説明

ハロゲン非含有難燃剤

本発明は、リン含有モノマーをエステル化用モノマーと重縮合することによって得ることができるハロゲン非含有難燃剤に関する。リン含有モノマーは、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファ−フェナントレン−10−オキシド(DOPO)及び環置換DOPO誘導体の不飽和カルボン酸への付加物である。一価アルコール及び多価アルコールがエステル化用モノマーとして使用される。本発明の難燃剤は、20,000を超える平均分子量、及び、少なくとも55の平均重合度Pを有し、好ましくは、ポリアミド繊維及びポリエステル繊維を溶融紡糸によって製造するために使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン非含有難燃剤、及び、ハロゲン非含有難燃剤を含有する熱可塑性ポリマー組成物、具体的には、ポリアミド又はポリエステルに基づくポリマー組成物に関する。本発明の熱可塑性ポリマー組成物は、ポリマー繊維を溶融紡糸プロセスで製造するために特に好適である。
【背景技術】
【0002】
難燃性の熱可塑性ポリマーの製造のためには、非反応性の難燃剤を使用することが経済的理由のために望ましい。これは、非反応性の難燃剤は簡便な物理的混合又は溶解によってベースポリマーに導入することができるからである。非反応性の難燃剤とは対照的に、反応性の難燃剤を使用する難燃性の熱可塑性ポリマーの製造では常に、通常の場合にはベースポリマーの製造中に既に行われる少なくとも1つ又はそれ以上の化学的プロセス工程が要求される。
【0003】
非反応性の難燃剤では、難燃剤が、通常的には押出しプロセス中にではあるが、加工直前にだけベースポリマーに添加される、いわゆる「後添加」プロセスが可能になるのに対して、反応性の難燃剤を後添加プロセスにおいて使用することは通常、不可能である。これは、反応性の難燃剤がベースポリマーと化学的に反応し、ほとんどの場合において、ポリマーの分解を、押出し中において一般的な温度及び圧力の条件のもとで引き起こすからである。
【0004】
難燃性であるように仕上げられるポリアミドの製造のために、非常に多数の非反応の難燃剤が既に長い間にわたって工業的に使用されている。しかしながら、これらは、ほとんどの場合において、それらの負の生態毒性学的及び遺伝毒性学的な潜在的可能性のために近年では世論の批判を受けているハロゲン含有物質又はアンチモン含有物質に基づいている。この理由のために、ハロゲン非含有及びアンチモン非含有の非反応性の難燃剤がますます使用される(例えば、欧州特許出願公開第1070754号に記載されるように、赤リン、メラミンポリホスフェート、メラミンシアヌレート又はアルミニウムホスフィナートなど、これらは、ハロゲン及びアンチモンを含有する物質との比較において、かなりより良好な毒性学的性質によって有名である)。
【0005】
しかしながら、上記の難燃剤はすべてが、ポリアミド繊維又はポリエステル繊維の製造のために用いられる溶融紡糸プロセスにおける使用にはほんの部分的にしか好適であるにすぎない。ハロゲン化難燃剤は、紡糸中において通常的な温度及び圧力の条件のもとで紡糸ノズルに相当の損傷を与える可能性がある。ハロゲン化難燃剤とは対照的に、メラミンポリホスフェート、メラミンシアヌレート又はアルミニウムホスフィナートは、ポリアミド又はポリエステルにおける不十分な可溶性を有するにすぎず、そのため、ベースポリマーにおける難燃剤の不均一な分布をもたらす。このことは様々な大きな欠点を特に溶融紡糸プロセスにおいて引き起こす。これは、紡糸ノズルの目詰まりが生じるからである。赤リンの場合には、独国特許出願公開第2148348号から公知であるように、単に強く赤色に染まった繊維製造物が得られ得るだけである。
【0006】
独国特許出願公開第2646218A1号は、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファ−フェナントレン−10−オキシド(DOPO)の、少なくとも1つのエステル形成官能基を有する不飽和化合物への付加反応を行い、その後、ジカルボン酸又はそのエステル化用誘導体、ジオール又はそのエステル化用誘導体、及び、オキシカルボン酸又はそのエステル化用誘導体から選択されるエステル化用化合物とのさらなる反応を行うことによって得られる様々なリン含有難燃剤を開示する。これらのリン含有難燃剤は、その後、防炎性のポリエステルを得るように、ジカルボン酸、例えば、テレフタル酸などとの反応及びグリコールとの反応に供される。
