説明

パッキン材料及びこの材料を用いたグランドパッキン

【課題】耐熱性、耐久性、シール性、潤滑性(低トルク性)、圧縮復元性を高いレベルで調和させることが可能であり、火力発電所や原子力発電所等の高圧高温条件下において使用するのに適したグランドパッキン及びこれに用いられるパッキン材料を提供すること。
【解決手段】帯状の第1膨張黒鉛テープを、中芯材を被覆するように捩って第1糸状体とし、この第1糸状体の周囲を被覆するように補強線材を編んで第2糸状体とし、この第2糸状体の周囲を被覆するように帯状の第2膨張黒鉛テープを巻回してなるパッキン材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパッキン材料及びこの材料を用いたグランドパッキンに関し、より詳しくは、低トルク性と高シール性とを両立させることが可能なパッキン材料及びこの材料を用いたグランドパッキンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポンプやバルブ等の流体機器の軸封を行うためにグランドパッキンが使用されているが、火力発電所や原子力発電所においては、高圧高温条件下(例えば超々臨界圧(374℃以上))での使用となり、スタフィングボックス内に多数のグランドパッキンを加圧して収容するため、軸(バルブステム)の回転トルクが高くなってトルクモータに大きな負担がかかり易い。
そのため、このような状況下で使用されるグランドパッキンには、高いレベルの耐熱性、耐久性、シール性、潤滑性(低トルク性)、圧縮復元性が要求される。
【0003】
しかし、従来の膨張黒鉛製グランドパッキンは、耐熱性、耐久性、シール性、潤滑性(低トルク性)、圧縮復元性を高いレベルで調和させることができないため、火力発電所や原子力発電所等の高圧高温条件下において長期間に亘って使用することは困難であった。
【0004】
上記実状に鑑みて、本願出願人は、下記特許文献1において膨張黒鉛テープと平繊された帯状の炭素繊維束を組み合わせた構造のグランドパッキンを提案している。
このグランドパッキンは、高温高圧条件下において、充分な耐久性と高い潤滑性を発揮することができる優れたものであるが、更なる特性の向上、特に潤滑性(低トルク性)とシール性の更なる向上が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−232806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、特許文献1に開示されたグランドパッキンに対して更に改良を加えたものであり、耐熱性、耐久性、シール性、潤滑性(低トルク性)、圧縮復元性を高いレベルで調和させることが可能であり、火力発電所や原子力発電所等の高圧高温条件下において使用するのに適したグランドパッキン及びこれに用いられるパッキン材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、帯状の第1膨張黒鉛テープを、中芯材を被覆するように捩って第1糸状体とし、この第1糸状体の周囲を被覆するように補強線材を編んで第2糸状体とし、この第2糸状体の周囲を被覆するように帯状の第2膨張黒鉛テープを巻回してなることを特徴とするパッキン材料に関する。
【0008】
請求項2に係る発明は、帯状の第1膨張黒鉛テープと1本又は複数本の第1補強繊維を積層した積層テープを、中芯材を被覆するように捩って第1糸状体とし、この第1糸状体の周囲を被覆するように補強線材を編んで第2糸状体とし、この第2糸状体の周囲を被覆するように帯状の第2膨張黒鉛テープを巻回してなることを特徴とするパッキン材料に関する。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記中芯材に膨潤性粘土材料が被膜されており、該膨潤性粘土材料は、層間陽イオンがリチウムイオンに置換され且つ加熱処理が施されていることを特徴とする請求項1又は2記載のパッキン材料に関する。
【0010】
請求項4に係る発明は、前記第1補強繊維に前記膨潤性粘土材料が含浸又は被膜されていることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のパッキン材料に関する。
