説明

ハードコートフィルム

【課題】
本発明ではハードコート層の硬度、紫外線吸収能、層間密着性に優れ、さらに干渉縞が抑制された耐候性ハードコートフィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明のハードコートフィルムは次の構成からなる。すなわち、基材、A層、B層がこの順に直接積層されたハードコートフィルムであり、前記A層は、基材側からB層側に向かって、A1領域、混在領域、A2領域からなり、前記A1領域は、ポリエステル樹脂を主成分とし、アクリル樹脂Aを0質量%以上1質量%未満含み、前記A2領域は、アクリル樹脂Aを主成分とし、ポリエステル樹脂を0質量%以上1質量%未満含み、前記混在領域は、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂Aの合計を主成分とし、ポリエステル樹脂を1質量%以上含み、アクリル樹脂Aを1質量%以上含み、前記B層は、アクリル樹脂Bを主成分とし、さらに紫外線吸収性成分を含有するハードコートフィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコートフィルムに関する。さらに詳しくは、硬度、基材フィルムとの層間密着性に優れ、また耐候性に優れ黄変しにくく、干渉縞が抑制されたハードコートフィルムを提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
表示材料の代表として、画像表示装置の画面に設けられ、画面を押した位置により所定の指示を情報処理装置に与える、タッチパネルが知られている。タッチパネルを装着した画像表示装置をはじめとし、多くの画像表示装置の最表面には傷付き防止のためのハードコートフィルムが設けられている。タッチパネル、携帯電話、ノート型パソコンやPDAなどの画像表示装置が、屋外で使用される機会が多くなっている。屋外用途の画像表示装置のハードコートフィルムでは、紫外線に長時間晒されても、黄変せず、ハードコート層と基材フィルムとの剥がれを生じない、紫外線に対する優れた耐性が必要である。
【0003】
一般に、ハードコート層は紫外線を長時間受けると、ハードコート層自体が劣化し、次第にハードコート層に剥離、亀裂、黄変などが生じる。このような劣化を防ぐため、ハードコート層に紫外線吸収剤を添加し、紫外線に対する耐久性を向上させるなど、様々な工夫が行われてきた。ハードコート材料としては、瞬時に硬化する、紫外線硬化性樹脂が用いられているが、紫外線に対する耐久性を付与するために、紫外線吸収剤を多量に添加すると、樹脂を硬化させるために紫外線を照射しても、紫外線吸収剤によって紫外線の多くが吸収されてしまい、硬化が不十分になるばかりか、基材との接着性が著しく低下する問題がある。
【0004】
タッチパネルや、携帯電話などの携帯用機器に用いられるハードコートフィルムにおいては、特に接着性が求められる。耐湿熱環境下における接着性(耐湿熱接着性)はもちろん、近年では浴室、高温多湿地域にも耐えうる接着性が求められている。これまでは250時間から500時間にも及ぶ耐湿熱接着性が求められていたが、近年では検査工程の短縮及び究極の耐湿接着性を求められてきており、煮沸試験が課されるようになってきている。このように過酷な環境下における接着性を満たし、さらに紫外線に長時間晒されても黄変しないハードコートフィルムの要求が高まってきている。
【0005】
特許文献1には、ハードコート層を構成する樹脂として電子線硬化性樹脂を用いた耐候性ハードコート層が提案されている。ハードコート層を構成する樹脂を硬化させるために、紫外線ではなく電子線を用いることで、紫外線吸収剤による悪影響をなくすことができると提案されている。
【0006】
また特許文献2には、基材フィルム、プライマー層、および耐候ハードコート層がこの順で設けられている耐候ハードコートフィルムであって、耐候ハードコート層が、耐候ハードコート層用樹脂組成物と、プライマー層用樹脂組成物に含まれる硬化剤との反応によって形成される耐候ハードコートフィルムが提案されている。このプライマー層用樹脂組成物は、アクリル系紫外線吸収剤およびイソシアネート硬化剤を主成分とする樹脂組成物であることが好ましいとされている。またプライマー層の厚みは、0.5〜10μmと層の厚みを厚くし、プライマー層に紫外線吸収機能を付与することで、基材フィルムが太陽光に曝されて劣化が進行するのを防ぐことができると提案されている。
【0007】
このように、プライマー層を設けた場合には接着性は改善されるものの、基材ポリエステルフィルムとプライマー層の屈折率が異なる場合が多く、更にはハードコート層とプライマー層との屈折率差が生じるため干渉縞が発生し、ある角度から見たときにぎらつきや部分的な虹彩状反射が発生し、ディスプレイ用途に用いる場合には極めて視認性の悪いものとなり、プライマー層の厚みが厚いほどこの影響が大きくなる。
【0008】
この現象を改善するために、基材フィルムの表面に、金属粒子等の顔料を含有したマットコーティングを行う方法(特許文献3)、基材フィルムを溶解する溶剤を用いてハードコート剤を塗布し、基材フィルムを溶解または膨潤させることで反射界面レスとして干渉縞を低減する方法(特許文献4)などが提案されている。
【0009】
しかしながら、熱プレスによる方法では干渉縞は低減できても、粗面化により透明性が低く視認性の悪いものになったりする。更に溶解、膨潤法では適用できる樹脂が限定され高度に二軸配向したポリエステルフィルムなどではオルトクロロフェノールのような特殊な溶剤に限定され、作業環境が極めて悪い。
【0010】
煮沸環境における接着性改良については、水分散性ポリエステル樹脂を使用しながら高温恒湿環境下における接着性(耐湿熱接着性)を改良した例(特許文献5)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5−57235号公報
【特許文献2】特開2004−277629号公報
【特許文献3】特開平8−309910号公報
【特許文献4】特開2003−205563号公報
【特許文献5】特開平9−85919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1のように電子線を用いる場合は、紫外線に比べエネルギーが大きいため基材に与える損傷が大きく、また装置自体が非常に高価であるという課題が挙げられる。
【0013】
また特許文献2のように、プライマー層に紫外線吸収機能を付与し、厚みを厚くする場合は、紫外線吸収能や接着性が付与できるものの、基材、積層するハードコート層との屈折率の違いから干渉縞が発生し、視認性が悪いものになる。
【0014】
特許文献3では、干渉縞が良化するものの、接着性、透明性の不十分なものとなる。特許文献4でも、同様に基材フィルムを溶解または膨潤させ、粗面化することで干渉縞が良好となるものの、同様に透明性や接着性が不良となる。
【0015】
特許文献5でも、耐湿熱接着性が改良するものの煮沸試験に耐えうるものではなかった。
【0016】
そこで、本発明では上記の欠点を解消し、ハードコート層の硬度、紫外線吸収能、基材フィルムとの層間密着性に優れ、干渉縞が抑制されたハードコートフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下の発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の通りである。
1)基材、A層、B層がこの順に直接積層されたハードコートフィルムであり、
前記A層は、基材側からB層側に向かって、A1領域、混在領域、A2領域からなり、
前記A1領域は、ポリエステル樹脂を主成分とし、アクリル樹脂Aを0質量%以上1質量%未満含み、
前記A2領域は、アクリル樹脂Aを主成分とし、ポリエステル樹脂を0質量%以上1質量%未満含み、
前記混在領域は、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂Aの合計を主成分とし、ポリエステル樹脂を1質量%以上含み、アクリル樹脂Aを1質量%以上含み、
前記B層は、アクリル樹脂Bを主成分とし、さらに紫外線吸収性成分を含有するハードコートフィルム。
2)前記アクリル樹脂Bは、側鎖に紫外線吸収性成分を有するアクリル樹脂を含む、前記1)に記載のハードコートフィルム。
3)前記A層の厚みが、80nm以上150nm以下であり、
前記混在領域と前記A2領域の厚みの和が、3nm以上25nm以下である、前記1)または2)に記載のハードコートフィルム。
4)前記紫外線吸収性成分が、ベンゾトリアゾール系化合物成分である、前記1)〜3)のいずれかに記載のハードコートフィルム。
5)前記B層が、波長405nmにおける吸光係数が1×10ml/(g・cm)以上である可視光吸収化合物を含有する、前記1)〜4)のいずれかに記載のハードコートフィルム。
6)前記A層が、メラミン化合物、オキサゾリン系化合物、およびカルボジイミド系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つの架橋剤に由来する成分を含有する、前記1)から5)のいずれかに記載のハードコートフィルム。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、硬度、基材との層間密着性、耐候性に優れ、更に干渉縞が抑制されたハードコートフィルムを提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のハードコートフィルムについて詳細に説明する。
【0020】
本発明は、基材、A層、B層がこの順に直接積層されたハードコートフィルムであり、前記A層は、基材側からB層側に向かって、A1領域、混在領域、A2領域からなり、前記A1領域は、ポリエステル樹脂を主成分とし、アクリル樹脂Aを0質量%以上1質量%未満含み、前記A2領域は、アクリル樹脂Aを主成分とし、ポリエステル樹脂を0質量%以上1質量%未満含み、前記混在領域は、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂Aを主成分とし、ポリエステル樹脂を1質量%以上含み、アクリル樹脂Aを1質量%以上含み、前記B層は、アクリル樹脂Bを主成分とし、さらに紫外線吸収性成分を含有する様態である。ここで、基材、A層、B層がこの順に直接積層されたとは、基材とA層とが、粘着剤層等の他の層を介さずに直接積層されている事を意味し、同様にA層とB層とも、粘着剤層等の他の層を介さずに直接積層されている事を意味する。
【0021】
A1領域、混在領域、A2領域からなる前記A層とすることにより、干渉縞の抑制が可能となり、視認性を向上させることができるため、ディスプレイ用などの光学用フィルムとして用いることができる。そして、必要に応じてアクリル樹脂Bは、側鎖に紫外線吸収性成分を有するアクリル樹脂を含むことができる。また、好ましい様態は、前記A層の厚みが、80nm以上150nm以下であり、前記混在領域と前記A2領域の厚みの和が、3nm以上25nm以下である。A層の厚みを80nm以上150nm以下とし、前記混在領域と前記A2領域の厚みの和を3nm以上25nm以下とすることで、干渉縞の更なる抑制が可能となり、視認性を向上させることができる。また、さらに好ましい様態は、前記紫外線吸収性成分がベンゾトリアゾール系化合物成分である。特に好ましい様態は、前記A層がメラミン化合物、オキサゾリン系化合物、およびカルボジイミド系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つの架橋剤に由来する成分を含有する。詳細については、後述する。