【0007】
独国特許第2816100C2号は、DOPO又はDOPO誘導体のイタコン酸への付加生成物を多価アルコールと重縮合することによって得られ、1,000g/mol〜20,000g/molの分子量及び5.3重量%〜8.5重量%のリン含有量を有する難燃剤を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許出願公開第2148348号
【特許文献2】独国特許出願公開第2646218A1号
【特許文献3】独国特許第2816100C2号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、毒性がなく、かつ、熱可塑性の成形用組成物と一緒に溶融紡糸プロセス又は他の押出しプロセスにおいて高温で容易に加工することができるハロゲン非含有難燃剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、この目的が、リン含有モノマーを、リン含有ポリエステルを形成するためにエステル化用モノマーと重縮合することによって得ることができ、リン含有モノマーが、一価カルボン酸及び多価カルボン酸及びそれらの無水物からなる群より選択される不飽和化合物への9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファ−フェナントレン−10−オキシド(DOPO)及び環置換DOPO誘導体の付加反応生成物からなる群より選択され、かつ、エステル化用モノマーが、一価アルコール及び多価アルコール及びそれらの混合物、並びに、一価カルボン酸及び多価カルボン酸からなる群より選択されるハロゲン非含有難燃剤によって達成される。本発明による難燃剤は、そのようなポリエステルが、20,000g/molを超える平均分子量M、及び、少なくとも55の平均重合度Pを有することを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0011】
驚くべきことに、本発明によるリン含有ポリエステルを、ポリアミドに基づく成形用組成物、例えば、PA6、PA12及びPA66などに添加することにより、難燃性のポリアミド繊維を溶融紡糸プロセスで製造するために好適であるポリマー組成物が得られることが見出された。良好な結果がまた、ポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などに基づくポリマー組成物に関しても得ることができた。本発明による難燃剤は、熱可塑性のベースポリマーにおける高い安定性及び良好な溶解性によって特徴づけられ、従って、溶融紡糸プロセス、押出しプロセス又は射出成形プロセスにおいて通常的である条件のもとでの簡便な物理的混合によってベースポリマーに均一に分布させることができる。さらに、大きい分子量のために、本発明による難燃剤は、ベースポリマーから抜け出る非常に低い傾向を有するだけあり、従って、永続的な難燃性効果をもたらす。同時に、本発明による難燃剤は、ベースポリマーの物理的性質に対する負の影響を有しておらず、その結果、溶融紡糸プロセス又はその後のプロセス段階、例えば、延伸、表面加工及び染色などの期間中における確実な加工が保証される。
【0012】
難燃剤として使用される本発明によるリン含有ポリエステルは、好ましくは、動的粘度が120℃の温度において200Pasであり、好ましくは750Pas〜1250Pasの間である。この粘度範囲において、高温での溶融紡糸プロセス及び他の押出しプロセスにおけるポリエステルの最適な加工性が保証される。所望の粘度を、ポリエステルの平均分子量M、平均重合度P及び/又は架橋度の的確なモニタリングによって調節することができる。
【0013】
さらに、本発明によるリン含有ポリエステルは、好ましくは、軟化点が100℃〜130℃の間である。そのようなポリエステルは、類似する物理的性質を有するポリアミドとの使用に合わせて容易に適合化することができる。
【0014】
本発明による難燃剤を製造するために使用されるリン含有モノマーは、不飽和の一価カルボン酸又は多価カルボン酸又はそれらの無水物へのDOPO又は環置換DOPO誘導体の付加物であり、好ましくは、下記の一般式(I)によって表される化合物を含む:
【化1】


