説明

バイオマスからの燃料アルコール製造方法及びその製造装置

【課題】バイオマスを原料として用い、アルコール燃料を製造するに際し、従来の固体発酵の欠点を克服し、迅速に、かつ高い収率でアルコールを生成させ、アルコール燃料とともに動物飼料として有用な残渣を回収する方法を提供する。
【解決手段】バイオマス原料の粉砕物又は摩砕物を、温度60〜180℃、圧力0.06〜0.2MPaの条件下で蒸煮して、水分60〜85%w.b.に調整したのち、25〜30℃まで急冷し、次いでクモノスカビ又は麹菌及び酵母又はザイモナス(Zymonas)菌を加えて、10〜33℃で固体発酵させ、生成したアルコールを分離回収することにより燃料アルコールを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスを原料として用い、水分を加えない固体状でアルコール発酵を行わせることにより、効率よく燃料用アルコールを製造する方法及びそれに用いる製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオマス原料からアルコール発酵により燃料アルコールを製造する方法は公知であり、例えばセルロース系バイオマスを含む培地にクロストリジウム・サーモセラムI−1−B(微工研菌寄第9510号)を培養して生成したエタノールを回収する方法(特許文献1参照)、バイオマスと少なくとも1種の基質変換酵素を接触させて中間体を生成させ、この中間体に少なくとも1種の中間体変換酵素を接触させて、実質的にすべての中間体をアルコールに変換させる方法(特許文献2参照)、粉砕した生ごみのデンプン濃度を調整し、糖化酵素を加え、得られた糖化処理水にあらかじめ培養したザイモナス・モビリス(Zymonas mobilis)菌を接種してアルコール発酵させて、もろみを蒸留してエタノールを回収する方法(特許文献3参照)などがこれまでに提案されている。
【0003】
これらのアルコール製造方法におけるバイオマスのアルコール発酵工程では、通常バイオマスの固形分を全糖分15%前後に調整したのち、これを80〜90℃で蒸煮し、58℃まで冷却し、α‐アミラーゼとグルコアミラーゼを加えて糖化後、34℃に冷却し、酵母を加えてアルコールに発酵させる液状アルコール発酵が行われている。
そして、この場合の発酵方式としては、回分方式、追添方式、半連続方式、酵母固定化連続方式、フラッシュ連続方式などが知られている。
【0004】
しかしながら、液状アルコール発酵においては、発酵に要する時間が、回分方式で75〜80時間、半連続方式で13〜20時間、酵母固定化連続方式で3〜8時間と比較的長いにもかかわらず、原料に対するアルコール生産量は、せいぜい1kg当り0.35リットルと少ない。
【0005】
また、これらの液状アルコール発酵法は、アルコールの生産速度に重点を置くあまり、投入エネルギーの低減を考慮しないため、バイオマス原料を水と混合した後の熱処理や生成液からのアルコールの蒸留の加熱エネルギーや残渣から動物飼料を回収する場合の乾燥エネルギーの消費量が大きくなるという欠点がある。また、原料に対して10〜20倍の容積の発酵槽を必要とするという欠点もある。
【0006】
これに対し、固体発酵においては、発酵槽の容積が原料に対し1.5倍程度で十分であるという利点はあるが、固体内に存在する空気中の酸素がアルコール発酵に必要な嫌気性条件を確保するために長時間を要する上に、デンプンの糖化と酵母によるアルコール発酵で原料を大量処理する場合、迅速に嫌気状態にもたらすのが困難であるという欠点がある。
【0007】
【特許文献1】特開平6−54694号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特表2005−523689号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】特開2007−111590号公報(特許請求の範囲その他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、バイオマスを原料として用い、アルコール燃料を製造するに際し、従来の固体発酵の欠点を克服し、迅速に、かつ高い収率でアルコールを生成させ、アルコール燃料とともに動物飼料として有用な残渣を回収する方法及びその製造装置を提供することを目的としてなされたものである。
