説明

バルクハウゼンノイズ検査装置およびバルクハウゼンノイズ検査方法

【課題】 検査対象物の被検査面の測定位置に起因する励磁の磁気抵抗の変化を抑制し、検査対象物のバルクハウゼンノイズの検出精度の向上を図ることができると共に、検査対象物毎に専用の部材を準備する等の管理を不要としたバルクハウゼンノイズ検査装置およびバルクハウゼンノイズ検査方法を提供する。
【解決手段】 このバルクハウゼンノイズ検査装置は、互いに接触または近接して並べられた複数個の検査対象物Wa,Wb,Wcを同時に磁化する励磁コイル1、および磁化された検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイル4を有する検出ヘッドKHを有する。さらに、バルクハウゼンノイズ検査装置は、励磁コイル1に磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源と、検出コイル4の検出した信号からバルクハウゼンノイズを検出するバルクハウゼンノイズ検出回路とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バルクハウゼンノイズを利用して非破壊検査を行うバルクハウゼンノイズ検査装置およびバルクハウゼンノイズ検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
研削焼け、残留応力、硬度、荷重などの非破壊検査を行う検査装置として、バルクハウゼンノイズを利用した種々のバルクハウゼンノイズ検査装置が提案されている(例えば特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平02−262958号公報
【特許文献2】特開2001−133441号公報
【特許文献3】特開2006−266686号公報
【特許文献4】特願2009−101638
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バルクハウゼンノイズの検出には、コの字型の励磁ヨークで検査対象物を励磁する。この励磁された検査対象物における検査表面の端部を検査するとき、励磁ヨークが検査対象物の被検査面の端部にかかる。しかし、この端部では励磁ヨークと検査対象物との接触部の面積が変化して磁気抵抗が変化してしまうため、この検査対象物における端部の検出精度が低下する問題点がある。
【0005】
この問題点を解決するため、本件出願人は、検査対象物に近接して延長部材を設け、これら検査対象物と延長部材とを同時に励磁して、検査対象物の端部を測定精度を低下させずに測定し得る技術を提案している(特許文献4)。
しかし、この技術では異なる検査対象物毎に専用の延長部材を準備する必要があり、延長部材の管理が大変になるなどの問題があった。
【0006】
この発明の目的は、検査対象物の被検査面の測定位置に起因する励磁の磁気抵抗の変化を抑制し、検査対象物のバルクハウゼンノイズの検出精度の向上を図ることができると共に、検査対象物毎に専用の部材を準備する等の管理を不要としたバルクハウゼンノイズ検査装置およびバルクハウゼンノイズ検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のバルクハウゼンノイズ検査装置は、互いに接触または近接して並べられた複数個の検査対象物を同時に磁化する励磁コイル、および磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルを有する検出ヘッドと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源と、前記検出コイルの検出した信号からバルクハウゼンノイズを検出するバルクハウゼンノイズ検出回路とを備えたものである。
前記「近接」とは、前記検出ヘッドで検出される共通の磁気回路を構成する程度に、複数個の検査対象物が互いに近くに位置することを意味する。
【0008】
