説明

ハニカム構造体及びその製造方法

【課題】軽量及び低圧損でありながら、セル壁の強度に優れ、端面風食の発生を抑制できるハニカム構造体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】コージェライトの多孔質体よりなると共に多角形格子状に配設されたセル壁11と、これに区画された多数のセル12とを有するハニカム構造体1である。その気孔率は30%以上で、セル壁11の厚みは80μm以下である。ハニカム構造体1において、単位重量あたりに有する細孔のうち細孔径40μm以上の細孔の容積の合計量である粗大細孔量が0.012cc/g以下である。ハニカム構造体1の製造にあたっては、比表面積3.5m2/g以上のタルクを採用し、焼成工程における温度1250〜1400℃における昇温速度を150℃/h以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジン等の内燃機関から排出されるガスを浄化する排ガス浄化触媒装置において、触媒担体として使用されるコージェライトを主成分とするハニカム構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車エンジンの排ガス浄化触媒を担持するための触媒担体として、コージェライトハニカム構造体が広く使用されている。コージェライトハニカム構造体は、通常、タルク、カオリン、アルミナ等を出発原料とし、これらコージェライト化原料を所望のコージェライト組成となるように調合し、所望のハニカム形状に成形した後、焼成することにより製造される(特許文献1参照)。
【0003】
自動車用の上記触媒担体は、浄化性能の向上、軽量化、及び低圧損化が要求されており、これに伴い、近年、ハニカム構造体のセル壁の薄肉化及び高気孔率化が進んでいる。
ところが、セル壁を薄くしたり、気孔率を高くしたりすると、ハニカム構造体の強度が低下するという問題がある。
そのため、この強度低下を防止する必要がある。
強度低下を防止するための方法の一つとして、特許文献2及び3に記載の方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−197550号公報
【特許文献2】特表2003−502261号公報
【特許文献3】米国特許第6773657B2号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法による高強度化は十分ではなく、さらに有効な別の解決方法が模索されていた。
図11及び図12に示すごとく、ハニカム構造体9を排ガス流路に配置した場合、排気管表面の溶接付着物等が排ガスによって飛散して飛散物99となり、該飛散物99がハニカム構造体9の端面90に衝突し、端面90を破壊する端面風食という現象が起こるおそれがある。
端面風食は、セル壁91の薄肉化及び高気孔率化によって顕著になってしまう。特に気孔率を例えば30%以上に高くすると端面風食が発生し易くなるため、端面風食を抑制するためには、気孔率を低くする必要があった。しかし、気孔率を低くすると重量が大きくなると共に、浄化性能が悪化してしまう。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、軽量及び低圧損でありながら、セル壁の強度に優れ、端面風食の発生を抑制できるハニカム構造体及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、コージェライトの多孔質体よりなると共に多角形格子状に配設されたセル壁と、該セル壁に区画された多数のセルとを有するハニカム構造体において、
気孔率が30%以上で、上記セル壁の厚みが80μm以下であり、
単位重量あたりに有する細孔のうち細孔径40μm以上の細孔の容積の合計量である粗大細孔量が0.012cc/g以下であることを特徴とするハニカム構造体にある(請求項1)。
【0008】
第2の発明は、第1の発明のハニカム構造体を製造する方法であって、
タルクを含むコージェライト化原料を準備する原料準備工程と、
上記コージェライト化原料を押出成形してハニカム成形体を得る押出成形工程と、
上記ハニカム成形体を乾燥させる乾燥工程と、
上記ハニカム成形体を焼成して上記ハニカム構造体を得る焼成工程とを有し、
上記原料準備工程においては比表面積3.5m2/g以上のタルクを採用し、上記焼成工程においては温度1250〜1400℃における昇温速度を150℃/h以下にすることを特徴とするハニカム構造体の製造方法にある(請求項4)。
【発明の効果】
【0009】
