説明

バインディングザイムアレイ及びハイスループットプロテオミクス方法

異なる生物試料間のポリペプチド変動存在又は不存在の同定方法及び異なる生物試料中の1以上のポリペプチドの変動を速やかに同定するためのハイスループットスクリーニングの対応する作成方法を本明細書で提供する。具体的には、例えば、ホスホリル部分が付着されたポリペプチドの存在又は不存在などの生物試料中の特定のポリペプチド上の翻訳後修飾における変動を同定することができる。これらの方法では、触媒不活性化酵素(すなわち、バインディングザイム)を基質特異的結合タンパク質として利用する。これらのバインディングザイムは生物試料中の1つ以上の基質と結合することができ、結合基質はある試料を別のものと区別するためのマーカーとして働くことができる。これらの方法は、それらの同定のための基質の単離、試料中の基質の検出、並びに医療用医薬品の発見及び開発にも有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
[0001] 本発明は、異なる生物試料間のポリペプチド変動(polypeptide variance)の同定を一般に伴うプロテオミクスの分野に関する。具体的には、本発明は、生物試料間のポリペプチド変動を同定するハイスループット・スクリーニングを行うための方法及び対応する構成要素に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
[0002] プロテオミクスの分野では、2次元ゲル(2Dゲル)分析(Freed & Hunter (1992) Mol. Cell. Biol. 12: 1312-1323)又はより新しい質量分析をベースとした方法(Conrads et al. (2002) BBRC 290: 885-890)によってポリペプチド変動をしばしば区別する。例として、いくつかのプロテオミクス手法では、リン酸化タンパク質(リンタンパク質)の変動に焦点を当てている。
【0003】
[0003] リンタンパク質は、細胞周期の調節、分化、成長因子に対する応答、及び他の細胞現象を制御するシグナル伝達プロセスの重要な構成要素である。リンタンパク質を分析するある種の研究技術を用いて、多くの非常に重要なシグナル伝達事象の変化を追跡することができる。例えば、研究者は、放射性32Pを2つの異なる細胞培養物に添加し、タンパク質を抽出し、次いで2Dゲル上でそれらを分離することができる。各ゲルをX線フィルムに暴すことにより、研究者は各試料について放射性標識したリンタンパク質の特徴のパターンを見ることができる。パターンの比較により、2つの試料のリンタンパク質含有量の変化を明らかにすることができる。これらのリンタンパク質の変化は、2つの細胞状態間の機能の相違を表すだけでなく、必要に応じて、変化を模倣するか或いは該変化を逆にする小さな分子についての化学化合物ライブラリーを細胞に基いてスクリーニングするマーカーとして用いることができる。価値ある研究ツールである2Dゲルは、正確性に欠け、分析が複雑であり、扱いにくく、多大な労働力を要し、放射性リンを用い、かつ、ダイナミックレンジが乏しい。これらの欠点の各々は、試料間のリンタンパク質の包括的な比較における有用性を損なわせ、ハイスループットスクリーニングに適切ではない。
【0004】
[0004] リンタンパク質の包括的な分析についていくつかの改良が行われてきたが、それらも問題を有している。ある種の方法は、後に行う質量分析(MS)による分析において、リンタンパク質を非リン酸化タンパク質から分ける。MSのダイナミックレンジは2Dゲルより優れているが、ピーク抑制は尚もデータを失わせうる。ピーク抑制は、優性なピークが、より突出の小さいピークから得られるシグナルを抑制する現象である。ピーク抑制は、リンタンパク質ピークがしばしばMSで最初に抑制されるという事実によって一層悪化されることができる。現在のリンタンパク質濃縮技術は試料の複雑性を減少するが、試料中の30%のタンパク質をリン酸化されうるので、その減少はそれほど多くない。さらに、現在の方法は、化学処理、クロマトグラフィー、洗浄の繰り返し、及び溶出からなる多くの処理工程を含み、収量の減少及び試料ごとの再現性についての疑問をもたらす。総合すれば、これらの欠点により、これらの方法はハイスループットスクリーニングに適合しないものとなる。
【0005】
[0005] リンタンパク質と関連する上記の特徴は、翻訳後修飾プロセスによって修飾された他のクラスのタンパク質についても存在し、これらのタンパク質は、非限定的にユビキチン化タンパク質、アセチル化タンパク質、ミリストイル化タンパク質、及びメチル化タンパク質を含む。
【発明の開示】
【0006】
[0006] 概要
本明細書中に後述する方法及び構成要素は、2つ以上の生物試料の比較でのポリペプチド変動の速やかでかつ信頼できる同定を可能とする。そのような方法及び構成要素は、ハイスループット・スクリーニングに適合するアッセイの合理的かつ簡単な開発を可能とする。
【0007】
[0007] したがって、2個の生物サンプル間でポリペプチドの変動の有無を同定するための方法であって、第1の系で第1の生物試料を不活性化酵素と接触させ、そして第2の系で第2の生物試料を不活性化酵素と接触することを含む方法が本明細書中に提供される。不活性化酵素は、天然のポリペプチド基質又はその断片に結合することが可能であり、かつ触媒作用が欠損しており、そしてこれらの不活性化酵素は、本明細書中で「バインディングザイム(bindingzyme)」と称する。「バインディングザイム」はしばしば、天然の翻訳後修飾プロセスによってポリペプチドに付加することが可能である修飾を含んでいる天然のポリペプチド基質又はその断片上の結合部位に結合することが可能である。特定の実施態様では、バインディングザイムは、リン酸化ポリペプチド又はその断片に結合する不活性化ホスファターゼである。不活性化酵素に結合されるポリペプチドに対応するシグナルを第1の系及び第2の系で検出し、2つの系でのシグナルを比較する。シグナル間の相違により、第1の生物試料と第2の生物試料の間のポリペプチド変動の存在が同定され、シグナル間に相違がないことによって、ポリペプチド変動がないことが同定される。
【0008】
[0008] 特定の実施態様では、上記の方法において情報を提供する(例えば、異なる生物試料間のシグナル相違の検出に有用である)か、或いは情報を提供しない(例えば、生物試料間のシグナル相違を検出しない)と同定されるバインディングザイムを独立して選択し、上記のスクリーニングと同様の後に行われるスクリーニングで利用する。これらの後に行われるスクリーニングはしばしば、試験分子を各生物試料に投与し、そして各系で生じたシグナルを比較することをさらに含む。そうしたスクリーニングは、生物学的プロセスの調節因子を同定し、調節因子の毒性及び特異性を評価するために使用されうる。
【0009】
[0009] したがって、2個の生物試料の間のポリペプチド変動を減少させる分子を同定する方法であって、第1の系で第1の生物試料を1以上の不活性化酵素と接触し、そして第2の系で第2の生物試料を1以上の不活性化酵素及び1以上の試験分子と接触させることを含む同定方法が提供される。1以上の不活性化酵素は、しばしば、天然のポリペプチド基質又はその断片に結合することが可能であり、そしてしばしば、触媒作用が欠損している。さらに、1以上の不活性化酵素はしばしば、2つの生物試料の間のポリペプチド変動の存在を検出することが可能である。第2の系での1以上の不活性化酵素に結合するポリペプチドに対応するシグナルをしばしば検出し、第1の系での対応するシグナルと比較する。試験化合物の不存在下でのシグナル間の相違に対してシグナル間の相違を減少させる試験分子はしばしば、2個の生物試料間のポリペプチド変動を調節する分子として同定される。
【0010】
[0010] 第1の系で第1の生物試料を不活性化酵素と接触し、そして第2の系で第2の生物試料を不活性化酵素と接触させる工程を含む不活性化酵素アレイの構築方法も提供する。不活性化酵素はしばしば天然のポリペプチド基質又はその断片に結合することが可能であり、しばしば触媒作用が欠損している。第1の系での不活性化酵素に結合するポリペプチドに対応するシグナル及び第2の系での不活性化酵素のポリペプチドに対応するシグナルをしばしば検出し、そして比較する。第1の系でのシグナル及び第2の系でのシグナルの間に相違がある不活性化酵素はしばしば、情報を提供する不活性化酵素と同定され、そしてシグナル間に検出可能な相違がない不活性化酵素はしばしば、情報を提供しない不活性化酵素と同定される。情報を提供する1以上の不活性化酵素をしばしばアレイに堆積させ、情報を提供しない1以上の不活性化酵素を時にはアレイに堆積させる。ある種の実施態様では、情報を提供しない不活性化酵素を、情報を提供するバインディングザイムを含むアレイ以外のアレイに堆積させる(例えば、より詳細に後述するように、情報を提供しないバインディングザイムを含むアレイを例えば試験分子の選択性を決定するため及び内部標準として利用することができる)。
【0011】
[0011] 固体支持体に固定された2以上の不活性化酵素を含むアレイも提供する。ここで、各々の不活性化酵素は、天然のポリペプチド基質又はその断片に結合することが可能であり、かつ、触媒作用が欠損している。ある種の実施態様では、本明細書中に記載される方法により、アレイ中の1以上の不活性化酵素は2つの生物試料の間のポリペプチド変動の存在を検出することが可能であると同定される。アレイはしばしば、図4Aに例示するバインディングザイムなどの異なる結合プロファイルを有する異なるバインディングザイムを含む。本明細書中に記載されるバインディングザイムのアレイ及び質量分析計を含む系も提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[0017] 詳細な説明
本明細書中に記載される方法、アレイ、及び系では、触媒作用が不活性である酵素(すなわち、バインディングザイム)を基質特異的結合タンパク質として利用する。バインディングザイムは、基質結合性を保持しているが基質に対して実質的に触媒作用により修飾又は作用する能力を保持しない改変された酵素である。ある種の実施態様では、バインディングザイムと接触する基質中の結合部位には、例えばホスホリル修飾など、天然の翻訳後プロセスによって付加することが可能である修飾が含まれる。
【0013】
