説明

パルスレーザ発振器及びパルスレーザ発振制御方法

【課題】
複数の電気光学素子に印加する電圧を経時的にそれぞれ変化させ、レーザ光のパルス幅を伸長し、出力されるパルスレーザのピークエネルギーを低下させることができるパルスレーザ発振器を提供する。
【解決手段】
印加された電圧に応じて光を偏光する複数の電気光学素子6a,6bと、前記複数の電気光学素子6a,6bの個々に電圧を印加するとともに電圧を制御する電圧制御装置7とを備えたパルスレーザ発振器であって、前記電圧制御装置7によって、前記複数の電気光学素子6a,6bの個々に印加する電圧を経時的にそれぞれ変化させ、レーザ光のパルス幅を制御するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印加された電圧に応じて光を偏光する複数の電気光学素子を備えたパルスレーザ発振器及びパルスレーザ発振制御方法に関し、詳しくは、前記複数の電気光学素子に印加する電圧を経時的にそれぞれ変化させ、レーザ光のパルス幅を伸長し、出力されるパルスレーザのピークエネルギーを低下させることができるパルスレーザ発振器及びパルスレーザ発振制御方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来のパルスレーザ発振器として、レーザ媒質、これを励起する励起用光源及びレーザ媒質が放射した光を往復増幅する共振器を有してパルスレーザ光を得る構成であって、レーザ媒質の片側に高反射率ミラーを、他方側に低反射率ミラーを配設してなる共振器間にQスイッチ素子及びキャビティダンプ素子を配設し、レーザ光を共振器内に完全に閉じ込めた状態でQスイッチ発振を行わせ、共振器内に蓄積されたパルスレーザ光のピークレベル近傍で、続けてキャビティダンプ素子を動作させてキャビティダンプを行なわせることにより、共振器内部に蓄積されたエネルギーを瞬間的に外部に取り出すように構成されたものがあった(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−69118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来のパルスレーザ発振器においては、共振器内部に蓄積されたエネルギーが瞬間的に外部に取り出されるため、出力されるパルスレーザのピークエネルギーが大きくなりすぎ、レーザが照射される対象物を損傷するおそれがあった。
【0005】
そこで、このような問題点に対処し、本発明が解決しようとする課題は、パルス幅を伸長することにより、出力されるパルスレーザのピークエネルギーを低下させることができるパルスレーザ発振器及びパルスレーザ発振制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明によるパルスレーザ発振器は、印加された電圧に応じて光を偏光する複数の電気光学素子と、前記複数の電気光学素子の個々に電圧を印加するとともに電圧を制御する電圧制御装置とを備えたパルスレーザ発振器であって、前記電圧制御装置によって、前記複数の電気光学素子の個々に印加する電圧を経時的にそれぞれ変化させ、レーザ光のパルス幅を制御するものである。
【0007】
また、前記電圧制御装置は、前記複数の電気光学素子の個々に印加する電圧の変化率をそれぞれ段階的に変化させるものである。
【0008】
さらに、前記電気光学素子を2つ備え、前記電圧制御装置によって、前記2つの電気光学素子にそれぞれ反対方向に電圧を印加するものである。
【0009】
またさらに、前記複数の電気光学素子はポッケルスセルであり、さらにλ/4波長板を備えたものである。
【0010】
本発明によるパルスレーザ発振制御方法は、印加された電圧に応じて光を偏光する複数の電気光学素子の個々に印加する電圧を経時的にそれぞれ変化させることにより、レーザ光の発振を制御するレーザ発振制御方法において、前記複数の電気光学素子に印加する電圧をそれぞれ変化させ、レーザ光のパルス幅を制御するものである。
