説明

パイプラインのカソード防食管理システム及びカソード防食管理方法

【課題】各パイプラインのカソード防食状況を管理するに際して、より厳格にメタルタッチの兆候や直流迷走電流腐食の兆候等を把握する。
【解決手段】ターミナルボックスTB毎に計測された管対地電位データを、ターミナルボックスTB毎且つ計測機会毎に記憶するデータ記憶手段11と、実位置情報及び路線情報を含むターミナルボックス情報が記憶されたターミナルボックス情報記憶手段12と、データ記憶手段11に記憶された管対地電位データを、ターミナルボックス情報記憶手段12に記憶されたターミナルボックス情報に基づいて、パイプライン1の路線毎且つ計測機会毎に抽出して演算処理する演算処理手段13とを備え、演算処理手段13は、ターミナルボックスTBの実位置情報と管対地電位データとに基づいて、抽出された路線毎にパイプライン1における低接地箇所を特定する低接地箇所特定手段14を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソード防食が施されたパイプラインを対象にして、各パイプラインの複数のターミナルボックスで計測された点検計測値を一元管理することで、各パイプラインのカソード防食状況を管理するパイプラインのカソード防食管理システム及びカソード防食管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カソード防食が施されたパイプラインは、絶縁継手で区画された防食区間毎に外部電源方式や流電陽極方式等のカソード防食設備が設置されており、常時、防食電流が防食対象パイプラインに供給されるようになっている。そして、カソード防食状況の管理は、路線点検と施設点検によって行われている。
【0003】
路線点検は、パイプラインルートに沿ってある間隔(例えば原則として250m間隔)で設置されるターミナルボックスにおいて実施され、通常はターミナルボックス内に設置された計測装置によって管対地電位の計測が行われている。また、直流干渉リスク,交流干渉リスクの一方又は両方がある場合には、前述したターミナルボックスにおいてプローブ設置によるプローブ電流密度の計測が行われる。施設点検は、主に外部電源装置の稼働状況の点検であり、装置の故障或いは調整不良のチェック等が行われる。
【0004】
路線点検では、通常、年1〜2回の定期点検が実施されており、その都度、各ターミナルボックスで計測された管対地電位やプローブ電流密度がそれぞれを指標としたカソード防食基準に合格しているか否かの確認がなされている。しかしながら、各ターミナルボックスでの計測値がカソード防食基準に合格していたとしても、路線単位でターミナルボックス毎の管対地電位計測値を比較した場合に、あるターミナルボックスでの計測値がその周辺のターミナルボックスでの計測値に比べて特にプラス側にシフトしているような場合には、そのターミナルボックスの周辺でパイプラインと他の金属埋設物とのメタルタッチの兆候や直流電気鉄道のレール漏れ電流による直流迷走電流腐食の兆候があると判断することができ、これを察知して対策を講じることが必要になる。
【0005】
下記特許文献には、ターミナルボックス毎に計測される管対地電位又はプローブオン電位をパイプラインの路線毎にまとめて、管対地電位又はプローブオン電位の路線分布を求め、特定ターミナルボックスで計測された管対地電位又はプローブオン電位をその両隣のターミナルボックスで計測された計測値と比較してその差を求め、この差が基準値(例えば、50mV)以上である場合に、特定ターミナルボックス周辺にメタルタッチが存在する可能性が高いと判断することが示されている。
【特許文献1】特開2005−15825号公報(第13頁第47行〜第14頁第9行,図10参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
パイプライン毎に所定間隔で設置されるターミナルボックスは、パイプライン埋設位置の周辺状況等(道路事情等)の影響を受けて、必ずしも等間隔で設置されているとは限らない。また、パイプラインの周辺に他金属埋設物が存在してメタルタッチが起こりそうな箇所や周辺に直流電気鉄道が存在する箇所の路線区間では、ターミナルボックス間隔を密に設置することが実際に行われている。
【0007】
