説明

バタフライ弁

【課題】内部構造が複雑化したり全体が大型化することを防ぎつつ、操作トルクの上昇を抑えて優れた動作性能とシール性とを維持し、耐久性に優れた製作容易なバタフライ弁を提供する。
【解決手段】筒形ボデー2の内周面2aに装着したシートリング3内に円板状ジスク4をステム5、6を介して回転自在に設けたバタフライ弁である。このバタフライ弁は、ボデー2の軸装筒7内に装入したステム5に大径部8と小径部9とから成る段差部10が形成され、この段差部10の小径部外周9aと軸装筒内周7aとの間に、内外周に装着したシールリング18を介してシール接触するシール筒部15とこのシール筒部15の外周側下面15cより一体に垂下形成した軸受筒部16とからなる軸受け本体11が装着されていると共に、軸受筒部16と大径部8との間にステム5を支持する上ベアリング21が介在され、かつ、ジスク4側の大径部にも下ベアリング22が装着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バタフライ弁に関し、特に、弁体を回転させるステムがベアリングを介して摺動する構造のバタフライ弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、バタフライ弁においてボデー内のゴム製シートリング内にステムを介して円板状の弁体を回動自在に作動させる際には、ベアリングを介してステムを装着し、このステムを摺動状態で回動させる場合が通常である。このようなベアリングを介したステムの装着構造としては、いわゆる、ステム巻付けタイプ、ボデー直付け(挿入)タイプ、グランドタイプと呼ばれる3つのタイプが知られている。
【0003】
ステム巻付けタイプのベアリングとしては、例えば、特許文献1のバタフライバルブに用いられる軸受が知られている。同文献1における軸受は、弁棒に形成された段部に配設された状態でボデーに挿入されている。このような軸受には通常切れ込み(スリット)が設けられ、軸受は、このスリットにより径が広げられたり狭められたりしながら弁棒の段部に巻付けられた状態で装着される。
直付けタイプのベアリングとしては、例えば、特許文献2のバルブの軸受装置に用いられる軸受部材が知られている。この軸受部材は、ボデーに形成された段部に圧入して直付け装着され、ステムは、この一方の軸受から開口部を通り、他方の軸受とにより2ヵ所で支持されている。
グランドタイプは、ボデーの上方側からステム挿入孔に取付けられ、このグランドタイプとして、例えば、軸受け本体にステム軸受け用の軸受部材、シール用のOリングが装着されたものがある。この場合、軸受部材、Oリングが軸受け本体におけるステムの軸方向に対して交差方向に水平状態で配設される。
また、グランドタイプのその他の構造として、例えば、特許文献3の弁の軸封装置で用いられる軸封手段が知られている。この軸封手段は、円板状の金属板の一面に弾性密封板が定着された構造を成し、金属板で弁棒を軸受けし、弾性密封板で弁棒やボデー本体をシールするようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−170348号公報
【特許文献2】特開2002−130490号公報
【特許文献3】実公平2−44145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のようなステム巻付けタイプのベアリングにおいては、全閉状態のジスクに流体圧が加わるとステムが傾いたり流路方向に移動し、ベアリング端面に局部的にステムからの荷重がかかることになり、この薄肉状ベアリングが樹脂層を有する場合にクリープが生じてステムがボデーハウジングに直に接触して低い操作トルクを維持することが困難になる。更に、かじりが発生したり、ステムやボデーの摩耗、変形が増加するとステムの傾きが増加してこのステムとジスク近傍のベアリングの接触がより局部的な状態になるために摩耗が増え、操作トルクの上昇やOリングのシール性も含めた耐久性の低下に繋がることになる。このため、特に、バルブを高頻度で使用し、流体が弁体とシートリングとの常時の接触部位であるシートリングの天地シール部位が摩耗しベアリング装着側に漏れると、3次シールとしてOリングのシール性を維持できなくなることがあり、その結果、流体が外部に漏れるおそれが生じる。更に、このベアリングには、ステムに巻き付ける際に径を広げたり狭めたりするためのスリットがあり、径方向に変形可能にするためにベアリングを薄肉にしたり、使用する材料にも制約がある。