【0011】
請求項5に係る発明は、前記第1膨張黒鉛テープに前記膨潤性粘土材料が含浸又は被膜されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のパッキン材料に関する。
【0012】
請求項6に係る発明は、前記第2糸状体に前記膨潤性粘土材料が含浸又は被膜されていることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のパッキン材料に関する。
【0013】
請求項7に係る発明は、前記第2膨張黒鉛テープに前記膨潤性粘土材料が含浸又は被膜されていることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載のパッキン材料に関する。
【0014】
請求項8に係る発明は、前記第2膨張黒鉛テープが第2補強繊維を内包していることを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載のパッキン材料に関する。
【0015】
請求項9に係る発明は、前記中芯材がステンレス又はインコネルからなることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載のパッキン材料に関する。
【0016】
請求項9に係る発明は、前記補強線材がステンレス又はインコネルからなることを特徴とする請求項1乃至9いずれかに記載のパッキン材料に関する。
【0017】
請求項11に係る発明は、前記第2補強繊維が炭素繊維からなることを特徴とする請求項8乃至10いずれかに記載のパッキン材料に関する。
【0018】
請求項12に係る発明は、請求項1乃至11いずれかに記載のパッキン材料を編組し、この編組体を所定形状に加圧成形してなることを特徴とするグランドパッキンに関する。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明によれば、帯状の第1膨張黒鉛テープを、中芯材を被覆するように捩って第1糸状体とし、この第1糸状体の周囲を被覆するように補強線材を編んで第2糸状体とし、この第2糸状体の周囲を被覆するように帯状の第2膨張黒鉛テープを巻回してなるパッキン材料であるから、編まれた補強線材により第2糸状体が補強されるとともに、補強線材の編み目に第1膨張黒鉛テープ及び第2膨張黒鉛テープが食い込むことにより、補強線材と第1膨張黒鉛テープ及び第2膨張黒鉛テープが強固に一体化する。これにより、パッキン材料の耐久性が向上し、高温高圧条件下においても優れた耐久性を発揮することができる。また、第2糸状体の周囲を被覆するように帯状の第2膨張黒鉛テープを巻回してなることから、シール性にも優れている。
【0020】
請求項2に係る発明によれば、帯状の第1膨張黒鉛テープと1本又は複数本の第1補強繊維を積層した積層テープを、中芯材を被覆するように捩って第1糸状体としているため、第1糸状体が第1補強繊維により補強され、強度及び耐久性に優れたパッキン材料が得られる。
【0021】
請求項3乃至7に係る発明によれば、中芯材、第1補強繊維、第1膨張黒鉛テープ、第2糸状体、第2膨張黒鉛テープのうちの少なくとも1つ以上に膨潤性粘土材料が含浸又は被膜されていることから、膨潤性粘土材料の層間に潤滑油を保持させることにより、高温高圧条件下において優れた潤滑性(低トルク性)を発揮することができる。しかも、膨潤性粘土材料は、層間陽イオンがリチウムイオンに置換され且つ加熱処理が施されていることにより、水による分散を防ぐことができ、耐水性に優れたものとなる。更に、膨潤性粘土材料が有する高い耐熱性により、パッキン材料の耐熱性を向上させることができる。
【0022】
請求項8に係る発明によれば、第2膨張黒鉛テープが第2補強繊維を内包しているため、第2補強繊維により第2膨張黒鉛テープの強度が高められ、パッキン材料の耐久性を向上させることができる。
【0023】
請求項9,10に係る発明によれば、中芯材又は補強線材が、高強度で且つ耐食性に優れたステンレス又はインコネルからなるため、パッキン材料の耐久性を向上させることができる。
【0024】
