説明

ハニカム構造体

【課題】 優れた接着強度を有し、方向を問わず、熱応力によるハニカム部材の熱膨張を吸収することができ、耐熱衝撃性に優れるハニカム構造体等を提供すること。
【解決手段】 多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、その外縁に外縁壁を有するハニカム部材が接着材層を介して複数個接着されたハニカム構造体であって、上記接着材層は、少なくとも無機繊維と無機バインダとを含むと共に、上記無機繊維は、繊維径6〜100μmの無機繊維を含んでなり、上記長手方向を配向軸とした際に、Saltykovの方法により求めた上記無機繊維の配向度Ωが、0.2≦Ω≦0.7又は−0.7≦Ω≦−0.2であることを特徴とするハニカム構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排気ガス中のパティキュレート等を捕集、除去するフィルタとして用いられるハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
バス、トラック等の車両や建設機械等の内燃機関から排出される排気ガス中に含有されるスス等のパティキュレートが環境や人体に害を及ぼすことが最近問題となっている。
そこで、排気ガス中のパティキュレートを捕集して、排気ガスを浄化するフィルタとして多孔質セラミックからなるハニカム構造体を用いたものが種々提案されている。
【0003】
従来、この種のハニカム構造体としては、例えば、長手方向に沿って並列する複数の貫通孔を有し、かつ、これらの貫通孔の各端面は、それぞれ市松模様状に目封じされると共に、ガスの入口側と出口側とでは開閉が逆の関係にあり、そして、これらの貫通孔の隣接するもの同士は、多孔質な隔壁を通じて互いに通気可能にしたセラミック部材を、複数個結束させて集合体としたセラミック構造体において、上記各セラミック部材の相互間はシール剤を介して結束されており、上記シール剤は、少なくとも無機繊維、有機バインダ、無機バインダからなり、上記無機繊維の配向度は、繊維長が20〜300μm、繊維径が3〜15μmの条件において、70%以上であるセラミック構造体が提案されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−177719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したハニカム構造体では、長手方向に配向度が70%以上と、ある程度無機繊維の向きが揃っている。このようなハニカム構造体では、使用時において、熱応力が加わった際に、無機繊維の向きに平行な方向へのセラミック部材の熱膨張は吸収することができるものの、無機繊維の向きに垂直な方向へのセラミック部材の熱膨張は吸収することが難しく、その結果、セラミック部材同士の接着強度が低下してしまうという問題があった。
特に、ハニカム構造体が高温になった際に、このような問題が発生しやすく、耐熱衝撃性の点で改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討し、耐熱衝撃性を向上させるには、Saltykovの方法により求めた無機繊維の配向度が、所定の関係を充足していれば良いことを新たに見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明のハニカム構造体は、多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、その外縁に外縁壁を有するハニカム部材が接着材層を介して複数個接着されたハニカム構造体であって、
上記接着材層は、少なくとも無機繊維と無機バインダとを含むと共に、
上記無機繊維は、繊維径6〜100μmの無機繊維を含んでなり、
上記長手方向を配向軸とした際に、Saltykovの方法により求めた上記無機繊維の配向度Ωが、0.2≦Ω≦0.7又は−0.7≦Ω≦−0.2であることを特徴とする。
【0008】
本発明のハニカム構造体において、上記接着材層とハニカム部材との界面では、ハニカム部材の外縁壁厚さに対し、30〜60%の厚さで接着材層を構成する材料が外縁壁に浸透していることが望ましく、上記無機繊維は、アスペクト比が3〜50であることが望ましい。
また、上記ハニカム構造体の外周部分には、コート材層が形成されていることが望ましい。
【0009】
また、上記ハニカム構造体において、上記セルは、いずれか一方の端部が封止材により封止されていることが望ましい。
また、上記ハニカム構造体において、上記セル壁の少なくとも一部には、触媒が担持されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のハニカム構造体によれば、Saltykovの方法により求めた無機繊維の配向度Ωが、0.2≦Ω≦0.7又は−0.7≦Ω≦−0.2であり、上記接着材層では、無機繊維が充分に絡み合っており、該無機繊維の繊維径も6〜100μmと充分な太さを有するため、優れた接着強度を有し、さらに、方向を問わず、熱応力によるハニカム部材の熱膨張を吸収することができ、耐熱衝撃性に優れることとなる。
なお、Saltykovの方法により求めた無機繊維の配向度Ωについては、後に詳述する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のハニカム構造体は、多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、その外縁に外縁壁を有するハニカム部材が接着材層を介して複数個接着されたハニカム構造体であって、
上記接着材層は、少なくとも無機繊維と無機バインダとを含むと共に、
上記無機繊維は、繊維径6〜100μmの無機繊維を含んでなり、
上記長手方向を配向軸とした際に、Saltykovの方法により求めた上記無機繊維の配向度Ωが、0.2≦Ω≦0.7又は−0.7≦Ω≦−0.2であることを特徴とする。
【0012】
まず、本発明のハニカム構造体における上記長手方向を配向軸とした際に、Saltykovの方法により求めた上記無機繊維の配向度Ωについて、図1を参照しながら説明する。
図1は、配向度Ωの算出方法を説明するための説明図である。
上記配向度Ωは、下記式(1)で算出することができる。
【0013】
Ω=(Lor/{(Lor+(Lis}・・・(1)
【0014】
ここで、(Lorは、単位体積当たりの完全配向線要素の長さであり、(Lisは、単位体積当たりの完全ランダム線要素の長さであり、これらは配向軸に垂直な面(上記長手方向に垂直な面)、及び、配向軸に平行な面(上記長手方向に平行で、かつ、上記接着材層を形成した上記ハニカム部材の外壁面に平行な面)の2種類の試験面と線要素との交点の数を調べることにより、下記式(2)、(3)より算出することができる。
