説明

パルスレーザー光の光軸位置検出装置およびパルスレーザー光の光軸位置制御装置

【課題】繰り返し数が10kHz以下の繰り返し動作のパルスレーザー光の光軸の変動を検出することができるようにする。
【解決手段】パルスレーザー光を受光する受光面が均一な抵抗値を持つ抵抗層として形成され、上記受光面にパルスレーザー光が入射すると該入射位置に応じた信号を出力する二次元位置検出素子と、上記二次元位置検出素子から出力された信号を処理して、上記受光面に入射したパルスレーザー光の入射位置情報を出力する信号処理回路とを有し、上記信号処理回路は、上記受光面に入射されるパルスレーザー光の出力と同期がとれたトリガー信号を用いて上記二次元位置検出素子からの各信号波形のピーク値を保存するピークホールド回路を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスレーザー光の光軸位置検出装置およびパルスレーザー光の光軸位置制御装置に関し、さらに詳細には、パルスレーザー光の光軸の変動、即ち、空間的な揺らぎを補正する際などに用いて好適なパルスレーザー光の光軸位置検出装置およびパルスレーザー光の光軸位置制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種パルスレーザー装置から出射されるパルスレーザー光の光軸の変動、即ち、空間的な揺らぎを検出して、その変動を抑制することの重要性が認識されている。
【0003】
例えば、中空ファイバーパルス圧縮技術を用いたレーザーシステムにおいては、レーザー装置から出射されるパルスレーザー光の光軸が変動すると、
a.中空ファイバー入射端面がパルスレーザー光の照射を受けて損傷する
b.中空ファイバー出射後のパルスレーザー光のスペクトル広がりに揺らぎを生ずる
c.中空ファイバー出射後のパルスレーザー光のパワーが変動する
というような問題点が発生することが指摘されていた。
【0004】

一般に、レーザーシステムにおけるレーザー光の光軸の変動は、長期的変動と短期的変動とに大別することができる。
【0005】
まず、長期的変動とは、主に周囲環境の温度変化などに起因する光学素子やその支持構造部、光学ベンチなどの収縮・膨張がもたらす変動であり、一般に数秒から数時間にわたるゆっくりとした変動である。
【0006】
一方、短期的変動とは、大気の揺らぎや光学ベンチの振動などによるものであり、1/100秒から1秒ほどの速い変動である。
【0007】

ここで、上記した長期的変動および短期的変動に対応するための手法として、ピエゾ駆動ミラー(ピエゾ駆動ミラーとは、ミラーホルダーにピエゾアクチュエーターを取り付けて、電気的に微少変位を与えてミラーの精密制御を行うことができるようにしたものである。)により反射されて位置検出手段で検出されたレーザー光の光軸の位置情報をもとに、PID回路(PID回路は、オペアンプを用いた制御回路の一つであり、比例(Proportional)、積分(Integral)および微分(Differential)の3つの演算回路からなっており、ある目標値を設定し、入力信号(目標値との誤差)に関してそれぞれの演算を行い、出力するというものである。)を用いて上記ピエゾ駆動ミラーの駆動操作をフィードバック制御して上記ピエゾ駆動ミラーの位置制御を行い、上記ピエゾ駆動ミラーにより反射されたレーザー光の光軸の位置の変動を抑制するという手法が提案されている。
【0008】
そして、上記手法により長期的変動に対応する際には、上記位置検出手段として、例えば、CCDカメラやC−MOSカメラならびにパーソナルコンピューターを用い、CCDカメラやC−MOSカメラなどから取り込んだ画像情報をパーソナルコンピューターで解析し、ピエゾ駆動ミラーにより反射されたレーザー光の光軸の位置情報を求めるようになされていた。
【0009】
しかしながら、上記した位置検出手段としてCCDカメラやC−MOSカメラならびにパーソナルコンピューターを用いる手法は、短期的変動には追従できない。
【0010】
このため、上記手法により短期的変動に対応する際には、上記位置検出手段として二次元位置検出素子(PSD:Position Sensitive Device)とその信号処理回路とよりなる二次元位置検出器を用い、ピエゾ駆動ミラーにより反射されたレーザー光を二次元位置検出器における二次元位置検出素子の受光面に入射するようにして、レーザー光の入射により二次元位置検出素子から出力される信号を信号処理回路で処理し、ピエゾ駆動ミラーにより反射されたレーザー光の光軸の位置情報を取得するようになされている。
【0011】
即ち、二次元位置検出器は、数10μsから100μsほどの非常に速い応答速度で位置検出が可能であるため、短期的変動によるレーザー光の光軸の位置の変動を検出することができるようになる。
【0012】
なお、二次元位置検出器は、上記したように二次元位置検出素子とその信号処理回路とから構成されており、二次元位置検出素子に光が入射すると当該光の入射位置に応じた電流が流れ、この電流を信号処理回路により処理して、当該光の入射位置を検出するというものである。
【0013】
より詳細には、二次元位置検出素子はフォトダイオードよりなり、その受光面は均一な抵抗値を持つ抵抗層となっており、受光面に光が入射すると当該光の入射位置から電極までの距離に反比例して電流が分割されて出力され、信号処理回路では出力された電流を演算処理し、受光面上での光の入射位置の位置情報として当該入射位置と線形な電圧を出力する。
【0014】