【0011】
また、前記複数の電気光学素子の個々に印加する電圧の変化率をそれぞれ段階的に変化させるものである。
【0012】
さらに、前記電気光学素子は2つであって、それぞれ反対方向に電圧を印加するものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係るパルスレーザ発振器によれば、前記電圧制御装置によって、前記複数の電気光学素子に印加する電圧を経時的にそれぞれ変化させ、レーザ光のパルス幅を制御することができる。したがって、前記電圧制御装置によって複数の電気光学素子に印加する電圧を変化させることにより、出力されるパルスレーザのパルス幅を伸長させ、パルスレーザのピークエネルギーを低下させることができる。
また、複数の電気光学素子に印加する電圧を経時的にそれぞれ変化させることができるため、各電気光学素子に印加する電圧をそれぞれ変化させることにより、複数の電気光学素子全体として、複雑な電圧の制御を容易に行うことができる。
さらに、レーザ光を分光するビームスプリッタや、遅延光学系のためのミラーを使用せずにパルス幅を伸長させることができるため、パルスレーザ発振器をコンパクトに形成することができる。
またさらに、パルスレーザ発振器を使用する際に、上記ビームスプリッタや、遅延光学系のためのミラーを調整する必要がないため、パルスレーザ発振器を使用するための作業が容易になる。
【0014】
また、請求項2に係るパルスレーザ発振きによれば、前記電圧制御装置によって前記複数の電気光学素子に印加する電圧の変化率を段階的に変化させることにより、出力されるパルスレーザのパルス幅を伸長させ、パルスレーザのピークエネルギーを低下させることができる。
【0015】
さらに、請求項3に係るパルスレーザ発振器によれば、2つの電気光学素子に反対方向に電圧を印加することにより、出力されるパルスレーザのパルス幅を伸長させ、パルスレーザのピークエネルギーを低下させることができる。
【0016】
またさらに、請求項4に係るパルスレーザ発振器によれば、λ/4波長板とポッケルスセルによって光を偏光させることができる。
【0017】
請求項5に係るパルスレーザ発振制御方法によれば、前記複数の電気光学素子に印加する電圧を経時的にそれぞれ変化させ、レーザ光のパルス幅を制御することができる。したがって、複数の電気光学素子に印加する電圧を経時的にそれぞれ変化させることにより、出力されるパルスレーザのパルス幅を伸長させ、パルスレーザのピークエネルギーを制御することができる。
また、複数の電気光学素子に印加する電圧を経時的にそれぞれ変化させることができるため、各電気光学素子に印加する電圧をそれぞれ変化させることにより、複数の電気光学素子全体として、複雑な電圧の制御を容易に行うことができる。
さらに、このパルスレーザ発振制御方法を使用したパルスレーザ発振器は、レーザ光を分光するビームスプリッタや、遅延光学系のためのミラーを使用せずにパルス幅を伸長させることができる。
またさらに、上記パルスレーザ発振器は、上記ビームスプリッタや、遅延光学系のためのミラーを調整する必要がないため、使用の際の作業が容易になる。
【0018】
また、請求項6に係るパルスレーザ発振制御方法によれば、前記複数の電気光学素子に印加する電圧の変化率をそれぞれ段階的に変化させることにより、出力されるパルスレーザのパルス幅を伸長させ、パルスレーザのピークエネルギーを制御することができる。
【0019】
さらに、請求項7に係るパルスレーザ発振制御方法によれば、2つの電気光学素子に反対方向に電圧を印加することにより、出力されるパルスレーザのパルス幅を伸長させ、パルスレーザのピークエネルギーを低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明によるパルスレーザ発振器の実施形態における電圧非印加状態を示す概略図である。
【図2】前記パルスレーザ発振器の電圧印加状態を示す概略図である。
