説明

パクリタキセル誘導体

【課題】本発明は、高い水溶性を示すのみならず、優れた抗がん活性が維持されているパクリタキセル誘導体と、当該パクリタキセル誘導体からなる医薬および当該パクリタキセル誘導体を含む抗がん剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るパクリタキセル誘導体は、下記一般式(I)で表されるものであることを特徴とする。


[式中、Xはリンカー基を示し;Yは、2n-1個のグリセロール誘導体基をXに結合させるための結合基を示し;nは1以上の整数を示す]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パクリタキセル誘導体、当該パクリタキセル誘導体からなる医薬、および当該パクリタキセル誘導体を含む抗がん剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我国における死亡原因として、明治から昭和初期にかけて多かった結核や肺炎などの感染症が第二次世界大戦後に急速に減少し、代わって心疾患や脳血管疾患などの生活習慣病が上位を占めるようになった。さらに、がんは1981年から死因の第1位となり、2007年におけるがんによる死亡者数は33万6468人、人口10万人に対する死亡者数は266.9人であり、総死亡の30.4%を占めている。部位別のがんによる死亡数は、1位:肺、2位:胃、3位:肝臓、4位:結腸、5位:脾臓となっている。
【0003】
これらのうち、肺癌の罹患率と死亡率は、共に40歳代後半から増加し始め、高齢ほど高くなる。また、肺癌の罹患率と死亡率には大きな差がなく、このことは、肺癌患者の生存率が低いことを示している。肺癌は、非小細胞肺癌と小細胞肺癌の2つの型に大きく分類され、非小細胞肺癌は、さらに腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌などに分類される。腺癌は、我国で最も発生頻度が高く、男性の肺癌の40%、女性の肺癌の70%以上を占めている。次に多い扁平上皮癌は、男性の肺癌の40%、女性の肺癌の15%を占めている。大細胞癌は、一般に増殖が速く、肺癌と診断された時には既に進行している場合が多い。これらの非小細胞肺癌に対する化学療法としては、シスプラチンと他の抗がん剤との併用が強く勧められている。シスプラチンと併用して用いられる抗がん剤としては、パクリタキセル、塩酸イリノテカン、ビノレルビン、ゲムシタビン、ドセタキセルなどを挙げることができる。
【0004】
パクリタキセルは微小管重合促進作用を有する代表的な抗がん剤であり、1993年の発売以来、卵巣癌、乳癌、胃癌、子宮体癌、頭頸癌、カポジ肉腫、そして非小細胞肺癌など、様々な腫瘍に対して用いられてきた。
【0005】
しかし、パクリタキセルの欠点としては、水に対して難溶性であることが挙げられる。その結果、製剤化の過程で、可溶化のためにポリオキシエチレンヒマシ油のような界面活性剤やエタノールなどを用いざるを得ないが、これらが過敏症や痛みの発生を引き起こすという問題がある。特にポリオキシエチレンヒマシ油はアナフィラキシーショックを誘発するとの報告もあるため、ステロイド薬であるリン酸デキサメタゾンナトリウムや抗アレルギー薬である塩酸ジフェンヒドラミンなどの併用が指示されている。しかし、これら薬剤による副作用も懸念される。
【0006】
そこで、パクリタキセルの水溶性を向上させるための技術が求められていた。例えば非特許文献1には、親水性であるポリエチレングリコール(PEG)を含む外殻でパクリタキセルをコーティングした高分子ミセル化製剤が開示されている。また、非特許文献2には、ポリビニルアルコール(PVA)によりパクリタキセルを修飾した例が記載されている。
【0007】
しかし、PEGなどの高分子キャリアーを用いたDDS製剤では、抗がん活性や免疫原性が変化すると共に、エンドサイトーシスによるパクリタキセルの細胞への取り込みが制限されるという問題がある。また、PVAなどの高分子でパクリタキセルを修飾すると、活性部位への作用が阻害されて活性が著しく低下したり、PVAの分子量がパクリタキセルの数倍から数十倍に及ぶために同量のパクリタキセルを作用させるには投与量が極端に増大するといった問題がある。
【0008】
ところで本発明者らは、化合物の水溶性を有効に向上させるグリセロール誘導体基を開発している(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2004/029018号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2005/023844号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2008/093655号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Yong Woo Choら,Journal of Controlled Release,97,pp.249-257(2004)
【非特許文献2】Atsufumi KAKINOKIら,Biol.Pharm.Bull.,31(5),pp.963-969(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、パクリタキセルの水溶性を向上させる技術が切望されていた状況下、本発明者らは、パクリタキセルの誘導体を種々合成した。その結果、同じ置換基を導入する場合であっても、その置換位置により水溶性に差が生じるのみならず、抗がん活性自体も相違することが実験的に明らかとなった。
【0012】
そこで本発明が解決すべき課題は、高い水溶性を示すのみならず、優れた抗がん活性が維持されているパクリタキセル誘導体と、当該パクリタキセル誘導体からなる医薬および当該パクリタキセル誘導体を含む抗がん剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、3位のアミノ基にグリセロール誘導体基を導入したパクリタキセル誘導体は、他の誘導体に比べて特に水溶性が高いのみならず、優れた抗がん活性を有することを見出して、本発明を完成した。
【0014】
本発明に係るパクリタキセル誘導体は、下記一般式(I)で表されるものであることを特徴とする。
【0015】
【化1】

【0016】
[式中
Xは、C1-6アルキレン基;アミノ基(−NH−等)、エーテル基(−O−)、チオエーテル基(−S−)、カルボニル基(>C=O)、チオニル基(>C=S)、エステル基(−C(=O)O−または−OC(=O)−)、アミド基(−C(=O)NH−または−NHC(=O)−)、ウレア基(−NHC(=O)NH−)およびチオウレア基(−NHC(=S)NH−)からなる群から選択される1以上の基を内部に含むC2-6アルキレン基;アミノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、チオニル基、エステル基、アミド基、ウレア基およびチオウレア基からなる群から選択される1の基を一方の末端に有するC1-6アルキレン基;または、カルボニル基、チオニル基、エステル基、アミド基、ウレア基およびチオウレア基からなる群から選択される2の基を両末端に有するC1-6アルキレン基を示し;
Yは、2n-1個のグリセロール誘導体基をXに結合させるための結合基を示し;
nは1以上の整数を示す]
【0017】
本発明において、「C1-6アルキレン基」とは、炭素数が1以上、6以下の直鎖状または分枝状の二価炭化水素基をいう。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、メチルプロピレン基、ジメチルプロピレン基、ブチレン基、メチルブチレン基、ジメチルブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基を挙げることができ、好適にはC2-4アルキレン基である。
【0018】
「アミノ基」には、−NH−基の他、−NR−基(Rは、C1-6アルキル基)が含まれるものとする。ここで、「C1-6アルキル基」とは、炭素数が1以上、6以下の直鎖状または分枝状の一価炭化水素基をいう。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基を挙げることができ、C1-4アルキル基が好ましく、C1-2アルキル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0019】
Xは、パクリタキセルの3位のアミノ基と、グリセロール誘導体基を結合させるための基Yを結び付けるリンカー基であり、パクリタキセルへのグリセロール誘導体基の導入を容易にしたり、また、グリセロール誘導体基がパクリタキセルの抗がん活性を害さないため両者の距離を適度に保つという効果を有する。但し、パクリタキセルの3位のアミノ基やYとの関係で、−O−O−など不安定な構造が生じるような場合は範囲に含まれないものとする。なお、アミノ基等を内部に含むC2-6アルキレン基は、少なくとも両末端が炭化水素基であり、その内側に1以上のアミノ基等を有するものをいい、Xがカルボニル基などを含む場合には、その炭素数はアルキレン基の炭素数には含まれないものとする。
【0020】
Yは、2n-1個のグリセロール誘導体基をリンカー基Xに結合させるための結合基である。より具体的には、nが1、即ち導入されるべきグリセロール誘導体基が1つのみである場合、Yは単結合でよい。
【0021】
nが2以上の場合には、Yは、リンカー基Xと複数のグリセロール誘導体基とを結合させなければならない。この場合、Yは、複数のグリセロール誘導体基を2個ずつ下記構造(II)により結合し、さらに複数の下記構造を2個ずつ同構造により結合する直列的な分岐構造を有することが好ましい。
【0022】
【化2】

