説明

ハードコート組成物及びそれを用いた積層体並びにその製造方法

【課題】本発明は、カールやクラックを伴うことなく、高透過率、高硬度、高安定性のハードコート組成物及びそれを用いた積層体並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】分子中に、2個以上の炭素−炭素二重結合を有するラジカル硬化性樹脂(1)と、該硬化性樹脂(1)と重合できる二重結合を有し、且つ加水分解可能な官能基を2個あるいは2個以上有するアルコキシシラン(2)と粒径1〜50nmまでのシリカゾル(3)を有機溶媒中で酸性加水分解して得られたシリカ前駆体(4)と、エネルギー線に感受性を有するラジカル重合開始剤(5)及び溶剤(6)とを混合してなることを特徴とするハードコート組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックフィルム基材上に塗布された、高透過率で、高硬度、低カール及び高安定性のハードコート組成物及びそれを用いた積層体並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルムに代表されるプラスチックフィルムは、ガラス、金属、木材、プラスチック成形物、ディスプレイ等と貼り合わされ、飛散防止、化粧性、防錆性などの表面保護を目的とした用途で使用されている。しかし、例示したようなプラスチックフィルムは表面硬度が低く、また耐摩耗性も不足しているため他の硬い物体との接触、摩擦によって表面に傷が付きやすいと言う欠点を有する。
【0003】
表面を保護するためのコーティング剤として、アクリルウレタン系などの有機塗料やオルガノシランなどの無機コーティング剤などが知られている。前者のウレタン系の塗料は高い耐薬品性、耐汚染性を有するが、耐候性、耐摩耗性、耐スクラッチ性などの物理的強度が不十分であるといった欠点を有する。この欠点を改善するために、アクリル樹脂をシリコーン変性したコーティング剤が知られているが、耐候性はやや改善されるが、硬度など充分な性能が得られていない。
【0004】
一方、後者の無機コーティング剤はアルコキシランの加水分解物などからなるもので、耐候性に優れ、高硬度の被膜を形成できる利点がある。しかし、硬化に高い温度や時間を必要としたり、被膜形成時に大きな硬化収縮を伴うので、クラックが発生し易い。また、被膜に充分な可とう性がないので、保護フィルムとして用いる場合に適用範囲が限定されるといった問題がある。
【0005】
このようなハードコート層の硬度を増加するためには、該ハードコート層の厚みを通常の3〜25μmよりも厚くすることが有効である。しかしながら、厚くすることでヘイズが大きくなる、該ハードコート層の脆性が悪化して割れや剥がれが生じやすくなると同時に、硬化収縮によるハードコートフィルムのカールが大きくなるという問題がある。
【0006】
また、該ハードコート層の硬度を上げるための他の方法として、該ハードコート層の樹脂形成成分を多官能性アクリル酸エステル系モノマーとし、これにアルミナ、シリカ、酸化チタン等の粉末状無機充填剤および重合開始剤を含有する被覆用組成物が開示(例えば、特許文献1参照。)されている。
【0007】
また、架橋有機微粒子を充填することも近年検討されている。これらはハードコート層の表面硬度を上げる効果を持っているが、ヘイズ増加、脆性劣化、組成物不安定、沈殿物が析出することなどの問題も持っており、これのみでは要求されている性能に十分に応えうるものではなかった。
【0008】
上述の脆性劣化、組成物不安定、沈殿物が析出することなどの問題を解決するために、ナノサイズ無機粒子の使用(例えば、特許文献2参照。)。また、無機粒子の表面修飾、処理することが必要である(例えば、特許文献3参照。)。このような対応の結果として、無機粒子と硬化樹脂の親和性が処理前より大きくなった。しかし、無機粒子と硬化樹脂の間にもっと強く結合がないために、高硬度を達成すること、及び長時間放置の安定性などの問題がある。
【0009】
以下に先行技術文献を示す。
【特許文献1】特公平2−60696号公報
【特許文献2】特開2005−76005号公報
【特許文献3】特開2003−34761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決しようとするものであり、カールやクラックを伴うことなく、高透過率、高硬度、高安定性ハードコート組成物及びそれを用いた積層体並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、本発明の請求項1に係る発明は、分子中に、2個以上の炭素−炭素二重結合を有するラジカル硬化性樹脂(1)と、該硬化性樹脂(1)と重合できる二重結合を有し、且つ加水分解可能な官能基を2個あるいは2個以上有するアルコキシシラン(2)と粒径1〜50nmまでのシリカゾル(3)を有機溶媒中で酸性加水分解して得られたシリカ前駆体(4)と、エネルギー線に感受性を有するラジカル重合開始剤(5)及び溶剤(6)とを混合してなることを特徴とするハードコート組成物である。
