説明

バイオチップのピン支持機構及びバイオチップ

【課題】従来、バイオチップ内で使用されるマイクロツールは,そのマイクロ空間でのマイクロツールの支持方法の不安定さにより、マイクロツールを再現よく安定駆動させることは困難であった。
【解決手段】本発明は、マイクロツールを安定駆動させることを目的として,リング形状をもつマイクロツールを作成し,バイオチップ内にピラーを設け,そこにマイクロツールを組み付けることで,マイクロツールの駆動を安定化させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本研究は、医療分野、品種改良といったバイオ系産業分野におけるバイオチップ内で駆動されるマイクロツールにおいてピン支持することによりマイクロツールを安定駆動させる技術である。
【背景技術】
【0002】
従来、バイオチップ内での卵子、細胞、菌などのバイオ操作は顕微鏡から得られる画像情報に基づいて行われることがほとんどであったが、人的にバイオチップを操作することによる外乱の影響を防ぐために、チップ内で非接触での操作手法が必要となり、近年、マイクロ流路内で非接触操作方法が着目されている。その中でもマイクロツールを媒体としてバイオチップ内の非接触操作を行う技術は、多自由度に制御できることから広く使用されている.しかしながら、マイクロツールをバイオチップ内に支持または固定する場合,マイクロ空間内操作による組み付けミスなどが発生しやすく,マイクロツールの安定駆動を損なうという欠点があった。本発明は、マイクロツールの支持方法に関するもので、磁気マイクロツールを非接触に駆動することで安定駆動するマイクロツールが、バイオチップ内の閉じた空間で卵子、細胞、菌などの微小物体を1個ずつ安定に制御することを可能とする。また、従来、マイクロツールを支持・固定する手法は、紫外線硬化樹脂などに限られており,バイオチップとマイクロツールの形状を変化させてマイクロツール自身を安定に支持する手法は見当たらない。本発明は、マイクロツールの形状次第で多様な機能が生まれるといった利点があり、応用範囲が広い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来、バイオチップ内で使用されるマイクロツールは,そのマイクロ空間での微小物体の支持方法の不安定さによりマイクロツールを再現よく安定駆動させることが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
バイオチップ壁面上にピラー(円柱の突起部)を設け,さらにマイクロツールにもリング状の形状を設けることで,効果的に組み付けることが出来,マイクロツールの安定駆動に貢献する。
【発明の効果】
【0005】
バイオチップ内の閉空間において,微小なマイクロツールをピン支持により安定に保持させることで,マイクロツールの安定駆動を実現できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明のマイクロツールのピン支持機構の好ましい実施形態について、実施例に基づき添付の図面に基づいて詳細に説明する。各図の説明において同一の符号には同じものを示す。なお、マイクロツールが処理する対象物として細胞として卵子(卵細胞)を例にとって以下に説明するが、本発明はこれに限られるものではなく、本発明のピン支持機構は、体細胞等の任意の動物細胞、植物細胞、ES細胞、微生物、菌、DNA分子、ナノチューブ、ナノ材料等の微小物体のマイクロ空間内操作に対しても応用可能である。以下実施例に基づき、本発明の利用例を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0007】
図1は、本発明を実施するためのピン支持機構の構成図である。マイクロツール1は、シリコンゴムの一種であるポリジメチルシロキサン(PDMS)と酸化鉄(マグネタイト)の混合物により作成されている。
【0008】
マイクロツール1は、片端部にリング形状部2が設けられており、もう一端の先端部5には矢印形状等が設けられている。安定なピン支持機構を得るために,バイオチップ壁面3の上にピラー4(円柱の突起部)を形成する。ピラー4の直径は、マイクロツール1のリング形状部2がゆるく嵌合するように設計されている。マイクロツール1は、ピンセット操作で、バイオチップ壁面3の上に形成されたピラー4に、リングの穴を通して容易かつ確実に装着することができる。
【0009】
外部の非接触駆動力(たとえば、磁界)等により、装着されたマイクロツール1をピラー4の軸を中心として回転させ、先端部5を移動させることができる。本発明では、マイクロツール1のリング形状部2がピラー4にゆるく嵌合している為、少ない駆動力でマイクロツール1の先端部を安定に駆動することができる。
