説明

パネル部材の取付構造

【課題】 施工現場における溶接作業を必要とせず、機械的な連結のみにより取付けることが可能であり、天候に影響を受けることなく工程管理を進めることができて、且つ作業者の施工技術に影響を受けることなく安定した品質が得られるパネル部材の取付け構造を提供する。
【解決手段】 躯体15の下面に横長のルーズホール16aが設けられ、パネル部材14の上端付近の側面にロッド体11の一端を固定することができる受け部材17が埋設され、T形連結部材12は一端にT字状に両側へ延びる突出部12bを有し、他端にルーズホール12cを構成する環状部12dが設けられたものであり、T形連結部材は、そのT字状突出部が躯体下面のルーズホールに係合され、環状部にロッド体が挿通されて定着具13により固定され、ロッド体の先端が受け部材によりパネル部材に固定されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の躯体にほぼ垂直に設けられるPCパネル(プレキャストコンクリートのパネル)及びALCパネル等のパネル部材の取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
PCパネル及びALCパネル等のパネル部材を建物躯体へ取り付けるため、従来から実施されてきた取付構造としては、図6(a)〜(d)のものを挙げることができる。
【0003】
図6(a)の取付構造50は、躯体51の下面に溶接金物52が埋設され、壁パネル53の上端付近に切欠き部54が形成され、ここに予め溶接金物55が埋設され、これら両部材の溶接金物52,55どうしが溶接により接合されたものであり、壁パネル53の切欠き部は樹脂モルタル56等により埋められる。
しかしながら、溶接金物52,55どうしを溶接する際には、上向きで作業をしなければならないため作業性が悪く、しかも、接合部の品質は作業者の溶接技術に大きく影響を受ける。また溶接作業は天候に左右されやすく、工程管理が困難でもある。さらに、切欠き部に設けられる樹脂モルタルは経年劣化によるひび割れ、肌割れが生じやすいという課題もある。
【0004】
次に、図6(b)の取付構造60は、躯体61の下面にインサート付き金物62またはナット組込み箱金物(図示せず)が埋設され、壁パネル63の上端付近にボルト付き金物64が埋設され、これら両金物62,64にアングルファスナー65を取り付けることにより、壁パネル63を躯体61の下面に取り付けられたものである。
しかしながら、このような取付構造60では、アングルファスナー65が表面に現れた状態となり、美観上の問題が生じる。
【0005】
図6(c)の取付構造70は、プレキャストコンクリート構造の躯体71の下面に箱金物72が埋設され、壁パネル73の上端付近にシース管74が埋設され、躯体71を壁パネル73の上面に設置する時に、ピンボルト75を箱金物72に取り付けてシース管74内に挿入し、シース管74内にグラウト材76を注入してピンボルト75を固定することにより、壁パネル73を躯体71の下面に取り付けたものである。
しかしながら、このような取付構造70では、壁パネル73が先行取付けとなり、仮設サポート等による仮固定を要し、グラウト材76の強度発生まで仮設サポートが必要である。また構造的に重要なピンボルト75の挿入状況が目視確認できない。また躯体71がプレキャストコンクリートではなく、現場打ちコンクリートのような在来工法により形成される場合には適用が困難である。
【0006】
また図6(d)の取付構造80では、躯体81の下面に溶接金物82が予め埋設され、この溶接金物82に施工現場でアングルピース83が溶接され、壁パネル84には予めボルト付き金物85が埋設され、ここに図示のように曲折された板材86(イナズマプレート)が固定され、このイナズマプレート86と壁パネル84表面との隙間に、アングルピース83が係合されて壁パネル84が躯体81の下面に取り付けられる。
しかしながら、この取付構造80でも、溶接金物82にアングルピース83を固定する際に、上向きで溶接作業をしなければならず、図6(a)の取付構造50と同様な問題が生じるものである。
【0007】
なお、図6(a)〜(d)以外の先行技術を挙げれば、特許文献1には建物構造体の層間変位をルーズホールで吸収するようにしたカーテンウォールの取付構造が記載されており、特許文献2にはPCパネルにファスナーが埋設され、このPCファスナーを受けてPC板を躯体側に固定する固定金具が躯体コンクリートに埋設された鉄筋コンクリート構造物へのPC板の取付け構造が記載されている。
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載された発明に関しても、上述した問題を十分に解決するものではない。
