説明

バタフライ弁およびシートリング

【課題】 楕円状のシール面を低コストで確実に形成することができるバタフライ弁を提供する。
【解決手段】流路11を備える弁箱10と、流路11内に配置された弁体20と、弁体20を回動可能に支持する弁軸30と、弁体20の閉鎖時に弁箱10の内周部と弁体20の外周部との間で流路11をシールするシートリング40とを備え、シートリング40が楕円状のシール面422aを形成するバタフライ弁1であって、シートリング40は、平面視楕円状の保持面を有する剛性材料からなる保持リング41と、シール面422aを形成する弾性材料からなる封止リング42とを備え、封止リング42は、保持面に沿うように弾性変形した状態で保持リング41に保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バタフライ弁およびこれに用いられるシートリングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のバタフライ弁として、弁体の回動軸となる弁軸の中心を、弁体とシートリングにより形成されるシール面から偏心(一次偏心)させると共に、弁体が収容される弁箱内の流路の中心からも偏心(二次偏心)させた、二重偏心構造の偏心バタフライ弁が知られている。このような二重偏心バタフライ弁は、弁体が閉位置まで回転した時に、弁体と弁箱との間に介在されるシートリングによって形成されるシール面が通常は真円状であるため、シートリングは樹脂やゴム等の弾性材料、或いは弾性を有する構成とした金属材料からなるものを使用して、良好なシール性を得ることができる。
【0003】
一方、上記の二重偏心構造に加えて、弁体の外周面を構成する円錐の中心線を弁箱の中心線に対して傾斜させることにより三次偏心させた、三重偏心構造のバタフライ弁も知られている。このような三重偏心バタフライ弁は、シートリングにより形成されるシール面が楕円状になる。また、三重偏心バタフライ弁は、高温、高圧流体に対応を要求されていた経緯から、例えば特許文献1に開示された三重偏心バタフライ弁には、金属板と膨張黒鉛とを交互に積層したシートリングが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−256150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の三重偏心バタフライ弁のようにシートリングを金属材料によって形成した場合、シール面が剛性のある金属同士の接触によって構成されるため、大きなシール面圧が必要になる。したがって、弁軸にかけるトルクが大きくなり、弁軸を太くする必要があると共に、この弁軸を駆動するアクチュエータにも高出力であることが要求され、コスト高になるおそれがあった。また、このような金属シールにより形成されるシール面が楕円状であるために、シートリングの向きが弁体に対して僅かにずれただけでシール性能が急激に悪化するおそれがあり、シートリングの組付作業に熟練を要していた。
【0006】
そこで、本発明は、楕円状のシール面を低コストで確実に形成することができるバタフライ弁およびシートリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の前記目的は、流路を備える弁箱と、前記流路内に配置された弁体と、前記弁体を回動可能に支持する弁軸と、前記弁体の閉鎖時に前記弁箱の内周部と前記弁体の外周部との間で前記流路をシールするシートリングとを備え、前記シートリングが楕円状のシール面を形成するバタフライ弁であって、前記シートリングは、平面視楕円状の保持面を有する剛性材料からなる保持リングと、前記シール面を形成する弾性材料からなる封止リングとを備え、前記封止リングは、前記保持面に沿うように弾性変形した状態で前記保持リングに保持されているバタフライ弁により達成される。
【0008】
また、本発明の前記目的は、流路を備える弁箱と、前記流路内に配置された弁体と、前記弁体を回動可能に支持する弁軸とを備えるバタフライ弁に対し、前記弁体の閉鎖時に前記弁箱の内周部と前記弁体の外周部との間で楕円状のシール面を形成して前記流路をシールするシートリングであって、平面視楕円状の保持面を有する剛性材料からなる保持リングと、前記シール面を形成する弾性材料からなる封止リングとを備え、前記封止リングは、前記保持面に沿うように弾性変形した状態で前記保持リングに保持されているシートリングにより達成される。
【0009】