【図3】前記パルスレーザ発振器に備えられた2つのポッケルスセルに印加する電圧の合計の変化と、パルスレーザの出力エネルギーの関係の一例を示すグラフである。
【図4】図3に記載の関係の他の例を示すグラフである。
【図5】図3及び図4に記載の関係のさらに他の例を示すグラフである。
【図6】2つのポッケルスセルへの電圧の制御を模式的に示すグラフであり、(a)は2つのポッケルスセルにそれぞれ電圧を印加する制御、(b)は(a)時における2つのポッケルスセルのトータル印加電圧を示すグラフである。
【図7】図6に記載の電圧の制御の他の例を示すグラフである。
【図8】前記ポッケルスセルに印加する電圧と、パルスレーザの出力エネルギーの関係の一例を示すグラフであり、(a)は1つのポッケルスセルにのみ電圧を印加する場合、(b)は2つのポッケルスセルに同一方向に電圧を印加する場合を示すグラフである。
【図9】前記2つのポッケルスセルに同一方向に電圧を印加した場合と、反対方向に電圧を印加した場合と、に出力されるパルスレーザの出力エネルギーを比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明によるパルスレーザ発振器の実施形態を示す図である。このパルスレーザ発振器は、Q値(後述する光共振器3内に蓄えられたエネルギー/光共振器3の外部に失われるエネルギー)を切り替えることによりジャイアントパルスを発生させるQスイッチ法によりジャイアントパルスを発生させるYAGレーザであって、YAGロッド1と、フラッシュランプ2と、光共振器3と、ポラライザー4と、λ/4波長板5と、第1ポッケルスセル6aと、第2ポッケルスセル6bと、電圧制御装置7と、を備える。
【0022】
前記YAGロッド1は、後述するフラッシュランプ2から光を照射されることにより光を放出し、放出した光を誘導放出により増幅させるものであって、図1に示すように、光軸Lに沿って光を放出する固体のレーザ媒質である。このYAGロッド1のかわりに、Nd:YAGロッドやEr:YAGロッドなどの他のレーザ媒質を使用してもよい。
【0023】
YAGロッド1の側面(図1におけるYAGロッド1の上側)にはフラッシュランプ2が設けられている。このフラッシュランプ2は、前記YAGロッド1に光を照射して、YAGロッド1からの光の放出を開始させるものであり、例えばキセノンフラッシュランプやレーザダイオードが使用される。
【0024】
図1における前記YAGロッド1の左右の両側方には、フロントミラー3a及びリアミラー3bが設けられている。このフロントミラー3a及びリアミラー3bは、YAGロッド1から放出された光を2枚のミラー間で往復させるものであり、フロントミラー3aとリアミラー3bとによって、YAGロッド1内で誘導放出を生じさせてコヒーレントな光を増幅させる光共振器3を構成している。
【0025】
前記フロントミラー3aは、入射光の一部を透過させる部分透過ミラーであって、YAGロッド1から放出される光の光軸L上のレーザ光が放出される側に設置される。Qスイッチ法により瞬間的に増幅されたレーザ光の一部が、このフロントミラー3aを通じて光共振器3内から取り出される。
【0026】
また、前記リアミラー3bは、YAGロッド1を挟んで前記フロントミラー3aと反対側の光軸L上に設けられた全反射ミラーであり、フロントミラー3aとの間で光軸L上の光を往復させる。
【0027】
前記リアミラー3bと前記YAGロッド1との間の光軸L上には、ポラライザー4が設けられている。このポラライザー4は、入射光のうち、入射面に対して垂直な偏光成分であるs偏光を反射することにより、入射面に対して平行な偏光成分であるp偏光だけを透過させるものであって、前記Qスイッチ法におけるシャッターの役割を果たす偏光子である。ポラライザー4の材質は、ガラスやプラスチックであり、入射光の入射角θが、p偏光の反射率が0になるブリュースター角となるように光軸Lに対して傾いて設置されている。このポラライザー4は、複数設けられてもよく、例えばYAGロッド1とフロントミラー3aとの間に、入射光の入射角がブリュースター角となるように光軸Lに対して傾いて設置されてもよい。また、ポラライザー4は、s偏光又はp偏光のいずれか一方のみを透過させるものであればよく、上記のものの他にも、例えば偏光プリズムや偏光フィルタ等の偏光子を使用してもよい。
