パルスレーダー装置
【課題】本願発明は、受信パルス波のリークのみならず、パルスレーダー装置内で発生する送信パルスのリークの影響を低減して、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することのできるパルスレーダー装置を提供することを目的とする。
【解決手段】上記目的を達成するために、本願発明にかかるパルスレーダー装置は、送信アンテナが出力する送信パルス波やパルス発生回路が出力する送信パルスが受信アンテナや受信回路にリークしている期間は、受信パルスを検出しないように復調回路の出力を遮断する。
【解決手段】上記目的を達成するために、本願発明にかかるパルスレーダー装置は、送信アンテナが出力する送信パルス波やパルス発生回路が出力する送信パルスが受信アンテナや受信回路にリークしている期間は、受信パルスを検出しないように復調回路の出力を遮断する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ミリ波、又は準ミリ波帯を用いたパルスレーダー装置に関する。特に、近距離での対象物からの反射波に対して、検知能力を向上させたパルスレーダー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パルス変調した送信パルス波を送出し、対象物から反射した受信パルス波を受信して、当該対象物までの距離を算出するパルスレーダー装置が使用されている。パルスレーダー装置は、対象物までの往復距離が送信パルス波を送出してから対象物からの反射波を受信する迄の時間に光速を積算することにより求められることから、送信パルス波を送出してから対象物からの反射波を受信する迄の時間を測定し、対象物までの距離を算出するものである。
【0003】
近年、衝突防止やオートクルーズを目的として車両にレーダー装置が搭載されるようになってきた。このようなパルスレーダー装置では、送信パルス波を送出後、至近距離にある対象物から反射した受信パルス波を受ける用意を行う。車載用等のパルスレーダー装置は、数十cmから数十mまでの広い範囲で対象物を検知するため、距離分解能としては数十cmが要求される。そのため、パルス幅として1ns程度の細いパルスが使用される。
【0004】
一方、パルスレーダー装置では、パルス発生回路からの送信パルスが受信回路にリークしたり、変調回路や送信アンテナからの送信パルス波が復調回路や受信アンテナにリークしたりすると、対象物の検知に障害をきたす。図1にリークによる障害の例を示す。図1において、横軸は対象物までの距離、縦軸はパルスの信号強度を表す。91、92はパルスレーダー装置でのリークによって発生したリークパルスであり、93は至近距離にある対象物からの受信パルスである。
【0005】
図1(1)に示すように、パルスレーダー装置にリークが発生すると、リークによって発生したリークパルス91を対象物からの受信パルスとして検出してしまうため、誤って対象物が存在すると判断してしまう。また、図1(2)に示すように、パルスレーダー装置にリークが発生すると、リークによって発生したリークパルス92を検出しているときに、至近距離にある対象物からの受信パルス93を検出できなくなるという不都合が生じることもある。この場合は対象物が存在するにも関わらず、対象物を検知できなくなる。
【0006】
このようなリークを低減するために、レドーム内に電波吸収体を設けることにより、送信アンテナ23から受信アンテナ31への回り込みを防止する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、前置増幅回路32の前段にスイッチを設け、送信パルス波が受信回路に回りこむことを防止する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2003−287568号公報。
【特許文献2】実開平5−11080号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のパルスレーダー装置と当該パルスレーダー装置における主なリークの経路を図2に示す。図2において、81は送信パルスを発生するパルス発生回路、12は発振周波数で発振する発振器、21は送信パルスを発振周波数で変調して送信パルス波を出力する変調回路、22は送信パルス波を増幅する電力増幅回路、23は送信パルス波を放射する送信アンテナ、31は対象物からの受信パルス波を受信する受信アンテナ、32は微弱な受信パルス波を増幅する前置増幅回路、33は受信パルス波を発振周波数で復調して受信パルスを出力する復調回路、34は復調した受信パルスを増幅するベースバンド増幅回路、35は受信パルスを識別して対象物までの伝搬往復時間を算出する信号処理回路、A、B、Cはそれぞれパルスレーダー装置でのリークである。
【0008】
主なリークの経路としては、送信アンテナ23から受信アンテナ31への回りこみによって発生するリークC、パルスレーダー装置内で変調された送信パルス波がリークするリークB、パルスレーダー装置内で送信パルスがリークするリークAである。リークによって発生するリークパルス波が大きいと、受信回路内で飽和して復帰するまで受信パルス波を受信できなくなる。このような飽和を避けるためにできるだけ受信系の前段でリーク対策を施すことが望ましい。
【0009】
従来、レドーム内に電波吸収体を設けることにより、送信アンテナ23から受信アンテナ31への回り込みを防止する技術によれば、図2におけるリークCを低減することができる。しかし、リークBやリークAに対しては、低減効果がない。また、前置増幅回路32の前段にスイッチを設け、送信パルス波が受信回路に回りこむことを防止する技術によれば、図2におけるリークCやリークBを低減することができる。しかし、リークAに対しては低減効果がない。
【0010】
前述したように、近年のパルスレーダー装置は、数十cmから数十mまでの広い範囲で対象物を検知するため、パルス幅として1ns程度の細いパルスが使用されるようになってきた。そのため、従来のパルスレーダー装置では問題とならなかった送信パルスがリークするようになってきた(図2のリークA)。
【0011】
上記問題に対して、本願発明は、送信パルス波のリークのみならず、パルスレーダー装置内で発生する送信パルスのリークの影響を低減して、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することのできるパルスレーダー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本願発明にかかるパルスレーダー装置は、送信アンテナが出力する送信パルス波やパルス発生回路が出力する送信パルスが受信アンテナや受信回路にリークしている期間は、リークパルスを検出しないように復調回路の出力を遮断する。
【0013】
具体的には、本願発明は、送信パルスを変調した送信パルス波を周期的に送出する送信回路と、該送信回路からの送信パルス波を放射する送信アンテナと、対象物から反射した受信パルス波を受信する受信アンテナと、該受信アンテナからの受信パルス波を復調する復調回路と、該復調回路の出力を導通状態から一時的に遮断状態にする遮断回路とを備え、前記遮断回路は、前記パルスレーダー装置内で前記送信パルス又は前記送信パルス波がリークしている期間は前記復調回路の出力を遮断することを特徴とするパルスレーダー装置である。
【0014】
本願発明により、送信パルス波のリークのみならず、パルスレーダー装置内で発生する送信パルスのリークの影響を低減して、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することができる。
【0015】
本願発明は、送信パルスを変調した送信パルス波を周期的に送出する送信回路と、該送信回路からの送信パルス波を放射する送信アンテナと、対象物から反射した受信パルス波を受信する受信アンテナと、該受信アンテナからの受信パルス波を復調する復調回路と、該復調回路の出力を導通状態から一時的に遮断状態にする遮断回路とを備え、前記遮断回路は、最小検知距離に相当する時間タイミング迄、前記復調回路の出力を遮断することを特徴とするパルスレーダー装置である。
【0016】
本願発明により、最小検知距離に相当する時間タイミング迄、復調回路の出力を遮断することにより、送信パルス波のリークのみならず、パルスレーダー装置内で発生する送信パルスのリークの影響を低減して、リークによる誤検出を防止し、最小検知距離にある対象物までの距離も精度よく検出することができる。
【0017】
本願発明のパルスレーダー装置では、前記遮断回路が、最大検知距離に相当する時間タイミングから、前記復調回路の出力を遮断することが好ましい。
【0018】
本願発明により、最大検知距離に相当する時間タイミングから、復調回路の出力を遮断することにより、送信パルス波のリークのみならず、パルスレーダー装置内で発生する送信パルスのリークの影響を低減して、リークによる誤検出を防止し、最大検知距離にある対象物までの距離も精度よく検出することができる。
【0019】
また、本願発明のパルスレーダー装置では、前記遮断回路が、導通状態から遮断状態へ又は/及び遮断状態から導通状態へ時間的勾配を持って遷移することが好ましい。
【0020】
本願発明により、リークパルスを遮断しつつ、遮断動作に伴うノイズの発生を低減することができるため、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することが可能となる。
【0021】
