説明

パネルおよびその製造方法

【課題】立体的な意匠を有し、乾式工法による簡便な施工が可能であり、生産性に優れたパネル及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基材層にアクリルゾル組成物を塗布、パターン付けして加熱成型し、次いでアクリル系樹脂エマルジョンを含有する合成樹脂塗材を塗布して塗膜を形成したパネル。また、基材層にプラスチゾル組成物を塗布して成型し、次いで合成樹脂塗材を塗布して塗膜を形成させることを特徴とするパネルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は立体的な意匠を有し、乾式工法による簡便な施工が可能であり、生産性に優れたパネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築工事において、工期の短縮、工法の簡略化、品質の安定化等は永続的な課題である。このような課題に対して、旧来は建築現場で行われていた作業の一部を工場等で行い、建築現場での作業を少なくするプレハブ工法を採用したり、構造材のプレカット等が行われている。また、建築現場でセメントやタイルを施工する代わりに、予めこれらを施工したパネルを製造し、建築現場ではパネルの固定のみを行う工法も採用されている。このような工法は乾式工法とも呼ばれており、建築現場の作業の簡略化に役立っている。
【0003】
また、建築物は機能性の他に意匠性も求められるのが常である。合成樹脂に充填材や骨材を配合した塗材(以下、合成樹脂塗材とも表記する)はローラーやコテを用いて様々なパターン付けを行うことができるため、意匠性が要求される内外装面に使用されている。その施工方法は建築現場において下地の上に前記塗材を塗布し、自然乾燥により養生を行うというものであるため、雨天時には施工できないことや寒冷地においては冬季の施工が困難な点が課題であった。特許文献1には低温下であっても硬化性に優れる水系塗材が開示されており、施工性に関して一定の改善がなされている。
【特許文献1】特開2007−9130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、予め合成樹脂塗材を施工したパネルを製造することにより、建築現場での施工を大幅に簡略化できると考え、パネルの製造を試みた。当初、下地基材上に合成樹脂塗材を塗布して乾燥させたが、パターン付けによる意匠性を出すためには一定以上の厚みが必要であるため、乾燥に時間を要し、パネルの生産性が十分ではなかった。
【0005】
本発明は前記課題に鑑み、立体的な意匠を有し、乾式工法による簡便な施工が可能であり、生産性に優れたパネル及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは合成樹脂塗材を施工したパネルの生産性を向上させるため、種々の検討を行った。まず、加熱による乾燥時間の短縮について検討したが、塗布された合成樹脂塗材の外部のみが急速に乾燥すると未乾燥である内部の水分が抜けにくくなり、フクレ、ヒビ割れが発生したり、塗膜性能が低下する可能性があったために断念した。また、乾燥性を向上させるために塗膜を薄くすると、意匠に富むパターン付けを行うことが困難となった。
【0007】
本発明者らはさらに鋭意検討を行い、プラスチゾル組成物を用いることによって、意匠性を保ちつつ生産性の向上が可能となることを見出した。
【0008】
本発明は基材層、プラスチゾル組成物層、合成樹脂塗材層を有することを特徴とするパネルであり、基材層にプラスチゾル組成物を塗布して成型し、次いで合成樹脂塗材を塗布して塗膜を形成させることを特徴とするパネルの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明からなるパネルは立体的な意匠を有し、乾式工法による簡便な施工が可能であるため、建築現場の作業を簡略化できる。また、本発明の製造方法によれば、意匠性を損なうことなく効率良くパネルを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に用いる合成樹脂塗材とは、合成樹脂に充填材や骨材等を配合した塗材である。合成樹脂としては、アクリル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合系樹脂、ウレタン系樹脂等が挙げられ、塗膜の弾性、耐汚染性、成膜性等の点からアクリル系樹脂が好ましい。アクリル系樹脂はアクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステルや、これらの不飽和単量体と共重合可能なスチレン等の単量体を重合することによって得られる樹脂であり、シリコーン変性されていても良い。安全面からエマルジョンのような水性タイプが好ましい。
【0011】
充填材としては水酸化アルミニウム、重質炭酸カルシウム、クレー、カオリン、タルク、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、珪砂、細珪砂等が挙げられる。骨材としては寒水石、珪砂、大理石、山砂、ガラス粉砕物、セラミック粉砕物等が挙げられる。
