バルク超電導体
【課題】ステンレス鋼などの金属からなる円環を超電導バルク体に嵌めこんで補強する従来の補強手法は極めて高い寸法精度が必要であり、容易に採用することのできる補強手法ではなかった。
【解決手段】上記課題を解決するために、短筒状の超電導バルク体と、前記超電導バルク体の側周面を加圧囲繞する形状記憶合金の囲繞ベルトとからなるバルク超電導体であって、前記囲繞ベルトは、超電導バルク体を囲繞した後に、形状回復処理をすることで超電導バルク体を加圧するようにしたバルク超電導体を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するために、短筒状の超電導バルク体と、前記超電導バルク体の側周面を加圧囲繞する形状記憶合金の囲繞ベルトとからなるバルク超電導体であって、前記囲繞ベルトは、超電導バルク体を囲繞した後に、形状回復処理をすることで超電導バルク体を加圧するようにしたバルク超電導体を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁力や急激な昇温や冷却に伴う熱ひずみといった外力や内部応力の影響を低減し、高い捕捉磁場を維持し得るバルク超電導体に関する。
【背景技術】
【0002】
常電導材料にくらべて臨界電流密度が高く、大電流を損失無く流すことが可能であるため超電導材料は、マグネットやエレクトロニクス応用において画期的特性を示すものとして注目を集めており、近年、核融合装置、MRI、磁気浮上列車、発電機、エネルギー貯蔵装置、脳磁計、磁気分離型水浄化装置などへの応用研究が盛んに行われている
【0003】
超電導バルク体に磁場を捕捉させるには、超電導バルク体を液体窒素などで冷却する前に磁場を加え、さらに、磁場を加えたまま冷却をする(磁場中冷却)。そして、超電導バルク体が十分冷えた後に、外部の磁場を取り除く。この結果、超電導バルク体に磁場が捕捉される。この冷却や昇温に伴いクラックが生じる場合がある。
【0004】
さらに、超電導状態で磁場が加えられると超電導バルク体には大電流が流れることになるが、ここで問題が生じてしまう。図10を用いてこの問題について説明する。短筒状の超電導バルク体(1001)に磁場を捕捉させる場合、超電導バルク体に磁場(1002)を加える必要がある。加えられる磁場により、超電導バルク体には大電流(1003)が流れる。その結果、電磁力(ローレンツ力)が外周方向に働く場合がある(1004)。この引張応力によりクラック(1005)が生じたり、さらには、超電導バルク体が破壊されてしまったりする。
【0005】
セラミック材料の引張強度は、圧縮強度の約15分の1である。このため、外力または内部応力による超電導バルク体の破壊を防ぐには、超電導バルク体に作用する引張応力を緩和することが重要である。引張応力を緩和するためには、材料に対して圧縮応力を周囲から負荷する必要がある。そこで、ステンレスの円環を超電導バルク体に嵌めこむ技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−335120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の発明は、ステンレス鋼の熱膨張とその材料強度を利用するもので、超電導バルク体を加熱したステンレス円環に嵌めこみ、冷却することでステンレス円環の熱収縮により超電導バルク体に圧縮応力を負荷するものである。
【0008】
しかしながら、ステンレス鋼をはじめとする通常の金属の熱収縮率は、約300℃程度の加熱であっても1%程度に過ぎないため、十分な装着や密着が得られず、十分な圧縮応力を負荷させることが困難である。また、これを実現するためには、極めて高い寸法精度が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、上記課題を解決するために、以下のバルク超電導体を提供する。すなわち、第一の発明として、短筒状の超電導バルク体と、前記超電導バルク体の側周面を加圧囲繞する形状記憶合金の囲繞ベルトとからなるバルク超電導体であって、前記囲繞ベルトは、超電導バルク体を囲繞した後に、形状回復処理をすることで超電導バルク体を加圧するようにしたバルク超電導体を提供する。
【0010】
第二の発明として、前記超電導バルク体は、REBa2Cu3Oy(ここで、REはY、 Pr、 Nd、 Sm、 Eu、 Gd、 Dy、 Ho、 Er、 Tm、 Yb、 Luから選ばれる1種類または2種類以上の元素)相中に、RE2BaCuO5またはRE4Ba2Cu2O10を含む銅酸化物超電導体である第一の発明に記載のバルク超電導体を提供する。
【0011】
第三の発明として、前記超電導バルク体中に、Pt、Rh、 CeまたはAgを含有する第一の発明または第二の発明に記載のバルク超電導体を提供する。
【0012】
第四の発明として、前記形状記憶合金は、Ag-Cd合金、Au-Cd合金、 Cu-Al-Ni合金、 Cu-Sn合金、 Cu-Zn合金、 Fe-Pt合金、 Mn-Cu合金、 Fe-Mn-Si合金、 Pt合金、 Co-Ni-Al合金、 Co-Ni-Ga合金、 Ni-Fe-Ga合金、 Ti-Pd合金またはNi-Ti合金からなる第一の発明から第三の発明のいずれか一に記載のバルク超電導体を提供する。
【0013】
第五の発明として、前記超電導バルク体と前記囲繞ベルトとの隙間に金属を含浸させる第一の発明から第四の発明のいずれか一に記載のバルク超電導体を提供する。
【0014】
第六の発明として、前記超電導バルク体と前記囲繞ベルトとの隙間に樹脂を含浸させる第一の発明から第四の発明のいずれか一に記載のバルク超電導体を提供する。
【0015】
第七の発明として、超電導バルク体と、前記超電導バルク体との間に隙間を空けて取り囲む鋳型とを準備し、前記鋳型と超電導バルク体との間の隙間に前記超電導バルク体よりも線膨脹係数の大きな金属を溶融させて鋳込み、該溶融金属を凝固させて前記超電導バルク体を加圧囲繞するようにしたバルク超電導体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、電磁力や急激な昇温や冷却に伴う熱ひずみといった外力や内部応力の影響を低減し、高い捕捉磁場を維持し得るバルク超電導体を、高い寸法精度を必要とせずに提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態1に係るバルク超電導体を示す概念図。
【図2】実施形態1に係るバルク超電導体の一例を示す概念図。
【図3】実施形態1に係るバルク超電導体の一例を示す概念図。
【図4】実施形態1に係るバルク超電導体の一例を示す概念図。
【図5】実施形態1に係るバルク超電導体の一例を示す概念図。
【図6】実施形態1に係る形状記憶合金の加熱による収縮挙動の具体例を示す図。
【図7】実施形態1に係るバルク超電導体の捕捉磁場の変化を示す図。
【図8】実施形態1に係るバルク超電導体の捕捉磁場の変化を示す図。
【図9】実施形態2に係る超電導体を示す概念図。
【図10】超電導バルク体に働く電磁力を説明するための概念図。
【図11】実施形態4に係る製造方法を説明するための概念図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、本発明は、これらの実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
【0019】
実施形態1は、主に請求項1、2、3、4などに関する。実施形態2は、主に請求項5などに関する。実施形態3は、主に請求項6などに関する。実施形態4は、主に請求項7などに関する。
<実施形態1>
<実施形態1 概要>
【0020】
本実施形態は、形状記憶合金の囲繞ベルト内に超電導バルク体を嵌めこみ、その後に形状回復処理をすることで超電導バルク体を加圧囲繞するようにしたバルク超電導体である。
<実施形態1 構成>
【0021】
本実施形態に係るバルク超電導体について、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係るバルク超電導体を示す概念図である。バルク超電導体は、短筒状の超電導バルク体(0101)と、超電導バルク体の側周面を加圧囲繞する形状記憶合金からなる囲繞ベルト(0102)からなる。この囲繞ベルトは、超電導バルク体が嵌めこまれた後に、形状回復処理をすることで超電導バルク体を加圧するようにしたものである。なお、短筒状の超伝導バルク体として図において、短円筒状のものを示しているが、これに限られず四角や六角などの多角形あるいは楕円形などの断面形状を有する短筒状であってもよい。
