説明

パラジウム−コバルトベースの合金

【課題】良好な耐食性を有し、そして非磁性特性を有する歯科用合金を提供すること。
【解決手段】金が添加された、パラジウム−コバルト二元系をベースとする非磁性合金12が提供される。この非磁性合金は、約13.8〜約15の熱膨張係数(CTE)を有し、そして以下の添加金属:アルミニウム、ホウ素、クロム、ガリウム、リチウム、レニウム、ルテニウム、ケイ素、タンタル、チタン、およびタングステンのうちの1つ以上を含有し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、2007年8月28日に出願された米国出願番号11/892,933の一部継続出願であり、この米国出願は、米国特許法第119条の下で、2006年9月15日に出願された仮出願番号60/844,672に対する優先権を主張する。これらのすべては、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、新規なパラジウム−コバルトベースの合金を提供する。この合金は、例えば、鋳造金属の歯科用物品または修復物を作製する際、および特に、合金−磁器(金属に融合した磁器(「PFM」))修復物のために、使用され得る。
【背景技術】
【0003】
以下の議論において、特定の構造体および/または方法が参照される。しかし、以下の参照は、これらの構造体および/または方法が先行技術を構成するという承認であると解釈されるべきではない。出願人は、このような構造体および/または方法が先行技術としてふさわしくないことを実証する権利を、明示的に留保する。
【0004】
1950年代後期以来、歯科用のクラウンおよびブリッジなどは、磁器の前装を有する鋳造金属基材を備える複合材を用いて作製されている。この複合材は、金属と磁器との間に結合が存在し、その結果、この複合材が個々の構成部分より強くなるような様式で、製造される。このような複合材を配合する場合に、数個の局面に取り組むべきである。
【0005】
美的問題が、考慮されるべき1つの局面である。このような複合材を使用する主要な理由は、自然な歯列の自然色を再現することである。健常な自然な歯列のエナメル層は、半透明性が高く、そして磁器は、同様の半透明性を有するように作製され得る。エナメルの半透明性は、健常なぞうげ質の色が見えることを可能にする。ぞうげ質の色は、通常、黄色がかった色合いである。磁器/合金の組み合わせが複合材として効果的であるためには、酸化物の層がこの合金上に存在して、この磁器との結合を形成しなければならない。金の含有量が高い合金は、適切な美しさのために、この磁器のための適切な黄色がかった背景を提供し得るが、合金化元素は、暗灰色から黒色の酸化物層を形成し得、これは、下にある黄色がかった背景色を隠し得る。さらに、より多量の合金化元素は、有色酸化物層を形成し、これは、下にある合金の金色をさらに減少させ得るか、または排除し得る。
【0006】
機械特性が、考慮されるべき別の局面である。American National Standards Institute/American Dental Association(「ANSI/ADA」)仕様#38およびInternational Organization for Standardization(「ISO」)標準IS09693は、この合金について、少なくとも250メガパスカル(「MPa」)の降伏強度を要求する。金ベースの合金においてこのような強度を達成するためには、かなりの量の合金化元素が添加されなければならず、その結果、その合金は、灰色により近い色を有する。より大きい強度を提供することが必要であると考えられた。なぜなら、この合金が、ほとんど強度(特に、張力)を有さず延性を有さない磁器を支持したからである。金属の任意のわずかな変形が、その磁器層の破壊をもたらし得る。上記標準の最小値は、これらの標準の開発の時点で首尾よく使用されていた試験合金に基づいて設定された。その結果、この最小値より小さい値を有する合金が首尾よく使用されて以来、この最小要求値が疑わしいものになっている。また、1つのクラウンについての最小要求値は、3単位以上のブリッジから構成されるクラウンについての最小要求値よりも低いべきであることが示されている。
【0007】
ドイツのKiel大学での公開されていない研究は、30キログラム〜35キログラムの力が、患者に疼痛を引き起こし、一方で、1つの例においては、75キログラムの力が歯の破壊を引き起こしたことを示した。
【0008】
物理特性が、考慮されるべき別の局面である。上記標準は、熱膨張係数(「CTE」)についての最小値も最大値も要求しないが、これらの標準は、CTE値が磁器と合金との両方について与えられることを要求する。このことは、一般的な認識が、磁器の熱膨張係数と合金の熱膨張係数とが、これらの2つの適合性を保証する目的で「合う」べきである、ということに起因する。この認識は、これらの2つの間の応力が、加熱中ではなく冷却中に起こること、および磁器の冷却率と金属の冷却率とが非常に有意に異なることを、考慮していない。