【0009】
そして、本発明者は、バイオマス原料から燃料アルコールを製造する方法について種々検討した結果、エネルギー消費量の低減及びアルコール回収後の残渣の利用等を考慮すれば、固体発酵方式が適していることを見出したが、これを実現するためには、以下の課題、すなわち
(1)発酵時の原料の消毒を確実に行うことができ、発酵中の雑菌の滅菌が可能で安定した嫌気性条件を維持するために、発酵中に発生する代謝熱を除去し、常時30℃前後に材料温度を保持し得る構造、及び発酵生成物からアルコールを蒸留した後の固体残渣が殺菌された状態で取り出し得る構造をもつ発酵槽を設計すること、
(2)発酵の迅速化とアルコール収率の向上を実現するために、粉砕した原料を充填したときに生じる空隙に存在する酸素を追い出し、カビによる糖化とアルコール発酵を迅速に進行させること、
(3)糖化を促進するために麹やカビの生育に適した水分を保持し、かつ酸素を低レベルに保持し、カビによる糖化の進行状態を制御し、酵母やザイモナス菌の活性を維持してアルコール発酵を行わせるとともに、生成する有機酸によるpHの低下を防止すること、
を解決する必要がある。
【0010】
このほかにも、固体発酵によって発生する二酸化炭素の固定化及び利用法、アルコール蒸留残渣の飼料化に適した蒸留、家畜飼料として用いるために好適な状態を維持するために15%w.b.以下の水分まで乾燥する方法についても配慮するのが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、
(1)バイオマス原料として、糖又はデンプン含有量の多い植物組織体、例えば種実、茎葉及び根茎あるいは食品残渣を用いること、
(2)バイオマス原料を粉砕又は磨砕し、110〜130℃の過熱水蒸気を用いて、この粉砕物又は摩砕物の水分を60〜85%w.b.まで低下させ、かつ110〜180℃の水蒸気又は過熱水蒸気で殺菌と糖化を兼ねて加水分解を行いながら水分量を調節すること、
(3)上記の水分調節の際の原料の温度を、アルコール発酵で発生する二酸化炭素を回収し、高圧ガスコンプレッサーで圧縮して製造した冷媒を用いて10〜36℃に低下させること、
(4)冷却された原料にpH調整用として過熱水蒸気で殺菌した消石灰又は生石灰を加え、これに麹菌、クモノスカビ又は酵母を植菌すること、及び
(5)かさ密度を小さくし、粉砕物間の空隙の酸素量を減少させ、嫌気性発酵を促進するために、上記(4)の原料を圧密化し、塊状又はペレットにすることが必要であることを見出し、この知見に基づき本発明をなすに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、バイオマス原料の粉砕物又は摩砕物を、温度60〜180℃、圧力0.06〜0.2MPaの条件下で蒸煮して、水分60〜85%w.b.に調整したのち、25〜30℃まで急冷し、次いでクモノスカビ又は麹菌及び酵母又はザイモナス(Zymonas)菌を加えて、10〜33℃で固体発酵させ、生成したアルコールを分離回収することを特徴とする燃料アルコールの製造方法、上面をバイオマス原料投入口に、下面をドレインに形成し、かつ側面に複数の冷却用二酸化炭素噴射孔を、下方位置に水蒸気導入孔を有する筒状サイロと、その上面に接触して配置された冷却器と、サイロ上部においてサイロ内部と連通して配設されたアルコール精留管と、サイロ底部において連結して付設された残渣取出用サイロアンローダーとから構成されたことを特徴とする燃料アルコール製造装置、及び上面にバイオマス原料投入口を、下面にドレインを、かつ側面に複数の冷却用二酸化炭素噴射孔を有し、内部下方位置に水蒸気導入孔を配置した長方形サイロと、その上面外側に接触して配置された冷却器と、サイロ上部においてサイロ内部と連通して配設されたアルコール精留管と、サイロ底部において連結した付設された残渣取出用サイロアンローダーとから構成されたことを特徴とする燃料アルコール製造装置を提供するものである。
【0013】
また、上記の方法により副生するアルコール蒸留残渣又はアルコール発酵により発生する二酸化炭素を有効利用するには、上記のサイロアンローダーに接続した乾燥機や飼料製造装置、二酸化炭素に水素を混合して金属触媒又はメタン菌により反応させるメタン化装置を付設する必要がある。
