説明

バイオマーカーの細胞内局在性に基づいて癌予後を行う方法

本発明は、細胞内区画中のチミジル酸シンターゼのようなバイオマーカーの定量化に基づいて、ある種の癌、例えば大腸癌に罹患した患者の予後を行う方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本出願は、2006年7月13日に出願された、米国仮出願第60/830,894号の利益を要求し; その内容は、その全体において参照によって本出願に組み込まれる。
【0002】
本出願を通して、様々な刊行物が、著者名および日付、あるいは特許または特許公開番号によって括弧内において参照される。これらの刊行物についての十分な引用は、請求項の直前の明細書の最後に見出すことができる。その全体におけるこれらの刊行物の各々の開示は、参照によって本出願に組み込まれ、本出願日の時点で当業者に知られた技術内容について完全に記載する。
【0003】
結腸直腸癌は、先進国における癌関連の罹患率および死亡率の主な原因である。初期段階で診断された患者は、リンパ節に広がる前に、外科手術で潜在的に治療される。多くの患者は初期の段階で診断されているが、大半の患者は、疾病の転移拡大を抑制するために手術的周囲放射線療法および/または化学療法を頻繁に受ける。しかしながら、治癒的切除を受けた多くの患者は、最終的には再発性疾患にかかっている。結腸および直腸の癌はたいてい沈黙的でゆるやかに進行するため、生存率を高めるためには、正確かつ早期の診断、生存予測、治療処理が必要である。
【0004】
したがって、疾病プロセスの過程において大腸癌を初期に特定する必要があり、とりわけ化学療法抵抗性の癌を特定する必要がある。より具体的には、化学療法的薬剤に対する腫瘍形成性および抵抗性の両方に関する癌細胞のふるまいが、完全に定められていない特定の遺伝子群の発現によって媒介されるということが当該技術分野において明らかになっているので、大腸癌の化学耐性のための有効な分子マーカーとして供給する遺伝子および遺伝子群を同定する必要がある。また、大腸癌の臨床的に有効な治療学的ターゲットを提供する遺伝子または遺伝子群を同定する必要がある。
【0005】
大多数の腫瘍治療学は、特に癌細胞中のタンパク質を標的にするので、タンパク質発現の測定は、このような治療学の潜在的効果を決定するのに重要である。組織サンプル中のチミジル酸シンターゼ(TS)を検出する分析が知られおり、結腸直腸癌患者のTS発現と生存率との関係を調査する研究が行われてきた。大部分は、高いTS発現で全体として低い生存率を示す。しかしながら、これらの値は大きく変動し、TSの正確な予後徴候の値は依然として分っていない。(Popat et al Journal of Clinical Oncology 22(3) Feb 1, 2004, Thymidylate Synthase Expression and Prognosis in Colorectal Cancer: A Systematic Review and Meta- Analysis. 組織断片におけるTSの一貫した測定のための新たな方法が必要とされている。
【0006】
チミジル酸シンターゼ(thymidylate synthase)(TS)は、DNA合成にとって重要であるdTTPの生産のためのデオキシウリジル酸塩の還元的メチル化を触媒する。その発現の制御は、5-FU(大腸癌用の長年の化学療法剤)に対する応答の調節において重要であることが示されている。高い発現レベルは、低下した生存率および治療に対する応答についてのマーカーであることが分っている。最近、TSは、転写後調節を含む他の細胞性機能を有していることが実証された。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、患者の組織サンプル中に存在する対象の細胞内の第1の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量、および第2の細胞内区画中に存在する当該特定のバイオマーカーの量を決定し、第2の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量に対する第1の細胞内区画中に存在するバイオマーカーの量の比率を取得し、前記得られた比率を、一連の予後と関連づけられた一連の所定の比率と相関させ、患者についての予後を行う、ことを含む、ある種の癌に罹患した患者についての予後を行う方法を提供する。
【0008】
本発明はまた、(a)患者の組織サンプル中に存在する対象の細胞内の第1の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量、および第2の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量を決定し、(b)第2の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量に対する第1の細胞内区画中に存在するバイオマーカーの量の比率を取得し、(c)前記得られた比率を、特定種の癌の一連の段階と関連づけられた多数の標準参照比率と比較し、(d)前記得られた比率に近い標準参照比率に基づいて特定の癌の進行の段階を決定する、ことを含む、患者におけるある種の癌の進行の段階を決定する方法を提供する。
【0009】
本発明はまた、(a)患者の組織サンプル中に存在する対象の細胞内の第1の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量、および第2の細胞内区画中に存在する当該特定のバイオマーカーの量を決定し、(b)第2の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量に対する第1の細胞内区画中に存在するバイオマーカーの量の比率を取得し、(c)前記得られた比率を、多数の可能な治療の各々での処理に対する当該種類の癌の細胞の応答性および非応答性と関連した多数の標準参照比率と比較する、ことを含む、ある種の癌に罹患した患者の適切な治療を選択する方法であって、患者の適切な治療が、得られた比率に数値的に最も近い参照比率に基づいて選択される、方法を提供する。
【0010】
本発明はまた、(a)患者の組織サンプル中に存在する対象の細胞内の第1の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量、および第2の細胞内区画中に存在する当該特定のバイオマーカーの量を決定し、(b)第2の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量に対する第1の細胞内区画中に存在するバイオマーカーの量の比率を取得し、(c)前記得られた比率を、特定の治療での処理に対する当該特定の癌の細胞の応答性および非応答性と関連した多数の標準参照比率と比較する、ことを含む、特定の治療がある種の癌に罹患した患者で成功する可能性を決定する方法であって、特定の治療の成功の可能性が、前記得られた比率に数値的に最も近い参照比率に基づいて決定される、方法を提供する。
【0011】
本発明はまた、(a)チミジル酸シンターゼに特異的な第1の染料、(b)細胞の第1の細胞内区画に特異的な第2の染料、(c)細胞の第2の細胞内区画に特異的な第3の染料、および(d)キットを使用するための説明書、を含むキットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、2つの染色された結腸直腸の腫物コアの代表的イメージである。 A.) 高TS発現比率およびB.) 低TS発現比率を表わす2つの組織コアの60×顕微鏡写真が各パネル中に示されている。また、Dapi(核を描写)およびサイトケラチン/cy3(腫瘍上皮および細胞質を描写)のイメージが描写される。
【図2−1】図2は、余剰組織コアについてのAQUAR(登録商標)発現スコアの一次回帰分析である。 訓練セットの663ケースのうち152について余剰組織コアのAQUAR(登録商標)スコア間の一次回帰分析が、A.)核、B.)細胞質、およびC.)発現率についてR-およびSpearman's Rho値でグラフ上に示された。D.)同じ余剰組織コアについての核AQUA(登録商標)スコアと発現比率との一次回帰分析。
【図2−2】図2は、余剰組織コアについてのAQUAR(登録商標)発現スコアの一次回帰分析である。 訓練セットの663ケースのうち152について余剰組織コアのAQUAR(登録商標)スコア間の一次回帰分析が、A.)核、B.)細胞質、およびC.)発現率についてR-およびSpearman's Rho値でグラフ上に示された。D.)同じ余剰組織コアについての核AQUA(登録商標)スコアと発現比率との一次回帰分析。
【図3】図3は、核AQUA(登録商標)スコアのKaplan-Meir生存率分析である。 最適カットポイント選択(X-TileTM)を使用する訓練セット(A)でのKaplan-Meier生存率分析は、TS核発現腫瘍の上位60%について全疾患特異的患者生存率において72から56%までの減少を示した。Crosseは打ち切り例を示している。Monte Carlo (最適なカットポイントの選択のためのロバスト統計(robust statistic))および訓練/検証(1:2の患者集団比率)p-値の両方は、それぞれ<0.001および0.004と著しく有意である。図内挿入図(Inset):核TS AQUA(登録商標)スコアの分布分析は、分布内に最適なカットポイントの位置(27.41)を示している。このカットポイントは、続いてcensor variable (B)として再発までの時間を使用して検証セットに適用した。カットポイントは、p=0.182と有意ではなく、核AQUA(登録商標)スコアの類似の分布を与えた(inset)。
【図4】図4は、細胞質AQUA(登録商標)スコアのKaplan-Meier生存率分布である。 最適なカットポイント選択(X-tileTM)を使用する訓練セット(A)でのKaplan-Meier生存率分析は、TS細胞質発現腫瘍の上位54%について全疾患特異的患者生存率において70から58%までの減少を示した。Crosseは打ち切り例を示している。Monte Carlo (最適なカットポイントの選択のためのロバスト統計)および訓練/検証(1:2の患者集団比率)p-値の両方は、それぞれ0.02および0.014と著しく有意である。図内挿入図(Inset):細胞質TS AQUA(登録商標)スコアの分布分析は、分布内に最適なカットポイントの位置(32.17)を示している。このカットポイントは、続いてcensor variable (B)として再発までの時間を使用して検証セットに適用した。カットポイントは、p=0.710と有意ではなく、細胞質AQUA(登録商標)スコアの類似の分布を与えた(inset)。
【図5】図5は、核−対−細胞質AQUA(登録商標)スコアの発現比率のKaplan-Meier生存率分析である。 最適なカットポイント選択(X-TileTM)を使用する訓練セット(A)でのKaplan-Meier生存率分析は、核/細胞質比率の上位19%の腫瘍について全患者生存率において66から51%までの減少を示した。Crosseは打ち切り例を示している。Monte Carlo (最適なカットポイントの選択のためのロバスト統計)および訓練/検証(1:2の患者集団比率)p-値の両方は、それぞれ<0.001および0.005と著しく有意である。図内挿入図(Inset): TS比率スコアの分布分析は、分布内に最適なカットポイントの位置(1.01)を示している。このカットポイントは、censor variable (right)として再発までの時間を使用する検証セットに適用した。カットポイントは、p=0.031と有意である。
【図6】図6は、訓練セットでのTSマルチプレクシングを示す。 A) 全TS発現値(Y-軸)および核:細胞質比率(X-軸)は、表示されたように、最適なX-Tileカットポイントによって定義されたとき、集団で退行した。
【0013】
B) 表示された集団(A)のKaplan-Meier 5年疾患特異的生存率分析。
【図7】図7は、検証セットでのTSマルチプレクシングを示す。 A) 全TS発現(Y-軸)および核:細胞質比率(X-軸)は、表示されたように、訓練セットから最適なX-Tileカットポイントによって定義されたとき、集団で退行した。
【0014】
B) (A)からの表示された集団のKaplan-Meier 再発特異的生存率分析。
【発明の詳細な説明】
【0015】
便宜のため、本発明のさらなる記述の前に、詳細な説明、例および付属の請求項において使用する用語について以下に定義する。
【0016】
用語「組織サンプル」は、生物体から得られたサンプルを意味する。
【0017】
主題の方法によって処理を施される「患者」、「対象」または「宿主」は、ヒトまたはヒト以外の動物のいずれを含んでもよい。
【0018】
用語「予後」は、患者の疾病がどのように進行するか; および/または、回復の見込みがあるかどうか; および/または患者がどのように治療に応答するかという予測を意味する。
【0019】
「進行の段階」は、患者が本発明による方法が行われる時期にある、疾病の自然な進化における時点を意味する。
「対象の細胞」は、癌患者から得られた細胞を意味する。
【0020】
「参照比率」は、第2の細胞内区画中の特定のバイオマーカーの量に対する第1の細胞内区画中の特定のバイオマーカーの量の比率(すなわち、前者が分母あり、後者が分子である)を意味する。
【0021】
大腸癌は、大腸または結腸直腸癌を意味する。
【0022】
したがって、本発明は、患者の組織サンプル中に存在する対象の細胞内の第1の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量、および第2の細胞内区画中に存在する当該特定のバイオマーカーの量を決定し、第2の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量に対する第1の細胞内区画中に存在するバイオマーカーの量の比率を取得し、前記得られた比率を、一連の予後と関連づけられた一連の所定の比率と相関させ、患者についての予後を行う、ことを含む、ある種の癌に罹患した患者についての予後を行う方法を提供する。
【0023】
一実施態様において、特定のバイオマーカーは、チミジル酸シンターゼである。
【0024】
特定の実施態様において、癌の種類は大腸癌である。他の実施態様において、癌の種類は、乳癌、皮膚癌、甲状腺癌、前立腺癌、腎臓癌、膵臓癌、肺癌、膀胱癌、直腸癌または白血病であってもよい。
【0025】
