説明

ハイブリッド建設機械

【課題】フライホイール、ロータシャフト、ポンプシャフトの三者の結合部分の軸長を短くしてパワーユニット全体の軸長を短縮する。
【解決手段】エンジン1のクランクシャフト4に取付けられたフライホイール8と、発電電動機2のロータシャフト5を直結するとともに、ロータシャフト5とポンプシャフト6をカップリング20を介して接続する。この場合、フライホイール8とロータシャフト5の結合面、及びロータシャフト5とカップリング20の結合面を、ステータのコイル19の軸方向の幅内に配置することによって結合部分の軸長を短くし、フライホイール8、ロータシャフト5、ポンプシャフト6三者の片持ち支持を可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンに発電電動機と油圧ポンプを接続するハイブリッド建設機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ショベルを例にとって背景技術を説明する。
【0003】
ハイブリッドショベルにおいては、エンジンに発電電動機と油圧ポンプを接続し、油圧ポンプの吐出油により油圧アクチュエータを駆動する一方、発電電動機の発電機作用によって蓄電器に充電し、適時、この蓄電器電力により発電電動機に電動機作用を行わせてエンジンをアシストするように構成される。
【0004】
このハイブリッドショベルにおいて、パワーユニットを構成するエンジン、発電電動機、油圧ポンプ三者の接続(動力伝達)構造として、特許文献1に示されたものが公知である。
【0005】
この公知構造では、エンジンのクランクシャフトに取付けられたフライホイールに発電電動機のロータシャフトをボルトで直結し、このロータシャフトを、電動機ハウジングにベアリング支持することにより、フライホイールとロータシャフトを、クランクシャフトのベアリング支持部分とロータシャフトのベアリング支持部分で両持ち支持し、この状態でロータシャフトとポンプシャフトをスプライン結合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−7023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記のようにロータシャフトを単独でベアリング支持する公知構造によると、ロータシャフトをベアリング支持部分だけ長くする必要があるため、フライホイール、ロータシャフト(ロータ)、ポンプシャフト三者の結合部分の長さ、ひいてはパワーユニット全体の軸長が長くなる。
【0008】
このため、とくにパワーユニットの設置スペース(エンジンルーム)が制限されるショベルにおいて不利となる。
【0009】
なお、上記公知構造において、軸長を短縮するために、ロータシャフト単独のベアリング支持を省略し、フライホイールとロータシャフトを、クランクシャフトのベアリング支持部分のみで片持ち支持する構造に転換することが考えられる。
【0010】
但し、公知構造のままロータシャフトのベアリング支持を省略するだけでは、軸長の短縮はわずかなものとなるため、片持ち構造とすると、クランクシャフトにかかる曲げモーメントが過大となってクランクシャフト等の強度不足を招き、あるいはこれらを大幅に強度アップしなければならないという弊害が生じる。
【0011】
そこで本発明は、フライホイール、ロータシャフト、ポンプシャフトの三者の結合部分の軸長を短くしてクランクシャフトにかかる曲げモーメントを減少させ、これにより片持ち支持構造を可能としてパワーユニット全体の軸長を短縮することができるハイブリッド建設機械を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する手段として、本発明においては、エンジンに発電電動機と油圧ポンプとが接続され、油圧ポンプによって油圧アクチュエータを駆動するとともに、上記発電電動機の発電機作用によって蓄電器に充電し、この蓄電器電力により発電電動機に電動機作用を行わせてエンジンをアシストするように構成され、上記発電電動機は、ロータシャフトを中心として回転するロータと、このロータの外周に配置されたステータとを具備し、かつ、上記エンジンのクランクシャフトにフライホイールが取付けられたハイブリッド建設機械において、
(i) 上記クランクシャフトとフライホイール、このフライホイールと上記発電電動機のロータシャフトをそれぞれ直結し、
(ii) 上記ロータシャフトのフライホイールと反対側の端面にカップリングを直結するとともに、このカップリングに上記油圧ポンプのポンプシャフトを接続し、