請求項11に係る発明によれば、第2膨張黒鉛テープに内包される第2補強繊維が炭素繊維からなることから、第2膨張黒鉛テープが補強され、パッキン材料の耐久性を向上させることができる。また、第2補強繊維が露出しないため、ステム等に傷が付くのを防ぐことができる。
【0025】
請求項12に係る発明によれば、請求項1乃至11いずれかに記載のパッキン材料を編組し、この編組体を所定形状に加圧成形してなることを特徴とするグランドパッキンであるから、耐熱性、耐久性、シール性、潤滑性(低トルク性)、圧縮復元性を高いレベルで調和させることが可能であり、火力発電所や原子力発電所等の高圧高温条件下において使用するのに適したグランドパッキンとなる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るパッキン材料の断面を拡大して示す斜視図である。
【図2】本発明に係るパッキン材料の製造方法を示す図である。
【図3】(a)は第1糸状体を示す斜視図であり、(b)は第1糸状体を形成する様子を示す図である。
【図4】本発明に係るパッキン材料を編組することにより得られる紐体の一例を示す図である。
【図5】本発明に係るグランドパッキンの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係るパッキン材料及びこの材料を用いたグランドパッキンの好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明に係るパッキン材料の断面を拡大して示す斜視図であり、図2は本発明に係るパッキン材料の製造方法を示す図である。
【0028】
本発明に係るパッキン材料(1)は、帯状の第1膨張黒鉛テープ(2)と1本又は複数本の第1補強繊維(3)とを積層した積層テープ(4)を、中芯材(5)を被覆するように捩って第1糸状体(6)とし、この第1糸状体(6)の周囲を被覆するように補強線材(7)を編んで第2糸状体(8)とし、この第2糸状体(8)の周囲を被覆するように帯状の第2膨張黒鉛テープ(9)を巻回してなるものである。
パッキン材料(1)の直径は、例えばφ1.2〜3.0mmの範囲に設定される。
【0029】
図3(a)は第1糸状体(6)を示す斜視図であり、図3(b)は第1糸状体(6)を形成する様子を示す図である。
第1糸状体(6)は、帯状の第1膨張黒鉛テープ(2)と、1本又は複数本の第1補強繊維(3)を積層した積層テープ(4)を、中芯材(5)を被覆するように捩って形成される。
【0030】
第1膨張黒鉛テープ(2)と第1補強繊維(3)とは、接着剤層(14)を介して積層一体化してもよいし、接着剤を用いずに単に重ねるだけでもよい。
接着剤層(14)を構成する接着剤の種類は特に限定されず、有機質系接着剤、無機質系接着剤、無機有機混合質系接着剤などの種々の接着剤から選択して使用することができ、例えばポリビニルアルコール(PVA)が好適に使用される。また、PVA不織布、PVAフィルム、ポリエチレンフィルム、オレフィン系フィルム、ウレタン系フィルム等の熱融着フィルムを用いることもできる。
【0031】
第1膨張黒鉛テープ(2)としては、天然黒鉛、熱分解黒鉛、キッシュ黒鉛等の黒鉛粉末を、濃硫酸、濃硝酸等と反応させて一旦層間化合物とした後、水洗などを経て残留化合物を得、これを急熱して膨張させて得られる可撓性膨張黒鉛そのものを、ロール材等により圧縮成形してシート状とし、これを帯状に切断したものを使用することができる。
【0032】
第1膨張黒鉛テープ(2)の密度は、特に限定されるものではないが、0.80〜2.2g/cmであることが好ましい。密度がこの範囲内にあると、膨張黒鉛テープの表面に結晶レベルの凹凸が形成され、その上に積層される第1補強繊維(3)との間にアンカー効果を生じさせることができる。これに対し、密度が0.80g/cm未満であると組織のきめが粗くなり過ぎ、パッキンにしたときのシール性が低下する虞がある。逆に、密度が2.2g/cmを超えると、組織のきめが細かくなり過ぎてアンカー効果を生じさせにくくなり、第1補強繊維(3)との積層を良好に行い得ない虞がある。
【0033】
