説明

バックリング検査装置の評価装置及びバックリング検査装置の評価方法

【課題】バックリング検査装置に対して適切な校正を行うべく、信頼性の高い性能評価を行うことができるバックリング検査装置の評価装置及びバックリング検査装置の評価方法を提供する。
【解決手段】架台22を回転させることで、アンテナ11及び12を検査時の相対位置関係を保ったままプロセスライン外に移動する。このとき、移動後のアンテナ11及び12と校正板40との相対位置関係を、検査時におけるアンテナ11及び12と金属鋼板1との相対位置関係と同じにする。また、校正板40には、検査対象のバックリング2を模した校正用突起物40aを形成しておく。この状態で、校正装置30は、校正板40に対して検査時と同様の処理を行って、校正用突起物40aを適切に検査できているか否かを確認することで、バックリング検査装置10の検査性能を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行する金属鋼板の表面に発生するバックリングを検査するバックリング検査装置の検査性能を評価する評価装置及び評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延ラインや連続焼鈍ライン等においては、金属鋼板の形状やロールの形状により鋼板に作用する張力が不均一になるなど、種々の原因によって、走行する鋼板が幅方向に座屈し、鋼板表面にバックリング(又は絞り)と称する突起物が生じることがある。
鋼板にバックリングが発生した場合、そのまま走行を継続するとバックリングの程度が大きくなり、鋼板の破断に至るおそれがある。その場合、著しい生産阻害につながるため、バックリングが発生した場合にはこれを早期に発見する必要がある。
【0003】
発生したバックリングを発見する方法としては、ITVで目視により観察する方法や、例えば特許文献1や特許文献2に示すように、ロールの一方の側面側に設置した投光器からレーザ光などの平行光を照射し、もう一方の側面側に設置された受光器によって計測される受光量などの変化から検出する方法がある。
さらに、鋼板のバタツキ(鋼板の面に対する垂直方向の位置変動)などの周囲の環境の影響によるバックリングの誤検出を防止するために、電磁波の送信アンテナと受信アンテナとを、走行する鋼板の長手方向に対して斜め上方の同じ位置に設置し、送信用アンテナから放射されバックリングに反射された電磁波のみを受信用アンテナで受信することで、バックリングを検出する方法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−294627号公報
【特許文献2】特開平9−257442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のバックリング検出方法を用いた装置にあっては、何れも当該装置の性能評価を行ったり校正を行ったりするには、鋼板が走行している場所に校正用の板などを置く必要があり、これはプロセスラインが停止しているタイミングでしか行うことができない。
また、上記装置の性能評価作業及び校正作業はライン内での作業となるため、設備の条件によっては足場の確保等において制約が多く、作業性が悪い。さらに、校正板の設置精度の保証が得られないため、信頼性の高い性能評価を行うことができない。
そこで、本発明は、バックリング検査装置に対して適切な校正を行うべく、信頼性の高い性能評価を行うことができるバックリング検査装置の評価装置及びバックリング検査装置の評価方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るバックリング検査装置の評価装置は、プロセスライン上の金属鋼板に対して所定の相対位置関係となる位置に配置され、前記プロセスラインを走行する前記金属鋼板上に存在するバックリングを検査するバックリング検査器を備えるバックリング検査装置の評価装置であって、前記バックリング検査器を、前記金属鋼板のプロセスライン外に移動する移動手段と、前記移動手段で移動した後の前記バックリング検査器との相対位置関係が、バックリング検査時における前記バックリング検査器と前記金属鋼板との相対位置関係と等しくなる位置に配置され、前記バックリングを模した校正用突起物が形成された校正板と、前記校正板に対して、前記移動手段で移動した後の前記バックリング検査器によって前記バックリング検査時のバックリング検査と同一処理を行って、前記校正用突起物を検査することで、前記バックリング検査装置の性能を評価する評価手段と、を備えることを特徴としている。
【0007】
