説明

パルスレーダ装置及びその制御方法

【課題】対象物情報を常時検出可能にするとともにノイズ信号のレプリカ信号を逐次更新することで対象物の情報を高精度に検出することが可能なパルスレーダ装置及びその制御方法を提供する。
【解決手段】ステップS5で距離データの組数n1が全距離データの組数Nrを超えたと判定されると、対象物情報検出の処理が終了したと判定してレプリカ信号作成の処理に進む。ステップS13、S15、S16でレーダ機能を動作させてステップS17で距離データ毎ノイズ信号を取得する。その後、ステップS19、S21、S23でそれぞれ第1、第2、第3バックグラウンド信号を作成した後、ステップS23でレプリカ信号を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置に関し、特にパルス信号を該装置から放射し、対象物で反射し、再び該装置で受信されるまでの往復時間を測定することで該対象物までの距離を計測する車載パルスレーダ装置及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なパルスレーダ装置は、高周波の搬送波を変調してごく短い時間だけ搬送周波数を切り出すことにより、パルス状の送信信号を生成する高周波送信部と、高周波送信部で生成された送信信号を電波として空間に放射する送信アンテナと、送信アンテナから放射された電波が対象物で反射されて戻ってきた反射波を受信する受信アンテナと、受信アンテナから受信信号を入力してベースバンド信号にダウンコンバートする高周波受信部と、高周波受信部からベースバンド信号を入力して対象物までの距離等を算出するベースバンド部と、を備えている。
【0003】
また、高周波送信部は、所定の周波数の搬送波を生成する発振器と、発振器で生成された搬送波をパルス状に切り出すスイッチ等を有している。高周波受信部は、送信信号と受信信号との相関をとる相関器と、相関器の出力信号をベースバンド信号にダウンコンバートするためのIQミキサを有している。ベースバンド部は、高周波受信部からのベースバンド信号をアナログ信号からディジタル信号に変換するA/D変換部と、A/D変換部からのディジタル信号を処理して対象物までの距離や対象物の相対速度を算出するディジタル信号処理部と、パルスレーダ装置の制御を行う制御部を有している。制御部は、高周波送信部のスイッチや高周波受信部の相関器をオン/オフ制御している。
【0004】
パルスレーダ装置は、上記説明のように、高周波信号を処理する高周波送信部及び高周波受信部(以下では、両者を合わせてRF部という)と、低周波信号を処理するベースバンド部とを備えている。このうち、RF部は高周波に対応可能な高価な基板を用いる必要があることから、低コスト化を図るために、従来より、RF部のみを高周波に対応可能な基板に配置し、ベースバンド部は低価格の基板に配置するのが一般的である。また、別々の基板に配置されたRF部とベースバンド部とを接続する手段として、従来より寸法が小さく安価な多ピンのコネクタが用いられている。
【0005】
上記のように、別々の基板上に形成されるベースバンド部とRF部とを安価な集約された多ピンのコネクタで接続すると、制御信号が受信信号に干渉ノイズ信号として漏れこんできてしまうといった問題があった。このように、該多ピンのコネクタにおいて、副次的に発生する制御信号等の不要波が受信信号に漏れこんで干渉ノイズ信号となると、十分な受信強度が得られないときは、該干渉ノイズ信号に所望の受信信号が埋もれてしまうという問題がある。そこで、従来は、なるべく該多ピン間のアイソレーションを大きくして該干渉ノイズ信号の信号量を低減することで、受信強度が小さい受信信号まで検出できるようにしていた。
【0006】
さらに、このような干渉ノイズ信号は発生要因は異なるが、各種レーダ装置にも存在し、該干渉ノイズ信号を除去する技術がある。特許文献1では、FM−CWレーダにおける、受信信号に重畳した定常的なノイズ成分(周波数やレベルの時間的変動が小さいノイズ成分)の干渉ノイズ信号低減処理が開示されている。定常的なノイズ成分を記憶し、受信信号のスペクトラム分布から差し引くことで、対象物を検出する。
また、特許文献2では、パルスレーダ装置における干渉ノイズ信号やセルフミキシングノイズ等をレプリカ信号として取得し、これを観測データから除去することで、対象物を高精度に検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−151852号公報
【特許文献2】特願2010−051681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、車載レーダでは、小型な基板に実装することが多いため、多ピンコネクタのピン間のアイソレーションを十分確保することは非常に困難であるという問題があった。また、各信号線を完全に独立した同軸線で接続することも可能であるが、RF部とベースバンド部との間の接続に複数の同軸線を用いると、高コストとなるとともに、機構上の取り回しが複雑となるため、製造が困難になる、といった問題があった。
【0009】
さらに、特許文献1で開示された技術によれば、低レベルの干渉ノイズ信号を減算する方式であるため、受信信号よりも高いレベルの干渉ノイズ信号には適用できないという問題がある。
【0010】
