説明

バスバー、及びバスバーの製造方法

【課題】プラス端子とマイナス端子とが互いに異種金属で形成されたバッテリに対して用いるバスバーとして、電気腐食を防止しつつ電気抵抗を抑えることができ且つ機械的強度にも優れたものにする。
【解決手段】本発明のバスバー1は、バッテリセル2のプラス端子5と同一金属で形成され当該プラス端子5と接続可能とされた正極接続部10と、バッテリセル2のマイナス端子6と同一金属で形成され当該マイナス端子6と接続可能とされた負極接続部11とが金属的結合によって一体に結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラス端子とマイナス端子とが互いに異種金属で形成されたバッテリに対し、好適に使用することのできるバスバー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッドカーなどに搭載するバッテリとして、複数のバッテリセルを、互いの正・負極間が直列接続となるようにバスバーで繋いで組電池に構成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような組電池は高出力、高エネルギー密度であることが特徴とされ、バッテリセルには殆どの場合、リチウムイオン電池が用いられている。リチウムイオン電池は、プラス端子がアルミニウム(Al)を素材として形成されており、マイナス端子が銅(Cu)を素材として形成されている。
【0003】
このようなバッテリセルの端子同士を繋ぐための部品として、バスバー(busbar、電気エネルギーの分配に使用される部品であり、ブスバーとも呼ぶ)がある。係るバスバーの製造方法としては、例えば、特許文献2の「発明が解決しようとする課題」に開示されているように、バスバーを構成する部材同士をレーザ溶接するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−373638号公報
【特許文献2】特開2003−163039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の如く、バッテリセル同士を直列で接続する場合、プラス端子であるアルミニウム製端子と、マイナス端子である銅製端子とをバスバーで繋ぐことになる。そのため、バスバーをアルミニウムによって形成することにしても、又は銅によって形成することにしても、必ず、バスバーと一方の端子との間は異種金属による接続をすることになる。
一般に、異種の金属同士を接続したときに空気中の水分による電気腐食(電気化学的腐食)が起こることは周知である。従って、この電気腐食の進行に伴い、バスバーと端子との間が通電しなくなったりバスバー自体又は端子自体が損壊したりすることが起こり、最終的には、電気自動車を始動できないといった重大問題に至る。
【0006】
なお、この問題の対策として、特許文献2のように、アルミニウム片と銅片とをレーザ溶接などにより接合してバスバーを製作することが提案されているものの、この方法で試作されたバスバーでは、レーザ溶接部分で二種の金属による共晶が発生し、これが原因で電気抵抗が過大となったり機械的強度(殊に脆性や引張強度)が著しく低下したりする欠点があって、とても実用に耐えるものとはならなかった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、プラス端子とマイナス端子とが互いに異種金属で形成されたバッテリに対して用いるバスバーであって、電気腐食を防止しつつ電気抵抗を抑えることができ且つ機械的強度にも優れた高性能・高信頼性を有するバスバーと、このバスバーの製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明に係るバスバーは、プラス端子とマイナス端子とが互いに異種金属で形成されたバッテリに対して用いる端子接続用のバスバーであって、前記バッテリのプラス端子と同一金属で形成され且つプラス端子と接続可能とされた正極接続部と、前記バッテリのマイナス端子と同一金属で形成され且つマイナス端子と接続可能とされた負極接続部とを有し、前記正極接続部と負極接続部とが金属的結合により一体化されていることを特徴とする。
【0009】
このバスバーであれば、バッテリのプラス端子に当該端子と同金属で形成された正極接続部を接続し、バッテリのマイナス端子に当該端子と同金属で形成された負極接続部を接続することで、端子接合部での電気腐食、それに伴う電気抵抗の増加が抑えられ、バッテリ接続用のバスバーとしての信頼性の向上を図れる。加えて、バスバーの正極接続部と負極接続部とは金属的結合により一体化されているため、この結合部分においても電気腐食、それに伴う電気抵抗の増加が発生することは無い。
【0010】
なお、「金属的結合」は、結合しようとする異種金属間が金属組織レベルで密着した結合界面を形成させ、その結果として導電性及び機械的結合強度を「バスバーとして実用に適する値」にまで高めた状態を言うものとする。
好ましくは、前記正極接続部は、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成され、前記負極接続部は、銅又は銅合金で形成されているとよい。
【0011】
一方、上述したバスバーを製造する際には、前記正極接続部を形成する金属元材と負極接続部を形成する金属元材とが面で接する状態となっている対面元材を用意し、高圧の静水圧環境下にて、前記対面元材をダイにより押出加工又は引抜加工する製造方法を採用することが不可欠である。
