説明

バリア性に優れた合成樹脂製容器

【課題】長期に亘って保管しても、未延伸部に白濁が生じることがない、バリア性に優れた合成樹脂製容器を提供する。
【解決手段】本発明のPETボトルは、PETからなる基材層11と、この基材層11よりも気体透過性の低いバリア層12とを有し、このバリア層12を、メタキシレン基含有ポリアミドからなるバリア材に、メタキシレンイソフタラミド構造とヘキサメチレンイソフタラミド構造を有する非晶性ポリアミドを含有させる。この非晶性ポリアミドには、メタキシレンジアミンとイソフタル酸との共重合体(MXDI)と、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸との共重合体(6I)とのコポリアミドを用いバリア層12における非晶性ポリアミドの含有率を、15重量パーセント以上、25重量パーセント以下の範囲とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂からなる基材層と、この基材層よりも気体透過性の低いバリア層とを有する、バリア性に優れた合成樹脂製容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PET(ポリエチレンテレフタレート)ボトルに代表される合成樹脂製容器は、僅かながらも酸素や炭酸ガス等を透過させることが知られており、これの阻止を目的に、PET樹脂からなる基材層に、ガスバリア層を積層したものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2007−8582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、こうした容器をブロー成形する場合、当該製品を長期に亘って保管しておくと、未延伸部(例えば、ブロー成形品がボトルである場合、そのネック部)に白濁を生じる場合がある。こうした白濁は、容器本来の性能には何ら問題がないものの、容器の外観が悪くなるという問題がある。
【0004】
これに対し、本願発明者は、白濁の原因がガスバリア層にあることを見出した。例えば、ガスバリア層の材料としてメタキシレンジアミンとアジピン酸の縮重合により得られるポリアミドMXD6(三菱ガス化学株式会社製)を用いた場合を例にすると、白濁の原因は、MXD6の結晶化にある。また、MXD6の結晶化は、MXD6の水分率が上昇することでガラス転移温度と結晶化温度が低下すると促進される。
【0005】
そこで、本願発明者は、少なくともガスバリア層の結晶化温度を向上させれば、未伸延部での白濁の発生を抑制することができることを認識するに至った。
【0006】
本発明の解決すべき課題は、基材層とバリア層とを有しバリア性に優れた合成樹脂製容器をブロー成形し、長期に亘って保管しておくと、未延伸部に白濁が生じることにあり、
本発明の目的は、長期に亘って保管しても、未延伸部に白濁が生じることがない、バリア性に優れた合成樹脂製容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明である、バリア性に優れた合成樹脂製容器は、合成樹脂からなる基材層と、この基材層よりも気体透過性の低いバリア層とを有する、バリア性に優れた合成樹脂製容器において、前記バリア層は、結晶化ピーク温度が150℃以上の合成樹脂からなることを特徴とするものである。
【0008】
なお、「結晶化ピーク温度」とは、示差走査熱量計(DSC)を使用して結晶化による発熱量を測定し、この発熱量特性を基に算出した温度であるが、本発明では、20℃から10℃/minの昇温速度で270℃まで加熱して、その状態を5分間維持した後、一旦20℃まで氷冷し、更に、20℃から10℃/minの昇温速度で270℃まで加熱した後の結晶化ピーク温度をいう。
【0009】
また、結晶化ピーク温度の更に好適な範囲としては、150℃以上、且つ、170℃以下の範囲である。
【0010】
本発明に係るバリア層としては、メタキシレンイソフタラミド構造とヘキサメチレンイソフタラミド構造を有する非晶性ポリアミドを含有し、この非晶性ポリアミドがバリア層に含有される比率が、15重量パーセント以上、25重量パーセント以下の範囲にあるものが挙げられる。
【0011】
バリア層の具体例としては、前記非晶性ポリアミドと、基材層を構成する材質よりも気体透過性の低いバリア材とからなり、このバリア材がメタキシレン基含有ポリアミドであるものが挙げられる。また、メタキシレン基含有ポリアミドとしては、メタキシレンジアミンとアジピン酸を縮重合して得られるポリアミドが挙げられる。
【0012】
これに対し、前記非晶性ポリアミドとしては、メタキシレンジアミンとイソフタル酸との共重合体(MXDI:ポリメタキシレンイソフタラミド)と、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸との共重合体(6I:ポリヘキサメチレンイソフタラミド)とのコポリアミド(MXDI/6I)が挙げられる。更に、前記基材層としては、ポリエチレンテレフタレートにより構成されたものが挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に従って、バリア層として、20℃から10℃/minの昇温速度で270℃まで加熱して、その状態を5分間維持したのち、一旦20℃まで氷冷し、更に、20℃から10℃/minの昇温速度で270℃まで加熱したときの結晶化ピーク温度が150℃以上である合成樹脂を用いれば、ブロー成形品として長期に亘って保管しておいても、その未伸延部が白濁し難くなる。
【0014】
即ち、本発明によれば、長期に亘ってガスバリア性能を発揮しつつ美感を損うことがない。従って、本発明によれば、長期に亘って保管しても白濁を生じ難い、バリア性に優れた合成樹脂製容器を提供することができる。
【0015】
また、前記バリア層として、メタキシレンイソフタラミド構造と、ヘキサメチレンイソフタラミド構造を有する非晶性ポリアミドを含有し、この非晶性ポリアミドがバリア層に含有される比率が、15重量パーセント以上、25重量パーセント以下の範囲の合成樹脂を用いれば、上述した白濁防止の効果を容易な方法で実現することができる。
【0016】
更に、前記バリア層が、前記非晶性ポリアミドと、基材層を構成する材質よりも気体透過性の低いバリア材とからなるとき、このバリア材として、メタキシレン基含有ポリアミドを用いれば、白濁の防止に優れた効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る非晶性ポリアミドとして、メタキシレンジアミンとイソフタル酸との共重合体(MXDI)、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸との共重合体(6I)とのコポリアミドを用いれば、白濁の防止に優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の一形態を詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明に従うPETボトル1を一部断面で示す側面図である。