ところが、二次元位置検出器は、CW(連続)レーザーを用いたレーザーシステムにおいては利用可能であるが、繰り返し動作のパルスレーザーを用いたレーザーシステムには利用することができないという問題点があった。
【0015】
即ち、パルスレーザー光が二次元位置検出素子に入射すると、二次元位置検出素子からは図1に示すような信号波形(ピークホールド前)の信号が出力されるようになるため、信号処理回路で適正な信号処理を行うことができないという問題点があった。
【0016】
つまり、パルスとパルスとの間におけるレーザー光が入射しない時間帯では、二次元位置検出素子から出力される信号の信号強度がゼロに近づいてしまい、位置検出に必要な信号処理回路における最終段の除算器が機能しなくなってしまうものであった。
【0017】
なお、連続光を用いる場合や、繰り返し数が数10kHz以上の二次元位置検出器の応答速度より十分に速い連続光と見なせるような高繰り返しパルスレーザー光を用いる場合には、上記したような問題は生じないが、繰り返し数が10kHz以下の繰り返し動作のパルスレーザー光では上記した問題が生起されるものであった。
【0018】

なお、本願出願人が特許出願時に知っている先行技術は、上記において説明したようなものであって文献公知発明に係る発明ではないため、記載すべき先行技術情報はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上記したような従来の技術の有する種々の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、繰り返し数が10kHz以下の繰り返し動作のパルスレーザー光の光軸の変動を検出することができるようにしたパルスレーザー光の光軸位置検出装置を提供しようとするものである。
【0020】
また、本発明の目的とするところは、繰り返し数が10kHz以下の繰り返し動作のパルスレーザー光の光軸の変動を抑制することができるようにしたパルスレーザー光の光軸位置制御装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明によるパルスレーザー光の光軸位置検出装置は、パルスレーザー光の出力と同期がとれたトリガー信号を用いて二次元位置検出素子からの各信号波形のピーク値を保存するピークホールド回路を設けるようにしたものである。
【0022】
また、上記目的を達成するために、本発明によるパルスレーザー光の光軸位置制御装置は、パルスレーザー光の入射位置情報を取得するために、本発明によるパルスレーザー光の光軸位置検出装置を用いるようにしたものである。
【0023】

