説明

ハニカム構造体のクラック検査方法及び検査装置

【課題】微細な隔壁のクラックをも検出可能なハニカム構造体のクラック検査方法を提供すること。
【解決手段】ハニカム構造体20の第1開口端面23側から照明装置40により光を照射し、この光照射状態において、貫通孔22の軸線方向に対して光軸を傾斜させたカメラを用いてハニカム構造体20を第2開口端面24側から撮像し、カメラにより得られた画像データにおいて、その明暗を識別することにより、ハニカム構造体20における隔壁21のクラック25を検出する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体のクラック検査方法及び検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ディーゼルエンジンでは排ガス中のPM(パティキュレートマター)を捕集するフィルタ(DPF)が採用されており、そのDPFを構成するセラミック製のハニカム構造体としては、図9(a),(b)に示すものが知られている。このハニカム構造体20には、隔壁21により区画された多数の貫通孔22が設けられている。
【0003】
ハニカム構造体20は、粘土質の成形材を押出成形した後、乾燥や焼成等の工程を経て製品となる。ところが、乾燥工程や焼成工程における隔壁21の部分的な収縮差によって、隔壁21にクラック(亀裂)が生じる場合がある。隔壁21にクラックが生じた成形体は、製品の機能や耐久性等に影響を及ぼすおそれがあるので、クラックの有無を検査する必要がある。
【0004】
隔壁21のクラックの有無を検査する方法としては、例えば特許文献1に記載の方法が知られている。この方法では、ハニカム構造体20の一端面側から貫通孔22の軸線に対して斜め方向の平行光束を照射する。そして、隔壁21に存在するクラックを通過して隣接する貫通孔22内に入射した光をハニカム構造体20の他端面側で検出することでクラックがあることを検出している。
【特許文献1】特開昭58−155343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の検査方法では、上述の斜め方向の光を通すような比較的大きなクラックについては検査することができるが、上述の角度の光を通さないような微細なクラックを検査することは困難であった。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、微細な隔壁のクラックをも検出可能なハニカム構造体のクラック検査方法及び検査装置を提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するのに有効な手段等につき、必要に応じて作用、効果等を示しつつ説明する。
【0008】
請求項1に記載の発明は、隔壁により互いに平行に且つ直線状に形成された多数の貫通孔を有するハニカム構造体において、前記隔壁のクラックを検査するクラック検査方法に関するものである。そして、前記ハニカム構造体の一端面側から光照射手段により光を照射し、この光照射状態において、前記貫通孔の軸線方向に対して実質的に光軸を傾斜させた撮像手段を用いて前記ハニカム構造体を他端面側から撮像し、前記撮像手段により得られた画像データにおいて、その明暗を識別することにより、前記ハニカム構造体における隔壁のクラックを検出することを特徴としている。
【0009】
貫通孔の軸線方向に対して実質的に光軸を傾斜させた撮像手段を用いることにより、ハニカム構造体の他端面側から隔壁内部を撮像することが可能となる。ここで、光照射手段によって照射された光は様々な方向に斜行する成分を含んでいる。そして、それら各斜行成分はハニカム構造体の一端面側から貫通孔に入射され、隔壁によって反射されつつ貫通孔の内部を通過する。他端面側から出た光も様々な方向に斜行する成分を含んでいるが、実際に撮像手段の撮像に寄与するのは他端面側から撮像手段の光軸と平行に出て行く光である。すなわち、一端面側から隔壁に対して所定角度で入射されるとともに隔壁に対して所定角度で反射され、撮像手段の光軸と平行に出て行く光のみが撮像手段の撮像に寄与することとなる。
【0010】
