説明

バナジウムの抽出溶液およびバナジウムの溶媒抽出法

【課題】溶液中に存在するバナジウムを溶媒抽出によって効率よく分離回収することができるバナジウムの抽出溶液およびバナジウムの溶媒抽出法を提供する。
【解決手段】バナジウムのソーダ塩を含有する溶液からバナジウムを抽出するための抽出溶液であって、抽出溶液が、第4級アンモニウム塩抽出剤と、希釈剤とを混合したものであり、希釈剤が、ソルベッソ200およびテクリーンN20を含有するものである。溶液中のバナジウムを、抽出溶液中に抽出させることができる。そして、抽出工程における相分離期間を短くすることができるし、逆抽出工程やその後の工程での相分離期間も短縮することができるから、バナジウムの回収効率を大幅に向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バナジウムの抽出溶液およびバナジウムの溶媒抽出法に関する。
バナジウムはレアメタルの一つであり、鉄鋼用の合金添加剤、高級ステンレスや高級構造鋼などの特殊鋼用の添加剤、及び切削工具などの耐熱耐摩耗部品への添加物などとして使用されている。かかるバナジウムは原油にも含まれており、原油を脱硫用触媒によって精製処理すると、処理油に含まれるバナジウムはニッケルなどの他の重金属とともに共に触媒中に含有されるようになる。よって、バナジウムを含有する使用済触媒を処理して、使用済触媒からバナジウムを回収することが行われている。同様に、廃棄される火力発電所の焼却灰やバナジウム電解液等にもバナジウムが含まれており、火力発電所の焼却灰やバナジウム電解液等を処理して、火力発電所の焼却灰やバナジウム電解液等からバナジウムを回収することも行われている。
本発明は、上記のように、バナジウムを含有する使用済触媒や火力発電所の焼却灰やバナジウム電解液等からバナジウムを回収するために使用されるバナジウムの抽出溶液およびバナジウムの溶媒抽出法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モリブデンやバナジウムを多く含む使用済脱硫触媒から有価金属を回収する方法として、使用済触媒を酸化又はアルカリ焙焼した後、焙焼物を水や鉱酸で溶解し、その溶解液から塩析によってモリブデンやバナジウムを回収する方法が知られている。
具体的には、まず、炭酸ナトリウムや水酸化ナトリウムを用いて使用済脱硫触媒をアルカリ焙焼し、得られた焙焼物を水で溶解して、モリブデンやバナジウムのソーダ塩を主成分とする塩溶液(以下、ソーダ塩溶液という)を得る。得られたソーダ塩溶液に対して塩化アンモニウムを添加してバナジウムを塩析させれば、メタバナジン酸アンモニウムの沈殿としてバナジウムを回収することができる。また、バナジウムが沈殿除去されたソーダ塩溶液(以下、処理液という)を硫酸や塩酸で中和すると、モリブデンを、モリブデン酸アンモニウムとして沈殿させて回収することができる。
【0003】
しかしながら、上述した方法では、バナジウムを塩析させる工程におけるモリブデンとバナジウムの分離性が高くないので、メタバナジン酸アンモニウムには不純物として多くのモリブデンが含まれた状態となり、メタバナジン酸アンモニウムの純度が低くなる。塩析させる状態におけるソーダ塩溶液のpHを調製すれば、メタバナジン酸アンモニウムの純度を向上させることはできるものの、それでもメタバナジン酸アンモニウムに含まれるモリブデンの量を十分に低下させることはできない。
したがって、メタバナジン酸アンモニウムの純度を上げるためには、メタバナジン酸アンモニウムを再度溶解して塩析を繰り返さなければならなくなる。
【0004】
一方、溶媒抽出を利用して、上述したソーダ塩溶液からモリブデンやバナジウムを回収する方法も開発されている(例えば、特許文献1)。
特許文献1には、抽出剤として、第4級アンモニウム塩抽出剤であるトリオクチルメチルアンモニウムクロライド(TOMAC)を使用して、ソーダ塩溶液からバナジウムを溶媒抽出する方法が提案されている。この方法では、ソーダ塩溶液(水相)にモリブデンを残留させつつTOMAC(油相)にバナジウムを抽出でき、モリブデンとバナジウムとを高純度に分離できるという利点がある。