[式中、Y1は、単結合、C1-6アルキレン基、アミノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、エステル基またはアミド基を示し;Y2は−CH<または−N<を示し;Y3およびY4は、互いに独立して、単結合、C1-6アルキレン基、アミノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、エステル基またはアミド基を示す]
【0023】
Yが、複数の構造(II)が結合した末広がりの分岐構造を有する場合には、本発明のパクリタキセル誘導体は、2以上のグリセロール誘導体基を有することから高い水溶性を有しながらもパクリタキセル由来の部分はグリセロール誘導体基により被覆されないため、活性は少なくとも保持される。ここでの分岐構造とは、例えば上記構造(II)が枝分かれ状に連なったデンドリマー型の下記構造をいう。
【0024】
【化3】

【0025】
具体的な構造(II)としては、下記構造を例示することができる。
【0026】
【化4】

【0027】
Y中に複数の構造(II)が含まれる場合、構造(II)は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。但し、合成のし易さから、複数の構造(II)は互いに同一であることが好ましい。
【0028】
例えば、nが3、即ちグリセロール誘導体基の数が4である場合、Yの構造としては以下のものが挙げられる。
【0029】
【化5】

【0030】
nとしては、2以上、5以下が好ましい。nが2以上の場合、即ちグリセロール誘導体基の数が2以上である場合、パクリタキセル誘導体の水溶性は十分に高まる。一方、nが大き過ぎる、即ちグリセロール誘導体基の数が多過ぎるとパクリタキセル誘導体の分子量や全体の構造が大きくなり過ぎ、抗がん活性などに悪影響が出るおそれがあり得るので、5以下が好ましい。nとしては、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。
【0031】
上記パクリタキセル誘導体において、Xとしては、カルボニル基、チオニル基、エステル基、アミド基、ウレア基およびチオウレア基からなる群から選択される2の基を両末端に有するC2-4アルキレン基が;Yとしては、上記構造(II)または複数の構造(II)が結合した末広がりの分岐構造が;nとしては2または3が好適である。かかるパクリタキセル誘導体の優れた水溶性や抗がん活性は、後述する実施例で実験的に証明されている。
【0032】
本発明に係る医薬は、上記パクリタキセル誘導体からなることを特徴とする。また、本発明に係る抗がん剤は、上記パクリタキセル誘導体を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係るパクリタキセル誘導体は、優れた水溶性を示すことから、水に対する溶解性が低いパクリタキセルに比べ、水を溶媒として用いる製剤化が可能であり、より安全な製剤を調製することができる。また、本発明に係るパクリタキセル誘導体に導入されているグリセロール誘導体基は、比較的低分子量で多数の水酸基を有するため、パクリタキセルの抗がん活性に悪影響を与えることなく水溶性を高めることができる。さらに、本発明のパクリタキセル誘導体は、本発明者らによる実験的知見によれば、他の誘導体に比べてin vitroでの抗がん活性は弱いものの、in vivoでの抗がん活性が顕著に優れるものである。従って、本発明に係るパクリタキセル誘導体は、医薬、さらには抗がん剤の有効成分として、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明に係るパクリタキセル誘導体と、パクリタキセルおよびその他のパクリタキセル誘導体とで、水に対する溶解性を比較するためのグラフである。
【図2】図2は、本発明に係るパクリタキセル誘導体と、パクリタキセルおよびその他のパクリタキセル誘導体とで、1−オクタノールに対する溶解性を比較するためのグラフである。
【図3】図3は、本発明に係るパクリタキセル誘導体と、パクリタキセルおよびその他のパクリタキセル誘導体とで、抗がん活性を比較するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明に係るパクリタキセル誘導体は、例えば、下記スキームにより合成することができる。
【0036】
【化6】

【0037】
原料化合物(III)は公知化合物であり、国際公開第96/23780号パンフレットに記載の方法に従って製造することができる。
【0038】
原料化合物(IV)のZは、Xのうち原料化合物(III)のアミノ基に結合する方の端部を結合させるための基である。例えば、Xのうち原料化合物(III)のアミノ基に結合する方の端部がアルキル基である場合、Zはハロゲン基とすることができる。また、Xのうち原料化合物(III)のアミノ基に結合する方の端部がカルボニル基である場合、当該カルボニル基とZ、即ち−C(=O)−Zは、コハク酸イミド、フタル酸イミド、N−ヒドロキシスクシンイミド、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミドなどの活性イミド;p−ニトロフェニルエステルなどの活性エステル;酸クロライドなどの酸ハライドとすることができる。
【0039】
原料化合物(IV)は、例えば、本発明者らによる学術論文(NEMOTO Hら,Synlett,pp.2091-2095(2007))に記載の方法または当該方法に準じた方法により、グリセロール誘導体基における2つの水酸基が1,3−ジオキサンとして保護されており、複数の当該グリセロール基がYにより結合されている化合物を合成し、常法によりXを結合させた後、脱保護することにより合成できる。
【0040】
原料化合物(III)と原料化合物(IV)との反応条件は、主にZに応じて適宜決定すればよい。例えば、−C(=O)−Z基が活性イミド基である場合には、溶媒中、原料化合物(III)と原料化合物(IV)とを反応させるのみでパクリタキセル誘導体(I)が得られる。
【0041】
本反応で用い得る溶媒は、原料化合物(III)と原料化合物(IV)を適度に溶解でき、且つ反応を阻害しないものであれば特に制限されないが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル溶媒;メタノールやエタノールなどのアルコール溶媒;ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒;塩化メチレンやクロロホルムなどのハロゲン化炭化水素溶媒などを挙げることができる。
【0042】
その他、アミド結合形成反応によく用いられ、ラセミ化を抑制する1−ヒドロキシベンゾトリアゾールなどの添加剤を用いてもよい。
【0043】
反応は、アルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。
【0044】
反応温度や反応時間は、適宜設定すればよい。例えば、10℃以上、50℃以下で、10時間以上、60時間以下程度とすることができる。具体的な反応時間は、予備実験で決定したり、或いはTLCなどで原料化合物の消費が確認できるまでとすることができる。
【0045】
反応後は、一般的な後処理を行うことができる。例えば、反応混合液に、酢酸エチルやクロロホルムなど水と混和しない有機溶媒と、不純物などを水相に移動させることができる硫酸銅水溶液を加えて分液し、得られた有機相を洗浄し、乾燥する。溶媒を減圧留去して得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどで精製することにより、パクリタキセル誘導体(I)を得ることができる。
【0046】
本発明に係るパクリタキセル誘導体は、パクリタキセルと同様の抗がん活性を示す上に、生体に対する毒性はパクリタキセルよりも弱い。従って、本発明のパクリタキセル誘導体は、抗がん剤として用いることができる。
【0047】
治療対象となるがんとしては、非小細胞肺癌などの肺癌、卵巣癌、乳癌、胃癌、子宮体癌、頭頸部癌、カポジ肉腫を挙げることができる。
【0048】
本発明の抗がん剤の剤形は特に制限されず、例えば、注射剤、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤とすることができる。各製剤の調製は、それぞれに応じた常法により行えばよい。なお、本発明に係るパクリタキセル誘導体は水に溶解することができるので、緩衝液などの水溶液や水自体を溶媒として使うことができるため、製剤調製はより安全で簡便である。また、有機溶媒や界面活性剤を用いる必要が無いかその使用量を低減できるため、製剤自体も安全である。
【0049】
本発明に係るパクリタキセル誘導体の投与量は、疾患の重篤度、患者の性別や年齢、剤形や投与方法などにより適宜調整することができるが、通常、成人に対して1回当たり100mg以上、1000mg以下程度投与すればよい。また、投与回数も同様に調整すればよいが、通常、1日当たり1回以上、3回以下とすることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0051】
実施例1−1: 4−(1,3−ビス(2−フェニル−1,3−ジオキサン−5−イルオキシ)プロパン−2−イルオキシ)−4−オキソブタン酸(1)の合成
【0052】
【化7】