一端面側から貫通孔に入射された光がクラックのない隔壁で反射されて他端面側から出る場合、撮像手段によって取得される隔壁の像はほぼ均一な明るさとなる。これに対し、一端面側から貫通孔に入射された光がクラックのある隔壁で反射される場合、クラックの部分では光が散乱されるため撮像手段の光軸と平行な反射光は弱められる。このことは、比較的大きなクラックのみならず、微細なクラックについてもいえる。そのため、撮像手段により撮像された画像データにおいてはクラックに対応する部分が他の隔壁部分よりも相対的に暗くなる。このため、撮像手段により得られた画像データにおいてその明暗を識別することにより、隔壁のクラックを検出することが可能となる。
【0011】
請求項2に記載の発明では、前記撮像手段により得られた画像データにおける相対的な明度差を識別することにより、相対的に暗い部分にクラックがあることを検出することを特徴している。上述の通り、撮像手段により撮像された画像データにおいてはクラックに対応する部分が他の隔壁部分よりも相対的に暗くなる。このため、画像データにおける相対的な明度差(明暗の差)を識別することにより、相対的に暗い部分にクラックがあることを検出することが可能となる。
【0012】
請求項3に記載の発明では、クラックが存在しない前記隔壁についての前記画像データにおける明度を予め基準明度として規定しておき、前記撮像手段により得られた画像データにおいて、前記基準明度と比較により明暗を識別して前記ハニカム構造体における隔壁のクラックを検出することを特徴としている。クラックが存在しない隔壁についての画像データにおける明度を基準明度とすれば、その基準明度との明暗を識別することにより、容易に隔壁のクラックを検出することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明では、前記ハニカム構造体の長さをL、前記貫通孔の口径をaとした場合において、前記撮像手段の光軸と前記貫通孔の軸線との実質的な傾斜角度θをθ=arctan(a/L)となるように設定することを特徴としている。これにより、一端面側から他端面側に至る隔壁の全長を撮像することができる。この結果、隔壁の全長におけるクラックの有無を一度に検査することができ、クラック検査の効率が向上する。
【0014】
請求項5に記載の発明では、テレセントリック光学系を用いて、複数の前記貫通孔から出た光を前記撮像手段の結像面に集光させることを特徴とすることを特徴としている。これにより、貫通孔の他端面側からテレセントリック光学系の光軸と平行に出てくる光をそれぞれ撮像手段の結像面に集光することができる。この結果、複数の隔壁におけるクラックの有無を一括して検査することが可能となり、検査の効率が向上する。
【0015】
請求項6に記載の発明では、前記テレセントリック光学系を用いて、全ての前記貫通孔から出た光を前記撮像手段の結像面に集光させることを特徴としている。これにより、全ての貫通孔における隔壁のクラックの有無を一括して検査することが可能となり、検査の効率が向上する。
【0016】
請求項7に記載の発明では、前記ハニカム構造体及び前記撮像手段の間に配設された凸レンズの光軸と前記撮像手段の光軸とを相対的に移動させることにより、実質的に前記撮像手段の光軸と前記貫通孔の軸線とを傾斜させることを特徴としている。凸レンズの光軸を撮像手段の光軸に対してずらした場合、凸レンズの光軸に対して所定の角度で入射した光が撮像手段の光軸上に集光する。すなわち、撮像手段の光軸を貫通孔の軸線に対して実質的に傾斜させた状態を作り出すことが可能となる。
【0017】
請求項8に記載の発明では、前記凸レンズとしてフレネル凸レンズを用いることを特徴としている。フレネル凸レンズを用いることでレンズを薄く且つ軽くすることができ、本発明に用いる装置を小型軽量化することが可能となる。
【0018】
請求項9に記載の発明は、隔壁により互いに区画された複数の貫通孔を有するハニカム構造体における隔壁のクラック検査装置に関するものである。そして、前記ハニカム構造体の一端面側から光を照射する光照射手段と、前記貫通孔の軸線方向に対して実質的に光軸を傾斜させた状態で、前記ハニカム構造体の他端面側に配設された撮像手段と、前記撮像手段により取得した画像データを表示する表示手段とを備えることを特徴としている。
【0019】
このような装置を用いることにより、上述の検査方法を好適に実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[第1実施形態]
