説明

ハニカム触媒体

【課題】ガスセンサの機能を維持しつつ、水が付着することに起因してガスセンサが破損してしまうことを簡便な方法で抑制することができるハニカム触媒体を提供する。
【解決手段】排ガスの流路となる複数のセル11を区画形成し、少なくともその表面の一部に触媒が担持された隔壁13を有する触媒担持ハニカム構造体15からなり、触媒担持ハニカム構造体15には、穴からなる、ガスセンサが配置されるセンサ配置領域17aが形成されており、センサ配置領域17aに連通する複数のセルのうち(連通セル27)の一部のセル(目封止セル23)が、目封止部19によって目封止されており、センサ配置領域17aに連通する複数のセル27のうちの、目封止部19が配置された目封止セル23と目封止部19が配置されない貫通セル25の合計に対する、目封止セル23の個数割合が、15〜60%であるハニカム触媒体1a。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用、建設機械用、及び産業用定置エンジン、並びに燃焼機器等から排出される排ガスに含まれる一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NO)、及び硫黄酸化物(SO)等の被浄化成分の浄化に好適に用いられるハニカム触媒体に関し、更に詳しくは、ガスセンサの機能を維持しつつ、水が付着することに起因してガスセンサ(ガスセンサ素子)が破損してしまうことを簡便な方法で抑制することができるハニカム触媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガソリンエンジンからの排ガス流路に、ハニカム構造体に三元触媒を担持したハニカム触媒体を設けた排ガス浄化システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような排ガス浄化システムは、ガソリンエンジンから排出された排ガス中のNO、CO、HCを三元触媒によって浄化することができるものである。
【0003】
そして、排ガス浄化システムには、通常、排ガス中のガス状態(例えば、空気過剰率(λ)、酸素濃度、NO濃度等)を正確に測定するため、ガスセンサ(例えば、酸素センサ、NOセンサ等)が配置され、このガスセンサによって排ガスがモニタリングされている(例えば、特許文献1参照)。このとき、ハニカム触媒体に穴などを形成し、この穴などにガスセンサを配置することによって排ガス浄化システムの省スペース化を図ることが行われている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
ハニカム触媒体としては、入口から出口にかけてセル(流路)が貫通し、セルを形成する隔壁の表面に触媒が担持された(触媒層が形成された)構造を有する、いわゆるフロースルー型のものが用いられている。そして、このハニカム触媒体を用いて排ガスを浄化する方法としては、具体的には、ハニカム触媒体の一方の端面側からセル内に排ガスを流入させ、隔壁表面の触媒層に排ガスを接触させて浄化する方法を挙げることができる(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
しかしながら、エンジンの冷間始動時に、排気管等に溜まっていた凝縮水(例えば、結露などによる水)がガスセンサに付着することがあった。このような場合、ガスセンサの検知部分(検知素子など)はセラミックス製であることが多く、かつ、作動時にはヒータで加熱されているため、凝縮水がガスセンサに付着することによって急激に冷却されると、ガスセンサが破損することがあった。そのため、破損が生じ難いガスセンサやハニカム触媒体の開発が行われている。例えば、ガスセンサについては、ガスセンサを保護する保護カバーが提案されている(例えば、特許文献4,5参照)。また、ハニカム触媒体(フィルタ)については、フィルタ内部における凝縮水の通水抵抗を調節することが提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−766号公報
【特許文献2】特開2003−225576号公報
【特許文献3】特開2003−33664号公報
【特許文献4】特開2008−281583号公報
【特許文献5】特開2000−304719号公報