第1膨張黒鉛テープ(2)の厚みは、特に限定されるものではないが、0.1〜1.5mm、より好ましくは0.2〜0.4mm程度とされることが好ましい。厚みが0.1mm未満であると、膨張黒鉛が有する優れた耐熱性、耐食性、耐磨耗性を良好に発現させることができない。また、このように極薄のものは製造が困難であって経済的でない。逆に、厚みが1.5mmを超えると、膨張黒鉛の脆さが現れ易い。
【0034】
第1膨張黒鉛テープ(2)の幅は、好ましくは3〜10mmとされ、より好ましくは4〜5mmとされる。幅が10mmを超えると、柔軟性が低下して加工しにくくなる虞がある。逆に、幅が3mm未満になると、許容引張力が極度に低下して、加工する際に破断する虞がある。
【0035】
第1補強繊維(3)としては、アクリル系やピッチ系等の炭素繊維や、ガラス、セラミック、ロックウール等からなる無機系繊維などが好適に使用される。
複数本の炭素繊維を用いる場合、開繊された帯状の炭素繊維束(以下、開繊繊維束という)が好適に使用される。図3(b)では第1補強繊維(3)として開繊繊維束を使用した場合が描かれている。
開繊繊維束は、第1膨張黒鉛テープ(2)を補強すると共に膨張黒鉛テープに不足しがちな弾力性を補い、また、固体潤滑材の役目を果たすこともできるものである。
開繊繊維束は、炭素繊維束を元の幅から所要の幅に平らに拡げた帯状の繊維集合体である。この開繊繊維束は機械的強度に優れており、また、その機械的強度等の諸性質が、−200℃〜+600℃の間で殆ど変化せず、低温特性、高温特性が共に優れている。従って、開繊繊維束は、常温域は勿論のこと、過酷温度環境下においても確実に第1膨張黒鉛テープ(2)を補強することができる。
また、開繊繊維束は耐食性および耐磨耗性にも優れているので、火力発電所や原子力発電所等の過酷環境下でも長期間の使用に耐えることができる。
【0036】
開繊繊維束の厚さは、0.01〜0.5mmとすることが好ましく、より好ましくは0.15〜0.4mmとされる。これは、厚みが0.01mm未満であると、十分な潤滑性及びシール性が得られず、逆に厚みが0.5mmを超えると、十分な柔軟性が得られないからである。
【0037】
開繊繊維束の製造方法は特に限定されず、例えば超音波や流体流を用いて、マルチフィラメントと称される繊維束(炭素繊維束)を薄くかつ広幅に開繊することができる。このときの帯幅は、第1膨張黒鉛テープ(2)と同じに設定され、好ましくは3〜10mmとされ、より好ましくは4〜5mmとされる。
【0038】
第1糸状体(6)は、上記した第1膨張黒鉛テープ(2)と第1補強繊維(3)を積層した積層テープ(4)を、中芯材(5)を被覆するように捩って形成される(図3参照)。このとき、第1補強繊維(3)が内側(中芯材(5)側)になるようにすると、パッキンを形成したときに繊維が外面に露出することが確実に防がれるため好ましい。
【0039】
図示しないが、本発明においては、積層テープ(4)に代えて第1膨張黒鉛テープ(2)のみを用いる構成、即ち第1補強繊維(3)を使用しない構成を採用することもできる。
この場合、第1糸状体(6)は、帯状の第1膨張黒鉛テープ(2)を、中芯材(5)を被覆するように捩って形成される。
【0040】
本発明においては、膨張黒鉛テープ(2)、第1補強繊維(3)、中芯材(5)の少なくともいずれか1つ(好ましくは全て)に、リチウム化された膨潤性粘土材料が含浸又は被膜されていることが好ましい。被膜の厚みは、例えば0.01〜0.02mmに設定される。また、被膜は片面に形成してもよいし両面に形成してもよい。
図1においては、ハッチングが施された部分(11)がリチウム化された膨潤性粘土材料を示している。
【0041】
膨潤性粘土材料としては、八面体結晶構造からなる八面体層を、四面体結晶構造からなる一対の四面体層で挟んだ構造の単位層が何層も積み重なっており、各単位層間にNa、K、Ca2+、Mg2+等の層間陽イオン(交換性陽イオン)を有するものが使用される。
具体的には、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイト、ソーコナイト等のスメクタイトが使用される。
本発明では、これらのうちモンモリロナイト又はスティーブンサイトが特に好適に使用される。その理由は、これらのスメクタイトは、上記八面体層に空きサイトを有しており、後述するリチウムイオンが安定して存在できるためである。尚、モンモリロナイトを主成分とするベントナイトを使用することもできる。
