説明

バイオセンサ装置

【課題】
本発明は、出力信号の周波数特性が不安定となる問題点を解決するバイオセンサ装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
基体と、前記基体上に形成される密着層と、前記密着層上に形成される選択層を有する、特定の検出対象を検出するバイオセンサ装置において、前記選択層と前記密着層との間に拡散防止層が形成されるバイオセンサ装置、または、
前記基体が圧電基板と保護層で構成され、前記圧電基板と前記保護層との間に電極層を有し、前記保護膜上に前記密着層が形成されるバイオセンサ装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力信号の周波数特性の変化によって特定の検出対象を検出するバイオセンサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々なバイオセンサ装置が提案されている。例えば、下記に示す特許文献1には、図6に示す構造を備えたバイオセンサ装置1dが開示されている。
【0003】
特許文献1では、くし歯状電極5が形成された圧電基板3と、圧電基板3上にくし歯状電極5の上に遷移層10が形成され、さらに、遷移層10の上に波伝送層12が形成され、またさらに波伝送層12の上に保護層11が形成され、保護層11の上に選択層7が形成され、選択層7はCr層とAu層とで形成されたバイオセンサ装置1dが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004-526977
【発明の概要】
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の図6に示されるバイオセンサ装置1dは、製造時の加熱工程において密着層の機能を有するCr層と選択層の機能を有するAu層との間に材料拡散が発生し出力信号の周波数特性が変動する脈動現象が発生するなど出力信号の周波数特性が不安定となる問題点があった。
【0007】
本発明は、出力信号の周波数特性が不安定となる課題を解決するバイオセンサ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明では、以下の技術的手段から構成される。
【0009】
本発明に係るバイオセンサ装置は、基体と、前記基体上に形成される密着層と、前記密着層上に形成される選択層を有する、特定の検出対象を検出するバイオセンサ装置において、前記選択層と前記密着層との間に拡散防止層が形成されることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るセンサのある特定の局面では、前記基体が圧電基板と保護層で構成され、前記圧電基板と前記保護層との間に電極層を有し、前記保護膜上に前記密着層が形成されることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るバイオセンサ装置の他の特定の局面では前記基体が圧電基板で構成され、前記選択層によって電極層が形成されることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るバイオセンサ装置のさらに他の特定の局面では、前記保護層が SiO2またはSiNからなることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るバイオセンサ装置のさらに別の特定の局面では、前記圧電基板がLiTaO3、LiNbO3または水晶からなることを特徴とする。
【0014】
本発明に係るバイオセンサ装置のさらに別の特定の局面では、前記電極層がくし歯状に形成されることを特徴とする。
【0015】
本発明に係るバイオセンサ装置のさらに別の特定の局面では、前記電極層が平板状に形成されることを特徴とする。
【0016】
本発明に係るバイオセンサ装置のさらに別の特定の局面では、前記選択層がAu、Ag、Cuまたは酸化インジウム錫からなる群から選択される少なくとも1つの材料を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明に係るバイオセンサ装置のさらに別の特定の局面では、前記密着層がTiからなることを特徴とする。
【0018】
本発明に係るバイオセンサ装置のさらに別の特定の局面では、前記拡散防止層がPt、Niからなる群から選択される少なくとも1つの材料からなることを特徴とする。
【0019】
本発明に係るバイオセンサ装置のさらに別の特定の局面では、 Auを含む前記選択層と、Tiからなる前記密着層と、Ptからなる前記拡散防止層とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、出力信号の周波数特性を安定化するバイオセンサ装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施例に係るバイオセンサ装置の模式的断面図を示す。
