説明

パティキュレート燃焼触媒及びそれを用いたパティキュレートの燃焼除去方法

【課題】従来のパティキュレート燃焼触媒では、パティキュレート燃焼温度の低温化のためには有害な窒素酸化物を酸化助剤として用いることが必要であり、なおかつ熱耐久後に燃焼ピーク温度が高温化するという問題があった。
【解決手段】少なくともCu、Mg及びMnを含んでなるスピネル型構造の複合酸化物のパティキュレート燃焼触媒では、パティキュレート燃焼温度が低く、なおかつ熱耐久後にパティキュレートの燃焼温度の高温化がない。当該複合酸化物は、0.3≦Cu≦0.5、0<Mg≦0.3、0.4≦Mn≦0.7であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パティキュレートの燃焼除去をする燃焼触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排ガスに関し、窒素酸化物(NO)とパティキュレート(これ以降は、PMと略記する。)は、人体への悪影響、大気汚染の原因となるため排出量が規制されている。ここでいうPMはカーボンを主成分とする微粒子である。
【0003】
これまで、PMの排出低減方法としては、排ガス流路にPMフィルター(これ以降は、DPFと略記する。)を設置し、フィルター上でPMをトラップする方法が採用されている。DPFでは、トラップされたPMは定期的に燃焼除去し、再生することが必要である。
【0004】
この再生方法には、電気ヒーターやバーナー等を用い燃焼させる方法、排ガス中に燃料などの可燃性ガスを供給し、その可燃ガスの燃焼熱を利用して堆積したPMを除去させる方法が知られている。また、DPFに触媒を担持し、PMを触媒で低温燃焼させる方法(触媒燃焼法)が提案されている。
【0005】
PMを酸化燃焼させるためのガス成分としては、酸素の他、酸素よりも酸化燃焼速度の大きいNOを用いることが知られている。しかし、PM酸化燃焼へ高濃度のNOを利用すると、未反応NOが環境汚染の原因となることが指摘されている(例えば、非特許文献1)。そこで低温でPMの燃焼を可能とし、なおかつ低NO濃度でPMの燃焼を可能にし、なおかつ耐熱性の高い触媒が強く望まれている。
【0006】
これまでPM燃焼用の触媒としては、例えば、白金族元素などの貴金属をシリカ、アルミナなどの担体に担持した触媒は、PM燃焼温度が低温化することが知られている(特許文献1参照)。しかしそれらの触媒では、燃焼温度を低下するために、窒素酸化物(NO)、硫黄酸化物(SO)等を多量に添加することが必要であった。
【0007】
また電解二酸化マンガンからなる燃焼触媒が提案されている(特許文献2)。しかしそこでの触媒では、初期には窒素酸化物を含まない空気流通下で、カーボンが330℃程度から燃焼が開始し、410℃程度に燃焼ピークを示すことが報告されている。しかし、その様な燃焼触媒は、耐熱性が低いため、熱耐久後の燃焼ピークが高温化するものであった。
【0008】
さらにスピネル結晶構造を有する触媒として、K、Ni、Cr、Mg、Co、Cu、V、Mn、Fe、Cs、Na、Li、Pd、Ba、Ce、Laのうちの少なくとも1種を含むスピネル型構造の酸化物が開示されている(特許文献3参照)。しかし具体的に開示されている酸化物としては、Cu、Fe、Kを含む酸化物が示されているのみである上に、0.5%(5000ppm)もの高濃度の窒素酸化物(NOとして供給)を含むガスを用いて初めて、カーボンブラック(炭素微粒子)の燃焼が約235〜270℃で開始するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−253757号公報(請求項1、[0009]など)
【特許文献2】特開2009−090224(請求項1、実施例など)
【特許文献3】特開2003−239722(請求項5、実施例3、[0036]など)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】環境触媒ハンドブック 488頁、発行所:株式会社 エヌ・ティー・エス、発行日:2001年11月20日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、PM、特に内燃機関排ガス中のPMを低温で燃焼し、熱耐久後におけるPM燃焼温度が低く、なおかつその様な低温燃焼するためにNO等の有害ガスを用いる必要がないPM燃焼触媒及びその触媒を用いたPM燃焼除去方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、PM、特に内燃機関排ガス中のPMの燃焼触媒について鋭意検討を重ねた結果、金属成分として少なくともCu、Mg及びMnを含み、なおかつスピネル型の複合酸化物の燃焼触媒では、内燃機関排ガス中のパティキュレートを低温で燃焼し、なおかつ、当該触媒の熱耐久後においてもPMを低温で燃焼し得ることを見出し、本発明を完成したものである。
