説明

バイオチップ製造装置

【課題】 複数プレートにプローブをスポットした際、各プレートでスポットした部分のプローブ量が均一なバイオチップを製造するバイオチップ製造装置を提供する。
【解決手段】 プローブを格納してあるマイクロタイタープレート2からプローブをスポットすべきプレート3までの距離を一定にし、ピン4によってマイクロタイタープレート2からプローブを取り出してからプレート3にスポットするまでの間に蒸発するプローブ溶液量をほぼ同量にし、プレートにスポットされるプローブの量を均一にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種類のプローブを複数プレートにスポットするためのバイオチップ製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数種類のDNA、RNA、たんぱく質等の生体高分子からなるプローブをガラスなどのプレートにスポットして、バイオチップを製造することが行われていた。図3は、この従来のバイオチップ製造方法の原理を説明する図である。図3に示すように、プローブDNAを付着するピン4と複数種類のプローブDNA1が入っているマイクロタイタープレート2を用意する。一方、プレート3として複数のガラス板を試料台11上に用意しておく。この後、マイクロタイタープレート2に入っているプローブDNA1をピン4に付着させ、ガラスプレート3の上に、ピン4に付着させたプローブDNA1を接触させてスポットする。スポット後のピン4には微量のプローブDNA1が残るため、洗浄液の入った洗浄槽5を有する洗浄部6で、ピン4を洗浄する。マイクロタイタープレート2に入っている全ての種類のプローブDNA1をそれぞれのガラスプレート3にスポットし終わるまでこの作業を繰り返し行い、図4に摸式的に示すようなバイオチップ12を製造する。バイオチップ12は、ガラスプレート3上に複数種類のプローブDNAのスポット13が所定の配列に配置されたものである。
【0003】
なお、従来のバイオチップの製造に関する文献としては下記のものが挙げられる。
【特許文献1】特開2000−157272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図3に示した従来のバイオチップの製造方法によると、マイクロタイタープレート2から各ガラスプレート3までの距離が異なるため、ピン4に付着したプローブDNAがガラスプレート3に到達するまでに生じる溶液の蒸発量が異なり、スポットされたプローブDNAの濃度はガラスプレートの置かれた場所で異なる。つまり、マイクロタイタープレート2に近い位置に置かれたガラスプレートにスポットされたプローブDNAに比較して、マイクロタイタープレート2から遠い位置に置かれたガラスプレートには濃度の高いプローブDNAがスポットされることになる。そのため、各ガラスプレートにスポットされるプローブの量が異なっていた。また、プローブ量が異なるため、スポットの形状及び大きさが均一にならず、不安定となった。
【0005】
バイオチップを用いた実験では、バイオチップにサンプルDNAをふりかけ、バイオチップにスポットしてあるプローブDNAとハイブリダイズさせ、どのプローブDNAとサンプルDNAが結合したかを検出する。結合量の測定は、サンプルDNAに加えた蛍光物質の強度測定によって行われる。このとき、ガラスにスポットされたプローブDNAの量が異なれば、プローブDNAに捕捉されるサンプルDNAの量が異なる。すなわち、スポットされているプローブDNAの量によってバイオチップから検出される蛍光強度が左右されるため、検出時の判定に支障をきたしていた。また、プローブDNAのスポット形状が不安定なため、結合度を解析するための処理が複雑化していた。
【0006】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みなされたもので、各プレートにスポットされたプローブDNAの量が均一なバイオチップを提供すること、及びそのバイオチップの製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、プローブをピンに付着させてプレートにスポットするまでにピンが移動する距離を全てのプレートに対して一定にする。このことによって、ピンに付着させたプローブをプレートまで搬送する間に蒸発する量を同じにして、スポットしたプローブの量をプレート間で均一にする。具体的には、プローブをスポットする場所を決め、各プレートをそのスポット位置に移動させ、プローブ容器又はプローブを取り上げてからプレートにスポットするまでの距離を一定にし、その間でピンから蒸発するプローブ溶液量を同じになるようにして、プレートにスポットされるプローブ量の各プレート間での均一化を図る。