説明

パラジウムおよびパラジウム合金の高速めっき方法

【課題】アンモニアベースの浴からパラジウムおよびパラジウム合金をめっきするための高速方法を提供する。
【解決手段】パラジウム電気めっき浴として、パラジウム源の1種以上、アンモニウムイオン及び尿素から本質的になる組成物とし、少なくとも10アンペア/dm2の電流密度を発生させてパラジウムを堆積させる方法。また、別の態様においては、パラジウム合金電気めっき浴として、パラジウム源の1種以上、合金形成金属源の1種以上、アンモニウムイオン及び尿素から本質的になる組成物とし、少なくとも10アンペア/dm2の電流密度を発生させてパラジウム合金を堆積させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアベースのパラジウムおよびパラジウム合金めっき組成物を使用する、パラジウムおよびパラジウム合金を高速めっきする方法に関する。より詳細には、本発明は、遊離アンモニアの量が低減されているアンモニアベースのパラジウムおよびパラジウム合金めっき組成物を用いてパラジウムおよびパラジウム合金を高速めっきする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過去数年にわたる金の価格の劇的な高騰は金属めっき分野における新たな方法および装置を生じさせ、かつ、例えばオープンリール式めっきによって、パラジウムおよびその合金のような代替金属を使用するのを試みている。このようなめっき方法の使用は高速めっきを必要としており、そして高速は10アンペア/dm以上の電流密度を必要とする。さらに、産業界は、金属めっき物品の製造により効率的であるように、できるだけ短い時間で金属堆積を達成する高速めっきを望む。高速めっき装置は、めっきされるべき基体上に、噴流流れでめっき液が噴出されて激しい撹拌をもたらす噴流めっき原理を使用できる。激しい撹拌は噴流流れを使用することなしに、ポンプを使用することによりその溶液を非常に素早くめっきされる基体を通り過ぎるように動かすことによるか、またはその基体をその溶液に素早く通すように動かすことによっても、供給されうる。高速めっきの別の形態は選択的めっきである。このような選択的めっきは、特殊なめっき装置、例えば、金属堆積を特定の必要な領域に限定する一方で、他の領域を金属の堆積がないままにする化学または機械マスクなどを使用する。
【0003】
様々な浴を用いて高速めっき装置でパラジウムおよびその合金をめっきする試みがなされてきたが、その堆積物は焦げもしくは艶消しグレイであるか、またはその堆積物は光沢から半光沢までで、高い応力がかかっており、高出力の顕微鏡下でのみ見える表面微小クラックを示す。このようなクラックは、めっき浴から出してすぐの堆積物において目に見える場合があり、またはそれらは堆積物が室温で一日以上置いた後で目に見えるようになる。このクラックについて多くの文献がある。それはパラジウムと共に水素が共堆積するからである。堆積物から水素が除去された後、クラックが現れる。産業界は、10〜100アンペア/dmおよびそれより高い高速めっきにおける使用可能な電流密度で、クラックのないパラジウムおよびパラジウム合金堆積物を望んでいる。さらに、産業界は高い耐摩耗性、高い耐腐食性、低い電気抵抗、および電気接点のための被膜として使用するためのような良好なはんだ付け性を有するパラジウムおよびパラジウム合金を望んでいる。
【0004】
めっきプロセスから、所望の特性を有するパラジウムまたはパラジウム合金堆積物を達成するために、多くのプロセスパラメータが指定されなければならない。このようなパラメータには、これに限定されないが、浴の組成、浴温度、めっき中の撹拌速度および浴のpHが挙げられる。最適なプロセスを達成するための具体的なパラメータは、そのプロセスが低速めっきであるかまたは高速めっきであるかに応じて広範囲に変化しうる。多くのパラジウムおよびパラジウム合金めっきプロセスは金属のためのリガンドとしてアンモニアを使用する。アンモニアベースのプロセスはアンモニアを含まないプロセスよりも多くの利点を有する。このような利点には:1)ポリアミド型リガンドのような他の種類のリガンドと対比して、有機リガンドからの有害な分解生成物がない;2)高度に延性の堆積物;および3)アンモニアを含まないプロセスに必要とされる多くの外来のパラジウム塩よりも、パラジウム−アンモニア塩はより経済的で容易に入手可能である;ことが挙げられる。