【0005】
しかるに、溶媒抽出法では、一般的に、抽出剤そのままではなく、抽出剤を芳香族炭化水素からなる希釈剤により希釈した抽出溶液を使用して抽出作業を行うが、芳香族炭化水素は比重が1に近いので、ソーダ塩溶液と抽出溶液との比重差が非常に小さくなる。すると、抽出溶液とソーダ塩溶液とが混合された状態から、油相(抽出溶液)と水相(ソーダ塩溶液)とが相分離するまでの時間が長くなる。
抽出工程における相分離時間が長くなるとそれだけ設備規模が拡大し投資コストが増加したり、あるいは抽出してソーダ塩溶液から分離できずにロスとなるバナジウムの量も増加するなどバナジウムの回収効率が低下するので、バナジウムの回収効率を向上させるためには、抽出工程における相分離時間を短くすることが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3835148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、溶液中に存在するバナジウムを溶媒抽出によって効率よく分離回収することができるバナジウムの抽出溶液およびバナジウムの溶媒抽出法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(抽出溶液)
第1発明のバナジウムの抽出溶液は、バナジウムを含有する処理溶液からバナジウムを抽出するための抽出溶液であって、前記抽出溶液が、第4級アンモニウム塩抽出剤と、希釈剤とを混合したものであり、該希釈剤が、芳香族炭化水素およびナフテン系炭化水素を含有するものであることを特徴とする。
第2発明のバナジウムの抽出溶液は、第1発明において、 前記抽出溶液は、第4級アンモニウム塩抽出剤、ナフテン系炭化水素、芳香族炭化水素の混合割合が、20:20:60〜20:32:48となるように調製されていることを特徴とする。
第3発明のバナジウムの抽出溶液は、第1または第2発明において、前記第4級アンモニウム塩抽出剤が、トリオクチルメチルアンモニウムクロライドであり、前記芳香族炭化水素が、芳香族炭化水素の混合物であり、前記ナフテン系炭化水素は、その成分が、飽和炭化水素が99体積%以上、芳香族炭化水素が1体積%以下であることを特徴とする。
(抽出方法)
第4発明のバナジウムの溶媒抽出法は、バナジウムを含有する処理溶液から、抽出溶液を利用してバナジウムを抽出する方法であって、前記抽出溶液が、第1、第2または第3発明の抽出剤であることを特徴とする。
第5発明のバナジウムの溶媒抽出法は、第4発明において、前記処理溶液が、使用済脱硫触媒をアルカリ焙焼して得られた焙焼物を水で溶解したソーダ塩溶液であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
(抽出溶液)
第1発明によれば、バナジウムの溶媒抽出工程に使用すれば、抽出作業において、処理溶液中のバナジウムを抽出溶液中に抽出させることができる。そして、抽出作業における相分離期間を短くすることができるし、逆抽出作業などの抽出工程後の工程における相分離期間も短縮することができるから、バナジウムの回収効率を大幅に向上させることができる。
第2発明によれば、抽出溶液と水との比重差を大きくでき、また、水への溶解度を低くできる。しかも、抽出溶液へのバナジウムの抽出効率を向上させることができるので、バナジウムの回収効率を大幅に向上させることができる。
第3発明によれば、バナジウムとバナジウム以外の金属とをより高純度でかつ短時間で分離できる。
(抽出方法)
第4発明によれば、バナジウムの溶媒抽出工程に使用すれば、抽出作業において、処理溶液中のバナジウムを抽出溶液中に抽出させることができる。そして、抽出作業における相分離期間を短くすることができるし、逆抽出作業などの抽出工程後の工程における相分離期間も短縮することができるから、バナジウムの回収効率を大幅に向上させることができる。