このように、バックリング検査器をプロセスライン外に移動してバックリング検査装置の性能評価を行うことができるので、ラインを停止させることなく当該性能評価を行うことができる。また、ライン外で評価・校正作業を行うことができるので、作業の安全性の向上が図れる。さらに、予め所定の校正位置に配置した校正板を用いてバックリング検査装置の性能評価を行うので、校正板の配置精度を保証し、バックリング検査装置の評価・校正の安定性を向上させることができる。また、校正板に形成する校正用突起物を検査対象であるバックリングと同等サイズとするので、バックリング検査装置の評価・校正の信頼性を向上させることができる。
【0008】
また、上記において、鉛直方向の軸回りに回転可能に構成され、水平方向に延在するアームの一端が固定された架台を備え、前記バックリング検査器は、前記アームの他端に固定されており、前記移動手段は、前記架台を所定角度回転させることで、前記バックリング検査器を前記プロセスライン外に移動することを特徴としている。
これにより、検査位置と校正位置との2ポジション間におけるバックリング検査器の移動を、比較的簡易な構成で精度良く行うことができる。
【0009】
さらに、上記において、前記校正板は、それぞれ大きさが異なる前記校正用突起物が形成された数種類の校正板であり、前記評価手段は、前記数種類の校正板に対してそれぞれ前記校正用突起物の検査を行うことを特徴としている。
これにより、校正用突起物の大きさ毎にそれぞれバックリング検査装置の性能評価を行うことができるので、評価精度を向上させることができる。
【0010】
また、上記において、前記バックリング検査器は、被検査面に対して電磁波を放射する送信用アンテナと、前記送信用アンテナから放射され前記被検査面上の突起物によって反射された前記電磁波のみを受信する受信用アンテナと、前記送信用アンテナの送信信号及び前記受信用アンテナの受信信号を処理する信号処理部と、を備え、前記移動手段は、前記送信用アンテナ及び前記受信用アンテナを、前記バックリング検査時における相対位置関係を保ったまま前記プロセスライン外に移動することを特徴としている。
【0011】
これにより、バックリングを高い感度で確実に検出することができると共に、周囲の環境の影響を受けにくいバックリング検査装置を対象として、当該バックリング検査装置の性能評価を適切に行うことができる。
さらにまた、上記において、前記評価手段は、前記受信用アンテナで受信した電磁波の波形及びレベルが許容範囲内であるか否かに応じて、前記バックリング検査装置の性能良否を判定することを特徴としている。
【0012】
このように、バックリング検査装置の評価指標として反射波の波形及びレベルを用いるので、正常時の基準波形及び基準レベルに対して、波形が乱れている場合やレベルが大きく異なる場合など、当該波形及びレベルが許容範囲外となる場合にはバックリング検査装置に異常が発生していると判断することができる。したがって、適切にバックリング検査装置の性能評価を行うことができる。
【0013】
さらに、本発明に係るバックリング検査装置の評価方法は、プロセスライン上の金属鋼板に対して所定の相対位置関係となる位置に配置され、前記プロセスラインを走行する前記金属鋼板上に存在するバックリングを検査するバックリング検査器を備えるバックリング検査装置の評価方法であって、前記バックリング検査器を、前記金属鋼板のプロセスライン外に配置され、前記バックリングを模した校正用突起物が形成された校正板との相対位置関係が、バックリング検査時における前記金属鋼板との相対位置関係と等しくなる位置に移動した後、前記校正板に対して、前記バックリング検査器によって前記バックリング検査時のバックリング検査と同一処理を行って、前記校正用突起物を検査することで、前記バックリング検査装置の性能を評価することを特徴としている。
これにより、金属鋼板に発生したバックリングを検査するバックリング検査装置に対して安定性及び信頼性の高い性能評価を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、プロセスラインを走行中の金属鋼板に発生したバックリングを検出するバックリング検査装置に対して適切な校正を行うべく、安定性及び信頼性の高い性能評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】バックリング検査装置とその評価装置の構成を示す図である。
【図2】電磁波の挙動を説明するための図である。
【図3】校正板の構成を示す側面図である。
【図4】校正装置で実行する校正処理手順を示すフローチャートである。
【図5】反射波の基準波形及び基準レベルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(構成)
