説明

バイオ燃料電池、バイオリアクタ及びバイオセンサ

【課題】電極及びその近傍の温度を触媒反応に最適な温度に制御し得るバイオ燃料電池の提供。
【解決手段】酸化還元酵素を触媒とした燃料の酸化還元反応の反応場となる電極2と、少なくとも一部が電極2に接触するとともに、少なくとも一部が電池筐体1外に露出して配置された絶縁性熱伝導材3と、を有するバイオ燃料電池Aを提供する。バイオ燃料電池Aでは、絶縁性熱伝導材3の電池筐体外1に露出する部分に温熱源あるいは冷熱源を接触させることにより、電極2に温熱あるいは冷熱を伝導して、電極2及びその近傍の温度を制御できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、バイオ燃料電池、バイオリアクタ及びバイオセンサに関する。より詳しくは、電極及びその近傍の温度を酵素の触媒反応に最適な温度に制御し得るバイオ燃料電池などに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アノード又はカソードの少なくとも一方の電極上に触媒として酸化還元酵素を固定したバイオ燃料電池が開発されてきている。バイオ燃料電池では、グルコースやエタノールなどの通常の工業触媒では反応が困難な燃料から効率良く電子を取り出して高い容量を得ることができる。このため、バイオ燃料電池では、燃料溶液としてグルコースやエタノール等を含む飲料などの液体を用いることも可能となる。例えば、特許文献1には、飲料を燃料とする燃料電池部を備えた電力供給装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−048858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バイオ燃料電池において十分な性能を引き出すためには、電極あるいはその近傍の温度を酵素の活性至適温度に維持し、触媒反応を効率良く進行させる必要がある。酵素の活性至適温度は、37℃程度であり、バイオ燃料電池が使用される温度(通常は室温)よりも高いのが通常である。
【0005】
そこで、本技術は、電極及びその近傍の温度を酵素の触媒反応に最適な温度に制御し得るバイオ燃料電池を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題解決のため、本技術は、酸化還元酵素を触媒とした燃料の酸化還元反応の反応場となる電極と、少なくとも一部が電極に接触するとともに、少なくとも一部が電池筐体外に露出して配置された絶縁性熱伝導材と、を有するバイオ燃料電池を提供する。このバイオ燃料電池では、絶縁性熱伝導材の電池筐体外に露出する部分に温熱源あるいは冷熱源を接触させることにより、電極に温熱あるいは冷熱を伝導して、電極及びその近傍の温度を制御できる。
本技術に係るバイオ燃料電池は、さらに、前記電極に対して接触可能に供給される燃料の貯留空間を挟んで前記電極に対向して配置され、少なくとも一部が電池筐体外に露出された熱伝導材を有することが好ましい。この熱伝導材を介して外気温を燃料の貯留空間に伝導することにより、加熱あるいは冷却された電極及びその近傍との温度差によって燃料を熱対流させ撹拌できる。
本技術に係るバイオ燃料電池は、前記絶縁性熱伝導材の電池筐体外に露出する部分および/または前記熱伝導材の電池筐体外に露出する部分を被覆し得る断熱材を有し、該断熱材が、前記絶縁性熱伝導材の電池筐体外に露出する部分および/または前記熱伝導材の電池筐体外に露出する部分を被覆する位置と被覆しない位置との間で位置変更可能に構成されていることが好ましい。また、本技術に係るバイオ燃料電池は、前記断熱材が、前記絶縁性熱伝導材の電池筐体外に露出する部分および/または前記熱伝導材の電池筐体外に露出する部分を被覆しない位置にある場合に、前記絶縁性熱伝導材の電池筐体外に露出する部分および/または前記熱伝導材の電池筐体外に露出する部分に接触配置される冷却材を有することが好ましい。これらの断熱材及び冷却材を有することにより、上記絶縁性熱伝導材及び上記熱伝導材を介した熱伝導を制御して、電池の使用状況に応じて電極及び電池筐体内の温度を所望の温度に設定できる。