また、本願発明のパルスレーダー装置では、前記遮断回路が、立上がり又は/及び立下がりに時間的勾配を持って変化するパルス波形によって、導通状態から遮断状態へ又は/及び遮断状態から導通状態へ制御されることが好ましい。
【0022】
本願発明により、リークパルスを遮断しつつ、遮断動作に伴うノイズの発生を低減することができるため、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することが可能となる。
【0023】
また、本願発明のパルスレーダー装置では、前記送信アンテナが送信パルス波を放射したタイミングと前記受信アンテナが受信パルス波を受信したタイミングとの時間差から、対象物までの伝搬往復時間を算出する伝搬往復時間算出回路をさらに備えてもよい。
【0024】
本願発明により、対象物までの伝搬往復時間を簡単に算出することができる。
【0025】
本願発明における時間的勾配とは、矩形波を一次低域通過フィルタや二次低域通過フィルタに通したような徐々に立上がったり、立下がったりする時間的傾斜をいう。
【発明の効果】
【0026】
本願発明により、送信パルス波のリークのみならず、パルスレーダー装置内で発生する送信パルスのリークの影響を低減して、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することが可能なパルスレーダー装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本願発明の実施の形態について図面を参照して説明する。ただし、本願発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0028】
図3は、本願発明に係るパルスレーダー装置の実施形態の一例とリーク経路を説明するブロック図であって、図4は、本願発明に係るパルスレーダー装置の他の実施形態の一例とリーク経路を説明するブロック図である。図3、図4において、11は所定の周期の送信パルスを発生するパルス発生回路、12は変調周波数で発振する発振器、21は送信パルスを変調周波数で変調する変調回路、22は送信パルス波を電力増幅する電力増幅回路、23は送信パルス波を放射する送信アンテナ、31は受信パルス波を受信する受信アンテナ、32は受信パルス波を増幅する前置増幅回路、33は受信パルス波を復調する復調回路、34は復調した受信パルスを増幅するベースバンド増幅回路、35は復調した受信パルスを信号処理する信号処理回路、36は信号通路を導通状態から一時的に遮断状態にする遮断回路、A、B、Cはそれぞれパルスレーダー装置でのリークである。
【0029】
送信回路には、パルス発生回路11、発振器12、変調回路21及び電力増幅回路22が含まれる。受信回路には、発振器12、前置増幅回路32、復調回路33、ベースバンド増幅回路34、信号処理回路35及び遮断回路36が含まれる。
【0030】
まず、図3において、パルスレーダー装置の送信系の構成を説明する。パルス発生回路11は、所定の周期の送信パルスを発生する。所定の周期は、本パルスレーダー装置の最大検出距離に対応する電波の伝搬往復時間よりも長く設定することが好ましい。変調回路21は、パルス発生回路11からの送信パルスを発振器12からの変調波で変調して、送信パルス波を出力する。電力増幅回路22は、変調回路21からの送信パルス波を電力増幅し、送信アンテナ23は、電力増幅回路22からの送信パルス波を放射する。送信アンテナ23は複数のアンテナから構成されるものでもよい。
【0031】
次に、図3において、パルスレーダー装置の受信系の構成を説明する。受信アンテナ31は、対象物から反射した受信パルス波を受信する。受信アンテナ31も複数のアンテナから構成されるものでもよい。また、送受兼用アンテナであってもよい。前置増幅回路32は、微弱な受信パルス波を増幅する。復調回路33は、パルスレーダー装置の使用する周波数の発振波で検波して受信パルス波から受信パルスを復調する。ベースバンド増幅回路34は、復調回路33からの復調した受信パルスを検出するのに適した信号レベルに増幅する。信号処理回路35は、復調された受信パルスを検出して対象物を検知する。
【0032】
また、信号処理回路35は、前記送信回路からの送信パルスを出力したタイミングと前記受信回路からの受信パルスを検出したタイミングとの時間差から、対象物までの伝搬往復時間を算出してもよい。図3では、パルス発生回路11が送信パルスを出力したタイミングと信号処理回路35が受信パルスを検出したタイミングとの時間差となる。送信回路、送信アンテナ、受信アンテナ、受信回路での遅延時間を予め測定しておき、信号処理回路35は予め測定した当該遅延時間を差し引いて、送信アンテナが送信パルス波を放射してから受信アンテナが受信パルス波を受信するまでの時間である対象物までの伝搬往復時間に補正することが好ましい。
【0033】
さらに、信号処理回路35は、伝搬往復時間に光速を積算して対象物までの往復距離を算出してもよい。
【0034】
図3に示すパルスレーダー装置では、遮断回路36は、パルスレーダー装置内で送信パルス又は送信パルス波がリークしている期間は復調回路33の出力を遮断する。つまり、パルス発生回路11が送信パルスを出力すると、パルス発生回路11やパルス発生回路11から変調回路21に入力するまでの経路から送信パルスが復調回路33あるいは復調回路33の出力経路にリークすることがある(図3のリークA)。また、変調回路21が変調した送信パルス波を出力すると、変調回路21や電力増幅回路22あるいはこれらの出力経路から、送信パルス波が前置増幅回路32や復調回路33あるいはこれらの入力経路にリークすることがある(図3のリークB)。さらに、送信アンテナ23から受信アンテナ31にもリークすることもある(図3のリークC)。リークAによって受信パルスのようにベースバンド増幅回路34に入力されたり、リークBやリークCによって受信パルス波が復調回路33で復調されてベースバンド増幅回路34に入力されている期間は、遮断回路36によって、復調回路33からベースバンド増幅回路34への出力を遮断する。つまり、復調回路33の出力が遮断されたことになる。
【0035】
遮断回路36は、パルス発生回路11からの送信パルスの出力タイミングに合わせて制御される。つまり、予め送信パルスや送信パルス波がどのようなタイミングでリークするかを測定しておけば、パルス発生回路11からの制御によって遮断回路36が復調回路33からの出力を遮断する期間を設定することができる。
【0036】
以上、説明したように、遮断回路36を復調回路33の後段に設けることによって、図3のリークBやリークCばかりでなく、リークAの影響も低減して、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することが可能なパルスレーダー装置を提供することができる。
【0037】
パルスレーダー装置の他の実施形態の例を図4で説明する。図4において、図3と同じ符号は同じ意味を表す。図4に示すパルスレーダー装置では、遮断回路36は、ベースバンド増幅回路34の後段に配置されている点が、図3に示すパルスレーダー装置と異なる。遮断回路36はベースバンド増幅回路34を経由して復調回路33の出力を遮断することになる。
【0038】
このように配置すると、遮断回路36で発生するノイズがベースバンド増幅回路34で増幅されることなく、受信パルスを検出することになるため、受信パルスの検出への影響が少ない。また、リークによるパルスが大きく、ベースバンド増幅回路34の飽和レベルに達する場合でも、リークによるパルスの大きさが一定となるため、飽和から正常動作への回復が早ければ遮断回路36で容易にリークの影響を低減することができる。
【0039】
図4に示すパルスレーダー装置では、遮断回路36は、パルスレーダー装置内で送信パルス又は送信パルス波がリークしている期間はベースバンド増幅回路34の出力を遮断する。つまり、パルス発生回路11が送信パルスを出力すると、パルス発生回路11やパルス発生回路11から変調回路21に入力するまでの経路から送信パルスが復調回路33あるいは復調回路33やベースバンド増幅回路34の出力経路にリークすることがある(図4のリークA)。また、変調回路21が変調した送信パルス波を出力すると、変調回路21や電力増幅回路22あるいはこれらの出力経路から、送信パルス波が前置増幅回路32や復調回路33あるいはこれらの入力経路にリークすることがある(図4のリークB)。さらに、送信アンテナ23から受信アンテナ31にもリークすることもある(図4のリークC)。リークAによって受信パルスのようにベースバンド増幅回路34から出力されたり、リークBやリークCによって受信パルス波が復調回路33で復調されてベースバンド増幅回路34から出力されている期間は、遮断回路36によって、ベースバンド増幅回路34の出力を遮断する。つまり、ベースバンド増幅回路34を経て復調回路33の出力が遮断されたことになる。
【0040】
遮断回路36は、パルス発生回路11からの送信パルスの出力タイミングに合わせて制御される。つまり、予め送信パルスや送信パルス波がどのようなタイミングでリークするかを測定しておけば、パルス発生回路11からの制御によって遮断回路36がベースバンド増幅回路34の出力を遮断する期間を設定することができる。
【0041】
以上、説明したように、遮断回路36をベースバンド増幅回路34の後段に設けることによって、図3のリークBやリークCばかりでなく、リークAの影響も低減して、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することが可能なパルスレーダー装置を提供することができる。