式中、R及びRは同一又は異なり、それぞれが互いに独立して、アルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシ又はアラルキルを示す;n及びmは0〜4の整数である;Rは、不飽和ジカルボン酸又はその無水物に由来する残基を示す。好ましくは、R及びRはそれぞれがC1〜8アルキル又はC1〜8アルコキシであり、n及びmは0又は1である。
【0015】
DOPOとの反応のための好ましい不飽和のモノカルボン酸又はジカルボン酸には、ソルビン酸、アクリル酸及びクロトン酸、並びに、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、シトラコン酸、メサコン酸及びテトラヒドロフタル酸、並びに、それらの無水物がある。イタコン酸、マレイン酸及びそれらの無水物が特に好ましい。
【0016】
本発明によるポリエステル難燃剤を製造するために使用されるエステル化用モノマーは、好ましくは、飽和した一価アルコール及び多価アルコールからなる群より選択される。特に好ましいエステル化用モノマーが脂肪族ジオールであり、例えば、モノエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール及び1,10−デカンジオールなどである。好ましい多価アルコールが、トリス−2−ヒドロキシエチルイソシアヌレート(THEIC)、グリセロール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン及びペンタエリスライト、並びに、糖アルコール、例えば、マンニトールなどである。
【0017】
熱可塑性ポリマーとの相容性を改善するために、本発明によるポリエステルは、一価アルコール、又は、場合により、リン含有モノカルボン酸との反応によってエンドキャップ処理することができる。
【0018】
本発明による難燃剤のリン含有量はほぼ無限に調節することができ、好ましくは約5重量%〜8.5重量%の間に達し、特に好ましくは約7.5重量%〜約8.5重量の間に達する。
【0019】
本発明によるリン含有ポリエステルの平均分子量Mは、好ましくは、約25,000g/mol超に達し、好ましくは約25,000g/mol〜約100,000g/molの間に達し、特に約25,000g/mol〜35,000g/molの間に達する。そのようなポリエステルの平均重合度は少なくとも50に達し、好ましくは約60〜250の間に達し、特に約60〜90の間に達する。従来技術との比較において高分子量であるそのようなポリエステルは、再エステル化反応が大きく抑制されるので、ポリマー溶融物において特に安定である。
【0020】
本発明による難燃剤の特に好ましい実施形態の1つが、下記の一般式(II)によって表されるポリエステル鎖を含有する:
【化2】