【0005】
このようなアンモニアベースのプロセスは低い酸性pHから高いアルカリ性pH範囲まで、例えば、pH6以上で機能する。浴の機能中に、遊離アンモニアはアンモニア蒸気として浴から逃れる。これは浴のpHを変え、浴を不安定にして、浴の性能を大きく悪化させる。これは、低速めっきよりもめっき速度が速く、浴の撹拌がより激しい高速めっきにおいて特に問題であり、よって遊離アンモニアの損失の割合をより大きくする。また、高速めっきに典型的である、めっき中の温度上昇または高温でのめっきは浴からのアンモニアの損失を引き起こし、これによりめっきプロセスを不安定にする。アンモニアベースのめっきプロセスは、プロセスの安定性および最適な駆動を維持するために、アンモニアの周期的な補充を必要とする。典型的には、遊離アンモニア量は50g/L〜150g/Lに、より典型的には、100g/Lに維持される。しかし、アンモニアの補充は困難である。アンモニアは、多くの場合、アンモニウム塩、例えば、硫酸塩ベースの溶液には硫酸アンモニウムをめっき浴に添加することにより補充されるが;この結果めっき浴中での陰イオンの蓄積が起こり、これは浴成分の塩析の結果浴の寿命を劇的に短くする。アンモニアガスおよび水酸化アンモニウムも浴に添加されうるが;このような成分は取り扱うのに不都合で問題がある。現在の潜在的に深刻な有害さおよび毒性の双方はこれを使用する作業者に危険をもたらす。より多くの遊離アンモニアが浴に添加されると、アンモニアの損失もより多くなり、よって環境に危険をもたらす。よって、産業界は遊離アンモニアの量が低減されている高速めっき方法を望んでいる。
【0006】
オープンリール式めっきのような高速めっきにおいては、アンモニアの損失はより大きく、よってより多くの割合のアンモニアの補充を必要として、安定なめっきプロセスを維持することの困難性を増大させる。また、高速めっき中の浴の高い温度および素早い撹拌はアンモニアの損失と浴の不安定化とをさらに増大させる。アンモニアの素早い損失は結果的に不安定な浴および劣ったプロセス性能をもたらす。これはプロセスの全体的な効率を下げて、めっきのコストを増大させる。
【0007】
米国特許第5,415,685号はアンモニアベースのパラジウムめっき組成物および方法を開示する。この特許はアンモニアベースのパラジウムめっき組成物が、従来の方法よりも、広範囲のめっき厚みにわたってより白いパラジウム堆積物を提供し、かつ安定であることを主張する。この特許に記載される方法は0.1アンペア/ft〜50アンペア/ft(0.01アンペア/dm〜5アンペア/dm)の電流密度範囲の低速方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,415,685号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高速めっきが経済的な効率性を達成するのに必須である産業において、このような方法は適切ではない。よって、アンモニアベースの浴からパラジウムおよびパラジウム合金をめっきするための高速方法についての必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ある態様においては、方法は、a)パラジウム源の1種以上、アンモニウムイオンおよび尿素から本質的になる組成物を提供し;b)基体を組成物と接触させ;およびc)少なくとも10アンペア/dmの電流密度を発生させて、パラジウムを基体上に堆積させる;ことを含む。
別の態様においては、方法は、a)パラジウム源の1種以上、合金形成金属源の1種以上、アンモニウムイオンおよび尿素から本質的になる組成物を提供し;b)基体を組成物と接触させ;およびc)少なくとも10アンペア/dmの電流密度を発生させて、パラジウム合金を基体上に堆積させる;ことを含む。
【発明の効果】
【0011】