【0042】
図3に示すパルスレーダー装置と図4に示すパルスレーダー装置とでは、リークA、B、Cとも低減することには変わりはない。リークパルスが大きくベースバンド増幅回路34が飽和して正常動作に復帰するまでに受信パルスを受信する場合は、図3に示すパルスレーダー装置が望ましい。リークパルスによってベースバンド増幅回路34が飽和しないか、飽和しても正常動作に復帰するまでに受信パルスを受信しない場合は、飽和しても信号処理回路35へのリークによるパルスの入力振幅は一定となるため、図4に示すパルスレーダー装置でもよい。また、送信パルスがベースバンド増幅回路34の出力経路にリークする場合は、図4に示すパルスレーダー装置が望ましい。
【0043】
図3又は図4に示したパルスレーダー装置の遮断回路が遮断するタイミングを図5に示す。図3、図4で説明した符号を随時用いて説明する。図5において、横軸は対象物までの距離、縦軸はパルスの信号強度を表す。41はパルスレーダー装置でのリークによって発生したリークパルスであり、42は至近距離にある対象物からの受信パルスである。43は遮断回路36の遮断する期間、44は遮断回路36が遮断状態から導通状態に遷移するときの遷移期間である。
【0044】
受信パルス42が最短検知距離にある対象物からのものとすると、受信パルス42を検知するときに遮断回路36は導通状態に復帰していればよい。リークパルス41が発生するタイミングはパルス発生回路11から取得することができる。パルス発生回路11からのタイミング情報により導通状態から遮断状態に遷移し、遮断期間43を設ける。遮断期間43では、リークによって発生するパルス41を遮断し、その後、遮断状態から導通状態への遷移期間44を経て、導通状態に復帰する。
【0045】
このように動作することによって、リークパルス41を遮断しつつ、対象物からの受信パルス42は正常に検出できるため、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することが可能となる。
【0046】
図3又は図4に示した遮断回路36の構成例を図6に示す。R51〜R54は抵抗、C51〜C52はコンデンサである。復調回路33又はベースバンド増幅回路34からのリークパルスが遮断回路36の入力端子(In)に入力する前に、パルス発生回路11からのタイミング情報である制御信号が制御端子(Cont)に入力され、FETのゲート端子(G)を制御して、FETを遮断状態にする。遮断状態では、FETのソース端子(S)からドレイン端子(D)への電気信号は遮断され、リークパルスが伝達されない。
【0047】
最短検知距離にある対象物からの受信パルスが入力端子(In)に到達するときには、FETは導通状態に復帰し、受信パルスはFETのソース端子(S)からドレイン端子(D)へ伝達され、出力端子(Out)からベースバンド増幅回路34又は信号処理回路35へ出力される。
【0048】
ここでは、遮断回路36の主要構成素子としてGaAs−HEMTで構成したが、MOS−FETやSiバイポーラトランジスタであっても同様に遮断回路を構成することができる。
【0049】
ところで、図6に示す遮断回路36の各端子における波形を図7に示す。図7(1)は図6における入力端子(In)での入力波形、図7(2)は制御端子(Cont)における制御信号、図7(3)はFETの伝達特性、図7(4)は出力端子(Out)での出力波形である。41はパルスレーダー装置でのリークによって発生したリークパルスであり、42は至近距離にある対象物からの受信パルス、45と46は遮断回路の遮断動作によって発生するノイズである。
【0050】
遮断回路36の入力端子(In)に図7(1)に示すリークパルス41と受信パルス42が入力する。制御端子(Cont)にはリークパルス41を遮断するために、図7(2)に示す制御信号が入力する。FETは図7(3)に示すような伝達特性でリークパルス41を遮断する。しかし、近距離用のパルスレーダー装置では、遮断期間も短くなるため、図7(4)に示すように遮断回路36の出力端子(Out)には受信パルス42と共に、遮断動作によって発生するノイズ45、46も出力されることになる。
【0051】
このようなノイズ45、46が信号処理回路35に入力すると、受信パルスと誤って検出してしまうことになる。また、急峻な導通状態から遮断状態への遷移又は遮断状態から導通状態への遷移は、タイミング誤差を生じたときに誤動作につながりやすい。つまり、制御信号のタイミングが早すぎるとリークパルスが残ってしまい、制御信号のタイミングが遅過ぎると正常な受信パルスを遮断してしまう。
【0052】
そこで、図8に示すような遮断回路の構成とすることが好ましい。図8において、図7と同じ符号は同じ意味を表す。図7に示す遮断回路との差は制御端子(Cont)に付加されたコンデンサC53である。制御端子(Cont)の入力抵抗R53に並列にコンデンサC53を設けることによって、遮断回路が制御信号を積分してその積分した信号で遮断するものである。
【0053】
図8に示す遮断回路36の各端子における波形を図9に示す。図9(1)は図8における入力端子(In)での入力波形、図9(2)は制御端子(Cont)における制御信号、図9(3)は図8に示すFETの伝達特性、図9(4)は出力端子(Out)での出力波形である。41はパルスレーダー装置でのリークによって発生したリークパルスであり、42は至近距離にある対象物からの受信パルス、45と46は遮断回路の遮断動作によって発生するスイッチングノイズである。
【0054】
遮断回路36の入力端子(In)に図9(1)に示すリークパルス41と受信パルス42が入力する。制御端子(Cont)にはリークパルス41を遮断するために、図9(2)に示す制御信号を入力する。図9(2)の制御信号は積分回路によって、時間的勾配を持って徐々に変化することになる。従って、遮断回路36のFETは図9(3)に示すような伝達特性で、時間的勾配を持って徐々に導通状態から遮断状態へ、また遮断状態から導通状態へ遷移する。急峻な立上がり特性、立下がり特性の制御信号が積分回路の積分効果によって急激な変化がなくなり、遮断回路36の出力端子(Out)に受信パルス42と共に出力されるスイッチングノイズ45、46の大きさが低減されることになる。
【0055】
このように動作することによって、リークパルス41を遮断しつつ、遮断動作に伴うノイズの発生を低減することができるため、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することが可能となる。
【0056】
また、時間的勾配を持って徐々に導通状態から遮断状態へ遷移し又は遮断状態から導通状態へ遷移するため、タイミング誤差を生じても誤動作につながり難い。つまり、制御信号のタイミングが早すぎてもリークパルスが少ししか残らず、制御信号が遅過ぎても正常な受信パルスを完全に遮断することはなくなる。特に、遮断状態から復帰した直後に受信する至近距離からの受信パルスはレベルも大きいため、制御信号のタイミングが遅すぎても受信パルスは信号処理回路が検出するのに十分な大きさを維持できる。
【0057】
図8に示す遮断回路36の制御端子(Cont)にはC53及びR53で一次の低域通過フィルタを形成したが、二次以上の低域通過フィルタであってもよい。また、導通状態から遮断状態への遷移と遮断状態から導通状態への遷移を線形動作する低域通過フィルタとしているが、導通状態から遮断状態への遷移と遮断状態から導通状態への遷移で異なる時間的勾配で変化する非線型の低域通過フィルタとしてもよい。
【0058】
また、制御端子(Cont)にパルス幅の狭い制御信号を入力すると、制御端子(Cont)から出力端子(Out)へのリークによって遮断回路の出力端子(Out)にノイズが発生しやすくなる。そこで、図10に示すように、制御端子(Cont)には時間的勾配を持って徐々に変化する制御信号を入力することが好ましい。図10は、本願発明に係るパルスレーダー装置の遮断回路の制御端子(Cont)への入力波形の例を説明する図である。図10に示す遮断回路は、図6に示す遮断回路と同じであるが、図8に示す遮断回路の制御端子(Cont)へ時間的勾配を持って徐々に変化する制御信号を入力してもよい。
【0059】
時間的勾配を持って徐々に導通状態から遮断状態へ遷移し又は遮断状態から導通状態へと制御するため、タイミング誤差を生じても誤動作につながり難い。つまり、制御信号のタイミングが早すぎてもリークパルスが少ししか残らず、制御信号が遅過ぎても正常な受信パルスを完全に遮断することはなくなる。特に、遮断状態から復帰した直後に受信する至近距離からの受信パルスはレベルも大きいため、制御信号のタイミングが遅すぎても受信パルスは信号処理回路が検出するのに十分な大きさを維持できる。
【0060】
また、図3又は図4に示すパルス発生回路11の遮断回路36への出力側の直近に図10の遮断回路の制御端子(Cont)への入力信号のような時間的勾配を持って徐々に変化するパルスに整形するための回路を持たせてもよい。このような回路を持たせると、高周波成分が除去されるため、パルス発生回路11から遮断回路36への出力経路から発生するリークを低減することができる。
【0061】
このように動作することによって、リークパルス41を遮断しつつ、遮断動作に伴うノイズの発生を低減することができるため、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することが可能となる。
【0062】
