説明

バイオガスシステム

【課題】消化液中のアンモニア成分を無触媒で酸化処理し、低コストで処理できるバイオガスシステムを提供すること。
【解決手段】バイオマスを50℃以上の温度でメタン発酵するメタン発酵槽1と、該メタン発酵槽1から排出される消化液を導入して含有するアンモニアを放散するアンモニア放散塔4と、該アンモニア放散塔4から放散されるアンモニアを助燃剤を用いて酸化処理するアンモニア処理装置5とを有することを特徴とするバイオガスシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオガスシステムに関し、詳しくは、メタン発酵槽から排出される消化液をアンモニア放散処理した後、酸化処理して消化液のアンモニアを有効に処理するバイオガスシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスなどの有機性廃棄物をメタン発酵して得られるバイオガスは、燃焼熱を利用して発電やボイラなどに用いられ、リサイクルバイオエネルギー資源として注目されている。
【0003】
バイオマスには、タンパク質などが含まれているので、それらの分解に伴って多量のアンモニアが生成される。従って、メタン発酵に伴って発生する消化液には多量のアンモニアが含まれ、これらの消化液を農地還元する場合には窒素過多となる。植物の場合は、窒素過多になると、作物は軟弱になり、病気や徒長といった弊害が頻発するようになる問題がある。このメカニズムは、窒素が吸収され、アミノ酸になり、蛋白質がたくさん生産され、それらは菌や虫(害)が好むので、つきやすくなること、植物体が摂取した炭水化物がアンモニアとの反応に使われて、細胞壁(主にセルロースなどの多糖類)が薄くなり、外部からの刺激に弱くなるためと推定される。また海洋や河川に放流すると、富栄養化の問題を引き起こす。
【0004】
このため消化液中のアンモニアを除去するための何らかの処理が必要となる。従来、消化液中のアンモニアの除去法として、生物的な硝化脱窒法が一般的に知られている。この方法は、有機物を分解すると共に窒素成分を窒素ガスとして除去しようとするプロセスで、優れた手法である。しかし、有機物はメタン発酵槽で必要な栄養源であるので、再利用したい成分であるので、アンモニアだけを処理したいという要請を満足できない欠点がある。
【0005】
一方、消化液中のアンモニアだけを選択的に除去する手法として、電気透析膜を利用した膜処理(特許文献1)や、アンモニアストリッピング(特許文献2)などが知られている。
【0006】
アンモニアは通常、触媒のもとで150℃以上で接触酸化を受け、また気相中では600℃程度で分解する。したがって接触酸化法はプロセス的に運転が容易である。特許文献3には、アンモニア分解用触媒を用いて、比較的低温で窒素と水に選択的且つ効率良く分解する手法が開示され、また特許文献4には、アンモニア分解槽で、アンモニア発散槽から送られたアンモニアガスを加熱し、第一段階として300〜450℃で触媒により窒素酸化物にして、第二段階として600〜700℃でチタン系触媒により窒素ガスまで還元させて大気に放出する手法が開示されている。
【特許文献1】特開2007−44579号公報
【特許文献2】特開2003−088833号公報
【特許文献3】特開2001−9281号公報
【特許文献4】特開2004−160406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3、4のような触媒を用いたアンモニア分解法では、分解が優れている反面、コスト高となる問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、消化液中のアンモニア成分を無触媒で酸化処理し、低コストで処理できるバイオガスシステムを提供することを課題とする。
【0009】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0011】
(請求項1)
バイオマスを50℃以上の温度でメタン発酵するメタン発酵槽と、該メタン発酵槽から排出される消化液を導入して含有するアンモニアを放散するアンモニア放散塔と、該アンモニア放散塔から放散されるアンモニアを助燃剤を用いて酸化処理するアンモニア処理装置とを有することを特徴とするバイオガスシステム。
【0012】
(請求項2)
助燃剤が、バイオガスであることを特徴とする請求項1記載のバイオガスシステム。
【0013】
(請求項3)
