説明

バリア放電を用いた殺菌装置及び殺菌方法

【課題】ガスや薬品を用いず、放電処理のみにより数分以内の高速で殺菌処理することのできる殺菌装置及び殺菌方法を提供する。
【解決手段】誘電体で覆った平板状絶縁被覆電極と、接地電極板間にパルスあるいは交流高電圧を印加することで、両電極間にバリア放電を発生させ殺菌を行う。また、殺菌を行う対象物の表面を水あるいは過酸化水素で濡らした後、前記電極間に前記高電圧を印加して殺菌処理することにより、OHラジカルの生成を促進させ殺菌効果の向上を図った。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバリア放電を用いた殺菌装置及び殺菌方法に関するものである。
食品加工や医薬品製造、医療などの分野において殺菌技術は極めて重要な技術であり、バリア放電を用いて大気圧下での殺菌処理を行う技術に関するものである。

【背景技術】
【0002】
今まで、オゾンや過酸化水素およびアルゴンガスなど薬品やガスを用いた放電による殺菌技術がすでに確立されているが、後処理に時間やコストが必要となっている。またオゾンによる滅菌も数十分が必要である。(非特許文献1及び2参照)
【0003】
【非特許文献1】酸素ラジカルによる殺菌 水野 彰 応用物理 第72巻 第4号(2003)
【非特許文献2】大気圧放電プラズマによる殺菌技術 水野 彰 バイオサイエンスとインダストリーVol.59 No.2(‘01)
【特許文献1】公開特許公報 特開2001−104958
【特許文献2】公開特許公報 特開2002−262837
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来殺菌や滅菌を行うためには高圧蒸気、あるいはエチレンオキサイドや過酸化水素などの薬剤、放射線などが用いられている。しかし、薬品やガスなどを用いずに1分程度の短時間で殺菌や滅菌を行なう方法は現在まで報告されていない。また、放電リアクタ内をガスに置換するための前準備や、ガスや薬品を用いることによって残留物の後処理が必要となるなど、全体の処理時間が長くなってしまっている。更にはガスや薬品の残留物による安全性に関わる問題点もある。より高速で安全性・確実性の高い殺菌技術や滅菌技術が求められている。
【0005】
本発明は上記問題を鑑みなされたものであり、本発明者らの研究の結果、新たな電極構造の考案により一様なバリア放電の領域を形成し、特殊なガスや薬品を用いず、大気圧下において短時間で殺菌する装置と方法を発明するに至ったものである。

【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1記載のバリア放電による殺菌装置は、少なくとも放電面を誘電体で被覆する平板状絶縁被覆電極と、接地電極板あるいは裏面に接地電極板を置いた非導電性平板とを対向させる構成とし、前記絶縁被覆電極と接地電極板あるいは裏面に接地電極板を置いた非導電性平板との間にパルスあるいは交流高電圧を印加することによりバリア放電を発生させ、前記バリア放電中にて殺菌を行うことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載のバリア放電による殺菌方法は、請求項1記載の殺菌装置の平板状絶縁被覆電極と、接地金属板あるいは裏面に接地電極板を置いた非導電性平板との間に形成される前記バリア放電中に殺菌対象物を挿入して行うことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載のバリア放電による殺菌方法は、表面が水あるいは過酸化水素水で濡れた殺菌対象物を殺菌することを特徴とする請求項2記載の殺菌方法である。

【発明の効果】
【0009】
放電による主な殺菌要因は、生成されたラジカルによる菌の酸化や、電流、紫外線による効果が挙げられる。そして放電電圧の上昇によってこれらによる殺菌効果が上昇する。
【0010】
しかし、大気圧下における放電で電圧を一定以上に上昇させると放電形態がアーク放電に移行をしてしまい、一様な放電は不可能である。また、わずかな放電ギャップの差によって放電の偏りが起こってしまう。
【0011】
そのため高電圧放電電極の少なくとも放電面を誘電体で被覆することによって平板状絶縁被覆電極を構成し、アーク放電への移行を抑制し高電圧における一様な放電を実現した。ここで、平板状絶縁被覆電極とは放電面が平坦なものであれば良く、必ずしも板状に限定するものではなくシート状、膜状などであってもかまわない。
【0012】
接地電極板は平板金属であっても、放電面側に非導電性物質を備えた平板金属であってもかまわない。
【0013】
また、バリア放電は電圧の立ち上がり時にチャネルを形成する。そのため高周波の電源を用いることでチャネルの形成数の上昇を行い、殺菌効果を上昇させた。
【0014】
また、水分を放電場に添加することによってHOよりOHラジカルの生成が可能である。OHラジカルは非常に酸化力が高く、より高速の殺菌が可能である。放電場における水分の効果は、殺菌対象物の表面が水分で濡れていたり、殺菌対象物に含有されるものであっても、その効果を損うわけではなく、添加にこだわる必要はない。過酸化水素水の添加によりOラジカルの発生も期待されるため、更なる殺菌効果を見込む事ができる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を実施例にて説明する。