図3又は図4に示した信号処理回路では、送信アンテナ23が送信パルス波を放射したタイミングと受信アンテナ31が受信パルス波を受信したタイミングとの時間差から、対象物までの伝搬往復時間を算出する伝搬往復時間算出回路を備えてもよい。
【0063】
伝搬往復時間算出回路の構成としては、パルス発生回路11が送信パルスを出力するタイミングをセット入力とし、ベースバンド増幅回路34が受信パルスを出力するタイミングをリセット入力とするS−R型フリップフロップ回路及び当該S−R型フリップフロップ回路の出力の低周波成分を抽出する低域通過フィルタの組み合わせがある。図11に伝搬往復時間算出回路の構成例を示す。図11において、37は伝搬往復時間算出回路、38はS−R型フリップフロップ回路、39は低域通過フィルタである。
【0064】
図11において、S−R型フリップフロップ回路38は、パルス発生回路が送信パルスを出力するタイミングをセット入力(図11におけるSet)とし、ベースバンド増幅回路が受信パルスを出力するタイミングをリセット入力(図11におけるReset)とする。S−R型フリップフロップ回路38は、パルス発生回路が送信パルスを出力するタイミングからベースバンド増幅回路が受信パルスを出力するタイミングまでの時間が長いと、オン時間が長く、パルス発生回路が送信パルスを出力するタイミングからベースバンド増幅回路が受信パルスを出力するタイミングまでの時間が短いと、オン時間が短くなるように出力する。
【0065】
低域通過フィルタ39は、S−R型フリップフロップ回路38の出力の低周波成分を抽出する。即ち、パルス発生回路が送信パルスを出力するタイミングから検波回路が受信パルスを出力するタイミングまでの時間が長いと、低域通過フィルタ39の出力は低周波成分が大きく、パルス発生回路が送信パルスを出力するタイミングから検波回路が受信パルスを出力するタイミングまでの時間が短いと、低域通過フィルタ39の出力は低周波成分が小さくなる。この低域通過フィルタ39の出力を検出すれば、対象物までの伝搬往復時間を算出することができる。対象物までの距離をディジタル表示するには、低域通過フィルタ39の出力をディジタル変換すればよい。
【0066】
対象物までの距離の算出に当たっては、パルスレーダー装置内部の送信回路や受信回路での遅延時間を伝搬往復時間算出回路の出力レベルのバイアスを遅延時間に相当するだけシフトすることでもよいし、伝搬往復時間算出回路の出力から対象物までの距離を算出する際に、補正してもよい。
【0067】
他の伝搬往復時間算出回路としては、パルス発生回路が送信パルスを出力するタイミングをセット入力とし、ベースバンド増幅回路が受信パルスを出力するタイミングをリセット入力とするパルスカウント回路でもよい。セット入力からリセット入力までの時間で一定周期のパルスを発生させ、パルスカウント回路がその時間でのパルス数を計測することにより、対象物までの伝搬往復時間を算出することができる。
【0068】
いずれの伝搬往復時間算出回路であっても、その出力である伝搬往復時間を光速の二倍で除算すれば、対象物までの距離を算出することができる。
【0069】
なお、上述の実施の形態においては、リークパルス41が発生するタイミングで遮断回路36を遮断状態にした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、パルスレーダー装置の最小検知距離に相当する時間タイミング迄、遮断回路36を遮断状態にし、その後、当該遮断回路36を導通状態にして、そのタイミング以降に受信される受信パルスを通過させるようにしても良い。具体的には、図5に示す受信パルス42が最小検知距離に存在する対象物からの反射波だとすると、この受信パルス42及び当該受信パルス42以降に受信される受信パルスを受信できれば、パルスレーダー装置として対象物を検知できることから、この受信パルス42の受信開始タイミング、すなわち最小検知距離に相当する時間タイミング迄、遮断回路36を遮断状態にし、その後、遮断回路36を導通状態にする。このように遮断回路36を制御することでも、リークパルスによる誤検出を防止することができる。なお、この場合においても、上述の実施の形態のように、遮断回路36を遮断状態から導通状態に遷移させる際、遷移期間を設けるようにしても良い。
【0070】
また、上述の実施の形態においては、リークパルス41が発生するタイミングで遮断回路36を遮断状態にし、その後、遮断回路36を導通状態にして受信パルス42を通過させるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、遮断回路36が導通状態に復帰した後、パルスレーダー装置の最大検知距離に相当する時間が経過したら、遮断回路36をさらに遮断状態に遷移させても良い。このように制御することにより、検知範囲外のタイミングで受信される他の装置からの干渉波やノイズによって誤検出することを未然に防止することができる。なお、この場合においても、上述の実施の形態のように、遮断回路36を導通状態から遮断状態に遷移させる際、遷移期間を設けるようにしても良い。
【0071】
以上説明したように、送信アンテナや変調回路から送信パルス波がリークしたり、パルス発生回路から送信パルスがリークした場合であっても、本願発明の遮断回路を有するパルスレーダー装置では、送信パルス波のリークのみならず、パルスレーダー装置内で発生する送信パルスのリークの影響を低減して、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本願発明のパルスレーダー装置は、車両の衝突防止やオートクルーズを目的とした車載用装置に適用することができるほか、固定のパルスレーダー装置としても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】従来のパルスレーダー装置で発生するリークによる障害の例を説明するタイミングチャート図である。
【図2】従来のパルスレーダー装置と当該パルスレーダー装置における主なリークの経路を説明するブロック図である。
【図3】本願発明に係るパルスレーダー装置の実施形態の例とリーク経路を説明するブロック図である。
【図4】本願発明に係るパルスレーダー装置の他の実施形態の例とリーク経路を説明するブロック図である。
【図5】パルスレーダー装置の遮断回路が遮断するタイミングを説明する図である。
【図6】本願発明に係るパルスレーダー装置の遮断回路の構成例を説明する図である。
【図7】本願発明に係るパルスレーダー装置の遮断回路の各端子における波形を説明する図である。
【図8】本願発明に係るパルスレーダー装置の遮断回路の他の構成例を説明する図である。
【図9】本願発明に係るパルスレーダー装置の遮断回路の各端子における波形を説明する図である。
【図10】本願発明に係るパルスレーダー装置の遮断回路の制御端子への入力波形の例を説明する図である。
【図11】伝搬往復時間算出回路の構成例を説明する図である。
【符号の説明】
【0074】
11:パルス発生回路、12:発振器、21:変調回路、22:電力増幅回路、23:送信アンテナ、31:受信アンテナ、32:前置増幅回路、33:復調回路、34:ベースバンド増幅回路、35:信号処理回路、36:遮断回路、37:伝搬往復時間算出回路、38:S−R型フリップフロップ回路、39:低域通過フィルタ、41:リークパルス、42:至近距離からの受信パルス、43:遮断期間、44:遮断から導通への遷移期間、45:遮断によって発生するノイズ、46:遮断によって発生するノイズ、81パルス発生回路、91:リークパルス、92:リークパルス、93:至近距離からの受信パルス
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ミリ波、又は準ミリ波帯を用いたパルスレーダー装置に関する。特に、近距離での対象物からの反射波に対して、検知能力を向上させたパルスレーダー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パルス変調した送信パルス波を送出し、対象物から反射した受信パルス波を受信して、当該対象物までの距離を算出するパルスレーダー装置が使用されている。パルスレーダー装置は、対象物までの往復距離が送信パルス波を送出してから対象物からの反射波を受信する迄の時間に光速を積算することにより求められることから、送信パルス波を送出してから対象物からの反射波を受信する迄の時間を測定し、対象物までの距離を算出するものである。
【0003】
近年、衝突防止やオートクルーズを目的として車両にレーダー装置が搭載されるようになってきた。このようなパルスレーダー装置では、送信パルス波を送出後、至近距離にある対象物から反射した受信パルス波を受ける用意を行う。車載用等のパルスレーダー装置は、数十cmから数十mまでの広い範囲で対象物を検知するため、距離分解能としては数十cmが要求される。そのため、パルス幅として1ns程度の細いパルスが使用される。
【0004】
一方、パルスレーダー装置では、パルス発生回路からの送信パルスが受信回路にリークしたり、変調回路や送信アンテナからの送信パルス波が復調回路や受信アンテナにリークしたりすると、対象物の検知に障害をきたす。図1にリークによる障害の例を示す。図1において、横軸は対象物までの距離、縦軸はパルスの信号強度を表す。91、92はパルスレーダー装置でのリークによって発生したリークパルスであり、93は至近距離にある対象物からの受信パルスである。
【0005】
