説明

バイオマスを発熱量とエネルギー残存率の高い燃料に変換する低温炭化物の製造方法

【課題】 木材等のバイオマスを低温炭化することによって、発熱量とエネルギー残存率が高い燃料としての特徴を持つ低温炭化物の製造方法に関するものである。
【解決手段】
木材などバイオマスを、ロータリーキルンを用い12〜19%の酸素濃度で、自己発熱性を生かしながら250〜350℃、5〜60分の加熱条件で、発熱量5,500〜7,500kcal/kg、収率50〜85%、エネルギー残存率60〜85%の低温炭化物を提供する。本低温炭化物は重油や水との混合スラリ燃料とすることにより、重油と同様な扱いが可能となり、重油代替の燃料として石油資源の消費節減に貢献する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は木材等の粉砕されたバイオマスを、電気加熱方式のロータリーキルンを用い、酸素濃度12〜19%、加熱温度250〜320℃、加熱時間5〜60分間の条件で、収率50〜85%、発熱量5,500〜7,500kcal/kg、エネルギー残存率60〜85%の燃料に変換する低温炭化物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人類は科学技術の発達により利便性を与えられたが、その一方炭酸ガスなどの増加による地球温暖化が大きな環境問題となり、化石資源の利用を極力抑え、再生資源であるバイオマスを燃料として用いることに大きな関心が払われるようになった。
燃料として用いられるバイオマスの種類は、木質廃棄物、農産廃棄物、生ごみ、汚泥、家畜糞尿等多数あり、これらは全てカーボンニュートラルな原料で炭化物製造に用いることは可能である。しかし、生ごみ、汚泥、家畜糞尿等は微少粒子、高水分、軟質などのため乾燥に多大なエネルギーを要し、炭化炉内で均質分散が困難で、また生活環境の中に悪臭を放出するため、現実的にはこのような種類のバイオマスを炭化して燃料として用いることは不向きである。結局燃料資源としては、適度な形状に粉砕され撹拌混合が容易な間伐材、林地残材、製材廃材、建築廃材、流木などの木質系材料やもみ殻、麦殻、稲殻、トウモロコシ残渣などの農産廃棄物等が好ましい。
【0003】
木炭は昔から燃料として使われていた。これらを工業的に製造する方法として、ロータリーキルン法、流動床法、スクリュー法等があるが、これらの方法は全て炭化温度を400℃以下に制御することが困難で、結局400℃以上の高温度で木炭を製造している。
これらの方法の中でロータリーキルンは、適切な形状に粉砕した原料を用いれば、均質撹拌混合が容易で特別な訓練を受けずに取り扱うことが出来るので、本発明はロータリーキルンを用いた低温炭化物の操作方法を提供するものである。
【0004】
従来の木炭の製造温度は400℃以上であった。木材の熱分解は加熱温度と共に230℃前後から急速に進行し350℃前後でほぼ終了する。その後は加熱温度と共に徐々に重量減少が進行するのみである。従来の木炭製造技術では、外部加熱または自己燃焼熱の調整が難しく、また自己発熱の調整技術がなかったため、350℃以下の温度を厳密に制御することが出来ず、400℃以上の高温でしか製造できなかったため、木炭の収率は高々10〜30%程度に過ぎなかった。
木材の発熱量をHkcal/kg、木炭の発熱量をHkcal/kg、木炭の収率をα%、木炭に残るエネルギー残存率をE%とすれば、エネルギー残存率は次式で計算される。
E−α×H÷H
燃料用の木炭を調査し計算した結果、エネルギー残存率は10〜30%程度に過ぎなかった。
【0005】
木炭の収率を上げる方法として、炉内の雰囲気を窒素ガス等不活性ガスで置換し、200〜500℃の温度で木材を半炭化する方法(特開2003−206990)が提案されている。これは極めて収率が高くなる特長をもつが、不活性ガス下での加熱のため熱分解は吸熱反応となり、所定の温度を保持するために必ず外部熱源を供給し続けなければならない欠点をもつ。即ちこの方法では外部供給電力を削減することは出来ない。
【0006】