図1は、本実施形態におけるバックリング検査装置とその評価装置の構成を示す図であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。
図中、符号1は製造ライン(プロセスライン)上を走行中の金属鋼板(金属ストリップ)であり、符号10は、金属鋼板1の通板方向に連続して存在するバックリング(以下、絞りともいう)などの突起物を検出するバックリング検査装置である。
【0017】
バックリング検査装置10は、送信用アンテナ11と、受信用アンテナ12と、送受信信号処理部13と、出力部14とを備える。送信用アンテナ11及び受信用アンテナ12は、金属鋼板1の幅方向中央位置(ラインセンター)LCから一方の側の端部に偏った位置にほぼ隣接して配置されている。本実施形態では、送信用アンテナ11及び受信用アンテナ12として、単方向指向性を有するアンテナを使用する。単方向指向性を有するアンテナとは、所定の一方向にのみ電波を放射したり、所定の一方向からのみ電波を受信したりするアンテナであり、例えばホーンアンテナやパラボラアンテナなどがある。
【0018】
送信用アンテナ11は、送受信信号処理部13からの電磁波送信指令を受けて、電磁波を被検査面に向けて放射する。そして、受信用アンテナ12は、送信用アンテナ11から放射され被検査面上に存在する検査対象の突起物によって反射された電磁波(反射波)のみを受信し、受信した信号を送受信信号処理部13に出力する。
なお、送信用アンテナ11、受信用アンテナ12及び送受信信号処理部13でバックリング検査器を構成している。
【0019】
図2は、送信用アンテナ11から送信された電磁波の挙動を示す図である。ここで、図2(a)は金属鋼板1上にバックリング2が存在しない場合の電磁波の挙動を示しており、図2(b)は金属鋼板1のラインセンターLC上にバックリング2が存在する場合の電磁波の挙動を示している。
図2(a)に示すように、金属鋼板1上にバックリング2が存在しない場合、送信用アンテナ11から放射された電磁波51は、金属鋼板1の平面で反射され、反射波52となるため、受信用アンテナ12によって受信されることはない。
【0020】
一方、図2(b)に示すように、金属鋼板1上にバックリング2が存在する場合には、送信用アンテナ11から放射された電磁波の一部51aは、図2(a)の場合と同様に、金属鋼板1の平面で反射され、反射波52aとなるため、受信用アンテナ12によって受信されることはない。しかしながら、送信用アンテナ11から放射された電磁波の残りの部分51bは、バックリング2によって反射され、反射波52bとなるため、受信用アンテナ12に受信されることになる。
【0021】
図1に戻って、送受信信号処理部13は、送信用アンテナ11から送信した信号及び受信用アンテナ12から受信された信号を処理して、金属鋼板1上のバックリング2の情報を示すバックリング信号を生成し、出力部14に出力する。
具体的には、送受信信号処理部13は、受信用アンテナ12による反射波52bの受信の有無に応じて、バックリングの有無を判断する。また、送信用アンテナ11から電磁波を放射してから、バックリング2による反射波52bを受信用アンテナ12で受信するまでの時間差によって、バックリング2の位置(アンテナ11及び12からバックリング2までの距離)を検出する。さらに、受信した反射波52bの波形やレベル(ピーク電圧値)に基づいて、バックリング2の形状を検出する。このようなバックリング検出には、一般的な擬似ランダム信号方式のほかに、レーダー技術におけるパルス圧縮方式やFM−CW方式を使用することができる。
【0022】
出力部14は、送受信信号処理部13から入力されたバックリング信号を、所望の形態に変換して出力する。出力部14としては、例えば、バックリングの位置および大きさを表示するディスプレイや、バックリングの発生を知らせる音声アラームなどを用いる。
送信用アンテナ11及び受信用アンテナ12は、水平方向に延在するアーム21の一端に固定されており、このアーム21は、その他端が製造ライン外(安全柵23よりも外側)に設置された架台22の上端部に固定されている。架台22は、鉛直方向に延在する中心軸Cを中心に回転可能に構成されている。
【0023】
また、架台22を挟んで金属鋼板1に対向する位置には、校正板40を載置するための校正板設置台41が設置されている。校正板設置台41は、その幅方向中心位置LC2から架台22の中心軸Cの位置までの距離が、金属鋼板1の幅方向中心位置(ラインセンター)LCから架台22の中心軸Cの位置までの距離と等しくなる位置に設置されている。また、この校正板設置台41は、校正板40を、金属鋼板1と同じ高さで保持する。
【0024】