式中、Rは、水素、メチル又はエチルを示す;Rは残基−(CH−O−Rを示す;Aは、2個〜6個の炭素原子を有する分枝型又は非分岐型のアルキレン基、或いは、場合により置換された芳香族架橋基である;nは55〜110の間での整数である。芳香族架橋基における置換基は、好ましくは、アルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシ、アラルキル及びアルキルアリールである。
【0021】
式(II)によって表される本発明による難燃剤は、好ましくは、リン含有量が7.5重量%〜8.5重量%の間であるポリエステルである。このポリエステルは、下記の一般式(III)によって表される化合物の重縮合によって容易に利用可能である:
【化3】


上記式(III)において、Aは、上記で具体的に示された意味を有する。
【0022】
1つの特に好ましい実施形態において、上記式(II)における残基は下記の意味を有する:R=H、R=CHCHOH、及び、A=CHCH。この場合、ポリエステルは、7.9重量%〜8.4重量%のリン含有量、55〜250の間の平均重合度Pnについて(末端基アッセイからの)25,000g/mol〜100,000g/molの平均分子量Mn、及び、100℃〜130℃の間の軟化点を有する。120℃の温度におけるこのポリエステルの動的粘度が700Pas〜1300Pasの間に達する。
【0023】
標準的なポリエステル製造条件と比較した場合、本発明によるこのようなポリエステルの製造のために必要であるより高温及び長時間に及ぶ重縮合時間に加えて、鎖の延長及び鎖の架橋のために当業者には公知である添加剤を、場合により、熱安定剤、及び/又は、鎖のエンドキャップ化のための一官能性のアルコール若しくはカルボン酸との組合せで使用することもまた可能である。本発明による難燃剤の色を改善するために、公知の蛍光増白剤を使用することがさらに可能である。本発明による難燃剤のポリエステル鎖は、好ましくは、部分的に架橋される。すなわち、ポリエステル鎖の一部が、多価アルコールの存在下での共縮合によって互いにつながれる。
【0024】
本発明によれば、上記で記載される難燃剤は、難燃性のポリマー繊維を溶融紡糸プロセスで製造するために使用され、この場合、ポリマー繊維は、ポリアミド繊維及びポリエステル繊維からなる群より選択される。この目的のために、難燃剤が、適切なポリアミド又はポリエステルと溶融物において物理的に混合され、その後、混合物は、フィラメントを形成するように、0.1重量%〜2重量%の間でのリン含有量を有するポリマー混合物として直接に紡糸されるか、或いは、その後、混合物は、2重量%〜5重量%の間のリン含有量を有するマスターバッチに関して調節され、その後、同じタイプ又は異なるタイプのポリアミド又はポリエステルに加えられ、第2のプロセス工程でフィラメントに紡糸されるかのどちらかである。
【0025】
本発明による難燃剤の優れた化学的安定性のために、本発明による難燃剤はまた、他の熱可塑性の成形用組成物において使用することができ、例えば、押出しプロセス又は射出成形プロセスによって高温で通常の場合には加工される、いわゆる「エンジニアリングポリマー」などにおいて使用することができる。
【0026】
従って、本発明のさらなる態様が、ポリエステル、ポリイミド、ポリスルホン、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンなど)、ポリアクリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ABS、ポリウレタン、ポリスレチン、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂及びポリアミドからなる群より選択される熱可塑性ポリマーを含み、かつ、本発明によるハロゲン非含有難燃剤を含み、ポリマー組成物の総リン含有量が約0.1重量%〜5重量%の間に達する熱可塑性ポリマー組成物に関する。
【0027】
熱可塑性ポリマーは、好ましくは、溶融紡糸するために好適であるポリアミドであり、具体的には、PA6、PA66及びPA12からなる群より選択されるポリアミドである。
【0028】
別の好ましい実施形態において、熱可塑性ポリマーは、溶融紡糸するために好適であるポリエステルであり、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどである。
【0029】
本発明はさらに、溶融紡糸するために好適であるポリアミドと、本発明による難燃剤とを含有するポリマー組成物を、フィラメントを形成するように融解し、押出しする工程を含む、難燃性のポリアミド繊維を製造する方法に関する。ポリマー組成物は、溶融紡糸するために好適であるポリアミド成形用組成物に、2重量%〜5重量%のリン含有量を有するマスターバッチとして加えることができ、また、ポリマー組成物のポリアミドと、ポリアミド成形用組成物のポリアミドとは、同一又は異なることができる。別の好ましい実施形態によれば、難燃性のポリエステル繊維を、溶融紡糸するために好適であるポリエステルと、本発明による難燃剤とを含むポリマー組成物から、同様にまたマスターバッチプロセスで製造することが、同じ様式で可能である。
【0030】
溶融紡糸プロセスで製造されるポリマー繊維は、好ましくは、総リン含有量が0.1重量%〜2重量%であり、特に0.5重量%〜1重量%であり、従って、それらは十分に防炎性である。
【0031】
上記のポリアミド及びポリエステルはすべてが、溶融紡糸プロセスにおいて通常的であるような条件のもとでのポリマー溶融物の簡便な物理的混合によって、上記の難燃剤により難燃性であるように、優れた様式で仕上げることができる。本発明によるリン含有ポリエステルを非反応性の難燃剤として使用するとき、重要なポリマー特性、例えば、混合後に得られるポリマー組成物の溶融粘度、融点及び溶融体積流量などが、確実な加工、例えば、溶融紡糸などが依然として完全に保証されている程度に変化するだけである。
【0032】
従って、本発明はまた、熱可塑性の成形用組成物の製造における本発明によるハロゲン非含有難燃剤の使用に関し、この場合、成形用組成物は、防炎性の成形品を得るように、120℃を超える温度で加工されるために適合化される。本発明は、成形品が、溶融紡糸プロセスで製造される難燃性のポリアミド繊維及び難燃性のポリエステル繊維であることを特に規定する。
【0033】
具体的な適用事例のために、他の公知の難燃剤を、相乗剤の観点から、本発明による難燃剤との組合せで使用することもまた可能である(例えば、メラミンシアヌレート、メラミンポリホスフェート、アンモニウムポリホスフェート、及び、金属のスズ酸塩、好ましくは、スズ酸亜鉛など)。これらの相乗剤の使用に起因して、難燃性の特性にとって重要であるパラメーターを改変することができる。例えば、特徴的なコーン熱量計数値のTTI(発火時間)を増大させることができ、PHRR(最大熱放出速度)を低下させることができ、及び/又は、煙ガス発生の所望される抑制を改善することができる。さらなる相乗剤についての例が、金属のホウ酸塩(例えば、ホウ酸亜鉛など)、多面体型オリゴマー状シルセスキオキサン(例えば、Hybrid Plasticsの商品名POSS(登録商標)など)、並びに、剥離フィロシリケートのモンモリロナイト及びベントナイトに基づくいわゆるナノクレイ(例えば、Nanocorの製造物Nanomer(登録商標)、又は、Suedchemieの製造物Nanofil(登録商標))、及び、無機金属水酸化物(例えば、Martinswerkの製造物Magnifin(登録商標)又は製造物Martinal(登録商標)など)である。ポリマー組成物において、相乗剤は、本発明による難燃剤の重量に関して0.5重量%から50重量%に至るまでの割合で存在する。
【0034】
本発明のさらなる利点が、好ましい実施形態の下記の記載から明らかである。しかしながら、そのような好ましい実施形態は限定の意味で解釈してはならない。
【実施例】
【0035】
本発明によるリン含有ポリエステルの製造
実施例1:
プロピオン酸から2回再結晶された、下記の式:
【化4】