以下、本発明にかかるハニカム構造体におけるクラック検査装置を具体化した第1の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1はクラック検査装置の全体構成を示す図である。本実施形態のハニカム構造体20はセラミックからなり、自動車用排ガス浄化装置のフィルタ等に用いられるものである。ハニカム構造体20は円柱形状であり、図9(a),(b)に示すごとく、隔壁21により区画された多数の貫通孔22が設けられている。各貫通孔22はハニカム構造体20における第1開口端面23と第2開口端面24との間で直線状に延び、両端面23,24間を貫通している。また、各貫通孔22は、その軸線がハニカム構造体の軸線Hに対して平行になるように形成されている。貫通孔22は断面正方形状であり、その一辺の長さaは約1mmである。貫通孔22(ハニカム構造体20)の長さL、即ち上記第1開口端面23から第2開口端面24までの距離は約100mmである。また、ハニカム構造体20の貫通方向に対して垂直な断面の最大径dは約150mmである。
【0022】
クラック検査装置10は、載置部30、照明装置40、テレセントリック光学系50、カメラ60、撮像制御部70及びモニタ80を備えて構成されている。
【0023】
載置部30には、円柱状のハニカム構造体20がその軸線を水平方向に向けて載置される。載置部30にはハニカム構造体20を挟持して載置部30上の所定位置に固定するための保持部31が設けられている。
【0024】
照明装置40は面光源であり、載置部30に載置されたハニカム構造体20の第1開口端面23側からハニカム構造体20に向けて光を照射する。照明装置40からは、ハニカム構造体20の貫通孔22と平行な成分の他に貫通孔22に対して斜行する成分を含む光が照射される。
【0025】
テレセントリック光学系50は、複数の貫通孔22の第2開口端面24側から出た光を集光するためのものである。テレセントリック光学系50とは、レンズの光軸に対して平行に入射した光線はレンズの焦点を通過するが、光軸に対して斜めに入射した光線は焦点を通過しないよう構成した光学系である。すなわち、図2に示すごとく、ハニカム構造体20の貫通孔22を通過した光のうち、レンズ51の光軸Tと平行な光のみがレンズ51の焦点位置fに設けた開口絞52を通過する。したがって、テレセントリック光学系50を用いることにより、テレセントリック光学系50の光軸Tと平行な光であれば、光軸Tから離れた光であっても、カメラ60の結像面61に集光することができる。
【0026】
図1及び図2に示すように、本実施形態では、テレセントリック光学系50はその光軸Tがハニカム構造体20の軸線Hと角度θ(=arctan(a/L))をなすように配置される。なお、図1に示すごとく、テレセントリック光学系50は、ハニカム構造体20の全ての貫通孔22から出た光を集光することができるよう構成してある。そして、検査像81はハニカム構造体20の全ての貫通孔22に対応して形成される。
【0027】
カメラ60はその光軸Cをテレセントリック光学系50の光軸Tに一致させた状態で接続されている。すなわち、カメラ60の光軸Cもハニカム構造体20の軸線Hと角度θをなすように配置される。これにより、カメラ60はハニカム構造体20の軸線Hに対して角度θの方向から隔壁21を撮像することが可能となっている。カメラ60としては、例えばCCDカメラ、CMOSカメラ、ラインセンサ等を用いることができる。カメラ60は、撮像制御部70からの撮像指令信号に応じて撮像を行うとともに、得られた画像データを撮像制御部70に送信する。
【0028】
撮像制御部70は、カメラ60に撮像指令信号を出力するとともにカメラ60で撮像された画像データを受信する。そして、この受信した画像データをモニタ80に出力する。これにより、カメラ60で取得された検査像81がモニタ80に表示される。
【0029】
次に本実施形態のクラック検査装置10を用いたクラック検査方法を説明する。
【0030】
まず、ハニカム構造体20を載置部30に載置するとともに保持部31にて載置部30上の所定位置に固定する。次いで、照明装置40によりハニカム構造体20の第1開口端面23の全面に光を照射する。そして、ハニカム構造体20の第2開口端面24から出た光をテレセントリック光学系50によって受ける。テレセントリック光学系50は、その光軸Tと平行な光のみを、カメラ60の結像面61に集光する。
【0031】
カメラ60は撮像制御部70からの撮像指令信号を受けて撮像を行うとともに取得した画像データを撮像制御部70に送信する。撮像制御部70は画像データをモニタ80に送信し、図3に示すごとく、モニタ80に検査像81を表示する。モニタ80に表示された検査像81は検査員により目視で確認される。そして、モニタ80に表示された検査像81の隔壁21に対応する部分において他の隔壁21の部分よりも暗く写っている箇所が確認できた場合、そこにクラックが存在していることが検出される。