【0042】
本発明において使用される膨潤性粘土材料は、上記した層間陽イオンの全部又は一部(好適には少なくとも50%以上)がリチウムイオンに置換されており、且つ加熱処理が施されている(即ち、リチウム化されている)。
【0043】
層間陽イオンをリチウムイオンに置換する方法としては、膨潤性粘土材料をリチウムイオンと共に水に分散させる方法を例示することができる。膨潤性粘土材料の水分散液にリチウム化合物を添加すると、単位層間にある層間陽イオンとリチウムイオンとがイオン交換し、これにより層間陽イオンの全部又は一部がリチウムイオンに置換される。
【0044】
リチウム化合物としては、水酸化リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム等の1種類以上のリチウム化合物が用いられる。このうち、不純物となる陰イオンを含まない水酸化リチウムが最も好適に用いられる。リチウム化合物は、イオン交換を充分に行うために、層間陽イオン量(イオン交換容量)に対して1〜30倍の量を添加することが好ましい。
【0045】
次いで、上記した層間陽イオンがリチウムイオンに置換された粘土材料を加熱処理する。
加熱処理の温度条件は、230℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましく、350℃以上であることが最も好ましい。800℃を超えると粘土が劣化するため好ましくない。処理時間は、20分以上24時間以内であることが好ましく、低温の場合には長時間とすればよい。
加熱処理を施すことにより、単位層間にあるリチウムイオンの少なくとも一部を八面体層内に移動させることができる。リチウムイオンが八面体層内に移動すると、単位層間にある層間陽イオンが減少して水和力が低下するため、耐水性が向上する(水分散性が無くなる)。
【0046】
中芯材(5)は、膨潤性粘土材料の水分散液にリチウム化合物を添加することにより層間陽イオンの全部又は一部がリチウムイオンに置換された粘土材料(12)に浸漬(図2参照)され、その後に加熱処理がなされる。
膨張黒鉛テープ(2)及び第1補強繊維(3)については、上記粘土材料(12)に浸漬(図示略)した後に加熱処理を行ってもよいし、上記粘土材料(12)から粘土膜を作成してこれを加熱処理し、加熱処理後の粘土膜を膨張黒鉛テープ(2)又は第1補強繊維(3)の片面又は両面に積層してもよい。
また、加熱処理については、第1糸状体(6)を形成した後の段階で行ってもよいし、第2糸状体(8)を形成した後の段階で行ってもよいし、パッキン材料(1)を形成した後の段階で行ってもよい。
【0047】
上記膨潤性粘土材料は、有機カチオン処理又はシリル化処理がなされた変性粘土からなるものであってもよい。
有機カチオンとしては、第四級アンモニウムカチオン又は第四級ホスホニウムカチオンが使用される。第四級アンモニウムカチオンとしては、特に限定されないが、ジメチルジオクタデシルタイプ、ジメチルステアリルベンジルタイプ、トリメチルステアリルタイプが例示される。
シリル化剤としては、特に限定されないが、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシランを例示することができる。
【0048】
上記した第1糸状体(6)の周囲を被覆するように補強線材(7)を編んで第2糸状体(8)が形成される(図2参照)。
補強線材(7)の材質としては、例えば、ステンレス(SUS304、SUS316、SUS316L等)、インコネル、ニッケル、ニッケル合金を挙げることができ、中でも強度や耐食性の観点から、ステンレス又はインコネルを用いることが好ましく、インコネルを用いることが最も好ましい。
補強線材(7)の直径は、0.05〜0.35mmとすることが好ましく、0.08〜0.15mmとすることがより好ましい。直径が0.05mm未満であると編み加工する際に破断するおそれがあり、0.35mmを超えると編み加工がしにくくなり、いずれの場合も好ましくないためである。
【0049】
補強線材(7)として、硬金属線材と軟金属線材の2種類の金属線材を使用することも可能である。この場合、2種類の金属線材を重ねて或いは撚り合わせて1本とし、これを第1糸状体(6)の外面を被覆する編み糸として使用すればよい。