(1)基材
本発明のハードコートフィルムにおいて、基材とは熱可塑性樹脂フィルムを表す。ここで、熱可塑性樹脂フィルムとは、熱可塑性樹脂を用いてなり、熱によって溶融もしくは軟化するフィルムの総称である。熱可塑性樹脂の例として、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、などのポリオレフィン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメタクリレート樹脂などのアクリル樹脂、ナイロン樹脂などのポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、ポリフェニレン樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂フィルムに用いられる熱可塑性樹脂はモノポリマーでも共重合ポリマーであってもよく、複数の樹脂を用いても良い。
【0022】
これらの熱可塑性樹脂フィルムの代表例として、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルムなどのポリオレフィンフィルム、ポリ乳酸フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメタクリレートフィルムなどのアクリル系フィルム、ナイロンなどのポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリウレタンフィルム、フッ素系フィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルムなどを挙げることができる。
【0023】
基材としてはポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、が好ましい。特に、機械的強度や汎用性も有するポリエステルフィルムが好ましい。
【0024】
本発明では、基材である熱可塑性樹脂フィルムに用いられる熱可塑性樹脂としてポリエチレンテレフタレートを用いることが好ましい。また熱可塑性樹脂フィルムに熱や収縮応力などが作用する場合には、耐熱性や剛性に優れたポリエチレン−2,6−ナフタレートが特に好ましい。
【0025】
上記ポリエステル樹脂を使用したポリエステルフィルムは、二軸配向されたものであるのが好ましい。二軸配向ポリエステルフィルムとは、一般に、未延伸状態のポリエステルシート又はフィルムを長手方向および長手方向に直行する幅方向に各々2.5〜5倍程度延伸され、その後、熱処理を施されて、結晶配向が完了されたものであり、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。熱可塑性樹脂フィルムが二軸配向していない場合には、基材の熱安定性、特に寸法安定性や機械的強度が不十分であったり、平面性の悪いものとなるので好ましくない。
【0026】
また、熱可塑性樹脂フィルム中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機系易滑剤、顔料、染料、有機又は無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤などがその特性を悪化させない程度に添加されていてもよい。
【0027】
熱可塑性樹脂フィルムの厚みは特に限定されるものではなく、用途や種類に応じて適宜選択されるが、機械的強度、ハンドリング性などの点から、通常は好ましくは10〜500μm、より好ましくは38〜250μm、最も好ましくは75〜150μmである。また、熱可塑性樹脂フィルムは、共押出しによる複合フィルムであってもよいし、得られたフィルムを各種の方法で貼り合わせたフィルムであっても良い。

(2)A層、A1領域、混在領域、A2領域
本発明のハードコートフィルムは、基材、A層、B層がこの順に直接積層されており、
本発明におけるA層は、基材側からB層側に向かって、A1領域、混在領域、A2領域からなる層である。基材側にA1領域を有することで、A層と基材との接着性が向上する。またB層側にA2領域を有することで、A層とB層との接着性が向上する。
【0028】
ここで、A1領域とは、ポリエステル樹脂を主成分とし、アクリル樹脂Aを0質量%以上1質量%未満含む領域を表す。本発明においてポリエステル樹脂を主成分とするとは、A1領域の全成分100質量%において、ポリエステル樹脂が50質量%以上100質量%以下であることを表す。またA1領域は、アクリル樹脂Aを0質量%以上1質量%未満含むが、これはA1領域が、アクリル樹脂Aを含まないか、含んだとしても1質量%未満という少量のみしか含まないことを意味する。
【0029】
A2領域とは、アクリル樹脂Aを主成分とし、ポリエステル樹脂を0質量%以上1質量%未満含む領域を表す。本発明において、アクリル樹脂Aを主成分とするとは、A2領域の全成分100質量%において、アクリル樹脂Aが50質量%以上100質量%以下であることを表す。またA2領域は、ポリエステル樹脂を0質量%以上1質量%未満含むが、これはA2領域が、ポリエステル樹脂を含まないか、含んだとしても1質量%未満という少量のみしか含まないことを意味する。
【0030】
また、混在領域とは、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂Aの合計を主成分とし、ポリエステル樹脂を1質量%以上含み、アクリル樹脂Aを1質量%以上含む領域を表す。本発明において、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂Aの合計を主成分とするとは、混在領域の全成分100質量%において、ポリエステル樹脂とアクリル樹脂Aの合計が、50質量%以上100質量%以下であることを表す。また混在領域は、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂Aの合計を主成分とするが、ポリエステル樹脂又はアクリル樹脂Aの一方のみしか含まない領域なのではなく、混在領域は、少なくともポリエステル樹脂を1質量%以上含み、さらに少なくともアクリル樹脂Aも1質量%以上含む領域を意味する。なお、混在領域が含有するポリエステル樹脂は、1質量%以上であれば特に限定されず、最大で99質量%以下である。同様に、混在領域が含有するアクリル樹脂Aは、1質量%以上であれば特に限定されず、最大で99質量%以下である。
【0031】
ここでA層は、A1領域の主成分であるポリエステル樹脂と、A2領域の主成分であるアクリル樹脂Aを含有した樹脂組成物Aを原料として塗布することにより形成可能である。つまり、ポリエステル樹脂とアクリル樹脂Aは、溶解度パラメーターが大きく異なるため、このような樹脂組成物Aを塗布すると相分離構造をとり、基材側に溶解度パラメーターの大きなポリエステル樹脂を主成分とするA1領域、基材側と反対側(気相側)に溶解度パラメーターの小さなアクリル樹脂Aを主成分とするA2領域、そしてA1領域とA2領域の間に混在領域を形成する。
【0032】
上述のA1領域、混在領域、A2領域を有するA層を形成することにより、基材との接着性、さらに積層するB層との接着性を向上させることが可能となる。これは、B層とA2領域とが、共にアクリル樹脂を有するため、B層とA2領域との接着性が向上するものと考えられる。本発明の構成とすることにより、初期接着性、耐湿熱接着性に加えて、耐煮沸接着性に優れたハードコートフィルムを得ることが可能となる。
【0033】
さらにはA層の厚みが80nm以上150nm以下であり、前記混在領域と前記A2領域の厚みの和が、3nm以上25nm以下であることが好ましい。この範囲の厚みとすることにより、基材、A層、B層を積層した場合の干渉縞が抑制され、視認性に優れたフィルムを得ることが可能となる。