【0015】
(Lis=2(P・・・(2)
【0016】
(Lor=(P−(P・・・(3)
【0017】
ここで、(Pと(Pとは、それぞれ配向軸に垂直及び平行な単位面積の試験面と線要素との交点の数である。即ち、図1に示すように、配向軸(図中、左右方向)に垂直な試験面Aと、配向軸に平行な試験面Bとを考えた際の無機繊維と試験面A、Bとの交点の数であり、図1では、配向軸に垂直な試験面Aと無機繊維との交点の数は4であり、この場合(P=4となる。また、配向軸に平行な試験面Bと無機繊維との交点の数は3であり、この場合、(P=3となる。これに基づいて(Lisを計算すると、(2)式より、(Lis=2×3=6となり、(Lorを計算すると、(3)式より(Lor=4−3=1となり、Ωは、(1)式よりΩ=1/(1+6)=1/7となる。
上記試験面と線要素との交点の数は、それぞれの試験面を電子顕微鏡等で観察し、その観察画像上で、試験面を貫通する繊維の数を数えることにより算出する。
なお、本発明では、観察画像において、アスペクト比が1.5未満のものを貫通する繊維とみなすこととする。
【0018】
本発明のハニカム構造体において、上述した方法で算出する配向度Ωは、0.2≦Ω≦0.7又は−0.7≦Ω≦−0.2である。
上記配向度Ωが、Ω>0.7の場合や、Ω<−0.7の場合には、配向軸に垂直な方向か、配向軸に平行な方向のいずれかに無機繊維が配向しすぎている。そのため、上記ハニカム構造体に熱応力が加わった場合、無機繊維が配向している向きと垂直な方向へのハニカム部材の熱膨張は吸収することができず、耐熱衝撃性が不充分である。
【0019】
一方、上記配向度Ωが、−0.2<Ω<0.2の場合には、無機繊維の配向が少なく、無機繊維同士が充分に絡み合っていないと考えられ、この場合、充分な接着強度を発現することができない。
また、上記配向度Ωは、0.2≦Ω≦0.5又は−0.5≦Ω≦−0.2であることが望ましい。
なお、ハニカム形状は、長手方向とその垂直方向(以下、径方向ともいう)との間で熱伝導性に異方性を生じやすい形状である。そのため、ハニカム形状では、長手方向の熱膨張や熱伝導性が、相対的に径方向よりも高くなる傾向が見られる。
【0020】
上記無機繊維は、繊維径6〜100μmと充分な太さを有する無機繊維を含んでいる。
従って、当該無機繊維は、熱応力による熱膨張を、切れることなく吸収することができ、さらに、無機繊維同士が絡み合うと共に、無機繊維自体が強化繊維としての役割を充分に果たすことができ、充分な接合強度を発現することができる。
本発明において、繊維径6〜100μmの無機繊維を含むとは、無機繊維全体のうち、繊維径6〜100μmの無機繊維の割合が高いことを言う。実質的には、繊維径6〜100μmの無機繊維を80重量%以上含むことをいうものとする。無機繊維の割合が80重量%未満では、上記範囲外の繊維の影響が大きくなり、上記効果を有することができない。
繊維径6〜100μmの無機繊維は、無機繊維全体のうち、90重量%以上含むことが望ましく、95重量%以上含むことがより望ましい。
【0021】
本発明のハニカム構造体は、多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設されたハニカム部材が接着材層を介して複数個接着されている。そして、上記複数のセルは、いずれか一方の端部が封止されていることが望ましい。
以下、本発明のハニカム構造体について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、複数のセルのいずれか一方の端部が封止されたハニカム構造体について説明するが、本発明のハニカム構造体において、複数のセルの端部は必ずしも封止されていなくてもよい。
図2は、本発明のハニカム構造体の一例を模式的に示す斜視図であり、図3(a)は、図2に示したハニカム構造体を構成するハニカム部材の斜視図であり、(b)は、(a)に示したハニカム部材のA−A線断面図である。
【0022】
図2に示すように、本発明に係るハニカム構造体10は、炭化珪素等のセラミックからなり、その外縁に外縁壁17を有するハニカム部材20(図3参照)が、接着材層11を介して複数個組み合わされて円柱状のハニカムブロック15を構成し、このハニカムブロック15の周囲にコート材層12が形成されている。
【0023】
図2に示したハニカム構造体10では、ハニカムブロックの形状は円柱状であるが、本発明のハニカム構造体において、ハニカムブロックは、柱状であれば円柱状に限定されることはなく、例えば、楕円柱状や角柱状等任意の形状のものであってもよい。
【0024】
ハニカム部材20は、図3(a)、(b)に示したように、長手方向に多数のセル21が並設され、セル21同士を隔てるセル壁(壁部)23がフィルタとして機能するようになっている。即ち、ハニカム部材20に形成されたセル21は、図3(b)に示したように、排気ガスの入口側又は出口側の端部のいずれかが封止材22により目封じされ、一のセル21に流入した排気ガスは、必ずセル21を隔てるセル壁23を通過した後、他のセル21から流出するようになっている。
【0025】
そして、接着材層11に含まれる無機繊維の長手方向の配向度Ωが、上述した範囲にあり、該無機繊維の繊維径が6〜100μmのものを含んでいるため、ハニカム構造体10では、ハニカム部材20に熱応力により生じた熱膨張等を接着材層11で吸収することができ、その結果、ハニカム構造体10は、耐熱衝撃性に優れることとなる。また、無機繊維が充分に太いため、強化繊維として役割を充分に果たすことができ、大きな接着強度を発現することができる。
【0026】
ハニカム構造体10は、主として多孔質セラミックからなり、その材料としては、例えば、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化チタン等の窒化物セラミック、炭化珪素、炭化ジルコニウム、炭化チタン、炭化タンタル、炭化タングステン等の炭化物セラミック、アルミナ、ジルコニア、コージュライト、ムライト、シリカ、チタン酸アルミニウム等の酸化物セラミック等を挙げることができる。また、ハニカム構造体10は、シリコンと炭化珪素との複合体といった2種類以上の材料から形成されているものであってもよい。シリコンと炭化珪素との複合体を用いる場合には、シリコンを全体の5〜45重量%となるように添加することが望ましい。
上記多孔質セラミックの材料としては、耐熱性が高く、機械的特性に優れ、かつ、熱伝導率も高い炭化珪素質セラミックが望ましい。なお、炭化珪素質セラミックとは、炭化珪素が60重量%以上のものをいうものとする。
また、ハニカム構造体の材料として金属を用いてもよい。
【0027】