【0006】
特許文献2のような直付けタイプのベアリングの場合には、流体圧により上側のステムと軸装筒部分に反りが発生する。このとき、両者の反りが異なるため、上側ステムが軸装筒に圧入固定されているベアリングと局部的に接触する。従って、ベアリングが局部摩擦を生じ、耐久性が劣ったり、圧入によるトルクの上昇が顕著に現れてくる。このように、同文献2においてステムと軸装筒の反りの違いが軸方向のズレを生じると、ベアリングにスラスト荷重が生じて2つの層を持ったベアリングにズレが生じるおそれがある。また、このベアリングが装着されたバルブは、その構造上ベアリングよりも上部側にダストシール部分が設けられていないため、屋外に設置したときに雨水などの水分がバルブ内部に浸入してベアリングが腐食するおそれもある。これらのことから、バルブの動作性能の低下やシール性の悪化に繋がることがある。
【0007】
Oリングが装着されたグランドタイプの軸受け本体を用いた場合、軸受部材とOリングとが水平方向に並列して配置されているため、全体の肉厚を増し、靱性のある材料を用いて製作する必要がある。この軸受け本体ではバルブボデー側における装着用の穴部を大きく形成する必要があることから、首部の外径が大きくなって全体が大型化していた。しかも、軸受け本体の外径を小さくし、ボデーの軸受け本体用の挿入穴及びボデー首部を小さくするために軸受部材をステムの縮径部分に配置することが多いため、この軸受部材と弁体付近に配設されるベアリングとの共通化を図ることが難しくなったり、このベアリングの径が限定されてステムの外径寸法の設定に制約が生じたりすることがある。
特許文献3においては、円板状の金属板に弾性密封体が定着された構造の軸封装置を用いていることにより、ボデー首部の外径が大きくなってバルブ全体が大型化していた。更に、この軸封装置によってボデー首部の取付け用フランジも大径になるため、取付けできる外部の駆動手段が限られる場合がある。
【0008】
本発明は、上記の課題点を解決するために開発したものであり、その目的とするところは、内部構造が複雑化したり全体が大型化することを防ぎつつ、操作トルクの上昇を抑えて優れた動作性能とシール性とを維持し、耐久性に優れた製作容易なバタフライ弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、筒形ボデーの内周面に装着したシートリング内に円板状ジスクをステムを介して回転自在に設けたバタフライ弁において、ボデーの軸装筒内に装入したステムに大径部と小径部とから成る段差部位を形成し、この段差部位の小径部外周と軸装筒内周との間に、内外周に装着したシールリングを介してシール接触するシール筒部とこのシール筒部の外周側下面より一体に垂下形成した軸受筒部とからなる軸受け本体を装着すると共に、軸受筒部と大径部との間にステムを支持する上ベアリングを介在させ、かつ、ジスク側の大径部にも下ベアリングを装着したバタフライ弁である。
【0010】
請求項2に係る発明は、シール筒部の内周面と小径部外周面との間に所定の隙間を設け、かつ、シール筒部の内外周に装着したシールリングを小径部外周と軸装筒内周にシール接触させたバタフライ弁である。
【0011】
請求項3に係る発明は、シール筒部の内外周に装着した2つのシールリングをステムの軸方向に対して交差方向に水平状態に配設したバタフライ弁である。
【0012】
請求項4に係る発明は、シール筒部の下面とステムの段差部位上面との間に所定の隙間を設け、かつ、上ベアリングの上端部をシール筒部の下面に当接させたバタフライ弁である。
【0013】
請求項5に係る発明は、軸受け本体の上端位置の軸装筒内周にC型止め輪を装着し、この止め輪により、軸受け本体を介してステムの飛び出しを防止したバタフライ弁である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によると、シールリングを内外周に装着したシール筒部と軸受筒部とからなる軸受け本体を用いてその肉厚を薄く形成して内部構造が複雑化や全体が大型化したりすることを防ぎつつバタフライ弁を構成でき、軸受け本体内に上ベアリングを介在させた状態で、この上ベアリングと下ベアリングとによってステムを支持することで操作トルクの上昇を抑えて優れた動作性能とシール性とを維持し、耐久性を向上させることが可能になる。部品点数が少ないため製作も容易であり、軸受け本体をボデーに組み込んだステムの上方側より着脱できるため、組立て・分解も容易である。更に、軸受け本体のシール筒部に挿着されたシールリングにより内部に水分等が浸入することを防ぐことができ、優れたダストシール性を発揮できる。