前記シートリングは、前記封止リングが前記保持リングの内周面に沿って保持された構成にすることができ、前記弁箱の内周部に設けることが可能である。あるいは、前記シートリングを、前記封止リングが前記保持リングの外周面に沿って保持された構成にすることも可能であり、この場合は前記シートリングを弁体の外周部に設けることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、楕円状のシール面を低コストで確実に形成することができるバタフライ弁およびシートリングを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係るバタフライ弁の横断面図である。
【図2】図1に示すバタフライ弁のシートリングの平面図である。
【図3】図1に示すバタフライ弁の変形例を示す横断面図である。
【図4】図3に示すバタフライ弁のシートリングの拡大断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係るバタフライ弁の横断面図である。
【図6】図5に示すバタフライ弁のシートリングの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るバタフライ弁の横断面図である。図1に示すように、バタフライ弁1は、内部に円筒状の流路11が形成された弁箱10と、流路11内に配置された板状の弁体20と、弁体20を回動可能に支持する弁軸30と、弁箱10の内周面に設けられたシートリング40とを備えている。
【0013】
弁箱10は、内周面に段部12が形成されており、環状のリテーナ13と段部12との間にシートリング40が配置されている。リテーナ13は、弁箱10の内周面に固定された固定リング14に螺着された締付ネジ15により段部12に向けて押圧することができ、シートリング40を段部12との間で挟持して弁箱10の内周部10aに設けることができる。
【0014】
弁体20は、板状に形成されており、外周面22がシートリング40に当接して流路11を封鎖する。弁軸30は、一端側が弁箱10内に位置し、他端側が弁箱10外に位置するように弁箱10に挿通されており、一端側に弁体20がテーパピン21で固定されている。弁軸30の他端側はアクチュエータ(図示せず)に連結されており、アクチュエータの駆動により弁軸30と共に弁体20が矢示方向に回動し、流路11が開閉される。
【0015】
本実施形態のバタフライ弁1は、三重偏心構造を有している。すなわち、弁軸30の中心30aは、弁体20とシートリング40により形成されるシール面422aから流路11の中心線11Lに沿って距離E1だけ偏心しており、更に、流路11の中心線11Lから直交方向に距離E2だけ偏心している。更に、弁体20の外周面22は、流路11の中心線11Lから角度E3だけ傾斜した中心線22aを有する仮想円錐の外周面22bの一部によって形成されており、流路11の中心線11Lに沿って見たときに楕円形状を有している。
【0016】
シートリング40は、剛性材料からなる保持リング41と、弾性材料からなる封止リング42とを備えており、保持リング41に封止リング42が保持されている。
【0017】
図2は、シートリング40の平面図である。図1および図2に示すように、保持リング41の外周面411は、弁箱10の内周面のうち、円形に旋削された箇所に保持されるように、真円状に形成されている一方、保持リング41の内周面412は、弁体20の楕円形状の外周面22と略同じ扁平率を有する平面視楕円状に形成されている。また、封止リング42は、保持リング41に保持される前の状態では、外周面421および内周面422のいずれも真円状に形成されており、保持リング41の内周長さよりも若干大きい外周長さを有している。この封止リング42は、保持リング41の内周面412に装着することにより、外周面421が保持リング41の内周面412に沿うように弾性圧縮変形し、保持リング41に確実に装着されると共に、封止リング42の内周面422が平面視楕円状となっている。封止リング42の保持面となる保持リング41の内周面412は、本実施形態では高さ方向で断面形状を一定としているが、必ずしも一定である必要はない。
【0018】
保持リング41は、封止リング42の弾性変形を促しつつ確実に保持すると共に、楕円状の内周面をレーザ加工等により容易に形成できるように、例えばステンレスやアルミニウム等の金属材料により形成することができる。一方、封止リング42は、外周面421および内周面422のいずれも真円状であることから、例えば従来の二重偏心バタフライ弁で使用されるシートリングと同様に、樹脂製やゴム製のものを使用することができる。
【0019】
