説明

バルサルタンの塩類

【課題】バルサルタンの塩類の新規形態またはバルサルタンの結晶性、同じく部分結晶性および非結晶性塩類、それぞれの製法および使用、およびかかる塩を含む医薬調製物を提供する。
【解決手段】AT受容体アンタゴニスト(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イル−メチル]−アミン(バルサルタン)の追加的な新規塩類および塩水和物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式
【化1】

で示されるAT受容体アンタゴニスト(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イル−メチル]−アミン(バルサルタン)の追加的な新規塩類および塩水和物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有効成分バルサルタンは、欧州特許第0443983号、特に実施例16で具体的に記載されている遊離酸である。それは、2個の酸性水素原子、すなわち(i)カルボキシル基の水素原子(H原子)および(ii)テトラゾール環の水素原子を有する。従って、一方の酸性H原子(主としてカルボキシルH原子)または両方の酸性H原子は、1価またはそれより多価、例えば2価カチオンにより置き換えられ得る。また、混合塩類も形成され得る。
【0003】
欧州特許第443983号は、バルサルタンの具体的な塩類または塩溶媒和物、例えば水和物については全く開示していない。また、塩類または塩溶媒和物、例えば水和物の特殊な特性についても述べていない。一方、有効成分バルサルタンは、一連の国々においてはディオバン(DIOVAN)の商標名で抗高血圧剤として紹介されている。
【0004】
遊離酸バルサルタンは、閉じたるつぼでは80〜95℃および開いたるつぼでは105〜110℃の融点および12kJ/molの融解エンタルピーを有する。比旋光度は、メタノール中c=1%の濃度について測定された[α]20=(−70±2)°である。
【0005】
バルサルタン結晶および塩水和物の密度を、ヘリウムピクノメーター(ミクロメリティクスのアキュピック1330、ノアクロス、ジョージア、米国)により測定した。遊離酸バルサルタンの結晶についての密度は1.20±0.02である。
【0006】
X線回折図は、本質的に非常に広範な散乱したX線反射により構成される。従って、遊離酸は、X線下ではほぼ非結晶性(アモルファス)であることを特徴とする。12kJ/molの測定された融解エンタルピーと融点を結び付けると、遊離酸バルサルタンについての粒子または構造ドメインにおける相当な残留配置の存在が明白に確認される。
【0007】
例えば、化学的製造工程の最終段階後の乾燥または粉砕工程および同じく医薬処方物の製造工程でより扱い易く、薬剤物質の製造方法の改良を招くバルサルタンのさらに安定した、例えば結晶形態が要望されている。塩形成を通じて改良された形態を発見すべく多くの無駄な試みが為されてきたが、かかる形態は理想的には可能な限り結晶状で、かつ物理的および化学的に安定したものである。出発材料として本明細書で挙げられた物質、溶媒場物、例えばその水和物および多形形態の両方を含む本発明による塩類のみ、改良された所望の特性を呈する。
【0008】
所望の有利な特性をもつバルサルタンの塩類および塩水和物の形成は、困難であることが判明している。大多数の場合、例えば、安定性をほとんど伴わない非結晶性塩類(例えば、硬フォーム、蝋または油類)が得られる。十分な研究により、本発明によるバルサルタンの追加的な塩類および塩水和物は、遊離酸バルサルタンと比べて特に有利であると証明されたことが示されている。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、マグネシウム塩およびカルシウム塩から成るアルカリ土類金属ならびに塩混合物の群から選択されるバルサルタンの塩類および塩水和物、またはそれぞれその非結晶形態、溶媒和物、特に水和物、ならびに多形形態、それぞれの製造および使用ならびに上記塩類を含む医薬調製物である。
【0010】
塩混合物は、(i)上記群から選択される異なるカチオンからの単一塩形態または(ii)例えば塊状形態で存在する単一塩形態の混合物または(III)異なる物理相、例えば幾つかの多形形態、種々の水和物または同じく無水物、種々の非結晶形態から成る単一塩または塩水和物の混合物または(IV)(I)、(II)および(III)項で列挙した形態を互いに含む混合物である。
【0011】
好ましい塩類は、例えばバルサルタンのカルシウム塩の結晶および非結晶形態、特にその水和物形態、主として四水和物、三水和物、一水和物、ジ−(バルサルタンのカルシウム塩)五水和物、無水物、非結晶形態、バルサルタンのマグネシウム塩の結晶形態、特にその水和物形態、主として六水和物、三水和物、一水和物、無水物、非結晶形態から選択される。
【0012】
本発明による塩類は、好ましくは単離された本質的に純粋な形態で、例えば95%より大、好ましくは98%より大、主として99%より大の化学的純度で存在する。本発明による塩類の鏡像体純度は98%より大、好ましくは99%より大である。
【0013】
遊離酸と比べると、本発明による塩類、またはその非結晶形態、溶媒和物、例えば塩水和物、および同じく対応するその多形形態は、予想外に有利な特性を有する。所定の条件下で、結晶性塩類および結晶性塩水和物は、著しい吸熱融解エンタルピーと結びついた明白な融点を有する。本発明による結晶性塩類、塩水和物、非結晶形態およびそれらの混合物は、安定性が限られている、すなわち固体としてのそれらは安定性範囲が限られている。安定させるため、それらは例えば生薬処方物により達成され得るある種の措置を必要とする。
【0014】
さらに、本発明による結晶性および非結晶性塩類および塩水和物は両方とも、水中での高い解離度すなわち実質的に改良された水に対する溶解度を有する。一方では溶解プロセスがより迅速となり、他方では上記溶液にとって水はより少量ですむため、これらの特性は有利である。さらに、水に対する溶解度が高くなると、ある種の条件下では、固体用量形態の場合における塩類または塩水和物の生物学的利用能もまた増強され得る。改良された特性は、特に患者にとって有益である。
【0015】
ある種の塩水和物の高い結晶度により、選択された分析方法、特に様々なX線方法および/または好ましくはATR−IR(減衰全反射赤外分光法)の手段による赤外スペクトルの使用が可能となり、両方法の使用により、それらの放出の明白で単純な分析が行われ得る。この因子はまた、製造、貯蔵および患者への投与中における活性物質およびその生薬形態の品質にとって非常に重要である。
【0016】
従って、本発明は、バルサルタンの結晶性、同じく部分結晶性および非結晶性塩類または塩水和物に関するものである。
【0017】
溶媒和物、例えば水和物と同様、本発明はまた、本発明による塩類の多形形態に関するものである。
【0018】
本発明による塩類の溶媒和物および同水和物は、例えば一‐、二‐、三‐、四‐、五‐、六‐溶媒和物または水和物としてそれぞれ存在し得る。溶媒和物および水和物はまた、1溶媒和物または1水和物分子につきたとえば2、3、4個の塩分子をもつ化学量論比で構成され得る。例えば、2個の塩分子が3、5、7個の溶媒または水和物分子に関して化学量論的である別の可能性もある。結晶化に使用される溶媒、例えばアルコール、特にメタノール、エタノール、アルデヒド、ケトン、特にアセトン、エステル、例えば酢酸エチルは、結晶格子に埋封され得る。好ましいのは、医薬上許容される溶媒である。選択された溶媒または水が結晶化および後続製造工程で溶媒和物または水和物に導かれるかまたは直接遊離酸に至る範囲は、一般的に予測不能であり、製造条件の組合せおよびバルサルタンおよび選択された溶媒、特に水間における様々な相互作用により異なる。生成した塩、塩溶媒和物または塩水和物形態の結晶または非結晶性固体の各安定性を実験により測定しなければならない。すなわち、これらの環境下では、異なる結晶固体および異なる非結晶物質が両方とも製造され得るため、単に生成した固体における化学組成および分子の化学量論比に焦点を絞ることはできない。
【0019】
結晶構造における水分子は、強い分子間力により結合されていることにより、一部、非常に安定しているこれらの結晶の構造形成の必須要素を代表するため、対応する水和物について塩水和物の記載が好まれ得る。しかしながら、水分子はまた、むしろ弱い分子間力により結合しているある種の結晶格子にも存在している。上記水分子は、エネルギー効果は低いが、多かれ少なかれ形成された結晶構造に組込まれている。非結晶固体における含水量は、一般に、結晶性水和物中と同様明白に測定され得るが、乾燥および周囲条件により大きく異なる。対照的に、安定した水和物の場合、医薬活性物質および水間に明白な化学量論比が存在する。多くの場合、これらの比は化学量論値を完全には満たさず、通常、それは、不完全さまたはある種の結晶欠損故に、理論値と比べて低い値に近い。弱く結合した水についての有機分子対水分子の比は、かなりの程度まで、例えば無水形態から一‐、二‐、三‐または四‐水和物に及ぶ範囲まで変わり得る。他方、非結晶性固体では、水の分子構造分類は、化学量論的ではない。しかしながら、分類はまた、ただ偶然で化学量論的であることもあり得る。
【0020】
場合によっては、層構造が例えばアルカリ金属塩類、特にカリウム塩で形成され、その結果埋封された水分子が特定された形態で測定され得ないため、水分子の正確な化学量論を分類することができないこともある。
【0021】
同一の化学組成を有する結晶性固体について、生成した異なる結晶格子は多形(polymorphism)の語により要約される。
【0022】
また、前記および後記において本発明による塩類といえば、適宜および都合に応じて、対応する溶媒和物、例えば水和物、および多形修飾体、および同じく非結晶形態を全て包含するものと理解すべきである。
【0023】
特に好ましい塩水和物は、多形形態A1,Caにおけるバルサルタンのカルシウム塩の四水和物である。密閉した試料容器において、T=10K/分の加熱速度の場合、それは190±1.5℃の融点および79±4kJ・Mol−1の融解エンタルピーを有する。バルサルタンA1,Caのカルシウム塩の四水和物は、水和物の水に関する点、従って分子の化学および物理構造に関する点の両方で、融点では安定していない。示された融点は、密閉試料容器でしか測定され得えない水和物融点である。壁厚さが0.2mmの金容器を使用した。2〜4mg間の塩水和物の試料中で秤量後、それらを低温溶接により密封した。これらの金容器は、約22マイクロリットルの内部自由容量を有する。塩水和物の強い脱水が融点測定中に行なわれ得ないように、試料の量および加圧容器の容量を適切に適合化させなければならない。摂氏191°での水の分圧は約13barであるため、融点測定中におけるDSC(示差走査熱量計)での開口容器によると、無水物への変換が行われる。高い水和物融点および融解エンタルピーの量は、両方ともバルサルタンのカルシウム塩の四水和物のA1,Ca形態の結晶格子の例外的な安定性の現われである。これら2つの熱力学的特徴は、遊離酸と比べて、2つの対応するデータ、すなわち90℃の密閉系での融点および12kJ/Molの融解エンタルピーを伴う有利な物理特性を実証している。X線データと一緒に、これらの熱力学的データは、この結晶格子の高い安定性を証明している。それらは、多形A1,Caのバルサルタンカルシウム塩の四水和物の特殊な物理および化学抵抗についての基礎である。
【0024】
同様に、赤外スペクトルの測定は、パーキン‐エルマー・コーポレーション(英国バックス、ビーコンフィールド)製の器械スペクトラムBXを用いるATR−IR(減衰全反射赤外分光法)手段により行なわれた。
【0025】
バルサルタンA1,Caのカルシウム塩の四水和物は、波長の逆数(cm−1)で表される吸収帯を有する:3594(w); 3307(w); 3056(w); 2960(m); 2871(w); 1621(st); 1578(st); 1459(m); 1442(m); 1417(m); 1407 (m); 1364(m); 1357 (m); 1319(m); 1274(m); 1242(w); 1211(m); 1180(m); 1149(w); 1137(m); 1105(m); 1099(m); 1012(m); 1003(m); 974(m); 965(w); 955(w); 941(w); 863(w); 856(w); 844(m); 823(m); 791(m); 784(m); 758(m); 738(st); 698(m)。
【0026】
吸収帯の強度は以下の通り示される:(w)=弱い;(m)=中位および(st)=強い強度。
【0027】
バルサルタンカルシウム塩の四水和物の多形形態A1,CaについてのATR−IR分光法の特徴的な吸収帯は、波長の逆数(cm−1)で表される以下の値により示されている:3307(w); 2960 (m); 1621(st); 1578(st); 1459(m); 1442(m); 1417(m); 1407 (m); 1364(m); 1357 (m); 1319(m); 1274(m); 1211(m); 1180(m); 1137(m); 1012(m); 1003(m); 974(m); 758(m); 738(st); 698(m)。ATR−IRの全吸収帯についての誤差限界は、±3cm−1である。
【0028】
含水率は、バルサルタンカルシウム塩の四水和物について理論的には13.2%である。熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)を用いて、25℃および225℃間で12.3%として多形形態A1,Caについての含水率を測定した。合計式をこの(C24272− Ca2+・ (3.7 ± 0.2) HOから計算した。
【0029】
水不含有N雰囲気中、熱重量分析を用いて、重量喪失、すなわち温度の関数としてバルサルタンA1,Caのカルシウム塩の四水和物についての水分喪失を、10K/分の加熱速度で測定した。結果を表1に示す。
【表1】