架台22の回転移動は、例えば、作業者の手によって行われる。作業者は、架台22を180°回転させることで、アーム21、アンテナ11及び12を、図1の実線で示す検査時の配置状態から図1の二点鎖線で示す校正時の配置状態へ移動する。そして、この状態で、校正装置30は、バックリング検査装置10の性能評価及び必要に応じて校正処置を行う。
【0025】
このように、本実施形態では、架台22を180°回転させて、検査時の配置状態と校正時の配置状態とを切り替えるものとする。このとき、検査時と校正時とで、アンテナ11及び12と被検査面との相対位置関係(距離L及び角度θ)を同じとする。ここで、検査時の被検査面とは金属鋼板1の表面であり、校正時の被検査面とは校正板40の表面である。
【0026】
上記距離Lは電磁波の進行方向におけるアンテナから被検査面までの距離であり、上記角度θは電磁波の進行方向と被検査面との角度である。通常、バックリングは、金属鋼板1の幅方向中心部に発生することが多い。したがって、これら距離L及び角度θは、バックリング検査装置10が被検査面の幅方向中心部を高感度で検査可能な値に設定する。ここでは、距離Lを500mm±5mmとし、角度θを45°±1°とする。
【0027】
なお、距離L及び角度θは上記の値に限定されるものではなく、例えば、距離Lを500mm以上1200mm以下の範囲内で設定し、角度θを40°以上60°以下の範囲内で設定するようにしてもよい。ここで、角度θについては、60°を超えると検査対象である突起物以外の被検査面からの反射波が受信用アンテナ12によって検出されてしまうため、60°以下であることが好ましい。
図3は、校正板40の構成を示す側面図である。
本実施形態では、(a)に示すような、突起物が形成されていない平板からなる校正板40と、(b)〜(d)に示すような、平板にそれぞれサイズの異なる校正用突起物(絞り)40aが形成された複数の校正板40とを用意する。
【0028】
ここで、校正板40に使用する平板は、金属鋼板1と同一製品を所定のサイズに加工したものとする。また、校正用突起物40aの大きさは、検査対象であるバックリングに合わせた大きさとし、ここではφ1.0mm以上φ7.0mm以下とする。校正用突起物40aは、平板の幅方向の中心線上にバックリングを模した上記太さの針金を貼り付けることで形成することができる。なお、図3では、校正用突起物40aをφ1.0mm、φ3.0mm、φ6.0mmの3種類としているが、φ1.0mm〜φ7.0mmの範囲をより細かく分割し、4種類以上の校正用突起物40aを設定するようにしてもよい。
【0029】
校正装置30は、上述したようにアンテナ11及び12が図1の実線で示す検査位置から二点鎖線で示す校正位置に移動されると、この校正時の配置状態において、送受信信号処理部32に対して校正板40の検査指令を出力する。送受信信号処理部32は、上述した送受信信号処理部13と同一構成を有するものであり、校正装置30からの検査指令を受けて、アンテナ11及び12によって校正板40上の校正板突起物40aを検査する。そして、これによって得られた校正板突起物40aの情報に基づいてバックリング検査装置10の検査性能を評価し、その結果を出力部33に出力する。作業者は、出力部33に表示された評価結果をもとに、必要に応じて校正を行う。ここで、出力部33は上述した出力部14と同一構成を有するものとする。
【0030】
以下、バックリング検査装置10の校正処理について、より具体的に説明する。
図4は、校正装置30で実行する校正処理手順を示すフローチャートである。この校正処理は、検査時に作業者が校正ボタン等を押下することで実行開始する。
先ずステップS1で、校正装置30は、送信用アンテナ11及び受信用アンテナ12が校正位置へ移動されていることを確認し、ステップS2に移行する。即ち、校正装置30は、作業者が架台22を180°回転させることで、アーム21が図1の実線に示す検査位置から図1の二点鎖線に示す校正位置まで回転されていることを確認する。
【0031】
ステップS2では、校正装置30は、校正板設置台41の上に校正板40を設置し、ステップS3に移行する。このとき、校正板40を、その中心位置が校正板設置台41の中心位置に一致するように配置する。また、校正用突起物40aが形成された校正板40を設置する場合は、校正用突起物40aの延在方向が金属鋼板1の通板方向と平行になるように配置する。さらに、この場合、バックリング検査装置10の性能評価に必要な精度で校正板40を設置するものとする。
【0032】