この構成によると、電源から供給される交流電流により励磁コイルに交流磁界を発生させ、この励磁コイルにより複数個の検査対象物を同時に磁化する。その際に磁化された検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出コイルで検出する。検出ヘッドが検査対象物に対して相対的に移動して被検査面の端部に近づいても、複数個の検査対象物が互いに接触または近接して並べられているため、検出ヘッドが1個の検査対象物の中央部に配置されて検出コイルで検出する場合に比べて磁気抵抗の変化が小さい。このように検査対象物の中央部と端部のバルクハウゼンノイズを同じ励磁磁界で検出することができ、被検査面の品質検査精度を向上させることができる。また、検査対象物毎に専用の部材を準備する等の管理を不要とし、その分、管理コストの低減を図ることができる。
【0009】
前記励磁コイルは、コ字状の磁性体に巻かれ、この磁性体のコ字状の一端と他端とを、隣合う検査対象物にそれぞれ対向させて同時に磁化しても良い。この場合、磁性体のコ字状の一端と他端とを異なる検査対象物に接触させてこれら検査対象物を磁化することで、検査対象物を磁化する経路の磁気抵抗を一定にし得る。よって、検査対象物における検出精度の低下を未然に防止することができる。
【0010】
前記各検査対象物が円柱状であり、フレームと、このフレームに回転自在に支持され、所定間隔を空けて平行に配置される一対のローラと、これらローラを回転駆動する回転駆動源と、前記検出ヘッドをローラ軸方向に移動させる検出ヘッド移動手段とを備え、前記一対のローラの外周面上に、前記円柱状の検査対象物の外周面を支持すると共に、複数個の円柱状の検査対象物が端面にて互いに接触または近接して並ぶように配置し、前記検出ヘッド移動手段は、前記検出ヘッドを複数個の検査対象物の外周面上に沿ってローラ軸方向に移動可能に構成しても良い。
【0011】
この構成によると、回転駆動源により一対のローラを回転させて複数個の検査対象物を回転させると共に、検出ヘッド移動手段により検出ヘッドをローラ軸方向に移動させることで、検査対象物全周のバルクハウゼンノイズを検出し得る。この場合、オンライン上で研削焼け等の異常を全数検査することができるので、品質保証能力を高めることができる。
【0012】
前記バルクハウゼンノイズ検出回路で検出されたバルクハウゼンノイズから前記検査対象物の被検査面の品質を検査する品質検査手段を設けても良い。
【0013】
前記品質検査手段は、前記検査対象物の被検査面の研削焼けの検出を行う研削焼け検出手段を有するものであっても良い。焼入れにより表面が硬化した検査対象物つまりワークの最終工程での研削時、研削条件が適当でないと、ワークの温度が上昇して再焼入れ若しくは焼戻しがおきる。再焼入れでは硬くて脆い白層が発生し、焼戻しでは表面が軟化する。この現象を「研削焼け」と呼ぶ。部品に研削焼けがおこると、その箇所にクラック等が発生し、部品の品質上大きな問題になる。
【0014】
研削焼けによる焼戻しが発生した箇所では、ワークの硬度が軟化し、残留応力が圧縮力から引張力に変化する。鋼材等のワークでは、その硬度が軟化するとバルクハウゼンノイズが大きくなり、引張力を印加するとバルクハウゼンノイズが大きくなる。そのため、研削焼けによる焼戻しによりバルクハウゼンノイズは正常箇所よりも大きくなる。
研削焼けにより再焼入れが起こって、ワークに硬くて脆い白層が発生した場合でも、この白層の下部には焼戻しによる軟化した層が存在する。このため、バルクハウゼンノイズは大きくなる。
【0015】
以上説明したようにバルクハウゼンノイズを測定することで、被検査面の研削焼けの有無を検出できる。したがって、検査対象物となる部品を破壊等する必要がなく研削焼けの全数検査または抜取り検査を実施することができる。このように被検査面の研削焼けの有無を検出することで、品質検査精度の向上を図ることができる。
【0016】
前記品質検査手段は、前記検査対象物の被検査面の残留応力を検出する残留応力検出手段を有するものであっても良い。このように被検査面の残留応力を検出することで、検査対象物の硬度が軟化したか否かを判断し得る。これにより、研削焼けによる焼戻しが発生したか否かを容易に判断することができる。
前記品質検査手段は、前記検査対象物の被検査面の欠陥、傷を検出する欠陥等検出手段を有するものであっても良い。
前記品質検査手段は、前記検査対象物の被検査面の割れを検出する割れ検出手段を有するものであっても良い。
【0017】