この高速方法は安定なパラジウムおよびパラジウム合金浴を提供し、硫酸アンモニウム、水酸化アンモニウム、アンモニアガスまたは他のアンモニウム化合物を添加し、浴中の遊離アンモニア量を補充する必要性をなくする。よって、このような化合物をめっき浴に添加することの危険性および他の不都合は除かれる。この高速方法は、多くの従来の高速パラジウムおよびパラジウム合金方法と比べて、浴中の遊離アンモニアの量も低減する。よって、アンモニアの蒸気の量も低減させられる。
この高速方法は、光沢、延性でありかつクラックのないパラジウムおよびパラジウム合金堆積物を基体上に高い電流密度で提供する。この高速方法は、パラジウムおよびパラジウム合金被膜が望まれるあらゆる基体上にパラジウムおよびパラジウム合金をめっきするために使用されうる。このような基体には、電子部品並びに宝飾品が挙げられる。電子部品は高い耐摩耗性、高い耐腐食性、および低い電気接触抵抗および良好なはんだ付け性が望まれる電気接点を含みうる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において使用される場合、本文が明確に他に示さない限りは、次の略語は次の意味を有する:℃=摂氏度;g=グラム;mg=ミリグラム;L=リットル;mL=ミリリットル;Amp=アンペア;dm=デシメートル;μm=ミクロン=マイクロメートル;rpm=1分間あたりの回転数。
【0013】
用語「堆積」、「めっき」および「電気めっき」は本明細書において交換可能に使用される。用語「焦げ(burnt)」はダル仕上げまたは粗い仕上げを意味する。用語「光沢」は光学反射仕上げを意味する。用語「延性の」または「延性」は、曲げまたは引き伸ばしなどの変形中のクラック形成に対する金属堆積物の抵抗性である。「金属ターンオーバー(MTO)」=堆積された全てのパラジウム(グラム単位)を溶液中のパラジウム含有量(グラム単位)で割ったもの。全ての量は他に示されない限りは重量%である。全ての数値範囲は境界値を含み、かつそのような数値範囲が合計で100%になると制約されるのが論理的である場合を除いて、任意の順で組み合わせ可能である。
【0014】
本方法は、少ない量の遊離アンモニアを用いてパラジウムおよびパラジウム合金を堆積させ、これにより高速電気めっきおよび激しい浴撹拌中のアンモニア蒸気の発生を低減するための高速電気めっき方法である。典型的には、電気めっき浴中の遊離アンモニアは50g/L未満である。多くの従来のアンモニアベースの浴と比較して、より少ないアンモニア蒸気しか電気めっき中に発生させないので、遊離アンモニアの低減はより環境に優しい浴も提供する。アンモニアの不快かつ厄介な臭気が除かれるかまたは少なくとも低減される。また、絶えず蒸発するアンモニアはpH値の制御の著しい困難をもたらす。従来のアンモニアベースの浴においては、アンモニアは継続的に測定された量で添加され最適なpHを維持する。典型的には、硫酸アンモニウム、水酸化アンモニウムおよびアンモニアガスが使用される。このような化合物は取り扱うのが困難であり、有毒であり、かつ作業者に対して危険である。さらに、そのような化合物を浴に添加することは、多くの場合、浴成分の塩析を生じさせ、よって浴の性能を悪くする。この高速方法はこのような化合物をめっき浴に添加する必要性をなくする。
【0015】
尿素が浴中に含まれて、低減した遊離アンモニアを補完することにより、およびアンモニアの損失によるpHの変化を妨げることにより浴を安定化する。高速電気めっき浴は6〜10、典型的には7〜8の範囲のpHを有する。浴中に尿素を含むことは、アンモニウム化合物またはアンモニアの添加によりアンモニアを補充する必要性をなくする。尿素はアンモニアまたはアンモニウム化合物によりも取り扱いが容易である。尿素は弱い錯化剤であり、アンモニアベースのめっき浴への多量の尿素の添加はパラジウムおよびパラジウム合金堆積物の微細構造に悪影響を及ぼさない。さらに、浴寿命を制限する分解生成物の蓄積がない。さらに、尿素の加水分解生成物の1つがアンモニアであり、このアンモニアが遊離アンモニアの損失を補充し、そして所望のpHと浴安定性を維持するのを助けるのに使用される。尿素は、浴中の尿素と遊離アンモニアとの全量が100g/L〜150g/Lであるような量で浴中に含まれる。