【0012】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1記載のハードコート組成物において、前記硬化性樹脂(1)が、アクリル系などの感光性樹脂から選ばれる1種または複数の樹脂からなることを特徴とするハードコート組成物である。
【0013】
本発明の請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載のハードコート組成物において、前記アルコキシシラン(2)の組成割合が組成物全体に対し、1〜20%(wt%)であることを特徴とするハードコート組成物である。
【0014】
本発明の請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれか1項記載のハードコート組成物において、前記シリカゾル(3)の組成割合が組成物全体に対し、10〜50%(wt%)であることを特徴とするハードコート組成物である。
【0015】
本発明の請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか1項記載のハードコート組成物において、前記シリカゾル(3)の分散剤が、極性が弱い有機溶剤であることを特徴とするハードコート組成物である。
【0016】
本発明の請求項6に係る発明は、請求項1乃至5のいずれか1項記載のハードコート組成物において、前記ラジカル重合開始剤(5)の組成割合が前記ラジカル硬化性樹脂(1)に対し、1〜10%(wt%)であることを特徴とするハードコート組成物である。
【0017】
本発明の請求項7に係る発明は、請求項1乃至6のいずれか1項記載のハードコート組成物を基材上に塗布して得られるハードコート層を有することを特徴とする積層体である。
【0018】
本発明の請求項8に係る発明は、請求項7記載の積層体において、前記ハードコート層上に機能層を有することを特徴とする積層体である。
【0019】
本発明の請求項9に係る発明は、基材上に少なくとも、ハードコート層を有する積層体
の製造方法であって、前記基材上に請求項1乃至6記載のいずれか1項記載のハードコート組成物を塗布し、該塗布物を40〜120℃で加熱乾燥後、電離放射線や紫外線照射による硬化、或いは熱硬化のいずれかを行う工程を有することを特徴とする積層体の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のハードコート組成物は、分子中に、2個以上の炭素−炭素二重結合を有するラジカル硬化性樹脂と、該硬化性樹脂と重合できる二重結合を有し、且つ加水分解可能な官能基を2個あるいは2個以上有するアルコキシシランと粒径1〜50nmまでのシリカゾルを有機溶媒中で酸性加水分解して得られたシリカ前駆体と、エネルギー線に感受性を有するラジカル重合開始剤及び溶剤とを混合してなることにより、コーティングで簡便に効率よく、硬度が高い薄膜を形成でき、得られた薄膜は透過率92%という高い透明性を有する。カールはコロイダルシリカを添加しなかったものより低い。尚、本発明のハードコート組成物は長時間(4週間)放置しても沈殿物を析出しないという特徴を有する。即ち、本発明のハードコート組成物の安定性が良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
本発明のハードコート組成物は、分子中に、2個以上の炭素−炭素二重結合を有するラジカル硬化性樹脂(1)と、該硬化性樹脂(1)と重合できる二重結合を有し、且つ加水分解可能な官能基を2個あるいは2個以上有するアルコキシシラン(2)と粒径1〜50nmまでのシリカゾル(3)を有機溶媒中で酸性加水分解して得られたシリカ前駆体(4)と、エネルギー線に感受性を有するラジカル重合開始剤(5)及び溶剤(6)とを混合してなることを特徴とするハードコート組成物である。
【0023】
前記ラジカル硬化性樹脂(1)は、電離放射線や紫外線照射により硬化する硬化性樹脂が挙げられる。具体的には、紫外線硬化型であるアクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリル酸エステル類、メタクリルアミド類等のアクリル系樹脂等が好適である。例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸;および無水マレイン酸などの酸無水物;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ化合物;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミノエチルビニルエーテルなどのアミノ化合物;(メタ)アクリルアミドなどの樹脂が挙げられるが、この限りではない。
【0024】
