説明

バイリンガルパラレルテキストをアライメントする方法及びそのためのコンピュータで実行可能なプログラム

【課題】異なる語族の2言語の文を高い精度でアライメントする方法を提供する。
【解決手段】バイリンガルのパラレルテキスト30の文をアライメントする方法は、互いの訳である文の確率を説明する長さベースの確率モデル34を、文の長さ情報と、対応する単語ペアを含む言語情報42とに基づいて提供するステップと、バイリンガルのパラレルテキスト36の文をアライメントして(84、88)、長さベースの確率モデル34を用いてダイナミックプログラミングアルゴリズムで計算されたアライメントの確率の総計が最大となるようにするステップと、バイリンガルテキスト中の句読点が互いにアライメントされるようにアライメントを訂正する(92)ステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はバイリンガルコーパスの文のアライメントに関し、特に、中国語及び英語コーパス等のバイリンガルコーパスの、センテンス長に基づく拡張された文アライメントに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、バイリンガルコーパスの文のアライメント(対応付け)に関する多くの研究がなされている。非特許文献1、2及び3を参照されたい。文のアライメントは、機械翻訳の基本的要素の一つであって、翻訳情報と、バイリンガルコーパスに関する統計的パラメータとを提供する。特に、テキストのアライメントは統計的機械翻訳に不可欠である。
【0003】
一般に、テキストアライメントの方法の研究として、基本的で同時に主要でもある二つの方面からの研究がある。すなわち、レキシコンに基づくものと、統計的なものとである。レキシコンに基づく手法では、文をアライメントするために、バイリンガルのレキシコンを利用する(非特許文献3及び4)。中国語と英語とのアライメントではまた、中国語のセグメント化及び品詞(Part Of Speech:POS)情報等の他の情報も必要とされる。
【0004】
統計的な手法では言語知識はほとんど必要とされない。この手法は、バイリンガルのセンテンス長と、長さの分布のみに関連する。
【0005】
現在、アルファベット系の言語をアライメントするためにセンテンス長に基づく手法が広く用いられており、同じ語族の言語をアライメントするには良好な結果が得られることが分っている。しかし、言語が異なる語族に属する場合、アライメントの精度は低く、問題が生じる。特に、一方の言語が中国語である場合、センテンス長に基づくアライメントには問題があることが知られている。なぜなら中国語はアルファベット系の言語とは全く異なるからである。
【0006】
非特許文献2において、ウーは統計的手法とレキシコンによる手法とを同時に組合せた混合手法を提案している。ウーは上述の単一の手法の利点を利用し、レキシコンを手がかりとしたセンテンス長に基づく手法を提案している。
【非特許文献1】ゲール チャーチ、「バイリンガルコーパスで文をアライメントするためのプログラム」、コンピュータ言語学、19(1):75−102、1991(Gale, Church, "A Program for Aligning Sentences in Bilingual Corpora", Computational Linguistics 19(1): 75-102, 1991.)
【非特許文献2】デカイ ウー、「パラレル英語−中国語コーパスのレキシコン基準を用いた統計的対応付け処理」、ACL‐32、年次学会予稿集、第80−87頁、1993(DeKai Wu. "Aligning a Parallel English-Chinese Corpus Statistically with Lexical Criteria", in the proceeding of Annual meeting of ACL-32, pp.80-87, 1993.)
【非特許文献3】S.F.チェン、「レキシコン情報を用いたバイリンガルコーパスの文の対応付け処理」、ACL‐31、年次学会予稿集、1993(S. F. Chen, "Aligning Sentences in Bilingual Corpora Using Lexical Information", in the proceeding of Annual meeting of ACL-31, 1993.)