メタン発酵槽内の温度が、60℃以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のバイオガスシステム。
【0014】
(請求項4)
アンモニア処理装置の生成物が、窒素ガスであることを特徴とする請求項1、2又は3記載のバイオガスシステム。
【0015】
(請求項5)
アンモニア処理装置が、装置本体と、該装置本体内に充填された充填材と、該装置本体下部からアンモニアガスを供給するアンモニア供給管と、助燃材を供給する助燃材供給管と、助燃材を燃焼する点火装置とを備え、
該装置本体内で、アンモニアガスを150℃以上800℃以下の温度で酸化処理することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のバイオガスシステム。
【0016】
(請求項6)
装置本体内に充填された充填材が、2段に構成されることを特徴とする請求項5記載のバイオガスシステム。
【0017】
(請求項7)
装置本体内に充填された充填材が、金属製の金網、粒状物、磁性の粒状物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5又は6記載のバイオガスシステム。アンモニア処理装置が、装置本体と、該装置本体内に充填された充填材と、該装置本体下部からアンモニアガスを供給するアンモニア供給管と、助燃材を供給する助燃材供給管と、助燃材を燃焼する点火装置とを備え、
【0018】
(請求項8)
メタン発酵槽とアンモニア放散塔との間に、該メタン発酵槽から排出される消化液を脱炭酸処理する脱炭酸処理槽を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のバイオガスシステム。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、消化液中のアンモニア成分を無触媒で酸化処理し、低コストで処理できるバイオガスシステムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本発明のバイオガスシステムの一例を示すフロー図である。図1において、1はバイオマスを50℃以上の温度でメタン発酵するメタン発酵槽である。
【0022】
メタン発酵されるバイオマス(有機性廃棄物)としては、例えば畜産廃棄物(例えば牛、豚、羊、山羊、ニワトリなどの家畜糞尿)、緑農廃棄物、生ごみ、農水産業廃棄物、食品加工廃棄物等、廃水処理汚泥(例えば下水処理汚泥やし尿処理汚泥など)などを挙げることができる。
【0023】
本発明のメタン発酵は、湿式処理であり、具体的にはメタン発酵槽1内の固形分濃度が好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下の条件下で処理する。
【0024】
メタン発酵槽1内は、55℃以上85℃以下の高温環境下で発酵することが好ましく、より好ましくは60℃以上80℃以下、さらに好ましくは65℃以上80℃以下の高温発酵が好ましい。発酵槽1内を上記のように高温にすると好熱性メタン発酵汚泥による微生物学的な分解の他に、化学的な加水分解も起こりやすくなることも期待できる。
【0025】
メタン発酵槽1におけるメタン生成菌は多種生物と共存し、他の生物からメタン生成菌生育のための基質の提供を受けている。バイオマスは、タンパク質、デンプン、脂肪、繊維質(セルロース)などを含むが、これらの基質は加水分解菌、酸発酵菌などにより低分子化され、メタン生成菌の基質となり、メタン発酵反応を生起させる。
【0026】
メタン発酵槽1内を加温する手段は特に限定されないが、精製バイオガスの燃焼エネルギーによって得られる電気、温水、スチームなどを利用することができる。またバイオマスがメタン発酵槽1に導入する過程で加温されることも好ましいことである。図示の例では、熱交換器2によって予熱している。
【0027】
メタン発酵槽1から排出される消化液は、pHが7〜9の範囲であり、窒素成分や炭酸ガスを含む。全窒素濃度は、例えば、1500〜15000mg/L、アンモニア性窒素濃度が1000〜10000mg/Lの範囲であり、またNO−Nは0.5〜100mg/Lの範囲であり、NO−Nは2〜5mg/Lの範囲である(分析方法:ケルダール法、イオンガスクロマトグラフ法)。また炭酸ガス濃度は通常、全炭酸として5〜10L/L−消化液の範囲である(分析方法:酸性放散による容量法)。
【0028】