【特許文献1】特開平10−169054号公報
【特許文献2】特開2000−328701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のような現状を鑑みて本発明の課題は、施工現場における溶接作業を必要とせず、機械的な連結のみにより取付けることが可能であり、天候に影響を受けることなく工程管理を進めることができて、且つ作業者の施工技術に影響を受けることなく安定した品質が得られるパネル部材の取付け構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、ロッド体とT形連結部材と定着具とを含むファスナーによりパネル部材がほぼ垂直に躯体下面に取り付けられたパネル部材の取付構造であって、躯体下面には横長のルーズホールが設けられ、パネル部材の上端付近の側面には前記ロッド体の一端を固定することができる受け部材が埋設され、T形連結部材は杆体の一端にT字状に両側へ延びる突出部を有すると共に杆体の他端にルーズホールを構成する環状部が設けられたものであり、該T形連結部材は、そのT字状突出部が躯体下面の横長のルーズホールに係合され、環状部にロッド体が挿通されて定着具により固定され、該ロッド体の先端が前記受け部材によりパネル部材に固定され、躯体層間変位によるパネル部材への影響を躯体下面のルーズホールで吸収するようにしたものであるパネル部材の取付構造が提供される。
【0010】
また本発明では、ロッド体とT形連結部材と定着具とを含むファスナーによりパネル部材がほぼ垂直に躯体下面に取り付けられたパネル部材の取付構造であって、躯体下面には前記ロッド体の一端を固定することができる受け部材が埋設され、パネル部材の上端付近の側面には横長のルーズホールが設けられ、T形連結部材は杆体の一端にT字状に両側へ延びる突出部を有すると共に杆体の他端にルーズホールを構成する環状部が設けられたものであり、該T形連結部材は、そのT字状突出部がパネル部材の横長のルーズホールに係合され、環状部にロッド体が挿通されて定着具により固定され、該ロッド体の先端が前記受け部材により躯体下面に固定され、パネル部材のルーズホールで躯体層間変位によるパネル部材への影響を吸収するようにしたものであるパネル部材の取付構造が提供される。
【0011】
本発明では、前記ロッド体として、少なくとも先端と後端の所定箇所に螺子山が形成された螺子ボルトを使用可能であり、前記受け部材として、該螺子ボルトを螺合し得る雌螺子部材を含むものを使用可能であり、前記T形連結部材の環状部に挿通したロッド体をワッシャー及びナットからなる定着具により固定することが可能である。
ロッド体、受け部材及び定着具をこのように構成することにより、ロッド体とT形連結部材の環状部とは、さらに容易に連結することが可能になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の取付構造は、T形連結部材がT字状突出部と環状部とを有し、T字状突出部が躯体又はパネル部材のルーズホールに係合され、環状部にロッド体が挿通されて定着具で固定され、このロッド体の先端がパネル部材又は躯体に固定されることにより、パネル部材が躯体に取り付けらたものであるため、施工現場における溶接作業を必要とせず、全て機械的な係合や連結のみにより取付構造を形成することが可能である。
したがって、天候に影響を受けることなく工程管理を進めることができて、且つ作業者の施工技術に影響を受けることなく安定した品質が得られる。
さらに、躯体層間変位によるパネル部材の面内方向への影響は、躯のルーズホールとT形連結部材との係合部により吸収することができ、またパネル部材を取り付ける際の寸法調整は、T形連結部材の環状部(ルーズホール)へのロッド体の挿通箇所で容易に行い得るものであり、これにより、本発明の取付構造は施工性の良好なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0014】
〔第一の実施形態〕
図1は第一の実施形態を説明するため、一部の部材を緩めて示した斜視図であり、その断面図が図2である。
図1及び図2の取付構造10は、螺子ロッド11とT形連結部材12と定着具13とを含むファスナーにより壁パネル14が梁又は床スラブ等の躯体15の下面に取り付けられたものであり、特に、図3のようなT形連結部材12を用いることに特徴がある。
【0015】
ここで、T形連結部材12は、図3に示したように、杆体12aの一端にT字状に両側へ延びるT字状突出部12bを有し、杆体12aの他端にルーズホール12cを構成する環状部12dを有するものである。T字状突出部12bは、その軸方向Aが環状部12dの面内方向Bに対して交差する角度、好ましくはほぼ90°になるように杆体12aに設けられる。