また、特許文献2で開示された技術におけるノイズ信号等のレプリカ信号を取得する間は対象物の検出を実施できない、という問題がある。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、多ピンコネクタを用いて装置の小型化を実現しつつ、受信信号強度を超過する干渉ノイズ信号を低減し、かつ、該干渉ノイズ信号のレプリカを高速に更新し、物体検出を確実に実施することが可能なパルスレーダ装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明のパルスレーダ装置の制御方法の第1の態様は、予め設定された更新周期で所定の探知距離内の対象物の情報を検出して情報提供するパルスレーダ装置の制御方法であって、所定周波数の搬送波を2以上の送信用制御信号に従ってパルス状に切出し、前記2以上の送信用制御信号のすべてが出力されたときに送信信号を生成する送信信号処理ステップと、前記送信信号を電波として空間に放射する送信ステップと、前記電波が対象物で反射された反射波を受信する受信ステップと、前記送信信号処理ステップと前記送信ステップと前記受信ステップとを所定の繰返し周期で複数回繰り返してそれぞれで受信した受信信号を受信用制御信号に従って測定距離毎にサンプリングすることで距離データを取得する単位サンプリング処理ステップと、前記距離データ毎に含まれるノイズ信号を取得する単位ノイズ処理ステップと、前記単位ノイズ処理ステップで取得されたノイズ信号を用いてレプリカ信号を更新するレプリカ信号作成ステップと、前記単位サンプリング処理ステップを前記測定距離を変えながら第1の設定回数だけ行わせることで前記探知距離内のすべての前記距離データを取得し、前記すべての距離データから前記レプリカ信号を減算して前記対象物の情報を検出する対象物情報検出ステップと、を有し、前記更新周期内の第1の期間に前記対象物情報検出ステップを行い、前記更新周期内の前記第1の期間を除く第2の期間に前記単位ノイズ処理ステップを前記送信信号処理ステップで用いる前記送信用制御信号の出力条件及び/または前記測定距離を変えながら所定回数だけ行い、前記単位ノイズ処理ステップを、すべての前記距離データに対するすべてのノイズ信号を取得するまで繰り返し行い、さらに前記すべての距離データに対するすべてのノイズ信号を取得する処理を繰り返し行うことを特徴とする。
【0013】
本発明のパルスレーダ装置の制御方法の他の態様は、前記送信用制御信号をX1〜Xm(m≧2)とするとき、前記単位ノイズ処理ステップでは、前記送信用制御信号のうちi番目の送信用制御信号Xiを出力せずこれを除く前記送信用制御信号及び前記受信用制御信号を出力して前記送信信号処理ステップと前記送信ステップと前記受信ステップとを前記繰返し周期で複数回繰り返したときに前記受信用制御信号に従って測定距離毎にサンプリングしたものを第i番目のバックグラウンド信号の距離データ毎ノイズ信号として保存し、前記m個の送信用制御信号のすべてを出力せず前記受信用制御信号を出力して前記送信信号処理ステップと前記送信ステップと前記受信ステップとを前記繰返し周期で複数回繰り返したときに前記受信用制御信号に従って測定距離毎にサンプリングしたものを第(m+1)番目のバックグラウンド信号の距離データ毎ノイズ信号として保存することを特徴とする。
【0014】
本発明のパルスレーダ装置の制御方法の他の態様は、前記レプリカ信号作成ステップでは、すべての前記距離データ毎ノイズ信号からなる前記第1番目から第m番目までのバックグラウンド信号を加算して前記第(m+1)番目のバックグラウンド信号を減算したものを(m−1)で除することにより前記レプリカ信号を算出することを特徴とする。
【0015】
本発明のパルスレーダ装置の制御方法の他の態様は、使用開始時に、前記単位ノイズ処理ステップをすべての前記距離データに対するすべてのノイズ信号を取得するまで行い、さらに前記レプリカ信号作成ステップを行うことで、前記レプリカ信号の初期値を作成することを特徴とする。
【0016】
本発明のパルスレーダ装置の第1の態様は、予め設定された更新周期で所定の探知距離内の対象物の情報を検出して情報提供するパルスレーダ装置であって、所定の周波数の搬送波を生成する発振器を有し、前記搬送波を2以上の送信用制御信号に従ってパルス状に切出し、前記2以上の送信用制御信号のすべてが出力されたときに送信信号を生成する高周波送信部と、前記高周波送信部から前記送信信号を入力して電波として空間に放射する送信アンテナと、前記電波が対象物で反射された反射波を受信する受信アンテナと、 前記受信アンテナから受信信号を入力して受信用制御信号に従って前記送信信号との相関をとってベースバンド信号に変換する高周波受信部と、前記ベースバンド信号を入力してディジタル信号に変換するA/D変換部と、前記A/D変換部から前記ディジタル信号を入力して前記対象物情報を検出するディジタル信号処理部と、前記送信用制御信号を前記高周波送信部に出力するとともに前記受信用制御信号を前記高周波受信部に出力する制御部と、前記ディジタル信号処理部と前記制御部の動作を制御するレーダ機能切替部と、を有するベースバンド部と、を備え、前記ディジタル信号処理部はさらに、前記ディジタル信号を入力して測定距離毎にサンプリングすることで距離データを取得する単位サンプリング処理部と、前記距離データに含まれるノイズ信号を取得してレプリカ信号を更新するレプリカ信号作成部と、前記単位サンプリング処理部から前記探知距離内のすべての前記距離データを取得し、前記すべての距離データから前記レプリカ信号を減算して前記対象物情報を検出する対象物情報検出部と、を有しており、前記送信用制御信号をX1〜Xm(m≧2)とし、前記制御部から前記送信用制御信号のうちi番目の送信用制御信号Xiが出力されずこれを