【0016】
広範囲のパラジウム化合物が高速電気めっき方法においてパラジウム源として使用されうるが、ただし、それらは高速方法および他の浴成分と適合可能である。このようなパラジウム化合物には、これに限定されないが、錯化剤としてのアンモニアとのパラジウム錯イオン化合物が挙げられる。このような化合物には、これに限定されないが、ジクロロジアンミンパラジウム(II)、ジニトロジアンミンパラジウム(II)、テトラアンミンパラジウム(II)塩化物、テトラアンミンパラジウム(II)硫酸塩、テトラアンミンパラジウムテトラクロロパラダート、テトラアミンパラジウム炭酸塩およびテトラアミンパラジウム炭酸水素塩が挙げられる。さらなるパラジウム源には、これに限定されないが、二塩化パラジウム、二臭化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、パラジウムモノオキシド−ハイドレート、酢酸パラジウム、プロピオン酸パラジウム、シュウ酸パラジウムおよびギ酸パラジウムが挙げられる。1種以上のパラジウム源は浴中で一緒に混合されうる。典型的には、アンモニアパラジウム錯体が浴中で使用される。堆積のための、10g/L〜50g/Lのパラジウム、または例えば、20g/L〜40g/Lのパラジウムを提供するのに充分な量の1種以上のパラジウム源が浴に添加される。
【0017】
アンモニアは水可溶性アンモニウム塩によって浴に添加されうる。このようなアンモニウム塩には、限定されないが、塩化アンモニウムおよび臭化アンモニウムのようなハロゲン化アンモニウム、硫酸アンモニウムおよび硝酸アンモニウムが挙げられる。50g/L未満、または例えば、10g/L〜45g/L、または例えば、15g/L〜35g/Lの量で遊離アンモニアを提供するのに充分な量で、アンモニア源は浴に添加される。
【0018】
高速電気めっき浴に添加されてパラジウム合金を形成できる合金形成金属(alloying metal)には、これに限定されないが、ニッケル、コバルト、鉄および亜鉛の1種以上が挙げられる。合金は二元合金または三元合金であり得る。典型的には、合金はパラジウム/ニッケル、パラジウム/コバルト、およびパラジウム/亜鉛のような二元合金である。より典型的には、二元合金はパラジウム/ニッケルである。典型的には三元合金はパラジウム/ニッケル/亜鉛である。1種以上の合金形成金属は水可溶性塩として浴に添加されうる。このような塩には、限定されないが、ハロゲン化物、硫酸塩、亜硫酸鉛、リン酸塩、ピロリン酸塩、硝酸塩および有機酸との塩、例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩およびギ酸塩が挙げられる。典型的には、ハロゲン化物および硫酸塩が使用される。0.1g/L〜15g/L、または例えば1g/L〜10g/Lの量で合金形成金属イオンを提供するのに充分な量で1種以上の合金形成金属塩が浴に添加される。
【0019】
高速方法によって製造されたパラジウム合金は安定である。安定とは、広範囲の電流密度、並びに浴のpH、温度変動および浴撹拌速度における変化にわたって、合金組成が実質的に一定のままであることを意味する。二元合金におけるパラジウムの重量範囲は50重量%〜90重量%の範囲であり、残部は合金形成金属である。電気接点を被覆するのに使用されるこのような二元合金の例はパラジウム/ニッケル(80重量%/20重量%)である。三元合金におけるパラジウムの重量範囲は40重量%〜80重量%の範囲であり、残部は2種の合金形成金属であり、等しい割合または等しくない割合である。
【0020】
高速方法に使用されるパラジウム電気めっき浴はパラジウム源の1種以上、アンモニウムイオン、遊離アンモニアおよび尿素から本質的になる。浴がパラジウム合金を堆積するために使用される場合には、合金形成金属イオンの1種以上が浴に添加される。高速方法によって堆積されるパラジウムおよびパラジウム合金は光沢であり、クラックがなく、基体に付着する。
【0021】