【0010】
図2は、バイオチップ内のソーティング機能を有する部位に本発明を実施した例を示す。矢印形状の先端部5とリング形状部2を有するマイクロツール1は、マイクロ流路6の分岐部7に設けられたピラー4に保持される。マイクロツール1は磁性体で磁化されているため、マイクロツール1の先端部5は、外部の非接触駆動部(例えば永久磁石等)により、安定に駆動することができる。
【0011】
マイクロ流路6を移動する微粒子8(卵子や細胞等)は、前もって粒径を顕微鏡等により検出することにより、左側のマイクロ流路9に導くか、または、右側のマイクロ流路10に導くかが判定される。判定された微粒子8が、分岐部7に到達した時にマイクロツール1の先端部5を外部の非接触駆動力(ここでは図示せず)で移動させ、一方の流路を塞ぐ。流路が塞がれることにより、微粒子8は開かれた流路に導かれてソーティングが実行される。
【0012】
本実施例では、ピラー4とマイクロツール1のリング形状部2がゆるく嵌合されている為、比較的少ない駆動力でマイクロツール1の先端部を安定に駆動できる。
【実施例2】
【0013】
図3は、バイオチップ内のバルブ機能を有する部位に本発明を実施した一例を示す。両端にリング形状のピン支持機構を持つマイクロツール12をマイクロ流路6に設置したマイクロバルブ機構13内の両端のピラー部11に保持させる。
【0014】
マイクロツール12は、外部の非接触駆動力により、流路を開閉するように駆動させることが出来る。マイクロ流路6内で微粒子8を通過させる場合は、マイクロツール12を開く方向に移動させ、微粒子8を遮断する場合は、マイクロツール12を閉める方向に移動させる。すなわち、マイクロツール12を外部の非接触駆動力により開閉方向に駆動することにより、マイクロ流路内にバルブ機能を持たせることができる。
【0015】
本実施例では、2個のピラー4にゆるく嵌合するリング形状を有するピン支持機構を設けることで、少ない駆動力でマイクロツール12を安定に移動させて、マイクロ流路を開閉することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】バイオチップの表面に円柱のピラーを作成し,そこにリング形状を持つマイクロツールを取り付ける図である。
【図2】ソーティング機能をもったバイオチップにおいて、マイクロツールが1個のピン支持機構を用いて,左右に安定駆動している図である.
【図3】バルブ機能をもったバイオチップにおいて、ピン支持機構を2個用いて,上下に安定駆動している図である。
【符号の説明】
【0017】
1 マイクロツール
2 マイクロツールのリング形状支持部。
3 バイオチップの壁面。
4 円柱形状ピラー部。
5 マイクロツールの先端部。
6 マイクロ流路
7 分岐部
8 微粒子
9 左側マイクロ流路
10 右側マイクロ流路
11 両端のピラー部
12 両端にリング形状を有するマイクロツール
13 マイクロバルブ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオチップ内の閉空間に設置されるマイクロツールを支持および駆動させる機構において、バイオチップ内にピラーを設置し、該ピラーにリング形状を持つマイクロツールを組み付けることで、マイクロツールを安定に支持および駆動させることを特徴とするバイオチップのピン支持機構。
【請求項2】
微小物体をソーティングする機能を有するバイオチップにおいて、流路内のマイクロツールが請求項1のピン支持機構で支持されていることを特徴とする請求項1に記載のバイオチップ。
【請求項3】
流路内にバルブ機能を有するバイオチップにおいて、流路内のマイクロツールが、請求項1のピン支持機構で支持されていることを特徴とする請求項1に記載のバイオチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−216571(P2009−216571A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61115(P2008−61115)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月13日 社団法人日本ロボット学会発行の「第25回日本ロボット学会学術講演会講演概要集」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構、「生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業」産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】