更に、プローブ容器の下面を冷却してプローブ溶液の蒸発を少なくし、待機中のプローブ溶液の濃度が変化しないようにする。また、プローブ容器周辺、及びプレートにピンでスポットを行う周辺の温度及び湿度を最適に調節する機構を備え、製造装置が設置された環境の温度、湿度の影響を受けることなく、常に最適な状態でスポットを行えるようにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、プレートにスポットしたプローブの量を各プレートにおいて均一にできる。そのため、プローブへのサンプル結合量も均一となり、検出時の判定精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。ここでは、プローブとしてDNAを用いる場合について説明する。しかし、プローブとして用いることができるのはDNAに限られず、RNAあるいはたんぱく質を用いることもできる。また、プレートとしてガラスプレートを用いた例で説明するが、ガラス以外にナイロン製のメンブレン、シリコンウェハー等も使用可能である。
【0010】
図1は、本発明によるバイオチップ製造装置の実施例を示す概略図である。図2は本発明によるバイオチップ製造装置の湿度及び温度調節機構を説明する概略図である。図2では本発明に係わる部分以外の構成要素は図示を省略してある。
【0011】
図1(a)に示すように、プローブとしてのDNAを付着するピン4と複数種類のプローブ1が入っているマイクロタイタープレート2を冷却機構9の上に用意する。一方、図1(b)に示すように回転試料台8に複数枚のガラスプレート3を用意しておく。冷却機構9の温度は、周囲温度より低く設定しておく。これによりマイクロタイタープレート2からの溶液の蒸発が少なくなり、濃度がバイオチップ製造中は一定に保たれる。この際、温度が一定になるように温度調節機構24を設置することにより、常に最適なスポットを行うための一定の温度環境下でスポットを行うことができる。
【0012】
この後、マイクロタイタープレート2に入っているプローブ1をピンに付着させ、ピン4をスポット位置7まで移動し、ガラスプレート3の上に、ピン4に付着させたプローブ1を接触させてスポットする。スポットが終了すると回転試料台8は回転し、次のプレート3がスポット位置7に移動する。その後、マイクロタイタープレート2から溶液をピン4に付着させ、スポット位置7に位置するプレート3にスポットする。この操作を回転試料台8上に設置したプレート3に対して順次実行する。1つの種類のプローブを全てのプレート3に対してスポットし終わったら、次の種類のプローブを同様にして全てのプレートに対してスポットする。プローブの種類を変更する際には、ピン4を洗浄槽5を有する洗浄部6で洗浄し、異なるプローブ同士が混じり合わないようにする。マイクロタイタープレート2に入っている全てのプローブ1をスポットし終わるまでこの操作を繰り返し行い、図4に示すバイオチップ12を製造する。
【0013】
図2において、本発明によるバイオチップ製造装置21は、図1で説明した回転試料台8、マイクロタイタープレート2をスタックしておくMTPスタッカ−22、湿度の調節をおこなう湿度調節機構23、温度の調節を行う温度調節機構24を備えており、湿度調節機構23の送風口231は、回転試料台付近に設けられている。湿度調節機構は一般に使用される超音波式で湿度を保つ機構やスチーム式で湿度を保つ機構等、湿度を一定に保つことが可能であればその方式は問わない。温度調節機構は、一般的なエアコンディショナー等のように温度を一定に保つことが可能な機構を備えていれば良い。
【0014】
図1に示した装置の場合、スポット位置7は定点であり、マイクロタイタープレート2からスポット位置7までの距離は一定であるため、ピン4に付着した溶液が移動時に蒸発する量は全てのプレートに対して一定になる。一方、各プレート3はスポット位置7に移動するためピン4の蒸発に影響は与えず、各プレート3間でスポットされるプローブDNA量は均一になる。
【0015】
同時に、スポット部位周辺に加湿送風口231により湿度を高められた空気を還流させることにより、更に蒸発量を低減させることが可能となる。この際、湿度が一定になるように湿度調節機構23を設置することにより、常に最適なスポットを行うための一定の湿度環境下でスポットを行うことができる。
【0016】