【0030】
物理−化学的手順、例えば乾燥、ふるい分け、粉砕について、および医薬賦形剤を用いて実施される製剤工程、すなわち混合工程、造粒、噴霧乾燥、錠剤化の両方における純粋活性物質の品質についての本質的特徴は、問題の環境の温度および相対湿度に左右されるこの活性物質の吸水性または水分喪失である。ある種の処方物の場合、遊離および結合水は疑い無く賦形剤と共に導入され、および/または各処方工程に付随する理由のため製造された塊に水を加える。こうして、医薬活性物質を、数時間またはさらには数日間にも及ぶ期間にわたる製造および製剤工程中、主として温度により変化する異なる活性(部分蒸気圧)の遊離水に曝露する。しかしながら、温度および相対湿度に関して相当の一定条件下におけるある一定の平衡期間後、活性物質の製造およびバルサルタン塩の処方において十分に特定された水和物形態に到達することは容易に可能である。
【0031】
X線粉末パターンにより測定した格子面間隔を用いて、バルサルタンカルシウム塩の四水和物のさらなる特性検定を実施する。室温でCu−Ka照射を用いて、透過ジオメトリーにおけるX線フィルムでギニエカメラ(FR552、エンラフ・ノニウス製、デルフト、オランダ国)によりX線粉末パターンの測定を行った。格子面間隔を算出するためのフィルムの評価を、視覚的およびライン‐スキャナー(ヨハンソン・タビィ、スウェーデン)の両方で行い、反射強度を同時に測定する。
【0032】
バルサルタンのカルシウム塩の四水和物A1,Caの好ましい特性は、確かめられたX線回折図の格子面間隔dから得られ、以下、適切な誤差限界で平均値を示す。
【0033】
以下の略語を用いて強度を括弧内に示す:非常に強い≡vst;強い≡st;中位≡m;弱い≡w;および非常に弱い≡vw。
d[Å]: 16.2±0.3 (vst)、11.4±0.2 (vw)、9.9±0.2(w)、9.4±0.2(vw)、8.06±0.1(vw)、7.73±0.1(vw)、7.05±0.1(vw)、6.50±0.05(vw)、6.36±0.05(vw)、5.82±0.05(w)、4.94±0.05(vw)、4.73±0.05(vw)、4.33±0.05(vw)、4.17±0.05(vw)、4.13±0.05(vw)、3.93±0.05(vw)。
【0034】
X線回折図における特徴的な反射は、以下の格子面間隔を示す:d [Å]: 16.2±0.3、11.4±0.2、9.9±0.2、9.4±0.2、8.06±0.1、7.05±0.1、6.50±0.05、5.82±0.05、4.94±0.05、4.73±0.05、4.33±0.05、4.17±0.05、4.13±0.05、3.93±0.05。
【0035】
バルサルタンカルシウム塩の四水和物の別の多形形態は、固体状形態A2,Caである。形態A2,Caの融点は195±1.5℃であり、融解エンタルピーは98±8kJ/Molである。示された融点は、密閉試料容器でしか測定され得ない水和物融点である。金容器および塩水和物2〜4mg間の試料重量を使用する。適用加熱速度はT=10K/分である。詳細については、形態A1,Caについて記載した説明を参照。カルシウムバルサルタン塩の四水和物A2,Caは、水不含有N雰囲気中、10K/分の加熱速度で熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)を用いることにより温度の関数として以下の水分喪失を明らかにしており、重量喪失を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
理論的含水率は、バルサルタンカルシウム塩四水和物については13.2%である。A2,Ca形態の四水和物は、12.8%の重量喪失として測定された225℃での結合水含有率を有し、合計式は、この(C24272− Ca2+・(3.9 ± 0.2) HOから算出される。
【0038】
四水和物A2,Ca形態のバルサルタンのカルシウム塩の固態特性確認は、X線粉末パターンおよび格子面間隔への反射の評価により達成される。室温でCu−Ka照射を用いて、透過ジオメトリーにおけるX線フィルムでギニエカメラ(FR552、エンラフ・ノニウス製、デルフト、オランダ国)により具体的な説明を伴わずに終始測定を行う。格子面間隔を算出するためのフィルムの評価を、視覚的およびライン‐スキャナー(ヨハンソン・タビィ、スウェーデン)の両方で行い、反射強度を同時に測定する。バルサルタンのカルシウム塩の四水和物A2,Caの好ましい特性は、確かめられたX線回折図の格子面間隔dから得られ、以下、適切な誤差限界で値を示す。以下の略語を用いて強度を括弧内に示す:非常に強い≡vst;強い≡st;中位≡m;弱い≡w;および非常に弱い≡vw。
【0039】
d[Å]: 16.2±0.3(vst)、9.9±0.2(w)、9.4±0.2(vw)、8.05±0.1(vw)、7.72±0.1(vw)、7.04±0.1(vw) 6.49±0.05(w)、6.35±0.05(vw)、5.82±0.05(w)、4.94±0.05(vw)、4.73±0.05(vw)、4.34±0.05(vw)、4.13±0.05(m)、3.93±0.05(w)、3.30±0.05(vw)。
【0040】
X線回折図における特徴的な反射は、以下の格子面間隔を示す:d [Å]: 16.2±0.3、9.9±0.2、9.4±0.2、8.05±0.1、7.04±0.1、6.49±0.05、5.82±0.05、4.94±0.05、4.13±0.05、3.93±0.05。
【0041】
新規物質は、B1,Caと命名されたバルサルタンカルシウム塩の三水和物の多形形態として見出された。物質B1,Caの融点は、Tfus=175±3℃として10K/分の加熱速度で密閉試料セルにおいて測定され、部分結晶試料の融解エンタルピーは12±4kJ/Molである。
【0042】
含水率は、バルサルタンのカルシウム塩の三水和物については理論上10.24%である。熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)を用いて、9.9±0.4%として多形形態B1,Caについての含水率を測定した。合計式を、バルサルタンカルシウム塩の三水和物のこの多形形態(C24272− Ca2+ ・ (2.9 ± 0.3) HOから計算した。
【0043】
水不含有N雰囲気中、熱重量分析を用いて、重量喪失、すなわち温度の関数としてバルサルタンの多形形態B1,Caのカルシウム塩の三水和物についての水分喪失を、10K/分の加熱速度で測定した。結果を表3に示す。
【表3】

【0044】
バルサルタンB1,Caのカルシウム塩の三水和物の固態特性確認は、好ましくはX線粉末パターンおよび格子面間隔の評価により実施される。バルサルタンのカルシウム塩の三水和物B1,Caの2試料および2種の異なる器械で測定を行った。使用した第一の器械は、アントン・パアールGmbH(A−8054グラッツ、オーストリア国)製の低および中温アタッチメント(attachement)を備えた、フィリップス・アナリティカルX‐レイ(7602アルメロ、オランダ国)製の温度‐湿度粉末回折チャンバーX'Pertであった。第二の器械は、同じくフィリップス・アナリティカルX‐レイ(7602アルメロ、オランダ国)製の粉末回折計PW1710である。対照標準試料、すなわちバルサルタンのカルシウム塩の四水和物による2つの並行測定を用いることにより、Cu−Ka照射を用いて、透過ジオメトリーにおけるX線フィルムでのギニエカメラ(FR552、エンラフ・ノニウス製、デルフト、オランダ国)により粉末回折計PW1710を対応させた。格子面間隔を粉末回折計PW1710からギニエカメラの値に到達させるための補正は、16Åのd値についての+0.55Åから5.7Åのd値についての+0.02Åの範囲であった。低いd値について補正は必要無かった。
【0045】
格子面間隔dによるバルサルタンのカルシウム塩の三水和物B1,Caの特性確認は上記と同様であり、以下の値で適切な誤差限界により示されている。以下の略語を用いてd値の強度を括弧内に示す:非常に強い≡vst;強い≡st;中位≡m;弱い≡w;および非常に弱い≡vw。d [Å]: 16.0±0.3(vst)、11.4±0.2(m)、10.0±0.2(vw)、9.4±0.2(vw)、9.1±0.2(vw)、8.06±0.1(vw)、7.75±0.1(vw)、7.03±0.1(vw)、6.48±0.05(vw)、6.10±0.05(vw)、5.76±0.05(vw)、5.16±0.05(vw)、4.95±0.05(vw)、4.75±0.05(vw)、4.68±0.05(vw)、4.33±0.05(vw)。
【0046】
X線回折図における特徴的な反射は、B1,Ca形態について以下の格子面間隔を表す:d [Å]: 16.0±0.3、11.4±0.2、10.0±0.2、9.4±0.2、8.06±0.1、7.75±0.1、7.03±0.1、6.48±0.05、6.10±0.05、5.16±0.05、4.75±0.05。
【0047】
バルサルタンカルシウム塩の三水和物の新規多形形態B2,Caは、パーキン‐エルマー・コーポレーション(ノアウォーク、コネティカット、米国)製パイリス1DSC(示差走査熱量計)により密閉試料セルで測定された197±1.5℃の融点を有する。融解のエンタルピーもまた、同じく62±6kJ/Molとして10K/分の加熱速度で測定されたDSC曲線から測定された。バルサルタンカルシウム塩の三水和物B2,Caの融点のDSC測定中、この物質に存在する非結晶物質の明白な証明として、同じくガラス転移が観察された。ガラス転移温度を、物質、すなわちバルサルタンカルシウム塩の三水和物B2,Caの比熱変化の中間点としてTg=68±20℃により計算した。比熱変化についての値を、Δcp=0.2±0.1 J・(g・K)−1として計算した。比熱の変化についてのこの値に近似した物質B2,Caに存在する非結晶性は、18±12%である。バルサルタンのカルシウム塩の結晶性三水和物B2,Caは、DSC パイリス1で測定された融解熱により異なり、主成分はこの結晶性生成物であって、バルサルタンのカルシウム塩の非結晶性部分は小部分である。
【0048】
バルサルタンのカルシウム塩の三水和物B2,Caの含水率は、10.5±0.5%である。この値は、熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)により測定された。合計式は、(C24272−Ca2+ ・(3.1±0.3)HOとして三水和物B2,Caの多形についてのこの結合水含有率から計算された。
【0049】
水はまた物質B2,Caの非結晶性部分にも存在し得るが、非結晶性部分の濃度に左右される。この水は、結晶性部分の水和物形態における水分子とは異なる形で結合した非結晶性部分内にある。まず推定されることとして、材料の状態に到達する最終工程がバルサルタンのカルシウム塩の無水物形態を通らない場合、結晶性および非結晶性部分は水濃度の点で類似していると言える。この事実についての説明は、バルサルタンのカルシウム塩の分子構造により与えられ、同じことがバルサルタンのマグネシウム塩についても当てはまる、すなわち塩構造は、かなりの部分まで分子相互作用性物質バルサルタン、カルシウムまたはマグネシウムおよび遊離水ではないが、構造的結合水である水の近距離オーダーに基づいている。この近距離分子構造は、非結晶性部分については結晶性部分とかなり類似している。勿論、非結晶性材料では、結晶性材料とは対照的に長距離オーダーが完全に欠如しており、この場合に分子があるとすれば、バルサルタンの三水和物B2,Caカルシウム塩における分子は、単一結晶内の全分子と構造的に相互関係のある過度に近隣の分子である。
【0050】
水不含有N雰囲気中、熱重量分析を用いて、重量喪失、すなわち温度の関数として三水和物B2,Caについての水分喪失を、10K/分の加熱速度で測定した。バルサルタンのカルシウム塩の三水和物の多形B2,Caに関する結果を表4に示す。
【表4】

【0051】
バルサルタンのカルシウム塩の三水和物B2,Caの固態特性確認は、2種の異なる器械および格子面間隔の評価でもたらされた2種の異なる電荷を用いたX線粉末分光法により実施された。第一の器械は、フィリップス・アナリティカルX‐レイ(7602アルメロ、オランダ国)製の粉末回折計PW1710であった。第二の器械は、Cu−Ka照射を用いた、透過ジオメトリーにおけるX線フィルムでのギニエカメラFR552(エンラフ・ノニウス製、デルフト、オランダ国)であった。第一の器械をギニエカメラにより対応させたところ、補正は、16Åのd値についての+0.55Åから5.7Åのd値についての+0.02Åの範囲であった。低いd値について補正は必要無かった。格子面間隔によるバルサルタンのカルシウム塩の三水和物B2,Caの特性確認は上記と同様であり、以下の値で適切な誤差限界により示されている。以下の略語を用いてd値の強度を括弧内に示す:非常に強い≡vst;強い≡st;中位≡m;弱い≡w;および非常に弱い≡vw。d [Å]: 16.2±0.3(vst)、11.5±0.2(w)、9.9±0.2(w)、9.4±0.2(w)、9.0±0.1(vw)、8.13±0.1(vw)、7.78±0.1(vw)、7.04±0.1(vw)、6.50±0.1(vw)、6.09±0.05(vw)、5.79±0.05(vw)、5.18±0.05(vw)、4.95±0.05(vw)、4.74±0.05(vw)、4.16±0.05(w)。
【0052】
X線回折図における特徴的反射は、以下の格子面間隔を示す:d[Å]: 16.2±0.3、11.5±0.2、9.9±0.2、9.4±0.2、7.04±0.1、6.50±0.1、5.79±0.05、4.74±0.05、4.16±0.05。
【0053】
バルサルタンのカルシウム塩の三水和物の別の多形、すなわちB3,Caは、192±1.5℃の密閉試料セルにおいて10K/分の加熱速度で測定された融点を有する。融解エンタルピーは、17±4kJ/MolでのDSC測定法により同じく測定された。
【0054】
65℃でDSCにより観察されたガラス転移現象は、scp = 0.3 3g−1・K−1の比熱の変化を明らかにしている。三水和物としてのバルサルタンの100%非結晶性カルシウム塩の比熱の変化と比べて、B3,Caの非結晶含有率は50%であると見積もられ得る。従って、結晶性B3,Caの融解エンタルピーは、34±10kJ/Molである。
【0055】
バルサルタンカルシウム塩の三水和物についての多形形態B3,Caの含水率は、TGS−2と称する熱重量測定装置(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)で測定したところ、9.8±0.5%の値であった。合計式を、(C24272− Ca2+・(2.9 ± 0.3) HOとして多形形態B3,Caについてのこの結合水含有率から計算した。
【0056】
水不含有N雰囲気中、熱重量分析を用いて、重量喪失、すなわち温度の関数としての三水和物B3,Caに関する水分喪失を、10K/分の加熱速度で測定した。バルサルタンのカルシウム塩の三水和物の多形B3,Caに関する結果を表5に示す。
【表5】

【0057】
Cu−Ka照射を用いた、透過ジオメトリーにおけるX線フィルムでのギニエカメラFR552(エンラフ・ノニウス製、デルフト、オランダ国)を設置して、バルサルタンのカルシウム塩の三水和物形態B3,Caの格子面間隔により結晶格子を室温で特性検定した。
【0058】
バルサルタンのカルシウム塩の三水和物形態B3,CaについてのX線回折図における反射は、以下の格子面間隔dを表しており、値は適切な誤差限界により示されている。以下の略語を用いてd値の強度を括弧内に示す:非常に強い≡vst;強い≡st;中位≡m;弱い≡w;および非常に弱い≡vw。d [Å]: 16.1±0.3(vst)、11.4±0.2(m)、9.9±0.2(w)、9.4±0.2(w)、9.0±0.1(vw)、8.04±0.1(vw)、7.73±0.1(vw)、7.03±0.1(vw)、6.47±0.05(vw)、6.33±0.1(vw)、6.09±0.05(vw)、5.79±0.05(w)、5.17±0.05(vw)、4.95±0.05(vw)、4.73±0.05(vw)、4.48±0.05(vw)、4.33±0.05(vw)、4.15±0.05(vw)、4.11±0.05(vw)、3.94±0.05(vw)、3.61±0.05(vw)。
【0059】
X線回折図における特徴的反射は、以下の格子面間隔を示す:d[Å]: 16.1±0.3、11.4±0.2、9.9±0.2、9.4±0.2、9.0±0.1、7.03±0.1、6.47±0.05、5.79±0.05、4.15±0.05、3.94±0.05。
【0060】
赤外スペクトルの測定は、パーキン‐エルマー・コーポレーション(英国バックス、ビーコンフィールド)製の器械スペクトラムBXを用いるATR−IR(減衰全反射赤外分光法)手段により行なわれた。
【0061】
バルサルタンのカルシウム塩の三水和物B3,Caは、波長の逆数(cm−1)で表される以下のATR−IR吸収帯を有する:3594(w); 3309(w); 3053(w); 2959(w); 2930(w); 2870(w); 1621(m); 1577(m); 1505(w); 1458(m); 1416(m); 1405(m); 1354(w); 1301(w); 1273(w); 1210(w); 1179(w); 1138(w); 1104(w); 1099(w); 1012(w); 1003(w); 974(w); 941(w); 906(w); 856(w); 841(w); 756(m); 737(m); 667(m)。
【0062】
吸収帯の強度は以下の通り示される:(w)=弱い;(m)=中位および(st)=強い強度。
【0063】
バルサルタンカルシウム塩の三水和物の多形形態B3,CaについてのATR−IR分光法の特徴的な吸収帯は、波長の逆数(cm−1)で表される以下の値により示されている:3594(w); 2959(w); 1621(st); 1577(m); 1458(m); 1405(m); 1354(w); 1273(w); 1012(w); 756(m); 737(m); 667(m)。ATR−IRの全吸収帯についての誤差限界は、±3cm−1である。
【0064】
さらに、バルサルタンのカルシウム塩の一水和物C1,Caとして新規物質が見出された。
【0065】
結合水含有率は、熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)で測定したところ3.1±0.3%である。合計式を、(C24272− Ca2+・(0.8 ± 0.2) HOとして一水和物C1,Caについての結合水含有率から計算した。
【0066】
バルサルタンC1,Caのカルシウム塩の一水和物の固態特性確認は、X線粉末パターンおよび格子面間隔の評価により実施された。使用した器械は、アントン・パアールGmbH(A−8054グラッツ、オーストリア国)製の低および中温アタッチメント(attachement)を備えた、フィリップス・アナリティカルX‐レイ(7602アルメロ、オランダ国)製の温度‐湿度粉末回折チャンバーX'Pertであった。
【0067】
格子面間隔dによるバルサルタンのカルシウム塩の一水和物C1,Caの特性検定は常法で行われ、以下の値において適切な誤差限界により示されている。以下の略語を用いてd値の強度を括弧内に示す:非常に強い≡vst;強い≡st;中位≡m;弱い≡w;および非常に弱い≡vw。d [Å]: 16.0±0.3(m)、15.0±0.3(vst)、11.6±0.2(w)、9.9±0.2(vw)、9.4±0.2(vw)、8.02±0.1(vw)、7.53±0.1(vw)、7.02±0.1(vw)、6.47±0.05(vw)、6.11±0.0.5(vw)、4.50±0.05(vw)、4.34±0.05(vw)。
【0068】
X線回折図における特徴的反射は、以下の格子面間隔を示す:d[Å]:16.0±0.3、15.0±0.3、11.6±0.2、9.4±0.2、7.53±0.1、6.11±0.05。
【0069】
驚くべきことに、ジ‐(バルサルタンのカルシウム塩)五水和物である、D1,Caと命名された別の新規物質が見出された。この新規物質D1,Caの融点は、10K/分の加熱速度およびパーキン‐エルマー・コーポレーション(ノアウォーク、コネティカット、米国)製のパイリス1と呼ばれるDSCにより密閉試料セルで測定されたところTfus=210±2℃である。上記説明と同じ器械および同じ手順で、融解熱を測定した。融解熱は、100%結晶ジ−(バルサルタンのカルシウム塩)五水和物についてのジ−(バルサルタンのカルシウム塩)五水和物に関するもので、94kJ/Molに近似している。
【0070】
五水和物としてのジ−(バルサルタンのカルシウム塩)の含水率は、熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)で測定したところ、225℃のプラトーで8.1±0.5%の値を示した。合計式を、[(C24272− Ca2+・(4.7 ± 0.3) HOとして物質D1,Caについてのこの結合水含有率から解明した。
【0071】
水不含有N雰囲気中、熱重量分析を用いて、重量喪失、すなわち温度の関数としてのジ‐(バルサルタンのカルシウム塩)五水和物D1,Caに関する水分喪失を、10K/分の加熱速度で測定した。ジ−(バルサルタンのカルシウム塩)五水和物に関する結果を表6に示す。
【表6】