消化液は、配管10を介して脱炭酸処理槽3に送られ、脱炭酸処理される。脱炭酸処理槽3は、消化液が空気と接触する場を提供するだけでよく、それだけの環境があれば、少なくとも空気中の炭酸ガス(CO)濃度と平衡になるまで放散する。消化液は炭酸ガスの放散によってpHが次第に上昇する。炭酸ガス放散後の消化液のpHは、1程度上昇する。脱炭酸処理槽3内で炭酸ガスの分離を促進するために、槽を塔状に構成して内部に充填材を設け、その充填材の上方から消化液を散水するようにしてもよい。この場合、炭酸ガスは分子量が空気より大きいので脱炭酸処理槽3の上方から自然には放散できないので、図示しない吸引手段や、脱炭酸処理槽3の下方から空気を送って上部に放散させるようにすることもできる。
【0029】
次に、脱炭酸された消化液は、アンモニア放散塔4に送られ、含有するアンモニアが放散される。アンモニア放散塔4は、アンモニアストリッピング装置を用いることができる。アンモニアストリッピング装置は、塔方式を採用し、下方から空気を導入し、上部から消化液を散水して向流させてアンモニアを分離放散せることができる。更に塔内部に充填材を設けて気液接触効率を上昇させるようにしてもよい。さらにアルカリを消化液に混合すれば更にアンモニアガスの放散効率が上昇する。なお、本発明者の実験によると、電気透析膜によるアンモニアの選択的な分離よりアンモニアストリッピング装置の方がアンモニアの分離効率が優れることがわかっている。
【0030】
アンモニアが分離された消化液は、熱交換器2でバイオマスを加温する。例えばメタン発酵槽1内の発酵温度が55℃以上85℃以下であれば、外気をそのまま用いた場合、アンモニアストリッピング後の消化液の温度は45℃以上75℃以下となり、余熱が十分に存在するので、バイオマスの加熱に利用できる。従って、バイオガスシステム内でのコストパフォーマンスに優れる。
【0031】
放散されたアンモニアガスは、アンモニア処理装置5に送られ、助燃剤を用いて酸化処理される。アンモニア放散塔4では、空気を導入してアンモニアストリッピングを行っているので、アンモニア処理装置5に導入されるアンモニアガスは、1〜10重量%程度の空気を含んでいる。
【0032】
一方、メタン発酵槽1から発生するバイオガスは生物脱硫槽6に送られ、硫黄酸化細菌によって硫化水素が酸化処理され、精製バイオガスが得られる。生物脱硫槽6に用いる洗浄水(循環水)は、外部水であってもよいが、メタン発酵槽1から発生する消化液の一部又は全部を用いることができる。
【0033】
次に、アンモニア処理装置5は、図2に示すように、装置本体500と、該装置本体500内に充填された充填材501と、該装置本体500下部からアンモニアガスを供給するアンモニア供給管502と、助燃材を供給する助燃材供給管503と、助燃材を燃焼する点火装置(図示せず)とを備えている。
【0034】
装置本体500は、塔状に構成されることが好ましく、図示の例では、2段の充填材501Aと501Bが配置される。充填材としては、金属製の金網だけもよく、またパンチングメタルを用いることもできる。さらに金属製の金網やパンチングメタルの上にラシヒリングなどを載置したものでもよい。金属製の金網やパンチングメタルとしては、ステンレス製金網やパンチングメタルが好ましい。
【0035】
助燃剤としては、バイオガス、特に精製バイオガス、中でも精製メタンガスを用いることが、本発明のバイオガスシステムのエネルギー効率(コストパフォーマンス)を向上させる上で好ましい。
【0036】
装置本体500内でアンモニアガスを酸化処理する際には、150℃以上800℃以下の温度で無触媒酸化処理することが好ましい。
【0037】
150℃未満では、アンモニアの酸化反応が十分に起こらず、800℃を超えると、NOxの生成量が著しく増加する。最も好ましい温度の範囲は200〜350℃である。
【0038】
装置本体500内で助燃材を燃焼し、燃焼温度を上記範囲に設定し、
4NH+3O=2N+6H
の反応によって、窒素ガス(N)が得られる。この反応において、NOxの生成は実験的には確認されていない。
【0039】
この反応では、温度管理が重要であり、図2の例では、第1段充填材501Aの部位で温度センサ504、第2段充填材501Bの部位で温度センサ505を各々設け、各センサから制御部506、507に温度データが送られ、その測定温度に応じて、助燃材供給管503に設けられた制御弁509と、放散COあるいは空気を導入する配管510に設けられた制御弁511の開閉を制御する。かかる制御において、制御弁509と制御弁511は検出温度による比例制御によって開閉するように設定することが一例として挙げられる。
