説明

バルブユニットおよびブレーキ装置

【課題】 急操作を行う場合のみに、流体圧動作装置の初期の流体圧の立ち上がりを迅速に行うことのできるシンプルな構造のバルブユニットおよびブレーキ装置を提供する。
【解決手段】 バルブユニット26は、マスタシリンダ側である圧入力ポート34側が大面積形状で、ホイールシリンダ側である圧出力ポート36側が小面積形状の段付ピストン32を含む。段付ピストン32は、圧入力ポート34と圧出力ポート36とを連通するオリフィス路44を含み、ブレーキペダルをゆっくり踏みマスタシリンダを増圧する場合、ブレーキオイルはオリフィス路44を通過し、圧出力ポート36側をマスタシリンダの圧力に応じて増圧する。ブレーキペダルを急踏みした場合、ブレーキオイルは、オリフィス路44を流れず、段付ピストン32を圧出力ポート36側へ押し、段付ピストン32の面積比に応じて増圧を行い、流体圧動作装置の初期の流体圧の立ち上がりを迅速に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブユニットおよびブレーキ装置、特に、急操作時に流体圧動作装置の迅速な初期圧力上昇を行うことのできるバルブユニット、およびホイールシリンダの急速な初期圧力上昇を行うことのできるブレーキ装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からブレーキ装置を動作させる手段として動作流体圧、例えば油圧が利用されている。ブレーキ装置は、ブレーキ操作部材などのブレーキペダルの操作に基づいて油圧が制御される。例えば、ディスクブレーキの場合、ブレーキペダルの操作に基づきマスタシリンダで油圧を発生させ、その油圧が油路を介してキャリパに含まれるホイールシリンダに伝達され、ホイールシリンダが駆動する。ホイールシリンダが駆動すると、ブレーキパッドがブレーキディスクを把持し、回転するブレーキディスクに制動力を与える。つまり車輪に制動力を発生させる。このように、従来のブレーキ装置においては、ブレーキペダルの急踏みが行われる緊急制動時や、それ以外でブレーキペダルがゆっくり踏み込まれる通常制動時の区別なく、ブレーキペダルの踏力に応じた油圧が発生するように制御されている。一方、例えば、特許文献1には、ホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧の変化勾配よりも大きな変化勾配で変化させる手段を備えたものが開示されている。また、特許文献2には、ブレーキ操作部材の操作により発生するブレーキ液圧を増圧しながら、ブレーキ操作部の操作量を抑制する操作量縮小手段を備えるブレーキ倍力システムが開示されている。この他、ブレーキ装置の増圧を行うための技術が特許文献3、特許文献4などにも開示されている。
【特許文献1】特開平8−40252号公報
【特許文献2】特開平10−119756号公報
【特許文献3】特開2000−166005号公報
【特許文献4】特開平2−241540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述のように、ブレーキ装置においては、例えばキャリパに含まれるホイールシリンダを動作させることによって制動力を発生させるが、ホイールシリンダの初期動作時、つまり低油圧状態のときに、油圧の立ち上がりが緩慢になる傾向がある。通常制動時、すなわち、ブレーキペダルをゆっくり踏み込む場合には、マスタシリンダ側の油圧の立ち上がりが徐々に行われるので、ホイールシリンダ側の油圧の立ち上がりの緩慢性は無視することができる。つまり、運転者が想像している制動力の発生イメージと、実際の制動力の発生とは、あまり違いがなくブレーキペダルの操作フィーリングの違和感をほとんど感じさせない。しかし、運転者が急制動を要求する場合、ホイールシリンダ側の油圧の立ち上がりの緩慢性は、ブレーキペダルの操作フィーリングの違和感の原因になり得る。したがって、ブレーキペダルの急踏み時には、運転者の操作に敏感に反応し、急速な油圧の立ち上げを行うことが好ましい。さらに、緊急制動時には、急速な油圧の立ち上がりを実現し、できるだけ制動停止距離を短縮するようにすることが好ましい。このような急速な油圧の立ち上げは、ブレーキペダルのペダル比を大きくし、相対的に制動の効きをよくする方法がある。
【0004】