1種以上の既存の添加剤も浴に添加されうる。このような既存の添加剤には、限定されないが、緩衝剤、光沢剤、界面活性剤、およびその混合物が挙げられる。このような添加剤は従来の量で浴中に含まれうる。
【0022】
浴の性能を悪化させない1種以上の界面活性剤が含まれうる。典型的には、このような界面活性剤には、限定されないが、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤およびアニオン性界面活性剤が挙げられる。このような界面活性剤の例には、ポリエチレングリコール、アルキル第4級アンモニウム塩およびスルホプロピル化アルキルアルコキシラートがある。
【0023】
緩衝剤には、限定されないが、酢酸、ホウ酸、炭酸、クエン酸、テトラホウ酸、マレイン酸、イタコン酸およびこれらの塩の1種以上が挙げられる。他の従来の水可溶性酸も緩衝剤として含まれうる。
【0024】
鉱酸および塩基もpHを維持するのを助けるために浴に添加されうる。このような鉱酸には、硫酸、塩化水素酸および硝酸が挙げられる。塩基には、限定されないが、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが挙げられる。典型的には、硫酸または水酸化ナトリウムが使用される。
【0025】
好適な光沢剤は、光沢のパラジウムまたはパラジウム合金堆積物をもたらす化合物である。このような光沢剤には既存の有機光沢剤が挙げられる。このような有機光沢剤には、限定されないが、スクシンイミド、マレイミド、キノリン、置換キノリン、フェナントロリン、および置換フェナントロリンならびにそれらの第4級化誘導体、ピリジンおよびその誘導体、例えばピリジンカルボン酸、ピリジンカルボン酸アミンおよびポリピリジン、例えば、ビピリジン、ニコチン酸およびその誘導体、ピリジニウムアルキルスルホベタイン、ピペリジンおよびその誘導体、ピペラジンおよびその誘導体、ピラジンおよびその誘導体、並びにこれらの混合物が挙げられる。典型的には、高速浴に使用される光沢剤は、窒素含有複素環式環を有する有機光沢剤であるが、芳香族スルホンアミドを除く。より典型的には、使用される光沢剤はピリジン誘導体、ピラジン誘導体またはそれらの混合物である。
【0026】
高速方法によって堆積されるパラジウムおよびパラジウム合金は典型的にクラックがないので、応力低減剤(stress reducing agent)が一般に浴から除かれる。このような応力低減剤の例は芳香族スルホンアミドである。応力低減剤として使用される典型的な芳香族スルホンアミドはサッカリンである。
【0027】
浴温度は従来の加熱装置によって維持されうる。浴温度は40〜70℃、または例えば50〜60℃の範囲である。その範囲内に、特にその範囲の上限に浴温度を維持することが高度に望まれる、というのは温度が上昇すると浴を出るアンモニア蒸気の量も増加するからである。よって、温度の維持が重要である。
【0028】
高速電気めっき方法は10アンペア/dm以上の電流密度を使用する。典型的には、電流密度は10アンペア/dm〜100アンペア/dm、または例えば20アンペア/dm〜80アンペア/dmの範囲である。このような電流密度は従来の整流器を用いて制御される。
【0029】
従来の高速めっき装置がパラジウム金属およびパラジウム金属合金を電気めっきするのに使用されうる。典型的には、パラジウムおよびパラジウム合金はオープンリール式(reel−to−reel)めっき装置を用いて電気めっきされるが、高速めっき速度を維持するあらゆる装置が使用されうる。
【0030】
従来の不溶性陽極が高速方法で使用されうる。不溶性陽極の例としては、限定されないが、白金化チタン、混合酸化物被覆チタンおよびステンレス鋼が挙げられる。また、米国特許出願公開第2006/0124451号に記載されるようなシールドデザインの上記物質の陽極が使用されうる。
【0031】
