説明

ハーフミラーおよびその製造方法

【課題】任意の基板上に任意の形状を有する、外観、デザイン性に優れたハーフミラーおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るハーフミラーの製造方法は、3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物と、酸性基を有する付加重合性化合物と、親水性官能基を有する付加重合性化合物と、を含有する下地組成物を、透明基板または透明フィルム上に塗布し、重合して、有機膜を形成する有機膜形成工程と、上記酸性基を金属(M1)塩にする金属塩生成工程と、上記金属(M1)イオンよりもイオン化傾向の低い金属(M2)イオンを含有する金属(M2)イオン水溶液で処理することによって、上記酸性基の金属(M1)塩を、金属(M2)塩とする金属固定工程と、上記金属(M2)イオンを還元して上記有機膜表面に金属膜を形成する還元工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハーフミラーおよびその製造方法に関する。具体的には、反りが少なく、基板の選択性およびデザイン性に優れたハーフミラーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属調の外観で高級感のあるハーフミラーは、デザイン性を向上させるため、各種機器の表示板、ディスプレイパネル、およびラベル等として広く用いられている。上記ハーフミラーは、入射光を反射してミラーとしての機能を発揮する一方、表面側から裏面側を透視することのできる光透過性を有し、任意の文字や絵柄を表示できるという特性を有する。
【0003】
一般に、ハーフミラーの作製には、スパッタリングや蒸着等によりベースフィルムに金属膜を形成し、その後、上記フィルムを熱圧着により基板に転写することによって、所望の基板に金属膜を形成する方法が用いられている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−351722号公報(平成16年12月16日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の作製方法では、熱などのエネルギーが基板に加わるため、基板として樹脂基板を用いた場合は、基板に反りが発生する。また、基板に金属膜を転写する際に、ベースフィルムから金属膜が完全にきれいに剥がれず、転写された金属膜表面に微細な孔(以下「ピンホール」ともいう)が生じる。さらに、ローラーを用いて、基板と金属膜を熱圧着させる際に、ローラーの傾き等によりローラーが回転する方向と水平に金属膜表面にスジが入る場合があり、形成されたハーフミラーの外観が損なわれるという問題を生じる。
【0005】
また、ローラーを用いて金属膜を基板に圧着する熱転写法では当然のことながら、基板に直接金属膜を形成する場合であっても、スパッタリングや蒸着を曲面に施すことは非常に困難であるため、平坦な金属膜しか形成することができない。それゆえ、作製できるハーフミラーの形状およびデザイン性が制約されるという問題を生じる。
【0006】
さらに、上記従来の作製方法では、形成されたハーフミラー表面にデザインを付与する場合、模様等を印字する必要がある。しかしながら、印刷された印字(インク)は、指などで触ることによる摩擦で剥がれることから、外観が損なわれるという問題を生じる。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、任意の基板上に任意の形状を有する、外観、デザイン性に優れたハーフミラーおよびその製造方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑み、任意の基板上に任意の形状を有する、外観、デザイン性に優れたハーフミラーおよびその製造方法について鋭意検討した。その結果、ハーフミラーの製造に化学反応を用いることにより、基板に発生する反りを少なくし、さらに任意の基板上に任意の形状とデザインを有するハーフミラーを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係るハーフミラーの製造方法は、3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物と、酸性基を有する付加重合性化合物と、親水性官能基を有する付加重合性化合物と、を含有する下地組成物を、透明基板または透明フィルム上に塗布し、重合して、有機膜を形成する有機膜形成工程と、上記有機膜を、金属(M1)イオンを含有する水溶液で処理することによって、上記酸性基を金属(M1)塩にする金属塩生成工程と、上記金属(M1)イオンを含有する水溶液で処理した有機膜を、上記金属(M1)イオンよりもイオン化傾向の低い金属(M2)イオンを含有する金属(M2)イオン水溶液で処理することによって、上記酸性基の金属(M1)塩を、金属(M2)塩とする金属固定工程と、上記金属(M2)イオンを還元して上記有機膜表面に金属膜を形成する還元工程と、を含むことを特徴としている。
【0010】
本発明に係る製造方法の有機膜形成工程によって生成される有機膜は、3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物に起因する嵩高い三次元構造(以下「バルキー構造」ともいう)を取ることができる。上記バルキー構造を取ることにより、上記有機膜は、膜内の空間に多くの金属(M2)イオンを固定できるようになる。また、構造的に、還元剤を有機膜の内部まで行き渡らせることができるので、金属(M2)イオンを内部まで還元することができるものと考えられる。したがって、固定する金属(M2)イオンの濃度を調整することにより、所望の透過率を有するハーフミラーを容易に製造することができる。
【0011】
さらに、上記親水性官能基を有する付加重合性化合物は、上記有機膜の親水性を向上させることができるので、上記有機膜の内部まで各処理液、すなわち金属(M1)イオンを含有する水溶液、金属(M2)イオンを含有する金属(M2)イオン水溶液、還元剤の水溶液を作用させることができる。したがって、上記有機膜に対して上記各処理液をより効果的に作用させることができる。
【0012】
また、上記有機膜は、紫外線で硬化可能である。したがって、熱などのエネルギーが加わることによる基板の反りを抑制することができため、耐熱性の低い基板やフィルムにも適用可能である。また、基板の選択性が広がったことで、耐熱性の高い高価な基板を用いる必要がなくなったため、より安価にハーフミラーを製造することができる。
【0013】
さらに、上記有機膜は金属塩生成工程において、酸性基が金属(M1)塩とされ、金属固定工程において、金属(M1)イオンよりもイオン化傾向の低い金属(M2)イオンを含有する金属イオン水溶液で処理されるので、金属(M1)と金属(M2)とのイオン化傾向の違いによって効率よく金属(M2)イオンを固定することができる。したがって、任意の基板上に任意の形状を有するハーフミラーを形成することができ、例えば曲面基板上にもハーフミラーを形成することができる。
【0014】
本発明に係るハーフミラーの製造方法では、上記塗布を印刷またはインプリント法によって行うことにより、上記有機膜に凹凸を付与してもよい。
【0015】
本発明に係る方法によれば、インクジェットやスクリーン印刷などの印刷や、インプリント法などの簡易な方法を用いて、上記下地組成物を任意の基板に任意の形状となるように塗布し、硬化させることで、簡単に上記有機膜上に凹凸を付与することができる。上記有機膜上の平坦部と凹凸部との組み合わせにより、ハーフミラーにデザイン(例えば、絵または文字等)を形成することができる。つまり、作製されたハーフミラーにおいて、有機膜上の凹凸部分が任意のデザインを表す部分になる。ハーフミラー表面に印字する従来方法では、指で擦る等の摩擦よりインクが剥離するという欠点があったが、本発明に係る方法を用いて付与されたデザインは、有機膜上の凹凸によりデザインを付与しており、さらに、有機膜表面に金属膜が形成されているので摩擦により剥離することはない。したがって、ハーフミラーに任意のデザインを容易に付与することができ、しかもデザインを長期に渡って維持することができる。
【0016】
本発明に係るハーフミラーの製造方法では、上記酸性基が、カルボキシル基、スルホン酸基、フェノール基、安息香酸基、フタル酸基、サリチル酸基、アセチルサリチル酸基およびベンゼンスルホン酸基からなる群より選ばれる官能基を含むことが好ましい。
【0017】
これらの官能基は、強酸性であるとともに電子吸引基を備えているので、これらの官能基を含む酸性基は、金属(M1)イオンと金属(M2)イオンとのイオン交換を容易に行うことができ、さらに金属(M2)を固定化しやすい基となる。したがって、より効率的にハーフミラーを製造することができる。
【0018】
本発明に係るハーフミラーの製造方法では、上記3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物の反応基が、アクリロイル基および/またはメタクリロイル基を含むことが好ましい。