[0018] これらのバインディングザイムは生物試料中の1つ以上のポリペプチド又はペプチド基質と結合することができ、結合基質と対応するシグナルを検出することができる。典型的には結合基質に対応するシグナルだけが検出されるので、これらのスクリーニングは比較的簡単なシグナルパターンをもたらし、ハイスループット形式で速やかに処理することができる。さらに、シグナルはマーカーとして働き、そして試料中のバインディングザイム基質の異なるレベルに対応する異なるシグナルレベルを検出することにより、バインディングザイム基質に関するさらなる情報がなくても試料を互いに区別することができる。シグナル情報のみが情報を提供するスクリーニングに必要であるので、この特徴によってもハイスループット処理が可能となる。しかしながら、特定のバインディングザイムに結合する各基質をさらに特徴づけることが可能である。例えば、バインディングザイムに結合する試料から得られる基質のアミノ酸配列を推定されうるし、ルーチンな方法(例えば、後述するLC/MS/MS)を用いて基質中の翻訳後修飾の位置を決定することができる。
【0014】
[0019] 2つ以上の試料を異なるバインディングザイムのアレイと接触させてもよく、試料間のバインディングザイム基質レベルの相違を速やかに決定するという利点を与える。バインディングザイムのパネルを用いて、一定の生物試料を速やかにスクリーニングすることもできる。例えば、生物試料の群中の1以上の調節リンタンパク質のレベルの変動を決定するため、ホスファターゼ由来のバインディングザイムのアレイを介して試料群を速やかにスクリーニングすることができる。
【0015】
[0020] 最初のスクリーニングでは、バインディングザイムアレイ中のバインディングザイムは異なる生物試料中の基質レベルの変動を検出することができ、そのような「情報を提供する」バインディングザイムは、後に行うスクリーニングのために選ばれうる。例えば、生物試料の特定群のスクリーニングで同定される情報を提供するバインディングザイムは選択され、アレイ中でグループ化され、そして該アレイは、そして特定の試料群におけるバインディングザイム基質のレベルを調節するか、又はバインディングザイム基質の変動について他の生物試料をスクリーニングする試験化合物を同定するため、ハイスループットスクリーニングにおいて利用することができる。試験化合物の特異性を速やかに評価するために、情報を提供しないバインディングザイム(すなわち、異なる生物試料についてスクリーニングしたときにシグナルが検出されないかあるいは同じシグナルが検出されるゆえに試料間の基質変動を検出しないバインディングザイム)を選択し、アレイ中にグループ化してもよい。本明細書中に記載するバインディングザイム方法は、例えば、基質を同定するための基質の単離、試料中の基質の検出、新しい医療用治療薬候補の発見、及び治療用薬物候補の特異性及び毒性の評価に有用である。
【0016】
[0021] バインディングザイム
バインディングザイムは、未改変の酵素に通常結合する1以上の基質に対して、有意な結合親和性を保持するが、結合された該基質に対する低減された触媒活性と伴う改変酵素である。バインディングザイムは、未改変酵素と比較して10倍以上小さい親和性、時には5倍以上小さい親和性、しばしば2倍以上小さい親和性で基質に結合する。バインディングザイムは、未改変酵素と比較して同じか又はより良好な親和性で基質に結合することもできる。基質親和性は、例えば、Km、Kd、オン・レート、及び/又はオフ・レートなどの適当なパラメーターと比較することにより定量化することができる。触媒作用は、未改変酵素と比較して、典型的には50倍以上、しばしば100倍以上、時には500倍以上減少する。触媒速度は、例えば、定常状態の最大速度又は定常状態前の速度定数などの適当なパラメーターを比較することにより定量化することができる。
【0017】
[0022] 酵素基質は、未改変酵素に結合し、かつ、酵素によって化学的に変化されるポリペプチド、ペプチド、又は他の分子である。例えば、プロテアーゼは、ペプチド又はポリペプチド基質に結合して、該基質の結合を加水分解する酵素である。タンパク質・ホスファターゼは、リン酸化ポリペプチド又はペプチドに結合し、かつ、1つ以上のホスホリル部分を除去する酵素である。タンパク質ホスファターゼが、ポリペプチド又はペプチド中のどちらのアミノ酸(つまり、チロシン、セリン/スレオニン、又はそれぞれ)から、ホスホリル部分を取り除くかに従って、タンパク質・チロシン・ホスファターゼ、タンパク質・セリン/スレオニン・ホスファターゼ、及び二重特異性又は多特異性タンパク質ホスファターゼとして特徴付けられる。タンパク質キナーゼは、ホスホリル部分をポリペプチド又はペプチド基質に付加する。バインディングザイムは、ポリペプチド基質又はそれらのペプチド断片に対する結合親和性を保持してもよい。ペプチド断片は後述の結合部位を含み、典型的には5以上のアミノ酸長、しばしば10以上、15以上、20以上、又は25以上のアミノ酸長であり、時には30以上、40以上、又は50以上のアミノ酸長である。
【0018】
[0023] バインディングザイムが基質中で結合する結合部位は、天然の翻訳後修飾プロセスによって基質に付加することが可能である基質修飾を含む。一般に、天然の翻訳後修飾プロセスは、細胞中に自然に生じ、ポリペプチドの合成(すなわち、翻訳)後にポリペプチドを修飾する酵素を伴って生じる。天然の翻訳後修飾プロセスは、ホスホリル、アルキル(例えば、メチル)、脂肪酸(例えば、ミリストイル又はパルミトイル)、グリコシル(例えば、多糖)、アセチル又はペプチジル(例えば、ユビキチン)部分を酵素基質に結合することが可能であるものを含む。したがって、バインディングザイムは、例えば、タンパク質ホスファターゼ、タンパク質デメチラーゼ、デアセチラーゼ、脂肪酸をタンパク質基質から切断する酵素、グリコシラーゼ、又はユビキチンをタンパク質から除去する酵素などのそのような部分を除去する酵素に由来してもよい。
【0019】
[0024] 触媒作用により酵素を不活性にするが酵素の基質結合活性を保持する任意の方法を用いて、バインディングザイムを生成することができる。典型的には、基質結合活性を保持する一方で、触媒作用を不活性化された酵素を生成する特定のアミノ酸変異を利用してバインディングザイムを生成する。部位特異的突然変異誘発の手順によって及び適当な変異を同定するための当該技術分野に既知である変異走査技術によってアミノ酸の置換を導入することができる。特定の部位特異的突然変異の生成のための明示的な指示を伴うキットが市販されている(例えば、Strategene(クイックチェンジ(QuikChange)(商標)及びクイックチェンジXL(QuikChangeXL)(商標))及びClontech(BDトランスフォーマー(BD transformer)(商標)部位特異的突然変異誘発キット(Mutagenesis Kit)))。DNA配列決定は、所望の突然変異が導入されたかを明らかにするために日常的に行われている。さらに、触媒活性が無くなるかあるいは大きく減じる一方で結合活性を保持している限り、補助因子(それらが存在する場合)を差し控えることができ、反応条件を変えてバインディングザイムを生成することができる。
【0020】
[0025] 特定の実施態様では、ホスファターゼ由来のバインディングザイムを生成し、アレイ中に配置し、生物試料のハイスループットスクリーニングで利用する。アルカリホスファターゼはホスホセリン中間体を介して進行し(例えば、J. H. Schwartz and F. Lipmann (1961) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 47: 1996-2005)、いくつかの酸ホスファターゼはホスホヒスチジン中間体を形成する(例えば、R. L. VanEtten (1982) Ann. N. Y. Acad. Sci. 390:27-51)。双方の酵素タイプにおいて、中間体を形成する非常に重要なセリン及びヒスチジンアミノ酸が同定されている。タンパク質ホスファターゼのクラスでは、タンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)の活性部位中のシステイン残基が触媒作用にとって非常に重要である。PTP中の活性部位のシステインからセリンへの変異によって触媒の活性は無くなるが、結合活性は保持されている(例えば、K. L. Guan and J. E. Dixon (1991) JBC 266: 17026-17030)。アミノ酸配列HCXAGXXRは、PTPの間で高度に保存され、特定の実施態様では、この配列中のシステイン(「C」と表される)のセリンへの変異はPTPに由来するバインディングザイムを生成するための戦略である。この活性部位のシステインを改変してPTP由来のバインディングザイムを生成することができる一方、他のアミノ酸を改変してもよく、そして得られた変異酵素は基質の結合及び触媒作用の低減についてのバインディングザイムの基準を満たすかについて通常通りにスクリーニングされうる(例えば、A. J. Flint, T. Tiganis, D. Barford, and N. K. Tonks, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 94: 1680-1685, March 1997; L. Xie, YL Zhang, and ZY Zhang, Biochemistry, Vol 41: 4032-4039)。同様に、タンパク質セリン/スレオニンホスファターゼ及び二重特異性又は多特異性タンパク質ホスファターゼにおける別のアミノ酸を変異させることができ、そして得られた変異酵素をバインディングザイムの特徴について通常通りにスクリーニングすることができる。
【0021】