前記品質検査手段は、バルクハウゼンノイズの検出値が、予め定められた閾値を越えたときに異常と判断するものであっても良い。例えば、バルクハウゼンノイズの振幅の最大値を検出し、この検出値が前記閾値を越えない場合、品質検査手段は研削焼け無しと判断する。検出値が前記閾値を越えたとき、品質検査手段は研削焼け有りと判断する。但し、検出値は、バルクハウゼンノイズの振幅の最大値に限定されるものではない。
【0018】
前記バルクハウゼンノイズ検出回路は、前記検出コイルが検出した信号を増幅する増幅回路と、この増幅回路により増幅した信号からバルクハウゼンノイズを抽出するフィルタ回路とを有するものであっても良い。この場合、必要な検出値を容易に且つ確実に取り出すことができ、品質検査精度の向上をより図ることができる。
【0019】
この発明のバルクハウゼンノイズ検出方法は、互いに接触または近接して並べられた複数個の検査対象物を励磁コイルにより同時に磁化し、この磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出コイルにより検出する過程と、前記検出コイルの検出した信号からバルクハウゼンノイズを抽出する過程とを有するものである。
この構成によると、互いに接触または近接して並べられた複数個の検査対象物を同時に磁化し、磁化された検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出コイルで検出するため、被検査面の中央部と端部のバルクハウゼンノイズを同じ励磁磁界で検出することができる。よって、被検査面の品質検査精度を向上させることができる。また、検査対象物毎に専用の部材を準備する等の管理を不要とし、その分、管理コストの低減を図ることができる。
【0020】
前記励磁コイルはコ字状の磁性体に巻かれ、前記バルクハウゼンノイズを検出コイルにより検出する過程では、前記磁性体のコ字状の一端と他端とを、隣合う検査対象物にそれぞれ対向させて同時に磁化しても良い。この場合、検査対象物を磁化する経路の磁気抵抗を一定にし得る。よって、検査対象物における検出精度の低下を未然に防止することができる。
【0021】
前記抽出されたバルクハウゼンノイズから、前記検査対象物の被検査面の研削焼け、残留応力、欠陥、傷、および割れのうちのいずれか1つ以上の品質検査項目を検査する過程を有するものであっても良い。このような被検査面の研削焼け、残留応力、欠陥、傷、割れを検査することで、品質検査精度の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明のバルクハウゼンノイズ検査装置は、互いに接触または近接して並べられた複数個の検査対象物を同時に磁化する励磁コイル、および磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルを有する検出ヘッドと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源と、前記検出コイルの検出した信号からバルクハウゼンノイズを検出するバルクハウゼンノイズ検出回路とを備えたため、検査対象物の被検査面の測定位置に起因する励磁の磁気抵抗の変化を抑制し、検査対象物のバルクハウゼンノイズの検出精度の向上を図ることができると共に、検査対象物毎に専用の部材を準備する等の管理を不要とできる。
【0023】
この発明のバルクハウゼンノイズ検査方法は、互いに接触または近接して並べられた複数個の検査対象物を励磁コイルにより同時に磁化し、この磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出コイルにより検出する過程と、前記検出コイルの検出した信号からバルクハウゼンノイズを抽出する過程とを有するため、検査対象物の被検査面の測定位置に起因する励磁の磁気抵抗の変化を抑制し、検査対象物のバルクハウゼンノイズの検出精度の向上を図ることができると共に、検査対象物毎に専用の部材を準備する等の管理を不要とできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の一実施形態に係るバルクハウゼンノイズ検査装置の概略構成図である。
【図2】(A)は同バルクハウゼンノイズ検査装置の平面図、(B)は同バルクハウゼンノイズ検査装置の正面図である。
【図3】(A)はこの発明の他の実施形態に係るバルクハウゼンノイズ検査装置の平面図、(B)は同バルクハウゼンノイズ検査装置の正面図である。
