説明

バイオセンサー、その製造方法及びそれを利用した生体分子の検出方法

【課題】半導体製造工程以外の追加の工程を行うことなく製造され、微量の生体分子を効率的に検出するバイオセンサーを提供する。
【解決手段】基板と、前記基板の極性に対し反対の極性を有するソース及びドレインと、前記基板上に配置され、前記ソース及び前記ドレインに接触するゲートと、生体分子と結合可能であり、前記ゲートの表面に配置される無機膜と、を有する電界効果トランジスタを含むバイオセンサーである。また、電界効果トランジスタを含むバイオセンサーの製造方法及び電界効果トランジスタを含むバイオセンサーを利用した生体分子の検出方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソース、ゲート及びドレイン電極を有する電界効果トランジスタを含み、生体分子の存在または濃度を検出できるバイオセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
電気的な信号で生体分子(biomolecule)を検出するセンサーのうち、トランジスタを含むバイオセンサーがある。それは、半導体工程を利用して製作されるものであって、電気的な信号の転換が速く、集積回路とMEMS(Micro Electro Mechanical System)の接続が容易であるという長所があって、これまでそれについての多くの研究が進められてきた。
【0003】
電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor、以下、「FET」ともいう)を使用して生物学的な反応を検出する最初の報告として、特許文献1がある。それは、バイオセンサーに従って、表面電荷の密度が、抗原−抗体反応により変化することで、半導体反転層における電荷密度に影響を及ぼすというものである。電荷密度の変化は、電流値の変化を測定することにより検出される。ここで、生体分子として蛋白質が用いられている。特許文献2は、生物学的な単量体をゲートの表面に吸着させて、それと相補的な単量体とのハイブリダイゼーション度を、FETを用いて測定することに関するものである。
【0004】
特許文献3は、結合した生体分子による光吸収に基づくCCD(Charged Coupled Device)を用いた、ハイブリダイゼーション反応の光学的な検出方法を開示している。特許文献4及び5では、TFT(Thin Film Transistor)と回路とを組み合わせて、信号対ノイズの比を向上させる方法及び装置が開示されている。
【0005】
このようにFETベースのバイオセンサーを使用する場合、従来のバイオセンサーに比べてコスト及び時間が減少し、IC(Integrated Circuit)技術とMEMS技術とを容易に組み合わせることができるという点で大きい長所を有している。
【0006】
図1Aは、従来のFETの構造を概略的に示す図面である。図1Aを参照すれば、n型またはp型にドーピングされた基板11の両側に基板11の極性と反対の極性にドーピングされたソース12a及びドレイン12bが形成されており、基板11上にソース12a及びドレイン12bと接触するゲート13が形成されている。一般的に、前記ゲート13は、酸化層14、ポリシリコン層15及びゲート電極層16から構成され、ゲート電極層16には、プローブ生体分子が付着される。プローブ生体分子は、所定の標的生体分子と水素結合によって結合し、これを電気的な方法で測定してプローブ生体分子と標的生体分子との結合度を測定する。
【0007】
図1Bは、ゲート電極16の表面にプローブ生体分子18を固定させ、前記プローブ生体分子18に標的生体分子が結合する過程を概略的に示す図面である。図1Bを参照すれば、前記ゲート電極16の表面でのプローブ生体分子18の固定、及び前記固定されたプローブ生体分子18への標的生体分子の結合によってチャンネルを通じて流れる電流の強度が相異なり、したがって、電流値の変化により標的生体分子を検出できる。
【0008】
また、前記ゲート電極の表面に、例えば、オリゴヌクレオチド及びPCR産物などの生体分子を固定させるためのマイクロアレイ技術がある。
【0009】
また、ゲート電極の表面に生体分子を固定させるための他の従来技術であって、前記ゲート電極の表面に有機薄膜を蒸着する方法がある。例えば、特許文献6では、湿式工程を通じてゲート電極の表面に正の電荷を帯びるポリ−L−リジン(以下、PLLともいう)を処理し、前記表面にスポッティングを利用してDNAをスポッティングした後、スポッティング前後の電圧差を測定した。
【特許文献1】米国特許第4,238,757号明細書