除く前記送信用制御信号及び前記受信用制御信号が出力されたときに前記単位サンプリング処理部で取得される前記距離データを距離データ毎ノイズ信号とし、前記探知距離内のすべての前記距離データ毎ノイズ信号からなる信号を第i番目のバックグラウンド信号とするとき、前記レプリカ信号作成部は、前記第1番目から第m番目までのバックグラウンド信号を加算して前記第(m+1)番目のバックグラウンド信号を減算したものを(m−1)で除することにより前記レプリカ信号を算出し、前記レーダ機能切替部は、前記更新周期内の第1の期間に前記対象物情報検出部を実行させ、前記更新周期内の前記第1の期間を除く第2の期間に前記レプリカ信号作成部を実行させることを特徴する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、対象物情報を常時検出可能にするとともにノイズ信号のレプリカ信号を逐次更新することで対象物の情報を高精度に検出することが可能なパルスレーダ装置及びその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るパルスレーダ装置の制御方法による信号の処理方法を示す流れ図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るパルスレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図3】ノイズの影響が無いときの信号の時間波形図である。
【図4】不要波の信号が混入した信号の時間波形図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るパルスレーダ装置の制御線及び信号線を拡大して表示した拡大図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るパルスレーダ装置の第1ゲート部への制御信号を出力させないときのノイズ信号の時間波形図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るパルスレーダ装置の第2ゲート部への制御信号を出力させないときのノイズ信号の時間波形図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るパルスレーダ装置の第1ゲート部及び第2ゲート部への制御信号を出力させないときのノイズ信号の時間波形図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るパルスレーダ装置により作成されるレプリカ信号の時間波形図である。
【図10】本発明の一実施形態に係るパルスレーダ装置の動作の時間的な流れ説明する図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係るパルスレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい実施の形態におけるパルスレーダ装置及びその制御方法について、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。本発明のパルスレーダ装置では、送信信号を生成するのにm(m≧2)個の制御信号(以下では送信用制御信号という)を用い、受信信号を処理するのに1以上の制御信号(以下では受信用制御信号という)を用いている。以下では、説明容易のために送信用制御信号を2個(m=2)とし、受信用制御信号を1個として説明するが、これに限定されず、送信用制御信号が3以上あってよく、また受信用制御信号が2以上あってもよい。
【0020】
(第1実施形態)
本発明の第1の実施の形態に係るパルスレーダ装置を、図2を用いて以下に説明する。図2は、本実施形態のパルスレーダ装置100の構成を示すブロック図である。図2において、パルスレーダ装置100は、高周波信号を処理する高周波送信部110及び高周波受信部120と、低周波信号を処理するベースバンド部130と、電波を空間に放射するための送信アンテナ101と、対象物で反射した反射波を受信する受信アンテナ102と、を備えている。以下では、説明容易のため、パルスレーダ装置100で検出する対象物を符号Tで示す。
【0021】
高周波送信部110は、電磁波の送信信号の発生源である所定の高周波信号(搬送波)を発生させる発振器111と、発振器111で生成される高周波信号を所定の時間幅のパルス状の信号(パルス信号)に切出す第1ゲート部112及び第2ゲート部113と、を備えている。第1ゲート部112及び第2ゲート部113は、発振器111から入力する高周波信号を、例えば1[ns]幅のパルス信号に切出す回路であり、逓倍器やスイッチを用いることができる。第1ゲート部112と第2ゲート部113の2つの信号切出し回路を用いることで、シャープに成型されたパルス信号を生成することができる。第2ゲート部113から出力されるパルス状の送信信号は送信アンテナ101に伝送され、送信アンテナ101から電波として空中に放射される。
【0022】
高周波受信部120は、受信アンテナ102で受信された受信信号を入力して送信信号との相関をとる相関器121と、相関器121から出力される信号を発振器111から入力した搬送波でダウンコンバートするIQミキサ122とを備えている。IQミキサ122は、I成分のベースバンド信号にダウンコンバートするための第1ミキサ123、Q成分のベースバンド信号にダウンコンバートするための第2ミキサ124、及び発振器111から入力した搬送波を90度の位相差を付加して第1ミキサ123並びに第2ミキサ124に出力する移相器125を有している。相関器121は、受信信号から測定距離毎の信号を取り出し、これを第1ミキサ123及び第2ミキサ124に出力している。