このようなターミナルボックスの設置状況下で、ターミナルボックスの設置間隔を考慮に入れず、従来技術のように隣接するターミナルボックスにおける計測値の差だけでメタルタッチ等の可能性を判断しようとすると、その差が小さい場合に基準値との比較で問題なしと判断されることになって、差の絶対値は小さいが急に管対地電位がプラスよりにシフトしている状況を見逃すことになり、メタルタッチの兆候や直流迷走電流腐食の兆候を厳格に把握することができないという問題が生じる。
【0008】
本発明は、このような問題に対処するために提案されたものであって、カソード防食が施されたパイプラインを対象にして、各パイプラインの複数のターミナルボックスで計測された点検計測値を一元管理することで、各パイプラインのカソード防食状況を管理するに際して、より厳格にメタルタッチの兆候や直流迷走電流腐食の兆候等を把握することができるカソード防食管理システム或いはカソード防食管理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、本発明は、以下の特徴を少なくとも具備するものである。
一つには、カソード防食が施されたパイプラインを対象にして、各パイプラインの複数のターミナルボックスで計測された点検計測値に基づいて、各パイプラインのカソード防食状況を管理するパイプラインのカソード防食管理システムであって、ターミナルボックス毎に計測された管対地電位データを、ターミナルボックス毎且つ計測機会毎に記憶するデータ記憶手段と、実位置情報及び路線情報を含むターミナルボックス情報が記憶されたターミナルボックス情報記憶手段と、前記データ記憶手段に記憶された管対地電位データを、前記ターミナルボックス情報記憶手段に記憶されたターミナルボックス情報に基づいて、パイプラインの路線毎且つ計測機会毎に抽出して演算処理する演算処理手段とを備え、前記演算処理手段は、前記ターミナルボックスの実位置情報と前記管対地電位データとに基づいて、抽出された路線毎にパイプラインにおける低接地箇所を特定する低接地箇所特定手段を備えることを特徴とする。
【0010】
また一つには、カソード防食が施されたパイプラインを対象にして、各パイプラインの複数のターミナルボックスで計測された点検計測値に基づいて、各パイプラインのカソード防食状況を管理するパイプラインのカソード防食管理方法であって、ターミナルボックス毎に計測された管対地電位データを、ターミナルボックス毎且つ計測機会毎にデータ記憶手段に記憶する工程と、実位置情報及び路線情報を含むターミナルボックス情報をターミナルボックス情報記憶手段に記憶する工程と、前記データ記憶手段に記憶された管対地電位データを、前記ターミナルボックス情報記憶手段に記憶されたターミナルボックス情報に基づいて、パイプラインの路線毎且つ計測機会毎に抽出して演算処理する工程とを備え、前記演算処理する工程では、前記ターミナルボックスの実位置情報と前記管対地電位データとに基づいて、抽出された路線毎にパイプラインにおける低接地箇所を特定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、このような特徴を有することで、カソード防食が施されたパイプラインを対象にして、各パイプラインの複数のターミナルボックスで計測された点検計測値を一元管理して、各パイプラインのカソード防食状況を管理するに際して、ターミナルボックスの実位置を考慮した上で、ターミナルボックス毎に計測された管対地電位データの路線に沿った変動によってパイプラインの低接地箇所を特定するので、管対地電位データの変動幅は小さいが局所的に管対地電位がプラスよりにシフトしている状況を見逃すことがなくなり、メタルタッチの兆候や直流迷走電流腐食の兆候を厳格に把握することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係るカソード防食管理システムのシステム構成を示した説明図である(同図(a)は全体構成図、同図(b)はターミナルボックスの構成例を示している)。ここでは、外部電源方式によってカソード防食が施されたパイプライン1を対象としており、パイプライン1には、外部電源装置2の外部電極2Aから防食電流が常時供給されている状態になっている。図では、パイプライン1は1路線のみを示しているが、1或いは複数のパイプラインが対象になっている。
【0013】