【0053】
グリセロール誘導体(2)(Nemoto,Hら,Synlett,2007,pp.2091-2095)(1.23g,2.95mmol)を塩化メチレン(10mL)に溶かし、さらにジメチルアミノピリジン(0.04g,0.29mmol)、トリエチルアミン(0.84mL,5.99mmol)および無水コハク酸(0.33g,3.29mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、室温で撹拌した。16時間後、TLCでグリセロール誘導体(2)の消失を確認後、硫酸銅水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。抽出液を食塩水で洗浄後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾別後、溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル)で精製して、単離収率84%で白色固体の目的化合物(1)(1.27g)を得た。
【0054】
FT-IR(neat):2863,1735,1453,1392,1344,1238,1215,1155,1091,1009,982,915,759,700 cm-1
1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ=7.52-7.47(m,4H),7.39-7.31(m,6H),5.53(s,2H),5.23(quintet,J=5.0Hz,1H),4.39-4.32(m,4H),4.04-3.98(m,4H),3.86-3.74(m,4H),3.33(quintet,J=1.5Hz,2H),2.68-2.63(m,2H),2.59-2.54(m,2H);
13C-NMR(CDCl3,75MHz):δ=176.7(C),171.7(C),138.0(C×2),128.8(CH×2),128.1(CH×4),126.0(CH×4),101.0(CH×2),71.8(CH),70.9(CH×2),68.8(CH2×2),68.4(CH2×2),66.4(CH2×2),29.0(CH2),28.6(CH2);
HRMS(ESI-TOF) m/z calcd for C27H32O10Na [M+Na]+ 539.1893,found 539.1901
【0055】
実施例1−2: 1,3−ビス(2−フェニル−1,3−ジオキサン−5−イルオキシ)プロパン−2−イル 2,5−ジオキソピロリジン−1−イル サクシネート(3)の合成
【0056】
【化8】

【0057】
上記実施例1−1で得たブタン酸化合物(1)(0.10g,0.20mmol)を塩化メチレン(2mL)に溶かし、N−ヒドロキシコハク酸イミド(0.047g,0.40mmol)と1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(0.077g,0.40mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、室温で撹拌した。16時間後、TLCでブタン酸化合物(1)の消失を確認後、硫酸銅水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。抽出液を食塩水で洗浄後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾別後、溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン=2/1)で精製して、単離収率72%で無色非晶質の目的化合物(3)(0.089g,0.14mmol)を得た。
【0058】
FT-IR(neat):2860,1815,1784,1740,1454,1390,1239,1206,1153,1091,1011,915,845,800,732,701,648 cm-1
1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ=7.52-7.46(m,4H),7.39-7.31(m,6H),5.48(s,2H),5.25(quintet,J=5.2Hz,1H),4.35-4.26(m,4H),4.00-3.94(m,4H),3.86-3.76(m,4H),3.36(quintet,J=1.5Hz,2H),2.91(t,J=6.8Hz,2H),2.80(s,2H),2.76(t,J=6.6Hz,2H);
13C-NMR(CDCl3,75MHz):δ=170.5(C),168.9(C×2),167.7(C),138.1(C×2),128.8(CH×2),128.1(CH×4),126.0(CH×4),100.9(CH×2),72.0(CH),70.8(CH×2),68.8(CH2×2),68.3(CH2×2),66.3(CH2×2),28.5(CH2),25.9(CH2),25.2(CH2×2);
HRMS(ESI-TOF)m/z calcd for C31H35NO12Na [M+Na]+636.2057,found 636.2040
【0059】
実施例1−3: 1,3−ビス(1,3−ジヒドロキシプロパン−2−イルオキシ)プロパン−2−イル 2,5−ジオキソピロリジン−1−イル スクシネート(4)の合成
【0060】
【化9】

【0061】
上記実施例1−2の化合物(3)(0.040g,0.065mmol)をエタノール(2mL)に溶かし、水酸化パラジウム(0.010g,7.1μmol)を加え、水素雰囲気下、室温で撹拌した。7時間後、TLCで化合物(3)と中間体の消失を確認後、パラジウムを濾別してオイル状の目的化合物(4)(0.019g)を得た。シリカゲルカラム精製をしないまま、次の反応に用いた。
【0062】
実施例1−4
【0063】
【化10】