硬金属線材としてはブリネル硬さが90〜240(kg/mm)のものが用いられる。
このような硬さを有する金属材料は、高温下における引張強度等の機械的強度が高く、繰り返し荷重に対する疲れ限度も高い。また、このような硬さを有する金属は、高温下においてクリープが生じにくい。
従って、硬金属線材は、パッキンの機械的強度を向上させるとともに、高温下における耐クリープ性を高めて、パッキンに応力緩和が生じないようにすることができる。
【0050】
硬金属線材としては、例えば、ステンレス、インコネル、ニッケル、ニッケル合金を挙げることができる。
硬金属線材の直径は、0.05〜0.35mmとすることが好ましい。直径が0.05mm未満であると編み加工する際に破断するおそれがあり、0.35mmを超えると編み加工がしにくくなり、いずれの場合も好ましくないためである。
【0051】
軟金属線材としてはブリネル硬さが40〜55(kg/mm)のものが用いられる。
このような硬さを有する金属材料は、パッキンが接触する相手材料より硬度が低いため、パッキンが相手材料に対して相対的に変位した場合に相手材料に傷を付けることがない。また、このような硬さを有する金属材料は、柔軟性に優れ、塑性加工を容易に行うことができる。
従って、軟金属線材の占める割合が多いほど、補強線材(7)による編み加工を容易に行うことができる。また、編み加工して得られた第2糸状体(8)から造られたパッキン材料を加圧成形してパッキンとする際、表面及び内部が緻密に詰んだパッキンとすることができる。
【0052】
また、このような硬さを有する金属材料は、相手材料に対するなじみ性が良好である。そのため、軟金属線材の占める割合が多いほど、パッキンのシール性を向上させることができる。
更に、このような硬さを有する金属材料は、400〜850℃程度の温度下では変質しにくい。従って、パッキンのシール性を高温下において安定させることができる。
【0053】
軟金属線材としては、例えば、銅、モネルメタル等の銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金を挙げることができる。
軟金属線材の直径は、0.05〜0.35mmとすることが好ましい。直径が0.05mm未満であると編み加工する際に破断するおそれがあり、0.35mmを超えると編み加工がしにくくなり、いずれの場合も好ましくないためである。
【0054】
補強線材(7)として硬金属線材と軟金属線材の2種類の金属線材を使用する場合、両者の本数の比は1:1〜0.3とすることが好ましい。これを比の値(硬金属線材の本数/軟金属線材の本数)で表すと1〜約3.3となる。
比の値が1未満であると第2糸状体(8)の機械的強度が低くなり、逆に3.3を超えると編み加工しにくくなる上に、第2糸状体のなじみ性が低下してパッキンのシール性が低下するおそれがあるため、いずれの場合もあまり好ましくない。
【0055】
第1糸状体(6)の外面を被覆するように編まれる補強線材(7)の編目のピッチは、長さ方向及び幅方向において夫々1.5〜6mmとすることが好ましい。
補強線材(7)の編目のピッチが1.5mm未満であると、網目に膨張黒鉛が入り込みにくいためにパッキンのなじみ性やシール性が充分に得られず、一方、6mmを超えると、パッキンの強度が低下するため、いずれの場合も好ましくない。
【0056】
補強線材(7)の編み方(編み組織)については、経編でも緯編でもよいが、強度の点から緯編が好ましい。
緯編とする場合、その具体的な形態は特に限定されず、丸編、角編、平編、ゴム編、パール編、タック編、浮き編、片畦編、両畦編、両面編、レース編、添糸編等の形態を採用することができる。
【0057】
本発明においては、第2糸状体(8)に上記したリチウム化された膨潤性粘土材料が含浸又は被膜されていることが好ましい。
膨潤性粘土材料としては、上記したものが好適に使用される。
より具体的には、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイト、ソーコナイト等のスメクタイト(好適には、モンモリロナイト又はスティーブンサイト)の層間陽イオンの全部又は一部がリチウムイオンに置換されており且つ加熱処理が施されている(即ちリチウム化されている)ものである。