【図4】(A)はこの発明のさらに他の実施形態に係るバルクハウゼンノイズ検査装置の正面図、(B)は同バルクハウゼンノイズ検査装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明の一実施形態を図1および図2と共に説明する。この実施形態に係るバルクハウゼンノイズ検査装置の基本構造について説明する。以下の説明は、バルクハウゼンノイズ検査方法についての説明をも含む。このバルクハウゼンノイズ検査装置は、バルクハウゼンノイズを利用して非破壊検査を行う装置であって、検査対象物Wを磁化する励磁コイル1、および磁化された前記検査対象物Wが発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイル4を有する検出ヘッドKHと、励磁コイル1に磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源3と、バルクハウゼンノイズ検出回路6とを備えている。
【0026】
励磁コイル1と検出コイル4とは一つの検出ヘッドKHに一体化して設けられている。励磁コイル1は磁性体コア2に巻かれ、この磁性体コア2はコ字状に形成される。検出コイル4は、棒状の磁性体コア5に巻かれ、検査対象物Wの表面磁束を検出する。前記各磁性体コア2,5は、例えば、フェライト等の磁性酸化物や積層ケイ素鋼板等からなる。
コ字状の磁性体コア2の両端2a,2b、および棒状の磁性体コア5の一端5aは同一平面上に配置される。すなわち、検出ヘッドKHの検出面は、検査対象物Wの表面に対向させる平坦面とされる。この平坦面とされた検出面の同一平面上に磁性体コア2の両端2a,2b、および磁性体コア5の一端5aが配置され、且つ、これら磁性体コア2,5が検出ヘッドKH内に配置される。
【0027】
検出コイル4は、バルクハウゼンノイズ検出回路6に電気的に接続されている。このバルクハウゼンノイズ検出回路6は、検出コイル4の出力信号を増幅する増幅回路sk1、この増幅回路sk1で増幅された検出信号からバルクハウゼンノイズを抽出するフィルタ回路sk2等を有する。バルクハウゼンノイズ検出回路6の次段には、後述の品質検査手段7が設けられる。
【0028】
同バルクハウゼンノイズ検査装置の詳細構成について説明する。
図2に示すように、このバルクハウゼンノイズ検査装置は、励磁コイル1が、互いに接触または近接して並べられた複数個(この例では3個)の検査対象物Wa,Wb,Wcを同時に磁化し、検出コイル4が、磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出するようになっている。この図2では、直方体形状の検査対象物Wa,Wb,Wcを、互いに隙間なく接触させて一列に並べ、この並び状態で検査対象物Wbの端部のバルクハウゼンノイズを検出している例を示す。これら複数個の検査対象物Wa,Wb,Wcは透磁率が等しいものとする。前記「近接」とは、検出ヘッドKHで検出される共通の磁気回路を構成する程度に、複数個の検査対象物が互いに近くに位置することを意味する。
【0029】
図2の検出ヘッドKHの位置では、コ字状の磁性体コア2の一端2aは検査対象物Wbの被検査面Wbaに接し、同磁性体コア2の他端2bは検査対象物Wcの被検査面Wcaに接している。さらに検出コイル4は、磁性体コア2の一端2aと他端2bとの間に位置して検査対象物Wbの端部に対向して位置する。検出ヘッドKHが例えば、検査対象物Wbの被検査面Wbaの中央部に配置されているときは、磁性体コア2の一端2aおよび他端2bは、検査対象物Wbの被検査面Wbaに共に接している。また、検出ヘッドKHと検査対象物Wの間には隙間があっても良い。この場合、検出ヘッドKHと検査対象物Wが接触することなく検査することができるので、磁性体コア2,5の磨耗や検査対象物Wが検出ヘッドにより傷がつくことを防ぐことができる。
【0030】