図1に示すように、封止リング42の内周面422は、閉位置にある弁体20の外周面22と全体にわたって接触し、この接触部分からなるシール面422aを形成する。シール面422aは、流路11の中心線11Lに沿って見たときに、弁体20の外周面22と同様に楕円形状を有している。
【0020】
上記の構成を備えるバタフライ弁1は、弁箱10の開口両端面にそれぞれフランジ管(図示せず)のフランジ端面を当接させることができ、フランジ同士をボルト等で締結することにより、弁箱10の流路11をフランジ管の流路と連通させることができる。但し、弁箱10と管との接続方式はこのようなウエハー型に限定されるものではなく、ラグタイプ、フランジ形、突合せ溶接形など他の方式であってもよい。流路11内の流体の流れFは、本実施形態では弁体20に対して弁軸30が配置された側を下流側としているが、弁軸30側を上流側とすることもできる。
【0021】
本実施形態のシートリング40は、封止リング42を保持リング41の内周面412に保持する構成とすることによって、弁体20の外周面22との間に形成される楕円状のシール面422aを、弾性材料からなる封止リング42により容易に形成することができ、金属製のシートリングにより形成されるシール面と比較して必要なシール面圧を小さくすることができる。したがって、シール面の摺動を抑制して長寿命化を図ることができるという三重偏心バタフライ弁の効果を良好に維持しつつ、組付時に弁体20およびシートリング40の楕円の向きに若干のずれが生じた場合でも確実にシールすることができると共に、細い弁軸30や低出力のアクチュエータを用いて低トルクでシールすることができ、製造コストの低減を図ることができる。
【0022】
シートリング40の構成は、本実施形態のものに限定されず、例えば図3に示すように、封止リング42の端面に環状の溝部423を形成してもよい。このように構成されたシートリング40は、溝部423がリテーナ13と対向するように弁箱10内に配置されており、図4に拡大断面図で示すように、封止リング42に設けた溝部423より内径部の高さH1を、保持リングの高さH2よりも若干低く形成することで、流体流れFの方向に流体圧力が作用した際、封止リング42における溝部423の内部に圧力が作用し、シール面422aを内径方向へ変形させるため、シール面圧を容易に確保することができる。封止リング42は、上記のように保持リング41への装着前は真円状に形成されているため、封止リング42に対して環状の溝部423を同心状に容易に形成することができる。更に、図3に示すように、溝部423と連通する連通孔131をリテーナ13に形成してもよい。このような構成においては、封止リング42のリテーナ13側の端面のうち、溝部423よりも内径側の面425がリテーナ13と密着した場合でも、流体流れFの方向に圧力が作用した際、確実に溝部423内に流体圧を作用させることができ、シール面圧を良好に維持することができる。
【0023】
また、図3および図4に示すように、封止リング42の内周面422に、内方に突出する環状のリップ424を設けてもよく、リップ424が弁体20の外周面に接触してシール面424aを形成するように構成してもよい。この構成によれば、シール面424aでの接触を馴染み易くすることができ、安定したシール性能を得ることができる。リップ424の断面形状は、本実施形態では円弧状としているが、角状等とすることもできる。
【0024】
図3および図4に示すシートリング40は、封止リング42の端面に溝部423を有すると共に、内周面422にリップ424を備えているが、溝部423またはリップ424のいずれか一方のみを採用した構成にすることもできる。
【0025】
上記各実施形態のシートリング40は、保持リング41において封止リング42を保持する保持面を、保持リング41の内周面412としているが、図5および図6に示すように、保持リング141の外周面1411が封止リング142の保持面となるように、保持リング141に封止リング142を外嵌してシートリング140を構成してもよい。このシートリング140は、剛性材料からなる保持リング141の外周面1411が楕円形状を有する一方、内周面1412は真円状に形成されて、弁体120に形成された円筒状の突部123に装着される。また、弾性材料からなる封止リング142は、保持リング141に保持される前の状態では、外周面1421および内周面1422のいずれも真円状に形成されており、保持リング141への装着により封止リング142が弾性伸長変形し、封止リング142の外周面1421が、流路11の中心線に沿って見たときに楕円形状を有している。