【特許文献2】米国特許第4,777,019号明細書
【特許文献3】米国特許第5,846,708号明細書
【特許文献4】米国特許第5,466,348号明細書
【特許文献5】米国特許第6,203,981号明細書
【特許文献6】国際公開第04/057027号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述した、従来のマイクロアレイ技術を用いた場合、ゲートの表面からデバイ長(Debye length)を超えて離れた領域では、ハイブリダイゼーション反応を検出することが困難となるため、マイクロアレイ技術をそのままFETベースのセンサーに適用することには限界がある。
【0011】
また、特許文献6に記載の方法は、FET製作工程後に別途の湿式工程を必要とし、FET製作工程では可能であったパターニングが不可能となって装置の全面に蒸着せざるを得ないので、ゲートの表面での選択的な蒸着が不可能である。したがって、DNAが固定されない基準FETの製造が不可能であり、DNAの固定時または結合時に標的生体分子が多量に必要であるという問題点もある。また、一般的に正の電荷を有するポリマーである有機薄膜を利用するため、厚さ調節が難しくFETの検出可能距離であるデバイ長を超えてしまうという問題点がある。また、スポッティング技術でDNAを固定する場合、ラブオンチップに使われ難いという問題点がある。
【0012】
また、従来のバイオセンサーでは、ハイブリダイズされる二重螺旋構造のヌクレオチドのうち一本鎖のプローブヌクレオチドをゲートの表面に共有結合で固定させ、前記プローブヌクレオチドに相補的な一本鎖の標的ヌクレオチドがゲートの表面上で、前記プローブヌクレオチドとハイブリダイズする。しかし、前記方法は、プローブの固定化や溶液中でのハイブリダイゼーションに長時間を要する。また、FETはデバイ長を考慮すると、低イオン状態でシグナルを検出するので、効果的にハイブリダイゼーションを実行するのは困難である。
【0013】
したがって、本発明の目的は、半導体製造工程以外の追加の工程を行うことなく製造され、微量の生体分子を効率的に検出するバイオセンサーを提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、半導体製造工程によって製造され、一つの電界効果トランジスタにおいて、ゲート表面にのみ無機膜が選択的に蒸着されるか、または複数の電界効果トランジスタにおいて、一部のゲート表面にのみ無機膜が選択的に蒸着されうる電界効果トランジスタを含むバイオセンサーを提供することである。
【0015】
本発明の他の目的は、前記電界効果トランジスタを含むバイオセンサーの製造方法を提供することである。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、前記電界効果トランジスタを含むバイオセンサーを利用してプローブ生体分子の固定化を行うことなく生体分子を検出する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上述のような従来技術の問題点を解決するために鋭意研究を行った結果、創作された技術である。
【0018】
前記目的を達成するために、本発明は、基板と、前記基板の極性に対し反対の極性を有するソース及びドレインと、前記基板上に配置され、前記ソース及び前記ドレインに接触するゲートと、生体分子と結合可能であり、前記ゲートの表面に配置される無機膜と、
を有する電界効果トランジスタを含むバイオセンサーを提供する。
【0019】
本発明において、前記無機膜は、金属酸化膜または金属水酸化膜でありうる。
【0020】
本発明において、前記金属酸化膜は、Al、TiO及びSnOからなる群から選択される一以上の材料からなることが可能である。
【0021】
本発明において、前記金属水酸化膜は、ベーマイトからなることが可能である。
【0022】
本発明において、前記生体分子は、核酸または蛋白質でありうる。
【0023】
本発明において、前記核酸は、DNA、RNA、ペプチド核酸(PNA)、ロックト核酸(LNA)及びそれらのハイブリッドからなる群から選択されうる。
【0024】
本発明において、前記核酸は、オリゴヌクレオチドまたはPCR産物でありうる。
【0025】
本発明において、前記基板がn型にドーピングされる場合、前記ソース及び前記ドレインは、それぞれp型にドーピングされ、前記基板がp型にドーピングされる場合、前記ソース及び前記ドレインは、それぞれn型にドーピングされることを特徴とする。
【0026】
本発明において、前記ゲートは、酸化層と、前記酸化層上に配置されるポリシリコン層と、前記ポリシリコン層上に配置されるゲート電極層と、を有するバイオセンサーでありうる。