陰極には、パラジウムまたはパラジウム合金でめっきされうるあらゆる物質が挙げられる。概して、パラジウムまたはパラジウム合金は銅、銅合金、またはニッケルめっきされた銅基体上に堆積される。このような基体は、高い耐摩耗性、高い耐腐食性、低い電気接触抵抗、高い延性および良好なはんだ付け性が要求される電気接点でありうる。電気接点の例はリードフレームおよび電気コネクタである。このような電気接点を含む電子素子には、限定されないが、プリント回路板、半導体素子、光電子素子、電気部品および自動車部品が挙げられる。さらに、高速方法は太陽電池素子の部品および宝飾品、並びにパラジウムまたはパラジウム合金被覆を受け入れることができるあらゆる物品上にパラジウムまたはパラジウム合金を堆積させるために使用されうる。
【0032】
高速方法により堆積されたパラジウムおよびパラジウム合金被膜の厚みは基体の機能に応じて変化しうる。一般に、厚みは0.1μm〜100μmの範囲である。典型的には、厚みは0.5μm〜20μmの範囲である。
【0033】
堆積の速度は使用される電流密度に依存する。一般に、速度は1μm/分〜30μm/分の範囲であり得る。例えば、パラジウム/ニッケル合金は10アンペア/dmにおいて3μm/分、60アンペア/dmにおいて18μm/分でめっきされうる。
【0034】
次の実施例は高速方法をさらに説明することを意図するが、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例】
【0035】
実施例1(比較)
次の従来のパラジウム/ニッケル合金水性アンモニアベースの組成物が、パラジウム/ニッケル合金(80/20%重量/重量)を堆積させるために製造された。
【0036】
【表1】

【0037】
アンモニアベースのパラジウム/ニッケル合金組成物は1000mlのビーカーに添加され、電気めっき中にマグネチックスターラーで組成物の撹拌を維持した。陽極は白金化チタン不溶性陽極であり、陰極は真ちゅう基体であった。
組成物の温度は50℃に維持され、初期pHは7.2であった。電気めっきは10アンペア/dmの高電流密度で行われた。実験はパラジウム金属に関して20MTOが達成されるまで行われた。
【0038】
浴中の遊離アンモニアは最初の5MTOについてMTOごとに分析され、次いで3〜5MTOごとの頻度に減らされた。浴中のアンモニアの含有量は、Metrohmからの809ティトランド(Titrando商標)を用いるpH滴定法により監視された。35g/Lの初期の低い遊離アンモニア濃度で堆積が始まった時点で、浴が化学的に不安定であったことが観察された。浴の不安定化はビーカーの底での白色沈殿形成により認めることができた。浴の安定性および機能性を維持し、光沢で延性の堆積物を達成するために、白色沈殿物はろ過により浴から除かれ、遊離アンモニア含有量は硫酸アンモニウムを添加することにより100g/Lに増やされた。電気めっき中にアンモニアの強い臭気が検知できた。さらに、電気めっき中の遊離アンモニア損失は安定したpHを維持するために補充されなければならなかった。Pd(NHSO補充を通じて添加されるアンモニアの量に加えて、めっきされるパラジウムのグラムあたり、3〜4gのアンモニアがアンモニアガスおよびNHOHとして浴に添加された。浴の安定性を維持するために、100g/Lのアンモニア濃度が必要とされた。光沢で延性の堆積物がめっきされたが、安定性は20MTOにわたって変化し、浴を補充しかつ浴安定性を維持するために、めっきされるパラジウムのgあたり3〜4gのアンモニアを添加することに加えて、白色沈殿物の除去を必要とした。
【0039】
実施例2
光沢で延性のパラジウム/ニッケル合金(80/20%重量/重量)を堆積させるために、次のパラジウム/ニッケル合金水性アンモニアベースの組成物が製造された。
【0040】
【表2】

【0041】
アンモニアベースのパラジウム/ニッケル合金組成物は1000mlのビーカーに添加され、電気めっき中にマグネチックスターラーで組成物の撹拌を維持した。陽極は白金化チタン不溶性陽極であり、陰極は真ちゅう基体であった。
組成物の温度は50℃に維持され、pHは7.2であった。電気めっきは10アンペア/dmの高電流密度で行われた。実験はパラジウム金属に関して20MTOが達成されるまで行われた。