[0026] 生成したバインディングザイムに応じて、例えば、細菌、酵母、バキュロウイルス、又は哺乳動物系などの発現系を利用する。細菌発現は、使用が容易で、かつ発現レベルが高いゆえ、可能である場合には好ましい。融合タンパク質をある基質又はその基質に結合することによって、それらを捕捉することができる場合、バインディングザイムを融合タンパク質として生成し、精製及びアッセイでの使用のためにそれらの捕捉を促進することができる。融合部分の例は、バインディングザイムに結合されるマルトース結合タンパク質(MBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、及びポリヒスチジン(His)である。すべて市販されており、市販の支持試薬を有する。プラスミドpMAL-c2X(ニュー・イングランド・バイオラブス社(New England BioLabs))を用いてMBP融合体を生じさせることができ、プラスミドpGEX-2T及びpGEX-6P-1(アマシャム・バイオサイエンス社(Amersham Biosciences))を用いてGST融合体を生じさせることができ、そしてベクターpHAT(クロンテック社(Clontech))を用いてHis融合体を生じさせることができる。さらに後述するバインディングザイムを固体支持体に結合するためにマイクロウェルプレートをコーティングするとき、3つの全てについて、アフィニティー精製試薬が市販されている(ピアース社(Pierce))。
【0022】
バインディングザイム系及びアレイ
[0027] 系は、液体培地を含むように適合された固体支持体配置のいずれかでありうる。本明細書中で用いるとき、「系」という用語は、アッセイの構成要素を受容する環境をいう。「系」は、例えば、マイクロタイター・プレート(例えば、96ウェル又は384ウェル・プレート)、チップ上に固定され、かつ、場合によりアレイ中に配向した分子を有するシリコンチップ(例えば、米国特許第6,261,776号及びFodor, Nature 364: 555-556 (1993)を参照のこと)、マイクロ液体装置(例えば、米国特許第6,440,722号;第6,429,025号;第6,379,974号;及び第6,316,781号を参照のこと)、並びにペトリ皿及び8ウェルプレートなどの細胞培養容器を含む。系は、シグナル検出器、固体支持体をある位置から別の位置に移動させる自動操縦式プラットホーム、及びピペットディスペンサーなどのアッセイを行うための付帯設備を含むことができる。
【0023】
[0028] 系の一実施態様は、典型的には、固体支持体上に2次元で配向したバインディングザイムのアレイである。バインディングザイムのアレイは、時には、本明細書中ではバインディングザイム「パネル」という。一実施態様では、アレイは、各ウェルが別のウェルと比較して同じバインディングザイムを含むか別のウェルと比較して異なるバインディングザイムを含むマイクロタイタープレート中で配向されている。本明細書中で用いる通り、「バインディングザイム」との用語は、1つ以上のバインディングザイムをいい、したがって、例えば、マイクロタイタープレートアレイ中のウェルは、時には1つのバインディングザイムを含み、時には2つ以上のバインディングザイムを含む。アレイ(例えば、マイクロタイタープレート中の1つ以上のウェル)が2つ以上のバインディングザイムを含む場合、アレイは、時には2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、12以上、13以上、14以上、又は15以上のウェルを含む。ある種の実施態様では、情報を提供するバインディングザイムのみがアレイ中に配置され、別の実施態様では、アレイは、情報を提供するバインディングザイム及び情報を提供しないバインディングザイムの混合物を含むか、情報を提供しないバインディングザイムのみを含む。例えば、マイクロタイタープレート中のウェルは、時には、1以上の情報を提供するバインディングザイム;1以上の情報を提供しないバインディングザイム;1の情報を提供しないバインディングザイム;1の情報を提供するバインディングザイム;2以上の情報を提供しないバインディングザイム;2以上の情報を提供するバインディングザイムを含み;そして時には、1以上の情報を提供するバインディングザイムと1以上の情報を提供しないバインディングザイムの混合物を含む。情報を提供するバインディングザイム及び情報を提供しないバインディングザイムは、本明細書中に記載される。1以上のウェルが1以上の情報を提供するバインディングザイムを含むマイクロタイタープレートの実施態様では、同定された情報を提供するバインディングザイムのすべてがウェル中に含まれてもよいし、例えば、2ウェル、3ウェル、4ウェル、又は5ウェルなどのいくつかのウェルに分布していてもよい(例えば、10個の情報を提供するバインディングザイムが同定される場合、マイクロタイタープレート中の5個のウェルの各々が2つの異なる情報を提供するバインディングザイムを含んでいてもよい)。例えば、バインディングザイムは、異なるウェル中にランダムな形式、重複した形式で分布していてもよく(以下を参照のこと)、バインディングザイムによって生じるシグナルの大きさに応じて分布していてもよい(例えば、高振幅のシグナルを生ずるバインディングザイムをマイクロタイタープレートのウェル中に一緒にグループ化してもよい)。
【0024】
[0029] 特定の実施態様では、パネルは、1以上のタンパク質チロシンホスファターゼ、タンパク質セリン/スレオニン・ホスファターゼ、及び二重特異性タンパク質ホスファターゼ、又はそれらの組み合わせに由来するバインディングザイムを含む。そのようなパネルは、しばしば、複数のタンパク質ホスファターゼをベースとしたバインディングザイムを介して生物試料を速やかにスクリーニングするという利点を与える。
【0025】
[0030] ある種の実施態様では、アレイはバインディングザイム重複性を含む。例えば、マイクロタイタープレートアレイでは、あるウェルは第1バインディングザイム及び第2バインディングザイムを含んでいてもよく、第2ウェルは同じ第2バインディングザイム及び第3バインディングザイムを含んでいてもよく、第3のバインディングザイムは同じ第3バインディングザイム及び第4バインディングザイムを含んでいてもよい。ウェルは、その他のバインディングザイムを含んでいてもよい。各ウェルによって生じるシグナル(例えば、バインディングザイムによって結合される構成要素に対応する質量分析シグナル)を比較することができる。バインディングザイム重複を含むアレイでは、重複したバインディングザイムに対応するシグナルは、相対シグナル強度の決定、相対シグナル面積の決定、相対シグナル位置の決定、相対シグナル形状の決定、及びシグナル間の相違の標準化に有用である。
【0026】
[0031] ある種の実施態様では、バインディングザイムアレイは内部標準を含む。一実施態様では、アレイは所定の範囲のシグナル強度を生ずる1以上のバインディングザイム及び未知のシグナル強度を生ずる1つ以上のバインディングザイムを含む。そのような実施態様では、内部標準として用いるバインディングザイムは、時には情報を提供するものであり(例えば、情報を提供するバインディングザイム用のパターン中の1つ又はいくつかのシグナルは、時には変化しない)、そしてしばしば情報を提供するものではない。2以上のバインディングザイムを内部標準として利用する場合、バインディングザイムは、しばしば、シグナル強度の範囲を生ずるように選択される。例えば、バインディングザイムアレイは、それぞれ高いシグナル強度、中程度のシグナル強度、低いシグナル強度を生ずる3つの標準のバインディングザイムを含んでいてもよい。他のアレイは、シグナル強度範囲においてより細かい段階的変化を生じさせるために4つ以上の内部標準バインディングザイムを含んでいてもよい。マイクロタイタープレートアレイの実施態様では、ウェルは、時には、所定のシグナル強度を生ずる1以上のバインディングザイム及び未知のシグナル強度を生ずる1つ以上のバインディングザイムを含む。
【0027】
[0032] 情報を提供するバインディングザイムを含むアレイ中の情報を提供しないバインディングザイムは、上記の通り内部標準として及び他の用途において有用である。ある種の実施態様では、アレイ中の情報を提供しないバインディングザイムを利用して、情報を提供するバインディングザイムによって同定される試験分子の選択性を決定することができる。そのような実施態様では、生物試料が試験分子と接触したときに情報を提供しないバインディングザイムの大部分が依然として情報を提供しないとき、該試験分子は選択的であると同定される。ある種の実施態様では、生物試料が試験分子と接触したときに、99%以上、95%以上、90%以上、85%以上、80%以上、75%以上、70%以上、60%以上、又は50%以上の情報を提供しないバインディングザイムが依然として情報を提供しない。試験分子の選択性を決定するためのこれらの実施態様は、例えば、参照化合物(例えば、EPO、TNF-α、参照抗新生物化合物、又は参照転移抑制化合物)と同様の応答を発揮する分子を同定し、かつ、ある種の化合物の毒性(例えば、肝細胞毒素)を減少させるための実施態様(本明細書中で後述する)に適用可能である。
【0028】
[0033] バインディングザイムは、生物試料及び/又は試験分子と接触させる前に固体支持体に固定してもよいし、固定しなくてもよい。遊離のバインディングザイムは、生物試料又は試験分子と接触させた後、例えば、固体支持体に化学的に結合することができる固体支持体上の化学部分に対して親和性を有する切断可能な又は切断可能でないタグにより、他のアッセイ構成要素から分離してもよい。あるいは、遊離のバインディングザイムは親油性でもよく、生物試料又は試験分子と接触させた後に親油性環境中へと該バインディングザイムを分離することができる。
【0029】
[0034] バインディングザイムは、当該技術分野で既知の慣用技術のいずれかにより固体支持体に固定することができる。バインディングザイム及び固体支持体の間の結合は、共有結合であってもよいし、非共有結合であってもよい(例えば、非共有結合による付着については米国特許第6,022,688号を参照のこと)。固体支持体は、例えば、マイクロタイタープレートの各ウェル中の1以上の表面、シリコンウエハーの表面、場合により別の固体支持体に結合されるビーズの表面(例えば、Lam, Nature 354: 82-84 (1991)を参照のこと)、又はマイクロ液体装置中のチャンネルなど、系の1以上の表面であってもよい。架橋剤(例えば、光切断可能なリンカー及び化学的に切断可能なリンカー)、官能基、好ましい固体支持体、及びポリペプチドを固体支持体に適用するためのツールの例は、米国特許第6,387,628号(Little et al.)に記載されている。固体支持体、共有結合及び非共有結合による付着のためのリンカー分子、及び固体支持体への分子の固定化方法は、米国特許第6,261,776号;第5,900,481号;第6,133,436号;及び第6,022,688号;及びWIPO公開公報WO01/18234にも記載されている.