木炭の製造コストを下げるため、原料自身の燃焼熱や、排煙を燃焼しその燃焼熱を熱源とする方法(NEDO委託事業報告書、p50,2003年)も紹介されている。これはエネルギーコストを低下するために極めて魅力ある方法である。しかし、400℃以上の高温の場合は使用可能であるが350℃以下の低温度の精密な温度制御は困難であり、低温炭化物の熱源として用いることは出来ない。結局、温度制御を容易に行える電気ヒーター用いること及び自己発熱の調整を行うこと無しに350℃以下の低温度を制御することは困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、木炭の製造技術は全て炭化温度が400℃以上と高いため、発熱量は木材に比し増大するが収率が低く、結局木炭に残るエネルギー残存率は高々10〜30%程度に過ぎない。従って、本発明では連続炭化法としてロータリーキルンを用い、発熱量が5,500〜7,500kcal/kg、エネルギー残存率が60〜85%の低温炭化物を製造する方法、即ち350℃以下の加熱温度を外部供給電力と自己発熱で調整する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ロータリーキルン本体の加熱は複数個のヒーターを炉体の外部に取り付け、分離加熱方式で行う。炉体入り口側が所定の温度に達すると、入口側のヒーター1〜2個のみによるエネルギー供給と木材に与えられた蓄熱の放散も同時に起こり、これらのバランスによって350℃以下の温度を炉体の前半で精度良く調整できる。
また、木材は炉壁に接触している間熱伝導を受け150℃前後から徐々に自己発熱を起こし、220℃前後以上の温度に達すると外部からの供給熱量が無くても所定温度の上昇が続くようになる。この温度状態に達すると後半のヒーターは全て切断し、撹拌翼で持ち上げられた木材が下方に落下する際に周囲の空気へ自己発熱の一部を放熱するが、この蓄熱と放熱のバランスを滞留時間や炉体の回転数、更に原料の充填率で調整し、所定の低温度を維持することが出来る。特に充填率は重要な要素で、5〜35%に調整する必要がある。5%より少なくなると自己発熱量の蓄積よりも放熱の方が大きくなり、所定の温度を自己発熱のみで維持すすることは出来ない。また35%を超えると放熱よりも蓄熱の比率が大きくなり、過剰な温度上昇を来す結果をもたらす。
しかし、このような350℃以下の低温加熱で、発熱量が5,500〜7,500kcal/kg、エネルギー残存率が60〜85%の低温炭化物を自己発熱を主として製造するためには炉体内部の酸素濃度の調整を13〜19%にする必要がある。酸素濃度の調整は、発生した煙を排出するための排煙管に排煙ファン及びダンパーを取り付け、排煙操作と同時に酸素濃度計や負圧計を観測しながら所定の濃度に調整することが出来る。
【発明を実施するための最良の手段】
【0009】
原料となる木質バイオマス等は、炉体の中で連続的に回転を受けながら撹拌混合を起こし、均質な低温炭化物に変質するためには粉砕物の粒度を調整する必要がある。長径10cmの大きさでも木材の内部は表面と同様な炭化を受けるが、迅速で均質な炭化を起こし取り扱いやすさを向上するためには3cm以下の粒度が好ましい。また、自己発熱を極力早め迅速な加熱を行うためには含水率は10%以下に、より迅速、安定した加熱を行うためには5%以下の含水率に乾燥した原料を用いることが好ましい。
発熱量が5,500〜7,500kcal/kg、エネルギー残存率が60〜85%の低温炭化物を得るためには、酸素濃度12〜19%に調整した状態で、炭化温度を250〜320℃、加熱時間を5〜60分に調整する必要がある。250℃以下の温度では収率は増大するが発熱量は上昇せず、また320℃以上では逆に発熱量は増大するが収率は著しく低下する。加熱時間も高温度の場合は5分程度で所期の製品を得ることが出来るが、5分以下では発熱量の大きなものを得ることは困難である。また、低温側で加熱する場合は60分程度で所期の製品を得ることが出来るが、それ以上の時間になると発熱量は増加しても収率が低下する。また、酸素濃度が12%以下の場合は収率は上がるが発熱量は低下し、19%以上の場合には発熱量は上がるが収率は著しく低下する。
結局、木材から発熱量5,500〜7,500kcal/kg、エネルギー残存率60〜85%の低温炭化物を得るためには、上述の通り酸素濃度12〜19%、炭化温度250〜320℃、加熱時間5〜60分が最適である。
【実施例】
【0010】
具体的な製造例は下記の通りである。
バイオマス原料として混合広葉樹粉砕物を用いた。粒度は2〜8mmの割合が約90%、含水率は5%以下である。
ロータリーキルンは内径40cm、長さ4mの連続回転式電気加熱炉で、加熱部分にはヒーター5ヶが分割設置され、各ヒーターは温度設定を分離して制御出来るようになっている。
炉体の操作条件は長さ方向の傾斜角は0.2〜2度、回転数は1.5〜15回転/分とし、酸素濃度を排煙速度の調整、即ち排煙ファンの回転数及びダンパーの開閉により12〜19%に調整した。原料の供給速度は150L/時、炉内の充填率を25%とし、加熱温度を250〜320℃、加熱時間を5〜60分の範囲で熱処理し、本発明品を得てその発熱量、収率を測定した。