【0064】
パクリタキセルの脱N−ベンゾイル誘導体(既知化合物)(0.014g,0.018mmol)をテトラヒドロフラン(0.3mL)に溶かし、上記実施例1−3のグリセロール誘導体(4)(0.012g,0.027mmol)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(0.0006g,0.0036mmol)およびジメチルアニリン(0.0023mL,0.018mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、室温で撹拌した。48時間後、TLCでグリセロール誘導体(4)の消失を確認後、硫酸銅水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。抽出液を炭酸水素ナトリウム水溶液と食塩水で洗浄後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾別後、溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:メタノール/クロロホルム=1/8)で精製して、単離収率73%で白色固体の本発明に係るパクリタキセル誘導体を得た。
【0065】
FT-IR(neat):3385,2926,2348,2251,1723,1662,1539,1452,1373,1243,1177,1110,1071,1026,979,909,854,776,731,647 cm-1
1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ=8.11(d,J=7.7Hz,2H),7.67(t,J=7.4Hz,1H),7.57(t,J=7.6Hz,2H),7.46-7.37(m,4H),7.28(t,J=6.8Hz,1H),6.47(s,1H),6.16(t,J=8.9Hz,1H),5.66(d,J=7.1Hz,1H),5.45(d,J=4.1Hz,1H),5.06(t,J=4.9Hz,1H),4.99(d,J=9.4Hz,1H),4.59(q,J=4.4Hz,1H),4.32(dd,J=10.6,6.8Hz,1H),4.19(s,2H),3.82(d,J=7.0Hz,1H),3.78-3.47(m,13H),3.31(s,4H),2.61(t,J=14.0Hz,4H),2.51-2.42(m,1H),2.34(s,3H),2.25(dd,J=15.4,9.4Hz,1H),2.18(s,3H),2.04(dd,J=15.4,9.4Hz,1H),1.93(s,3H),1.85-1.76(m,1H),1.66(s,3H),1.19(s,4H),1.17(s,3H);
13C-NMR(CDCl3,75MHz):δ=205.4(C),174.6(C),174.3(C),174.2(C),172.1(C),171.5(C),167.8(C),142.3(C),140.2(C),135.0(C),134.8(CH),131.5(C),131.3(CH×2),129.9(CH×2),129.8(CH×2),129.0(CH),128.6(CH×2),85.9(CH),83.2(CH×2),82.4(C),79.1(C),77.5(CH2) 76.9(CH),76.3(CH),74.9(CH),73.9(CH),72.5(CH),72.4(CH),69.6(CH2×2),62.5(CH2×4),59.3(C),57.0(CH),47.9(CH),44.6(C),37.5(CH2),36.6(CH2),31.3(CH2),30.5(CH2),27.0(CH3),23.2(CH3),22.3(CH3),20.8(CH3),14.7(CH3),10.4(CH3);
HRMS(ESI-TOF)m/z calcd for C53H69NO22Na [M+Na]+ 1094.4209,found 1094.4219
【0066】
比較例1−1
【0067】
【化11】

【0068】
パクリタキセル(0.070g,0.082mmol)を塩化メチレン(1mL)に溶かし、上記実施例1−1で得たブタン酸化合物(1)(0.051g,0.098mmol)、ジメチルアミノピリジン(0.012g,0.098mmol)および1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(0.019g,0.098mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、室温で撹拌した。TLCでパクリタキセルの消失を確認後、硫酸銅水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。抽出液を食塩水で洗浄後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾別後、溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=1/2)で精製して、定量的に白色固体の目的化合物(5)(0.102g,0.075mmol)を収率92%で得た。
【0069】
FT-IR(neat):3502,3065,2975,2250,1732,1660,1603,1580,1522,1488,1453,1372,1240,1153,1093,1016,948,912,846,799,731,648 cm-1
1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ=8.15(d,J=7.4Hz,2H),7.81(d,J=7.4Hz,2H),7.63(t,J=7.2Hz,1H),7.56-7.31(dd,J=9.6,5.9Hz,20H),7.17(q,J=9.1Hz,1H),6.31(s,1H),6.23(t,J=8.8Hz,1H),5.98(dd,J=9.0,3.2Hz,1H),5.69(d,J=7.0Hz,1H),5.51(s,1H),5.48(s,2H),5.15(quintet,J=4.9Hz,1H),4.97(d,J=8.7Hz,1H),4.45(m,1H),4.35-4.19(m,6H),4.00-3.86(m,5H),3.85-3.68(m,6H),3.32(s,1H),3.27(s,1H),2.73(m,2H),2.65(m,2H),2.56(m,1H),2.45(s,3H),2.34(dd,J=15.3,9.3Hz,1H),2.22(s,3H),2.19-2.11(m,1H),1.94(s,3H),1.91(m,1H),1.69(s,3H),1.24(s,3H),1.14(s,3H);
13C-NMR(CDCl3,75MHz):δ=203.6(C),171.6(C),171.0(C),170.9(C),169.7(C),167.8(C),167.0(C),166.8(C),142.6(C),138.0(C),137.9(C),136.8(C),133.5(CH),133.4(C),132.6(C),131.8(CH),130.1(CH×2),129.0(C),128.9(CH×2),128.7(CH×2),128.6(CH),128.5(CH×2),128.3(CH),128.0(CH×5),127.1(CH×2),126.5(CH×2),125.9(CH×4),100.9(CH×2),84.3(CH),80.8(C),78.9(C),76.2(CH2),75.4(CH),74.9(CH),74.2(CH),71.9(CH×2),71.6(CH),71.0(CH),70.8(CH),68.9(CH2),68.8(CH2),68.4(CH2),68.3(CH2),66.3(CH2),66.1(CH2),58.3(C),52.7(CH),45.4(CH),43.0(C),35.4(CH2×2),29.1(CH2),28.9(CH2),26.6(CH3),22.5(CH3),22.0(CH3),20.7(CH3),14.6(CH3),9.4(CH3);
HRMS(ESI-TOF)m/z calcd for C74H81NO23Na [M+Na]+1374.5097,found 1374.5150
【0070】
比較例1−2
【0071】
【化12】

【0072】
上記比較例1−1で得た化合物(5)(0.10g,0.075mmol)をメタノール(1mL)に溶かし、水酸化パラジウム(0.020g,0.014mmol)を加えて水素雰囲気下、室温で撹拌した。15時間後、TLCで化合物(3)と中間体の消失を確認後、パラジウムを濾別した。溶媒を除去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:メタノール/クロロホルム=1/9)で精製し、目的化合物を収率82%で得た。
【0073】
FT-IR(neat):3447,2937,1734,1647,1540,1490,1373,1243,1153,1070,909,731 cm-1
1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ=8.16(d,J=8.6Hz,2H),7.80(d,J=7.4Hz,2H),7.61(t,J=7.4Hz,1H),7.54-7.49(m,J=9.6,5.9Hz,3H),7.45-7.38(m,J=3.0Hz,6H),7.37-7.32(m,1H),6.32(s,1H),6.21(t,J=8.9Hz,1H),5.96(dd,J=9.2,3.4Hz,1H),5.69(d,J=6.6Hz,1H),5.49(d,J=3.6Hz,1H),5.04(quint,J=5.2Hz,1H),4.97(dd,J=9.6,1.5Hz,1H),4.43-4.41(m,1H),4.31(d,J=8.4Hz,1H),4.21(d,J=8.6Hz,1H),3.81-3.56(m,14H),3.49-3.41(m,2H),2.86-2.61(m,6H),2.57-2.50(m,1H),2.45(s,3H),2.35(dd,J=15.5,9.4Hz,1H),2.23(s,3H),2.17-2.11(m,1H),1.93(s,3H),1.91-1.89(m,1H),1.69(s,3H),1.26(s,1H),1.23(s,4H),1.15(s,3H);.
13C-NMR(CDCl3,75 MHz):δ=203(C),171.6(C),171.4(C),171.0(C),169.9(C),168.1(C),167.3(C),166.7(C),142.0(C),136.7(C),133.5(C),132.8(C),131.8(CH),130.1(CH×2),129.1(C),128.9(CH×2),128.6(CH×2),128.5(CH×3),128.4(CH),127.2(CH×2),126.6(CH×2),84.3(CH),81.0(CH×2,C),78.8(C),76.3(CH2),75.5(CH),74.8(CH),74.4(CH),72.1(CH),71.9(CH),71.6(CH),67.8(CH2),67.7(CH2),61.9(CH2),61.8(CH2×2),61.7(CH2),58.2(C),52.8(CH),45.7(CH),43.1(C),35.7(CH2),35.3(CH2),29.1(CH2),28.8(CH2),26.5(CH3),22.5(CH3),21.9(CH3),20.8(CH3),14.6(CH3),9.6(CH3);
HRMS(ESI-TOF)m/z calcd for C60H73NO23Na [M+Na] + 1198.4471,found 1198.4474
【0074】
比較例2−1
【0075】
【化13】