各パイプライン1には、パイプラインの路線に沿って複数のターミナルボックスTBが設置されており、ターミナルボックスTBでは、図1(b)に示すように、電解質に接触するように設置された照合電極(飽和硫酸銅電極)3と、この照合電極3とパイプライン1とを電圧計4を介して接続する電線5とが設けられており、また、必要に応じて、パイプライン1に近接して設けられたプローブ6と、このプローブ6とパイプライン1とを電流計7を介して接続する電線8とが設けられている。ターミナルボックスTBでは、全てのターミナルボックスTBにおいて電圧計4によって管対地電位の計測が行われており、直流迷走電流腐食リスク等が存在するターミナルボックスTBにおいては、プローブ6を設置して、電流計4によってプローブ電流密度の計測が行われている。
【0014】
そして、本発明の実施形態に係るパイプラインのカソード防食管理システムは、ターミナルボックスTBで計測される点検計測値である管対地電位に基づいて、各パイプライン1のカソード防食状況を管理するためのシステムであって、システム主要部10は、ターミナルボックスTB毎に計測された管対地電位データを、ターミナルボックス毎且つ計測機会毎に記憶するデータ記憶手段11、実位置情報及び路線情報を含むターミナルボックス情報が記憶されたターミナルボックス情報記憶手段12、データ記憶手段11に記憶された管対地電位データを、ターミナルボックス情報記憶手段12に記憶されたターミナルボックス情報に基づいて、パイプライン1の路線毎且つ計測機会毎に抽出して演算処理する演算処理手段13を備え、演算処理手段13は、ターミナルボックスの実位置情報と管対地電位データとに基づいて、抽出された路線毎にパイプライン1における低接地箇所を特定する低接地箇所特定手段14を備える。
【0015】
また、システム主要部10に対して付加的に設けられる構成要素として、ターミナルボックスTBで計測された管対地電位データ、或いは必要に応じて、外部電源装置の出力電流値を演算処理手段13に入力するための入力手段15、演算処理手段の出力結果を出力する出力手段16(プリンタ16A或いはディスプレイ16B)をそれぞれ備えている。
【0016】
このようなシステム主要部10を備えたパイプラインのカソード防食管理システムによると、ターミナルボックスTBの実位置情報とターミナルボックスTBで計測される管対地電位データに基づいて、パイプライン1における低接地箇所を特定するので、密に設置されたターミナルボックスTBを利用して、局所的に管対地電位データがプラス側にシフトしている箇所を見つけることが可能になり、これによって、メタルタッチの兆候や直流迷走電流腐食の兆候を示している低接地箇所を見逃すことなく特定することが可能になる。
【0017】
また、ターミナルボックス情報記憶手段12を備えることで、データ記憶手段11に記憶されたターミナルボックス毎の管対地電位データを、路線単位で一元管理することが可能になる。これによって、多数の路線を一括管理して、メタルタッチの兆候や直流迷走電流腐食の兆候等を速やかに把握することが可能になる。
【0018】
あるパイプラインが他埋設物と近接し、不等沈下が経時的に進行している場合、当該パイプラインと他埋設物とは抵抗を有する電解質(例えば、土壌)を介して接触することになる。さらに不等沈下が進行すると、当該パイプラインと他埋設物とは直接接触することになり、メタルタッチ状態になる。そして、この地点から最も近いターミナルボックスTBにおいては、経時的に他のターミナルボックスTBよりも管対地電位がプラス側の値になり、且つプラス側へのシフト量が増大する。特に、狭いターミナルボックスTB間隔で、両隣のターミナルボックスTBの管対地電位データよりもプラス側にシフトした箇所が見つかった場合には、そのシフト量の絶対値が小さい場合でもメタルタッチの兆候として捉えることが必要になる。本発明の実施形態では、このような僅かな管対地電位データの変化から対策が必要となる低接地箇所を特定することができ、速やかな対応が可能になる。
【0019】
また、実際上、パイプラインの周辺に他金属埋設物が存在してメタルタッチが起こりそうな箇所や周辺に直流電気鉄道が存在する箇所の路線区間では、ターミナルボックス間隔を密に設置することが行われているので、これを有効に活用して、パイプラインのカソード防食状況を繊細に管理することが可能になる。
【0020】
より具体的には、前述した低接地箇所特定手段14の一つの実施形態としては、ターミナルボックスTBの実位置情報から求められたターミナルボックス間の実距離Xと、隣接ターミナルボックスにおける管対地電位データを比較して求めた各ターミナルボックスにおける管対地電位のプラス側シフト量Δ(P/S)とから、パイプライン1における低接地箇所を特定する。