該ラジカル硬化性樹脂(1)と重合できる二重結合を有し、且つ加水分解可能な官能基を2個あるいは2個以上有するアルコキシシラン(2)としては、2官能基または2個以上有するものを用いることができる。なお、硬化性樹脂が複数ある場合は少なくともそのうちの一つと反応できれば良い。
【0025】
3官能基のアルコキシシランが挙げられ、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。尚、本発明では3官能アルコキシシラン類の不完全加水分解生成物を原料としても良い。
【0026】
2官能基のアルコキシシランとしては、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられるが、この限りではない。
【0027】
酸性加水分解の有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、エチルエーテルなどのエーテル類、酢酸エチルなどのエステル類あ
るいはメチルエチルケトンなどのケトン類を使用することができる。以上の有機溶媒が挙げられるが、この限りではない。
【0028】
また、酸性触媒を含むことができる。酸性触媒としては塩酸、硫酸、燐酸、トリポリ燐酸、ホスフォン酸などの無機酸を挙げることができる。有機酸としては、酢酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、メリット酸、ノナン酸、マレイン酸、セバミン酸、ステアリン酸、メチルマロン酸、シキミ酸、リノール酸、サリチル酸、安息香酸、p−アミノ安息香酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、モノクロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸、スルホン酸、フタル酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸、イソニコチン酸などを挙げることができる。
【0029】
前記アルコキシシラン(2)の組成割合は、組成物全体に対し、1〜20%(wt%)であることが好ましい。
【0030】
次に、前記粒径1〜50nmまでのシリカゾル(3)は、各メーカーの二酸化シリカ微粒子(粒径1〜50nm)の有機分散液である。例えば、日産化学社製のMEK−ST、MIBK−STなどのシリカゾル商品である。以上のシリカゾル商品が挙げられるが、この限りではない。尚、該シリカゾル(3)の分散剤として、極性が弱い有機溶剤であることが好ましい。
【0031】
次に、前記エネルギー線に感受性を有するラジカル重合開始剤(5)としては、一種または一種以上のものを所望の性能に応じて配合して使用することができる。例えば、イルガキュア184(又はイルガキュア500)(Ciba 社製、1−ヒドロキシサイクロヘキシルフェニルケトン)、イルガキュア651(Ciba社製、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、イルガキュア250(Ciba社製)、イルガキュアEDB(Ciba社製)、イルガキュアEHA(Ciba社製)、Sarcure
SR1120(Sartomer社製)、Sarcure SR1121(Sartomer社製)、Sarcure SR1122(Sartomer社製)、Sarcure SR1125(Sartomer社製)、イルガキュア369(Ciba社製)、イルガキュア907(Ciba社製)、イルガキュア819(Ciba社製)、イルガキュア1800(Ciba社製)、DAROCUR TPO(Ciba社製、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)などを挙げられるが、この限りではない。
【0032】
前記ラジカル重合開始剤(5)の組成割合は、前記ラジカル硬化性樹脂(1)に対し、1〜10%(wt%)であることが好ましい。
【0033】
このように、本発明のハードコート組成物は、前記アルコキシシラン(2)と前記有機溶剤に分散したシリカゾル(3)を有機溶媒中で酸性加水分解して得られたシリカ前駆体(4)と前記ラジカル硬化性樹脂(1)分散液を混合して室温で1時間攪拌した後、基材に塗布し、40〜120℃で加熱乾燥後、電離放射線や紫外線照射による硬化、あるいは熱硬化させることにより高硬度ハードコート層を形成することができる。
【0034】
尚、本発明のハードコート組成物の調製は、前記アルコキシシラン(2)と前記有機溶剤に分散したシリカゾル(3)と前記ラジカル硬化性樹脂(1)分散液を混合して加水分解することではない。この場合では、該アルコキシシラン(2)の加水分解は、該ラジカル硬化性樹脂(1)の空間障害のために、十分ではない。また、該シリカゾル(3)との親和性も弱くなる。このために、硬度が弱くなる。即ち、調製順番が重要である。前記アルコキシシラン(2)と前記有機溶剤に分散したシリカゾル(3)を有機溶媒中で酸性加水分解してシリカ前駆体(4)が得られ、その後、このシリカ前駆体(4)と前記ラジカ