本発明のハニカム構造体は、気孔率が30%以上で、上記セル壁の厚みが80μm以下であり、軽量化及び低圧損化に対応したハニカム構造体である。かかるハニカム構造体においては、セル壁の強度が問題となるが、本発明のハニカム構造体においては、上記粗大細孔量を0.012cc/g以下にしてある。そのため、上記セル壁が十分に優れた強度を示し、端面風食を抑制することができる。
【0010】
即ち、本願発明者らは、端面風食は、飛散物が衝突したときにハニカム構造体の端面側に存在する細孔径が最大の細孔を起点にして発生する点に着目し、気孔率を大きくし、セル壁厚みを小さくしても、細孔径の大きな細孔が少なければ端面風食を抑制できることを見出した。
上記のごとく、本発明のハニカム構造体においては、細孔径40μm以上の粗大な細孔の細孔量(粗大細孔量)を0.012cc/g以下にしてあるため、気孔率30%以上、セル壁厚み80μm以下という軽量化に対応したハニカム構造体においても、例えば端面風食量5g以下のレベルまで端面風食の発生を抑制することができる。なお、端面風食量は、飛散物により破壊されたセル壁の重量である。
【0011】
このように、上記第1の発明によれば、軽量及び低圧損でありながらも、セル壁の強度に優れ、端面風食の発生を抑制できるハニカム構造体を提供することができる。
【0012】
第2の発明においては、上記原料準備工程と上記押出成形工程と上記乾燥工程と上記焼成工程とを行うことにより上記ハニカム構造体を製造する。
本発明においては、上記原料準備工程において比表面積3.5m2/g以上のタルクを採用し、上記焼成工程においては温度1250〜1400℃における昇温速度を150℃/h以下にする。
そのため、上記ハニカム構造体の気孔率を30%以上にまで高くしても、細孔径40μm以上の粗大な細孔の量を減らすことができる。
【0013】
通常、図10の細孔分布図に示すように、例えば気孔率を30%未満にまで低くした場合(図10のグラフA参照)においては、細孔径40μm以上の粗大な細孔の量は少なくなるが、気孔率を30%以上にまで高くした場合(図10のグラフB参照)においては、必然的に細孔分布が細孔径の大きい側(図10の右側)にシフトし、細孔径40μm以上の粗大な細孔の量(図10のドットハッチング部分の面積)が増大する。
【0014】
本発明のように、比表面積3.5m2/g以上のタルクを採用し、上記焼成工程において温度1250〜1400℃における昇温速度を150℃/h以下に制御すると、気孔率を30%以上にしても細孔径40μm以上の粗大な細孔の量を0.012cc/g以下にまで抑制することができる(図10のグラフC参照)。その結果、第1の発明のように、気孔率30%以上で、上記セル壁の厚みが80μm以下としても、粗大細孔量が0.012cc/g以下であるハニカム構造体を製造することができる。即ち、浄化性能に優れ、軽量かつ低圧損で、セル壁の強度に優れ、端面風食の発生を抑制できるハニカム構造体を得ることができる。
【0015】
このように、上記第2の発明によれば、軽量及び低圧損でありながらも、セル壁の強度に優れ、端面風食の発生を抑制できるハニカム構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1にかかる、ハニカム構造体の全体構造を示す説明図。
【図2】実施例1にかかる、ハニカム構造体の端面を拡大して示した説明図。
【図3】実施例1にかかる、ハニカム構造体の表面の走査型電子顕微鏡写真を示す説明図。
【図4】実施例1にかかる、水銀ポロシメータによる細孔容積の測定原理を示す説明図。
【図5】実施例1にかかる、端面風食の評価方法を示す説明図。
【図6】実施例1にかかる、球状シリカの走査型電子顕微鏡写真を示す説明図。
【図7】実施例1にかかる、球状シリカの粒度分布を示す説明図。
【図8】実施例1にかかる、端面風食量とハニカム構造体の粗大細孔量との関係を示す説明図。
【図9】実施例2にかかる、ハニカム構造体の粗大細孔量と、タルクの比表面積及び昇温速度との関係を示す説明図。
【図10】細孔径と細孔量の関係を示す説明図。
【図11】従来の一般的なハニカム構造体の全体構造を示す説明図。
【図12】ハニカム構造体の端面風食を示す説明図。
【図13】実施例3にかかる、セルピッチ幅と端面風食量との関係を示す説明図。
【図14】実施例4にかかる、断面六角形状のセル及び断面四角形状のセルをそれぞれ有する2種類のハニカム構造体の端面風力量を示す説明図。
【図15】実施例4にかかる、セル壁を四角格子状に配してなる四角形状のセルの断面を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上記ハニカム構造体においては、気孔率が30%以上で、上記セル壁の厚みが80μm以下である。
気孔率が30%未満の場合には、上記ハニカム構造体の軽量化が困難になったり、浄化性能が悪化するおそれがある。