即ち、本発明のうち請求項1に記載の発明は、パルスレーザー光を受光する受光面が均一な抵抗値を持つ抵抗層として形成され、上記受光面にパルスレーザー光が入射すると該入射位置に応じた信号を出力する二次元位置検出素子と、上記二次元位置検出素子から出力された信号を処理して、上記受光面に入射したパルスレーザー光の入射位置情報を出力する信号処理回路とを有し、上記信号処理回路は、上記受光面に入射されるパルスレーザー光の出力と同期がとれたトリガー信号を用いて上記二次元位置検出素子からの各信号波形のピーク値を保存するピークホールド回路を有するようにしたものである。
【0024】
また、本発明のうち請求項2に記載の発明は、XY直交座標系の二次元平面よりなる受光面を備え、上記受光面にパルスレーザー装置から出射されたパルスレーザー光が入射すると、該パルスレーザー光の入射位置に従って、上記受光面のX軸方向において対向する辺にそれぞれ配置された電極からそれぞれ電流IX1と電流IX2とが信号として出力され、上記受光面のY軸方向において対向する辺にそれぞれ配置された電極からそれぞれ電流IY1と電流IY2とが信号として出力される二次元位置検出素子と、上記二次元位置検出素子から出力された電流IY1と電流IY2とを用い、電流IY1から電流IY2を減算し、信号IY1−IY2を出力する第1の減算器と、上記二次元位置検出素子から出力された電流IY1と電流IY2とを用い、電流IY1と電流IY2とを加算し、信号IY1+IY2を出力する第1の加算器と、上記二次元位置検出素子から出力された電流IX1と電流IX2とを用い、電流IX1から電流IX2を減算し、信号IX1−IX2を出力する第2の減算器と、上記二次元位置検出素子から出力された電流IX1と電流IX2とを用い、電流IX1と電流IX2とを加算し、信号IX1+IX2を出力する第2の加算器と、上記パルスレーザー装置によるパルスレーザー光の出力と同期のとれたトリガー信号を用いて上記第1の減算器から出力された信号IY1−IY2の信号波形のピーク値である信号IY1p−IY2pを保存して出力する第1のピークホールド回路と、上記パルスレーザー装置によるパルスレーザー光の出力と同期のとれたトリガー信号を用いて上記第1の加算器から出力された信号IY1+IY2の信号波形のピーク値である信号IY1p+IY2pを保存して出力する第2のピークホールド回路と、上記パルスレーザー装置によるパルスレーザー光の出力と同期のとれたトリガー信号を用いて上記第2の減算器から出力された信号IX1−IX2の信号波形のピーク値である信号IX1p−IX2pを保存して出力する第3のピークホールド回路と、上記パルスレーザー装置によるパルスレーザー光の出力と同期のとれたトリガー信号を用いて上記第2の加算器から出力された信号IX1+IX2の信号波形のピーク値である信号IX1p+IX2pを保存して出力する第4のピークホールド回路と、上記第1のピークホールド回路から出力された信号IY1p−IY2pを上記第2のピークホールド回路から出力された信号IY1p+IY2pで除算し、該除算の演算結果であるY=IY1p−IY2p/IY1p+IY2pを上記受光面に入射したパルスレーザー光の入射位置情報として出力する第1の除算器と、上記第3のピークホールド回路から出力された信号IX1p−IX2pを上記第4のピークホールド回路から出力された信号IX1p+IX2pで除算し、該除算の演算結果であるX=IX1p−IX2p/IX1p+IX2pを上記受光面に入射したパルスレーザー光の入射位置情報として出力する第2の除算器とを有し、上記第1の除算器で取得した演算結果Yが、上記二次元位置検出素子の上記受光面に入射したパルスレーザー光の入射位置のXY直交座標系におけるY座標値を示し、上記第2の除算器で取得した演算結果Xが、上記二次元位置検出素子の上記受光面に入射したパルスレーザー光の入射位置のXY直交座標系におけるX座標値を示すようにしたものである。
【0025】
また、本発明のうち請求項3に記載の発明は、パルスレーザー光を受光する受光面が均一な抵抗値を持つ抵抗層として形成され、上記受光面にパルスレーザー光が入射すると該入射位置に応じたアナログ信号を出力する二次元位置検出素子と、上記二次元位置検出素子から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して出力するアナログ/デジタル変換器と、上記アナログ/デジタル変換器から出力されたデジタル信号を処理して、上記受光面に入射したパルスレーザー光の入射位置情報を示すデジタル信号を出力する信号処理手段とを有し、上記信号処理手段は、上記受光面に入射されるパルスレーザー光の出力と同期がとれたトリガー信号を用いて上記二次元位置検出素子からの各信号波形のピーク値を保存するピークホールド手段を有するようにしたものである。
【0026】
また、本発明のうち請求項4に記載の発明は、パルスレーザー光の光軸の位置を制御するパルスレーザー光の光軸位置制御装置において、光軸の位置を制御する対象のパルスレーザー光を反射する駆動ミラーと、上記駆動ミラーにより反射されたパルスレーザー光を受光して該パルスレーザー光の入射位置を検出し、該検出結果を上記受光面に入射したパルスレーザー光の入射位置情報として出力する請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の発明と、上記パルスレーザー光の光軸位置検出装置から出力された上記入射位置情報に基づいて、上記駆動ミラーを制御するPID回路とを有するようにしたものである。
【0027】
また、本発明のうち請求項5に記載の発明は、パルスレーザー光の光軸の位置を制御するパルスレーザー光の光軸位置制御装置において、光軸の位置を制御する対象のパルスレーザー光を反射する駆動ミラーと、上記駆動ミラーにより反射されたパルスレーザー光を受光して該パルスレーザー光の入射位置を検出し、該検出結果を上記受光面に入射したパルスレーザー光の入射位置情報を示すデジタル信号として出力する請求項3に記載の発明と、上記パルスレーザー光の光軸位置検出装置から出力された上記入射位置情報を示すデジタル信号に基づいて、上記駆動ミラーを制御するためのデジタル信号を生成して出力するPID制御手段と、上記PID制御手段から出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換して上記駆動ミラーへ出力するデジタル/アナログ変換器とを有するようにしたものである。
【0028】
また、本発明のうち請求項6に記載の発明は、本発明のうち請求項4または請求項5のいずれか1項に記載の発明において、上記駆動ミラーは、ピエゾ駆動ミラーまたはボイスコイル駆動ミラーであるようにしたものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、以上説明したように構成されているので、繰り返し数が10kHz以下の繰り返し動作のパルスレーザー光の光軸の変動を検出することができるようになるという優れた効果を奏する。
【0030】
また、本発明は、以上説明したように構成されているので、繰り返し数が10kHz以下の繰り返し動作のパルスレーザー光の光軸の変動を抑制することができるようになるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明によるパルスレーザー光の光軸位置検出装置およびパルスレーザー光の光軸位置制御装置の実施の形態の一例を詳細に説明するものとする。
【0032】