【0019】
上記アクリロイル基および/またはメタクリロイル基は、バルキー構造を構成しやすい官能基であるため、有機膜の構造を、より多くの金属イオンを固定可能な構造にすることができ、還元剤がより内部まで行き渡りやすい構造とすることができる。したがって、金属(M2)イオンをより内部まで還元することができる。
【0020】
本発明に係るハーフミラーの製造方法では、上記親水性官能基が、エチレンオキシド基および/またはプロピレンオキシド基を含むことが好ましい。
【0021】
エチレンオキシド、プロピレンオキシドは、親水性官能基の中でも、特に上記有機膜の親水性を向上させる能力に優れるので、上記有機膜のより内部まで上記各処理液を作用させることができる。したがって、上記有機膜に対して上記各処理液をより一層効果的に作用させることができる。
【0022】
本発明に係るハーフミラーの製造方法では、上記金属(M1)が、カリウムまたはナトリウムであることが好ましい。
【0023】
上記構成によれば、カリウムまたはナトリウムは、非常にイオン化傾向が大きく、金属(M2)とのイオン化傾向の差が大きいため、上記金属固定工程において、より金属(M2)を固定化しやすい。したがって、より効率的にハーフミラーを製造することができる。
【0024】
本発明に係るハーフミラーの製造方法では、上記金属(M2)が、スズ、ニッケル、インジウム、金、パラジウム、および銀からなる群より選ばれる1種類または2種類以上の金属であることが好ましい。
【0025】
上記構成によれば、それぞれの金属に特有の色を活かした、様々な外観を呈するハーフミラーを製造することができる。また、2種類以上の金属を組み合わせることにより、1種類の金属のみでは表現することのできない金属色を呈するハーフミラーを製造することができる。
【0026】
本発明に係るハーフミラーの製造方法では、上記還元工程において、上記金属(M2)イオンの還元を、(1)アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、クエン酸、クエン酸ナトリウム、タンニン酸、ジボラン、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、(2)(1)の化合物の誘導体、および(3)亜硫酸塩、次亜リン酸塩からなる群より選ばれる1以上の還元剤、並びに/または、紫外線、熱、プラズマ、および水素からなる群より選ばれる1以上の還元手段を用いて行うことが好ましい。
【0027】
上記構成によれば、上記還元剤や紫外線等によって金属(M2)イオンを還元することができるので、金属(M2)イオンの金属原子を有機膜表面に析出させることができる。したがって、所定のハーフミラーを形成することができる。
【0028】
また、本発明に係るハーフミラーは、透明基板または透明フィルム上に、有機膜が形成され、当該有機膜上に粒子径が10〜100nmの金属粒子からなる金属膜が形成されてなることを特徴としている。
【0029】
上記の構成によれば、本発明に係るハーフミラーは、透明基板または透明フィルム上に形成される有機膜上に、整然と並んだ微細な金属粒子の膜が形成されてなるので、従来の熱転写法を用いた場合のように表面の微細な凹凸やうねりやピンホールが生じない。したがって、本発明に係るハーフミラーは、優れた外観を呈することができる。
【0030】
本発明に係るハーフミラーは、上記金属粒子が、スズ、ニッケル、インジウム、金、パラジウム、および銀からなる群より選ばれる1種類または2種類以上の金属の粒子であることが好ましい。
【0031】
上記構成によれば、それぞれの金属に特有の色や、1種類の金属のみでは表現することのできない金属色を持たせることができるので、本発明に係るハーフミラーは、多様な金属色を呈することができる。
【0032】
本発明に係るハーフミラーは、ハーフミラーを製造する前の透明基板または透明フィルムのx−z断面における、上記透明基板または透明フィルムの両端部を結ぶ直線から上記透明基板または透明フィルムまでの最大の距離と、上記ハーフミラーのx−z断面における、上記ハーフミラーの両端部を結ぶ直線から上記ハーフミラーまでの最大の距離と、の差が20μm以下であることが好ましい。
【0033】
上記構成によれば、製造工程において発生する基板のそりが少ないので、本発明に係るハーフミラーは、優れた外観を呈することができる。
【0034】
本発明に係るハーフミラーは、本発明に係るハーフミラーの製造方法によって製造したことを特徴としている。
【0035】
上記製造方法によれば、任意の金属を非常に簡便に、任意の基板に成膜することができる。したがって、ハーフミラーを安価に提供することができる。また、ハーフミラーの基板として樹脂基板を用いる場合であっても、基板のそりが抑制されたハーフミラーを提供することができる。
【0036】
本発明に係るハーフミラーは、全透過率が10〜80%であることが好ましい。
【0037】
上記全透過率が10%以上であることにより、入射光の一部を効率よく透過することができるので、表示部としての機能を発揮することができる。また、全透過率が80%以下であることにより、入射光の一部を効率よく反射することができるので、ミラーとしての機能を発揮することができる。したがって、ハーフミラーとしての機能を十分に発揮することができる。
【0038】
本発明に係る電子部品および電子機器は、本発明に係るハーフミラーを備えることを特徴としている。
【0039】
上記ハーフミラーは、外観とデザイン性に優れている。したがって、本発明に係る電子部品は、優れた外観とデザイン性を呈することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明に係るハーフミラーの製造方法は、以上のように3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物と、酸性基を有する付加重合性化合物と、親水性官能基を有する付加重合性化合物と、を含有する下地組成物を、透明基板または透明フィルム上に塗布し、重合して、有機膜を形成する有機膜形成工程と、上記有機膜を、金属(M1)イオンを含有する水溶液で処理することによって、上記酸性基を金属(M1)塩にする金属塩生成工程と、上記金属(M1)イオンを含有する水溶液で処理した有機膜を、上記金属(M1)イオンよりもイオン化傾向の低い金属(M2)イオンを含有する金属(M2)イオン水溶液で処理することによって、上記酸性基の金属(M1)塩を、金属(M2)塩とする金属固定工程と、上記金属(M2)イオンを還元して上記有機膜表面に金属膜を形成する還元工程と、を含む構成である。
【0041】
それゆえ、任意の基板上に、外観とデザイン性に優れたハーフミラーを効率よく形成することができるという効果を奏する。
【0042】
また、本発明に係るハーフミラーは、透明基板または透明フィルム上に、有機膜が形成され、当該有機膜上に粒子径が10〜100nmの金属粒子からなる金属膜を含む。
【0043】
それゆえ、表面に凹凸やうねりがなく、均一で、より外観に優れたハーフミラーを提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本発明の実施の形態について説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
尚、本明細書中において範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを示す。
【0046】
〔1.ハーフミラーの製造方法〕
一実施形態において、本発明に係るハーフミラーの製造方法は、3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物と、酸性基を有する付加重合性化合物と、親水性官能基を有する付加重合性化合物と、を含有する下地組成物を、透明基板または透明フィルム上に塗布し、重合して、有機膜を形成する有機膜形成工程と、上記有機膜を、金属(M1)イオンを含有する水溶液で処理することによって、上記酸性基を金属(M1)塩にする金属塩生成工程と、上記金属(M1)イオンを含有する水溶液で処理した有機膜を、上記金属(M1)イオンよりもイオン化傾向の低い金属(M2)イオンを含有する金属(M2)イオン水溶液で処理することによって、上記酸性基の金属(M1)塩を、金属(M2)塩とする金属固定工程と、上記金属(M2)イオンを還元して上記有機膜表面に金属膜を形成する還元工程と、を含む。そこで、以下、上記各工程について説明する。
【0047】
(1−1.有機膜形成工程)
有機膜形成工程は、3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物と、酸性基を有する付加重合性化合物と、親水性官能基を有する付加重合性化合物と、を含有する下地組成物を、透明基板または透明フィルム上に塗布し、重合して、有機膜を形成する工程である。
【0048】
上記下地組成物は、後述する金属固定工程で導入される金属(M2)イオンを表面に析出させて所定の金属膜を形成するための下地(樹脂膜)を形成するものである。