(3)ポリエステル樹脂
A1領域の主成分であるポリエステル樹脂とは、主鎖あるいは側鎖にエステル結合を有するものを表す。このようなポリエステル樹脂は、カルボン酸成分とグリコール成分から重縮合して得ることができるものである。
【0034】
ポリエステル樹脂を構成するカルボン酸成分としては、芳香族、脂肪族、脂環族のジカルボン酸や3価以上の多価カルボン酸を使用することができる。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、フタル酸、2,5−ジメチルテレフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸など、およびそれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
【0035】
ポリエステル樹脂を構成するグリコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、などを用いることができる。
【0036】
またポリエステル樹脂を水性分散液とした塗液として用いる場合、ポリエステル樹脂の接着性を向上させる目的や、ポリエステル樹脂の水溶性化を容易にするため、更に、スルホン酸塩基を含む成分やカルボン酸塩基を含む成分を共重合することが好ましい。
【0037】
カルボン酸塩基を含む成分としては、カルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられ、例えば、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、4−メチルシクロヘキセン−1,2,3−トリカルボン酸、トリメシン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4−ペンタンテトラカルボン酸、などのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等を用いることができる。
【0038】
スルホン酸塩基を含む成分としては、スルホン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられ、例えば、スルホテレフタル酸、5−スルホイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、4−スルホイソフタル酸、などのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩を用いることができる。

(4)アクリル樹脂A
A2領域の主成分であるアクリル樹脂Aについて説明する。本発明におけるアクリル樹脂Aは、特に限定されるものではなく、一般的なアクリル樹脂を使用することができる。但し、アクリル樹脂Aは一般的なアクリル樹脂を使用することができるものの、後述するアクリル樹脂Bには該当しないアクリル樹脂を用いることが好ましい(アクリル樹脂Aとしては、アクリル樹脂B以外のアクリル樹脂を用いることが好ましい。)。
【0039】
アクリル樹脂Aとしては、次のモノマー成分から構成されるアクリル樹脂であることが好ましい。アクリル樹脂Aを構成するモノマー成分は、例えば、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(アルキル基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ラウリル基、ステアリル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルエチル基等)、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシ基含有モノマー成分、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド等のアミド基含有モノマー成分、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート等のエポキシ基含有モノマー成分、アクリル酸、メタクリル酸及びそれらの塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)等のカルボキシル基またはその塩を含有するモノマー成分などを用いることができ、これらは1種もしくは2種以上を用いて共重合される。更に、これらは他種のモノマー成分と併用することができる。
【0040】
他種のモノマー成分としては、例えば、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマー成分、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸及びそれらの塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等のスルホン酸基またはその塩を含有するモノマー成分、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸及びそれらの塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等のカルボキシル基またはその塩を含有するモノマー成分、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物を含有するモノマー成分、ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、スチレン、ビニルメチルエーテル、ビニルトリスアルコキシシラン、アルキルマレイン酸モノエステル、アクリロニトリル、アルキルイタコン酸モノエステル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、塩化ビニル等を用いることができる。
【0041】
また用いることができるアクリル樹脂Aとしては、変性ポリエステル共重合体、例えば、アクリル、ウレタン、エポキシ等で変性したブロック共重合体、グラフト共重合体等も可能である。
【0042】
本発明において好ましいアクリル樹脂Aは、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、グリシジルメタクリレート、及びアクリル酸からなる群より選ばれるモノマー成分の共重合体である。
【0043】
本発明のハードコートフィルムを製造する際には、結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムに水性分散液を塗布し、延伸、熱処理により結晶配向を完了させる方法が、高温での熱処理が可能であることや、より均一で薄膜のA層を設けることができるため好適に用いられる。この方法によってA層を形成する場合には、アクリル樹脂Aは水に溶解、乳化、あるいは懸濁し得る水性分散液のものが環境汚染や防爆性の点で好ましい。このようなアクリル樹脂Aは、親水性基を有するモノマー成分(アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、ビニルスルホン酸およびその塩等)との共重合や反応性乳化剤や界面活性剤を用いた乳化重合、懸濁重合、ソープフリー重合等の方法によって作製することができる。
【0044】
重合開始剤としては特に限定されるものではないが一般的なラジカル重合開始剤、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の水溶性過酸化物、または過酸化ベンゾイルやt−ブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性過酸化物、あるいはアゾジイソブチロニトリル等のアゾ化合物が使用できる。

(5)B層
本発明におけるB層とは、前記A層上に直接積層された層であり、前記B層は、アクリル樹脂Bを主成分とし、さらに紫外線吸収性成分を含有する層である。
【0045】
ここで紫外線吸収性成分とは、紫外線吸収剤、側鎖に紫外線吸収性成分を有する樹脂を意味する。つまりB層は、アクリル樹脂Bを主成分とし、紫外線吸収性成分を含有する態様とすることにより、フィルムにハードコート性と、耐候性を付与することが可能となる。
【0046】
またB層は、波長405nmにおける吸光係数が1×10ml/(g・cm)以上である可視光吸収化合物を含有することがより好ましい様態である。B層が紫外線吸収性成分を含有すると、紫外線吸収性成分が紫外線を吸収することにより、B層形成時に、後述のアクリル樹脂Bの原料の硬化を阻害する場合がある。紫外線の照射量を多くすることにより、アクリル樹脂Bの原料の硬化を促進することは可能であるが、本発明においては、このような紫外線吸収性成分による硬化阻害を防止するために、B層中に可視光波長域に吸収を有する可視光吸収化合物、より好ましくは波長380〜440nmに吸収を有する可視光吸収化合物を含有しておくことであり、特には、B層が、波長405nmにおける吸光係数が1×10ml/(g・cm)以上である可視光吸収化合物を含有することが好ましい。波長405nmにおける吸光係数が1×10ml/(g・cm)以上である可視光吸収化合物は、その吸光係数に上限はないが、好ましくは波長405nmにおける吸光係数が1×10ml/(g・cm)以上1×10ml/(g・cm)以下である可視光吸収化合物である。