(iii) 上記フライホイールとロータシャフトの結合面、及びロータシャフトと上記カップリングの結合面を、上記ステータのコイルの軸方向の幅内に配置した
ものである。
【0013】
このように、フライホイールとロータシャフトを直結する構成(i)を前提に、ロータシャフトとポンプシャフトをカップリングを介して接続する構成(ii)をとる。
【0014】
但し、これだけでは、フライホイール、ロータシャフト、ポンプシャフトの三者の結合部分の合計長が長く、クランクシャフトにかかる曲げモーメントが大きくなるため、クランクシャフトのベアリング支持部分のみによる片持ち支持ではクランクシャフトが強度不足となる。
【0015】
そこで、(iii)の構成により、上記結合部分の合計長を最小限に短縮することで片持ち支持を可能とし、パワーユニットの軸長を短縮化することが可能となる。
【0016】
本発明において、上記フライホイールの対ロータシャフト結合面に、ロータシャフトの回転中心を中心とする円形の凹部を設け、フライホイールとロータシャフトを結合するボルトを、この凹部の底壁を貫通してクランクシャフトの端面にねじ込む一方、上記ロータシャフトの対フライホイール結合面に、ロータシャフトの回転中心を中心とするリング状の突起を設け、この突起を上記凹部にインロー嵌合させた状態でフライホイールとロータシャフトとを結合するのが望ましい(請求項2)。
【0017】
この構成によれば、インロー嵌合によってフライホイールとロータシャフトの同心度の確保と組立性の改善を両立させながら、このインロー嵌合のための凹部でフライホイールとロータシャフトをボルト結合することで結合部分の軸長をさらに短くすることができる。
【0018】
ところで、フライホイールとロータシャフト、ロータシャフトとカップリングをそれぞれボルト結合する場合に、第1、第2両ボルトの干渉を避ける方法としてロータシャフトの軸方向寸法を両ボルトの合計長さよりも大きくすることが考えられるが、こうすると結合部分の軸長が長くなる。
【0019】
また、両ボルトの位置を直径方向に大きくずらすと、ロータシャフトまたはカップリングの直径寸法を大きくしなければならない。
【0020】
そこで、上記フライホイールとロータシャフト、及びロータシャフトとカップリングを、それぞれロータシャフトの回転中心を中心とする円周上の複数個所でボルト結合し、フライホイールとロータシャフトを結合する第1のボルトと、ロータシャフトとカップリングを結合する第2のボルトを互いに周方向に位置ずれして配置するのが望ましい(請求項3)。
【0021】
こうすれば、ロータシャフト及びカップリングの軸長及び直径を最小限に小さくしながら両ボルトの干渉を防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、フライホイール、ロータシャフト、ポンプシャフトの三者の結合部分の軸長を短くしてクランクシャフトにかかる曲げモーメントを減少させ、これにより片持ち支持構造を可能としてパワーユニット全体の軸長を短縮し、パワーユニットを限られたスペースに容易に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係るフライホイール、ロータシャフト、ポンプシャフトの結合構造を示す断面図である。
【図2】同実施形態におけるフライホイール、ロータ、カップリングの分解斜視図である。
【図3】同実施形態におけるロータシャフトの裏面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1はエンジン(エンジンハウジングのみを示す)1と、発電電動機2と、油圧ポンプ(ポンプハウジングのみを示す)の接続構造を示し、エンジン1の出力軸であるクランクシャフト4に発電電動機2のロータシャフト5、このロータシャフト5に油圧ポンプ3のポンプシャフト6がそれぞれ接続される。
【0025】
以下、各結合部の構造を図1〜図3によって説明する。
【0026】
(A) クランクシャフト4とロータシャフト5の結合部
クランクシャフト4の端部は電動機ハウジング7内に導入され、同ハウジング7内で、クランクシャフト4の端面にフライホイール8が周方向複数個所でフライホイール取付ボルト9によって直結されるとともに、このフライホイール8にロータシャフト5が周方向複数個所で第1ボルト10によって直結されている。
【0027】
なお、図1〜図3において、フライホイール8及びロータシャフト5の形状を簡略化して示している。
【0028】
−1 クランクシャフト4とフライホイール8の結合構造