【0021】
すなわち、図2(a)に示すように、パイプラインの基点(例えば、絶縁継手で区画された防食区間の端部)からn+1番目のターミナルボックスTBn+1における管対地電位のプラス側シフト量Δ(P/S)が、n+1番目のターミナルボックスTBn+1における管対地電位(P/S)n+1とn番目のターミナルボックスTBにおける管対地電位(P/S)との差で求められ、これをn番目のターミナルボックスTBとn+1番目のターミナルボックスTBn+1間の実距離Xn+1で除して、Δ(P/S)/Xn+1を求めて、この値が規定値より大きい場合にn+1番目のターミナルボックスTBn+1及びその周辺を低接地箇所と特定する。
【0022】
また、前述した低接地箇所特定手段14の別の実施形態としては、下記(1)式で求めたプラス側シフト勾配Sn+1が高い順に、対応するターミナルボックス及びその周辺をパイプライン1における低接地箇所に特定して、その対策優先順位を設定する。
【数1】

【0023】
すなわち、図2(b)に示すように、隣接する3箇所のターミナルボックスTB,TBn+1,TBn+2から、基点よりn+1番目のターミナルボックスにおける管対地電位のプラス側シフト量Δ(P/S)を求めて、(1)式を計算し、プラス側シフト勾配Sn+1が高い順に、対応するターミナルボックス及びその周辺を前記パイプラインにおける低接地箇所に特定して、その対策優先順位を設定する。
【0024】
これらの実施形態によると、ターミナルボックスTB間隔を考慮して、ターミナルボックスTB,TBn+1,TBn+2が近接している状況であれば、管対地電位のプラス側シフト量自体が僅かであっても、対策が必要となるメタルタッチの兆候或いは直流迷走電流腐食の兆候と判断する。これによって、僅かな管対地電位のプラス側シフト量としか現れない前述した兆候を見逃すことなく、パイプラインの低接地箇所を特定することができる。また、対策の優先順位付けを、プラス側シフト勾配Sを用いて合理的に決めることができる。
【0025】
図3は、本発明の実施形態における低接地箇所特定手段14の出力例を示した説明図である。この例では、低接地箇所特定手段14は、一つのパイプラインの路線且つ一つの計測機会でターミナルボックスTB毎に計測された管対地電位データをターミナルボックスTBの実位置に応じて並べて、パイプラインの延長方向に沿った管対地電位データの路線分布を出力手段16に出力させる。この場合の出力手段16は、プリンタ16Aであってもディスプレイ16Bであってもよい。管対地電位データの路線分布は、図示のように、TB〜TBの位置をTBからの距離に応じて直線上にプロットし、このTB〜TBの位置に応じて各ターミナルボックスTBで計測された管対地電位データを、TB1からの距離(m)を横軸,管対地電位P/S(mVCSE)を縦軸にした折れ線グラフにして出力するものである。ここで、mVCSEは、飽和硫酸銅電極CSEを基準とした単位の単位を表す。
【0026】
このような管対地電位データの路線分布によると、図3に示すように、例えば、A箇所やB箇所のように、管対地電位P/Sが局所的にプラス側にシフトしている箇所を視覚的に特定することができるので、メタルタッチの兆候や直流迷走電流腐食の兆候等を簡易に把握することが可能になる。また、図示の例では、一つの計測機会(例えば1回の定期点検時)の管対地電位データから路線分布を出力しているが、複数の計測機会のデータをこれに重ねて表示することで、路線分布の時系列的な変化を把握することができる。これによると、メタルタッチの兆候や直流迷走電流腐食の兆候の悪化度合いを簡単に把握することができる。
【0027】
図4は、本発明の実施形態において、ターミナルボックスTBの実位置を得るための方法及びシステムの例を示した説明図である。この実施例では、ターミナルボックスTBの実位置は、GPS(Global Positioning System)による緯度・経度で管理している。すなわち、最初の点検時に計測者がGPS受信機20をターミナルボックスTB近傍に持参することで、ターミナルボックスTBの実位置を実測する。GPS受信機20は、GPS衛星21からの衛星信号を受信して位置情報をクライアントコンピュータ22に送信する。そして、クライアントコンピュータ22でGPS受信機20から送られてきた位置情報を演算処理してターミナルボックスTBの実位置(緯度・経度)を求め、この実位置情報がネットワーク23を介してターミナルボックス情報記憶手段12を有するホストコンピュータ24に送られる。