【図2】本発明の第2の実施例に係るバイオセンサ装置の模式的断面図を示す。
【図3】本発明の第3の実施例に係るバイオセンサ装置の模式的断面図を示す。
【図4】従来の拡散防止層を備えないバイオセンサ装置の出力信号の周波数特性を示す。
【図5】本発明に係る拡散防止層を備えるバイオセンサ装置の出力信号の周波数特性 を示す。
【図6】従来のバイオセンサ装置の模式的断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施例を説明することにより、本発明を
明らかにする。本発明に係るバイオセンサ装置の実施例を図1から図3に示す
(第1の実施例)
図1に、本発明の第1の実施例であるバイオセンサ装置1aを模式的断面図として示す。
【0023】
本発明の第1の実施例は、くし歯状の電極層5を形成したLiTaO3から圧電基板3と、くし歯状の電極層5を覆うようにして形成されSiO2からなる保護層11と、保護層11の上に形成されCr,Tiなどからなる密着層9と、密着層9の上に形成されるAu、Ag、Cuまたは酸化インジウム錫などからなる選択層7を有し、密着層9と選択層7との間にPtからなる拡散防止層13が形成されるバイオセンサ装置1aである。
【0024】
本発明の第1の実施例によれば、選択層7の表面に特定の検出対象物質を接触させると選択層7の表面に自己組織化膜が形成されバイオセンサ装置1aは出力信号の周波数特性が変化する。
【0025】
本発明では、製造時の加熱工程によるTiからなる密着層9と選択層7のAuとの間で発生するTiのAuへの拡散を、Ptからなる拡散防止層13を設けることで抑制し、Auを含む選択層7の表面に自己組織化膜の形成を阻害するTiからなる密着層9の析出を抑えることができる。そのため、本発明の第1の実施例を用いることで、出力信号の周波数特性を安定化できるバイオセンサ装置1aが提供できる。
【0026】
バイオセンサ装置1aの製造に際しては、くし歯状の電極層5を圧電基板1に形成する。このとき、圧電基板1へのくし歯状の電極層5の密着性を高めるため、Cr,Tiなどの材料からなる密着層9を形成してもよい。好ましくはTiならなる密着層9を形成する。なお、くし歯状の電極層5は1ポート共振子型またはトランスバーサル型などの配置で圧電基板に形成することが好ましい。
【0027】
さらに、圧電基板1とくし歯状の電極層5の上にSiO2からなる保護層11を形成する。その後、保護層11への密着性を高めるCr,Tiなどからなる密着層9を保護層11の上に形成する。さらにその後、密着層9の上にPtからなる拡散防止層13を介してAuを含む選択層7を形成する。上記の層の形成方法は様々であるが、スパッタリング、蒸着またはメッキ等の薄膜形成方法を用いればよい。
【0028】
ここで、拡散防止層が脈動現象に与える影響を観察した実験結果を図4、図5に示す。
【0029】
図4は、拡散防止層を備えないバイオセンサ装置の出力信号の周波数特性を示し、横軸に出力信号の周波数を、縦軸に入力信号と出力信号の強度の比を示し、バイオセンサ装置に特定の検出対象物質としてチオール基を含む検出液を接触させる実験を10回実施したときの測定結果をプロットしたグラフである。この実験で各測定後に選択層を洗浄して実験を繰り返した。この実験結果から、拡散防止層を備えないバイオセンサ装置では測定毎に出力信号の強度の比が異なる脈動現象の発生が観測できる。
【0030】
一方、図5は、拡散防止層を備える本発明の第1の実施例のバイオセンサ装置1aの出力信号の周波数特性を示し、図4と同様に実験を実施したときの実験結果である。図4と図5の実験結果を比較すると、拡散防止層を備える本発明の第1の実施例のバイオセンサ装置1aは、拡散防止層を備えないバイオセンサ装置1dに比べAu表層でのチオール吸着反応などによる自己組織化膜の形成が安定するなどして脈動現象の発生が抑制され、出力信号の周波数特性が安定することが観測できる。
(第2の実施例)
図2に、本発明の第2の実施例であるバイオセンサ装置1bを模式的断面図として示す。
【0031】
本発明の第2の実施例では、LiTaO3からなる圧電基板3の上にTiからなる第1の密着層9aを形成したのちに、Ptからなる第1の拡散防止層13aを介してAuからなるくし歯状の電極層5を圧電基板3に形成する。その後に、Auからなるくし歯状の電極層5を覆うようにして圧電基板3の上面にSiO2からなる保護層11を形成する。このとき、保護層11の上には、Tiからなる第2の密着層9bを形成して、その後に、Ptからなる第2の拡散防止層13bを介してAuを含む選択層7を形成する。
【0032】
この場合、本発明の実施例1の効果に加え、くし歯状の電極層へ密着層9aの材料の拡散が拡散防止層13bによって抑制できる。この拡散抑制効果により、くし歯状の電極層5の励振および受振の効率のばらつきに起因した周波数特性の劣化が改善でき、出力信号の周波数特性を安定化するバイオセンサ装置1bを提供できる。
(第3の実施例)
図3に、本発明の第3の実施例であるバイオセンサ装置1cを模式的断面図として示す。