【0023】
ベースバンド部130は、第1ミキサ123及び第2ミキサ124でダウンコンバートされたベースバンド信号のI成分及びQ成分を入力してディジタル信号に変換するA/D変換部131と、A/D変換部131からのディジタル信号を複素信号処理(複素フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform))して対象物Tの情報を算出するディジタル信号処理部132と、パルスレーダ装置100の動作を制御する制御部133と、記憶部134とを備え、さらにディジタル信号処理部132及び制御部133の動作を切り替えるためのレーダ機能切替部135を備えている。
【0024】
制御部133は、レーダ機能切替部135からの切替指令に従って、高周波部品である第1ゲート部112、第2ゲート部113、及び相関器121のそれぞれの電源をオン/オフ制御している。レーダ機能切替部135からの切替指令に従って、制御部133が第1ゲート部112及び第2ゲート部113の電源をともにオンにしたときに、高周波送信部110から送信信号が出力される。制御部133で生成される制御信号は、1[ns]幅の信号である。
【0025】
本実施形態のパルスレーダ装置100では、本来の対象物情報を検出するための信号処理に加えて、ノイズ信号のレプリカ信号を作成するための信号処理を行っている。対象物情報検出の処理とレプリカ信号作成の処理を行うために、ディジタル信号処理部132には単位サンプリング処理部132a、対象物情報検出部132b、及びレプリカ信号作成部132cが設けられている。単位サンプリング処理部132aは、レーダ機能切替部135からの切替指令によって対象物情報検出部132bとレプリカ信号作成部132cのいずれか一方に処理結果を出力する。
【0026】
本実施形態のパルスレーダ装置100において、対象物情報を検出するための制御方法を以下に説明する。パルスレーダ装置100では、高周波送信部110においてパルス幅が例えば1[ns]幅のパルス信号が所定のパルス繰返し周期(Tpとする)で生成され、これが送信信号として送信アンテナ101から放射される。パルス繰返し周期Tpを例えば1[μs]とすると、パルスレーダ装置100による探知距離は最大150mとなる。また、受信アンテナ102で受信された受信信号は、高周波受信部120でベースバンド信号にダウンコンバートされてベースバンド部130に出力される。ベースバンド部130では、ベースバンド信号がA/D変換部131でディジタル信号に変換された後、ディジタル信号処理部132に入力される。
【0027】
パルスレーダ装置100は、所定の探知距離範囲内の対象物情報を検出するために、パルス繰返し周期Tpで送信信号を複数放射し、それぞれの反射波である受信信号を処理して探知距離範囲内の全距離データを取得している。そして、この全距離データからディジタル信号処理部132で対象物情報を検出している。探知距離範囲内の全距離データを取得する方法として、等価サンプリングの方法を用いることができる。ここでは、等価サンプリングの方法を用いて探知距離範囲内の全距離データを取得する方法について説明する。
【0028】
高周波送信部110から1つのパルス信号が出力されると、その反射波を受信して相関器121で複数の測定距離における信号を取り出す。この測定距離の個数を、以下ではNpとする。Np個の測定距離における信号は、パルス信号を出力してから次のパルス繰返し周期Tpに達する前のNp個の時点(以下ではサンプリング時点という)において、受信信号と送信信号との相関をとることで得られる。相関器121で得られたNp個の測定距離における信号は、それぞれベースバンド信号にダウンコンバートされた後A/D変換 部131でディジタル信号に変換されて単位サンプリング処理部132aに出力される。
【0029】
上記のNp個の測定距離における信号を所定数だけ取得するために、サンプリング時点を変更せずにパルス繰返し周期Tpで所定回数だけパルス信号を出力させる。そして、それぞれの受信信号から得られるNp個の測定距離における信号のディジタル値を、単位サンプリング処理部132aで測定距離毎に積算する。Np個の測定距離における信号をそれぞれ所定数だけ積算して得られるディジタル信号を、以下では距離データという。単位サンプリング処理部132aで積算して得られた距離データは、対象物情報を検出するときは対象物情報検出部132bに出力される。
【0030】
1組の距離データが得られると、次にNp個のサンプリング時点をそれぞれ少しだけずらし、上記と同じ所定回数だけパルス信号を放射して測定距離を少しだけずらした距離データを取得する。以下同様にして、Np個のサンプリング時点をそれぞれ少しずつずらしながら所定回数だけパルス信号を放射することで、所定の探知距離範囲内の全距離データを取得する。以下では、Np個のサンプリング時点をずらしながら各距離データを取得して全距離データを取得するまでの回数(第1の設定回数)をNrとする。すなわち、全距離データはNr組の距離データで構成されることになる。全距離データが対象物情報検出部132bに入力されると、対象物情報検出部132bではこれをもとに対象物情報を検出する。
【0031】