上記ハニカム構造体(ハニカム部材)の平均気孔径は特に限定されないが、パティキュレートを捕集する場合、望ましい下限は1μmであり、望ましい上限は100μmである。平均気孔径が1μm未満であると、圧力損失が高くなり、一方、平均気孔径が100μmを超えると、パティキュレートが気孔を通り抜けてしまい、該パティキュレートを捕集することができず、パティキュレートの捕集効率が低下することがある。
【0028】
上記ハニカム構造体(ハニカム部材)の気孔率は特に限定されないが、望ましい下限は20%であり、望ましい上限は80%である。20%未満であると、パティキュレートを捕集する場合にハニカム構造体がすぐに目詰まりを起こしてしまうことがあり、一方、80%を超えるとハニカム構造体の強度が低く、容易に破壊されることがある。
なお、上記気孔率は、例えば、水銀圧入法、アルキメデス法及び走査型電子顕微鏡(SEM)による測定等の従来公知の方法により測定することができる。
【0029】
上記ハニカム構造体(ハニカム部材)の開口率は特に限定されないが、望ましい下限は50%であり、望ましい上限は80%である。上記開口率が50%未満であると、圧力損失が高くなることがあり、一方、80%を超えると、ハニカム構造体の強度が低下することがある。
【0030】
上記ハニカム構造体(ハニカム部材)において、セル壁の厚さの望ましい下限は0.1mmであり、望ましい上限は0.5mmである。より望ましい上限は0.35mmである。
セル壁の厚さが0.1mm未満では、ハニカム構造体の強度が低くなりすぎることがあり、一方、セル壁の厚さが0.5mmを超えると、圧力損失が大きくなりすぎることがあるとともに、ハニカム構造体の熱容量が大きくなり、触媒を担持させた場合には、エンジンの始動直後から排気ガスを浄化することができない場合がある。
【0031】
ハニカム部材20を構成する封止材22とセル壁23とは、同じ多孔質セラミックからなることがより望ましい。これにより、両者の密着強度を高くすることができるとともに、封止材22の気孔率をセル壁23と同様に調整することで、セル壁23の熱膨張率と封止材22の熱膨張率との整合を図ることができ、製造時や使用時の熱応力によって封止材22とセル壁23との間に隙間が生じたり、封止材22や封止材22に接触する部分のセル壁23にクラックが発生したりすることを防止することができる。なお、セル壁は、セル21同士を隔てるセル壁及び外周部分の両方を意味するものとする。
【0032】
封止材22の厚さは特に限定されないが、例えば、封止材22が多孔質炭化珪素からなる場合には、望ましい下限は1mmで、望ましい上限は20mmであり、より望ましい下限は3mmで、より望ましい上限が10mmである。
なお、上記セルのいずれか一方の端部を封止する封止材は、必要に応じて、形成されていればよく、本発明のハニカム構造体を用いて、パティキュレートを捕集する場合には、上記封止材を形成する。
【0033】
本発明のハニカム構造体10において、接着材層11は、上述したハニカム構造体の熱膨張を吸収する機能を有するとともに、ハニカム部材20間に形成され、複数個のハニカム部材20同士を結束する接着材としても機能するものである。また、排気ガスが漏れ出すことを防止する機能も有している。
【0034】
接着材層11は、少なくとも無機繊維と無機バインダとを含むと共に、上記無機繊維は、繊維径6〜100μmの無機繊維を含んでなる。
上記無機繊維としては、例えば、シリカ−アルミナ、ムライト、アルミナ、シリカ、ホウ酸アルミニウムウィスカ等のセラミックファイバやウィスカ等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記無機繊維のなかでは、シリカ−アルミナファイバが望ましい。
【0035】
上記無機繊維のアスペクト比の下限は、3であることが望ましい。上記アスペクト比が3以上であると、無機繊維と無機バインダとの接触が増加し、その結果、接着強度が向上することとなるからである。
一方、上記アスペクト比の上限は、50であることが望ましい。上記アスペクト比が50を超えると、形成した接着材層において、無機繊維同士の間に空隙が発生することがあり、その結果、充分な接着強度が発現しないことがあるからである。
なお、上記アスペクト比は、(無機繊維の平均繊維長)÷(無機繊維の平均繊維径)により算出した値である。
また、上記無機繊維の平均繊維径の望ましい下限は5.5μm、より望ましい下限は、6μmであり、望ましい上限は200μm、より望ましい上限は100μmである。
また、上記無機繊維の平均繊維長の望ましい下限は18μm、より望ましい下限は20μmあり、望ましい上限は5000μm、より望ましい上限は2000μmである。
【0036】
上記無機繊維の含有量の下限は、30重量%が望ましく、35重量%がより望ましい。また、上記無機繊維の含有量の上限値は、50重量%が望ましく、45重量%がより望ましい。
【0037】
上記無機バインダとしては、例えば、シリカゾル、アルミナゾル等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記無機バインダのなかでは、シリカゾルが望ましい。
上記無機バインダの含有量の下限は、10重量%が望ましく、15重量%がより望ましい。また、上記無機バインダの含有量の上限値は、30重量%が望ましく、25重量%がより望ましい。
【0038】
また、上記接着材層は、有機バインダを含んでいてもよい。有機バインダを配合し、接着剤ペーストの粘度を調整することにより、接着剤ペーストの付着性を向上させることができ、さらには、接着材層の接着性を向上させることができるからである。有機バインダの含有量は、1.5重量%以下が望ましく、1.0重量%以下がより望ましい。なお、接着剤ペーストの粘度は、20〜35Pa・sが望ましい。接着剤ペーストの粘度を調整することにより、下記するハニカム部材20の外縁壁に形成する浸透部の厚さを調整することができる。
上記有機バインダとしては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記有機バインダのなかでは、カルボキシメチルセルロースが望ましい。
【0039】
また、上記接着材層は、さらに、無機粒子を含んでいてもよい。
上記無機粒子としては、例えば、炭化物、窒化物等を挙げることができ、具体的には、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素等からなる無機粉末等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記無機粒子のなかでは、熱伝導性に優れる炭化珪素が望ましい。
【0040】
さらに、接着材層を形成するために用いるペーストには、必要に応じて酸化物系セラミックを成分とする微小中空球体であるバルーンや、球状アクリル粒子、グラファイト等の造孔剤を添加してもよい。