【0014】
次に、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明方法において原料として用いられるバイオマスとは、セルロース又はデンプンあるいはその両方を含有する天然物由来の物質であって、例えばイネ、コウリャン、マイロ、トウモロコシ、サトウキビなどのイネ科植物、カンナ、タロイモ、サツマイモ、ジャガイモなどの根茎植物や麦などの茎葉、種実などがこれに包含される。これらのものはデンプン換算で最大になるときに収穫した青刈作物が好ましい。また、分別、収集されたデンプン系食品残渣も用いることができる。
【0015】
本発明方法においては、これらのバイオマス原料を粉砕又は磨砕によって、100mm以下の大きさに調製し、温度60〜180℃、圧力0.06〜0.2MPaの条件下で、水蒸気又は過熱水蒸気を用いて蒸煮し、殺菌と同時にバイオマス原料の水分を60〜85%w.b.に調節する。次いで、これを冷却二酸化炭素又はドライアイスを用いて可及的速やかに冷却する。
【0016】
冷却後、必要に応じ消石灰又は生石灰を0.001〜5質量%の範囲で加えてpH調整し、発酵に必要な微生物と混合して、ローラ又はペレタイザーにより圧密処理を行い、塊状又はペレット状に成形する。この際の圧力としては、0.06〜0.15MPaが好ましい。この際に用いる微生物としては、糖化用としては、クモノスカビ、黒麹菌又は黄麹菌、アルコール発酵用としては、酵母、ザイモナス菌(Zymonas mobilis)又はクロストリジュウム菌(Clostridium thermocellum)が用いられる。
【0017】
次に、上記の塊状又はペレット状に成形した発酵材料を縦型又は横型サイロに投入して発酵させる。このアルコール発酵によって発生する二酸化炭素を回収し、これを冷却するか又はドライアイス化して固体発酵の際に発生する発酵熱を除去し、バイオマス原料の温度を10〜30℃に保持する。このように、発酵温度を10〜30℃に保持することによって、入荷する使用原料の種類の変化に応じて発酵条件を定めることができ、7〜90日の発酵でアルコールを発生することができる。
また、サイロにおける培地の充填率を向上するには、ペレット化が有効であり、塊状やフレーク状の場合や粉体の場合には重量ローラで圧密化するのが有利である。
【0018】
本発明者は、先にバイオマス固体発酵方法として、外気を導入して酸素濃度0.01〜5.0%に維持した酸発酵帯域に、ペレット状に成形した固体バイオマス原料を、通性嫌気又は半好気条件下、酸発酵を行わせ、次いで上記の固体バイオマス原料ペレットを、圧縮緻密化して、その中の粒子間に存在する酸素を除去したのち、メタン発酵帯域に移し、嫌気的条件下でメタン発酵させる方法を開発したが(特願2007−26206号)、本発明の圧密化工程においては、この方法も用いることができる。
【0019】
次に、本発明の固体発酵に際しては、微生物として、糖化とアルコールを同時に行い得る菌、例えばクモノスカビ(Rhizopus oryzae)、ザイモナス菌(Zymonas mobilis)、クロストリジュウム菌(Clostridium thermocellum)を用いた混合アルコール発酵が好ましい。また、食品残渣のように繊維の多い原料に関してはセルラーゼを分泌する菌としてトリコデルマ菌(Trichoderma reesei)によるザイモナス菌との混合培養が好ましい。
【0020】
本発明方法における発酵の進行状況は、発酵槽の温度制御に用いている二酸化炭素中に混入してくるアルコール濃度又は酸素濃度を、ガスクロマトグラフィーや可視線、近赤外線又は赤外線分光法によって測定し、反応条件の管理を行う。
【0021】
一般に、固体アルコール発酵の終点は分かりにくいが、発酵槽内を循環する二酸化炭素内に含まれるアルコール濃度より推測できるので、この推測した結果と、もろみのサンプルから得たアルコール濃度より判断し、発酵槽底部付近に配置した管から水蒸気を吹き込み、水蒸気蒸留を行わせてアルコールを回収する。
【0022】
次いで、もろみのアルコール濃度が0.1〜0.2%に達するまで、水蒸気蒸留を続け、さらに過熱水蒸気によりもろみの水分が30〜35%の範囲になるまで乾燥を続行したのち、サイロから取り出し、通常の火力乾燥機により乾燥し、例えば飼料として用いる。