【0027】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、電界効果トランジスタのゲート電極を外部に露出させる段階と、前記ゲート電極の露出された表面及び前記電界効果トランジスタの残りの表面にAlまたはAlを蒸着する段階と、前記電界効果トランジスタの前記残りの表面に蒸着されたAlまたはAlをエッチングする段階と、前記ゲート電極の前記露出された表面に蒸着されたAlまたはAlに熱水を供給してベーマイトを形成する段階と、を含むバイオセンサーの製造方法を提供する。
【0028】
本発明において、前記Alは、原子層蒸着法によって2〜30nmの厚さに蒸着しうる。
【0029】
本発明において、前記熱水の温度は、90〜100℃でありうる。
【0030】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、a)生体分子と結合可能な無機膜がゲートの表面に配置されてなる、電界効果トランジスタを含むバイオセンサーの前記ゲートの表面に生体分子を導入する段階と、b)前記電界効果トランジスタを含むバイオセンサーのソースとドレインとの間のチャンネル領域に流れる電流の値を測定する段階と、を含む生体分子の検出方法を提供する。
【0031】
本発明において、前記生体分子は、核酸または蛋白質でありうる。
【0032】
本発明において、前記核酸は、オリゴヌクレオチドまたはPCR産物でありうる。
【0033】
本発明において、前記無機膜は、金属酸化膜または金属水酸化膜でありうる。
【0034】
本発明において、前記金属酸化膜は、Al、TiO及びSnOからなる群から選択される一以上の材料からなりうる。
【0035】
本発明において、前記金属水酸化膜は、ベーマイトからなりうる。
【0036】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は、標的生体分子を含有しうるサンプルに、前記標的生体分子と結合可能なプライマーを用いてPCRを行う段階と、生体分子と結合可能な無機膜がゲートの表面に配置される電界効果トランジスタを含むバイオセンサーのゲートの表面に前記PCR産物を導入する段階と、前記電界効果トランジスタを含むバイオセンサーのソースとドレインとの間のチャンネル領域に流れる電流値を測定する段階と、を含む生体分子の検出方法を提供する。
【発明の効果】
【0037】
本発明による無機膜を備える電界効果トランジスタを含むバイオセンサーは、追加の工程を行うことなく半導体製造工程のみで製造できるので、パターニングを行うことが可能である。したがって、一つの電界効果トランジスタにおいて、ゲートの表面にのみ無機膜を選択的に蒸着するか、または複数の電界効果トランジスタにおいて、一部のゲートの表面にのみ無機膜を選択的に蒸着しうる。また、本発明によれば、微量の標的生体分子も効果的に検出しうる。また、前記無機膜の厚さは非常に薄く調節されて、電界効果トランジスタの検出可能距離であるデバイ長の範囲内で生体分子が結合できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、図面を参照して本発明をさらに詳細に説明する。
【0039】
本発明は、ゲートの表面に生体分子の結合可能な無機膜が配置されることを特徴とする、電界効果トランジスタ(FET)を含むバイオセンサーに関する。
【0040】
図2は、本発明によるFETを含むバイオセンサーの構造を概略的に示す図面である。
【0041】
図2を参照すれば、本発明によるFETを含むバイオセンサーは、基板21と、前記基板の極性に対し反対の極性を有するようにドーピングされたソース22a及びドレイン22bと、前記基板21上に配置され、前記ソース22a及び前記ドレイン22bに接触するゲート23と、生体分子と結合可能であり、前記ゲート23の表面に配置される無機膜28と、を含むことを特徴とする。この際、ソース22a及びドレイン22bは、ゲート23を挟んでゲートの両側の基板に配置される。
【0042】
本発明におけるFETとして、従来のバイオセンサーまたはCMOS素子に使用されているあらゆるFETが使用可能であり、本発明のFETはn−MOSまたはp−MOSのどちらもありうる。例えば、前記基板21がn型にドーピングされた場合、前記ソース22a及び前記ドレイン22bは、それぞれp型にドーピングされ、逆に、前記基板21がp型にドーピングされた場合、前記ソース22a及び前記ドレイン22bは、それぞれn型にドーピングされうる。
【0043】