【0072】
室温でCu−Ka照射を用いた、透過ジオメトリーにおけるX線フィルムでのギニエカメラ(FR552、エンラフ・ノニウス製、デルフト、オランダ国)により、ジ‐(バルサルタンのカルシウム塩)五水和物D1,Caの固態特性検定を実施した。格子面間隔を算出するためのフィルムの評価を、ライン‐スキャナー(ヨハンソン・タビィ、スウェーデン)により行い、反射強度を同時に測定する。X線回折図における反射を評価したところ以下の格子面間隔dが得られ、それらの値を適切な誤差限界で示す。以下の略語を用いてd値の強度を括弧内に示す:非常に強い≡vst;強い≡st;中位≡m;弱い≡w;および非常に弱い≡vw。d[Å]: 15.5±0.3(vst)、11.5±0.2(st)、9.4±0.2(vw)、9.04±0.1(w)、7.75±0.1(vw)、6.46±0.05(vw)、6.09±0.05(w)、5.82±0.05(vw)、 5.66±0.05(vw)、5.16±0.05(vw)、4.76±0.05(vw)、4.48±0.05(vw)、3.83±0.05(vw)、3.60±0.05(vw)、3.36±0.05(vw)。
【0073】
X線回折図における特徴的な反射は、以下の格子面間隔を示す:d [Å]: 15.5±0.3、11.5±0.2、9.4±0.2、9.04±0.1、6.46±0.05、6.09±0.05、5.82±0.05、5.16±0.05、4.48±0.05、3.60±0.05。
【0074】
結晶性、部分非結晶性固体の別の新規タイプは、バルサルタンのマグネシウム塩水和物および無水物の群に分類される。特に、多形物質形態でのバルサルタンのマグネシウム塩の六水和物A1,Mgは、好ましい物質である。
【0075】
20℃の1%溶液で測定された水中のバルサルタンのマグネシウム塩の六水和物の比旋光度は、存在する多形とは無関係でそれが六水和物であれば[α]20=−38°である。
【0076】
融点領域におけるこの塩水和物の熱挙動は、ある種の化学的および物理的不安定性を示すに過ぎない。すなわち、熱データは測定条件により異なる。熱量測定データに使用される器械は、終始パーキン‐エルマー・コーポレーション(ノアウォーク、コネティカット、米国)から得られるDSCパイリス1(示差走査熱量計)である。測定は、内部自由容量が約22マイクロリットルの密閉した金試料容器中に封入された試料で実施され、試料重量は2〜4mgおよびT=10K/分の加熱速度である。バルサルタンのマグネシウム塩の六水和物の多形形態A1,Mgの融点は130±3℃であり、融解エンタルピーは45±5kJ/Molである。多形形態A1,Mgとしてのバルサルタンのマグネシウム塩の六水和物は、熱重量測定方法を用いる場合に温度の関数として以下の水分喪失を示す。使用された器械は、TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)であり、測定は水不含有雰囲気中で行われた。選択された加熱速度は10K/分であった。重量喪失を表7に示す。
【0077】
【表7】

【0078】
理論的含水率は、バルサルタンのマグネシウム塩の六水和物については19.1%である。バルサルタンのマグネシウム塩の六水和物の多形形態A1,Mgは、17.3±0.5%の重量喪失として測定された225℃での結合水含有率を有する。合計式は、(C24272− Mg2+・(5.4 ± 0.2) HOとしてこれから計算される。
【0079】
六水和物A1,Mgの多形形態についてのバルサルタンのマグネシウム塩の固態特性検定は、X線粉末パターンおよび格子面間隔への反射の評価により実施される。測定は、3種の異なるX線器械により行われた。使用された第一の器械は、室温でCu−Ka照射を用いた、透過ジオメトリーにおけるX線フィルムでのギニエカメラ(FR552、エンラフ・ノニウス製、デルフト、オランダ国)である。格子面間隔を算出するためのフィルムの評価を、ヨハンソン(タビィ、スウェーデン)によるスキャナーにより実施し、反射強度を同時に測定する。新規物質A1,MgのX線測定に使用した第二の器械は、アントン・パアールGmbH(A−8054グラッツ)製の低および中温アタッチメント(attachement)を備えた、フィリップス・アナリティカルX‐レイ(7602アルメロ、オランダ国)製の温度‐湿度粉末回折チャンバーX'Pertである。固態特性検定で適用された第三の器械は、フィリップス・アナリティカルX‐レイ(7602アルメロ、オランダ国)製の粉末回折計PW1710である。バルサルタンのマグネシウム塩の六水和物の多形A1,Mgの特性確認は、確かめられたX線測定結果の格子面間隔dから達成される。以下、d値を適切な誤差限界により列挙する。以下の略語を用いて強度を括弧内に示す:非常に強い≡vst;強い≡st;中位≡m;弱い≡w;および非常に弱い≡vw。d[Å]: 19.6±0.3(vst)、16.6±0.3(vw)、10.3±0.2(vw)、9.8±0.2(m)、7.3±0.1(w)、6.9±0.1(vw)、6.01±0.05(w)、5.92±0.05(w)、 5.55±0.05(vw)、5.38±0.05(vw)、5.23±0.05(vw)、5.15±0.05(vw)、5.05±0.05(vw)、4.90±0.05(m)、4.54±0.05(vw)、4.22±0.05(vw)、4.13±0.05(vw)、4.07±0.05(w)、3.96±0.05(vw)、3.73±0.05(vw)、3.64±0.05(vw)、3.43±0.05(w)、3.29±0.05(vw)、3.22±0.05(vw)、3.11±0.05(vw)。
【0080】
X線回折図における特徴的反射は、以下の面間隔を示す:d [Å]: 19.6±0.3、16.6±0.3、10.3±0.2、9.8±0.2、7.3±0.1、6.01±0.05、5.92±0.05、5.55±0.05、5.38±0.05、4.90±0.05、4.13±0.05、4.07±0.05、3.43±0.05。
【0081】
三水和物形態の物質B1,Mgは、バルサルタンのマグネシウム塩の部分的非結晶性固体である。三水和物B1,Mgは、熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)により測定された温度の関数として以下の水分喪失を示す。選択された加熱速度は10K/分であった。重量喪失を表8に示す。
【0082】
【表8】