図1(1)に示すように、パルスレーダー装置にリークが発生すると、リークによって発生したリークパルス91を対象物からの受信パルスとして検出してしまうため、誤って対象物が存在すると判断してしまう。また、図1(2)に示すように、パルスレーダー装置にリークが発生すると、リークによって発生したリークパルス92を検出しているときに、至近距離にある対象物からの受信パルス93を検出できなくなるという不都合が生じることもある。この場合は対象物が存在するにも関わらず、対象物を検知できなくなる。
【0006】
このようなリークを低減するために、レドーム内に電波吸収体を設けることにより、送信アンテナ23から受信アンテナ31への回り込みを防止する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、前置増幅回路32の前段にスイッチを設け、送信パルス波が受信回路に回りこむことを防止する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2003−287568号公報。
【特許文献2】実開平5−11080号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のパルスレーダー装置と当該パルスレーダー装置における主なリークの経路を図2に示す。図2において、81は送信パルスを発生するパルス発生回路、12は発振周波数で発振する発振器、21は送信パルスを発振周波数で変調して送信パルス波を出力する変調回路、22は送信パルス波を増幅する電力増幅回路、23は送信パルス波を放射する送信アンテナ、31は対象物からの受信パルス波を受信する受信アンテナ、32は微弱な受信パルス波を増幅する前置増幅回路、33は受信パルス波を発振周波数で復調して受信パルスを出力する復調回路、34は復調した受信パルスを増幅するベースバンド増幅回路、35は受信パルスを識別して対象物までの伝搬往復時間を算出する信号処理回路、A、B、Cはそれぞれパルスレーダー装置でのリークである。
【0008】
主なリークの経路としては、送信アンテナ23から受信アンテナ31への回りこみによって発生するリークC、パルスレーダー装置内で変調された送信パルス波がリークするリークB、パルスレーダー装置内で送信パルスがリークするリークAである。リークによって発生するリークパルス波が大きいと、受信回路内で飽和して復帰するまで受信パルス波を受信できなくなる。このような飽和を避けるためにできるだけ受信系の前段でリーク対策を施すことが望ましい。
【0009】
従来、レドーム内に電波吸収体を設けることにより、送信アンテナ23から受信アンテナ31への回り込みを防止する技術によれば、図2におけるリークCを低減することができる。しかし、リークBやリークAに対しては、低減効果がない。また、前置増幅回路32の前段にスイッチを設け、送信パルス波が受信回路に回りこむことを防止する技術によれば、図2におけるリークCやリークBを低減することができる。しかし、リークAに対しては低減効果がない。
【0010】
前述したように、近年のパルスレーダー装置は、数十cmから数十mまでの広い範囲で対象物を検知するため、パルス幅として1ns程度の細いパルスが使用されるようになってきた。そのため、従来のパルスレーダー装置では問題とならなかった送信パルスがリークするようになってきた(図2のリークA)。
【0011】
上記問題に対して、本願発明は、送信パルス波のリークのみならず、パルスレーダー装置内で発生する送信パルスのリークの影響を低減して、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することのできるパルスレーダー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本願発明にかかるパルスレーダー装置は、送信アンテナが出力する送信パルス波やパルス発生回路が出力する送信パルスが受信アンテナや受信回路にリークしている期間は、リークパルスを検出しないように復調回路の出力を遮断する。
【0013】
具体的には、本願発明は、送信パルスを変調した送信パルス波を周期的に送出する送信回路と、該送信回路からの送信パルス波を放射する送信アンテナと、対象物から反射した受信パルス波を受信する受信アンテナと、該受信アンテナからの受信パルス波を復調する復調回路と、該復調回路の出力を導通状態から一時的に遮断状態にする遮断回路とを備え、前記遮断回路は、前記パルスレーダー装置内で前記送信パルス又は前記送信パルス波がリークしている期間は前記復調回路の出力を遮断することを特徴とするパルスレーダー装置である。
【0014】
本願発明により、送信パルス波のリークのみならず、パルスレーダー装置内で発生する送信パルスのリークの影響を低減して、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することができる。
【0015】
本願発明は、送信パルスを変調した送信パルス波を周期的に送出する送信回路と、該送信回路からの送信パルス波を放射する送信アンテナと、対象物から反射した受信パルス波を受信する受信アンテナと、該受信アンテナからの受信パルス波を復調する復調回路と、該復調回路の出力を導通状態から一時的に遮断状態にする遮断回路とを備え、前記遮断回路は、最小検知距離に相当する時間タイミング迄、前記復調回路の出力を遮断することを特徴とするパルスレーダー装置である。
【0016】
本願発明により、最小検知距離に相当する時間タイミング迄、復調回路の出力を遮断することにより、送信パルス波のリークのみならず、パルスレーダー装置内で発生する送信パルスのリークの影響を低減して、リークによる誤検出を防止し、最小検知距離にある対象物までの距離も精度よく検出することができる。
【0017】
本願発明のパルスレーダー装置では、前記遮断回路が、最大検知距離に相当する時間タイミングから、前記復調回路の出力を遮断することが好ましい。
【0018】
本願発明により、最大検知距離に相当する時間タイミングから、復調回路の出力を遮断することにより、送信パルス波のリークのみならず、パルスレーダー装置内で発生する送信パルスのリークの影響を低減して、リークによる誤検出を防止し、最大検知距離にある対象物までの距離も精度よく検出することができる。
【0019】
また、本願発明のパルスレーダー装置では、前記遮断回路が、導通状態から遮断状態へ又は/及び遮断状態から導通状態へ時間的勾配を持って遷移することが好ましい。
【0020】
本願発明により、リークパルスを遮断しつつ、遮断動作に伴うノイズの発生を低減することができるため、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することが可能となる。
【0021】
また、本願発明のパルスレーダー装置では、前記遮断回路が、立上がり又は/及び立下がりに時間的勾配を持って変化するパルス波形によって、導通状態から遮断状態へ又は/及び遮断状態から導通状態へ制御されることが好ましい。
【0022】
本願発明により、リークパルスを遮断しつつ、遮断動作に伴うノイズの発生を低減することができるため、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することが可能となる。
【0023】
また、本願発明のパルスレーダー装置では、前記送信アンテナが送信パルス波を放射したタイミングと前記受信アンテナが受信パルス波を受信したタイミングとの時間差から、対象物までの伝搬往復時間を算出する伝搬往復時間算出回路をさらに備えてもよい。
【0024】
本願発明により、対象物までの伝搬往復時間を簡単に算出することができる。
【0025】
本願発明における時間的勾配とは、矩形波を一次低域通過フィルタや二次低域通過フィルタに通したような徐々に立上がったり、立下がったりする時間的傾斜をいう。
【発明の効果】
【0026】
本願発明により、送信パルス波のリークのみならず、パルスレーダー装置内で発生する送信パルスのリークの影響を低減して、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することが可能なパルスレーダー装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本願発明の実施の形態について図面を参照して説明する。ただし、本願発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0028】
図3は、本願発明に係るパルスレーダー装置の実施形態の一例とリーク経路を説明するブロック図であって、図4は、本願発明に係るパルスレーダー装置の他の実施形態の一例とリーク経路を説明するブロック図である。図3、図4において、11は所定の周期の送信パルスを発生するパルス発生回路、12は変調周波数で発振する発振器、21は送信パルスを変調周波数で変調する変調回路、22は送信パルス波を電力増幅する電力増幅回路、23は送信パルス波を放射する送信アンテナ、31は受信パルス波を受信する受信アンテナ、32は受信パルス波を増幅する前置増幅回路、33は受信パルス波を復調する復調回路、34は復調した受信パルスを増幅するベースバンド増幅回路、35は復調した受信パルスを信号処理する信号処理回路、36は信号通路を導通状態から一時的に遮断状態にする遮断回路、A、B、Cはそれぞれパルスレーダー装置でのリークである。
【0029】
送信回路には、パルス発生回路11、発振器12、変調回路21及び電力増幅回路22が含まれる。受信回路には、発振器12、前置増幅回路32、復調回路33、ベースバンド増幅回路34、信号処理回路35及び遮断回路36が含まれる。