【0030】
[0035] バインディングザイム系又はアレイを任意の慣用の形式で生物試料又は試験分子と接触させることができる。これらのアッセイ構成要素を互いに接触させることは、例えば、バインディングザイムを含む同じ反応容器に生物試料及び/又は試験分子を添加することによって達成することができる。そして例えば、容器を振動させる、ボルテックス発生機器に容器をかける、ピペットで混合を繰り返す、あるアッセイ構成要素を含む液体を別のアッセイ構成要素が固定されている表面上で通過させるなどにより、系中の構成要素を種々の形式で混合してもよい。一実施態様では、ある系におけるバインディングザイムをある生物試料及び/又は試験化合物と接触させてもよく、別の系における同じバインディングザイムを別の生物試料及び/又は試験化合物と接触させてもよい(例えば、マイクロタイタープレートのあるウェル中のバインディングザイムをある生物試料と接触させてもよく、別のマイクロタイタープレート中に同じバインディングザイムを含む別のウェルを別の生物試料と接触させてもよい)。系又はアレイ中のバインディングザイムは、任意の順序及び任意の時間量で生物試料及び/又は試験分子と接触させることができる。バインディングザイム並びに生物試料及び/又は試験分子を、1分以下、15分以下、30分以下、30分以下、1時間以下、6時間以下、12時間以下、24時間以下、又は48時間以下で互いに接触させてもよい。
【0031】
[0036] バインディングザイムを生物試料及び/又は試験化合物と接触させた後、混合物にさらなる処理に供してもよい。例えば、実質的にバインディングザイムに結合していない生物試料中の構成要素を系から除去する洗浄ステップに、混合物をかけてもよい。バインディングザイム/基質複合体をバインディングザイム又は基質を改変する剤(例えば、1以上のプロテアーゼ(例えば、エキソプロテアーゼ及び/又はエンドプロテアーゼ)、1以上のプロテアーゼ阻害剤、又はバインディングザイム及び該バインディングザイムが固定化される固体支持体の間の結合を切断する剤)と接触させてもよい。バインディングザイムに結合する基質(単数又は複数)を溶出し、シグナル検出及び分析が容易になる別の系に分離してもよい。例えば、バインディングザイム/基質複合体を高濃度の塩(例えば、1M・NH4Cl又はより濃度の高いNH4Cl溶液)を含む溶液と接触させることによって、結合基質を溶出してもよく、該基質は固定されたバインディングザイムから塩溶液中に溶出し、そして該溶出された基質は、直接あるいはさらなる処理ステップ後にMALDI-TOFシグナル分析のためにマトリクスを有する固体支持体上に堆積することができる(例えば、MALDI-TOF分析のために固体支持体上に堆積する前に溶出液を試料調製ステップにかけてもよい)。後述する通り、バインディングザイムに結合している基質を溶出し、アミノ酸配列決定手順にかけてもよい。アミノ酸配列決定手順は、バインディングザイムの基質に対する全長又は部分的なアミノ酸配列を推定することができ、どのアミノ酸に転写後修飾部分がつけられているかを決定することができ、そして修飾部分の特徴決定をすることができる。基質がバインディングザイムに結合されるか、又は該バインディングザイムから溶出される場合、天然の翻訳後プロセスにより加えることができる部分を除去する試薬に、基質を接触させてもよい(例えば、シグナル検出前に、基質を1以上のホスホリル部分を除去するホスファターゼで処理してもよい)。
【0032】
[0037] バインディングザイムアレイを用いて、ハイスループット形式で生物試料及び試験分子をスクリーニングすることができる。例えば、情報を提供するバインディングザイムを含むアレイを利用して、1日あたり100個以上の試験分子;1日あたり500個以上の試験分子、1日あたり1,000個以上の試験分子;1日あたり5,000個以上の試験分子、又は1日あたり10,000個以上の試験分子の割合で試験分子をスクリーニングすることができる。
【0033】
生物試料
[0038] 本明細書中に記載されるアッセイ方法を利用して、2以上の異なる生物試料間のポリペプチド変動を検出することができる。生物試料は、しばしば、生物、組織、又は細胞に由来し、そしてこの例は、全細胞、破壊された細胞(例えば、細胞ライセート)、及び精製した細胞分画(例えば、精製されたポリペプチド)を含む。生物試料は、例えば、in vitroで翻訳されたポリペプチド、単離された組換えポリペプチド、又は単離された化学合成ペプチドなど、時には合成によって製造される。しばしば合成によって製造されるポリペプチド又はペプチドである生物試料を翻訳後修飾を付加又は除去する試薬で処理し(例えば、ホスホポリペプチド又はホスホペプチドはホスホリル修飾を除去するタンパク質ホスファターゼで処理してもよい)、そして生物試料をバインディングザイム及び/又は試験分子と接触させる前、接触させている間、接触させた後に生物試料をそのような剤で処理してもよい。
【0034】
[0039] 細胞に基いた生物試料間の相違は、自然に生じるものであってもよいし(例えば、転移細胞又は新生物細胞を非転移又は非新生物対応物と比較してもよい)、細胞での相違を誘導してもよい(例えば、組換えポリペプチドを細胞中で発現させ、細胞を成長培地を用いて又は成長培地用いずに培養し、或いは細胞を試薬(例えば、分化誘発剤又は増殖誘導剤(例えば、エリスロポエチン(EPO))又は毒素(例えば、肝細胞毒素)で処理する)。例えば、生物試料をプロテアーゼなどの試薬(例えば、エキソプロテアーゼ及び/又はエンドプロテアーゼ)又は当該技術分野で既知である1つ以上のプロテアーゼ阻害剤で処理してもよい。ある種の実施態様では、一般的なホスファターゼ阻害剤(例えば、ペルバナデート(pervanadate))などの広範な阻害剤で生物試料を処理しない。
【0035】
シグナルの検出及び比較
[0040] 上記の通り、典型的には、バインディングザイムに結合する基質に対応するシグナルを検出し(例えば、未結合の基質を結合基質から洗い流す)、これは有利なことに、比較的きれいなシグナルパターンをもたらす。これらのきれいなシグナルパターンにより、曖昧さがより少ないシグナル比較が可能となり、シグナル分析に必要な時間量を減少し、ハイスループット形式でアッセイを行うことが可能となる。
【0036】
[0041] 当該技術分野で既知であるシグナル生成分子及びシグナル検出技術のいずれかを用いて、バインディングザイムに結合する1以上のポリペプチドに対応するシグナルを検出及び比較ができる。例えば、特定の励起波長で蛍光体を励起し、次いで異なる発光波長で蛍光体によって発せられる蛍光を検出することにより、蛍光シグナルをアッセイでモニタリングしてもよい。多くの蛍光体及びそれらの付随する励起及び発光波長は、当該技術分野で既知である(例えば、Anantha et al., Biochemistry 37: 2709-2714 (1998); Qu & Chaires, Methods Enzymol 321: 353-69 (2000))。市販の蛍光検出器を用いるなどによる蛍光シグナルの標準検出方法も当該技術分野で既知である。バックグラウンドの蛍光は、信号対雑音比を増大することができる光子減少剤(例えば、米国特許第6,221,612号を参照のこと)を添加した系で減少させてもよい。アッセイでは、他のタイプのシグナル分子、例えば、放射性同位体(例えば、125I、131I、35S、32P、14C、又は3H);光散乱標識(ゲニコン・サイエンス社(Genicon Sciences Corporation)、サンディエゴ、カルフォルニア州、及び例えば米国特許第6,214,560を参照のこと);酵素又はタンパク質標識(例えば、GFP又はペルオキシダーゼ);発色性標識又は色素(例えば、テキサス・レッド(Texas Red));又は染色(例えば、1D又は2Dポリアクリルアミド電気泳動ゲル又はキャピラリー電気泳動ゲルでのポリペプチドの銀染色)などを用いてもよい。同様に、NMRスペクトル・シフト(例えば、Arthanari & Bolton, Anti-Cancer Drug Design 14: 317-326 (1999)を参照のこと)、蛍光共鳴エネルギー伝達(例えば、Simonsson & Sjoback, J. Biol. Chem. 274: 17379-17383 (1999)を参照のこと)、又は円偏光二色性シグナルなどの他のシグナルを検出してもよい。
【0037】
[0042] 検出することができる別のシグナルは固体光学表面での屈折率の変化であり、該変化は光学表面の近く又は光学表面で屈折率を増大させる分子を結合又は放出することによって引き起こされる。光学表面の屈折率変化を測定するこれらの方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)に基づく。SPRは、光学的に透明な物質(例えば、ガラス)及び金属薄膜(例えば、銀又は金)の間の界面からの特定の角度で反射される光強度の低下として観察される。SPRは、金属表面の近くの媒体(例えば、試料溶液)の屈折率に依存する。表面近くの材料の吸収又は結合などによる金属表面での屈折率の変化により、SPRが起こる角度の対応するシフトが生ずる。SPRシグナル及びその使用は、米国特許第5,641,640号;第5,955,729号;第6,127,183号;第6,143,574号;及び第6,207,381号,及びWIPO公開公報WO90/05295でさらに例証され、SPRシグナル測定器具は市販されている(ビアコア社(Biacore, Inc.)、ピスカッタウェイ(Piscataway)、ニュージャージー州)。一実施態様では、バインディングザイムは、光学的に透明な材料及び金属薄膜を有するチップにリンカーを介して結合され、固定されたバインディングザイムと系に添加される試験化合物及び/又は生物試料の間の相互作用を屈折率の変化によって検出することができる。
【0038】
[0043] 本明細書中に記載される方法でしばしば検出されるシグナルは、質量分析シグナルである。質量分析技術の例は、上記の米国特許第6,387,628号に列記されており、例えば、マトリクス支援レーザー脱離(MALDI)、連続型又はパルス型エレクトロスプレー(ESI)及びイオンスプレー又はサーモスプレーなどの関連方法、及びマッシブクラスター衝撃(MCI)などのイオン化技術、並びに線形又は非線形リフレクトロン飛行時間型(TOF)、単収束型又は多重収束型四重極、単収束型又は多重収束型磁場セクター、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)、イオントラップ、及びそれらの組み合わせなどの検出技術を含む。市販の質量分光光度計(例えば、ブルカー・ダルトニクス社(Bruker Daltonics)製のMALDI-TOF機器)を用いて質量分析シグナルを測定することができ、ある系において質量分光光度計を本明細書中に記載されるアレイと組み合わせることができる。
【0039】
[0044] 一実施態様では、質量分析シグナルは、MALDI-TOFシグナルであり、これは、バインディングザイムに結合する生物試料の構成要素に対応するシグナルを分離するためにしばしば利用される。MALDI-TOFシグナル及びその検出方法は当該技術分野で十分に特徴づけられ、シグナル強度及び分解能の増大方法(例えば、調節方法)も既知である(例えば、上記の米国特許第6,387,628号を参照のこと)。情報を提供するバインディングザイムについてのMALDI-TOFシグナルは、少なくとも2つの点で異なっていてもよい。同じ質量を有する基質に対応するシグナルは、異なる生物試料に対して異なる大きさを有してもよく、これは各試料中において異なる基質レベルを示している。さらに、異なる質量を有する基質に対応するシグナルはある試料には存在するが、別の試料には存在しなくてもよく、これはある生物試料には異なる基質が存在しているが別の試料には存在していないことを示している。バインディングザイムに結合する1つの基質はしばしば1つのシグナルを生じ、したがって、シグナルパターンは1つのバインディングザイムについて検出することができるが、その理由は、試料中の2つ以上の基質は各バインディングザイムに結合できるためである。