第5発明によれば、溶液に含まれるバナジウムとモリブデンとを高純度で分離できるので、バナジウムの回収効率を向上できるとともに、バナジウムを抽出した後の溶液からモリブデン回収作業のコストも抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のバナジウムの溶媒抽出法を工程に含む、バナジウム回収方法の概略フローチャートである。
【図2】(A)は、TOMAC、ソルベッソ200、とテクリーンN20の混合割合を変化させた場合における抽出溶液の粘度と比重の表であり、(B)は、TOMAC、ソルベッソ200、とテクリーンN20の混合割合を変化させた場合における相分離時間の実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のバナジウムの抽出溶液は、バナジウムを含有する溶液からバナジウムを回収する工程において使用される抽出溶液であって、処理溶液と抽出溶液とを混合した後、処理溶液と抽出溶液とを短時間で相分離させることができることに特徴を有している。
【0012】
とくに、本発明のバナジウムの抽出溶液は、原油の精製の際に使用される脱硫用触媒を炭酸ナトリウムや水酸化ナトリウムを用いてアルカリ焙焼し、得られた焙焼物を水で溶解したモリブデンとバナジウムのソーダ塩を主成分とする塩溶液から、バナジウムを溶媒抽出する抽出溶液に適している。具体的には、かかる塩溶液の抽出溶液として使用した場合、他の抽出液を使用するよりも、塩溶液に含まれるバナジウムとモリブデンとを高純度で分離できる。そして、バナジウムの回収効率を向上できるとともに、バナジウムを抽出した後の溶液からモリブデン回収作業のコストも抑えることができるという利点が得られる。
【0013】
なお、本発明のバナジウムの抽出溶液およびこの抽出溶液を用いた溶媒抽出法によって処理される溶液は、上記の脱硫用触媒を原料として形成されたバナジウムのソーダ塩を含有する塩溶液に限られず、火力発電所の焼却灰やバナジウム電解液等を原料として形成された水溶液等でもよく、とくに限定されない。
以下では、本発明のバナジウムの抽出溶液およびこの抽出溶液を用いた溶媒抽出法によって処理される溶液を、処理溶液という。
(処理工程)
【0014】
本発明は、抽出溶液が、抽出剤である第4級アンモニウム塩抽出剤と、希釈剤とを混合した溶液であり、希釈剤にテクリーンN20を混合したものであること、および、この抽出溶液をバナジウムの溶媒抽出工程に使用したことに特徴を有している。
【0015】
つまり、本発明は、上記のごとき抽出溶液に特徴を有する発明であるが、このバナジウムの抽出溶液について説明する前に、この抽出溶液を使用するバナジウムの溶媒抽出工程について説明する。
なお、以下では、処理溶液が、使用済脱硫触媒を原料として形成された塩溶液の場合を代表として説明する。
【0016】
また、以下に説明する抽出作業や逆抽出作業等には、一般的なミキサーセトラーを使用することができるが、混合された状態の処理溶液(水相)と抽出溶液(油相)とを、抽出溶液(油相)と処理溶液(水相)とに分離でき、かつ、それぞれ別々に回収することができるものであれば、どのような装置、方法を用いてもよい。
【0017】
まず、原料となる使用済脱硫触媒を、炭酸ナトリウムや水酸化ナトリウムを用いてアルカリ焙焼する。
ついで、アルカリ焙焼により得られた焙焼物を水で溶解する。使用済脱硫触媒には、バナジウムだけでなくモリブデンも含有されているので、モリブデンとバナジウムのソーダ塩を主成分とする塩溶液(処理溶液)が得られる。
【0018】
(抽出作業)
処理溶液が得られると、この処理溶液と、本発明の抽出溶液とを、抽出作業用のミキサーセトラーにおけるミキサー部において混合する。
すると、有機溶媒である抽出溶液(油相)にバナジウムが抽出される一方、モリブデンは処理溶液(水相)中に残留する。
【0019】
なお、抽出作業用のミキサーセトラーでは、バナジウムとモリブデンとの分離性を向上させるために、混合された溶液のpHを調整する。具体的には、処理溶液に対して、抽出溶液とともに硫酸等が加えられて、混合された溶液のpHが6〜10となるように調整される。
【0020】