一実施態様において、第1の細胞内区画は核の区画であり、また、第2の細胞内区画は細胞質の区画である。他の実施態様において、第1および第2の細胞内区画は、細胞膜、小胞体、ゴルジ、リソソーム、および/または分子で標識できる任意の区画を含む(これらに限定されない)、任意の多数の他の細胞内区画を意味する。
一実施態様において、第1の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量、および第2の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量は、各々、自動病理システムを使用して決定される。
【0026】
より特異的な実施態様において、第1の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量と、第2の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量を決定するために使用された自動病理システムは、AQUA(登録商標)システムであり、2007年5月15日に発行された米国特許第7,219,016 B2(参照によってその全内容が本出願中に含まれる)中に記載された方法を使用する。
【0027】
他の実施態様において、バイオマーカーの量は、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、ドットブロット分析、ノーザンブロット、遺伝子発現(SAGE)の一連の分析またはin situハイブリッド形成法によって決定される。
【0028】
特定の実施態様において、本方法は多重フォーマットにおいて行われ、バイオマーカーの比率は、上皮成長因子受容体、HER1、HER2、HER3、HER4、デフェンシンα6、Pms2、SZ-カテニン(SZ-Catenin)、CTNNB1、LRP5、GSK3SZ、アキシン-1(Axin-1)、CtBP1、CD137/CD137L、BCRP/ABCG2、CD80(B7-1)、CD86(B7-2)、ALCAM、CKB、hnRNP F、E-カドヘリン、β-カテニンおよびCD-44v6、Ep-CAM、bcl-2、p53、Ki-67、サイクリンD1、癌胚抗原、ニューロピリン(NRP)、PIK3Ca、c-myc p64、c-myc p67、CYP1B1、アリールハイドロカーボンレセプター(AhR)、PRL-1、PRL-2、PRL-3、テネイシン C(Tenascin C)、TUCAN、グルコース制御タンパク質78、異常なシトクロムcオキシダーゼサブユニットI、またはガレクチン-3の発現とともに決定される。
【0029】
一実施態様において、1より大きい所定の比率は、患者の好ましくない予後と関連している。
【0030】
他の実施態様において、1未満の所定の比率は、患者の好ましい予後と関連している。
【0031】
いくつかの実施態様において、得られた比率は、その各々が予想生存期間と関連している多数の標準対照比率と比較され、患者の予後は、得られた比率に数値的に最も近い参照比率と相関がある。
【0032】
他の実施態様において、(a) 得られた比率と、(b) 第1の細胞内区画中に存在するバイオマーカーの量および第2の細胞内区画中に存在するバイオマーカーの量の合計との関係を決定し、その関係を相関させ、患者の予後を決定する。
【0033】
本発明はまた、(a)患者の組織サンプル中に存在する対象の細胞内の第1の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量、および第2の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量を決定し、(b)第2の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量に対する第1の細胞内区画中に存在するバイオマーカーの量の比率を取得し、(c)前記得られた比率を、特定種の癌の一連の段階と関連づけられた多数の標準参照比率と比較し、(d)前記得られた比率に近い標準参照比率に基づいて特定の癌の進行の段階を決定する、ことを含む、患者におけるある種の癌の進行の段階を決定する方法を提供する。
【0034】
一実施態様において、特定のバイオマーカーは、チミジル酸シンターゼである。
【0035】
他の実施態様において、癌の種類は大腸癌である。他の実施態様において、癌の種類は、乳癌、皮膚癌、甲状腺癌、前立腺癌、腎臓癌、膵臓癌、肺癌、膀胱癌、直腸癌、または白血病であってもよい。
【0036】
他の実施態様において、第1の細胞内区画は核の区画であり、第2の細胞内区画は細胞質の区画である。他の実施態様において、第1および第2の細胞内区画は、細胞膜、小胞体、ゴルジ、リソソーム、および/または分子で標識できる任意の区画を含む(これらに限定されない)、任意の多数の他の細胞内区画を意味する。
【0037】
一実施態様において、第1の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量、および第2の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量は、各々、自動病理システムを使用して決定される。
【0038】
一実施態様において、患者は癌治療を受け、特定種類の癌の進行の段階が、特定の時間間隔で決定され、治療の有効性を評価する。
【0039】
本発明はまた、(a)患者の組織サンプル中に存在する対象の細胞内の第1の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量、および第2の細胞内区画中に存在する当該特定のバイオマーカーの量を決定し、(b)第2の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量に対する第1の細胞内区画中に存在するバイオマーカーの量の比率を取得し、(c)前記得られた比率を、多数の可能な治療の各々での処理に対する当該特定の癌の細胞の応答性および非応答性と関連した多数の標準参照比率と比較する、ことを含む、ある種の癌に罹患した患者についての適切な治療を選択する方法であって、患者の適切な治療が、得られた比率に数値的に最も近い参照比率に基づいて選択される、方法を提供する。
【0040】
一実施態様において、特定のバイオマーカーは、チミジル酸シンターゼである。
【0041】
他の実施態様において、癌の種類は大腸癌である。他の実施態様において、癌の種類は、乳癌、皮膚癌、甲状腺癌、前立腺癌、腎臓癌、膵臓癌、肺癌、膀胱癌、直腸癌または白血病であってもよい。
【0042】
他の実施態様において、第1の細胞内区画は核の区画であり、第2の細胞内区画は細胞質の区画である。他の実施態様において、第1および第2の細胞内区画は、細胞膜、小胞体、ゴルジ、リソソーム、および/または分子で標識できる任意の区画を含む(これらに限定されない)、任意の多数の他の細胞内区画を意味する。
【0043】
一実施態様において、第1の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量、および第2の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量は、各々、自動病理システムを使用して決定される。
【0044】
本発明はまた、(a)患者の組織サンプル中に存在する対象の細胞内の第1の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量、および第2の細胞内区画中に存在する当該特定のバイオマーカーの量を決定し、(b)第2の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量に対する第1の細胞内区画中に存在するバイオマーカーの量の比率を取得し、(c)前記得られた比率を、特定の治療での処理に対する当該特定の癌の細胞の応答性および非応答性と関連した多数の標準参照比率と比較する、ことを含む、特定の治療がある種の癌に罹患した患者で成功する可能性を決定する方法であって、特定の治療の成功の可能性が、前記得られた比率に数値的に最も近い参照比率に基づいて決定される、方法を提供する。
【0045】
一実施態様において、特定のバイオマーカーは、チミジル酸シンターゼである。
【0046】
他の実施態様において、癌の種類は大腸癌である。他の実施例では、癌の種類は、乳癌、皮膚癌、甲状腺癌、前立腺癌、腎臓癌、膵臓癌、肺癌、膀胱癌、直腸癌または白血病であってもよい。
【0047】
他の実施態様において、第1の細胞内区画は核の区画である。また、第2の細胞内区画は細胞質の区画である。他の実施態様において、第1および第2の細胞内区画は、細胞膜、小胞体、ゴルジ、リソソーム、および/または分子で標識できる任意の区画を含む(これらに限定されない)、任意の多数の他の細胞内区画を意味する。
【0048】
一実施態様において、第1の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量、および第2の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量は、各々、自動病理システムを使用して決定される。
【0049】
本発明はまた、上述した方法を実施するためのキットを提供する。本発明はまた、(a)チミジル酸シンターゼに特異的な第1の染料、(b)細胞の第1の細胞内区画に特異的な第2の染料、(c)細胞の第2の細胞内区画に特異的な第3の染料、および(d)キットを使用するための説明書、を含むキットを提供する。
【0050】
一実施態様において、キットにはさらに、生存、疾病の段階、または治療に対する応答性に関連した、細胞中における核の/細胞質のチミジル酸シンターゼのレベルの標準対照比率(standard reference ratios)が含まれる。
【0051】
他の実施態様において、第2の染料は、核の区画に特異的であり、第3の染料は細胞質の区画に特異的である。他の実施態様において、第1および第2の細胞内区画は、細胞膜、小胞体、ゴルジ、リソソーム、および/または分子で標識できる任意の区画を含む(これらに限定されない)、任意の多数の他の細胞内区画を意味する。
【0052】
他の実施態様において、染料は、蛍光染料である。
【0053】
特定の実施態様において、キットには、TSに対する抗体、細胞中の細胞質を標識するための試薬、細胞中の核を標識するための試薬、およびこれらの各々を検出するためのさらなる試薬が含まれる。このキットにはまた、腫瘍をストロマ検出手段(stroma detection means)から区別するための試薬が含まれていてもよい。特定の実施態様において、キットには、TSに対する抗体、および/または上皮成長因子受容体(EGFR)、HER1、HER2、HER3、HER4、デフェンシンα6、Pms2、SZ-カテニン、CTNNB1、LRP5、GSK3SZ、アキシン-1、CtBP1、CD137/CD137L、BCRP/ABCG2、CD80(B7-1)、CD86(B7-2)、ALCAM、CKB、hnRNP F、E-カドヘリン、β-カテニンおよびCD-44v6、Ep-CAM、bcl-2、p53、Ki-67、サイクリンD1、癌胚抗原、ニューロピリン(NRP)、PIK3Ca、c-myc p64、c-myc p67、CYP1B1、アリールハイドロカーボンレセプター(AhR)、PRL-1、PRL-2、PRL-3、テネイシン C、TUCAN、グルコース制御タンパク質78、異常なシトクロムcオキシダーゼサブユニットI、および/またはガレクチン-3を含む(これらに限定されない)、任意の他の大腸癌マーカーに対する抗体が含まれていてもよい。他の実施態様において、キットには、対象の細胞中のタンパク質活性のレベルを決定するための適切な試薬が含まれていてもよい。
【0054】
また、他の実施態様において、キットには、TSのプローブ、および/または上皮成長因子受容体(EGFR)、HER1、HER2、HER3、HER4、デフェンシンα6、Pms2、SZ-カテニン、CTNNB1、LRP5、GSK3SZ、アキシン-1、CtBP1、CD137/CD137L、BCRP/ABCG2、CD80(B7-1)、CD86(B7-2)、ALCAM、CKB、hnRNP F、E-カドヘリン、β-カテニンおよびCD-44v6、Ep-CAM、bcl-2、p53、Ki-67、サイクリンD1、癌胚抗原、ニューロピリン(NRP)、PIK3Ca、c-myc p64、c-myc p67、CYP1B1、アリールハイドロカーボンレセプター(AhR)、PRL-1、PRL-2、PRL-3、テネイシン C、TUCAN、グルコース制御タンパク質78、異常なシトクロムcオキシダーゼサブユニットI、および/またはガレクチン-3遺伝子、mRNA、またはタンパク質を含む(これらに限定されない)、任意の他の大腸癌マーカーのプローブを含むマイクロアレイが含まれていてもよい。キットには、これらのバイオマーカーの発現レベルを検出するための1以上のプローブまたはプライマー、および/またはプローブが付着し、かつ発現を検出するために使用することができる固体の支持体が含まれていてもよい。キットには、さらにコントロール、バッファー、および使用説明書が含まれていてもよい。
【0055】
キットにはまた、生存、治療に対する応答、疾病の段階など、例えば、参照セットと関連した、核TS発現レベルまたは核/細胞質のTS比率のライブラリーが含まれていてもよい。
【0056】
一実施態様において、キットには、生存、治療に対する応答、疾病の段階などと関連した遺伝子発現の1以上の核TS発現レベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度、または生存、治療に対する応答、疾病の段階などと関連した遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率を表わす少なくとも1つの値、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度などが保存されている、少なくともコンピューター読み取り可能な媒体が含まれる。キットには、コンピューターシステムのメモリーにロードすることができる比率分析ソフトウェアが含まれていてもよい。
【0057】
キットの構成要素は、先の方法のマニュアルまたは部分的もしくは全体的に自動化されたプラクティスでパッケージされてもよい。キットを含む他の実施態様において、本発明では、本発明の組成、および任意的にはその使用説明書を含むキットが考慮される。このようなキットは、例えば、イメージング、診断、治療、および他の適用を含む、種々の用途を有していてもよい。