【0009】
合金が磁器の焼成中に部分的にさえも融解しないように、合金の固相線が磁器の焼成温度より充分に高くなければならないことは、容易に理解される。
【0010】
化学特性が、考慮されるべき別の局面である。金属への磁器の結合は、直接的には起こらない。むしろ、この結合は、磁器と金属酸化物層との間で起こる。通常のPFM手順は、鋳造用合金を適切な温度まで加熱して、この合金の表面に金属酸化物層を生成することである。この酸化物がこの合金に接着しない場合、この酸化物は、磁器への付着により簡単に除去され得る。この結合のいくらかは単に機械的であるが、主要な結合は、磁器内の金属酸化物、および金属酸化物内の磁器の相互溶解物(拡散接合として公知)として起こる。酸化物が磁器に可溶性でない場合、かつ/または磁器が酸化物に可溶性でない場合、結合は起こらない。磁器が焼成されるときに、小さい粒子とより大きい粒子の表面とが融合(融解)し、そしてこの液体の磁器と金属酸化物層とが、液体または固体のいずれかの拡散によって、溶解物を形成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般に、歯科用途のための全ての合金は、非磁性であることが望ましい。特定の歯科用合金は、歯科用途において望ましくない磁性効果を生じることが見出された。良好な耐食性を有し、そして非磁性特性を有する歯科用合金を提供することが、有利である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
重量%で
パラジウム 約20〜約36.7
コバルト 約38〜約54
クロム 約16〜約22
金 約0.1〜約5
アルミニウム 0〜約3.4
モリブデン 0〜約12.9
タングステン 0〜約13
ガリウム 0〜約2.6
ケイ素 0〜約0.5
ルテニウム 0〜約0.5
レニウム 0〜約0.5
マンガン 0〜約0.3
ホウ素 0〜約0.2
鉄 0〜約0.3
リチウム 0〜約0.2
を含有するベース組成物を含有する、歯科用合金であって、該歯科用合金は、非磁性であり、モリブデン、タングステン、またはこれらの組み合わせが3%以上である、歯科用合金。
(項目2)
25℃〜500℃において約13.8〜約15.0の熱膨張係数を有する、上記項目に記載の歯科用合金。
(項目3)
パラジウムおよび金の量が25%以上である、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目4)
パラジウムおよび金が、前記組成物中の唯一の貴金属である、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目5)
融解温度が約1040℃〜約1350℃の範囲である、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目6)
前記合金がセラミック材料またはガラスセラミック材料に結合されていることを特徴とする、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目7)
前記セラミック材料または前記ガラスセラミック材料が、磁器を含む、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目8)
前記結合が酸化物層を含む、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目9)
上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金を含有する歯科用物品。
(項目10)
歯科用クラウンまたは歯科用ブリッジを含む、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用物品。
(項目11)
重量%で
パラジウム 約24.5〜約35
コバルト 約38〜約50
クロム 約17〜約22
金 約0.1〜約5
アルミニウム 0〜約3.4
モリブデン 約9〜約12.9
タングステン 約1.5〜約13
ガリウム 約1.0〜約2.6
ケイ素 0〜約0.5
ルテニウム 0〜約0.5
レニウム 0〜約0.5
マンガン 0〜約0.3
ホウ素 0〜約0.2
鉄 0〜約0.3
リチウム 0〜約0.2
を含有するベース組成物を含有する、歯科用合金であって、該歯科用合金は、非磁性である、歯科用合金。
(項目12)
パラジウムおよび金の量が25%以上である、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目13)
パラジウムおよび金が、前記組成物中の唯一の貴金属である、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目14)
融解温度が約1040℃〜約1350℃の範囲である、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目15)