【0013】
以下、本発明のPM燃焼触媒について説明する。
【0014】
本発明のPM燃焼触媒は、少なくともCu、Mg及びMnを含むスピネル型構造の複合酸化物である。
【0015】
スピネル型構造とは一般式:ABで表されるものであり、その様な構造であることは粉末X線回折により容易に確認できる。
【0016】
本発明のPM燃焼触媒におけるCu、Mg及びMnを含む複合酸化物の組成範囲(金属のモル分率)は限定されるものではないが、上記のスピネル型構造の一般式の中で、Aサイトには、少なくともCuが入り、Bサイトには少なくともMn及びMgが入り、AサイトとBサイトの金属成分元素の総量(モル数)を1とした場合、特に0.3≦Cu≦0.5、0<Mg≦0.3、0.4≦Mn≦0.7、においてスピネル型構造複合酸化物中のMnイオンの価数が高くなり、PM燃焼触媒としての酸化力が大きくなる。特に、0.3≦Cu≦0.4、0.15≦Mg≦0.2、0.45≦Mn≦0.55であることが好ましい。
【0017】
本発明のPM燃焼触媒の金属成分としては、Cu、Mg及びMnを含むことが必須であるが、本発明の効果を損なわない範囲において、Cu、Mg及びMn以外の他成分を含んでも良い。他成分としては、Ag、Li、Cd、Co、Fe、Ni、Sn、Zn、Al、Co、Cr、Ga、In、Rh、V、Ge、Ti、V、Nb、Sb、Mo、Wなどが例示できる。
【0018】
さらにKなどのアルカリ金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩などの化合物が付着、担持、混合したものであっても良い。
【0019】
本発明のスピネル型の複合酸化物の製造法は特に限定はないが、例えばCu、Mg及びMnの酸化物、又は炭酸塩の粉末を混合し加熱する方法、液相で均一なCu、Mg及びMn等の成分の塩の混合水溶液から得られる共沈塩を得、加熱する方法などが例示できる。
【0020】
共沈塩としては、炭酸塩、水酸化物塩などが例示でき、特に炭酸塩が好ましい。また、共沈塩の熱処理温度としては、300〜1000℃が例示でき、400から700℃が好ましい。
【0021】
次に、本発明のスピネル型構造複合酸化物のPM燃焼触媒としての使用方法について説明する。
【0022】
本発明のスピネル型構造の複合酸化物を燃焼触媒として用いる方法は特に限定はされないが、例えばセラミックスのハニカム基材等にコーティングして用いる方法等が例示できる。
【0023】
燃焼処理されるPMを含む雰囲気も特に限定はされるものではないが、特に本発明では、雰囲気中に酸化助剤としての窒素酸化物を添加する必要がない。本発明の燃焼触媒はPMの酸化能が高いため、雰囲気中に窒素酸化物等の酸化助剤が極めて低濃度であっても低温でのPM燃焼が可能であり、特に全く窒素酸化物を含まない場合にも低温でPM燃焼が可能である。
【0024】
PM燃焼雰囲気中の窒素酸化物濃度は200ppm以下、特に100ppm以下、さらに20ppm以下が好ましく、窒素酸化物が全く含まれなくても低温でPMを燃焼することが可能である。
【0025】
本発明スピネル型の複合酸化物は、熱耐久後にも燃焼ピーク温度の高温化がないため、燃焼触媒として長期間交換することなく使用することができる。
【発明の効果】
【0026】
少なくともCu、Mg及びMnを含んでなるスピネル型構造の複合酸化物のPM燃焼触媒は、低温でPMを燃焼させ、なおかつ、熱耐久後におけるPM燃焼ピーク温度の高温化がないため、触媒寿命が長い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のスピネル型構造複合酸化物(実施例1)のエックス線回折パターンを示す図である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(PM燃焼試験)