まず、図2には、本発明によるパルスレーザー光の光軸位置検出装置の実施の形態の一例のブロック構成説明図が示されている。
【0033】
この本発明によるパルスレーザー光の光軸位置検出装置(以下、単に「光軸位置検出装置」と適宜に称する。)10は、繰り返し数が10kHz以下の繰り返し動作のパルスレーザー装置(図示せず。)から出射されたパルスレーザー光を受光するフォトダイオードよりなるとともにその受光面が均一な抵抗値を持つ抵抗層として形成された二次元位置検出素子12と、二次元位置検出素子12から出力された信号を減算する減算器14a、14bと、二次元位置検出素子12から出力された信号を加算する加算器16a、16bと、上記パルスレーザー装置によるパルスレーザー光の出力と同期のとれたトリガー信号を用いて減算器14a、14bおよび加算器16a、16bから出力された各信号の信号波形のピーク値を保存して出力するピークホールド回路18a、18b、18c、18dと、ピークホールド回路18aから出力されたピーク値とピークホールド回路18bから出力されたピーク値とを除算する除算器20aと、ピークホールド回路18cから出力されたピーク値とピークホールド回路18dから出力されたピーク値とを除算する除算器20bとを有している。
【0034】

より詳細には、二次元位置検出素子12は公知のものであるが、XY直交座標系の二次元平面よりなる矩形状の受光面を備え、受光面にパルスレーザー装置から出射されたパルスレーザー光が入射すると、当該パルスレーザー光の入射位置に従って、受光面のX軸方向において対向する辺にそれぞれ配置された電極からそれぞれ電流IX1と電流IX2とが信号として出力され、受光面のY軸方向において対向する辺にそれぞれ配置された電極からそれぞれ電流IY1と電流IY2とが信号として出力される。
【0035】
二次元位置検出素子12から出力された電流IY1と電流IY2とは、減算器14aにより減算され、減算器14aから信号IY1−IY2が出力される。
【0036】
また、二次元位置検出素子12から出力された電流IY1と電流IY2とは、加算器16aにより加算され、加算器16aから信号IY1+IY2が出力される。
【0037】
一方、二次元位置検出素子12から出力された電流IX1と電流IX2とは、減算器14bにより減算され、減算器14bから信号IX1−IX2が出力される。
【0038】
また、二次元位置検出素子12から出力された電流IX1と電流IX2とは、加算器16bにより加算され、加算器16bから信号IX1+IX2が出力される。
【0039】
そして、ピークホールド回路18aによって、パルスレーザー装置によるパルスレーザー光の出力と同期のとれたトリガー信号を用いて減算器14aから出力された信号IY1−IY2の信号波形のピーク値である信号IY1p−IY2pが保存され出力されることになる。
【0040】
同様に、ピークホールド回路18bによって、パルスレーザー装置によるパルスレーザー光の出力と同期のとれたトリガー信号を用いて加算器16aから出力された信号IY1+IY2の信号波形のピーク値である信号IY1p+IY2pが保存され出力されることになる。
【0041】
また、ピークホールド回路18cによって、パルスレーザー装置によるパルスレーザー光の出力と同期のとれたトリガー信号を用いて減算器14bから出力された信号IX1−IX2の信号波形のピーク値である信号IX1p−IX2pが保存され出力されることになる。
【0042】
同様に、ピークホールド回路18dによって、パルスレーザー装置によるパルスレーザー光の出力と同期のとれたトリガー信号を用いて加算器16bから出力された信号IX1+IX2の信号波形のピーク値である信号IX1p+IX2pが保存され出力されることになる。
【0043】
除算器20aは、ピークホールド回路18aから出力された信号IY1p−IY2pをピークホールド回路18bから出力された信号IY1p+IY2pで除算し、その演算結果であるY=IY1p−IY2p/IY1p+IY2pを取得する。
【0044】
また、除算器20bは、ピークホールド回路18cから出力された信号IX1p−IX2pをピークホールド回路18dから出力された信号IX1p+IX2pで除算し、その演算結果であるX=IX1p−IX2p/IX1p+IX2pを取得する。
【0045】
そして、除算器20aで取得した演算結果Yが、二次元位置検出素子12の受光面に入射したパルスレーザー光の入射位置のXY直交座標系におけるY座標値を示し、また、除算器20bで取得した演算結果Xが、二次元位置検出素子12の受光面に入射したパルスレーザー光の入射位置のXY直交座標系におけるX座標値を示す。
【0046】