なお、以下の説明で使用するs偏光及びp偏光という語は、このポラライザー4に対するs偏光及びp偏光を指すものとする。
【0028】
前記ポラライザー4と前記リアミラー3bとの間には、λ/4波長板5が設けられている。このλ/4波長板5は、入射光の偏光成分に90°(π/2)の位相差を生じさせることにより、直線偏光(上記s偏光又はp偏光)を円偏光に、円偏光を直線偏光に変換するものであって、図1に示すように、ポラライザー4の左側の光軸L上に設けられている。YAGロッド1から放出され、ポラライザー4を透過したp偏光は、このλ/4波長板5により円偏光に変換される。
【0029】
前記λ/4波長板5と前記リアミラー3bとの間には、第1ポッケルスセル6aと第2ポッケルスセル6bとが設けられている。これら2つのポッケルスセル6a,6bは、印加された電圧に応じて光を偏光する電気光学素子であって、図1に示すように、λ/4波長板5の左側の光軸L上に、λ/4波長板5側から第1ポッケルスセル6a、第2ポッケルスセル6bの順に設けられている。これら2つのポッケルスセル6a,6bは、電圧を印加されていない状態では光を偏光しないが、電圧を印加されると光を偏光し、その偏光の度合いは印加電圧に依存する。
【0030】
前記第1ポッケルスセル6a及び第2ポッケルスセル6bには、電圧制御装置7が電気的に接続されている。電圧制御装置7は、第1ポッケルスセル6a及び第2ポッケルスセル6bの個々に電圧を印加するとともに印加する電圧を制御するものであって、第1電圧印加回路8aと、第2電圧印加回路8bと、第1制御回路9aと、第2制御回路9bとからなる。
【0031】
第1電圧印加回路8aは、第1ポッケルスセル6aに電圧を印加するものであって、第1ポッケルスセル6aに電気的に接続されている。この第1電圧印加回路8aには、第1電圧印加回路8aによる第1ポッケルスセル6aへの電圧の印加を制御することで、第1ポッケルスセル6aに入射した光の偏光の度合いを変化させ、レーザ光の発振を制御する第1制御回路9aが接続されている。
【0032】
第2電圧印加回路8bは、第2ポッケルスセル6bに電圧を印加するものであって、第2ポッケルスセル6bに電気的に接続されている。この第2電圧印加回路8bには、第2電圧印加回路8bによる第2ポッケルスセル6bへの電圧の印加を制御することで、第2ポッケルスセル6bに入射した光の偏光の度合いを変化させ、レーザ光の発振を制御する第2制御回路9bが接続されている。
【0033】
次に、このように構成されたパルスレーザ発振器の動作及びパルスレーザ発振制御方法について、図1〜図9を参照して説明する。
このパルスレーザ発振器によりパルスレーザを発振する際、まず、前記第1制御回路9a及び第2制御回路9bは、第1電圧印加回路8a及び第2電圧印加回路8bにそれぞれ信号を送り、第1ポッケルスセル6a及び第2ポッケルスセル6bへの印加電圧が0Vとなるように制御する。この状態で、前記フラッシュランプ2が発光し、YAGロッド1に光を照射すると、YAGロッド1内の一部の原子が励起状態となり、YAGロッド1から光軸Lに沿って光が放出される。YAGロッド1からポラライザー4の方向(矢印Aの方向)に放出された光は、図1に示すように、ブリュースター角となる入射角θで前記ポラライザー4に入射する。入射した光のうち、p偏光はポラライザー4を透過し、s偏光及び円(又は楕円)偏光はポラライザー4により反射されて光軸Lの外方へ進む。
【0034】