ル硬化性樹脂(1)分散液を混合するという順番である。
【0035】
本発明のハードコート組成物中、シリカゾル(3)の粒径は1〜50nmであり、且つ分散液は有機溶剤であるために、粒子を均一に分散することができる。さらに、本発明はシリカ前駆体(4)と前記ラジカル硬化性樹脂(1)との間で化学結合があるため、前駆体(4)と該樹脂(1)との直接混合あるいは混合物中でカップリング剤を添加することにより、該前駆体(4)を該樹脂(1)中でより均一に分散することができる。そして、システムが安定であり、優れた物性を持つことが可能である。
【0036】
前記ハードコート層の透過率、屈折率及び硬度は膜厚、使用した成分種類、シリカゾルと硬化性樹脂の割合などによって変動する。尚、該ハードコート層の膜厚は5〜20μmの範囲内であることが好ましい。
【0037】
また、該ハードコート層の硬度を保証するために、シリカゾル(3)の量は、組成物全体に対して10〜50(wt%)になることが好ましい。
【0038】
また、本発明のハードコート組成物中には、防汚剤を混入させても良い。該防汚剤を用いることで、保護材料として被保護基材の前面に設けた時に、汚れなどから保護または汚れが付着した際に容易に除去することができる。該防汚剤としては、特に限定はしないが、フッ素及び珪素を含む化合物などを含む組成物を好適に用いることができる。特に、パーフルオロ基を有するアルコキシシラン化合物などを挙げられるが、この限りではない。
【0039】
また、ハードコート組成物中には、機能性の添加剤を加えても良い。機能性の添加剤としては、防眩性、帯電防止性、赤外線吸収性などの機能性の添加剤が挙げられる。本発明では、前述のハードコート組成物を基材上に塗布し、高硬度ハードコート層を形成することで反射防止材等に用いられるハードコートフィルムとすることができる。防眩性を持たせるためには、例えば、粒径0.1〜10μm程度のアクリル樹脂粒子やシリカ粒子などを用いることができる。また、帯電防止性を持たせるためには、酸化亜鉛系粒子、スズ−インジウム複合酸化物(ITO)粒子、酸化スズ系粒子、酸化アンチモン系粒子などの導電性粒子を用いることができる。
【0040】
本発明では、前述のハードコート組成物を基材上に塗布し、ハードコート層を有する積層体とすることができる。
【0041】
前記基材としては、透明であることが好ましい。このようなものとしては、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリアクリル(PMMA)、ナイロン(Ny)、ポリエテルサルフォン(PES)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリポロピレン(PP)などのプラスチックフィルム系基材、ガラス基材などが挙げられるが、この限りではない。尚、LCDの表面に用いる反射防止材とする場合は、光学特性の点でTACフィルムを用いることが好ましい。
【0042】
プラスチックフィルム系基材を構成する有機高分子に、公知の添加剤、例えば、紫外線吸収剤、可塑剤、着色剤、酸化防止剤、難燃剤、滑剤等を含有させたものも使用することができる。また、このフィルム基材としては、単層、あるいは、複数の有機高分子を積層したものでも良い。また、その厚みは特に限定されるものではないが、30〜200μmが好ましい。
【0043】
また、ハードコート層上には、さらに機能層を設けても良い。機能層としては、反射防止層、防汚層、防眩層、電磁波遮蔽層、帯電防止層、紫外線吸収層、赤外線吸収層、色補
正層などが挙げられる。
【0044】
前記反射防止層としては、例えば、酸化ケイ素、フッ化マグネシウムなど無機化合物を主成分とする屈折率1.3〜1.5程度の低屈折率層を単層で設けるものや、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウムなどを主成分とする屈折率1.8〜2.4程度の高屈折率層と前記低屈折率層を交互に積層したものや、低屈折率層、高屈折率層の中間の屈折率を有する中屈折率層を積層したものなどが挙げられる。
【0045】
また、前記防眩層、電磁波遮蔽層、帯電防止層、赤外線吸収層は、前述の各機能性添加剤を、アクリル樹脂などの樹脂に混入させたものを用いることができる。また色補正層も色補正用の添加剤をアクリル樹脂などの樹脂に混入させたものを用いることができる。
【0046】
このようにして得られたハードコート基材は、LCD、CRT、PDP、ELなどの各種ディスプレイの前面に貼り合わせて用いることができる。
【0047】
次に、本発明におけるハードコート層を有する積層体は、基材上にハードコート組成物を塗布し、該塗布物を40〜120℃で加熱乾燥後、電離放射線や紫外線照射による硬化、或いは熱硬化のいずれかにより製造することができる。
【実施例】
【0048】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