【特許文献6】特開2009−74425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献4及び5に記載のガスセンサは、凝縮水が付着することを防止するための専用の保護カバーが必要であり、また、この保護カバーの構造が複雑であるため、コストアップにつながるという問題があり、汎用性が十分でなかった。また、特許文献6に記載のフィルタは、凝縮水の通水抵抗を調節したことによって、目封止材の体積が大きくなったり、隔壁が厚くなったりしているため、圧力損失の増加、質量や熱容量の増加等を生じるという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、ガスセンサの機能を維持しつつ、水が付着することに起因してガスセンサが破損してしまうことを簡便な方法で抑制することができるハニカム触媒体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、ガスセンサが配置されるセンサ配置領域に連通する複数のセルのうち一部のセルを目封止することによって、上記課題を解決可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明によれば、以下に示す、ハニカム触媒体が提供される。
【0011】
[1] 排ガス中の被浄化成分を浄化するハニカム触媒体であって、前記排ガスの流路となる複数のセルを区画形成し、少なくともその表面の一部に触媒が担持された隔壁を有する触媒担持ハニカム構造体からなり、前記触媒担持ハニカム構造体には、溝、穴、または縁取りからなる、ガスセンサが配置されるセンサ配置領域が形成されており、前記センサ配置領域に連通する複数のセルのうちの一部のセルが、目封止部によって目封止されており、前記センサ配置領域に連通する複数のセルのうちの、前記目封止部が配置された目封止セルと前記目封止部が配置されない貫通セルの合計に対する、前記目封止セルの個数割合が、15〜60%であるハニカム触媒体。
【0012】
[2] 前記目封止セルの前記個数割合が、20〜60%である前記[1]に記載のハニカム触媒体。
【0013】
[3] 前記目封止セルの前記個数割合が、25〜60%である前記[1]または[2]に記載のハニカム触媒体。
【0014】
[4] 前記目封止セルの前記個数割合が、25〜50%である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のハニカム触媒体。
【0015】
[5] 前記目封止部の全部が、前記触媒担持ハニカム構造体の一方の端部に形成されている前記[1]〜[4]のいずれかに記載のハニカム触媒体。
【発明の効果】
【0016】
本発明のハニカム触媒体は、ガスセンサの機能を維持しつつ、水が付着することに起因してガスセンサが破損してしまうことを簡便な方法で抑制することができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のハニカム触媒体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1に示すハニカム触媒体の断面を模式的に示す断面図である。
【図3】図1に示すハニカム触媒体の一方の端面を模式的に示す平面図である。
【図4】本発明のハニカム触媒体の別の実施形態を模式的に示す、図2に対応する断面図である。
【図5】図4に示すハニカム触媒体のA−A’断面を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明のハニカム触媒体の別の実施形態を模式的に示す、図2に対応する断面図である。
【図7】本発明のハニカム触媒体の別の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図8】本発明のハニカム触媒体の別の実施形態を模式的に示す平面図である。
【図9】実施例及び比較例の実験で使用する機材、セット、及びフロー等を模式的に示す説明図である。
【図10】図9に示す機材の酸素センサの先端部を模式的に示す一部断面図である。
【図11】実験で得られる酸素センサ出力電力と時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0019】
[1]ハニカム触媒体:
図1は、本発明のハニカム触媒体の一の実施形態を模式的に示す斜視図であり、図2は、図1に示すハニカム触媒体の断面を模式的に示す断面図である。図1及び図2に示す本実施形態のハニカム触媒体1aは、排ガス中の被浄化成分を浄化するものであり、排ガスの流路となる複数のセル11を区画形成し、少なくともその表面の一部に触媒が担持された隔壁13を有する触媒担持ハニカム構造体15からなり、穴からなる、ガスセンサが配置されるセンサ配置領域17aが形成されており、センサ配置領域17aに連通する複数のセル(連通セル)のうちの一部のセル(目封止セル)が、目封止部19によって目封止されており、センサ配置領域17aに連通する複数のセル(連通セル27)のうちの、目封止部19が配置された目封止セル23と目封止部19が配置されない貫通セル25の合計に対する、目封止セル23の個数割合が、15〜60%のものである。このような構成により、本実施形態のハニカム触媒体1aは、ガスセンサの機能を維持しつつ、水が付着することに起因してガスセンサが破損してしまうことを簡便な方法で抑制することができる。なお、複数のセル11がハニカム状をなすように配置されており、図1〜6中、触媒(触媒層)は図示を省略している。