上記のように構成された本実施形態のパルスレーダ装置100では、高周波送信部110及び高周波受信部120を構成する各部品が数十GHz帯の周波数で動作するのに対し、ベースバンド部130を構成する各部品は高々2GHz程度の周波数で動作する。このように、高周波送信部110及び高周波受信部120の動作周波数とベースバンド部130の動作周波数とが大きく異なることから、それぞれの周波数帯用に設計された別の基板上に形成するのが好ましい。本実施形態では、高周波送信部110及び高周波受信部120を高周波用基板103上に形成し、ベースバンド部130を低周波用基板104上に形成している。また、高周波信号を送受信する送信アンテナ101及び受信アンテナ102についても、高周波用基板103上に配置している。
【0032】
高周波用に用いる基板は低周波用の基板に比べて高価であることから、本実施形態では高価な高周波用基板103上に高周波送信部110、高周波受信部120、送信アンテナ101、及び受信アンテナ102のみを配置し、低周波信号を処理するベースバンド部130については、低価格な低周波用基板104上に配置している。これにより、パルスレーダ装置100のコスト低減を図ることができる。
【0033】
上記説明のように、パルスレーダ装置100の各部品を高周波用基板103と低周波用基板104に分けて配置するには、高周波用基板103上の部品と低周波用基板104上の部品とを電気的に接続する手段が必要となる。本実施形態のパルスレーダ装置100では、従来より用いられている低価格で小型の多ピンのコネクタ105を用いることができる。低周波用基板104上の制御部133から出力される制御信号は、コネクタ105を経由して高周波用基板103上の高周波送信部110及び高周波受信部120に伝送され、高周波用基板103上の高周波受信部120から出力されるベースバンド信号は、コネクタ105を経由して低周波用基板104上のベースバンド部130に伝送される。
【0034】
このように、高周波用基板103と低周波用基板104との間で、従来の多ピンのコネクタ105を用いて制御信号とベースバンド信号の受け渡しを行うと、対象物Tの情報を有する信号強度の低いベースバンド信号に制御信号からの干渉ノイズ信号が混入してしまう。また、発振器111から出力された搬送波が、IQミキサ122を通過して相関器121で反射され、再びIQミキサ122でダウンコンバートされて生じるセルフミキシングノイズもベースバンド信号に混入する。特に、対象物Tが遠方にある場合には、それからの反射信号の振幅レベルが小さくなるため、上記の干渉ノイズ信号やセルフミキシングノイズに隠れてしまうおそれがある。
【0035】
そこで、本実施形態のパルスレーダ装置100では、コネクタ105を通過するベースバンド信号に混入されるノイズ等の不要波のレプリカ信号を作成し、対象物Tの検出時にベースバンド信号から該レプリカ信号を除去するようにしている。このような干渉ノイズ信号やセルフミキシングノイズ等の不要波は、例えば周辺温度が変化したり振動等が加わることで変化したりしてしまうことが考えられる。そのため、不要波のレプリカ信号を逐次更新して用いるようにするのが好ましく、例えば定期的に更新するようにするのがよい。
【0036】
不要波のレプリカ信号の一例を、図3、4を用いて説明する。図3は、高周波送信部110で生成されたパルス信号を送信アンテナ101から放射し、対象物Tで反射された反射波を受信アンテナ102で受信してディジタル信号処理部132で処理した信号10の一例を示す時間波形図である(なお、横軸は時間に対応した距離を表している。以下、図4、図6〜9においても同様とする。)。同図に示す信号10の波形は、ノイズの影響を受けていないときの波形である。また、図4は、図3に示す信号10に上記の不要波の信号が混入したときの時間波形図を示す。符号11の信号は、コネクタ105でベースバンド信号に混入する干渉ノイズ信号を模式的に示したものであり、符号12の信号は、セルフミキシングノイズを模式的に示したものである。
【0037】
本実施形態では、図4に示す干渉ノイズ信号11とセルフミキシング信号12を合わせた不要波のレプリカ信号を逐次作成し、これを記憶部134に保存する。記憶部134に保存されたレプリカ信号は、作成される毎に最新のものに更新される。そして、パルスレーダ装置100を動作させて対象物Tを検出するときは、高周波受信部120からコネクタ105を経由してベースバンド部130に入力され、ディジタル信号処理部132で処理された信号から上記のレプリカ信号を差し引くことで、図3に示すような信号(低ノイズ信号)を取得する。
【0038】
図2において、制御部133から第1ゲート部112に出力される制御信号(第1制御信号)及びそれを伝送する制御線(第1制御線)をそれぞれA、aとし、制御部133から第2ゲート部113に出力される制御信号(第2制御信号)及びそれを伝送する制御線(第2制御線)をそれぞれB、bとし、制御部133から相関器121に出力される制御信号(第3制御信号)及びそれを伝送する制御線(第3制御線)をそれぞれC、cとする。制御信号A、Bは、それぞれ第1ゲート部112、第2ゲート部113の電源をオン/オフ制御し、制御信号Cは相関器121の電源をオン/オフ制御している。ここでは、送信用制御信号を第1制御信号と第2制御信号の2つとし、受信用制御信号を第3制御信号の1つとしている。本発明のパルスレーダ装置及びその制御方法は、送信用制御信号及び受信用制御信号の数が上記のものに限定されるものではなく、それぞれにさらに多くの制御信号があってもよい。
【0039】