この製造方法を採用することで、正極接続部を形成する金属材と負極接続部を形成する金属材とが金属的結合して一体化し、バッテリのプラス端子とマイナス端子との間を好適に連結できるバスバーを製造することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プラス端子とマイナス端子とが互いに異種金属で形成されたバッテリに対して用いることができて、電気腐食を防止しつつ電気抵抗を抑えることができ且つ機械的強度にも優れた高性能・高信頼性を有するバスバーを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態のバスバーの使用態様を示した斜視図である。
【図2】第1実施形態のバスバーを示したものであって(A)は平面図であり(B)は正面図である。
【図3】本発明に係るバスバーを製造する過程を説明した斜視図である。
【図4】第2実施形態のバスバーを示したものであって(A)は平面図であり(B)は正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
[第1実施形態]
図1〜図3は、本発明に係るバスバー1の第1実施形態を示している。
図1に示す使用例から分かるように、このバスバー1は、複数のバッテリセル2を直列接続することで構成される組電池3において、バッテリセル2相互間でプラス端子5とマイナス端子6とを接続するために用いる。
【0015】
なお、各バッテリセル2はリチウムイオン電池であって、プラス端子5はアルミニウム又はアルミニウム合金により形成されており、外周面には雄ねじが形成されている。マイナス端子6は銅又は銅合金により形成されており、外周面には雄ねじが形成されている。
図2に示すように、バスバー1は、長方形の板状に形成されており、長辺側をほぼ二等分する中間位置を境として、その一方側に正極接続部10が設けられ、他方側に負極接続部11が設けられたものとなっている。バスバー1の寸法は、バッテリセル2相互の位置や流れる電流量などにより適宜変更可能であるが、例えば、長辺30〜70mm、短辺20〜60mm、厚さ1〜2mmである。
【0016】
バスバー1の正極接続部10と負極接続部11とは、互いに異なる金属により形成されている。正極接続部10は、バッテリセル2のプラス端子5と同一金属、すなわちアルミニウム又はアルミニウム合金を素材として形成されている。また、負極接続部11は、マイナス端子6と同一金属、すなわち銅又は銅合金を素材として形成されている。
バスバー1における正極接続部10と負極接続部11との境界は、正極接続部10の金属(Al)と負極接続部11の金属(Cu)とを超高圧下(例えば1000MPa程度)で且つ変形を付与するようにして、互いが金属組織レベルで密着した結合界面を形成させ、その結果として導電性及び機械的結合強度を「バスバーとして実用に適する値」にまで高めた状態とされている。
【0017】
さらに、図2に示すように、正極接続部10にはバッテリセル2のプラス端子5を差し込む接続孔12が短辺方向略中央部に設けられ、負極接続部11にはバッテリセル2のマイナス端子6を差し込む接続孔13が短辺方向略中央部に設けられている。
図1に示したように、これら各接続孔12にプラス端子5を差し込んだ状態で、突き抜けたプラス端子5に対しナット15を螺合させることで、プラス端子5と正極接続部10とが連結される。同様に、接続孔13にマイナス端子6を差し込んだ上で、マイナス端子6に対しナット15を螺合させ、マイナス端子6と負極接続部11とを連結する。
【0018】
なお、ナット15を螺合させた結合ではなく、プラス端子5と正極接続部10とを溶接すると共にマイナス端子6と負極接続部11とを溶接してもよい。つまり、バスバーの異種金属部をそれぞれの同種端子に直接溶接してもよい。
図3に示す如く、このような構成のバスバー1を製造するには、超高圧静水圧下における押出加工を行う。この加工に用いる押出装置20は、得ようとするバスバー1の長辺側断面形状(平面形状)に対応した単一開口のダイ21を具備したもので、超高圧(〜1000MPa程度)の等方圧環境下での押出成形が可能となっている。
【0019】
バスバー1の製造手順としては、まずバッテリセル2のプラス端子5と同一金属(アルミニウム又はアルミニウム合金)からなる正極用元材10A(金属元材)と、バッテリセル2のマイナス端子6と同一金属(銅又は銅合金)からなる負極用元材11A(金属元材)とを準備する。これら正極用元材10A及び負極用元材11Aは、例えばそれぞれ条材とされたものを長手方向に沿って張り合わせ、丸棒状のビレット(対面元材)として形成しておけばよい。
【0020】
次に、このビレットを、正極用元材10Aと負極用元材11Aとが互いに並行して押し出されるように、押出装置20へ装填する。
この状態で、押出装置20を超高圧の等方圧環境下にて作動させ、押出加工又は引抜作業を行い、正極用元材10Aと負極用元材11Aとが金属的結合して一体となった成形体1Aを成形する。
【0021】
図3(a)に示す如く、押出装置20のダイ21(ダイス)の開口面積はビレットの断面積より小さいため、ダイ21を通すことで、ビレットが全周的な圧縮を受けて塑性変形する。両素材10A,11Aの合わせ面は、ダイ21を出た後に正極接続部10と負極接続部11との結合界面(金属的結合部)を形成することになる。
このようにして得られた成形体1Aを、押出方向で所定間隔をおいて切り出す。切り出し後において、正極接続部10に接続孔12を設け、負極接続部11に接続孔13を設けてバスバー1を完成させる。必要に応じて表面研磨や表面処理などを行ってもよい。