【0033】
本発明の第3の実施例は、選択層となる材料であるAuからなるくし歯状電極5aをTiからなる第1の密着層9を介して形成した水晶からなる圧電基板3を有し、密着層9と選択層となる材料であるAuからなるくし歯状電極5の間にPtからなる拡散防止層13cが形成されるバイオセンサ装置1cである。
【0034】
この場合、この場合、本発明の第1の実施例、および、本発明の第2の実施例で示した効果に加え、弾性表面波を励振および受振する選択層となる材料くし型の電極層5aの部分で選択層が形成されるため、センシング感度を更に向上させることが出来る。
【0035】
以上のように、本発明の実施例は、拡散防止層の材料としては、Pt、Niなどの材料を少なくとも1つを用いることができる。また、保護層の材料としては、SiO2、SiNなどの材料を少なくとも1つを用いることができる。さらに、上記に例示した材料をバイオセンサ装置の中で組み合わせて用いてもよい。
【0036】
本発明の実施例は圧電基板の材料としてLiTaO3を例示したが、水晶、LiNbO3、PZT系セラミックスのような圧電性をもつ材料を圧電基板の材料として用いることができる。
【0037】
本発明の実施例によれば、選択層に自己組織化膜が生成される特定の検出対象として、実施例に示した物質以外に、チオール、ジスルフィド、スルフィドなどの官能基をもつ有機硫黄化合物を含む物質を用いることができる。
【0038】
ここで、本発明に係るバイオセンサ装置の周波数特性を測定するには、バイオセンサ装置に発振回路を接続し、その後にくし歯状の電極層によってバイオセンサ装置の圧電基板の表面に弾性表面波を励振し、その後にバイオセンサ装置の出力信号の周波数を測定すればよい。この場合、バイオセンサ装置の出力信号の周波数を周波数測定器などにより周波数特性を求めることで、検出対象の有無及び濃度を検出することができる。
【0039】
なお、本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、種々の変更を加えて実施することが可能である。例えば、電極層の形状は、くし歯状の他に平板状に形成されてもよい。電極層が平板状のときは圧電基板の対向する主面の両面に平板状の電極層が形成されることが好ましい。さらに、選択層となる材料によって平板状の電極層が形成されることが好ましい。
【符号の説明】
【0040】
1a,1b,1c…バイオセンサ装置
3…圧電基板
5,5a…くし歯状電極
7…選択層
9,9a,9b…密着層
11…保護層
13,13a,13b…拡散防止層
15…遷移層
17…波伝送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、前記基体上に形成される密着層と、前記密着層上に形成される選択層を有する、特定の検出対象を検出するバイオセンサ装置において、前記選択層と前記密着層との間に拡散防止層が形成されることを特徴とする、バイオセンサ装置。
【請求項2】
前記基体が圧電基板と保護層で構成され、前記圧電基板と前記保護層との間に電極層を有し、前記保護膜上に前記密着層が形成されることを特徴とする、請求項1に記載のバイオセンサ装置。
【請求項3】
前記基体が圧電基板で構成され、前記選択層によって電極層が形成されることを特徴とする、請求項1に記載のバイオセンサ装置。
【請求項4】
前記保護層が SiO2またはSiNからなることを特徴とする、請求項2に記載のバイオセンサ装置。
【請求項5】
前記圧電基板がLiTaO3、LiNbO3または水晶からなることを特徴とする、請求項2、3のいずれか1項に記載のバイオセンサ装置。
【請求項6】
前記電極層がくし歯状に形成されることを特徴とする、請求項2、3のいずれか1項に記載のバイオセンサ装置。
【請求項7】
前記電極層が平板状に形成されることを特徴とする、請求項2、3のいずれか1項に記載のバイオセンサ装置。
【請求項8】
前記選択層がAu、Ag、Cuまたは酸化インジウム錫からなる群から選択される少なくとも1つの材料を含むことを特徴とする、請求項1に記載のバイオセンサ装置。
【請求項9】
前記密着層がTiからなることを特徴とする、請求項1に記載のバイオセンサ装置。
【請求項10】
前記拡散防止層がPt、Niからなる群から選択される少なくとも1つの材料からなることを特徴とする、請求項1に記載のバイオセンサ装置。
【請求項11】
Auを含む前記選択層と、Tiからなる前記密着層と、Ptからなる前記拡散防止層とを有することを特徴とする、請求項1から10のいずれか1項に記載のバイオセンサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−236921(P2010−236921A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82822(P2009−82822)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】