なお、上記した二次元位置検出素子12から出力された電流IX1、電流IX2、電流IY1、電流IY2を用いた演算処理により、二次元位置検出素子12の受光面に入射した光の当該入射位置のXY座標値を求める手法は公知の手法であるため、その詳細な説明については省略する。
【0047】

以上の構成において、光軸位置検出装置10においては、除算器20a、20bの前段にピークホールド回路18a、18b、18c、18dが設けられているので、パルスレーザー装置のパルスレーザー光の出力と同期がとれたトリガー信号を用いて二次元位置検出素子12からの各信号波形のピーク値を保存し、除算器20a、20bへ出力することができる。
【0048】
即ち、図1において破線で示す信号波形(ピークホールド後)は、ピークホールド回路18a、18b、18c、18dでピークホールドしてピーク値を保存した後の信号波形であり、次のパルスが入射するまで信号強度が維持される。
【0049】
このため、パルスとパルスとの間におけるレーザー光が入射しない時間帯においても、位置検出に必要な信号処理回路における最終段の除算器20a、20bを機能させることができるようになる。
【0050】

なお、上記した光軸位置検出装置10は、二次元位置検出素子12の後段に位置する信号処理回路、即ち、減算器14a、14b、加算器16a、16b、ピークホールド回路18a、18b、18c、18dおよび除算器20a、20bをアナログ回路で構築した場合について説明したが、これに限られるものではないことは勿論である。
【0051】
即ち、二次元位置検出素子12の後段に位置する信号処理回路をデジタル回路で構築する場合には、二次元位置検出素子12から出力されたアナログ信号をアナログ/デジタル(A/D)変換器を用いてデジタル信号に変換してコンピューターへ取り込み、ピーク値の検出および加算・減算・除算を全てソフトウェアプログラムによる処理で実現すればよい。
【0052】

次に、本発明によるパルスレーザー光の光軸位置制御装置の実施の形態の一例について説明する。
【0053】
図3には、上記した光軸位置検出装置10を備えた本発明によるパルスレーザー光の光軸位置制御装置(以下、単に「光軸位置制御装置」と適宜に称する。)を用いたレーザーシステムの一例のブロック構成説明図が示されている。
【0054】
このレーザーシステム100は、中空ファイバーパルス圧縮により高強度フェムト秒レーザー光を発生するために、パルスレーザー光を中空ファイバーへ入射する場合に用いることができるシステムである。
【0055】
こうしたレーザーシステム100は、パルスレーザー装置としての繰り返し速度1kHzのチタンサファイアレーザー装置102と、チタンサファイアレーザー装置102から出射されたパルスレーザー光を反射する全反射ミラー104と、全反射ミラー104により反射されたパルスレーザー光を反射するピエゾ駆動ミラー106と、ピエゾ駆動ミラー106により反射されたパルスレーザー光を2つの光路に分岐するビームスプリッター108と、ビームスプリッター108により分岐された一方の光路のパルスレーザー光を入射する中空ファイバー110と、ビームスプリッター108により分岐された他方の光路のパルスレーザー光を反射する全反射ミラー112と、ピエゾ駆動ミラー106により反射されたパルスレーザー光の光軸の位置情報を検出する位置検出手段たる全反射ミラー112により反射されたパルスレーザー光を二次元位置検出素子12の受光面に入射するように配置された上記した光軸位置検出装置10と、光軸位置検出装置10の除算器20a、20bからの出力を入力するPID回路114とを有して構成されている。
【0056】
ここで、光軸位置検出装置10には、チタンサファイアレーザー装置102によるパルスレーザー光の出力と同期をとるための同期信号たるトリガー信号が、チタンサファイアレーザー装置102から入力されている。
【0057】
なお、レーザーシステム100においては、光軸位置検出装置10とピエゾ駆動ミラー106とPID回路114とにより、本発明によるパルスレーザー光の光軸位置制御装置が構築されている。
【0058】