【非特許文献4】M.ケイ及びK.ローシャイセン、「テキスト翻訳アライメント」コンピュータ言語学、19(1)、第121−142頁、1993(M. Kay & K. Roescheisen, "Text-Translation Alignment", Computational Linguistics 19(1), pp. 121-142, 1993.)
【非特許文献5】P.F.ブラウン、J.C.レイ及びR.L.メルサ、「パラレルコーパスの文の対応付け処理」、ACL‐29、年次学会予稿集、第169−176頁、1991(P. F. Brown, J. C. Lai & R. L. Mercer, "Aligning Sentences in Parallel Corpora", in the proceeding of Annual meeting of ACL-29, pp.169-176, 1991.)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、先行技術による、異なる語族の2言語でのパラレルテキスト中の文のアライメントは、精度が低いことが分っている。特に中国語−英語の文のアライメントは非常に困難でその精度が低いことが知られている。
【0008】
したがって、この発明の目的の一つは、異なる語族の2言語の文を高い精度でアライメントする方法を提供することである。
【0009】
この発明の別の目的は、中国語−英語の文を高い精度でアライメントする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の一局面は、第1の言語と第2の言語とのバイリンガルパラレルテキストの文をアライメントする、コンピュータで実現される以下のステップを含む方法に関する。すなわち、この方法は、第1の言語の文と第2の言語の文とが互いの訳である確率を算出するための、センテンス長に基づく確率モデルを、センテンス長情報と単語ペアの集合とに基づいて準備するステップを含み、ペアの各々は第1の言語の単語と第2の言語の単語とのペアを含む。この方法はさらに、センテンス長に基づく確率を用いてダイナミックプログラミングアルゴリズムで計算されたアライメントの合計確率が最大になるようにバイリンガルパラレルテキストの文をアライメントするステップと、バイリンガルパラレルテキストの対応する句読点が互いにアライメントされるように、アライメントを訂正するステップとを含む。
【0011】
センテンス長に基づく確率モデルを第1及び第2の言語の単語ペアと組合せることにより、アライメント誤差率を少なくできる。
【0012】
好ましくは、ペアの各々は、所定の品詞(主に名詞)の単語ペアを含む。単語ペアはバイリンガルのレキシコンとして準備される。
【0013】
さらに好ましくは、ペアの幾つかは、それぞれ所定の実在物(客観的・概念的なものを含む。)を第1の言語でそれぞれ表す固有名詞と、それら所定の実在物を第2の言語でそれぞれ表す対応の固有名詞とをそれぞれ含む。
【0014】
固有名詞は、両方の言語で容易に見つけることができる。その対応が明らかだからである。これによってアライメントが正確か否かを判断することが容易になり、したがってアライメント誤差も大幅に減少する。
【0015】
さらに好ましくは、センテンス長に基づく確率モデルは、互いの訳である第1の言語の文と第2の言語の文との確率が二つのセンテンス長の比に基づいて算出されるように準備される。
【0016】
各センテンス長は、文中の文字の数で計数してもよい。
【0017】
一文中の単語数は言語の種類によって異なるであろう。この構成により、単語がデリミタによって分離されていない場合でも、文のセグメント化が不要となる。したがって、中国語、日本語等を含むいずれの言語にも、この方法を適用することができる。
【0018】
この発明の別の局面は、コンピュータ上で実行されると、上述の方法のいずれかの全てのステップをコンピュータに実行させる、コンピュータで実行可能なプログラムに関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[構造]
この発明の一実施の形態は、パラレルテキストにおける中国語−英語の文をアライメントするための新たな手法に関する。この混合手法は、主にセンテンス長に基づく手法に基づき、同時に、バイリンガルレキシコンからの語彙的な情報も考慮する。
【0020】