【0022】
「超電導バルク体」(0101)とは、酸化物超電導体の利用形態の一つであり、一塊(バルク状)の超電導体を意味する。具体的には、例えば、REBa2Cu3Oy(ここで、REはY、 Pr、 Nd、 Sm、 Eu、 Gd、 Dy、 Ho、 Er、 Tm、 Yb、 Luから選ばれる1種類または2種類以上の元素)相中に、RE2BaCuO5またはRE4Ba2Cu2O10を含む銅酸化物超電導体を挙げることができる。REは、希土類元素を意味する。
【0023】
「囲繞ベルト」(0102)は、形状記憶合金からなり、短筒状の超電導バルク体の側周面を加圧囲繞する。
【0024】
「形状記憶合金」とは、形状記憶のための熱処理をしておくと、所定温度より低い温度で変形させても、所定温度以上に加熱することで変形前の元の形状に回復する合金である。例えば、Fe-Mn-Si系の形状記憶合金では2.5~4%程度の回復ひずみが認められている。
【0025】
形状記憶合金には、上述した形状記憶特性に加えて「超弾性」という特性をも有している。この超弾性特性とは、使用温度において通常の金属が塑性変形する領域まで変形(曲げ、引張り、圧縮)させても、除荷することで、元の形状に回復する特性を意味する。
【0026】
熱処理条件の違いによって形状記憶効果が現れる温度を変えることができ、常温で記憶を再生した状態にしたものを超弾性合金、常温では柔らかく曲げても元に戻らない状態のものを形状記憶合金とする場合もある。
【0027】
囲繞ベルトは、形状記憶特性や超弾性特性により、短筒状の超電導バルク体の側周面を加圧囲繞する。「加圧囲繞」とは、圧力を加えながら囲繞することを意味する。
【0028】
図1に示した囲繞ベルトは、短筒状の超電導バルク体の高さ方向の長さと略同寸の高さに形成した環状体の形状記憶合金からなるものである。囲繞ベルトの態様は、図1の環状体に限らず、例えば、図2に示すような複数の環状体(0202、0203)で超電導バルク体(0201)に嵌めこんでもよい。またワイヤ状の形状記憶合金からなるものでもよい。
【0029】
図3および図4はワイヤ状の形状記憶合金からなる囲繞ベルトを超電導バルク体に囲繞した図である。図3は、ワイヤ状の形状記憶合金を輪として(0302)、超電導バルク体(0301)に複数嵌めこんだものである。また、図4は、一本のワイヤ状の形状記憶合金をらせん状に形成し超電導バルク体に巻きつけたものである。囲繞ベルトは、超電導バルク体の大きさや捕捉させる磁場の強さなどに応じて選定することができる。
【0030】
形状記憶合金のベルトは、超電導バルク体を嵌めこまれた後に、形状回復処理をすることで超電導バルク体を加圧囲繞する。すなわち、形状記憶特性により加圧囲繞する場合であれば、予め形状記憶合金ベルトに超電導バルク体を嵌めこんだ後に、所定の温度以上に加熱し形状回復させることで、超電導バルク体の側周面に圧縮応力を負荷することができる。このとき、形状回復した際の囲繞ベルトの内径をどの程度超電導バルク体の外径よりも小さくするかは、負荷すべき圧縮応力や回復ひずみの大きさなどに応じたものにすればよい。超弾性特性を利用する場合にも同様である。
【0031】
また、図5に示すように、金属製の円環(0503)に、超電導バルク体(0501)を嵌めこんで、さらに、(形状記憶合金)囲繞ベルトに嵌めこんでもよい。金属製の円環を介して圧縮応力を負荷するもので、超電導バルク体に対する圧縮応力を、より均一に負荷し得る。なお、金属製の円環を嵌めこむことにより直接的に超電導バルク体への圧縮応力を負荷させるものではないので、焼きバメなどを行う必要はなく、例えば、超電導バルク体の周囲に所定の合金を鋳込むことにより、超電導バルク体を囲繞するようにしてもよい。
【0032】
形状記憶合金は、種々存在するが、例えば、Ag-Cd合金、Au-Cd合金、 Cu-Al-Ni合金、 Cu-Sn合金、 Cu-Zn合金、 Fe-Pt合金、 Mn-Cu合金、 Fe-Mn-Si合金、 Pt合金、 Co-Ni-Al合金、 Co-Ni-Ga合金、 Ni-Fe-Ga合金、 Ti-Pd合金またはNi-Ti合金などが好ましい。
【0033】
形状記憶合金の加熱による収縮挙動の具体例を図6に示す。図6は、Fe- 0.13wt%C- 5.99 wt% Si- 28.35wt%Mn- 4.99wt% Crの組成を有する囲繞ベルトの加熱による収縮挙動を示したものである。この試験結果は、囲繞ベルト単体を加熱炉内で加熱した様子をレーザーで測定したものである。常温の状態から試験を開始し、加熱していく。450K以上まで一旦加熱した後、冷却する。試験開始時に内径が26.9mmであったものが、加熱により形状回復し26.3mmを下回る内径に至った。
【0034】
図7は、単結晶の超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこんだバルク超電導体の捕捉磁場の変化を測定した結果を示すものである。図に向かって左側に示したものは、囲繞ベルトによる補強を行っていないものである。向かって右に示したものは、左と同じ超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこんだものの測定結果である。最大捕捉磁場が高まり、捕捉領域が拡大していることが分かる。
【0035】
図8は、多結晶の超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこんだバルク超電導体の捕捉磁場の変化を測定した結果を示すものである。図に向かって左側に示したものは、囲繞ベルトによる補強を行っていないものである。向かって右に示したものは、左と同じ超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこんだものの測定結果である。最大捕捉磁場が高まり、捕捉領域が拡大していることが分かる。図7、図8に示したように、囲繞ベルトにより超電導バルク体の機械的強度を補強することにより、高い磁場を捕捉する上で効果的であることが明らかになった。
【0036】
超電導バルク体そのものの機械特性を向上させるために、Pt、Rh、 CeまたはAgを超電導バルク体に含有させてもよい。これにより、囲繞ベルトで加圧囲繞することと相まって破損やクラックの防止効果が生じ得る。また、これらを含有することにより、熱電導率を高めることで熱的安定性を向上させる効果もある。
【0037】
以下に、本実施形態に係るバルク超電導体の実施例を記載する。まずは、超電導バルク体と囲繞ベルトとからなるバルク超電導体に関するものである。
<実施例1>
【0038】
CeO2を1wt%含み、YBa2Cu3Oy相中にY2BaCuO5が微細分散した超電導バルク体を直径22.8mm高さ10.0mmの寸法に加工した。Fe- 27.8wt%Mn- 5.97wt%Si- 4.93wt%Crの組成を有する囲繞ベルトに対して,6.5%の拡径処理を行った後, 650℃において1時間加熱して形状回復させたのち、再び5%の拡径処理を行った。超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこむため、この囲繞ベルトを内径22.9mm、 外径27.5mm、 高さ10.3mmに加工した。超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこみ、650℃にて1時間加熱した。こうして得られたバルク超電導体を5Tの磁場中で77Kに冷却し、外部磁場を取り除いた後計測を行った結果、試料表面で0.5Tの磁場を捕捉していた。一方、囲繞ベルトによる補強無しで同様の実験を行ったところ、5Tから4Tに減磁したときに超電導バルク体は破壊した。このことから、囲繞リングにより、超電導バルク体が補強され、大きな磁場を捕捉することのできるバルク超電導マグネットを作製することができた。
<実施例2>
【0039】