本技術に係るバイオ燃料電池は、前記絶縁性熱伝導材の電池筐体外に露出する部分を人体表面側に位置させた状態で前記電池筐体を身体に装着するための部材を有することが好ましい。この部材は、絶縁性熱伝導材の電池筐体外に露出する部分に接触さえる熱源として体温を利用する際に用いられる。
また、本技術は、酸化還元酵素を触媒とした物質の酸化還元反応の反応場となる電極と、少なくとも一部が電極に接触するとともに、少なくとも一部が筐体外に露出して配置された絶縁性熱伝導材と、を有するバイオリアクタを提供する。さらに、本技術は、酸化還元酵素を触媒とした物質の酸化還元反応の反応場となる電極と、少なくとも一部が電極に接触するとともに、少なくとも一部が筐体外に露出して配置された絶縁性熱伝導材と、を有するバイオセンサをも提供する。これらのバイオリアクタ及びバイオセンサにおいても、絶縁性熱伝導材の筐体外に露出する部分に温熱源あるいは冷熱源を接触させることにより、反応素子となる電極に温熱あるいは冷熱を伝導して、電極及びその近傍の温度を制御できる。
【発明の効果】
【0007】
本技術により、電極及びその近傍の温度を触媒反応に最適な温度に制御し得るバイオ燃料電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本技術の第一実施形態に係るバイオ燃料電池の構成を説明するための模式図である。
【図2】第一実施形態に係るバイオ燃料電池の変形例の構成を説明するための模式図である。
【図3】本技術の第二実施形態に係るバイオ燃料電池の構成を説明するための模式図である。
【図4】本技術の第三実施形態に係るバイオ燃料電池の構成を説明するための模式図である。
【図5】本技術の第四実施形態に係るバイオ燃料電池の構成を説明するための模式図である。
【図6】本技術の第五実施形態に係るバイオ燃料電池の構成を説明するための模式図である。
【図7】本技術に係るバイオ燃料電池を身体に装着するための構成を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本技術を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。説明は以下の順序で行う。

1.第一実施形態に係るバイオ燃料電池
(1)電池構造
(2)電極材料
(3)絶縁性熱伝導体材料
(4)燃料
(5)酵素
(6)集電体・プロトン伝導体・セパレータ
2.第一実施形態の変形例に係るバイオ燃料電池
(1)電池構造
(2)断熱材
3.第二実施形態に係るバイオ燃料電池
(1)電池構造
(2)熱伝導体材料
4.第三実施形態に係るバイオ燃料電池
5.第四実施形態に係るバイオ燃料電池
6.第五実施形態に係るバイオ燃料電池
7.バイオリアクタ及びバイオセンサ

【0010】
1.第一実施形態に係るバイオ燃料電池
図1に、本技術の第一実施形態に係るバイオ燃料電池の構成を示す。
【0011】
(1)電池構造
図中、符号Aで示すバイオ燃料電池は、電池筐体1と、電池筐体1内に配設された電極2と、少なくとも一部が電極2に接触するとともに、少なくとも一部が電池筐体1外に露出して配置された絶縁性熱伝導体3と、を含んでなる。
【0012】
ここでは電極2としてひとつの電極のみを図示しているが、バイオ燃料電池Aは、燃料の酸化反応により電子を取り出す負極(燃料極)と、外部から供給される酸素の還元反応を行なう正極(空気極)とを有する。以下、「電極2」と称する場合は、負極であってもよく、正極であってもよいものとして説明を行う。
【0013】
バイオ燃料電池Aは、上記した構成に加えて、燃料、集電体、セパレータおよびプロトン伝導体などの通常のバイオ燃料電池が備える構成を有している。燃料は、負極に接触する状態で電池筐体1の貯留空間11内に充填される。電池筐体1には、内部に燃料を供給するための供給口が設けられ得る。また、電池筐体1には、正極に接触される空気を内部に導入するための導入口も設けられ得る。負極及び正極はそれぞれ集電体に電気的に接続され、各集電体には負極で取り出された電子を正極に送り込む外部回路が接続され得る。セパレータは、ショート防止のため、負極と正極との間に配置される。また、負極と正極との間には、プロトン伝導体(電解液)が電極に接触して充填される。
【0014】
電極2上あるいは電極2内には、燃料の酸化反応あるいは酸素の還元反応を触媒する酵素が存在する。酵素は、電子の授受が可能な限りにおいて、電極2上あるいは電極2内に限られず、電極2近傍に存在していてもよい。