(6)アクリル樹脂B
本発明のハードコートフィルムは、基材、A層、B層がこの順に直接積層されており、本発明におけるB層は、アクリル樹脂Bを主成分とし、さらに紫外線吸収性成分を含有する層である。本発明において、B層の主成分としてアクリル樹脂Bを用いることで、フィルムの表面にハードコート性を付与することが可能となる。
【0047】
本発明においてアクリル樹脂Bを主成分とする、とはB層の全成分100質量%において、アクリル樹脂Bが50質量%以上100質量%以下であることを表す。
【0048】
また、本発明においてハードコートとは、HEIDON(新東科学株式会社製)を用いてJIS K5600−5−4(2005)に従って測定する鉛筆硬度試験で、H以上の場合を表す。
【0049】
本発明におけるアクリル樹脂Bは、1分子中に、3(より好ましくは4、さらに好ましくは5)個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する多官能アクリレートまたはその変性モノマーから構成される樹脂を表す。つまりアクリル樹脂Bは、1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する多官能アクリレートまたはその変性モノマーを硬化させることにより得ることができる。アクリル樹脂Bが、1分子中に有する(メタ)アクリロイルオキシ基の上限は、10個以下(より好ましくは9個以下、さらに好ましくは8個以下)が好ましい。アクリル樹脂Bが、1分子中に10個を超える(メタ)アクリロイルオキシ基を有すると硬化時の収縮率が大きく、基材がカールする場合があるためである。
【0050】
アクリル樹脂Bを構成する原料である、1分子中に、3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する多官能アクリレートまたはその変性モノマーとして、具体的な例としては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサンメチレンジイソシアネートウレタンポリマーなどを用いることができる。これらの単量体は、1種または2種以上を混合して使用することができる。また、市販されている多官能アクリル系組成物としては三菱レーヨン株式会社;(商品名”ダイヤビーム”シリーズなど)、長瀬産業株式会社;(商品名”デナコール”シリーズなど)、新中村株式会社;(商品名”NKエステル”シリーズなど)、大日本インキ化学工業株式会社;(商品名”UNIDIC”など)、東亞合成化学工業株式会社;(”アロニックス”シリーズなど)、日本油脂株式会社;(”ブレンマー”シリーズなど)、日本化薬株式会社;(商品名”KAYARAD”シリーズなど)、共栄社化学株式会社;(商品名”ライトエステル”シリーズなど)などを挙げることができ、これらの製品を利用することができる。
【0051】
またアクリル樹脂Bは、側鎖に紫外線吸収性成分を有するアクリル樹脂を含むことがより好ましい。アクリル樹脂Bが、側鎖に紫外線吸収性成分を有するアクリル樹脂を含むことにより、経時で紫外線吸収性成分がB層の表面にブリードアウトすることなく、外観を良好に保つことができるだけでなく、B層中に紫外線吸収性成分が取り込まれるためハードコート性をさらに向上することができるため好ましい。また、本発明ではB層が紫外線吸収性成分を含有することが重要であるが、アクリル樹脂Bとして、側鎖に紫外線吸収性成分を有するアクリル樹脂を用いることにより、紫外線吸収剤単体を別途含有させる必要もなくなる利点がある。
【0052】
ここで、側鎖に紫外線吸収性成分を有するアクリル樹脂Bとは、前述のアクリル樹脂Bを構成するモノマー成分と、1分子中に少なくとも1個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する紫外線吸収性成分とから構成されるアクリル樹脂を表す。
【0053】
1分子中に少なくとも1個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する紫外線吸収性成分は、後述のベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ヒドロキシベンゾエート化合物等の1種または2種を用いることができる。特に、紫外線吸収能や無色透明性の点からベンゾトリアゾール系が好ましく、このような(メタ)アクリロイルオキシ基を有する紫外線吸収性成分としては、例えば、2(2‘−ヒドロキシ−5’−メタアクリロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールが挙げられる。
【0054】
アクリル樹脂Bに硬度を付与して、ハードコートフィルムとするためには、後述する樹脂組成物Bにおいて、アクリル樹脂Bを構成する原料である前述の多官能アクリレートに加えて、該開始剤、該硬化剤、及び触媒を含有させるのが好ましい。また、複数の開始剤を同時に用いても良いし、単独で用いても良い。さらに、酸性触媒や、熱重合開始剤や光重合開始剤を併用しても良い。
【0055】
光重合開始剤は、例えばアルキルフェノン系化合物、含硫黄系化合物、アシルホスフィンオキシド系化合物、アミン系化合物などが挙げられるがこれらに限定されるものではないが、硬化性の点から、アルキルフェノン系化合物が好ましく、具体例としては、2.2−ジメトキシ−1.2−ジフェニルエタン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−フェニル)−1−ブタン、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−(4−フェニル)−1−ブタン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−1−ブタン、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルフォリニル)フェニル]−1−ブタン、1−シクロヒキシル−フェニルケトン、2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−エトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、などが挙げられる。
【0056】
光重合開始剤の含有量は、アクリル樹脂Bを構成する原料である1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する多官能アクリレートまたはその変性モノマー100質量部に対して、0.1〜5質量部、特に0.3〜3質量部とすることが好ましい。この光重合開始剤の含有量が少なすぎると効果を円滑に促進させることができず、多すぎると黄変が進み、耐候性に悪影響が出る。
【0057】
酸性触媒の例としては、塩酸水溶液、蟻酸、酢酸などが挙げられる。熱重合開始剤の例としては、過酸化物、アゾ化合物が挙げられる。
【0058】
またB層は、波長405nmにおける吸光係数が1×10ml/(g・cm)以上である可視光吸収化合物を含有することが好ましい。このような可視光吸収化合物を用いることにより、B層形成時のアクリル樹脂Bの原料の硬化の阻害を防止することができる。
【0059】
波長405nmにおける吸光係数が1×10ml/(g・cm)以上である可視光吸収化合物として、例えばホスフィンオキサイド化合物やアシルホスフィンオキサイド化合物などが挙げられる。なお、波長405nmにおける吸光係数は、メタノール又はCHCN溶媒に溶解させて測定した値である。
【0060】
ホスフィンオキサイド化合物としては、トリエチルホスフィンオキサイド、トリn−プロピルホスフィンオキサイド、トリn−ブチルホスフィンオキサイド、トリn−ヘキシルホスフィンオキサイド、トリn−オクチルホスフィンオキサイド、トリn−シクロヘキシルホスフィンオキサイド、トリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンオキサイド、トリフェニルホスフィンオキサイド等を用いることができる。
【0061】
アシルホスフィンオキサイド化合物としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、4−メチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、4−エチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、4−イソプロピルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、1−メチルシクロヘキサノイルベンゾイルジフェニルオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸メチルエステル、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸イソプロピルエステル、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド等を用いることができる。
【0062】
このような波長405nmにおける吸光係数が1×10ml/(g・cm)以上である可視光吸収化合物の含有量は、B層中のアクリル樹脂B100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましく、さらには0.3〜3質量部とすることが好ましい。この可視光吸収化合物の配合量が少なすぎると、硬化を円滑に促進することができず、多すぎると耐候性に悪影響が出る。

(7)紫外線吸収性成分
B層が含有する紫外線吸収性成分としては、ベンゾトリアゾール系化合物成分、ベンゾフェノン系化合物成分、ヒドロキシベンゾエート系化合物成分等の1種または2種以上を用いることができる。
【0063】
ベンゾトリアゾール系化合物成分としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3’−5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール等が例示される。
【0064】
ベンゾフェノン系化合物成分としては、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノン等が例示される。
【0065】
ヒドロキシベンゾエート系化合物成分としては、フェニルサルシレート、4−t−ブチルフェニルサルシレート、2,5−t−ブチル−4−ヒドロキシ安息香酸n−ヘキサデシルエステル、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3’−5−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート等が例示される。
【0066】
B層が含有する紫外線吸収性成分としては、これらの中でも、ベンゾトリアゾール系化合物成分が好ましい。B層中の紫外線吸収性成分の含有量は、用いる紫外線吸収性成分の種類、要求されるB層の耐候性によっても異なるが、通常、紫外線吸収性成分は、B層を構成するアクリル樹脂B100質量部に対して5質量部以上40質量部以下含有させることが好ましい。
【0067】
紫外線吸収性成分の配合量が少な過ぎる場合は、十分な耐候製を得ることができず、多すぎる場合にはB層の透明性が損なわれるため好ましくない。
【0068】
ここで、B層中に前記紫外線吸収性成分を含む場合、この紫外線吸収性成分が紫外線を吸収することにより、B層中のアクリル樹脂Bの原料である前記多官能アクリレートの紫外線硬化を阻害する。紫外線の照射量を多くすることにより、紫外線硬化を促進させることは可能であるものの、本発明においては、このような紫外線吸収性成分による紫外線硬化阻害を防止するために、B層中に前述の可視光吸収化合物を配合しておくことが好ましい。