【0040】
[0045] 別の実施態様では、質量分析シグナルは、LC/MS/MSシグナルであり、該シグナルは、バインディングザイムに結合するペプチドのアミノ酸配列を決定すること及びペプチド中のどのアミノ酸(単数又は複数)がリン酸化しているかを決定することにしばしば利用される。LC/MS/MSを行う方法及び機器は、当該技術分野で既知である(例えば、米国特許第4,982,097号及び第6,027,890号、並びにH. Zhou, J. D. Watts, and R. Aebersold, Nature Biotechnology, Vol 19: 375-378, April 2001を参照のこと)。
【0041】
[0046] 各系でのシグナルを検出した後、シグナルを互いに比較する。シグナルを目で比較してもよいし、典型的にはシグナル検出装置で使用するために製造された市販のソフトウェアによって比較を容易にしてもよい(例えば、MALDI-TOF分光測定データ比較用ソフトウェアは、ブルカー・ダルトニクス社(Bruker Daltonics)から市販されている)。市販のソフトウェアを特定の比較のために改変してもよいし、新たなソフトウェアを開発してもよい。上記の通り、1以上のシグナルを含むシグナルパターンをバインディングザイムについて検出してもよいし、個々のシグナルを別の系(例えば、別のバインディングザイム、生物試料、又は試験分子を含むマイクロタイタープレート中のウェル)についての対応するシグナルと比較してもよいし、及び/又はパターン自体を比較してもよい。
【0042】
[0047] 図2は、バインディングザイムアレイを介してスクリーニングされた2つの試料に由来するシグナルを比較する実施態様を図示している。あるバインディングザイムでは、MALDI-TOFシグナル及びシグナルパターンはシグナルの振幅(高さ)及びシグナル位置(質量)に関して変化していない(暗くなっていないウェル)。そのようなシグナルを比較することにより、特定のバインディングザイムはスクリーニングした生物試料についての情報を提供しないことが実証される。しかしながら、留意することは、異なる生物試料をスクリーニングしたとき、シグナルの変動が同じバインディングザイムについて存在してもよく、したがって、同じバインディングザイムが別のスクリーニングで情報を提供することができることである。図2のパートBにおける別のバインディングザイム(暗くなっているもの)では、検出したある種の質量について、シグナルの振幅が変化している。このシグナルの変動は、しばしば、別の試料と比較したときに、ある試料に存在するリンペプチドの異なるレベルの結果である。暗くなっているバインディングザイムは、シグナルの変動を検出するゆえに図2のパートBでの特定の生物試料群についての情報を提供する。ある系でのシグナルの振幅、位置、又は形状が、対応する系におけるものと時には15%以上又は20%以上、しばしば25%以上、30%以上、50%以上、又は75%以上異なる場合、シグナルの比較における変動が検出される。パターン中の他のシグナルの中のあるシグナルの振幅、位置、又は形状が比較するパターン中の対応シグナルと異なるか又はシグナルを欠失する場合、バインディングザイムから得られるシグナルパターンは情報を提供するとみなすことができる。さらに、2つ以上の他のシグナルの中であるシグナルだけが異なる場合、バインディングザイムから得られるシグナルパターンは、時には、別のシグナルパターンとは実質的に一致していないとみなす。
【0043】
[0048] 上記のバインディングザイムアレイ及びスクリーニング方法は、診断アッセイの実施に利用することができる。例えば、疾患状態及び非疾患状態に対応する生物試料(例えば、転移細胞及び非転移対応物)をタンパク質ホスファターゼ由来のバインディングザイムのアレイを介してスクリーニングすることができ、情報を提供するバインディングザイムを特定のスクリーニングのために選択することができる。バインディングザイムの同じアレイ又は新たに構築した情報を提供するバインディングザイムのアレイを患者から得た血液又は組織試料を用いてスクリーニングし、最初にスクリーニングした疾患試料又は非疾患試料についてのシグナルパターンと一致するシグナルパターンをそれらの試料が示すかどうかを決定することができる。
【0044】
[0049] 情報を提供する及び情報を提供しないバインディングザイムを選択し、上記と同様の形式で行うさらなるスクリーニングのためにアレイ中に配置することができる。そのようなアレイは、後述の新たな治療用分子を同定及び最適化するためのハイスループット形式で利用することができる。
【0045】
リード治療用調節因子の同定及び最適化方法
[0050] 本明細書中に記載されるアッセイを用いて試験分子をスクリーニングすることにより、酵素/基質相互作用及び生物試料中のバインディングザイム基質のレベルを調節する分子を同定し最適化することができる。試験分子を生物試料に関して任意の順序でアレイに添加するすることができ、後者をアレイに添加する前に試験分子を生物試料に付加してもよい。試験分子が疾患のない生物試料又は治療を受けた生物試料に対応するシグナルと一致するか実質的に同様である1のシグナル、2以上のシグナル、及び/又はシグナルパターンを生ずる場合、試験分子は、しばしば、潜在的な治療用分子と同定される。例えば、潜在的な治療用分子は、しばしば、2つの生物試料間のポリペプチド変動を調節するものであり、そして試験化合物の不存在下での相違に対するシグナル間の相違を調節する試験分子は、しばしば、2つの生物試料間のポリペプチド変動を調節する分子と同定される。ポリペプチド変動を調節する分子は、時には、第1の系から得られるシグナル及び第2の系から得られるシグナルの間の相違を減少し、時には、2つの系におけるシグナル間の相違を無くす(例えば、対応するシグナル間に検出可能な相違はない)。
【0046】
[0051] 例えば、EPOを投与された又はEPOを投与されていない生物試料の最初のスクリーニングから開発された情報を提供するバインディングザイムアレイを用いて、EPOなどの参照化合物と接触する第1の生物試料と試験分子と接触される第2の生物試料の間でシグナルを比較することができる。アレイ用に選択された情報を提供するバインディングザイムは、EPOの存在又は不存在下でシグナルの変動を検出するバインディングザイムである。EPOの投与によって誘発されるシグナルパターンと一致するか実質的に同様であるシグナルを誘発する試験分子は、EPOの潜在的な治療用代替物と同定される。EPO代替物を同定するため実施態様を実施例1に記載する。さらに、TNF-αアンタゴニストを同定するための実施態様を実施例2に記載する。
【0047】
[0052] 抗新生物分子及び転移抑制分子の同定のために同様のスクリーニングを行うことができる。そのようなスクリーニングは、転移又は新生物細胞試料を対応する非癌細胞と比較した最初のスクリーニングから開発された情報を提供するバインディングザイムアレイを用いて処理される。癌細胞を含む生物試料は、時には、例えば、癌組織に由来する細胞系から得られる又は癌性組織から直接得られる細胞を含む。情報を提供するバインディングザイムアレイを用いてスクリーニングされた試験分子は、そのような分子によって発せられるシグナルが非癌細胞試料から得られるシグナルと一致するか実質的に同様である場合、転移抑制調節因子及び抗新生物調節因子と同定される。実施例3は、この手法の実施態様を記載している。増殖細胞系列に由来する生物試料又は細胞増殖性疾患を有する対象を用いて、細胞に基いたスクリーニングを行うことができる。細胞増殖性疾患には、例えば、造血起源の増殖性/新生物細胞が関与する疾患(例えば、骨髄性、リンパ球性、若しくは赤血球系、又はそれらの前駆体細胞から生ずる)である造血新生物性疾患が含まれる。疾患は、分化が乏しい急性白血病、例えば、赤芽球白血病及び急性巨核芽球白血病から生じうる。さらなる骨髄性疾患には、急性前骨髄性白血病(APML)、急性骨髄性白血病(AML)、及び慢性骨髄性白血病(CML)(Vaickus, Crit. Rev. in Oncol./lHemotol. 11 : 267-97 (1991)で総説されている)が含まれ、リンパ球性悪性疾患には、非限定的に急性リンパ芽球性白血病(ALL)(B系列ALL及びT系列ALLを含む)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、前リンパ球性白血病(PLL)、有毛細胞白血病(HLL)、及びワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症(WM)が含まれる。悪性リンパ腫のさらなる形態には、非限定的に非ホジキンリンパ腫及びその変種、末梢T細胞リンパ腫、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)、大顆粒リンパ球性白血病(LGF)、ホジキン病、及びリード-シュテルンベルク病が含まれる。
【0048】
[0053] 潜在的な治療用分子及びその誘導体の特異性は、上記の情報を提供しないバインディングザイム・アレイ・スクリーニングを用いることによって評価することができる。分子又はその誘導体によって誘導される変動は、事前のスクリーニングで選択した情報を提供しないバインディングザイム・アレイを用いて検出する。例えば、+/-EPOスクリーニングで同定されたタンパク質ホスファターゼに由来する情報を提供しないバインディングザイム(例えば、実施例1を参照のこと)をアレイに配置することができ、潜在的な治療用及び/又はその誘導体の存在下でスクリーニングすることができる。シグナル又はシグナルプロファイルを改変しないあるいは他の分子と比較して最も少ないシグナルを改変する潜在的な治療用分子又は誘導体を、それぞれ、特定のアレイに特異的又は最も特異的であるとみなす。情報を提供しないバインディングザイムアレイのスクリーニングによって決定される特異性評価は、特定の潜在的な治療薬又は誘導体の特異性を決定するために他のin vitro又はin vivoデータと併用することができる。特異性を評価するためのスクリーニングの実施態様を実施例4に記載する。
【0049】
[0054] 治療上有効な用量の潜在的な治療薬又は誘導体を決定するとき、しばしば毒性を憂慮する。1以上の毒素(例えば、1つ以上の肝細胞毒素)で処理したあるいは処理されない細胞に基いた試料のスクリーニングで情報を提供すると同定されるバインディングザイムを選択し、潜在的な治療薬又はその誘導体をスクリーニングするために用いるアレイに配置されうる。肝細胞毒素の例は、当該技術分野で既知であり、イプロニアジド(マーシリッド(MARSILID))、チクリナフェン(セラクリン(SELACRYN))、ベノキサプロフェン(オラフレクス(ORAFLEX))、ブロムフェナク(デュラクト(DURACT))、及びトログリタゾン(レズリン(REZULIN))が含まれる。肝細胞毒素で処理していない細胞試料について検出されるものと一致するか実質的に同様であるシグナル又はパターンを示す分子は、肝細胞毒素で処理された細胞試料について検出されるものと同様のシグナル又はパターンを示す他のものと比較して毒性がより少ないと同定される。これらのアッセイにおいて、種々の量の分子を生物試料又は系に添加して、毒性である閾濃度を決定することができる。毒性評価のスクリーニングの特定の実施態様を実施例5に記載する。
【0050】
[0055] 本明細書中に記載される他のバインディングザイム・スクリーニングを用いて、潜在的な治療薬の治療有効量を評価することもできる。例えば、実施例1に記載される情報を提供するバインディングザイムのアレイを含めたアッセイを用いて、種々の用量の潜在的に治療用分子をスクリーニングし、+EPO(すなわち、EPOに晒された)試料のものと一致するか又は実質的に同様であるシグナルパターンを示すために必要な最小の用量を決定することができる。そのような実施態様では、生物試料をバインディングザイムと接触させる前に、潜在的に治療薬となる分子を、生物試料又は生物試料が単離される対象に添加することができる。