以上の構成において、上記したレーザーシステム100においては、チタンサファイアレーザー装置102から出射されたパルスレーザー光は、全反射ミラー104を介してピエゾ駆動ミラー106により反射され、ビームスプリッター108により2つの光路に分岐される。
【0059】
そして、ビームスプリッター108により分岐された2つの光路のうちの一方の光路のパルスレーザー光は、中空ファイバー110内へ入射される。
【0060】
一方、ビームスプリッター108により分岐された2つの光路のうちの他方の光路のパルスレーザー光は、全反射ミラー112を介して光軸位置検出装置10における二次元位置検出素子12の受光面に入射され、光軸位置検出装置10は、パルスレーザー光の光軸の位置情報として、二次元位置検出素子12の受光面に入射したパルスレーザー光の当該入射位置のXY座標値をPID回路114へ出力する。
【0061】
なお、光軸位置検出装置10の動作の詳細については、上記した通りであるので、その詳細な説明は省略する。
【0062】
PID回路114は、光軸位置検出装置10で検出されて出力されたパルスレーザー光の光軸の位置情報をもとに、ピエゾ駆動ミラー106の駆動操作をフィードバック制御してピエゾ駆動ミラーの位置制御を行い、ピエゾ駆動ミラー106により反射されたパルスレーザー光の光軸の位置の変動を抑制する。
【0063】

従って、レーザーシステム100においては、パルスとパルスとの間におけるレーザー光が入射しない時間帯においても、光軸位置検出装置10における位置検出に必要な信号処理回路における最終段の除算器20a、20bを機能させることができるようになり、ピエゾ駆動ミラー106により反射されたパルスレーザー光の光軸の位置の変動を確実に抑制することができるようになる。
【0064】
このため、レーザーシステム100においては、
a.中空ファイバー入射端面がパルスレーザー光の照射を受けて損傷することを抑止 できる
b.中空ファイバー出射後のパルスレーザー光のスペクトル広がりの揺らぎを抑制す ることができる
c.中空ファイバー出射後のパルスレーザー光のパワーの変動を抑制することができ る
というような優れた作用効果が得られる。
【0065】

なお、上記したレーザーシステム100は、ピエゾ駆動ミラー106により反射されたパルスレーザー光の光軸の位置情報を検出する位置検出手段として、チタンサファイアレーザー装置102から出力されたパルスレーザー光の出力と同期したトリガー信号を入力して動作する光軸位置検出装置10を備える点においてのみ「背景技術」において説明した従来の技術と異なり、検出されたパルスレーザー光の光軸の位置情報をもとに、PID回路114を用いてピエゾ駆動ミラー106の駆動操作をフィードバック制御して、パルスレーザー光の光軸の位置の変動を抑制するという手法は従来の技術と同様である。
【0066】

ここで、図4(a)(b)には、レーザーシステム100を用いて行った実験結果の一例が示されている。
【0067】
この実験は、中空ファイバー110に代えて公知の二次元位置検出装置を配置し、この二次元位置検出装置により、中空ファイバー110に入射されるべきパルスレーザー光の光軸の変動を測定したものであ。
【0068】
図4(a)は、光軸位置検出装置10を用いたピエゾ駆動ミラー106のフィードバック制御を行わなかった際における測定された光軸位置の分布を示している。
【0069】
一方、図4(b)は、光軸位置検出装置10を用いてピエゾ駆動ミラー106のフィードバック制御を行った際における測定された光軸位置の分布を示している。
【0070】
図4(a)(b)に示されているように、上記したフィードバック制御を行わなかった場合には、おおよそ150μmの変動幅が観測されたが、上記したフィードバック制御を行った場合には、変動幅が+/−4μm(RMSで1μm)まで抑制された。
【0071】

ここで、図4(a)(b)に示すデータにアラン分散を用いて周波数解析を行うと、図5に示すグラフが得られる。
【0072】
図5から明らかなように、フィードバック制御を行うことにより、およそ100Hzまでの変動成分(図5の積分時間で0.01秒以上)が抑制された。
【0073】

なお、上記したレーザーシステム100は、二次元位置検出素子12の後段に位置する信号処理回路、即ち、減算器14a、14b、加算器16a、16b、ピークホールド回路18a、18b、18c、18dおよび除算器20a、20bをアナログ回路で構築した光軸位置検出装置10を用いた例を示したが、信号処理回路をアナログ回路で構築した光軸位置検出装置10に代えて、二次元位置検出素子12の後段に位置する信号処理回路をデジタル回路で構築した光軸位置検出装置を用いてもよいことは勿論である。
【0074】
そして、この場合には、PID回路114も設けることなしに、PID回路114により実行されるPID制御もコンピューター上でソフトウェアプログラムの制御により行い、PID制御を実行されてコンピューターから出力されたデジタル信号をデジタル/アナログ(D/A))変換器でアナログ信号に変換し、こうして変換されたアナログ信号によりピエゾ駆動ミラー106を操作してフィードバック制御するように設定すればよい。
【0075】