【0083】
三水和物の多形形態であるバルサルタンのマグネシウム塩B1,Mgは、225℃で13.0±0.5%の結合水含有率を示しており、表8で25℃について示されているところによると、実際にさらなる遊離水は物質B1,Mgには全く存在しない。熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)により測定を実施した。従って、合計式は、(C24272− Mg2+・(3.8 ± 0.2) HOとして計算される。
【0084】
バルサルタンのマグネシウム塩の三水和物B1,Mgの固態特性検定は、アントン・パアールGmbH(A−8054グラッツ)製の低および中温アタッチメント(attachement)を備えた、フィリップス・アナリティカルX‐レイ(7602アルメロ、オランダ国)製のいわゆる温度‐湿度粉末回折チャンバーX'Pertにより実施された。追加のX線測定は、フィリップス・アナリティカルX‐レイ(7602アルメロ、オランダ国)製の粉末回折計PW1710により実施された。物質B1,Mgの結晶性部分は格子面間隔dでの固態で特性検定され、それらは適切な誤差限界により示されている。以下の略語を用いて強度を括弧内に示す:非常に強い≡vst;強い≡st;中位≡m;弱い≡w;および非常に弱い≡vw。d[Å]: 15.8±0.3(vst)、11.0±0.2(w)、8.0±0.2(vw)。
【0085】
新規物質C1,Mgは、バルサルタンのマグネシウム塩の三水和物である。含水率を、熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)により測定した。この物質、すなわちバルサルタンのマグネシウム塩の三水和物C1,Mgについての含水率は、10.7±0.5%である。合計式は、この(C24272− Mg2+・(3.0 ± 0.3) HOとして計算される。
【0086】
バルサルタンのマグネシウム塩の三水和物C1,Mgの固態特性検定は、アントン・パアールGmbH(A−8054グラッツ)製の低および中温アタッチメント(attachement)を備えた、フィリップス・アナリティカルX‐レイ(7602アルメロ、オランダ国)製のいわゆる温度‐湿度粉末回折チャンバーX'Pertの使用によるX線測定法により実施された。バルサルタン三水和物のマグネシウム塩の物質C1,Mgの特性確認は、X線測定により得られた格子面間隔dにより為された。以下において、d値は適切な誤差限界により列挙されている。以下の略語を用いて強度を括弧内に示す:非常に強い≡vst;強い≡st;中位≡m;弱い≡w;および非常に弱い≡vw。d[Å]: 17.9±0.3(m)、10.2±0.2(w)、8.96±0.2(m)、7.18±0.1(w)、6.97±0.1(vw)、6.81±0.1(vw)、6.24±0.05(vw)、5.93±0.05(w)、5.84±0.05(w)、5.72±0.05(vw)、5.59±0.05(vw)、5.42±0.05(m)、5.25±0.05(vw)、5.11±0.05(m)、5.01±0.05(st)、4.82±0.05(w)、4.67±0.05(w)、4.57±0.05(vw)、4.49±0.05(vw)、4.30±0.05(m)、4.19±0.05(vst)、4.13±0.05(vst)、4.02±0.05(vst)、3.88±0.05(vw)。
【0087】
X線回折図における特徴的な反射は、以下の面間隔を示す:d[Å]: 17.9±0.3、10.2±0.2、8.96±0.2、7.18±0.1、5.93±0.05、5.84±0.05、5.42±0.05、5.11±0.05、5.01±0.05、4.82±0.05、4.67±0.05、4.30±0.05、4.19±0.05、4.13±0.05、4.02±0.05。
【0088】
バルサルタンのマグネシウム塩はまた、D1,Mgで示される一水和物としての物質を形成している。含水率を、熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)により測定した。一水和物D1,Mgについての含水率は、2.8±0.3%である。合計式は、この(C24272− Mg2+・(0.74 ± 0.2) HOによりこの値から計算された。
【0089】
バルサルタンのマグネシウム塩の一水和物D1,Mgの固態特性検定は、フィリップス・アナリティカルX‐レイ(7602アルメロ、オランダ国)製の温度‐湿度粉末回折チャンバーX'Pertの使用によるX線測定法により実施された。このX線器械は、アントン・パアールGmbH(A−8054グラッツ)製の低および中温アタッチメント(attachement)を備えている。
【0090】
新規物質、すなわちバルサルタンのマグネシウム塩の一水和物D1,Mgの特性確認は、X線検査で得られた格子面間隔dにより立証されている。以下において、d値は適切な誤差限界により列挙されている。以下の略語を用いて強度を括弧内に示す:非常に強い≡vst;強い≡st;中位≡m;弱い≡w;および非常に弱い≡vw。d[Å]: 15.1±0.2(st)、10.9±0.2(w)、10.3±0.2(vw)、7.66±0.1(vw)、7.21±0.1(vw)、5.12±0.05(vw)、4.75±0.05(vw)。
【0091】
バルサルタンのマグネシウム塩の一水和物についてのX線回折図における特徴的反射は、以下の面間隔を示す:d [Å]: 15.1±0.2、10.9±0.2、10.3±0.2、7.66±0.1、5.12±0.05。
【0092】
驚くべきことに、バルサルタンの結晶性塩類は、非結晶性または部分的非結晶性物質に変換され得る。対応する化学物質の結晶性および非結晶性形態は、分子レベルでの結晶および非結晶形態の異なる構造と関係した、異なる物理−化学特性を示す。主たる差異は、固体粒子の三次元構成に存する。結晶性粒子または結晶は、各単一分子周囲の十分に特定された結晶格子位置における所定数の分子の短距離配置を示す。結晶の基本セル内における分子セットのこれら最初の近隣分子は全て、同じ幾何的配置での全結晶格子内にある。単一分子の短距離配置は、低範囲配置と組合わされた結晶にある。反対に、非結晶性物質は、各分子について短距離オーダーのみを示すが、長距離オーダーは、非結晶性固体粒子内には存在しない。この構造的事実の結果は、固相内で低温から出発して加熱する場合における結晶または非結晶性物質の完全に異なる挙動である。結晶性物質は、同じ化学物質の異なる多形について異なり得る融点をもつが、存在する結晶相との相互関係が証明される融解エンタルピーを併せもつことを特徴とする。反対に、非結晶性物質は融点および融解エンタルピーを決して示さない。しかしながら、低温から出発して加熱する場合、非結晶性物質は、ガラス転移温度、モル熱容量がある一定の温度間隔にわたって変化する場合の温度と対応する。この効果の広さは、全く異なる品質に左右される。加熱におけるエンタルピー変化は、ガラス転移については常に試料によるエネルギー取込である。結晶性および非結晶性物質は、幾つかの分光的方法、例えばX線、ラマン、IRにより室温で区別される。さらに、固相における結晶性物質の安定性領域全体にわたる高温での特性検定もまた、温度‐湿度粉末回折チャンバーにより可能である。非結晶性物質は広い反射しか示さないため、好ましい特性検定はX線方法であるが、結晶性物質は別々の格子面間隔のセットを特徴とする。
【0093】
バルサルタンのカルシウム塩水和物の非結晶性物質E1,Caの固態特性検定は、パーキン‐エルマー・コーポレーション(ノアウォーク、コネティカット、米国)からのDSC(示差走査熱量計)パイリス1により実施される。すなわち結合水含有率が13.2%以下である塩水和物の存在故に、バルサルタンの結晶性カルシウム塩についても同じ手順を実行しなければならず、測定を内部自由容量の小さい金容器で行わなければならない。この場合、金容器は約22マイクロリットルの内部自由容量を有していた。追加的な水、いわゆる遊離水は、非結晶性物質に存在し得、熱重量測定装置および0℃のバルク水についての融解エンタルピーにより検出可能である。開口試料パンにおいて、または試料質量と比べて大きく、試験下の物質の水分により異なる内部自由容量の試料パンによると、水分は、部分的または完全に存在する化学物質から対応する無水物または低含水率の水和物へ転移する際に部分的または完全に蒸発する。壁厚さが0.22mmの金容器を使用した。1.5〜6mg間の塩水和物での試料を秤量後、それらを低温溶接により密閉した。四水和物および三水和物に対してバルサルタンのカルシウム塩の非結晶性物質E1,Caは、11±2%の含水率を有する。含水率は、実験製造方法を通じて与えられる。10K/分の加熱速度を適用し、約22マイクロリットルの内部自由容量をもつ密閉金容器中、3〜5mgの試料重量でガラス転移を測定した。ガラス転移温度は、T=94±20℃としてバルサルタンの非結晶性カルシウム塩E1,Caについて測定され、比熱の変化はガラス転移温度でΔcp=0.6±0.3 J・g−1・K−1として測定される。融点および融解エンタルピーは全く観察され得ない。
【0094】
無水物に対してバルサルタンのカルシウム塩の非結晶性物質F1,Caは、9±2%の含水率を有する。含水率を、熱重量測定法を用いて、水分不含有N雰囲気中TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)により測定する。10K/分の加熱速度を適用し、約22マイクロリットルの内部自由容量をもつ密閉金容器中、2〜4mgの試料重量でガラス転移を測定した。ガラス転移温度は、T=143±20℃としてバルサルタンの非結晶性塩F1,Caについて測定され、比熱の変化はガラス転移温度でΔcp=0.4±0.15 J・g−1・K−1として測定される。融点および融解エンタルピーは全く観察され得ない。これらの熱力学的データ、融点および融解エンタルピーを合わせたものが、結晶性材料または物質の絶対先行条件である。
【0095】
バルサルタンのマグネシウム塩の非結晶性物質E1,Mgは、16±3%の含水率を有する。非結晶性物質における水分子は水和物を形成している結晶性物質と比べると固体構造内では結合が弱いため、含水率は、非結晶性形態ではそれほど特定されていない。含水率を、熱重量測定法を用いて、水分不含有N雰囲気中TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)により測定する。10K/分の加熱速度を適用し、約22マイクロリットルの内部自由容量をもつ密閉金容器中、2〜4mgの試料重量でガラス転移を測定した。ガラス転移温度はT=78±20℃であり、比熱の変化はガラス転移温度でΔcp=0.5±0.25 J・g−1・K−1である。融点および融解エンタルピーは全く観察され得ない。
【0096】
好ましいのは、本質的に非結晶形態を含まない多形形態である。
本発明のさらに別の目的は、本発明による塩類の製造である。
【0097】
その非結晶性または結晶性形態を含む本発明による塩類または塩水和物は、以下の要領で製造され得る:
塩を形成させるため、2試薬、すなわち酸性バルサルタンおよびそれぞれの塩基が十分に溶け得る溶媒系で工程を実施する。結晶化または沈澱を達成するためには、生成した塩が溶けにくいかまたは全く溶け得ない溶媒または溶媒混合物を使用するのが好都合である。本発明による塩についての一変形は、この塩が非常によく溶ける溶媒を使用すること、およびそれに続いて生成した塩が乏しい溶解性しか示さない溶媒である貧溶媒(anti-solvent)をこの溶液に加えることである。塩結晶化についてのさらなる変形は、例えば、室温または室温より低温で、必要ならば減圧下、ゆっくりと溶媒を蒸発させながら加熱することにより、または種晶を加えて播種することにより、または水和物形成に必要とされる水活性を設定することにより、および/または対応する種晶を加えて播種することにより、塩溶液を濃縮することから成る。これらの製造工程の組合せが適切に選択され得る。
【0098】
使用され得る溶媒は、例えばC−Cアルカノール、好ましくはエタノールおよびイソプロパノール、ならびにC−Cジアルキルケトン、好ましくはアセトンおよびその水との混合物である。
【0099】
塩結晶化用貧溶媒は、例えばC−Cアルキルニトリル、特にアセトニトリル、エステル、特にC−Cアルカンカルボン酸‐C−Cアルキルエステル、例えばエチルまたはイソプロピルアセテート、ジ‐(C−Cアルキル)‐エーテル、例えばtert−ブチルメチルエーテル、さらにはテトラヒドロフラン、およびC−Cアルカン、特にペンタン、ヘキサンまたはヘプタンであり得る。
【0100】
溶解および結晶化工程は、以下の点を特徴とする:
(i)バルサルタンおよび適切な塩基を好ましくは水含有有機溶媒中で反応させる、
(ii)例えば、必要ならば減圧下、加熱し、種晶を播種することにより、または室温または高温でゆっくりと蒸発させることにより溶媒系を濃縮し、次いで結晶化または沈澱を開始させる、そして
(iii)得られた塩または塩水和物を単離する。
【0101】
溶解および結晶化工程において、使用される水含有有機溶媒系は、有利にはアルコール、例えばエタノール、および水、またはアルキルニトリル、特にアセトニトリル、および水の混合物である。
【0102】
水和物の平衡的結晶化製造方法は、以下の点を特徴とする:
(i)バルサルタンおよび適切な塩基を水含有有機溶媒に加える、
(ii)例えば必要ならば減圧下で加熱するかまたは例えば室温でゆっくりと蒸発させることにより溶媒を濃縮する、
(iii)濃縮残渣を、
(a)有利にはまだ温かく、まだ幾分水を含んでいる濃縮残渣を適切な溶媒に懸濁することにより、または
(b)所定の温度で、または所定の高温から低温に冷却しながら溶媒中で過剰の水を平衡させること
により必要量の水で平衡状態にし、
ただし、a)およびb)において既存または加えられた水は、水が有機溶媒に溶解し、追加相を形成することはない量で存在するものとし、そして
(iv)得られた塩を単離する。
【0103】
水含有有機溶媒として使用される溶媒系は、有利には適切なアルコール、例えばC−Cアルカノール、特にエタノール、および水の混合物を含む。
【0104】
平衡させるのに適切な溶媒は、例えばエステル、例えばC−Cアルカン‐カルボン酸‐C−Cアルキルエステル、特に酢酸エチル、またはケトン、例えばジ‐C−Cアルキルケトン、特にアセトンである。
【0105】
平衡工程は、例えばその高い収率および顕著な再現性について注目に値する。
【0106】
特に、本発明のアルカリ土類金属は、上記で説明した通り結晶形態で得られ、製造工程で慣用的に使用される適切な溶媒、例えばエステル類、例えばC−C‐アルカンカルボン酸‐C−C‐アルキルエステル類、特に酢酸エチル、ケトン類、例えばジ‐C−C‐アルキルケトン類、特にアセトン、C−C‐アルキルニトリル類、特にアセトニトリル、またはエーテル類、例えばジ‐(C−C‐アルキル)‐エーテル類、例えばtert−ブチルメチルエーテル、同じくテトラヒドロフラン、または溶媒混合物からの、水和物、または水和物の混合物、または水和物と非結晶形態との混合物形態である。溶解および結晶化工程、または水平衡結晶化工程用いることにより、結晶および非結晶性形態に存在する特定された水和物は、再現可能な形で得られる。
【0107】
塩類形成工程もまた本発明の目的である。
本発明によるこれらの塩類または塩水和物は、例えば酸性バルサルタンをそれぞれのカチオンに対応する塩基で中和することにより得られる。この中和は、適切には水性媒質、例えば水または水およびバルサルタンが水の場合より溶け易い溶媒の混合物中で実施される。弱い塩基との塩類は、より強い塩基で処理するかまたは酸で処理し、次いで他の塩基で中和することにより、他の塩類に変換され得る。
【0108】
特にアルカリ土類金属塩水和物の結晶化は、水中、または水および水と混和性または部分的混和性である少なくとも1種の溶媒、すなわちあまり非極性ではないもの、例えばアルカノール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、DMF、DMSOから成る水性媒質中で実施される。アルカノール部分は、体積にして約10%〜99%、または20%〜90%、有利には30%〜70%に達する。高級アルカノール類の場合、極性の低い溶媒はまた低い濃度で存在し得る。バルサルタンの水に対する溶解性は限られているため、本工程は懸濁液中で、またはバルサルタンが他の溶媒成分に可溶性である場合は溶液中で行なわれることが多い。
【0109】
一例において、例えばバルサルタンのカルシウム塩を製造するためには、バルサルタンの水溶液を室温で水酸化カルシウム溶液により中和し、溶液を放置して結晶化させる。好ましい手順では、結晶化は、水/エタノールの溶媒混合物から実施され、エタノール比率は体積にして約30%〜50%に達する。特に好ましい形態では、結晶化は、体積にして30%のエタノール中の低温勾配(40℃で特に1〜2℃)を通して輸送することによる密閉系で実施される。
【0110】
好ましい変形では、結晶化は、最適化され、例えば少なくとも1個の種晶を加えることにより加速され得る。
【0111】
水和物、または無水物として望ましい形態および特異的多形、またはその特異的非結晶形態のバルサルタンの塩を製造するため、溶解、化学反応および結晶化工程を特に使用するか、または水‐平衡結晶化、または追加的乾燥‐平衡工程を使用する。以下、溶解および化学反応に続く工程の概略を述べる:
【0112】
(i)水対バルサルタン塩の所定の分子比を有する塩水和物または水対バルサルタン塩の分子比が異なる水和物の混合物と共に、または水和物および所定のバルサルタン塩の無水物の混合物として、およびこれらの物質全ておよび物質の混合物の特異的多形形態または特異的非結晶形態として、または異なる多形および異なる非結晶形態の混合物として、分離するか、または分離せずに母液から、あまり多量の固相は溶けないが、懸濁液として存在する別の液相へ転移させる。この懸濁液の液相を、適切な条件、例えば温度、圧力、体積、水に関する組成、溶媒、貧溶媒で、選択された塩水和物が再結晶化工程により生成されるように段階的または連続的に変化させる。再結晶化は、少なくとも1個の種晶を加えることにより進められ得る。
【0113】
(ii)母液から、または塩水和物が懸濁している液相から得られた結晶状態の塩水和物を分離し、湿ったケーキを洗浄するかまたはしないで乾燥機に移す。好ましくは使用される乾燥機は、製品移送型(moving product)乾燥機、例えばパドルドライヤーである。乾燥機における、および乾燥工程についての条件は、製造するべき形態で塩水和物が得られるよう適切に選択されなければならない。
【0114】
本発明の好ましい実施態様において、種々の水和物およびその多形および非結晶形態は、以下の要領で熱重量測定手順を用いて製造され得る:
例えばA0,CaまたはA0,Mg形態からそれぞれ出発し、
上記形態を、(i)例えば、熱重量測定装置、例えばTGS−2、または温度‐湿度粉末回折チャンバー、例えばX'Pert、または示差走査熱量計、例えばDSC パイリス1において、例えば全体的または部分的に脱水し、
次いで、(ii)種々の期間にわたって種々の相対空気湿度への曝露により平衡させ、
所望により、(iii)種々の期間にわたって緩和させ、そして
次いで、必要ならば(iv)単離する。
【0115】
脱水工程は、本質的に、特定温度範囲で、時間間隔にわたって不活性ガス下、水不含有雰囲気中で対応する出発材料を脱水することにより実施される。適切な温度は、室温から100℃である。適切な時間間隔は、30分から70時間である。
【0116】
平衡工程は、脱水形態を異なる空気湿度に曝露することにより実施される。好ましい空気湿度は、20%〜70%の相対空気湿度の範囲である。
【0117】
緩和期間は、30分〜50時間である。平衡工程に好ましい温度範囲は、20℃〜25℃である。
本発明による形態は、好ましくは結晶化により単離される。
【0118】
特に重要な条件は、乾燥機中の空気の相対湿度、空気の温度および乾燥生成物の温度であり、これらのパラメーターは全て乾燥程度および同じく平衡に達した生成物の最終状態を特定する乾燥時間間隔の関数として与えられる。
【0119】