触媒とモデルPMとしてのカーボンブラック(以下、CBと略記)を混合し、乾燥空気中でTG−DTA測定により燃焼温度を測定した。CBは、旭カーボン株式会社の旭#70(平均粒子径28nm)を使用した。混合方法は乳鉢混合、CB混合量は2重量%とした。燃焼温度は、TG曲線の重量減少開始温度手前の接線(A)と急激な重量減少開始後の接線(B)として、AとBの交差温度を燃焼開始温度、DTA曲線の発熱ピークのトップ温度を燃焼ピーク温度とした。燃焼雰囲気は空気流量100ml/min(窒素酸化物は無添加)、昇温速度10℃/minとし、700℃まで測定した。
【0029】
尚、CBそのものは上記測定条件において、燃焼開始温度567℃、燃焼ピーク温度617℃であった。
【0030】
実施例1
炭酸水素ナトリウム水溶液に、Mn:Cu:Mg=3:2:1(モル比)の硫酸塩水溶液を80℃で1時間で滴下し、その後さらに80℃で5時間保持して複合炭酸塩を沈殿させた。生成沈殿物をろ過し、水洗、乾燥後、大気中450℃で加熱して炭酸塩を熱分解し、さらに更に大気中で600℃、12時間加熱して複合酸化物を得た。
【0031】
得られた複合酸化物を粉末X線回折したところ、スピネル型構造の結晶回折パターンが得られた(図1)。また、組成分析したところ、金属のモル分率は、Cu=0.33、Mg=0.17、Mn=0.50、であり、スピネル型酸化物の化学式で表すと、Cu[Mg1/2Mn3/2]Oで表される。
【0032】
当該複合酸化物0.392gとCB0.008gをメノウ乳鉢で混合した。得られた混合物を用いてPM燃焼試験をしたところ、燃焼開始温度355℃、燃焼ピーク温度は412℃であった。
【0033】
実施例2
実施例1で得られた複合酸化物を大気中で600℃、24時間加熱する熱耐久処理を行った。実施例1と同様のPM燃焼試験において、燃焼開始温度は367℃、燃焼ピーク温度は411℃であった。
【0034】
熱耐久後においても、PM燃焼温度の高温化はみられなかった。
【0035】
比較例1
Mn酸化物のMnOOH(東ソー日向(株)製、BET値7.2m/g)を実施例と同様の条件でPM燃焼試験を行った。燃焼開始温度は415℃、燃焼ピーク温度は472℃であった。
【0036】
実施例に比べてPM燃焼は高温で生じた。
【0037】
比較例2
Mn酸化物の電解二酸化マンガンEMD(東ソーヘラス(株)製、商品名GH−T、BET値32m/g)を実施例1と同様の条件でPM燃焼試験を行った。
【0038】
比較例3
比較例2のEMDを大気中で600℃、24時間加熱する熱耐久処理を行った。
【0039】
耐熱試験後のEMDを実施例1と同様の条件でPM燃焼試験を行った。燃焼開始温度は461℃、燃焼ピーク温度500℃であった。
【0040】
EMDは初期のPM燃焼性能は高いが、熱耐久後に燃焼温度が著しく高温化するものであった。
【0041】
結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のスピネル系PM燃焼触媒は、内燃機関排ガス中のPMを低温で燃焼させ、除去することができる為、内燃機関排ガス中のPMの燃焼除去を促進する内燃機関排ガス用の燃焼触媒として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成分として少なくともCu、Mg及びMnを含んでなるスピネル型複合酸化物からなるパティキュレート燃焼触媒。
【請求項2】
金属成分元素の総量(モル数)を1とした場合において、0.3≦Cu≦0.5、0<Mg≦0.3、0.4≦Mn≦0.7である請求項1に記載のパティキュレート燃焼触媒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のパティキュレート燃焼触媒を用いたパティキュレートの燃焼除去方法。
【請求項4】
燃焼雰囲気中の窒素酸化物濃度が200ppm以下であることを特徴とする請求項3に記載のパティキュレートの燃焼除去方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−83682(P2011−83682A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237420(P2009−237420)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】