によって表される2−[(6−オキシド−6H−ジベンゾ[c,e][1,2]オキサホスフィニン−6−イル)メチル]コハク酸の346.3g(1mol)を、精密ガラス撹拌装置、20cmのVigreuxカラム、蒸留用連結管及び内部温度計を備える1リットルの三口フラスコにおいて186.21g(3mol)のモノエチレングリコール(MEG)と一緒に2時間還流し、それにより生じる反応水を蒸留によって連続的に除く。その後、カラムを除き、圧力を20mbarに下げて、過剰なMEGを蒸留によって除く。Nによる通気の後、10mlのMEGに溶解された30mgのGeOと、380mgのトリメチロールプロパンとを加えて15分間撹拌し、その後、圧力を0.5mbarに下げ、温度を260℃に上げる。その後、混合物をこれらの条件のもとで240分間撹拌する。冷却後、下記の一般式によって表されるポリエステル鎖:
【化5】


(式中、nはポリエステル反復ユニットのモル分率を示する)
を含有し、ポリエステル鎖がおよそ80の平均重合度Pを有する淡黄色のガラス状ポリマーが得られる。このようにして得られるポリマーは下記の分析データを有する:
【表1】

【0036】
難燃性のポリアミド繊維の製造
実施例2−1:
実施例1で製造されるリン含有ポリエステルをボールミルで粉砕し、その後、粉末が25ppmの水分割合を有するまで、粉末を55℃で乾燥キャビネットにおいて24時間乾燥する。その後、無色の粉末を、2.7の相対粘度(これはHSOにおける1%溶液として25℃で測定される)を有するポリアミド6のチップと混合し、PA6について通常的なパラメーターに従って5:95の質量分率(ポリエステル:PA6)の比率で押出しし、フィラメントに紡糸する。
【0037】
実施例2−2:
実施例2−1で記載されるように、本発明によるポリエステルを、2.7の相対粘度(これはHSOにおける1%溶液として25℃で測定される)を有するポリアミド6のチップと一緒に、10:90の質量分率の比率で、ポリアミドフィラメント装置でPA6について通常的なパラメーターに従って押出しし、フィラメントに紡糸する。
【0038】
織物−機械的性質の試験
実施例3:
実施例2−1及び実施例2−2に従って製造されるフィラメントヤーン(スプール1及びスプール2)を、公知の方法を使用して延伸し、織物−機械的性質を調べる。比較のために、難燃剤を伴わない純フィラメントヤーン(スプール0)を、同じ条件のもと、上記で示されたポリアミド6のチップから作製し、これもまた延伸する。応力−ひずみ線図における織物−機械的試験から得られる結果が下記に示される:
【表2】

【0039】
難燃性試験
実施例4:
実施例3の延伸されたフィラメントヤーンをそれぞれストッキングに編む。限界酸素指数(LOI)を2つの難燃性の編まれたストッキングのそれぞれで測定し、また、比較のために、完成していないポリアミド6の編まれたストッキング(スプール0)で測定する。LOIは、周囲の雰囲気においてどのくらいの酸素含有量まで、試験サンプルの燃焼が維持されるかを示す。例えば、20.9%のLOIは、サンプルが標準的な雰囲気においてかろうじて燃焼し続け、しかし、それよりも低いO割合では燃焼を止めることを意味する。LOI試験により、下記の結果がもたらされる:
【表3】