【0076】
パクリタキセルのシリルエーテル誘導体(既知化合物;Pharmaceutical Research,2008,25,pp.194-206)(0.054g,0.055mmol)を塩化メチレン(2mL)に溶かし、上記実施例1−1で得たブタン酸化合物(1)(0.043g,0.083mmol)、ジメチルアミノピリジニウムパラトルエンスルホン酸塩(0.033g,0.11mmol)およびジイソプロピルカルボジイミド(0.035mL,0.22mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、室温で撹拌した。TLCでパクリタキセル誘導体の消失を確認後、硫酸銅水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。抽出液を炭酸水素ナトリウム水溶液と食塩水で洗浄後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾別後、溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=1/1)で精製して、単離収率81%で白色固体の目的化合物(6)(0.076g,0.051mmol)を収率93%で得た。
【0077】
FT-IR(neat):3440,2930,1735,1662,1484,1452,1372,1240,1154,1094,1018,982,838,757,699 cm-1
1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ=8.14(d,J=7.2Hz,2H),7.75(d,J=7.4Hz,2H),7.62(t,J=7.4Hz,1H),7.55-7.30(m,20H),7.09(d,J=8.9Hz,1H),6.29-6.21(m,2H),5.77-5.69(m,2H),5.61(dd,J=10.6,7.1Hz,1H),5.49(s,2H),5.21(quintet,J=5.0Hz,1H),4.97(d,J=9.0Hz,1H),4.67(d,J=2.0,1H),4.35-4.28(m,5H),4.21(d,J=8.5Hz,1H),3.99-3.95(m,5H),3.84-3.77(m,4H),3.40-3.36(m,2H),2.77-2.55(m,8H),2.46-2.37(m,1H),2.20-2.11(m,4H),1.97(s,3H),1.90-1.85(m,1H),1.81(s,3H),1.20(s,3H),1.16(s,3H);
13C-NMR(CDCl3,75MHz):δ=201.9(C),172.1(C),171. 4(C×2),169.8(C),169.0(C),167.0(C),166.8(C),140.5(C),138.1(C×3),134.0(C),133.6(CH),132.6(CH),131.7(CH),130.1(CH×2),129.0(C),128.7(CH×2),128.6(CH×4),128.0(CH×5),127.9(CH),126.9(CH×2),126.3(CH×2),126.0(CH×5),100.9(CH×2) 83.8(CH),80.8(C),78.4(C),76.1(CH2),75.0(CH),74.9(CH),74.3(CH),71.7(CH),71.3(CH),71.1(CH),70.9(CH),70.8(CH),68.9(CH2×2),68.4(CH2),68.3(CH2),66.3(CH2×2),55.7(C),55.4(CH),46.6(CH),43.1(C),35.3(CH2),33.0(CH2),28.8(CH2),28.7(CH2),26.1(CH3),25.2(CH3×3),22.7(CH3),21.1(CH3),20.4(CH3),17.8(C),14.3(CH3),10.6(CH3),-5.53(CH3),-6.16(CH3);
HRMS(ESI-TOF)m/z calcd for C80H95NO23SiNa([M+Na]+):1488.5962. found: 1488.5955
【0078】
比較例2−2
【0079】
【化14】

【0080】
上記比較例2−1で得た化合物(6)(0.076g,0.051mmol)をテトラヒドロフラン(1mL)に溶かし、フッ化水素ピリジン(0.5mL)とピリジン(1.5mL)を加え、アルゴン雰囲気下、室温で撹拌した。TLCで化合物(6)の消失を確認後、硫酸銅水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。抽出液を食塩水で洗浄後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾別後、溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=1/3)で精製して、白色固体の目的化合物(7)(0.066g,0.049mmol)を収率95%で得た。
【0081】
FT-IR(neat):3438,3014,1733,1652,1602,1581,1486,1452,1238,845,755,667 cm-1
1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ=8.12(d,J=7.4Hz,2H),7.76(d,J=7.4Hz,2H),7.63(t,J=7.2Hz,1H),7.53-7.31(m,20H),7.07(d,J=8.9Hz,1H),6.20-6.13(m,2H),5.80(dd,J=9.0,3.2Hz,1H),5.67(d,J=6.9Hz,1H),5.56(dd,J=10.4,7.3Hz,1H),5.50(s,1H),5.49(s,1H),5.19(quintet,J=5.0Hz,1H),4.92(d,J=9.0Hz,1H),4.79(dd,J=4.7,2.5Hz,1H),4.35-4.26(m,6H),4.18(d,J=8.5Hz,1H),4.00-3.93(m,4H),3.91(d,J=6.8Hz,1H),3.85-3.76(m,4H),3.62(d,J=4.8Hz,1H),3.41-3.36(m,2H),2.74-2.53(m,5H),2.37(s,3H),2.32(dd,J=8.9,3.3Hz,1H),2.15(s,3H),1.86-1.78(m,7H),1.20(s,3H),1.16(s,3H);
13C-NMR(CDCl3,75 MHz):δ=201.8(C),172.4(C),172.2(C),171.4(C),170.3(C),169.0(C),167.1(C),166.8(C),140.3(C),138.1(C×2),138.0(C),133.7(CH),133.6(C),132.8(C),131.8(CH),130.1(CH×2),129.0(C),128.8(CH×2),128.7(CH×2),128.6(CH×3),128.1(CH×5),127.0(CH×4),126.0(CH×5),100.9(CH×2) 83.7(CH),80.8(C),78.2(C),76.2(CH2),75.1(CH),74.1(CH),73.0(CH),71.8(CH),71.7(CH),71.4(CH),70.9(CH×2),68.9(CH2×2),68.4(CH2×2),66.3(CH2×2),55.9(C),54.7(CH),46.7(CH),43.0(C),35.3(CH2),33.0(CH2),28.8(CH2×2) 26.2(CH3),22.3(CH3),20.6(CH3),20.5(CH3),14.3(CH3),10.5(CH3);
HRMS(ESI-TOF)m/z calcd for C74H81NO23Na [M+Na]+1374.5097,found 1374.5088
【0082】
比較例2−3
【0083】
【化15】