【0023】
次に、添付図面に従い、本発明の装置を説明する。
図1は、本発明方法の1例を示すフローシートであり、この図におい圃場において収穫された農産物Aは、食品残渣のうち、分別されたデンプン系残渣Bと混合されたバイオマス原料として、粉砕工程1、蒸煮工程2、冷却工程3を経て、植菌工程4に送られ、さらに圧密工程5でペレット化され、発酵工程6で処理されたのち、蒸留工程7で生成したエタノールが分離され、さらに精留工程12を経て貯留13される。
【0024】
一方、蒸留残渣は乾燥工程8を経て、乾燥飼料とするためにペレット化9されるか、あるいは冷却工程10を経て密閉貯蔵工程11に送られ、サイレージ飼料として貯蔵される。
固体発酵の特徴は、原料が仕込まれた後で発酵材料が発酵工程6において、発酵終了の確認がなされ、発酵槽内に直接水蒸気が供給されて蒸留し得ることであって、この点が液状発酵と異なっている。
【0025】
図2は、縦型サイロの固体発酵装置を示す縦断面説明図であって、原料Aはバケットエレベータ(図示せず)により原料投入口21より投入され、アルコール発酵に供される。この間発生する二酸化炭素は、サイロ上部から排出され、サイロ上面に配置された二酸化炭素冷却装置23で冷却されたのち、サイロ側面に配設されたリング状二酸化炭素噴射管22からサイロ内に噴出され、もろみの発酵熱の除去に用いられる。24は、この際の二酸化炭素を循環するための圧力ポンプである。
【0026】
この循環の際に生じる凝縮水はポンプで蒸気導入管26の下方からサイロ下部に戻される。蒸留は蒸気導入管26から供給される水蒸気又は過熱水蒸気により行われ、生成したアルコールは精留塔27で濃縮され、濃縮エタノールとして回収され、凝縮水はドレイン管28により抜き出され、例えばメタン発酵により液肥化され、肥料として使用される。
一方、蒸留残渣はサイロアンローダー29により排出され、肥料原料として利用される。
【0027】
図3は横型サイロ内の構造を示す縦断面説明図であり、その構造及び作用は縦型サイロの場合とほとんど同じであり、原料投入口21から投入されたバイオマス原料は、サイロ内においてアルコール発酵される。この発酵の間に発生する二酸化炭素は、二酸化炭素冷却装置23を経て、圧力ポンプ24により循環され、サイロ側面に配設されたリング状二酸化炭素噴射管22からサイロ内に噴射され、発酵熱の除去に利用される。この循環の際に生じる凝縮水は、上記と同様にしてサイロ下部に戻される。蒸留及び生成エタノールの精留、ドレインからの凝縮水の排出、利用は上記の縦型サイロの場合と同様に行われる。
この装置においては、サイロ内を循環する二酸化炭素を随時赤外線分光光度計30によりチェックし、その中のアルコール濃度又は酸素濃度を測定し、アルコール発酵条件の管理を行うようになっている。この条件管理は、また随時二酸化炭素サンプルを採取し、ガスクロマトグラフィー分析することにより行うこともできる。これによって従来勘に頼ってきた発酵の終了点を合理化できる。
【0028】
この分光学的方法によるアルコール濃度の主な分析波長は0.8、1.7、2.1又は2.3μmの3波長のスペクトル強度を重回帰分析することにより濃度分析を可能にした。この方法はスペクトル波長は異なるものについて、すでに知られている(特開2003−75341号公報)。
【0029】
図2及び図3に示す装置は、共にアルコール発酵の終了と同時に水蒸気をサイロ底部より送ってそのままアルコールの水蒸気蒸留を行う回分式発酵法である。水蒸気又は過熱水蒸気を使ってアルコールを蒸留させた残渣は、サイロアンローダー29によってサイロ下部より取り出し、乾燥又は冷却後密閉又は輸送用樹脂フィルム容器に収納してサイレージ化して家畜の餌として提供する。
【0030】
図4は余剰二酸化炭素の利用法を示す説明図であって、アルコール分離器31により、アルコールCから分離された余剰二酸化炭素Dは、水素ガス又は合成ガスEと混合されて、触媒層又はメタン発酵装置32に送られ、生成したメタンは、冷却器(又は除湿器)33を経てガスホルダー34に貯蔵される。
【発明の効果】
【0031】