【0020】
ここで、ハニカム触媒体は、具体的には、自動車用、建設機械用、及び産業用定置エンジン、並びに燃焼機器等から排出される排ガスに含まれる一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NO)、及び硫黄酸化物(SO)等の被浄化成分を浄化するものであり、セルを形成する隔壁の表面に触媒層が担持され、排ガスを隔壁表面の触媒層に接触させることによって排ガスを浄化することができる。
【0021】
[1−1]触媒担持ハニカム構造体:
触媒担持ハニカム構造体は、排ガスの流路となる複数のセルを区画形成し、少なくともその表面の一部に触媒が担持された隔壁を有するものである。そして、触媒担持ハニカム構造体には、溝、穴、または縁取りからなる、ガスセンサが配置されるセンサ配置領域が形成されており、センサ配置領域に連通する複数のセルのうちの一部のセルが、目封止部によって目封止されているものである。触媒担持ハニカム構造体の形状は、例えば、円柱、角柱等の柱状などとすることができる。
【0022】
[1−1−1]隔壁:
隔壁は、強度、耐熱性等の観点から、セラミックスであることが好ましい。セラミックスとしては、例えば、アルミナ、ムライト、コージェライト、炭化珪素(SiC)、窒化珪素、炭化珪素を骨材とし珪素を結合材として形成された珪素−炭化珪素系複合材料、炭化珪素−コージェライト系複合材料、スピネル、アルミニウムチタネート、リチウムアルミニウムシリケート(LAS)、及び、Fe−Cr−Al系金属からなる群より選択される少なくとも一種の材料を主成分とするものであることが好ましい。ここで、「主成分」とは、全量に対して、50質量%以上含まれる成分を意味する。これらの中でも、強度、耐熱性等の観点から、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、コージェライト、アルミニウムチタネートが好ましい。
【0023】
隔壁の厚さは、特に制限されないが、25〜500μmであることが好ましく、37〜310μmであることが更に好ましく、50〜210μmであることが特に好ましい。上記隔壁の厚さが25μm未満であると、ハニカム触媒体としての強度が不足するおそれがある。一方、500μm超であると、圧力損失や熱容量が大きくなるおそれがある。ここで、本明細書において、「隔壁の厚さ」は、隔壁の断面のSEM(走査型電子顕微鏡)、または、マイクロスコープを用いた画像解析によって測定される値である。
【0024】
複数のセルの形状、即ち、ハニカム触媒体の中心軸方向に垂直な断面における形状は、ハニカム触媒体の両端面間に亘って一定であり、例えば、三角形、四角形、六角形、八角形などの多角形、円形、楕円形、レーシングトラック形、これらの一部が変形した形状などを挙げることができる。
【0025】
これらの中でも、作製が容易であるという観点から、三角形、四角形、六角形が好ましい。なお、各セルの上記断面形状は、同じであっても、異なっていてもよい。即ち、例えば、四角形と八角形の組み合わせであってもよい。
【0026】
セル密度は、特に制限はないが、8〜160セル/cmであることが好ましく、23〜140セル/cmであることが更に好ましく、30〜100セル/cmであることが特に好ましい。上記セル密度が8セル/cm未満であると、フィルタの幾何学的表面積が不足するおそれがある。一方、160セル/cm超であると、圧力損失が大きくなるおそれがある。ここで、「セル密度」とは、ハニカム触媒体の中心軸方向に垂直な断面における単位面積あたりのセルの数を意味する。
【0027】
隔壁が多孔質のセラミックスである場合、隔壁の気孔率は、20〜80%であることが好ましく、25〜70%であることが更に好ましく、28〜65%であることが特に好ましい。上記隔壁の気孔率が20%未満であると、熱容量が大きくなりすぎるおそれがある。一方、80%超であると、構造体としての強度が低下するという問題が生じるおそれがある。ここで、本明細書において「気孔率」とは、水銀ポロシメータで測定したものである。
【0028】
[1−1−1a]触媒:
隔壁には、少なくともその表面の一部に、排ガス中の被浄化成分を浄化するための触媒が担持されている。触媒は、少なくとも隔壁の表面の一部に担持されていればよいが、隔壁の表面の全部に担持されていることが好ましく、隔壁が細孔を有する多孔質である場合には、隔壁の表面以外に、細孔の表面にも担持されることが好ましい。このように細孔の表面にも触媒が担持されていると、排ガス中の被浄化成分の浄化効率が向上するという利点がある。
【0029】