【0022】
このようにして製造したバスバー1は、バッテリセル2のプラス端子5と同一金属の正極接続部10と、バッテリセル2のマイナス端子6と同一金属の負極接続部11とが金属的結合により一体形成された構成であるため、このバスバー1のいずれの部分(バッテリ端子との連結部分、及び正極接続部10と負極接続部11との結合面)であっても電気腐食が起こらず電気抵抗を抑えることができ、しかも機械的強度にも優れたものとなっている。
[第2実施形態]
図4は、本発明に係るバスバー1の第2実施形態を示している。
【0023】
第2実施形態のバスバー1では、正極接続部10と負極接続部11との結合界面(金属的結合部)を生じさせる部分に、側面視でクランク折れ形状の段差部25を形成させ、正極接続部10と負極接続部11との間に高低差を生じさせたものである。このような段差部25を形成させたバスバー1であれば、互いに高低差(又は横ズレ)を生じさせて配置されたバッテリセル2相互を、直に接続することができる。
【0024】
なお、段差部25において、正極接続部10と負極接続部11との間の高低差をどの程度の寸法にするかは、何ら限定されるものではない。また段差部25は、正極接続部10と負極接続6との結合界面に一致させて形成することが限定されるものではなく、正極接続部10側、又は負極接続部11側に位置ズレさせて形成することもできる。
更に、段差部25は、クランク折れによって形成することが限定されるものではなく、なめらかな曲線により、S字カーブを描くように形成してもよい。
【0025】
第2実施形態のバスバー1を製造する場合であっても、超高圧(〜1000MPa程度)の等方圧環境下での押出又は引抜成形を採用する。図3(b)に示すように、ダイ21の開口形状を、バスバー1の長辺側断面形状に対応させてクランク形状にしておけばよい。
その他の構成及び作用効果、製造方法は第1実施形態とほぼ同じであり、ここでの詳説は省略する。
【実施例】
【0026】
超高圧の等方圧環境下での押出又は引抜成形により製造した第1実施形態のバスバーの特性を、表1に示す。
比較対象としては、従来製造法の一つである摩擦攪拌法による接合を行って製造したバスバーと、従来製造法の一つであるレーザ溶接により接合を行って製造したバスバーとを例示する。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示すように、摩擦攪拌法による接合を行って製造したバスバーでは、電気伝導率が48.5%(片方撹拌)、49.0%(双方撹拌)となり、伝導率の値が悪いものとなっている。レーザ溶接により接合を行って製造したバスバーでは、電気伝導率が60.4%であって、摩擦攪拌法に比してよいものとなっている。それらに比べ、第1実施形態のバスバーでは、電気伝導率が66.1%と非常に高値となっており、複数のバッテリセル2での電力電送をロス無く高効率で行うことができる。
【0029】
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、正極接続部10と負極接続部11との結合界面(金属的結合部)は、バスバー1における長辺側の中央に配置することが限定されるものではなく、正極接続部10側、又は負極接続部11側に偏らせた配置としてもよい。
【0030】
また、本発明に係るバスバー1は、自動車搭載用のリチウムイオン電池を接続するに際し非常に好適であるが、他用途におけるリチウムイオン電池(バッテリ)の接続に用いても何ら問題はない。
【符号の説明】
【0031】
1 バスバー
1A 成形体
2 セル
3 組電池
5 正極端子
6 負極端子
10 正極接続部
10A 正極用元材
11 負極接続部
11A 負極用元材
12 接続孔
13 接続孔
15 ナット
20 押出装置
21 ダイ
25 段差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラス端子とマイナス端子とが互いに異種金属で形成されたバッテリに対して用いる端子接続用のバスバーであって、
前記バッテリのプラス端子と同一金属で形成され且つプラス端子と接続可能とされた正極接続部と、前記バッテリのマイナス端子と同一金属で形成され且つマイナス端子と接続可能とされた負極接続部とを有し、
前記正極接続部と負極接続部とが金属的結合により一体化されていることを特徴とするバスバー。
【請求項2】
前記正極接続部は、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成され、
前記負極接続部は、銅又は銅合金で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のバスバー。
【請求項3】
前記正極接続部を形成する金属元材と負極接続部を形成する金属元材とが面で接する状態となっている対面元材を用意し、
高圧の静水圧環境下にて、前記対面元材をダイにより押出加工又は引抜加工することで、請求項1又は2に記載されたバスバーを製造することを特徴とするバスバーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−210480(P2011−210480A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75915(P2010−75915)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(591081055)神鋼メタルプロダクツ株式会社 (17)
【Fターム(参考)】