混合された処理溶液と抽出溶液は、ミキサーセトラーにおけるセトラー部において2相(抽出溶液(油相)と処理溶液(水相))に分離されるので、バナジウムを含む抽出溶液を処理溶液から分離して回収することができる。
このとき、抽出溶液として、本発明の抽出溶液を使用しているので、抽出溶液(油相)と処理溶液(水相)の分離性がよく、抽出作業における相分離期間を短くすることができる。つまり、抽出溶液および処理溶液を、ミキサーセトラーにおけるセトラー部に滞留させる時間を短くすることができるのである。
【0021】
(逆抽出作業)
分離回収された抽出溶液は、逆抽出作業用のミキサーセトラーにおけるミキサー部において水酸化ナトリウム水溶液を混合されて逆抽出作業が行われる。この逆抽出作業では、抽出溶液(油相)に存在していたバナジウムが水溶液(水相)に抽出される。
なお、逆抽出作業に使用する水酸化ナトリウム水溶液は、その濃度が5%となるように調整される。
【0022】
混合された処理溶液と抽出溶液は、ミキサーセトラーのセトラー部において2相(抽出溶液(油相)と水溶液(水相)に分離されるので、バナジウムを含む水溶液を処理溶液から分離して回収することができる。
このとき、抽出溶液として、本発明の抽出溶液を使用しているので、抽出溶液(油相)と水溶液(水相)の分離性がよく、逆抽出作業における相分離期間を短くすることができる。つまり、抽出溶液および水溶液を、ミキサーセトラーにおけるセトラー部に滞留させる時間を短くすることができるのである。
【0023】
(製品化処理)
回収したバナジウムを含む水溶液を、沈殿槽において加熱、酸沈澱処理を行えば、五酸化バナジウム(V)の形態でバナジウムを水溶液から固液分離することができる。
そして、固液分離された五酸化バナジウムを熔融炉にて加熱溶解後フレーク化すれば、バナジウム製品が製造できる。
【0024】
以上のごとく、本発明のバナジウムの抽出溶液を使用してバナジウムの溶媒抽出工程を行えば、抽出作業における相分離期間を短くすることができるし、抽出作業後の逆抽出作業における相分離期間も短縮することができる。すると、バナジウム回収工程全体の作業時間を短くすることができるから、バナジウムの回収効率を大幅に向上させることができる。
【0025】
上記の抽出作業および逆抽出作業が本発明のバナジウムの溶媒抽出工程に相当するが、バナジウムの溶媒抽出工程には、以下に説明するスクラビングや酸付加作業などを含んでいてもよい。
【0026】
(スクラビング)
抽出作業において、バナジウムは抽出溶液に、モリブデンは処理溶液に、それぞれ高純度に分離されるが、抽出溶液には、わずかではあるがモリブデンも抽出される。よって、逆抽出作業の前に、スクラビングを行って抽出溶液からモリブデンを除去すれば、抽出溶液中のバナジウムの純度を高めることができる。
なお、スクラビングを行う回数はとくに限定されないが、3回程度行えば、バナジウムの純度を十分に純度を高めることができる。
【0027】
(酸付加作業)
また、逆抽出作業後の抽出溶液(水酸化ナトリウム水溶液が分離された溶液)に硫酸を接触させ、酸付加作業を行えば、再度、この抽出溶液を抽出作業に用いることができるので、抽出溶液を、繰り返しかつ連続的に使用できる。
そして、この酸付加作業でも、本発明の抽出溶液を使用した場合には、相分離時間を短くできる。
(抽出剤)
【0028】
つぎに、本発明のバナジウムの抽出溶液について説明する。
上述したように、本発明の抽出溶液は、抽出剤である第4級アンモニウム塩抽出剤と、希釈剤とを混合した溶液であり、希釈剤にナフテン系炭化水素を混合したことに特徴を有している。
【0029】
まず、抽出剤である第4級アンモニウム塩抽出剤は、pHが高い領域(pH8〜9程度)で抽出作業を行うことができ、プラス(+)の電荷を有するものであればよく、とくに限定されないが、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド(TOMAC)が好ましい。TOMACを使用した場合、他の第4級アンモニウム塩抽出剤に比べて、バナジウムと、処理溶液に含まれる他の物質(例えば、モリブデン等の重金属等)とを高純度で分離できる。言い換えれば、抽出溶液に、バナジウム以外の物質が混入する割合を低くできるので、好ましい。