【0012】
合成樹脂塗材には前記材料の他、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、酸化第二鉄(べんがら)、クロム酸鉛(モリブデードオレンジ)黄鉛、黄色酸化鉄等の顔料、増粘剤、成膜助剤、分散剤、防カビ剤、防藻剤を適宜配合できる。合成樹脂塗材の好適な例として、アイカ工業株式会社製「ジョリパット」(登録商標)が挙げられる。
【0013】
合成樹脂塗材をコテ、ローラー、スプレーガン等を使用して塗布することにより、単に下地に着色するのみでなく、立体性に富んだ意匠を形成することができる。なお、基材層にプラスチゾル組成物を塗布、パターン付けして成型し、次いで合成樹脂塗材を塗布する場合、下地自体に既にパターン付けがされているため、例えばスプレーガンを用いて合成樹脂塗材を比較的少量塗布するだけでも、合成樹脂塗材のみを通常量使用してパターン付けを行った場合と遜色ない意匠性が得られる。
【0014】
プラスチゾル組成物は樹脂粉末及び可塑剤を含有する組成物であり、加熱により硬化する。ポリマー粉末として塩ビ重合体粉末やアクリル系重合体粉末等が挙げられるが、塩ビ重合体粉末を使用した場合は焼却時に有害な物質を生成する可能があるため、アクリル系重合体粉末が好ましい。アクリル系重合体粉末は、界面活性剤等の存在下でアクリル酸エステルやメタクリル酸エステル等の単量体を乳化重合することによって得られたアクリル系重合体エマルジョンを噴霧乾燥することにより得られる。単量体の具体例として、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、i−ブチルメタクリレート、sec−ブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等が挙げられる。アクリル系重合体粉末として、異なる単量体組成を有するコア・シェル型を有するものや、単量体組成が中心部から最外部に向けて多段的または連続的に変化するものも使用できる。また、単量体組成、粒子構造、一次粒子径、二次粒子径等が異なる2種以上のアクリル系重合体粉末を用いることもできる。
【0015】
プラスチゾル組成物中の可塑剤は、樹脂粉末を溶解するために用いられる。具体的には、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル等のフタル酸ジアルキルエステル、フタル酸ブチルベンジル等のフタル酸アルキルベンジル、フタル酸アルキルアリール、フタル酸ジベンジル、フタル酸ジアリール、アジピン酸ジブチル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル等の二塩基酸エステル、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリ−(2−エチルヘキシル)ホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤、ジブチルグリコールアジペート等のエーテル含有化合物、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール ジイソブチレート等のエステル系可塑剤、アルキルスルホン酸フェニルエステル、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール誘導体、エポキシ化大豆油等の大豆油系可塑剤、東亞合成株式会社製ARUFON(商品名)等が挙げられる。可塑剤は単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0016】
プラスチゾル組成物には、炭酸カルシウム、パライタ、クレー、コロイダルシリカ、マイカ粉、珪藻土、カオリン、タルク、ペンナイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、合成繊維、炭素繊維、金属粉、砂、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、二酸化チタン、カーボンブラック、金属石鹸、染料、顔料等の充填材を配合することができる。
【0017】
より強固な硬化物を得る為、プラスチゾル組成物に対して、加熱によりイソシアネート基を生成するブロック化ウレタンプレポリマーと、イソシアネート基と反応する活性水素基含有化合物を配合することができる。また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂とポリアミン、ポリアミド、ジシアンジアミド等の潜在硬化剤を配合することができる。さらに、2−ヒドロキシアクリレート、メチルメタクリルレート等のアクリル系単量体、トリメチロールプロパントリアクリレート等の多官能アクリル系単量体、ポリエステルメタクリレート、ポリエーテルメタクリレート、ポリオールメタクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリオールアクリレート等のアクリル系オリゴマーやプレポリマーと、重合開始剤を配合することができる。また、シランカップリング剤等を配合することができる。