この混合手法はセグメント化及び品詞タグ付け等、中国語を更に処理することを不要にするだけでなく、統計的手法において幾つかの中国語のキーワードを使用することによって、文のアライメント精度を向上させる。この実施の形態で用いられるバイリンガルコーパスは、LDC(Linguistic Data Consortium)コーパスである。
【0021】
図1はこの発明の一実施の形態に従った文アライメントシステム20の構成を示すブロック図である。図1を参照して、文アライメントシステム20は、文ごとにアライメントされた英語コーパス60及び中国語コーパス62を含むトレーニングコーパス30と、トレーニングコーパス30を用いてセンテンス長に基づく手法のための確率モデル34をトレーニングするトレーニングモジュール32とを含む。確率モデル34は英語と中国語のコーパスの最尤の割当方法を求めるために用いられる。バイリンガル文の各ペアに対し、確率モデル34は二つのセンテンス長の比に基づいた確率スコアを割当てる。
【0022】
文アライメントシステム20はさらに、英語コーパス70及び中国語コーパス72を含む入力コーパス36をアライメントして、アライメントされた出力コーパス44を出力する、文アライメント装置38と、中国語コーパス72中の中国語文のセグメント化及び中国語単語への適切な品詞(POS)タグ付けの際に文アライメント装置38によって使用される辞書(レキシコン)40と、アライメントを向上させるために用いられる言語学的情報を記憶する言語情報記憶部42とを含む。アライメントされた出力コーパス44は英語コーパス100及び中国語コーパス102を含み、これらは基本的に、それぞれ英語コーパス60及び中国語コーパス62と同一である。
【0023】
文アライメント装置38は、中国語コーパス72の文を辞書40を用いて形態素にセグメント化するセグメント化モジュール80と、辞書40を用いて各形態素にPOSタグをタグ付けするためのPOSタグ付けモジュール82とを含む。セグメント化とPOSタグ付けの目的は、バイリンガルコーパス中で固有名詞を見つけることである。文アライメント装置38はさらに、英語コーパス70中の文と、セグメント化されPOSタグ付けされた中国語文とを、アライメントされた文ペアの、確率モデル34で計算された確率が最大となるようにアライメントして、最大確率のアライメントを第1の結果86として出力するためのアライメントモジュール84を含む。文は確率モデル34のみでアライメントされているので、第1の結果86は多くの誤差を含むものと考えられる。
【0024】
文アライメント装置38はさらに、言語情報記憶部42に記憶された言語情報を用いて第1の結果86を訂正し、訂正されたアライメントを第2の結果90として出力する第1の訂正モジュール88と、英語及び中国語の句読点情報を用いて第2の結果90を訂正する第2の訂正モジュール92とを含む。
【0025】
この実施の形態で用いられるトレーニングコーパス30中のバイリンガルテキストは、LDCコーパスである。これらのファイルは、3つの形式、すなわち、Big5と、GBコーディングと、対応の英訳文という形式の香港の新聞記事である。この実施の形態では、Big5コーディングのテキストはGBコーディングに変換される。変換後、アライメントされたバイリンガルのコーパスの属性が分析される。完成したパラレルテキストは高品質の逐語訳を含むことになる。このバイリンガルテキストから、バイリンガルペアの翻訳の種類を特定する情報が得られる。ほとんどの中国語文と英語の訳文は1対1タイプである。1対2または2対1の割合は少なく、ごく稀に、mが2より大きいm対mなどと、他の構成とがある。最後の、mを持つタイプは全て2対2に統一される。
【0026】
文アライメントのセンテンス長に基づく手法(非特許文献5)は、英語とフランス語、及び同じ語族の他の言語については良好な結果を生じることが知られている。中国語はアルファベット系の言語とは明確に異なる。したがって、中国語−英語については、アライメント処理は異なっている。
【0027】
センテンス長に基づく手法は二つの言語の文字列長による統計的モデル(確率モデル34)に基づくものである。基本的原理は、二つのセンテンス長の比に基づいて、バイリンガル文の各ペアに確率スコアを割当てる、というものである。トレーニングコーパス30からトレーニングされた確率モデル34を用いて、入力コーパス36中の文の全てのアライメントから最大尤度のアライメントを見出す。
【0028】
以下にその統計的モデルを示す。ここでAはアライメントされたペアであり、L及びLはそれぞれソース言語とターゲット言語を表す。
【0029】
【数1】