また、IQミキサ122の第1ミキサ123からA/D変換部131に出力されるベースバンド信号(I成分)及びそれを伝送する信号線をそれぞれD、dとし、第2ミキサ124からA/D変換部131に出力されるベースバンド信号(Q成分)及びそれを伝送する信号線をそれぞれE、eとする。上記の制御線a、b、c、及び信号線d、eは、いずれもコネクタ105の異なるピンを経由している。
【0040】
以下では、パルスレーダ装置100により対象物情報を検出するときの動作について、図2を用いてさらに詳細に説明する。対象物情報検出の処理を行うときは、まずレーダ機能切替部135から制御部133及びディジタル信号処理部132の単位サンプリング処理部132aに、対象物情報検出を指示する切替指令が送信される。制御部133は、レーダ機能切替部135から対象物情報検出を指示する切替指令を入力すると、制御線a、bを介して適切なタイミングで制御信号A、Bを第1ゲート部112及び第2ゲート部113に出力する。制御信号A、Bにより第1ゲート部112及び第2ゲート部113の電源が略1[ns]の間投入されると、発振器111で生成された搬送波が1[ns]のパルス幅に切り出される。これにより、所定周波数の搬送波による1[ns]幅パルスの送信信号が生成され、これが送信アンテナ101に送出されて電波として空中に放射される。放射された電波は、距離Lだけ離れた位置にある対象物Tで反射され、受信アンテナ102で受信される。
【0041】
また、レーダ機能切替部135からの切替指令により制御部133から制御線cを介して所定のタイミングで相関器121に制御信号Cが出力されると、相関器121の電源が投入されて受信アンテナ102で受信された受信信号と送信信号との相関がとられる。相関器121から出力される信号は、IQミキサ122で複素ベースバンド信号にダウンコンバートされる。第1ミキサ123及び第2ミキサ124でダウンコンバートされたそれぞれのベースバンド信号D、Eは、信号線d、eを介してベースバンド部130のA/D変換部131に入力され、ここでディジタル信号に変換される。このディジタル信号は、ディジタル信号処理部132の単位サンプリング処理部132aに出力される。
【0042】
単位サンプリング処理部132aは、A/D変換部131から入力したディジタル信号を所定数だけ積算して距離データを作成し、レーダ機能切替部135からの切替指令に従って距離データを対象物情報検出部132bに出力する。対象物情報検出部132bは、単位サンプリング処理部132aから距離データを入力し、探知距離範囲内の全距離データを取得すると、複素信号処理を行って対象物Tに係る位置情報や相対速度情報等の対象物情報を算出する。算出された対象物情報は上位のコンピュータ50に転送され、ここでGUI(Graphical User Interface)を用いて対象物情報をわかりやすく表示するための処理が行われ、その結果が表示部51に表示される。このようにして対象物情報が更新された後、再び高周波送信部110から送信信号が出力されて次の更新周期の対象物情報検出が行われる。
【0043】
図2に示す制御線a、b、c、及び信号線d、eは、高周波用基板103と低周波用基板104との間をコネクタ105で接続されている。コネクタ105の各ピン(端子)はむき出しの状態にあるため、各端子を流れる信号は微小なレベルではあるが、他の端子に回り込んで干渉してしまう。制御線a、b、cを流れる制御信号A、B、Cは、RF部品(第1ゲート部112、第2ゲート部113、相関器121)をオン/オフ駆動するための信号であり、例えば2〜3[V]程度の信号強度を有している。これに対し、信号線d、eを流れるベースバンド信号D、Eは、対象物Tから反射してきた強度の低い信号をダウンコンバートした信号であり、非常に強度の低い信号である。そのため、制御信号A、B、Cはベースバンド信号D、Eに比べて相対的に非常に高い強度の信号となっており、コネクタ105において制御線a、b、cから信号線d、eに制御信号A、B、Cが漏れ込んでしまう。
【0044】
パルスレーダ装置100における上記の各制御線及び信号線を拡大して図5に示す。同図では、コネクタ105において、制御線a、b、cから信号線d、eに回り込む信号を、それぞれ干渉ノイズ信号α、β、γとしている。干渉ノイズ信号α、β、γは、信号線d、eを通過するベースバンド信号D、Eとほぼ同等の強度を有する信号となる。図5では、発振器111から出力されてIQミキサ122を通過し、相関器121で反射されて再びIQミキサ122でダウンコンバートされるセルフミキシングノイズを、符号δで示している。このセルフミキシングノイズδも、ベースバンド信号D、Eに混入する。ここで、干渉ノイズ信号α、β、γがベースバンド信号D、Eと合成されるが、その信号強度は、A/D変換部131で飽和しないレベルなるように、つまり各制御信号とベースバンド信号とが出来るだけアイソレーションが取れるように多ピンコネクタを流れる信号の配置は考慮している。
【0045】
本実施形態のパルスレーダ装置100では、ベースバンド信号D、Eに混入する上記の各ノイズを含む不要波のレプリカ信号を逐次作成して更新するために、制御線a、b、cを介して第1ゲート部112、第2ゲート部113、及び相関器121を適当なタイミングで動作させる。そして、得られた不要波のレプリカ信号を記憶部134に記憶しておき、対象物Tの検出時に、受信信号をダウンコンバートしたベースバンド信号D、Eからレプリカ信号を差し引くことで各ノイズを除去する。
【0046】