触媒としては、具体的には、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)などの貴金属を用いることができ、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、及びパラジウム(Pd)からなる群より選択される一種以上の貴金属を用いることが好ましい。隔壁に触媒を担持させる方法としては、例えば、触媒を含有するスラリーに、触媒が担持される前のハニカム触媒体(ハニカム構造体)を浸漬して、上記スラリーをセル内に含浸させ、余分なスラリーをエアー等で吹き飛ばして除去した後、乾燥させる方法を挙げることができる。
【0030】
[1−1−2]センサ配置領域:
センサ配置領域は、溝、穴、または縁取りからなる、ガスセンサが配置される領域である。このようなセンサ配置領域を形成することによって、ハニカム触媒体にガスセンサを挿入して設置することができるため、排ガス浄化システムの省スペース化を図ることができる。また、ハニカム触媒体中の排ガスをモニタリングすることができるため、ハニカム触媒体の浄化性能(例えば、酸素濃度、NO濃度等)を正確に測定することができる。
【0031】
センサ配置領域としては、上述したように、溝、穴、または縁取りのいずれからなるものであってもよく、それぞれの形状は、ガスセンサの形状に応じて適宜選択することができる。例えば、溝の形状としては、断面形状がコの字状、U字状、V字状などとすることができる。穴の形状としては、断面形状が円形状、楕円形状、三角形状、四角形状、多角形状などとすることができる。縁取りの形状としては、縁取り面が平面状、曲面状などとなるようにすることができる。これらの中でも、応答性と耐久性が良好であるという点、及び、形成が容易であるという点から、円形状であることが好ましい。
【0032】
また、センサ配置領域が溝または穴である場合、その軸(延長方向に沿う軸)がハニカム触媒体の中心軸に直交するように、センサ配置領域を形成してもよいし(図2参照)、上記中心軸に対して傾斜するように形成してもよい。また、センサ配置領域が穴である場合、その形成部位は特に制限はないが(ハニカム触媒体のどの部分にセンサ配置領域を形成してもよいが)、例えば図2に示すように、ハニカム触媒体の中心軸方向における中央部に形成することが好ましい。
【0033】
例えば、図1及び図2に示すハニカム触媒体1aは、ハニカム触媒体1aの中心軸方向における中央部に、その軸が上記中心軸に直交するような断面円形状の穴からなるセンサ配置領域17aが形成されている例である。図7に示すハニカム触媒体1dは、排ガス流出側の端部22に、断面形状がU字状の溝からなるセンサ配置領域17bが形成されている例である。図8に示すハニカム触媒体1eは、排ガス流出側の端部22に、縁取り面が曲面状の縁取りからなるセンサ配置領域17cが形成されている例である。なお、図7は、本発明のハニカム触媒体の別の実施形態を模式的に示す斜視図であるが、セル(隔壁)及び目封止部は省略している。図8は、本発明のハニカム触媒体の別の実施形態を模式的に示す平面図である。
【0034】
センサ配置領域の形成方法としては、ドリル等の掘削工具を用いて形成することができる。
【0035】
センサ配置領域の寸法(直径)としては、使用するセンサの寸法に合わせて適宜設定することができ、具体的には、一般的なセンサの寸法(直径0.1〜20mm程度)に合わせて設定することができる。なお、酸素センサ等のガスセンサの場合は、直径7〜15mmが一般的であるので、センサ配置領域の寸法(直径)を10〜60mmとすることが好ましい。
【0036】
[1−1−3]目封止部:
目封止部は、センサ配置領域に連通する複数のセルのうちの一部のセルを目封止するものである。この目封止部を形成することによって、エンジンの冷間始動時に、排気管等に溜まっていた凝縮水(結露などによる水)がセルを通ってガスセンサに付着することを抑制することができる。そのため、ガスセンサに水が付着することに起因してガスセンサが破損することを低減させることができる。
【0037】
本発明のハニカム触媒体は、センサ配置領域に連通する複数のセル(連通セル)のうちの、目封止部が配置された目封止セルと目封止部が配置されない貫通セルの合計に対する、目封止セルの個数割合が、15〜60%であり、20〜60%であることが好ましく、25〜60%であることが更に好ましく、25〜50%であることが特に好ましい。個数割合を25〜50%とすることによって、水などが付着することに起因してガスセンサが破損してしまうことを特に効果的に防止することができる。上記個数割合が15%未満であると、ガスセンサに凝縮水が付着する可能性が高くなるため、ガスセンサにクラックが発生する頻度が高くなる。一方、60%超であると、センサ配置領域に連通する複数のセルの多くが目封止されてしまうため、フィードバック周波数が低下する。即ち、ガスセンサの機能が維持されなくなる。別言すると、ガスセンサによるセンシングの応答性が低下するため、ガスセンサによって排ガスを正確にモニタリングすることができなくなる。