【0058】
本発明は、特に、大腸癌を診断、予知および治療するための方法および組成物を提供する。対象の発明の特定の実施態様が議論されている間、明細書は例証であり、これらに限定されない。本発明の多くのバリエーションは、この明細書のレビューを通して当業者に明らかになるであろう。付属の請求項は、このような全ての実施態様およびバリエーションを主張するものでなく、本発明の全範囲は、等価物の全範囲とともにクレームを、そしてこのようなバリエーションとともに明細書を参照することによって決定されるべきである。
【0059】
本発明は、患者の細胞中の核TS発現のレベルまたは核/細胞質TS比率を決定することを含む、患者の大腸癌を診断、予知、または段階化する方法であって、核TSレベルまたは核/細胞質TS比率が生存の程度を示す、方法を提供する。
【0060】
本発明はまた、癌、特に、大腸癌のための治療を選択および評価する方法であって、生物学的サンプル中、特に組織サンプル中において、核区画中に局在したTSの量または細胞質区画中に局在したTSの量に対する核区画中に局在したTSの量の比率(すなわち、核/細胞質のTS比率)を定量的に評価することを含む方法を提供する。例において、比率が測定されるとき、前記方法は、内部標準および標準化を可能にし、主観的手段、例えば、共通の免疫組織化学によって、あるいは生物学的サンプルの調製によって評価されるときに不明瞭である生物学的に顕著な関係を明らかにすることができる。生物学的サンプル中の核または核/細胞質のTS比率の評価にはまた、大腸癌を診断、段階化および予測(予後)する方法が含まれていてもよい。
【0061】
本発明はさらに、大腸癌についての治療を選択および評価するための定量的マルチプレックスアッセイを提供する。マルチプレックスマーカーによって、多重バイオマーカーの評価におけるより大きな複雑さが可能になり、患者の結果を予知することに貢献することができる。定量的マルチプレックスアッセイにはまた、大腸癌を診断、段階化および予測(予後)する方法が含まれていてもよい。核TSレベルまたは核/細胞質TS比率のアッセイは、任意のマルチプレックスアッセイと組み合わせて行われてもよい。
【0062】
本発明はまた、本発明において記載された方法を行うための組成およびキットを提供する。本発明のこれらの実施態様、他の実施態様、およびその特徴および特性は、詳細な説明および以下の請求項から明らかになるであろう。
【0063】
以下の実験の詳細は、この開示の主題事項の理解を助けるが、以降に続く請求項を限定するよう解釈されるべきではない。
【0064】
実験の詳細
I部
A. 核または核の/細胞質のTS比率を決定する方法、および/または大腸癌マーカーの発現
結腸癌腫瘍中のTSの定量的タンパク質発現および局在分析は、核レベルまたは核対細胞質の比率が生存に著しく関連していることを明らかにする。核の発現(p=0.03)と、核:細胞質の比率(p=0.04)の両方は、段階、診断の年齢、性別および人種での多変量の分析による生存の独立した予測である。総合すれば、これらのデータは、TSの細胞内局在性が大腸癌の結果の予測にとって重要であることを示している。さらに、核と細胞質発現の比率は、生存を予測するための、および治療、例えば化学療法に対する応答を予測するための新規なバイオマーカーになるであろう。これに応じて、前記患者の細胞中の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率を決定することを含む、患者の大腸癌を診断、予測(予後)、および/または段階化する方法を提供する。決定されたレベルまたは比率は、患者の大腸癌の存在または段階、あるいは前記患者の生存の予後を示し、1より大きい比率は、減少した生存を示す。
【0065】
大腸癌の患者の細胞中の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率の決定を含む、大腸癌治療、例えば化学療法を評価する方法を提供する。
【0066】
一実施態様において、大腸癌の患者が大腸癌の治療に応答するであろうか否かを決定する、あるいはより積極的な治療が必要であるか否かを決定する方法は、核内に局在したTSの量、または前記対象の細胞の細胞質内に局在したTSの量に対する核内に局在したTSの量の比率を決定することを含み、前記核のレベルまたは決定された比率は、患者が大腸癌治療に応答するであろうか否かを示す。大腸癌治療は、例えば、ターゲットに基づいた治療、化学療法およびホルモン療法からなる群から選択される。
【0067】
他の実施態様において、対象の大腸癌治療を選択する方法は、前記対象の細胞内の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率を決定することを含み、核レベルまたは決定された比率は、患者のための適切な治療を示す。特定の実施態様において、大腸癌治療は、化学療法、ターゲットに基づいた治療、またはホルモン療法から選択されてもよい。決定された比率は、患者がホルモン療法ではなく、化学療法またはターゲットに基づいた治療に応答するであろうことを示してもよいし、ターゲットに基づいた治療または化学療法ではなく、ホルモン療法に応答するであろうことを示してもよいし、全ての治療に応答するであろう、あるいは、これらの治療のいずれにも応答しないであろうことを示してもよい。
【0068】
核レベルまたは核/細胞質TS比率を決定することを含む、本明細書中に記載された方法は、他のアッセイとともに多重フォーマットにおいて、例えば単一のスライドまたは他の反応容器上で行われてもよい。例えば、核TSレベルまたは核/細胞質TS比率は、上皮成長因子受容体(EGFR)、HERファミリーメンバー、例えばHER1、HER2、HER3、HER4、デフェンシンα6、Pms2、SZ-カテニン、CTNNB1、LRP5、GSK3SZ、アキシン-1、CtBP1、CD137/CD137L、BCRP/ABCG2、CD80(B7-1)、CD86(B7-2)、ALCAM、CKB、hnRNP F、E-カドヘリン、β-カテニンおよびCD-44v6、Ep-CAM、bcl-2、p53、Ki-67、サイクリンD1、癌胚抗原、ニューロピリン(NRP)、PIK3Ca、c-myc p64、c-myc p67、CYP1B1、アリールハイドロカーボンレセプター(AhR)、PRL-1、PRL-2、PRL-3、テネイシン C、TUCAN、グルコース制御タンパク質78、異常なシトクロムcオキシダーゼサブユニットI、またはガレクチン-3(およびこのようなメンバーの任意の組み合わせ)の発現、および/または以下に記載した様々なマルチプレックスアッセイとともに決定してもよく、スライドを通して測定を標準化するための手段を含む単一のスライドまたは複数のスライド上で行われる試験の両方を可能にする。
【0069】
他の実施態様において、大腸癌治療を評価する、あるいは大腸癌を診断、予測(予後)、および/または段階化する方法は、核のレベルまたは核/細胞質TS比率、または全核および細胞質のTSレベル(合計TS)と一緒にTS比率を決定することを含む(これに限定されない)、バイオマーカー発現のマルチプレックスな決定を含む。前記方法は、上記に列挙されたもののような当該技術分野における全ての大腸癌マーカー(1つまたは複数)の発現を決定することと組み合わせて、核のレベルまたは核/細胞質TS比率の任意の組み合わせの発現を決定することを含む。The National Center for Biotechnology Information (NCBI)受託番号は、以下のとおりである:TS:NM_001071.
ncbi.nlm.nih.gov のワールドワイドウェブ上のThe National Center for Biotechnology Information (NCBI)の公開データベースへのエントリーに関連している受託番号を参照する全てのポリヌクレオチドおよびポリペプチド配列が、参照によってその全体が本明細書中に組み込まれる。
【0070】
本明細書中に記載された様々なマルチプレックスアッセイにおいて使用されるセットを含むバイオマーカーは、以下にさらに記載するように、遺伝アルゴリズムを使用して選択されてもよい。
【0071】
アッセイにおいて使用される様々なバイオマーカーの発現のレベルは、細胞中のバイオマーカーをコードする遺伝子の発現のレベルを定量化することによって決定されてもよく、あるいは細胞内のバイオマーカータンパク質の量を定量化することによって決定されてもよい。
【0072】
バイオマーカー遺伝子の発現レベルを定量化し、かつ最終的にバイオマーカータンパク質の活性を定量化する方法は、当業者に知られている。例えば、バイオマーカー遺伝子の発現レベルは、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR); ドットブロット分析; ノーザンブロット解析およびin situハイブリッド形成法によって決定することができる。代わりに、バイオマーカーのレベルは、適切な抗体を使用して分析することができる。腫瘍細胞は、既知の手段、例えば針生検を使用して得ることができる(以下を参照。Kim, C. H. et al. J. Virol. 66:3879-3882 (1992)); Biswas, B. et al. Annals NY Acad. Sci. 590:582-583 (1990)); Biswas, B. et al. J. Clin. Microbiol. 29:2228-2233 (1991)。
【0073】
特定の実施態様において、バイオマーカーの量は、バイオマーカーに特異的な抗体を使用して決定する。
【0074】
特定の実施態様において、バイオマーカーの発現のレベルは、例えば、AQUA(登録商標)自動病理システムを使用することによって、核および細胞質TSのAQUA(登録商標)スコアを決定することによって決定される。
【0075】
AQUA(登録商標)(自動定量分析のための)は、in situのタンパク質発現の絶対的測定の分析の方法である。この方法は、単位領域当りに発現した分子の数に数において正比例する細胞内区画中のタンパク質発現の測定を可能にする。例えば、核TSを測定するために、組織は、腫瘍の領域を標準化し、かつストロマおよび他の非腫瘍物質を分析から取り除くための1つのチャネルにおいてサイトケラチンを使用して「マスク」される。その後、核区画を定めるためにDAPIを使用してイメージを撮る。マスク内およびDAPIで定められた区画内のピクセルは、核として定義される。TSの発現の強度は、第3のチャネルを使用して測定される。ピクセルの数によって分割されたピクセルのサブセットの強度(スポットからスポットまでの領域を標準化する)は、AQUA(登録商標)スコアを与える。このスコアは、腫瘍の単位面積当たりのTSの分子の数に正比例する。この方法(焦点のずれた光を減算するイメージング方法の詳細を含む)は、Nature Medicine paper (Camp, R. L., Chung, G. G. & Rimm, D. L. Automated subcellular localization and quantification of protein expression in tissue microarrays. Nat Med 8, 1323-7 (2002))、および U.S.S.N. 10/062,308, filed February 1, 2002(参照文献の両方が参照によってその全体が本明細書中に組み込まれる)に詳細に記載されている。
【0076】
本発明の方法の模範的実施態様では、AQUA(登録商標)が、例えば、細胞質、核、または核および細胞質TSの量を決定するために使用され、したがって、核TSレベルまたは核/細胞質TS比率は、以下の例証において記載される。
バイオマーカーの発現を定量的に決定する方法は、細胞中のバイオマーカーの局在性、および細胞のバイオマーカーの量を決定することを含んでいてもよい。AQUA(登録商標)は、これらの両方を達成する方法の例である。
【0077】
しかしながら、バイオマーカーの発現を定量的に決定する他の方法が、AQUA(登録商標)分析の代わりに使用されてもよい。例えば、細胞内のバイオマーカーの局在性は、バイオマーカーの定量化によって追従された細胞内分画、例えば、ELISA分析、ポリペプチドアレイでの分析、またはバイオマーカーの量を定量化する他の方法によって達成されてもよい。
【0078】
いくつかの実施態様において、バイオマーカーの発現のレベルを検出する方法は、マイクロアレイの使用を含む。アレイは、しばしばマイクロアレイおよびマクロアレイに分割され、マイクロアレイは、面積当りの個々のプローブ種の密度が高い。マイクロアレイは、1cm2面積当り1000以上の異なるプローブを有していてもよい。マイクロ−およびマクロ−アレイ間の差異を分ける具体的境界はなく、両タイプのアレイが本発明での使用のために考慮される。
【0079】
マイクロアレイは当該技術分野において知られており、一般的には遺伝子産物(例えば、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、タンパク質)の配列に対応するプローブが既知の位置に結合された表面からなる。一実施態様において、マイクロアレイは、各位置が遺伝子によってコードされた産物(例えば、タンパク質またはRNA)について別々の結合部位を表わし、かつ結合部位が生物体ゲノム中の大半またはほとんど全ての遺伝子の産物について示しているアレイ(例えば、マトリックス)である。
【0080】
蛍光標識されたプローブが使用されるとき、転写物アレイの各部位での蛍光発光は、スキャニング共焦点レーザー顕微鏡によって検出されてもよい。2つのフルオロフォアが使用されるとき、適切な励起線を使用する別々のスキャンは、各々の使用される2つのフルオロフォアで行われる。蛍光マイクロアレイスキャナーは、Affymetrix, Packard BioChip Technologies, BioRoboticsおよび多くの他の供給業者から商業的に入手可能である。シグナルは、様々なコンピューターソフトウェアを使用して読み取られ、定量化され、かつ分析される。
【0081】