【0040】
独国特許第2816100号によるポリエステル
比較実施例5:
プロピオン酸から2回再結晶された346.3g(1mol)の2−[(6−オキシド−6H−ジベンゾ[c,e][1,2]オキサホスフィニン−6−イル)メチル]コハク酸を、精密ガラス撹拌装置、20cmのVigreuxカラム、蒸留用連結管及び内部温度計を備える1リットルの三口フラスコにおいて186.21g(3mol)のモノエチレングリコール(MEG)と一緒に2時間還流し、それにより生じる反応水を蒸留によって連続的に除く。その後、カラムを除き、圧力を20mbarに下げて、過剰なMEGを蒸留によって除く。Nによる通気の後、10mlのMEGに溶解された30mgのGeOを加えて15分間撹拌し、その後、圧力を0.5mbarに下げ、温度を250℃に上げる。その後、混合物をこれらの条件のもとで90分間撹拌する。冷却後、下記の分析データを有する淡黄色のガラス状ポリマーが得られる:
【表4】

【0041】
ポリアミド繊維の製造
比較実施例6:
比較実施例5のポリエステルを実施例2−1に従って処理し、2.7の相対粘度(これはHSOにおける1%溶液として25℃で測定される)を有するポリアミド6のチップと一緒に、ポリアミドフィラメント装置で、PA6について通常的なパラメーターに従って10:90の質量分率(ポリエステル:ポリアミド)の比率で押出しする。ヤーン破断の数がかなり増大するために、フィラメントへの確実な紡糸性が得られない。このフィラメントから製造される編まれたストッキングのLOI試験により、下記の結果がもたらされる:
【表5】

【0042】
比較実施例7:
フリーの2−[(6−オキシド−6H−ジベンゾ[c,e][1,2]オキサホスフィニン−6−イル)メチル]コハク酸を、2.7の相対粘度(これはHSOにおける1%溶液として25℃で測定される)を有するポリアミド6のチップと一緒に、ポリアミドフィラメント装置で、PA6について通常的なパラメーターに従って10:90の質量分率の比率で押出しする。得られたポリマーは、明らかに黄色がかった色を有し、また、非常に脆く、それにより、ヤーン破断の数がかなり増大するために、フィラメントへの確実な紡糸性が得られない。
【0043】
マスターバッチからの防炎性のポリアミド繊維
実施例8:
実施例1に従って製造される難燃剤をボールミルで粉砕して、粉末を形成し、乾燥し、その後、HSOにおける1%溶液として25℃で測定されるとき、2.7の相対粘度を有するポリアミド6のチップと一緒に、二軸スクリュー押出し機で、25:75の質量分率の比率で押出しして、その結果、ストランドを形成するようにし、その後、このストランドを、リン含有量が2%であるチップに顆粒化する。これらのチップを25ppm未満の水分含有量に乾燥した後、チップを、2.7の相対粘度(これはHSOにおける1%溶液として25℃で測定される)を有するポリアミド6のチップと混合し、20:80及び40:60の質量分率の比率で上記の条件のもとで紡糸する。加工が難なく行われ、ポリアミド繊維を延伸した後、下記の織物−機械的値が得られる。編まれたストッキングを、実施例4で記載されるようにフィラメントヤーンから作製し、LOI測定を行う。その測定値もまた、下記の表に示される:
【表6】

【0044】
さらなるリン含有ポリエステルの製造
実施例9:
プロピオン酸から2回再結晶された346.3g(1mol)の2−[(6−オキシド−6H−ジベンゾ[c,e][1,2]オキサホスフィニン−6−イル)メチル]コハク酸を、精密ガラス撹拌装置、20cmのVigreuxカラム、蒸留用連結管及び内部温度計を備える1リットルの三口フラスコにおいて228.87g(3mol)の1,3−プロパンジオールと一緒に2時間還流し、それにより生じる反応水を蒸留によって連続的に除く。その後、カラムを除き、圧力を20mbarに下げて、過剰な1,3−プロパンジオールを蒸留によって除く。Nによる通気の後、10mlの1,3−プロパンジオールに溶解された80mgのチタンテトラブチレートと、380mgのトリメチロールプロパンとを加えて15分間撹拌し、その後、圧力を0.5mbarに下げ、温度を250℃に上げる。その後、混合物をこれらの条件のもとで240分間撹拌する。冷却後、下記の一般式によって表されるポリエステル鎖を含有する淡黄色のガラス状ポリマーが得られる:
【化6】