しかし、ペダル比を大きくすると、ブレーキペダルのストロークが長くなる。つまり、所望の制動力を発生させようとした場合の踏み込み動作が大きくなる。ブレーキング操作を行う場合のストロークには人間工学的に適値が存在するため、それ以上ストロークが長い場合、ブレーキ操作フィーリングに違和感を与えてしまうという問題がある。特に、ブレーキペダルをゆっくり踏み込む場合には、ストロークが長いと、ブレーキペダルの操作がふわふわした感になり操作フィーリングの低下を招いてしまう。さらに、ペダル比を大きくすることに伴うストロークの増加により、構造体が大型化し、車両の限られた空間にストローク構造体を納めることが困難になるという問題が生じる。
【0005】
流体圧動作装置において、油圧がある程度立ち上がった後は、ブレーキペダルの踏み込み量に応じた油圧が得られ、十分な制動力が発生できるので、流体圧動作装置においては、特に、急操作を行った時の初期の油圧の立ち上がりを迅速に行う改善が望まれている。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、急操作を行う場合のみに、流体圧動作装置の初期の流体圧の立ち上がりを迅速に行うことのできるシンプルな構造のバルブユニットを提供することにある。また、ブレーキ操作部材の急操作を行う場合に、操作フィーリングを損なうことなく、ホイールシリンダの初期の流体圧の立ち上がりを迅速に行うことのできるシンプルな構造のブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様では、流体圧発生装置と当該流体圧発生装置の発生する流体圧に応じて動作する流体圧動作装置との間に配置されるバルブユニットであって、前記流体圧発生装置側に接続される圧入力側が大面積形状を呈し、前記流体圧動作装置側に接続される圧出力側が前記大面積形状に対し面積の小さな小面積形状を呈する、段付シリンダ内を摺動可能な段付ピストンと、前記段付ピストンの圧入力側と圧出力側とを連通し、所定流速以下の動作流体の通過を許容するオリフィス路と、前記段付ピストンを前記段付シリンダ内で圧入力側に付勢する付勢部材と、を含むことを特徴とする。
【0008】
この態様によれば、流体圧発生装置側の流体圧上昇に伴い発生した動作流体の流速が所定流速以下の場合、動作流体は、オリフィス路を通って、付勢部材に付勢された段付ピストンを移動させることなく流体圧動作装置側へ流れる。すなわち、流体圧発生装置側の流体圧の上昇と流体圧動作装置側の流体圧の上昇とがほぼ一致するように、流体圧動作装置側の増圧を行い動作させる。一方、流体圧発生装置側の流体圧上昇に伴い発生した動作流体の流速が所定流速より早い場合、オリフィス路の流動抵抗が大きくなり、動作流体はオリフィス路を通過できない。その結果、流体圧発生装置側の流体圧上昇に伴い発生した動作流体は、段付ピストンを流体発生装置側から流体圧動作装置側へ移動させる。このとき、段付ピストンの面積は、流体発生装置側より流体圧動作装置側が小さいので、流体発生装置側と流体圧動作装置側の面積比に応じた増圧が流体圧動作装置側で行われる。その結果、流体圧動作装置側の流体圧上昇の初期の増圧を迅速に行うことができる。また、段付ピストンの移動により流体圧動作装置側の圧力が増加した場合、動作流体はオリフィス路を流体圧動作装置側から流体発生装置側へ逆流する。その結果、流体圧動作装置側の流体圧上昇の中盤以降は上昇速度が緩やかになり、徐々に流体発生装置側の流体圧上昇勾配に近づく。つまり、流体圧発生装置の急操作を行う場合のみに、流体圧動作装置の初期の流体圧の立ち上がりを迅速に行うことのできる。また、オリフィス路付きの段付ピストンを流体発生装置側と流体圧動作装置側との間に介在させるだけなので、シンプルな構成により上記作用を得ることができる。
【0009】