上記バルーンとしては特に限定されず、例えば、アルミナバルーン、シリカ−アルミナバルーン、ガラスマイクロバルーン、シラスバルーン、フライアッシュバルーン(FAバルーン)等を挙げることができる。これらのなかでは、シリカ−アルミナバルーンが望ましい。
【0041】
図4は、図2に示したハニカム構造体の接着材層とハニカム部材の外縁壁とを模式的に示した拡大断面図である。
外縁壁17(図4下側)は、上述したように、ハニカム部材20の外縁部分を構成するものであり、セラミック58とセラミック58の内部に形成された気孔59とからなる多孔質セラミックである。本発明の場合、フィルタとしての機能が要求されることから、外縁壁17に形成された殆どの気孔59は、外部と繋がった開気孔(オープンポア)となっている。外縁壁17上には、無機繊維61、無機バインダ及び有機バインダを含む接着材層11(図4上側)が形成されている。
接着材層11では、無機繊維61が上述のような配向度で配向しており、無機繊維61同士の隙間には無機バインダ及び有機バインダが粒子状、液状、又は、ゲル状で存在している。以下、粒子状のバインダを粒子状バインダ62といい、液状又はゲル状のバインダを液状バインダ63ということとする。
【0042】
接着材層11と外縁壁17との界面において、外縁壁17内部の気孔59には、液状バインダ63が浸透している。気孔59に入り込んだ液状バインダ63は、接着時に接着材層11から浸透したものであり、液状バインダ63が浸透している浸透部の厚さDは、外縁壁17の厚さRに対し、30〜60%の厚さとなっている。以下、本明細書中では、接着材層11を構成する材料が浸透している外縁壁17の厚さを浸透部厚さともいい、外縁壁17の厚さに対する浸透部厚さの割合を浸透部割合ともいう。例えば、上記の外縁壁17の場合、浸透部割合は、30〜60%である。
【0043】
浸透部厚さは、電子顕微鏡等で観察し、その観察画像上で求める。具体的には、接着材層と外縁壁との界面から、接着材層を構成する材料が浸透している気孔を含む面と浸透していない気孔を含む面との境界面までの距離を画像上で測定して求める。
なお、本実施形態では、液状バインダ63が気孔59に入り込んでいる場合について説明したが、本発明において、外縁壁17に浸透している材料は、接着材層11を構成する材料であれば特に限定されず、例えば、無機粒子が含まれていてもよい。
【0044】
本発明において、浸透部割合は、30〜60%であることが望ましい。接着材層11を構成する液状バインダ63が外縁壁17の内部(気孔)に複雑に入り込んでおり、最終的には、これらの液状バインダ63は、溶媒等が揮散した後等に固体となるため、接着材層11が外縁壁17に食い込むこととなって、いわゆるアンカー効果を奏し、接着材層11がハニカム部材20に対してより優れた接着強度を有することとなるからである。浸透部割合の下限値は、40%であることがより望ましく、一方、浸透部割合の上限値は、50%であることがより望ましい。
【0045】
浸透部割合が30%未満であると、接着材層11の外縁壁17に食い込む割合が小さい(薄い)ため、アンカー効果が充分に発揮されず、一方、浸透部割合を60%を超えた値とすることは難しく、また、あえて浸透部割合を60%を超えた値とした場合には、接着材層11から外縁壁17内部に液状バインダ63が移動しすぎるため、接着材層11中のバインダが不足し、接着材層11自体の接着強度が低下する。
【0046】
また、本発明のハニカム構造体において、上述した方法で配向度Ωを算出する場合、接着材層に上記無機繊維や上記バルーンが配合されていると、試験面(観察面)において、これらの断面が、上記試験面を貫通する無機繊維の断面と区別できない状態で観察される場合があるが、本発明のハニカム構造体においては、上記無機粒子の断面等の無機繊維の断面と区別することができないものも含めて配向度Ωを算出することとする。これらの粒子は、異方性をともなわないからである。
また、上記接着材層は、無機繊維のショット(繊維化されなかった粒状物)も、上記と同様、無機繊維の断面と区別することができない状態で、観察される場合もあるが、この場合も無機繊維の断面と区別することができない上記ショットの断面を含めて配向度Ωを算出することとする。
【0047】
また、コート材層12は、ハニカムブロック15の外周面を包囲するように形成され、ハニカム構造体10を内燃機関の排気通路に設置した際、ハニカムブロック15の外周面から排気ガスが漏れ出すことを防止するための封止材、ハニカム構造体の形状を整えたり、補強材としての機能を有するものである。
なお、上記コート材層は、必要に応じて、形成されていればよい。
【0048】
コート材層12を構成する材料としては、接着材層11を構成する材料と同様のもの等が挙げられる。
また、接着材層11とコート材層12とは、同じ材料からなるものであってもよく、異なる材料からなるものであってもよい。さらに、接着材層11及びコート材層12が同じ材料からなるものである場合、その材料の配合比は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0049】
また、本発明のハニカム構造体では、セルは、ハニカム構造体の端面全体において、長手方向に垂直な断面の面積の総和が相対的に大きくなるように、出口側の端部を封止材により封止する(これらを入口側セル群とする)一方で、上記断面の面積の総和が相対的に小さくなるように、入口側の端部を上記封止材により封止して(これらを出口側セル群とする)、入口側セル群と出口側セル群との開口面積を変更してもよい。
【0050】
なお、上記入口側セル群と上記出口側セル群との組み合わせとしては、(1)入口側セル群を構成する個々のセルと、出口側セル群を構成する個々のセルとで、垂直断面の面積が同じであって、入口側セル群を構成するセルの数が多い場合、(2)入口側セル群を構成する個々のセルと、出口側セル群を構成する個々のセルとで、上記垂直断面の面積が異なり、両者のセルの数も異なる場合、(3)入口側セル群を構成する個々のセルと、出口側セル群を構成する個々のセルとで、入口側セル群を構成するセルの上記垂直断面の面積が大きく、両者のセルの数が同じ場合が含まれる。
また、入口側セル群を構成するセル及び/又は出口側セル群を構成するセルは、その形状や垂直断面の面積等が同じ1種のセルからそれぞれ構成されていてもよく、その形状や垂直断面の面積等が異なる2種以上のセルからそれぞれ構成されていてもよい。
【0051】
また、本発明のハニカム構造体では、セル壁の少なくとも一部に触媒が担持されていてもよい。
本発明のハニカム構造体では、CO、HC及びNOx等の排気ガス中の有害なガス成分を浄化することができる触媒をセル壁に担持させることにより、触媒反応により排気ガス中の有害なガス成分を充分に浄化することが可能となる。