ステップS3では、校正装置30は、送受信信号処理部32に対して校正板40の検査指令を出力する。これにより、送受信信号処理部32は、送信用アンテナ11に対して電磁波送信指令を出力する。すると、送信用アンテナ11は、校正板40に対して電磁波を放射し、受信用アンテナ12は校正用突起物40aに応じた反射波を受信する。送受信信号処理部32は、その受信信号を処理することで、校正用突起物40aの情報を得ることができる。このように、校正板40に対して、検査時における金属鋼板1に対するバックリング検査と同一処理を行う。そして、受信用アンテナ12によって受信した反射波の波形及びレベルをバックリング検査装置10の評価指標として確認し、これをメモリに記憶する。
【0033】
次にステップS4では、校正装置30は、用意した全ての校正板40に対して校正板突起物40aの検査を行い、反射波の確認が終了しているか否かを判定する。そして、全ての校正板40に対して検査を行っていない場合には、前記ステップS2に移行する。これにより、校正板40が交換され、交換後の校正板40に対して校正用突起物40aの検査が行われる。一方、全ての校正板40に対して検査を行い反射波の確認が終了している場合には、ステップS5に移行する。
【0034】
ステップS5では、校正装置30は、前記ステップS3で確認した反射波の波形及びレベルと、図5に示す基準波形及び基準レベルとを比較して、バックリング検査装置10の検査性能の良否判定を行う。基準波形及び基準レベルは、アンテナ11及び12の正常時に、絞りの大きさ毎に予め計測した反射波の波形及びレベルであり、計測時にメモリに記憶しておく。そして、前記ステップS3で確認した反射波の波形及びレベルと基準波形及び基準レベルとの差が許容範囲内である場合に、良否結果を「良」とする。この良否判定は、複数の校正板40の検査結果に対してそれぞれ行う。
【0035】
次にステップS6では、校正装置30は、前記ステップS5で行った良否判定結果を出力部33に出力する。これにより、出力部33は、良否判定結果をディスプレイに表示したり、良否結果が「否」である場合に音声アラームを発したりする。
作業者は、出力部33から認識した良否判定結果に基づいて、バックリング検査装置10の校正処置を行う。良否結果が「否」となる原因としては、送信用アンテナ11が電磁波を正常に送信できていない、受信用アンテナ12が反射波を正常に受信できていない、受信用アンテナ12がノイズや他の障害物の反射波を拾ってしまっている、などが考えられる。したがって、校正処置としては、電磁波の発生装置、アンテナ、ケーブル等を検査し、調整や交換作業を行う。
【0036】
次にステップS7では、校正装置30は、送信用アンテナ11及び受信用アンテナ12が検査位置へ移動されていることを確認し、校正処理を終了する。即ち、校正装置30は、作業者が架台22を180°回転させることで、アーム21が図1の二点鎖線に示す校正位置から図1の実線に示す検査位置まで回転されていることを確認する。これにより、金属鋼板1のバックリング検査が開始可能な状態に復帰する。
なお、図5において、ステップS1が移動手段に対応し、ステップS2〜ステップS5が評価手段に対応している。
【0037】
(動作)
次に、本実施形態の動作について説明する。
バックリング検査装置10は、通常検査時には、図1の実線に示すように、アンテナ11及び12の開口面(電磁波が送信または受信される面)が金属鋼板1に対向する位置に配置されており、この状態で、金属鋼板1に存在するバックリングを検査する。具体的には、送受信信号処理部13が送信用アンテナ11に対して電磁波送信指令を出力すると、送信用アンテナ11から金属鋼板1の幅方向中心部を含む所定範囲に電磁波が放射され、その反射波が受信用アンテナ12によって受信される。このとき、受信用アンテナ12は、金属鋼板1に存在するバックリング2によって反射された電磁波のみを受信するように構成されているので、送受信信号処理部13は適切にバックリング情報を得ることができる。
【0038】
このように、本実施形態では、受信用アンテナ12を、送信用アンテナ11から放射され被検査面上の突起物(検査対象)以外の面に反射された電磁波は捉えず、送信用アンテナ11から放射され被検査面上の突起物に反射された電磁波のみを捉えるように設置するので、突起物を高い感度で確実に検出することができる。また、電磁波を使用するので、周囲の環境の影響を受けにくい。
【0039】
さらに、アンテナ11及び12は、単方向指向性を有するものとするので、該単方向に存在する突起物を効率的に検出することができる。また、該単方向に所定の広がりを有するように検出範囲を設定すれば、鋼板の加工プロセスにおける鋼板のバタツキなど、被検査面の位置が変化した場合にも、位置変化の影響を受けずに突起物の検出を行うことができる。
【0040】