【0038】
目封止部のセル中の位置は、特に制限はなく、触媒担持ハニカム構造体の一方の端部、センサ配置領域側の端部、セルの途中などとすることができる。例えば、図1〜図3に示すハニカム触媒体1aは、触媒担持ハニカム構造体15の一方の端部21に目封止部19が形成されている例である。また、図4及び図5に示すハニカム触媒体1bは、目封止セル23のうちセンサ配置領域17a側の端部に目封止部19が形成されている例である。更に、図6に示すハニカム触媒体1cは、セル11の途中に目封止部19(目封止部19a)が形成されている例である。なお、図5は、図4に示すハニカム触媒体1bのA−A’断面を模式的に示す断面図である。
【0039】
目封止部は、作製が容易になるため、その全部が、触媒担持ハニカム構造体の一方の端部に形成されていることが好ましい。例えば、図1〜3に示すハニカム触媒体1aは、触媒担持ハニカム構造体15の一方の端部21に目封止部19の全部が形成されている例である。
【0040】
また、目封止部が形成されたセル(目封止部セル)と目封止部が形成されないセル(貫通セル)とが交互に配置されていわゆる市松模様を呈するように、目封止部19を配置することが好ましい。このように目封止部を配置すると、ガスセンサに水が付着することを更に良好に抑制することができる。例えば、図3に示すハニカム触媒体1aは、目封止部が形成されたセル(目封止部セル)23と目封止部が形成されないセル(貫通セル)25とが交互に配置されていわゆる市松模様を呈するように、目封止部19を配置している例である。
【0041】
目封止部の形成方法は、従来公知の方法を適宜採用することができるが、例えば、セルの途中に目封止部を形成する場合には、以下のように目封止部を形成することができる。まず、排ガス流出側の端面が鉛直方向下方に位置するように、目封止部が形成されていない状態のハニカム構造体を配置する。次に、セルと嵌り合う大きさ(太さ)の紙製の棒状部材を用意し、この棒状部材を、排ガス流出側からセル内の、目封止部を形成する位置にその端面が位置するまで挿入する。次に、排ガス流入側の端面側から、目封止部の原料をセル内に供給して、棒状部材の端面に上記原料を堆積させた後、乾燥、焼成させることで所望の位置に目封止部が形成されたハニカム構造体(ハニカム触媒体)を得ることができる。
【0042】
本発明のハニカム触媒体は、センサ配置領域に連通する複数のセル(連通セル)以外のセルには目封止部が形成されないことが好ましい。連通セル以外のセルに目封止部を形成すると、ハニカム触媒体の圧力損失が上昇してしまうおそれがある。図3に示すハニカム触媒体1aは、センサ配置領域17aに連通する複数のセル(連通セル)27以外のセル29には目封止部19が形成されていない例である。
【0043】
[2]ハニカム触媒体の製造方法:
本発明のハニカム触媒体を製造するには、まず、坏土を調製する。坏土は、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、窒化珪素、コージェライト、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素−コージェライト系複合材、リチウムアルミニウムシリケート、チタン酸アルミニウム、Fe−Cr−Al系金属等の材料に、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等のバインダを加え、更に、界面活性剤、溶媒としての水等を添加して、可塑性のものとして得ることができる。
【0044】
次に、調製した坏土をハニカム形状に成形してハニカム成形体を得る。ハニカム形状に成形する手段としては、例えば、押出成形法を用いることができる。
【0045】
次に、ハニカム成形体を乾燥し、焼成してハニカム焼成体を得ることができる。なお、ハニカム成形体の乾燥方法は、特に制限はなく、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の従来公知の乾燥法を用いることができる。また、焼成の条件(例えば、温度・時間)は、成形原料の種類によって異なるため、その種類に応じて適当な条件を選択することができる。
【0046】
次に、得られたハニカム焼成体の外周に、ドリル等の掘削工具を用いて、溝、穴、または縁取りからなるセンサ配置領域を形成する。
【0047】