【0058】
加熱処理は、例えば、第2糸状体(8)を、膨潤性粘土材料の水分散液にリチウム化合物を添加することにより層間陽イオンの全部又は一部がリチウムイオンに置換された粘土材料(12)に浸漬(図2参照)した後に行うとよい。
【0059】
上記した第2糸状体(8)(リチウム化された膨潤性粘土材料が含浸又は被膜されているものが好ましいが、されていないものでもよい。)の周囲を被覆するように帯状の第2膨張黒鉛テープ(9)を巻回する(図2参照)。これにより、本発明に係るパッキン材料が得られる。
【0060】
第2膨張黒鉛テープ(9)としては、上記した第1膨張黒鉛テープ(2)と同様のものを使用することができる。
第2膨張黒鉛テープ(9)には、第2補強繊維(13)が内包されていることが好ましい。
第2補強繊維(13)としては炭素繊維が好適に使用されるが、その他の有機繊維や無機繊維を用いることも可能である。例えば、アラミド繊維等の合成樹脂繊維、ステンレス(SUS304、SUS316、SUS316L等)やインコネル等からなる金属繊維、ガラス繊維等の無機繊維、綿糸などを使用することができる。
炭素繊維を用いる場合、上記した開繊繊維束を用いることが好ましい。開繊繊維束は、第2膨張黒鉛テープ(9)を補強すると共に膨張黒鉛テープに不足しがちな弾力性を補う役目を果たすことができる。
【0061】
本発明においては、第2膨張黒鉛テープ(9)に上記したリチウム化された膨潤性粘土材料が含浸又は被膜されていることが好ましい。
リチウム化された膨潤性粘土材料としては、上記したものが好適に使用される。
具体的には、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイト、ソーコナイト等のスメクタイト(好適には、モンモリロナイト又はスティーブンサイト)の層間陽イオンの全部又は一部がリチウムイオンに置換されており且つ加熱処理が施されている(即ちリチウム化されている)ものである。
【0062】
加熱処理は、第2膨張黒鉛テープ(9)を上記粘土材料(12)に浸漬した後に行ってもよいし、上記粘土材料(12)から粘土膜を作成してこれを加熱処理し、加熱処理後の粘土膜を第2膨張黒鉛テープ(9)の片面又は両面に積層してもよい。
【0063】
本発明においては、上記した如く、中芯材(5)、第1補強繊維(3)、第1膨張黒鉛テープ(2)、第2糸状体(8)、第2膨張黒鉛テープ(9)のうちの少なくとも1つ以上にリチウム化された膨潤性粘土材料が含浸又は被膜されている構成が好ましく採用される。
当該構成を採用すると、膨潤性粘土材料の層間に潤滑油や防錆油が保持されることにより、高温高圧条件下において優れた潤滑性(低トルク性)及び耐食性を発揮することができる。また、リチウム化された膨潤性粘土材料は、水による分散が生じないために耐水性に優れたものとなる。更に、膨潤性粘土材料が有する高い耐熱性により、パッキン材料の耐熱性を向上させることができる。
【0064】
本発明に係るグランドパッキンは、上記したパッキン材料を編組し、この編組体を所定形状に加圧成形することにより得られる。
より具体的には、上記したパッキン材料を編組することにより、丸編紐、角編紐等の編紐や、丸打紐、角打紐等の打紐などの形態をなす紐体を構成することができる。その他、袋状紐や固着紐等の形態をなす紐体を構成することもできる。なお、打紐の場合には、四つ打ち、八つ打ち、十六打ち、十八打ち、二十四打ち、三十二打ち等、任意の打ち方が可能である。図4(a)〜(d)は、本発明に係るパッキン材料を編組することにより得られる紐体(15)の一例を示す図である。
【0065】
本発明に係るグランドパッキン(10)は、上記した紐体(15)を加圧成形して得られるものであり、例えば図5に示すようにリング状に形成される。このようなグランドパッキン(10)は、スタフィングボックス内に詰め込まれ、流体機器の軸封のために使用することができる。