また、上記セル壁の厚みが80μmを超える場合には、上記ハニカム構造体の軽量化が困難になるおそれがある。
【0018】
上記セル壁の強度を保つという観点から、上記セル壁の気孔率は35%以下であることが好ましく、上記セル壁の厚みは50μm以上がよい。
上記セル壁の気孔率は水銀圧入法により測定することができる。また、上記セル壁の厚みは光学顕微鏡を用いて測定することができる。
【0019】
また、上記ハニカム構造体においては、上記粗大細孔量が0.012cc/g以下である。粗大細孔量は、ハニカム構造体の単位重量あたりに存在する細孔のうち、細孔径40μm以上の粗大な細孔の容積の合計量であり、水銀圧入法により測定することができる。
粗大細孔量が0.012cc/gを超える場合には、上記セル壁の強度が不十分になり、端面風食が起こりやすくなるおそれがある。好ましくは粗大細孔量は0.008cc/g以下がよい。
【0020】
また、上記ハニカム構造体においては、上記セルのピッチ幅が1.0mm以下であることが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記ハニカム構造体内におけるセル数が増大し、上記ハニカム構造体の表面積を大きくすることができると共に、セル壁が多くなり上記ハニカム構造体の強度を向上させることができる。ピッチ幅が1.0mmを超える場合には、上述の効果が得られなくなるおそれがある。
【0021】
また、上記セル壁は六角形格子状に配されていることが好ましい(請求項3)。
この場合には、四角形格子状に配した場合に比べてセル1辺の長さが短く(0.62倍)なる。そのため、端面風食で発生するストレスをより小さくすることができる。それ故、端面風食の発生をより一層抑制することができる。
具体的には、セル壁11の交点が支持点になると仮定すると、セル壁11が六角形格子状に配されてなる六角形状のセル12は、セル壁11が四角格子状に配されてなる四角形状のセル125に比べて1辺の長さaが短くなるため、支点からの曲げモーメントが小さくなる(図2及び図15参照)。したがって、飛来物等によって起る端面風食の発生を抑制することができる。
表1に、セル数600〜1200個のハニカム構造体について、六角形状セル12と四角形状セル125について、ピッチ幅Aとセル1辺の長さaをそれぞれ示す。
なお、表1に示すピッチ幅A及びセル1辺の長さaについては、セル壁11の厚みを二等分する位置を基点にしてある。
【0022】
【表1】

【0023】
次に、本発明の製造方法においては、上記のごとく、上記原料準備工程と上記押出成形工程と上記乾燥工程と上記焼成工程とを行う。
上記原料準備工程においては、タルクを含むコージェライト化原料を準備する。
上記コージェライト化原料は、例えばタルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウム等を混合することにより得ることができる。
【0024】
上記原料準備工程においては、比表面積3.5m2/g以上のタルクを採用する。
比表面積3.5m2/g未満のタルクを用いると、焼成工程後に細孔径40μm以上の粗大な細孔が発生し易くなる。また、焼成収縮率が大きくることに起因する焼成割れと形状変化の抑制という観点からタルクの比表面積の上限は8.0m2/g以下がよい。
【0025】
また、上記押出成形工程においては、上記コージェライト化原料を所望の多角形格子状に押出成形してハニカム成形体を得る。また、押出成形後に切断を行うことにより、容易に所望の寸法のハニカム成形体を得ることができる。押出成形を行うことにより、連続成形が可能であると共に、コージェライト結晶を配向させやすくすることができる。
【0026】
上記乾燥工程においては、上記ハニカム成形体を乾燥させる。
上記乾燥工程は、上記ハニカム成形体中の水分等を蒸発させるために行われる。上記乾燥工程は、例えば熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等により実施することができる。これらの中でも、全体を迅速かつ均一に乾燥できるという観点から、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥とを組み合わせて乾燥工程を実施することが好ましい。
また、上記乾燥工程は、例えば温度80℃〜120℃で加熱することにより行うことができる。加熱時間はハニカム成形体の大きさなどに合わせて適宜調整することができる。
【0027】
また、上記焼成工程においては、上記ハニカム成形体を焼成して上記ハニカム構造体を得る。
焼成温度及び時間は、コージェライトの組成及びハニカム成形体の大きさなどによって適宜変更することができる。例えば焼成温度1380〜1425℃で4〜10時間の焼成を行うことができる。