また、パティキュレートの燃焼を助ける触媒を担持させることにより、パティキュレートをより容易に燃焼除去することができる。その結果、本発明のハニカム構造体は、排気ガスの浄化性能を向上することができ、さらに、パティキュレートを燃焼させるためのエネルギーを低下させることも可能となる。
【0052】
上記触媒としては特に限定されないが、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属からなる触媒が挙げられる。また、これらの貴金属に加えて、アルカリ金属(元素周期表1族)、アルカリ土類金属(元素周期表2族)、希土類元素(元素周期表3族)、遷移金属元素を含んだ化合物が担持されていてもよい。
【0053】
また、上記ハニカム構造体に上記触媒を付着させる際には、予めその表面をアルミナ等の触媒担持層で被覆した後に、上記触媒を付着させてもよい。
上記触媒担持層としては、例えば、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ等の酸化物セラミックが挙げられる。
【0054】
上記触媒が担持されたハニカム構造体は、従来公知の触媒付DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)と同様のガス浄化装置として機能するものである。従って、ここでは、本発明のハニカム構造体が触媒担持体としても機能する場合の詳しい説明を省略する。
【0055】
次に、上記ハニカム構造体の製造方法について説明する。
まず、上述したようなセラミックを主成分とする原料ペーストを用いて押出成形を行い、四角柱形状等のセラミック成形体を作製する。
【0056】
上記原料ペーストとしては特に限定されないが、製造後のハニカム構造体の気孔率が20〜80%となるものが望ましく、例えば、上述したようなセラミックからなる粉末に、バインダ、分散媒液等を加えたものを挙げることができる。
【0057】
上記セラミック粉末の粒径は特に限定されないが、後の焼成工程で収縮の少ないものが好ましく、例えば、0.3〜70μm程度の平均粒径を有する粉末100重量部と0.1〜1.0μm程度の平均粒径を有する粉末5〜65重量部とを組み合わせたものが好ましい。
ハニカム部材の気孔径等の調節は、焼成温度と、セラミック粉末の粒径とを調節することにより行うことができる。
【0058】
上記バインダとしては特に限定されず、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。
上記バインダの配合量は、通常、セラミック粉末100重量部に対して、1〜15重量部程度が望ましい。
【0059】
上記分散媒液としては特に限定されず、例えば、ベンゼン等の有機溶媒、メタノール等のアルコール、水等を挙げることができる。
上記分散媒液は、上記原料ペーストの粘度が一定範囲内となるように適量配合される。
【0060】
これらセラミック粉末、バインダ及び分散媒液は、アトライター等で混合し、ニーダー等で充分に混練した後、押出成形される。
【0061】
また、上記原料ペーストには、必要に応じて成形助剤を添加してもよい。
上記成形助剤としては特に限定されず、例えば、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸、脂肪酸石鹸、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
【0062】
さらに、上記原料ペーストには、必要に応じて酸化物系セラミックを成分とする微小中空球体であるバルーンや、球状アクリル粒子、グラファイト等の造孔剤を添加してもよい。
上記バルーンとしては特に限定されず、例えば、アルミナバルーン、ガラスマイクロバルーン、シラスバルーン、フライアッシュバルーン(FAバルーン)、ムライトバルーン等を挙げることができる。これらのなかでは、アルミナバルーンが望ましい。
【0063】
次に、上記セラミック成形体を、マイクロ波乾燥機、熱風乾燥機、オーブン、誘電乾燥機、減圧乾燥機、真空乾燥機、凍結乾燥機等を用いて乾燥させ、セラミック乾燥体とする。次いで、パティキュレートを捕集する用途のものを製造する場合には、入口側セル群の出口側の端部、及び、出口側セル群の入口側の端部に、封止材となる封止材ペーストを所定量充填し、セルを目封じする。
【0064】
上記封止材ペーストとしては特に限定されないが、後工程を経て製造される封止材の気孔率が30〜75%となるものが望ましく、例えば、上記原料ペーストと同様のものを用いることができる。
【0065】
次に、上記封止材ペーストが充填されたセラミック乾燥体に対して、所定の条件で脱脂(例えば、200〜500℃)、焼成(例えば、1400〜2300℃)を行うことにより、多孔質セラミックからなり、その全体が一の焼結体から構成されたハニカム部材を製造することができる。
上記セラミック乾燥体の脱脂及び焼成の条件は、従来から多孔質セラミックからなるフィルタを製造する際に用いられている条件を適用することができる。
【0066】
次に、空隙保持材を介してハニカム部材を組み上げる(図5参照)。
図5は、本発明のハニカム構造体の製造方法の一工程で作製するハニカム部材集合体の断面図である。
図5に示すように、上述した方法で製造したハニカム部材30を、空隙保持材142を介して複数個組み上げ、ハニカム部材集合体16を作製する。
【0067】
空隙保持材142は、各ハニカム部材30間に空隙を形成させるために用いられるものであり、空隙保持材142の厚さを調整することにより、各ハニカム部材30間の接着材層の厚さを調整することができる。
【0068】
上記空間保持材の材質としては特に限定されず、例えば、紙、無機物質、セラミック、有機繊維、樹脂等を挙げることができる。そして、空間保持材は、ハニカム構造体の使用時に加わる熱により分解、除去されないものを用いてもよい。
分解、除去される際に発生するガスにより、接着材層が腐食されることを防止するためである。ただし、加熱により、分解、除去されるものであっても、腐食性のガスが発生しないものであれば使用することができる。
上記空隙保持材の具体例としては、例えば、ボール紙、黒鉛、炭化珪素等が挙げられる。また、接着材層と同じ材質のものを、予め厚さを調製し固形化させておくことで、空隙保持材とすることもできる。
【0069】
また、上記空隙保持材は、粘着機能又は接着機能を有するものであってもよく、上述したような材質からなる機材の両面に粘着性又は接着性を有する物質の層が形成されたものであってもよい。
粘着機能又は接着機能を有する空隙保持材を用いれば、筒状治具の外側で組み上げを終了したハニカム部材集合体を固定するための治具等を特に用いず、筒状治具の内部に組み入れることができ、組み入れ工程が容易となり、各ハニカム部材の位置ずれをより防止することができる。