螺子ロッド11は、螺子ボルト全長に螺子山が形成されたものを使用することができるが、少なくとも先端と後端の所定箇所に螺子山が形成されたものであれば良い。つまり、壁パネル14に固定される先端と、T形連結部材12の環状部12dに固定される後端との少なくとも両端に螺子山が形成されたものであれば使用可能である。
躯体15の下面には横長のルーズホール16aを有する箱金物16が予め埋設される。この箱金物16は、横長のルーズホール16aの延長方向が壁パネル14の面内方向に対して平行になるように配置される。横長のルーズホール16aは、T形連結金物12のT字状突出部12bを挿入可能、且つ係止可能な形状に形成される。
壁パネル14には、躯体15の箱金物16に対応するように、その上端付近の側面に切欠部14aが形成され、この切欠部14aに螺子ロッド11の一端を固定することができる受け部材17が埋設される。受け部材17は、雌螺子が形成されたインサート17aと、このインサート17aを受入れる孔が形成された孔付き鋼板17b(インサート金物)とから構成することができる。
【0016】
本発明の取付構造10では、T形連結部材12のT字状突出部12bが、躯体15の箱金物16のルーズホール16aに挿入されてほぼ90°回転され、図1のように係合される。このとき、T形連結部材12のルーズホール12cは受け部材17に対向配置される。このT形連結部材12のルーズホール12cに螺子ロッド11が挿入され、その先端が受け部材17のインサート17aに螺合される。螺子ロッド11の後端側には、ワッシャープレート13aが通されてナット13bで締め込まれ、T形連結部材12の環状部12dが受け部材17に押し付けられて固定される。このT形連結部材12の環状部12dと、孔付き鋼板17bとの隙間が大きい場合には、この隙間に厚さ調整用ライナー18が設けられ、T形連結部材12の杆体12aがほぼ垂直になるように調整される。壁パネル14の切欠部14aは、プレート19をネジや釘により固定して塞がれる。
なお、本発明の取付構造10は壁パネル14の上端付近に設けられ、壁パネル14が躯体層間変位に追従可能で面内方向に可動なようにするものであり、壁パネル14の自重や面外方向力は、壁パネル14の下端付近に設けられるファスナー(図示せず)により支持され、固定されるものである。
【0017】
以上のように、本発明の取付構造10では、壁パネル14を躯体15に取り付ける際に施工現場における溶接作業を必要とせず、全て機械的な係合や連結のみにより取付構造を形成することが可能であるため、天候に影響を受けることなく工程管理を進めることができて、且つ作業者の施工技術に影響を受けることなく安定した品質が得られる。
また躯体層間変位による壁パネル14の面内方向への影響は、躯体15のルーズホール16aとT形連結部材12との係合部により吸収することができ、壁パネル14を取り付ける際の寸法調整は、T形連結部材12のルーズホール12cへの螺子ロッド11の挿通箇所で容易に行い得るものであり、これにより、本発明の取付構造は施工性の良好なものとなる。
【0018】
〔第二の実施形態〕
図4は第二の実施形態を説明するため、一部の部材を緩めて示した斜視図であり、その断面図が図5である。図4及び図5の取付構造30は、壁パネル31が梁又は床スラブ等の躯体32の側面に取り付けられる点で、第一の実施形態とは異なるが、螺子ロッド11とT形連結部材12と定着具13とを含むファスナーは共通のものが使用される。
壁パネル31の上端付近の側面には箱金物33が埋設され、この箱金物33は横長のルーズホール33aを有し、このルーズホール33aがほぼ水平方向に延びるように箱金物33は配置されている。一方、躯体32の下面にも、壁パネル31の箱金物33に対向する配置で切欠部34が設けられ、この切欠部34に受け部材35が埋設される。受け部材35は、ルーズホール35aを有する箱金物35bと、内部に可動に設けられたナット35cとから構成されている。
【0019】
第二の実施形態の取付構造30では、T形連結部材12のT字状突出部12bが、壁パネル31の箱金物33のルーズホール33aに挿入されてほぼ90°回転され、図4のように係合される。T形連結部材12のルーズホール12cには、螺子ロッド11が挿入され、その上端が躯体32下面の箱金物35bのルーズホール35aに挿入され、ナット35cが螺合される。螺子ロッド11の下端側には、ワッシャープレート13aが通されてナット13bで締め込まれ、T形連結部材12の環状部12dが箱金物35bに押し付けられて固定される。このT形連結部材12の環状部12dと、箱金物35bとの隙間が大きい場合には、この隙間に厚さ調整用ライナー18が設けられ、T形連結部材12の杆体12aがほぼ水平になるように調整される。躯体32下面の切欠部34は、プレート(図示せず)やネジや釘により固定して塞ぐことができる。