【0084】
上記比較例2−2で得た化合物(7)(0.21g,0.15mmol)をメタノール(2mL)に溶かし、水酸化パラジウム(0.010g,0.071mmol)を加えて水素雰囲気下、室温で撹拌した。7時間後、TLCで化合物(7)と中間体の消失を確認後、パラジウムを濾別した。溶媒を除去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:クロロホルム/メタノール=8/1)で精製して白色固体の目的化合物(0.16g,0.13mmol)を単離収率88%で得た。
【0085】
FT-IR(neat):3420,2942,2250,1734,1647,1603,1579,1522,1487,1452,1372,1240,1158,1108,1067,979,913,846,729 cm-1
1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ=8.11(d,J=7.3Hz,2H),7.79-7.76(m,2H),7.62(t,J=7.4Hz,1H),7.53-7.46(m,5H),7.43-7.30(m,5H),6.19-6.13(m,2H),5.78(dd,J=8.7,2.3Hz,1H),5.66(d,J=6.9Hz,1H),5.56(dd,J=10.4,7.2Hz,1H),5.11(quint,J=4.8Hz,1H),4.94(d,J=9.0Hz,1H),4.80(dd,J=5.3,2.7Hz,1H),4.31(d,J=8.5Hz,1H),4.18(d,J=8.5Hz,1H),4.10(d,J=1.2Hz,1H),3.88(d,J=6.8Hz,1H),3.84-3.60(m,12H),3.53-3.46(m,2H),3.03-2.77(m,3H) 2.73-2.52(m,5H),2.37(s,3H),2.31(d,J=9.0Hz,2H),2.16(s,3H),1.87-1.78(m,9H),1.20(s,3H),1.15(s,3H);
13C-NMR(CDCl3,75MHz):δ=201.7(C),172.5(C×2),172.3(C),171.7(C),170.5(C),169.1(C),167.4(C),166.5(C),140.5(C),138.0(C),133.6(C,CH),132.5(C),131.7(CH),130.0(CH×2),128.9(C),128.7(CH×3),128.6(CH),128.5(CH×2),127.9(CH),127.0(CH×2),126.9(CH×2),83.7(CH),81.0(CH×2),80.8(C),78.2(C),76.2(CH2),75.2(CH),74.1(CH),72.9(CH),71.8(CH),71.6(CH),71.5(CH),67.9(CH2×2),61.7(CH2),61.6(CH2×2),61.5(CH2),55.8(C),55.0(CH),46.9(CH),43.0(C),35.3(CH2),33.0(CH2),28.9(CH2×2),26.3(CH3),22.4(CH3),20.7(CH3),20.6(CH3),14.3(CH3),10.7(CH3);
HRMS(ESI-TOF) m/z calcd for C60H73NO23Na [M+Na]+ 1198.4471,found 1198.4467
【0086】
実施例2−1: 5,5’−(2−アジドプロパン−1,3−ジイル)ビス(オキシ)ビス(2−フェニル−1,3−ジオキサン)(8)の合成
【0087】
【化16】

【0088】
グリセロール誘導体(2)(Nemoto,Hら,Synlett,2007,pp.2091-2095)(1.0g,2.4mmol)をピリジン(6mL)に溶かし、トシル塩化物(0.69g,3.6mmol)とジメチルアミノピリジン(0.029g,0.24mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、室温で撹拌した。12時間後、TLCでグリセロール誘導体(2)の消失を確認後、硫酸銅水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。抽出液を炭酸水素ナトリウム水溶液および食塩水で洗浄後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾別後、溶媒を除去してオイルを得た。得られたオイルは、さらなる精製をしないまま、次の反応に用いた。
【0089】
上記オイルをN,N−ジメチルホルムアミド(20mL)に溶かし、アジ化ナトリウム(0.46g,7.2mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、100℃で撹拌した。2時間後、TLCで原料の消失を確認後、炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。抽出液を食塩水で洗浄後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾別後、溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=1/1)で精製して、単離収率84%で目的化合物(8)(0.89g,2.0mmol)を得た。
【0090】
FT-IR(neat):2099,1154,1092,1010,699 cm-1
1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ=7.52-7.47(m,4H),7.39-7.31(m,6H),5.52(s,2H),4.38-4.31(m,4H),4.04-3.98(m,4H),3.85-3.75(m,5H),5.15(quintet,J=1.6Hz,2H);
13C-NMR(CDCl3,75MHz):δ=138.0(C×2),128.7(CH×2),128.0(CH×4),125.9(CH×4),100.9(CH×2),71.1(CH×2),68.5(CH2×2),68.3(CH2×2),67.5(CH2×2),60.0(CH);
HRMS(ESI-TOF)m/z calcd for C23H27N3O6Na [M+Na]+ 464.1798,found 464.1797
【0091】
実施例2−2: 2,5−ジオキソピロリジン−1−イル 5−(1,3−ビス(2−フェニル−1,3−ジオキサン−5−イルオキシ)プロパン−2−イルアミノ)−5−オキソペンタノエート(9)の合成
【0092】
【化17】

【0093】
上記実施例2−1で得たアジド化合物(8)(1.0g,2.3mmol)をテトラヒドロフラン(20mL)に溶かし、水素化リチウムアルミニウム(0.27g,7.0mmol)を加えて撹拌した。TLCで原料の消失を確認後、酢酸エチルと水を加えて試薬を不活性化させた後に濾過した。濾液を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を除去した。
【0094】
残渣(1.14g)を塩化メチレン(15mL)に溶かし、トリエチルアミン(0.65mL,4.7mmol)とグルタル酸無水物(0.32g,2.8mmol)を加えて室温で撹拌した。TLCで原料の消失を確認後、硫酸銅水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。抽出液を食塩水で洗浄後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾別後、溶媒を除去した。
【0095】
残渣(1.31g)を塩化メチレン(15mL)に溶かし、N−ヒドロキシコハク酸イミド(0.54g,4.7mmol)と1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(0.89g,4.7mmol)を加えて40℃で撹拌した。TLCで原料の消失を確認後、塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。抽出液を食塩水で洗浄後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾別後、溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=1/3)で精製して、単離収率69%で白色非晶質の目的化合物(9)(1.0g,1.6mmol)を得た。
【0096】
FT-IR(neat):2866,1783,1738,1661,1530,1454,1388,1209,1154,1091,1010,755,701cm-1
1H-NMR(CDCl3,400 MHz):δ=7.50-7.44(m,4H),7.39-7.32(m,6H),6.79(d,J=8.4,2H),5.50(s,2H),4.37-4.27(m,5H),4.00-3.93(m,4H),3.80-3.75(m,2H),3.71-3.65(m,2H),3.35(s,2H),2.60(t,J=6.8,2H),2.53(s,4H),2.28(t,J=6.8,2H),2.06(t,J=6.8,2H);
13C-NMR(CDCl3,75MHz): δ = 171.4(C),169.4(C×2),168.2(C),138.1(C×2),128.7(C×2),128.0(C×4),125.8(C×2),100.9(CH×2),70.6(CH×2),68.9(CH2×2),68.3(CH2×2),65.8(CH2×2),48.6(CH),34.1(CH2),29.6(CH2),25.2(CH2×2),20.9(CH2);
HRMS(ESI-TOF)m/z calcd for C32H38N2O11Na [M+Na]+ 649.2373,found 649.2350
【0097】
実施例2−3: 2,5−ジオキソピロリジン−1−イル 5−(1,3−ビス(1,3−ジヒドロキシプロパン−2−イルオキシ)プロパン−2−イルアミノ)−5−オキソペンタノエート(10)の合成
【0098】
【化18】