【0015】
請求項2に係る発明によると、シール筒部の内周面と小径部外周面との間に所定の隙間を設けているので、これらが接触して摩耗することを防いでシール筒部の摩耗によるシール性の低下を防ぎつつ、ボデーと軸受け本体との接触部分を長期間に亘って一定の精度に保つことができる。このため、長期の使用後にも操作トルクの変化を抑えて安定した操作性を維持でき、特に、高圧の場合や、バルブ口径が大きくなるにつれてこの効果をより顕著に発揮でき、この軸受け本体を介して加圧時の操作トルクを長期に渡って低く維持できる。
【0016】
請求項3に係る発明によると、シール筒部のステムの軸方向の長さを抑えて軸受け本体の全長を短くしてコンパクト化を図ることができ、この軸受け本体の装着部分である軸装筒の外径の大径化を防いでバルブ全体を小型化することが可能になる。このように、軸受け本体の全長を短くできることでボデー内での隙間を利用して軸受け本体が傾くときの角度を増加させることができ、流体圧によって傾いたり移動しようとするステムの動作に軸受け本体を同調させて常に軸受け本体にステムを大きい接触面積で接触できる。これにより、ステムがベアリングに対して円滑に摺動して低トルク化を図ることが可能になり、特に、流体圧がより高圧であったり、バルブの口径が大きい場合にその効果をより高めることができる。
【0017】
請求項4に係る発明によると、操作時にステムの段差部位上面とシール筒部の下面とが接触して摩耗することを防ぎ、シール筒部の下面に上端部が当接された状態の上ベアリングでステムを支持することで、ステムのガタつきを防いで安定状態で回転させて耐久性を高めることができる。このため、優れた操作トルク性やシール性を維持することが可能になる。
【0018】
請求項5に係る発明によると、C型止め輪を介してステムの飛び出しを防止でき、この止め輪により軸受け本体の上端側を押えることでステムの摩耗や破損を防止して耐久性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明におけるバタフライ弁の好ましい実施形態を示す一部切欠き側面図である。
【図2】図1の一部切欠き正面図である。
【図3】図1の要部拡大断面図である。
【図4】段差部位付近を示す一部拡大断面図である。
【図5】流体圧力に対する操作トルクの測定結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明におけるバタフライ弁の弁体の好ましい実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1においては本発明におけるバタフライ弁の一部切欠き側面図、図2においては図1の一部切欠き正面図、図3においては図1の要部拡大断面図を示している。
【0021】
図1〜図3に示すように、本発明におけるバタフライ弁1は、筒形ボデー2を有し、このボデー2にシートリング(ゴムシート)3、円板状ジスク4、上ステム5、下ステム6が設けられている。シートリング3のジスク4との接触面3aは断面フラット状であり、ジスク4回転時のトルク上昇を防ぐようになっている。このシートリング3は、ボデー2の内周面2aに装着され、このシートリング3内に上下ステム5、6を介してジスク4が回転自在に装着されている。上ステム5は、ボデー2に形成された軸装筒7内に装入されており、その上端側において大径部8と小径部9とから成る段差部10が形成され、この段差部10における小径部9の外周9aと軸装筒7の内周7aとの間には、軸受け本体11が装着されている。一方、下ステム6は、ボデー2の下部に形成された装着穴12からジスク4に圧入のベアリング部材27を介して嵌入されている。ジスク4は、その内部に形成された略角形状の嵌入孔4aに上ステム5の角部5aが嵌合されてシートリング3内に装着されている。本実施形態においては、2分割した上下ステム5、6によりジスク4を装着している。上ステム5の小径部9には、図示しない駆動部が取付け可能になっている。
【0022】
軸受け本体11は、シール筒部15と軸受筒部16とからなり、シール筒部15は、略環状に形成され、その内外周にそれぞれ装着溝17、17が形成され、この装着溝17にシールリング(Oリング)18が装着されている。軸受筒部16は、シール筒部15の外周面15aの下面より、このシール筒部15に一体に垂下形成される。軸受筒部16は、少なくとも上ステム5の段差部10付近を後述する上ベアリング21で支持すればよく、軸方向に極力短く形成されていることが望ましい。