【0020】
符号1は、口部2、ネック3、肩部4、胴部5及び底部6よりなるブロー成形ボトル(以下、「ボトル」と略称する)である。かかるボトル1は、図の領域Xに示すように、ボトル本体の基本形状を形作る基材層11を内層及び外層とし、これら基材層11の間に、ガスバリア層12が介在する積層体である。
【0021】
基材層11は、ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、「PET樹脂」という)又はPET樹脂を主成分とする合成樹脂からなる。
【0022】
ガスバリア層12には、20℃の状態から昇温速度10℃/minで270℃まで加熱して、その状態を5分間維持した第一工程(以下、「1st_Run」という)を経た後、一旦、20℃まで氷冷し、更に、20℃から昇温速度10℃/minで270℃まで加熱した第二工程(以下、「2nd_Run」という)後の結晶化ピーク温度Tpcが150℃以上、且つ、170℃以下の範囲にある合成樹脂を用いる。
【0023】
具体例としては、基材層11よりも気体透過性が低いバリア材を主成分に、メタキシレンイソフタラミド構造とヘキサメチレンイソフタラミド構造を有する非晶性ポリアミド(以下、「非晶性ポリアミド」という。)を含有させたものを用いる。
【0024】
また、バリア材にはメタキシレン基含有ポリアミドが挙げられ、例えば、メタキシレンジアミンとアジピン酸との共重合体により構成される。
【0025】
これに対し、非晶性ポリアミドには、例えば、メタキシレンジアミンとイソフタル酸との共重合体(MXDI)、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸との共重合体(6I)のコポリアミドが挙げられる。
【0026】
ガスバリア層12における非晶性ポリアミドの含有率は、15重量パーセント以上、25重量パーセント以下の範囲とする。即ち、バリア材と非晶性ポリアミドとの混合率(重量比)を、バリア材:非晶性ポリアミド=85:15〜75:25とする。
【0027】
本発明に従って、ガスバリア層12として、2nd_Runを経た後の結晶化ピーク温度Tpcが150℃以上、且つ、170℃以下の範囲にある合成樹脂を用いれば、ブロー成形品として長期に亘って保管しておいても、その未伸延部であるネック部3が白濁し難くなる。
【0028】
即ち、ボトル1によれば、長期に亘ってガスバリア性能を発揮しつつ美感を損なうことがない。従って、ボトル1によれば、長期に亘って保管しても白濁を生じ難い、バリア性に優れたブロー成形ボトルを提供することができる。
【0029】
特に、本形態のように、バリア層12として、メタキシレンイソフタラミド構造とヘキサメチレンイソフタラミド構造を有する非晶性ポリアミドを含有し、この非晶性ポリアミドがバリア層12に含有される比率が、15重量パーセント以上、25重量パーセント以下の範囲にある合成樹脂を用いれば、上述した白濁防止の効果を容易な方法で実現することができる。
【0030】
更に、本形態のように、バリア層12が、非晶性ポリアミドと、基材層11を構成する材質(本形態では、PET樹脂)よりも気体透過性の低いバリア材とからなるとき、このバリア材として、メタキシレン基含有ポリアミドを用いれば、白濁の防止に優れた効果を奏する。
【0031】
また、本形態のように、非晶性ポリアミドとして、メタキシレンジアミンとイソフタル酸との共重合体(MXDI)と、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸との共重合体(6I)とのコポリアミドを用いれば、白濁の防止に優れた効果を奏する。
【0032】
なお、本発明に従う容器の層構成は、本形態の層構成に限定されるものではなく、少なくとも基材層11とガスバリア層12との二層であればよい。また、本発明に従えば、ボトル1をガスバリア層12のみで形成してもよい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例と、その比較例とをJIS K 7121に準拠した方法で測定したときの評価を示す。
【0034】
評価に用いたサンプルは、総重量32gの500ml内容量の図1に示すボトルから基材層11を取り除き、そのネック部3にあるガスバリア層12の一部の約10mgを試験片としたものであり、測定装置には、示差走査熱量計DSC6220(SIINT社製)を使用した。
【0035】
また、以下の表1〜3に示す測定値はそれぞれ、補外結晶化開始温度Tic、結晶化ピーク温度Tpc及び補外結晶化終了温度Tecであり、添加量の単位系は、wt%(重量パーセント)である。
【0036】
また、表1〜3の測定値はいずれも、20℃の状態から昇温速度10℃/minで270°Cまで加熱して、その状態を5分間維持した「1st_RUN」を経た後、一旦、20℃まで氷冷し、更に、20℃から昇温速度10℃/minで270℃まで加熱した「2nd_RUN」後に測定した数値である。
【0037】
なお、表1は、口部2未延伸部のバリア層をサンプルとしている。また、表2は、延伸部である胴部4のバリア層をサンプルとしたものである。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
比較例1は、MXD6(三菱ガス化学株式会社製s6011)のバリア材のみからなるサンプルである。また、比較例2は、バリア材としてのMXD6と、非晶性ポリアミド(Grivory HB FE7103 EMS社製造)とを、90:10の割合で混合したサンプルである。
【0041】
これに対し、実施例1〜3はそれぞれ、比較例2と同様のバリア材及び非晶性ポリアミドを85:15、80:20、75:25としたものである。
【0042】
上記比較例1,2及び実施例1〜3をそれぞれ、水を充填し、23℃−55%RHの保存環境の下で保管したところ、比較例1については、46日目でネック部3に白濁が生じ、比較例2については70日目でネック部3に白濁が生じたが、実施例1〜3では3ヶ月経過した時点でも白濁を生じなかった。
【0043】
これに対し、記比較例1,2及び実施例1〜3をそれぞれ、水を充填し、40℃−75%RHの保存環境の下で保管したところ、比較例1,2についてはそれぞれ、8日目と11日目で、また、実施例1〜3についてはそれぞれ、12日目、14日目、14日目で、ネック部3に白濁が生じた。
【0044】
【表3】