【0099】
上記実施例2−2で得たグリセロール誘導体(9)(0.097g,0.16mmol)をテトラヒドロフラン(1mL)に溶かし、水酸化パラジウム(0.040g,0.28mmol)を加え、水素雰囲気下、室温で撹拌した。2時間後、TLCでグリセロール誘導体(9)と中間体の消失を確認後、パラジウムを濾別した。シリカゲルカラム精製をしないまま、次の反応に用いた。
【0100】
実施例2−4
【0101】
【化19】

【0102】
パクリタキセルの脱N−ベンゾイル誘導体(既知化合物)(0.014g,0.019mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド(0.2mL)に溶かし、上記実施例2−3で得たグリセロール誘導体(10)(0.077mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、室温で撹拌した。48時間後TLCでグリセロール誘導体(10)の消失を確認後、炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。抽出液を食塩水で洗浄後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムを濾別後、溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:メタノール/クロロホルム=1/7)で精製して、単離収率68%で無色透明オイルである本発明に係るパクリタキセル誘導体(0.014g,0.013mmol)を得た。
【0103】
FT-IR(neat):3365,2924,2853,1721,1648,1542,1458,1374,1276,1121,1072,977,748,708 cm-1
1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ=8.13(d,J=7.3Hz,2H),7.68(t,J=7.4Hz,1H),7.58(t,J=7.6Hz,2H),7.48-7.39(m,4H),7.30(t,J=7.0Hz,1H),6.48(s,1H),6.17(t,J=8.8Hz,1H),5.68(d,J=7.1Hz,1H),5.48(d,J=4.5Hz,1H),5.01(d,J=9.4Hz,1H),4.61(d,J=4.6Hz,1H),4.35(dd,J=10.8,6.65Hz,1H),4.21(s,2H),4.15(dt,J=10.3,5.2Hz,1H),3.85(d,J=7.1Hz,1H),3.79-3.71(m,2H),3.69-3.52(m,10H),3.46-3.38(m,2H),3.34-3.31(m,1H),2.53-2.42(m,1H),2.37-2.21(m,8H),2.20(s,3H),2.08(dd,J=15.5,9.0Hz,1H),1.95(s,3H),1.91-1.77(m,3H),1.68(s,3H),1.22-1.16(m,6H);
13C-NMR(CDCl3,75MHz):δ=205.1(C),175.4(C),175.2(C),174.5(C),171.8(C),171.3(C),167.6(C),142.1(C),140.0(C),135.0(C),134.6(CH),131.3(C),131.1(CH×2),129.7(CH×4),128.9(CH),128.5(CH×2),85.8(CH),83.1(CH),83.0(CH),82.3(C),79.0(C),77.5(CH2) 76.8(CH),76.2(CH),74.7(CH),72.4(CH),72.3(CH),69.8(CH2×2),62.6(CH2),62.5(CH2),62.4(CH2×2),59.3(C),56.8(CH),51.0(CH),47.9(CH),44.6(C),37.5(CH2),36.6(CH2),36.1(CH2),35.0(CH2),27.0(CH3),23.3(CH2),23.2(CH3),22.4(CH3),20.8(CH3),14.7(CH3),10.5(CH3);
HRMS(ESI-TOF)m/z calcd for C54H72N2O21Na [M+Na]+ 1107.4525,found 1107.4520
【0104】
実施例3−1: 2,5−ジオキソピロリジン−1−イル 5−(5,11−ビス((1,3−ジヒドロキシプロパン−2−イルオキシ)メチル)−1,15−ジヒドロキシ−2,14−ビス(ヒドロキシメチル)−3,6,10,13−テトラオキサペンタデカン−8−イルアミノ)−5−オキソペンタノエート(11)の合成
【0105】
【化20】

【0106】
グリセロール誘導体(既知化合物;SYNLETT,2007,13,pp.2091-2095)(0.028g,0.025mmol)をエタノール(2.5mL)に溶かし、水酸化パラジウム(0.010g,0.071mmol)を加え、水素雰囲気下、室温で撹拌した。2時間後、TLCでグリセロール誘導体と中間体の消失を確認後、パラジウムを濾別して無色透明オイルである目的化合物(11)(0.017g)を得た。シリカゲルカラム精製をしないまま、次の反応に用いた。
【0107】
実施例3−2
【0108】
【化21】