【0030】
まず、図3において、パルスレーダー装置の送信系の構成を説明する。パルス発生回路11は、所定の周期の送信パルスを発生する。所定の周期は、本パルスレーダー装置の最大検出距離に対応する電波の伝搬往復時間よりも長く設定することが好ましい。変調回路21は、パルス発生回路11からの送信パルスを発振器12からの変調波で変調して、送信パルス波を出力する。電力増幅回路22は、変調回路21からの送信パルス波を電力増幅し、送信アンテナ23は、電力増幅回路22からの送信パルス波を放射する。送信アンテナ23は複数のアンテナから構成されるものでもよい。
【0031】
次に、図3において、パルスレーダー装置の受信系の構成を説明する。受信アンテナ31は、対象物から反射した受信パルス波を受信する。受信アンテナ31も複数のアンテナから構成されるものでもよい。また、送受兼用アンテナであってもよい。前置増幅回路32は、微弱な受信パルス波を増幅する。復調回路33は、パルスレーダー装置の使用する周波数の発振波で検波して受信パルス波から受信パルスを復調する。ベースバンド増幅回路34は、復調回路33からの復調した受信パルスを検出するのに適した信号レベルに増幅する。信号処理回路35は、復調された受信パルスを検出して対象物を検知する。
【0032】
また、信号処理回路35は、前記送信回路からの送信パルスを出力したタイミングと前記受信回路からの受信パルスを検出したタイミングとの時間差から、対象物までの伝搬往復時間を算出してもよい。図3では、パルス発生回路11が送信パルスを出力したタイミングと信号処理回路35が受信パルスを検出したタイミングとの時間差となる。送信回路、送信アンテナ、受信アンテナ、受信回路での遅延時間を予め測定しておき、信号処理回路35は予め測定した当該遅延時間を差し引いて、送信アンテナが送信パルス波を放射してから受信アンテナが受信パルス波を受信するまでの時間である対象物までの伝搬往復時間に補正することが好ましい。
【0033】
さらに、信号処理回路35は、伝搬往復時間に光速を積算して対象物までの往復距離を算出してもよい。
【0034】
図3に示すパルスレーダー装置では、遮断回路36は、パルスレーダー装置内で送信パルス又は送信パルス波がリークしている期間は復調回路33の出力を遮断する。つまり、パルス発生回路11が送信パルスを出力すると、パルス発生回路11やパルス発生回路11から変調回路21に入力するまでの経路から送信パルスが復調回路33あるいは復調回路33の出力経路にリークすることがある(図3のリークA)。また、変調回路21が変調した送信パルス波を出力すると、変調回路21や電力増幅回路22あるいはこれらの出力経路から、送信パルス波が前置増幅回路32や復調回路33あるいはこれらの入力経路にリークすることがある(図3のリークB)。さらに、送信アンテナ23から受信アンテナ31にもリークすることもある(図3のリークC)。リークAによって受信パルスのようにベースバンド増幅回路34に入力されたり、リークBやリークCによって受信パルス波が復調回路33で復調されてベースバンド増幅回路34に入力されている期間は、遮断回路36によって、復調回路33からベースバンド増幅回路34への出力を遮断する。つまり、復調回路33の出力が遮断されたことになる。
【0035】
遮断回路36は、パルス発生回路11からの送信パルスの出力タイミングに合わせて制御される。つまり、予め送信パルスや送信パルス波がどのようなタイミングでリークするかを測定しておけば、パルス発生回路11からの制御によって遮断回路36が復調回路33からの出力を遮断する期間を設定することができる。
【0036】
以上、説明したように、遮断回路36を復調回路33の後段に設けることによって、図3のリークBやリークCばかりでなく、リークAの影響も低減して、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することが可能なパルスレーダー装置を提供することができる。
【0037】
パルスレーダー装置の他の実施形態の例を図4で説明する。図4において、図3と同じ符号は同じ意味を表す。図4に示すパルスレーダー装置では、遮断回路36は、ベースバンド増幅回路34の後段に配置されている点が、図3に示すパルスレーダー装置と異なる。遮断回路36はベースバンド増幅回路34を経由して復調回路33の出力を遮断することになる。
【0038】
このように配置すると、遮断回路36で発生するノイズがベースバンド増幅回路34で増幅されることなく、受信パルスを検出することになるため、受信パルスの検出への影響が少ない。また、リークによるパルスが大きく、ベースバンド増幅回路34の飽和レベルに達する場合でも、リークによるパルスの大きさが一定となるため、飽和から正常動作への回復が早ければ遮断回路36で容易にリークの影響を低減することができる。
【0039】
図4に示すパルスレーダー装置では、遮断回路36は、パルスレーダー装置内で送信パルス又は送信パルス波がリークしている期間はベースバンド増幅回路34の出力を遮断する。つまり、パルス発生回路11が送信パルスを出力すると、パルス発生回路11やパルス発生回路11から変調回路21に入力するまでの経路から送信パルスが復調回路33あるいは復調回路33やベースバンド増幅回路34の出力経路にリークすることがある(図4のリークA)。また、変調回路21が変調した送信パルス波を出力すると、変調回路21や電力増幅回路22あるいはこれらの出力経路から、送信パルス波が前置増幅回路32や復調回路33あるいはこれらの入力経路にリークすることがある(図4のリークB)。さらに、送信アンテナ23から受信アンテナ31にもリークすることもある(図4のリークC)。リークAによって受信パルスのようにベースバンド増幅回路34から出力されたり、リークBやリークCによって受信パルス波が復調回路33で復調されてベースバンド増幅回路34から出力されている期間は、遮断回路36によって、ベースバンド増幅回路34の出力を遮断する。つまり、ベースバンド増幅回路34を経て復調回路33の出力が遮断されたことになる。
【0040】
遮断回路36は、パルス発生回路11からの送信パルスの出力タイミングに合わせて制御される。つまり、予め送信パルスや送信パルス波がどのようなタイミングでリークするかを測定しておけば、パルス発生回路11からの制御によって遮断回路36がベースバンド増幅回路34の出力を遮断する期間を設定することができる。
【0041】
以上、説明したように、遮断回路36をベースバンド増幅回路34の後段に設けることによって、図3のリークBやリークCばかりでなく、リークAの影響も低減して、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することが可能なパルスレーダー装置を提供することができる。
【0042】
図3に示すパルスレーダー装置と図4に示すパルスレーダー装置とでは、リークA、B、Cとも低減することには変わりはない。リークパルスが大きくベースバンド増幅回路34が飽和して正常動作に復帰するまでに受信パルスを受信する場合は、図3に示すパルスレーダー装置が望ましい。リークパルスによってベースバンド増幅回路34が飽和しないか、飽和しても正常動作に復帰するまでに受信パルスを受信しない場合は、飽和しても信号処理回路35へのリークによるパルスの入力振幅は一定となるため、図4に示すパルスレーダー装置でもよい。また、送信パルスがベースバンド増幅回路34の出力経路にリークする場合は、図4に示すパルスレーダー装置が望ましい。
【0043】
図3又は図4に示したパルスレーダー装置の遮断回路が遮断するタイミングを図5に示す。図3、図4で説明した符号を随時用いて説明する。図5において、横軸は対象物までの距離、縦軸はパルスの信号強度を表す。41はパルスレーダー装置でのリークによって発生したリークパルスであり、42は至近距離にある対象物からの受信パルスである。43は遮断回路36の遮断する期間、44は遮断回路36が遮断状態から導通状態に遷移するときの遷移期間である。
【0044】
受信パルス42が最短検知距離にある対象物からのものとすると、受信パルス42を検知するときに遮断回路36は導通状態に復帰していればよい。リークパルス41が発生するタイミングはパルス発生回路11から取得することができる。パルス発生回路11からのタイミング情報により導通状態から遮断状態に遷移し、遮断期間43を設ける。遮断期間43では、リークによって発生するパルス41を遮断し、その後、遮断状態から導通状態への遷移期間44を経て、導通状態に復帰する。
【0045】
このように動作することによって、リークパルス41を遮断しつつ、対象物からの受信パルス42は正常に検出できるため、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することが可能となる。
【0046】
図3又は図4に示した遮断回路36の構成例を図6に示す。R51〜R54は抵抗、C51〜C52はコンデンサである。復調回路33又はベースバンド増幅回路34からのリークパルスが遮断回路36の入力端子(In)に入力する前に、パルス発生回路11からのタイミング情報である制御信号が制御端子(Cont)に入力され、FETのゲート端子(G)を制御して、FETを遮断状態にする。遮断状態では、FETのソース端子(S)からドレイン端子(D)への電気信号は遮断され、リークパルスが伝達されない。
【0047】
最短検知距離にある対象物からの受信パルスが入力端子(In)に到達するときには、FETは導通状態に復帰し、受信パルスはFETのソース端子(S)からドレイン端子(D)へ伝達され、出力端子(Out)からベースバンド増幅回路34又は信号処理回路35へ出力される。