Ptを0.5wt%含み、YBa2Cu3Oy相中にY2BaCuO5が微細分散した超電導バルク体を直径59.2mm、高さ11.0mmの寸法に加工した。Fe- 20.0wt%Mn- 5.0wt%Si- 7.99wt%Cr- 5.1wt%Niの組成を有する囲繞ベルトに対して、7%の拡径処理を行った後、 650℃において1時間加熱して形状回復させた後、再び5%の拡径処理を行った。超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこむため、この囲繞ベルトを内径59.3mm、 外径63.7mm、 高さ11.3mmに加工した。超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこみ、650℃にて1時間加熱した。次に400℃の温度で100時間、酸素雰囲気中で熱処理を行った。こうして得られたバルク超電導体を10Tの磁場中で40Kに冷却し、外部磁場を取り除いた後計測を行った結果、試料表面で6.2Tの磁場を捕捉していた。一方、囲繞ベルトによる補強無しで同様の実験を行ったところ、10Tから7.2Tに減磁したときに超電導バルク体は破壊した。このことから、囲繞ベルトにより、超電導バルク体が補強され、大きな磁場を捕捉することのできるバルク超電導マグネットを作製することができた。
<実施例3>
【0040】
Ptを0.5wt%、Agを5wt%含み、DyBa2Cu3Oy相中にDy2BaCuO5およびBaCeO3が微細分散した超電導バルク体を直径59.2mm、高さ11.0mmの寸法に加工した。Fe- 27.8wt%Mn- 5.97wt%Si- 4.93wt%Crの組成を有するリング状の囲繞ベルトに対して、6.5%の拡径処理を行った後、650℃において1時間加熱して形状回復させた後、再び5%の拡径処理を行った。超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこむため、この囲繞ベルトを内径59.3mm、 外径63.8mm、 高さ11.3mmに加工した。超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこみ、650℃にて1時間加熱した。次に400℃の温度で100時間、酸素雰囲気中で熱処理を行った。こうして得られたバルク超電導体を10Tの磁場中で40Kに冷却し、外部磁場を取り除いた後計測を行った結果、試料表面で7.8Tの磁場を捕捉していた。一方、囲繞ベルトによる補強無しで同様の実験を行ったところ、10Tから8.4Tに減磁したときに超電導バルク体は破壊した。このことから、形状記憶リングにより超電導材料が補強され、大きな磁場を捕捉することのできるバルク超電導マグネットを作製することができた。
<実施例4>
【0041】
YBa2Cu3Oy相中にY2BaCuO5およびBaCeO3が微細分散した直径39.5mm、高さ12.5mmを有する超電導バルク体の側周面に、加熱時に縮むように引張方向に7%加工された直径1.2mmを有するFe- 27.8wt%Mn- 5.97wt%Si- 4.93wt%Crの線材からなる囲繞ベルトを巻きつけた。その後、650℃で1時間加熱した。その後、400℃の温度で100時間、酸素雰囲気中で熱処理を行った。このバルク超電導体を10Tの磁場中で40Kに冷却し、外部磁場を取り除いた後計測を行った結果、試料表面で7.2Tの磁場を捕捉していた。一方、囲繞ベルトによる補強無しで同様の実験を行ったところ、10Tから6.5Tに減磁したときに超電導バルク体は破壊した。このことから、囲繞ベルトにより超電導バルク体が補強され、大きな磁場を捕捉することのできるバルク超電導マグネットを作製することができた。
【0042】
つづいて、金属製の円環を鋳込むことにより、超電導バルク体に嵌めこんだ後に、さらに、囲繞ベルトを嵌めこんだ場合の実施例を記載する。
<実施例5>
【0043】
Ptを0.5wt%含み、DyBa2Cu3Oy相中にDy2BaCuO5およびBaCeO3が微細分散した超電導バルク体を直径39.0mm、高さ13.0mmの寸法に加工した。このバルク体に対してAl-13wt%Siの合金を鋳込んだ。この結果、超電導バルク体の周囲をこの合金が覆う直径42.8mm、高さ13.0mmの部材を得た。この部材に対して。Fe- 27.8wt%Mn- 5.97wt%Si- 4.93wt%Crの組成を有する囲繞ベルトに対して、6.5%の拡径処理を行った後、650℃において1時間加熱して形状回復させた後、再び5%の拡径処理を行った。超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこむため、この囲繞ベルトを内径42.9mm、 外径47.5mm、 高さ13.0mmに加工した。囲繞ベルトに超電導バルク体を嵌めこみ、550℃にて1時間加熱した。超電導バルク体の周囲にAl-Si合金を配置しているため、この合金が変形を生じ、形状記憶合金との隙間を埋めることを確認した。次に400℃の温度で100時間、酸素雰囲気中で熱処理を行った。こうして得られたバルク超電導体を10Tの磁場中で40Kに冷却し、外部磁場を取り除いた後計測を行った結果、試料表面で8.0Tの磁場を捕捉していた。一方、囲繞ベルトによる補強無しで同様の実験を行ったところ、10Tから8.4Tに減磁したときに超電導バルク体は破壊した。このことから、囲繞ベルトにより、超電導材料が補強され、大きな磁場を捕捉することのできるバルク超電導マグネットを作製することができた。
<実施例6>
【0044】
YBa2Cu3Oy相中にY2BaCuO5およびBaCeO3が微細分散した直径38.9mm、高さ12.5mmを有する超電導バルク体に対してAl-13wt%Siの合金を鋳込んだ。この結果、超電導バルク体の周囲をこの合金が覆う直径43.5mm、高さ12.5mmの部材を得た。次に加熱時に縮むように引張方向に5%加工された直径1.2mmを有するFe- 27.8wt%Mn- 5.97wt%Si- 4.93wt%Crの線材からなる囲繞ベルトを巻きつけた。その後、650℃で1時間加熱した。その後、400℃の温度で100時間、酸素雰囲気中で熱処理を行った。このバルク超電導体を10Tの磁場中で40Kに冷却し、外部磁場を取り除いた後計測を行った結果、試料表面で7.4Tの磁場を捕捉していた。一方、囲繞ベルトによる補強無しで同様の実験を行ったところ、10Tから5.5Tに減磁したときに超電導バルク体は破壊した。このことから、囲繞ベルトにより、超電導バルク体が補強され、大きな磁場を捕捉することのできるバルク超電導マグネットを作製することができた。
【0045】
前記線材は、いわゆるトレーニング処理を施したものであってもよい。つまり、前記5%の加工の前にたとえば7%の加工を施して600℃に加熱したのち引張方向に5%加工されていてもよい。
<実施形態1 効果>
【0046】
本実施形態のバルク超電導体により、電磁力や急激な昇温や冷却に伴う熱ひずみといった外力や内部応力の影響を低減し、高い捕捉磁場を維持し得るバルク超電導体を、高い寸法精度を必要とせずに提供することができる。
<実施形態2>
<実施形態2 概要>
【0047】
本実施形態は、超電導バルク体と囲繞ベルトとの隙間に金属を含浸させることにより、囲繞ベルトによる圧縮応力を均一に負荷するとともに、超電導バルク体そのものの機械特性を向上させることにより超電導バルク体の破壊を防止することが可能となる。
<実施形態2 構成>
【0048】
本実施形態のバルク超電導体は、実施形態1を基本とし、超電導バルク体と囲繞ベルトとの隙間に金属を含浸させることを特徴とする。基本的構成については、実施形態1において説明済みであるので、本実施形態の特徴的な構成以外については、説明を省略する。
【0049】
図9は、本実施形態のバルク超電導体の概念図である。超電導バルク体(0901)と囲繞ベルト(0902)との隙間に金属を含浸させ、当該隙間を埋めるとともに超電導バルク体に生じているクラックにも浸透して、これを埋めることができる。
【0050】
超電導バルク体と囲繞ベルトとの隙間に金属を含浸させるためには、例えば、アルミ合金、鉄合金、銅合金などの低融点合金を当該隙間に鋳込むことによって実現することができる。低融点合金には、例えば、Bi-Pb-Sn-Cd-In合金、Bi-Pb-Sn-Cd-合金、Bi-Sn-In合金、Bi-Sn-Cd合金、Bi-Pb-Sn合金、Al-Si合金などが挙げられる。溶融温度は、例えば、42.34wt%Bi- 22.86wt%Pb- 11.0wt%Sn- 8.46wt%Cd- 15.34wt%Inの低融点合金であれば47.0℃である。