また、上記態様において、前記段付ピストンは、前記圧出力側と圧入力側との差圧が所定の開弁圧以上になった場合に、圧出力側から圧入力側への動作流体の移動を許容する逆止弁をさらに含んでもよい。例えば、周囲温度によって動作流体の粘性が高くなっているような場合、動作流体のオリフィス路の逆流タイミングにばらつきが生じ、流体圧動作装置側の高圧状態が長くなってしまう場合がある。しかし、上述のように、逆止弁を設けることにより流体圧動作装置側の圧力状態が逆止弁の開弁圧以上に高くなることを防止することが可能になり、流体圧動作装置の初期の流体圧の立ち上がりのみを迅速に行うことのできる。また、初期の俊敏な流体圧立ち上がりの期間を逆止弁の開弁圧設定により容易に選択することができる。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様では、ブレーキ操作部材の操作に基づいて流体圧を発生させるマスタシリンダと、前記マスタシリンダが発生させる流体圧に応じて動作するホイールシリンダと、前記マスタシリンダとホイールシリンダとの間に配置されるバルブユニットと、を含むブレーキ装置であって、前記バルブユニットは、前記マスタシリンダ側に接続される圧入力側が大面積形状を呈し、前記ホイールシリンダ側に接続される圧出力側が前記大面積形状に対し面積の小さい小面積形状を呈する、段付シリンダ内を摺動可能な段付ピストンと、前記段付ピストンの圧入力側と圧出力側とを連通し、所定流速以下の動作流体の通過を許容するオリフィス路と、前記段付ピストンを前記段付シリンダ内で圧入力側に付勢する付勢部材と、を含むことを特徴とする。
【0011】
この態様によれば、ブレーキ操作部材を操作して、マスタシリンダにより所定流速以下の動作流体を発生させた場合、例えば、ゆっくりした動作でブレーキ操作部材を踏み込んだ場合、動作流体は、オリフィス路を通過し、付勢部材によって付勢された段付ピストンを移動させることなく、ホイールシリンダ側へ流れる。すなわち、マスタシリンダ側の流体圧の上昇とホイールシリンダ側の流体圧の上昇とがほぼ一致するように、ホイールシリンダ側の増圧を行い動作させる。一方、マスタシリンダ側の流体圧上昇に伴い発生した動作流体の流速が所定流速より早い場合、例えば、ブレーキ操作部材を急踏みした場合、オリフィス路の流動抵抗が大きくなり、動作流体はオリフィス路を通過できない。その結果、マスタシリンダ側の流体圧上昇に伴い発生した動作流体は、段付ピストンをマスタシリンダ側からホイールシリンダ側へ移動させる。このとき、段付ピストンの面積は、マスタシリンダ側よりホイールシリンダ側が小さいので、マスタシリンダ側とホイールシリンダ側の面積比に応じた増圧がホイールシリンダ側で行われる。その結果、ホイールシリンダ側の流体圧上昇の初期の増圧を迅速に行うことができる。また、段付ピストンの移動により、ホイールシリンダ側の圧力が増加した場合、動作流体はオリフィス路をホイールシリンダ側からマスタシリンダ側へ逆流する。その結果、ホイールシリンダ側の流体圧上昇の中盤以降は上昇速度が緩やかになり、徐々にマスタシリンダ側の流体圧上昇勾配に近づく。つまり、マスタシリンダの急操作を行う場合のみに、ホイールシリンダの初期の流体圧の立ち上がりを迅速に行うことができる。また、オリフィス路付きの段付ピストンをマスタシリンダ側とホイールシリンダ側との間に介在させるだけなので、シンプルな構成により上記作用を得ることができる。
【0012】
また、上記態様において、前記段付ピストンは、前記圧出力側と圧入力側との差圧が所定の開弁圧以上になった場合に、圧出力側から圧入力側への動作流体の移動を許容する逆止弁をさらに含むものとしてもよい。例えば、周囲温度によって動作流体の粘性が高くなっているような場合、動作流体のオリフィス路の逆流タイミングにばらつきが生じ、ホイールシリンダ側の高圧状態が長くなってしまう場合がある。しかし、上述のように、逆止弁を設けることによりホイールシリンダ側の圧力状態に応じて圧力の上昇を緩やかにすることができるので、ホイールシリンダの初期の流体圧の立ち上がりのみを迅速に行うことができる。したがって、ブレーキ操作部材の急踏みした時のみ増圧動作を行い、その他は通常の流体圧制御が可能になり、救急時に制動力の確保を迅速に行うと共に、ブレーキフィーリングの向上を行うことができる。また、初期の俊敏な流体圧立ち上がりの期間を逆止弁の開弁圧設定により容易に選択することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のバルブユニットおよびブレーキ装置によれば、シンプルな構成で、操作フィーリングを損なうことなく急操作を行う場合のみに、流体圧動作装置やホイールシリンダの初期の流体圧の立ち上がりを迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)を、図面に基づいて説明する。