懸濁液としてまたは乾燥工程における生成物としての結晶化または沈澱工程中、または再結晶化工程中におけるバルサルタンの塩水和物の水和物形成についての主たる駆動力は、液相中における水の活性または乾燥機の空気中における水の分圧である。バルサルタンの塩水和物が懸濁されている液相の組成およびその温度は、水の活性にとって決定的である。乾燥機において、水の分圧は、例えば引入れられた気流の相対湿度、乾燥機の温度および乾燥される物質の温度、水の取込または乾燥される物質の脱水、気体の流速および乾燥される物質の質量といった条件により平衡または非平衡条件下で調節される。勿論、乾燥工程の始まりと終りにおける水分子対塩分子の比および脱水または水和の速度論もまた、乾燥機中における水の分圧に影響する因子である。
【0120】
バルサルタンの塩水和物および生成物の最終状態の多形形態にとって決定的である追加的熱力学的パラメーターは温度である。また、バルサルタンの塩水和物の熱力学的安定領域は温度にも左右され、または言い換えれば、バルサルタンのある種の塩水和物およびその多形は、所定の温度領域についてのみ安定している。一例として、選択されたバルサルタンの塩水和物は、温度が適切に選択されている場合のみ溶液から結晶化され得るかまたは同じく再結晶化され得る。
【0121】
本発明による塩類は、例えば、所望により腸溶、例えば経口または非経口投与に適切である医薬上許容される担体、例えば無機または有機固体または所望により液体であってもよい医薬上許容される担体と一緒に、例えば活性物質の治療有効量で活性物質を含有する医薬調製物形態で使用され得る。
【0122】
本発明は、所望により医薬上許容される担体と一緒でもよい、好ましくは経口投与用の特に固体用量単位である、特に医薬組成物に関するものである。
【0123】
この種の医薬調製物は、例えばAT受容体を遮断することにより阻害され得る病気または状態、例えば以下のものから成る群から選択される病気または状態の予防および処置に使用され得る:
(a)高血圧、うっ血性心不全、腎不全、特に慢性腎不全、経皮経管動脈形成術後の再狭窄、および冠動脈バイパス手術後の再狭窄;
(b)アテローム性動脈硬化症、インシュリン抵抗およびX症候群、真性糖尿病2型、肥満、ネフロパシー、腎不全、例えば慢性腎不全、甲状腺機能低下、心筋梗塞(MI)後生存、冠動脈心疾患、高齢者における高血圧、家族性脂質異常(dyslipidemic)高血圧、コラーゲン形成増加、線維症、および高血圧後のリモデリング(組合せの抗増殖効果)、これらの病気または状態は全て高血圧に伴う場合も伴わない場合もある、
(c)高血圧を伴う場合も伴わない場合もある内皮機能障害、
(d)高脂血症、高リポタンパク血症、アテローム性動脈硬化症および高コレステロール血症、および
(e)緑内障。
【0124】
主たる使用は、高血圧およびうっ血性心不全、ならびに心筋梗塞後の処置についてのものである。
【0125】
当業者であれば、関連性のある標準動物試験モデルを選択することにより、前記および後記で示した治療適応症および有益な効果を十分証明できるはずである。
【0126】
本発明の塩類の代表例または本発明により使用される有効成分の組合せの投与によりもたらされる医薬活性は、例えば当業界で公知の対応する薬理学的モデルを用いることにより立証され得る。当業者であれば、関連性のある動物試験モデルを選択することにより、前記および後記で示した治療適応症および有益な効果を十分証明できるはずである。
【0127】
これらの有益な効果は、例えば、G.Jeremic et al.、J.Cardovasc.Pharmacol. 27:347−354(1996)で開示された試験モデルにおいて立証され得る。
【0128】
例えば、心筋梗塞の予防および処置についての本発明の塩類または組合せの貴重な潜在能力は、以下の試験モデルを用いて見出され得る。
【0129】
試験デザイン
遂行すべき試験では、ラットにおける永続的冠動脈閉塞(CAO)を、急性心筋梗塞のモデルとして使用する。以下の主要点を特徴とする5処置群により、実験を実施する:
・偽手術動物
・CAO+賦形剤
・CAO+本発明による塩
所望により
・CAO+本発明による塩+組合せ相手物質。
【0130】
試験中、以下の変数を測定する:
・梗塞サイズ
・LV室容量
・スペアのLV心筋における間隙および脈管周囲コラーゲン密度
・ウエスタンブロットによる余分のLV心筋におけるCOL−IおよびCOL−IIIタンパク質含有量
・LV心筋の断片における心筋細胞断面積および長さ
・レニンおよびアルドステロンの血漿濃度
・ナトリウム、カリウムおよびアルドステロンの尿濃度
・覚醒動物における血圧
・麻酔された動物におけるLVおよび頚動脈血圧。
【0131】
方法
梗塞サイズ:6μm厚さの左心室の横断組織片を、ニトロブルーテトラゾリウムで染色し、B/W XC−77CE CCDビデオカメラ(ソニー)により捉える。得られた画像を、特別に開発されたソフトウェア(Porzio et al.、1995)を用いてKS300画像分析システム(カール・ツァイス・ビジョン)で処理する。処置に盲検的な単一演算子は、双方向的に心室中隔の境界を画定し、各断片における梗塞領域を、非染色心室組織領域として半自動的に同定する。ソフトウェアは、心室、中隔、梗塞領域、梗塞LV壁および生存可能なLV壁として特定された心室断片の各成分について一連の幾何的パラメーターを自動的に計算する(Porzio et al.、1995)。
【0132】
組織構造:0.5MのKClの静脈内注射による心拡張期での停止後緩衝4%ホルムアルデヒドでの逆行性灌流により、心臓をその場で固定する。固定後、左心室(LV)および右心室の自由壁を別々に秤量する。LVの長径をカリパスで測定する。LV組織断片を、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色することにより、定性的検査を行い、半自動的画像分析作業で心筋細胞断面積を定量する。LVにおける間隙コラーゲン沈積を、常用の半自動的画像分析手順(Masson et al.、1998)によりシリウスレッド染色片において評価する。
【0133】
LVスペア心筋におけるコラーゲン含有量:スペアの心筋におけるLV組織をホモジネートし、PAGE−SDS電気泳動にかけ、ニトロセルロース膜にエレクトロブロッティングする。ブロットを一次抗体、すなわちウサギ抗ラットコラーゲンI型またはIII型抗血清(ケミコン)に曝露する。一次抗体は、アルカリ性ホスファターゼ(コラーゲンI型の場合)またはペルオキシダーゼ(コラーゲンIII型)にコンジュゲートされた二次抗体により認識される。
【0134】
左心室容量:LV室容量を、心拡張期(KCI)で停止させた心臓で測定し、測定されたLV最終拡張期血圧と等しい静水圧下でホルマリンに固定する。計量ロッドをLVに挿入して、LV内部長を測定する。
【0135】
LV室の断面直径を、心室の基部および頂部付近の1mm厚さの2断片で測定する(Jeremic et al.、1996)。心室容量を、断面直径および内部長をまとめる等式からコンピューターで算出する。
【0136】
全身および左心室血行動態:記録装置(ウィンドグラフ、グッド・エレクトロニクス)に連結したマイクロチップ圧力変換器(ミラーSPC−320)を、右頚動脈に挿入して収縮期圧および拡張期血圧を記録する。圧力変換器をLV中へ進めることにより、LV収縮期血圧(LVSP)および最終拡張期(LVEDP)血圧、時間経過に伴うLV圧の一次微分(+dP/dt)および心拍数を測定する。
【0137】
非侵襲性血圧:収縮期血圧および心拍数を、覚醒ラットにおいてテイル‐カフ法(レティカ LE5002)により測定する。
【0138】
尿電解質、ホルモン:ラットを個々に代謝ケージへ収容し、24時間1mlのHCl(6N)において尿を採取する。水分摂取を測定する。尿カテコールアミンを、ボンデルットC18カラム(バリアン)で抽出し、HPLC(アペックス‐II C18、3μm、50×4.5mm分析カラム、ジョーンズ・クロマトグラフィー)により分離し、電気化学的検出器(クロケム(Coulochem)II、ESA)により定量する(Goldstein et al.、1981)。血漿および尿アルドステロン、および血漿アンギオテンシンIIを、特異的ラジオイムノアッセイ(Aldoctk−2、ディアソリン(DiaSorin)およびアンギオテンシンII、ニコルス・ディアグノスティクス)で測定する。尿中ナトリウムおよびカリウムを炎光光度測定法により測定する。
【0139】
試料サイズ
各処置群で分析可能な10動物で、生物学的に重要な差異を検出するのには十分である。梗塞サイズがLV断片の少なくとも10%であるラットのみ、最終分析に含ませる。
【0140】
内皮機能障害は、血管疾患における重大因子として認知されている。内皮は、血管拡張および血管収縮、成長の阻害または促進、線維素溶解またはトロンボゲン形成、酸化防止剤または酸化剤の生成といった対抗する効果を伴う様々なホルモンまたは副産物の供給源としての2方式的役割を演じる。内皮機能障害を伴う遺伝的素因をもつ高血圧動物は、心臓血管治療の効力を評価するのに有効なモデルを構成する。
【0141】
内皮機能障害は、例えば、酸化ストレスの増加、酸化窒素減少の誘発、凝固または線維素溶解に関与する因子、例えばプラスミノーゲン活性化阻害剤−1(PAI−1)、組織因子(TF)、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)の増加、接着分子、例えばICAMおよびVCAMの増加、成長因子、例えばbFGF、TGFb、PDGF、VEGF、細胞成長炎症および線維症を誘発する全因子の増加を特徴とする。
【0142】
例えば内皮機能不全の処置は、以下の薬理学的試験で立証され得る:
材料および方法
RCC社(フューリングスドルフ、スイス国)から購入した雄の20〜24週令SHRを、温度‐および照明‐制御室中で維持し、ラット飼料(ナファーグ9331、ゴッサウ、スイス国)および水道水には自由に接近させる。実験は、NIHガイドラインに従って実施され、カントン獣医局(161、カントナレス・フェテリナラムト、リースタル、スイス国)により承認されている。全ラットを、12週間飲用水(50mg/l)中で投与したNO合成阻害剤L−NAME(シグマ・ケミカルズ)により処置する。消費した水から算出されたL−NAMEの平均日用量は、2.5mg/kg(2.1〜2.7の範囲)であった。
【0143】
ラットは、2または3群:1群、対照(n=例、40)、2群、本発明による塩、n=例、40、組合せ試験用の3群、組合せ相手物質(n=例、30)に分けられ得る。薬剤を飲用液中で投与する。対照正常血圧ラットで得られた1mg/kgでのアンギオテンシン IIの血圧上昇作用は、本発明による塩での処置後に低減化され得る(Gervais et al.、1999)。
【0144】
体重を毎週測定する。試験開始の3および2週間前および薬剤投与の2週間後にテイルカフ・プレチスモグラフィーにより収縮期血圧および心拍数を記録する。処置開始の前週および4および12週目に個々の(代謝)ケージに収容していたラットから24時間にわたって尿を集め、標準的実験法を用いて体積測定およびタンパク質、クレアチニン、ナトリウムおよびカリウム測定を行う。同時点で、クレアチニン、NaおよびK検査用に血液試料を球後静脈叢から抜き取る(最大1ml)。
【0145】
各群からのラット10匹を、形態学的分析用に腎臓および心臓を集めるため4週目に殺す。残りのラットを12週目に殺す。心臓および腎臓重量を記録する。DPCコート・ア・カウント・アルドステロン‐RIAキット(ブールマン、スイス国)を用いたラジオイムノアッセイによるアルドステロン測定のため、4週(形態計測試験)および12週目(試験の終り)に5%EDTA中での最終血液試料採取を実施する。
【0146】
統計分析:
データは全て平均±SEMとして表す。異なる群間で比較を行うため、一方向ANOVA、次いでダンカンの多重検定およびニューマン‐クールの検定を用いて統計分析を実施する。確率が0.05未満の値である結果を統計的に有意であると見なす。
【0147】
血清脂質レベルに影響を及ぼさないアテローム性動脈硬化の後退の改善は、例えば、H.Kano et al.、Biochemical and Biophysical Research Communications、259、414−419(1999)により開示されている通り動物モデルを使用することにより立証され得る。
【0148】
本発明による塩類または組合せがコレステロール食餌療法‐誘導アテローム性動脈硬化の後退に使用され得るということは、例えばJiang et al.、Br.J.Pharmacol.(1991)、104、1033−1037により報告された試験モデルを用いて立証され得る。
【0149】
本発明による塩類または組合せが、腎不全、特に慢性腎不全の処置に使用され得るということは、例えばCohen et al.、Journal of Cardiovascular Pharmacology、32:87−95(1998)により報告された試験モデルを用いて立証され得る。
【0150】
所望の場合に、さらなる薬理学的活性物質を含み得る本医薬調製物は、自体公知の方法で、例えば慣用的混合、造粒、コーティング、溶解または凍結乾燥工程により製造され、凍結乾燥物を約0.1〜100%、特に約1%〜約50%の割合で含み、活性物質の100%以下である。
【0151】
同様に、本発明は、本発明による塩類を含む組成物に関するものである。
同様に、本発明は、好ましくは医薬調製物の製造、特にAT受容体を遮断することにより阻害され得る病気または状態の予防および同じく処置を目的とする本発明による塩類の使用に関するものである。主たる用法は、高血圧およびうっ血性心不全ならびに心筋梗塞後の処置についてである。
【0152】
同じく、本発明は、処置を必要とするヒト患者を含む患者に、所望により前記または後記で列挙した心臓血管疾患および関連状態および疾患を処置するための少なくとも1種の組成物と組合せて、本発明による塩の治療有効量を投与することを特徴とする、AT受容体を遮断することにより阻害され得る病気または状態の予防および処置を目的とする使用に関するものである。
【0153】
同じく、本発明は、本発明の塩またはそれぞれの場合におけるその医薬上許容される塩を、前記または後記で列挙した心臓血管疾患および関連状態および疾患の処置を目的とする少なくとも1種の組成物またはそれぞれの場合におけるその医薬上許容される塩と組合せて含む組合せ、例えば医薬的組合せに関するものである。前記または後記で列挙した心臓血管疾患および関連状態および疾患処置用の他の組成物またはそれぞれの場合におけるその医薬上許容される塩との組合せも同じく本発明の目的である。
【0154】
組合せは、例えば、
(i)HMG−Co−Aレダクターゼ阻害剤またはその医薬上許容される塩、
(ii)アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤またはその医薬上許容される塩、
(iii)カルシウムチャンネル遮断薬またはその医薬上許容される塩、
(iv)アルドステロンシンターゼ阻害剤またはその医薬上許容される塩、
(v)アルドステロンアンタゴニストまたはその医薬上許容される塩、
(vi)二重アンギオテンシン変換酵素/中性エンドペプチダーゼ(ACE/NEP)阻害剤またはその医薬上許容される塩、
(vii)エンドセリンアンタゴニストまたはその医薬上許容される塩、
(viii)レニン阻害剤またはその医薬上許容される塩、および
(ix)利尿剤またはその医薬上許容される塩
から成る群から選択される組成物により製造され得る:
【0155】
HMG−Co−Aレダクターゼ阻害剤(β−ヒドロキシ−β−メチルグルタリル補酵素Aレダクターゼ阻害剤とも呼ばれる)は、血中コレステロールを含む脂質レベルを低下させるのに使用され得る有効成分であると理解すべきである。
【0156】
HMG−Co−Aレダクターゼ阻害剤の種類には、異なる構造的特徴を有する化合物が含まれる。例えば、アトルバスタチン、セリバスタチン、コンパクチン、ダルバスタチン、ジヒドロコンパクチン、フルインドスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、ピタバスタチン、メバスタチン、プラバスタチン、リバスタチン、シムバスタチンおよびベロスタチンまたはそれぞれの場合におけるその医薬上許容される塩から成る群から選択される化合物を挙げることができる。
【0157】
好ましいHMG−Co−Aレダクターゼ阻害剤は、市販されている薬剤であり、最も好ましいのはフルバスタチンおよびピタバスタチン、またはそれぞれの場合におけるその医薬上許容される塩である。
【0158】
いわゆるACE−阻害剤(アンギオテンシン変換酵素阻害剤とも呼ばれる)によるアンギオテンシンIからアンギオテンシンIIへの酵素的分解の中断は、血圧の調節に有効な変形であるため、うっ血性心不全を処置するための治療方法にも利用可能である。
【0159】
ACE阻害剤の種類には、異なる構造的特徴を有する化合物が含まれる。例えば、アラセプリル、ベナゼプリル、ベナゼプリラート(benazeprilat)、カプトプリル、セロナプリル、シラザプリル、デラプリル、エナラプリル、エナプリラート(enaprilat)、フォシノプリル、イミダプリル、リシノプリル、モベルトプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、スピラプリル、テモカプリル、およびトランドラプリル、またはそれぞれの場合におけるその医薬上許容される塩から成る群から選択される化合物を挙げることができる。
【0160】
好ましいACE阻害剤は、市販されている薬剤であり、最も好ましいのはベナゼプリルおよびエナラプリルである。
【0161】
CCBの種類には、本質的にジヒドロピリジン(DHP)および非DHP、例えばジルチアゼム型およびベラパミル型CCBが含まれる。
【0162】
上記組合せにおいて有用なCCBは、好ましくはアムロジピン、フェロジピン、リオシジン、イスラジピン、ラシジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニグルジピン、ニルジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピンおよびニバルジピンから成る群から選択されるDHPの典型であり、好ましくはフルナリジン、プレニルアミン、ジルチアゼム、フェンジリン、ガロパミル、ミベフラジル、アニパミル、チアパミルおよびベラパミルおよびそれぞれの場合におけるその医薬上許容される塩から成る群から選択される非DHPの典型である。これらのCCBは全て、例えば抗高血圧剤、抗狭心症剤または抗不整脈剤として治療に使用される。好ましいCCBには、アムロジピン、ジルチアゼム、イスラジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピンおよびベラパミル、または例えば特異的CCBによっては、その医薬上許容される塩がある。DHPとして特に好ましいのは、アモルジピンまたはその医薬上許容される塩、特にそのベシル酸塩である。非DHPの特に好ましい典型は、ベラパミルまたはその医薬上許容される塩、特に塩酸塩である。
【0163】
アルドステロンシンターゼ阻害剤はコルチコステロンをアルドステロンに変換する酵素であり、ヒドロキシル化によりコルトコステロンから18−OH−コルチコステロンを形成し、18−OH−コルチコステロンからアルドステロンを形成させる。アルドステロンシンターゼ阻害剤の種類は、高血圧および原発性アルドステロン症の処置に適用されることが知られており、ステロイドおよび非ステロイドアルドステロンシンターゼ阻害剤の両方を含むが、後者の方が非常に好ましい。
【0164】
好ましいのは、市販されているアルドステロンシンターゼ阻害剤または保健当局により承認されているアルドステロンシンターゼ阻害剤である。
【0165】
アルドステロンシンターゼ阻害剤の種類には、異なる構造的特徴を有する化合物が含まれる。例えば、非ステロイド系アロマターゼ阻害剤アナストロゾール、ファドロゾール(その(+)‐鏡像体を含む)、ならびにステロイド系アロマターゼ阻害剤エキセメスタン、またはそれぞれの場合において適用可能な場合、その医薬上許容される塩から成る群から選択される化合物を挙げることができる。
【0166】
最も好ましい非ステロイド系アルドステロンシンターゼ阻害剤は、式
【化2】