【0051】
溶融した合金は、超電導バルク体と囲繞ベルトとの隙間を埋めることにより、囲繞ベルトによる圧縮応力を超電導バルク体に対して、より均一に負荷することが可能となる。さらに、隙間を埋めるだけにとどまらず、超電導バルク体そのものに生じている微小クラックや気孔を通じてバルク体内部に円滑に浸透し、それらの微小クラックや気孔を埋めることになる。そして、このように内部の微小クラックや気孔が低融点合金で埋められた超電導バルク体では、その微小クラックや気孔の部位に応力集中が起きるのが緩和され、これらを起点とした破壊を防止し、高い捕捉磁場を維持することが可能となる。
【0052】
また、特に酸化物超電導バルク体は湿気や炭酸ガスの多い腐食性雰囲気に長時間曝されると、腐食によって材料劣化を生じたり反応相が生じたりして新たな割れが生じてこれが進展するおそれがあるが、低融点合金の含浸により耐食性を向上させる効果も得られる。
<実施例>
【0053】
CeO2を0.5wt%含み、YBa2Cu3Oy相中にY2BaCuO5およびBaCeO3が微細分散した超電導バルク体を直径39.0mm、高さ13.0mmの寸法に加工した。この超電導バルク体に対して、加熱する場合、縮径する方向に7%加工された内径39.1mm、 外径43.7mm、 高さ13.0mmを有するNi-45wt%Tiの組成を有する囲繞ベルトに対して超電導バルク体を嵌めこみ、650℃にて1時間加熱した。次に400℃の温度で100時間、酸素雰囲気中で熱処理を行った。その後、この部材に対して、融点47.0℃を有する42.34wt%Bi- 22.86wt%Pb- 11.0wt%Sn- 8.46wt%Cd- 15.34wt%Inの低融点合金を90℃に加熱して鋳込んだ。この結果、超電導バルク体と囲繞ベルトとの隙間にこの低融点合金が入り込むことを確認した。このバルク超電導体を10Tの磁場中で40Kに冷却し、外部磁場を取り除いた後計測を行った結果、試料表面で7.6Tの磁場を捕捉していた。一方、囲繞ベルトによる補強無しで同様の実験を行ったところ、10Tから7.2Tに減磁したときに超電導バルク体は破壊した。このことから、囲繞ベルトにより、超電導バルク体が補強され、大きな磁場を捕捉することのできるバルク超電導マグネットを作製することができた。
<実施形態2 効果>
【0054】
本実施形態のバルク超電導体により、より均一な圧縮応力が超電導バルク体に負荷されるとともに、超電導バルク体そのものの機械的強度を向上させることが可能となる。
<実施形態3>
<実施形態3 概要>
【0055】
本実施形態は、超電導バルク体と囲繞ベルトとの隙間に樹脂を含浸させることにより、囲繞ベルトによる圧縮応力を均一に負荷するとともに、超電導バルク体そのものの機械特性を向上させることにより超電導バルク体の破壊を防止することが可能となる。
<実施形態3 構成>
【0056】
本実施形態のバルク超電導体は、実施形態1を基本とし、超電導バルク体と囲繞ベルトとの隙間に樹脂を含浸させることを特徴とする。基本的構成については、実施形態1において説明済みであるので、本実施形態の特徴的な構成以外については、説明を省略する。
【0057】
樹脂の含浸は、例えば、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を100℃程度に加熱して溶かした中に囲繞ベルトを嵌めこんだ超電導バルク体を浸すことなどにより実現することが可能である。
【0058】
樹脂を含浸させることにより、超電導バルク体と囲繞ベルトとの隙間を埋めることができ、囲繞ベルトによる圧縮応力を超電導バルク体により均一に負荷することが可能となる。さらに、隙間を埋めるだけにとどまらず、超電導バルク体そのものに生じている微小クラックや気孔を通じてバルク体内部に円滑に浸透し、それらの微小クラックや気孔を埋めることになる。そして、このように内部の微小クラックや気孔が低融点金属で埋められた超電導バルク体では、その微小クラックや気孔の部位に応力集中が起きるのが緩和され、これらを起点とした破壊を防止し、さらに耐食性を向上させ、高い捕捉磁場を維持することが可能となる。
<実施形態3 効果>
【0059】
本実施形態のバルク超電導体により、より均一な圧縮応力が超電導バルク体に負荷されるとともに、超電導バルク体そのものの機械的強度を向上させることが可能となる。
<実施形態4>
<実施形態4 概要>
【0060】
本実施形態は、超伝導バルク体よりも線膨張係数の大きな金属を溶融させて鋳込むことにより超伝導バルク体を加圧囲繞するようにしたバルク超電導体の製造方法である。
<実施形態4 構成>
【0061】
本実施形態に係るバルク超電導体の製造方法を、図11を用いて説明する。まず、超電導バルク体(1101)と、前記超電導バルク体との間に隙間を空けて取り囲む鋳型(1102)とを準備し、前記鋳型と超電導バルク体との間の隙間に前記超電導バルク体よりも線膨脹係数の大きな金属(1103)を溶融させて鋳込む。そして、該溶融金属を凝固させて前記超伝導バルク体を加圧囲繞するようにしたバルク超電導体を製造する。なお、超伝導バルク体は実施形態1などで説明したものと同様である。
【0062】
線膨張係数とは、温度の上昇に対応して長さが変化する割合を示すものであり、この熱膨張係数が超伝導バルク体のそれよりも大きな金属を鋳込みに用いる。例えば、実施形態2などに説明したアルミ合金、鉄合金、銅合金などを用いることができる。
【0063】
この溶融金属が凝固に伴い収縮し、超伝導バルク体に対して圧縮応力を負荷することになる。このように金属の鋳込みを施すことにより、超伝導バルク体に対して表面から均一な圧縮応力を負荷し、割れ防止をすることが可能となる。また、実施形態2において説明したように、超電導バルク体そのものに生じている微小クラックや気孔を通じてバルク体内部に円滑に浸透し、それらの微小クラックや気孔を埋めることにより、機械的強度を向上させることも可能となる。
<実施形態4 効果>
【0064】
本実施形態により、電磁力や急激な昇温や冷却に伴う熱ひずみといった外力や内部応力の影響を低減し、高い捕捉磁場を維持し得るバルク超電導体を製造することが可能となる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁力や急激な昇温や冷却に伴う熱ひずみといった外力や内部応力の影響を低減し、高い捕捉磁場を維持し得るバルク超電導体に関する。
【背景技術】
【0002】
常電導材料にくらべて臨界電流密度が高く、大電流を損失無く流すことが可能であるため超電導材料は、マグネットやエレクトロニクス応用において画期的特性を示すものとして注目を集めており、近年、核融合装置、MRI、磁気浮上列車、発電機、エネルギー貯蔵装置、脳磁計、磁気分離型水浄化装置などへの応用研究が盛んに行われている
【0003】
超電導バルク体に磁場を捕捉させるには、超電導バルク体を液体窒素などで冷却する前に磁場を加え、さらに、磁場を加えたまま冷却をする(磁場中冷却)。そして、超電導バルク体が十分冷えた後に、外部の磁場を取り除く。この結果、超電導バルク体に磁場が捕捉される。この冷却や昇温に伴いクラックが生じる場合がある。
【0004】
さらに、超電導状態で磁場が加えられると超電導バルク体には大電流が流れることになるが、ここで問題が生じてしまう。図10を用いてこの問題について説明する。短筒状の超電導バルク体(1001)に磁場を捕捉させる場合、超電導バルク体に磁場(1002)を加える必要がある。加えられる磁場により、超電導バルク体には大電流(1003)が流れる。その結果、電磁力(ローレンツ力)が外周方向に働く場合がある(1004)。この引張応力によりクラック(1005)が生じたり、さらには、超電導バルク体が破壊されてしまったりする。
【0005】
セラミック材料の引張強度は、圧縮強度の約15分の1である。このため、外力または内部応力による超電導バルク体の破壊を防ぐには、超電導バルク体に作用する引張応力を緩和することが重要である。引張応力を緩和するためには、材料に対して圧縮応力を周囲から負荷する必要がある。そこで、ステンレスの円環を超電導バルク体に嵌めこむ技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−335120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の発明は、ステンレス鋼の熱膨張とその材料強度を利用するもので、超電導バルク体を加熱したステンレス円環に嵌めこみ、冷却することでステンレス円環の熱収縮により超電導バルク体に圧縮応力を負荷するものである。