【0032】
この点につき、図4を用いて詳述する。図4は、クラックの検出原理を説明するための模式的な図である。照明装置40によって照射された光は様々な方向に斜行する成分を含んでいる。そして、それら各斜行成分はハニカム構造体20の第1開口端面23から貫通孔22内に入射され、隔壁21によって反射されつつ貫通孔22の内部を通過する。第2開口端面24から出た光も様々な方向に斜行する成分を含んでいるが、テレセントリック光学系50の開口絞52を通過するのはテレセントリック光学系50の光軸Tと平行な方向の成分のみである。すなわち、光軸Tと平行にテレセントリック光学系50に入射する光のみがカメラ60による撮像に寄与することとなる。
【0033】
第1開口端面23側から貫通孔22に入射された光がクラック25のない隔壁21で反射されて第2開口端面24から出た場合、検査像81におけるその隔壁21に対応する部分はほぼ均一な明るさとなる。これに対し、第1開口端面23側から貫通孔22に入射された光が微細なクラック25のある隔壁21で反射される場合、クラック25の部分では光が散乱され光軸Tと平行な反射光は弱められる。そのため、光軸Tと平行な光を集光して得られた検査像81においてはクラック25に対応する部分がクラック25のない隔壁21部分よりも暗くなる。このため、検査像81において他よりも暗い部分を含む隔壁21がある場合には、その隔壁21にクラック25が存在していることがわかる。
【0034】
以上詳述した本実施の形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0035】
隔壁21のクラック25の部分では、光は入射角と同一の角度で反射せずに散乱する。すなわち、クラック25が存在する隔壁21で反射した光を集光した場合、クラック25がない部分で反射した光と平行な反射光はクラック25の部分では弱められることとなる。これにより、テレセントリック光学系50の光軸T(カメラ60の光軸C)とハニカム構造体20の軸線Hとを傾斜させた状態で隔壁21を撮像し、得られた検査像81うち基準の明るさよりも暗く写っている隔壁21の部分を検出することで微細なクラック25についても容易に検査することが可能となる。
【0036】
すなわち、本実施形態では、テレセントリック光学系50の光軸T(カメラ60の光軸C)とハニカム構造体20の軸線Hとを傾斜させることにより、隔壁21で反射する光により形成される検査像81を取得している。微細なクラックであっても反射光の強度に影響するため、隔壁21を斜め方向に貫通する光によりクラックの検出を行う検査方法と異なり、微細なクラックをも好適に検出することができる。
【0037】
なお、本実施形態では、クラック25の有無を判別するための基準の明るさを、検査像81におけるクラック25のない隔壁21の部分の明るさとしている。この明るさを基準とすれば、それより暗い部分を検出することで容易に隔壁21のクラック25を検出することができる。
【0038】
本実施形態では、ハニカム構造体20の軸線H(すなわち貫通孔22の軸線)とテレセントリック光学系50の光軸Tとを角度arctan(a/L)だけ傾斜させた。これにより、第1開口端面23側から第2開口端面24側に至る隔壁21の全長における検査像81を得ることができる。この結果、隔壁21の全長におけるクラック25の有無を一度に検査することができ、クラック検査の効率が向上する。
【0039】
本実施形態では、ハニカム構造体20の第2開口端面24から出た光を、テレセントリック光学系50を用いて集光した。これにより、第2開口端面24からテレセントリック光学系50の光軸Tと平行に出てくる光を略均一にそれぞれカメラ60の結像面61に集光することができる。この結果、検査像81はハニカム構造体20の複数の隔壁21に対応して形成される。この検査像81を用いることにより、複数の隔壁21におけるクラック25の有無を一括して検査することが可能となり、検査の効率が向上する。
【0040】
また、本実施形態では、テレセントリック光学系50は、ハニカム構造体20の全ての貫通孔22から出た光をカメラ60の結像面61に集光することができるよう構成してあり、検査像81はハニカム構造体20の全ての隔壁21に対応して形成される(図3)。これにより、ハニカム構造体20の全ての貫通孔22について、一括してクラック検査を行うことができる。そのため、クラック検査の効率が一層向上する。