前記合金がセラミック材料またはガラスセラミック材料に結合されていることを特徴とする、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目16)
前記セラミック材料または前記ガラスセラミック材料が、磁器を含む、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目17)
前記結合が酸化物層を含む、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目18)
上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金を含有する歯科用物品。
(項目19)
歯科用クラウンまたは歯科用ブリッジを含む、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用物品。
(項目20)
重量%で
パラジウム 約24.5〜約35
コバルト 約38〜約50
クロム 約18〜約22
金 約1〜約3
アルミニウム 0〜約3.4
モリブデン 約10〜約12.9
タングステン 約1.5〜約13
ガリウム 約2.0〜約2.6
ケイ素 0〜約0.5
ルテニウム 0〜約0.5
レニウム 0〜約0.5
マンガン 0〜約0.3
ホウ素 0〜約0.2
鉄 0〜約0.3
リチウム 0〜約0.2
を含有するベース組成物を含有する、歯科用合金であって、該歯科用合金は、非磁性である、歯科用合金。
(項目21)
パラジウムおよび金の量が25%以上である、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目22)
パラジウムおよび金が、前記組成物中の唯一の貴金属である、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目23)
融解温度が約1040℃〜約1350℃の範囲である、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目24)
前記合金がセラミック材料またはガラスセラミック材料に結合されていることを特徴とする、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目25)
前記セラミック材料または前記ガラスセラミック材料が、磁器を含む、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目26)
前記結合が酸化物層を含む、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目27)
上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金を含有する歯科用物品。
(項目28)
歯科用クラウンまたは歯科用ブリッジを含む、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用物品。
(項目29)
重量%で
パラジウム 約24.5〜約30
コバルト 約38〜約44
クロム 約18〜約22
金 約0.4〜約3
アルミニウム 0〜約2.0
モリブデン 約10〜約12.9
タングステン 約1.5〜約4
ガリウム 約2.0〜約2.6
ケイ素 0〜約0.5
ルテニウム 0〜約0.5
レニウム 0〜約0.5
マンガン 0〜約0.3
ホウ素 0〜約0.2
鉄 0〜約0.3
リチウム 0〜約0.2
を含有するベース組成物を含有する、歯科用合金であって、該歯科用合金は、非磁性である、歯科用合金。
(項目30)
パラジウムおよび金の量が25%以上である、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目31)
パラジウムおよび金が、前記組成物中の唯一の貴金属である、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目32)
融解温度が約1040℃〜約1350℃の範囲である、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目33)
セラミック材料またはガラスセラミック材料に結合されている、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目34)
前記セラミック材料または前記ガラスセラミック材料が、磁器を含む、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目35)
前記結合が酸化物層を含む、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金。
(項目36)
上記項目のいずれか一項に記載の歯科用合金を含有する歯科用物品。
(項目37)