【0049】
<実施例1>
(シリカ前駆体の調製)
密閉ガラス容器中で、紫外線硬化型アクリル系樹脂と重合できる官能基を持ち、且つ加水分解可能な官能基を2個以上もつシランカップリング剤KBM-5103(信越化学社製)0.70gと0.20g1%酢酸水溶液を混合し、シリカゾルMEK−ST(日産化学社製、固成分30%)10.0gを添加して2時間、40℃で攪拌し、シリカ前駆体を得た。
【0050】
(ハードコート組成物の調製)
密閉ガラス容器中で、前記シリカ前駆体6.0gと紫外線硬化型アクリル系樹脂であるDPHA(日本化薬社製)8.0g及び溶剤メチルエチルケトン/酢酸メチル(3:1)混合溶媒8.0g、光開始剤としてイルガキュア184(Ciba社製)0.40gを混合し、1時間で攪拌してハードコート組成物を得た。該ハードコート組成物は安定であり、4週間放置しても、透明であり、沈殿物は析出しなかった。
【0051】
(ハードコート層を有する積層体の形成)
得られたシリカ組成物をトリアセチルセルロースフィルム(TAC)基材(富士フィルム株式会社製、厚み80μm)表面に3.0ml滴下し、ワイヤーバーを用いて塗布し、成膜した。80℃で1分乾燥後、紫外線照射(露光量211mJ/cm2)により硬化してハードコート層を形成し、ハードコート層を有する積層体を得た。尚、得られたハードコート層の膜厚は8μmであった。
【0052】
<実施例2>
実施例1において、ハードコート組成物として、シリカゾルMIBK−ST(日産化学社製、固成分30%)と溶剤メチルイソブチルケトン/酢酸メチル(3:1)混合溶媒を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、ハードコート組成物を得た。該ハードコート組成物は安定であり、4週間放置しても、透明であり、沈殿物は析出しなかった。その後、実施例1と同様の操作でTAC基材の表面にハードコート層を形成し、該ハードコー
ト層を有する積層体を得た。尚、得られたハードコート層の膜厚は8μmであった。
【0053】
以下に、比較例について説明する。
【0054】
<比較例1>
密閉ガラス容器中で、シリカゾルMEK−ST(日産化学社製、固成分30%)6.0gと紫外線硬化型アクリル系樹脂であるDPHA(日本化薬社製)8.0g及び溶剤メチルエチルケトン/酢酸メチル混合溶媒(3:1)8.0gを混合し、光開始剤としてCiba社製イルガキュア184 0.40gを添加して1時間で攪拌してハードコート組成物を得た。その後、TAC基材の表面に3.0ml滴下し、ワイヤーバーを用いて塗布し、成膜した。80℃で1分乾燥、紫外線照射(露光量211mJ/cm2)により硬化してハードコート層を形成し、ハードコート層を有する積層体を得た。尚、得られたハードコート層の膜厚は8μmであった。
【0055】
<比較例2>
実施例1において、シリカ前駆体1.5gとアクリル系樹脂DPHA(日本化薬社製)9.5g及び溶剤メチルエチルケトン/酢酸メチル(3:1)混合溶媒9.0g、光開始剤としてイルガキュア184(Ciba社製)0.48gを混合し、1時間で攪拌してハードコート組成物を得た。その後、比較例1と同様の操作でTAC基材の表面にハードコート層を形成し、ハードコート層を有する積層体を得た。尚、得られたハードコート層の膜厚は8μmであった。
【0056】
<比較例3>
密閉ガラス容器中で、紫外線硬化型アクリル系樹脂と重合できる官能基を持ち、且つ加水分解可能な官能基を2個以上もつシランカップリング剤KBM-5103(信越化学社製)0.70gと0.20g1%酢酸水溶液を添加して、さらに紫外線硬化型アクリル系樹脂DPHA(日本化薬社製)8.0gと溶剤メチルエチルケトン/酢酸メチル(3:1)混合溶媒8.0g、光開始剤としてイルガキュア184(Ciba社製)0.40g及びシリカゾルMEK−ST(日産化学社製)10.0gと混合し、2時間、40℃で攪拌してハードコート組成物を得た。その後、実施例1と同様の操作でTAC基材の表面にハードコート層を形成し、ハードコート層を有する積層体を得た。尚、得られたハードコート層の膜厚は8μmであった。
【0057】
<評価>
実施例1〜2及び比較例1〜3で得られたハードコート層を有する積層体の初期密着性、カール、ヘイズ、全光透過率、鉛筆硬度についての評価を行った。その結果を表1に示す。
【0058】
<評価方法>
(初期密着性試験の評価方法)
ハードコート層面にポリカーネート基板に達する碁盤目をハードコート層の上から、ナイフで100個入れて、セロハン粘着テープを強く張り付け、90°方向に急速に剥し、光学顕微鏡で塗層剥離の有無を調べた。
【0059】
(カール評価方法)
ハードコートフィルムを100mm×100mmの大きさに切断したサンプルを作製し、水平で平滑な台上にハードコート層を上にした状態で静置させた。台上から、ハードコートフィルム端部の浮き上がりを測定した。
【0060】
(ヘイズ、全光透過率の評価方法)