【0048】
ここでは、遮断回路36の主要構成素子としてGaAs−HEMTで構成したが、MOS−FETやSiバイポーラトランジスタであっても同様に遮断回路を構成することができる。
【0049】
ところで、図6に示す遮断回路36の各端子における波形を図7に示す。図7(1)は図6における入力端子(In)での入力波形、図7(2)は制御端子(Cont)における制御信号、図7(3)はFETの伝達特性、図7(4)は出力端子(Out)での出力波形である。41はパルスレーダー装置でのリークによって発生したリークパルスであり、42は至近距離にある対象物からの受信パルス、45と46は遮断回路の遮断動作によって発生するノイズである。
【0050】
遮断回路36の入力端子(In)に図7(1)に示すリークパルス41と受信パルス42が入力する。制御端子(Cont)にはリークパルス41を遮断するために、図7(2)に示す制御信号が入力する。FETは図7(3)に示すような伝達特性でリークパルス41を遮断する。しかし、近距離用のパルスレーダー装置では、遮断期間も短くなるため、図7(4)に示すように遮断回路36の出力端子(Out)には受信パルス42と共に、遮断動作によって発生するノイズ45、46も出力されることになる。
【0051】
このようなノイズ45、46が信号処理回路35に入力すると、受信パルスと誤って検出してしまうことになる。また、急峻な導通状態から遮断状態への遷移又は遮断状態から導通状態への遷移は、タイミング誤差を生じたときに誤動作につながりやすい。つまり、制御信号のタイミングが早すぎるとリークパルスが残ってしまい、制御信号のタイミングが遅過ぎると正常な受信パルスを遮断してしまう。
【0052】
そこで、図8に示すような遮断回路の構成とすることが好ましい。図8において、図7と同じ符号は同じ意味を表す。図7に示す遮断回路との差は制御端子(Cont)に付加されたコンデンサC53である。制御端子(Cont)の入力抵抗R53に並列にコンデンサC53を設けることによって、遮断回路が制御信号を積分してその積分した信号で遮断するものである。
【0053】
図8に示す遮断回路36の各端子における波形を図9に示す。図9(1)は図8における入力端子(In)での入力波形、図9(2)は制御端子(Cont)における制御信号、図9(3)は図8に示すFETの伝達特性、図9(4)は出力端子(Out)での出力波形である。41はパルスレーダー装置でのリークによって発生したリークパルスであり、42は至近距離にある対象物からの受信パルス、45と46は遮断回路の遮断動作によって発生するスイッチングノイズである。
【0054】
遮断回路36の入力端子(In)に図9(1)に示すリークパルス41と受信パルス42が入力する。制御端子(Cont)にはリークパルス41を遮断するために、図9(2)に示す制御信号を入力する。図9(2)の制御信号は積分回路によって、時間的勾配を持って徐々に変化することになる。従って、遮断回路36のFETは図9(3)に示すような伝達特性で、時間的勾配を持って徐々に導通状態から遮断状態へ、また遮断状態から導通状態へ遷移する。急峻な立上がり特性、立下がり特性の制御信号が積分回路の積分効果によって急激な変化がなくなり、遮断回路36の出力端子(Out)に受信パルス42と共に出力されるスイッチングノイズ45、46の大きさが低減されることになる。
【0055】
このように動作することによって、リークパルス41を遮断しつつ、遮断動作に伴うノイズの発生を低減することができるため、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することが可能となる。
【0056】
また、時間的勾配を持って徐々に導通状態から遮断状態へ遷移し又は遮断状態から導通状態へ遷移するため、タイミング誤差を生じても誤動作につながり難い。つまり、制御信号のタイミングが早すぎてもリークパルスが少ししか残らず、制御信号が遅過ぎても正常な受信パルスを完全に遮断することはなくなる。特に、遮断状態から復帰した直後に受信する至近距離からの受信パルスはレベルも大きいため、制御信号のタイミングが遅すぎても受信パルスは信号処理回路が検出するのに十分な大きさを維持できる。
【0057】
図8に示す遮断回路36の制御端子(Cont)にはC53及びR53で一次の低域通過フィルタを形成したが、二次以上の低域通過フィルタであってもよい。また、導通状態から遮断状態への遷移と遮断状態から導通状態への遷移を線形動作する低域通過フィルタとしているが、導通状態から遮断状態への遷移と遮断状態から導通状態への遷移で異なる時間的勾配で変化する非線型の低域通過フィルタとしてもよい。
【0058】
また、制御端子(Cont)にパルス幅の狭い制御信号を入力すると、制御端子(Cont)から出力端子(Out)へのリークによって遮断回路の出力端子(Out)にノイズが発生しやすくなる。そこで、図10に示すように、制御端子(Cont)には時間的勾配を持って徐々に変化する制御信号を入力することが好ましい。図10は、本願発明に係るパルスレーダー装置の遮断回路の制御端子(Cont)への入力波形の例を説明する図である。図10に示す遮断回路は、図6に示す遮断回路と同じであるが、図8に示す遮断回路の制御端子(Cont)へ時間的勾配を持って徐々に変化する制御信号を入力してもよい。
【0059】
時間的勾配を持って徐々に導通状態から遮断状態へ遷移し又は遮断状態から導通状態へと制御するため、タイミング誤差を生じても誤動作につながり難い。つまり、制御信号のタイミングが早すぎてもリークパルスが少ししか残らず、制御信号が遅過ぎても正常な受信パルスを完全に遮断することはなくなる。特に、遮断状態から復帰した直後に受信する至近距離からの受信パルスはレベルも大きいため、制御信号のタイミングが遅すぎても受信パルスは信号処理回路が検出するのに十分な大きさを維持できる。
【0060】
また、図3又は図4に示すパルス発生回路11の遮断回路36への出力側の直近に図10の遮断回路の制御端子(Cont)への入力信号のような時間的勾配を持って徐々に変化するパルスに整形するための回路を持たせてもよい。このような回路を持たせると、高周波成分が除去されるため、パルス発生回路11から遮断回路36への出力経路から発生するリークを低減することができる。
【0061】
このように動作することによって、リークパルス41を遮断しつつ、遮断動作に伴うノイズの発生を低減することができるため、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することが可能となる。
【0062】
図3又は図4に示した信号処理回路では、送信アンテナ23が送信パルス波を放射したタイミングと受信アンテナ31が受信パルス波を受信したタイミングとの時間差から、対象物までの伝搬往復時間を算出する伝搬往復時間算出回路を備えてもよい。
【0063】
伝搬往復時間算出回路の構成としては、パルス発生回路11が送信パルスを出力するタイミングをセット入力とし、ベースバンド増幅回路34が受信パルスを出力するタイミングをリセット入力とするS−R型フリップフロップ回路及び当該S−R型フリップフロップ回路の出力の低周波成分を抽出する低域通過フィルタの組み合わせがある。図11に伝搬往復時間算出回路の構成例を示す。図11において、37は伝搬往復時間算出回路、38はS−R型フリップフロップ回路、39は低域通過フィルタである。
【0064】
図11において、S−R型フリップフロップ回路38は、パルス発生回路が送信パルスを出力するタイミングをセット入力(図11におけるSet)とし、ベースバンド増幅回路が受信パルスを出力するタイミングをリセット入力(図11におけるReset)とする。S−R型フリップフロップ回路38は、パルス発生回路が送信パルスを出力するタイミングからベースバンド増幅回路が受信パルスを出力するタイミングまでの時間が長いと、オン時間が長く、パルス発生回路が送信パルスを出力するタイミングからベースバンド増幅回路が受信パルスを出力するタイミングまでの時間が短いと、オン時間が短くなるように出力する。
【0065】
低域通過フィルタ39は、S−R型フリップフロップ回路38の出力の低周波成分を抽出する。即ち、パルス発生回路が送信パルスを出力するタイミングから検波回路が受信パルスを出力するタイミングまでの時間が長いと、低域通過フィルタ39の出力は低周波成分が大きく、パルス発生回路が送信パルスを出力するタイミングから検波回路が受信パルスを出力するタイミングまでの時間が短いと、低域通過フィルタ39の出力は低周波成分が小さくなる。この低域通過フィルタ39の出力を検出すれば、対象物までの伝搬往復時間を算出することができる。対象物までの距離をディジタル表示するには、低域通過フィルタ39の出力をディジタル変換すればよい。
【0066】
対象物までの距離の算出に当たっては、パルスレーダー装置内部の送信回路や受信回路での遅延時間を伝搬往復時間算出回路の出力レベルのバイアスを遅延時間に相当するだけシフトすることでもよいし、伝搬往復時間算出回路の出力から対象物までの距離を算出する際に、補正してもよい。
【0067】
他の伝搬往復時間算出回路としては、パルス発生回路が送信パルスを出力するタイミングをセット入力とし、ベースバンド増幅回路が受信パルスを出力するタイミングをリセット入力とするパルスカウント回路でもよい。セット入力からリセット入力までの時間で一定周期のパルスを発生させ、パルスカウント回路がその時間でのパルス数を計測することにより、対象物までの伝搬往復時間を算出することができる。