本発明の方法によれば、2つの細胞または細胞株中の遺伝子産物の相対的存在量は、摂動(perturbation)およびその決定された大きさとしてスコアされ(すなわち、存在量は、試験された遺伝子産物の2つの供給源において異なる)、あるいは摂動しないものとしてスコアされる(すなわち、相対的な存在量は同一である)。本明細書中に使用されたとき、約25%の少なくとも1つの因子の2つの供給源の間の差異(1つの供給源からの遺伝子産物は1つの供給源において他の供給源よりも25%多い)は、摂動(perturbation)としてスコアされる。より一般的には、約50%の差異、さらにより一般的には約2(存在量として2倍)、3(存在量として3倍)、または5(存在量として5倍)の因子によって摂動としてスコアされる。従来の検出方法は、約2倍〜約5倍のオーダーの差異の検出において信頼性を有するが、より高感度の方法が開発されることが期待されている。
【0082】
ポジティブまたはネガティブとして摂動(perturbation)を同定することに加え、摂動の大きさを決定することが有利である。これは、上記に示したように、ディファレンシャル ラベリングのために使用される2つのフルオロフォアの発光の割合を計算することによって行うことができる。また、当業者にとって既に明らかである類似の方法によって行うこともできる。
【0083】
特定の実施態様において、このような実験から得られたデータは、マイクロアレイ中に表わされた各遺伝子の相対的発現を反映する。異なるサンプル中の発現のレベルおよび条件は、様々な統計学的方法を使用して比較されてもよい。
【0084】
マイクロアレイは、特定の実施態様において使用されてもよいが、遺伝子発現の検出の様々な他の方法が利用可能である。このセクションでは、それによってコードされたmRNAまたはポリペプチドを検出および定量化する少数の模範的方法について説明する。
【0085】
一実施態様において、サンプルから得られたmRNAは、第1のcDNA鎖に逆転写され、PCR(例えば、RT-PCR)を受ける。ハウスキーピング遺伝子、または発現が変化しない他の遺伝子は、実験を通して内部標準(internal control)およびコントロールとして使用することができる。PCR反応後、増幅した産物は、電気泳動によって分離し、検出することができる。定量的PCRを使用することによって、増幅産物のレベルは、サンプル中に存在したRNAのレベルと相関するであろう。増幅したサンプルはまた、アガロースまたはポリアクリルアミドゲル上で分離し、フィルター、および対象の遺伝子に特異的なプローブがハイブリダイズしたフィルター上に移動させる。多数のサンプルは、パラレルPCR増幅、例えば、マルチプレックスPCRを行うことによって同時に分析することができる。
【0086】
「ドットブロット」ハイブリダイゼーションには、広く拡大した用途があり、多くのバージョンが開発されている(例えば、M. L. M. Anderson and B. D. Young, in Nucleic Acid Hybridization-A Practical Approach, B. D. Hames and S. J. Higgins, Eds., IRL Press, Washington D.C., Chapter 4, pp. 73-111, 1985を参照)。
【0087】
他の実施態様において、mRNAレベルは、ドットブロット分析および関連した方法によって決定される(例えば、G. A. Beltz et al., in Methods in Enzymology, Vol. 100, Part B, R. Wu, L. Grossmam, K. Moldave, Eds., Academic Press, New York, Chapter 19, pp. 266- 308, 1985を参照)。一実施態様において、細胞から抽出されたRNAの特定の量は、フィルター上にブロットされ(すなわち、非共有的に結合)、フィルターは対象の遺伝子のプローブとハイブリダイズする。ブロットはRNAの多数のスポットを含むことができるので、多数のRNAサンプルが同時に分析されてもよい。ハイブリダイゼーションは、プローブのラベルの種類に依存する方法を使用して検出される。他のドットブロット方法において、1以上のプローブが膜に付着し、膜は対象の細胞または組織のRNAから得られ、かつ任意的に誘導された、標識核酸でインキュベートされる。このようなドットブロットは、主としてマイクロアレイよりも少ないプローブを含むアレイである。
【0088】
他のフォーマット、いわゆる「サンドイッチ」ハイブリダイゼーションは、個体支持体にオリゴヌクレオチドプローブを共有結合させ、これらを捕捉体に使用し、多数の核酸ターゲットを検出することを含む(例えば、M. Ranki et al. (1983) Gene, 21:77-85; A. M. Palva, et al, in UK Patent Application GB 2156074A, Oct. 2, 1985; T. M. Ranki and H. E. Soderlund in U.S. Pat. No. 4,563,419, Jan. 7, 1986; A. D. B. Malcolm and J. A. Langdale, in PCT WO 86/03782, JuI. 3, 1986; Y. Stabinsky, in U.S. Pat. No. 4,751,177, Jan. 14, 1988; T.H. Adams et al., in PCT WO 90/01564, Feb. 22, 1990; R. B. Wallace et al. (1979) Nucleic Acid Res. 6,1 1:3543; and B. J. Connor et al. (1983) PNAS 80:278-282を参照)。
【0089】
これらのフォーマットのマルチプレックスバージョンは、「リバースドットブロット」と呼ばれている。
【0090】
mRNAレベルはまた、ノーザンブロットによって決定してもよい。特定の量のRNAは、ゲル電気泳動によって分離され、その後に対象の遺伝子に対応するプローブとハイブリダイズするフィルター上に移される。この方法は、多数のサンプルおよび遺伝子が分析されるときに煩わしくなるが、非常に正確であるという利点を提供する。
【0091】
遺伝子発現の高いスループット分析のための他の方法は、Velculescu et al. (1995) Science 270, 484-487に最初に記載された、連続的分析の遺伝子発現(SAGE)技術である。SAGEの利点は、所定の細胞種中に発現した全ての遺伝子の検出を提供する潜在性を有することであり、このような遺伝子の相対的発現についての定量的上方を提供し、2つの細胞中の遺伝子の遺伝子発現の迅速な比較を可能にし、検出遺伝子を同定するために使用されうる配列情報を得る。したがって、SAGE方法論は、それ自体、様々な細胞種中の制御および非制御遺伝子の発現を信頼性よく検出することを明らかにしている。(Velculescu et al. (1997) Cell 88, 243-251; Zhang et al. (1997) Science 276, 1268-1272 および Velculescu et al. (1999) Nat. Genet. 23, 387-388.
バイオマーカーの発現レベルは、in situハイブリッド形成法によって決定されてもよい。一実施態様において、組織サンプルは対象から得られ、組織サンプルはスライスされ、当業者に既知の方法によってin situ ハイブリダイゼーションが行われ、対象の遺伝子の発現のレベルを決定する。
【0092】
他の方法において、バイオマーカーの発現のレベルは、バイオマーカー遺伝子によってコードされたタンパク質のレベルを測定することによって検出される。これは、例えば、遺伝子によってコードされたタンパク質を特異的に検出する物質、例えば抗体を使用する、免疫沈降、ELISA、または免疫組織化学によって行われてもよい。他の技術には、ウェスタンブロット分析が含まれる。イムノアッセイは、一般には細胞サンプル中のタンパク質のレベルを定量するために使用され、多くの他のイムノアッセイ技術は当該技術分野において知られている。本発明は、特定のアッセイ手順に限定されず、したがって、同質および異質の両手順を含むことを意味する。本発明によって行うことができる模範的イムノアッセイには、蛍光偏光イムノアッセイ(FPIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)、酵素イムノアッセイ(EIA)、比濁分析阻害イムノアッセイ(NIA)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、および放射免疫アッセイ(RIA)が含まれる。指標部分、または標識グループは、対象抗体に付着してもよく、アッセイ設備および適合性のイムノアッセイ手順の利用可能性によってしばしば決定される本発明の様々な使用の必要性に合致させるために選択される。上記に記述された様々なイムノアッセイを行うのに使用される一般的な技術は、当業者に知られている。
【0093】
細胞から分泌されるポリペプチドの場合において、これらのポリペプチドの発現のレベルは、生物学的分野において測定することができる。
【0094】
上記に記載された方法は、細胞培養において増殖した細胞を使用して行われてもよいし、あるいは対象の細胞または組織検体上で行われてもよい。検体は、「侵襲性」または「非侵襲性」のサンプリング手段のいずれかを使用して試験対象の個体から得ることができる。サンプリング手段は、それが動物(特に、ネズミ、ヒト、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、またはネコを含む)の皮膚または器官内からの核酸の収集を含む場合、「侵襲性」であると言われる。侵襲性の方法の例には、血液採取、精液採取、針生検、胸膜吸引、臍帯生検などが含まれる。このような方法の例は、Kim, C. H. et al. (1992) J. Virol. 66:3879-3882; Biswas, B. et al. (1990) Annals NY Acad. Sci. 590:582-583; Biswas, B. et al. (1991) J. Clin. Microbiol. 29:2228-2233によって議論されている。また、対象から細胞サンプルを取得し、その後にそれを所望の細胞種中に富ませることもできる。例えば、細胞は様々な技術を使用して他の細胞から単離することもでき、例えば、所望の細胞種の細胞表面上のエピトープに結合する抗体での単離などがある。
【0095】
特定の実施態様において、単一の細胞が分析において使用される。また、対象から細胞を取得し、インビトロで細胞を培養し、例えば、RNAを抽出できるより大きな細胞集団を得ることもできる。非形質転換細胞の培養を達成するための方法、すなわち、一次細胞培養は、当該技術分野において知られている。
【0096】
他の実施態様において、細胞には、細胞培養ペレットマイクロアレイ上に存在できる胞培養ペレットが含まれる。
【0097】
個体の組織サンプルまたは細胞から分析を行う場合、組織または細胞が患者から取り出された後に、遺伝子発現における任意のさらなる変化を防ぐために重要である。発現レベルの変化は、急速に以下の摂動、例えば、熱ショックまたはリポ多糖類(LPS)または他の試薬での活性を変化させることが知られている。さらに、組織および細胞中のRNAおよびタンパク質は、急速に分解される。これに応じて、一実施態様において、対象から得られた細胞は、可能な限り迅速にスナップ凍結(snap frozen)される。他の実施態様において、典型的には標準病理プラクティスにおいて調製および貯蔵される形態において材料を使用することが好ましい。それゆえ、好ましい実施態様において、組織断片は、ホルマリンで固定された、パラフィン包埋組織ブロックからのものである。全組織切片を組織マイクロアレイ(TMA)上で使用してもよい。
【0098】
組織マイクロアレイ、単一スライド上の癌患者の大きな集団の表示の分析のための方法は、これらのアレイの分析が一般に主観的であり、したがって、核酸アレイ実験中の発見に使用された多くのアルゴリズムを無効にするので、発見後ゆっくりと使用されてきた。しかしながら、組織マイクロアレイの技術は、包埋された発見についての多くの変数および能力の標準化を含むタンパク質発現のハイスループットな分析を可能にし、空間的細胞内区画情報およびマルチプレックスな分析を含めて、大きな集団の腫瘍上で対象のマーカーのin-situタンパク質アッセイを可能にする。
【0099】
特定の実施態様において、組織サンプルはマイクロアレイ上に存在している。パラフィン包埋ホルマリン固定試料は、対象の組織試料から穿孔「生検」コアを使用して調製することができる。各コアは別々のレシピエントのブロックに整列され、部分切断や、例えば、Konenen, J. et ah, Tissue microarrays for high-throughput molecular profiling of tumor specimens, (1987) Nat. Med. 4:844-7 and Chung, G.G. et al., Clin Cancer Res. (2001) Dec;7(12):4013-20.に記載されたように、処理に供される。
【0100】
特定の実施態様において、細胞には、組織マイクロアレイ上に存在できる組織サンプルが含まれる。例えば、パラフィン包埋ホルマリン固定試料は、試料の別々の領域から取り出された穿孔「生検」コアを使用して調製される。各コアは、別々のレシピエントのブロックに整列され、部分切断や、例えばKonenen, J. et al., Tissue microarrays for high- throughput molecular profiling of tumor specimens, (1987) Nat. Med. 4:S44-7 and Chung, G.G. et al., Clin. Cancer Res. (In Press).に記載されたように処理に供される。
【0101】
B.試験値を参照セットで比較する方法
参照セットとの比較は、特に上記に記載された方法の適用において有用である。例えば、これらを対象の大腸癌を診断および予測(予後)するための方法において使用するとき、あるいは大腸癌を患う対象のための治療を選択するための方法において使用するときである。これらによって得られたデータ、例えば、区画特異的AQUA(登録商標)スコア(すなわち、核または細胞質)または比率(すなわち、核/細胞質)、または比率および合計(核+細胞質)は、さらに大腸癌の様々な状態、様々な治療結果、生存率などと関連した値の参照セットと比較することができる。
【0102】