ポラライザー4を透過した前記p偏光は、前記λ/4波長板5に入射して90°(π/2)の位相差を生じ、円偏光に変換され、第1ポッケルスセル6aに入射する。ここで、第1ポッケルスセル6aには電圧が印加されていないため、入射光を偏光せずに透過させる。したがって、第1ポッケルスセル6aに入射した上記円偏光は、図1に示すように、円偏光のまま第1ポッケルスセル6aを透過する。透過した円偏光は第2ポッケルスセル6bについても上記と同様に円偏光のまま透過し、リアミラー3bで反射され、再度第2ポッケルスセル6b及び第1ポッケルスセル6aを透過し、λ/4波長板5に入射する。
【0035】
円偏光がλ/4波長板5に入射すると、さらに90°(π/2)の位相差を生じ、s偏光(すなわち、YAGロッド1から放出され、ポラライザー4を透過したp偏光とは、位相が180°(π)ずれた状態)に変換され、ポラライザー4にブリュースター角となる入射角θで入射する。ポラライザー4は上述の通り、s偏光を反射する機能を備えるため、入射した前記s偏光はポラライザー4に反射されて光軸Lの外方へ進む。
【0036】
このように、第1ポッケルスセル6a及び第2ポッケルスセル6bに電圧を印加しない状態においては、YAGロッド1から放出された光はポラライザー4により反射されてしまい、再びYAGロッド1に入射しないため、光共振器3内での共振が発生せず、パルスレーザの発振が抑制される。
【0037】
次に、前記YAGロッド1内の励起された原子の数が、パルスレーザとして出力したいエネルギーに必要な量となる(反転分布が十分大きくなる)まで上記の電圧非印加状態を維持した後、前記第1制御回路9a及び第2制御回路9bによって、第1電圧印加回路8a及び第2電圧印加回路8bが第1ポッケルスセル6a及び第2ポッケルスセル6bに印加する電圧を変化させる。第1電圧印加回路8a及び第2電圧印加回路8bによって、第1ポッケルスセル6a及び第2ポッケルスセル6bに電圧が印加されると、第1ポッケルスセル6a及び第2ポッケルスセル6bは印加された電圧に応じて光を偏光する。これら2つのポッケルスセル6a,6bにそれぞれ所定の電圧を印加すると、2つのポッケルスセル6a,6bは全体としてλ/4波長板として機能する。このとき、上記2つのポッケルスセル6a,6bに印加する電圧の大きさ、方向、及び変化させるタイミングは、第1制御回路9a及び第2制御回路9bによって、同一になるように制御されてもよく、また異なるように制御されてもよい。
【0038】
第1ポッケルスセル6a及び第2ポッケルスセル6bに電圧が印加された状態において、YAGロッド1からポラライザー4の方向(矢印Aの方向)に放出された光は、図2に示すように、上記電圧非印加状態と同様、p偏光のみポラライザー4を透過し、s偏光及び円(楕円)偏光は、ポラライザー4に反射される。ポラライザー4を透過したp偏光は、λ/4波長板5により円偏光に変換され、第1ポッケルスセル6a及び第2ポッケルスセル6bに入射する。第1ポッケルスセル6a及び第2ポッケルスセル6bに入射した円偏光は、電圧の印加により第1ポッケルスセル6a及び第2ポッケルスセル6bが全体としてλ/4波長板として機能しているため、これら2つのポッケルスセル6a,6bを透過することで90°(π/2)の位相差を生じ、s偏光(すなわち、YAGロッド1から放出され、ポラライザー4を透過したp偏光とは、位相が180°(π)ずれた状態)に変換される。
【0039】
このs偏光はリアミラー3bにより反射され、再度第2ポッケルスセル6b及び第1ポッケルスセル6aに入射し、さらに90°の位相差を生じ、円偏光(すなわち、YAGロッド1から放出され、ポラライザー4を透過したp偏光とは、位相が270°(3π/2)ずれた状態)に変換される。この円偏光は、λ/4波長板5に入射し、さらに90°の位相差を生じ、p偏光(すなわち、YAGロッド1から放出され、ポラライザー4を透過したp偏光とは、位相が360°(2π)ずれた状態)に変換される。
【0040】