【0068】
いずれの伝搬往復時間算出回路であっても、その出力である伝搬往復時間を光速の二倍で除算すれば、対象物までの距離を算出することができる。
【0069】
なお、上述の実施の形態においては、リークパルス41が発生するタイミングで遮断回路36を遮断状態にした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、パルスレーダー装置の最小検知距離に相当する時間タイミング迄、遮断回路36を遮断状態にし、その後、当該遮断回路36を導通状態にして、そのタイミング以降に受信される受信パルスを通過させるようにしても良い。具体的には、図5に示す受信パルス42が最小検知距離に存在する対象物からの反射波だとすると、この受信パルス42及び当該受信パルス42以降に受信される受信パルスを受信できれば、パルスレーダー装置として対象物を検知できることから、この受信パルス42の受信開始タイミング、すなわち最小検知距離に相当する時間タイミング迄、遮断回路36を遮断状態にし、その後、遮断回路36を導通状態にする。このように遮断回路36を制御することでも、リークパルスによる誤検出を防止することができる。なお、この場合においても、上述の実施の形態のように、遮断回路36を遮断状態から導通状態に遷移させる際、遷移期間を設けるようにしても良い。
【0070】
また、上述の実施の形態においては、リークパルス41が発生するタイミングで遮断回路36を遮断状態にし、その後、遮断回路36を導通状態にして受信パルス42を通過させるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、遮断回路36が導通状態に復帰した後、パルスレーダー装置の最大検知距離に相当する時間が経過したら、遮断回路36をさらに遮断状態に遷移させても良い。このように制御することにより、検知範囲外のタイミングで受信される他の装置からの干渉波やノイズによって誤検出することを未然に防止することができる。なお、この場合においても、上述の実施の形態のように、遮断回路36を導通状態から遮断状態に遷移させる際、遷移期間を設けるようにしても良い。
【0071】
以上説明したように、送信アンテナや変調回路から送信パルス波がリークしたり、パルス発生回路から送信パルスがリークした場合であっても、本願発明の遮断回路を有するパルスレーダー装置では、送信パルス波のリークのみならず、パルスレーダー装置内で発生する送信パルスのリークの影響を低減して、リークによる誤検出を防止し、至近距離にある対象物までの距離も精度よく検出することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本願発明のパルスレーダー装置は、車両の衝突防止やオートクルーズを目的とした車載用装置に適用することができるほか、固定のパルスレーダー装置としても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】従来のパルスレーダー装置で発生するリークによる障害の例を説明するタイミングチャート図である。
【図2】従来のパルスレーダー装置と当該パルスレーダー装置における主なリークの経路を説明するブロック図である。
【図3】本願発明に係るパルスレーダー装置の実施形態の例とリーク経路を説明するブロック図である。
【図4】本願発明に係るパルスレーダー装置の他の実施形態の例とリーク経路を説明するブロック図である。
【図5】パルスレーダー装置の遮断回路が遮断するタイミングを説明する図である。
【図6】本願発明に係るパルスレーダー装置の遮断回路の構成例を説明する図である。
【図7】本願発明に係るパルスレーダー装置の遮断回路の各端子における波形を説明する図である。
【図8】本願発明に係るパルスレーダー装置の遮断回路の他の構成例を説明する図である。
【図9】本願発明に係るパルスレーダー装置の遮断回路の各端子における波形を説明する図である。
【図10】本願発明に係るパルスレーダー装置の遮断回路の制御端子への入力波形の例を説明する図である。
【図11】伝搬往復時間算出回路の構成例を説明する図である。
【符号の説明】
【0074】
11:パルス発生回路、12:発振器、21:変調回路、22:電力増幅回路、23:送信アンテナ、31:受信アンテナ、32:前置増幅回路、33:復調回路、34:ベースバンド増幅回路、35:信号処理回路、36:遮断回路、37:伝搬往復時間算出回路、38:S−R型フリップフロップ回路、39:低域通過フィルタ、41:リークパルス、42:至近距離からの受信パルス、43:遮断期間、44:遮断から導通への遷移期間、45:遮断によって発生するノイズ、46:遮断によって発生するノイズ、81パルス発生回路、91:リークパルス、92:リークパルス、93:至近距離からの受信パルス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信パルスを変調した送信パルス波を周期的に送出する送信回路と、
該送信回路からの送信パルス波を放射する送信アンテナと、
対象物から反射した受信パルス波を受信する受信アンテナと、
該受信アンテナからの受信パルス波を復調する復調回路と、
該復調回路の出力を導通状態から一時的に遮断状態にする遮断回路とを備え、
前記遮断回路は、前記パルスレーダー装置内で前記送信パルス又は前記送信パルス波がリークしている期間は前記復調回路の出力を遮断することを特徴とするパルスレーダー装置。
【請求項2】
送信パルスを変調した送信パルス波を周期的に送出する送信回路と、
該送信回路からの送信パルス波を放射する送信アンテナと、
対象物から反射した受信パルス波を受信する受信アンテナと、
該受信アンテナからの受信パルス波を復調する復調回路と、
該復調回路の出力を導通状態から一時的に遮断状態にする遮断回路とを備え、
前記遮断回路は、最小検知距離に相当する時間タイミング迄、前記復調回路の出力を遮断することを特徴とするパルスレーダー装置。
【請求項3】
前記遮断回路は、最大検知距離に相当する時間タイミングから、前記復調回路の出力を遮断することを特徴とする請求項2に記載のパルスレーダー装置。
【請求項4】
前記遮断回路は、導通状態から遮断状態へ又は/及び遮断状態から導通状態へ時間的勾配を持って遷移することを特徴とする請求項1から3に記載のいずれかのパルスレーダー装置。
【請求項5】
前記遮断回路は、立上がり又は/及び立下がりに時間的勾配を持って変化するパルス波形によって、導通状態から遮断状態へ又は/及び遮断状態から導通状態へ制御されることを特徴とする請求項1から4に記載のいずれかのパルスレーダー装置。
【請求項6】
前記送信アンテナが送信パルス波を放射したタイミングと前記受信アンテナが受信パルス波を受信したタイミングとの時間差から、対象物までの伝搬往復時間を算出する伝搬往復時間算出回路をさらに備えることを特徴とする請求項1から5に記載のいずれかのパルスレーダー装置。
【請求項1】
送信パルスを変調した送信パルス波を周期的に送出する送信回路と、
該送信回路からの送信パルス波を放射する送信アンテナと、
対象物から反射した受信パルス波を受信する受信アンテナと、
該受信アンテナからの受信パルス波を復調する復調回路と、
該復調回路の出力を導通状態から一時的に遮断状態にする遮断回路とを備え、
前記遮断回路は、前記パルスレーダー装置内で前記送信パルス又は前記送信パルス波がリークしている期間は前記復調回路の出力を遮断することを特徴とするパルスレーダー装置。
【請求項2】
送信パルスを変調した送信パルス波を周期的に送出する送信回路と、
該送信回路からの送信パルス波を放射する送信アンテナと、
対象物から反射した受信パルス波を受信する受信アンテナと、
該受信アンテナからの受信パルス波を復調する復調回路と、
該復調回路の出力を導通状態から一時的に遮断状態にする遮断回路とを備え、
前記遮断回路は、最小検知距離に相当する時間タイミング迄、前記復調回路の出力を遮断することを特徴とするパルスレーダー装置。
【請求項3】
前記遮断回路は、最大検知距離に相当する時間タイミングから、前記復調回路の出力を遮断することを特徴とする請求項2に記載のパルスレーダー装置。
【請求項4】
前記遮断回路は、導通状態から遮断状態へ又は/及び遮断状態から導通状態へ時間的勾配を持って遷移することを特徴とする請求項1から3に記載のいずれかのパルスレーダー装置。
【請求項5】
前記遮断回路は、立上がり又は/及び立下がりに時間的勾配を持って変化するパルス波形によって、導通状態から遮断状態へ又は/及び遮断状態から導通状態へ制御されることを特徴とする請求項1から4に記載のいずれかのパルスレーダー装置。
【請求項6】
前記送信アンテナが送信パルス波を放射したタイミングと前記受信アンテナが受信パルス波を受信したタイミングとの時間差から、対象物までの伝搬往復時間を算出する伝搬往復時間算出回路をさらに備えることを特徴とする請求項1から5に記載のいずれかのパルスレーダー装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−98167(P2006−98167A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−283182(P2004−283182)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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