【0026】
このような構成を備えるシートリング140は、弁体120の外周部とリテーナ130との間に挟持して、取付ネジ115により弁体120の外周部に設けることができる。図5に示すバタフライ弁101は、弁箱10の内周面に形成された段部12に、Oリング151を介して弁座リング150が配置されており、固定リング14に螺着された固定ネジ152により、弁箱10の内周部10aに弁座リング150が固定されている。弁座リング150の内周面1501は、図1に示す弁体20の外周面22と同様に、傾斜した仮想円錐の外周面の一部を構成するように形成されており、流路11の中心線に沿って見たときに楕円形状を有している。なお、図5において、図1と同様の構成部分には同一の符号を付している。
【0027】
図5に示すバタフライ弁101も、図1に示すバタフライ弁1と同様に三重偏心構造を有しており、シートリング140における封止リング142の外周面1421が、弁座リング150の内周面1501と接触して楕円状のシール面1421aを形成する。この結果、図1のバタフライ弁101と同様に、楕円状のシール面1421aを低コストで確実に形成できるという効果を奏する。バタフライ弁101には、図3に示す構成と同様に、封止リング142の端面に環状の溝部を形成してもよく、あるいは、外周面1421に設けた環状のリップによりシール面1421aを形成してもよい。
【0028】
本発明のシートリングは、上記のように三重偏心バタフライ弁に好適に使用されるが、必ずしもこの用途に限定されるものではなく、シートリングが楕円状のシール面を形成する他のバタフライ弁にも適用可能であり、例えば、三次偏心によるシール面を有する一方で一次偏心または二次偏心を有しない構成や、楕円板状の弁体を備える構成のバタフライ弁にも使用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 バタフライ弁
10 弁箱
11 流路
20 弁体
30 弁軸
40 シートリング
41 保持リング
42 封止リング
422a シール面
423 溝部
424 リップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路を備える弁箱と、前記流路内に配置された弁体と、前記弁体を回動可能に支持する弁軸と、前記弁体の閉鎖時に前記弁箱の内周部と前記弁体の外周部との間で前記流路をシールするシートリングとを備え、前記シートリングが楕円状のシール面を形成するバタフライ弁であって、
前記シートリングは、平面視楕円状の保持面を有する剛性材料からなる保持リングと、前記シール面を形成する弾性材料からなる封止リングとを備え、
前記封止リングは、前記保持面に沿うように弾性変形した状態で前記保持リングに保持されているバタフライ弁。
【請求項2】
前記シートリングは、前記封止リングが前記保持リングの内周面に沿って保持されており、前記弁箱の内周部に設けられている請求項1に記載のバタフライ弁。
【請求項3】
前記シートリングは、前記封止リングが前記保持リングの外周面に沿って保持されており、前記弁体の外周部に設けられている請求項1に記載のバタフライ弁。
【請求項4】
前記シートリングを前記弁箱の内周部または前記弁体の外周部に押圧保持するリテーナを更に備え、
前記封止リングは、端面に環状の溝部が形成されている請求項2または3に記載のバタフライ弁。
【請求項5】
前記シール面は、前記封止リングに設けられた環状のリップにより形成される請求項1から4のいずれかに記載のバタフライ弁。
【請求項6】
流路を備える弁箱と、前記流路内に配置された弁体と、前記弁体を回動可能に支持する弁軸とを備えるバタフライ弁に対し、前記弁体の閉鎖時に前記弁箱の内周部と前記弁体の外周部との間で楕円状のシール面を形成して前記流路をシールするシートリングであって、
平面視楕円状の保持面を有する剛性材料からなる保持リングと、前記シール面を形成する弾性材料からなる封止リングとを備え、
前記封止リングは、前記保持面に沿うように弾性変形した状態で前記保持リングに保持されているシートリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−107716(P2012−107716A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257784(P2010−257784)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000143972)株式会社ササクラ (138)
【Fターム(参考)】