【0008】
しかしながら、ステンレス鋼をはじめとする通常の金属の熱収縮率は、約300℃程度の加熱であっても1%程度に過ぎないため、十分な装着や密着が得られず、十分な圧縮応力を負荷させることが困難である。また、これを実現するためには、極めて高い寸法精度が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、上記課題を解決するために、以下のバルク超電導体を提供する。すなわち、第一の発明として、短筒状の超電導バルク体と、前記超電導バルク体の側周面を加圧囲繞する形状記憶合金の囲繞ベルトとからなるバルク超電導体であって、前記囲繞ベルトは、超電導バルク体を囲繞した後に、形状回復処理をすることで超電導バルク体を加圧するようにしたバルク超電導体を提供する。
【0010】
第二の発明として、前記超電導バルク体は、REBa2Cu3Oy(ここで、REはY、 Pr、 Nd、 Sm、 Eu、 Gd、 Dy、 Ho、 Er、 Tm、 Yb、 Luから選ばれる1種類または2種類以上の元素)相中に、RE2BaCuO5またはRE4Ba2Cu2O10を含む銅酸化物超電導体である第一の発明に記載のバルク超電導体を提供する。
【0011】
第三の発明として、前記超電導バルク体中に、Pt、Rh、 CeまたはAgを含有する第一の発明または第二の発明に記載のバルク超電導体を提供する。
【0012】
第四の発明として、前記形状記憶合金は、Ag-Cd合金、Au-Cd合金、 Cu-Al-Ni合金、 Cu-Sn合金、 Cu-Zn合金、 Fe-Pt合金、 Mn-Cu合金、 Fe-Mn-Si合金、 Pt合金、 Co-Ni-Al合金、 Co-Ni-Ga合金、 Ni-Fe-Ga合金、 Ti-Pd合金またはNi-Ti合金からなる第一の発明から第三の発明のいずれか一に記載のバルク超電導体を提供する。
【0013】
第五の発明として、前記超電導バルク体と前記囲繞ベルトとの隙間に金属を含浸させる第一の発明から第四の発明のいずれか一に記載のバルク超電導体を提供する。
【0014】
第六の発明として、前記超電導バルク体と前記囲繞ベルトとの隙間に樹脂を含浸させる第一の発明から第四の発明のいずれか一に記載のバルク超電導体を提供する。
【0015】
第七の発明として、超電導バルク体と、前記超電導バルク体との間に隙間を空けて取り囲む鋳型とを準備し、前記鋳型と超電導バルク体との間の隙間に前記超電導バルク体よりも線膨脹係数の大きな金属を溶融させて鋳込み、該溶融金属を凝固させて前記超電導バルク体を加圧囲繞するようにしたバルク超電導体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、電磁力や急激な昇温や冷却に伴う熱ひずみといった外力や内部応力の影響を低減し、高い捕捉磁場を維持し得るバルク超電導体を、高い寸法精度を必要とせずに提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態1に係るバルク超電導体を示す概念図。
【図2】実施形態1に係るバルク超電導体の一例を示す概念図。
【図3】実施形態1に係るバルク超電導体の一例を示す概念図。
【図4】実施形態1に係るバルク超電導体の一例を示す概念図。
【図5】実施形態1に係るバルク超電導体の一例を示す概念図。
【図6】実施形態1に係る形状記憶合金の加熱による収縮挙動の具体例を示す図。
【図7】実施形態1に係るバルク超電導体の捕捉磁場の変化を示す図。
【図8】実施形態1に係るバルク超電導体の捕捉磁場の変化を示す図。
【図9】実施形態2に係る超電導体を示す概念図。
【図10】超電導バルク体に働く電磁力を説明するための概念図。
【図11】実施形態4に係る製造方法を説明するための概念図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、本発明は、これらの実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
【0019】
実施形態1は、主に請求項1、2、3、4などに関する。実施形態2は、主に請求項5などに関する。実施形態3は、主に請求項6などに関する。実施形態4は、主に請求項7などに関する。
<実施形態1>
<実施形態1 概要>
【0020】
本実施形態は、形状記憶合金の囲繞ベルト内に超電導バルク体を嵌めこみ、その後に形状回復処理をすることで超電導バルク体を加圧囲繞するようにしたバルク超電導体である。
<実施形態1 構成>
【0021】
本実施形態に係るバルク超電導体について、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係るバルク超電導体を示す概念図である。バルク超電導体は、短筒状の超電導バルク体(0101)と、超電導バルク体の側周面を加圧囲繞する形状記憶合金からなる囲繞ベルト(0102)からなる。この囲繞ベルトは、超電導バルク体が嵌めこまれた後に、形状回復処理をすることで超電導バルク体を加圧するようにしたものである。なお、短筒状の超伝導バルク体として図において、短円筒状のものを示しているが、これに限られず四角や六角などの多角形あるいは楕円形などの断面形状を有する短筒状であってもよい。
【0022】
「超電導バルク体」(0101)とは、酸化物超電導体の利用形態の一つであり、一塊(バルク状)の超電導体を意味する。具体的には、例えば、REBa2Cu3Oy(ここで、REはY、 Pr、 Nd、 Sm、 Eu、 Gd、 Dy、 Ho、 Er、 Tm、 Yb、 Luから選ばれる1種類または2種類以上の元素)相中に、RE2BaCuO5またはRE4Ba2Cu2O10を含む銅酸化物超電導体を挙げることができる。REは、希土類元素を意味する。
【0023】
「囲繞ベルト」(0102)は、形状記憶合金からなり、短筒状の超電導バルク体の側周面を加圧囲繞する。
【0024】
「形状記憶合金」とは、形状記憶のための熱処理をしておくと、所定温度より低い温度で変形させても、所定温度以上に加熱することで変形前の元の形状に回復する合金である。例えば、Fe-Mn-Si系の形状記憶合金では2.5~4%程度の回復ひずみが認められている。
【0025】
形状記憶合金には、上述した形状記憶特性に加えて「超弾性」という特性をも有している。この超弾性特性とは、使用温度において通常の金属が塑性変形する領域まで変形(曲げ、引張り、圧縮)させても、除荷することで、元の形状に回復する特性を意味する。
【0026】
熱処理条件の違いによって形状記憶効果が現れる温度を変えることができ、常温で記憶を再生した状態にしたものを超弾性合金、常温では柔らかく曲げても元に戻らない状態のものを形状記憶合金とする場合もある。
【0027】
囲繞ベルトは、形状記憶特性や超弾性特性により、短筒状の超電導バルク体の側周面を加圧囲繞する。「加圧囲繞」とは、圧力を加えながら囲繞することを意味する。
【0028】
図1に示した囲繞ベルトは、短筒状の超電導バルク体の高さ方向の長さと略同寸の高さに形成した環状体の形状記憶合金からなるものである。囲繞ベルトの態様は、図1の環状体に限らず、例えば、図2に示すような複数の環状体(0202、0203)で超電導バルク体(0201)に嵌めこんでもよい。またワイヤ状の形状記憶合金からなるものでもよい。
【0029】
図3および図4はワイヤ状の形状記憶合金からなる囲繞ベルトを超電導バルク体に囲繞した図である。図3は、ワイヤ状の形状記憶合金を輪として(0302)、超電導バルク体(0301)に複数嵌めこんだものである。また、図4は、一本のワイヤ状の形状記憶合金をらせん状に形成し超電導バルク体に巻きつけたものである。囲繞ベルトは、超電導バルク体の大きさや捕捉させる磁場の強さなどに応じて選定することができる。
【0030】
形状記憶合金のベルトは、超電導バルク体を嵌めこまれた後に、形状回復処理をすることで超電導バルク体を加圧囲繞する。すなわち、形状記憶特性により加圧囲繞する場合であれば、予め形状記憶合金ベルトに超電導バルク体を嵌めこんだ後に、所定の温度以上に加熱し形状回復させることで、超電導バルク体の側周面に圧縮応力を負荷することができる。このとき、形状回復した際の囲繞ベルトの内径をどの程度超電導バルク体の外径よりも小さくするかは、負荷すべき圧縮応力や回復ひずみの大きさなどに応じたものにすればよい。超弾性特性を利用する場合にも同様である。