【0041】
[第2実施形態]
次に本発明を具体化した第2実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図5に示すように、本実施形態のクラック検査装置110は、照明装置140、フレネル凸レンズ150、レンズ移動手段151、カメラ160、撮像制御部170、モニタ180、コントローラ190及び操作手段191を備えて構成されている。
【0042】
照明装置140は面光源である。照明装置140は発光面を鉛直上方向に向けて設置されており、照明装置140の上には第1開口端面23を下にしたハニカム構造体20が載置される。照明装置140からはハニカム構造体20の貫通孔22と平行な成分の他に貫通孔22に対して斜行する成分を含む光が上方に照射される。
【0043】
フレネル凸レンズ150は照明装置140の上方に設けられている。そして、レンズ移動手段151からの信号を受けて、水平面内で直交する2方向(x、y軸方向)に移動可能に構成されている。レンズ移動手段151は、コントローラ190からの信号を受けてフレネル凸レンズ150をx、y方向に移動させるものである。
【0044】
カメラ160は広角レンズ161がマウントされている点を除いて第1実施形態のカメラ60と同様であり、撮像制御部170はコントローラ190からの信号を受けて作動する点を除いて第1実施形態の撮像制御部70と同様である。また、モニタ180は第1実施形態のモニタ80と同様である。
【0045】
検査員が操作手段191を操作することにより、コントローラ190には操作入力信号が入力される。操作入力信号を受けて、コントローラ190は上述のようにレンズ移動手段151及び撮像制御部170に制御指令信号を出力する。
【0046】
ここで、フレネル凸レンズ150を水平面内で移動した場合の作用について説明する。フレネル凸レンズ150の光軸Fがカメラ160の光軸Cと一致している場合には、図7(a)に示すように、フレネル凸レンズ150の下面に垂直に入射した光は、光軸C,F上に存在するフレネル凸レンズ150の焦点に集まる(この場合の焦点位置をf0とする)。次に、フレネル凸レンズ150を、図7(b)に示すようにx軸方向に距離x0だけ移動した場合について考える。この場合においては、位置f0に集光する光は、フレネル凸レンズ150の下面に対して所定角度で平行に入射する光である。すなわち、フレネル凸レンズ150をxy平面内で移動することにより、実質的にハニカム構造体20の軸線Hに対して傾斜した方向(図8(b)の二点鎖線の傾斜方向)からハニカム構造体20を見たのと同様の効果を得ることができる。したがって、フレネル凸レンズ150の移動距離を適切に設定することで、第1実施形態と同様、ハニカム構造体20の軸線Hに対して角度θ(=arctan(a/L))だけ傾斜させた方向からカメラ160で撮像したのと同様の検査像を得ることが可能となる。
【0047】
次に、本実施形態のクラック検査装置110を用いたクラック検査方法を説明する。まず、フレネル凸レンズ150を照明装置140上から退避させた状態で、第1開口端面23を下にした状態のハニカム構造体20を照明装置140上に載置する。この際、ハニカム構造体20の軸線Hとカメラ160のレンズの光軸Cとを一致させる。ハニカム構造体20の軸線Hとカメラ160のレンズの光軸Cとを一致させるためには、カメラ160によって撮像された検査像181をモニタ180で確認しながら、ハニカム構造体20の載置位置を調整するとよい。
【0048】
次に、操作手段191を操作することによりフレネル凸レンズ150をハニカム構造体20上に移動させ、カメラ160の光軸Cとフレネル凸レンズ150の光軸Fとを一致させる。両光軸C,Fが一致した状態においては、フレネル凸レンズ150の下面に垂直に入射した光がカメラ160の光軸C上に集まる。すなわち、両光軸C,Fが一致した状態の検査像181は、ハニカム構造体20の各貫通孔22を第2開口端面24側の真上から見たものとなる。そして、検査像181における貫通孔22に対応する位置には隔壁21を反射することなく貫通孔22を直進してきた光が映し出されているため、図7に示すように隔壁21と貫通孔22との明暗差が最も明確となった状態である。この状態であることも、モニタ180を見ながら確認することができる。
【0049】