【0015】
本実施形態のバルブユニットは、流体圧発生装置と、この発生した流体圧に応じて動作する流体圧動作装置との間に配置されている。バルブユニットは圧入力側が大面積形状を呈し、圧出力側が小面積形状を呈する段付ピストンを含んでいる。また、この段付ピストンには、圧入力側と圧出力側とを連通し、所定流速以下の動作流体の通過を許容するオリフィス路が設けられている。段付ピストンにオリフィス路が形成されているため、圧入力側の動作流体の流速が所定速度より遅い場合、動作流体は、オリフィス路を通過し、段付ピストンを移動させることなく、圧入力側と圧出力側の流体圧上昇は、ほぼ同じになる。一方、圧入力側の動作流体の流速が早い場合、動作流体は、オリフィス路を通過することができず、段付ピストンを押して圧出力側に移動させる。その結果、段付ピストンの移動初期の段階で段付ピストンの圧出力側と圧入力側の面積比に応じた増圧作用が生じ、流体圧動作装置の流体圧の立ち上がりを俊敏に行うようにするものである。
【0016】
図1は、本実施形態のバルブユニットを含む車両のブレーキ装置10の概略構成図である。運転者が操作するブレーキ操作部材であるブレーキペダル12には、その踏み込みストロークを検出するストロークセンサ14が設けられている。ブレーキペダル12には、ブレーキブースタ16を介してマスタシリンダ18が接続されている。マスタシリンダ18は、例えばタンデムタイプとすることが可能であり、運転者によるブレーキペダル12の踏み込み操作に応じ、作動流体であるブレーキオイルを圧送する。また、ブレーキペダル12とマスタシリンダ18との間に配置されたブレーキブースタ16は、例えば、ダイヤフラム式のバキュームサーボとすることが可能で、図示しないエンジンの吸気マニホールドからの負圧を動力源とし、ブレーキペダル12の操作力を軽くする倍力装置として機能する。
【0017】
マスタシリンダ18には前輪用のブレーキ油圧制御導管20および後輪用のブレーキ油圧制御導管22が接続されている。ブレーキ油圧制御導管20は、左前輪および右前輪の制動力を発揮する左前輪用および右前輪用のホイールシリンダ24FL、24FRに接続されている。また、ブレーキ油圧制御導管22は、左後輪および右後輪の制動力を発揮する左後輪用および右後輪用のホイールシリンダ24RL、24RRに接続されている。なお、以下、任意のホイールシリンダを示す場合は、ホイールシリンダ24と表記する。
【0018】
ブレーキ油圧制御導管20、ブレーキ油圧制御導管22において、マスタシリンダ18、とホイールシリンダ24との間には、本実施形態のバルブユニット26が配置されている。このバルブユニット26は、後述するが、ブレーキ油圧制御導管20、ブレーキ油圧制御導管22の中を流れるブレーキオイルの流速によって挙動が変化するバルブである。なお、マスタシリンダ18には、リザーバタンク28が接続され、マスタシリンダ18、ブレーキ油圧制御導管20、ブレーキ油圧制御導管22、ホイールシリンダ24などを含む油圧回路全体の油量調整を行っている。
【0019】
図2(a)は、バルブユニット26の詳細構造を示す断面図である。バルブユニット26は、段付シリンダ30とその内部空間に摺動自在に収納される段付ピストン32で構成されている。段付シリンダ30は、例えば、段付きの円柱形状であり、大面積側にマスタシリンダ18側と接続される圧入力ポート34が形成され、小面積側には、ホイールシリンダ24側に接続可能な圧出力ポート36が形成されている。また、段付ピストン32は、段付シリンダ30の段付形状の内部空間に対応した形状であり、例えば段付きの円柱形状を呈している。段付ピストン32の大面積側(面積A2)である大径部分32aの周囲には、段付シリンダ30の大径部分30aとの間でブレーキオイルの移動が発生しないようにすると共に段付シリンダ30に対して段付ピストン32をスムーズに摺動させるためにOリング38が装着されている。また、段付シリンダ30の小面積側(面積A1)である小径部分30bにも同様にOリング40が装着されている。こられOリング38,40は、ブレーキオイルに耐性を有する材質で形成されている。
【0020】