式(1)は、単一のアライメントされたペアの確率は独立であるとして、最大化問題により近似される。
【0030】
【数2】

式(2)はさらにベイズの定理により近似され、その結果、モデルは|l|及び|l|の関数であるパラメータδのみに依存するようになる。
【0031】
【数3】

上の式で、|l|及び|l|はそれぞれ中国語及び英語の、文字数で計数した長さである。M(L,L)はアライメントされた「タイプ」である。
【0032】
現在、センテンス長を計算する幾つかの方法がある(非特許文献5)。セグメント化の誤差を避けるため、文中の語数ではなく文字数を計数した。中国語の文字の各々と中国語の句読点とは長さ2を有するが、英語の文字と句読点との長さは1である。
【0033】
ここで、モデルを値cと分散sとで示す。sは長さに比例する。この実施の形態では、LDCコーパス(トレーニングコーパス30)でc=1.63でありs=3.2である。この場合δは正規分布を有し、以下で定義される。
【0034】
【数4】

アライメントには4種類がある。1対1のペア、1対2のペア、2対1のペア、及び2対2のペアである。アライメントの種類による事前確率を表1に示す。4種類が学習され、アライメントされたトレーニングコーパス30にそれらが出現する頻度から対応の確率が推定される。
【0035】
【表1】

センテンス長パラメータのみでは中国語−英語アライメントに対しては十分でない。アライメント精度をさらに改良するためには、言語学的情報が必要とされる。アライメントでは、語が同じ起源であることに着目するが、中国語と英語のパラレルテキストで音韻的、又は意味論的な起源が同じであることを認識するのは困難である。
【0036】
このため、第1の訂正モジュールが、バイリンガルコーパス中の中国語のキーワード情報等の言語学的情報をセンテンス長に基づく手法と組合せる。この情報は記憶部42に記憶され、主に文の主要語を含む。これらの単語は特定の品詞であり、特定の、客観的・概念的なものを含む実在物を示すものと考えられる。典型的な例は組織又は人の名前等の固有名詞である。第1と第2の言語間でのこれらの対応は明確である。キーワード情報の例を図2に示す。
【0037】
図2を参照して、中国語の単語
【0038】
【数5】

と英語の“Prince of Wales”とは対応する固有名詞であり、同じ実在物を示す。アライメントされた文、又は誤ってアライメントされた文からこれらの対応する単語を見出すことにより、アライメントの精度又は失敗を確認し、または訂正することができる。
【0039】
ここで、式(2)はレキシコン情報により、以下の近似式に置換可能である。
【0040】
【数6】

ここでc=freq(Cword,Ls)であり、e=(Eword,L)であり、Cword及びEwordはそれぞれバイリンガルコーパス中の中国語及び英語の単語情報を示す。
【0041】
これらは、パラメータδで以下のように統一される。
【0042】
【数7】

ベイズの定理により、これはさらに以下のように変形される。
【0043】
【数8】

第1の訂正モジュール88は式(5)を用いて第1の結果86を訂正する。こうして、トレーニングモジュール32と言語情報42とは、第1の言語の文と第2の言語の文とが互いの訳である確率を算出するための、センテンス長に基づく確率モデルを、センテンス長情報と単語ペアの集合とに基づいて提供する。なお、ペアの各々は第1の言語の単語と第2の言語の単語とを含む。アライメントモジュール84と第1の訂正モジュール88とは、センテンス長に基づく確率を用いてダイナミックプログラミングアルゴリズムで計算されたアライメントの合計確率が最大になるように、入力コーパス36の文をアライメントする。
【0044】
実際には、センテンス長に基づく手法の結果を訂正するには句読点情報も重要である。句読点は順序付きのバイリンガルテキスト間の内部での並びを決定するのに役立つ。
【0045】
第2の訂正モジュール92は第1の訂正モジュールから出力された第2の結果90を、句読点マッチングによって訂正する。4つの主な文の句読点ペアがある。すなわち、中国語と英語でそれぞれ文の終わりを示す「;/;」と、「。/.」と、「?/?」と「!/!」とである。第1の結果86では、幾つかの中国語と英語の文が正しくアライメントされていないことがあり得る。句読点のミスマッチがあるからである。これらの誤りは以下の状況で生じる。
【0046】
(1)「( )」及び「“ ”」等の句読点は、中国語では通常一文の中に現れるが、英語では別の文で2個の独立したペアに分けられることがある。このような状況は、中国語の文が別の新聞または人から引用されたものであり、2以上の完全な文を含むという条件で生じる。
【0047】
(2)図3に示すように、中国語の文が、中国語のカンマで示される複数の節を含み、その節の各々が、文末を示す句読点を伴った英語の訳を有する場合、最初のアライメントタイプは節をアライメントするだけでは1対2となる。したがって、複雑な中国語及び英語文をアライメントすることでアライメントタイプは1対1に変更される。
【0048】
状況(1)は、すべての句読点ペアのマッチングを見出し、分割された中国語文を合体させることによって解決する。状況(2)の場合、中国語での節の数を計数してアライメントタイプを1対1に変更する。状況(2)によって、アライメント誤りは容易に広がっていく。
【0049】
文をアライメントする処理は、アライメントモジュール84により、ダイナミックプログラミングアルゴリズムで行なわれる。ソース言語文をS,i=1…sとし、ターゲット言語文をT,j=1…tとする。アライメントされた文のシーケンスはA(k)={<Sk,Tk>,k∈[0,K]}である。ただし、Kはこれらアライメント文の数である。
【0050】
ダイナミックプログラミングアルゴリズムの手順において、目的とするところは、式(6)を最小にするアライメントされた文のペアを見出すことであり、g(i,j)は再帰的に計算される。
【0051】
【数9】