決定された値と参照値との比較は、好ましくはコンピュータシステムを使用して行われる。一実施態様において、比率、AQUA(登録商標)スコア、または他のタンパク質量の尺度は、2つの細胞において得られ、2つの細胞からの値が、比較のためにコンピュータシステムに導入される。好ましい実施態様において、1つの値は、コンピュータシステム中にあらかじめ存在している、あるいはコンピュータシステムに事後的に入れられるコンピューター読み取り可能なフォーマット中にあらかじめ存在している値と比較するためにコンピュータシステムに入力される。
【0103】
一実施態様において、本発明は、タンパク質量のAQUA(登録商標)スコア、例えば、細胞質または核AQUA(登録商標)スコア、または核/細胞質AQUA(登録商標)スコアTS比率、または合計、または他の尺度のコンピューター読み取り可能なフォーマットを提供する。
データは、表形式、例えばエクセル表の形式であってもよい。データは、単独または例えば、他の発現プロファイルを含む大きなデータベースの一部であってもよい。例えば、データは、パブリックデータベースの一部であってもよい。コンピューター読み取り可能なフォーマットは、コンピューターに内蔵されていてもよい。
【0104】
一実施態様において、本発明は、第1の細胞(例えば、対象の細胞)中の遺伝子発現のAQUA(登録商標)スコア、核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、または他の尺度と、第2の細胞中の遺伝子発現の上記尺度との間の類似性を決定するための方法を提供し、当該方法は、第1の細胞中のAQUA(登録商標)スコア、例えば遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、または他の尺度を得ることと、これらの値を、第2の細胞中のAQUA(登録商標)、例えば遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、または他の尺度に対応する値を含むデータベース記録を含むコンピューターに入力することとを含み、かつコンピューター中に記録されたデータとの比較目的のために1以上の値の選択を受けることができる、プロセッサーインストラクション、例えば、ユーザーインターフェースを含む。コンピューターは、さらに比較データを、ダイアグラムまたはチャートまたは他の種類の出力に変換するための手段を含んでいてもよい。
【0105】
他の実施態様において、遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度を表わす値は、1以上の細胞から得られたタンパク質量の参照核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度を含む、コンピューターシステムに入力される。例えば、コンピューターは、罹患したまたは正常な細胞の発現データを含んでいてもよい。説明書がコンピューターに提供され、コンピューターは入力されたデータとコンピューター中のデータとを比較し、入力されたデータが正常な細胞のデータまたは罹患した細胞のデータのいずれにより近いかを決定することができる。
【0106】
他の実施態様において、コンピューターは、大腸癌の異なる段階での対象の細胞中の遺伝子発現の核TSのAQUA(登録商標)スコアまたは核/細胞質TS比率、または合計TS、または他の尺度を含み、コンピューターは、コンピューターに入力された遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度を、内蔵データと比較し、コンピューター中の遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUATMスコア、または他の尺度が示す結果を得ることができる。得られた値は、タンパク質量の決定された核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度に最も近似しており、対象における癌の段階が決定される。
【0107】
さらに他の実施態様において、コンピューター中の参照発現プロファイルは、大腸癌を有する1以上の対象の細胞からの遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度である。細胞は、大腸癌の治療のために使用される薬剤でインビボまたはインビトロで処理される。薬剤でインビボまたはインビトロで処理された対象の細胞の遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度を入力すると、コンピューターは、入力されたデータをコンピューター内のデータと比較し、コンピューターにインプットされたデータが薬剤に応答性を示す対象の細胞のデータにより近似しているか否か、あるいは薬剤に応答性を示さない対象の細胞のデータにより近似しているか否かを示す結果を提供するよう指示される。したがって、結果は、対象が薬剤での治療に応答性であるか、あるいはあまり応答しないかを示す。
【0108】
一実施態様において、本発明は、1または多数のサンプルについての遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度を受けるための手段; 前記1または多数のサンプルについての遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度を、共通参照フレームと比較するための手段; および比較の結果を表示する手段を含むシステムを提供する。システムは、さらにデータをクラスタリングするための手段を含んでいてもよい。
【0109】
他の実施態様において、本発明は、遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度を分析するためのコンピュータープログラムを提供し、(a) 多数のサンプルについての遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度をインプットするとき受けるコンピューターコードと、(b) 前記多数のサンプルの各々からの遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度を、共通参照フレームと比較するコンピューターコードと、を含む。
本発明はさらに、以下の工程を行うためのプログラム説明書を含む機械読み取り可能なまたはコンピューター読み取り可能な媒体を提供する: (a) 疑惑の細胞における遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度に対応する多数の値を、1以上の参照細胞および注釈の特定種の細胞のタンパク質量の参照核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度を含むデータベース記録と比較し; および(b) タンパク質量の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度の類似性に基づいて、疑惑の細胞が最も類似する細胞を示す。参照細胞は、例えば、大腸癌の異なる段階での対象からの細胞、あるいは異なる予後での細胞であってもよい。参照細胞はまた、特定の薬剤治療に応答性を示すかあるいは応答性を示さない患者由来の細胞であってもよく、任意的には薬剤とともにインビトロまたはインビボでインキュベートされる。
参照細胞はまた、いくつかの異なる治療に応答性を示すかあるいは応答性を示さない患者由来の細胞であってもよく、コンピューターシステムは、患者のための好ましい治療を示す。これに応じて、本発明は、大腸癌に罹患した患者のための治療を選択するための方法を提供する。当該方法は、以下のステップを含む: (a) 患者の疾患細胞中の遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度を提供することと; (b) 各々疾患と関連したタンパク質量の多数の参照核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度を提供することと(対象発現プロファイルおよび各参照プロファイルは多数の値を有し、各値はタンパク質量の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度を表わす); および(c)対象発現プロファイルに最も類似する参照プロファイルを選択し、それによって前記患者のための治療を選択する。好ましい実施態様において、ステップ(c)は、コンピューターによって行われる。最も類似の参照プロファイルは、対応する発現データと関連した秤量値を使用して、多数の比較値を,秤量することによって選択されてもよい。
【0110】
コンピューター読み取り可能な媒体はさらに、大腸癌の段階の記述子(descriptor)、または大腸癌の治療のための指針(pointer)を含んでいてもよい。
【0111】
操作において、タンパク質量の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度を受ける手段、タンパク質量の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度を比較する手段、本発明のシステムとの関連で表示する手段、標準化する手段、およびクラスタリングする手段は、本明細書中に記載された各機能性とともにコンピューターにプログラムされ、ハードウェアまたはハードウェアおよびソフトウェア; コンピュータープログラムによって命令される、本明細書中に特別に同定された操作を行うプログラムされたコンピューターの論理回路または他のコンポーネントは、; または本明細書中に記載された特別な状態においてコンピューターを機能させることができるコンピュータープログラムを表示する実行可能なインストラクションでエンコードされたコンピューターメモリ、において実行されてもよい。
【0112】
当業者は、本発明のシステムおよび方法が、MS-DOS(登録商標)またはMicrosoft Windows(登録商標)を実行するIBM(登録商標)互換パーソナルパソコンを含む、多様なシステムに適用可能であることを理解するであろう。
【0113】
典型的な診断ツールおよびアッセイは以下に示され、これらは上記に記載された方法論を含む。
一実施態様において、本発明は、対象が大腸癌、特に転移性大腸癌を患っているか、あるいはそれが進行しそうであるか、を決定する方法を提供し、当該方法は、対象の細胞中の遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度を決定することと、遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度を、対象の疾患細胞中の遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度とを比較することとを含み、遺伝子発現の類似の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度が、対象が大腸癌、特に転移性大腸癌を患っているか、あるいはそれが進行しそうであるかという指標になる。好ましい実施態様において、細胞は、主として対象において発病する細胞と同じ種類である。
【0114】
他の実施態様において、遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度は、患者が大腸癌の特定の種類または段階にあることを確認するために使用してもよく、また、関連した疾病ではない、あるいは類似の症状をもつ疾病であることを確認するために使用してもよい。これは、特に、対象の最適な治療学的療法を構築するために重要である。このような区別は、「鑑別診断」として当業者に知られている。
【0115】
他の実施態様において、本発明は、大腸癌の段階(病期)を決定する方法を提供する。疾患の段階での遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度が考慮される。これは、例えば、伝統的な方法によって決定された異なる段階にある大腸癌を発病した対象における遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度を分析することによって行うことができる。例えば、疾病の異なる段階にある対象の疾病細胞の遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度が、本明細書に記載されたとおりに決定される。その後、対象の大腸癌の段階を決定するために、対象の遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度が決定される。対象と、疾病の特定の段階の参照プロファイルとの間の、核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度の発現の類似レベルは、その対象の大腸癌がその特定の段階にあるということを示している。
【0116】
同様に、当該方法は、化学療法のような治療を受ける対象の疾病の段階(病期)を決定するために使用してもよく、その治療が有効であるか否かを決定する。これに応じて、一実施態様において、遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度が、治療前および治療中の複数回にわたって対象において決定される。例えば、サンプルは、治療を開始する前および治療中の12、24、または72時間毎に対象から得ることができる。サンプルはまた、1週間または1ヶ月に一度分析されてもよい。経時にわたる、あるいは疾病細胞および正常細胞と比較した遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度の変化は、治療が有効であるか否かの指標になる。
【0117】
さらに他の実施態様において、本発明は、大腸癌を発症した対象における特定の治療の成功の可能性を決定する方法を提供する。一実施態様において、対象は特定の治療を開始し、その治療の有効性を決定される。決定方法は、例えば、対象の細胞における遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度を決定することによって行われる。遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度の標準化は、当該治療が対象において有効であるということを示している。
【0118】