【0070】
上記空隙保持部材の形状としては、ハニカム部材を保持することができる形状であれば特に限定されず、円柱状、角柱状等が挙げられる。
上記空隙保持部材の大きさとしては特に限定されず、例えば、空隙保持部材が円柱状である場合、その厚さは、0.5〜30mmであることが望ましい。セラミックの熱伝導率を低下させない範囲だからである。空隙保持材の厚さは、2.0mm以下がより望ましい。
【0071】
また、空隙保持材が円柱状である場合、直径は3.0〜10.0mmであることが望ましい。ハニカム部材同士の接着強度を充分に確保できるからである。
上記空隙保持材を配置するハニカム部材上の位置としては特に限定されないが、ハニカム部材の側面の四隅近傍に配置することが望ましい。ハニカム部材を平行に結束させることができるからである。
【0072】
次に、接着剤ペーストを、ハニカム部材集合体を構成するハニカム部材間の空隙に充填する。ここで、接着剤ペーストの充填は、ペースト充填用の筒状冶具の中にハニカム部材集合体を格納して行ってもよく、また、上記筒状冶具の中でハニカム部材を組み上げて行ってもよい。
【0073】
具体的には、例えば、図6に示したような筒状治具を備えたハニカム構造体の製造装置を用いて接着剤ペーストを充填することができる。
図6(a)、(b)は、接着剤ペーストを充填する際に使用する筒状治具を備えたハニカム構造体の製造装置を説明するための断面図である。(a)には、内部にハニカム部材集合体が設置された製造装置の長手方向に垂直な断面を示し、(b)には、内部にハニカム部材集合体が設置された製造装置の長手方向に平行な断面を示す。
【0074】
製造装置50は、内部にハニカム部材集合体を格納する内部空間502をもった筒状体501を具備する。この筒状体501の外側側面及び一方の外側端部にペースト供給室52、52′が取り付けられている。筒状体501には、この供給室52、52′と内部空間を連通する開口51、51′が形成されており、この開口51、51′(以下の説明では、より具体的に供給孔もしくは供給溝と表記する)を経由してペースト1400が側面及び一方の端部から同時に供給される。供給室52、52′には、ペースト1400を押し出すための押し出し機構503、503′が取り付けられている。ハニカム構造体の製造装置50には、開閉式の底板53が、供給室52′が取り付けられた側と反対側の端部に取り付けられている。底板53を閉じてハニカム部材集合体16を構成するハニカム部材30間に形成された空隙141を封止すれば、接着材ペースト1400がハニカム部材集合体の端面に付着することをより効果的に防止することができる。
【0075】
ただし、接着剤ペースト充填時において、ハニカム構造体の製造装置50内に接着剤ペースト1400を圧入する際には、ハニカム構造体の製造装置50内の気体をこの製造装置50の端面を通じて排出することとなるため、底板53は、通気性の材質からなるもの、又は、図6に示したように通気孔を有する気密性の材質からなるものである必要がある。
そして、通気孔を有する気密性の材質からなるものを用いる場合、製造装置50内の気体は、矢印Cのように、ハニカム部材30の隔壁を通過し、さらに、ハニカム部材30から底板53の通気孔を通過して外部に排出されることとなる。
【0076】
製造装置50としては、その室内が供給孔(又は供給溝)51、51′を通じて内周部と連通したペースト供給室52を外周部に備えた筒状体であって、内周部にハニカム部材集合体16を設置するか、内周部でハニカム部材集合体16を組み上げることが可能なものであれば特に限定されず、例えば、分解可能な組立型の治具であってもよいし、一体型の治具であってもよく、また、内周部が所定の大きさ及び/又は形状の治具であってもよいし、内周部の大きさ及び/又は形状が変更可能で、内周面を狭めていくことによりハニカム部材集合体16を締め付けることが可能な治具であってもよい。また、製造装置50は、ペースト供給室52、52′が取り外し可能な組立型の治具であってもよい。
【0077】
製造装置50が分解可能な組立型の治具である場合や、内周部の大きさ及び/又は形状が変更可能な治具である場合には、ハニカム部材30を複数個組み上げてハニカム部材集合体16を作製する工程を製造装置50の内周部で行うことが可能である。もちろん、ハニカム部材集合体16を作製した後に、製造装置50の内周部にこれを設置してもよい。
【0078】
ペースト供給室52、52′は、製造装置50の外周部に設けられ、その室内に接着材ペースト1400を投入し、これを加圧することが可能な容器であれば特に限定されない。
また、供給孔51、51′の形状、大きさ及び数は特に限定されないが、ハニカム部材集合体16を構成するハニカム部材30間に形成された空隙141と対応する位置に設ける必要があり、空隙141を接着材ペースト1400により漏れなく充填できるように一定間隔で設けられることが望ましい。なお、供給孔は、ペーストを均一に充填できるように、供給溝にすることがより望ましい。
【0079】
なお、製造装置50内に接着材ペースト1400を圧入する際の圧力は、圧入する接着材ペースト1400の量、粘度、供給孔の大きさ、位置及び数等に応じて適宜調整され、必要に応じて、製造装置50の供給室52′が取り付けられた側と反対側の端面からの吸引を併用してもよい。
【0080】
製造装置50は、次のように使用される。
図6に示すように、ハニカム部材集合体16を組み上げた後、これをハニカム構造体の製造装置50の中に格納し、次にペースト供給室52、52′から同時にペースト1400を注入する。あるいは、ハニカム構造体の製造装置50の中でハニカム部材集合体16を組み上げ、次にペースト供給室52、52′から同時にペースト1400を注入する。いずれの方法も使用することができる。
【0081】
なお、ハニカム部材間に充填する接着剤ペーストを構成する材料としては、既に詳述しているのでここではその説明を省略する。上記の接着剤ペーストを構成する材料には、繊維径6〜100μmの無機繊維が含まれる。
このように、接着剤ペーストをハニカム部材の間隙に、側面と端面との両方から同時に注入する方法を用いることにより、後工程を経て、接着材層の無機繊維の配向度Ωが上記範囲にあるハニカム構造体を製造することができる。
【0082】
ここで、無機繊維の配向度Ωは、側面からの注入圧と、端面からの注入圧とを適宜選択することにより、調整することができ、また、両方の注入圧自体を増減することにより、ハニカム部材を構成する外縁壁の気孔に接着材層の一部を注入することによりに形成する浸透部の厚さを調整することもできる。すなわち、両方の注入圧を高くすれば、浸透部の厚さを厚くすることができ、両方の注入圧を下げれば、浸透部の厚さを薄くすることができる。
また、接着剤ペーストを注入したハニカム部材集合体を振動させることにより、無機繊維の配向度を調整することもできる。