前記FETにおいて、ソース22aは、キャリア、例えば、自由電子または正孔を供給し、ドレイン22bは、前記ソース22aから供給されたキャリアが到達する部位であり、ゲート23は、前記ソース22aとドレイン22bとの間のキャリアの流れを制御する役割を担う。前記FETを含むバイオセンサーは、電解質内でDNAのような核酸の固定化または吸着を検出する場合に最も好まれるバイオセンサーであって、核酸の有無を標識なしに検出できる。
【0044】
従来の有機膜、例えば、ポリ−L−リジン(PLL)の代りに、本発明では無機膜がゲートの表面に蒸着され、これにより、本発明によるFETを含むバイオセンサーは、追加の工程を行うことなく半導体製造工程のみで製造が可能である。したがって、半導体製造工程に使われるパターニングによって、前記無機膜を所望の領域に選択的に蒸着できる。それにより、検出可能領域外に標的生体分子が結合することを防止し、複数のゲートのうち所望のゲートの表面にのみ標的生体分子を結合させうるため、本発明によるFETを含むバイオセンサーは、高い検出感度で微量の標的生体分子をも検出できる。
【0045】
本発明において、前記無機膜は、金属酸化膜または金属水酸化膜でありうる。前記金属酸化膜は、以下に限定されることはないが、例えばAl、TiO及びSnOからなる群から選択される一以上の材料からなりうる。前記金属水酸化膜は、以下に限定されることはないが、例えばベーマイトでありうる。前記ベーマイトは、例えば、AlまたはAlを熱処理して製造できる。
【0046】
本発明において、前記生体分子は、核酸または蛋白質でありうる。前記核酸は、多様な核酸、核酸アナログ、またはそれらのハイブリッドを意味し、以下に限定されることはないが例えば、DNA、RNA、ペプチド核酸(Peptide Nucleic Acid:PNA)、ロックト核酸(Locked Nucleic Acid:LNA)及びそれらのハイブリッドからなる群から選択されうる。また、前記核酸は、また、以下に限定されることはないが例えば、オリゴヌクレオチドまたはPCR産物であってもよい。
【0047】
本発明において、前記金属酸化膜の厚さは、2〜30nmであり、前記金属水酸化膜の厚さは、10〜150nmでありうる。
【0048】
前記のように、本発明によるFETを含むバイオセンサーに蒸着される無機膜の厚さは、非常に薄く任意に調節されうるので、FETの検出可能距離であるデバイ長内での生体分子の結合を可能にする。
【0049】
また、図2を参照すれば、前記ゲート23は、酸化層24と、前記酸化層24上に配置されるポリシリコン層25と、前記ポリシリコン層25上に配置されるゲート電極層26と、を含みうる。前記ゲート電極層26の材質は、特に制限されることはないが、好ましくは、金である。
【0050】
また、前述のように半導体製造工程によって製造され、一つのFETにおいて、ゲート表面にのみ無機膜が選択的に蒸着されるか、または複数のFETにおいて、一部のゲート表面にのみ無機膜が選択的に蒸着されうるFETを含むバイオセンサーの製造が可能である。
【0051】
また、本発明は、本発明によるFETを含むバイオセンサーを製造する方法に関するものである。
【0052】
本発明によるFETを含むバイオセンサーの製造方法に対し、通常の半導体製造工程を適用できるという点に本発明の特徴がある。
【0053】
使用する材料などは以下に制限されることはないが、例えば、無機膜としてベーマイトを備えるFETを含むバイオセンサーの製造方法は、FETのゲート電極を外部に露出させる段階と、前記ゲート電極の露出された表面及び前記FETの前記露出された表面を除く残りの表面にAlまたはAlを蒸着する段階と、前記FETの前記残りの表面に蒸着されたAlまたはAlをエッチングする段階と、前記ゲート電極の前記露出された表面に蒸着されたAlまたはAlに熱水を供給してベーマイトを形成する段階と、を含む。
【0054】
図3は、本発明によるFETを含むバイオセンサーの製造方法を段階別に概略的に示す図面である。
【0055】
図3を参照すれば、まず完成されたFETのゲート電極を外部に露出させる(図3の(a))。一般的なFETの全面は、イオン拡散からFETを保護するためにパシベーション処理されている。前記段階は、一般的なフォトレジスト(以下、「PR」ともいう)蒸着、パターニング、露光、エッチング及びPR除去工程によって行われうる。次いで、Al 41を全面に蒸着する(図3の(b))。前記Al 41は、原子層蒸着法(Atomic Layer Deposition:ALD)によって2nm以上、好ましくは2〜30nmの厚さに蒸着されうる。一方、Alを蒸着する場合、スパッタリングによって10nm以上、好ましくは10〜30nmの厚さに蒸着できる。次いで、PR 42をパターニングしてゲートの表面にのみ塗布させる(図3の(c))。次いで、エッチングによってゲートの表面以外のAl 41をエッチングさせる(図3の(d))。次いで、ゲートの表面の上部に存在するPR 42を除去する(図3の(e))。次いで、前記ゲートの表面上に存在するAl 41に熱水(脱イオン水:DI)で処理してベーマイト41’を生成する(図3の(f))。前記熱水の温度は、90〜100℃であり、処理時間は、3〜60分でありうる。