(8)架橋剤
前記A層は、後述する架橋剤に由来する成分を含有していてもよい。耐湿熱接着性が向上する点から、架橋剤としては、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド系化合物を用いることが好ましい。さらに耐湿熱接着性に加えて、耐煮沸接着性が向上する点から、架橋剤としてはオキサゾリン系化合物を用いることが特に好ましい。これはオキサゾリン系化合物の反応性がカルボジイミド系化合物の反応性よりも高く、架橋構造をより形成しやすいためと考えられる。
【0069】
架橋剤として用いるオキサゾリン系化合物としては、オキサゾリン基またはオキサジン基を1分子当たり少なくとも1つ以上有するものであれば特に限定されないが、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー成分を単独で重合、もしくは他のモノマー成分とともに重合した高分子型が好ましい。高分子型のオキサゾリン系化合物を用いることで、本発明のA層を熱可塑性樹脂フィルム上に設け、積層フィルムとしたときに、A層と各種インキやハードコート剤などとの接着性や耐湿熱接着性、耐煮沸接着性、可撓性、強靭性、耐水性、耐溶剤性が高まるためである。
【0070】
付加重合性オキサゾリン基含有モノマー成分としては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンを挙げることができる。これらは、1種で使用してもよく、2種以上の混合物を使用してもよい。これらの中でも、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。他のモノマー成分は、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー成分と共重合可能なモノマー成分であれば制限なく、例えばアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2ーエチルヘキシル基、シクロヘキシル基)等の(メタ)クリル酸エステル類やアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸及びその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、N、N−ジアルキルアクリルアミド、N、N−ジアルキルメタクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)等の不飽和アミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸のエステル部にポリアルキレンオキシドを付加させたもの等のビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等の含ハロゲンα、β−不飽和モノマー成分類、スチレン、α−メチルスチレン、等のα、β−不飽和芳香族モノマー成分等を挙げることができ、これらの1種または2種以上のモノマー成分を使用することができる。
【0071】
架橋剤であるカルボジイミド系化合物としては、例えば、下記一般式(1)で表されるカルボジイミド構造を1分子当たり少なくとも1つ以上有するものであれば特に限定されないが、耐湿熱接着性、さらには耐煮沸接着性などの点で、1分子中に2つ以上を有するポリカルボジイミド化合物が特に好ましい。特に、ポリエステル樹脂やアクリル樹脂などのポリマーの末端や側鎖に、複数個のカルボジイミド基を有する、高分子型のイソシアネート化合物を用いると、層間密着性や耐湿熱接着性、さらに耐煮沸接着性が高まり好ましく用いることができる。
−N=C=N− (1)
アクリル樹脂Aとポリエステル樹脂の合計100質量部に対して、A層中の架橋剤に由来する成分の含有量は5〜50質量部が好ましく、より好ましくは10〜30質量部である。5質量部以上とすることで前記架橋剤の効果が発現され、50質量部以下にすることでアクリル樹脂Aとポリエステル樹脂の効果を維持することができる。A層は、前述のオキサゾリン系化合物、カルボジイミド系化合物などの架橋剤に由来する成分を含有することが好ましい。またこのような架橋剤としては、前記オキサゾリン系化合物やカルボジイミド系化合物などの架橋剤に加え、他の化合物、例えば、メラミン化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、アミドエポキシ化合物、チタンキレートなどのチタネート系カップリング剤、メチロール化あるいはアルキロール化した尿素系化合物、アクリルアミド系化合物などを任意で用いることもできる。前記架橋剤に加えて、耐湿熱接着性、さらには耐煮沸接着性が向上する点から、メラミン化合物を用いることが特に好ましい。つまり本発明のA層は、メラミン化合物、オキサゾリン系化合物、およびカルボジイミド系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つの架橋剤に由来する成分を含有することが好ましく、メラミン化合物に由来する成分、並びに、オキサゾリン系化合物に由来する成分及び/又はカルボジイミド系化合物に由来する成分を含有することが特に好ましい。

(9)A層の形成方法
本発明では、ポリエステル樹脂とアクリル樹脂Aとを含有する樹脂組成物Aを基材上へ塗布し、必要に応じて溶媒を乾燥させることによって、基材上に、A1領域、混在領域、A2領域からなるA層を形成することができる。さらにA層が直接積層された基材上に、アクリル樹脂Bを構成する原料である前記多官能アクリレートと、紫外線吸収性成分、とを含有する樹脂組成物Bを塗布し、必要に応じて溶媒を乾燥させ、必要に応じて活性エネルギー線または熱により架橋反応を促進することにより、基材上にA層、B層をこの順に直接積層したフィルムを形成することができる。
【0072】
この樹脂組成物Aとは、ポリエステル樹脂とアクリル樹脂Aとを含み、樹脂組成物Aの固形分100質量%中のポリエステル樹脂とアクリル樹脂Aの合計含有量が50質量%以上100質量%以下である樹脂組成物である。また本発明では、樹脂組成物Aは、溶媒として水系溶媒を用いることが好ましい。水系溶媒を用いることで、乾燥工程での溶媒の急激な蒸発を抑制でき、A1領域、混在領域、A2領域からなるA層を形成できるだけでなく、環境負荷の点で優れているためである。
【0073】
ここで、水系溶媒とは水、または水とメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類など水に可溶である有機溶媒が任意の比率で混合させているものを指す。
【0074】
樹脂組成物Aの基材への塗布方法はインラインコート法、オフコート法のどちらでも用いることができるが、好ましくはインラインコート法である。
【0075】
インラインコート法とは、基材の製造の工程内で塗布を行う方法である。具体的には、基材を形成する熱可塑性樹脂を溶融押し出ししてから、二軸延伸後熱処理して巻き上げるまでの任意の段階で塗布を行う方法を指し、通常は、溶融押出し後・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸(未配向)熱可塑性樹脂フィルム(Aフィルム)、その後に長手方向に延伸された一軸延伸(一軸配向)熱可塑性樹脂フィルム(Bフィルム)、またはさらに幅方向に延伸された熱処理前の二軸延伸(二軸配向)熱可塑性樹脂フィルム(Cフィルム)の何れかのフィルムに塗布する。
【0076】
本発明では、結晶配向が完了する前の上記Aフィルム、Bフィルム、の何れかの熱可塑性樹脂フィルムに、樹脂組成物Aを塗布し、その後、熱可塑性樹脂フィルムを一軸方向又は二軸方向に延伸し、溶媒の沸点より高い温度で熱処理を施し熱可塑性樹脂フィルムの結晶配向を完了させるとともにA層を設ける方法を採用することが好ましい。この方法によれば、熱可塑性樹脂フィルムの製膜と、樹脂組成物Aの塗布乾燥(すなわち、A層の形成)を同時に行うことができるために製造コスト上のメリットがある。また、塗布後に延伸を行うためにA層の厚みをより薄くすることが容易である。
【0077】
中でも、長手方向に一軸延伸されたフィルム(Bフィルム)に、樹脂組成物Aを塗布し、その後、幅方向に延伸し、熱処理する方法が優れている。未延伸フィルムに塗布した後、二軸延伸する方法に比べ、延伸工程が1回少ないため、延伸によるA層の欠陥や亀裂が発生しづらく、透明性や平滑性に優れたA層を形成できるためである。
【0078】
一方、オフラインコート法とは、上記Aフィルムを一軸又は二軸に延伸し、熱処理を施し熱可塑性樹脂フィルムの結晶配向を完了させた後のフィルム、またはAフィルムに、フィルムの製膜工程とは別工程で樹脂組成物Aを塗布する方法である。熱可塑性樹脂フィルムへの樹脂組成物の塗布方式は、公知の塗布方式、例えばバーコート法、リバースコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ブレードコート法等の任意の方式を用いることができる。
【0079】
本発明においてA層は、上述した種々の利点から、インラインコート法により設けられることが好ましい。
【0080】
よって、本発明において最良のA層の形成方法は、水系溶媒を用いた樹脂組成物Aを、熱可塑性樹脂フィルム上にインラインコート法を用いて塗布し、乾燥することによって形成する方法である。またより好ましくは、一軸延伸後のBフィルムに樹脂組成物Aをインラインコートする方法である。さらに樹脂組成物の固形分濃度は10質量%以下であることが好ましい。固形分濃度を10質量%以下とすることにより、樹脂組成物Aに良好な塗布性を付与でき、基材上にA1領域、混在領域、A2領域からなるA層を設けた透明性に優れたフィルムを製造することができる。