対象の治療の結果の予測はまた、インビトロで行われてもよい。一実施態様において、細胞は、治療に対する応答性を評価すべき対象から得られ、治療薬剤とともにインビトロでインキュベートされる。遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度は、その後に細胞中において測定され、これらの値は、疾病細胞の正常な相対する細胞である細胞中の遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度と比較される。遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度はまた、正常な細胞における値と比較されてもよい。相対的分析は、好ましくは上記に記載された遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度のデータベースを含むコンピューターを使用して行われる。薬剤とのインキュベーション後の対象の細胞中の遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度が、正常細胞中の遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度と類似し、疾病細胞における値とは異なる場合、その患者がその薬剤での治療に効果的に応答するであろうことを示している。反対に、薬剤とのインキュベーション後の対象の細胞中の遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度が、疾病細胞中の遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度と類似し、正常細胞における値とは異なる場合、その患者がその薬剤での治療に応答しないであろうことを示している。
【0119】
薬剤が疾病細胞に直接的に作用せず、例えば、代謝されたり、疾病細胞に作用するであろう因子をその後に分泌する他の細胞に作用する可能性がある場合、上述したアッセイはまた、疾病細胞以外の細胞を含む、対象の組織サンプル中において行われてもよい。例えば、疾病細胞を含む組織サンプルは、対象から得られ、組織サンプルは、潜在的薬剤でインキュベートされ、任意的には1以上の疾病細胞は、組織サンプルから、例えば、マイクロダイセクションまたはレーザー捕捉マイクロダイセクション(LCM、以下を参照)によって単離され、核の発現または核/細胞質TS比率について試験が行われる。
【0120】
本発明はまた、いくつかの異なる治療の選択から患者にとっての大腸癌のための治療を選択する方法を提供する。大腸癌を発症したある患者は、他の種類の治療よりも、ある1種類の治療に良好な応答性を示すことがある。好ましい実施態様において、当該方法は、患者の遺伝子発現の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度を、いくつかの治療学的薬剤のうちの一つとともにインビトロまたはインビボで処理された患者の細胞中の値と比較することを含み、その患者が、治療学的薬剤のうちの1つに対する応答者であるか非応答者であるかを決定するために、患者の値に対して遺伝子発現の最も近似の核TSレベルまたは核/細胞質TS比率、AQUA(登録商標)スコア、または他の尺度を示す細胞を同定し、患者に適した治療を特定する。当該方法は、さらに対象で同定された治療を行うことを含む。
【0121】
II部
例証
本発明は、決して制限するものとして解釈されるべきではない以下の例によってさらに例証される。
【0122】
例1: 細胞内区画中のチミジル酸シンターゼ(TS)のAQUAR(登録商標)に基づいた分析は、結腸直腸癌中の生存の予測のための新規なバイオマーカーを明らかにする。
【0123】
AQUAR(登録商標)分析、細胞内区画中のタンパク濃度のin situ測定のための新規な方法は、細胞内局在性の関数としてTS発現の予後の値を評価するために使用された。エール病理記録から過去に遡って集められた1970年から1981年の間に診断された大腸癌を患う患者の集団[n=518]について組織マイクロアレイフォーマットを使用して調査を行った。X-Tileは、前記集団の3分の1を表わす試験セット上で連続的データについての最適なカットポイントの選択のために使用され、その後、このカットポイントは、残りの3分の2を表わす検証セット上で適用された。高い核の発現(集団のうちの40%)は、70〜51%(検証セットp=0.026)の5年後疾患特異的生存率における減少をもたらし、一方、高い細胞質発現を示す患者は、70〜58%(検証セットp=0.038)の生存における減少を示した。これらの有効カットポイントを使用するCox一変量分析では、核TS発現[リスク比(RR)=1.46(95%CI: 1.13-1.89; p=0.004)]はまた、細胞質発現[RR=1.32(95%CI: 1.02-1.70; p=0.030)]と比較して、全体的にみて生存についてより良好な予測指標となる。定量的AQUA分析データを使用して、比率は核と細胞質の発現レベルの間でもたらされる。核:細胞質の高い比率は、Kaplan-Meier分析 [65 to 45%; 検証セット p=0.010)]およびCox一変量分析[RR=1.61 (95%CI: 1.09-2.37; p=0.012)]によって低下した生存率を示す。この比率は、核発現について非依存的であり(Spearman's rho = -0.036; p=0.41)、この比率に基づいて同定することができる低下した生存率を示す唯一の患者のコホートがあることを示している。高い核:細胞質の発現を示すコホートの中で、45%のケースのみが高い核のコホートにおいて表わされた。核の発現(p=0.03)および核:細胞質の比率(p=0.04)の両方は、段階、診断の年齢、性別および人種での多変量の分析による生存の非依存的な予測である。総合すれば、これらのデータは、TSの細胞内区画が大腸癌の結果の予測にとって重要であることを示している。さらに、核 対 細胞質発現の比率は、生存
を予測し、任意的には治療に対する応答性を予測するための新規なバイオマーカーになるであろう。
【0124】
例2:チミジル酸シンターゼ(TS)発現の局在性は1000以上の結腸直腸癌の2つのコホート内の再発についての予後である。
【0125】
概要
背景:
増加したチミジル酸シンターゼ(TS)発現は、減少した生存、および大腸癌の治療に対する応答性のためのマーカーである。TSは、核と細胞質の両方に局在するが、これらの発現レベルの関係がどのように大腸癌結果に影響するかは、まだ決定されていなかった。方法: AQUA(登録商標)分析を使用して、我々は、結腸直腸癌の2つの過去に遡ったコホートでの細胞内局在性の関数としてTS発現の予後を評価した。我々は、訓練セットとして第1のコホート(n=663)を使用し、続いて第2のコホート(n=447)の最適な発現カットポイントを確認した。結果: 低下した5年後疾患特異的生存率および増加した核発現 [腫瘍を発現する核のうちトップ60%について16%減少した生存率(72〜56%) (p<0.001)] および細胞質発現[腫瘍を発現する核のうちトップ54%について12%減少した生存率(70〜58%) (p=0.02)] の間の重要な関連性は、訓練セットについて観察された。より核-対-細胞質の高い割合はまた、低下した生存率[腫瘍のうちトップ19%について15%減少した生存率(66〜51%) (p<0.001)] と著しく相関した。検証セットに対するこれらの知見を適用して、時間 対 再発の関数として、比率[p=0.03(発現率); p=0.182(核); p=0.710(細胞質)]が、減少した時間 対 再発との顕著な関連性を示した。さらに、発現率は、T-段階および結節状態によって与えられた予後の値に加えられた。結論: これらのデータは、核 対 細胞質TS発現の関係のみを提示するのではなく、特に大腸癌生存率の強い予測値になる、核または細胞質発現単独であってもよい。
【0126】
概論
チミジル酸シンターゼ(TS)は、DNA合成に重要であるdTTPの生産のための経路におけるデオキシウリジラートの還元的メチル化を触媒する(1)。フルオロピリミジンに対する感度の決定要素としてのTS発現は、インビトロにおいて実証され(2, 3)、インビボにおけるTS発現は、5'FUに対する腫瘍応答性を決定する重要な役割を果たす(4, 5)。TSは、予後(6, 7)および治療に対する応答性の予測(レビューについて(8)を参照)の両方であると提示されている。しかしながら、集団内のパーセント陽性に関してかなり不均一であると考えられ、TS発現の全体の予後の値に関して文献には多種多様である(9)。この多種多様性は、従来の免疫組織化学(IHC)技術による発現レベルの主観的評価によって決定されるTS陽性の差異の定義を含む方法論の違いによるものであろう。mRNAを測定する研究は、かなりの主観性を排除しているが、いまだに大腸癌の取り扱いについてのルーチン プラクティスにはなっていない(5, 10, 11)。
【0127】
最近、TSが翻訳調節を含む他の細胞機能を有する可能性があることが実証された(レビューについて(12)を参照)。したがって、発現の細胞内局在性は、TSの機能的役割の重要な決定要素になる可能性がある。その潜在的重要性および機能的結果のTS細胞内局在性のために、我々は、生存率の関数としてのTS局在性の役割を調べることを望んだ。自動定量的分析(AQUA(登録商標))の方法が最近開発され、組織サンプルでの免疫蛍光の迅速な分析が可能になった(13)。この方法は、ELISAアッセイに匹敵する定量的結果を出し、ユーザーの定義した細胞内区画内のタンパク質のレベルを測定することができる(14)。肉眼で免疫組織化学的染色をスコアリングするヒトによって変わりやすい量を減らし、通常のスケールのものよりもタンパク質発現AQUAスコアの連続的範囲をもたらす(0, +1, +2, および+3)。興味ある対象の発現の細胞内局在性の関数として結果を評価する努力を含む研究の範囲について幅広く使用されてきた(15)。ここで、TS発現は、1000以上の結腸直腸癌の試料を表わす2つの独立したコホート上で、核および細胞質区画内で試験された。
【0128】
材料および方法
組織マイクロアレイ設計および処理
訓練用および検証用コホートの599の原発性結腸直腸癌(CRC)および477の原発性結腸直腸癌を含むTMA(ホルマリンで固定された、パラフィン包埋腫瘍サンプル。1970〜1981年までのエール大学ニューヘブン病院で得られた。and across multiple sites from 1989-1996 for the validation set)は、それぞれエール大学組織マイクロアレイ設備およびバージニア大学TMA設備で行われた。検証セットは、NCI Colon Cancer TMAであり、国立癌研究所の統計学者によって設計され、Lisa McShane および他によって公的販売が行われた。Kaiser Permanente Northwest Health Plan, 1989-1996のメンバーにおいて生じたケースから得られた大腸癌試料はTMA上に表示される。
【0129】
各腫瘍サンプルは、浸潤性の癌の領域について標識され、0.6mmコアを取得した。各コアは、1mm四方の格子中のレシピエントブロック内に整列され、5ミクロンの厚みの切片を切り取り、事前にレビューおよび記載されたとおりに加工した(16, 17)。
【0130】
免疫組織化学
短期において、事前切断パラフィンコートした組織マイクロアレイスライドを、脱パラフィン化し、加圧クッキングによって抗体回収を行った。スライドは、室温で60分間にわたって、0.1Mのトリス-バッファー生理食塩水(pH 8.0)(BSA/TBS)中0.3%ウシ血清アルブミンで前もってインキュベートした。スライドはその後、4℃で終夜BSA/TBS中において希釈されたチミジル酸シンターゼ(マウスモノクローナルクローン TS 106; 1:100希釈液; ;LabVision NeoMarkers, Fremont, CA) および全サイトケラチン (ウサギポリクローナル、1:100希釈液、DAKO、カーピンテリア、CA)に対する一次抗体で培養された。スライドを、0.05%Tween-20を含む1×TBSで3×10分で洗浄した。対応する2次抗体を、BSA/TBS中において室温で1時間にわたって適用した。これらは、抗サイトケラチンについてのフルオロフォアに直接結合した抗体(Alexa 488-結合ヤギ抗ウサギ; 1:100、Molecular Probes, Eugene, Oregon)、および/または抗-チミジル酸シンターゼについてのホースラディッシュ ペルオキシダーゼ (HRP)に直接結合した抗体(DAKO, Carpinteria, California)のいずれかを含む。スライドは、0.05% Tween-20を含むTBSで3×10分再び洗浄した。スライドを、蛍光クロマジェン(chromagen)(Cy-5チラミド(tyramide)、NEN Life Science Products, Boston, Massachusetts)とインキュベートする。これは、DABのように、HRPによって活性化され、HRP-結合2次抗体に隣接する多数の共有結合Cy-5色素の堆積をもたらす。Cy-5(赤)は、その発光ピークが組織自動蛍光の緑〜オレンジスペクトルの十分外側にあるので使用された。自動分析用のスライドは、抗-フェードDAPI-含有マウンティング媒体(anti-fade DAPI-containing mounting medium)(ProLong Gold, Molecular Probes, Eugene, OR)でスリップさせたカバーである。
【0131】
イメージの取得
自動化イメージキャプチャーは、既に詳述およびレビュー(13, 18)した、AQUA(登録商標)システムによって行った。オリンパスBX51顕微鏡を使用して、Cy3、DAPIで視覚化したサイトケラチン染色のイメージ、およびCy5での標的染色を撮像し、アレイ上の各ヒストスポット毎に保存した。インおよびアウトのフォーカスイメージを、AQUA(登録商標)スクリプトおよび確証プログラムでの以降の使用のために各チャネル毎に撮像した。
【0132】
AQUA(登録商標)分析(RESA/PLACEアルゴリズム)