また、上記した実施の形態は、以下に説明する(1)乃至(4)に示すように変形してもよい。
【0076】
(1)上記した実施の形態においては、パルスレーザー光の光軸を変化させるためにピエゾ駆動ミラーを用いたが、これに限られるものではないことは勿論であり、ピエゾ駆動ミラーに代えて、例えば、ボイスコイル駆動ミラーなどを用いてもよいことは勿論である。
【0077】
(2)上記した実施の形態においては、本発明を中空ファイバーパルス圧縮におけるパルスレーザー光の光軸の変動の抑制に用いた場合について説明したが、これに限られるものではないことは勿論であり、例えば、本発明をレーザー加工におけるパルスレーザー光の光軸の変動の抑制に用いてもよい。
【0078】
(3)上記した実施の形態においては、二次元位置検出素子はXY直交座標系の二次元平面よりなる矩形状の受光面を備えるようにしたが、受光面の形状は矩形状に限られるものではないことは勿論であり、正方形状などの任意の形状を適宜に選択することができる。
【0079】
(4)上記した実施の形態ならびに上記した(1)乃至(3)に示す変形例は、適宜に組み合わせて用いるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、パルスレーザー光を用いたレーザー加工、空間光通信、エネルギー伝送、光計測などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は、従来の技術ならびに本発明を説明するための波形図である。
【図2】図2は、本発明によるパルスレーザー光の光軸位置検出装置の実施の形態の一例のブロック構成説明図である。
【図3】図3は、本発明によるパルスレーザー光の光軸位置制御装置を用いたレーザーシステムの一例のブロック構成説明図である。
【図4】図4(a)(b)は、本発明によるパルスレーザー光の光軸位置制御装置を用いたレーザーシステムを用いて行った実験結果の一例を示し、図4(a)は、本発明による光軸位置検出装置を用いたピエゾ駆動ミラーのフィードバック制御を行わなかった際における測定された光軸位置の分布を示すグラフであり、また、図4(b)は、本発明による光軸位置検出装置を用いてピエゾ駆動ミラーのフィードバック制御を行った際における測定された光軸位置の分布を示すグラフである。
【図5】図5は、図4(a)(b)に示すデータにアラン分散を用いて周波数解析を行った結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0082】
10 光軸位置検出装置
12 二次元位置検出素子
14a、14b 減算器
16a、16b 加算器
18a、18b、18c、18d ピークホールド回路
20a、20b 除算器
100 レーザーシステム
102 チタンサファイアレーザー装置
104 全反射ミラー
106 ピエゾ駆動ミラー
108 ビームスプリッター
110 中空ファイバー
112 全反射ミラー
114 PID回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスレーザー光を受光する受光面が均一な抵抗値を持つ抵抗層として形成され、前記受光面にパルスレーザー光が入射すると該入射位置に応じた信号を出力する二次元位置検出素子と、
前記二次元位置検出素子から出力された信号を処理して、前記受光面に入射したパルスレーザー光の入射位置情報を出力する信号処理回路と
を有し、
前記信号処理回路は、前記受光面に入射されるパルスレーザー光の出力と同期がとれたトリガー信号を用いて前記二次元位置検出素子からの各信号波形のピーク値を保存するピークホールド回路を
有することを特徴とするパルスレーザー光の光軸位置検出装置。
【請求項2】
XY直交座標系の二次元平面よりなる受光面を備え、前記受光面にパルスレーザー装置から出射されたパルスレーザー光が入射すると、該パルスレーザー光の入射位置に従って、前記受光面のX軸方向において対向する辺にそれぞれ配置された電極からそれぞれ電流IX1と電流IX2とが信号として出力され、前記受光面のY軸方向において対向する辺にそれぞれ配置された電極からそれぞれ電流IY1と電流IY2とが信号として出力される二次元位置検出素子と、
前記二次元位置検出素子から出力された電流IY1と電流IY2とを用い、電流IY1から電流IY2を減算し、信号IY1−IY2を出力する第1の減算器と、
前記二次元位置検出素子から出力された電流IY1と電流IY2とを用い、電流IY1と電流IY2とを加算し、信号IY1+IY2を出力する第1の加算器と、
前記二次元位置検出素子から出力された電流IX1と電流IX2とを用い、電流IX1から電流IX2を減算し、信号IX1−IX2を出力する第2の減算器と、
前記二次元位置検出素子から出力された電流IX1と電流IX2とを用い、電流IX1と電流IX2とを加算し、信号IX1+IX2を出力する第2の加算器と、
前記パルスレーザー装置によるパルスレーザー光の出力と同期のとれたトリガー信号を用いて前記第1の減算器から出力された信号IY1−IY2の信号波形のピーク値である信号IY1p−IY2pを保存して出力する第1のピークホールド回路と、