(10)B層の形成方法
本発明では、アクリル樹脂Bを構成する原料と紫外線吸収性成分とを含有する樹脂組成物BをA層上へ塗布し、必要に応じて溶媒を乾燥させたり活性エネルギー線または熱により架橋反応を促進させることによって、基材上に直接積層されたA層上に、B層を形成することができる。
【0081】
この樹脂組成物Bとは、アクリル樹脂Bを構成する原料である、前記多官能アクリレートと、紫外線吸収性成分とを含み、樹脂組成物Bの固形分100質量%中のアクリル樹脂Bを構成する原料である多官能アクリレートの含有量が50質量%以上100質量%以下である樹脂組成物である。紫外線吸収性成分の含有量は、アクリル樹脂Bを構成する原料である多官能アクリレート100質量部に対して5質量部以上40質量部以下であることが好ましい。樹脂組成物B中には、前記紫外線吸収性成分に加えて、光重合開始剤、さらに可視光吸収化合物を含有することが好ましい。このような光重合開始剤、可視光吸収化合物を含有する樹脂組成物Bは、活性エネルギー線を照射することにより、B層を形成することができる。
【0082】
B層の厚さは、通常1〜10μm程度が耐候性と硬度の関係から好ましい。
【0083】
上記B層中には、前述の成分以外に他の種々の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、カップリング剤、レベリング剤、酸化防止剤、タルク等の充填剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、染料、増粘剤などを含むものであってもよい。
【0084】
またB層の耐擦過性や耐汚染性をさらに高めるため、コロイド状に分散したシリカゾルやアルミナなどを含有させることもできる。
【0085】
また本発明では、樹脂組成物Bは、溶媒を用いることが好ましく、好ましい溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン等を挙げることができる。
【0086】
樹脂組成物Bの、基材上に直接積層されたA層上への塗布方法は、インラインコート法、オフコート法のどちらでも用いることができるが、好ましくはオフコート法である。
【0087】
本発明のハードコートフィルムは、A層上に、樹脂組成物Bを塗布・乾燥した後、活性エネルギー線により硬化させることで形成することができる。
【0088】
樹脂組成物Bの塗布手段としては、樹脂組成物Aと同様の公知の塗布方式を用いることができる。樹脂組成物Bの硬化方法としては、樹脂組成物Bを塗布と同時又は塗布後に、活性エネルギー線照射、加熱処理などが挙げられる。活性エネルギー線としては、紫外線、電離放射線、赤外線などの電磁波、または電子線などが挙げられるが、紫外線、電離放射線、または電子線がより好ましく、紫外線がさらに好ましい。
【0089】
紫外線照射の場合、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプ等の光線から発する紫外線等が利用できる。

(11)樹脂組成物A、樹脂組成物Bの調整方法
樹脂組成物A、樹脂組成物Bは、必要に応じて溶媒、各種添加剤を任意の順番で所望の質量比で混合、撹拌することで作製することができる。混合、撹拌する方法は、容器を手で振って行ったり、マグネチックスターラーや撹拌羽根を用いたり、超音波照射、振動分散などを行うことができる。また必要に応じて易滑剤や無機粒子、有機粒子、界面活性剤、酸化防止剤などの各種添加剤を、樹脂組成物により設けたA層、B層の特性を悪化させない程度に添加してもよい。

(12)ハードコートフィルム製造方法
次に、本発明のハードコートフィルムの製造方法について、熱可塑性樹脂フィルムにポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す。)フィルムを用いた場合を例にして説明するが、これに限定されるものではない。
【0090】
まず、PETのペレットを十分に真空乾燥した後、押出機に供給し、約280℃でシート状に溶融押し出し、冷却固化せしめて未延伸(未配向)PETフィルム(Aフィルム)を作製する。このフィルムを80〜120℃に加熱したロールで長手方向に2.5〜5.0倍延伸して一軸配向PETフィルム(Bフィルム)を得る。このBフィルムの片面に所定の濃度に調製した、前述のアクリル樹脂Aとポリエステル樹脂とを含有する樹脂組成物Aを塗布する。この時、塗布前にPETフィルムの塗布面にコロナ放電処理等の表面処理を行ってもよい。コロナ放電処理等の表面処理を行うことで、樹脂組成物のPETフィルムへの濡れ性を向上させ、樹脂組成物のはじきを防止し、均一な塗布厚みを達成することができる。
【0091】
塗布後、PETフィルムの端部をクリップで把持して80〜130℃の熱処理ゾーン(予熱ゾーン)へ導き、樹脂組成物の溶媒を乾燥させる。乾燥後幅方向に1.1〜5.0倍延伸する。引き続き160〜240℃の熱処理ゾーン(熱固定ゾーン)へ導き1〜30秒間の熱処理を行い、結晶配向を完了させる。
【0092】
この熱処理工程(熱固定工程)で、必要に応じて幅方向、あるいは長手方向に3〜15%の弛緩処理を施してもよい。このようにしてPETフィルム上にA層が直接積層されたフィルムを得ることができる。さらに、A層が積層されたポリエステルフィルム上に、塗料組成物Bをバーコーター(#10)を用いて塗布後、100℃にて2分間乾燥し、160W/cmの高圧水銀灯ランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度600W/cm、積算光量800mJ/cmの紫外線を照射し、樹脂組成物Bを硬化させることで、硬度、基材との層間密着性に優れ、さらに耐候性に優れた、本発明のハードコートフィルムが得られる。
【実施例】
【0093】
(特性の測定方法および効果の評価方法)
本発明における特性の測定方法および効果の評価方法は次のとおりである。

(1)ヘイズ評価
ヘイズの測定は、常態(23℃、相対湿度50%)において、日本電色工業(株)製濁度計「NDH5000」を用いて、JIS「透明材料のヘーズの求め方」(K7136 2000年版)に準ずる方式で行った。
【0094】
なお、サンプルのA層やB層が積層された面側から光を照射して測定した。サンプルは一辺50mmの正方形のものを10サンプル準備し、それぞれ1回づつ、合計10回測定した平均値をサンプルのヘイズ値とした。
(2)干渉縞
基材のA層、B層が積層された面とは反対面(ハードコートフィルムにおける基材側の面であり、これを裏面とする)の反射の影響をなくすために、裏面を240番のサンドペーパーで粗面化した後、黒色マジックインキにて着色して調整したサンプルを、暗室にて、3波長蛍光灯(ナショナル パルック 3波長形昼白色(F.L 15EX-N 15W))の直下30cmに置き、視点を変えながらサンプルを目視したときに、虹彩模様が視認できるか否かで評価した。
【0095】
虹彩模様がみえない : ◎
非常に弱い虹彩模様が見える : ○
弱い虹色模様が見える : △
強い虹色模様がはっきり見える: ×。
(3)初期接着性
ハードコートフィルムサンプルについて、B層面に、1mmのクロスカットを100個入れ、セロテープ(登録商標)(ニチバン(株)製CT405AP)を貼り付け、ハンドローラーで1.5kg/cmの荷重で押しつけた後、ハードコートフィルムに対して90度方向に急速に剥離した。接着性は残存したクロスカットの個数により、4段階評価を行った。×は実用上問題のあるレベル、△は実用レベルであり、○と◎のものは良好とした。
◎ :90〜100個残存
○ :80〜89個残存
△ :50〜79個残存
× :0〜49個残存。