そして、例えば、バックリングの検査対象でない金属鋼板1が搬送されているときなどの任意のタイミングで、作業者がバックリング検査装置10の校正処理を行うべく、架台22を180°回転し、アンテナ11及び12を図1の実線に示す検査位置から、図1の二点鎖線に示す製造ライン外の校正位置に移動する。すると、校正装置30は、この状態で校正処理を実行開始する。この校正時におけるアンテナ11及び12の位置は、製造ライン外に配置された校正板40との相対位置関係が、検査時における金属鋼板1との相対位置関係と同じになる位置である。
【0041】
このように、製造ラインの操業中に操業停止することなく、バックリング検査装置10の校正処理を開始することができる。そして、この校正処理を開始するタイミングは、作業者が任意に決定することができる。
したがって、製造ライン停止時にバックリング検査装置の校正処理を実施するシステムでは、時間制約などにより比較的長期スパンでしかバックリング検査装置10の性能要否を確認することができなかったのに対し、本実施形態では、比較的短スパンでバックリング検査装置10の性能良否を確認することができる。そのため、バックリング検査装置10の異常を早期に発見することができる。
【0042】
さらに、校正処理に用いる校正板40は、バックリング検査装置10による検査時には当該検査に影響を与えないように製造ライン外に配置しておき、校正時にアンテナ11及び12を製造ライン外に移動することで、校正板40の検査を可能とする。したがって、毎回同じ位置で校正板40の検査を行うことができ、校正の安定性を向上させることができる。
【0043】
また、検査時にはアンテナ11及び12が製造ライン内に配置されるが、製造ライン内には回転しているロールや高速で走行している金属鋼板等があり、その中でアンテナ11及び12等のバックリング検査装置10の校正や調整の作業を安全に行うことは、非常に困難である。これに対して、本実施形態では、アンテナ11及び12を製造ライン外に移動した状態で校正及び調整の作業を行うことができるので、上記作業の安全性を確保することができる。
【0044】
図1の二点鎖線に示す校正位置にアンテナ11及び12を配置した状態では、校正装置30は校正板40に対して金属鋼板1に対するバックリング検査と同一の一連の処理を行う。すなわち、送信用アンテナ11から校正板40に対して電磁波を放射し、その反射波を受信用アンテナ12で受信する。そして、バックリング検査装置10の評価指標として用いる反射波の波形及びレベルを確認する(ステップS3)。この一連の処理を、校正用突起物40aの有無や校正用突起物40aの大きさが異なる数種類の校正板40に対してそれぞれ行い、すべての校正板40について反射波の波形及びレベルの確認が終了すると(ステップS4でYes)、各反射波の波形及びレベルを図5に示す反射波の基準波形及び基準レベルと比較し、それぞれ許容範囲内にあるか否かを判定する。
【0045】
例えば、図3(a)に示すように、校正用突起物40aが形成されていない校正板40に対して検査を行った場合、バックリング検査装置10が正常である場合には、受信用アンテナ12は反射波を受信しないため、受信用アンテナ12によって得られた反射波の波形及びレベルは、図5(a)に示す基準波形及び基準レベルと同等又は略同等となる。また、例えば、図3(b)に示すように、φ1.0mmの校正用突起物40aが形成された校正板40に対して検査を行った場合、バックリング検査装置10が正常である場合には、受信用アンテナ12によって受信される反射波の波形及びレベルは、図5(b)に示す基準波形及び基準レベルと同等又は略同等となる。
このように、バックリング検査装置10が正常である場合には、各反射波の波形及びレベルはそれぞれ許容範囲内となるため、各校正板40に対する検査結果がそれぞれ「良」と判定され(ステップS5)、これが出力される(ステップS6)。
【0046】
一方、装置異常として、例えば送信用アンテナ11の電磁波送信異常が発生している場合には、校正用突起物40aによる反射波を受信用アンテナ12によって正常に受信できなくなるため、受信した反射波のレベルが正常時に比して大幅に変動する。すなわち、図3(b),(c),(d)に示す校正板40について検査を行った場合、これらの反射波のレベルは、図5(b),(d),(e)に示す基準レベルとは大きく異なる。そして、当該レベルが許容上限値以上または許容下限値以下となると、良否判定結果が「否」と判定され、これが出力される。したがって、作業者はディスプレイや音声アラームを確認することで、電磁波の発生装置の交換作業などの適切な対処を行うことができる。
【0047】
また、装置異常として、例えば、受信用アンテナ12がノイズや他の障害物の反射波を拾ってしまっている場合には、受信した反射波の波形が乱れ正常時とは異なる波形となる。すなわち、図3(a)〜(d)に示す校正板40について検査を行った場合、これらの反射波の波形は、図5(a),(b),(d),(e)に示す基準波形に余計な波形が加わったものとなる。そして、その余計な波形のレベルが許容上限値以上となると、良否判定結果が「否」と判定され、これが出力される。したがって、作業者はディスプレイや音声アラームを確認することで、受信用アンテナ12の交換作業などの適切な対処を行うことができる。