AQUA(登録商標)分析を、既に説明したように行った(13)。簡潔には、腫瘍特異的マスクを、間質および/または白血球の周囲から腫瘍を区別するマーカー(サイトケラチン)のイメージを閾値化することによって生み出した。これは、2成分マスク(各ピクセルが「オン」または「オフ」である)を作る。閾値のレベルは、少数のイメージをスポットチェックすることによって検証され、その後、残りのイメージについて自動化する。全てのその後のイメージ操作は、マスクされた領域からのイメージ情報のみが含まれる。次に、2つのイメージ(1つはイン-フォーカス、1つは僅かに深い)は、区画特異的タグおよびターゲットマーカーで撮像される。アウト-オブ-フォーカスのイメージのパーセンテージは、2つのイメージのピクセル-バイ-ピクセル(pixel-by-pixel)分析に基づいてイン-フォーカスのイメージから減算される(RESAと呼ばれるアルゴリズム(迅速指数関数的減算アルゴリズム))。RESAはまた、より強い染色強度の領域とより弱い染色強度の隣接領域との間の境界を増強し、隣接区画のピクセルのより正確な割り当てを可能にする。最後に、PLACEアルゴリズムは、イメージ中の各ピクセルを特定の細胞内区画に割り当てる。区画に正確に割り当てることができないピクセルは、ユーザー定義の信頼度の範囲内において切り捨てられる。核および膜のピクセル強度が弱すぎて正確に割り当てることができない場合、ピクセルは無効にする(通常は全ピクセルの<8%を含む)。第3の区画(細胞質)は、排除によって定義することができる(非膜、非核)。いったん各ピクセルが細胞質区画に割り当てられると(あるいは、上述したように除外されると)、各位置のシグナルが計上される。このデータは保存され、続いて全シグナルのパーセンテージとして、あるいは区画領域当りの平均シグナル強度として表わすことができる。スコアは、3有効数字をつくる1〜255のピクセル範囲において検出可能な全強度として1〜1000のスケール上で表わされる。この研究において、TS核、細胞質、および核 対 細胞質シグナルの比率を分析した。スコアを、マスク領域内の細胞内区画によってカバーされた領域の量に基づいて調整した。
【0133】
データ分析
マスク領域(自動化)によって、<10%腫瘍を含むヒストスポットは、さらなる分析から除外した。AQUA(登録商標)スコア、は、最大AQUA(登録商標)スコアによって分割することによって各コホート当り0〜100スケールで標準化された。生存分析について、最適なカットポイントは、上述したX-TileTMを使用して選択した(19)。モンテカルロシミュレーションを使用して最適なカットポイント選択における複数の視点を調整した(20)。ハザード比率を、X-tileTMによって決定された最適カットポイントを使用する一変量および多変量Cox比例ハザードモデル(α=0.05のLogランク試験)を使用して評価した。X-tileカットポイント、Cox回帰および直線回帰モデルに基づいたKaplan-Meier曲線の生成を含む統計学的分析を、SPSSv14.01(SPSS, Inc., Chicago, IL)およびR(GNU, Boston, MA)を使用して行った。
【0134】
結果
AQUA(登録商標)を使用して大腸癌のTS発現を定量的に評価するために、結腸直腸癌の2つの大きな非依存的な既往のコホートを取得した。それぞれについて人口統計、臨床、および追跡情報を注釈した。この研究のために、第1のコホート(n=599; 平均疾患特異的生存率:23ヶ月)は、訓練セットとして使用した。第2のコホート(n=447; 平均無再発生存率:20ヶ月)は、訓練セットでの知見を実証するための検証セットとして使用した。各コホートの人口統計および臨床性質を表Iに示した。
【表1】

【0135】
訓練セットは、1970〜1981年までにエール大学で得られた599CRCケースからエール組織マイクロアレイ施設で構築された。NCI Colon Cancer TMA (検証セット)は、国立癌研究所の統計学者によって設計され、バージニア大学病理部門で構築された。TMA上に表わされるものは、Kaiser Permanente Northwest Health Plan, 1989-1996のメンバーにおいて起こった偶発的ケースから得られた大腸癌試料である。訓練セットについての生存期間中央値(Median survival time)は23ヶ月(疾患特異的生存率)であり、検証セットについては20ヶ月(無再発生存率)であった。年齢で失敗したケースがある(訓練セット中8ケース; 検証セット中32ケースについて情報なし)。また、同様に、性別(訓練セット中7ケース; 検証セット中35ケースについて情報なし)、組織学的異型度(訓練セット中125ケース; 検証セット中130ケースについて情報なし)、T-病理学段階(訓練セット中82ケース; 検証セット中116ケースについて情報なし)、および結節状態(訓練セット中95ケース; 検証セット中116ケースについて情報なし)でも失敗したケースがある。パーセンテージは、パーセント合計コホートとして与えられる。
【0136】
AQUA(登録商標)スコアは、蛍光染色のマルチプレキシング パワーを利用し、単一スライド上の複数のマーカーの染色を可能にする。これらの実施態様において、各腫瘍サンプルは、TSについて染色を行い(Cy5)、間質成分から上皮を区別し、かつ細胞質を識別するためにサイトケラチンについて染色を行い(Cy2)、また、核を区別するためにDAPI染色を行った。図1について、各マーカーの染色パターンは、2つの代表的腫瘍サンプルについて与えられた。核腫瘍サンプルについて、単位面積当たりの分子に正比例するAQUA(登録商標)スコア(McCabe et al)は、核および細胞質中のTS発現について作成された。図1Aは、細胞質に対して高い核TS発現比率をもつ腫瘍を示している(発現率:1.54)。一方、図1Bは、細胞質に対して低い核TS発現比率をもつ腫瘍を示している(発現率:0.77)。
【0137】
このような量的分析における重要な考察は、実験の再現性である。2つの組織コアが、95%を越えるケースにおいて全腫瘍発現の代表であることが実証された(21)。再現性を評価するために、訓練セット中の663の腫物サンプルのうち152について個々の重複性のコアを染色し、その後に算出されたAQUA(登録商標)スコアで回帰分析を行った。得られた相関係数は、抗体/実験の再現性の評価だけではなく、発現の不均一性の評価も提供する。0.4未満のR値は、実験の失敗と考えられるが、0.4と0.8との間のR値は、不均一なマーカーの発現を示していると考えられる。そして、0.7よりも大きな値は、より均一であると考えられる。図2は、核 (R = 0.73; Spearman's Rho = 0.74 (p < 0.001); 図2A)、細胞質 (R = 0.71; Spearman's Rho = 0.73 (p < 0.001); 図2B)、および発現比率 (R = 0.79; Spearman's Rho = 0.77 (p < 0.001); 図2C) 間の回帰分析を示す。これらの結果は高い実験的再現性をもたらし、また、大腸腫瘍内のTS発現がかなり均一であることを示している。図2Dは、核TS発現および発現比率(核 対 細胞質)間の回帰分析を示している。相関関係の欠失は、TS発現比率が核発現レベルと相関していないことを示し、低レベルの核発現を示す患者は、高い発現比率をもつことができる。
【0138】
免疫組織化学的データを用いた様式と類似の様式であって、連続的データの正確な様式において、TS発現と患者の結果との間の関係を観察するために、最適なカットポイントを見つけることが必要であった。X-tileと呼ばれる最近開発された統計学的方法(19)は、連続的集団の最適な分割を決定するために適用される。訓練セット上の核TS発現についての最適なAQUA(登録商標)スコア カットポイント(cutpoint)は、集団の上位60%を表わす27.4であると決定された(図3A)。このグループの患者は全体の5年後疾患特異的生存率において16%の低下(72から56%)となった。モンテカルロ(Monte Carlo)シミュレーションからの有意な結果(p<0.001)は、1000のランダム生成集団を使用して最適なカットポイントについて認められた。しかしながら、このカットポイントは、NCI検証セットに適用されたときに有意性を示さなかった(図3B; p=0.182)。このことは、核TS発現は大腸癌の結果の強い予測指標ではないことを示唆している。
【0139】
訓練セットでの細胞質TS発現の生存分析(図4A)はまた、増加した発現と低下した5年後疾患特異的生存率との間の有意な関連性を明らかにした[腫瘍を発現する上位54%の細胞質について12%の低下した生存率(70から58%)(Monte Carlo p = 0.02)]。しかしながら、このカットポイントが検証セットに適用されたとき、生存率との有意な関連性は認められなかった(図4B; p=0.71)。このことは、細胞質TS発現もまた大腸癌の結果の強い予測指標ではないことを示唆している。
【0140】
異なる細胞内区画中のTSについての様々な機能的役割を示すデータに基づいて、各腫瘍サンプルについての核-対-細胞質の発現比率を求めた。比率は、1より少ない比率に標準化するためにlog変換を行い(表示を容易にするために実際の比率として示した)、その後に上述したように分析を行った。1.01よりも大きい高い発現比率を示す腫瘍(集団の上位19%)は、訓練セットでの5年後疾患特異的生存率において有意な(Monte Carlo p<0.001)15%の低下(66から51%)を示した(図5A)。この第2のコホートで検証されたカットポイント(p = 0.03)(図5B)は、核-対-細胞質の比率が大腸癌の結果の強い予測指標であることを示唆している。
【0141】
核-対-細胞質の比率が、他の既知の臨床的な予後の特徴に関して大腸癌における予後の値を加えるか否か確認するために、訓練および検証セットの両方のCox比例ハザード多変量モデルが、一次的に両コホートに共通な既知の臨床的特徴のみについて調査された(T−病理学段階、結節状態、組織学的異型度、診断の年齢中央値、および性別)。訓練セットにおいて、最良の臨床モデル(表IIA)が、T−病理学段階(Hazard Ratio (HR): 2.27 (95%CI: 1.56 - 3.29); p<0.001)、結節状態 (HR: 3.55 (95%CI: 2.38 - 5.39); p0.001), および性別 (HR: 0.71 (95%CI: 0.52 - 0.96); p = 0.028) を含む。組織学的異型度および診断の年齢は、モデルに対して著しい寄与を与えなかった (データは示さない)。 検証セットに対するこのモデルの適用は、性別 (H: 0.89 (95%CI: 0.60 - 1.34); p = 0.589) ではなく、T−病理学段階(HR: 2.04 (95%CI: 1.01 - 4.13); p = 0.049) および 結節状態 (HR: 3.89 (95%CI: 2.24 - 6.77); p<0.001) のみが、有意な予後の値を有することを実証した(表IIB)。共変動を用いて、T−病理学段階および結節状態、我々の最良の全体的臨床モデルとして、TS発現比率の分布について試験を行った(表III)。この分析において、最適なカットポイントを使用して、高い比率(>1.01)を示す患者と低い比率(<1.01)を示す患者、2つの群の患者を与えた。訓練セットについて(表IIIA)、発現率(HR: 1.79 (95% CI: 1.30-2.67); p = 0.001)は、予め確立された臨床モデルに著しい寄与を与える。検証セットについて、TS発現比率の追加は、10%レベルの予後の有意性に寄与した (HR: 1.47 (95%CI: 0.94 - 2.28); p = 0.091)。
【表2】

【0142】
最良の臨床モデルを生成する臨床学的特徴のCox比例ハザード多変量分析。示されたハザード比率およびp-値をもつ、A.)訓練セット(5年後疾患特異的生存率; n=599)およびB.)検証セット(無病生存率; n=447)。
【表3】

【0143】
TS発現比率を最良の臨床モデルに加えるCox多変量比例ハザード多変量モデル。示されたハザード比率およびp-値をもつ、A.)訓練セット(5年後疾患特異的生存率; n=599)およびB.)検証セット(無病生存率; n=447)。
【0144】
議論
上述したように、大腸癌のTS発現についての予後の値が見出された。しかしながら、客観的かつ厳密に定量的な手法を使用しても、TSの細胞質または核レベルは、独立したコホート上の予後のマーカーとして確証されなかった。しかしながら、TS発現は、核-対-細胞質発現の比率として大腸癌の結果の強力な予測指標であることが明らかになった。訓練セット中の全疾患特異的生存率において15%の減少が観察され、その後、この発現比率カットポイントを第2の独立コホートに適用し、結果を検証した。さらに、第2のコホート中の時間-対-再発について試験が行われ、これらの知見は、発現比率が全生存率を予測するだけではなく、無病生存率も予測することを指示している。高い発現比率の患者は、無再発生存率において17%の減少を示した。また、多変量分析において、発現比率が予後の有意性を、生存率を予測するために使用された既にある臨床学的特徴(T−病理学段階および結節状態)に加えることが実証された。したがって、TS発現比率は、結腸直腸癌の患者の治療の方向としての決定に影響を与えることができる新規な予後のバイオマーカーを表わす。
【0145】
これらの知見の新規性はまた、発現比率がTSの全体の発現レベルに依存していないという事実から生じる(図2D)。訓練セットにおける事実において、低下した生存率を示す高い発現比率の群における55%の患者が、全核および/または細胞質レベルで見ると、良好な予後を有するように特徴づけられた。したがって、発現比率はTSの全細胞または細胞内レベルを測定することによって得られない結果の予測のレベルを提供する。理論に結びつくことなく、これは調製または固定化における個々の可変性または人為的結果を標準化するという事実を含む、多数の因子によるものであってもよい。さらに、これらの知見は、必ずしも全レベルではなく、より低い疾病の結果に寄与する腫瘍内のTSの局在性であるという仮説を支持する。
【0146】
TSに帰する一次的役割は、DNA合成のためのTTPの産生、細胞質中に生じると考えられるプロセスである(4, 22, 23)。しかしながら、最近の知見は、細胞増殖中において機能するTSを示した。また、それは、p53およびc-mycを含むいくつかのmRNAの翻訳リプレッサーとして機能する場合、RNA結合タンパク質として機能した(レビューについて(12)を参照)。これは未だ明確ではないが、TSの核局在性は、そのRNA結合機能に関係しているかもしれない。これは未結合/遊離TSが主に核内に局在し、RNA結合を担うTSの形態になることを示しているデータによって支持されている(24)。本明細書中に示されたデータと一緒に、ターナリーまたは結合TS(細胞質)と比較した増加した遊離TS(核)は、重要な腫瘍サプレッサー遺伝子(例えば、p53)の増加した翻訳抑制による弱い結果の指標である。