【0083】
次に、ハニカム部材集合体を加熱して接着剤ペースト層を、例えば、50〜150℃、1時間の条件で加熱することにより、乾燥、固化させて接着材層11とする。
次に、ダイヤモンドカッター等を用い、ハニカム部材20が接着材層11を介して複数個接着されたハニカム部材集合体に切削加工を施し、円柱形状のハニカムブロック15を作製する。
【0084】
そして、ハニカムブロック15の外周に上記コート材ペーストを用いてコート材層12を形成することで、ハニカム部材20が接着材層11を介して複数個接着された円柱形状のハニカムブロック15の外周部にコート材層12が設けられたハニカム構造体10を製造することができる。
【0085】
その後、必要に応じて、熱処理を行い、接着材層中の有機バインダや、空隙保持材を除去してもよい。
また、必要に応じて、ハニカム構造体(セル壁)に触媒を担持させる。上記触媒の担持は集合体を作製する前のハニカム部材に行ってもよい。
触媒を担持させる場合には、例えば、セル壁の表面に高い比表面積のアルミナ膜を形成し、このアルミナ膜の表面に助触媒、及び、白金等の触媒を付与してもよい。
【実施例】
【0086】
以下に実施例を掲げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
平均粒径10μmのα型炭化珪素粉末7000重量部と、平均粒径0.5μmのα型炭化珪素粉末3000重量部とを湿式混合し、得られた混合物10000重量部に対して、有機バインダ(メチルセルロース)を570重量部、水を1770重量部加えて混練して混合組成物を得た。
次に、上記混合組成物に可塑剤(日本油脂社製 ユニルーブ)を330重量部、潤滑剤として(グリセリン)を150重量部加えてさらに混練した後、押出成形を行い、図3に示した角柱形状の生成形体を作製した。
【0087】
次に、マイクロ波乾燥機等を用いて上記生成形体を乾燥させ、セラミック乾燥体とした後、上記生成形体と同様の組成の封止材ペーストを所定のセルに充填した。
次いで、再び乾燥機を用いて乾燥させた後、400℃で脱脂し、常圧のアルゴン雰囲気下2200℃、3時間で焼成を行うことにより、気孔率が42%、平均気孔径が11μm、その大きさが34.3mm×34.3mm×150mm、セルの数が46.5個/cm(300cpsi)、実質的に全てのセル壁23の厚さが0.25mmの炭化珪素焼結体からなるハニカム部材を製造した。
【0088】
次に、繊維径2μmのアルミナファイバー40重量%、平均粒径0.6μmの炭化珪素粒子32.5重量%、シリカゾル20重量%、カルボキシメチルセルロース(CMC)0.5重量%、及び、水7重量%を含む耐熱性の接着剤ペーストを調製した。なお、アルミナファイバーに関しては、アルミナファイバー全体量のうち、繊維径が6〜100μmのものを95重量%含むようにした。この接着剤ペーストの粘度は、室温で32Pa・sであった。これらのうら、アルミナファイバ中の繊維径が6〜100μmのものの含有量、水の含有量、接着材ペーストの含有量を表1に示す。
【0089】
次に、ハニカム部材30の側面の四隅近くに1個ずつ合計4個、直径5mm×厚さ1mmの両面に粘着材が塗布されたボール紙からなる空隙保持材142を載置、固定した。具体的には、空隙保持材142の外周部分と、上記側面の隅を形成する2つの辺との最短距離がそれぞれ6.5mmとなるような位置に空隙保持材142を載置、固定した。そして、空隙保持材142を介して、縦4個×横4個のハニカム部材30を結束することにより、ハニカム部材集合体16を組み上げた(図5参照)。
【0090】
次に、図6に示したような、ペースト供給室52、52′を備え、内周部の大きさが縦145mm×横145mm×長さ150mmであるハニカム構造体の製造装置50内にハニカム部材集合体16を設置した。ハニカム構造体の製造装置50は、ハニカム部材集合体16を構成するハニカム部材30間の空隙141と対応する位置に、ペースト供給室52、52′の室内と製造装置50内とを連通する幅5mmの供給溝を3箇所ずつ有するものであった。
【0091】
また、ハニカム構造体の製造装置50のペースト供給室を取り付けた側と反対側の端部には、端面に当接させることが可能な開閉式の底板53が取り付けられており、この底板53を閉じてハニカム部材集合体16の端面に当接させることにより、ハニカム部材30間の空隙141を封止した。
【0092】
次に、接着剤ペースト1400をハニカム構造体の製造装置50のペースト供給室52、52′内に投入し、さらに、供給室52側(ハニカム部材集合体の側面側)からは圧力1.1Kg/cm、供給室52′側(ハニカム部材集合体の端面側)からは圧力0Kg/cm(圧力なし)で加圧してハニカム構造体の製造装置50の内周部に圧入し、ハニカム部材間の空隙に接着剤ペースト1400を充填した。
【0093】
次いで、接着剤ペースト1400がハニカム部材30間に充填されたハニカム部材集合体16を100℃、1時間で乾燥し、接着剤ペースト1400を硬化させることにより、1mmの厚さの接着材層14を形成し、ハニカム部材集合体とした。
【0094】
次に、上記ハニカム部材集合体を、ダイヤモンドカッターを用いて直径142mmの円柱状15に切削し、円柱状のハニカムブロック15を作製した。
【0095】
次に、無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバ(ショット含有率:3%、繊維長:5〜100μm)23.3重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末30.2重量%、無機バインダとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)7重量%、有機バインダとしてカルボキシメチルセルロース0.5重量%及び水39重量%を混合、混練してコート材ペーストを調製した。
【0096】
次に、上記コート材ペーストを用いて、ハニカムブロック15の外周部にコート材ペースト層を形成した。そして、このコート材ペースト層を120℃で乾燥して、直径143.8mm×長さ150mmの円柱状のハニカム構造体を製造した。
【0097】
(実施例2〜30)
ペースト供給室52、52′から接着剤ペーストを注入する際の圧力、繊維径6〜100μmの無機繊維(アルミナファイバ)含有量、及び、水の含有量を、表1、2に示すように変化させたほかは、実施例1と同様にしてハニカム構造体を製造した。なお、シリカゾルの含有量は、20重量%、カルボキシメチルセルロース(CMC)の含有量は、0.5重量%であり、平均粒径0.6μmの炭化珪素粒子の含有量は、炭化珪素粒子のほかに、無機繊維、シリカゾル、CMC及び水を合計した量が100重量%となるように変化させた。