その結果、収率は50〜85%、発熱量は5,500〜7,500kcal/kgの低温炭化物が得られたが、最も好ましいバイオマス低温炭化物の発熱量とエネルギー残存率ははそれぞれ6,500kcal/kg、80%であった。また、この操作方法により、最も入口に近いヒーター及び隣接するヒーターのみが電力を使用するのみで、残り3ヶのヒーターは全て電力の供給が遮断されても、自己発熱が良好に調整されることにより所定の温度を保持し続けることが出来た。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上述の通り構成されているので、次に記載する効果を有する。
1.バイオマス原料から生ずる排ガスを燃焼した排熱を、炭化を行うための熱源として使用することが最も安価と言われている。従来のように400℃以上の炭化物を製造する場合は、排気ガスに含まれる可燃性ガスの濃度が高くなるためその方法は可能であり極めて魅力的な方法であるが、350℃以下の温度では排ガスのみを燃焼することは困難で、補助燃料が必要になる。特に300℃以下の加熱温度を排ガスの燃焼熱のみから得ることは極めて難しい。しかも、厳密な温度制御は更に困難になる。従って、高発熱量の低温炭化物を高収率で得るためには高い精度の温度コントロールが必要で、この制御は電気加熱の場合が最も容易であり、本発明の特長の一つである。しかも、外部熱源として使われる電気量はわずかであり、安価な製造が可能である。
2.従来の連続炭化炉は摺動部や接合部の密閉性は完全ではなく、若干の空気の漏入性をもつ不安はあるが、本発明のように炉内の酸素と木材等との反応による自己発熱を必要とする場合は若干の空気の漏入性のある方が好ましく、従って漏入性の防止方法等を付加する必要はなく、従来と同様に安価な設備で製造可能になる。
3.本発明で使用可能な連続炭化炉の一つはロータリーキルン方式であり、現在でも全国各地で使われ設備の操作に習熟している。また、木質バイオマスは小規模地域分散型の資源であり、地域ごとにその収集を行うことが望ましい。従って、資源の確保と製造技術を考慮すると、木材を原料として低温炭化物を製造する体制は地産地消型産業として全国規模での展開が可能である。
4.石炭と水との混合により、貯蔵時や輸送時の発火事故を防ぐことや粉塵問題の防止、貯蔵方法、さらには重油等とのスラリー燃料化が容易になる。本発明の低温炭化物は石炭と同様に水とのスラリー燃料及びこれらと重油との混合スラリー燃料とすることが出来るため、従来の重油と同様に扱うことが可能となる。このため、本混合スラリーは重油の代替燃料として地域各施設設備の暖房燃料として使うことが可能で、化石燃料の節減や地球温暖化の防止に寄与出来る。
5,従来パルプチップ以外に使われることが少なかった木質廃材等は、新たな利用途の開発が望まれていたが、本発明により燃料の一部として使われることにより、地域の林業・林産業等が活性化される。
6.台風や土砂崩れによって発生する厖大な流木を、貴重な燃料資源として使用が可能となり、流木の迅速な処理と景観の整備に貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータリーキルンで、粒度10cm以下に粉砕された木材等のバイオマス資源を、酸素濃度を12〜19%に保った状態で、250〜320℃の加熱温度を5〜60分保持し、外部供給電力量を大幅に削減することを特徴とする発熱量5,500〜7,500kcal/kg、収率50〜85%、エネルギー残存率60〜85%となるバイオマス低温炭化物の製造方法。
【請求項2】
ロータリーキルン内の酸素濃度を排煙管に取り付けた排煙ファン及びダンパーの操作により、排煙と同時に炉内の酸素濃度を12〜19%に調整することを特徴とする請求項1に記載する低温炭化物の製造方法。
【請求項3】
連続回転するロータリーキルンの中でバイオマス粉砕物を撹拌混合し、滞留時間や炉内への充填率を調整しながら自己発熱の蓄積と放熱のバランスをとることによって250〜320℃の炉内温度を維持することを特徴とする請求項1に記載する低温炭化物の製造方法。

【公開番号】特開2006−291155(P2006−291155A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−139054(P2005−139054)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(505135003)
【Fターム(参考)】