【0056】
図4Aは、本発明によるFETを含むバイオセンサーのゲートの表面に蒸着されたAlを示す写真であり、図4Bは、図4Aで示したAlに熱水を処理して生成された多孔性ベーマイトを表す写真である。
【0057】
さらに本発明は、本発明によるFETを含むバイオセンサーを利用して生体分子の存在または濃度を検出する方法に関する。
【0058】
具体的に、本発明による生体分子の検出方法は、a)生体分子と結合可能な無機膜がゲートの表面に配置されてなる、電界効果トランジスタを含むバイオセンサーの前記ゲートの表面に生体分子を導入する段階と、b)前記電界効果トランジスタを含むバイオセンサーのソースとドレインとの間のチャンネル領域に流れる電流の値を測定する段階と、を含みうる。
【0059】
さらに、本発明による生体分子の検出方法は、標的生体分子を含有しうるサンプルに、前記標的生体分子と結合可能なプライマーを用いてPCRを行う段階と、生体分子と結合可能な無機膜がゲートの表面に配置されてなるFETを含むバイオセンサーのゲートの表面に前記PCR産物を導入する段階と、前記FETを含むバイオセンサーのソースとドレインとの間のチャンネル領域に流れる電流値を測定する段階と、を含みうる。
【0060】
本発明によるFETを含むバイオセンサーを利用した生体分子の検出方法の最も好ましい具体例は、前記PCR産物を検出することである。もしサンプル内に標的生体分子が存在すればPCRによる増幅が行われ、逆に、サンプル内に標的生体分子が存在しなければPCRによる増幅が行われないため、PCR産物を検出することによって、前記サンプル内の標的生体分子の存否及びその濃度を検出できる。例えば、下記実施例4は、サンプル内に標的生体分子が存在してPCRによる増幅が行われた場合であり、逆に、下記実施例5は、サンプル内に標的生体分子が存在せずにPCRによる増幅が行われなかった場合を表す。これらの実施例の結果から標的生体分子の存否を非常に効果的に検出できるということが分かる(図6及び図7参照)。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これら実施例は、単に本発明を例示するためのものであるので、本発明の範囲がこれら実施例によって制限されるとは解釈されない。
【0062】
実施例1.
<本発明のFETを含むバイオセンサーの製造>
本発明で使用したFET素子は、X−FAB Semiconductor Foundries社(ドイツ)のXC10−1.0μm CMOS工程を使用した。CMOS標準工程は、製造企業によって若干の差があるが、FET素子特性に大きい影響を与える因子ではなく、本願に係る発明とも関係ないので、省略した。前記FET素子を利用して図3に示されている段階によって、本発明によるFETを含むバイオセンサーを製造した。
【0063】
まずFETのパシベーション層を除去してゲート電極を外部に露出させた(図3の(a))。前記図3の(a)工程は、X−FAB社で進められた。本発明に関係する以後の工程は、本願の発明者らによって行われた。次いで、露出されたゲート電極を含むFETの表面を注意深く洗浄し、その後乾燥した。前記洗浄は、純粋アセトン及び水で行い、半導体製造工程で利用されるウェットステーションを用いた。前記乾燥は、スピンドライヤーを利用して行った。
【0064】
次いで、Alを全面に原子層蒸着法(Atomic Layer Deposition:ALD)によって20nmの厚さに蒸着した(図3の(b))。次いで、PRをパターニングしてゲートの表面にのみ塗布させた(図3の(c))。次いで、エッチングによってゲートの表面以外のAlを除去した(図3の(d))。次いで、ゲートの表面の上部に存在するPRを除去した(図3の(e))。次いで、前記ゲートの表面上に存在するAlに90℃の熱水を5分間または30分間処理してベーマイトを生成することによって、本発明のFETを含むバイオセンサーを製造した(図3の(f))。
【0065】
前記でAlを20nmの厚さに蒸着した場合の表面抵抗は0.7MΩであり、前記Alを熱水で5分間処理して生成させたベーマイトの表面抵抗は0.36MΩであり、30分間処理して生成させたベーマイトの表面抵抗は0.24MΩであった。
【0066】
実施例2.