カメラ160の光軸Cとフレネル凸レンズ150の光軸Fとが一致したら、この状態からフレネル凸レンズ150をx軸方向に移動させる。フレネル凸レンズ150の移動は、モニタ180に出力された検査像181を見ながら行い、隔壁21で反射することなく貫通孔22を直行した光が検査像181に現れなくなった状態(図5の状態)でフレネル凸レンズ150の移動を停止する。この状態は、ハニカム構造体20の軸線Hとカメラ160のレンズの光軸Cとを角度θ(=arctan(a/L))だけ実質的に傾斜させた状態である。そして、この状態において、モニタ180に表示された検査像181が検査員により目視で確認される。そして、モニタ80に表示された検査像81の隔壁21に対応する部分において他の隔壁21よりも暗く写っている箇所がある場合には、その隔壁21にクラック25が存在していることがわかる。
【0050】
その後、カメラ160の光軸Cとフレネル凸レンズ150の光軸Fとを再度一致させるとともに、フレネル凸レンズ150の移動をx軸の逆方向、及びy軸の正負各方向について同様に行う。これにより、各貫通孔22を形成する4つの隔壁21におけるクラック25の有無を検査することができる。また、必要に応じて、ハニカム構造体20の第1開口端面23側からの検査を行ってもよい。
【0051】
本実施形態においても、フレネル凸レンズ150を移動させることにより、カメラ160のレンズの光軸Cとハニカム構造体20の軸線Hとを実質的に傾斜させた状態を作り出している。これにより、第1実施形態と同様、カメラ160のレンズの光軸Cをハニカム構造体20の軸線Hと実質的に傾斜させた状態で貫通孔22の内部の隔壁21を撮像することができる。そして、隔壁21の検査像181うち基準の明るさよりも暗く写っている部分を検出することで微細なクラック25についても容易に検査することが可能となる。
【0052】
本実施形態では、フレネル凸レンズ150移動させる構成を採用することで、ハニカム構造体20の軸線Hとカメラ160のレンズの光軸Cとの実質的な傾斜角度の微調整を容易に行うことが可能となる。また、フレネル凸レンズ150を用いることでレンズを薄く且つ軽くすることができる。
【0053】
[他の実施形態]
上記実施形態では、隔壁21に微細なクラック25がある場合について説明した。しかし、本発明は微細なクラック25のみでなく、比較的大きなクラック25の検査にも適用できる。図8は、比較的大きなクラックの検出原理を説明するための模式的な図である。図8に示すように、比較的大きなクラック25が存在する場合には、隣接する貫通孔22から貫通孔22内に光が入射されるが、隔壁21の厚さに相当する部分の影(図8の斜線部分)は生じる。したがって、比較的大きなクラック25の場合においても、他より暗い部分を検出することにより、上記各実施形態の構成及び方法でクラック25の検査を行うことが可能である。
【0054】
上記各実施形態においては、モニタ80,180に表示された検査像81,181を目視で観察したが、この代わりに画像処理装置で自動判別させてもよい。即ち、隔壁21に存在するクラック25は、検査像81,181における明度の差として現れる。そのため、画像明度を指標とすることで画像処理装置によるクラック25の有無の自動判別を容易に実現することができる。
【0055】
第1実施形態ではテレセントリック光学系50を用いてハニカム構造体20の全ての貫通孔22から出た光を集光した。しかし、テレセントリック光学系による集光はこれに限るものではない。たとえば、ハニカム構造体20に含まれる貫通孔22を複数のグループに分割し、グループごとに貫通孔22から出た光を集光するようにしてもよい。これによっても、複数の貫通孔22について一括してクラック検査を行うことができるので、効率よくクラック検査を行うことが可能である。また、テレセントリック光学系50を用いずに、カメラ60を移動させながら各隔壁21のクラック25を検査することも可能である。
【0056】
第2実施形態では、フレネル凸レンズ150を用いたが、単なる凸レンズを用いてもカメラ160のレンズの光軸Cをハニカム構造体20の軸線Hと実質的に傾斜させた状態を作り出すことができる。また、第2実施形態では、カメラ160に広角レンズ161をマウントさせたが、広角レンズ161は本発明に必須の要件ではない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】第1実施形態に係るクラック検査装置の全体構成を示す図。
【図2】テレセントリック光学系の説明図。
【図3】モニタに表示される検査像を示す図。