【0031】
また、図5に示すように、金属製の円環(0503)に、超電導バルク体(0501)を嵌めこんで、さらに、(形状記憶合金)囲繞ベルトに嵌めこんでもよい。金属製の円環を介して圧縮応力を負荷するもので、超電導バルク体に対する圧縮応力を、より均一に負荷し得る。なお、金属製の円環を嵌めこむことにより直接的に超電導バルク体への圧縮応力を負荷させるものではないので、焼きバメなどを行う必要はなく、例えば、超電導バルク体の周囲に所定の合金を鋳込むことにより、超電導バルク体を囲繞するようにしてもよい。
【0032】
形状記憶合金は、種々存在するが、例えば、Ag-Cd合金、Au-Cd合金、 Cu-Al-Ni合金、 Cu-Sn合金、 Cu-Zn合金、 Fe-Pt合金、 Mn-Cu合金、 Fe-Mn-Si合金、 Pt合金、 Co-Ni-Al合金、 Co-Ni-Ga合金、 Ni-Fe-Ga合金、 Ti-Pd合金またはNi-Ti合金などが好ましい。
【0033】
形状記憶合金の加熱による収縮挙動の具体例を図6に示す。図6は、Fe- 0.13wt%C- 5.99 wt% Si- 28.35wt%Mn- 4.99wt% Crの組成を有する囲繞ベルトの加熱による収縮挙動を示したものである。この試験結果は、囲繞ベルト単体を加熱炉内で加熱した様子をレーザーで測定したものである。常温の状態から試験を開始し、加熱していく。450K以上まで一旦加熱した後、冷却する。試験開始時に内径が26.9mmであったものが、加熱により形状回復し26.3mmを下回る内径に至った。
【0034】
図7は、単結晶の超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこんだバルク超電導体の捕捉磁場の変化を測定した結果を示すものである。図に向かって左側に示したものは、囲繞ベルトによる補強を行っていないものである。向かって右に示したものは、左と同じ超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこんだものの測定結果である。最大捕捉磁場が高まり、捕捉領域が拡大していることが分かる。
【0035】
図8は、多結晶の超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこんだバルク超電導体の捕捉磁場の変化を測定した結果を示すものである。図に向かって左側に示したものは、囲繞ベルトによる補強を行っていないものである。向かって右に示したものは、左と同じ超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこんだものの測定結果である。最大捕捉磁場が高まり、捕捉領域が拡大していることが分かる。図7、図8に示したように、囲繞ベルトにより超電導バルク体の機械的強度を補強することにより、高い磁場を捕捉する上で効果的であることが明らかになった。
【0036】
超電導バルク体そのものの機械特性を向上させるために、Pt、Rh、 CeまたはAgを超電導バルク体に含有させてもよい。これにより、囲繞ベルトで加圧囲繞することと相まって破損やクラックの防止効果が生じ得る。また、これらを含有することにより、熱電導率を高めることで熱的安定性を向上させる効果もある。
【0037】
以下に、本実施形態に係るバルク超電導体の実施例を記載する。まずは、超電導バルク体と囲繞ベルトとからなるバルク超電導体に関するものである。
<実施例1>
【0038】
CeO2を1wt%含み、YBa2Cu3Oy相中にY2BaCuO5が微細分散した超電導バルク体を直径22.8mm高さ10.0mmの寸法に加工した。Fe- 27.8wt%Mn- 5.97wt%Si- 4.93wt%Crの組成を有する囲繞ベルトに対して,6.5%の拡径処理を行った後, 650℃において1時間加熱して形状回復させたのち、再び5%の拡径処理を行った。超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこむため、この囲繞ベルトを内径22.9mm、 外径27.5mm、 高さ10.3mmに加工した。超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこみ、650℃にて1時間加熱した。こうして得られたバルク超電導体を5Tの磁場中で77Kに冷却し、外部磁場を取り除いた後計測を行った結果、試料表面で0.5Tの磁場を捕捉していた。一方、囲繞ベルトによる補強無しで同様の実験を行ったところ、5Tから4Tに減磁したときに超電導バルク体は破壊した。このことから、囲繞リングにより、超電導バルク体が補強され、大きな磁場を捕捉することのできるバルク超電導マグネットを作製することができた。
<実施例2>
【0039】
Ptを0.5wt%含み、YBa2Cu3Oy相中にY2BaCuO5が微細分散した超電導バルク体を直径59.2mm、高さ11.0mmの寸法に加工した。Fe- 20.0wt%Mn- 5.0wt%Si- 7.99wt%Cr- 5.1wt%Niの組成を有する囲繞ベルトに対して、7%の拡径処理を行った後、 650℃において1時間加熱して形状回復させた後、再び5%の拡径処理を行った。超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこむため、この囲繞ベルトを内径59.3mm、 外径63.7mm、 高さ11.3mmに加工した。超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこみ、650℃にて1時間加熱した。次に400℃の温度で100時間、酸素雰囲気中で熱処理を行った。こうして得られたバルク超電導体を10Tの磁場中で40Kに冷却し、外部磁場を取り除いた後計測を行った結果、試料表面で6.2Tの磁場を捕捉していた。一方、囲繞ベルトによる補強無しで同様の実験を行ったところ、10Tから7.2Tに減磁したときに超電導バルク体は破壊した。このことから、囲繞ベルトにより、超電導バルク体が補強され、大きな磁場を捕捉することのできるバルク超電導マグネットを作製することができた。
<実施例3>
【0040】
Ptを0.5wt%、Agを5wt%含み、DyBa2Cu3Oy相中にDy2BaCuO5およびBaCeO3が微細分散した超電導バルク体を直径59.2mm、高さ11.0mmの寸法に加工した。Fe- 27.8wt%Mn- 5.97wt%Si- 4.93wt%Crの組成を有するリング状の囲繞ベルトに対して、6.5%の拡径処理を行った後、650℃において1時間加熱して形状回復させた後、再び5%の拡径処理を行った。超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこむため、この囲繞ベルトを内径59.3mm、 外径63.8mm、 高さ11.3mmに加工した。超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこみ、650℃にて1時間加熱した。次に400℃の温度で100時間、酸素雰囲気中で熱処理を行った。こうして得られたバルク超電導体を10Tの磁場中で40Kに冷却し、外部磁場を取り除いた後計測を行った結果、試料表面で7.8Tの磁場を捕捉していた。一方、囲繞ベルトによる補強無しで同様の実験を行ったところ、10Tから8.4Tに減磁したときに超電導バルク体は破壊した。このことから、形状記憶リングにより超電導材料が補強され、大きな磁場を捕捉することのできるバルク超電導マグネットを作製することができた。
<実施例4>
【0041】
YBa2Cu3Oy相中にY2BaCuO5およびBaCeO3が微細分散した直径39.5mm、高さ12.5mmを有する超電導バルク体の側周面に、加熱時に縮むように引張方向に7%加工された直径1.2mmを有するFe- 27.8wt%Mn- 5.97wt%Si- 4.93wt%Crの線材からなる囲繞ベルトを巻きつけた。その後、650℃で1時間加熱した。その後、400℃の温度で100時間、酸素雰囲気中で熱処理を行った。このバルク超電導体を10Tの磁場中で40Kに冷却し、外部磁場を取り除いた後計測を行った結果、試料表面で7.2Tの磁場を捕捉していた。一方、囲繞ベルトによる補強無しで同様の実験を行ったところ、10Tから6.5Tに減磁したときに超電導バルク体は破壊した。このことから、囲繞ベルトにより超電導バルク体が補強され、大きな磁場を捕捉することのできるバルク超電導マグネットを作製することができた。