【0020】
第二の実施形態の取付構造30においても、第一の実施形態と同様に、天候に影響を受けることなく工程管理を進めることができて、且つ作業者の施工技術に影響を受けることなく安定した品質が得られる。また躯体層間変位による壁パネル14の面内方向への影響は、壁パネル31の箱金物33のルーズホール33aと、T形連結部材12のT字状突出部12bとの係合部により吸収することができる。さらに、壁パネル31を取り付ける際の寸法調整は、T形連結部材12のルーズホール12cへの螺子ロッド11の挿通箇所、及び躯体32下面の箱金物35bのルーズホール35aへの螺子ロッド11の挿通箇所で容易に行い得るものであり、これにより良好な施工性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第一の実施形態の斜視図である。
【図2】第一の実施形態の断面図である。
【図3】本発明に用いられるT形連結部材の斜視図である。
【図4】第二の実施形態の斜視図である。
【図5】第二の実施形態の斜視図である。
【図6】(a)〜(d)は従来例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0022】
10 取付構造
11 螺子ロッド
12 T形連結部材
12a 杆体
12b T字状突出部
12c ルーズホール
12d 環状部
13 定着具
13a ワッシャープレート
13b ナット
14 壁パネル
15 躯体
16 箱金物
16a 横長のルーズホール
17 受け部材
17a インサート
17b 孔付き鋼板
30 取付構造
31 壁パネル
32 躯体
33 箱金物
33a 横長のルーズホール
35 受け部材
35a ルーズホール
35b 箱金物
35c ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッド体とT形連結部材と定着具とを含むファスナーによりパネル部材がほぼ垂直に躯体下面に取り付けられたパネル部材の取付構造であって、
躯体下面には横長のルーズホールが設けられ、パネル部材の上端付近の側面には前記ロッド体の一端を固定することができる受け部材が埋設され、T形連結部材は杆体の一端にT字状に両側へ延びる突出部を有すると共に杆体の他端にルーズホールを構成する環状部が設けられたものであり、
該T形連結部材は、そのT字状突出部が躯体下面の横長のルーズホールに係合され、環状部にロッド体が挿通されて定着具により固定され、該ロッド体の先端が前記受け部材によりパネル部材に固定され、躯体層間変位によるパネル部材への影響を躯体下面のルーズホールで吸収するようにしたものであるパネル部材の取付構造。
【請求項2】
ロッド体とT形連結部材と定着具とを含むファスナーによりパネル部材がほぼ垂直に躯体下面に取り付けられたパネル部材の取付構造であって、
躯体下面には前記ロッド体の一端を固定することができる受け部材が埋設され、パネル部材の上端付近の側面には横長のルーズホールが設けられ、T形連結部材は杆体の一端にT字状に両側へ延びる突出部を有すると共に杆体の他端にルーズホールを構成する環状部が設けられたものであり、
該T形連結部材は、そのT字状突出部がパネル部材の横長のルーズホールに係合され、環状部にロッド体が挿通されて定着具により固定され、該ロッド体の先端が前記受け部材により躯体下面に固定され、パネル部材のルーズホールで躯体層間変位によるパネル部材への影響を吸収するようにしたものであるパネル部材の取付構造。
【請求項3】
前記ロッド体として、少なくとも先端と後端の所定箇所に螺子山が形成された螺子ボルトを使用し、前記受け部材として、該螺子ボルトを螺合し得る雌螺子部材を含むものを使用し、前記T形連結部材の環状部に挿通したロッド体をワッシャー及びナットからなる定着具により固定したものである請求項1又は請求項2に記載のパネル部材の取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−63776(P2008−63776A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241064(P2006−241064)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)
【Fターム(参考)】