検出ヘッドKHが検査対象物Wa,Wb,Wcに対して相対的に移動して検査対象物Wbの端部に近づくと、検出ヘッドKHの磁性体コア2の一端2aおよび他端2bが、隣接する検査対象物Wb,Wcにそれぞれ対向する図2のような状態になる。この場合、検査対象物Wbと検査対象物Wcの側面が互いに接しているため、検出ヘッドKHが複数個の検査対象物Wb,Wcにまたがって配置された状態となっても、検出ヘッドKHが1個の検査対象物の中央部に配置されて検出コイル4で検出する場合に比べて磁気抵抗の変化が小さい。このように検査対象物の中央部と端部のバルクハウゼンノイズを同じ励磁磁界で検出することができ、被検査面の品質検査精度を向上させ得る。また、検査対象物毎に専用の部材を準備する等の管理を不要とし、その分、管理コストの低減を図ることができる。
【0031】
このバルクハウゼンノイズ検査装置は、図1に示すように、前記バルクハウゼンノイズ検出回路6で抽出されたバルクハウゼンノイズから検査対象物Wの被検査面の品質を検査する品質検査手段7を備えている。品質検査手段7は、マイクロコンピュータ等によって実現される。この品質検査手段7は、検査対象物Wの被検査面の研削焼けの検出を行う研削焼け検出手段8と、検査対象物Wの被検査面の残留応力を検出する残留応力検出手段9と、被検査面の欠陥、傷を検出する欠陥等検出手段10と、被検査面の割れを検出する割れ検出手段11とを有する。
【0032】
研削焼け検出手段8は、例えば、バルクハウゼンノイズ検出回路6で抽出されたバルクハウゼンノイズの大きさ等を、設定値と比較して研削焼けの有無を判断したり、研削焼けの深さや平面範囲を測定する。具体的には、バルクハウゼンノイズの大きさ等と、研削焼けの有無との関係を演算式またはテーブル等で設定した関係設定手段が、例えば前記マイクロコンピュータのランダムアクセスメモリに設けられる。この関係設定手段におけるテーブル等は必要に応じて書換え可能に記憶されている。マイクロコンピュータの中央演算処理装置は、バルクハウゼンノイズの大きさが、前記テーブル等に記憶される予め定める閾値を越えたときに研削焼け有りと判断する。
残留応力検出手段9は、例えば、バルクハウゼンノイズ検出回路6で抽出されたバルクハウゼンノイズの大きさ等を、設定値と比較して残留応力の大きさを測定する。欠陥等検出手段、割れ検出手段についても、抽出されたバルクハウゼンノイズの大きさ等を設定値と比較して欠陥,傷、割れを検出する。
【0033】
ここで、研削焼けによる焼戻しが発生した箇所では、検査対象物Wの硬度が軟化し、残留応力が圧縮力から引張力に変化する。鋼材等の検査対象物Wでは、その硬度が軟化するとバルクハウゼンノイズが大きくなり、引張力を印加するとバルクハウゼンノイズが大きくなる。そのため、研削焼けによる焼戻しによりバルクハウゼンノイズは正常箇所よりも大きくなる。研削焼けにより再焼入れが起こって、検査対象物Wに硬くて脆いいわゆる白層が発生した場合でも、この白層の下部には焼戻しによる軟化した層が存在する。このため、バルクハウゼンノイズは大きくなる。
したがって、バルクハウゼンノイズを測定することで、検査対象物Wの研削焼け等を検出することが可能である。したがって、検査対象物Wとなる部品を破壊等する必要がなく研削焼けの全数検査または抜取り検査を実施することができる。このように被検査面の研削焼けの有無を検出することで、品質検査精度の向上を図ることができる。また、検査対象物毎に専用の部材を準備する等の管理を不要とし、その分、管理コストの低減を図ることができる。バルクハウゼンノイズ検出回路6は、検出コイル4が検出した信号を増幅する増幅回路sk1と、この増幅回路sk1により増幅した信号からバルクハウゼンノイズを抽出するフィルタ回路sk2とを有するため、必要な検出値を容易に且つ確実に取り出すことができ、品質検査精度の向上をより図ることができる。
【0034】
次に、この発明の他の実施形態を図3と共に説明する。以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0035】
図3に示す他の実施形態では、検出ヘッドKHの検査面の幅寸法が、1個の検査対象物の被検査面の幅寸法よりも相対的に大きく構成される。したがって、検出ヘッドKHの検査面が、複数個の検査対象物Wa,Wb,Wcの被検査面Waa,Wba,Wcaに対してどの位置にあっても、磁性体コア2の一端2aと他端2bは異なる検査対象物Wb,Wcの被検査面Wba,Wcaに接している。したがって、検出ヘッドKHの位置に関係なく、励磁コイル1により検査対象物Wを磁化する磁路の磁気抵抗は一定である。