【0042】
つづいて、金属製の円環を鋳込むことにより、超電導バルク体に嵌めこんだ後に、さらに、囲繞ベルトを嵌めこんだ場合の実施例を記載する。
<実施例5>
【0043】
Ptを0.5wt%含み、DyBa2Cu3Oy相中にDy2BaCuO5およびBaCeO3が微細分散した超電導バルク体を直径39.0mm、高さ13.0mmの寸法に加工した。このバルク体に対してAl-13wt%Siの合金を鋳込んだ。この結果、超電導バルク体の周囲をこの合金が覆う直径42.8mm、高さ13.0mmの部材を得た。この部材に対して。Fe- 27.8wt%Mn- 5.97wt%Si- 4.93wt%Crの組成を有する囲繞ベルトに対して、6.5%の拡径処理を行った後、650℃において1時間加熱して形状回復させた後、再び5%の拡径処理を行った。超電導バルク体に囲繞ベルトを嵌めこむため、この囲繞ベルトを内径42.9mm、 外径47.5mm、 高さ13.0mmに加工した。囲繞ベルトに超電導バルク体を嵌めこみ、550℃にて1時間加熱した。超電導バルク体の周囲にAl-Si合金を配置しているため、この合金が変形を生じ、形状記憶合金との隙間を埋めることを確認した。次に400℃の温度で100時間、酸素雰囲気中で熱処理を行った。こうして得られたバルク超電導体を10Tの磁場中で40Kに冷却し、外部磁場を取り除いた後計測を行った結果、試料表面で8.0Tの磁場を捕捉していた。一方、囲繞ベルトによる補強無しで同様の実験を行ったところ、10Tから8.4Tに減磁したときに超電導バルク体は破壊した。このことから、囲繞ベルトにより、超電導材料が補強され、大きな磁場を捕捉することのできるバルク超電導マグネットを作製することができた。
<実施例6>
【0044】
YBa2Cu3Oy相中にY2BaCuO5およびBaCeO3が微細分散した直径38.9mm、高さ12.5mmを有する超電導バルク体に対してAl-13wt%Siの合金を鋳込んだ。この結果、超電導バルク体の周囲をこの合金が覆う直径43.5mm、高さ12.5mmの部材を得た。次に加熱時に縮むように引張方向に5%加工された直径1.2mmを有するFe- 27.8wt%Mn- 5.97wt%Si- 4.93wt%Crの線材からなる囲繞ベルトを巻きつけた。その後、650℃で1時間加熱した。その後、400℃の温度で100時間、酸素雰囲気中で熱処理を行った。このバルク超電導体を10Tの磁場中で40Kに冷却し、外部磁場を取り除いた後計測を行った結果、試料表面で7.4Tの磁場を捕捉していた。一方、囲繞ベルトによる補強無しで同様の実験を行ったところ、10Tから5.5Tに減磁したときに超電導バルク体は破壊した。このことから、囲繞ベルトにより、超電導バルク体が補強され、大きな磁場を捕捉することのできるバルク超電導マグネットを作製することができた。
【0045】
前記線材は、いわゆるトレーニング処理を施したものであってもよい。つまり、前記5%の加工の前にたとえば7%の加工を施して600℃に加熱したのち引張方向に5%加工されていてもよい。
<実施形態1 効果>
【0046】
本実施形態のバルク超電導体により、電磁力や急激な昇温や冷却に伴う熱ひずみといった外力や内部応力の影響を低減し、高い捕捉磁場を維持し得るバルク超電導体を、高い寸法精度を必要とせずに提供することができる。
<実施形態2>
<実施形態2 概要>
【0047】
本実施形態は、超電導バルク体と囲繞ベルトとの隙間に金属を含浸させることにより、囲繞ベルトによる圧縮応力を均一に負荷するとともに、超電導バルク体そのものの機械特性を向上させることにより超電導バルク体の破壊を防止することが可能となる。
<実施形態2 構成>
【0048】
本実施形態のバルク超電導体は、実施形態1を基本とし、超電導バルク体と囲繞ベルトとの隙間に金属を含浸させることを特徴とする。基本的構成については、実施形態1において説明済みであるので、本実施形態の特徴的な構成以外については、説明を省略する。
【0049】
図9は、本実施形態のバルク超電導体の概念図である。超電導バルク体(0901)と囲繞ベルト(0902)との隙間に金属を含浸させ、当該隙間を埋めるとともに超電導バルク体に生じているクラックにも浸透して、これを埋めることができる。
【0050】
超電導バルク体と囲繞ベルトとの隙間に金属を含浸させるためには、例えば、アルミ合金、鉄合金、銅合金などの低融点合金を当該隙間に鋳込むことによって実現することができる。低融点合金には、例えば、Bi-Pb-Sn-Cd-In合金、Bi-Pb-Sn-Cd-合金、Bi-Sn-In合金、Bi-Sn-Cd合金、Bi-Pb-Sn合金、Al-Si合金などが挙げられる。溶融温度は、例えば、42.34wt%Bi- 22.86wt%Pb- 11.0wt%Sn- 8.46wt%Cd- 15.34wt%Inの低融点合金であれば47.0℃である。
【0051】
溶融した合金は、超電導バルク体と囲繞ベルトとの隙間を埋めることにより、囲繞ベルトによる圧縮応力を超電導バルク体に対して、より均一に負荷することが可能となる。さらに、隙間を埋めるだけにとどまらず、超電導バルク体そのものに生じている微小クラックや気孔を通じてバルク体内部に円滑に浸透し、それらの微小クラックや気孔を埋めることになる。そして、このように内部の微小クラックや気孔が低融点合金で埋められた超電導バルク体では、その微小クラックや気孔の部位に応力集中が起きるのが緩和され、これらを起点とした破壊を防止し、高い捕捉磁場を維持することが可能となる。
【0052】
また、特に酸化物超電導バルク体は湿気や炭酸ガスの多い腐食性雰囲気に長時間曝されると、腐食によって材料劣化を生じたり反応相が生じたりして新たな割れが生じてこれが進展するおそれがあるが、低融点合金の含浸により耐食性を向上させる効果も得られる。
<実施例>
【0053】
CeO2を0.5wt%含み、YBa2Cu3Oy相中にY2BaCuO5およびBaCeO3が微細分散した超電導バルク体を直径39.0mm、高さ13.0mmの寸法に加工した。この超電導バルク体に対して、加熱する場合、縮径する方向に7%加工された内径39.1mm、 外径43.7mm、 高さ13.0mmを有するNi-45wt%Tiの組成を有する囲繞ベルトに対して超電導バルク体を嵌めこみ、650℃にて1時間加熱した。次に400℃の温度で100時間、酸素雰囲気中で熱処理を行った。その後、この部材に対して、融点47.0℃を有する42.34wt%Bi- 22.86wt%Pb- 11.0wt%Sn- 8.46wt%Cd- 15.34wt%Inの低融点合金を90℃に加熱して鋳込んだ。この結果、超電導バルク体と囲繞ベルトとの隙間にこの低融点合金が入り込むことを確認した。このバルク超電導体を10Tの磁場中で40Kに冷却し、外部磁場を取り除いた後計測を行った結果、試料表面で7.6Tの磁場を捕捉していた。一方、囲繞ベルトによる補強無しで同様の実験を行ったところ、10Tから7.2Tに減磁したときに超電導バルク体は破壊した。このことから、囲繞ベルトにより、超電導バルク体が補強され、大きな磁場を捕捉することのできるバルク超電導マグネットを作製することができた。
<実施形態2 効果>
【0054】
本実施形態のバルク超電導体により、より均一な圧縮応力が超電導バルク体に負荷されるとともに、超電導バルク体そのものの機械的強度を向上させることが可能となる。
<実施形態3>
<実施形態3 概要>
【0055】
本実施形態は、超電導バルク体と囲繞ベルトとの隙間に樹脂を含浸させることにより、囲繞ベルトによる圧縮応力を均一に負荷するとともに、超電導バルク体そのものの機械特性を向上させることにより超電導バルク体の破壊を防止することが可能となる。
<実施形態3 構成>
【0056】
本実施形態のバルク超電導体は、実施形態1を基本とし、超電導バルク体と囲繞ベルトとの隙間に樹脂を含浸させることを特徴とする。基本的構成については、実施形態1において説明済みであるので、本実施形態の特徴的な構成以外については、説明を省略する。
【0057】