ダイナミックプログラミング処理を図4に示す。図4を参照して、手順はステップ110で始まり、ここで変数i及びjが1に初期化され、g(i,j)が0に初期化される。ステップ112で、4種類のg(i,j)が一致のタイプと確率g(i−1,j−1)、g(i−1,j−2)、g(i−2,j−1)及びg(i−2,j−2)とにしたがって計算される。
【0052】
ステップ114で、終点に至るまでの経路が2以上あるかが判断される。もし2以上の経路がある場合は、ステップ116で最小のg(i,j)となる経路を選択し、制御はステップ118に進む。さもなければ、制御は直接ステップ118に進む。ステップ118で、段落の終点に達したか否かが判断される。もし終点に達していれば、経路が成功裏に見出されたと判断して処理を終了する。さもなければ、ステップ120で変数iを1だけ増分し、制御はステップ112に戻る。
【0053】
このようなダイナミックプログラミングにより、図1に示すアライメントモジュール84はセンテンス長に基づくアライメントを決定する。
【0054】
[動作]
文アライメントシステム20の動作には二つの局面が存在する。第1の局面では、トレーニングモジュール32がトレーニングコーパス30を用いて確率モデル34をトレーニングする。確率モデル34が準備され、辞書40と言語情報記憶部42とが準備されると、文アライメント装置38は第2の局面の動作を行なうことができる。
【0055】
入力コーパス36が与えられると、セグメント化モジュール80は中国語コーパス72の文を多数の形態素にセグメント化し、POSタグ付けモジュール82は形態素の各々に対応のPOSタグを付す。これらの動作は辞書40を用いて行なわれる。
【0056】
その後、アライメントモジュール84は英語コーパス70の文と中国語コーパス72の文とを、確率モデル34を用いて、図4に示すダイナミックプログラミングによりアライメントする。アライメントモジュール84は、最小のg(i,j)に対応するアライメントの結果を、第1の結果86として出力する。
【0057】
第1の結果86は誤差を含むものと考えられるので、第1の訂正モジュールが第1の結果86を、図2に示すような言語情報を用いて訂正する。訂正されたアライメントは第1の訂正モジュール88から第2の結果90として出力される。
【0058】
第2の訂正モジュール92はさらに、句読点の対応付けに基づいて第2の訂正モジュール92を訂正する。訂正された結果はアライメントされたコーパス44として出力される。
【0059】
センテンス長に基づく手法とレキシコンによる手法とは、中国語−英語文のアライメントにおいてはそれぞれ長所と短所とを持つ。センテンス長に基づく手法は主に2言語の統計的パラメータに依存し、言語知識からは独立している。この実施の形態は、中国語の言語に固有の特徴に基づき、キーワード情報と句読点とを同時に考慮するという点で優れている。
【0060】
純粋にレキシコンによる手法は、大規模なコーパスでは、特に中国語の処理が複雑であるため、中国語−英語のアライメントというタスクにはふさわしくない。センテンス長に基づく手法は大規模なバイリンガルテキストに適しており、多言語に移植可能である。中国語はセンテンス長のパラメータに対する感度が低いので、この実施の形態で示したようなセンテンス長に基づく拡張手法は上述の二つの手法の利点を組合わせて利用している。
【0061】
[実験結果]
1997年から1999年の間に香港の新聞に載った香港のニュースについてのLDCコーパスを用い、実験を行なった。テスト用のテキストはランダムに選択され、2880のバイリンガルのパラレルな文を含む。
【0062】
アライメント精度は、以下の式(7)で計算した。
精度=Num/Num (7)
ただし、Numは人の判断による、正しくアライメントされた文の数であり、Numはテストセット中のアライメント文の総数である。テストの結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