好ましくは焼成温度は1350℃以上がよく、より好ましくは1400℃以上がよい。1350℃未満の場合には、コージェライトの生成が十分に進行し難くなるおそれがある。
【0028】
また、上記焼成工程の焼成においては、温度1250〜1400℃における昇温速度を150℃/h以下にする。
温度1250〜1400℃における昇温速度が150℃/hを超える場合には、細孔径40μm以上の粗大な細孔が多くなり易くなる。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
次に、本発明のハニカム構造体の実施例及び比較例につき図1〜図7を用いて説明する。
図1及び図2に示すごとく、本例のハニカム構造体1は、コージェライトの多孔質体よりなると共に多角形格子状に配設されたセル壁11と、これに区画された多数のセル12とを有する。本例においては、セル壁11は、正六角形格子状に配設されており、セル12は円柱状のハニカム構造体の軸方向と垂直な断面又はハニカム構造体1の端面10において正六角形状となる。
また、セルピッチ(図2における幅A)は1.0mmであり、ハニカム構造体1は全体として円柱形状を有する。また、ハニカム構造体1は、多孔質体であり多数の細孔を有している。図3に、ハニカム構造体表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。同図においては、白〜灰色の部分がコージェライト部分であり、黒い部分が細孔である。
【0030】
ハニカム構造体1においては、気孔率は30%以上で、セル壁11の厚みは80μm以下である。
また、実施例にかかるハニカム構造体1においては、単位重量あたりにハニカム構造体1が有する細孔のうち細孔径40μm以上の細孔の量(粗大細孔量)が0.012cc/g以下である。
【0031】
本例のハニカム構造体は、原料準備工程と押出成形工程と乾燥工程と焼成工程とを行うことにより製造する。
原料準備工程においては、タルクを含むコージェライト化原料を準備する。
押出成形工程においは、コージェライト化原料を多角形格子状(本例においては六角形格子状)に押出成形してハニカム成形体を得る。
乾燥工程においては、ハニカム成形体を乾燥させる。
焼成工程においては、ハニカム成形体を焼成してハニカム構造体を得る。
本発明の実施例にかかるハニカム構造体の製造にあたっては、上記原料準備工程においては比表面積3.5m2/g以上のタルクを採用し、上記焼成工程においては温度1250〜1400℃における昇温速度を150℃/h以下にする。
【0032】
本例においては、本発明の実施例及び比較例にかかる10種類のハニカム構造体(試料X1〜試料X10)を作製する。
代表例として試料X6の製造方法について具体的に説明する。
まず、タルク39.8質量部、カオリン14.3質量部、焼カオリン26.6質量部、アルミナ4.8質量部、及び水酸化アルミニウム14.5質量部を混合し、この混合粉100質量部に対して水を28質量部、有機バインダー5.5質量部、潤滑剤3.0質量部を添加してニーダーで混練した後、目開き150μmのスクリュー式混練機にて、混練・濾過を行い、コージェライト化原料を得た(原料準備工程)。タルクとしては、比表面積が3.5m2/gのものを採用した。
【0033】
次に、縦型プランジャー押出機を用いて、コージェライト化原料を成形し、直径109.7mm、長さ110mm、セル壁厚さ80μm、セルピッチ1.0mm、セル形状六角形のハニカム成形体を得た(押出成形工程)。なお、上述の成形体の長さは、成形後に行う後述の乾燥工程後に両端を切断した後の寸法である。
【0034】
次に、ハニカム成形体の水分を十分に除去するまで乾燥した(乾燥工程)。
次いで、ハニカム成形体を焼成温度1420℃で10時間焼成した(焼成工程)。焼成工程においては、室温から焼成温度(最高温度)1420℃まで昇温させる際に、温度1250〜1400℃における昇温速度を100℃/hに設定した。
このようにして、ハニカム構造体(試料X6)を得た。
【0035】
また、本例においては、上述の試料X6の製造条件とは、タルクの比表面積、温度1250〜1400℃における昇温速度、及びセル壁厚さを変更してさらに9種類のハニカム構造体(試料X1〜試料X5、及び試料X7〜試料X10)を作製した。これらの試料は、上述の比表面積、昇温速度、及びセル壁厚さを変更した点を除いては上記試料X6と同様にして作製した。
各試料(試料X1〜試料X10)の作製に用いたタルクの比表面積、焼成時の温度1250〜1400℃における昇温速度、セル壁厚さを後述の表2に示す。
【0036】