【0049】
上記3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物と、酸性基を有する付加重合性化合物と、親水性基を有する付加重合性化合物とは、重合性不飽和結合、特に重合性二重結合を1分子あたり1個以上有する。なお、本明細書において「付加重合性化合物」とは、UV、プラズマ、EB等の活性エネルギーによって付加重合しうる化合物をいい、モノマーであってもよいし、オリゴマーやポリマーであってもよい。
【0050】
上記「3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物」は、上記下地組成物にバルキー構造を付与するために用いられる。上記下地組成物がバルキー構造を取ることによって、有機膜は当該化合物に起因する嵩高い三次元構造(バルキー構造)となるので、後述する金属固定工程で有機膜に多くの金属(M2)イオンを固定することができるとともに、膜中の当該金属(M2)イオンを還元剤や紫外線等と接触しやすい状態にすることができる。
【0051】
上記「反応基」とはラジカル重合やカチオン重合等の付加重合を行いうる付加重合性反応基のことである。上記反応基としては、特に限定されるものではないが、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、ビニル基、アリル基などを用いることができる。中でも、バルキー構造を構成しやすい官能基であるアクリロイル基、メタクリロイル基が特に好ましく用いられ、上記3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物の反応基は、アクリロイル基および/またはメタクリロイル基を含むことが好ましい。
【0052】
また、上記付加重合性化合物の複数の反応基による枝分かれ構造が、上記付加重合性化合物にバルキー構造を付与するため、上記反応基の数は、3つ以上であれば特に限定されるものではない。
【0053】
上記3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物は、上記付加重合性反応基を1分子中に3つ以上有していれば、その構造は特に限定されるものではないが、例えば以下の一般式(1)で表される化合物を挙げることができる。
【0054】
(R1−R2)−R3・・・(1)
(一般式(1)において、nは3以上であり、R1はアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、ビニル基およびアリル基からなる群より選ばれる付加重合性反応基、R2は例えばエステル基、アルキル基、アミド基、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基などを含む任意の構造、R3はC、アルキル基またはC−OHを表す。)
上記3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物としては、より具体的にはトリメチロールプロパントリアクリレート(市販品としては、例えば共栄社化学株式会社製、TMP−A)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(市販品としては、例えば共栄社化学株式会社製、PE−3A)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(市販品としては、例えば共栄社化学株式会社製、PE−4A)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(市販品としては、例えば共栄社化学株式会社製、DPE−6A)、ペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマー(市販品としては、例えば共栄社化学株式会社製、UA306I)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー(市販品としては、例えば共栄社化学株式会社製、UA−510H)等を挙げることができる。
【0055】
また、上記「3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物」は、1種類のみ用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
下地組成物における上記「3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物」の含有量は特に限定されるものではないが、下地組成物全量に対して1重量%以上60重量%以下であることが好ましく、5重量%以上50重量%以下であることが特に好ましい。
【0057】
上記付加重合性化合物の含有量を増やせば、上記付加重合性化合物のバルキー構造により、下地組成物の金属(M2)イオンを固定する効果や、金属(M2)イオンを還元する効果は高くなるが、下地組成物において、酸性基を有する付加重合性化合物と、親水性官能基を有する付加重合性化合物とが占める割合が減少し、これらの化合物が示す効果は低くなる。そのため、下地組成物における上記「3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物」の含有量は、上記範囲であることが望ましい。
【0058】
上記「酸性基を有する付加重合性化合物」における酸性基は、金属イオンを塩の形態で保持できるものである限り特に制限されるものではない。例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、フェノール基、安息香酸基、ベンゼンスルホン酸基、水酸基、フタル酸基、サリチル酸基、アセチルサリチル酸基等、を挙げることができる。
【0059】
本発明者は、強酸性の酸性基が特に金属イオンの担持性に優れ、金属膜を製造する上で非常に有効であることを見出した。したがって、上記酸性基は、強酸性の酸性基であることが好ましい。このような強酸性の酸性基としては、金属イオンの担持性に優れることから、カルボキシル基、スルホン酸基、フェノール基、安息香酸基、フタル酸基、サリチル酸基、アセチルサリチル酸基、およびベンゼンスルホン酸基からなる群より選ばれる1以上の官能基を含むことが特に好ましい。
【0060】
上記「酸性基を有する付加重合性化合物」における酸性基のうち、少なくとも一つは分子末端に位置することが必要である。上記「分子末端」とは、主鎖の末端であっても側鎖の末端であってもよい。本発明の金属塩生成工程においては、上記化合物の分子末端に位置するフリーの酸性基に金属(M1)イオンがトラップされることが必要であるため、上記酸性基は、少なくとも一つは分子末端に位置することが必要となる。分子末端に位置する酸性基は、付加重合後も酸性基として分子中に存在するので、後の金属塩生成工程において、金属(M1)イオンを含有する水溶液で処理することによって、金属(M1)塩を形成する。
【0061】
分子末端以外の位置に存在する酸性基は、エステルの形態を有していてもよい。すなわち、「酸性基を有する付加重合性化合物」は、分子末端以外であれば、上記酸性基のエステル基を有していてもよい。そのようなエステル基を構成する基としては、エステル結合が加水分解されうるものであれば特に制限されるものではない。
【0062】
上記エステル基を構成する基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等のような直鎖または分岐状のアルキル基、フェニル基のような芳香族炭化水素基、イソボルニル基、アダマンチル基のような脂環式炭化水素基、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロ−n−プロピル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロ−n−ブチル基、パーフルオロイソブチル基、パーフルオロ−sec−ブチル基、パーフルオロ−t−ブチル基等のような直鎖または分岐状のパーフルオロアルキル基、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基等のようなエーテル基等が挙げられる。なお、「酸性基を有する付加重合性化合物」の分子中における上記酸性基またはそのエステル基の数は特に制限されるものではない。
【0063】
上記「酸性基を有する付加重合性化合物」としては、例えば、以下の一般式(2)または(3)で表される化合物を挙げることができる。
【0064】
R1−R2−R3−COOH・・・(2)
R1−R2−R3−SOH・・・(3)
(一般式(2)および(3)において、R1はアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、ビニル基およびアリル基からなる群より選ばれる付加重合性反応基、R2は例えばエステル基、アルキル基、アミド基、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基などを含む任意の構造、R3は、例えばフェニル基もしくはシクロヘキシル基等の環構造を有する官能基、または、アルキル基などの直鎖構造もしくはアルキレン基などの分岐構造を有する官能基である。)