【0098】
(比較例1〜7)
ペースト供給室52、52′から接着剤ペーストを注入する際の圧力、繊維径6〜100μmの無機繊維(アルミナファイバ)含有量、及び、水の含有量を、表2に示すように変化させたほかは、実施例1と同様にしてハニカム構造体を製造した。なお、シリカゾルの含有量は、20重量%、カルボキシメチルセルロース(CMC)の含有量は、0.5重量%であり、平均粒径0.6μmの炭化珪素粒子の含有量は、炭化珪素粒子のほかに、無機繊維、シリカゲル、CMC及び水を合計した量が100重量%となるように変化させた。
【0099】
(評価)
(1)配向度Ωの測定
実施例及び比較例のハニカム構造体の接着材層の配向軸に垂直な面及び平行な面をそれぞれ6箇所ずつについて、SEM写真(×350)を撮影し、それぞれの撮影面を貫通する無機繊維の本数を測定し、その平均値を算出して、配向軸に垂直な面及び平行な面を貫通する無機繊維の数とした。
そして、この無機繊維の数より、上述した式(1)〜(3)を用いて配向度Ωを算出した。
結果を表1に示した。
なお、この配向度の測定では、上述したように撮影面において、アスペクト比1.5以下で観察されるものを貫通する無機繊維とした。
また、この測定方法では、撮影面においてアスペクト比1.5以下に観察されるものには、無機粒子や無機繊維のショットが含まれる可能性があるが、これらも含めて、配向度Ωの算出を行った。
【0100】
(2)浸透部割合の測定
接着材層とハニカム部材との界面近傍について、SEM写真(×350)を撮影し、接着材層を構成する材料が浸透している層と浸透していない層との境界面を特定した。次に、接着材層と外縁壁との界面から、特定した境界面までの距離を画像上で測定し、外縁壁の厚さに基づいて浸透部割合を算出した。
【0101】
(3)ヒートサイクル試験前後の押し抜き強度の測定
実施例及び比較例のハニカム構造体の押し抜き強度を、ヒートサイクル試験前後に下記の方法で測定した。結果を表1に示した。
押し抜き強度の測定は、図7(a)、(b)に示すように、ハニカム構造体10を台45の上に載置した後、その中央のハニカム部材に直径30mmのアルミニウム製の治具40で押し抜き荷重(加圧速度1mm/min)をかけて、破壊強度(押し抜き強度)を測定することにより行った。なお、強度の測定には、インストロン万能試験機(5582型)を用いた。
また、ヒートサイクル試験は、200℃に維持したハニカム構造体を800℃まで加熱し、その後、200℃まで冷却する工程を1サイクルとして、このサイクルを100回繰り返すことにより行った。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【0104】
表1に示したように、実施例1〜30のハニカム構造体では、無機繊維の配向度Ωが、0.2≦Ω≦0.7又は−0.7≦Ω≦−0.2であり、無機繊維の繊維径が6〜100μmのものを85重量%以上含み、ヒートサイクル試験前において、押し抜き荷重が大きく(接着強度が高く)、ヒートサイクル試験後においても、大きい押し抜き荷重(高い接着強度)を維持していた。
【0105】
これに対し、比較例1〜6のハニカム構造体では、無機繊維の配向度Ωが、Ω<−0.7、−0.2<Ω<0.2又は0.7<Ωであるか、無機繊維の繊維径が6〜100μmのものを80重量%未満しか含まないため、ヒートサイクル試験前には、ある程度大きい押し抜き荷重を有していたものの、ヒートサイクル試験後において、その押し抜き荷重が大きく低下(接着強度が低下)した。
また、比較例7では、繊維径のばらつきが大きいため、接着材としての混合状態が悪く、注入する方式で接着材ペーストを塗布することができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】配向度Ωの算出方法を説明するための説明図である。
【図2】本発明のハニカム構造体の一例を模式的に示した斜視図である。
【図3】(a)は、本発明のハニカム構造体を構成するハニカム部材を模式的に示した斜視図であり、(b)は、そのA−A線断面図である。
【図4】図2に示したハニカム構造体の接着材層と外縁壁とを模式的に示した拡大断面図である。
【図5】本発明のハニカム構造体の製造方法の一工程で作製するハニカム部材集合体の断面図である。
【図6】(a)、(b)は、接着剤ペーストを充填する際に使用する筒状治具を備えたハニカム構造体の製造装置を説明するための断面図である。
【図7】(a)、(b)は、押し抜き強度試験の方法を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0107】
10 ハニカム構造体
11 接着材層
12 コート材層
15 ハニカムブロック
17 外縁壁
20 ハニカム部材
21 セル
22 封止材
23 セル壁
58 セラミック
59 気孔
61 無機繊維
62 粒子状バインダ
63 液状バインダ
142 空隙保持材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設され、その外縁に外縁壁を有するハニカム部材が接着材層を介して複数個接着されたハニカム構造体であって、
前記接着材層は、少なくとも無機繊維と無機バインダとを含むと共に、
前記無機繊維は、繊維径6〜100μmの無機繊維を含んでなり、
前記長手方向を配向軸とした際に、Saltykovの方法により求めた前記無機繊維の配向度Ωが、0.2≦Ω≦0.7又は−0.7≦Ω≦−0.2であることを特徴とするハニカム構造体。
【請求項2】
前記接着材層とハニカム部材との界面では、ハニカム部材の外縁壁厚さに対し、30〜60%の厚さで接着材層を構成する材料が外縁壁に浸透している請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記無機繊維は、アスペクト比が3〜50である請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記ハニカム構造体の外周部分には、コート材層が形成されている請求項1〜3のいずれかに記載のハニカム構造体。
【請求項5】
前記セルは、いずれか一方の端部が封止材により封止されている請求項1〜4のいずれかに記載のハニカム構造体。
【請求項6】
前記セル壁の少なくとも一部には、触媒が担持されている請求項1〜5のいずれかに記載のハニカム構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−326574(P2006−326574A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−34345(P2006−34345)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】