【0015】
絶縁性熱伝導体3は、電池筐体1外に露出する部分からの温熱あるいは冷熱を接触する電極2に伝導し、電極2及びその近傍の温度を変化させるために機能する。従って、絶縁性熱伝導体3の電池筐体1外に露出する部分に温熱源あるいは冷熱源を接触させることにより、電極2及びその近傍の温度を所望の温度に制御することが可能となる。
【0016】
温熱源を用いる場合、絶縁性熱伝導体3を介して電極2を酵素が高い触媒活性を示し得る温度に温めることができる。これにより、低温環境下においても、十分な電池性能を得ることが可能となる。温熱源としては、ヒーター等の汎用の加熱手段を用いてもよいが、人の体温を利用することで電極2を活性至適温度である37℃程度に維持することができる。常時ユビキタスに利用可能な体温を用いることで、室温下においても、バイオ燃料電池Aの内部エネルギーあるいは外部エネルギーを使用したり、別途熱源を用意したりすることなく、電池性能を高められる。
【0017】
また、飲料を燃料として用いようとする場合、飲料が冷やされていると、供給口から飲料を電池筐体内に供給した直後は、低い温度のために燃料の酸化反応の効率が低く、十分な出力を得るためには内部に充填された飲料が室温にまで温まるのを待つ必要がある。このような場合、バイオ燃料電池Aでは、絶縁性熱伝導体3が外気温を迅速に電極2に伝導するため、電極2及びこれに接触する飲料の温度を迅速に室温にまで温めることができ、短時間で発電を開始することができる。さらに、ヒーターや体温等の温熱源を利用すれば、より短い時間で、あるいは瞬時に、発電を開始することも可能となる。
【0018】
一方、冷熱源を用いる場合、絶縁性熱伝導体3を介して電極2を酵素の触媒活性がないか、あるいは極めて低くなるような低温に冷やすことができる。これにより、バイオ燃料電池Aを使用しない期間において、酵素の経時的な自然劣化を抑制して、性能を維持した状態で電池を保管することが可能となる。冷熱源としては、熱交換器や冷却材などの汎用の冷却手段を用いることができる。
【0019】
(2)電極材料
電極2の材料は、多孔質カーボン、カーボンペレット、カーボンペーパー、カーボンフェルト、炭素繊維又は炭素微粒子の積層体などのカーボン系材料とされる。このうち、特に多孔質のカーボン系材料が好ましい。
【0020】
(3)絶縁性熱伝導体材料
絶縁性熱伝導体材料3の材料は、窒化アルミニウム、窒化ホウ素及びアルミナなどの焼結セラミックをフィラーとして含む高分子化合物が挙げられる。高分子化合物には、ポリフェニレンスルフィド、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂及びシリコーンなどが用いられる。また、絶縁性熱伝導体材料3の材料には、窒化珪素及び炭化珪素などの各種セラミック類を用いることもできる。絶縁性熱伝導体材料3と電極2は、ペースト状の絶縁性高熱伝導材により接着することが可能である。
【0021】
(4)燃料
燃料は、バイオ燃料電池の燃料として使用可能な物質であって、負極上の酸化酵素の基質となり得る物質を一以上含む液体であることが好ましい。燃料として使用可能な物質は、例えば、糖、アルコール、アルデヒド、脂質及びタンパク質などが挙げられる。具体的には、グルコース、フルクトース、ソルボース等の糖類、エタノール、グリセリン等のアルコール類、酢酸、ピルビン酸等の有機酸などが挙げられる。この他にも、脂肪類やタンパク質、これらの糖代謝の中間生成物である有機酸などが挙げられる。なお、燃料溶液には、市販の飲料を用いることができる。
【0022】
(5)酵素
負極上あるいは負極内には、燃料の酸化還元反応を触媒し、電子を取り出すための酵素が存在する。このような酵素として、グルコースデヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドレダクターゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、ラクテートデヒドロゲナーゼ、ヒドロキシパルベートレダクターゼなどが挙げられる。負極には、酸化型補酵素、補酵素酸化酵素及び電子伝達メディエーターを固定してもよい。
【0023】