歯科用クラウンまたは歯科用ブリッジを含む、上記項目のいずれか一項に記載の歯科用物品。
【0013】
(本開示の摘要)
金が添加された、パラジウム−コバルト二元系をベースとする非磁性合金が提供される。この非磁性合金は、約13.8〜約15の熱膨張係数(CTE)を有し、そして以下の添加金属:アルミニウム、ホウ素、クロム、ガリウム、リチウム、レニウム、ルテニウム、ケイ素、タンタル、チタン、およびタングステンのうちの1つ以上を含有し得る。
【0014】
(要旨)
本発明は、従来の技術に関連する上記欠点のうちの1つ以上を必要に応じて克服し得る、組成物、材料および技術を提供する。
【0015】
本発明の1つの局面は、通常の融解プロセスによって、棒に鋳造されて所望の厚さに圧延されることにより製造され得るか、あるいはIngersollらに対する米国特許第5,799,386号(発明の名称「Process Of Making Metal Castings」、1998年9月1日発行、その全体が本明細書中に参考として援用される)の霧化および圧縮の方法により製造され得る、合金を提供する。
【0016】
本発明の別の局面は、通常の磁器の焼成中に融合が起こらないために充分に高い固相線を有する合金を提供する。
【0017】
本発明の別の局面は、磁器と適合性であることが示されている範囲内のCTEを有する合金を提供する。
【0018】
本発明の別の局面は、通常の歯科手順によって容易に鋳造され得、そして通常の歯科実験室手順を使用して再鋳造され得る、合金を提供することである。
【0019】
本発明の別の局面は、粉砕され得、高光沢に研磨され得る鋳造用合金ユニットを提供する。
【0020】
本発明の別の局面は、磁器層の見掛けの色に影響を与えない淡い酸化物色を有し、そしてこの酸化物が磁器の焼成中に増加しない、合金を提供する。
【0021】
本発明の別の局面は、磁器の焼成温度に加熱される場合に、薄く、連続的な粘り強い酸化物が形成され、そして拡散接合によって、合金と磁器との間に強い結合を生じさせる、合金を提供する。
【0022】
本発明の別の局面は、患者に疼痛を引き起こす負荷を超える負荷に耐えるための強度を有する合金を提供する。
【0023】
本発明の1つの実施形態により形成される合金は、パラジウム−コバルト二元合金であり、この合金において、パラジウムは約20重量%〜約90重量%であり、そしてコバルトは約10重量%〜約80重量%である。熱膨張係数(CTE)は、約14.0〜約15.3である。約0重量%から約20重量%までの以下の金属が、ベースのPd/Co合金に添加され得る:アルミニウム、ホウ素、クロム、ガリウム、リチウム、レニウム、ルテニウム、ケイ素、タンタル、チタン、タングステンまたはこれらの組み合わせ。
【0024】
本発明の別の局面は、約27重量%〜約30重量%のPd、約55重量%〜約58重量%のCo、約8重量%〜約11重量%のCr、約2.5重量%〜約4重量%のW、約1重量%〜約2.5重量%のGa、および約1重量%未満のAl、Si、B、Li、またはこれらの組み合わせを含有する合金を提供することである。
【0025】
本発明の別の局面は、歯科用合金に融合した歯科用磁器組成物を含有する歯科用物品または修復物を提供することであり、この合金は、約20重量%〜約90重量%のPd、約10重量%〜約80重量%のCoおよび約0重量%〜約20重量%のアルミニウム、ホウ素、クロム、ガリウム、リチウム、レニウム、ルテニウム、ケイ素、タンタル、チタン、タングステンまたはこれらの組み合わせを含有する。
【0026】
なお別の局面によれば、本発明は、パラジウムおよびコバルトを含有するベース組成物を含有する合金を提供し、パラジウムおよびコバルトの量は、比で表わすと、約10:80〜約80:10であり、この合金は、Au、Pt、Cr、Mo、W、Fe、Al、Si、Mn、Ga、Ta、Ti、Ru、Re、およびこれらの組み合わせから選択される、約0重量%〜約30重量%の添加物をさらに含有し、この合金の熱膨張係数は、25℃〜500℃において約14.0〜約15.5である。
【0027】
さらなる局面によれば、本発明は、セラミック材料またはガラスセラミック材料(この材料は必要に応じて、磁器を含有し得る)と合わせられた、上記合金のうちの1つ以上を提供する。
【0028】
さらなる局面によれば、合金(単数もしくは複数)とセラミックまたはガラスセラミックとは、必要に応じて酸化物層によって、一緒に結合する。なおさらなる局面によれば、歯科用物品(例えば、クラウンまたはブリッジなどの修復物)は、本発明の合金および/または組み合わせを含有し得る。
【0029】
なお別の局面によれば、本発明の1つの実施形態は、金をさらに含有する、パラジウムコバルト合金を提供する。この合金は、非磁性の特性および良好な耐食性を示す。この合金は、Pt、Cr、Mo、W、Fe、Al、Si、Mn、Ga、Ta、Ti、Ru、Re、およびこれらの組み合わせから選択される、さらなる添加物をさらに含有し得る。
【0030】