以下では、図6〜9を用いて不要波のレプリカ信号の作成方法について説明する。図6〜9は、本実施形態のパルスレーダ装置の制御方法により取得されるノイズ信号及びレプリカ信号の一例を示す図である。不要波のレプリカ信号を作成するにあたっては、送信アンテナ101から送信電波を空中に放射してしまうと、何らかの対象物で送信電波が反射されて受信アンテナ102で受信されてしまうおそれがある。このような反射波を受信してしまうと、不要波のみのレプリカ信号を作成することができなくなる。そこで、不要波のレプリカ信号を作成するときは、送信アンテナ101から送信電波が放射されないようにしている。
【0047】
レプリカ信号を作成するときは、レーダ機能切替部135から制御部133及びディジタル信号処理部132の単位サンプリング処理部132aにレプリカ信号作成への切替指令が送信される。また、制御部133に対しては、まず第1段階のレプリカ信号作成を指示する信号がレーダ機能切替部135から出力される。これにより、制御部133は、第1段階のレプリカ信号作成として、制御線b、cに制御信号B、Cを流しつつ、制御線aを流れる制御信号Aの出力を停止させてレーダを動作させる。パルスレーダ装置100では、第1ゲート部112と第2ゲート部113がともに電源オンにされたときのみパルス信号が送信アンテナ101に出力される。そのため、レーダを動作させたときに制御信号Aが第1ゲート部112に出力されないと、パルス信号が送信アンテナ101に出力されない。これにより、受信アンテナ102も反射波を受信することはない。
【0048】
その結果、ディジタル信号処理部132の単位サンプリング処理部132aには、制御信号B、Cが信号線d、eに混入したそれぞれの干渉ノイズ信号β、γと、セルフミキシングノイズδとを合成したノイズ信号(β+γ+δ)の距離データが入力される。この距離データはノイズ信号のみであり、距離データ毎ノイズ信号となる。レプリカ信号作成部132cは、単位サンプリング処理部132aから測定距離の異なるNr組の距離データ毎ノイズ信号、すなわち距離データ毎ノイズ信号のすべてを入力すると、これを第1バックグラウンド信号として記憶部134に保存する。これにより、図6に例示するようなノイズ信号(β+γ+δ)からなる第1バックグラウンド信号が得られる。図6は、ノイズ信号(β+γ+δ)の時間波形の一例を示す図である。
【0049】
第1段階のレプリカ信号作成が終了すると、次にレーダ機能切替部135から制御部133に対して第2段階のレプリカ信号作成を指示する信号が出力される。制御部133は、第2段階のレプリカ信号作成として、制御線a、cに制御信号A、Cを流しつつ、制御線bを流れる制御信号Bの出力を停止させてレーダを動作させる。この場合、第1ゲート部112のみが電源オンにされ、第2ゲート部113は電源オンされないことから、やはりパルス信号が送信アンテナ101に出力されない。これにより、受信アンテナ102も反射波を受信することはない。
【0050】
その結果、ディジタル信号処理部132の単位サンプリング処理部132aには、制御信号A、Cが信号線d、eに混入したそれぞれ干渉ノイズ信号α、γと、セルフミキシングノイズδを合成したノイズ信号(α+γ+δ)の距離データ毎ノイズ信号が入力される。レプリカ信号作成部132cは、単位サンプリング処理部132aから測定距離の異なるNr組の距離データ毎ノイズ信号を入力すると、図7に例示するようなノイズ信号(α+γ+δ)からなる第2バックグラウンド信号を取得する。図7は、ノイズ信号(α+γ+δ)の時間波形の一例を示す図である。レプリカ信号作成部132cは、得られた第2バックグラウンド信号のノイズ信号(α+γ+δ)を記憶部134に保存されている第1バックグラウンド信号のノイズ信号(β+γ+δ)に加算して保存する。
【0051】
第2段階のレプリカ信号作成が終了すると、レーダ機能切替部135はさらに制御部133に対して第3段階のレプリカ信号作成を指示する信号を出力する。制御部133は、第3段階のレプリカ信号作成として、制御線cに制御信号Cを流しつつ、制御線a、bを流れる制御信号A、Bの両方とも出力停止させてレーダを動作させる。この場合も、パルス信号が送信アンテナ101に出力されない。これにより、受信アンテナ102も反射波を受信することはない。
【0052】
その結果、ディジタル信号処理部132の単位サンプリング処理部132aには、制御信号Cが信号線d、eに混入した干渉ノイズ信号γと、セルフミキシングノイズδを合成したノイズ信号(γ+δ)の距離データ毎ノイズ信号が入力される。レプリカ信号作成部132cは、単位サンプリング処理部132aから測定距離の異なるNr組の距離データ毎ノイズ信号を入力すると、図8に例示するようなノイズ信号(γ+δ)からなる第3バックグラウンド信号を取得する。図8は、ノイズ信号(γ+δ)の時間波形の一例を示す図である。レプリカ信号作成部132cは、得られた第3バックグラウンド信号のノイズ信号(γ+δ)を、記憶部134に保存されているノイズ信号から減算して保存する。
【0053】
上記のように、第1バックグラウンド信号のノイズ信号(β+γ+δ)に第2バックグラウンド信号のノイズ信号(α+γ+δ)を加算し、これから第3バックグラウンド信号のノイズ信号(γ+δ)を減算することで、次式のように、全ての不要波を合せたノイズ信号が算出される。
(β+γ+δ)+(α+γ+δ)−(γ+δ)= α+β+γ+δ
上記のようにして、記憶部134には干渉ノイズ信号α、β、γ、及びセルフミキシングノイズδを合成したノイズ信号のレプリカ信号(α+β+γ+δ)が保存される。レプリカ信号(α+β+γ+δ)の時間波形は、図6の時間波形と図7の時間波形を加算し、これから図8の時間波形を減算することで得られる。この場合のレプリカ信号(α+β+γ+δ)の時間波形を図9に示す。