【0030】
希釈剤は、芳香族炭化水素とナフテン系炭化水素とを混合したものである。この希釈剤は、通常、抽出剤の粘度を低下させたり、抽出剤の比重を小さくしたり、水への溶解度を低くしたりするために使用される。
しかし、芳香族炭化水素は比重が1に近い、つまり、水溶液である処理溶液の比重に近いので、芳香族炭化水素のみで抽出剤を希釈した抽出溶液は、その比重と処理溶液の比重との差が小さくなる。すると、抽出作業において処理溶液と抽出溶液とを混合した後、処理溶液と抽出溶液との相分離に時間がかかる。
一方、本発明の抽出溶液では、希釈剤にナフテン系炭化水素も混合されているので、処理溶液と抽出溶液との比重差が芳香族炭化水素のみを用いた場合に比べて大きくなる。このため、抽出作業において、処理溶液と抽出溶液とを混合した状態から、処理溶液と抽出溶液とに相分離する時間を短くできるのである。
【0031】
しかも、ナフテン系炭化水素を使用した場合には、抽出作業における相分離時間だけでなく、逆抽出作業や酸付加作業における相分離時間も短くできる。
とくに、通常、抽出作業よりも相分離に要する時間が長くなる逆抽出作業において、相分離時間を抽出作業よりも短くできるので、従来の抽出溶液を使用して溶媒抽出工程を行う場合に比べて、全抽出工程の作業時間を大幅に短くできる。よって、バナジウムの回収効率を大幅に向上させることができる。
【0032】
そして、抽出溶液における、第4級アンモニウム塩抽出剤、ナフテン系炭化水素、芳香族炭化水素の混合割合が、20:20:60〜20:32:48となるように調製されていることが好ましい。ナフテン系炭化水素の割合が20以下の場合には、抽出溶液と水との比重差が小さくなるので、ナフテン系炭化水素を混合したことによる十分な相分離効果が得られなくなる。一方、ナフテン系炭化水素の割合が32%以上の場合には、油相が2相に分離してしまうという問題が生じる。しかし、上記割合とすれば、バナジウムの回収効率を高く維持したまま、上述した問題が生じることを防ぐことができる。
【0033】
そして、芳香族炭化水素として、芳香族炭化水素の混合物(例えば、ソルベッソ200:エクソン化学株式会社製)を使用し、ナフテン系炭化水素として、その成分が、飽和炭化水素が99質量%以上、芳香族炭化水素が1質量%以下のもの(例えば、テクリーンN20:新日本石油製)を使用すれば、バナジウムの抽出作業における抽出作業、逆抽出作業、酸付加作業における相分離効果が高くなるので、より好ましい。
【実施例1】
【0034】
本発明の抽出溶液において、希釈剤中のナフテン系炭化水素および芳香族炭化水素の混合割合が抽出剤の性質に与える影響を確認した。
実験では、希釈剤のナフテン系炭化水素、芳香族炭化水素として、それぞれソルベッソ200(エクソン化学株式会社製)、テクリーンN20(新日本石油製)を使用し、抽出剤であるTOMACと希釈剤との混合割合を一定(20:80)にした状態で、希釈剤中のソルベッソ200とテクリーンN20の混合割合を変化させた。
【0035】
混合溶液の性質は、比重と粘度を測定した。
比重は、標準比重計によって測定した。
また、粘度は粘度計(山一電機(株)製:ビスコメイトVM-1G-L)によって測定した。
【0036】
表1に結果を示す。
表1に示すように、希釈剤中のテクリーンN20の混合割合を上げると、比重、粘度がともに低下し、その減少傾向が直線的であることが確認できた。
【実施例2】
【0037】
本発明の抽出溶液において、希釈剤中のソルベッソ200とテクリーンN20の混合割合が、バナジウムの溶媒抽出工程の各作業における相分離時間に与える影響を確認した。
【0038】
実験では、処理溶液に本発明の抽出溶液または従来の抽出溶液(テクリーンN20を含まないもの)とを混合した混合溶液について、抽出作業、逆抽出作業、酸付加作業の各作業を行った。そして、各作業において、処理溶液(水相)と抽出溶液(油相)とに完全に分離するまでの時間を測定した。