正極上あるいは正極内には、外部から供給される酸素の還元反応を触媒する酵素が存在する。このような酵素として、酸素を反応基質とするオキシダーゼ活性を有する酵素であって、例えばラッカーゼやビリルビンオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼなどが挙げられる。正極には、電子伝達メディエーターを固定してもよい。
【0024】
電極2上に酵素が存在する態様は、酵素が固定化膜によって電極表面に固定化されている態様に限定されず、例えば、酸化還元反応を触媒し反応触媒として作用する微生物を電極表面に付着させる態様でもよい。酵素、補酵素及び電子伝達メディエーターの固定化膜による固定化は、従来公知の手法により行うことができる。固定化は、特にポリペプチドなどの生体由来ポリマーを用いて固定化膜を形成することにより行うことが好ましい。なお、ここで「電極の表面」とは、電極の外表面と、電極が多孔質材料により形成される場合には電極内部の空隙の表面と、の両者を含むものとする。
【0025】
(6)集電体・プロトン伝導体・セパレータ
集電体は、電池性能の観点から好ましくは金属部材とされる。プロトン伝導体には、電子伝導性がなく、Hの輸送が可能な電解質が用いられる。プロトン伝導体には、例えば、緩衝物質を含む電解液が用いられる。電解液には、特にpH7付近の中性緩衝液が好適に用いられる。セパレータは、電解液あるいはその組成成分を透過可能な材料により形成され、例えばセルロース系不織布やセロファンなどによって形成される。
【0026】
なお、本実施形態の構成は、負極及び正極の両方に燃料溶液が接触する「浸水系」の場合、及び負極のみが燃料溶液に接触する「大気暴露系」の場合の両方に適用可能である。また、本実施形態の構成は、電池本体に電池部が1つ設けられた「単セル」構造のものだけでなく、複数の電池部が直列又は並列に接続されている構造のものにも適用することが可能である。
【0027】
2.第一実施形態の変形例に係るバイオ燃料電池
図2に、本技術の第一実施形態の変形例に係るバイオ燃料電池の構成を示す。
【0028】
(1)電池構造
図中、符号Bで示すバイオ燃料電池は、電池筐体1と、電池筐体1内に配設された電極2と、少なくとも一部が電極2に接触するとともに、少なくとも一部が電池筐体1外に露出して配置された絶縁性熱伝導体3と、を含んでなる。絶縁性熱伝導体3の一部は、断熱材31によって被覆されている。
【0029】
バイオ燃料電池Bにおいて、絶縁性熱伝導体3は、電極2への接触部分と電池筐体1外への露出部分との間が細い柱体となるように形成されている。電池筐体1外に露出する部分からの温熱あるいは冷熱は、柱体部分を伝導し、電極2の温度を変化させる。絶縁性熱伝導体3は、電極2への接触面および電池筐体1外への露出面を除き、柱体部分を含めて断熱材31によって覆われている。これにより、電池筐体1外に露出する部分から電極2への接触部分への熱伝導を効率化できる。
【0030】
断熱材31を有する点及び絶縁性熱伝導体3の形状以外のバイオ燃料電池Bの構成は、バイオ燃料電池Aと同様であるので説明を省略する。
【0031】
(2)断熱材
断熱材31の材料には、グラスウール、ロックウール、羊毛及び炭化コルク等の繊維素材、ウレタン、フェノールフォーム、発砲スチロール、発砲ポリプロピレン等の発泡素材などが利用できる。また、中空構造により断熱性を確保してもよい。
【0032】
3.第二実施形態に係るバイオ燃料電池
図3に、本技術の第二実施形態に係るバイオ燃料電池の構成を示す。
【0033】
(1)電池構造
図中、符号Cで示すバイオ燃料電池は、電池筐体1と、電池筐体1内に配設された電極2と、少なくとも一部が電極2に接触するとともに、少なくとも一部が電池筐体1外に露出して配置された絶縁性熱伝導体3と、を含んでなる。さらに、バイオ燃料電池Cは、電極2に対して接触可能に供給される燃料の貯留空間11を挟んで電極2に対向して配置され、少なくとも一部が電池筐体1外に露出された熱伝導材4を有する。
【0034】
熱伝導体4は、電池筐体1外に露出する部分から外気温を電池筐体1内の燃料の貯留空間11に伝導する。従って、例えば絶縁性熱伝導体3の電池筐体1外に露出する部分に温熱源を接触させ、電極2及びその近傍の温度を外気温よりも高い温度とした場合には、熱伝導体4付近との温度差により、貯留空間11内の燃料溶液を熱対流(図中矢印参照)させることができる。