より具体的には、ビニルベンゼンスルホン酸、これらのエステル、例えば2−アクリロイロキシエチル−フタル酸等の、フタル酸基を有するアクリルエステル、サリチル酸基を有するアクリルエステル、アセチルサリチル酸基を有するアクリルエステル、ビニルフェノール等が挙げられる。
【0065】
また、上記「酸性基を有する付加重合性化合物」は、1種類のみ用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
下地組成物における上記「酸性基を有する付加重合性化合物」の含有量は特に限定されるものではないが、下地組成物全量に対して10重量%以上90重量%以下であることが好ましく、20重量%以上80重量%以下であることが特に好ましい。
【0067】
上記「酸性基を有する付加重合性化合物」の含有量を増やせば、下地組成物の金属イオン担持性は向上するが、3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物と、親水性官能基を有する付加重合性化合物の含有量とが減少し、それらの効果は小さくなる。そのため、上記「酸性基を有する付加重合性化合物」の含有量は、上記範囲であることが望ましい。
【0068】
「親水性官能基を有する付加重合性化合物」とは、1分子中に1個以上の親水性官能基を有する付加重合性化合物をいう。上記「親水性官能基」とは、水溶液がなじみやすい官能基を意味する。上記「親水性官能基」としては、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、アセタール基、ヒドロキシル基、エーテル基などを用いることができる。中でも、有機膜の親水性を向上させる能力に優れるため、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基が特に好ましく用いられ、上記親水性官能基は、エチレンオキシド基および/またはプロピレンオキシド基を含むことが好ましい。
【0069】
上記「親水性官能基を有する付加重合性化合物」としては、例えば、以下の一般式(4)で表される化合物を挙げることができる。
【0070】
R1−R2−R1・・・(4)
(R1はアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、ビニル基およびアリル基からなる群より選ばれる付加重合性反応基、R2は例えばエチレンオキシド基、プロピレンオキシド基、アセタール基、ヒドロキシル基、エーテル基からなる群より選ばれる親水性官能基を表す。)
より具体的には、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、グリセリンジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレートなどが挙げられる。
【0071】
また、上記「親水性官能基を有する付加重合性化合物」は、1種類のみ用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
下地組成物における上記「親水性官能基を有する付加重合性化合物」の含有量は特に限定されるものではないが、下地組成物全量に対して1重量%以上80重量%以下であることが好ましく、5重量%以上50重量%以下であることが特に好ましい。
【0073】
上記「親水性官能基を有する付加重合性化合物」の含有量を増やせば、有機膜の親水性を向上させる効果は高くなるが、3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物、酸性基を有する付加重合性化合物の含有量が減少し、それらの効果は小さくなる。そのため、下地組成物における上記「親水性官能基を有する付加重合性化合物」の含有量は上記範囲であることが望ましい。
【0074】
このように、上記下地組成物は、3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物と、酸性基を有する付加重合性化合物と、親水性官能基を有する付加重合性化合物と、を含有するので、金属(M2)イオンの担持性に優れている。
【0075】
上記下地組成物は、3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物と、酸性基を有する付加重合性化合物と、親水性官能基を有する付加重合性化合物と、を少なくとも含有していればよく、これらの化合物を従来公知の方法を用いて適宜混合することによって調製することができる。
【0076】
上記下地組成物は、上記化合物以外に、重合開始剤を含有することが好ましい。重合開始剤としては下地組成物を重合できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、光重合開始剤および熱重合開始剤等のラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤およびアニオン重合開始剤等のイオン重合開始剤等を挙げることができる。中でも、ラジカル重合開始剤が好ましく用いられ、熱を使わないため耐熱性の低い基板にも適用可能であるという観点から、特に光重合開始剤が好ましく用いられる。
【0077】
光重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロペン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロペン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、トリフェニルスルホニルトリフレート等を挙げることができる。
【0078】
熱重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、DBU、エチレンジアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン等を挙げることができる。なお、これらの重合開始剤は、単独もしくは、適宜組み合わせて使用することができる。
【0079】
重合開始剤の含有量は、下地組成物全量に対して0.05〜10重量%であり、好ましくは0.1〜8重量%である。
【0080】
上記下地組成物は、3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物、酸性基を有する付加重合性化合物、親水性基を有する付加重合性化合物以外の付加重合性化合物(以下、「他の付加重合性化合物」という)を含有していてもよい。上記「他の付加重合性化合物」は、酸性基またはそのエステル基を有さず、かつ重合不飽和結合、特に重合性二重結合を1分子あたり1個有する化合物である。例えば、スチレン、ビニルシクロヘキサン等を挙げることができる。上記「他の付加重合性化合物」の含有量は、下地組成物全量に対して50重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがより好ましい。
【0081】
上記下地組成物には、さらに有機溶剤を含有させてもよい。有機溶剤を含有させることによって、基板またはフィルムへの塗布性が向上する。有機溶剤としては特に限定されるものではないが、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノン、酢酸ブチル等を用いることができる。有機溶剤の含有量は下地組成物全量に対して80重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがより好ましい。
【0082】
上記下地組成物を塗布するための基板またはフィルムは、ハーフミラーの透過性を十分に発揮するため透明である必要があるが、透明である限り特に限定されず、任意のものが使用可能である。つまり、上記下地組成物は、紫外線等を用いて硬化させることができ、かつ、本発明のハーフミラー製造方法においては、すべての工程を低温プロセス(40〜50℃)でおこなうことが可能であり、スパッタリングや熱転写のように基板に熱やエネルギーを加える必要はないので、耐熱性の低い基板またはフィルムにも十分適用可能だからである。
【0083】
上記透明基板または透明フィルムとしては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレートもしくはエポキシ樹脂からなる基板またはフィルム、ガラス基板、石英基板、ホウ珪酸ガラス基板等が挙げられる。
【0084】
なお、上記「透明」とは全透過率が20%以上であることをいう。
【0085】
上記下地組成物を、基板またはフィルム上に塗布する方法としては、特に限定されるものではなく、任意の塗布方法を用いることができる。例えば、印刷、インプリント法、スピンコート、スプレーコート、浸漬等の方法を挙げることができる。
【0086】