本発明のこれらおよび他の局面は、以下の詳細な説明および添付の実施例を精査すると、明らかになる。これらの詳細な説明および実施例は、本発明の説明として本明細書中に記載されるのであり、本発明をいずれの方法でも限定しない。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、良好な耐食性を有し、そして非磁性特性を有する歯科用合金を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、本発明の1つの局面により形成された歯科用物品の概略図である。
【図2】図2は、図1の物品の一部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の合金(単数もしくは複数)により、この合金を金属に融合した磁器(PFM)の用途のために適切にする、数個の特性が示される。この合金は、色が灰色であり、そして酸化した鋳造用合金基材に磁器を結合させるための酸化物コーティングを備える。この合金は、義歯を鋳造するため、および磁器の支持のための機械特性を有し、そして明るいシーン現象が得られるまで容易に研磨される。この合金は、パラジウム−コバルト二元系の部分をベースとし、ここでパラジウムは約20重量%〜約90重量%であり、そしてコバルトは約10重量%〜約80重量%であり、約14.0〜約15.3の範囲の熱膨張係数(CTE)を与える。約20重量%までの以下の金属:アルミニウム、ホウ素、クロム、ガリウム、リチウム、レニウム、ルテニウム、ケイ素、タンタル、チタン、タングステンまたはこれらの組み合わせがこのベースPd/Co合金に添加されて、物理特性、化学特性、機械特性および取り扱い特性を改善し得る。本発明の合金は、通常の磁器の焼成中に融解が起こらないために充分に高い固相線、および磁器と適合性であることが実証された範囲の熱膨張係数(CTE)を有し得る。
【0034】
本発明の合金は、通常の歯科手順によって容易に鋳造され得、そして通常の歯科実験室手順を使用して再鋳造され得る。鋳造用合金ユニットは、粉砕され得、そして高光沢まで研磨され得る。この合金は、磁器層の見掛けの色に影響を与えない淡い酸化物色を有し得、そしてこの酸化物は、磁器の焼成中に増加しない。磁器の焼成温度に加熱されると、薄い、連続的な粘り強い酸化物が形成され、この酸化物は、磁器との結合に加わる。この合金は、患者に疼痛を引き起こす負荷を超える負荷に耐える強度を有する。
【0035】
本発明の合金は、パラジウム−コバルトのベースを使用しながら、美的要件に合い得る。すなわち、この合金系は、自然な歯列の自然色を再現する。健常な自然な歯列のエナメル層は、半透明性が高く、そして類似の半透明性を有する磁器が作製され得る。このエナメルの半透明性は、健常なぞうげ質の色が見えることを可能にする。この色は、通常、黄色がかった色合いを有する。磁器と合金との組み合わせを用いる場合、酸化物の層が、磁器との結合を形成するために存在しなければならない。金の含有量が高い合金は、磁器に黄色がかった背景を提供し得る一方で、他の金属は、費用が法外に高く、そして合金(例えば、ニッケル、コバルト、パラジウムなど)は、灰色の背景を提供する。
【0036】
適切な結合のために、合金化元素は、鋳造金属表面に酸化物を形成する。この暗灰色から黒色の酸化物層は、磁器の前装層の見掛けの色に影響を与え得る。本発明の合金系は、酸化物層の量および色を調節するために添加される元素を含有し得、これらの元素は、アルミニウム、ホウ素、クロム、ケイ素、鉄、マンガン、および/またはガリウムを含むがこれらに限定されない群から選択される。
【0037】
この合金の機械特性は、ANSI/ADA仕様#38およびISO標準IS09693に従う。これらの仕様および標準は、合金について少なくとも約250MPaの降伏強度を要求する。このような強度を達成するためには、クロム、ケイ素、タンタル、チタン、および/またはタングステンを含むがこれらに限定されない群から選択される、有意な量の合金化元素が、この合金配合物に添加され得る。
【0038】
上記標準は、熱膨張係数(CTE)についての最小値も最大値も要求しない。しかし、CTE値を含めた物理特性が、磁器と合金との両方について調節され得る。本発明の合金は、結晶粒度を調節するために添加される、クロム、ガリウム、タンタル、チタン、タングステン、レニウムおよび/またはルテニウムを含むがこれらに限定されない群から選択される元素を含有し得る。融解中および鋳造中に酸化を調節するために添加され得る元素としては、アルミニウム、ホウ素、リチウム、ケイ素、鉄、マンガン、および/またはガリウムが挙げられるが、これらに限定されない。また、伝熱率が考慮され得る。磁器の焼成温度から冷却されるときに、磁器と合金との両方の収縮が起こり、そしてより速く冷える合金のほうが速く収縮し、従って、磁器と金属との結合に引張り力を加える。この収縮の不均衡が大きすぎる場合、この複合材が室温に達すると、この磁器はもはやこの合金に結合しない。合金が焼成中に部分的にさえも融解しないために、この合金の固相線は、磁器の焼成温度より有意に高くなければならないことが容易に理解される。磁器と本発明の合金との結合に関して、この結合は、磁器と金属との間に起こるのではなく、磁器と金属酸化物層(この磁器の焼成前および焼成中に合金が加熱される際に形成される)との間に起こる。この酸化物がこの合金に対して粘着性ではない場合、この酸化物は単に、この磁器によって除去され得る。この結合のいくらかは単に機械的であるが、主要な結合は、磁器内への金属酸化物の拡散、および金属酸化物内への磁器の拡散として起こる。これらの酸化物がこの磁器に可溶性ではない場合、かつ/またはこの磁器がこれらの酸化物に可溶性ではない場合、結合は起こらない。