で示されるファドロゾール(米国特許第4617307号および同第4889861号)塩酸塩の(+)‐鏡像体である。
【0167】
好ましいステロイド系アルドステロンアンタゴニストは、式
【化3】

で示されるエプレレノンまたはスピロノラクトンである。
【0168】
好ましい二重アンギオテンシン変換酵素/中性エンドペプチダーゼ(ACE/NEP)阻害剤は、例えば、オマパトリレート(欧州特許第629627号参照)、ファシドトリルまたは、適切な場合、その医薬上許容される塩である。
【0169】
好ましいエンドセリンアンタゴニストは、例えば、ボセンタン(欧州特許第526708A号参照)、さらには、テゾセンタン(国際公開第96/19459号参照)、またはそれぞれの場合におけるその医薬上許容される塩である。
【0170】
レニン阻害剤は、例えば、非ペプチドレニン阻害剤、例えば式
【化4】

で示される、2(S),4(S),5(S),7(S)−N−(3−アミノ−2,2−ジメチル−3−オキソプロピル)−2,7−ジ(1−メチルエチル)−4−ヒドロキシ−5−アミノ−8−[4−メトキシ−3−(3−メトキシ−プロポキシ)フェニル]−オクタンアミドとして化学的に特定された化合物である。この代表例は、欧州特許第678503A号に具体的に開示されている。特に好ましいのは、そのヘミ‐フマル酸塩である。
【0171】
利尿剤は、例えば、クロロチアジド、ヒドロクロロチアジド、メチルクロチアジドおよびクロロタリドンから成る群から選択されるチアジド誘導体である。最も好ましいのはヒドロクロロチアジドである。
【0172】
好ましくは、本発明の組合せによる有効成分の合わせた治療有効量は、何らかの順序で、別々に、または固定した組合せで同時または連続的に投与され得る。
【0173】
属名または登録商標名により同定される有効成分の構造は、標準総目録 The Merck Indexの現行版から、またはデータベース、例えばPatents International(例、IMS World Publications)から入手され得る。その対応する内容を出典明示により援用する。当業者であれば、有効成分を同定し、そしてこれらの参考文献等に基づいて、同じくそれらを製造し、インビトロおよびインビボの両方で標準試験モデルにおける医薬適応症および特性について試験することは十分できるはずである。
【0174】
対応する有効成分またはその医薬上許容される塩はまた、溶媒和物、例えば水和物または結晶化に使用される他の溶媒を含む形態で使用され得る。
【0175】
組合わされるべき化合物は、医薬上許容される塩類として存在し得る。これらの化合物が例えば少なくとも1個の塩基性中心を有する場合、それらは酸付加塩を形成し得る。対応する酸付加塩類はまた、所望ならば追加的に存在する塩基性中心を有するものとして形成され得る。酸性基(例えばCOOH)を有する化合物はまた塩基との塩類を形成し得る。
【0176】
本発明はまた、その変形において、例えば、本発明により組み合わされる成分が、独立して、または固有の量の成分との種々の固定した組合せの使用により、すなわち同時または異なる時点で投薬され得るという意味における、「パーツのキット」に関するものである。従って、パーツのキットのパーツは、同時または順に時差的に、すなわちパーツのキットのいずれかのパートについて異なる時点で均等または異なる時間間隔で投与され得る。好ましくは、パーツの組合せ使用において処置される病気または状態に対する効果が、成分のいずれか一つのみの使用により得られる効果よりも大きくなるように時間間隔が選択される。
【0177】
さらに本発明は、同時、個別または連続使用についての使用説明書と一緒に本発明による組合せを含む市販用パッケージに関するものである。
【0178】
投薬量は、様々な因子、例えば適用方式、種、年齢および/または個々の状態により異なり得る。経口適用の場合、一日に投与される用量は、遊離酸に基き約0.25〜10mg/kgであり、体重約70kgの温血動物の場合、好ましくは約20mg〜500mg、特に40mg、80mg、160mgおよび320mgである。
【0179】
本発明は、特に実施例により説明されており、また実施例で命名された新規化合物およびそれらの使用およびそれらの製造方法に関するものである。
【0180】
以下、実施例により本発明を説明するが、いかなる意味にせよ本発明を制限するものではない。
【0181】
出発材料の製造
カルシウムバルサルタンおよびマグネシウムバルサルタンの全新規塩水和物についての出発材料は、以下の方法で製造される。さらに、出発材料は、幾つかの分析方法により特性確認された。
【0182】
製造例SM1(出発(tarting)材料(aterial)について):
(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンの、その場での(in situ)四水和物としてのカルシウム塩A0,Caに関する出発材料としての製造例
【0183】
21.775gの(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンを室温で300mlのエタノールに溶解する。300mlの水を注意深く加えることにより、エタノール濃度を体積にして50%まで低下させる。マグネチックスターラーを用いて、pH値が一時的にせよ約8を越えることのないように、3.89gのCa(OH)を少量ずつゆっくりとこの澄明な弱酸性(pH4)溶液に加える。それは空気からのCOを吸収するため、使用したCa(OH)は、痕跡量のCaCOを含む。従って、追加された量は、5%の過剰分を含む。化学量論量のCa(OH)を加えた後、pHは約6であり、過剰分を加えた後、pHは7に上昇する。溶液は、少量の微細分割CaCOにより混濁し、これは折たたみフィルターにより除去される。室温で放置することによりアルコール含有物を除去すると、溶液中に含まれる生成物は連続的に結晶化する。40℃の再循環式エアードライヤーにおける平皿を用いることにより、この手順は加速され得る。約半分の体積に濃縮後、溶液のアルコール含有物は体積にして約10%に低下し、生成物の大部分は結晶化する。それを濾過し、短時間体積にして10%のエタノールですすぎ、一定重量に達するまで40℃で乾燥する。(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンカルシウム塩四水和物A0,Caが得られる。
【0184】
10K/分の加熱速度で、小内部容量が約22マイクロリットルの密閉試料容器中における出発材料についての上記製造例に従って製造されたバルサルタンのカルシウム塩の四水和物A0,Caについての融点を、Tfus=205℃として、融解エンタルピーをΔfusH=92kJ・mol−1として測定する。出発材料についての製造例に従って製造された、(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのカルシウム塩の四水和物A0,Caの結晶密度は、ヘリウムピクノメーターにより測定したところ1.297g/cmである。この製造例によるバルサルタンのカルシウム塩四水和物A0,Caの比旋光度は、メタノール中1%溶液として20℃で[α]20 = +1°および同じく水中0.4%溶液として20℃で[α]20 = −39°として測定される。
【0185】
出発材料、すなわちバルサルタンのカルシウム塩四水和物A0,Caについての方法に従って製造された塩水和物の鏡像体純度は、立体特異的HPLC方法により測定される。立体特異的分離は、キラルカラム(キラルAGP)により達成される。A0,Caの鏡像体純度はee=100%として測定される。
【0186】
赤外スペクトルの測定は、パーキン‐エルマー・コーポレーション(英国バックス、ビーコンフィールド)製の器械BXを用いるATR−IR(減衰全反射赤外分光法)手段により行われる。
【0187】
ATR−IR分光法の特徴的な吸収帯は、製造例SM1に従って製造されたバルサルタンのカルシウム塩の四水和物A0,Caについて下記で列挙しており、以下の値は波長の逆数(cm−1)で表されている:3594; 3306; 2954; 1621; 1578; 1458; 1441; 1417; 1364; 1319; 1274; 1211; 1180; 1137; 1012; 1002; 758; 738; 696; 666。
【0188】
バルサルタンのカルシウム塩の四水和物についての含水率は、理論上13.2%である。熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)を用いると、含水率は13.0%として測定された。合計式を、バルサルタンのカルシウム塩四水和物形態A0,Caについて(C24272− Ca2+・ 3.9 HOとして計算した。
【0189】
水不含有N雰囲気中、熱重量分析法を用いて、重量喪失、すなわち温度の関数としての四水和物に関する水分喪失を、10K/分の加熱速度で測定した。バルサルタンのカルシウム塩四水和物A0,Caについての結果を以下に列挙する:
【表9】

【0190】
ギニエカメラで撮ったX線粉末パターンからの格子面間隔の計算結果は、バルサルタンのカルシウム塩四水和物としての物質A0,Caのバッチについての特徴的な線について以下の通りとなる:d[Å]: 16.27、9.90、9.39、8.04、7.71、7.05、6.49、6.34、6.20、5.87、5.75、5.66、5.20、5.05、4.95、4.73、4.55、4.33、4.15、4.12、3.95、3.91、3.87、3.35。
【0191】
元素分析により、カルシウム‐バルサルタン‐四水和物に存在する元素および水について以下の測定値が得られる。水の評価は噴出後130℃で実施された。誤差限界内における元素分析の実測値は、合計式(C24272− Ca 2+ ・ 4 HOに対応する。
【表10】

【0192】
製造例SM2(出発材料について)
(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンの、その場での(in situ)の6水和物としてのマグネシウム塩A0,Mgの製造例
43.55gのバルサルタン(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンを、室温で600mlの50体積%のエタノール(無水エタノールから‐メルクおよび石英(quarz)‐再蒸留水参照)に溶かす。さらに50mlの50%エタノールを加えた後、僅かに混濁した溶液は澄明になる。マグネチックスターラーを用いて、4.03gまたは0.1MのMgO(メルクp.a.)を少量ずつゆっくりと、pH値が4のこの弱酸性溶液に加える。ここでpH値は約6に上昇する。10%の過剰分により工程を実施する、すなわちさらに0.40gのMgOを加える。この過剰分は、完全には溶解せず、pH値は約7.5に上昇する。少量の残渣を溶液から折りたたみフィルターにより濾過し、50mlの50%エタノールで洗浄する。
【0193】
澄明溶液を合わせ、大型結晶化皿においてマグネチックスターラーで攪拌しながら40℃で注意深く濃縮する。この手順の終わりに近づくに従って、溶液はガラス状ゲルへと硬化する傾向を示す。ガラス棒でこすることにより、この相におけるその場での結晶化が誘導され、これはかくして形成された結晶性固体の白色により認識され得る。生成物を一定重量に達するまで50℃にて再循環式エアードライヤーで乾燥する。(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンの六水和物としてのマグネシウム塩A0,Mgの収量は、遊離酸として使用されたバルサルタンに基づくと53.7gまたは95%である。
【0194】
2.24mgの量の小内部容量をもつ密閉試料容器中、10K/分の加熱速度で、上記手順に従って製造された塩水和物A0,Mg、すなわちマグネシウム‐バルサルタン‐6水和物の融点を、Tfus=132℃および融解エンタルピーをΔfusH=64kJ・mol−1で測定した。
【0195】
製造例SM2に従って製造されたバルサルタンのマグネシウム塩の6水和物の結晶密度は、ヘリウムピクノメーターにより測定したところ1.274g/cmである。出発材料に関する上記製造例に従って製造されたマグネシウム‐バルサルタン‐六水和物A0,Mgの比旋光度は、メタノール中1%溶液として20℃で[α]20 = −14°および水中同濃度で20℃にて[α]20 = −38°として測定される。
【0196】
出発材料についての工程に従って製造されたバルサルタンのマグネシウム塩の六水和物A0,Caの鏡像体純度は、立体特異的HPLC方法により測定される。立体特異的分離は、キラルカラム(キラルAGP)により達成される。鏡像体純度はee=99.6%として測定される。
【0197】
赤外スペクトルの測定は、パーキン‐エルマー・コーポレーション(英国バックス、ビーコンフィールド)製の器械スペクトラムBXを用いるATR−IR(減衰全反射赤外分光法)手段により行われた。
【0198】
出発材料、バルサルタンのマグネシウム塩の六水和物A0,Mgは、下記に列挙したATR−IR分光法の特徴的な吸収帯を有しており、以下の値は波長の逆数(cm−1)で表されている:3374; 3272; 2956; 1619; 1556; 1465; 1420; 1394; 1271; 1175; 1015; 975; 836; 766; 751; 741; 730。
【0199】
バルサルタンのマグネシウム塩六水和物の理論的含水率は19.1%である。熱重量分析法‐フーリエ変換赤外分光法(TG−FTIR、IFS28、バイエルン、セルプのネチュ・ゲラーテバウGmbHおよびカールスルーエのブルケル・オプティクGmbH製)に基づく連結器械を用い、同時に重量喪失を測定し、明らかにされた材料成分を同定し、赤外分光法(水の放出)を用いて、バルサルタンのマグネシウム塩の六水和物A0,Mgについて含水率を測定したところ、225℃についてのプラトーまでの重量喪失は18.7%であった。合計式を、これからバルサルタンのマグネシウム塩六水和物形態A0,Mgについて(C24272− Mg2+・ 5.9 HOとして計算した。
【0200】
水不含有N雰囲気中、熱重量分析法を用いて、重量喪失、すなわち温度の関数としての六水和物に関する水分喪失を、10K/分の加熱速度で測定した。バルサルタンのマグネシウム塩六水和物A0,Mgについての結果を以下に列挙する:
【表11】

【0201】
ギニエカメラで撮ったX線粉末パターンからの格子面間隔の計算結果は、バルサルタンのマグネシウム塩六水和物A0,Mgのバッチに関する特徴的な線について以下の通りとなる:d[Å]: 19.78、10.13、9.84、7.28、6.00、5.81、5.67、5.21、5.04、4.88、4.21、4.18、4.08、3.95、3.46、3.42。
【0202】
元素分析により、バルサルタンのマグネシウム塩の六水和物に存在する元素および水について以下の測定値が得られる。水の評価は噴出後130℃で実施される。誤差限界内における元素分析の実測値は、合計式(C24272− Mg 2+ ・ 6 HOに対応する。
【表12】

【実施例】
【0203】
実施例1
(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンの、その場での(in situ)四水和物としてのカルシウム塩A1,Caの製造
30.18mgの四水和物A0,Caとしての(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのカルシウム塩を、熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)により秤量し、流速50ml/分で50時間、水不含有N雰囲気中34℃で部分脱水する。観察された重量喪失、すなわち50時間の期間後における水分喪失は、7.9%である。バルサルタンのカルシウム塩についてこの最終点で結合していた水は、12.9%である出発材料A0,Caについての含水率を考慮すると、僅か5.0%に過ぎない。バルサルタンの部分脱水カルシウム塩を、相対湿度60%および温度23℃の大気中で連続した平衡状態に到達させる。得られた平衡状態の物質は、(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンカルシウム塩四水和物A1,Caである。
【0204】
10K/分の加熱速度で、小内部容量が約22マイクロリットルおよび試料重量が2.67mgの密閉試料容器中における実施例1に従って製造されたバルサルタンのカルシウム塩の四水和物A1,Caについての融点はTfus=190℃である。A1,Caについての融解エンタルピーは、ΔfusH=79kJ・mol−1として上記で説明したのと同じ測定法で計算する。
【0205】
(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンカルシウム塩四水和物A1,Caの赤外スペクトルを、パーキン‐エルマー・コーポレーション(英国バックス、ビーコンフィールド)製のATR−IR器械BXを用いて測定する。
【0206】
バルサルタンのカルシウム塩の四水和物A1,Caは、下記に列挙したATR−IR分光法の特徴的な吸収帯を有しており、以下の値は波長の逆数(cm−1)で表されている:3594; 3307; 2960; 1621; 1578; 1459; 1442; 1417; 1407; 1364; 1357; 1319; 1274; 1211; 1180; 1137; 1105; 1099; 1012; 1003; 758; 738; 698。
【0207】
バルサルタンのカルシウム塩の四水和物に関する含水率は、理論上13.2%である。熱重量測定装置TGS−2を用いることにより、実施例1に従って製造された物質について含水率を測定したところ13.4%であった。1.1%割合の量のHOが、バルサルタンのカルシウム塩A1,Caにおける遊離した非結合水であるため、結合水の総量は12.3%である。合計式を、A1,Caについてのこの値から(C24272− Ca2+・ 3.7 HOとして計算した。
【0208】
水不含有N雰囲気中、熱重量分析法を用いて、重量喪失、すなわち温度の関数としてのバルサルタンのカルシウム塩の四水和物に関する水分喪失を、10K/分の加熱速度で測定した。バルサルタンのカルシウム塩四水和物A1,Caについての結果を以下に列挙する:
【表13】

【0209】
実施例2
(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンの、その場での(in situ)四水和物としてのカルシウム塩A2,Caの製造
32.17mgの四水和物A0,Caとしての(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのカルシウム塩を、熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)により秤量し、流速50ml/分で21時間、水不含有N雰囲気中50℃で部分脱水する。重量喪失、すなわち水分喪失を直接観察したところ、9.9%の値に達した。バルサルタンのカルシウム塩についてこの最終点で結合していた水は、12.9%である出発材料A0,Caについての含水率を考慮すると、僅か3%に過ぎず、この値はバルサルタンのカルシウム塩一水和物と一致する。
【0210】
空気中の相対湿度29%および温度23℃の大気中におけるこのバルサルタンカルシウム塩の一水和物の平衡を、6.0%HOの取込を伴う実際的な平衡状況により熱重量測定装置において46時間の期間にわたって直接観察する。結合水の最終含有率は9.0%であり、バルサルタンのカルシウム塩1分子あたり2.6モルの水に対応する。物質、すなわち(C24272−Ca2+ ・ 2.6 HOは、相対湿度90.5%、温度23℃で72時間の期間にわたって乾燥器中でさらに水平衡している。(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンカルシウム塩四水和物A2,Caが得られる。
【0211】
10K/分の加熱速度で、小内部容量の密閉試料容器中、DSCパイリス1(示差走査熱量計)で測定された1.56mgの試料重量により、実施例2に従って製造されたバルサルタンのカルシウム塩の四水和物A2,Caについての融点はTfus=195℃として、融解エンタルピーは、ΔfusH=89kJ・mol−1として測定される。
【0212】
バルサルタンのカルシウム塩の四水和物についての含水率は、理論上13.2%である。水不含有N雰囲気中での測定による熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)を用いると、25〜225℃の温度間隔についての実施例2に従って製造された物質に関する含水率は、12.6%として測定される。合計式を、A2,Caについてのこの値から(C24272− Ca2+・ 3.8 HOとして計算する。
【0213】
水不含有N雰囲気中、熱重量分析法を用いて、重量喪失、すなわち温度の関数としての四水和物A2,Caに関する水分喪失を、10K/分の加熱速度で測定する。結果を以下に列挙する:
【表14】