【0040】
図2の例は、充填材が2段の例であるが、図3のように1段であってもよい。図3の例において、温度センサは塔内上部の温度を計測する温度センサ512と、下部の温度を計測する温度センサ513を配置する。各温度センサは温度データ送受信部514、515に接続されている。温度データ送受信部514、515は制御部516に接続され、上部と下部の温度データから、バイオガスの供給量を調節する制御弁517の開閉を調整する。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により、本発明の効果を例証する。
【0042】
実施例1
図3に示すアンモニア処理装置を用いて、消化液から放散されたアンモニアガスを酸化処理した。充填材としてステンレス金網を用いた。助燃材としてバイオガスを用いた。
【0043】
アンモニアガスを供給して、上部と下部の平均温度が250℃となるように、酸化処理したところ、90%のアンモニア成分が除去できた。
【0044】
また排ガスを分析したところ(NOx:検知管、NO:電子捕獲型検出器を有するガスクロマトグラフ)、NOx、NOの検出は無く、ほぼ完全に窒素ガスにすることができた。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明のバイオガスシステムの一例を示すフロー図
【図2】アンモニア処理装置の一例を示す図
【図3】アンモニア処理装置の別の一例を示す図
【符号の説明】
【0046】
1:メタン発酵槽
2:熱交換器
3:脱炭酸処理
4:アンモニア放散塔
5:アンモニア処理装置
500:該装置本体
501:充填材
502:アンモニア供給管
503:助燃材供給管
504、505:温度センサ
506、507:制御部
509:制御弁
510:配管
511:制御弁
512、513:温度センサ
514、515:温度データ送受信部
516:制御部
517:制御弁
6:生物脱硫槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスを50℃以上の温度でメタン発酵するメタン発酵槽と、該メタン発酵槽から排出される消化液を導入して含有するアンモニアを放散するアンモニア放散塔と、該アンモニア放散塔から放散されるアンモニアを助燃剤を用いて酸化処理するアンモニア処理装置とを有することを特徴とするバイオガスシステム。
【請求項2】
助燃剤が、バイオガスであることを特徴とする請求項1記載のバイオガスシステム。
【請求項3】
メタン発酵槽内の温度が、60℃以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のバイオガスシステム。
【請求項4】
アンモニア処理装置の生成物が、窒素ガスであることを特徴とする請求項1、2又は3記載のバイオガスシステム。
【請求項5】
アンモニア処理装置が、装置本体と、該装置本体内に充填された充填材と、該装置本体下部からアンモニアガスを供給するアンモニア供給管と、助燃材を供給する助燃材供給管と、助燃材を燃焼する点火装置とを備え、
該装置本体内で、アンモニアガスを150℃以上800℃以下の温度で酸化処理することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のバイオガスシステム。
【請求項6】
装置本体内に充填された充填材が、2段に構成されることを特徴とする請求項5記載のバイオガスシステム。
【請求項7】
装置本体内に充填された充填材が、金属製の金網、粒状物、磁性の粒状物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5又は6記載のバイオガスシステム。
【請求項8】
メタン発酵槽とアンモニア放散塔との間に、該メタン発酵槽から排出される消化液を脱炭酸処理する脱炭酸処理槽を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のバイオガスシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−66559(P2009−66559A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239988(P2007−239988)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】