【0023】
一方において、ボデー2には小径部外周9aと軸装筒外周7bとの間の径の所定寸法の貫通穴19が形成され、この貫通穴19は、大径部8の外周8aの径よりも大径に形成されている。貫通穴19の上端側には、軸受け本体11の外径と略同径であって、貫通穴19よりも拡径した軸装穴20が形成されている。軸受け本体11は、上下ステム5、6によりジスク4を装着した後に軸装筒7の上方側より軸装穴20に装着可能であり、ボデー2や上ステム5に予め組み込む必要がない。軸受け本体11は、軸受筒部16下面の当接面16aが軸装穴20の略環状の係止面20aに当接係止することで、上ステム5の所定位置に位置決め配置される。これにより、シールリング18が上ステム5と軸装筒7との間の適切な位置にシール可能になっている。
【0024】
その際、軸受筒部16と大径部8との間には、上ステム5を支持するための上ベアリング21、下ベアリング22が介在され、かつ、下ステム6側にベアリング部材27が装着されている。上下ベアリング21、22、及びベアリング部材27は、例えば、バックメタル付き四フッ化エチレン樹脂により複層構造に設けられている。これらのベアリング21、22、27は軸方向におけるジスク4側に装着されており、このベアリング21、22、27により上下ステム5、6による回転時の摺動抵抗が抑えられる。上ベアリング21は、より長い部位である軸受筒部16とシール筒部15との組み合わせにより支えられているため、この上ベアリング21により軸受け本体11がせん断破壊されることが防止される。上ベアリング21と下ベアリング22は、その内外径寸法が同一であり、それぞれ軸受筒部16の内周や、ボデー2の貫通穴20の内周に圧入されている。
【0025】
図3、図4において、前記のシール筒部15は、シールリング18装着部位の上側において、その内径が小径部9よりもやや大径に形成され、外径が軸装穴20の内径よりもやや小径に形成されている。そのため、軸受け本体11の装着時には、シール筒部15の内周面15bと小径部外周9aとの間に所定の隙間G、シール筒部15のシールリング18装着部位付近の上端外周面15dと軸装穴内周面20bとの間に所定の隙間Gがそれぞれ形成される。この隙間G、Gにより、シール筒部15の内外周部位が小径部外周9a、軸装穴内周面20bに接触しにくくなり、軸受け本体11は、軸受筒部16付近の外周面11aのみがボデー2に接触した状態となり、シール筒部15の内外周に装着されたシールリング18、18が小径部外周9aと軸装筒内周7aにシール接触する。なお、隙間Gは必要に応じて設ければよく、少なくとも隙間Gを設けておけばよい。
【0026】
前記したシール筒部15の装着溝17は、上下ステム5、6の軸方向に対して交差方向に水平状態に形成されている。これにより、シール筒部15の内外周面15a、15bに装着された2つのシールリング18、18が水平状態に配設されるため、シール筒部15の軸方向の長さが短くなり、軸受け本体11のコンパクト化が可能になっている。これらのシールリング18、18により、いわゆる、三次シールと呼ばれるシール部位が軸受け本体11と上ステム5・軸装筒7との間に形成されてこの部分に流体の外部への漏洩防止を防ぐシール機能となる密封箇所が形成される。なお、便宜上、ジスク4とシートリング3との間に生じるシール機能を分けるとすると、一次シールと呼ばれる密封箇所がシートリング3の球面形受け座23に形成され、二次シールと呼ばれる密封箇所がこのシートリング3のステム穴24、23と上下ステム5、6との間に形成され、これらの一次、二次シール部位と、上記した三次シールがバタフライ弁に形成される。バタフライ弁は、これらの一次〜三次シールによりステム軸装部分からの漏れが防がれるようになっている。
【0027】
図4において、軸受け本体11の装着後には、シール筒部15の下面15cと上ステム5の段差部上面10aとの間に所定の隙間Hが形成され、かつ、上ベアリング21は、その上端部21aがシール筒部15の下面15cに当接した状態で軸受け本体11内に圧入固着されている。この上ベアリング21は、ステム大径部8の外径を支持可能な内径に形成され、下ベアリング22との部品共通化が図られている。
【0028】