フライホイール8の対ロータシャフト結合面に、ロータシャフト5の回転中心(=フライホイール8及びポンプシャフト6の回転中心。以下、シャフト回転中心という)Oを中心とする円形の凹部11が設けられ、フライホイール取付ボルト9が、この凹部11の底壁を貫通してクランクシャフト4の端面(ねじ穴)にねじ込まれている。
【0029】
なお、フライホイール8の対ロータシャフト結合面に短筒部12が一体に設けられ、この短筒部12の内周側が凹部11となっている。図2中、13はフライホイール取付ボルト9が通されるボルト通し穴である。
【0030】
−2 フライホイール8とロータシャフト5の結合構造
ロータシャフト5の対フライホイール結合面に、シャフト回転中心Oを中心とするリング状の突起14がフライホイール側に突出して一体に設けられ、この突起14がフライホイール8の凹部11にインロー嵌合した状態で、ロータシャフト5がフライホイール8の対ロータシャフト結合面(短筒部12の端面)に第1ボルト10によって直結されている。
【0031】
ここで、ロータシャフト5には、周方向複数個所に非貫通の第1ボルト収容穴15(図1,3,4参照)が設けられ、第1ボルト10は、頭部がこの第1ボルト収容穴15に収容された状態で、ねじ部が同穴15の底壁を貫通してフライホイール8にねじ込まれている。
【0032】
図2〜図4中、16はこの第1ボルト10が通されるロータシャフト5のボルト通し穴である。
【0033】
ロータシャフト5の外周にはロータコア17が設けられてロータが構成され、図1に示すようにこのロータの外周に、ステータコア18と、このステータコア17に巻回されたコイル19から成るステータが配置されて発電電動機2が構成される。
【0034】
なお、図の複雑化を避けるため、ロータ及びステータについての符号を省略している。
【0035】
(B) ロータシャフト5とポンプシャフト6の結合部
ロータシャフト5の、フライホイール8と反対側の面(対カップリング結合面)にカップリング20が周方向複数個所で第2ボルト21によって直結され、このカップリング20にポンプシャフト6がスプライン結合されている。
【0036】
第2ボルト21は、頭部がカップリング外に突出しないように、カップリング20に設けられたボルト収容穴22に収容された状態でロータシャフト5にねじ込まれている。
【0037】
図2中、23はこの第2ボルト21が通されるカップリング20のボルト通し穴、図3,4中、24は第2ボルト21…がねじ込まれるロータシャフト5のねじ穴である。
【0038】
ここで、フライホイールと8とロータシャフト5の結合面、及びロータシャフト5とカップリング20の結合面は、発電電動機2におけるステータのコイル19の軸方向の幅内に配置されている。
【0039】
いいかえれば、フライホイール8とロータシャフト5、及びロータシャフト5とカップリング20は、互いの結合面がコイル19の幅内に位置する状態でボルト結合されている。
【0040】
また、図3,4に示すように、ロータシャフト5のボルト通し穴16とねじ穴24は、それぞれシャフト回転中心Oを中心とする円周上の複数個所に、互いに周方向に位置ずれして設けられている。
【0041】
すなわち、フライホイール8とロータシャフト5を結合する第1ボルト10と、ロータシャフト5とカップリング20を結合する第2ボルト21は、互いに周方向に位置ずれして配置されている。
【0042】
なお、両ボルト10,21は、同一円周上に配置してもよいし、直径が僅かに異なる別々の円周上に設けてもよい。
【0043】
上記のように、実施形態では、フライホイール8とロータシャフト5(ロータ)を直結し、このロータシャフト5にポンプシャフト6をスプライン結合した構造、すなわち、フライホイール8とロータシャフト5とポンプシャフト6を、エンジンハウジング内でのクランクシャフト4のベアリング支持部分のみによって支持する「片持ち支持構造」をとっている。
【0044】
但し、これだけでは、フライホイール8、ロータシャフト5、ポンプシャフト6の三者の結合部分の合計長が長く、クランクシャフト4にかかる曲げモーメントが大きくなるため、片持ち支持ではクランクシャフト4の強度不足を招く。
【0045】
そこで、上記のように三者の結合面をコイル19の幅内に位置させる(コイル幅内で三者を結合する)構成をとることにより、結合部分の合計長を短縮してクランクシャフト4にかかる曲げ荷重を軽減することができる。
【0046】
いいかえれば、クランクシャフト4の強度アップなしで三者を片持ち支持することが可能となる。
【0047】
これにより、エンジン1、発電電動機2、油圧ポンプ3から成るパワーユニットの軸長を短縮し、パワーユニットを限られたスペース(エンジンルーム)に容易に設置することができる。
【0048】