次に、各試料の気孔率、及び粗大細孔量を測定した。粗大細孔量は、単位重量あたりのセル壁が有する細孔のうち細孔径40μm以上の細孔の容積の合計量(cc/g)である。気孔率及び粗大細孔量は、水銀圧入法の原理を利用した水銀ポロシメータを用いて行う。
【0037】
水銀ポロシメータは固体中の細孔の大きさ(細孔径)や、その容積を測定することによって、その固体の物理的形状の情報を得ようとするものである。その原理は、ほとんどの物質と反応せず、漏れもない水銀を固体の細孔中へ圧入し、そのときに加えた圧力と、押し込まれた(侵入した)水銀容積の関係を測定することに基づく。もちろんその前に固体細孔中の空気などの気体は、完全に脱気されている必要がある。
加えられた圧力と、その圧力で水銀が侵入可能な細孔径の関係は、下記の式(1)に示すWashburnの式で導かれる。
D=−4γcosθ/P・・・(1)
式(1)において、Pは加える圧力、Dは細孔径、γは水銀の表面張力(480dyne cm-1)、θは水銀と細孔壁面の接触角で通常140°である。γ、θは定数であるから、Washburnの式から、加えた圧力Pと細孔径Dの関係が求められ、その時の侵入容積を測定することにより、細孔径とその容積分布が導かれる。
そして、図4に示すように、水銀5を充填した試料セル6を高圧容器7内でP0<P1<P2<P3の順に加圧すると、水銀5はハニカム構造体1の大きな細孔から小さな細孔へと順に侵入していく。
このように、水銀圧入法においては、水銀がハニカム構造体の気孔に進入する際の圧力から細孔径を求め、また細孔に入った水銀の容積から細孔容積を求めることができる。
【0038】
本例においては、上述の水銀圧入法の原理に基づいた水銀ポロシメータとして、(株)島津製作所製のオートポアIV9500を採用した。測定にあたっては、ハニカム構造体の細孔への水銀の圧入時における接触角を140°、表面張力を480dynes/cm、圧力を0.0045〜420MPaに設定した。また、測定ステップ(μm)を、200、150、70、40、20、10、5.0、2.0、1.0、0.5、0.1、0.05、0.03に設定した。なお、この測定ステップは、細孔径のことである。
このようにして、各試料について細孔径とその容積分布が得られる。
気孔率は、全細孔容積÷(全細孔容積+1/2.52)×100という式に基づいて算出した。その結果を表2に示す。
また、粗大細孔量は、細孔径40μm以上の粗大な細孔の細孔容積(単位重量あたり)の合計から求めた。その結果を表2に示す。
【0039】
次に、各試料について端面風食の評価を行った。
具体的には、図5に示すごとく、ショットブラスト2(新東工業(株)製のMY−30BC)を用いて、各試料のハニカム構造体1の端面10に球状シリカを衝突させた。衝突させる球状シリカの走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)を図6に示し、粒度分布を図7に示す。
ショットブラスト2による球状シリカの投射条件は、投射圧:0.5〜1.5kg/cm2、投射時間:0.5〜2分とした。また、図5に示すごとく、ショットブラスト2による球状シリカの噴射方向Xは、ハニカム構造体1の軸方向Zから角度α(α=45°)傾けた方向に設定した。
そして、球状シリカの衝突前後におけるハニカム構造体の重量を測定し、端面腐食量=衝突前の基材重量−衝突後の基材重量という式から端面風食量を算出した。
各試料についての端面風食量を表2に示し、端面風食量と各試料の粗大細孔量との関係を図8に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2及び図8に示すごとく、気孔率が30%以上でかつセル壁の厚みが80μm以下であるという軽量化及び低圧損化に対応したハニカム構造体においては、粗大細孔量が0.012cc/g以下のハニカム構造体(試料X5〜試料X9)の端面風食量が十分に低下していた。
この結果から、セル壁の気孔率が30%以上で、厚みが80μm以下のハニカム構造体においては、細孔径40μm以上の細孔の容積の合計量である粗大細孔量を0.012cc/g以下にすることにより、軽量及び低圧損に対応しつつも、セル壁の強度に優れ、端面風食の発生を抑制できるハニカム構造体を実現できることがわかる。
また、表2から知られるごとく、粗大細孔量0.012cc/g以下のハニカム構造体(試料X5〜試料X9)は、比表面積3.5m2/g以上のタルクを採用し、かつ焼成工程の温度1250〜1400℃における昇温速度を150℃/h以下に制御することにより実現できることがわかる。
【0042】
(実施例2)