【0039】
本発明の特定の局面の例示的な実施形態が、図1〜図2に示されている。本発明により形成される合金を含有する複合材が、これらの図に図示されている。具体的には、この複合材は、歯科用物品10(例えば、修復物)の形態で図示されている。図示されるように、歯科用物品10は、上記のような本発明の原理により形成された合金12を、この合金に結合した第二の材料(例えば、磁器層14)と合わせて含有し得る。図2に最もよく図示されるように、合金12は、本明細書中に記載されるように、第二の材料すなわち磁器14に、酸化物層16を介して結合する。もちろん、本発明は、図示される実施形態に限定されず、多数の代替の複合材および/または歯科用物品が想定される。
【0040】
本発明の別の実施形態において、パラジウム−コバルト合金は、追加のものとして金を含有することが好ましい。この合金への金の含有は、この合金の耐食性を改善し、そして鋳造中の製品の流動性を改善する。この合金は、Pt、Cr、Mo、W、Fe、Al、Si、Mn、Ga、Ta、Ti、Ru、Re、およびこれらの組み合わせから選択される、さらなる添加物をさらに含有し得る。
【0041】
本明細書中の特定の合金について、固相点(融解範囲の始点により定義される)は、歯科用義歯のいかなるひずみもなしで市場の高融合性磁器の使用に適合する目的で、少なくとも約1050℃である。この固相点はさらに、この修復物に損傷を与えることなく、市場で入手可能なプレソルダーを使用する修復作業を可能にする。本明細書中の特定の合金について、液化点(融解範囲の終点により規定される)は、合金の容易な融解のために、約1350℃より低い。市場の誘導鋳造機のほとんどについて、温度の上限は1500℃である。金属を融解して鋳造のために適切な流動性に達する目的で、合金の液化点より少なくとも100℃高い温度が達成されなければならない。
【0042】
この組成物は、以下の成分を含有することが好ましい:
【0043】
【表1】

25℃〜500℃における合金のC.T.Eは、市場の高融合性磁器のほとんどと一緒に働く目的で、約13.9×10−6/℃/単位長さ〜約14.9×10−6/℃/単位長さであるべきである。
【0044】
この組成物中の鉄は、セラミックに対する合金の結合強度を増大させる。この組成物中のガリウムおよびホウ素は、液化温度の制御を補助し、そして融解特性および鋳造特性を改善する。この組成物中のクロムは、耐食性を改善し、そして非磁性特性を促進する。この組成物中のモリブデンおよびタングステンは、CTEの制御を補助し、より具体的には、CTEの低下を補助する。
【0045】
Au、Al、Si、Ga、B、およびLiの組み合わせは、温度を低下させ、融解した合金の流動性を改善し、そしてCTEを制御する。Au、Cr、およびPdの組み合わせは、耐食性を増大させ、CTEを制御し、そして生体適合性を改善する。FeおよびMnの組み合わせは、金属−セラミック系の結合強度を改善する。MoおよびWの組み合わせは、CTEを、25℃〜500℃において約13.9×10−6/℃/単位長さ〜約14.9×10−6/℃/単位長さの範囲で数を減少させることにより、制御する。AuおよびPdの組み合わせは、25.0%以上であることが好ましい。25.0%以上のAuおよびPdの組み合わせは、その合金を貴金属歯科用合金にする。AuおよびPdは、その組成物中に存在する唯一の貴金属であることが好ましい。1065℃の融解温度を有するAuおよび1554℃の融解温度を有するPdの組み合わせは、歯科用合金のために最適な融解温度(多くの歯科用磁器と適合性である)を提供する。
【0046】
さらに、上記表1に記載される組成物のほとんどは、非磁性であり、そして範囲2および範囲3の組成物は全て、非磁性である。非磁性特性を提供するために、正しい量のPdおよびCoを組成物に添加することが重要である。多すぎるCoは、磁性合金を生成し得る。Coは、非磁性特性を提供するために、Pdと釣り合いを取られなければならない。Crの量もまた、磁性特性に影響を与え、特定の量のCoが存在する場合、その組成物を減磁することを補助する。Coの存在量がPdとCoとの合計の11%より多い場合、Crの量は、非磁性合金を提供するために、少なくとも16%でなければならない。
【0047】