図3の構成の場合、磁性体コア2の一端2aと他端2bが接する2個の検査対象物Wb,Wcは、離れていても間隔が等しければ良いが、これら検査対象物Wb,Wcが接している方が全体の磁気抵抗が小さくなるので望ましい。その他の構成は図1および図2の構成と同様である。この図3の構成によると、検査対象物の被検査面の中央部と端部のバルクハウゼンノイズを同じ励磁磁界で検出することができ、被検査面の表面の品質検査精度を向上させることができる。また、検査対象物毎に専用の部材を準備する等の管理を不要とし、その分、管理コストの低減を図ることができる。
【0036】
図4の実施形態にかかるバルクハウゼンノイズ検査装置は、円柱状の検査対象物の品質を検査する。このバルクハウゼンノイズ検査装置は、図1に示す構成部品に加え、フレーム12と、一対のローラ13,13と、図示外のモータ等の回転駆動源と、検出ヘッド移動手段14とを有する。前記フレーム12には、一対のローラ13,13が回転自在に且つ所定間隔を空けて平行に支持され、これらのローラ13,13の外周面上に複数個の円柱状の検査対象物Wa,Wb,Wcが端面にて互いに接触または近接して軸方向に一列に並ぶように設けられる。一対のローラ13,13を回転駆動源により同期して回転させることで、これらのロ−ラ13,13上の複数個の検査対象物Wa,Wb,Wcがその軸心L1回りに回転するようになっている。
【0037】
検出ヘッドKHは、検出ヘッド移動手段14により、複数個の検査対象物Wa,Wb,Wcの外周面上を矢符A1にて表記するローラ軸方向に移動する。すなわち検出ヘッド移動手段14は、モータ等の駆動源15と、ボールねじ等の送りねじ16と、ガイド部材17と、走行体18とを有する。ガイド部材17がローラ軸方向に延びるように設置され、このガイド部材17に走行体18が移動自在に支持される。走行体18には、検出ヘッドKHが複数個の検査対象物Wa,Wb,Wcの外周面に対向するように取付けられる。送りねじ16のねじ軸は、ガイド部材17に所定間隔を空けて平行に設けられ、送りねじ16のナットが前記走行体18に取付けられる。送りねじ16のねじ軸は駆動源15により回転駆動可能になっている。よって、送りねじ16を回転させ、走行体18をガイド部材17に沿ってローラ軸方向に移動させることで、検出ヘッドKHをローラ軸方向に移動させ得る。
【0038】
したがって、前記回転駆動源によりローラ13,13を回転させて複数個の検査対象物Wa,Wb,Wcを回転させると共に、検出ヘッド移動手段14により検出ヘッドKHをローラ軸方向に移動させることで、検査対象物全周のバルクハウゼンノイズを検出し得る。この場合、オンライン上で研削焼け等の異常を全数検査することができるので、品質保証能力を高めることができる。その他管理コストの低減を図れる。なお、検出ヘッド移動手段14のモータ等の駆動源15および送りねじ16に代えて、流体圧シリンダや電動シリンダを適用しても良い。
【0039】
励磁コイルと、前記検出コイルを有する検出ヘッドとを、別体に設けても良い。励磁コイル、検出コイルは、それぞれコイル巻線のみからなる空心コイルであっても良い。
品質検査手段は、研削焼け検出手段、残留応力検出手段、欠陥等検出手段、および割れ検出手段のうちのいずれか1つ以上を有するものとしても良い。抽出されたバルクハウゼンノイズから、検査対象物の被検査面の研削焼け、残留応力、欠陥、傷、および割れのうちのいずれか1つ以上の品質検査項目を検査するようにしても良い。
【符号の説明】
【0040】
1…励磁コイル
2…磁性体コア(磁性体)
3…電源
4…検出コイル
6…バルクハウゼンノイズ検出回路
7…品質検査手段
8…研削焼け検出手段
9…残留応力検出手段
10…欠陥等検出手段
11…割れ検出手段
12…フレーム
13…ローラ
14…検出ヘッド移動手段
sk1…増幅回路
sk2…フィルタ回路
W…検査対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接触または近接して並べられた複数個の検査対象物を同時に磁化する励磁コイル、および磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出する検出コイルを有する検出ヘッドと、前記励磁コイルに磁化のための交流磁界を発生させる交流電流を供給する電源と、前記検出コイルの検出した信号からバルクハウゼンノイズを検出するバルクハウゼンノイズ検出回路とを備えたバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項2】