【0035】
バイオ燃料電池では、酸化還元反応の進行に伴って、電極近傍の燃料溶液中にpHや燃料濃度、生成物濃度の勾配が形成され、これらによって反応が阻害される場合がある。バイオ燃料電池Cでは、上記のように貯留空間11内の燃料溶液を熱対流させることで、勾配が形成されないようにしたり、形成された勾配を解消するようにしたりでき、電池性能の低下防止あるいは回復が可能である。
【0036】
熱伝導材4を有する点以外のバイオ燃料電池Cの構成は、バイオ燃料電池Aと同様であるので説明を省略する。
【0037】
(2)熱伝導体材料
熱伝導体材料4の材料は、窒化アルミニウム、窒化ホウ素及びアルミナなどの焼結セラミックおよび窒化珪素及び炭化珪素などの各種セラミック類や、それらをフィラーとして含むかもしくは単独でポリフェニレンスルフィド、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂及びシリコーンなどの高分子化合物が用いられる。また、アルミニウムや銅などの各種金属および、それらにアルマイト加工など被膜処理を施したものも熱伝導体として用いることができる。これらセラミック、高分子化合物、金属を混合して用いてもよい。
【0038】
4.第三実施形態に係るバイオ燃料電池
図4に、本技術の第三実施形態に係るバイオ燃料電池の構成を示す。
【0039】
図中、符号Dで示すバイオ燃料電池は、電池筐体1と、電池筐体1内に配設された電極2と、少なくとも一部が電極2に接触するとともに、少なくとも一部が電池筐体1外に露出して配置された絶縁性熱伝導体3aと、を含んでなる。さらに、バイオ燃料電池Dは、絶縁性熱伝導材3aの電池筐体1外に露出する部分を被覆し得る断熱材31を有する。
【0040】
図4(A)は、絶縁性熱伝導材3aが電池筐体1外に露出した状態を示し、(B)は、絶縁性熱伝導材3aが電池筐体1外に露出する部分が断熱材31により被覆された状態を示す。断熱材31は、絶縁性熱伝導材3aの電池筐体1外に露出する部分を被覆する位置((B)参照)と、被覆しない位置((A)参照)との間で位置変更が可能に構成されている。ここでは、断熱材31と一体に絶縁性熱伝導材3bを設け、絶縁性熱伝導材3aが露出する状態では、絶縁性熱伝導材3bを介して温熱あるいは冷熱が電極2に伝導される構成を示した。絶縁性熱伝導材3bは断熱材31とともにスライドし、これによって絶縁性熱伝導材3aが断熱材31に被覆されて、電極2への温熱あるいは冷熱の伝導が遮断される。
【0041】
バイオ燃料電池Dでは、図4(A)に示す状態では、絶縁性熱伝導材3bに温熱源あるいは冷熱源を接触させることにより、電極2及びその近傍の温度を所望の温度に制御できる。一方、(B)に示す状態では、温熱源あるいは冷熱源からの熱伝導を断熱材31により遮断して、電極2及びその近傍の加熱あるいは冷却を停止したり、あるいは所定温度とされた電極2及びその近傍の温度を維持したりできる。
【0042】
例えば、温熱源として人の体温を利用する場合、図4(A)に示す状態では、絶縁性熱伝導材3bに人体表面を接触させる。これにより、電極2及びその近傍並びに燃料溶液(飲料)の温度を酵素の活性至適温度である37℃程度に加温、維持できる。電池を使用しない場合には、(B)に示すように身体表面からの熱伝導を断熱材31により遮断して、電極2及びその近傍の加熱を停止する。
【0043】
断熱材31の材料は、上述したバイオ燃料電池Bと同様とできる。また、断熱材31を有する点以外のバイオ燃料電池Dの構成は、バイオ燃料電池Aと同様であるので説明を省略する。
【0044】
5.第四実施形態に係るバイオ燃料電池
図5に、本技術の第四実施形態に係るバイオ燃料電池の構成を示す。
【0045】
図中、符号Eで示すバイオ燃料電池は、電池筐体1と、電池筐体1内に配設された電極2と、少なくとも一部が電極2に接触するとともに、少なくとも一部が電池筐体1外に露出して配置された絶縁性熱伝導体3aと、絶縁性熱伝導材3aの電池筐体1外に露出する部分を被覆し得る断熱材31と、を含んでなる。さらに、バイオ燃料電池Eは、電極2に対して接触可能に供給される燃料の貯留空間11を挟んで電極2に対向して配置され、少なくとも一部が電池筐体1外に露出された熱伝導材4aと、熱伝導材4aの電池筐体1外に露出する部分を被覆し得る断熱材41と、を有する。
