説明

バラスト固化層の形成方法

【課題】 有道床軌道におけるバラスト層を固化させるための注入材を、所定の範囲でバラストの間隙中に確実に充填する。
【解決手段】 注入領域を平面的に分割する線に沿って第1の注入材をバラスト層2aの表面から間隙中に流下させて、バラスト層内に硬化した注入材による堰21を形成する。この第1の注入材は、下方への流下および側方への流動が一定範囲内に抑制されるように、流動性が急減する時間及び粘性が調整されたものとする。上記堰によって分割された領域のそれぞれに、流動性を失うまでの時間が前記第1の注入材より長い第2の注入材を供給し、バラスト層内の間隙中に浸透させて硬化させる。このとき、第2の注入材は流動性が高く、表面22は水平になるが、堰で分割されたそれぞれの範囲について充填する注入材の表面の高さを設定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有道床軌道における道床バラストを安定化する方法に関するものであり、特にバラスト層内の間隙中に硬化性を有する注入材を充填し、固化されたバラスト層を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道用の有道床軌道(バラスト軌道)は、経済性に優れ、配線変更容易性といった利点によって古くから用いられており、近年スラブ軌道等も開発されているものの、既設営業線では今も多く利用されている。有道床軌道は、列車運行の衝撃を道床バラストの変形により吸収する構造のため、沈下による軌道狂いが発生し、常に保守作業が不可欠である。そのため、保守の省力化を目的とした道床バラストの安定化工法がいくつか提案されている。中でも道床バラストの間隙に加熱アスファルトや急硬性モルタルを充填して固化させる方法は、既に使用されている軌道に適用することが可能であり、採用されることが多い。
【0003】
また、バラスト層内の間隙中に効率良く注入材を充填する方法が提案されており、例えば、特許文献1に記載の発明では、道床バラスト内にほぼ水平に不織布等を敷いて注入材を充填する範囲を制御し、充填により形成される固化層の厚さを限定している。また、不織布は注入材の一部が浸透するものを用い、注入材の充填範囲とこれに隣接する範囲のバラストとを一体とするものである。
【0004】
また、特許文献2には、枕木に上下方向の貫通孔を設けておき、注入材をこの貫通孔から枕木の下側のバラスト層内に注入する技術が記載されている。これにより、最も列車荷重が作用する枕木の下部のバラスト層を効率良く強化するものである。
【特許文献1】特公昭63−51201号公報
【特許文献2】特開2002−242104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記にように充填時には流動性の高い注入材をバラスト層の間隙中に充填する方法では、次に示すような解決が望まれる課題がある。
注入材はバラスト層内に間隙を残すことなく充填することが望ましく、流動性の高いものが一般に用いられる。このため、バラスト層内で注入材は水平方向に流動し易い。ところが軌道の曲線部は、図10に示すように横断方向の勾配(カント)を有しており、枕木101が傾斜して配置されるとともにバラスト層102の表面も傾斜している。このため、バラスト層102内に注入材を充填すると、注入材が流動して曲線の内側つまり表面が傾斜したバラスト層の下方部のみに注入材103が溜まり、傾斜の上方部つまり曲線の外側では、バラスト層の表面近くまで注入材を充填するのが難しくなってしまう。
【0006】
このような不都合に対し、バラスト層内の鉛直方向に板材やシート状の部材を埋め込み、注入材の流動を堰き止める方法が考えられるが、枕木の周囲を埋めるようにバラストを堆積させる作業中に、上記のような板材やシート状の部材を埋め込むことは作業の効率を著しく損なうものである。また、多くの枕木が軌道の方向に多数配列されており、軌道の方向に板材又はシート状の部材を連続して配置するためには、配列された枕木に合わせて隙間が生じないように板材やシート状の部材の形状を調整する必要があり、その作業には多くの労力を要するものとなる。