<本発明のFETを含むバイオセンサーの製造>
AlをALDによって20nmの厚さに蒸着した代りに、Alをスパッタリングによって20nmの厚さに蒸着した点を除いては、前記実施例1と同じ方法により、本発明の電界効果トランジスタを含むバイオセンサーを製造した。
【0067】
図4Aは、本実施例の製造過程でFETを含むバイオセンサーのゲートの表面に蒸着されたAlを示す写真であり、図4Bは、図4Aで示したAlに熱水を処理して生成させた本発明のFETを含むバイオセンサーの多孔性ベーマイトを示す写真である。図4Bを参照すれば、ベーマイトの厚さは100nmであり、Al膜は、ほとんど多孔性構造に転換されたということが分かる。
【0068】
前記でAlを20nmの厚さに蒸着した場合の表面抵抗は6.0MΩであり、前記Alを熱水で5分間処理したベーマイトの表面抵抗は0.25MΩであり、30分間処理したベーマイトの表面抵抗は0.33MΩであった。
【0069】
実施例3.
<本発明のFETを含むバイオセンサーを利用したオリゴヌクレオチドの検出>
実施例1において、熱水で5分間処理することにより製造したFETを含むバイオセンサーをパラメーターアナライザーに連結した後に安定化させた。安定化は、10×PBS溶液にFETを浸漬させた状態で進められ、ゲートに印加する電圧を多様に変換して安定化を進めた。実験に利用したゲート印加電圧は、2Vであった。
【0070】
FET素子が安定化した後、所定の時点で25bpのプローブオリゴヌクレオチドを注入した。注入された前記プローブオリゴヌクレオチドの塩基配列は、5’−(GTGTGAGAGTGGAAAGTTCACACTG)−3’(配列番号1)であり、濃度は1μg/μlであった。その後、所定の時点でPLL 2ng/μlを注入した。前記オリゴヌクレオチド及び前記PLLの注入は、0.01mMのPBS溶液(pH7)を利用して行われた。
【0071】
図5は、本実施例において、前記FETを含むバイオセンサーのゲートの表面にオリゴヌクレオチド及びPLLを交互に注入した場合の電流変化を測定したグラフである。
【0072】
図5より、初期にオリゴヌクレオチドを注入すれば、電流量が大幅に減少するということが分かる。注入前の電流7μAから注入後の電流2μAへと、約5μAの電流変化があった。上記の結果から、本発明によるFETを含むバイオセンサーのゲートの表面に蒸着された無機膜が標的サンプルを固定し、オリゴヌクレオチドを非常に効果的に検出できるということが分かる。
【0073】
また、図5を参照すれば、正の電荷を帯びるPLLを注入すれば、電流が急増し、再び負の電荷を有するオリゴヌクレオチドを注入すれば、電流が急に減少した。前記結果から、前記継続的な注入によってゲートの表面から距離が遠くなっても非常に効果的にオリゴヌクレオチドを検出できるということが分かる。
【0074】
実施例4.
<本発明のFETを含むバイオセンサーを利用したPCR産物の検出>
実施例1において、熱水で5分間処理することにより製造したFETを含むバイオセンサーをパラメーターアナライザーに連結した後に安定化させた。安定化は、10×PBS溶液にFETを浸漬させた状態で進められ、ゲートに印加する電圧を多様に変換しつつ安定化を進めた。実験に利用したゲート印加電圧は、2Vであった。
【0075】
FET素子が安定化した後、所定の時点でPCR産物を注入した。注入された前記PCR産物は、スタフィロコッカス アウレウス(Staphylococcus aureus) バクテリアDNAを鋳型として用いたPCRによる増幅によって得られた。この時使われたフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列は、それぞれ5’−(TAG CAT ATC AGA AGG CAC ACCC)−3’(配列番号2)及び5’−(ATC CAC TCA AGA GAG ACA ACA TT)−3’(配列番号3)であった。増幅が完了したPCR産物は、240bpであり、濃度は5ng/μlであった。前記PCR産物の注入後、所定の時点でPLL 2ng/μlを注入した。前記オリゴヌクレオチド及び前記PLLの注入は、0.01mMのPBS溶液(pH7)を利用して行われた。
【0076】
図6は、本実施例において、前記FETを含むバイオセンサーのゲートの表面にPCR産物及びPLLを交互に注入した場合の電流変化を測定したグラフである。前記グラフは、192個のPCRアレイの結果を平均した値である。
【0077】
図6から、初期にPCR産物を注入すれば、電流量が大幅に減少するということが分かる。注入前の電流92μAから注入後の電流52μAへと、約40μAの電流変化があった。上記の結果から、本発明のFETを含むバイオセンサーのゲートの表面に蒸着された無機膜が標的サンプルのPCR産物を固定し、それを非常に効果的に検出できるということが分かる。
【0078】
一方、図6を参照すると、正の電荷を有するPLLを前記FETを含むバイオセンサーに注入すれば、電流が急増し、再び負の電荷を有するPCR産物を、前記FETを含むバイオセンサーに注入すれば、電流が急減した。上記の結果から、PCR産物及びPLLの継続的な注入によって、ゲートの表面からの距離が遠くなっても、非常に効果的に前記PCR産物を検出できるということが分かる。
【0079】
実施例5.