また、段付シリンダ30の段部分、すなわち、シリンダ肩部30cと、段付ピストン32の段部分、すなわち、ピストン肩部32cとの間には、段付ピストン32を圧入力側に付勢する付勢手段としてスプリング42が配置されている。図2(a)には、スプリング42を2個示しているが、スプリング42の配置数は、段付ピストン32が所定の付勢力で付勢できれば任意である。また、小径部分32bの周囲に巻回配置できる単一の大きなスプリングを配置してもよい。
【0021】
本実施形態の段付ピストン32において、特徴的な点は、段付ピストン32の圧入力側と圧出力側とを連通し、所定流速以下のブレーキオイルの通過を許容するオリフィス路44が形成されているところである。このオリフィス路44の直径は、例えば直径1mmであり、ブレーキオイルの流速が例えば2cc/secの場合にオリフィス路44によるブレーキオイルの通過を許容するものである。言い換えれば、マスタシリンダ18側から提供されるブレーキオイルの流速が所定の流速より早い場合、オリフィス路44の流動抵抗が大きくなり、ブレーキオイルの通過を拒む。その結果、マスタシリンダ18側から提供されるブレーキオイルは、スプリング42の付勢力に逆らい段付ピストン32を圧出力側へと押し移動させことになる。
【0022】
図2(b)は、ブレーキペダル12が急踏みされ、マスタシリンダ18側から提供されるブレーキオイルが所定の流速より早い流速で圧入力ポート34に供給された場合に、段付ピストン32がスプリング42の付勢力に抗して圧出力ポート36側に移動した状態を示している。前述したように、段付ピストン32は、圧入力側が面積A2の大径であり、圧出力側が面積A1の小径である。したがって、段付ピストン32が、圧出力側に移動した場合、段付ピストン32の両端の面積比に応じてA2/A1倍に増圧されることになる。
【0023】
以下、本実施形態において、ブレーキペダル12の踏み方によるバルブユニット26の挙動の違いを説明する。
【0024】
運転者が、車両を制動させようとしてブレーキペダル12を踏む場合、急制動を必要とせず、通常のペダル操作速度でゆっくりと踏み込む場合と、急制動を要求し、早いペダル操作速度で、急踏みを行う場合とがある。前述したように、ゆっくりとブレーキペダル12を踏む場合、ホイールシリンダ24の油圧の立ち上がりの緩慢性は、運転者に認識されづらい。つまり、ホイールシリンダ24の油圧の変化は制動時の減速ショックを抑えたスムーズに上昇する特性を有することが好ましい。そのため、マスタシリンダ18の油圧の上昇、すなわち、運転者の操作フィーリングに応じた油圧の上昇にホイールシリンダ24の油圧の上昇が一致するように制御することが望ましい。本実施形態において、ゆっくりとしたブレーキペダル12の踏み込みとは、オリフィス路44がブレーキオイルの通過を許容する流速以下の流速を発生するようなマスタシリンダ18に対するブレーキペダル12の操作である。この場合、ブレーキオイルは、段付ピストン32を圧出力側に移動させることなく、オリフィス路44を通過するので、ホイールシリンダ24側の圧力PW/Cは、マスタシリンダ18側の圧力PM/Cとほぼ一致する。
【0025】
図3は、マスタシリンダ18で油圧が発生した後、時間の経過と共に変化するホイールシリンダ24の圧力PW/Cの上昇状態の一例を示すグラフである。曲線Nが、ブレーキペダル12をゆっくり踏んだ時の変化状態を示している。曲線Nで示すように、PW/Cの立ち上がり時は、油圧の上昇が緩慢であるが、時間の経過と共にマスタシリンダ18の圧力上昇に対応してリニアに上昇する。その結果、運転者は違和感のない制動力を得ることができる。なお、上述したPW/C=PM/Cは、例えば、圧入力ポート34および圧出力ポート36における圧力である。一方、図3における曲線Nは、ホイールシリンダ24における圧力であり、ホイールシリンダ24における立ち上がり時の緩慢性が現れている。
【0026】
