通常、低分子量のポリマー類のほうが高分子量のポリマー類よりも生分解性が高い。また親水性ポリマー類は、疎水性ポリマー類よりも生分解速度が速い。環境下で生じ得る分解には、いくつかの異なる種類がある。これらの分解には、生分解、光分解、酸化及び加水分解が挙げられるが、これらに限定されない。多くの場合、これらの用語をまとめて生分解と呼ぶ。しかし、ほとんどの化学者及び生物学者は、上記の複数のプロセスを別個かつ異なるものとみなしている。生分解に限れば、ポリマーの分解は、有機体によって酵素的に促進される。
【0041】
本発明の更なる利点として、何らかの手段により細胞増殖を抑制若しくは減少させる薬剤、又は再狭窄を減少させる薬剤とともに、前記構造を埋め込めることが挙げられる。さらに、材料の縦方向構造が繊維の場合、繊維間の間隔が小さい連続構造をもたらし、薬剤溶出用マトリクスとしての、より均一な溶出床(elution bed)を提供する。一実施形態において、前記構成要素である複数の片又は部分は、前記縦方向構造が生体吸収されることにより前記複数の部分が露出した後、より長い時間効果を有するような薬剤等の能動的又は受動的な表面要素を有するように処理されていてもよい。
【0042】
図7は、本発明の別の例であるステント20を図示している。この実施形態は、図6におけるように一連の周方向の複数の片又は部材から作製されているのではなく、22で示す複数の短い部分を備えている。図6と同様に、これらの複数のステント部分22は、任意の設計を有していてよく、図7に示す実施形態に限定されない。図6のステントと同様に、ステントの用途によって、ステント20の複数の短いステント部分は全く同じでも異なっていてもよい。
【0043】
前記複数のステント部分は、任意の適切な材料で製造されていてよく、任意の許容可能な設計を構成してよい。前記ステントは、バルーン拡張型でも自己拡張型でもよい。
【0044】
米国特許第6,723,119号は設計例を記載しており、当該特許は、参照により全体が本明細書に援用される。別の設計例としては、Medinol社製のNIRflexステントがある。かかる例の1つを図7に示す。この設計基準により、管のステント留置部分に縦方向の柔軟性及び径方向の支持を提供する複数の短い部分が得られる。
【0045】
生体吸収性材料は、隙間24内に配置するか、及び/又は、複数のステントセグメント全体にわたって埋め込む。前記生体吸収性材料は、前記複数のステントセグメントの外側全体若しくは一部のみを被覆していてもよく、又は複数のセグメント全てを完全に覆っていてもよい。
【0046】
図8は、本発明の別の例を図示している。この例は、ステント30の形状であり、管状の生体吸収性材料32を有する。この例において具体化されているように、前記管は、隙間36を充填する生体吸収性材料によって、周方向の複数の片(又は部材)34を相互接続させている。図8に図示する複数の片34は、単一の正弦曲線部材であるが、上述のように、任意の設計又は多数の設計を有し得る。
【0047】
ステント30はまた、小孔38を備えていてよい。前記小孔は、所望の任意の形を有することができ、かつ例えば多孔性材料を形成するように均一に設計されていても、又は個別に設計されていてもよい。複数の片を連結する生体吸収性繊維をまとめる等の別の方法により、非連続性の層状材料も形成することができる。前記生体吸収性被覆の小孔は、前記生体吸収性材料の一体化又分解前に、新生内膜のより速やかな増殖及び短いセグメントの安定化を促進する場合がある。本発明により、ステントの製造に役立つように、前記生体吸収性材料を任意の長さで製造し、機能する個々のステントに応じて任意の所望の長さに切断することが可能になる。例えば、図8に図示する生体吸収性ポリマー管の場合、かかる管は、任意の長さに押出し成形し、そのステント特有の要求に応じて、製造者又は使用者が切断することができる。
【0048】
図9は、ステントの縦軸に沿って、多孔性の縦方向構造により連結された複数のステント部材の顕微鏡写真である。この縦方向構造は、所望の性質に応じて、ポリマー製であってもなくてもよい。一実施形態において、前記縦方向構造は、耐久性ポリマー等の多孔性の繊維メッシュである。このような材料の一例としては、ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)が挙げられるが、これに限定されない。前記縦方向構造には、他の機能もあり、中でもステント部材に縦方向の柔軟性を提供する。前記ステント部材は、所望の性質に応じて、金属構造であってもなくてもよい。前記縦方向構造はまた、繊維間の間隔が小さく、マトリックスを形成する連続的な構造を提供する場合がある。このマトリックスは、薬剤溶出に用いることができ、従来の方法に比べてより均一な溶出床を提供する。
【0049】