実施例1においては、軽量及び低圧損で、セル壁の強度に優れ、端面風食の発生を抑制できるハニカム構造体を実現するためには、粗大細孔量を0.012cc/g以下にすることが重要であり、タルクの比表面積及び焼成工程における特定温度域の昇温速度が粗大細孔量に影響を与えることがわかった。本例においては、粗大細孔量0.012cc/g以下のハニカム構造体を得るための製造条件をさらに検討する。
【0043】
本例においては、タルクの比表面積及び焼成工程の温度1250〜1400℃における昇温速度を、後述の表3に示すように変更して10種類のハニカム構造体(試料X11〜試料X20)を作製した。試料X11〜試料X20は、タルクの比表面積及び上記昇温速度を変更した点を除いては実施例1の試料X6と同様にして作製した。
【0044】
これらの試料X11〜試料X20について、気孔率と、細孔径40μm以上の細孔の容積の合計量である粗大細孔量、及びを測定した。気孔率、粗大細孔量、及び端面風食量は実施例1と同様にして測定した。その結果を表3に示す。
また、各試料について、タルクの比表面積と粗大細孔量との関係を上記昇温速度毎に分けてグラフにプロットし、その関係を図9に示す。なお、図9には、実施例1の試料X6及び試料X7の結果を併せて示す。
【0045】
【表3】

【0046】
表3及び図9より知られるごとく、細孔径40μm以上の細孔の容積の合計量である粗大細孔量は、タルクの比表面積と、焼成工程の温度1250〜1400℃における昇温速度により制御できることがわかる。そして、比表面積3.5m2/g以上のタルクを採用し、上記焼成工程においては温度1250〜1400℃における昇温速度を150℃/h以下にすることにより、粗大細孔量を0.012cc/g以下に制御することができる。
そして、このように粗大細孔量を制御することにより、強度が向上し、端面風食量を小さくすることができる(表3参照)。なお、試料X15、X16、X18、及びX19については、端面風食の評価においてハニカム構造体が大きく破壊され、正確な端面風食量を測定することができなかった。
【0047】
タルクの比表面積及び上記特定温度域における昇温速度により、粗大細孔量を制御できる原因は次のように考えられる。
シリカ系原料であるタルク(3MgO・4SiO2)は、結晶転移により、プロトエンスタタイト(2MgO・2SiO2)、クリストバライト(SiO2)に変化し、他原料と結合してコージェライト2MgO・2Al23・5SiO2を生成するに際して液化したSiO2を拡散する。そして、液化したSiO2は、タルク原料付近の微細孔を埋めていくと共に、細孔径を拡大させて平均細孔径を大きくする。液化したSiO2の拡散速度は、コージェライト結晶の成長開始温度となる1250℃からの昇温速度が大きいほど大きくなり、より多くの微細孔を埋めていく。
したがって、上述のごとく温度1250〜1400℃における昇温速度を150℃/h以下にすることにより、液化したSiO2の拡散を抑制し、粗大細孔量の増大を抑制することが可能になる。
また、タルク原料が焼成過程で消失する際にはタルク原料が存在していた空間が細孔になる。そのため、タルクの比表面積が小さいほど空間を占める割合が大きくなり平均細孔径も大きくなる。
したがって、タルク原料の比表面積を上述のごとく3.5m2/g以上にすることにより、タルク消失時の空間を小さくできるため、粗大細孔量の増大を抑制することが可能になる。
なお、シリカ系原料の一つであるカオリン(Al23・2SiO2)も結晶転移の際にタルクと同様の現象を起こすが、タルクほどその効果は大きくない。
【0048】
このように、本例によれば、軽量及び低圧損でありながら、セル壁の強度に優れ、端面風食の発生を抑制できるという粗大細孔量を0.012cc/g以下のハニカム構造体を得るためには、比表面積3.5m2/g以上のタルクを採用し、焼成工程における温度1250〜1400℃における昇温速度を150℃/h以下にすればよいことがわかる。
【0049】
(実施例3)
本例は、セルのピッチ幅と端面風食量との関係を調べる例である。
本例においては、セルのピッチ幅を変更した複数のハニカム構造体を作製し、その端面風食量を測定した。図2に示すごとく、本例においては、セル壁11が六角形格子状に配されてなる六角形状のセル12を有するハニカム構造体について、対向するセル壁11間の距離(ただし、セル壁11の厚みを二等分する位置を基点とする)、即ちセルピッチ幅Aを変えて6種類のハニカム構造体(試料X21〜X26)を作製した。
本例のハニカム構造体は、セルのピッチ幅を変更した点を除いては、実施例1及び2と同様にして作製した。
本例において作製した試料X21〜X26について、実施例1及び実施例2と同様に、タルクの比表面積、温度1250〜1400℃における昇温速度、セル壁の厚さ、気孔率、粗大細孔量、セルピッチ幅、及び端面風食量を表4に示す。また、セルピッチ幅と端面風食量との関係を図13に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