【実施例1】
【0016】
本発明に基づく殺菌装置の例を図1及び図2に示す。平板状絶縁被覆電極は、高電圧放電電極3を形成する金属板として20メッシュの10cm×10cmのステンレスメッシュを、誘電体4である厚さ3mmのアズワン株式会社製ナフロンシートと絶縁体2であるアクリル板によって挟み込み、エポキシ樹脂によって接着を行なった。高電圧放電電極3のステンレスメッシュと誘電体4との隙間を絶縁物のエポキシ樹脂で埋め、ナフロンシート(誘電体4)上でのみ放電するように加工を行なった。ナフロンシート(誘電体4)はグロー放電処理によって親水処理を行ったものを用いた。接地電極板6にはアルミ板を用い、放電ギャップを2mmとなるようにスペーサー5で調節を行なった。16kVp-p、34.6kHzの電圧を印加することによりバリア放電を発生させ殺菌処理を行った。
【0017】
殺菌検体は滅菌処理を行なった2cm×7cmのPET製のフィルム上に菌数10CFU/mlの枯草菌胞子(Bacillus subtilis spore)液0.1mlを滴下し乾燥させたものを、乾式殺菌検体として用いた。乾式殺菌検体による殺菌結果を図3に示す。結果、乾式の殺菌処理約4分で滅菌が確認された。

【実施例2】
【0018】
実施例1の殺菌装置と電圧印加条件を用い、前述のPET製フィルム上に実施例1と同じ胞子液0.1mlを滴下し、乾燥させず液体のままのものを湿式殺菌検体とした。湿式殺菌検体による殺菌結果を図4に示す。さらに、実施例1に用いた乾式殺菌検体に0.1mlの純水を滴下した検体への殺菌効果を図5に示す。結果、湿式の殺菌処理では約40秒で、水分添加による殺菌処理では約70秒で滅菌が確認された。

【産業上の利用可能性】
【0019】
この発明により、大気圧下における短時間での殺菌または滅菌処理を行なうことができる。この発明を用いることにより、従来の技術では不可能であった、リアルタイムでの殺菌または滅菌が期待される。また、包装物の袋を平板状絶縁被覆電極の誘電体や接地電極側の非導電性平板とみなして、封をした包装物内の殺菌または滅菌などへの応用も期待できる。

【図面の簡単な説明】
【0020】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも放電面を誘電体で被覆する平板状絶縁被覆電極と、接地電極板あるいは裏面に接地電極板を置いた非導電性平板とを対向させ、前記平板状絶縁被覆電極と前記接地電極板あるいは裏面に接地電極板を置いた非導電性平板との間に、パルスあるいは交流高電圧を印加することによりバリア放電を発生させ、前記バリア放電中にて殺菌を行う殺菌装置。

【請求項2】
請求項1記載の殺菌装置の平板状絶縁被覆電極と、接地電極板あるいは裏面に接地電極板を置いた非導電性平板との間に形成される前記バリア放電中に殺菌対象物を挿入して行う殺菌方法。

【請求項3】
表面が水あるいは過酸化水素水で濡れた殺菌対象物を殺菌する請求項2記載の殺菌方法。



【図1】バリア放電を用いた殺菌装置の構成を示した断面図である。
【図2】バリア放電電極用平板状絶縁被覆電極の詳細図である。
【図3】乾式条件における殺菌効果を示した結果の図である。
【図4】湿式条件における殺菌効果を示した結果の図である。
【図5】水分添加による殺菌効果を示した結果の図である。
【符号の説明】
【0021】
1高電圧電源
2絶縁体(アクリル板)
3高電圧放電電極(ステンレスメッシュ電極)
4誘電体(ナフロンシート)
5スペーサー
6接地電極板

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−239230(P2006−239230A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−60766(P2005−60766)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】