Nippon DENSHOKU社製NDH 2000ヘイズメーターを使用して測定した。
【0061】
(鉛筆硬度評価方法)
JISK5400規定の鉛筆引掻き試験を実施した。鉛筆引掻き試験結果(X/5)は、5回の試験の内、傷が付かなかった回数がXであることを示す。Xは4以上になった場合で合格とする。
【0062】
【表1】

表1は実施例1〜2、比較例1〜3で得られたハードコート層を有する積層体の初期密
着性、カール、ヘイズ、全光透過率、鉛筆硬度の評価結果を記す。
【0063】
<評価結果>
表1に示した通り、実施例1から得られたハードコート層を有する積層体のカールは18mmであった。比較例1(24mm)と比べるとカールが低かった。鉛筆硬度が4H(4/5,4/5,5/5)で、比較例1の鉛筆硬度4H(2/5,2/5,3/5)、比較例2の鉛筆硬度4H(2/5,2/5,1/5)及び比較例3の鉛筆硬度4H(3/5,3/5,3/5)より高かった。比較例1はシリカゾルと硬化樹脂との簡単な混合のために、硬度を著しく向上させることが難しかった。比較例2はシリカゾルの添加量(組成物固成分5%)が少ないために、硬度は不十分であった。比較例3は硬化樹脂の空間障害のために、アルコキシシランの加水分解が十分ではなく、シリカゾルとの親和性も弱かった。その結果として硬度は、実施例1より不足していた。これに対して本発明は高硬度薄膜の作製が実現できた。そして、ヘイズが0.15%であり、全光透過率が92%であった。塗工したフィルムは高い透明性を示した。干渉縞は見えなかった。さらに初期密着性試験の結果としては、100/100であり、密着性が良好であった。
【0064】
次に、実施例2から得られたハードコート層を有する積層体のカールは20mmであった。比較例1(24mm)と比べるとカールが低かった。鉛筆硬度が4H(5/5,5/5,5/5)で、実施例1と同様に比較例1の鉛筆硬度4H(2/5,2/5,3/5)、比較例2の鉛筆硬度4H(2/5,2/5,1/5)及び比較例3の鉛筆硬度4H(3/5,3/5,3/5)より高かった。そのため実施例1と同様に高硬度薄膜の作製が実現された。そして、ヘイズが0.16%であり、全光透過率が92%であった。塗工したフィルムは高い透明性を示した。干渉縞は見えなかった。さらに、初期密着性試験結果としては、100/100であり、密着性が良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に、2個以上の炭素−炭素二重結合を有するラジカル硬化性樹脂と、該硬化性樹脂と重合できる二重結合を有し、且つ加水分解可能な官能基を2個あるいは2個以上有するアルコキシシランと粒径1〜50nmまでのシリカゾルを有機溶媒中で酸性加水分解して得られたシリカ前駆体と、エネルギー線に感受性を有するラジカル重合開始剤及び溶剤とを混合してなることを特徴とするハードコート組成物。
【請求項2】
前記硬化性樹脂が、アクリル系などの感光性樹脂から選ばれる1種または複数の樹脂からなることを特徴とする請求項1記載のハードコート組成物。
【請求項3】
前記アルコキシシランの組成割合が組成物全体に対し、1〜20%(wt%)であることを特徴とする請求項1又は2記載のハードコート組成物。
【請求項4】
前記シリカゾルの組成割合が組成物全体に対し、10〜50%(wt%)であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のハードコート組成物。
【請求項5】
前記シリカゾルの分散剤が、極性が弱い有機溶剤であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のハードコート組成物。
【請求項6】
前記ラジカル重合開始剤の組成割合が前記ラジカル硬化性樹脂に対し、1〜10%(wt%)であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のハードコート組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載のハードコート組成物を基材上に塗布して得られるハードコート層を有することを特徴とする積層体。
【請求項8】
前記ハードコート層上に機能層を有することを特徴とする請求項7記載の積層体。
【請求項9】
基材上に少なくとも、ハードコート層を有する積層体の製造方法であって、前記基材上に請求項1乃至6記載のいずれか1項記載のハードコート組成物を塗布し、該塗布物を40〜120℃で加熱乾燥後、電離放射線や紫外線照射による硬化、或いは熱硬化のいずれかを行なう工程を有することを特徴とする積層体の製造方法。

【公開番号】特開2008−231298(P2008−231298A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74543(P2007−74543)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】