【0028】
なお、ターミナルボックスTBの実位置を得る方法は、図4に示した例に限定されない。他の例としては、ターミナルボックスTBの設計又は施工時に地図情報から設置されるターミナルボックスTBの実位置を求めて、これをターミナルボックス情報記憶手段12に記憶させるようにすることもできる。
【0029】
図5は、ネットワーク(例えば、インターネット)を活用して本発明の実施形態に係るカソード防食管理システムを構築した場合のシステム構成例を示した説明図である。ここでは、前述したシステム主要部10を有するホストコンピュータ(例えば、ウエブサーバ)24とクライアントコンピュータ(例えば、携帯情報端末或いはノート型PC)22が、ネットワーク23に接続されるか、或いはネットワーク23に接続可能な状態になっている。
【0030】
パイプライン1に沿って設置されたターミナルボックスTBには、前述したように、電解質に接触するように設置された照合電極(飽和硫酸銅電極)3と、この照合電極3とパイプライン1とを計測装置32を介して接続する電線5とが設けられており、電線5間に計測装置30を接続した状態で、計測装置30をターミナルボックスTB内に収め、所定の計測期間で管対地電位をモニタして、計測装置30内のメモリに管対地電位データを記憶させる。
【0031】
図6は、前述したホストコンピュータ24とクライアントコンピュータ22の機能例を示した説明図である。同図(a)がホストコンピュータ24の機能を示しており、ホストコンピュータ24は、ネットワーク23を介して送られてきたターミナルボックスTB毎且つ計測機会毎の管対地電位データを受信する受信手段31と、受信手段31で受信した管対地電位データをデータ記憶手段11に入力するデータ入力手段32と、前述した演算処理手段13と、ネットワーク23に接続された他のコンピュータに演算処理手段13の演算処理結果を送信する送信手段33とを備えている。ここで、データ記憶手段11とターミナルボックス情報記憶手段12は、ホストコンピュータ24内の記憶手段によって構成することもできるし、ホストコンピュータ24に接続された外部の記憶手段によって形成することもできる。
【0032】
また、同図(b)がクライアントコンピュータ22の機能を示しており、クライアントコンピュータ22は、各ターミナルボックスTBに設置されてパイプライン1の管対地電位を計測する計測装置30から送られてきた管対地電位データを受信する受信手段34と、受信手段34で受信した管対地電位データをターミナルボックスTB毎且つ計測機会毎にネットワーク23を介してホストコンピュータ24に送信する送信手段35を備える。
【0033】
このような実施形態によると、異なる複数のターミナルボックスTBで計測された管対地電位データをホストコンピュータ24で一元管理することが可能であり、ネットワーク23にクライアントコンピュータ22を接続することで、ホストコンピュータ24での演算処理結果をネットワーク23に接続可能なところであれば、いつでも何処ででも出力させることができる。
【0034】
また、クライアントコンピュータ24を携帯型のコンピュータ(ノート型PC等)にすることで、ターミナルボックスTBの設置現場で、簡易に計測装置30でモニタされた管対地電位データを受信して、ネットワーク23を介してホストコンピュータ24に送信することができる。これによって、現場での管対地電位データの収集が容易になるだけでなく、長い区間長を有するパイプライン1を対象にする場合にも、速やかに全てのターミナルボックスTBで得た計測結果を取りまとめて、管対地電位データの路線毎の路線分布を作成し、メタルタッチの兆候や直流迷走電流腐食の兆候を示す低接地箇所を速やかに特定することができる。
【0035】
図5,図6及び図7を参照しながら、ネットワークを活用したカソード防食管理システムによる点検作業手順及びシステムの動作手順を説明する。(1)先ず、ホストコンピュータ24からネットワーク23を介して計測指示情報が送信される。計測指示情報は、計測を行うターミナルボックスTBの路線情報,計測項目等を含む情報であり、ターミナルボックス情報記憶手段12に記憶されている情報を演算処理手段13が送信手段33に送ることで、この情報を含む計測指示情報の送信が行われる。
【0036】