一方、ブレーキペダル12を急踏みした場合、つまり、オリフィス路44が通過を許容できる流速より早い流速でブレーキオイルの提供を圧入力ポート34側から受けた場合、圧入力ポート34より供給されるブレーキオイルにより段付シリンダ30の大径部分30aの圧入力ポート34側の圧力が急速に上昇し、段付ピストン32を図2(b)に示すように、図中左方向に押して急速に移動させる。前述したように、この時、段付ピストン32の大径部分32aと小径部分32bとの面積比により増圧が行われるので、ホイールシリンダ24側の圧力は、図3に曲線Rで示すように急速に上昇する。なお、スプリング42が存在するため、スプリング42による付勢力をFとすると、段付ピストン32が移動する時のホイールシリンダ24側の圧力の変化は、PW/C=(A2/A1)×PM/C−(F/A1)となる。また、段付ピストン32は、急速に図中左方向に移動するので、この間は、オリフィス路44の流動抵抗は大きくブレーキオイルがオリフィス路44を逆流することはないと見なすことができる。なお、ブレーキオイルの流れは、ブレーキペダル12の踏み込み初期の段階のみ早く、その後は、流れは低下して静圧といて、段付ピストン32を押すことになる。
【0027】
ところで、段付ピストン32の移動の結果、バルブユニット26側の圧力が圧入力ポート34の圧力より高くなった場合、圧出力ポート36側のブレーキオイルがオリフィス路44を圧入力ポート34側に逆流し始める。その結果、圧出力ポート36側の油圧上昇率は低下し、図3に示すように、ゆっくりブレーキペダル12を踏み込んだ場合の曲線Nに近づくように油圧調整が自動的に行われる。また、オリフィス路44を介して逆流により圧入力ポート34側と圧出力ポート36側との圧力差が小さくなると、段付ピストン32は、スプリング42の付勢力により図2(b)中右方向に移動し始め、図2(a)の状態に復帰する。さらに、圧入力ポート34側と圧出力ポート36側との圧力差がなくなった場合、ブレーキペダル12の操作により圧入力ポート34側の油圧が上昇する場合、ブレーキオイルは再びオリフィス路44を圧出力ポート36に向かって流れるようになり、圧入力ポート34側の油圧上昇、つまりマスタシリンダ18の油圧上昇に応じて圧出力ポート36側の油圧が曲線Nに沿って上昇する。
【0028】
このように、段付ピストン32の移動により、ブレーキペダル12の急踏み時の初期の段階で、ホイールシリンダ24側において、急速な圧力上昇を発生させることができるので、ホイールシリンダ24における油圧立ち上がり時の緩慢性を打ち消すことが可能になる。つまり、ブレーキ装置においてブレーキペダル12の踏み込みに敏感に反応して油圧上昇初期の段階における急速な油圧上昇を行うことができる。このような初期段階における急速な油圧の上昇により、ブレーキペダル12の急踏み時において、初期段階から良好な制動力の発生を行うことが可能になり制動距離の短縮に寄与することができる。なお、ホイールシリンダ24で初期段階で所定の油圧に到達すれば、その後の制動力はマスタシリンダ18の発生油圧に依存するので、良好な制動を行うことができる。
【0029】
上述したように本実施形態によれば、マスタシリンダ18とホイールシリンダ24との間に、シンプルな構造の段付ピストン32を介在させるのみで、ブレーキペダル12のペダル比を大きくすることなく、ブレーキペダル12の急踏み時におけるホイールシリンダ24側の初期の油圧上昇を急速に行うことができる。その結果、ブレーキペダル12の踏み込み時の操作フィーリングを損なうことなく、急踏み時のホイールシリンダ24側の油圧立ち上がりの緩慢による操作フィーリングの低下も排除することができる。
【0030】
図4には、本実施形態の変形例が示されている。図4に示すバルブユニット26の基本的構造は、図2に示すものと同じであり、ブレーキペダル12をゆっくり踏んだ時や急踏みしたときの段付ピストン32の挙動は同じであるが、図4の場合、オリフィス路44が形成された段付ピストン32に、さらに、開弁圧以上の圧力差が生じた場合、圧出力ポート36から圧入力ポート34へのブレーキオイルの流れのみを許容する逆止弁46が配置されている。
【0031】
例えば、周囲温度が低下した場合、動作流体であるブレーキオイルの粘性が高くなってしまう場合がある。ブレーキペダル12の急踏み後圧入力ポート34側と圧出力ポート36側の微妙な圧力差のみによりブレーキオイルがオリフィス路44を逆流する場合、ブレーキオイルの粘性が高いと粘性のばらつきにより逆流タイミングにばらつきが生じる。つまり、圧出力ポート36側であるホイールシリンダ24の高圧状態が長くなってしまう場合がある。この場合、周囲温度の違いにより、ホイールシリンダ24の圧力状態が変化し、僅かではあるがブレーキフィーリングの違いが生じたり、制動力の違いが生じる場合がある。