このp偏光は、ポラライザー4にブリュースター角となる入射角θで入射し、ポラライザー4を透過する。ポラライザー4を透過した光は、図2におけるYAGロッド1の左側から入射し、YAGロッド1内で誘導放出を生じさせ、図2におけるYAGロッド1の右側から放出され、フロントミラー3aに反射され、YAGロッド1を図2における右側から左側に通過する。以下、同様の手順で光共振器3内を光が往復し、誘導放出により増幅されたコヒーレントな光の一部がフロントミラー3aから矢印Bの方向にレーザとして出力される。
【0041】
図3は、第1ポッケルスセル6aにのみ電圧を印加する(第2ポッケルスセル6bには電圧を印加しない)場合における、第1ポッケルスセル6aに印加する電圧の変化と、出力されるパルスレーザの出力エネルギーの関係の一例を示すグラフである。本発明によるパルスレーザ発振器の実施形態において、第1制御回路9aによって、第1電圧印加回路8aが第1ポッケルスセル6aに印加する電圧を、約0Vから約−4000Vまで約100nsで変化させると、パルスレーザのピークエネルギーが約13.0mJ、パルス幅が約10nsとなっている。
【0042】
また、図4は、図3に記載の関係の他の例を示すグラフである。本実施例においては、第1制御回路9aによって、第1電圧印加回路8aが第1ポッケルスセル6aに印加する電圧の合計を、約0Vから約−3000Vまで約800nsで上記図3に示す実施例より緩やかに変化させており、パルスレーザのピークエネルギーが約0.6mJ、パルス幅が約70nsとなっている。このように、第1電圧印加回路8aにより印加する電圧の変化率を、第1制御回路9aによって小さくすることにより、パルスレーザのパルス幅を伸長させ、ピークエネルギーを低下させることができる。これは、第2ポッケルスセル6bにのみ電圧を印加する(第1ポッケルスセル6aには電圧を印加しない)場合においても同様である。また、第1ポッケルスセル6a及び第2ポッケルスセル6bの両方に電圧を印加する場合であっても同様である。すなわち、第1制御回路9a及び第2制御回路9bによって、第1ポッケルスセル6a及び第2ポッケルスセル6bに印加する電圧を変化させることにより、出力されるパルスレーザのパルス幅を伸長させ、パルスレーザのピークエネルギーを低下させることができる。
【0043】
さらに、図5は、図3及び図4に記載の関係のさらに他の例を示すグラフである。第1制御回路9aによって、第1電圧印加回路8aが第1ポッケルスセル6aに印加する電圧を、約0Vから約−1500Vまで約300nsで変化させた後、約−1500Vから約−4500Vまでさらに600nsで変化させている。
【0044】
図5に示すように、約0Vから約−1500Vまでの電圧の変化と、約−1500Vから約−4500Vまでの電圧の変化との間では、電圧の変化率が1回変化している。すなわち、図5における約−1500V前後での電圧のグラフの勾配が変化している。このように、電圧の変化率を段階的に変化させると、第1制御回路9aによって電圧の変化率を変化させる点(以下「制御点」という。)Cの後にもピークを生じさせることができる。本実施例においては、パルスレーザの第1のピークエネルギーが約0.5〜0.6mJ、第2のピークエネルギーも同様に約0.5〜0.6mJ、パルス幅が約150nsとなっている。
【0045】
このように、第1制御回路9aによって第1電圧印加回路8aが第1ポッケルスセル6aに印加する電圧の変化率を段階的に変化させることにより、出力されるパルスレーザのパルス幅を伸長させ、パルスレーザのピークエネルギーを低下させることができる。これは、第2ポッケルスセル6bにのみ電圧を印加する(第1ポッケルスセル6aには電圧を印加しない)場合においても同様である。また、第1ポッケルスセル6a及び第2ポッケルスセル6bの両方に電圧を印加する場合であっても同様である。すなわち、第1制御回路9a及び第2制御回路9bによって、第1電圧印加回路8a及び第2電圧印加回路8bが第1ポッケルスセル6a及び第2ポッケルスセル6bに印加する電圧の変化率を段階的に変化させることにより、出力されるパルスレーザのパルス幅を伸長させ、パルスレーザのピークエネルギーを低下させることができる。