図7は、ターミナルボックス情報記憶手段12に記憶された情報のデータ構造の一例を示した説明図である。ここでは、各路線とターミナルボックスTB毎の実位置(緯度,経度)とターミナルボックス毎の計測指示情報の組み合わせでデータが構築されている。すなわち、例えば、○○管理会社が管理するA1路線に関しては、TB1〜TB48の各実位置とTB毎の計測指示情報(例えば、電位計測を計測時間15分で年1回行う等)が記憶されており、A2路線に関しては、TB1〜TB50の各実位置とTB毎の計測指示情報が記憶されている。
【0037】
(2)ネットワーク23を介して送られた計測指示情報は、ネットワーク23に接続されたクライアントコンピュータ22に予約登録される。点検作業者はこの予約登録されたクライアントコンピュータ22を持って計測対象のターミナルボックスTBが設置された現場に向かい、現場で、計測装置30に予約登録されたクライアントコンピュータ22を接続して、計測装置30に計測指示情報を送信する。
【0038】
(3)計測指示情報が入力された計測装置30は、計測対象のターミナルボックスTB内に収められ、(4)ターミナルボックスTB内で照合電極3及びパイプライン1に電線5を介して接続され、計測指示情報に沿った計測が実施される。この計測によって管対地電位データが計測装置30にモニタ入力される。
【0039】
(5)計測装置30は計測期間が終了すると回収され、回収された計測装置30はクライアントコンピュータ22に接続される。計測装置30がクライアントコンピュータ22に接続されると、クライアントコンピュータ22の受信手段34が計測装置30にモニタ入力された管対地電位データを受信して、データがクライアントコンピュータ22に入力される。(6)そして、クライアントコンピュータ22をネットワーク23に接続することで、計測された管対地電位データがクライアントコンピュータ22の送信手段35によってネットワーク23を介してホストコンピュータ24に送信される。
【0040】
(7)クライアントコンピュータ22からネットワーク23を介してホストコンピュータ24に送信される情報は、ターミナルボックスTB毎且つ計測機会(所定回の定期点検)毎に区分された管対地電位データであり、その管対地電位データがターミナルボックスTBの実位置情報と路線情報を含むターミナルボックス情報と合わせてホストコンピュータ24に送信される。
【0041】
(8)ホストコンピュータ24では、ネットワーク23を介して送られてきたターミナルボックスTB毎且つ計測機会毎の管対地電位データを受信手段31が受信して、データ入力手段32が受信した管対地電位データをデータ記憶手段11に入力する。特定路線の計測対象区間全てのターミナルボックスTBで計測された管対地電位データが入力された後、演算処理手段13における低接地箇所特定手段14の機能が実行される。
【0042】
低接地箇所特定手段14では、前述したように、一つには、ターミナルボックスTBの実位置情報から求められたターミナルボックス間の実距離Xと、隣接ターミナルボックスにおける管対地電位データを比較して求めた各ターミナルボックスにおける管対地電位のプラス側シフト量Δ(P/S)とから、パイプライン1における低接地箇所を特定する。また一つには、前述したプラス側シフト勾配Sを求めて、このプラス側シフト勾配Sが高い順に対応するターミナルボックスTB及びその周辺を低接地箇所に特定することもできる。更には、パイプラインの延長方向に沿った管対地電位データの路線分布(図3参照)を路線毎に作成することもできる。
【0043】
(9),(10)演算処理手段13の演算処理結果は送信手段33によってネットワークに接続された他のクライアントコンピュータ22に送信される。送信手段33としては、ネットワーク上で閲覧可能なホームページを作成し、そのホームページに前述した低接地箇所特定手段14の処理結果を登録するようにしてもよい。この際には、各クライアントコンピュータ22がネットワークを介してそのホームページにアクセスすることで、各クライアントコンピュータ22に低接地箇所特定手段14の処理結果が送信されることになる。
【0044】