【0018】
さらに、必要に応じてプラスチゾル組成物に硬化剤、レベリング剤、タック防止剤、離型剤、消泡剤、発泡剤、増粘剤、減粘剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃剤、香料等を適宜添加することができる。
【0019】
本発明のパネルを構成する基材として合板、MDF、パーティクルボード、LVL、プラスターボード、ケイカル板、スレート板等の各種ボードが挙げられ、施工部位による要求性能等から適宜選択できる。
【0020】
前記プラスチゾル組成物を基材に塗布し、例えば100〜250℃程度で数十秒〜数十分間程度加熱することにより、成型することができる。プラスチゾル成型層は塗布時にコテやローラー等を用いたり、エンボス処理、発泡処理等の加工によって意匠性を出すことができる。また、可塑剤のブリード防止や密着性向上等を目的として、基材とプラスチゾル組成物層の間やプラスチゾル組成物層と合成樹脂塗材層の間にプライマー処理やフィルムを施工しても良い。プラスチゾル成型層自体に意匠性があるため、合成樹脂塗材を薄く塗布して乾燥することによって意匠性に優れたパネルを得ることができる。このパネルは合成樹脂塗材を予め施工したものであるため、建築現場ではパネルを接着剤、テープ、ネジ、ビス、釘等で固定するだけでよいため、天候や季節に左右されることなく簡便に施工できる。また、前記パネルの製造方法によれば合成樹脂塗材の乾燥、養生時間の短縮化が可能となり、生産性を向上できる。
【0021】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。当然、本発明は実施例に何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0022】
アクリル系重合体粉末であるダイヤナールLP−3106(三菱レイヨン株式会社製、製品名)100重量部をDINP(ジイソノニルフタレート)100重量部に分散、Mホワイト(丸尾カルシウム、製品名、炭酸カルシウム)150重量部を混合することにより、プラスチゾル組成物Aを得た。
【0023】
実施例1
くし目コテ(目巾5mm×高さ5mm×溝巾5mm)を用いてプラスチゾル組成物Aをケイカル板に塗布量3000g/m2となるよう塗布し、150℃雰囲気下で5分間加熱することにより、ケイカル板上にプラスチゾル組成物層を形成した。次いで合成樹脂塗材であるジョリパットJP−100(アイカ工業株式会社製、製品名)を、スプレーガンを用いてプラスチゾル組成物層上に塗布量500g/m2となるよう塗布した。23℃、50%RH雰囲気下(以下、単に放置と記載した場合は同条件下)で3時間放置することにより乾燥が完了し、立体的な意匠を有するパネルを得た。
【0024】
比較例1
ケイカル板にプライマーとしてJS−410(アイカ工業株式会社製、製品名)をローラーにて塗布量200g/m2となるよう塗布し、4時間放置して乾燥させた。その後、くし目コテを用いてジョリパットJP−100を塗布量3000g/m2となるよう塗布し、48時間放置して乾燥させることにより立体的な意匠を有するパネルを得た。
【0025】
比較例2
ケイカル板にプライマーとしてJS−410をローラーにて塗布量200g/m2となるよう塗布し、4時間放置して乾燥させた。その後、くし目コテを用いてジョリパットJP−100を塗布量500g/m2となるよう塗布し、3時間放置して乾燥させることによりパネルを得た。このパネルは合成樹脂塗材の塗布量が少なかったため立体的な意匠性が十分ではなかった。
【0026】
従って、実施例1ではパネルを1日で製造可能であり、生産性に優れている。一方、比較例1では少なくとも3日を要すため、生産性に劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層、プラスチゾル組成物層、合成樹脂塗材層を有することを特徴とするパネル。
【請求項2】
基材層にプラスチゾル組成物を塗布、パターン付けして成型し、次いで合成樹脂塗材を塗布して塗膜を形成したことを特徴とする請求項1記載のパネル。
【請求項3】
前記プラスチゾル組成物がアクリルゾル組成物であることを特徴とする請求項1または2記載のパネル。
【請求項4】
前記合成樹脂塗材がアクリル系樹脂エマルジョンを含有することを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のパネル。
【請求項5】
基材層にプラスチゾル組成物を塗布して成型し、次いで合成樹脂塗材を塗布して塗膜を形成させることを特徴とするパネルの製造方法。

【公開番号】特開2009−167708(P2009−167708A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7648(P2008−7648)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】