木発明の燃料アルコール固体発酵装置は、過熱水蒸気によって原料水分を60〜70%に調整し、セルロース資化性菌を中心に植菌する固体発酵法である。植菌材料をペレット化して脱気すること、アルコール発酵槽内の温度制御をアルコール発酵時に発生する二酸化炭素を熱媒体として使用することを特徴とすることにより、アルコール発酵後のもろみを蒸留した後の残渣の水分は低下し、乾燥に要するエネルギーを低く抑制することができ、また、乾燥せずにサイレージとして高水分のまま家畜の飼料として供給できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に、本発明を実施するための最良の形態を説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
水分20〜25%w.b.の青刈りのイネを茎葉及び穂をそのまま20〜25mmの長さにカッタで粉砕し、これにクモノスカビ(Rhizopus属)と野生酵母を稙菌し、蒸留水を入れて40%w.b.の水分になるように調整した後、1リットルのポリエチレン容器に入れ、圧密して内部の空気を抜き、二酸化炭素を導入してヘッドスペースの空気をパージし、10〜20℃の室温で約5か月発酵させた。その結果、もろみのアルコール濃度として0.9%を得た。
【実施例2】
【0034】
食品残渣のうち、分別機によっておにぎりの外装フィルムを除去したでん粉質を95℃、0.06MPaの圧力の水蒸気を用いて20分間蒸煮し、冷却した後(水分35〜40%w.b.)、これに黒麹菌(Aspergillus niger)と酵母(Saccharomyces cerevisiae)を加えて混合し、30℃で10日間、アルコールで消毒した縦型円筒サイロ(2リットル)の発酵装置を用いて発酵させた。発酵後のもろみの一部を90℃の水蒸気蒸留を行い、30%前後のアルコールを得た。水蒸気蒸留前のもろみのアルコール濃度は8〜9%に達していた。
【実施例3】
【0035】
実施例2において、発酵後のもろみ1.5リットルを二酸化炭素を吹き付けて嫌気を維持しながら別の円筒サイロ(2リットル)に移動させ、これに200mlの酒母を混合させ、10日間再発酵させた。もろみのアルコール濃度は19〜20%に達していた。アルコールの発酵が終点に達していないときの再発酵法の有効な方法であることを確認した。
【実施例4】
【0036】
裁断した青刈りとうもろこし及び青刈りマイロを1:1の比率で混合し、120℃、0.16MPaの過熱水蒸気で消毒をかねて、水分を60%w.b.前後になるまで加熱し、冷却後、黄麹菌(Aspergillus oryzae)と酒母を加えて混合し、アルコールで消毒したペレタイザーにより、径6mm、長さ20mmのペレットを作成し、これを1リットルの広口壜に入れ、二酸化炭素で空気をパージして30℃で10日間発酵させた。もろみのアルコール濃度は10%に達し、水蒸気蒸留を70℃で行ったところ、アルコール濃度40〜42%を得た。
【実施例5】
【0037】
コーリャンの青刈りに小麦粉を加え、水分を55〜60%に調整し、105℃、0.01MPaの水蒸気で15分間消毒し、ドライアイスを用いて30℃に冷却し、これにクモノスカビを混合し、ペレット化し、径6mm、長さ20mmを2リットルの容器に充填し、二酸化炭素で空気を置換した後、密閉し30日間、30日間発酵させた。その後、もろみの質量で等量の水を入れ、110℃で常圧蒸留し、30%のアルコール濃度を得た。これを60℃の温度で低圧蒸留を行ったところ75%のアルコール濃度を得た。
【実施例6】
【0038】
飼料用のイネをホールで青刈りし、粉砕後(水分80%w.b前後)を125℃、0.2MPaの過熱水蒸気で蒸煮し、水分が65〜70%になったところで、ドライアイスから発生させた二酸化炭素で冷却し、クロストリジュウム属菌を植菌し、その後径6mm、長さ20mmのペレットをつくり、10リットルの厚手のポリエチレンフィルム容器を二重にしたものに6kg入れ、二酸化炭素で空気を置換し、20℃で1か月間発酵させた。もろみのアルコール濃度は10%前後であった。アルコールを常圧蒸留で蒸留させた後のもろみを、ドライアイスで冷却した後、発酵に用いたポリエチレン容器に再度入れ、20℃に1か月放置した。これを乳牛に給餌したところ問題なく食べた。
【実施例7】
【0039】