また、実施形態によると、次の効果を得ることができる。
【0049】
(I) フライホイール8とロータシャフト5を、互いの凹部11とリング状の突起14とによってインロー嵌合させた状態でボルト9…で結合するため、両者の同心度を確保しながら組立性を改善することができる。
【0050】
この場合、ボルト9…の頭部をインロー嵌合のための凹部11内に位置させ、フライホイール8外に突出させない構成をとっているため、パワーユニットの軸長をさらに短くすることができる。
【0051】
(II) フライホイール8とロータシャフト5、及びロータシャフト5とカップリング20をそれぞれボルト結合する場合、前者用の第1ボルト10と、後者用の第2ボルト21が干渉する可能性がある。
【0052】
これを回避する方法として、ロータシャフト5の軸方向寸法を両ボルト10,21の合計長さよりも大きくすることが考えられるが、こうすると結合部分の軸長が長くなる。
【0053】
また、両ボルト10,21の位置を直径方向に大きくずらすと、ロータシャフト5またはカップリング20の直径寸法を大きくしなければならない。
【0054】
この点、実施形態では、第1、第2両ボルト10,21を周方向に位置ずれして配置したから、ロータシャフト5及びカップリング20の軸長及び直径を最小限に小さくしながら両ボルト10,21の干渉を防止することができる。
【0055】
ところで、本発明はハイブリッドショベルに限らず、エンジンと発電電動機と油圧ポンプが同軸上で接続されるハイブリッド建設機械に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 エンジン
2 発電電動機
3 油圧ポンプ
4 クランクシャフト
5 ロータシャフト
O ロータシャフトの回転中心
6 ポンプシャフト
7 電動機ハウジング
8 フライホイール
9 フライホイール取付ボルト
10 フライホイールとロータシャフトを結合する第1ボルト
11 フライホイールの凹部
14 ロータシャフトの突起
19 ステータのコイル
20 カップリング
21 ロータシャフトとカップリングを結合する第2ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに発電電動機と油圧ポンプとが接続され、油圧ポンプによって油圧アクチュエータを駆動するとともに、上記発電電動機の発電機作用によって蓄電器に充電し、この蓄電器電力により発電電動機に電動機作用を行わせてエンジンをアシストするように構成され、上記発電電動機は、ロータシャフトを中心として回転するロータと、このロータの外周に配置されたステータとを具備し、かつ、上記エンジンのクランクシャフトにフライホイールが取付けられたハイブリッド建設機械において、
(i) 上記クランクシャフトとフライホイール、このフライホイールと上記発電電動機のロータシャフトをそれぞれ直結し、
(ii) 上記ロータシャフトのフライホイールと反対側の端面にカップリングを直結するとともに、このカップリングに上記油圧ポンプのポンプシャフトを接続し、
(iii) 上記フライホイールとロータシャフトの結合面、及びロータシャフトと上記カップリングの結合面を、上記ステータのコイルの軸方向の幅内に配置した
ことを特徴とするハイブリッド建設機械。
【請求項2】
上記フライホイールの対ロータシャフト結合面に、ロータシャフトの回転中心を中心とする円形の凹部を設け、フライホイールとロータシャフトを結合するボルトを、この凹部の底壁を貫通してクランクシャフトの端面にねじ込む一方、上記ロータシャフトの対フライホイール結合面に、ロータシャフトの回転中心を中心とするリング状の突起を設け、この突起を上記凹部にインロー嵌合させた状態でフライホイールとロータシャフトとを結合したことを特徴とする請求項1記載のハイブリッド建設機械。
【請求項3】
上記フライホイールとロータシャフト、及びロータシャフトとカップリングを、それぞれロータシャフトの回転中心を中心とする円周上の複数個所でボルト結合し、フライホイールとロータシャフトを結合する第1のボルトと、ロータシャフトとカップリングを結合する第2のボルトを互いに周方向に位置ずれして配置したことを特徴とする請求項1または2記載のハイブリッド建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−219488(P2012−219488A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85301(P2011−85301)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】