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、バラスト層を固化させるための注入材を、所定の範囲に確実に充填することができるバラスト固化層の形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 有道床軌道におけるバラスト層内に硬化性を有する注入材を充填し、バラストの固化層を形成する方法であって、 所定深度までバラスト層内の間隙を流下可能な流動性を有するとともに、下方への流下が制限された後は側方への流動が抑制されるように、流動性が急減する時間及び粘性が調整された第1の注入材を用い、 注入領域を平面的に分割する線に沿って前記第1の注入材をバラスト層の表面から間隙中に流下させて、バラスト層内に硬化した注入材による堰を形成し、 該堰によって分割された領域のそれぞれに、流動性を失うまでの時間が前記第1の注入材より長い第2の注入材を供給し、バラスト層内の間隙中に浸透させて硬化させるバラスト固化層の形成方法を提供する。
【0009】
この方法では、バラスト層に供給する第1の注入材を表面から流下させると、バラスト層内の間隙に沿って下方に自然流下し、所定の深度に到達する。そして、この第1の注入材は、粘性および流動性を失う時間が調整されているので、バラスト層の底部又は注入材の充填範囲を規制する部材等によって下方への流下が制限された後は、側方へ大きく流動する前に流動性が急減する。このため、第1の注入材はその位置に留まり、後から流下してくる第1の注入材が先行する注入材の上部に重なるように堆積される。このようにして第1の注入材はバラスト層内の所定の範囲で堆積した状態で硬化し、注入領域を平面的に分割する線に沿ってバラスト層内で堰を形成する。
【0010】
その後、分割されたそれぞれの範囲で、第2の注入材をバラスト層内に供給し、その流動性によって間隙中に充填する。このとき第2の注入材の表面は、流動性が良好であることによってほぼ水平になるが、上記第1の注入材で形成された堰によって注入範囲は分割されており、それぞれの分割された範囲内で第2の注入材の表面の位置を設定することができる。したがって、バラスト層の表面が傾斜している場合であっても、それぞれの範囲で表面近くまで第2の注入材を充填することが可能となる。
【0011】
なお、上記第1の注入材で形成する堰は、軌道を横断する方向の勾配によってバラスト層の表面が傾斜している場合に限定されず、縦断勾配によって傾斜している場合であってもよい。また、バラスト層の表面に傾斜がない場合であっても、注入範囲を限定する場合等において、その境界部に第1の注入材を流下して堰を形成してもよい。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の固化層形成方法において、 前記堰は、軌道の曲線部で該軌道の方向に沿って設けるものとする。
【0013】
この方法では、軌道の曲線部でバラスト層の表面が傾斜し、曲線の外側で表面が高くなっていても、軌道の方向に設けられた堰によって分割されたそれぞれの範囲でバラスト層内の間隙中に第2の注入材を充填することができる。したがって、曲線の外側ではバラスト層の表面近くの高い位置まで第2の注入材を充填することができる。また、曲線の内側では、バラスト層の表面が低い位置にあるが、表面近くの適切な高さまで注入材を充填し、バラスト層上に注入材が溢れることもない。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載のバラスト固化層の形成方法において、 前記バラストを固化させる範囲は、該バラスト上に配列された枕木の底面とほぼ平行となるようにバラスト層内の所定の深さに介挿され、側縁部でバラスト層の表面まで曲げ上げられたシート状部材より上部とする。
【0015】
この方法では、シート状の部材を所定の深度に予め敷くことにより、注入材がこのシート状部材より下方に流下するのが制限され、これより上部の限定された範囲に注入材が充填される。従って、枕木の下側の負荷が大きく作用する範囲に限定して効率よくバラスト固化層を形成することができる。
また、上記シート状部材は、第2の注入材がある程度透過して下層に浸透するものを用いることもでき、この浸透した注入材でシート状部材より下側のバラストの一部とシート状部材より上側のバラストとが結合されるものであってもよい。