そこで、逆止弁46を設けることにより所定開弁圧以上の差圧が圧出力ポート36側に生じた場合、ブレーキオイルを圧入力ポート34側に戻し、圧出力ポート36側が必要以上に高圧状態に維持されてしまうことを防止する。このように、ホイールシリンダ24側の圧力状態に応じて圧力の上昇を緩やかにすることができるので、ホイールシリンダ24の初期の油圧の立ち上がりのみを迅速に行うことのできる。したがって、ブレーキペダル12の急踏みした時のみ増圧動作を行い、その他は通常の油圧制御が可能になり、緊急時に制動力の確保を迅速に行うと共に、ブレーキフィーリングの向上を行うことができる。また、初期の俊敏な油圧立ち上がりの期間を逆止弁46の開弁圧設定により容易に選択することが可能になり、ホイールシリンダ24の制御特性にバリエーションを持たせることができる。
【0032】
図5は、本実施形態のバルブユニット26を用いた応用例が示されている。この応用例では、ブレーキペダル12の踏力アシストを行うブレーキブースタ16が失陥したときの対応を上述したバルブユニット26を用いて行うものである。
【0033】
図5に示すバルブユニット26の基本的構造は、図2に示すものと同じであり、段付ピストン32の挙動も同じである。しかし、図5の場合、段付シリンダ30のシリンダ肩部30cと、段付ピストン32のピストン肩部32cとが相対する相対空間にバキュームホース48を介してブレーキブースタ16が接続されている。したがって、ブレーキブースタ16が良好に動作し、ブレーキペダル12の踏力アシストを行っている場合には、シリンダ肩部30cとピストン肩部32cとの間の空間は、バキューム状態となり、スプリング42の付勢力に反し、段付ピストン32が圧出力ポート36側に移動し、段付ピストン32の停止状態が維持される。つまり、段付ピストン32の機能は休止し、ブレーキオイルは、オリフィス路44を通ってのみ、圧出力ポート36側へ流れ込み、ホイールシリンダ24の圧力を上昇する。この場合、ブレーキブースタ16により踏力アシストが行われているので、ブレーキペダル12の急踏み時でも、マスタシリンダ18への踏力伝達がスムーズに行われホイールシリンダ24側の圧力をスムーズに増大させることができる。
【0034】
一方、ブレーキブースタ16の失陥時には、ブレーキペダル12の踏力アシストが消滅する。この時、早急な制動力の確保を望み運転者がブレーキペダル12の急踏みを行おうとする場合、大きな踏力が必要になるので、ホイールシリンダ24側の圧力上昇が緩慢になる。しかし、図5に示すように、ブレーキブースタ16が失陥した場合、段付ピストン32はスプリング42の付勢力によって、図中右方向に移動している。そのため、ブレーキペダル12の急踏みを行った場合、図2で説明したように、ブレーキオイルの流れが早くなり、段付ピストン32を図中左方向に押す。その結果、圧入力ポート34側と圧出力ポート36側の段付ピストン32の面積比に応じた増圧が行われる。つまり、マスタシリンダ18の失陥により、踏力アシストが行われず、ブレーキペダル12の踏み込みストロークが少ない場合でも、前述の段付ピストン32の増圧作用により、ホイールシリンダ24側の圧力上昇を良好に行い、制動力の書く方を行うことができる。また、ブレーキペダル12の踏み込みが継続され、踏み込み開始から所定時間経過すれば、ホイールシリンダ24における油圧は安定し、踏力に応じた制動力の発生が行われる。
【0035】
このように、段付ピストン32を有するバルブユニット26は、ホイールシリンダ24の圧力立ち上がり時のアシストの他に、ブレーキブースタ16の失陥時のフェールセーフ機能を果たすことができる。
【0036】
本実施形態においては、流体圧動作装置として、ディスクブレーキのホイールシリンダ24を一例として示したが、流体圧動作装置として、ドラムブレーキのホイールシリンダに適用しても同様な効果を得ることができる。また、図1の場合、バルブユニット26を前輪用と後輪用にそれぞれ1個配した例を示しているが、バルブユニット26の配置位置は、流体圧発生装置と流体圧動作装置との間であれば任意の位置でよく、例えば、ホイールシリンダ24の直前に配置してもよい。この場合、各ホイールシリンダ24専用のバルブユニット26となる。
【0037】
また、図2に示すバルブユニット26の構造は、圧入力ポート34が大面積形状で圧出力ポート36側が小面積形状の段付ピストン32を含めば、他の形状は適宜変更可能であり、本実施形態と同様な効果を得ることができる。また、段付ピストン32の大面積と小面積の比やオリフィス路44の管径は、流体圧発生装置と流体圧動作装置の特性に応じて適宜選択することが望ましい。