以下の実施例は、説明を目的とする。このような詳細はその目的のためのみであることが理解され、そしてこれらの実施例において、当業者によって、添付の特許請求の範囲により規定される本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、改変がなされ得る。
【実施例】
【0048】
実施例1〜7(熱膨張係数(CTE))
現代の用途において本発明の合金を磁器と一緒に首尾よく使用するためには、CTEは、約14.0〜約15.3の範囲であるべきである。2つの金属が合金のベースを構成する場合、このような合金のCTEは、各金属のCTE間のいずれかであることが予測される。このことは、パラジウムとコバルトとの合金については、必ずしも事実である必要はないことが決定された。Pdは12.5のCTEを有し、そしてCoは11.75のCTEを有するにもかかわらず、Pd/Coの合金を含有する本発明の合金は、以下の実施例に示されるように、より高い値を有する。以下の実施例において、列挙される量は、重量%で表わされる:
【0049】
【表2】

実施例8〜12(固相線)
本発明の特定の実施形態の合金の最低固相線温度は、この合金が磁器の焼成中にその表面で融解し始めないようにするために、約1025℃、より好ましくは1040℃であるように決定される。
【0050】
【表3】

合金9および11は、必要とされる最小の固相線温度に合わないようである。
【0051】
実施例13を、以下の表4に記載する。
【0052】
【表4】

実施例14〜21(固相線)を、以下の表5に記載する:
【0053】
【表5】

合金17、18および19は、必要とされる最小の固相線温度に合わない。
【0054】
実施例22〜44
以下の実施例は、融解特性を示す:
【0055】
【表6】

コントロール
【0056】
【表7】

コントロール
【0057】
【表8】

コントロール
コントロール実験は、好ましい組成物の範囲の外側である。実施例22〜24は、磁性である。残りの実施例は、非磁性である。実施例25〜28および36は、Auを含有せず、そして高いCTEを示すか、または融解が困難であるかのいずれかである。実施例37および38は、必要とされる量のMoまたはWを含有せず、そして必要とされるCTEの範囲外である。
【0058】
CTEが25℃〜500℃において約13.8〜15の範囲であることが好ましい。
【0059】
本明細書中で使用される、成分の量、構成要素、反応条件などを説明する全ての数字は、全ての例において、用語「約」によって修飾されると理解されるべきである。記載される数値範囲およびパラメータにもかかわらず、本明細書中に提示される主題の広い範囲は近似値であり、記載される数値は、可能な限り正確に示されている。
【0060】
しかし、任意の数値は、そこからの標準偏差により証明されるように、例えば、それぞれの測定技術から生じる特定の誤差を固有に含み得る。
【0061】
本発明は、その好ましい実施形態に関連して記載されたが、具体的には記載されない付加、削除、改変、および交換が、添付の特許請求の範囲に規定されるような本発明の趣旨および範囲から逸脱することなくなされ得ることが、当業者により理解される。
【符号の説明】
【0062】
10 歯科用物品
12 合金
14 磁器層
16 酸化物層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で
パラジウム 約20〜約36.7
コバルト 約38〜約54
クロム 約16〜約22
金 約0.1〜約5
アルミニウム 0〜約3.4
モリブデン 0〜約12.9
タングステン 0〜約13
ガリウム 0〜約2.6
ケイ素 0〜約0.5
ルテニウム 0〜約0.5
レニウム 0〜約0.5
マンガン 0〜約0.3
ホウ素 0〜約0.2
鉄 0〜約0.3
リチウム 0〜約0.2
を含有するベース組成物を含有する、歯科用合金であって、該歯科用合金は、非磁性であり、モリブデン、タングステン、またはこれらの組み合わせが3%以上である、歯科用合金。
【請求項2】
25℃〜500℃において約13.8〜約15.0の熱膨張係数を有する、請求項1に記載の歯科用合金。
【請求項3】
パラジウムおよび金の量が25%以上である、請求項1に記載の歯科用合金。
【請求項4】
パラジウムおよび金が、前記組成物中の唯一の貴金属である、請求項1に記載の歯科用合金。
【請求項5】
融解温度が約1040℃〜約1350℃の範囲である、請求項1に記載の歯科用合金。
【請求項6】
前記合金がセラミック材料またはガラスセラミック材料に結合されていることを特徴とする、請求項1に記載の歯科用合金。
【請求項7】
前記セラミック材料または前記ガラスセラミック材料が、磁器を含む、請求項6に記載の歯科用合金。
【請求項8】
前記結合が酸化物層を含む、請求項6に記載の歯科用合金。
【請求項9】
請求項6に記載の歯科用合金を含有する歯科用物品。
【請求項10】
歯科用クラウンまたは歯科用ブリッジを含む、請求項9に記載の歯科用物品。