軸受け本体11の上端位置の軸装筒7内周には拡径凹状の取付溝25が形成され、この取付溝25にはC型止め輪26が装着されている。この止め輪26の下面26aに軸受け本体11が係止可能になっており、このこととシール筒部下面15cに段差部上面10aが係止可能であることにより、止め輪26によって軸受け本体11を介して上ステム5の飛び出しを防止している。
この軸受け本体11の取付け構造により、仮に、一次シールや、一次シールと二次シールとが損なわれてジスク内部に流体が入り込み、その内圧で上ステム5を外部に押し出そうとする現象が発生した場合でも上ステム5の飛び出しを確実に防止できる。
【0029】
軸受け本体11を上述した構造に設けることにより、バタフライ弁1の軸受けの機能として要求される、「シール性」、「軸受け」、「飛び出し防止」をこの軸受け本体11において機能別にシール筒部15のシールリング18、軸受筒部16の上ベアリング21、シール筒部15と軸受筒部16との間にそれぞれ独立して配置させている。この配置としては、軸受け本体11の駆動部側から、ジスク4側に向かって、(1)シール機能が設けられ、続いて、(2)飛び出し防止機能と(3)軸受け(ベアリング)機能とが並列して配置されている。このように各機能を独立して発揮できるように各部位を配置することにより、その機能を発揮しつつ軸受け本体11をステムの軸装方向により短く形成して軸受け本体11全体のコンパクトを図ることが可能になる。
【0030】
なお、ステム小径部9に取付けられる図示しない駆動部としては、例えば、内部にギア機構を備え、ハンドルにより手動操作可能な手動駆動部や、自動アクチュエータからなる自動駆動部などの適宜のものを使用できる。
【0031】
続いて、上記したバタフライ弁を操作するときの操作トルクについて説明する。
先ず、本発明のバタフライ弁を含む一般的な中心形バタフライ弁の操作トルクについて述べる。この場合の操作トルクには、シートリング3とジスク4とにより生じるトルク(以降、シートトルクという)と、軸受け本体11(上ベアリング21も含む)と下ベアリング22及びベアリング部材27、装着穴12と、上下ステム5、6との接触により生じるトルク(以降、ベアリングトルクという)とがあり、中心形バタフライ弁の操作トルクは、これらを合算したものである。すなわち、バルブ操作トルク=シートトルク+ベアリングトルクである。更に、シートトルクは、ジスク弁翼部位と天地球面部に分けられる。
【0032】
バタフライ弁の内部に流体圧力により負荷が加わる場合、シートトルクは、ジスク弁翼部位では流体圧力の上昇によりジスク4とシートリング3とが2次方向に押し出されてこのシートリング3が2次側に寄る変形(「シートリングの寄り」という)が生じ、かつ、流体の加圧によってジスク4の外周が2次側に反る変形(「ジスクの反り)という)が生じる。これらの「シートリングの寄り」、「ジスクの反り」は、流体圧力が高いほどより大きくなるため、シートリング3の潰し量は減少することになる。このことから、ジスク4の弁翼部位によるシートトルクは、流体圧力が加わったときに流体圧力の上昇に伴って減少することになる。
【0033】
球面受け座23に生じるシートトルクは、天地球面部のトルクであるが、ジスク4が球面受け座23に常時接触して流体からの影響を受け易い構造であることから、上下ステム5、6とシートリング3のステム穴24とのシール部分にこれを含めて考えるものとする。球面受け座23と、上下ステム5、6とシートリング3のステム穴24とのシール部分におけるシートトルクは、バタフライ弁1の内部に流体圧力が加わってジスク4が水平方向に移動又は傾いたときにシートリング3の潰し量の変化はあるもののその変化量は微小であり、また、ステム軸装部中心からの距離(モーメントの距離)も小さくなるため、流体圧の変化によるトルク変化はほとんど見られない。
【0034】
ベアリングトルクは、ジスク4に加わった流体圧力が荷重として上下ステム5、6に伝達され、それをベアリング21、22、27で受けながらバルブを回転させるときに生じるトルクである。この流体圧力により上下ベアリング21、22を保持している軸装筒7は、上下ベアリング21、22から受ける荷重により反りを生じる。このとき、ベアリング−上ステム間と、軸受け本体−上ステム間、及びベアリング−下ステム間で発生する滑り摩擦によるトルクがベアリングトルクとなる。すなわち、ベアリングトルク=上下ベアリング滑りトルク+上ステム/ボデー反り回転トルク+ベアリング部材滑りトルク+下ステム/ジスク反り回転トルクになる。
【0035】