【図4】クラックの検出原理を説明するための模式的な図。
【図5】第2実施形態に係るクラック検査装置の全体構成を示す図。
【図6】フレネル凸レンズを移動させた場合の作用を示す図。
【図7】モニタに表示される検査像を示す図。
【図8】クラックの検出原理を説明するための模式的な図。
【図9】(a)はハニカム構造体の斜視図、(b)はハニカム構造体の軸方向断面図。
【符号の説明】
【0058】
10…クラック検査装置、20…ハニカム構造体、21…隔壁、22…貫通孔、23…第1開口端面、24…第2開口端面、25…クラック、30…載置部、31…保持部、40…照明装置、50…テレセントリック光学系、60…カメラ、70…撮像制御部、80…モニタ、81…検査像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔壁により互いに平行に且つ直線状に形成された多数の貫通孔を有するハニカム構造体において、前記隔壁のクラックを検査するクラック検査方法であって、
前記ハニカム構造体の一端面側から光照射手段により光を照射し、
この光照射状態において、前記貫通孔の軸線方向に対して実質的に光軸を傾斜させた撮像手段を用いて前記ハニカム構造体を他端面側から撮像し、
前記撮像手段により得られた画像データにおいて、その明暗を識別することにより、前記ハニカム構造体における隔壁のクラックを検出することを特徴とするハニカム構造体のクラック検査方法。
【請求項2】
前記撮像手段により得られた画像データにおける相対的な明度差を識別することにより、相対的に暗い部分にクラックがあることを検出することを特徴とする請求項1に記載のハニカム構造体のクラック検査方法。
【請求項3】
クラックが存在しない前記隔壁についての前記画像データにおける明度を予め基準明度として規定しておき、
前記撮像手段により得られた画像データにおいて、前記基準明度と比較により明暗を識別して前記ハニカム構造体における隔壁のクラックを検出することを特徴とする請求項1に記載のハニカム構造体のクラック検査方法。
【請求項4】
前記ハニカム構造体の長さをL、前記貫通孔の口径をaとした場合において、前記撮像手段の光軸と前記貫通孔の軸線との実質的な傾斜角度θを
θ=arctan(a/L)
となるように設定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のハニカム構造体のクラック検査方法。
【請求項5】
テレセントリック光学系を用いて、複数の前記貫通孔から出た光を前記撮像手段の結像面に集光させることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のハニカム構造体のクラック検査方法。
【請求項6】
テレセントリック光学系を用いて、全ての前記貫通孔から出た光を前記撮像手段の結像面に集光させることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のハニカム構造体のクラック検査方法。
【請求項7】
前記ハニカム構造体及び前記撮像手段の間に配設された凸レンズの光軸と前記撮像手段の光軸とを相対的に移動させることにより、実質的に前記撮像手段の光軸と前記貫通孔の軸線とを傾斜させることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のハニカム構造体のクラック検査方法。
【請求項8】
前記凸レンズとしてフレネル凸レンズを用いることを特徴とする請求項7に記載のハニカム構造体のクラック検査方法。
【請求項9】
隔壁により互いに平行に且つ直線状に形成された多数の貫通孔を有するハニカム構造体において、前記隔壁のクラックを検査するクラック検査装置であって、
前記ハニカム構造体の一端面側から光を照射する光照射手段と、
前記貫通孔の軸線方向に対して実質的に光軸を傾斜させた状態で、前記ハニカム構造体の他端面側に配設された撮像手段と、
前記撮像手段により取得した画像データを表示する表示手段とを備えることを特徴とするハニカム構造体のクラック検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−139052(P2008−139052A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323075(P2006−323075)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】