前記パルスレーザー装置によるパルスレーザー光の出力と同期のとれたトリガー信号を用いて前記第1の加算器から出力された信号IY1+IY2の信号波形のピーク値である信号IY1p+IY2pを保存して出力する第2のピークホールド回路と、
前記パルスレーザー装置によるパルスレーザー光の出力と同期のとれたトリガー信号を用いて前記第2の減算器から出力された信号IX1−IX2の信号波形のピーク値である信号IX1p−IX2pを保存して出力する第3のピークホールド回路と、
前記パルスレーザー装置によるパルスレーザー光の出力と同期のとれたトリガー信号を用いて前記第2の加算器から出力された信号IX1+IX2の信号波形のピーク値である信号IX1p+IX2pを保存して出力する第4のピークホールド回路と、
前記第1のピークホールド回路から出力された信号IY1p−IY2pを前記第2のピークホールド回路から出力された信号IY1p+IY2pで除算し、該除算の演算結果であるY=IY1p−IY2p/IY1p+IY2pを前記受光面に入射したパルスレーザー光の入射位置情報として出力する第1の除算器と、
前記第3のピークホールド回路から出力された信号IX1p−IX2pを前記第4のピークホールド回路から出力された信号IX1p+IX2pで除算し、該除算の演算結果であるX=IX1p−IX2p/IX1p+IX2pを前記受光面に入射したパルスレーザー光の入射位置情報として出力する第2の除算器と
を有し、
前記第1の除算器で取得した演算結果Yが、前記二次元位置検出素子の前記受光面に入射したパルスレーザー光の入射位置のXY直交座標系におけるY座標値を示し、前記第2の除算器で取得した演算結果Xが、前記二次元位置検出素子の前記受光面に入射したパルスレーザー光の入射位置のXY直交座標系におけるX座標値を示す
ことを特徴とするパルスレーザー光の光軸位置検出装置。
【請求項3】
パルスレーザー光を受光する受光面が均一な抵抗値を持つ抵抗層として形成され、前記受光面にパルスレーザー光が入射すると該入射位置に応じたアナログ信号を出力する二次元位置検出素子と、
前記二次元位置検出素子から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して出力するアナログ/デジタル変換器と、
前記アナログ/デジタル変換器から出力されたデジタル信号を処理して、前記受光面に入射したパルスレーザー光の入射位置情報を示すデジタル信号を出力する信号処理手段と
を有し、
前記信号処理手段は、前記受光面に入射されるパルスレーザー光の出力と同期がとれたトリガー信号を用いて前記二次元位置検出素子からの各信号波形のピーク値を保存するピークホールド手段を
有することを特徴とするパルスレーザー光の光軸位置検出装置。
【請求項4】
パルスレーザー光の光軸の位置を制御するパルスレーザー光の光軸位置制御装置において、
光軸の位置を制御する対象のパルスレーザー光を反射する駆動ミラーと、
前記駆動ミラーにより反射されたパルスレーザー光を受光して該パルスレーザー光の入射位置を検出し、該検出結果を前記受光面に入射したパルスレーザー光の入射位置情報として出力する請求項1または請求項2のいずれか1項に記載のパルスレーザー光の光軸位置検出装置と、
前記パルスレーザー光の光軸位置検出装置から出力された前記入射位置情報に基づいて、前記駆動ミラーを制御するPID回路と
を有することを特徴とするパルスレーザー光の光軸位置制御装置。
【請求項5】
パルスレーザー光の光軸の位置を制御するパルスレーザー光の光軸位置制御装置において、
光軸の位置を制御する対象のパルスレーザー光を反射する駆動ミラーと、
前記駆動ミラーにより反射されたパルスレーザー光を受光して該パルスレーザー光の入射位置を検出し、該検出結果を前記受光面に入射したパルスレーザー光の入射位置情報を示すデジタル信号として出力する請求項3に記載のパルスレーザー光の光軸位置検出装置と、
前記パルスレーザー光の光軸位置検出装置から出力された前記入射位置情報を示すデジタル信号に基づいて、前記駆動ミラーを制御するためのデジタル信号を生成して出力するPID制御手段と、
前記PID制御手段から出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換して前記駆動ミラーへ出力するデジタル/アナログ変換器と
を有することを特徴とするパルスレーザー光の光軸位置制御装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5のいずれか1項に記載のパルスレーザー光の光軸位置制御装置において、
前記駆動ミラーは、ピエゾ駆動ミラーまたはボイスコイル駆動ミラーである
ことを特徴とするパルスレーザー光の光軸位置制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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