図5は、本発明によるバイオチップ製造装置の他の実施例を示す概略図である。図1に示した装置の場合、プレートは回転試料台に保持され、回転試料台の回転によってスポット位置に移動した。本実施例の場合、プレート3はプレート移動機構10によって直線的に移動されてスポット位置7に搬送される。この場合でも、マイクロタイタープレート2からスポット位置7までの距離は一定であるため、ピン4がプローブを入れたマイクロタイタープレート2からプレート3に移動する間に蒸発する溶液量は全てのプレート3に対して一定になる。従って、各プレート3間でスポットされるプローブDNA量は均一になる。
【0017】
図6は、本発明によるバイオチップ製造装置の更に他の実施例を示す概略図である。本実施例では、移動機構14によってプローブが入ったマイクロタイタープレート2とピン4をスポット対象プレート3の近くに移動し、スポットを行う。マイクロタイタープレート2は、周囲に純水をためておく溝15を有し、溝15からの純水の蒸発でマイクロタイタープレート周囲の湿度を上昇させてプローブ溶液の蒸発を抑止する。本実施例によっても、マイクロタイタープレート2からスポット位置7までの距離を一定にできるため、ピン4がプローブを入れたマイクロタイタープレート2からプレート3に移動する間に蒸発する溶液量は全てのプレート3に対して一定になる。従って、各プレート3間でスポットされるプローブDNA量は均一になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明によるバイオチップ製造装置の実施例を示す概略図。
【図2】本発明によるバイオチップ製造装置の湿度及び温度調節機構を説明する概略図。
【図3】従来のバイオチップの製造方法を説明する図。
【図4】バイオチップの模式図。
【図5】本発明によるバイオチップ製造装置の他の実施例を示す概略図。
【図6】本発明によるバイオチップ製造装置の更に他の実施例を示す概略図。
【符号の説明】
【0019】
1…プローブ、2…マイクロタイタープレート、3…プレート、4…ピン、5…洗浄槽、6…洗浄部、7…スポット位置、8…回転試料台、9…冷却機構、10…プレート移動機構、11…試料台、12…バイオチップ、13…スポット、14…移動機構、15…溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピンと、複数種類のプローブの入ったマイクロタイタープレートとを有し、前記ピンによって前記マイクロタイタープレートに入ったプローブを複数のプレートにスポットするバイオチップ製造装置において、
前記マイクロタイタープレートと前記プローブをスポットすべきプレート間の距離を一定にしたことを特徴とするバイオチップ製造装置。
【請求項2】
ピンと、複数種類のプローブの入ったマイクロタイタープレートとを有し、前記ピンによって前記マイクロタイタープレートに入ったプローブを複数のプレートにスポットするバイオチップ製造装置において、
前記マイクロタイタープレートに入ったプローブを前記ピンに付着させてから各プレートにスポットするまでに蒸発するプローブ溶液の蒸発量を略一定にしたことを特徴とするバイオチップ製造装置。
【請求項3】
ピンと、複数種類のプローブの入ったマイクロタイタープレートとを有し、前記ピンによって前記マイクロタイタープレートに入ったプローブを複数のプレートにスポットするバイオチップ製造装置において、
前記マイクロタイタープレートに入ったプローブを前記ピンに付着させてから各プレートにスポットするまでに前記ピンが移動する距離を略一定にしたことを特徴とするバイオチップ製造装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のバイオチップ製造装置において、前記マイクロタイタープレートの周囲を高湿度にする湿度制御手段を有することを特徴とするバイオチップ製造装置。
【請求項5】
請求項4記載のバイオチップ製造装置において、前記湿度制御手段は湿度調節機構を有することを特徴とするバイオチップ製造装置。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項記載のバイオチップ製造装置において、前記マイクロタイタープレートの温度を周囲温度より低下させる温度制御手段を有することを特徴とするバイオチップ製造装置。
【請求項7】
請求項6記載のバイオチップ製造装置において、前記温度制御手段は温度調節機構を有することを特徴とするバイオチップ製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−242729(P2006−242729A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−58348(P2005−58348)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(000233055)日立ソフトウエアエンジニアリング株式会社 (1,610)
【Fターム(参考)】