このポリマーはおよそ71の平均重合度Pを有し、下記の分析データを示す:
【表7】

【0045】
織物−機械的性質の試験及び難燃性試験
実施例10:
実施例9に従って製造されるポリエステルを実施例2−1に従って処理し、その後、2.7の相対粘度(これはHSOにおける1%溶液として25℃で測定される)を有するポリアミド6のチップと混合し、その後、ポリアミドフィラメント装置で、10:90の質量分率(ポリエステル:ポリアミド)の比率で紡糸して、防炎性のポリアミド繊維を形成する。
【0046】
ポリアミド繊維を延伸した後、下記の表に示される織物−機械的値が得られる。編まれたストッキングを、実施例4で記載されるようにフィラメントヤーンから作製し、LOI測定を行う。この試験によって得られる値もまた、下記の表に示される:
【表8】

【0047】
難燃性のポリエチレンテレフタレートフィラメントヤーンの製造
実施例11:
実施例1で製造されるリン含有ポリエステルをボールミルで粉砕し、その後、粉末が25ppmの水分割合を有するまで、粉末を55℃で乾燥キャビネットにおいて24時間乾燥する。その後、無色の粉末を、0.63の固有粘度(これはジクロロ酢酸における1%溶液として25℃で測定される)を有するPETの顆粒(Invista Resins&Fibersの商品名RT51)と混合し、その後、PETについて通常的なパラメーターに従って7.5:92.5の質量分率(P含有ポリエステル:PET)の比率で押出しし、フィラメントに紡糸する。
【0048】
織物−機械的性質の試験
実施例12:
実施例11に従って製造されるフィラメントヤーン(スプール1)を、公知の方法を使用して延伸し、織物−機械的性質を調べる。比較のために、難燃剤を伴わない純フィラメントヤーン(スプール0)を、同じ条件のもと、上記で示されたPETの顆粒から作製し、これもまた延伸する。応力−ひずみ線図における織物−機械的試験から得られる結果が下記に示される:
【表9】

【0049】
難燃性試験
実施例13:
実施例12の延伸されたフィラメントヤーンをそれぞれ3回折り重ね、ストッキングに編む。限界酸素指数(LOI)を、難燃性の編まれたストッキングと、比較のために、難燃性であるようには完成していないPETの編まれたストッキング(スプール0)との両方で測定する。LOIの測定により、下記の結果がもたらされる:
【表10】

【0050】
独国特許第2816100号に従って製造される難燃剤を含むポリエステルフィラメント
比較実施例14:
比較実施例5のリン含有ポリエステルを実施例11に従って処理し、0.63の相対粘度(これはジクロロ酢酸における1%溶液として25℃で測定される)を有するPETの顆粒(Invista Resins&Fibersの商品名RT51)と一緒に、ポリエステルフィラメント装置で、PETについて通常的なパラメーターに従って7.5:92.5の質量分率(難燃剤:PET)の比率で押出しする。得られる非常に脆いフィラメントのヤーン破断の数がかなり増大するために、フィラメントヤーンのスプールを得るような確実な紡糸性が不可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有モノマーを、リン含有ポリエステルを形成するようにエステル化用モノマーと重縮合することによって得ることができ、前記リン含有モノマーが、一価カルボン酸及び多価カルボン酸及びそれらの無水物からなる群より選択される不飽和化合物への9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファ−フェナントレン−10−オキシド(DOPO)及び環置換DOPO誘導体の付加反応生成物からなる群より選択され、かつ、前記エステル化用モノマーが、一価アルコール及び多価アルコール及びそれらの混合物、並びに、一価カルボン酸及び多価カルボン酸からなる群より選択されるハロゲン非含有難燃剤であって、前記ポリエステルが、20,000を超える平均分子量Mn、及び、少なくとも55の平均重合度Pnを有することを特徴とする、ハロゲン非含有難燃剤。
【請求項2】
前記ポリエステルが少なくとも200Pasの120℃における動的粘度を有し、好ましくは、750Pas〜1250Pasの間の動的粘度を有することを特徴とする、請求項1に記載の難燃剤。
【請求項3】
前記ポリエステルが100℃〜130℃の間の軟化点を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の難燃剤。
【請求項4】
前記リン含有モノマーが、下記の一般式(I):
【化1】