【0045】
また、表1〜3を参照すれば、補外結晶化終了温度Tecと補外結晶化開始温度Ticとの温度幅が大きいほど、即ち、結晶化速度が遅いほど、白濁を生じ難いことが明らかである。
【0046】
また、以下の表4は、上記比較例1、実施例1〜3について、中間点ガラス転移温度Tmg、結晶化ピーク温度Tpc及び融解ピーク温度Tpmをそれぞれ、1st_Runと2nd_Runとのそれぞれで計測した結果である。
【0047】
【表4】

【0048】
更に、表5はそれぞれ、ネック部3のガスバリア層12を剥がした試験片の一部の吸水率2%付近における中間点ガラス転移温度Tmg、結晶化ピーク温度Tpc及び融解ピーク温度TpmのDSC測定による結果である。なお、吸水率は京都電子工業製 カールフィッシャー水分率計 MKC−610、測定温度180℃にて測定した。
【0049】
【表5】

【0050】
表5の結果によれば、吸水率が大きくなればガラス転移温度と結晶化温度の低下が見られる。よって未延伸部の白濁の発生は、結晶化ピーク温度Tpcに代表される結晶化温度を高めることに加え、ガラス転移温度に関しても同様のことが言えることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明容器は、ボトルに限らず、内容物の品質保持が目的とされる容器であれば、様々な形態の容器に採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に従うPETボトル1を一部断面で示す側面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 PETボトル
2 口部
3 ネック部
4 肩部
5 胴部
6 底部
11 基材層
12 ガスバリア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂からなる基材層と、この基材層よりも気体透過性の低いバリア層とを有する、バリア性に優れた合成樹脂製容器において、
前記バリア層は、結晶化ピーク温度が150℃以上の合成樹脂からなることを特徴とする、バリア性に優れた合成樹脂製容器。
【請求項2】
前記バリア層は、メタキシレンイソフタラミド構造とヘキサメチレンイソフタラミド構造を有する非晶性ポリアミドを含有し、
この非晶性ポリアミドがバリア層に含有される比率が、15重量パーセント以上、25重量パーセント以下の範囲の合成樹脂であることを特徴とする、バリア性に優れた合成樹脂製容器。
【請求項3】
請求項1において、前記バリア層は、前記非晶性ポリアミドと、基材層を構成する材質よりも気体透過性の低いバリア材とからなり、
このバリア材は、メタキシレン基含有ポリアミドであることを特徴とする、バリア性に優れた合成樹脂製容器。
【請求項4】
請求項1又は2において、前記非晶性ポリアミドが、メタキシレンジアミンとイソフタル酸との共重合体(MXDI)と、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸との共重合体(6I)とのコポリアミド(MXDI/6I)であることを特徴とする、バリア性に優れた合成樹脂製容器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項において、基材層は、ポリエチレンテレフタレートにより構成されていることを特徴とする、バリア性に優れた合成樹脂製容器。

【図1】
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【公開番号】特開2009−241983(P2009−241983A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93490(P2008−93490)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000006909)株式会社吉野工業所 (2,913)
【Fターム(参考)】