【0046】
図5(A)は、絶縁性熱伝導材3aが電池筐体1外に露出し、かつ熱伝導材4aの電池筐体1外に露出する部分が断熱材41により被覆された状態を示す。また、(B)は、絶縁性熱伝導材3aが電池筐体1外に露出し、かつ、熱伝導材4aも露出する状態を示す。さらに、(C)は、絶縁性熱伝導材3aの電池筐体1外に露出する部分が断熱材31により被覆され、かつ熱伝導材4aの電池筐体1外に露出する部分も断熱材41により被覆された状態を示す。ここでは、断熱材41と一体に熱伝導材4bを設け、熱伝導材4aが露出する状態では、熱伝導材4bを介して外気温が電池筐体1内の燃料の貯留空間11に伝導される構成を示した。熱伝導材4bは断熱材41とともにスライドし、これによって熱伝導材4aが断熱材41に被覆されて、貯留空間11への外気温の伝導が遮断される。なお、断熱材31と一体に絶縁性熱伝導材3bの構成は、上述したバイオ燃料電池Dと同様である。
【0047】
バイオ燃料電池Eでは、図5(A)に示す状態では、絶縁性熱伝導材3bに温熱源あるいは冷熱源を接触させることにより、電極2及びその近傍の温度を所望の温度に制御できる。この際、熱伝導材4aは断熱材41により被覆されているため、熱源からの温熱あるいは冷熱が効率的に電極2及びその近傍に蓄熱される。
【0048】
引き続き、バイオ燃料電池Eを図5(B)に示す状態とすると、熱伝導材4bを介して外気温が電池筐体1内の燃料の貯留空間11に伝導され、電極2及びその近傍との温度差により、貯留空間11内の燃料溶液を熱対流(図中矢印参照)させることができる。
【0049】
(C)に示す状態では、温熱源あるいは冷熱源からの熱伝導を断熱材31により遮断して、電極2及びその近傍の加熱あるいは冷却を停止したり、あるいは所定温度とされた電極2及びその近傍の温度を維持したりできる。この際、熱伝導材4aも断熱材41により被覆することで、電極2及びその近傍の温度を効果的に維持できる。
【0050】
例えば、温熱源として人の体温を利用する場合、図5(A)に示す状態では、絶縁性熱伝導材3bに人体表面を接触させる。これにより、電極2及びその近傍並びに燃料溶液(飲料)の温度を酵素の活性至適温度である37℃程度に加温、維持できる。酸化還元反応の進行に伴って電極近傍の燃料溶液中にpHや燃料濃度、生成物濃度の勾配が形成され、出力が低下してきた場合には、(B)に示すように断熱材41による熱伝導材4aの被覆を解除し、外気温を貯留空間11内に導入して燃料溶液を熱対流させる。これにより、形成された勾配を解消して、電池性能を回復できる。電池を使用しない場合には、身体表面から絶縁性熱伝導材3aへの熱伝導を断熱材31により遮断し、電極2及びその近傍並びに燃料溶液の熱を熱伝導材4aを介して外気に放熱した後、(C)に示すように断熱材41により熱伝導材4aも被覆し、電池を保管する。
【0051】
断熱材31,41の材料は、上述したバイオ燃料電池Bの断熱材31と同様とできる。また、断熱材41と、熱伝導体4a、熱伝導体4bを有する点以外のバイオ燃料電池Eの構成は、バイオ燃料電池Dと同様であるので説明を省略する。
【0052】
6.第五実施形態に係るバイオ燃料電池
図6に、本技術の第五実施形態に係るバイオ燃料電池の構成を示す。
【0053】
図中、符号Fで示すバイオ燃料電池は、電池筐体1と、電池筐体1内に配設された電極2と、少なくとも一部が電極2に接触するとともに、少なくとも一部が電池筐体1外に露出して配置された絶縁性熱伝導体3aと、を含んでなる。さらに、バイオ燃料電池Fは、絶縁性熱伝導材3aの電池筐体1外に露出する部分に接触配置される冷却材5を有する。
【0054】
図6(A)は、絶縁性熱伝導材3aが電池筐体1外に露出した状態を示し、(B)は、絶縁性熱伝導材3aの電池筐体1外に露出する部分に冷却材5が接触した状態を示す。冷却材5は、断熱材31が形成する収容空間内に着脱可能に取り付けられることが好ましい。冷却材5は、絶縁性熱伝導材3aの電池筐体1外に露出する部分を被覆する位置((B)参照)と、被覆しない位置((A)参照)との間で位置変更が可能に構成されている。ここでは、断熱材31と一体に絶縁性熱伝導材3bを設け、絶縁性熱伝導材3aが露出する状態では、絶縁性熱伝導材3bを介して温熱あるいは冷熱が電極2に伝導される構成を示した。絶縁性熱伝導材3bは断熱材31及び冷却材5とともにスライドし、これによって絶縁性熱伝導材3aに冷却材5が接触し、電極2への冷熱が伝導される。