(式中、R及びRは同一又は異なり、それぞれが互いに独立して、アルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシ又はアラルキルである;n及びmは0〜4の整数である;Rは、不飽和ジカルボン酸又はその無水物に由来する残基を構成する)
によって表される化合物を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の難燃剤。
【請求項5】
前記ポリエステルが一価アルコール又はモノカルボン酸との反応によってエンドキャップ化されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の難燃剤。
【請求項6】
前記ポリエステルが約5重量%〜約8.5重量%の間のリン含有量を有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の難燃剤。
【請求項7】
前記平均分子量Mnが約25,000超に達することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の難燃剤。
【請求項8】
前記平均分子量Mnが約25,000g/mol〜100,000g/molの間に達し、好ましくは約35,000g/molにまで達することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の難燃剤。
【請求項9】
ポリエステル、ポリスルホン、ポリイミド及びポリアミド、ポリオレフィン、ポリアクリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ABS、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂からなる群より選択される熱可塑性ポリマーと、請求項1から8のいずれか一項に記載されるハロゲン非含有難燃剤とを含み、総リン含有量が約0.1重量%〜5重量%の間である熱可塑性ポリマー組成物。
【請求項10】
前記熱可塑性ポリマーが、溶融紡糸するために好適であるポリアミドであることを特徴とする、請求項9に記載のポリマー組成物。
【請求項11】
前記ポリアミドが、PA6、PA66及びPA12からなる群より選択されることを特徴とする、請求項10に記載のポリマー組成物。
【請求項12】
前記熱可塑性ポリマーが、溶融紡糸するために好適であるポリエステル、具体的には、ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする、請求項9に記載のポリマー組成物。
【請求項13】
溶融紡糸するために好適であるポリマーと、難燃剤とを含むポリマー組成物を、フィラメントを形成するように加熱及び押出しする工程を含み、前記ポリマーが、溶融紡糸するために好適であるポリアミド及びポリエステルからなる群より選択される、ポリマー繊維を製造する方法であって、前記難燃剤が、20,000g/molを超える平均分子量Mnを有する請求項1から8のいずれか一項に記載されるリン含有ポリエステルであることを特徴とする、方法。
【請求項14】
前記ポリマーがポリアミドであり、かつ、前記ポリマー組成物が、溶融紡糸するために好適であるポリアミド成形用組成物に、2重量%〜5重量%のリン含有量を有するマスターバッチとして加えられることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリマー組成物の前記ポリアミドと、前記ポリアミド成形用組成物の前記ポリアミドとが同一又は異なることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ポリマーがポリエステルであること、及び、前記ポリマー組成物が、溶融紡糸するために好適であるポリエステル成形用組成物に、2重量%〜5重量%のリン含有量を有するマスターバッチとして加えられることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリマー繊維が0.1重量%〜2重量%の総リン含有量を有することを特徴とする、請求項13から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリマー繊維の総リン含有量が0.5重量%〜1重量%であることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
120℃よりも高温で成形品に加工されるために適合化される熱可塑性の成形用組成物を製造するための、請求項1から8のいずれか一項に記載されるハロゲン非含有難燃剤の使用。
【請求項20】
前記成形品が、溶融紡糸法を使用して製造されるポリアミド繊維又はポリエステル繊維であることを特徴とする、請求項19に記載の使用。

【公表番号】特表2011−514925(P2011−514925A)
【公表日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−549047(P2010−549047)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【国際出願番号】PCT/EP2009/001463
【国際公開番号】WO2009/109347
【国際公開日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(505090182)シル・プリュス・ザイラッハー・ゲーエムベーハー (2)
【Fターム(参考)】