特に、本発明に係るグランドパッキン(10)は、耐熱性、耐久性、シール性、潤滑性(低トルク性)、圧縮復元性を高いレベルで調和させることが可能であるため、火力発電所や原子力発電所等の高圧高温条件下において使用するのに適したグランドパッキンとなる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、例えば火力発電所や原子力発電所等の高圧高温条件下におけるバルブ軸封用のグランドパッキン等として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 パッキン材料
2 第1膨張黒鉛テープ
3 第1補強繊維
4 積層テープ
5 中芯材
6 第1糸状体
7 補強線材
8 第2糸状体
9 第2膨張黒鉛テープ
10 グランドパッキン
11 リチウム化された膨潤性粘土材料
12 粘土材料(膨潤性粘土材料の水分散液にリチウム化合物を添加することにより層間陽イオンの全部又は一部がリチウムイオンに置換されたもの)
13 第2補強繊維
14 接着剤層
15 紐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の第1膨張黒鉛テープを、中芯材を被覆するように捩って第1糸状体とし、この第1糸状体の周囲を被覆するように補強線材を編んで第2糸状体とし、この第2糸状体の周囲を被覆するように帯状の第2膨張黒鉛テープを巻回してなることを特徴とするパッキン材料。
【請求項2】
帯状の第1膨張黒鉛テープと1本又は複数本の第1補強繊維を積層した積層テープを、中芯材を被覆するように捩って第1糸状体とし、この第1糸状体の周囲を被覆するように補強線材を編んで第2糸状体とし、この第2糸状体の周囲を被覆するように帯状の第2膨張黒鉛テープを巻回してなることを特徴とするパッキン材料。
【請求項3】
前記中芯材に膨潤性粘土材料が含浸又は被膜されており、
該膨潤性粘土材料は、層間陽イオンがリチウムイオンに置換され且つ加熱処理が施されていることを特徴とする請求項1又は2記載のパッキン材料。
【請求項4】
前記第1補強繊維に前記膨潤性粘土材料が含浸又は被膜されていることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のパッキン材料。
【請求項5】
前記第1膨張黒鉛テープに前記膨潤性粘土材料が含浸又は被膜されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載のパッキン材料。
【請求項6】
前記第2糸状体に前記膨潤性粘土材料が含浸又は被膜されていることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載のパッキン材料。
【請求項7】
前記第2膨張黒鉛テープに前記膨潤性粘土材料が含浸又は被膜されていることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載のパッキン材料。
【請求項8】
前記第2膨張黒鉛テープが第2補強繊維を内包していることを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載のパッキン材料。
【請求項9】
前記中芯材がステンレス又はインコネルからなることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載のパッキン材料。
【請求項10】
前記補強線材がステンレス又はインコネルからなることを特徴とする請求項1乃至9いずれかに記載のパッキン材料。
【請求項11】
前記第2補強繊維が炭素繊維からなることを特徴とする請求項8乃至10いずれかに記載のパッキン材料。
【請求項12】
請求項1乃至11いずれかに記載のパッキン材料を編組し、この編組体を所定形状に加圧成形してなることを特徴とするグランドパッキン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−255661(P2010−255661A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103234(P2009−103234)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(390015679)ジャパンマテックス株式会社 (19)
【Fターム(参考)】