次に、センサ配置領域に連通する複数のセルのうちの所定のセルに目封止部を形成する。このとき、隣り合うセルに交互に目封止部を形成して、目封止部を、いわゆる市松模様を呈するように配置することが好ましい。なお、目封止部の形成方法としては、例えば、既に上述した方法や、目封止部を形成しないセルをマスクフィルムなどによってマスキングした状態で、ハニカム焼成体の一方の端部を目封止用スラリーに浸漬し、マスキングされていないセルに目封止用スラリーを充填し、乾燥・焼成させる方法を挙げることができる。なお、目封止用スラリーとしては、上記坏土の原料と同じ材料を用いることができる。
【0048】
次に、目封止部が形成されたハニカム焼成体(ハニカム構造体)を、触媒を含有する触媒スラリー(触媒を分散させたスラリー)に浸漬した後、乾燥させて、隔壁の表面に触媒を担持させたハニカム構造体(ハニカム触媒体)を得る。触媒としては、上述した触媒を用いることができる。なお、目封止部を形成する前に触媒を担持させ、その後、目封止部を形成しても良い。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における各種の評価、測定は、下記方法により実施した。
【0050】
[目封止率]:
目封止率(%)は、式:(センサ配置領域に連通するセルのうち目封止が形成されたセルの数)/(センサ配置領域に連通するセルの数)×100により算出した。
【0051】
[水掛け試験]:
2400cc、4気筒のガソリンエンジン車を、シャーシダイナモにおいて、図9に示すような構成の装置を使用して水掛け試験を行った。上記装置は、エンジン制御用コンピュータ31の指示を受けた燃料噴射量制御部33によってエンジン34を制御するものである。エンジン34の排ガス路には、各実施例及び比較例で得られたハニカム触媒体を有する排ガス浄化システム35がそれぞれ配置しており、排ガス浄化システム35のハニカム触媒体にはガスセンサ37を配置させた。そして、ガスセンサ37としては、図10に示すような、板状ジルコニア固体電解質を用いた加熱型酸素センサを使用した。図10は、ガスセンサ37の先端部を模式的に示す一部断面図であり、ガスセンサ37は、筒状のハウジング39と、このハウジングの先端に連結した保護カバー41と、ハウジング39及び保護カバー41内部の空間に配置され、排ガス中の酸素濃度を測定するセンサ素子42と、を有し、保護筒41には貫通孔41aが複数個設けられている。なお、図9は、実施例及び比較例の実験で使用する機材、セット、及びフロー等を模式的に示す説明図であり、図10は、図9に示す機材の加熱型酸素センサの先端部を模式的に示す一部断面図である。
【0052】
そして、エンジンがコールドの状態、即ちエンジン冷却水の水温が30℃以下の状態で、エンジン制御用の加熱型酸素センサの上流に位置するエキゾーストマニフォールド(図9中、符号「36」で示す)内に、表1〜3に示した量(ml)の水を注入した後、エンジンを始動させた。そして、エンジン始動と同時に加熱型酸素センサのヒータに通電を開始した。エンジン始動後、アイドリング状態で2分間運転した後、5000rpmまでの空吹かし(レーシング)を3回行った。その後、センサ素子について、クラックの発生の有無を目視により判定した。この試験を、センサ(加熱型酸素センサ)10個について行い、センサ素子クラック発生数を求めた。なお、水量50mlにおいて、クラックの発生が確認されなければ、車種等の使用条件によっては使用可能であると判断することができる。また、水量100mlでクラックの発生が確認されなければ設計上問題ないと判断することができる。
【0053】
[フィードバック周波数]:
2400cc、4気筒のガソリンエンジン車を、シャーシダイナモにおいて時速100kmで走行させ、走行時のガスセンサ37(加熱型酸素センサ)のフィードバック制御周波数を測定した。フィードバック周波数は、加熱型酸素センサの出力電圧からフィードバック周期を求め、その数値から計算した(図11参照)。なお、フィードバック制御周波数は、2Hz以上であることが好ましいが、1.7Hz以上であれば実用上は問題ない。図11は、実験で得られる酸素センサ(加熱型酸素センサ)出力電圧と時間(分)との関係を示すグラフである。
【0054】
(実施例1)
まず、原料として、タルク、カオリン、アルミナとを配合し、これらの粉末100質量部に対して、有機バインダとしてメチルセルロース6質量部、界面活性剤2.5質量部、及び水24質量部を加え、均一に混合及び混練して成形用の坏土を得た。得られた坏土を押出成形機にて焼成後の寸法(直径×長さ)が144×152mm、隔壁厚さ0.1mm(4mil)、セル数が62セル/cm(400cpsi)であって、セルの断面形状が四角形であるハニカム成形体を成形し、焼成して円柱状のハニカム焼成体を得た。得られたハニカム焼成体の外周面(外周壁側面)の、ハニカム焼成体の長さの半分の位置に、寸法(直径×深さ)25×25mmの断面円形状のセンサ配置領域を、ハニカム焼成体の中心軸に対して直交するようにドリルで形成した。その後、センサ配置領域に連通する複数のセル(連通セル)のうちの一部のセル(目封止セル)に長さ3mmの目封止部を形成してハニカム構造体を得た。なお、ハニカム構造体は、その一方の端部に目封止部の全部が位置し、目封止率が15%であった。また、目封止するための材料は、上記坏土の原料と同じ材料を用いた。その後、目封止部が形成されたハニカム構造体を、触媒(具体的には、白金及びパラジウム)を含有する触媒スラリーに浸漬し、隔壁の表面に触媒を担持させてハニカム触媒体を得た。