【0055】
バイオ燃料電池Fでは、図6(A)に示す状態では、絶縁性熱伝導材3bに温熱源を接触させることにより、電極2及びその近傍の温度を所望の温度に制御できる。一方、(B)に示す状態では、冷却材5からの冷熱の伝導により、電極2及びその近傍を冷却できる。
【0056】
例えば、温熱源として人の体温を利用する場合、図6(A)に示す状態では、絶縁性熱伝導材3bに人体表面を接触させる。これにより、電極2及びその近傍並びに燃料溶液(飲料)の温度を酵素の活性至適温度である37℃程度に加温、維持できる。電池を使用しない場合には、(B)に示すように絶縁性熱伝導材3aに冷却材5を接触させて、電極2及びその近傍の温度を下げ、酵素の触媒反応を低下あるいは停止させる。
【0057】
冷却材5を着脱可能な構成とした場合、予め冷蔵庫等で冷やしておいた冷却材5を絶縁性熱伝導材3aに接触させることで、電極2及びその近傍の温度を酵素の劣化や変性を防止可能な温度に速やかに下げることができる。これにより、バイオ燃料電池Fの使用を中止する際に、性能を維持した状態で電池を保管することが可能となる。
【0058】
断熱材31の材料は、上述したバイオ燃料電池Bと同様とできる。また、冷却材5を有する点以外のバイオ燃料電池Fの構成は、バイオ燃料電池Dと同様であるので説明を省略する。
【0059】
図7には、本技術に係るバイオ燃料電池を身体に装着するための構成を示す。
【0060】
上述のように、本技術に係るバイオ燃料電池は、絶縁性熱伝導体3の電池筐体1外に露出する部分を身体表面に接触させることで、体温を利用して電極2を活性至適温度である37℃程度に温め、維持することができる。
【0061】
図中、符号Gで示すバイオ燃料電池は、絶縁性熱伝導体3の電池筐体1外に露出する部分が身体表面に接触した状態で電池を装着するための部材として、バンド6a(A)やクリップ6b(B)を有する。
【0062】
バンド6aは、例えば腕時計や指輪のように、腕や指の表面に絶縁性熱伝導体3の露出部を接触させて電池を保持するために用いられる。また、クリップ6bは、例えば衣類の襟や袖、あるいは腰部分や胸元部分にバイオ燃料電池Gを取り付けるために用いられる。この際、絶縁性熱伝導体3の露出部が皮膚表面に直接接触して装着されることが好ましい。ただし、電池筐体1の絶縁性熱伝導体3の露出部側が人体表面側に位置する状態であれば、衣類を介して皮膚表面に接して装着される場合にも体温の利用は可能である。
【0063】
7.バイオリアクタ及びバイオセンサ
上述したバイオ燃料電池における絶縁性熱伝導材を介した電極及びその近傍の温度制御は、酸化還元酵素を触媒とした物質の酸化還元反応の反応場となる電極を備え、生体触媒を用いて生化学反応を行うバイオリアクタや、該生化学反応による基質特異的な物質の変化により該物質を検出するバイオセンサにも応用が可能である。このようなバイオリアクタあるいはバイオセンサは、酸化還元酵素を固定した電極を反応素子とする。
【0064】
絶縁性熱伝導材を介して電極(反応素子)及びその近傍の温度を生化学反応に最適な温度に加温することで、生化学反応の速度を高めることができる。このため、上記のバイオリアクタあるいはバイオセンサでは、従来に比べて高い反応速度で所望の物質の反応を行ったり、高い感度で所望の物質の検出を行ったりできる。また、逆に、絶縁性熱伝導材を介して電極(反応素子)及びその近傍を冷却すれば、バイオリアクタあるいはバイオセンサを使用しない期間において、酵素の経時的な自然劣化を抑制して、性能を維持した状態で保管することが可能となる。
【0065】
なお、本技術は、以下のような構成もとることができる。
(1)酸化還元酵素を触媒とした燃料の酸化還元反応の反応場となる電極と、少なくとも一部が電極に接触するとともに、少なくとも一部が電池筐体外に露出して配置された絶縁性熱伝導材と、を有するバイオ燃料電池。
(2)前記電極に対して接触可能に供給される燃料の貯留空間を挟んで前記電極に対向して配置され、少なくとも一部が電池筐体外に露出された熱伝導材を有する上記(1)記載のバイオ燃料電池。