(4)耐湿熱接着性
ハードコートフィルムサンプルを、温度70℃、相対湿度90%の恒温恒湿槽中に250時間放置し、耐湿熱接着試験用サンプルを得た。得られた耐湿熱接着試験用サンプルについて、(3)と同様の方法で、接着性試験を行い、残存した格子の個数により5段階評価を行い、耐湿熱接着指数とした。×は実用上問題のあるレベル、△は実用レベルであり、○と◎のものは良好とした。
【0096】
◎ :90〜100個残存
○ :80〜89個残存
△ :50〜79個残存
× :0〜49個残存。

(5)A層の膜厚、混在領域とA―2領域の膜厚
RuOによりA層中のアクリル樹脂Aを染色し、A2領域および混在領域を染色した上で、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてハードコートフィルムの断面を観察することにより、染色された部分である、基材フィルム上のA層、A層中の混在領域とA2領域の厚みを測定した。混在領域とA2領域の膜厚は、TEMにより20万倍の倍率で撮影した画像から厚みを読み取った。合計で20点のA層、A層中の混在領域とA2領域の厚みを測定して平均値をそれぞれの膜厚とした。

(6)耐候性試験
紫外線劣化促進試験機アイスーパーUVテスターSUV−W131(岩崎電気(株)製)を用い、下記の条件で強制紫外線照射試験を行い、照射後の劣化の程度(黄変度)を透過b値で評価した。
【0097】
「紫外線照射条件」
照度:100mW/cm、温度:60℃、相対湿度:50%RH、照射時間:20時間。

(7)透過b値
分光式色差計SE−2000型(日本電色工業(株)製)を用い、JIS−K−7105(1981年版)に従って透過法で測定した。
【0098】
耐候性試験後の透過b値について、1.5以下を合格レベルとした。

(8)耐煮沸接着性
ハードコートフィルムサンプルを、100mm×100mmの大きさに切り出し、純水からなる沸騰水(100℃)の中に該フィルム切片を1時間浸漬させた。その後該フィルム片を取り出し、室温にて1時間乾燥させた後、(3)と同様の方法で、接着性試験を行い、残存した格子の個数により5段階評価を行った。×は実用上問題のあるレベル、△は実用レベルであり、○と◎のものは良好とした。
【0099】
◎ :90〜100個残存
○ :80〜89個残存
△ :50〜79個残存
× :0〜49個残存。

次に、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではない。
[製造例]
[樹脂組成物A]
アクリル樹脂A1、A2、A3、およびポリエステル樹脂B1、B2、メラミン化合物C、オキサゾリン系化合物D、カルボジイミド系化合物Eを表2に記載の固形分質量比になるように混合し水性分散液を調整した。
[アクリル樹脂A1]
下記のモノマー成分からなるアクリル樹脂(ガラス転移温度:42℃、屈折率:1.52)を、粒子状に水に分散させた水性分散液(いわゆる、エマルション塗液でエマルション粒子径は50nm)。
モノマー成分
メチルメタクリレート 63質量%
エチルアクリレート 35質量%
アクリル酸 1質量%
N−メチロールアクリルアミド 1質量%

[アクリル樹脂A2]
下記のモノマー成分から構成されるアクリル樹脂(ガラス転移温度:40℃、屈折率:1.48)を、粒子状に水に分散させた水性分散液(いわゆる、エマルション塗液でエマルション粒子径は110nm)。
モノマー成分
メチルメタクリレート 20質量%
エチルアクリレート 20質量%
パーフルオロエチルアクリレート 58質量%
アクリル酸 1質量%
N−メチロールアクリルアミド 1質量%

[アクリル樹脂A3]
下記のモノマー成分から構成されるアクリル樹脂(ガラス転移温度:45℃、屈折率:1.54)を、粒子状に水に分散させた水性分散液(いわゆる、エマルション塗液でエマルション粒子径は48nm)。
モノマー成分
メチルメタクリレート 64質量%
エチルアクリレート 30質量%
アクリル酸 5質量%
N−メチロールアクリルアミド 1質量%

[ポリエステル樹脂B1]
下記のモノマー成分から構成されるポリエステル樹脂(ガラス転移温度:20℃、屈折率1.57)を、粒子状に水に分散させたアンモニウム塩型の水性分散液。
カルボン酸成分
テレフタル酸 28モル%
イソフタル酸 9モル%
トリメリット酸 10モル%
セバシン酸 3モル%
グリコール成分
エチレングリコール 15モル%
ネオペンチルグリコール 18モル%
1,4−ブタンジオール 17モル%

[ポリエステル樹脂B2]
下記のモノマー成分から構成されるポリエステル樹脂(ガラス転移温度:82℃、屈折率1.59)を、粒子状に水に分散させたナトリウム塩型の水性分散液。
カルボン酸成分
テレフタル酸 44モル%
5−Naスルホイソフタル酸 6モル%
グリコール成分
エチレングリコール 49モル%
ジエチレングリコール 1モル%