【0055】
本実施例において、水掛け試験の結果は、センサ10個中の2個のセンサにクラックが発生した。また、フィードバック周波数は、2.3Hzであった。
【0056】
(実施例2〜26、比較例1〜6)
表1〜3に示すようなハニカム触媒体を得たこと以外は、実施例1と同様にしてハニカム触媒体を得た。得られたハニカム触媒体について実施例1と同様の各評価を行った。なお、表1〜3中、「目封止部位置」の欄の「上流側端部」は、ハニカム触媒体の一方の端部を意味し、具体的には、図2に示すハニカム触媒体1aの目封止部19が形成されている部分である。「センサ配置領域上流側」は、センサ配置領域に連通するセルのうち、ハニカム触媒体の一方の端部とは反対側の端部を意味し、具体的には、図4に示すハニカム触媒体1aの目封止部19が形成されている部分である。「上流側端面から100mm」は、上記上流側端部側の端面から100mmの位置を意味する。なお、表2は、表1の実施例及び比較例に対して目封止部位置のみを変えた結果である。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
表1〜3から明らかなように、実施例1〜26のハニカム触媒体は、比較例1〜6のハニカム触媒体に比べて、ガスセンサの機能を維持しつつ、水が付着することに起因してガスセンサが破損してしまうことを簡便な方法で抑制することができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のハニカム触媒体は、自動車用、建設機械用、及び産業用定置エンジン、並びに燃焼機器等から排出される排ガスに含まれる一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NO)、及び硫黄酸化物(SO)等の被浄化成分を浄化するためのフィルタとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0062】
1a,1b,1c,1d,1e:ハニカム触媒体、11:セル、13:隔壁、15:触媒担持ハニカム構造体、17a,17b,17c:センサ配置領域、19,19a:目封止部、21:一方の端部、22:排ガス流出側の端部、23:目封止セル、25:貫通セル、27:連通セル、29:連通セル以外のセル、31:エンジン制御用コンピュータ、33:燃料噴射量制御部、34:エンジン、35:排ガス浄化システム、36:エキゾーストマニフォールド、37:ガスセンサ、39:ハウジング、41:保護カバー、41a:貫通孔、42:センサ素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス中の被浄化成分を浄化するハニカム触媒体であって、
前記排ガスの流路となる複数のセルを区画形成し、少なくともその表面の一部に触媒が担持された隔壁を有する触媒担持ハニカム構造体からなり、
前記触媒担持ハニカム構造体には、溝、穴、または縁取りからなる、ガスセンサが配置されるセンサ配置領域が形成されており、前記センサ配置領域に連通する複数のセルのうちの一部のセルが、目封止部によって目封止されており、
前記センサ配置領域に連通する複数のセルのうちの、前記目封止部が配置された目封止セルと前記目封止部が配置されない貫通セルの合計に対する、前記目封止セルの個数割合が、15〜60%であるハニカム触媒体。
【請求項2】
前記目封止セルの前記個数割合が、20〜60%である請求項1に記載のハニカム触媒体。
【請求項3】
前記目封止セルの前記個数割合が、25〜60%である請求項1または2に記載のハニカム触媒体。
【請求項4】
前記目封止セルの前記個数割合が、25〜50%である請求項1〜3のいずれか一項に記載のハニカム触媒体。
【請求項5】
前記目封止部の全部が、前記触媒担持ハニカム構造体の一方の端部に形成されている請求項1〜4のいずれか一項に記載のハニカム触媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−121030(P2011−121030A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282729(P2009−282729)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】