なお、上記シート状部材としては、不織布、織布等を用いることができ、ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン等の合成繊維で形成されたものを用いるのが望ましい。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項1、請求項2又は請求項3に記載のバラスト固化層の形成方法において、 前記第1の注入材と第2の注入材とは、少なくともセメントを含む同じ材料を混合したものであり、第1の注入材にはさらに水ガラスを主成分とする硬化速度調整材を混合して流動性の急減時間を調整するものとする。
【0017】
この方法では、第1の注入材がセメントを含み、これに水ガラスを添加することによって、セメント中のカルシウムイオンと水ガラス(珪酸ソーダ)とが反応し、ケイ酸塩の生成及びケイ酸イオンの重合によって急速にゲル化する。これにより第1の注入材の流動性は失われ、バラスト層内で横方向へ大きく流動することなく堆積され、バラスト層内に堰が形成される。また、この方法では堰を形成する第1の注入材を構成する材料と、後から充填する第2の注入材を構成する材料とがほぼ共通していることにより、分割して充填しても双方が硬化した後には一体となり、それぞれの力学的な特性も近いものとなる。したがって、均一な固化層とすることができる。
なお、上記構成において、セメントはポルとランドセメントの他、高炉セメント、シリカセメント、アルミナセメント等の特殊セメントを含むものである。
【0018】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4までのいずれかに記載のバラスト固化層の形成方法において、 前記第1の注入材は、少なくともセメントと急硬性混和剤と水とを含むものとし、 前記水ガラスは、前記セメントと急硬性混和剤との合計重量に対して0.5〜1.0重量%を溶液として供給する。
【0019】
水ガラスの添加量をセメントと急硬性混和剤との重量に対して0.5から1.0重量%とすることにより、ゲル化時間をほぼ3分以内にすることができる。これにより、バラスト層内に流下したときに横方向への流動が抑制され、バラスト層内で適切に堰が形成される。
なお、上記第1の注入材及び第2の注入材は、いずれも充填の直前に2液を混合して形成するのが望ましい。注入材は早期の強度発現が必要となる場合が多く、セメントの硬化を促進する急硬性混和剤を用いるものであり、急硬性混和剤とセメントとを混合した後は速やかに充填する必要がある。このため、セメントと急硬性混和剤とは、分離した状態で水と混合しておき、充填の直前にこれらの2液を混合するのがよい。
【0020】
請求項6に係る発明は、請求項1から請求項5までのいずれかに記載のバラスト固化層の形成方法において、 前記注入材は、セメントと、アスファルト乳剤と、ポリマーと、細骨材と、急硬性混和剤と、水とを含むものであり、水の量の調整によって流動性を調整するものとする。
【0021】
上記注入材は常温で充填が可能であり、充填性及び作業性が良好で、バラスト層内の間隙中に確実に充填することができる。また、セメントの硬化によって十分な強度と剛性を得ることができ、アスファルトを含むことによって硬化した注入材が割れるのを抑制することができる。
また、充填時の流動性は、添加する水の量によって適切に調整することができ、第1の注入材では、バラスト層内に流下した時の横方向への流動を調整することできる。また、第2の注入材では、バラスト層内の間隙中に確実に充填されるように適切な流動性を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明に係るバラスト固化層の形成方法では、粘性と流動性を失う時間とが調整された第1の注入材により、バラスト層内に堰を容易に形成することができる。そして、流動性の高い第2の注入材は、上記堰で分割された範囲に流し込むことにより、供給された注入材の表面の高さを分割された範囲毎に設定することができ、バラスト層の表面が傾斜している領域であっても、バラスト層の表面近くまで適切に注入材を充填することができる。したがって、所定の範囲を注入材によって適切に固化したバラスト層を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る方法によって形成された有道床軌道の一例を示す概略断面図である。