樹脂の含浸は、例えば、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を100℃程度に加熱して溶かした中に囲繞ベルトを嵌めこんだ超電導バルク体を浸すことなどにより実現することが可能である。
【0058】
樹脂を含浸させることにより、超電導バルク体と囲繞ベルトとの隙間を埋めることができ、囲繞ベルトによる圧縮応力を超電導バルク体により均一に負荷することが可能となる。さらに、隙間を埋めるだけにとどまらず、超電導バルク体そのものに生じている微小クラックや気孔を通じてバルク体内部に円滑に浸透し、それらの微小クラックや気孔を埋めることになる。そして、このように内部の微小クラックや気孔が低融点金属で埋められた超電導バルク体では、その微小クラックや気孔の部位に応力集中が起きるのが緩和され、これらを起点とした破壊を防止し、さらに耐食性を向上させ、高い捕捉磁場を維持することが可能となる。
<実施形態3 効果>
【0059】
本実施形態のバルク超電導体により、より均一な圧縮応力が超電導バルク体に負荷されるとともに、超電導バルク体そのものの機械的強度を向上させることが可能となる。
<実施形態4>
<実施形態4 概要>
【0060】
本実施形態は、超伝導バルク体よりも線膨張係数の大きな金属を溶融させて鋳込むことにより超伝導バルク体を加圧囲繞するようにしたバルク超電導体の製造方法である。
<実施形態4 構成>
【0061】
本実施形態に係るバルク超電導体の製造方法を、図11を用いて説明する。まず、超電導バルク体(1101)と、前記超電導バルク体との間に隙間を空けて取り囲む鋳型(1102)とを準備し、前記鋳型と超電導バルク体との間の隙間に前記超電導バルク体よりも線膨脹係数の大きな金属(1103)を溶融させて鋳込む。そして、該溶融金属を凝固させて前記超伝導バルク体を加圧囲繞するようにしたバルク超電導体を製造する。なお、超伝導バルク体は実施形態1などで説明したものと同様である。
【0062】
線膨張係数とは、温度の上昇に対応して長さが変化する割合を示すものであり、この熱膨張係数が超伝導バルク体のそれよりも大きな金属を鋳込みに用いる。例えば、実施形態2などに説明したアルミ合金、鉄合金、銅合金などを用いることができる。
【0063】
この溶融金属が凝固に伴い収縮し、超伝導バルク体に対して圧縮応力を負荷することになる。このように金属の鋳込みを施すことにより、超伝導バルク体に対して表面から均一な圧縮応力を負荷し、割れ防止をすることが可能となる。また、実施形態2において説明したように、超電導バルク体そのものに生じている微小クラックや気孔を通じてバルク体内部に円滑に浸透し、それらの微小クラックや気孔を埋めることにより、機械的強度を向上させることも可能となる。
<実施形態4 効果>
【0064】
本実施形態により、電磁力や急激な昇温や冷却に伴う熱ひずみといった外力や内部応力の影響を低減し、高い捕捉磁場を維持し得るバルク超電導体を製造することが可能となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
短筒状の超電導バルク体と、
前記超電導バルク体の側周面を加圧囲繞する形状記憶合金の囲繞ベルトと、
からなるバルク超電導体であって、
前記囲繞ベルトは、
超電導バルク体を囲繞した後に、形状回復処理をすることで超電導バルク体を加圧するようにしたバルク超電導体。
【請求項2】
前記超電導バルク体は、REBa2Cu3Oy(ここで,REはY, Pr, Nd, Sm, Eu, Gd, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Luから選ばれる1種類または2種類以上の元素)相中に,RE2BaCuO5またはRE4Ba2Cu2O10を含む銅酸化物超電導体である請求項1に記載のバルク超電導体。
【請求項3】
前記超電導バルク体中に、Pt, Rh, CeまたはAgを含有する請求項1または2に記載のバルク超電導体。
【請求項4】
前記形状記憶合金は、Ag-Cd合金, Au-Cd合金, Cu-Al-Ni合金, Cu-Sn合金, Cu-Zn合金, Fe-Pt合金, Mn-Cu合金, Fe-Mn-Si合金, Pt合金, Co-Ni-Al合金, Co-Ni-Ga合金, Ni-Fe-Ga合金, Ti-Pd合金またはNi-Ti合金からなる請求項1から3のいずれか一に記載のバルク超電導体。
【請求項5】
前記超電導バルク体と前記囲繞ベルトとの隙間に金属を含浸させる請求項1から4のいずれか一に記載のバルク超電導体。
【請求項6】
前記超電導バルク体と前記囲繞ベルトとの隙間に樹脂を含浸させる請求項1から4のいずれか一に記載のバルク超電導体。
【請求項7】
超電導バルク体と、
前記超電導バルク体との間に隙間を空けて取り囲む鋳型と、
を準備し、
前記鋳型と超電導バルク体との間の隙間に前記超電導バルク体よりも線膨脹係数の大きな金属を溶融させて鋳込み、
該溶融金属を凝固させて前記超電導バルク体を加圧囲繞するようにした
バルク超電導体の製造方法。
【請求項1】
短筒状の超電導バルク体と、
前記超電導バルク体の側周面を加圧囲繞する形状記憶合金の囲繞ベルトと、
からなるバルク超電導体であって、
前記囲繞ベルトは、
超電導バルク体を囲繞した後に、形状回復処理をすることで超電導バルク体を加圧するようにしたバルク超電導体。
【請求項2】
前記超電導バルク体は、REBa2Cu3Oy(ここで,REはY, Pr, Nd, Sm, Eu, Gd, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Luから選ばれる1種類または2種類以上の元素)相中に,RE2BaCuO5またはRE4Ba2Cu2O10を含む銅酸化物超電導体である請求項1に記載のバルク超電導体。
【請求項3】
前記超電導バルク体中に、Pt, Rh, CeまたはAgを含有する請求項1または2に記載のバルク超電導体。
【請求項4】
前記形状記憶合金は、Ag-Cd合金, Au-Cd合金, Cu-Al-Ni合金, Cu-Sn合金, Cu-Zn合金, Fe-Pt合金, Mn-Cu合金, Fe-Mn-Si合金, Pt合金, Co-Ni-Al合金, Co-Ni-Ga合金, Ni-Fe-Ga合金, Ti-Pd合金またはNi-Ti合金からなる請求項1から3のいずれか一に記載のバルク超電導体。
【請求項5】
前記超電導バルク体と前記囲繞ベルトとの隙間に金属を含浸させる請求項1から4のいずれか一に記載のバルク超電導体。
【請求項6】
前記超電導バルク体と前記囲繞ベルトとの隙間に樹脂を含浸させる請求項1から4のいずれか一に記載のバルク超電導体。
【請求項7】
超電導バルク体と、
前記超電導バルク体との間に隙間を空けて取り囲む鋳型と、
を準備し、
前記鋳型と超電導バルク体との間の隙間に前記超電導バルク体よりも線膨脹係数の大きな金属を溶融させて鋳込み、
該溶融金属を凝固させて前記超電導バルク体を加圧囲繞するようにした
バルク超電導体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−138823(P2011−138823A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296257(P2009−296257)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り ISS2009シンポジウム 国際超電導産業技術研究センター 平成21年11月2日から平成21年11月4日 SMAシンポジウム2009 形状記憶合金協会 平成21年11月26日から平成21年11月27日
【出願人】(599016431)学校法人 芝浦工業大学 (109)
【出願人】(506135866)淡路マテリア株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り ISS2009シンポジウム 国際超電導産業技術研究センター 平成21年11月2日から平成21年11月4日 SMAシンポジウム2009 形状記憶合金協会 平成21年11月26日から平成21年11月27日
【出願人】(599016431)学校法人 芝浦工業大学 (109)
【出願人】(506135866)淡路マテリア株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]