<本発明のFETを含むバイオセンサーを利用した鋳型無しのコントロール(Negative Control:NTC)の検出>
実施例1において、熱水で5分間処理することにより製造したFETを含むバイオセンサーをパラメーターアナライザーに連結した後に安定化させた。安定化は、10×PBS溶液にFETを浸漬させた状態で進められ、ゲートに印加する電圧を多様に変換しつつ安定化を進めた。実験に利用したゲート印加電圧は2Vであった。
【0080】
FET素子が安定化した後、所定の時点でNTC溶液を注入した。注入された前記NTC溶液は、PCR中のコンタミネーションの有無を確認するため、鋳型を除いてある。PCRは、鋳型が用いられていないことを除いては、前記実施例4と同様の方法で行われた。結局、PCRによって増幅が起こらなかったので、PCR産物の濃度は分からない。本実施例は、サンプル内に標的DNAが存在せず、PCRによる増幅が行われない場合を想定したものである。前記NTC溶液の注入後、所定の時点でPLL 2ng/μlを注入した。前記NTC溶液及び前記PLLの注入は、0.01mMのPBS溶液(pH7)を利用して行われた。
【0081】
図7は、本実施例において、前記FETを含むバイオセンサーのゲートの表面にNTC溶液及びPLLを交互に注入した場合の電流変化を測定したグラフである。前記グラフは、192個のPCRアレイの結果を平均した値である。
【0082】
図7より、NTC溶液を注入しても電流量の変化がほとんど無いということが分かる。グラフで局所的に一部変化した電流量は、試料の注入によるノイズと確認された。前記結果から検出しようとするサンプルに標的DNAが存在しない場合、PCRによる増幅が起こらず、PCR産物が生成されないため、前記標的DNAが検出されないということが分かる。また、初期に、負の電荷を有するDNAがゲートの表面に結合することがないため、その後注入されるPLLもゲートの表面に結合できないということが分かる。
【0083】
以上、本発明についてその望ましい実施例を中心に説明した。当業者は、本発明が本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲で変形された形態に具現できるということを理解できる。したがって、開示された実施例は、限定的な観点ではなく、例示的な観点で考慮されねばならない。本発明の範囲は、前述した説明ではなく、特許請求の範囲に表されており、それと同等な範囲内にある全ての差異点は、本発明に含まれていると解釈されねばならない。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、バイオセンサー関連の技術分野に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1A】従来のFETの構造を概略的に示す図面である。
【図1B】図1AのFETのゲート電極の表面にプローブ生体分子を固定させ、前記プローブ生体分子に標的生体分子が結合する過程を概略的に示す図面である。
【図2】本発明によるFETを含むバイオセンサーの構造を概略的に示す図面である。
【図3】本発明によるFETを含むバイオセンサーの製造方法を段階別に概略的に示す図面である。
【図4A】本発明によるFETを含むバイオセンサーのゲートの表面に蒸着されたAlを示す写真である。
【図4B】図4Aで示したAlに熱水を処理して生成された多孔性ベーマイトを示す写真である。
【図5】本発明によるFETを含むバイオセンサーのゲートの表面にオリゴヌクレオチド及びポリ−L−リジン(PLL)を交互に注入した場合の電流変化を測定したグラフである。
【図6】本発明によるFETを含むバイオセンサーのゲートの表面にPCR産物及びPLLを交互に注入した場合の電流変化を測定したグラフである。
【図7】本発明によるFETを含むバイオセンサーのゲートの表面にNTC溶液(鋳型を含まないネガティブコントロール)及びPLLを交互に注入した場合の電流変化を測定したグラフである。
【符号の説明】
【0086】
11 基板、
12a ソース、
12b ドレイン、
13 ゲート、
14 酸化層、
15 ポリシリコン層、
16 ゲート電極(層)、
17 基準電極、
18 プローブ生体分子、
21 基板、
22a ソース、
22b ドレイン、
23 ゲート、
24 酸化層、
25 ポリシリコン層、
26 ゲート電極層、
27 基準電極、
28 無機膜、
41 Al
41’ ベーマイト、