浴中の遊離アンモニアは最初の5MTOについてMTOごとに分析され、次いで分析は3〜5MTOごとの頻度に減らされた。浴中のアンモニアの含有量は、Metrohmからの809ティトランド(Titrando商標)を用いるpH滴定法により監視された。尿素量はMattson InstrumentsからのGenesis II FTIR スペクトロメータ商標を用いて分析された。電気めっき浴分析は、アンモニア/アンモニウム量およびpHが電気めっき(パラジウムに関して20の金属ターンオーバー)中ずっと安定なままであったことを示した。検出可能な白色沈殿物はなかった。尿素補充は、堆積されるパラジウム金属のグラムあたり、0.7〜0.8gであった。
【0042】
アンモニアベース/尿素電気めっき組成物を使用すると、電気めっき中にNHOHおよびアンモニアガスのような望ましくない危険な化合物を用いたアンモニアの補充の必要性をなくした。実施例1の浴と比較して、電気めっき中に少量の遊離アンモニアが容易に維持された。また、低い遊離アンモニアのために有毒な蒸気が低減した。さらに、尿素補充の頻度および量は比較例1におけるNHOHおよびアンモニアガスを用いたアンモニア補充よりも少なく、よって従来の方法よりも経済的でコスト効果的な方法を提供した。
浴のpHが8であったことを除いて、この方法が繰り返された。結果はpH7.2におけるのと実質的に同じであった。
【0043】
実施例3
電気めっき組成物に添加された尿素の量が80g/Lであったことを除いて、実施例2に記載されるパラジウム/ニッケル方法が繰り返された。尿素補充の割合は、真ちゅう基体上に堆積されるパラジウム金属のグラムあたり、0.7〜0.8gであった。浴は電気めっき中ずっと安定であった。この方法の性能は実施例2と同じであった。光沢で延性のパラジウム/ニッケル合金が真ちゅう基体上に堆積された。
【0044】
実施例4
光沢で延性のパラジウム/ニッケル合金(80/20%重量/重量)を堆積するために、次のパラジウム/ニッケル合金水性アンモニアベースの組成物が製造された。
【0045】
【表3】

【0046】
アンモニアベースのパラジウム/ニッケル合金組成物は1000mlのビーカーに添加された。陰極は光沢ニッケルであらかじめめっきされた回転式円筒であった。めっき中、陰極は1000rpmで回転させられた。アンモニアベースの組成物のpHは電気めっき中7.2に維持され、温度は50℃であった。電気めっきは20アンペア/dmの電流密度で行われた。浴は電気めっきプロセス中で安定であった。パラジウム/ニッケル堆積物は光沢で延性であり、そして光沢ニッケルに付着した。
上記方法は、40アンペア/dmおよび60アンペア/dmの電流密度で行われたことを除いて、同じパラメータで2回繰り返された。結果は20アンペア/dmにおけるのと同じであった。光沢で延性のパラジウム/ニッケル堆積物は、高い電流密度でニッケル上に堆積され、ニッケルに付着した。
【0047】
実施例5
4つの光沢ニッケル被覆真ちゅう基体が、実施例4に記載されるように水性アンモニアベースのパラジウム/ニッケル組成物を用いて電気めっきされた。それぞれの基体は、異なる電流密度でその組成物を用いてめっきされた。電流密度は20アンペア/dm、40アンペア/dm、60アンペア/dmおよび80アンペア/dmであった。めっき組成物のpHは7.2であり、50℃の温度であった。実験室試験のために設計された噴流めっき装置を用いて高速方法が行われた。めっき組成物は800リットル/時の流速で基体に適用された。光沢ニッケル被覆した真ちゅう基体上のパラジウム/ニッケル堆積物の全ては光沢で延性であり、基体に付着した。
【0048】
実施例6
パラジウム被膜を銅基体上に堆積させるために、次の水性アンモニアベースのパラジウム金属組成物が製造される。
【0049】
【表4】

【0050】
実施例5に記載される噴流めっき装置を用いて水性アンモニアベースのパラジウム組成物が銅基体上に堆積される。組成物のpHは8に維持され、組成物の温度は40℃に維持される。電流密度は20アンペア/dmである。浴は電気めっき中安定であることが予想される。基体上に得られるパラジウム被膜は半光沢であり、クラックがないと予想される。
【0051】
実施例7
パラジウム/コバルト合金を銅基体上に堆積させるために、次の水性アンモニアベースのパラジウム/コバルト合金組成物が製造される。