[メラミン化合物]
メラミン系化合物Cとして、“ニカラック”(登録商標)MW12LF(三和ケミカル(株)製)を用いた。

[オキサゾリン系化合物]
オキサゾリン系化合物Dとして、“エポクロス”(登録商標)WS−500((株)日本触媒製)を用いた。

[カルボジイミド系化合物]
カルボジイミド系化合物Eとして、“カルボジライト”(登録商標)V−04(日清紡ケミカル(株)製)を用いた。

[樹脂組成物B]
下記の成分を有機溶剤に分散させた分散液。
・1分子中に、2個のアクリロイルオキシ基を有する多官能ウレタンアクリレート(ウレタンアクリレート(新中村化学(株)製 UA122P)) :80質量部
・1分子中に、6個のアクリロイルオキシ基を有する多官能ポリエステルアクリレート(ポリエステルアクリレート(日本化薬(株)製“カヤラッド”DPHA)) :10質量部
・1分子中に、3個のアクリロイルオキシ基を有する多官能ポリエステルアクリレート
(ポリエステルアクリレート(日本化薬(株)製“カヤラッド”PETA):10質量部
・アクリル変性ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性成分 :15質量部
・メチルエチルケトン :50質量部
・トルエン :50質量部
・光重合開始剤(長瀬産業(株)社製“イルガキュア”184) :3質量部
・可視光吸収化合物(ビス(2,4、6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド) :1質量部
(実施例1)
PETペレット(極限粘度0.63dl/g)を十分に真空乾燥した後、押し出し機に供給し285℃で溶融し、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化せしめた。この未延伸フィルムを95℃に加熱して長手方向に3.5倍延伸し、一軸延伸フィルムとした。このフィルムに空気中でコロナ放電処理を施し、基材フィルムの濡れ張力を52mN/mとし、その処理面に表2に記載の樹脂組成物A(A1/B1=92/8)を塗布した。A層の厚みは結晶配向完了後において、130nmとなるようにした。
【0100】
その後、A層を積層した基材フィルム上に、前記樹脂組成物Bをバーコーターを用いて塗布後、100℃にて2分間乾燥し、160W/cmの高圧水銀灯ランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度600W/cm、積算光量800mJ/cmの紫外線を照射し、B層の厚みが2000nmとなるハードコートフィルムを作製した。
(実施例2〜8)
表2に記載の樹脂組成物Aに変えた以外は、実施例1と同様に、ハードコートフィルムを作製した。
(実施例9〜11)
表2に記載の樹脂組成物Aに変更し、A層の厚みを80nmとした以外は、実施例1と同様に、ハードコートフィルムを作製した。
(実施例12〜14)
表2に記載の樹脂組成物Aに変更し、A層の厚みを150nmとした以外は、実施例1と同様に、ハードコートフィルムを作製した。
(実施例15)
樹脂組成物Bの構成成分である、多官能アクリレートのポリエステルアクリレートに変えて、側鎖に紫外線吸収性成分を有するアクリル樹脂である“RUVA−93”(大塚化学(株)製)を、用いた以外は、実施例1と同様に、ハードコートフィルムを作製した。
(実施例16)
樹脂組成物Bに含まれる紫外線吸収性成分をベンゾフェノン系化合物である、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンに変えた以外は、実施例1と同様に、ハードコートフィルムを作製した。
(実施例17)
樹脂組成物Bに含まれる紫外線吸収性成分をヒドロキシベンゾエート系化合物である、フェニルサルシレートに変えた以外は、実施例1と同様に、ハードコートフィルムを作製した。
(実施例18)
樹脂組成物Bに含まれる可視光化合物である(ビス(2,4、6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド)を除いた以外は、実施例1と同様に、ハードコートフィルムを作製した。
(実施例19)
樹脂組成物Bに含まれる可視光化合物をトリn−ブチルホスフィンオキサイドに変えた以外は、実施例1と同様に、ハードコートフィルムを作製した。
(実施例20〜21)
A層の厚みを70nm(実施例20)、170nm(実施例21)に変えた以外は、実施例1と同様に、ハードコートフィルムを作製した。
(実施例22〜23)
B層の厚みを1000nm(実施例22)、5000nm(実施例23)に変えた以外は、実施例1と同様に、ハードコートフィルムを作製した。
【0101】
(実施例24〜26、28〜30)
表2に記載のメラミン化合物Cとオキサゾリン系化合物Dを含有する樹脂組成物Aに変更した以外は、実施例1と同様にハードコートフィルムを作製した。
【0102】
(実施例27)
表2に記載のメラミン化合物Cとカルボジイミド系化合物Eを含有する樹脂組成物Aに変更した以外は、実施例1と同様にハードコートフィルムを作製した。

(比較例1)
A層を設けていない以外は、実施例1と同様に、ハードコートフィルムを作製した。
(比較例2)
表2に記載の樹脂組成物A(ポリエステル樹脂のみ)に変えた以外は、実施例1と同様に、ハードコートフィルムを作製した。
(比較例3)
表2に記載の樹脂組成物A(アクリル樹脂Aのみ)に変えた以外は、実施例1と同様に、ハードコートフィルムを作製した。
(比較例4)
B層を設けていない以外は、実施例1と同様に、ハードコートフィルムを作製した。
(比較例5)
樹脂組成物Bに含まれる紫外線吸収性成分を除いた以外は、実施例1と同様に、ハードコートフィルムを作製した。
【0103】
【表1−1】

【0104】
【表1−2】

【0105】
【表2】

【0106】
基材、A層、B層がこの順に直接積層されたハードコートフィルムであり、前記A層が基材側からB層側に向かって、A1領域、混在領域、A2領域からなり、前記A1領域は、ポリエステル樹脂を主成分とし、A2領域はアクリル樹脂Aを主成分とし、前記B層は、アクリル樹脂Bを主成分とし、さらに紫外線吸収性成分を含有するハードコートである場合(実施例1〜14)は、優れた硬度、干渉縞、接着性、耐候性に優れたハードコートフィルムであった。側鎖に紫外線吸収性成分を含有するアクリル樹脂を含む場合(実施例15)は、特に表面硬度に優れ、優れた干渉縞、接着性、耐候性に優れたハードコートフィルムであった。ベンゾトリアゾール以外の紫外線吸収性成分を用いた場合(実施例16、17)は、若干b値が高くなるものの良好な耐候性、優れた表面硬度、干渉縞、接着性を示すハードコートフィルムであった。可視光吸収化合物を含まない場合(実施例18)、可視光吸収化合物の種類を変更した場合(実施例19)は、硬度が若干低くなるものの良好な硬度、優れた表面硬度、干渉縞、接着性を示すハードコートフィルムであった。A層の厚みを変更した場合(実施例20、21)は、干渉縞が若干低下するものの良好であり、優れた硬度、接着性、耐候性を示すハードコートフィルムであった。さらに、B層の厚みを薄くした場合(実施例22)は、表面硬度が若干低下するものの良好であり、優れた接着性、耐候性を示すハードコートフィルムであった。またB層の厚みを厚くした場合(実施例23)は、若干b値が高いものの、優れた硬度、接着性、耐候性を示すハードコートフィルムであった。
【0107】
架橋剤であるメラミン化合物Cおよびオキサゾリン系化合物Dを併用した場合(実施例24〜30)では、優れた硬度、干渉縞、接着性、耐候性に優れたハードコートフィルムであった。
【0108】
架橋剤であるメラミン化合物Cおよびカルボジイミド系化合物Eを併用した場合(実施例27)では、耐煮沸接着性が若干劣るものの、優れた硬度、干渉縞、接着性、耐候性に優れたハードコートフィルムであった。
【0109】
A層がない場合(比較例1)では、硬度、耐候性は優れるものの、干渉縞、接着性に劣るものであった。A層をポリエステル樹脂のみとした場合(比較例2)、A層をアクリル樹脂Aのみとした場合(比較例3)は、ともに硬度、耐候性は優れるものの、干渉縞、接着性に劣るものであった。B層がない場合(比較例4)は、硬度、耐候性ともに劣るものであった。紫外線吸収性成分がない場合(比較例5)は、硬度、干渉縞に優れるものの、接着性、耐候性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、硬度、基材フィルムとの層間密着性に優れ、また耐候性に優れ黄変しにくく、好ましい様態として干渉縞が抑制されたハードコートフィルムに関するものであり、ディスプレイ用途の光学用フィルムなどへ利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、A層、B層がこの順に直接積層されたハードコートフィルムであり、
前記A層は、基材側からB層側に向かって、A1領域、混在領域、A2領域からなり、
前記A1領域は、ポリエステル樹脂を主成分とし、アクリル樹脂Aを0質量%以上1質量%未満含み、
前記A2領域は、アクリル樹脂Aを主成分とし、ポリエステル樹脂を0質量%以上1質量%未満含み、
前記混在領域は、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂Aの合計を主成分とし、ポリエステル樹脂を1質量%以上含み、アクリル樹脂Aを1質量%以上含み、
前記B層は、アクリル樹脂Bを主成分とし、さらに紫外線吸収性成分を含有することを特徴とする、ハードコートフィルム。
【請求項2】
前記アクリル樹脂Bは、側鎖に紫外線吸収性成分を有するアクリル樹脂を含むことを特徴とする、請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
前記A層の厚みが、80nm以上150nm以下であり、
前記混在領域と前記A2領域の厚みの和が、3nm以上25nm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
前記紫外線吸収性成分が、ベンゾトリアゾール系化合物成分であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のハードコートフィルム。
【請求項5】
前記B層が、波長405nmにおける吸光係数が1×10ml/(g・cm)以上である可視光吸収化合物を含有することを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のハードコートフィルム。
【請求項6】
前記A層が、メラミン化合物、オキサゾリン系化合物、およびカルボジイミド系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つの架橋材に由来する成分を含有することを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載のハードコートフィルム。

【公開番号】特開2013−35267(P2013−35267A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−21587(P2012−21587)
【出願日】平成24年2月3日(2012.2.3)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】