特に、上記有機膜上に凹凸を利用したデザインを付与したい場合、本発明の有機膜形成工程において、上記下地組成物を、印刷またはインプリント法を用いて透明基板または透明フィルム上に塗布することが好ましい。印刷またはインプリント法によって下地組成物を塗布した後、重合させることにより、有機膜に凹凸を利用した文字や絵などのデザインを自由に付することができる。また、後述する金属塩生成工程、金属固定工程、還元工程によって当該有機膜表面に金属膜を形成することができるため、ハーフミラー表面に印字する方法(特許文献1)とは異なり、摩擦によってデザインが剥がれたりすることはない。
【0087】
また、本発明にかかる方法によれば、上記金属膜を曲面にも容易に形成することができる。よって、平面状の基板に対してだけでなく、任意の形状の基板上に、任意のデザインを持ち、かつ、当該デザインが剥離しないハーフミラーを形成することができる。
【0088】
上記下地組成物を塗布することにより、所望の絵または文字等のデザインの付与が容易になる。
【0089】
ここで、印刷とは、特に限定されるものではないが、インクジェット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷であることが好ましい。インクジェット印刷とは、細いノズルからインクの微小液滴を、電気信号により制御しながら噴出させ、文字・図形などを印刷する方法をいう。他の印刷と異なり、予め刷版を作成する必要がなく、印刷が容易である。
【0090】
また、スクリーン印刷とは孔版印刷の一種で、枠に合成繊維・ステンレス線などでできた紗を張った版に微細な孔を開け、そこからインクを押し出し印刷する方法をいう。厚膜印刷(10〜30μm)が可能で、印刷物に立体感を表現することができる。また、被印刷物の素材及び形状に限定が少なく、幅広い印刷が可能である。
【0091】
また、グラビア印刷とは、凹版印刷の一種で、版面に網目状のくぼみがあり、その深さによってインク層の厚薄を作り、これを被印刷物に転写して写真・絵画などの階調を再現する印刷方法である。微細な濃淡が表現できるので写真画像の印刷に適している。また、輪転式による高速・大量印刷に適している。
【0092】
また、インプリント法とは、金型(以下「スタンパ」ともいう)に刻み込んだ寸法が数十nm〜数百μmの凹凸を、基板上に塗布した樹脂材料に押し付けて形状を転写する方法をいう。
【0093】
なお、フォトリソグラフィー法によって所望のパターンが形成されたハーフミラーを得ることももちろん可能である。例えば、マスクを用いて紫外線照射により上記下地組成物を重合させ、その後未反応モノマー領域を除去することによって、マスクに対応するパターン形状を有する有機膜を形成可能である。そして、得られた有機膜を後述の工程に供することにより、三次元のパターン形状を有するハーフミラーを形成することができる。なお、未反応モノマー領域は、塩酸、硝酸、硫酸等の強酸によって除去することができる。
【0094】
これらの塗布方法は、1種類のみ用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0095】
また、例えば、下地組成物を重合して得られた有機膜にハードコート樹脂等を文字や絵などの所望の形状となるように塗布し、後述する金属塩生成工程、金属固定工程、還元工程に供することによっても、ハーフミラーに文字や絵などを付与し、かつ、デザインが摩擦によって剥がれないようにすることが可能である。
【0096】
下地組成物の塗布厚としては特に限定されるものではなく、例えば、重合後において有機膜の厚みが後述の範囲内となるような範囲が適当である。
【0097】
重合は、例えば、重合開始剤、あるいは放射線や電子線、紫外線、電磁線などの活性化エネルギー線などを用いて行うことができる。例えば、光重合開始剤を使用している場合は、当該光重合開始剤が吸収することによってラジカルを生成できる波長の光、例えば紫外線を、基板またはフィルムの塗布面側から照射するとよい。
【0098】
また、例えば、熱重合開始剤を使用する場合には、当該熱重合開始剤が分解してラジカルを生成できる温度、例えば50〜150℃まで加熱する。
【0099】
上記重合によって、透明基板または透明フィルム上に有機膜が形成される。得られる有機膜の厚みは、本発明の目的が達成される限り特に制限されるものではなく、例えば0.1〜1000μm、特に10〜500μmが好適である。
【0100】
(1−2.金属塩生成工程)
金属塩生成工程は、上記有機膜を、金属(M1)イオンを含有する水溶液で処理することによって、上記酸性基を金属(M1)塩にする工程である。上記処理は、例えば、金属(M1)イオンを含有する水溶液に、有機膜を形成した基板またはフィルムを浸漬することや、金属(M1)イオンを含有する水溶液を、有機膜を形成した基板またはフィルムに塗布すること等によって容易に実施可能である。
【0101】
金属(M1)イオンは、後述する金属固定工程において金属膜形成用の金属(M2)イオンとカチオン交換可能な金属イオンである。すなわち、金属(M1)イオンは、金属(M2)イオンよりもイオン化傾向が高い金属イオンである。金属(M1)イオンは、金属(M2)イオンとカチオン交換可能な金属イオンであれば特に限定されるものではない。例えば、アルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンを挙げることができる。中でも、上記カチオン交換の容易さの観点から、金属(M1)イオンは、アルカリ金属イオンであることが好ましく、カリウムイオンまたはナトリウムイオンであることがより好ましい。
【0102】
なお、本明細書において、「イオン化傾向」とは、金属が水と接するとき金属イオン(陽イオン)になる傾向のことであり、金属イオンのイオン化傾向の高さは、金属から当該金属イオンになる傾向の高さに基づくものである。
【0103】
金属(M1)イオンを含有する水溶液としては、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水溶液が挙げられる。そのような水溶液における金属(M1)イオンの濃度は、酸性基の金属塩が生成する限り特に制限されないが、本発明においては0.1〜5M、好ましくは0.5〜2.5Mのような比較的低濃度であっても効率よく酸性基の金属塩を生成することができる。なお、本発明は2種類以上の金属(M1)イオンを使用することを妨げるものではなく、その場合には金属(M1)イオンの合計濃度が0.1〜5Mであることが好ましく、0.5〜2.5Mであることがより好ましい。
【0104】
上記有機膜を、金属(M1)イオンを含有する水溶液で処理することによって、有機膜が有する酸性基の水素イオンが金属(M1)イオンに置換される。具体的には、有機膜が有する例えば、−SOHのような酸性基の水素イオンは直接的に金属(M1)イオンに置換され、例えば−SOM1のような酸性基金属塩が生成する。なお、M1は金属(M1)イオンの金属原子を示す(以下、同様とする)。
【0105】
処理条件は酸性基の金属塩が生成する限り特に制限されるものではなく、処理温度は通常は0〜80℃、好ましくは20〜50℃である。処理時間(浸漬時間)は、通常は1〜30分間、好ましくは5〜15分間である。
【0106】
上記酸性基を有する付加重合性化合物がエステル基を有している場合も、上述の場合と同様に、上記有機膜を金属(M1)イオンを含有する水溶液で処理することによって、上記酸性基を金属(M1)塩にすることができる。また、有機膜を酸水溶液で処理することによってエステル結合を加水分解し、酸性基を生成後、当該酸性基を金属(M1)イオンを含有する水溶液で処理することによって、上記酸性基を金属(M1)塩にすることも可能である。
【0107】
上記「酸水溶液」としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸または酢酸などの水溶液を使用でき、酸水溶液での処理は、例えば、酸水溶液に、有機膜が形成された基板またはフィルムを浸漬することによって容易に実施可能である。酸の濃度は、例えば、0.1〜10M、好ましくは0.5〜5Mである。処理温度は、例えば、0〜80℃、好ましくは20〜50℃である。酸水溶液への処理時間(浸漬時間)は例えば1〜30分間、好ましくは5〜15分間である。
【0108】
(1−3.金属固定工程)
金属固定工程は、上記金属(M1)イオンを含有する水溶液で処理した有機膜を、上記金属(M1)イオンよりもイオン化傾向の低い金属(M2)イオンを含有する金属(M2)イオン水溶液で処理することによって、上記酸性基の金属(M1)塩を、金属(M2)塩とする工程である。
【0109】
金属固定工程は、例えば、金属(M2)イオンを含有する金属(M2)イオン水溶液に、上記金属(M1)イオンを含有する水溶液で処理した有機膜が形成された基板またはフィルムを浸漬することや、金属(M2)イオンを含有する金属(M2)イオン水溶液を上記金属(M1)イオンを含有する水溶液で処理した有機膜が形成された基板またはフィルムに塗布することによって容易に実施可能である。
【0110】
金属(M2)イオンは、金属(M1)イオンよりもイオン化傾向が低いので、有機膜が有する酸性基の金属(M1)塩は、容易に金属(M2)イオンとカチオン交換され、有機膜に金属(M2)イオンが導入・固定される。