演算処理手段13における低接地箇所特定手段14の実行は、定期点検が終了する度に実行することも可能であるが、パイプライン1に防食管理上の変化が現れた場合にのみ実行することも可能である。例えば、各パイプライン1に設置されている外部電源装置2の出力電流値が常時又は所定時間毎に入力される入力手段15をホストコンピュータ24が備えており、演算処理手段13が、入力手段15に入力された出力電流値を所定時間前に入力された出力電流値と比較し、特定の外部電源装置2の出力電流値が増加傾向にある場合に、当該外部電源装置2が設置されたパイプライン1の路線を抽出して低接地箇所特定手段14を実行する。このようにパイプライン1に防食管理上の変化が現れた場合にのみ低接地箇所特定手段14を実行させることで、防食管理上問題になるメタルタッチの兆候や直流迷走電流腐食の兆候を効率的に把握することが可能になる。
【0045】
以上説明したように、本発明の実施形態によると、カソード防食が施されたパイプラインを対象にして、各パイプラインの複数のターミナルボックスで計測された点検計測値を一元管理して、各パイプラインのカソード防食状況を管理するに際して、より厳格にメタルタッチの兆候や直流迷走電流腐食の兆候等を把握することができる。これによって、特に、複数のパイプラインが錯綜し、他の金属埋設物が多数存在すると共に、直流迷走電流の発生源となる直流電気鉄道が過密に存在する都市部においても、メタルタッチの兆候や直流迷走電流腐食の兆候等を見逃すことなく、より厳格なパイプラインの防食管理を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態に係るカソード防食管理システムのシステム構成を示した説明図である(同図(a)は全体構成図、同図(b)はターミナルボックスの構成例を示している)。
【図2】本発明の実施形態を説明する説明図である。
【図3】本発明の実施形態における低接地箇所特定手段の出力例を示した説明図である。
【図4】本発明の実施形態において、ターミナルボックスの実位置を得るための方法及びシステムの例を示した説明図である。
【図5】ネットワークを活用して本発明の実施形態に係るカソード防食管理システムを構築した場合のシステム構成例を示した説明図である。
【図6】図5のシステム構成例におけるホストコンピュータとクライアントコンピュータの機能例を示した説明図である。
【図7】ターミナルボックス情報記憶手段に記憶された情報のデータ構造を示した説明図である。
【符号の説明】
【0047】
1 パイプライン
2 外部電源装置
2A 外部電極
3 照合電極(飽和硫酸銅電極)
4 電圧計
5,8 電線
6 プローブ
7 電流計
10 システム主要部
11 データ記憶手段
12 ターミナルボックス情報記憶手段
13 演算処理手段
14 低接地箇所特定手段
15 入力手段
16 出力手段
16A プリンタ
16B ディスプレイ
20 GPS受信機
21 GPS衛星
22 クライアントコンピュータ
23 ネットワーク
24 ホストコンピュータ
30 計測装置
31,34 受信手段
32 データ入力手段
33,35 送信手段
TB,TB,TBn+1,TBn+2 ターミナルボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード防食が施されたパイプラインを対象にして、各パイプラインの複数のターミナルボックスで計測された点検計測値に基づいて、各パイプラインのカソード防食状況を管理するパイプラインのカソード防食管理システムであって、
ターミナルボックス毎に計測された管対地電位データを、ターミナルボックス毎且つ計測機会毎に記憶するデータ記憶手段と、
実位置情報及び路線情報を含むターミナルボックス情報が記憶されたターミナルボックス情報記憶手段と、
前記データ記憶手段に記憶された管対地電位データを、前記ターミナルボックス情報記憶手段に記憶されたターミナルボックス情報に基づいて、パイプラインの路線毎且つ計測機会毎に抽出して演算処理する演算処理手段とを備え、
前記演算処理手段は、前記ターミナルボックスの実位置情報と前記管対地電位データとに基づいて、抽出された路線毎にパイプラインにおける低接地箇所を特定する低接地箇所特定手段を備えることを特徴とするパイプラインのカソード防食管理システム。
【請求項2】
前記低接地箇所特定手段は、前記ターミナルボックスの実位置情報から求められたターミナルボックス間の実距離と、隣接ターミナルボックスにおける前記管対地電位データを比較して求めた各ターミナルボックスにおける管対地電位のプラス側シフト量とから、前記パイプラインにおける低接地箇所を特定することを特徴とする請求項1に記載されたパイプラインのカソード防食管理システム。
【請求項3】