【0048】
アンテナ11及び12と被検査面との相対位置関係と、被検査面上の検査対象の大きさ及び形状との再現が取れれば、検査時と校正時とで反射波の波形及びレベルは大きく変化しないはずである。したがって、校正時には、アンテナ11及び12を、バックリング2を模した校正用突起物40aが形成された校正板40との相対位置関係が、検査時における金属鋼板1との相対位置関係と等しくなる位置に移動し、その後、校正板40に対して、アンテナ11及び12によってバックリング検査と同一の処理を行って校正用突起物40aの検査を行うことで、バックリング検査装置10の健全性の確認を正確に行うことができる。
そして、校正板40を用いたバックリング検査装置10の性能評価及び校正処理が終了すると、作業者は架台22を180°回転し、アンテナ11及び12を図1の二点鎖線に示す校正位置から、図1の実線に示す検査位置に移動する。これにより、バックリング検査装置10による金属鋼板1のバックリング検査が再開可能となる。
【0049】
(効果)
このように、上記実施形態では、製造ラインを停止することなく任意のタイミングで、金属鋼板上のバックリングを検査するバックリング検査装置の性能評価及び校正を行うことができる。したがって、短スパンで定期的にバックリング検査装置の良否判定を行うことができ、装置異常の早期発見が可能となる。そのため、品質保証体制のレベルアップを実現することができる。
【0050】
また、場所の制約の少ない製造ライン外でバックリング検査装置の性能評価及び校正作業を行うことができるので、作業の安全性の向上が図れると共に、明確な標準を定めることができるようになり、評価精度の向上が図れる。
さらに、予め用意した校正板を用い、検査時と同条件で校正板の検査を行えるように、架台を回転させて送信用アンテナ及び受信用アンテナを校正位置に移動する。したがって、比較的簡易な構成で毎回同じ校正位置に送信用アンテナ及び受信用アンテナを移動させて精度良く校正処理を行うことができ、評価・校正の安定性を向上させることができる。また、校正板に形成する校正用突起物を検査対象であるバックリングと同等サイズとするので、バックリング検査装置の評価・校正の信頼性を向上させることができる。
【0051】
また、大きさが異なる校正用突起物が形成された数種類の校正板を用意し、それぞれについて検査を行うので、校正用突起物の大きさ毎にバックリング検査装置の性能評価を行うことができ、評価精度を向上させることができる。
さらにまた、バックリング検査器を、電磁波を放射する送信用アンテナと、被検査面上の検査対象によって反射された電磁波のみを受信する受信用アンテナとを備える構成とし、バックリング検査装置の評価指標として反射波の波形及びレベルを用いる。そのため、正常時の基準波形及び基準レベルに対して、波形が乱れている場合やレベルが大きく異なる場合など、当該波形及びレベルが許容範囲外となることを検出することで、バックリング検査装置に異常が発生していると判断することができる。したがって、適切にバックリング検査装置の性能評価を行うことができる。
【0052】
(応用例)
なお、上記実施形態においては、架台22を回転させてアンテナ11及び12を製造ライン外に移動する場合について説明したが、アンテナ11及び12の移動手段はこれに限定されるものではなく、例えばアンテナ11及び12が固定された架台をスライド移動させることでアンテナ11及び12を製造ライン外に移動するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、電磁波を利用したバックリング検査器を適用する場合について説明したが、バックリング検査器として、レーザ光などの平行光を利用したものを適用することができる。
さらに、上記実施形態においては、架台22を180°回転させることで検査位置と校正位置とを切り換える場合について説明したが、検査位置が製造ライン外であれば、架台22の回転角度は180°でなくてもよい。
【0053】
また、上記実施形態においては、校正板設置台41上の校正板40を交換して、数種類の校正板40に対する検査を行う場合について説明したが、校正板40と校正板設置台41との組を数種類用意し、架台22を回転させたときのアンテナ11及び12の動線上にこれらを配置するようにしてもよい。この場合、架台22を回転させるだけで校正板40の交換が行えるので、校正板40の設置精度を安定化させることができる。