【0111】
金属(M2)としては、上記カチオン交換が可能な金属であれば特に限定されないが、スズ、ニッケル、インジウム、金、パラジウム、または銀が好ましい。これらの金属は、1種類のみ用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0112】
本発明に係る製造方法は、上述のようにバルキー構造を有する3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物と、金属イオン担持性に優れる酸性基を有する付加重合性化合物と、親水性基を有する付加重合性化合物と、を含有する下地組成物を用いるものであるため、様々な種類の金属を良好に成膜することができる。よって、それぞれの金属特有の色を活かした様々な外観を呈するハーフミラーを提供することができる。
【0113】
さらに、触媒を用いることなく、ダイレクトに金属膜を製造することができる。
【0114】
金属(M2)イオン水溶液としては、特に限定されるものではないが、例えば塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、硫化スズ(II),酢酸スズ(II及びIV)、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、酢酸ニッケル、塩化インジウム、硝酸インジウム、酢酸インジウム、硫酸インジウム、塩化金(III)、塩化金(I)、塩化金酸、酢酸金、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、硝酸パラジウム(II)、硫酸パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、硝酸銀、酢酸銀、炭酸銀、塩化銀等の水溶液を挙げることができる。
【0115】
上記水溶液における金属(M2)イオンの濃度は、カチオン交換が達成される限り特に限定されるものではないが、例えば、5〜500mMであることが好ましく、30〜250mMであることが特に好ましい。また、本発明は2種類以上の金属(M2)イオンを使用することを妨げるものではなく、2種類以上の金属(M2)イオンを使用する場合には、金属(M2)イオンの合計濃度が5〜500mMであることが好ましく、30〜250mMであることが特に好ましい。
【0116】
処理温度は、カチオン交換が達成される限り特に限定されるものではないが、例えば0〜80℃、好ましくは20〜50℃である。処理時間(浸漬時間)は、カチオン交換が達成される限り特に限定されるものではないが、例えば1〜30分間、好ましくは5〜15分間である。
【0117】
(1−4.還元工程)
還元工程は、上記金属(M2)イオンを還元して上記有機膜表面に金属膜を形成する工程である。すなわち、金属固定工程で有機膜に導入された金属(M2)イオンを還元することによって、当該イオンの金属原子を有機膜表面に析出させ、所定の金属膜を形成する工程である。
【0118】
還元方法としては、例えば、(1)アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、クエン酸、クエン酸ナトリウム、タンニン酸、ジボラン、ヒドラジン、ホルムアルデヒド(2)(1)の化合物の誘導体、および(3)亜硫酸塩、次亜リン酸塩からなる群より選ばれる1以上の還元剤、並びに/または、紫外線、熱、プラズマ、および水素からなる群より選ばれる1以上の還元手段を用いて行う方法等を挙げることができる。
【0119】
上記誘導体としては、特に限定されるものではない。また、上記(3)亜硫酸塩、次亜リン酸塩は特に限定されるものではない。
【0120】
例えば還元剤を用いる方法においては、有機膜表面を還元剤と接触させることにより、上記金属(M2)イオンを還元することができる。還元剤は通常、水溶液の形態で使用され、還元剤の水溶液に、有機膜を有する基板またはフィルムを浸漬することによって還元を容易に達成することができる。
【0121】
還元剤水溶液における還元剤の濃度は特に限定されるものではないが、還元剤の濃度が低すぎる場合には、還元反応の速度が遅くなりすぎる傾向があり、還元剤濃度が高すぎる場合には析出した金属の脱落が生じる場合があって好ましくない。
【0122】
したがって、還元剤の濃度は1〜500mMであることが好ましく、5〜100mMであることがより好ましい。還元時の処理温度は特に限定されるものではないが、例えば還元剤の水溶液の温度が0〜80℃であることが好ましく、20〜50℃であることがより好ましい。また、処理時間(浸漬時間)は特に限定されるものではないが、例えば、1〜30分間であることが好ましく、5〜15分間であることがより好ましい。
【0123】
また、紫外線を用いて還元を行う方法においては、有機膜表面に対して紫外線を照射すればよい。例えば、セン特殊光源株式会社製UV照射装置PL16−110を用いる場合は、照射時間を10〜150分間、特に60〜90分間とすることが好ましい。そのような方法によって還元を行う場合は、マスクを用いて紫外線照射することによって、マスクに対応するパターン形状を有する金属膜を形成することができる。したがって、比較的複雑な金属パターンであっても、簡便に形成可能である。パターン部以外の領域は、例えば、1%硝酸水溶液等に浸漬することによって除去できる。
【0124】
熱(加温)による還元方法においては、ホットプレート、オーブンなどの加熱可能な装置を用いて金属(M2)イオンを還元すればよい。加温温度は150〜300℃、加温時間は5〜60分間とすることが好ましい。
【0125】
上記還元工程においては、上記(1)〜(3)からなる群より選ばれる1以上の還元剤と、紫外線、熱、プラズマ、および水素からなる群より選ばれる1以上の還元手段とを併用して還元を行ってもよい。
【0126】
還元を完了した後は、基板またはフィルムを通常洗浄し、乾燥する。洗浄は水洗であってもよいが、余分な金属イオンを確実に除去するため、還元剤を使用した場合は、硫酸水溶液により洗浄することが好ましい。乾燥は室温での放置によって達成してもよいが、得られた金属膜の酸化を防止する観点から、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。また、本発明において上記した各工程または処理間では、基板またはフィルムの水洗を行うことが好ましい。
【0127】
以上のような工程を経て、本発明に係る製造方法によって得られる金属膜の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば10〜500nm、特に20〜200nmの範囲内で制御可能である。なお、金属膜の厚みは、例えばKOH濃度、温度、時間の他、金属イオン濃度、温度、時間、および還元剤濃度、温度、時間などを変えることによって、制御することが可能であり、断面観察、例えばTEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)によって測定可能である。
【0128】
本発明に係る製造方法は、下地組成物がバルキー構造および優れたイオン担持性を有すること、金属(M1)イオンと金属(M2)イオンとのカチオン交換性に優れること、固定された金属(M2)イオンの溶出を防ぐことができること等から、スズ、ニッケル、インジウム、金、パラジウム、銀等の種々の金属について、金属イオンを有機膜に十分に固定することができ、その結果、様々な外観を呈するハーフミラーを製造することができる。
【0129】
〔2.ハーフミラー〕
本発明に係るハーフミラーは、透明基板または透明フィルム上に形成された有機膜上に、粒子径が10〜100nmの金属粒子が規則正しく並んで形成される金属粒子膜を含むことを特徴としている。上記金属粒子の粒子径は、10〜100nmであることが好ましく、20〜80nmであることが特に好ましい。金属粒子の粒子径が10〜100nmの範囲であれば、表面に凹凸やうねりがなく、均一で、より外観に優れたハーフミラーを提供することができる。
【0130】
上記「有機膜」とは、上記〔1.ハーフミラーの製造方法〕に詳細を記載した、3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物と、酸性基を有する付加重合性化合物と、親水性官能基を有する付加重合性化合物と、を含有する下地組成物を、透明基板または透明フィルム上に塗布し、重合して得られた有機膜のことをいう。
【0131】
上記金属粒子の粒子径は、例えば走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)や透過型電子顕微鏡(transmission electron microscope:TEM)によって確認することができる。
【0132】
走査型電子顕微鏡を用いて上記金属粒子を確認した場合、粒子を立体的な3次元画像として捉えることができる。一方、透過型電子顕微鏡を用いて上記金属粒子を確認した場合、粒子を平面的な2次元画像として捉えることができる。
【0133】