前記低接地箇所特定手段は、下記(1)式で求めたプラス側シフト勾配Sが高い順に、対応するターミナルボックス及びその周辺を前記パイプラインにおける低接地箇所に特定して、その対策優先順位を設定することを特徴とする請求項2に記載されたパイプラインのカソード防食管理システム。

n+1=[(P/S)n+1−{(P/S)n+2+(P/S)}/2]
/{(TB)n+2−(TB)} …… (1)
ここで、
n+1:基点よりn+1番目のターミナルボックスにおける管対地電位のプラ
ス側シフト勾配(mV/m)
(P/S):基点よりn番目のターミナルボックスにおける管対地電位データ
(mVCSE
(P/S)n+1:基点よりn+1番目のターミナルボックスにおける管対地電
位データ(mVCSE
(P/S)n+2:基点よりn+2番目のターミナルボックスにおける管対地電
位データ(mVCSE
(TB):基点からn番目のターミナルボックスまでの距離(m)
(TB)n+2:基点からn+2番目のターミナルボックスまでの距離(m)
【請求項4】
前記低接地箇所特定手段は、一つのパイプラインの路線且つ一つの計測機会でターミナルボックス毎に計測された管対地電位データをターミナルボックスの実位置に応じて並べて、パイプラインの延長方向に沿った管対地電位データの路線分布を出力手段に出力させることを特徴とする請求項1に記載されたパイプラインのカソード防食管理システム。
【請求項5】
ネットワークに接続されたホストコンピュータを備え、
該ホストコンピュータが、
ネットワークを介して送られてきたターミナルボックス毎且つ計測機会毎の管対地電位データを受信する受信手段と、
該受信手段で受信した前記管対地電位データを前記データ記憶手段に入力するデータ入力手段と、
前記演算処理手段と、
ネットワークに接続された他のコンピュータに前記演算処理手段の演算処理結果を送信する送信手段とを備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載されたパイプラインのカソード防食管理システム。
【請求項6】
ネットワークに接続可能なクライアントコンピュータを備え、
該クライアントコンピュータが、
各ターミナルボックスに設置されてパイプラインの管対地電位を計測する計測装置から送られてきた管対地電位データを受信する受信手段と、
該受信手段で受信した管対地電位データをターミナルボックス毎且つ計測機会毎にネットワークを介して前記ホストコンピュータに送信する送信手段を備えることを特徴とする請求項5に記載されたパイプラインのカソード防食管理システム。
【請求項7】
各パイプラインに設置されている外部電源装置の出力電流値が常時又は所定時間毎に入力される入力手段を備え、
前記演算処理手段は、該入力手段に入力された出力電流値を所定時間前に入力された出力電流値と比較し、特定の外部電源装置の出力電流値が増加傾向にある場合に、当該外部電源装置が設置されたパイプラインの路線を抽出して前記低接地箇所特定手段を実行することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載されたパイプラインのカソード防食管理システム。
【請求項8】
カソード防食が施されたパイプラインを対象にして、各パイプラインの複数のターミナルボックスで計測された点検計測値に基づいて、各パイプラインのカソード防食状況を管理するパイプラインのカソード防食管理方法であって、
ターミナルボックス毎に計測された管対地電位データを、ターミナルボックス毎且つ計測機会毎にデータ記憶手段に記憶する工程と、
実位置情報及び路線情報を含むターミナルボックス情報をターミナルボックス情報記憶手段に記憶する工程と、
前記データ記憶手段に記憶された管対地電位データを、前記ターミナルボックス情報記憶手段に記憶されたターミナルボックス情報に基づいて、パイプラインの路線毎且つ計測機会毎に抽出して演算処理する工程とを備え、
前記演算処理する工程では、前記ターミナルボックスの実位置情報と前記管対地電位データとに基づいて、抽出された路線毎にパイプラインにおける低接地箇所を特定することを特徴とするパイプラインのカソード防食管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−35795(P2009−35795A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203358(P2007−203358)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】