【0052】
【表5】

【0053】
実施例5に記載される噴流めっき装置を用いて水性アンモニアベースのパラジウム合金組成物が銅基体上に堆積される。浴のpHは7.5に維持され、温度は60℃に維持される。電流密度は90アンペア/dmである。浴は電気めっき中安定であることが予想される。パラジウム/コバルト堆積物は光沢であり、クラックがないと予想される。
【0054】
実施例8
パラジウム亜鉛合金を銅/スズ合金基体上に堆積させるために、次の水性アンモニアベースのパラジウム/亜鉛合金組成物が製造される。
【0055】
【表6】

【0056】
実施例5に記載される噴流めっき装置を用いて水性アンモニアベースのパラジウム合金組成物が銅/スズ合金基体上に堆積される。組成物のpHは7に維持され、組成物の温度は60℃に維持される。電流密度は30アンペア/dmである。浴は電気めっき中安定であることが予想される。光沢でありクラックのないパラジウム/亜鉛合金が銅/スズ合金上に堆積される。
【0057】
実施例9
パラジウム/ニッケル/亜鉛合金を銅基体上に堆積させるために、次の水性アンモニアベースのパラジウム/ニッケル/亜鉛合金組成物が使用される。
【0058】
【表7】

【0059】
実施例5に記載される噴流めっき装置を用いて水性アンモニアベースのパラジウム合金組成物が銅基体上に堆積される。組成物のpHは7に維持され、組成物の温度は60℃に維持される。電流密度は85アンペア/dmである。浴は電気めっき中安定であることが予想される。パラジウム/ニッケル/亜鉛合金は光沢でありクラックがないことが予想される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)パラジウム源の1種以上、アンモニウムイオンおよび尿素から本質的になる組成物を提供し;
b)基体を組成物と接触させ;および
c)少なくとも10アンペア/dmの電流密度を発生させて、基体上にパラジウムを堆積させる;
ことを含む方法。
【請求項2】
電流密度が10アンペア/dm〜100アンペア/dmの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
組成物が1種以上の酸またはその塩をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
組成物が1種以上の光沢剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
組成物が50g/L未満の遊離アンモニア濃度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
a)パラジウム源の1種以上、合金形成金属源の1種以上、アンモニウムイオンおよび尿素から本質的になる組成物を提供し;
b)基体を組成物と接触させ;および
c)少なくとも10アンペア/dmの電流密度を発生させて、基体上にパラジウム合金を堆積させる;
ことを含む方法。
【請求項7】
電流密度が10アンペア/dm〜100アンペア/dmの範囲である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
組成物が1種以上の酸またはその塩をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
組成物が1種以上の光沢剤をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
組成物が50g/L未満の遊離アンモニア濃度を有する、請求項6に記載の方法。

【公開番号】特開2010−31300(P2010−31300A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−188216(P2008−188216)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(591016862)ローム・アンド・ハース・エレクトロニック・マテリアルズ,エル.エル.シー. (270)
【Fターム(参考)】