【0109】
パクリタキセルの脱N−ベンゾイル誘導体(既知化合物)(0.8mg,1μmol)をN,N−ジメチルホルムアミド(0.1mL)に溶かし、上記実施例3−1で得たグリセロール誘導体(11)(17mg)を加え、アルゴン雰囲気下、室温で撹拌した。40時間後にTLCでグリセロール誘導体(11)の消失を確認した。下記条件のHPLCで精製を行い、凍結乾燥して単離収率81%で白色固体の本発明に係るパクリタキセル誘導体(1.2mg,0.9μmol)を得た。
HPLC条件
カラム: Tosoh ODS80Ts 4.6mm×15cm
溶離液: アセトニトリル/水=1/9(0分)→6/4(20分)の直線変化
流速: 0.8mL/分
保持時間: 18分
HRMS(ESI-TOF)m/z calcd for C66H96N2O29Na [M+Na]+ 1403.5996,found 1403.5996
【0110】
試験例1 水溶性の測定
(1) 検量線の作成
検量線を作成するため、パクリタキセルに加え、上記実施例1および比較例1〜2のパクリタキセル誘導体をエタノールに溶解し、濃度10μM、20μM、40μMおよび80μMの溶液を得た。各溶液に内部標準物質として20μMアセチルサリチル酸溶液を等容量加えた上で、メンブランフィルター(Millipore社製,Millex(登録商標)−FG 0.2μm)で濾過し、HPLCシステムに10μLずつ注入して測定を行った。HPLCの測定条件は、以下のとおりである。
カラム: ナカライテスク社製,5C18−AR−II,4.6mm×100mm i.d.
ポンプ: JASCO社製,880−PU型
検出器: 日立製作所社製,L−7400型
データ処理機: キーエンス社製,NR−2000型
移動相: アセトニトリル/2mMリン酸緩衝液(pH6.5)=55/45
流速: 1.1mL/min
測定波長: 227nm
【0111】
上記HPLC条件によって、パクリタキセルは3分13秒後に、実施例1のパクリタキセル誘導体は1分21秒後に、比較例1は1分58秒後に、比較例2は2分11秒後にピークが認められた。検量線は、各パクリタキセルのピーク高さを内部標準物質のピーク高さで除した値を縦軸に、各パクリタキセルの濃度を横軸にプロットして作成した。いずれの検量線も、ほぼ直線となった。パクリタキセル、実施例1、比較例1、比較例2の近似式は、それぞれy=0.1771x、y=0.0835x、y=0.1667x、y=0.2086xであり、相関係数は、それぞれ0.991、0.9971、0.9934、0.9979であった。
【0112】
(2) 分配係数の測定
分配係数を求める実験は、NITE(National Institute of Technology and Evaluation)に従って行った。具体的には、パクリタキセルを1−オクタノールに溶解し、100μMの溶液を得た。各溶液へ、蒸留水を1:1の容量比で加えた。振盪機(IWAKI社製)を用い、回転数:20回/minで各溶液を5分間振盪した後、2900rpmで20分間遠心分離した。2層が完全に分離していることを確認した後、各溶液の1−オクタノール層と水層からサンプルを150μLずつ採取した。得られたサンプルを遠心濃縮することにより溶媒を除去した後、エタノール(150μL)に溶解した。得られた溶液に、内部標準物質として、アセチルサリチル酸の40μMエタノール溶液(150μL)を加えた。得られた溶液をメンブランフィルター(Millipore社製,Millex(登録商標)−FG 0.2μm)で濾過した後、上記(1)に示すHPLCで分析した。また、実施例1および比較例1〜2のパクリタキセル誘導体についても同様に分析した。測定は4回または5回行った。上記(1)で作成した検量線を用い、得られた測定値から各溶液におけるパクリタキセルまたはパクリタキセル誘導体の濃度を求めた。また、Turkeyテストにより、パクリタキセルを用いた場合に対する実施例1および比較例1〜2のパクリタキセル誘導体の各層における濃度に関する有意差検定を行った。さらに、下記の式により、分配係数を求めた。
分配係数P=log10Pow
Pow: Co/Cw
Co: 1−オクタノール層中の被検物質濃度(mol/L)
Cw: 水層中の被検物質濃度(mol/L)
【0113】
水層におけるパクリタキセルまたは各パクリタキセル誘導体の濃度を図1に、1−オクタノール層における同濃度を図2に示す。なお、図中、「*」は危険率p<0.001で有意差がある場合を示す。また、分配係数と、パクリタキセルまたは各パクリタキセル誘導体の水層および1−オクタノール層における濃度の比を表1に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
表1と図1に示す結果のとおり、比較例のパクリタキセル誘導体の水溶性は、パクリタキセルに対してほぼ変化しないかそれほど変わらなかった。一方、本発明に係るパクリタキセル誘導体は、他の化合物に対して有意に水溶性が高かった。また、図2のとおり、本発明のパクリタキセル誘導体は、有機溶媒に溶解し易い性質も維持している。以上の結果から、本発明に係るパクリタキセル誘導体は、有機溶媒に溶解され易い性質は残しつつ、水溶性をも獲得した化合物であることが実証された。
【0116】
試験例2 抗がん活性試験
6週齢の雄性ヌードマウス(日本クレア社製,BALB/cAJc1−nu/nuマウス)37匹に、PBSに懸濁した肺腺癌細胞(ヒトA549肺細胞)3×106cell/200μLを皮下投与した。当該マウスをコントロール群7匹と、6匹ずつの薬剤投与群4群に分けた。別途、パクリタキセル、並びに実施例1および比較例1〜2のパクリタキセル誘導体を、生理食塩水/ポリオキシエチル化ヒマシ油(Cremophor EL)/エタノール=7.5/12.5/12.5の混合溶媒に溶解した。癌細胞摂取の1週間後に、薬剤投与群にはパクリタキセルまたはパクリタキセル誘導体の割合が体重当たり3.51nmol/kgとなるように、各溶液200μLを1回腹腔内投与した。マウスは、22±2℃、12時間の明暗サイクル下で飼育し、飲水は自由摂取とした。コントロール群には同量の生理食塩水を同様に投与した。投与開始から0日後、4日後、29日後、35日後および42日後に、venier caliperを用いて腫瘍径を測定し、下記式により腫瘍容積と増殖阻害率を算出した。
腫瘍容積(mm3)=ab2/2 [a:腫瘍の長さ,b:腫瘍の幅]
増殖阻害率(%)=[(1−薬剤投与群の平均腫瘍容積)/(コントロール群の平均腫瘍容積)]×100
【0117】
得られた値から平均値±標準偏差(SD)を求め、両側ANOVAで分析し、また、各群の有意差はTurkey testで判定した。結果を図3に示す。なお、図中の「**」は危険率p<0.05で有意差がある場合を示す。
【0118】
図3の結果のとおり、本発明に係るパクリタキセル誘導体を投与した場合、薬剤投与から35日後以降において、他の薬剤には有意な効果が認められなかったのに比して、コントロール群に対して腫瘍容積が有意に減少していた。また、本発明に係るパクリタキセル誘導体を投与した場合の42日後における肺腺癌細胞の増殖阻害率は51%であり、コントロール群に対して有意であった。このように、本発明に係るパクリタキセル誘導体の抗がん活性が、in vivoの実験で証明された。
【0119】
なお、本発明に係るパクリタキセル誘導体投与群では、実験を通じて死亡例が無かったのに対して、パクリタキセル投与群では投与開始から4日後に生存マウス数が1となり、また、比較例1のパクリタキセル誘導体投与群では7日後に生存マウス数が2となり、以降の観察の継続が不可能となった。その理由は明らかではないが、臨床試験においてパクリタキセルの投与との因果関係が否定できない死亡例として脳出血や敗血症などがあり、これらはパクリタキセルの骨髄抑制に起因するとの記載がインタビューフォームにあることから、パクリタキセル投与群と比較例1の誘導体投与群の死亡例は、同様の原因によることが考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるものであることを特徴とするパクリタキセル誘導体。
【化1】

[式中
Xは、C1-6アルキレン基;アミノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、チオニル基、エステル基、アミド基、ウレア基およびチオウレア基からなる群から選択される1以上の基を内部に含むC2-6アルキレン基;アミノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、チオニル基、エステル基、アミド基、ウレア基およびチオウレア基からなる群から選択される1の基を一方の末端に有するC1-6アルキレン基;または、カルボニル基、チオニル基、エステル基、アミド基、ウレア基およびチオウレア基からなる群から選択される2の基を両末端に有するC1-6アルキレン基を示し;
Yは、2n-1個のグリセロール誘導体基をXに結合させるための結合基を示し;
nは1以上の整数を示す]
【請求項2】
Xが、カルボニル基、チオニル基、エステル基、アミド基、ウレア基およびチオウレア基からなる群から選択される2の基を両末端に有するC2-4アルキレン基である請求項1に記載のパクリタキセル誘導体。
【請求項3】
Yが、下記構造(II)または複数の構造(II)が結合した末広がりの分岐構造を有する請求項1または2に記載のパクリタキセル誘導体。
【化2】

[式中、Y1は、単結合、C1-6アルキレン基、アミノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、エステル基またはアミド基を示し;Y2は−CH<または−N<を示し;Y3およびY4は、互いに独立して、単結合、C1-6アルキレン基、アミノ基、エーテル基、チオエーテル基、カルボニル基、エステル基またはアミド基を示す]
【請求項4】
nが2または3である請求項1〜3のいずれかに記載のパクリタキセル誘導体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のパクリタキセル誘導体からなることを特徴とする医薬。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のパクリタキセル誘導体を含むことを特徴とする抗がん剤。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−116821(P2012−116821A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270797(P2010−270797)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【Fターム(参考)】