【0038】
また、図2などで示すように、本実施形態では、段付ピストン32の圧出力ポート36側を凹形状としている。これは、オリフィス路44の形成距離を短くするために形成したものであり、凹形状が形成されない場合でも上述した本実施形態と同様な効果を得ることができる。凹形状は段付ピストン32の圧入力ポート34側に形成してもよい。また、段付ピストン32の強度的な配慮を行えば、段付ピストン32の両側に形成してもよいし、凹形状の深さを調整してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本実施形態に係るバルブユニットを適用したブレーキ装置の構成概念を説明する説明図である。
【図2】本実施形態に係るバルブユニットの詳細構造および動作を説明する断面図である。
【図3】本実施形態に係るバルブユニットを用いた場合のホイールシリンダの圧力上昇を説明する説明図である。
【図4】本実施形態に係るバルブユニットの変形例を説明する断面図である。
【図5】本実施形態に係るバルブユニットを用いた応用例を津瞑する断面図である。
【符号の説明】
【0040】
10 ブレーキ装置、 12 ブレーキペダル、 14 ストロークセンサ、 16 ブレーキブースタ、 18 マスタシリンダ、 20,22 ブレーキ油圧制御導管、 24 ホイールシリンダ、 26 バルブユニット、 28 リザーバタンク、 30 段付シリンダ、 32 段付ピストン、 34 圧入力ポート、 36 圧出力ポート、 38,40 Oリング、 42 スプリング、 44 オリフィス路、 46 逆止弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体圧発生装置と当該流体圧発生装置の発生する流体圧に応じて動作する流体圧動作装置との間に配置されるバルブユニットであって、
前記流体圧発生装置側に接続される圧入力側が大面積形状を呈し、前記流体圧動作装置側に接続される圧出力側が前記大面積形状に対し面積の小さな小面積形状を呈する、段付シリンダ内を摺動可能な段付ピストンと、
前記段付ピストンの圧入力側と圧出力側とを連通し、所定流速以下の動作流体の通過を許容するオリフィス路と、
前記段付ピストンを前記段付シリンダ内で圧入力側に付勢する付勢部材と、
を含むことを特徴とするバルブユニット。
【請求項2】
前記段付ピストンは、前記圧出力側と圧入力側との差圧が所定の開弁圧以上になった場合に、圧出力側から圧入力側への動作流体の移動を許容する逆止弁をさらに含むことを特徴とする請求項1記載のバルブユニット。
【請求項3】
ブレーキ操作部材の操作に基づいて流体圧を発生させるマスタシリンダと、
前記マスタシリンダが発生させる流体圧に応じて動作するホイールシリンダと、
前記マスタシリンダとホイールシリンダとの間に配置されるバルブユニットと、
を含むブレーキ装置であって、
前記バルブユニットは、
前記マスタシリンダ側に接続される圧入力側が大面積形状を呈し、前記ホイールシリンダ側に接続される圧出力側が前記大面積形状に対し面積の小さい小面積形状を呈する、段付シリンダ内を摺動可能な段付ピストンと、
前記段付ピストンの圧入力側と圧出力側とを連通し、所定流速以下の動作流体の通過を許容するオリフィス路と、
前記段付ピストンを前記段付シリンダ内で圧入力側に付勢する付勢部材と、
を含むことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項4】
前記段付ピストンは、前記圧出力側と圧入力側との差圧が所定の開弁圧以上になった場合に、圧出力側から圧入力側への動作流体の移動を許容する逆止弁をさらに含むことを特徴とする請求項3記載のブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−290200(P2006−290200A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114901(P2005−114901)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】