茎菜を含むカンナ1kgを50〜70mmに裁断し、これを噴流層内に入れ、120℃、0.2MPaの過熱水蒸気で蒸煮し、水分60%w.b.前後に下げて、常温の二酸化炭素を吹き込み、30℃に冷却後、質量で2%の消石灰を加え、これにクロストリジュウム属の菌を種菌として植菌し、これを径6mm、長さ20mmのサイズのペレット化したものを、消毒した1リットルのポリ壜に装入し、二酸化炭素で空気を置換し、34℃に設定したインキュベータにて保温し、10日後取り出して、等量の水を加えたもろみは6%濃度のアルコールであった。これを低圧水蒸気蒸留装置に入れて、60℃で蒸留したところ、アルコール濃度60%を得た。蒸留後の残渣を乾燥後、13%に乾燥し、ペレット飼料を調製し、肉牛の嗜好性を観察したところ、特に問題はなかった。
【実施例8】
【0040】
茎葉を含むさつまいも1kgを40〜50mmに裁断し、これを噴流層内に入れ、120℃、0.2MPaの過熱水蒸気で蒸煮し、水分65%w.b.前後に下げて、常温の二酸化炭素を吹き込み、30℃に冷却後、質量で1%の消石灰を加え、これにクロストリジュウム属の菌を種菌として植菌し、これを径6mm、長さ20mmのサイズのペレット化したものを、消毒した1リットルのポリ壜に装入し、二酸化炭素で空気を置換し、32℃に設定したインキュベータにて保温し、15日後取り出して、等量の水を加えたもろみは8%濃度のアルコールであった。これを低圧水蒸気蒸留装置に入れて、60℃で蒸留したところ、アルコール濃度65%を得た。蒸留後の残渣を乾燥後、13%に乾燥し、ペレット飼料を調製し、肉牛の嗜好性を観察したところ、特に問題がなかった。
【実施例9】
【0041】
ビール麦をホールで青刈りし、粉砕後(水分80%w.b.前後)を30℃、12時間放置した後で、125℃、0.2MPaの過熱水蒸気で蒸煮し、水分が65〜70%に低下したところで、ドライアイスから発生させた二酸化炭素で冷却し、これにクモノスカビ菌とクロストリジュウム属菌を植菌し、その後、径6mm、長さ20mmのペレットを作り、10リットル容の厚手のポリエチレンフィルム容器を二重にしたものに6kg程度を入れ、二酸化炭素で空気を置換し、20℃で1か月間発酵させた。
もろみのアルコール濃度は12%前後であった。アルコールを常圧蒸留で蒸留させたところ、20%前後のアルコール濃度のものを得た。蒸留後のもろみを、ドライアイスで冷却した後、発酵に用いたポリエチレン容器に再度収容し、20℃に1か月放置した。これを肉牛に給餌し、嗜好性を観察したところ、特に問題はなかった。
【実施例10】
【0042】
みかんを搾汁している果汁工場の搾りかす1kgを40〜50mmに裁断し、これを噴流層内に入れ、消石灰粉末20gを添加してpHを調整し、十分混合した後、125℃、0.2MPaの過熱水蒸気で蒸煮し、水分60%w.b.前後に下げて、常温の二酸化炭素を吹き込み、30℃に冷却後、黒麹菌とクロストリジュウム属の菌を種菌として植菌し、これを径6mm、長さ20mmのサイズのペレット化したものを、消毒した1リットルのポリエチレン製角型発酵槽に入れ、二酸化炭素で空気を置換し、発酵槽内の二酸化炭素中の酸素濃度を0.05〜0.2%に制御しながら、34℃に設定したインキュベータで保温し、40日後取り出し、等量の水を加えたもろみは3%濃度のアルコールであった。これを低圧水蒸気蒸留装置に入れて、60℃で蒸留したところ、アルコール濃度8%を得た。蒸留後の残渣を乾燥後、13%に乾燥し、糖蜜と小麦粉砕物少量を加えてペレット飼料を作製し、肉牛の嗜好性を観察したところ、特に問題はなかった。
【実施例11】
【0043】
電気炉で400〜500℃に維持したNi−Cr系触媒に4モルの水素と1モルの二酸化炭素の混合ガスを流し、純度95〜98%のメタンを得た。この反応速度はメタン菌を生物触媒とするよりも2〜5倍大きかったが、投入エネルギーが大きくなる欠点があった。
【実施例12】
【0044】
実施例10の横型角型発酵槽の下部より二酸化炭素を吹き込みながらもろみを別の角型発酵槽へ移動させ、これにセルラーゼ10mg/kgを混合した酒母を移動したもろみの質量に対して2%を噴霧器にて散布して再発酵させた。10日後のもろみのアルコール濃度は7%に達していた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