さらにまた、上記実施形態においては、作業者が手動で架台22を回転させてアンテナ11及び12を製造ライン外に移動する場合について説明したが、例えばモータ等で構成されるアクチュエータを駆動制御することで当該移動を実現することもできる。この場合、検査位置と校正位置との2ポジション間におけるアンテナ11及び12の移動が完全自動化となるため、短い作業時間で高精度な移動作業を行うことができる。
【符号の説明】
【0054】
1…金属鋼板、2…バックリング、10…バックリング検査装置、11…送信用アンテナ、12…受信用アンテナ、13…送受信信号処理部、14…出力部、21…アーム、22…架台、23…安全柵、30…校正装置、32…送受信信号処理部、33…出力部、40…校正板、40a…校正用突起物(絞り)、41…校正板設置台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセスライン上の金属鋼板に対して所定の相対位置関係となる位置に配置され、前記プロセスラインを走行する前記金属鋼板上に存在するバックリングを検査するバックリング検査器を備えるバックリング検査装置の評価装置であって、
前記バックリング検査器を、前記金属鋼板のプロセスライン外に移動する移動手段と、
前記移動手段で移動した後の前記バックリング検査器との相対位置関係が、バックリング検査時における前記バックリング検査器と前記金属鋼板との相対位置関係と等しくなる位置に配置され、前記バックリングを模した校正用突起物が形成された校正板と、
前記校正板に対して、前記移動手段で移動した後の前記バックリング検査器によって前記バックリング検査時のバックリング検査と同一処理を行って、前記校正用突起物を検査することで、前記バックリング検査装置の性能を評価する評価手段と、を備えることを特徴とするバックリング検査装置の評価装置。
【請求項2】
鉛直方向の軸回りに回転可能に構成され、水平方向に延在するアームの一端が固定された架台を備え、
前記バックリング検査器は、前記アームの他端に固定されており、
前記移動手段は、前記架台を所定角度回転させることで、前記バックリング検査器を前記プロセスライン外に移動することを特徴とする請求項1に記載のバックリング検査装置の評価装置。
【請求項3】
前記校正板は、それぞれ大きさが異なる前記校正用突起物が形成された数種類の校正板であり、
前記評価手段は、前記数種類の校正板に対してそれぞれ前記校正用突起物の検査を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のバックリング検査装置の評価装置。
【請求項4】
前記バックリング検査器は、被検査面に対して電磁波を放射する送信用アンテナと、前記送信用アンテナから放射され前記被検査面上の突起物によって反射された前記電磁波のみを受信する受信用アンテナと、前記送信用アンテナの送信信号及び前記受信用アンテナの受信信号を処理する送受信信号処理部と、を備え、
前記移動手段は、前記送信用アンテナ及び前記受信用アンテナを、前記バックリング検査時における相対位置関係を保ったまま前記プロセスライン外に移動することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のバックリング検査装置の評価装置。
【請求項5】
前記評価手段は、前記受信用アンテナで受信した電磁波の波形及びレベルが許容範囲内であるか否かに応じて、前記バックリング検査装置の性能良否を判定することを特徴とする請求項4に記載のバックリング検査装置の評価装置。
【請求項6】
プロセスライン上の金属鋼板に対して所定の相対位置関係となる位置に配置され、前記プロセスラインを走行する前記金属鋼板上に存在するバックリングを検査するバックリング検査器を備えるバックリング検査装置の評価方法であって、
前記バックリング検査器を、前記金属鋼板のプロセスライン外に配置され、前記バックリングを模した校正用突起物が形成された校正板との相対位置関係が、バックリング検査時における前記金属鋼板との相対位置関係と等しくなる位置に移動した後、
前記校正板に対して、前記バックリング検査器によって前記バックリング検査時のバックリング検査と同一処理を行って、前記校正用突起物を検査することで、前記バックリング検査装置の性能を評価することを特徴とするバックリング検査装置の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−247314(P2012−247314A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119615(P2011−119615)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】