【0051】
[0056] ヒト対象で用いる投与量範囲を剤形するとき、in vitro細胞培養アッセイ及びin vivo動物研究から得られるデータを毒性のバインディングザイム評価と組み合わせて用いる。試験分子の投与量は、ほとんど毒性がないか全く毒性がないED50を含む循環濃度の範囲内である。投与量は、使用する剤形及び利用する投与経路に依存してこの範囲で変化することができる。治療上有効な用量の試験分子を細胞培養アッセイから最初に評価することができる。細胞培養で決定されるIC50(すなわち、症状の最大抑制の二分の1を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するために、動物モデルにおいて、用量を剤形できる。そのような情報を用いて、対象での有用な用量をより正確に決定することができる。例えば高速液体クロマトグラフィーにより、血漿のレベルを測定することができる。試験分子の有効な用量は、一般的に、70kgの対象に対してペプチド約1.0μg〜約5000μgの範囲でありうる。調節因子の毒性及び治療の効力は、例えば、LD50値(集団の50%の致死用量)及びED50値(集団の50%における治療上有効量)を決定するための細胞培養又は実験用動物において、標準の薬学的手順により決定することができる。毒性及び治療効力の間の用量比は治療指数であり、LD50/ED50の比として表すことができる。大きな治療指数を示す試験分子が好ましい。毒性の副作用を示す試験分子を用いることができるが、未感染細胞に対する損傷の可能性を最小にするために、そのような分子の標的を罹患組織の幹部に標的するデリバリーシステムを設計するように気を付け、それにより副作用を低減することができる。
【0052】
[0057] 本明細書中に記載されるアッセイを用いて、精製したポリペプチド又はペプチドバインディングザイム基質に対する分子の効果をスクリーニングすることができる。バインディングザイム基質の配列を本明細書中に記載される方法によって決定してもよく、そして該基質を合成してもよい。翻訳後修飾を有する或いは有さない基質をバインディングザイムアレイに導入してもよい(例えば、基質は、ホスホリル部分を含んでもよいし、ホスホリル部分を含んまなくてもよい)。基質をバインディングザイムアレイと接触させてもよく、基質を用いてバインディングザイムと基質の間の相互作用を阻害又は増大する分子をスクリーニングすることができ、ここで、調節因子がシグナルの変動を示す分子として同定される。特定の酵素をベースとしたスクリーニングの実施態様を実施例6及び7に記載する。基質を該基質に対して作用する酵素(タンパク質キナーゼ又はタンパク質ホスファターゼなど)と接触させることもでき、そして該分子を添加してそのうちのどれが酵素と基質の間の相互作用を調節するかを決定することができる。後者のスクリーニングにおいて、加工が施されたポリペプチド又はペプチド(例えば、リン酸化又は脱リン酸化ペプチド又はポリペプチド)を検出することにより、或いは酵素によって基質に付加された又は基質から除去された化学部分(例えば、放出されたホスフェート又は付加したホスフェート)を検出することにより、酵素と基質の間の相互作用をモニタリングすることができる。
【0053】
[0058] したがって、ある種の実施態様では、不活性化酵素に結合するポリペプチドの配列を時には質量分析(例えば、LC/MS/MS)によって決定する。配列を決定した後、修飾部分を有する対応するポリペプチド又はポリペプチドの断片(例えば、修飾部分を有するあるいは有さない)を時には合成する。ある種の実施態様では、修飾部分を有するポリペプチドを修飾部分を除去する酵素と接触させ、除去された修飾部分の量を時には検出する。いくつかの実施態様では、修飾部分を除去する酵素を試験分子と接触させ、試験分子が修飾部分の除去を調節するかを決定する。ある種の実施態様では、修飾はホスホリル部分であり、ポリペプチドをタンパク質ホスファターゼと接触させる。他の実施態様では、修飾部分を有しないポリペプチドをポリペプチド修飾部分に付加することが可能である酵素と接触させ、いくつかの実施態様では、修飾部分を有するポリペプチドを検出する。ある種の実施態様では、酵素を試験分子と接触させ、試験分子がポリペプチドへの修飾部分の付加を調節するかを決定する。特定の実施態様では、修飾部分はホスホリル部分であり、ポリペプチドをタンパク質キナーゼと接触させる。
【0054】
[0059] 試験分子は、しばしば1モルあたり10,000グラム以下の分子量、時には、1モルあたり5,000グラム以下、1モルあたり1,000グラム以下、又は1モルあたり500グラム以下の分子量を有する有機又は無機化合物である。化合物の塩、エステル、及び他の医薬として許容される形態も含まれる。化合物は、当該技術分野に周知であるコンビナトリアル・ライブラリー法のいずれかを使用して得られる。該法は、例えば、空間的にアドレス可能な平行固相又は液相ライブラリー;解析を必要とする合成ライブラリー法;「1ビーズ、1化合物」ライブラリー方法;及びアフィニティークロマトグラフィー選択を用いた合成ライブラリー方法を含む。分子ライブラリーの合成方法の例は、例えば、DeWitt et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90: 6909 (1993); Erb et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 11422 (1994); Zuckermann et al., J. Med. Chem. 37: 2678 (1994); Cho et al., Science 261: 1303 (1993); Carrell et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2059 (1994); Carell et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2061 (1994);及びGallop et al., J. Med.Chem. 37: 1233 (1994)に記載されている。
【0055】
[0060] 試験分子は、時には、核酸、触媒作用を持つ核酸(例えば、リボザイム)、ヌクレオチド、ヌクレオチド・アナログ、ポリペプチド、抗体、又はペプチドミメティクスである。そのような試験分子の作成及び使用方法は既知である。例えば、リボザイムの作成方法及びリボザイム活性の評価方法が記載されている(例えば、米国特許第5,093,246号;第4,987,071号;及び第5,116,742号;Haselhoff & Gerlach, Nature 334: 585-591 (1988)及びBartel & Szostak, Science 261: 1411-1418(1993)を参照のこと)。さらに、ペプチドミメティクス・ライブラリーが記載され(例えば、Zuckermann et al., J. Med. Chem. 37: 2678-85 (1994)を参照のこと)、抗体の生成方法が記載されている(例えば、Harlow & Lane, Antibodies, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (1988)を参照のこと)。
【0056】
[0061] 生物試料の由来元である対象へ、試験分子をデリバリーするように剤形されてもよいし、生物試料中の細胞へデリバリーするように剤形してもよい。製剤は、試験分子の医薬として許容できる塩、エステル、又はそのようなエステルの塩を含むことができる。製剤は、溶液、乳濁液、又はポリマトリクス含有物(例えば、リポソーム及びミクロスフィア)として調製することができる。そのような組成物の例は米国特許第6,455,308号(Freier)、第6,455,307号(McKay et al.)、第6,451,602(Popoff et al.)、及び第6,451,538(Cowsert)に説明され、リポソームの例は米国特許第5,703,055号(Felgner et al.)及びGregoriadis, Liposome Technology vols. I to III (2nd ed. 1993)にも記載されている。製剤は、局所、経口、経肺、非経口、髄腔内、及びイントラニュートリカル(intranutrical)形式のいずれかによって調製することができる。製剤は、1以上の医薬として許容される担体、賦形剤、浸透促進剤、及び/又は補助剤を含んでいてもよい。組成物中の医薬として許容される塩、担体、賦形剤、浸透促進剤、及び/又は補助剤の組み合わせの選択は投与形式に一部依存し、指針は当該技術分野で既知である。
【0057】
[0062] 製剤を対象に投与してもよいし、医薬産業において既知の慣用技術に従って調製される単位剤形で好都合に生物試料にデリバリーしてもよい。一般用語では、そうした技術は、液体形態又は細粒固体形態で、医薬担体(単数又は複数)及び/又は賦形剤(単数又は複数)と合わせ、そして次に必要があるなら製品を成形することを含む。試験分子組成物を、例えば錠剤、カプセル、ゲルカプセル、液体シロップ、ソフトゲル、坐剤、及び浣腸などのいずれかの投与形態に剤形してもよい。組成物を水性媒体、非水性媒体、又は混合媒体中の懸濁剤として剤形してもよい。水性懸濁剤は、粘性を増加させる物質(例えば、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、ソルビトール、及び/又はデキストランを含む)をさらに含んでもよい。懸濁剤は1以上の安定剤を含んでもよい。
【実施例】
【0058】
[0063] 本発明は、以下の実施例によりさらに例示され、該実施例は制限するものとして解釈すべきではない。
【0059】
実施例1
エリスロポエチンの経口活性代替物を同定するための細胞に基くスクリーニング
1.生物試料を比較するためのバインディングザイムプレートの製造
[0064] 既知である、疑いのある(suspected)、仮定した(hypothesized)、又は見積もられた(projected)タンパク質チロシンホスファターゼ、タンパク質セリン/スレオニンホスファターゼ、及び二重特異性又は多特異性タンパク質ホスファターゼ用のバインディングザイムを製造する。シグナル伝達中のエフェクター分子であるリンタンパク質を結合するために、これらのバインディングザイムが使用される。各々をMBP融合タンパク質として発現し、各々をピアース社リアクティ-バインド(Reacti-Bind)(商標)デキストリン・コーティング・マイクロウェルプレートの特定のウェルに固定する(各バインディングザイムに割り当てるのに必要とする数だけウェル及びプレートを用いる)。生物試料を比較するための複製プレート及びウェルを作成する。
【0060】
2.試料の調製
[0065] 2の同一の細胞培養物を使用する。一方はエリスロポエチン(+EPO)に晒し、他は晒さない(-EPO)。各々の培養物を溶解し、+EPO試料のアリコートを1組のバインディングザイムウェルにアプライし、-EPO試料のアリコートを複製の組のバインディングザイムウェルにアプライする。25℃において20分間、付着したバインディングザイムへペプチドを結合させた。すべてのウェルを1×PBSで洗浄し、続いて25mM NH4HCO3緩衝液(pH8.0)で洗浄する。2ユニットの仔牛腸アルカリホスファターゼを含む25mM NH4HCO3緩衝液(pH8.0)10μlを各ウェルに加え、37℃で2時間蓋をしてインキュベーションする。プレートを遠心分離して、各ウェルの底に試料を集める。約15nlの各試料をアルファ-シアノ-4-ヒドロキシ-ケイ皮酸のMALDIマトリクス・スポットに適用し、乾燥し、MALDI-TOF質量分析によって試験する。
【0061】
3.ハイスループットスクリーニングの設定