バタフライ弁1の内部に負荷が加わると、上ステム5やボデー2に反りが生じ、上ベアリング21も上ステム5の倒れにより大きな負荷を受ける。このため、ベアリングトルクは、流体圧力の上昇とともに大きくなる。
この場合、流体圧力が低圧である場合と高圧である場合とでは、そのトルク上昇時の勾配が異なる。
【0036】
流体圧力が低圧であると、上ステム5の傾きに対し軸装筒7の反りが小さく、下ベアリング22の装着側では上ステム5の傾きによって生じる接触部位がジスク側端部のみの局所的な接触になるため、高い面圧が生じて流体圧力が低い割には発生するトルクが大きくなる。軸受け本体11側においては、この軸受け本体11がボデー2と別体であるため、上ステム5の傾きに沿って軸受け本体11(上ベアリング21)の上下部位が上ステム5に面接触状態に近い状態で接触し、このため、面圧が低くなって上ベアリング付近のトルクも小さくなる。
【0037】
流体圧力が高圧であると、上ステム5から受ける荷重で軸装筒7の反りが大きくなるため、下ベアリング22の装着側では上ステム5との接触が上下で面接触に近い状態になる。このように下ベアリング22と上ステム5とが広範囲で荷重が分散して接触するため、面圧が低くなって流体圧力が高い割には発生するトルクは小さくなる。軸受け本体11側においては、上ステム5の傾きに沿ってこの軸受け本体11の上下部位が上ステム5に面接触に近い状態で接触し、面圧が低くなってトルクが小さくなる。これらのことから、高圧時のベアリングトルクは、低圧時に比べて流体圧力に対してトルク上昇時の勾配が緩やかになる。
【0038】
上述したように、本発明のバタフライ弁を含む中心形バラフライ弁の操作トルクは、ジスク弁翼部位のシートトルクでは流体圧力の上昇に伴って減少し、天地球面部位のシートトルクでは流体圧力の上昇によるトルク変化はほとんどみられず、ベアリングトルクでは流体圧力の上昇により大きくなる。
このように、操作トルクの上昇は、ベアリングトルクの上昇に起因することになるため、本発明のバタフライ弁では、流体圧力が加わったときのベアリングトルクを低減させることにより、操作トルクを抑えてシール性と動作性能とを向上させ、耐久性を高めるようにしたものである。
【0039】
バタフライ弁は、上ステム5に大径部8と小径部9とからなる段差部10にボデー2と別体の軸受け本体11が装着され、この軸受け本体11をボデー2と別体構造としているので、軸受け本体11に上ステム5の反りに対して調芯機能を持たせることが可能になり、この調芯機能により上ステム5が傾いたり流路方向に移動したときに軸受け本体11に局部的に荷重がかかることを防ぐことができる。
【0040】
この場合、軸受け本体11が内外周にシールリング18を有するシール筒部15とこのシール筒部15の外周側下面15cより一体に垂下形成された軸受筒部16とからなっており、シール筒部15によりシール機能、軸受筒部16により上ステム5の軸受け機能を発揮する構造であるため、シール筒部15、軸受筒部16の厚さをその部位毎に設定できるようになっている。そのため、バタフライ弁1は、シール筒部15、軸受筒部16を適正な寸法によって短くして軸受け本体11の全長を短く形成可能であり、この全長の短い軸受け本体11により、上ベアリング21の内周面側と上ステム5との間に大きいクリアランスを設けることなくこのクリアランスを利用してボデー2内での傾き角度を増加させることができる。これによって圧力変化により変化する上ステム5の反り(傾き)や移動に同調させるように調芯作用を発揮してこの移動や傾きを吸収可能になる。更に、軸受け本体11による調芯調整範囲を大きく取ることで、上ベアリング21が広範囲で上ステム5と接触することが可能になるため、高圧流体が流れたときにもその調芯機能を発揮できる。
【0041】
これにより、軸受け本体11全体を小型化して軸装筒7の外観寸法を小さくしつつ、上ステム5に局部的な荷重がかかったりかじりが発生したりすることを防いで、上ステム5やボデー2の摩耗や変形を抑えて操作トルクの上昇を防ぎ、耐久性の向上を図ることができる。そして、上ステム5やボデー2が傷付くことが防がれるためにシール性が向上し、一次、二次シール部分から高頻度使用等により流体の漏れが生じたときにも三次シール部分である軸受け本体11によって外部への漏れを抑えることができる。
【0042】