【0147】
上述したように、TSの増加した発現は、5’FU処理に対する減少した応答に関連していた。また、増加した核発現は、治療に対する減少した応答に関連していることを実証した(25)。訓練セットを使用する実験室からの一次的証拠は、核または細胞質発現のみではない、TS発現比率が、患者の小サブセット(n=73)上で確認された5’FU治療に対する応答を著しく予測することを示唆している(データは示さず;検証する不十分な情報力は第2のコホート上で生じる。)。これらのデータを治療患者のより大きな集団上で検証できる場合、核と比較して細胞質TSの利用可能性が低い患者は、おおよそ低下した治療応答性を示した。
【0148】
全体として、これらの研究は、核−対―細胞質の発現比率が、核および/または細胞質発現単独よりも、大腸癌患者の全体的生存率および無病生存率のより強力な予測指標になることを実証している。多変量分析によって指示されるとき、このバイオマーカーは、他の共通の臨床病理学的判定基準とともに使用することができ、腫瘍経過の決定のための診療において患者の予後をより良く評価することができる。このバイオマーカーはまた、5'FU処理に対する応答についての強力かつ独立した予測指標として使用できることが明らかになった。
【0149】
例3: TSマルチプレクシング
全TS発現と核:細胞質比率との関係を理解するために、2つの値が訓練セットおよび検証セットの両方において退行した(図6Aおよび7A)。ランク−分析は弱くなり、有意に非直線的な関係を示す(Spearman's Rho = -0.31 (訓練セット; p<0.001); および -0.14 (検証セット; p=0.007)。TSについてこれら2つの値を多重化するために、訓練セット上のX-tileに作成された最適なカットポイントを使用して、患者の集団を、訓練および検証セットにおいて、4つの異なる患者の群に分けた:「Low Total/Low Ratio」、「High Total/Low Ratio」、「Low Total/High Ratio」、および「High Total/High Ratio」(図6A および YA)。Kaplan-Meier分析によって、5年後疾患特異的生存率における統計学的有意な差異が、全ての群の間(p < 0.001)、「Low Total/Low Ratio」の群と「High Total/High Ratio」の群との間(p < 0.001)、「Low Total/Low Ratio」の群と「Low Total/High Ratio」の群の間(p = 0.001)、および「High Total/Low Ratio」の群と「High Total/High Ratio」の群の間(p=0.016)で、訓練セットについて観察された。「High Total/Low Ratio」の群と「Low Total/High Ratio」の群との間で生存率に有意な差異は存在しなかった。これらのカットポイントを検証セットに適用すると(図7B)、全ての群を通して再発までの時間において有意な(10%レベルの)差異が観察された。また、「Low Total/Low Ratio」と「High Total/High Ratio」の群の間 (p = 0.055)。「High Total/Low Ratio」と「High Total/High Ratio」の群の間の再発までの時間における有意な差異 (p = 0.021) がまた観察され、一方、「Low Total/Low Ratio」と「Low Total/High Ratio」の群の間の有意な差異は観察されなかった (p = 0.548)。
【0150】
これらの結果は、全TS発現と組み合わせた核:細胞質比率を試験することによって予後での付加的効果を強く示す。重要なことは、これらの知見は第2の独立したコホート上で検証される。第2のコホートにおいて、再発までの時間が試験され、この多重項目が全生存率を予測するだけでなく、無病生存率も示した。先に、核:細胞質の比率(HR: 1.68; 95CI: 1.23-2.3; p=0.001)が、一変量分析における他のマーカーと比較して生存率の最も強い予測指標であることを実証した。これらの知見は、検証セットにおいて確認された(HR: 1.61; 95CI: 1.04-2.05; p = 0.03)。しかしながら、訓練セットでのこの多重項目試験は、「Low Total/Low Ratio」の群と比較して3.6 (95CI: 2.1-5.9; p<0.001)のハザード比率を有する「High Total/High Ratio」の群で5年後疾患特異的生存率の強力な予測指標になることを実証した。この知見は、「High Total/High Ratio」の群が「Low Total/Low Ratio」の群と比較して2.1ハザード比率を有するとき(95CI: 0.99-4.3; p=0.055)、第2のコホート上で確認された。総合すれば、これらのデータは、新規なバイオマーカーを同定し、全発現と区画比率の関数としてAQUA(登録商標)分析によって得られた連続的発現データが多重化されることによって新たなバイオマーカーが作り出され、これが個々に取得された各々の測定値と比較してより有効な予後の指標となることを示している。
【0151】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の組織サンプル中に存在する対象の細胞内の第1の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量、および第2の細胞内区画中に存在する当該特定のバイオマーカーの量を決定し、第2の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量に対する第1の細胞内区画中に存在するバイオマーカーの量の比率を取得し、前記得られた比率を、一連の予後と関連づけられた一連の所定の比率と相関させ、患者の予後を行う、ことを含む、ある種の癌に罹患した患者の予後を行う方法。
【請求項2】
前記特定のバイオマーカーが、チミジル酸シンターゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記癌の種類が、大腸癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の細胞内区画が核の区画であり、かつ前記第2の細胞内区画が細胞質の区画である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
1を越える前記所定の比率が、患者についての好ましくない予後と関連づけられる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
1未満の前記所定の比率が、患者についての好ましい予後と関連づけられる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量、および第2の細胞内区画中に存在する当該特定のバイオマーカーの量が、各々、自動病理システムを用いて決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記得られた比率を、その各々が予測生存時間と関連づけられる多数の標準参照比率と比較することをさらに含む、請求項1に記載の方法であって、前記患者の予後が、前記得られた比率に数値的に最も近い参照比率と相関する、方法。
【請求項9】
(a)前記得られた比率と、(b)第1の細胞内区画中に存在する前記バイオマーカーの量と第2の細胞内区画中に存在する前記バイオマーカーの量の合計との関係を決定し、前記決定された関係を患者の予後と相関させる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
患者におけるある種の癌の進行の段階を決定する方法であって、
(a)患者の組織サンプル中に存在する対象の細胞内の第1の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量、および第2の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量を決定し、
(b)第2の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量に対する第1の細胞内区画中に存在するバイオマーカーの量の比率を取得し、
(c)前記得られた比率を、特定種の癌の一連の段階と関連づけられた多数の標準参照比率と比較し、
(d)前記得られた比率に近い標準参照比率に基づいて前記種類の癌の進行の段階を決定する、ことを含む、方法。
【請求項11】
前記特定のバイオマーカーが、チミジル酸シンターゼである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記癌の種類が、大腸癌である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の細胞内区画が核の区画であり、かつ前記第2の細胞内区画が細胞質の区画である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の細胞内区画中に存在するバイオマーカーの量、および第2の細胞内区画中に存在するバイオマーカーの量が、各々、自動病理システムを用いて決定される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
患者が癌治療を受け、前記種類の癌の進行の段階が特定の時間間隔で決定され、それによって治療の有効性を評価する、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
ある種の癌に罹患した患者の適切な治療を選択する方法であって、
(a)患者の組織サンプル中に存在する対象の細胞内の第1の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量、および第2の細胞内区画中に存在する当該特定のバイオマーカーの量を決定し、
(b)第2の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量に対する第1の細胞内区画中に存在するバイオマーカーの量の比率を取得し、
(c)前記得られた比率を、多数の可能な治療の各々での処理に対する当該種類の癌の細胞の応答性および非応答性と関連した多数の標準参照比率と比較する、
ことを含み、
患者の適切な治療が、得られた比率に数値的に最も近い参照比率に基づいて選択される、方法。
【請求項17】
前記特定のバイオマーカーが、チミジル酸シンターゼである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記癌の種類が、大腸癌である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記第1の細胞内区画が核の区画であり、かつ前記第2の細胞内区画が細胞質の区画である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記第1の細胞内区画中に存在するバイオマーカーの量、および第2の細胞内区画中に存在するバイオマーカーの量が、各々、自動病理システムを用いて決定される、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
特定の治療がある種の癌に罹患した患者で成功する可能性を決定する方法であって、
(a)患者の組織サンプル中に存在する対象の細胞内の第1の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量、および第2の細胞内区画中に存在する当該バイオマーカーの量を決定し、
(b)第2の細胞内区画中に存在する特定のバイオマーカーの量に対する第1の細胞内区画中に存在するバイオマーカーの量の比率を取得し、
(c)前記得られた比率を、特定の治療での処理に対する当該種類の癌の細胞の応答性および非応答性と関連した多数の標準参照比率と比較する、ことを含み、
特定の治療の成功の可能性が、前記得られた比率に数値的に最も近い参照比率に基づいて決定される、方法。
【請求項22】
前記特定のバイオマーカーが、チミジル酸シンターゼである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記癌の種類が、大腸癌である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記第1の細胞内区画が核の区画であり、かつ前記第2の細胞内区画が細胞質の区画である、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記第1の細胞内区画中に存在するバイオマーカーの量、および第2の細胞内区画中に存在するバイオマーカーの量が、各々、自動病理システムを用いて決定される、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
(a)チミジル酸シンターゼに特異的な第1の染料、
(b)細胞の第1の細胞内区画に特異的な第2の染料、
(c)細胞の第2の細胞内区画に特異的な第3の染料、および
(d)キットを使用するための説明書、
を含む、キット。
【請求項27】
生存率、疾病の段階、または治療の応答性に関連づけられた細胞内における核/細胞質チミジル酸シンターゼレベルの標準参照比率をさらに含む、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
前記第2の染料が核の区画に特異的であり、前記第3の染料が細胞質の区画に特異的である、請求項26に記載のキット。
【請求項29】
前記第1、第2および第3の染料の各々が、蛍光染料である、請求項26に記載のキット。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−544007(P2009−544007A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519548(P2009−519548)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【国際出願番号】PCT/US2007/016014
【国際公開番号】WO2008/008500
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(506291416)イェール・ユニバーシティー (4)
【Fターム(参考)】