なお、上記制御点Cの数は、所望のパルス幅及びピークエネルギーに応じて任意に決定すればよい。
【0046】
図6は、2つのポッケルスセル6a,6bへの電圧の制御を模式的に示すグラフである。図6(a)に示すように、第1制御回路9aによって第1ポッケルスセル6aに印加する電圧を制御し、第2制御回路9bによって第2ポッケルスセル6bに印加する電圧を制御することによって、これら2つのポッケルスセル6a,6bに電圧を印加するタイミングをずらすことができる。このように、2つのポッケルスセル6a,6bに電圧を印加するタイミングをずらす電圧の制御は、2つのポッケルスセル6a,6b全体として、図6(b)に示すような、2つのポッケルスセル6a,6bへのトータル印加電圧の変化率を段階的に1回変化させる(制御点Cが1つの)電圧の制御と等価である。すなわち、2つのポッケルスセル6a,6bに電圧を印加するタイミングをずらすことによって、一方のポッケルスセルに印加する電圧の変化率を段階的に変化させた場合と同様、出力されるパルスレーザのパルス幅を伸長させ、パルスレーザのピークエネルギーを低下させることができる。この際、第1制御回路9a及び第2制御回路9bは、第1ポッケルスセル6a及び第2ポッケルスセル6bに印加する電圧の変化率をそれぞれ段階的に変化させる必要がないため、制御が容易である。したがって、簡単な構造の制御回路を使用することができる。
【0047】
また、図7(a)に示すように、第1ポッケルスセル6a及び第2ポッケルスセル6bに電圧を印加するタイミングをずらしつつ、印加する電圧の変化率をそれぞれ段階的に変化させてもよい。このように、2つのポッケルスセル6a,6bに電圧を印加するタイミングをずらしつつ、印加する電圧の変化率をそれぞれ段階的に変化させる電圧の制御は、2つのポッケルスセル6a,6b全体として、第1ポッケルスセル6a又は第2ポッケルスセル6bのいずれか一方に対する、図7(b)のような電圧の変化率を段階的に3回変化させる(制御点Cが3つ)電圧の制御と等価である。
【0048】
図6及び図7で示したように、2つのポッケルスセル6a,6bに同一方向の電圧を印加する場合には、一方のポッケルスセルにのみ電圧を印加してλ/4波長板として機能させるために必要な電圧より低い電圧を2つのポッケルスセル6a,6bにそれぞれ印加することで、2つのポッケルスセル6a,6b全体としてλ/4波長板として機能させることができる。
【0049】
例えば、第1ポッケルスセル6a及び第2ポッケルスセル6bがともに、3.6kVの電圧を印加することでλ/4波長板として機能するポッケルスセルであった場合、いずれか一方のポッケルスセルにのみ電圧を印加して(他方には電圧を印加しないで)、パルスレーザの出力エネルギーを100%得るためには、電圧を印加する一方のポッケルスセルをλ/4波長板として機能させる必要があるため、図8(a)に示すように、3.6kVの電圧を印加する必要がある。これに対して、2つのポッケルスセル6a,6bに同一方向かつ同じ大きさの電圧を印加して、パルスレーザの出力エネルギーを100%得るためには、2つのポッケルスセル6a,6b全体としてλ/4波長板として機能させればよいので、図8(b)に示すように、1.8kVの電圧を印加するだけでよい。すなわち、2つのポッケルスセル6a,6bに同一方向の電圧を印加する場合には、パルスレーザの出力エネルギーを100%得るために必要な電圧を低下させることができる。
【0050】
さらに、第1ポッケルスセル6a及び第2ポッケルスセル6bに、反対方向に電圧を印加してもよい。図9に示すように、2つのポッケルスセル6a,6bに同一方向に電圧を印加した場合の第1回目のピークPのピークエネルギーは約0.6mJであるのに対し、2つのポッケルスセル6a,6bに電圧を変化させるタイミングをずらして反対方向に電圧を印加した場合の第1回目のピークPのピークエネルギーは約0.2mJである。すなわち、電圧を変化さえるタイミングをずらして反対方向に電圧を印加すると、第1回目のピークエネルギーを低下させることができる。