バイオマス原料から効率よく燃料用アルコールを得ることができ、蒸留残渣は肥料、飼料の材料として利用し得るので、バイオマスの利用技術として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明方法の1例を示すフローシート。
【図2】本発明の縦型サイロ方式固体発酵装置の縦断面説明図。
【図3】本発明の横型サイロ方式固体発酵装置の縦断面説明図。
【図4】余剰二酸化炭素の利用法を示す説明図。
【符号の説明】
【0047】
1 粉砕工程
2 蒸煮工程
3 冷却工程
4 植菌工程
5 圧密工程
6 発酵工程
7 蒸留工程
8 乾燥工程
9 ペレット化
10 冷却工程
11 密閉貯蔵工程
12 精留工程
13 貯留
21 原料投入口
22 リング状二酸化炭素噴射管
23 二酸化炭素冷却装置
24 圧力ポンプ
25 管路
26 蒸気導入管
27 精留塔
28 ドレイン管
29 サイロアンローダー
30 直接可視・近赤外線分光光度計
31 アルコール分離器
32 触媒層又はメタン発酵装置
33 冷却器(除湿器)
34 ガスホルダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス原料の粉砕物又は摩砕物を、温度60〜180℃、圧力0.06〜0.2MPaの条件下で蒸煮して、水分60〜85%w.b.に調整したのち、25〜30℃まで急冷し、次いでクモノスカビ又は麹菌及び酵母又はザイモナス(Zymonas)菌を加えて、10〜33℃で固体発酵させ、生成したアルコールを分離回収することを特徴とする燃料アルコールの製造方法。
【請求項2】
粉砕物又は摩砕物に消石灰又は生石灰0.001〜5質量%を混合し、pHを中性に保ち、温度60〜180℃、圧力0.06〜0.15MPaで蒸煮する請求項1記載の燃料アルコールの製造方法。
【請求項3】
急冷をドライアイス又は冷却二酸化炭素で行う請求項1又は2記載の燃料アルコールの製造方法。
【請求項4】
急冷後、原料を塊状又はペレット状に成形して後続の処理を行う請求項1ないし3のいずれかに記載の燃料アルコールの製造方法。
【請求項5】
発酵熱を除去しながら行う請求項1ないし4のいずれかに記載の燃料アルコールの製造方法。
【請求項6】
発酵により生成する二酸化炭素中に混入するアルコール濃度と酸素濃度を、ガスクロマトグラフィー分析又は可視線、近赤外線又は赤外線吸収スペクトル分析により監視しながら反応条件を管理して行う請求項1ないし5のいずれかに記載の燃料アルコールの製造方法。
【請求項7】
アルコール発酵により発生する二酸化炭素に水素を混合し、金属触媒又はメタン菌によりメタン化する工程を併設した請求項1ないし6のいずれかに記載の燃料アルコールの製造方法。
【請求項8】
上面をバイオマス原料投入口に、下面をドレインに形成し、かつ側面に複数の冷却用二酸化炭素噴射孔を、下方位置に水蒸気導入孔を有する円筒状サイロと、その上面外側に接触して配置された冷却器と、サイロ上部においてサイロ内部と連通して配設されたアルコール精留管と、サイロ底部において連結して付設された残渣取出用サイロアンローダーとから構成されたことを特徴とする燃料アルコール製造装置。
【請求項9】
上面にバイオマス原料投入口を、下面にドレインを、かつ側面に複数の冷却用二酸化炭素噴射孔を有し、内部下方位置に水蒸気導入孔を配置した長方形サイロと、その上面外側に接触して配置された冷却器と、サイロ上部においてサイロ内部と連通して配設されたアルコール精留管と、サイロ底部において連結した付設された残渣取出用サイロアンローダーとから構成されたことを特徴とする燃料アルコール製造装置。
【請求項10】
ガスの分析手段を備えた請求項8又は9記載の燃料アルコール製造装置。
【請求項11】
乾燥器を連結した上、粉体又はペレット状の飼料製造装置を併設した請求項8、9又は10記載の燃料アルコール製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−136202(P2009−136202A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315305(P2007−315305)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(505112152)株式会社筑波バイオテック研究所 (6)
【Fターム(参考)】