また、抽出溶液は、TOMACと希釈剤との混合割合を一定(20:80)にした状態で、希釈剤中のソルベッソ200とテクリーンN20の混合割合を変化させて、混合割合の違いによる分離時間の変化を比較した。
【0039】
なお、使用した処理溶液(抽出始液)は、Mo:20g/l、Va:15〜18g/lを含有するソーダ塩溶液である。
混合溶液の混合分離は、メスシリンダ内で行った。具体的には、処理溶液と抽出溶液を同量(例えば、100mlずつ)メスシリンダ内に入れて振って混合し、その後、静置して相分離させた。そして、混合溶液が処理溶液(水相)と抽出溶液(油相)とに完全に分離したか否かについて、目視により確認した。
【0040】
表2に結果を示す。
表2に示すように、希釈剤中のテクリーンN20の混合割合が増加することによって、各作業での相分離時間が短くなっていることが確認できる。しかも、テクリーンN20が混合されていない場合には、抽出作業、逆抽出作業、酸付加作業の中で、逆抽出作業の相分離時間が最も長時間を要したが、テクリーンN20を混合することによって、逆抽出作業の相分離時間が最も短くなることが確認できた。つまり、テクリーンN20を添加することによって、最も相分離に時間が掛かっていた作業である逆抽出作業の相分離時間を大幅に短縮することができることが確認できた。
【0041】
したがって、希釈剤中にテクリーンN20が混合されている本発明の抽出溶液では、相分離を行う各作業において処理能力を向上でき、とくに逆抽出作業での処理能力を大幅に向上できることが確認できた。
よって、本発明の抽出溶液を使用すれば、バナジウムの溶媒抽出工程全体の処理能力を大幅に向上でき、バナジウムを効率よく分離回収ができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のバナジウムの溶媒抽出法は、使用済触媒や火力発電所の焼却灰やバナジウム電解液をからバナジウム回収するに適している。
【符号の説明】
【0043】
V バナジウム
Mo モリブデン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナジウムを含有する処理溶液からバナジウムを抽出するための抽出溶液であって、
前記抽出溶液が、
第4級アンモニウム塩抽出剤と、希釈剤とを混合したものであり、
該希釈剤が、芳香族炭化水素およびナフテン系炭化水素を含有するものである
ことを特徴とするバナジウムの抽出溶液。
【請求項2】
前記抽出溶液は、
第4級アンモニウム塩抽出剤、ナフテン系炭化水素、芳香族炭化水素の混合割合が、20:20:60〜20:32:48となるように調製されている
ことを特徴とする請求項1記載のバナジウムの抽出溶液。
【請求項3】
前記第4級アンモニウム塩抽出剤が、トリオクチルメチルアンモニウムクロライドであり、
前記芳香族炭化水素が、芳香族炭化水素の混合物であり、
前記ナフテン系炭化水素は、その成分が、飽和炭化水素が99体積%以上、芳香族炭化水素が1体積%以下である
ことを特徴とする請求項1または2記載のバナジウムの抽出溶液。
【請求項4】
バナジウムを含有する処理溶液から、抽出溶液を利用してバナジウムを抽出する方法であって、
前記抽出溶液が、
請求項1、2または3記載の抽出剤である
ことを特徴とするバナジウムの溶媒抽出法。
【請求項5】
前記処理溶液が、
使用済脱硫触媒をアルカリ焙焼して得られた焙焼物を水で溶解したソーダ塩溶液である
ことを特徴とする請求項4記載のバナジウムの溶媒抽出法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−94219(P2011−94219A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252091(P2009−252091)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(502109164)日本キャタリストサイクル株式会社 (7)
【Fターム(参考)】