この有道床軌道は、締め固められた路盤1上にバラストを敷き均してバラスト層2を形成し、これを所定の高さまで盛り上げた上に枕木3を配列している。そして、この枕木3上にレール4を締結して軌道としたものである。この軌道は曲線部において、図1に示すように軌道を横断する方向に勾配(カント)を有するものとなっており、バラスト層2を盛り上げる高さが外側で高く、内側で低く設定されている。枕木3は、この勾配に従って傾斜して配置されている。
【0024】
上記バラスト層2内における所定の深さには、上記枕木3の底面とほぼ並行となるように不織布5が埋め込まれており、軌道の両側部すなわち枕木3の端面より側方において上方に曲げ上げられ、バラスト層2の表面まで連続するように配置されている。そして、この不織布5より上方のバラスト層2aは、間隙中に注入材が充填されて固化している。レール4上に作用する列車荷重は枕木3を介してバラスト層2に作用するが、上記のように枕木3の下面と接触する部分及びその周辺部分が注入材によって固化され、鉛直方向の荷重によるバラストの側方への移動が拘束されるものとなっている。したがって、バラストの移動によるレール4の沈下等が抑制され、維持管理における省力化が可能な軌道となっている。
【0025】
次に、上記有道床軌道を形成する方法、特にバラスト層2a内に注入材を充填し、固化層とする方法について説明する。
転圧された路盤1上にバラストを所定の高さまで敷き均し、この上に不織布5を敷設する。そして、さらに不織布5の上にバラストを敷きならすとともに枕木3を配置し、これらの周辺部にもバラストを堆積する。上記不織布5の側縁部は上方に曲げ上げてバラスト層の表面まで連続するものとし、注入材を充填する範囲を限定する。枕木3には定着装置によってレールを締結し、鉄道用の軌道とする。そして、上記不織布5の上側のバラスト層内に注入材を流し込み、間隙を注入材で充填する。
なお、既設の軌道に本発明を適用するときには、既に配置されている枕木の周辺及び下側のバラストを一端排除する。その後、上記と同様にバラストの敷き均し及び不織布の敷設を行って注入材を充填する。
【0026】
注入材の充填は、次のように行う。
まず、軌道の方向に沿った分割線を設定して横断方向における充填範囲を複数の部分に分割する。この分割線の位置は、横断方向に勾配を有するバラスト層2aの表面に対して、充填された注入材の表面が水平になったときに、分割された範囲内のいずれの位置でも、注入材の表面の高さとバラスト層の表面の高さとの差が許容される範囲となるように設定する。また、分割線は、上記軌道方向の分割線に加えて、軌道の横断方向に設定し、注入材の充填範囲を区分するように設けてもよい。
【0027】
上記分割線に沿って、図2に示すように第1の注入材をバラスト層2aの上方からノズル6を介して流し込み、バラストの間隙中を流下させる。
第1の注入材は、ポリマー入り急硬性セメントアスファルトモルタル、すなわち、普通ポルトランドセメント、アスファルト乳剤、ポリマー、急硬性混和剤、細骨材及び水を混合したものであり、凝結調節材、消泡剤等を適宜に添加して用いることができるものである。
この第1の注入材の混合は、図3に示すように、A液とB液とに分けてそれぞれをミキサ11,12で混合し、充填の直前にこれらを混合して用いるものである。つまり、それぞれミキサ11,12で混合されたA液とB液とは圧送ポンプ13,14により搬送管15,16を介して圧送し、流量コントロール装置17において所定の割合でA液とB液とを混合する。そして、先端ミキサ18を通過するときに撹拌混合してバラスト層中に流し込む。
ミキサ11,12で混合するそれぞれの液の配合の一例は表1及び表2に示すとおりである。
【表1】

【0028】
【表2】

さらに、第1の注入材には、先端ミキサ18において、水ガラス(珪酸ソーダ)の水溶液が供給される。水ガラスは、セメント中のカルシウムイオンと反応してケイ酸塩の形成及びケイ酸イオンの重合によって急速にゲル化し、流動性を失う。ゲル化時間と水ガラスの添加量との関係は図4に示すとおりであり、ポルトランドセメントと急硬性混和剤との合計量に対して0.5重量%以上添加することにより、注入材の流動性を短時間で急減することができる。特に水ガラスを0.9〜1.0重量%を添加することにより、ゲル化時間を約1分以内とすることができる。