【0214】
ギニエカメラで測定したX線粉末パターンからの格子面間隔の計算結果は、バルサルタンのカルシウム塩四水和物A2,Caのバッチに関する特徴的な線について以下の通りとなる:d[Å]: 16.16、9.90、9.40、8.05、7.72、7.04、6.49、6.35、5.82、4.94、4.73、4.13、3.93。
【0215】
実施例3
(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンの、その場での(in situ)三水和物としてのカルシウム塩B1,Caの製造
28.24mgの四水和物A0,Caとしての(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのカルシウム塩を、熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)の開口パンに入れ、流速50ml/分で28時間の期間、水不含有N雰囲気中50℃で部分脱水する。重量喪失、すなわち水分喪失を熱重量測定装置で直接観察したところ、脱水の最終段階は10.0%の水分喪失で選択される。バルサルタンのカルシウム塩生成物についてこの最終点で結合していた水は2.9%であり、この値はバルサルタンのカルシウム塩1モルに関して0.8モルの水と対応する。
【0216】
この一水和物の平衡は、約1時間の緩和時間で温度22℃および空気中の相対湿度34%では自然発生的である。最終平衡には事実上9時間後に達し、水分含有率は9.7%である。脱水‐水和工程により、物質(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンカルシウム塩三水和物B1,Caが提供される。
【0217】
10K/分の加熱速度で、小内部容量の密閉試料容器中、3.98mgの試料重量により、実施例2に従って製造されたバルサルタンのカルシウム塩の三水和物B1,Caについての融点はTfus=176℃として、融解エンタルピーは、ΔfusH=7kJ・mol−1として測定される。バルサルタンのカルシウム塩B1,Caの結晶化度は約10%である。
【0218】
水不含有N雰囲気中加熱速度10K/分での測定による熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)を用いて含水率を測定する。実施例3に従って製造された物質B1,Caについての含水率は、225℃の温度でのプラトーについて9.7%として測定される。B1,Caにおいて結合した水の総量は、225℃での重量喪失および25℃で蒸発される水の量から算出された9.2%である。合計式を、B1,Caについてのこの値から(C24272− Ca2+・ 2.7 HOとして計算する。
【0219】
水不含有N雰囲気中、熱重量分析法を用いて、重量喪失、すなわち温度の関数としての三水和物B1,Caに関する水分喪失を、10K/分の加熱速度で測定した。測定結果を以下に示す:
【表15】

【0220】
フィリップス・アナリティカル・X‐レイ(7602アメロ、オランダ国)製の粉末回折計PW1710により測定されたX線粉末パターンからの格子面間隔の計算値を、ギニエカメラ(FR552、オランダ国デルフト、エンラフ・ノニウス製)で得られた対照標準測定値により補正する。格子面間隔を、粉末回折計PW1710からギニエカメラについて測定および計算された値に到達させるための補正は、16Åのd値についての+0.55Åから5.7Åのd値についての+0.02Åの範囲であった。低いd値について、補正は必要ではない。
【0221】
実施例3に従って製造されたバルサルタンのカルシウム塩の三水和物B1,Caについて、得られた格子面間隔は以下の通りである:d [Å] : 16.1、11.5、10.0、9.42、9.12、8.10、7.78、7.03、6.48、6.08、5.76、5.12、4.91、4.72、4.48、4.31。
【0222】
実施例4
(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンの、その場での(in situ)三水和物としてのカルシウム塩B2,Caの製造
33.84mgの四水和物A0,Caとしての(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのカルシウム塩を、熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)の開口パンに入れ、四水和物A0,Caを、50ml/分の気流で205分の期間にわたり、水不含有N雰囲気中61℃で部分脱水する。重量喪失、すなわち水分喪失を熱重量測定装置で直接観察したところ、脱水の最終段階は6.4%の水分喪失に対して選択される。バルサルタンのカルシウム塩の物質についてこの最終点で依然として結合している水は6.5%であり、これはバルサルタンのカルシウム塩1モルに関して1.9モルの水と対応する値である。約30分間の緩和時間で23℃および空気中の相対湿度22%での二水和物の平衡は、三水和物の生成を示した。脱水‐再水和工程により、物質(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンカルシウム塩三水和物B2,Caが提供される。
【0223】
10K/分の加熱速度で、小内部容量の密閉試料容器中、2.49mgの試料重量により、実施例4に従って製造されたバルサルタンのカルシウム塩の三水和物B2,Caについての融点はTfus=198℃として、第二成分についてはTfus=204℃として測定される。2つの融点は、容易に、すなわち、生成された物質は三水和物B2,Caおよび四水和物A0,Caの混合物であると説明される。2つの融点ピークについての融解エンタルピーは、三水和物B2,CaについてはΔfusH=53kJ・mol−1および四水和物A0,CaについてはΔfusH=4kJ・mol−1を示す。
【0224】
小内部容量の密閉試料容器中10K/分の加熱速度での(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのカルシウム塩三水和物B2,Caの試料重量2.49mgによるDSC(示差走査熱量測定)曲線は、198および204℃での融点ピークに加えて非結晶性物質に関連した固態現象としてのガラス転移を示す。ガラス転移温度は、T=66℃の値により測定され、比熱の変化はこの温度の場合Δcp = 0.10 J・(g・K)−1である。観察されたガラス転移温度は、実施例4に従って製造された物質に存在する非結晶性物質の絶対的証拠であり、比熱変化についての値は、非晶質(amorphicity)の量子化についてのパラメーターである。
【0225】
概算で18%の追加量は非結晶性物質であり、三水和物B2,Caは78%として53kJ/molの融解エンタルピーと近似し、出発材料として純粋形態では ΔfusH=92 kJ・mol−1の融解エンタルピーを有する四水和物A0,Caは実施例4で製造された物質において4%として4kJ/molと近似している。
【0226】
水不含有N雰囲気中加熱速度10K/分での測定による熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)を用いて含水率を測定する。実施例4に従って製造された物質B2,Caについての含水率は、温度225℃での重量喪失のプラトーについて9.7%として測定される。合計式を、B2,Caについてのこの値から(C24272− Ca2+・2.8 HOとして計算する。
【0227】
水不含有N雰囲気中、熱重量分析法を用いて、重量喪失、すなわち温度の関数としての三水和物B2,Caに関する水分喪失を、10K/分の加熱速度で測定する。測定結果を以下に示す:
【表16】

【0228】
Cu−Ka照射を用いて、透過ジオメトリーにおけるX線フィルムでのギニエカメラ(FR552、エンラフ・ノニウス製、デルフト、オランダ国)により測定されたX線粉末パターンからの格子面間隔の計算値を、B2,Caについて得る。格子面間隔は、実施例4に従って製造されたバルサルタンのカルシウム塩の三水和物B2,Caについて以下の通りとなる。d [Å] : 16.2、11.47、9.94、9.44、9.01,8.13、7.80、7.05、6.50、6.09、5.79、4.95、4.16、4.74。
【0229】
実施例4に従って製造された塩水和物の鏡像体純度は、立体特異的HPLC方法により測定される。立体特異的分離は、キラルカラム(キラルAGP)により達成される。バルサルタンのカルシウム塩の三水和物B2,Caの鏡像体純度はee=99.65として測定される。
【0230】
実施例5
(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンの、その場での(in situ)三水和物としてのカルシウム塩B3,Caの製造
32.15mgの四水和物A0,Caとしての(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのカルシウム塩を、熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)の開口パンに入れ、四水和物A0,Caを、50ml/分の気流で225分の期間にわたり、水不含有N雰囲気中60℃で部分脱水する。重量喪失、すなわち水分喪失を熱重量測定装置で観察したところ、脱水の選択された最終段階は7.0%である。バルサルタンのカルシウム塩の物質についてこの最終点で依然として結合している水は5.9%であり、これはバルサルタンのカルシウム塩1モルに関して1.4モルの水と対応する値である。23℃および空気中での相対湿度30%での再水和を、30分の緩和時間の経過に伴い観察する。脱水‐再水和工程により、物質(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンカルシウム塩三水和物B3,Caが提供される。
【0231】
10K/分の加熱速度で、小内部容量の密閉試料容器中、2.85mgの試料重量により、実施例5に従って製造されたバルサルタンのカルシウム塩の三水和物B3,Caについての融点はTfus=191℃として測定される。追加的融点ピークは、実施例5に従って製造された物質について、すなわち196、205および213℃について観察される。異なる融点ピークについての融解エンタルピーは、実施例5に従って製造された物質の定量分析の近似値に使用され、すなわちB3,Caとして融点191℃についての物質の87%、B2,Caとして融点196℃についての物質の10%、A0,Caとして融点205℃についての物質の0.5%、およびD1,Caとして融点213℃についての物質の3%である。結果は、主成分すなわちB3,Caが優位を占める、実施例5に従って製造された物質を明白に示している。
【0232】
水不含有N雰囲気中加熱速度10K/分での測定による熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)を用いて含水率を測定する。主成分としてB3,Caを含む物質についての含水率は、温度225℃でのプラトーについて10.1%として測定される。合計式を、B3,Caについての9.8%の結合水含有率から(C24272− Ca2+・ 2.9 HOとして計算する。
【0233】
水不含有N雰囲気中、熱重量分析法を用いて、重量喪失、すなわち主成分としてB3,Caを含む実施例5に従って製造された物質に関する水分喪失を、10K/分の加熱速度での温度の関数として測定する。測定結果を以下に示す:
【表17】

【0234】
Cu−Ka照射を用いて、透過ジオメトリーにおけるX線フィルムでのギニエカメラFR552(エンラフ・ノニウス製、デルフト、オランダ国)により測定されたX線粉末パターンからの格子面間隔の計算値を、主成分としてB3,Caを含む実施例5に従って製造された物質について得る。
【0235】
格子面間隔は、主成分として(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのカルシウム塩の三水和物B3,Caを含む、実施例5に従って製造された物質については以下の通りとなる。d [Å] : 16.11、11.44、9.90、9.40、9.01、8.04、7.73、7.03、6.47、6.33、6.09、5.80、5.17、4.95、4.73、4.48、4.33、4.15、4.11、3.94、3.61。
【0236】
実施例5に従って製造された物質の主成分としての(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンカルシウム塩三水和物B3,Caの赤外スペクトルを、パーキン‐エルマー・コーポレーション(英国バックス、ビーコンフィールド)製のATR−IR装置BXにより測定する。
【0237】
ATR−IR分光法の特徴的な吸収帯は、主要物質、すなわち(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンカルシウム塩三水和物B3,Caを含む、実施例5に従って製造された物質について下記で列挙されており、それらの値は波長の逆数(cm−1)で表されている:3594; 3309; 2959; 2930; 2870; 1621; 1577; 1505; 1458; 1416; 1405; 1354; 1273; 1210; 1179; 1138; 1104; 1099; 1012; 1003; 974; 941; 906; 856; 841; 737; 667。
【0238】
実施例6
(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンの、その場での(in situ)一水和物としてのカルシウム塩C1,Caの製造
65.5mgの四水和物A0,Caとしての(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのカルシウム塩を、時間の関数としての温度および湿度プログラムを設定し、選択された時間間隔についてX線回折パターン(フィリップス・アナリティカルX‐レイ(7602アルメロ、オランダ国)製の粉末回折チャンバーX'Pert)を記録し得る装置の開口るつぼ中へ押し込む。等温温度は40℃であり、水不含有N雰囲気を100ml/分の流速で設定する。並行製造工程において、四水和物A0,Caとしての(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミン4.66mgを、熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)の開口るつぼに入れ、四水和物A0,Caを以下の条件:等温温度40℃、および流速50ml/分での水不含有雰囲気に曝露する。66時間後に装置の両方で得られた物質は、(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのカルシウム塩一水和物C1,Caであった。
【0239】
含水率を熱重量測定装置TGS−2により測定した。水不含有雰囲気中66時間後の重量喪失、すなわち水分喪失は9.8%であり、生成物C1,Caにおいて3.1%の含水率を与える。合計式を、実施例7に従って製造されたC1,Caについてのこの値から(C24272− Ca2+・ 0.9 HOとして計算した。
【0240】
バルサルタンカルシウム塩一水和物C1,Caの格子面間隔の計算値を、フィリップス・アナリティカルX‐レイ(7602アルメロ、オランダ国)製の粉末回折チャンバーで測定されたX線粉末パターンから誘導した。生成物C1,Caについての特徴的な線を以下に列挙する:d [Å] : 15.96、15.04、11.56、9.85、9.40、8.02、7.53、6.11、4.49。
【0241】
実施例7
ジ‐{(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのカルシウム塩}五水和物D1,Caのその場での(in situ)製造
30.65mgの(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンの四水和物A0,Caとしてのカルシウム塩を、熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)の開口パンに入れ、四水和物A0,Caを、50ml/分の気流で55分の期間にわたり、水不含有雰囲気中90℃の温度で曝露する。四水和物の脱水により、選択された最終段階で9.7%の重量喪失、すなわち水分喪失に達した。バルサルタンのカルシウム塩の生成物についてこの最終点で結合している水は3.2%であったが、これはバルサルタンのカルシウム塩1モルに関して0.9モルの水と対応する値である。水和工程を23℃および空気中28%の相対湿度で実施する。最終平衡には4時間後に部分的に達する。この工程により、ジ‐{(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのカルシウム塩}五水和物D1,Caが得られた。
【0242】
加熱速度10K/分で、小内部容量の密閉試料容器中、1.41mgの試料重量で、実施例7に従って製造された、ジ‐{(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのカルシウム塩}五水和物D1,Caについての融点は、Tfus=212℃として測定され、融解エンタルピーはΔfusH=15kJ・Mol−1である。
【0243】
水不含有N雰囲気中加熱速度10K/分での測定による熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)を用いて含水率を測定する。実施例7に従って製造された物質D1,Caについての含水率は、温度225℃でのプラトーについて8.1%として測定される。合計式を、D1,Caについて8.0%である結合水の量により[(C24272− Ca2+・4.6 HOとして計算する。
【0244】
水不含有N雰囲気中、熱重量分析法を用いて、実施例7に従って製造された、ジ‐{(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのカルシウム塩}五水和物D1,Caについての重量喪失、すなわち水分喪失を、10K/分の加熱速度での温度の関数として測定する。測定結果を以下に示す:
【表18】