軽量かつ多孔性のポリマー製材料を用いると有利な場合がある。例えば繊維状の材料は、前記繊維が縦方向の構造を提供するように構成することができ、それにより、ステント装置の全体的な柔軟性が強化される。このような材料を、意図する構造特有の必要性に応じて、ステント又はステント片に対し、連続的又は非連続的に適用することができる。前記材料は、任意のポリマー製材料であってよい。かかる材料の一例は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)であるが、この材料に限定されない。前記ポリマー製材料は、耐久性ポリマーである多孔性の繊維メッシュを形成し得る。前記縦方向の構造は、少なくとも2つの機能を果たす。第1に前記縦方向構造は、従来の金属構造よりも縦方向の柔軟性が高い。第2に前記ポリマー製材料は、繊維間の間隔が小さい連続的な構造であり、より均一な溶出床を提供する、薬剤溶出用マトリックスとして用いることができる。
【0050】
上記記載は、具体的な実施形態の代表例に過ぎないものと理解される。上記記載は、本明細書の読み手の便宜のために、可能な実施形態の代表例に焦点をあてているが、それらは本発明の原理を教示する例である。様々な実施形態を部分的に様々に組み合わせれば、別の実施形態が生まれる。本明細書は、可能な変化を余すところなく列挙することを試みていない。
【0051】
反復になるが、本明細書中に記載の実施形態は例に過ぎず、添付の請求の範囲に定義する、他の変形も本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】複数の部分間に所定の分離区域を有する、全体的に円筒状のステントの概略図である。
【図2】図1のステントの分離後の概略図である。この図においてステントは、一連の複数の短い部分へと分割されている。
【図3】ステント模様の平面配置図である。この図において、所定の分離区域における要素は、植込み後のステントにかかる応力により、構成要素である複数の部分又は片へとステントが分割されるほどの十分に小さい断面領域を有する。
【図4】所定の分離区域で分割が生じた後の図3のステント模様の平面配置図である。
【図5】ステント模様の平面配置図である。この図では、ステントの所定の分離区域における、分離要素の数が少ない。
【図6】分割した複数の周方向のステント片が生体吸収性材料に埋め込まれたステントの側面配置図を示す。
【図7】生体吸収性材料に埋め込まれた一連の複数の短い部分の側面配置図である。
【図8】小孔を有する生体吸収性ポリマー管に埋め込まれた、一連の複数の周方向の片又は部材として作製したステントの側面配置図である。
【図9】非常に多孔性のポリマー製構造により連結された複数のステント部材の顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管内植込み用のステントであって、
複数の短いステントセグメントと、
隣接する前記複数のステントセグメントを連結する、ステントの長さにわたって均一な透過性を有する耐久性多孔性ポリマー製のメッシュとを備え、
前記耐久性多孔性ポリマー製のメッシュが、隣接するステントセグメント間に縦方向の柔軟性をもたらすことを特徴とするステント。
【請求項2】
ポリマー製のメッシュが、延伸ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項1記載のステント。
【請求項3】
ポリマー製のメッシュが、絡み合った繊維の形態であることを特徴とする請求項1又は2記載のステント。
【請求項4】
拡張時に、メッシュが多孔性になることを特徴とする請求項1又は2記載のステント。
【請求項5】
小孔により、メッシュが多孔性であることを特徴とする請求項1又は2記載のステント。
【請求項6】
耐久性多孔性ポリマー製のメッシュが、ステントセグメントと比較して柔軟な縦方向の骨格(backbone)であることを特徴とする請求項1記載のステント。
【請求項7】
管内植込み用のステントであって、
複数の短いステントセグメントと、
隣接する前記複数のステントセグメントを連結する、ステントの長さにわたって均一な透過性を有する多孔性の縦方向の構造とを含み、
前記縦方向の構造が、隣接するステントセグメント間に縦方向の柔軟性をもたらすように構成されている耐久性ポリマーであることを特徴とするステント。
【請求項8】
縦方向の構造が管内に残留するように構成されていることを特徴とする請求項7記載のステント。
【請求項9】
縦方向の構造が、ステントセグメントと比較して柔軟な縦方向の骨格(backbone)であることを特徴とする請求項7記載のステント。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−228569(P2012−228569A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−168231(P2012−168231)
【出願日】平成24年7月30日(2012.7.30)
【分割の表示】特願2008−549949(P2008−549949)の分割
【原出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(598081805)メディノール リミテッド (10)
【Fターム(参考)】