従って、本明細書中で述べられる上記「粒子径」とは、例えば走査型電子顕微鏡を用いる場合のように3次元画像に基づいて測定する場合は、金属粒子を球に内接させたと仮定した場合の、当該球の直径の長さであると定義することができ、また、例えば透過型電子顕微鏡を用いる場合のように2次元画像に基づいて測定する場合は、金属粒子を円に内接させたと仮定した場合の、当該円の直径の長さであると定義することができる。
【0134】
走査型電子顕微鏡を用いて上記金属粒子を確認した場合、上記「球の直径の長さ」は、内部スケールとの比較によって測定を行うことができる。また、透過型電子顕微鏡を用いて上記金属粒子を確認した場合、上記「円の直径の長さ」も同様に内部スケールとの比較によって測定することができる。
【0135】
また、上記金属粒子としては、特に限定されないが、スズ、ニッケル、インジウム、金、パラジウム、または銀が好ましい。これらの金属は、1種類のみ用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0136】
さらに、本発明に係るハーフミラーの反りは、特に限定されるものではないが、20μm以下であることが好ましい。ハーフミラーの反りが20μm以下であれば、より外観に優れたハーフミラーとすることができる。
【0137】
ここで、上記「ハーフミラーの反り」とは、ハーフミラーの製造工程の間に発生した基板の反りをいい、以下の計算式(1)により求められる。
ハーフミラーの反り(μm)=(製造後のハーフミラーの反り量)−(製造前の基板の反り量)・・・(1)
つまり、上記「ハーフミラーの反り」とは、ハーフミラーを製造する前の透明基板または透明フィルムのx−z断面における、上記透明基板または透明フィルムの両端部を結ぶ直線から上記透明基板または透明フィルムまでの最大の距離と、上記ハーフミラーのx−z断面における、上記ハーフミラーの両端部を結ぶ直線から上記ハーフミラーまでの最大の距離と、の差のことである。
【0138】
次に、上記「ハーフミラーの反り」について、図1を参照しながら説明する。図1は、ハーフミラーの反り量の定義を示す図である。なお、図1において、1は、ハーフミラーを表し、2は、上記ハーフミラーの両端部を結ぶ直線から上記ハーフミラーまでの最大の距離を示す。すなわち、上記「距離」とは、上記透明基板または透明フィルムの両端部を結ぶ直線からz軸方向に透明基板もしくは透明フィルムに対して引いた垂線の長さ、または、上記ハーフミラーの両端部を結ぶ直線からz軸方向にハーフミラーに対して引いた垂線の長さを言う。
【0139】
図1に示されるように、計算式(1)における「製造後のハーフミラーの反り量」は、例えば、x−z断面におけるハーフミラーの両端部を結ぶ直線(ab)の長さが50mmになるように測定領域を設定し、以下の計算式(2)に従って、当該測定領域における直線(ab)から上記ハーフミラーまでの最大の距離を計算することによって求めることができる。
製造後のハーフミラーの反り量(μm)=z座標の最大値(d)−z座標の最小値(c)・・・(2)
製造前の基板の反り量も同様の方法で求めることができる。
【0140】
なお、上記「製造後のハーフミラー」とは金属(M2)イオンを還元して有機膜表面に金属膜を形成する還元工程後のハーフミラーのことをいい、上記「製造前の基板」とは有機膜を形成するための下地組成物を塗布する前の透明基板または透明フィルムのことをいう。
【0141】
本発明に係るハーフミラーの全透過率は、10〜80%であることが好ましく、30〜70%であることが特に好ましい。
【0142】
ここで、ハーフミラーの全透過率とは、全入射光の強度に対する透過光の強度の割合をいう。全透過率は、ヘイズメーターを用いて測定することができる。
【0143】
本発明に係る製造方法によって製造されたハーフミラーは、液晶等の各種表示パネルをはじめとする各種電子部品、携帯電話、時計、カメラ、ゲーム機器、オーディオ、ビデオデッキ、DVDデッキ、HDDデッキ、カーナビゲーション、パーソナルコンピューター、テレビ、洗濯機、電子レンジ、健康機器等の電子機器に用いることが可能である。
【0144】
なお、本発明は以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0145】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0146】
〔比較例のハーフミラーの製造〕
比較例のハーフミラーは、従来公知の方法である熱転写法により作製した。まず、ポリエステルフィルム上に蒸着法により厚さ50nmのSn膜を形成し、金属転写フィルムとした。その後、厚さ2mmのポリメタクリル酸メチル(PMMA)基板に上記金属転写フィルムを合わせ、130℃で熱転写を行い、Sn膜をPMMA基板上に転写した。さらにその後、85℃で10分間エージングを行うことで、PMMA基板表面にSn膜を形成した。
【0147】
<実施例1:外観に優れたハーフミラーの製造>
〔実施例1のハーフミラーの製造〕
実施例1のハーフミラーは、下記の工程1および2により作製した。
【0148】
(工程1:下地組成物の調製とUV硬化樹脂膜の形成)
【0149】
【表1】

【0150】
下地組成物として、表1に示す化合物を合計100重量%となるように混合した薬液を調製し、PMMA基板上に当該薬液をスピンコート法により塗布した。その後、高圧水銀ランプ(セン特殊光源株式会社製、PL16−110)を用いて、上記PMMA基板に20mW/cmにおいて5分間、紫外線(UV)を照射し、膜厚(F.T.)50μmのUV硬化樹脂膜を形成した。
【0151】
ラジカル重合開始剤としては、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(商品名:ルシリンTPO、BASF社製)を用い、酸性基を有する付加重合性化合物としては、フタル酸アクリレート(商品名:HOA−MPL、共栄社化学株式会社製)を用い、3つ以上の官能基を有する付加重合性化合物としては、ペンタエリスルトールトリアクリレート(商品名:PE−3A、共栄社化学株式会社製)を用い、親水性官能基を有する付加重合性化合物としては、エチレングリコールジアクリレート(商品名:4EG−A、共栄社化学株式会社製)を用いた。
【0152】
(工程2:金属膜の形成)
上記工程1で形成されたUV硬化樹脂膜を下記の工程に供することによって、樹脂表面に金属光沢を示すSn膜を得た。
(1)40℃、2.5Mの水酸化カリウム水溶液に浸漬し、10分間保持する。
(2)蒸留水中で十分に洗浄する。
(3)室温にて50mMのSnCl水溶液に浸漬し、10分間保持する。
(4)蒸留水中で十分に洗浄する。
(5)室温にて100mMの水素化ホウ素ナトリウム水溶液に浸漬し、10分間保持して金属イオンを還元する。
(6)蒸留水中で十分に洗浄する。
(7)窒素雰囲気下で乾燥する。
【0153】
〔結果1:ハーフミラーの反りの測定〕
上記〔2.ハーフミラー〕に詳細を記載したように、上記「ハーフミラーの反り」とは、図1を参照しながら説明すると、ハーフミラーを製造する前の透明基板または透明フィルムのx−z断面における、上記透明基板または透明フィルムの両端部を結ぶ直線から上記透明基板または透明フィルムまでの最大の距離と、上記ハーフミラーのx−z断面における、上記ハーフミラーの両端部を結ぶ直線から上記ハーフミラーまでの最大の距離と、の差として求めることができる。そこで、東京精密社製のSURFCOMを用い、実施例1および比較例で作製したハーフミラーにおける上記「最大の距離」を下記条件下において測定した。測定は3回行った。
・T−スピード:3.0mm/s
・LENGTH:50.0mm
・カットオフ値:0.8mm
・V−MAG:100、H−MAG:1
・TILT COR FLAT−ML
・POLARITY POSITIVE
上記「最大の距離」の測定値から計算式(1)を用いて得られた結果を表2に示す。
【0154】
【表2】

【0155】
比較例で作製したハーフミラーの反りは、平均437.1μmであった。これに対して、実施例1で作製したハーフミラーの反りは、平均11.8μmであり、本発明にかかる方法によって製造したハーフミラーには「反り」はほとんどないことが明らかになった。
【0156】
〔結果2:ハーフミラーの外観の比較〕
デジタルカメラを用いて、ハーフミラーの表面を4倍に拡大して撮影した。比較例で作製したハーフミラーの外観写真を図2に、実施例1で作製したハーフミラーの外観写真を図3に示す。
【0157】
熱転写法により形成された比較例で作製したハーフミラーでは、表面にうねり及びピンホールが見られた。さらに、図2に示すように、ハーフミラー表面に上下に伸びるスジが発生しており、外観が損なわれていた。一方、本発明のハーフミラーでは、図3に示すように、表面にうねり及びピンホール等は見られなかった。
【0158】
さらに、金属顕微鏡(NIKON社製、BX60M)を用い、ハーフミラーの表面を明視野で50倍に拡大して撮影した。比較例で作製したハーフミラーの外観写真を図4に、実施例1で作製したハーフミラーの外観写真を図5に示す。
【0159】