【0245】
ジ‐{(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのカルシウム塩}五水和物の赤外スペクトルを、パーキン‐エルマー・コーポレーション(英国バックス、ビーコンフィールド)製のATR−IR装置BXにより測定する。ジ‐{(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのカルシウム塩}五水和物D1,CaについてのATR−IR分光法の特徴的な吸収帯は、下記で列挙されており、それらの値は波長の逆数(cm−1)で表されている:3329; 2959; 2930; 2870; 1578; 1506; 1459; 1405; 1354; 1302; 1260; 1208; 1176; 1143; 1104; 1012; 1004; 973; 941; 860; 839; 821; 757; 737; 667。
【0246】
X線粉末パターンからの格子面間隔の計算値を、Cu−Ka照射を用いて、透過ジオメトリーにおけるX線フィルムでのギニエカメラFR552(エンラフ・ノニウス製、デルフト、オランダ国)から得た。
【0247】
実施例7に従って製造された、ジ‐{(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのカルシウム塩}五水和物D1,Caについての特徴的な格子面間隔を以下に示す:d [Å] : 15.46、11.45、9.36、9.04、7.75,6.46、6.09、5.82、5.66、5.16、4.76、4.48、3.83、3.60。
【0248】
実施例8
(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンカルシウム塩の、その場での(in situ)非結晶性物質E1,Caとしての製造
3.53mgの四水和物A0,Caとしての(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのカルシウム塩を、約22マイクロリットルの内部容量を有する金でできた密閉式試料容器中に入れる。出発材料A0,Caを、DSCパイリス1中で−50℃に冷却後216℃に加熱し、それによって融解相へ移す。容器を室温に冷却後物質を金容器から取出す。(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンカルシウム塩の非結晶形態E1,Caが得られる。
【0249】
実施例8に従って製造された物質E1,Caは、12.9%の割合で水を含む。10K/分の加熱速度で小内部容量をもつ金でできた密閉容器中でのDSCパイリス1(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)による(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンカルシウム塩の非結晶形態E1,Caの熱特性検定は、ガラス転移温度T=101℃を示し、融点の温度領域での比熱変化はΔcp = 0.64 J・(g・K)−1である。ガラス転移測定について実施したのと同じ条件下でDSCパイリス1により測定された216℃の温度以下では融点も融解エンタルピーも観察されない。
【0250】
(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンの非結晶性カルシウム塩E1,Caの赤外スペクトルを、パーキン‐エルマー・コーポレーション(英国バックス、ビーコンフィールド)製のATR−IR装置BXにより測定する。
【0251】
ATR−IR分光法の特徴的な吸収帯は、実施例8に従って製造された非結晶性物質E1,Caについて示されており、以下の値は波長の逆数(cm−1)で表されている:3587; 3307; 3182; 3053; 2961; 2870; 2358; 1621; 1578; 1506; 1459; 1441; 1417; 1364; 1319; 1301; 1274; 1211; 1180; 1137; 1105; 1099; 1013; 1003; 974; 941; 864; 856; 844; 823; 758; 738; 666。
【0252】
実施例9
(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンカルシウム塩の、その場での(in situ)非結晶性物質F1,Caとしての製造
4.14mgの(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのカルシウム塩三水和物の物質B3,Caを、熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)の開口るつぼに入れ、10K/分の加熱速度で室温から225℃まで加熱する。物質B3,Caを熱重量測定装置において水不含有雰囲気に曝露する。225℃で9.4%の重量喪失、すなわち水分喪失を伴って含まれる脱水物質を空気中31%の相対湿度および23℃に連続曝露したところ、18時間にわたる再水和により生成物、すなわち(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンの非結晶性カルシウム塩F1,Caが得られる。
【0253】
実施例9に従って製造された物質F1,Caを、10K/分の加熱速度を適用し、金でできた小内部容量の密閉試料容器を用いてDSCパイリス1(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)により特性検定する。(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのカルシウム塩の非結晶性物質F1,Caは、DSC(示差走査熱量計)により観察されたガラス転移を明瞭にさせ得る。ガラス転移温度はT=139℃であり、ガラス転移温度領域での比熱の変化はΔcp = 0.42 J・(g・K)−1である。物質F1,Caが−50℃に冷却後10K/分の加熱速度で220℃に加熱されたとき、融点も融解エンタルピーもDSCでは観察されない。従って、物質F1,Caは、適用された方法では検出され得ない結晶性を有しており、結晶性は、1%未満のDSCパイリス1の感度の評価によるものである。既存の熱力学的データ、すなわち融点および融解エンタルピーを合わせたものが、結晶性材料または結晶性物質の絶対先行条件である。
【0254】
(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンの非結晶性カルシウム塩F1,Caの含水率を、水分不含有雰囲気中、熱重量分析法を用いて測定する。温度の関数としての物質F1,Caについての重量喪失、すなわち水分喪失を、10K/分の加熱速度で測定し、結果を以下に列挙する。
【表19】

1,Caの合計式を、8.8%の水を含む(C24272−Ca2+として計算する。
【0255】
実施例10
(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンの、その場での(in situ)六水和物としてのマグネシウム塩A1,Mgの製造
六水和物A0,Mgとしての(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩28.81mgを、熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)の開口るつぼに入れ、200分の期間、流速50ml/分を有する、温度50℃の水不含有N雰囲気中で処理する。最終点での重量喪失、すなわち水分喪失は9.4%であった。バルサルタンのマグネシウム塩に関してこの最終時点で依然として結合している水は、18.7%である出発材料A0,Mgに関する含水率を考慮したところ、バルサルタンのマグネシウム塩1モルに関して2.6モルの水に相当する。この脱水工程後に得られた物質は、事実上三水和物であり、これを空気中での連続工程において24℃で31%の相対湿度に曝露する。水の取込は、約70分の緩和時間を示した。平衡条件に達する際に得られる物質は、(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩の多形A1,Mg六水和物である。
【0256】
10K/分の加熱速度について、約22マイクロリットルの小容量を有する密閉試料容器中で1.92mgの試料重量により測定された、実施例10に従って製造される(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩の多形A1,Mg六水和物についての融点は、Tfus = 134℃である。同じくDSCパイリス1により測定された融解エンタルピーは、実施例10に従って製造されたA1,MgについてはΔfusH = 46kJ・Mol−1である。
【0257】
含水率は、理論上バルサルタンのマグネシウム塩の六水和物については19.1%である。多形A1,Mgのバルサルタンマグネシウム塩六水和物の含水率は、225℃のプラトーについての重量喪失として測定されたところ17.4%である。六水和物A1,Mgの多形としてこれから計算される合計式は、(C24272− Mg2+ ・ 5.5 HOである。
【0258】
水不含有N雰囲気中、熱重量分析法を用いて、実施例7に従って製造された(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩の六水和物A1,Mgの多形についての重量喪失、すなわち水分喪失を、温度の関数として、10K/分の加熱速度で測定する。結果は以下の通りである:
【表20】

【0259】
六水和物A1,Mgの多形についての(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩の固態特性検定を、X線粉末パターンおよび格子面間隔への反射の評価により実施する。ギニエカメラで測定を行い、A1,Mg、すなわち(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩の六水和物の多形について算出された線を、以下の通り格子面間隔で表す:d [Å] : 19.58、16.63、10.30、9.83、7.40、6.83、6.01、5.93、5.52、5.34、5.20、5.11、5.02、4.87、4.51、4.13、4.06、3.95、3.73、3.63、3.42。
【0260】
実施例10に従って製造された塩水和物、すなわちA1,Mgの鏡像体純度を、立体特異的HPLC法により測定する。鏡像体純度は、ee=99.63%として測定される。
【0261】
実施例11
四水和物B1,Mgとしての(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩および(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩の非結晶性物質E1,Mgおよび(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩の一水和物D1,Mgとしての結晶性物質の混合物としての材料の製造
【0262】
六水和物A0,Mgとしての(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩71.4mgを、時間の関数としての温度および湿度プログラムを設定し、選択された時間間隔についてX線回折パターン(フィリップス・アナリティカルX‐レイ(7602アルメロ、オランダ国)製の粉末回折チャンバーX'Pert)を記録し得る装置の開口るつぼへ入れる。等温温度を35℃に設定し、水不含有N雰囲気を100ml/分の流速で達成する。並行製造工程において、六水和物A0,Mgとしてのバルサルタンのマグネシウム塩5.36mgを、熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)の開口るつぼに充填し、出発材料を、X線装置における出発材料の場合と事実上同じ条件、すなわち35℃の等温温度、および流速50ml/分での水不含有雰囲気に曝露する。熱重量測定装置中で42時間後に得られた物質は、(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩の一水和物D1,Mgである。粉末回折チャンバーX'Pertで得られる物質は、(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩の一水和物D1,Mgとして格子面間隔により測定される。
【0263】
実施例11に従って製造された(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩の一水和物D1,Mgの結合水含有率を、熱重量測定装置TGS−2により測定したところ、2.8%である。D1,Mgに関する合計式を、これから(C24272− Mg2+ ・ 0.74 HOとして計算する。温度‐湿度粉末回折チャンバーX'Pertにより撮ったX線粉末パターンからの格子面間隔の計算は、マグネシウムバルサルタンの一水和物D1,Mgの最重要線についてである:d [Å] : 15.10、10.87、10.27、7.66、7.21、5.12、4.75。
【0264】
物質、すなわち一水和物D1,Mgを、熱重量測定装置および粉末回折チャンバーX'Pertにおける水不含有雰囲気中でさらに35時間35℃に保つ。2種の異なる装置における処理開始から70時間後に得られた物質は両方とも、熱重量測定装置およびX線回折パターンにより、バルサルタンのマグネシウム塩の一水和物D1,Mgの存在を示した。70時間後、物質を両方ともさらに高い相対湿度に曝露した。X線装置X'Pertにおいて、条件は26℃および相対湿度は45%であった。熱重量測定装置において、条件は、空気中で23℃および30%の相対湿度であった。得られた材料は両方とも、実施例11に従って製造されたもので、(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩の四水和物B1,Mgおよび(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンの非結晶性マグネシウム塩E1,Mgの混合物である。
【0265】
実施例11に従って最後に平衡後に製造された材料の固態特性検定を、DSCパイリス1(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)により実施する。ガラス転移を、10K/分の加熱速度を適用し、約22マイクロリットルの小内部容量を有する密閉金容器中2.57mgの試料重量で測定する。実施例11に従って製造された材料の一部としてバルサルタンの非結晶性マグネシウム塩E1,Mgのガラス転移温度はT=100℃を示し、比熱変化はΔcp = 0.3 J・(g・K)−1である。
【0266】
粉末回折チャンバーX'Pert内で実施例11に従って製造された材料の含水率は、(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩については、熱重量測定装置TGS−2により測定されたところ13%である。合計式は、実施例11に従って製造された材料の結晶部分B1,Mgについてのこの水分含有率から(C24272− Mg2+ ・ 3.8 HOとして概算される。
【0267】
主成分E1,Mgおよび第二成分B1,Mgによる粉末回折チャンバーX'Pert内で実施例11に従って製造された材料は、熱重量測定装置TGS−2(パーキン‐エルマー・コーポレーション、ノアウォーク、コネティカット、米国)により測定される温度の関数として以下の水分喪失を示す。選択された加熱速度は10K/分であった。重量喪失を以下の通り表に示す:
【表21】

【0268】
バルサルタンマグネシウム塩の四水和物としての結晶性部分B1,Mgを、温度‐湿度粉末回折チャンバーにより実施したX線測定から算出された格子面間隔により特性検定した。この材料の結晶性部分についての特徴的な線を以下に列挙する:d [Å] : 15.82、11.02、8.03。
【0269】
赤外スペクトルの測定を、器械BXを用いるATR−IR(減衰全反射赤外分光法)手段により実施した。以下の特徴的な吸収帯は、パーキン‐エルマー・コーポレーションの熱重量測定装置TGS−2内で実施例11に従って製造された材料、すなわち主成分としての非結晶性形態E1,Mgおよび(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩の結晶性形態B1,Mgについて波長の逆数(cm−1)で表したものである:3182; 2960; 2870; 1596; 1508; 1460; 1406; 1359; 1302; 1264; 1206; 1174; 1104; 1013; 1005; 975; 941; 845; 819; 785; 738; 666。
【0270】
実施例12
(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩の三水和物C1,Mgの製造
76.3mgの六水和物A0,Mgとしての(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩を、時間の関数として温度および湿度プログラムを設定し、選択された時間間隔についてX線回折パターン(粉末回折チャンバーX'Pert)を記録し得る装置の開口るつぼ中へ押し込む。等温温度は28℃であり、水不含有N雰囲気を100ml/分の流速で設定する。並行製造工程において、六水和物A0,Mgとしてのバルサルタンのマグネシウム塩4.75mgを、熱重量測定装置TGS−2の開口るつぼに入れる。熱重量測定装置における雰囲気は水不含有であり、50ml/分のN流速で器械をフラッシュする。13時間後に得られた物質は、(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩三水和物C1,Mgである。
【0271】
物質C1,Mgの含水率を熱重量測定装置TGS−2により測定する。温度28℃で水不含有雰囲気中13時間後における重量喪失、すなわち水分喪失は8.5%であり、10.0%の生成物C1,Mgにおける結合水含有率を生じる。合計式を、C1,Mgについてのこの値から(C24272− Ca2+・ 2.8 HOとして計算する。
【0272】
格子面間隔を粉末回折チャンバーX'Pertにより測定されたX線粉末パターンから算出する。バルサルタンのマグネシウム塩の三水和物C1,Mgについての特徴的な線は以下の通りである:d [Å] : 17.94、10.23、8.96、7.18、6.97、6.81、6.24、5.93、5.84、5.72、5.59、5.42、5.25、5.11、5.01、4.82、4.67、4.57、4.49、4.30、4.19、4.13、4.02、3.88。
【0273】
実施例13
(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩の非結晶性形態E1,Mgの製造
4.02mgの(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩の六水和物A0,Mgを、DSCパイリス1の試料パン中に充填し、物質を−50℃に冷却し、そして145℃に加熱する。冷却速度は100K/分であり、加熱速度は10K/分であった。融解物質を室温に冷却後、物質E1,Mgを(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩の非結晶性形態として得た。
【0274】
実施例14に従って製造された物質E1,Mgの特性検定をDSCパイリス1で遂行する。DSCパイリス1において、得られた物質E1,Mgを小内部容量の密閉金容器中で−50℃に冷却し、10K/分の加熱速度で145℃まで加熱すると、ガラス転移現象が現れた。(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩の非結晶形態E1,Mgについて測定されたガラス転移温度はT=73℃であり、比熱の変化はΔcp=0.53 J・(g・K)−1である。
【0275】
熱重量測定装置TGS−2を用いて水不含有N雰囲気中10K/分の加熱速度で含水率を測定する。試料重量は2.5mgであり、225℃の温度についての重量喪失のプラトーで実施例13に従って製造された、(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩の非結晶形態E1,Mgについて含水率を測定したところ15.5%である。E1,Mgの合計式を、15.5%の割合で水を含む(C24272− Mg2+として計算した。
【0276】
赤外スペクトルの測定を、器械BXを用いるATR−IR(減衰全反射赤外分光法)手段により実施した。波長の逆数(cm−1)で表した以下の最重要吸収帯は、実施例13に従って製造された(S)−N−(1−カルボキシ−2−メチル−プロパ−1−イル)−N−ペンタノイル−N−[2'−(1H−テトラゾール−5−イル)−ビフェニル−4−イルメチル]−アミンのマグネシウム塩の非結晶性形態E1,Mgについて特性確認したものである:3189; 2959; 2871; 2356; 1589; 1507; 1459; 1405; 1358; 1299; 1263; 1206; 1174; 1104; 1013; 1005; 974; 942; 841; 736; 668。
【0277】
製剤例1:
直接的圧縮錠剤:
【表22】

成分番号1を0.5mmのふるいにかけ、成分1〜6とターブラーで15分間混合する。直径8mmのパンチによる単一パンチ錠剤プレスを用いて、錠剤を圧縮する。
【0278】
製剤例2:
ローラー圧縮により製造される錠剤
【表23】

成分番号1〜5を50分間混合し、フロイントローラー圧縮機で圧縮する。帯を粉砕し、成分番号6を混合後直径8mmのパンチによる単一パンチ錠剤プレスを用いて錠剤に圧縮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルサルタンのカルシウム塩の
四水和物の多形、
三水和物の多形、
一水和物、および
ジ−(バルサルタンのカルシウム塩)五水和物
ならびにバルサルタンのカルシウム塩の無水物から選択され;
バルサルタンのマグネシウム塩の
六水和物の多形、
三水和物、
一水和物、および
四水和物
ならびにバルサルタンのマグネシウム塩の無水物から選択される、バルサルタンの塩。

【公開番号】特開2009−235086(P2009−235086A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139245(P2009−139245)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【分割の表示】特願2003−565980(P2003−565980)の分割
【原出願日】平成15年2月3日(2003.2.3)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】