しかも、シール筒部内周面15bと小径部外周9aとの間に所定の隙間G、シール筒部上端外周面15dと軸装穴内周面20bとの間に所定の隙間Gを設け、かつ、シール筒部15の内外周に装着したシールリング18、18を軸装穴内周面20bに接触させた構成としているので、軸受け時に上端外周面15dが上ステム5や軸装筒7に接触することを防いでシール筒部15が摩耗することを抑えている。これにより、シールリング18によるシール性を高い状態に保持して安定したシール性を発揮でき、上下ステム5、6の回転時のガタを抑えて安定したトルクで優れた操作性を維持できる。また、装着溝17にほとんど応力が加わることがないため、靭性の高い材料以外でも使用が可能になり、材料の選択肢が増える。
【0043】
ここで、本発明のバタフライ弁の圧力の増加に対する操作トルクの変化を測定した。バルブ内への流体圧力としては、流体圧力0MPaの場合を無負荷状態とし、流体圧力0.6MPa程度の場合を低圧状態とし、流体圧力1〜1.6MPa程度の場合を高圧状態とし、各圧力の流体が弁閉(締切)状態のジスク4に加わったときの操作トルクを測定した。このとき、流体圧力1.6MPaの場合、サイズ400Aのバタフライ弁では、ジスクに働く力が約200kNにも及ぶことになる。
【0044】
この操作トルクの測定結果を図5のグラフに示す。図中、圧力が変化したときのトルクの上下の変化は、前述したように操作トルクがシートトルク、ベアリングトルクを組合わせたものであるために生じたものである。
図の結果より、流体圧力が上がっても、トルクの上昇を抑えて略一定の操作トルクを維持することができた。
【0045】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明は、前記実施の形態記載に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲に記載されている発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の変更ができ、例えば、一体形のステムによりジスクを装着する構造に設けた場合にも、分割したステムの場合と同様の効果を発揮できる。
【符号の説明】
【0046】
2 ボデー
2a 内周面
3 シートリング
4 ジスク
5 上ステム
6 下ステム
7 軸装筒
7a 内周
8 大径部
9 小径部
9a 外周
10 段差部
11 軸受け本体
15 シール筒部
15b 内周面
15c 下面
16 軸受筒部
18 シールリング
21 上ベアリング
21a 上端部
22 下ベアリング
25 止め輪
、G 隙間
H 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形ボデーの内周面に装着したシートリング内に円板状ジスクをステムを介して回転自在に設けたバタフライ弁において、前記ボデーの軸装筒内に装入した前記ステムに大径部と小径部とから成る段差部位を形成し、この段差部位の前記小径部外周と軸装筒内周との間に、内外周に装着したシールリングを介してシール接触するシール筒部とこのシール筒部の外周側下面より一体に垂下形成した軸受筒部とからなる軸受け本体を装着すると共に、前記軸受筒部と前記大径部との間に前記ステムを支持する上ベアリングを介在させ、かつ、前記ジスク側の大径部にも下ベアリングを装着したことを特徴とするバタフライ弁。
【請求項2】
前記シール筒部の内周面と前記小径部外周面との間に所定の隙間を設け、かつ、前記シール筒部の内外周に装着したシールリングを前記小径部外周と軸装筒内周にシール接触させた請求項1に記載のバタフライ弁。
【請求項3】
前記シール筒部の内外周に装着した2つのシールリングを前記ステムの軸方向に対して交差方向に水平状態に配設した請求項2に記載のバタフライ弁。
【請求項4】
前記シール筒部の下面とステムの段差部位上面との間に所定の隙間を設け、かつ、前記上ベアリングの上端部を前記シール筒部の下面に当接させた請求項1乃至3の何れか1項に記載のバタフライ弁。
【請求項5】
前記軸受け本体の上端位置の軸装筒内周にC型止め輪を装着し、この止め輪により、前記軸受け本体を介してステムの飛び出しを防止した請求項1乃至4の何れか1項に記載のバタフライ弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−57740(P2012−57740A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202337(P2010−202337)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(390002381)株式会社キッツ (223)
【Fターム(参考)】