熱転写法によって形成された比較例のハーフミラーでは、表面に微細な凹凸やうねりが見られるのに対し、本発明の実施例1で作製したハーフミラーでは、表面に微細な凹凸やうねりが無く、金属粒子が整然と並んだ均一な外観であることが分かった。
【0160】
なお、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、S−4700)を用い、内部スケールの長さを基準として上記金属粒子の粒子径を測定したところ、図5に示す金属粒子の粒子径は30〜60nmであった。
【0161】
〔結果3:ハーフミラーの全透過率の測定〕
ヘイズメーター(日本電飾工業株式会社製、NDH-5000)を用いて、ハーフミラーの全透過率を測定した。比較例で作製したハーフミラーの全透過率は28%であり、実施例1で作製したハーフミラーの全透過率は30%であった。従来公知の方法である熱転写法により作製した比較例のハーフミラーと同様に、ハーフミラーとしての機能を有することが分かった。
【0162】
<実施例2:文字や絵の模様を有するハーフミラーの作製>
実施例1の工程1において、下地組成物の混合薬液をPMMA基板上に塗布した後に、インプリント法を用いて、塗布面を図6に示すスタンパと合わせてから、UVを照射することによりUV硬化樹脂を硬化させ、UV硬化樹脂上にデザインを転写した以外は、実施例1の工程1及び2と同様の処理を行うことにより、表面に「OMRON」ロゴを有するハーフミラーを作製した。作製したハーフミラーのデジタルカメラ写真を図7に示す。なお、図6に記載されている数値の単位はmmである。
【0163】
図7に示すように、平坦部と凹凸部とを組み合わせて文字を形成したスタンパを用いるだけで、容易にハーフミラーに文字をデザインすることができた。ハーフミラー表面にインクを印字する特許文献1に記載の従来方法では、指で擦る等の摩擦によりインクが剥離するという欠点があった。これに対し、実施例2の方法で付与された文字は有機膜上の凹凸により表現され、当該有機膜表面には金属膜が形成されているので、摩擦により剥離して外観を損ねることはなく、デザイン性に優れ、かつデザインが剥離しないハーフミラーを容易に作製することができた。
【0164】
また、実施例1と同様の方法を用いて、実施例2で作製したハーフミラーの全透過率を測定した。当該ハーフミラーの全透過率は30%であり、デザインを付与した場合もハーフミラーとしての機能を有することが分かった。
【0165】
<実施例3:複合金属を含むハーフミラーの製造>
実施例1の工程2中(3)に記載の50mMのSnCl水溶液を50mMSnClと50mMNiClとを含む水溶液にした以外は、実施例1の工程1及び工程2と同様の処理を行い、SnおよびNiの2種類の金属からなる金属粒子膜を含むハーフミラーを作製した。作製したハーフミラーは、SnまたはNiのみの単一金属からなる金属粒子膜を含むハーフミラーの外観と比較して濃く、深みがあり、高級感のある金属色を呈した。本発明のハーフミラー製造方法により、単一金属のみでは表現することができなかった多様な金属色を有するハーフミラーを容易に製造することができた。
【0166】
また、実施例1と同様の方法を用いて、実施例3で作製したハーフミラーの全透過率を測定した。当該ハーフミラーの全透過率は25%であり、複数の金属からなる金属粒子膜を含む場合もハーフミラーとしての機能を有することが分かった。
【0167】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0168】
以上のように、本発明により、従来品に比べて反りが少なく、基板の選択性およびデザイン性に優れたハーフミラーを容易かつ安価に製造できる方法が実現されたことで、各種電子機器の表示板、ディスプレイパネル、およびラベル等に本発明のハーフミラーを用いることができ、各種電子機器産業において幅広く利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】ハーフミラーの反り量の定義を表す概念図である。
【図2】比較例で熱転写法によって作製されたハーフミラーの外観を示すデジタルカメラ写真である。
【図3】実施例1で作製されたハーフミラーの外観を示すデジタルカメラ写真である。
【図4】比較例で熱転写法によって形成されたハーフミラーの外観を示す金属顕微鏡写真である。
【図5】実施例1で作製されたハーフミラーの外観を示す金属顕微鏡写真である。
【図6】実施例2で用いたスタンパの概略図である。
【図7】実施例2で作製された模様のあるハーフミラーの外観を示すデジタルカメラ写真である。
【符号の説明】
【0170】
1 ハーフミラー
2 最大の距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物と、酸性基を有する付加重合性化合物と、親水性官能基を有する付加重合性化合物と、を含有する下地組成物を、透明基板または透明フィルム上に塗布し、重合して、有機膜を形成する有機膜形成工程と、
上記有機膜を、金属(M1)イオンを含有する水溶液で処理することによって、上記酸性基を金属(M1)塩にする金属塩生成工程と、
上記金属(M1)イオンを含有する水溶液で処理した有機膜を、上記金属(M1)イオンよりもイオン化傾向の低い金属(M2)イオンを含有する金属(M2)イオン水溶液で処理することによって、上記酸性基の金属(M1)塩を、金属(M2)塩とする金属固定工程と、
上記金属(M2)イオンを還元して上記有機膜の表面に金属膜を形成する還元工程と、を含むことを特徴とする、ハーフミラーの製造方法。
【請求項2】
上記塗布を印刷またはインプリント法によって行うことにより、上記有機膜に凹凸を付与することを特徴とする、請求項1に記載のハーフミラーの製造方法。
【請求項3】
上記酸性基が、カルボキシル基、スルホン酸基、フェノール基、安息香酸基、フタル酸基、サリチル酸基、アセチルサリチル酸基およびベンゼンスルホン酸基からなる群より選ばれる官能基を含むことを特徴とする、請求項1に記載のハーフミラーの製造方法。
【請求項4】
上記3つ以上の反応基を有する付加重合性化合物の反応基が、アクリロイル基および/またはメタクリロイル基を含むことを特徴とする、請求項1に記載のハーフミラーの製造方法。
【請求項5】
上記親水性官能基が、エチレンオキシド基および/またはプロピレンオキシド基を含むことを特徴とする、請求項1に記載のハーフミラーの製造方法。
【請求項6】
上記金属(M1)が、カリウムまたはナトリウムであることを特徴とする、請求項1に記載のハーフミラーの製造方法。
【請求項7】
上記金属(M2)が、スズ、ニッケル、インジウム、金、パラジウム、および銀からなる群より選ばれる1種類または2種類以上の金属であることを特徴とする、請求項1に記載のハーフミラーの製造方法。
【請求項8】
上記還元工程では、上記金属(M2)イオンの還元を、
(1)アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、クエン酸、クエン酸ナトリウム、タンニン酸、ジボラン、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、
(2)(1)の化合物の誘導体、および
(3)亜硫酸塩、次亜リン酸塩
からなる群より選ばれる1以上の還元剤、並びに/または、
紫外線、熱、プラズマ、および水素からなる群より選ばれる1以上の還元手段、を用いて行うことを特徴とする、請求項1に記載のハーフミラーの製造方法。
【請求項9】
透明基板または透明フィルム上に、有機膜が形成され、当該有機膜上に粒子径が10〜100nmの金属粒子からなる金属膜が形成されてなることを特徴とするハーフミラー。
【請求項10】
上記金属粒子は、スズ、ニッケル、インジウム、金、パラジウム、および銀からなる群より選ばれる1種類または2種類以上の金属の粒子であることを特徴とする請求項9に記載のハーフミラー。
【請求項11】
ハーフミラーを製造する前の透明基板または透明フィルムのx−z断面における、上記透明基板または透明フィルムの両端部を結ぶ直線から上記透明基板または透明フィルムまでの最大の距離と、
上記ハーフミラーのx−z断面における、上記ハーフミラーの両端部を結ぶ直線から上記ハーフミラーまでの最大の距離と、の差が20μm以下であることを特徴とする、請求項9に記載のハーフミラー。
【請求項12】
請求項1に記載のハーフミラーの製造方法によって製造されたことを特徴とするハーフミラー。
【請求項13】
全透過率が10〜80%であることを特徴とする、請求項9または12に記載のハーフミラー。
【請求項14】
請求項9または12に記載のハーフミラーを備えることを特徴とする電子部品及び電子機器。

【図1】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−77507(P2010−77507A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248738(P2008−248738)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】