【0029】
上記のようにA液とB液とを混合し、さらに水ガラスを添加した第1の注入材は、ノズルから吐出し、バラスト層2aに設定された分割線に沿って上方から流下させる。バラスト層2aに供給された第1の注入材は、バラスト層2a内の間隙中を流下し、所定深さに介挿された不織布5に到達する。これにより、不織布5より下方への流下は制限されるとともに、側方へ大きく流動する前に水ガラスのゲル化が生じ、流動性を失う。そして、その後さらに流下してくる注入材はゲル化した注入材の上に到達するとともに、同様にゲル化して流動性を失い、堆積する。これにより、分割線に沿って流下した第1の注入材は、図5に示すようにバラスト層内で山状に堆積し、頂部がバラスト層2aの表面近くに達する堰21を形成する。
【0030】
上記のように第1の注入材によってバラスト層内に堰21が形成されると、この堰で分割されたそれぞれの領域に第2の注入材を流し込み、間隙中に充填する。
第2の注入材は、第1の注入材と同じものを用いるが、水ガラスは添加しない。そして、ミキサ11,12による混合、圧送ポンプ13,14による圧送、2液の混合等も第1の注入材と同様に行う。
【0031】
バラスト層内に供給された第2の注入材は、第1の注入材のように急速に流動性を失うことはなく、バラスト層2a内の間隙を流動し、間隙中に充填される。そして、図6に示すように液状の注入材の表面22はほぼ水平となる。このとき分割されたそれぞれの領域は、堰21によって区分されているので液面の高さを変えることができ、バラスト層2aの表面が傾斜している場合に、バラスト層の表面が高い位置にある領域では液面も高く、低い領域では液面も低く設定することができる。したがって、バラスト層内の間隙中に注入材をほぼ完全に充填することが可能となる。
【0032】
バラスト層内の間隙中に充填された第1の注入材及び第2の注入材は、いずれもがポルトランドセメントと急硬性混和剤を含んでいるので短い時間で硬化が始まり、強度が発現する。また、アスファルト乳剤も分解反応が進んで硬化し、強度が発現する。したがって、供用中の軌道に用いた場合には、夜間に注入した後、明朝には供用を再開することが可能となる。
【0033】
また、第1の注入材と第2の注入材とは、水ガラスの添加の有無以外はほぼ同じ配合となっているので、密着して硬化したときに一体となって均質な固化層を形成する。このため、注入材の充填によって形成されたバラスト固化層は、上記のように一端堰を形成して充填しても、均一な層とすることができる。
【0034】
なお、上記実施形態において、軌道の方向に堰21を形成するときには、多数が配列された枕木3の下側及び側部に密着するように第1の注入材を流し込んで、第2の注入材が枕木3の下側から漏出しないように堰を形成する必要がある。つまり、第1の注入材は横方向への流動が抑制されるものとなっているので枕木の下側には第1の注入材が充填され難く、図7に示すように枕木3の下側に第1の注入材が充填されていない部分23が生じ易い。これに対し、第1の注入材の流動性、硬化までの時間等を適切に調整することによって、上記のような充填されていない部分が生じるのを防止することができるが、このような充填されていない部分が生じるのを適切に防止するために、次に示すような対策を採用することもできる。
【0035】
第1の対策として、枕木3の分割線状の位置に、図8に示すように鉛直方向の貫通孔3aを設けておき、第1の注入材をこの貫通孔3aから流し込んで枕木3の下側に堰21を形成することが考えられる。また、既設の軌道の改修において枕木3に上記のような貫通孔を設けることができない場合には、図9に示すように、枕木3の側部から下側に達する注入管24を埋め込んでおき、この注入管24を介して枕木3の下側に第1の注入材を圧入することが考えられる。そして、注入管は注入材の充填後に引き抜く。このような対策により、枕木3の周辺に完全な堰を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本願発明に係る方法で形成された有道床軌道の一例を示す横断面図である。
【図2】図1に示す有道床軌道を形成する工程であって、設定した分割線に沿ってバラスト層に注入材を供給する状態を示す概略図である。
【図3】注入材の混合工程を示す概念図である。