42 フォトレジスト(PR)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の極性に対し反対の極性を有するソース及びドレインと、
前記基板上に配置され、前記ソース及び前記ドレインに接触するゲートと、
生体分子と結合可能であり、前記ゲートの表面に配置される無機膜と、
を有する電界効果トランジスタを含むことを特徴とする、バイオセンサー。
【請求項2】
前記無機膜は、金属酸化膜または金属水酸化膜であることを特徴とする、請求項1に記載のバイオセンサー。
【請求項3】
前記金属酸化膜は、Al、TiO及びSnOからなる群から選択される一以上の材料からなることを特徴とする、請求項2に記載のバイオセンサー。
【請求項4】
前記金属水酸化膜は、ベーマイトからなることを特徴とする、請求項2に記載のバイオセンサー。
【請求項5】
前記生体分子は、核酸または蛋白質であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のバイオセンサー。
【請求項6】
前記核酸は、DNA、RNA、ペプチド核酸(PNA)、ロックト核酸(LNA)及びそれらのハイブリッドからなる群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載のバイオセンサー。
【請求項7】
前記核酸は、オリゴヌクレオチドまたはPCR産物であることを特徴とする、請求項5に記載のバイオセンサー。
【請求項8】
前記基板がn型にドーピングされる場合、前記ソース及び前記ドレインは、それぞれp型にドーピングされ、前記基板がp型にドーピングされる場合、前記ソース及び前記ドレインは、それぞれn型にドーピングされることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のバイオセンサー。
【請求項9】
前記ゲートは、
酸化層と、
前記酸化層上に配置されるポリシリコン層と、
前記ポリシリコン層上に配置されるゲート電極層と、
を有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のバイオセンサー。
【請求項10】
電界効果トランジスタのゲート電極を外部に露出させる段階と、
前記ゲート電極の露出された表面、及び前記電界効果トランジスタの前記露出された表面を除く残りの表面にAlまたはAlを蒸着する段階と、
前記電界効果トランジスタの前記残りの表面に蒸着されたAlまたはAlをエッチングする段階と、
前記ゲート電極の前記露出された表面に蒸着されたAlまたはAlに熱水を供給してベーマイトを形成する段階と、
を含む、バイオセンサーの製造方法。
【請求項11】
前記Alは、原子層蒸着法によって2〜30nmの厚さに蒸着されることを特徴とする、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記熱水の温度は、90〜100℃であることを特徴とする、請求項10または11に記載の製造方法。
【請求項13】
a)生体分子と結合可能な無機膜がゲートの表面に配置されてなる、電界効果トランジスタを含むバイオセンサーの前記ゲートの表面に生体分子を導入する段階と、
b)前記電界効果トランジスタを含むバイオセンサーのソースとドレインとの間のチャンネル領域に流れる電流の値を測定する段階と、
を含む生体分子の検出方法。
【請求項14】
前記生体分子は、核酸または蛋白質であることを特徴とする、請求項13に記載の生体分子の検出方法。
【請求項15】
前記核酸は、オリゴヌクレオチドまたはPCR産物であることを特徴とする、請求項14に記載の生体分子の検出方法。
【請求項16】
前記無機膜は、金属酸化膜または金属水酸化膜であることを特徴とする、請求項13〜15のいずれか1項に記載の生体分子の検出方法。
【請求項17】
前記金属酸化膜は、Al、TiO及びSnOからなる群から選択される一以上の材料からなることを特徴とする、請求項16に記載の生体分子の検出方法。
【請求項18】
前記金属水酸化膜は、ベーマイトからなることを特徴とする、請求項16に記載の生体分子の検出方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2007−139762(P2007−139762A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287636(P2006−287636)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【Fターム(参考)】