[0066] 2つの試料間で結果を比較する場合、2つの試料間のポリペプチド変動を検出するバインディングザイム(本明細書中では情報を提供するバインディングザイムと称する)を合わせ、飽和量をピアース社リアクティ-バインド(Reacti-Bind)(登録商標)デキストリンコーティングマイクロウェルプレートの各々かつすべてのウェルに塗布し、過剰量を洗い流す。次いで、EPOで処理していない培養細胞から得られるポリペプチドの変動をEPOで処理した培養細胞から得られるポリペプチドの変動と一部又は完全に似ている化合物を発見するために、情報を提供するバインディングザイムのこれらのプレートを用いて、小さな分子で処理した培養細胞から得られるライセートをプロファイリングする。細胞培養物の処理は上記の通りに行う。次いで、薬物候補を培養細胞及び動物モデルを用いたさらなるアッセイで検査し、エリスロポエチンの経口活性代替物を同定する。
【0062】
実施例2
TNF-αに対する経口活性アンタゴニストを同定するための細胞に基くスクリーニング
[0067] ホスファターゼ由来のバインディングザイムのパネルを用いて、コントロール細胞培養物(TNF-αなし)及び実験用細胞培養物(TNF-αあり)を実施例1に記載と同様に分析する。次いで、情報を提供するバインディングザイムを単一アッセイ、時には2以上のアッセイと合わせる。しかしながら、実施例1におけるハイスループットスクリーニングとは対照的に、細胞培養物を化学化合物で前以って処理し、次いでTNF-アルファを各細胞培養物に加え、培養物をプロファイリングする。コントロールの培養物に全部又は一部似ている培養物、すなわち、TNF-αへ晒されたことの十分な効果を示さないものは、化学化合物によりTNF-α処理に十分に応答することを遮られた培養物である。これらの基準を満たす少数の化合物を培養細胞及び動物モデルを用いて詳細に試験する。
【0063】
実施例3
抗新生物剤及び抗転移剤を同定するための細胞に基くスクリーニング
[0068] 実施例1に記載されるホスファターゼ由来のバインディングザイムのパネルを用いて、正常な細胞系列は、それらの癌対応物と比較されうる。転移能の高い細胞系列を転移能力の低い対応物及び正常な細胞系列と比較することができる。次いで、情報を提供するバインディングザイム(時には、選択した情報を提供しないバインディングザイムとともに)をハイスループットスクリーニング中に設定する。試験分子を各生物試料に添加し、潜在的な治療剤を、異常なリンタンパク質プロファイルを正常対応物のリンタンパク質プロファイルへとシフトさせる試験分子として同定する。次いで、治療剤候補は、後に行われるアッセイ、例えば当該技術分野で既知である培養細胞及び動物モデルを含めたアッセイなどで試験される。
【0064】
実施例4
特異性を評価するための細胞に基くスクリーニング
[0069] 2個の試料間の変動を検出しないバインディングザイム(本明細書中では情報を提供しないバインディングザイムと称する)は、特異性を評価することにより、薬物候補の後の開発に非常に貴重となりうる。実施例1における+EPO及び-EPO細胞培養物の最初の比較から、情報を提供しないバインディングザイムを同定する。EPOの影響を最も良く似せるために、薬物候補は、これらの情報を提供しないバインディングザイムによって結合されるリンタンパク質のパターンを変えてはならない。個々の細胞培養物を各々の薬物候補で処理し、情報を提供しないバインディングザイムを用いてそれらをコントロール培養物(すなわち、a-EPO培養物)と比較することにより、薬物候補を特異性に関してランク付けすることができる。情報を提供しないバインディングザイムを用いて検出されるリンタンパク質変動が多いほど、特異性はより少ない。最初のスクリーニングで同定される治療剤よりも特異的な治療剤を開発するための医薬品化学の試み(例えば、リード化合物中の官能基の修飾)の指針にこの得られたデータを用いる。
【0065】
実施例5
毒性評価のための細胞に基いたスクリーニング
[0070] ホスファターゼ由来のバインディングザイムパネルの適用を用いて薬物候補の毒性を評価する。既知の肝臓毒性を有する或いは有さないバインディングザイムパネルを用いて、正常な培養初代ヒト肝細胞(肝臓細胞)をプロファイリングする。薬物候補も同様にプロファイルし、正常な肝細胞のプロファイル及び既知の肝毒性剤で処理した肝細胞のプロファイルと比較する。既知の肝細胞毒素のプロファイルとの類似性に基づき、それらが肝毒性を生じさせる確率に従って薬物候補をランク付けする。このスクリーニングは、最初のスクリーニングで同定されるリード化合物の毒性を減少するための重要なツールである。
【0066】
実施例6
薬物候補を同定するためのタンパク質ホスファターゼに基いたスクリーニング
[0071] いくつかの場合において、ハイスループットin vitro酵素スクリーニングは細胞に基いたスクリーニングに好ましい。タンパク質ホスファターゼの阻害によって所望の治療結果が生ずる可能性が高い場合、最初のプロファイリングアッセイを行った後に(例えば、実施例1の+/-EPOプロファイル)、細胞に基いたアッセイの代わりにタンパク質ホスファターゼ・アッセイを利用してもよい。+/-EPOにより変化するリンペプチド・プロファイルでは、アルカリホスファターゼで処理していない試料を用いて、ペプチドの同一性をLC/MS/MSによって決定する(すなわち、どのアミノ酸残基(単数又は複数)がリン酸化されたかを決定するために、MS分析前に特定のホスフェート基が維持される)。次いで、MS分析によって推定されるアミノ酸配列に基づいてリンペプチドを合成し、情報を提供するバインディングザイムを得た触媒活性ホスファターゼに対して合成ペプチドを試験する。ホスフェートを除去することにより、容易にスコア付けされる質量シフトが生ずるので、MALDI-TOF・MSを利用してアッセイをスコア付けする。次いで、ホスファターゼ・アッセイ(触媒活性ホスファターゼ及び対応する有効な基質)を合わせる。これはMALDI-TOF・MSの分解能ゆえに可能である。次いで、化学化合物ライブラリーのハイスループット・スクリーニングを行い、どの化合物がホスファターゼ活性を調節するかを決定することによってタンパク質ホスファターゼ調節因子を同定する。
【0067】
実施例7
薬物候補を同定するためのタンパク質キナーゼに基くスクリーニング
[0072] タンパク質キナーゼの阻害によって治療結果が生じる可能性がある場合、最初のプロファイリングアッセイを行った後に(例えば、実施例2の+/-TNF-αプロファイル)、細胞に基くアッセイの代わりにタンパク質キナーゼアッセイを利用してもよい。+/-TNF-αを変化させるリンペプチドプロファイルでは、アルカリホスファターゼで処理していない試料を用いて、異なるペプチドの同定をLC/MS/MSによって決定する(すなわち、どのアミノ酸残基がリン酸化されたかを決定するために、MS分析前に特定のホスフェート基が維持される)。次いで、MS分析によって推定されるアミノ酸配列に基づいて非リン酸化ペプチドを合成し、既知のタンパク質キナーゼのパネルに対して合成ペプチドを試験する。ホスフェートを付加することにより、容易にスコア付けされる質量シフトが生じるので、MALDI-TOFMSを用いてアッセイをスコア付けする。タンパク質キナーゼアッセイを合わせる(触媒活性タンパク質キナーゼ及び対応する有効な基質)が、これはMALDI-TOFMSの分解能ゆえに可能である。次いで、化学化合物ライブラリーのハイスループットスクリーニングを行い、どの化合物がタンパク質キナーゼ活性を調節するかを決定することによってタンパク質キナーゼ調節因子を同定する。
【0068】
[0073] 本発明の基本的な態様から逸脱することなく、上述したものに改変を行うことができる。1以上の特定の実施態様を参照して本発明を実質的に詳細に記載してきたが、本出願中に具体的に開示された実施態様に変化を施すことができ、さらにこれらの改変及び改良は付随する特許請求の範囲で説明される本発明の範囲及び真意内であることを当業者は認識している。本明細書中で引用したすべての公開公報及び特許資料は、そのような公開公報又は資料の各々が参照により本明細書に取り入れるために具体的にかつ個別的に示されているかの如く、本明細書中に援用される。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1は、バインディングザイムを触媒活性酵素と対比したものである。左のパネルには、触媒活性ホスファターゼが固体支持体に結合されているのが示されている。ホスファターゼは、その基質(リン酸化ポリペプチド)に結合し、ホスフェート基を触媒作用により除去し、次いでポリペプチド及びホスフェート部分の双方を放出する。右のパネルには、バインディングザイムが固体支持体に結合しているのが示されている。バインディングザイムは、触媒作用が不活性であるが(例えば、活性部位においてセリン残基がシステイン残基に置換されることに因る)、ホスファターゼの特異的な結合活性(該結合活性は該ホスファターゼから得られたものである)を保持する。該バインディングザイムは基質を変化させることなく結合して保持し、それにより基質は、ホスファターゼにより結合されるよりも、安定的にバインディングザイムによって結合される。
【図2】図2は、2個の試料間のポリペプチド変動を測定するために、バインディングザイムのパネルを構築及び使用し、続いて情報を提供するバインディングザイムをハイスループット・スクリーニング・アッセイへと配置する、特定の実施態様を図示する。この図例では、エリスロポエチン(EPO)による培養細胞の処理から生ずるポリペプチド変動が検出される。パートAでは、コントロール培養物はEPOで処理しないのに対して実験用培養物はEPOで処理するという点を除いて同一である2つの細胞培養物を用いる。細胞を溶解し、そしてエンドプロテアーゼ、次いでプロテアーゼ阻害剤で処理してもよいし、処理しなくてもよい。パートBでは、コントロール・ライセートのアリコートをマルチウェルプレート(MWP)の各ウェル(各ウェルは、該ウェルに結合された異なるバインディングザイム(各々は異なるホスファターゼに由来する)を含んでいる)に添加し、実験用ライセートのアリコートを同一のMWPの各ウェルに添加する。結合が起こる時間後に、各ウェルを洗浄し、未結合の物質を除去する。パートCでは、保持されている物質を溶出し、MALDI-TOFMSによって検査する。暗くないウェル中のバインディングザイムではポリペプチド変動は見られず、それらは情報を提供しないバインディングザイムであることを実証している。しかしながら、暗くなっているウェル中のバインディングザイムは2つの試料間のポリペプチド変動を検出するので、該バインディングザイムは情報を提供するバインディングザイムとなる。パートDは、この図例で用いられている96個の異なるすべてのバインディングザイムの完全な比較を示しており、90個の暗くないウェルは情報を提供しないバインディングザイムを表し、6個の暗くなっているウェルは情報を提供するバインディングザイムを表している(検査した2つの試料についてのものである)。パートEでは、各ウェルは情報を提供する6個のバインディングザイムのうちの1以上を含んでいる。パートEで図示されている同一のMWPを化学化合物ライブラリーの細胞に基いたスクリーニングにおいて用いる。
【図3A】図3A〜3Dは、後述の実施態様でバインディングザイムを生成するために用いられる特定のホスファターゼについての特徴及び配列情報を表している。図3A〜3Dで同定される各ヌクレオチド配列は、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=Nucleotideのhttpアドレスにてアクセスできる。図3A〜3Dで説明されるパラメーターによって参照及びアクセスされる全てのヌクレオチド配列を本明細書中に援用する。該参照ヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列も本明細書に援用される。
【図3B】図3A〜3Dは、後述の実施態様でバインディングザイムを生成するために用いられる特定のホスファターゼについての特徴及び配列情報を表している。図3A〜3Dで同定される各ヌクレオチド配列は、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=Nucleotideのhttpアドレスにてアクセスできる。図3A〜3Dで説明されるパラメーターによって参照及びアクセスされる全てのヌクレオチド配列を本明細書中に援用する。該参照ヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列も本明細書に援用される。