【図4】水ガラスが添加された注入材のゲル化時間と水ガラス添加量との関係及び注入材の圧縮強度と水ガラス添加量との関係を示す図である。
【図5】図1に示す有道床軌道を形成する工程であって、第1の注入材によってバラスト層内に堰を形成した状態を示す概略図である。
【図6】図1に示す有道床軌道を形成する工程であって、第2の注入材をバラスト層内に充填した状態を示す概略図である。
【図7】有道床軌道の縦断面図であって、第1の注入材によってバラスト層内に堰を形成したときに生じ易い問題点を示す図である。
【図8】図7に示す問題点を解決する手段を示す概略断面図である。
【図9】図7に示す問題点を解決する他の手段を示す概略断面図である。
【図10】バラスト層内に注入材が充填された有道床軌道の横断面図であって、本発明が解決しようとする問題点を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1:路盤、 2:バラスト層、 3:枕木、 4:レール、 5:不織布、 6:ノズル、
11,12:ミキサ、 13,14:圧送ポンプ、 15,16:搬送管、 17:流量コントロール装置、 18:先端ミキサ、
21:堰、 22:バラスト層内に充填された注入材の表面、 23:第1の注入材が充填されていない部分、 24:注入管



【特許請求の範囲】
【請求項1】
有道床軌道におけるバラスト層内に硬化性を有する注入材を充填し、バラストの固化層を形成する方法であって、
所定深度までバラスト層内の間隙を流下可能な流動性を有するとともに、下方への流下が制限された後は側方への流動が抑制されるように、流動性が急減する時間及び粘性が調整された第1の注入材を用い、
注入領域を平面的に分割する線に沿って前記第1の注入材をバラスト層の表面から間隙中に流下させて、バラスト層内に硬化した注入材による堰を形成し、
該堰によって分割された領域のそれぞれに、流動性を失うまでの時間が前記第1の注入材より長い第2の注入材を供給し、バラスト層内の間隙中に浸透させて硬化させることを特徴とするバラスト固化層の形成方法。
【請求項2】
前記堰は、軌道の曲線部で該軌道の方向に沿って設けることを特徴とする請求項1に記載のバラスト固化層の形成方法。
【請求項3】
前記バラストを固化させる範囲は、該バラスト上に配列された枕木の底面とほぼ平行となるようにバラスト層内の所定の深さに介挿され、側縁部でバラスト層の表面まで曲げ上げられたシート状部材より上部であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のバラスト固化層の形成方法。
【請求項4】
前記第1の注入材と第2の注入材とは、少なくともセメントを含む同じ材料を混合したものであり、第1の注入材にはさらに水ガラスを主成分とする硬化速度調整材を混合して流動性の急減時間を調整することを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3に記載のバラスト固化層の形成方法。
【請求項5】
前記第1の注入材は、少なくともセメントと急硬性混和剤と水とを含むものとし、
前記水ガラスは、前記セメントと急硬性混和剤との合計重量に対して0.5〜1.0重量%を溶液として供給することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載のバラスト固化層の形成商法。
【請求項6】
前記注入材は、セメントと、アスファルト乳剤と、ポリマーと、細骨材と、急硬性混和剤と、水とを含むものであり、水の量の調整によって流動性を調整することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載のバラスト固化層の形成方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−283500(P2006−283500A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−108054(P2005−108054)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(390019998)東亜道路工業株式会社 (42)
【出願人】(505124155)株式会社TACエンジ (1)
【Fターム(参考)】