請求項1において、前記励磁コイルは、コ字状の磁性体に巻かれ、この磁性体のコ字状の一端と他端とを、隣合う検査対象物にそれぞれ対向させて同時に磁化するバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記各検査対象物が円柱状であり、
フレームと、このフレームに回転自在に支持され、所定間隔を空けて平行に配置される一対のローラと、これらローラを回転駆動する回転駆動源と、前記検出ヘッドをローラ軸方向に移動させる検出ヘッド移動手段とを備え、前記一対のローラの外周面上に、前記円柱状の検査対象物の外周面を支持すると共に、複数個の円柱状の検査対象物が端面にて互いに接触または近接して並ぶように配置し、前記検出ヘッド移動手段は、前記検出ヘッドを複数個の検査対象物の外周面上に沿ってローラ軸方向に移動可能に構成したバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記バルクハウゼンノイズ検出回路で検出されたバルクハウゼンノイズから前記検査対象物の被検査面の品質を検査する品質検査手段を設けたバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項5】
請求項4において、前記品質検査手段は、前記検査対象物の被検査面の研削焼けの検出を行う研削焼け検出手段を有するバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5において、前記品質検査手段は、前記検査対象物の被検査面の残留応力を検出する残留応力検出手段を有するバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項7】
請求項4ないし請求項6のいずれか1項において、前記品質検査手段は、前記検査対象物の被検査面の欠陥、傷を検出する欠陥等検出手段を有するバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項8】
請求項4ないし請求項7のいずれか1項において、前記品質検査手段は、前記検査対象物の被検査面の割れを検出する割れ検出手段を有するバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項9】
請求項4ないし請求項8のいずれか1項において、前記品質検査手段は、バルクハウゼンノイズの検出値が、予め定められた閾値を越えたときに異常と判断するバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記バルクハウゼンノイズ検出回路は、前記検出コイルが検出した信号を増幅する増幅回路と、この増幅回路により増幅した信号からバルクハウゼンノイズを抽出するフィルタ回路とを有するバルクハウゼンノイズ検査装置。
【請求項11】
互いに接触または近接して並べられた複数個の検査対象物を励磁コイルにより同時に磁化し、この磁化された前記検査対象物が発するバルクハウゼンノイズを検出コイルにより検出する過程と、前記検出コイルの検出した信号からバルクハウゼンノイズを抽出する過程とを有するバルクハウゼンノイズ検出方法。
【請求項12】
請求項11において、前記励磁コイルはコ字状の磁性体に巻かれ、前記バルクハウゼンノイズを検出コイルにより検出する過程では、前記磁性体のコ字状の一端と他端とを、隣合う検査対象物にそれぞれ対向させて同時に磁化するバルクハウゼンノイズ検出方法。
【請求項13】
請求項11または請求項12において、前記抽出されたバルクハウゼンノイズから、前記検査対象物の被検査面の研削焼け、残留応力、欠陥、傷、および割れのうちのいずれか1つ以上の品質検査項目を検査する過程を有するバルクハウゼンノイズ検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−69654(P2011−69654A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219215(P2009−219215)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】