【0051】
なお、上記実施形態において、第1ポッケルスセル6a及び第2ポッケルスセル6bは、電圧の印加によりλ/4波長板として機能するポッケルスセルを用いたが、これら2つのポッケルスセル6a,6bは電圧の印加により全体としてλ/4波長板として機能するものであればよく、例えば電圧の印加によりλ/2波長板として機能するポッケルスセルや、ポッケルスセル以外の電気光学素子を使用することとしてもよい。
【0052】
また、一方のポッケルスセルに所定の電圧を印加してλ/4波長板として機能させた状態で他方のポッケルスセルに印加する電圧を変化させたり、2つのポッケルスセル6a,6b全体として所定の電圧を印加することによりλ/2波長板として機能させることによって、パルスレーザの発振を制御することとしてもよい。この場合、λ/4波長板5が不要となり、パルスレーザの部品点数を減少させることができる。
【符号の説明】
【0053】
1…YAGロッド
2…フラッシュランプ
3…光共振器
3a…フロントミラー
3b…リアミラー
4…ポラライザー
5…λ/4波長板
6a…第1ポッケルスセル
6b…第2ポッケルスセル
7…電圧制御装置
8a…第1電圧印加回路
8b…第2電圧印加回路
9a…第1制御回路
9b…第2制御回路
B…レーザの出力方向を示す矢印
C…制御点
L…光軸
θ…入射角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加された電圧に応じて光を偏光する複数の電気光学素子と、前記複数の電気光学素子の個々に電圧を印加するとともに電圧を制御する電圧制御装置とを備えたパルスレーザ発振器であって、
前記電圧制御装置によって、前記複数の電気光学素子の個々に印加する電圧を経時的にそれぞれ変化させ、レーザ光のパルス幅を制御することを特徴とするパルスレーザ発振器。
【請求項2】
前記電圧制御装置は、前記複数の電気光学素子の個々に印加する電圧の変化率をそれぞれ段階的に変化させることを特徴とする請求項1に記載のパルスレーザ発振器。
【請求項3】
前記電気光学素子を2つ備え、前記電圧制御装置によって、前記2つの電気光学素子にそれぞれ反対方向に電圧を印加することを特徴とする請求項1又は2に記載のパルスレーザ発振器。
【請求項4】
前記複数の電気光学素子はポッケルスセルであり、さらにλ/4波長板を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のパルスレーザ発振器。
【請求項5】
印加された電圧に応じて光を偏光する複数の電気光学素子の個々に印加する電圧を経時的にそれぞれ変化させることにより、レーザ光の発振を制御するレーザ発振制御方法において、
前記複数の電気光学素子に印加する電圧をそれぞれ変化させ、レーザ光のパルス幅を制御することを特徴とするパルスレーザ発振制御方法。
【請求項6】
前記複数の電気光学素子の個々に印加する電圧の変化率をそれぞれ段階的に変化させることを特徴とする請求項5に記載のパルスレーザ発振制御方法。
【請求項7】
前記電気光学素子は2つであって、それぞれ反対方向に電圧を印加することを特徴とする請求項5又は6に記載のパルスレーザ発振制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−21268(P2013−21268A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155735(P2011−155735)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(500171707)株式会社ブイ・テクノロジー (283)
【Fターム(参考)】