【請求項11】
重量%で
パラジウム 約24.5〜約35
コバルト 約38〜約50
クロム 約17〜約22
金 約0.1〜約5
アルミニウム 0〜約3.4
モリブデン 約9〜約12.9
タングステン 約1.5〜約13
ガリウム 約1.0〜約2.6
ケイ素 0〜約0.5
ルテニウム 0〜約0.5
レニウム 0〜約0.5
マンガン 0〜約0.3
ホウ素 0〜約0.2
鉄 0〜約0.3
リチウム 0〜約0.2
を含有するベース組成物を含有する、歯科用合金であって、該歯科用合金は、非磁性である、歯科用合金。
【請求項12】
パラジウムおよび金の量が25%以上である、請求項11に記載の歯科用合金。
【請求項13】
パラジウムおよび金が、前記組成物中の唯一の貴金属である、請求項11に記載の歯科用合金。
【請求項14】
融解温度が約1040℃〜約1350℃の範囲である、請求項11に記載の歯科用合金。
【請求項15】
前記合金がセラミック材料またはガラスセラミック材料に結合されていることを特徴とする、請求項11に記載の歯科用合金。
【請求項16】
前記セラミック材料または前記ガラスセラミック材料が、磁器を含む、請求項15に記載の歯科用合金。
【請求項17】
前記結合が酸化物層を含む、請求項15に記載の歯科用合金。
【請求項18】
請求項15に記載の歯科用合金を含有する歯科用物品。
【請求項19】
歯科用クラウンまたは歯科用ブリッジを含む、請求項18に記載の歯科用物品。
【請求項20】
重量%で
パラジウム 約24.5〜約35
コバルト 約38〜約50
クロム 約18〜約22
金 約1〜約3
アルミニウム 0〜約3.4
モリブデン 約10〜約12.9
タングステン 約1.5〜約13
ガリウム 約2.0〜約2.6
ケイ素 0〜約0.5
ルテニウム 0〜約0.5
レニウム 0〜約0.5
マンガン 0〜約0.3
ホウ素 0〜約0.2
鉄 0〜約0.3
リチウム 0〜約0.2
を含有するベース組成物を含有する、歯科用合金であって、該歯科用合金は、非磁性である、歯科用合金。
【請求項21】
パラジウムおよび金の量が25%以上である、請求項20に記載の歯科用合金。
【請求項22】
パラジウムおよび金が、前記組成物中の唯一の貴金属である、請求項20に記載の歯科用合金。
【請求項23】
融解温度が約1040℃〜約1350℃の範囲である、請求項20に記載の歯科用合金。
【請求項24】
前記合金がセラミック材料またはガラスセラミック材料に結合されていることを特徴とする、請求項20に記載の歯科用合金。
【請求項25】
前記セラミック材料または前記ガラスセラミック材料が、磁器を含む、請求項24に記載の歯科用合金。
【請求項26】
前記結合が酸化物層を含む、請求項24に記載の歯科用合金。
【請求項27】
請求項24に記載の歯科用合金を含有する歯科用物品。
【請求項28】
歯科用クラウンまたは歯科用ブリッジを含む、請求項27に記載の歯科用物品。
【請求項29】
重量%で
パラジウム 約24.5〜約30
コバルト 約38〜約44
クロム 約18〜約22
金 約0.4〜約3
アルミニウム 0〜約2.0
モリブデン 約10〜約12.9
タングステン 約1.5〜約4
ガリウム 約2.0〜約2.6
ケイ素 0〜約0.5
ルテニウム 0〜約0.5
レニウム 0〜約0.5
マンガン 0〜約0.3
ホウ素 0〜約0.2
鉄 0〜約0.3
リチウム 0〜約0.2
を含有するベース組成物を含有する、歯科用合金であって、該歯科用合金は、非磁性である、歯科用合金。
【請求項30】
パラジウムおよび金の量が25%以上である、請求項29に記載の歯科用合金。
【請求項31】
パラジウムおよび金が、前記組成物中の唯一の貴金属である、請求項29に記載の歯科用合金。
【請求項32】
融解温度が約1040℃〜約1350℃の範囲である、請求項29に記載の歯科用合金。
【請求項33】
セラミック材料またはガラスセラミック材料に結合されている、請求項29に記載の歯科用合金。
【請求項34】
前記セラミック材料または前記ガラスセラミック材料が、磁器を含む、請求項33に記載の歯科用合金。
【請求項35】
前記結合が酸化物層を含む、請求項33に記載の歯科用合金。
【請求項36】
請求項33に記載の歯科用合金を含有する歯科用物品。
【請求項37】
歯科用クラウンまたは歯科用ブリッジを含む、請求項36に記載の歯科用物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−17803(P2013−17803A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194183(P2011−194183)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(511217577)イフォクレール ビバデント, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】