【図3C】図3A〜3Dは、後述の実施態様でバインディングザイムを生成するために用いられる特定のホスファターゼについての特徴及び配列情報を表している。図3A〜3Dで同定される各ヌクレオチド配列は、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=Nucleotideのhttpアドレスにてアクセスできる。図3A〜3Dで説明されるパラメーターによって参照及びアクセスされる全てのヌクレオチド配列を本明細書中に援用する。該参照ヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列も本明細書に援用される。
【図3D】図3A〜3Dは、後述の実施態様でバインディングザイムを生成するために用いられる特定のホスファターゼについての特徴及び配列情報を表している。図3A〜3Dで同定される各ヌクレオチド配列は、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=Nucleotideのhttpアドレスにてアクセスできる。図3A〜3Dで説明されるパラメーターによって参照及びアクセスされる全てのヌクレオチド配列を本明細書中に援用する。該参照ヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列も本明細書に援用される。
【図4A】図4Aは、図3A〜3Dに記載するある種のホスファターゼのバインディングザイム対応物に関する情報を示している。例えば、対応する天然のタンパク質における特定の変異が特定のバインディングザイム用に示されており(「変異体1」及び「変異体2」の列を参照のこと)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)又はマルトース結合タンパク質(MBP)とのバインディングザイム融合タンパク質に対応する予測分子量が示されている(「MW融合タンパク質」の列を参照のこと)。図4Bは、ホスファターゼコード領域の生成に有用なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プライマー及び対応するバインディングザイムを生成するために用いられる突然変異誘発オリゴデオキシリボヌヌクレオチドを示している。図4Aで説明される1以上の変異とともに図3A〜3Dで説明されるパラメーターによって参照及びアクセスされるすべてのヌクレオチド配列を本明細書に援用する。そのようなヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列も本明細書に援用される。
【図4B】図4Aは、図3A〜3Dに記載するある種のホスファターゼのバインディングザイム対応物に関する情報を示している。例えば、対応する天然のタンパク質における特定の変異が特定のバインディングザイム用に示されており(「変異体1」及び「変異体2」の列を参照のこと)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)又はマルトース結合タンパク質(MBP)とのバインディングザイム融合タンパク質に対応する予測分子量が示されている(「MW融合タンパク質」の列を参照のこと)。図4Bは、ホスファターゼコード領域の生成に有用なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プライマー及び対応するバインディングザイムを生成するために用いられる突然変異誘発オリゴデオキシリボヌヌクレオチドを示している。図4Aで説明される1以上の変異とともに図3A〜3Dで説明されるパラメーターによって参照及びアクセスされるすべてのヌクレオチド配列を本明細書に援用する。そのようなヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列も本明細書に援用される。
【図5】図5は、バインディングザイムアレイの構築及び使用のために本明細書中に記載されている特定の実施態様を図示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個の生物試料間のポリペプチド変動を減少させる分子の同定方法であって、以下のステップ:
第1の系で、第1の生物試料を1以上の不活性化酵素と接触させ;
第2の系で、第2の生物試料を上記1以上の不活性化酵素及び1以上の試験分子と接触させ、ここで、該1以上の不活性化酵素は天然のポリペプチド基質又はその断片に結合することができ、かつ触媒作用を欠損しており、そして、1以上の該不活性化酵素は、上記2個の生物試料間のポリペプチド変動の存在を検出することができ;
上記第2の系で、上記1以上の不活性化酵素に結合されるポリペプチドに対応するシグナルを検出し、そして該シグナルを上記第1の系での対応するシグナルと比較し、それにより、該試験化合物が存在しない際における該シグナル間の相違と比較して、該シグナル間の相違を減少させる試験分子を、2個の生物試料間のポリペプチド変動を調節する分子として同定するステップ
を含む、前記方法。
【請求項2】
ポリペプチド変動を調節する前記分子が、前記第1の系から得られるシグナルと前記第2の系から得られるシグナルとの間の相違を無くす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記不活性化酵素が、天然の翻訳後修飾プロセスによりポリペプチドに付加できる修飾を含む天然のポリペプチド基質又はその断片上の結合部位に、結合することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記修飾がホスフェート部分、ユビキチン部分、又はアセチル部分である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記不活性化酵素が改変されたタンパク質ホスファターゼ、改変されたデユビキチナーゼ、改変されたデアセチラーゼ、又はそれらの機能性断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の系及び/又は第2の系が、前記1以上の試験分子の不存在下で前記2個の生物試料間のポリペプチド変動の存在を検出することができない1以上の不活性化酵素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
系がマイクロタイター・プレート中のウェルである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
1の生物試料を、別の生物試料と接触されていない1以上の物質と接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記1以上の物質が外来エリスロポエチン、外来TNF-アルファ、外来毒素、外来転移抑制分子、及び外来抗新生物分子からなる群から選ばれる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
1の生物試料が癌細胞を含み、そしてもう一方の生物試料は癌細胞を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記シグナルが、質量分析シグナルである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記シグナルが、MALDI-TOFシグナルである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
固体支持体に固定された2以上の不活性化酵素を含むアレイであって、ここで各々の不活性化酵素が天然のポリペプチド基質又はその断片に結合することができ、かつ触媒作用を欠損している、前記アレイ。
【請求項14】
1以上の前記不活性化酵素が、天然の翻訳後修飾プロセスによりポリペプチドに付加することができる修飾を含む前記天然のポリペプチド基質又はその断片上の結合部位に結合できる、請求項13に記載のアレイ。
【請求項15】
1以上の前記不活性化酵素が、2個の生物試料間のポリペプチド変動の存在を検出することができる、請求項13に記載のアレイ。
【請求項16】
1以上の前記不活性化酵素が、改変されたホスファターゼ、改変されたデユビキチナーゼ、改変されたデアセチラーゼ、又はそれらの機能性断片である、請求項13に記載のアレイ。
【請求項17】
前記固体支持体が、マイクロタイター・プレートである、請求項13に記載のアレイ。
【請求項18】
前記マイクロタイター・プレート中の1以上のウェルが、2個の生物試料間のポリペプチド変動の存在を検出することができる1以上の不活性化酵素を含む、請求項17に記載のアレイ。
【請求項19】
前記マイクロタイター・プレート中の1以上のウェルが、2個の生物試料間のポリペプチド変動の存在を検出することができない1以上の不活性化酵素を含む、請求項17に記載のアレイ。
【請求項20】
前記マイクロタイター・プレート中の1以上のウェルが、2個の生物試料間のポリペプチド変動の存在を検出することができる1以上の不活性化酵素、並びに2個の生物試料間のポリペプチド変動の存在を検出することができない1以上の不活性化酵素を含む、請求項17に記載のアレイ。
【請求項21】
5以上の不活性化酵素を含む、請求項13に記載のアレイ。
【請求項22】
請求項13に記載のアレイ及び質量分析計を含む、系。
【請求項23】
不活性化酵素アレイの構築方法であって、以下のステップ:
第1の系で、第1の生物試料を不活性化酵素と接触させ;
第2の系で、第2の生物試料を該不活性化酵素と接触させ、ここで、該不活性化酵素は天然のポリペプチド基質又はその断片に結合することができ、かつ触媒作用を欠損しており;
上記第1の系における上記不活性化酵素に結合するポリペプチドに対応するシグナルと、上記第2の系における該不活性化酵素に結合するポリペプチドに対応するシグナルとを検出し、そして比較し;
上記第1の系におけるシグナルと上記第2の系におけるシグナルとの間に相違がある不活性化酵素を、情報を提供する不活性化酵素として同定し、そして該シグナル間に検出できる相違がない不活性化酵素を、情報を提供しない不活性化酵素として同定し;そして
1以上の上記情報を提供する不活性化酵素をアレイ内に堆積させるステップ
を含む、前記方法。
【請求項24】
前記アレイが、5以上の不活性化酵素を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
1以上の情報を提供しない不活性化酵素を、前記アレイ内に堆積させるステップをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記アレイが5以上の不活性化酵素を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
情報を提供しない不活性化酵素を別々のアレイ内に堆積させるステップをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記別々のアレイが、5以上の不活性化酵素を含む、請求項27に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−512080(P2006−512080A)
【公表日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564940(P2004−564940)
【出願日】平成15年12月31日(2003.12.31)
【国際出願番号】PCT/US2003/041781
【国際公開番号】WO2004/061422
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(505250214)ロディ ファーマ,インコーポレイティド (1)
【Fターム(参考)】