(3)前記絶縁性熱伝導材の電池筐体外に露出する部分および/または前記熱伝導材の電池筐体外に露出する部分を被覆し得る断熱材を有し、該断熱材が、前記絶縁性熱伝導材の電池筐体外に露出する部分および/または前記熱伝導材の電池筐体外に露出する部分を被覆する位置と被覆しない位置との間で位置変更可能に構成されている上記(2)記載のバイオ燃料電池。
(4)前記断熱材が、前記絶縁性熱伝導材の電池筐体外に露出する部分および/または前記熱伝導材の電池筐体外に露出する部分を被覆しない位置にある場合に、前記絶縁性熱伝導材の電池筐体外に露出する部分および/または前記熱伝導材の電池筐体外に露出する部分に接触配置される冷却材を有する上記(3)記載のバイオ燃料電池。
(5)前記絶縁性熱伝導材の電池筐体外に露出する部分を人体表面側に位置させた状態で前記電池筐体を身体に装着するための部材を有する上記(1)〜(4)のいずれかに記載のバイオ燃料電池。
(6)酸化還元酵素を触媒とした物質の酸化還元反応の反応場となる電極と、少なくとも一部が電極に接触するとともに、少なくとも一部が筐体外に露出して配置された絶縁性熱伝導材と、を有するバイオリアクタ。
(7)酸化還元酵素を触媒とした物質の酸化還元反応の反応場となる電極と、少なくとも一部が電極に接触するとともに、少なくとも一部が筐体外に露出して配置された絶縁性熱伝導材と、を有するバイオセンサ。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本技術に係るバイオ燃料電池は、電極及びその近傍の温度を酵素の触媒反応に最適な温度に制御し得るため、酵素の活性至適温度よりも低温あるいは高温の使用環境においても十分な性能を得ることができる。
【符号の説明】
【0067】
A,B,C,D,E,F,G:バイオ燃料電池、1:電池筐体、11:貯留空間、2:電極、3,3a,3b:絶縁性熱伝導体、31、41:断熱材、4,4a,4b:熱伝導体、5:冷却材、6a:バンド、6b:クリップ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化還元酵素を触媒とした燃料の酸化還元反応の反応場となる電極と、
少なくとも一部が電極に接触するとともに、少なくとも一部が電池筐体外に露出して配置された絶縁性熱伝導材と、を有するバイオ燃料電池。
【請求項2】
前記電極に対して接触可能に供給される燃料の貯留空間を挟んで前記電極に対向して配置され、少なくとも一部が電池筐体外に露出された熱伝導材を有する請求項1記載のバイオ燃料電池。
【請求項3】
前記絶縁性熱伝導材の電池筐体外に露出する部分および/または前記熱伝導材の電池筐体外に露出する部分を被覆し得る断熱材を有し、
該断熱材が、前記絶縁性熱伝導材の電池筐体外に露出する部分および/または前記熱伝導材の電池筐体外に露出する部分を被覆する位置と被覆しない位置との間で位置変更可能に構成されている請求項2記載のバイオ燃料電池。
【請求項4】
前記断熱材が、前記絶縁性熱伝導材の電池筐体外に露出する部分および/または前記熱伝導材の電池筐体外に露出する部分を被覆しない位置にある場合に、
前記絶縁性熱伝導材の電池筐体外に露出する部分および/または前記熱伝導材の電池筐体外に露出する部分に接触配置される冷却材を有する請求項3記載のバイオ燃料電池。
【請求項5】
前記絶縁性熱伝導材の電池筐体外に露出する部分を人体表面側に位置させた状態で前記電池筐体を身体に装着するための部材を有する請求項4記載のバイオ燃料電池。
【請求項6】
酸化還元酵素を触媒とした物質の酸化還元反応の反応場となる電極と、
少なくとも一部が電極に接触するとともに、少なくとも一部が筐体外に露出して配置された絶縁性熱伝導材と、を有するバイオリアクタ。
【請求項7】
酸化還元酵素を触媒とした物質の酸化還元反応の反応場となる電極と、
少なくとも一部が電極に接触するとともに、少なくとも一部が筐体外に露出して配置された絶縁性熱伝導材と、を有するバイオセンサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−8562(P2013−8562A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140603(P2011−140603)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】