表4より知られるごとく、粗大細孔量が0.012cc/g以下制御された本例のハニカム構造体(試料X21〜試料X26)は、いずれも端面風食量が小さく、端面風食の発生が十分に抑制されていた。表4及び図13より知られるごとく、さらにセルピッチ幅を小さくすると、より一層端面風食量が小さくなり、端面風食の発生を抑制できることがわかる。本例によれば、セルピッチ幅は1.00mm以下が好ましいことがわかる。
【0052】
(実施例4)
本例は、セル形状と端面風食量との関係を調べる例である。
本例においては、図2に示すごとくセル壁11が六角形格子状に配されてなる六角形状のセル12を有するハニカム構造体(試料X27)と、図15に示すごとくセル壁11が四角格子状に配されてなる四角形状のセル125を有するハニカム構造体(試料X28)を作製し、その端面風食量を測定した。
【0053】
本例のハニカム構造体は、セルの断面形状を変更した点を除いては、実施例1及び2と同様にして作製した。
六角形状のセル12を有するハニカム構造体(試料X27)は、実施例2の試料X22と同様のものである。四角形状のセル125を有するハニカム構造体(試料X28)は、セル形状を変更した点を除いては上記試料X27とほぼ同様のものである。試料X27及び試料X28について、セルの断面形状、タルクの比表面積、温度1250〜1400℃における昇温速度、セル壁の厚さ、気孔率、粗大細孔量、セルピッチ幅、セル一辺の長さ、及び端面風食量を表5に示す。
そして、これらセルの断面形状が異なる2種類のハニカム構造体(試料X27及び試料X28)について、実施例1及び2と同様にして端面風食量を測定した。その結果を表5及び図14に示す。
【0054】
【表5】

【0055】
表5及び図14より知られるごとく、セル壁11が六角形格子状に配されてなる六角形状のセル12は、セル壁11が四角格子状に配されてなる四角形状のセル125に比べて、端面風食量がより一層小さくなることがわかる。これは、セル壁11の交点が支持点になると仮定すると、六角形状のセル12においては、セル壁11が四角格子状に配されてなる四角形状のセル125に比べて1辺の長さaが短くなるため、支点からの曲げモーメントが小さくなるためであると考えられる(図2及び図15参照)。
【0056】
このように、本例によれば、より端面風食を抑制するためには、上記セル壁は六角形格子状に配されていることが好ましいことがわかる。
【符号の説明】
【0057】
1 ハニカム構造体
10 端面
11 セル壁
12 セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コージェライトの多孔質体よりなると共に多角形格子状に配設されたセル壁と、該セル壁に区画された多数のセルとを有するハニカム構造体において、
気孔率が30%以上で、上記セル壁の厚みが80μm以下であり、
単位重量あたりに有する細孔のうち細孔径40μm以上の細孔の容積の合計量である粗大細孔量が0.012cc/g以下であることを特徴とするハニカム構造体。
【請求項2】
請求項1に記載のハニカム構造体において、上記セルのピッチ幅が1.0mm以下であることを特徴とするハニカム構造体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のハニカム構造体において、上記セル壁は六角形格子状に配されていることを特徴とするハニカム構造体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のハニカム構造体を製造する方法であって、
タルクを含むコージェライト化原料を準備する原料準備工程と、
上記コージェライト化原料を押出成形してハニカム成形体を得る押出成形工程と、
上記ハニカム成形体を乾燥させる乾燥工程と、
上記ハニカム成形体を焼成して上記ハニカム構造体を得る焼成工程とを有し、
上記原料準備工程においては比表面積3.5m2/g以上のタルクを採用し、上記焼成工程においては温度1250〜1400℃における昇温速度を150℃/h以下にすることを特徴とするハニカム構造体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−167632(P2011−167632A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33647(P2010−33647)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】