この結果から、拡張された手法に従ったこの実施の形態は、レキシコン情報及び句読点を結果の訂正に導入した場合、純粋なセンテンス長に基づく手法より良好なアライメント精度を達成することが分る。
【0064】
当業者であれば、この発明の上述の実施の形態をコンピュータハードウェアとそのハードウェア上で実行されるコンピュータソフトウェアで実現できることを理解するであろう。コンピュータプログラムはコンピュータ読出可能媒体に記憶され頒布されてもよい。このようなコンピュータソフトウェア、そのソフトウェアを記憶する媒体、及びソフトウェアでプログラムされるコンピュータは、そのプログラムが請求項のいずれかに記載された全てのステップを実行するかまたは全ての機能を満足する限り、この発明の範囲に含まれる。
【0065】
今回開示された実施の形態は単に例示であって、本発明が上記した実施の形態のみに制限されるわけではない。本発明の範囲は、発明の詳細な説明の記載を参酌した上で、特許請求の範囲の各請求項によって示され、そこに記載された文言と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含む。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】この発明の一実施の形態に従った文アライメントシステム20の構造を示すブロック図である。
【図2】言語情報記憶部42の見出し語例を示す図である。
【図3】句読点ミスマッチの例を示す図である。
【図4】2個のコーパスの文をアライメントするためのダイナミックプログラミング手順を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
20 文アライメントシステム
30 トレーニングコーパス
32 トレーニングモジュール
34 確率モデル
36 入力コーパス
38 文アライメント装置
40 辞書
42 言語情報
44 出力コーパス
80 セグメント化モジュール
82 POSタグ付けモジュール
84 アライメントモジュール
88 第1の訂正モジュール
92 第2の訂正モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の言語と第2の言語とのバイリンガルパラレルテキストの文をアライメントする、コンピュータで実現される以下のステップを含む方法であって、
前記第1の言語の文と前記第2の言語の文とが互いの訳である確率を算出するための、センテンス長に基づく確率モデルを、センテンス長情報と単語ペアの集合とに基づいて準備するステップを含み、前記ペアの各々は前記第1の言語の単語と前記第2の言語の単語とのペアを含み、さらに
前記センテンス長に基づく確率を用いてダイナミックプログラミングアルゴリズムで計算されたアライメントの合計確率が最大になるように前記バイリンガルパラレルテキストの文をアライメントするステップと、
前記バイリンガルパラレルテキストの対応する句読点が互いにアライメントされるように、アライメントを訂正するステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記ペアの各々は、所定の品詞の単語ペアを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ペアの幾つかは、それぞれ所定の実在物を前記第1の言語でそれぞれ表す固有名詞と、前記所定の実在物を前記第2の言語でそれぞれ表す対応の固有名詞とを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記センテンス長に基づく確率モデルは、互いの訳である前記第1の言語の文と前記第2の言語の文との確率が二つの文の長さの比に基づいて算出されるように準備される、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
各文の長さは、文中の文字数で計数される、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
コンピュータ上で実行されると、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の全てのステップを当該コンピュータに実行させる、コンピュータで実行可能なプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−127405(P2006−127405A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2004−318207(P2004−318207)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年4月1日付け、支出負担行為担当官総務省大臣官房会計課企画官、研究テーマ「ネットワーク・ヒューマン・インターフェースの総合的な研究開発(携帯電話等を用いた多言語自動翻訳システムの研究開発)」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】