【0054】
上記で説明したように、不要波のレプリカ信号を作成するには、通常の対象物情報検出と同様のレーダ動作を3回行う必要がある。送信用制御信号がm個あるときは、不要波のレプリカ信号を作成するためのレーダ動作を(m+1)回行う必要がある。1回の対象物情報検出の処理、あるいは1つのバックグラウンド信号を取得する処理には、測定距離の異なる距離データあるいは距離データ毎ノイズ信号をNr組取得する必要がある。単位サンプリング処理部132aで1組の距離データあるいは距離データ毎ノイズ信号を取得するのに要する時間を単位サンプリング時間Tuとすると、1回の対象物情報検出の処理あるいは1つのバックグラウンド信号の取得に要する時間(第1の期間Tsとする)は、Tu×Nrとなる。一例として、単位サンプリング時間Tuを4[ms]とし、距離データの組数Nrを20とすると、対象物情報検出の処理に必要となる時間Tsは、4[ms]×20=80[ms]となる。
【0055】
また、不要波のレプリカ信号を作成するには、距離データ毎ノイズ信号の取得をNr×3回行う必要があり、対象物情報検出の処理に要する時間Tsの3倍に相当する80[ms]×3=240[ms]の時間がかかる。この間は、対象物情報検出の処理を行うことができなくなることから、レプリカ信号の作成を逐次行うと対象物情報を適切に検出できなくなり、レーダ機能を大きく損なってしまう。
【0056】
一方、対象物情報を更新する周期をTcとしたとき、更新周期Tcの間に対象物が移動する距離を考慮してその設定値を決定する必要がある。また、パルスレーダ装置100では、検出された対象物情報を上位のコンピュータ50に転送して表示部51にわかりやすく表示するが、対象物情報の転送に要する時間やGUI用データに加工するのに要する時間も考慮して更新周期Tcの設定値を決定する必要がある。このようなデータ転送・加工を行う時間は、その間対象物情報を更新することができない(更新しても使用できない)時間となる。一例として、対象物情報検出の処理に要する時間Tsを80[ms]とした場合には、対象物情報の転送や加工に要する時間を考慮して、更新周期Tcを例えば100[ms]とすることができる。
【0057】
また、パルスレーダ装置100を用いて対向して走行する自動車を検出する場合、例えば対向車との相対速度を時速200[km/h]とし更新時間Tcを100[ms]とすると、更新時間Tcの間に対向車が約5.6m接近することになる。このような接近距離の間に対向車を検出できれば安全上問題ないと考えられる.そこで、以下では更新周期Tcを100[ms]に設定した場合を例に説明する。
【0058】
上記のように、対象物情報の更新周期Tcを100[ms]とし、対象物情報検出の処理に要する時間Tsを80[ms]としたときのパルスレーダ装置の動作の時間的な流れを図10(a)に示す。同図において、符号60は更新周期Tcを示し、符号61は対象物情報検出の処理を行う時間Tsを示している。また、符号62で示す時間(第2の期間Tdとする)に対象物情報の転送・加工が行われる。一例として、更新周期Tcを100[ms]とし、対象物情報の検出に要する時間Tsを80[ms]としたとき、符号62で示す時間Tdは20[ms]となる。図10には、さらに単位サンプリング時間Tuを符号64で示している。
【0059】
図10(a)に示すようなパルスレーダ装置の時間的な動作の流れにおいて、符号62で示す時間Tdの間は高周波送信部から送信信号が出力されず、また出力されても対象物情報の更新に用いることはできない。また、不要波のレプリカ信号の作成をパルスレーダ装置100の使用開始初期に行わせると、パルスレーダ装置の使用開始から符号63で示す期間は、対象物情報を検出することができなくなる。上記の例では、符号63で示す期間は240[ms]となり、レーダ機能を大きく損なうおそれがある。
【0060】
そこで、本実施形態のパルスレーダ装置100では、対象物情報の更新が行えない時間Tdを利用して、その間にレプリカ信号の作成に必要なデータを取得させるようにする。これにより、対象物情報を検出するレーダ機能を損なうことなくレプリカ信号を作成して更新することが可能となる。但し、レプリカ信号の作成には240[ms](=Tu×Nr×3)の時間を要するのに対し、時間Tdは20[ms]の時間長しかない。送信用制御信号がm個あるとき、レプリカ信号の作成に要する時間はTu×Nr×(m+1)となり、mが3以上になるとさらに長時間を要することになる。そこで、時間Tdの間にレプリカ信号の作成に必要なデータを部分的に取得し、これを繰り返すことで必要なデータをすべて取得できるようにする。
【0061】
上記のように、対象物情報の更新が行えない時間Tdの間にレプリカ信号の作成に必要なデータを取得させるようにした本実施形態のパルスレーダ装置100の時間的な動作の流れを図10(b)に示す。同図に示すように、パルスレーダ装置100ではレプリカ信号の作成に必要なデータの取得を対象物情報の更新が行えない時間Tdの間だけ行わせるようにしていることから、対象物情報検出の処理を行う時間Tsにはまったく影響を与えず、レーダ機能を損なうおそれはない。
【0062】
パルスレーダ装置100を動作させてディジタル信号処理部132で得られるサンプリングデータの最小単位は、単位サンプリング処理部132aで作成される1組の距離データあるいは距離データ毎ノイズ信号であり、その取得に要する時間は単位サンプリング時間Tuである。単位サンプリング時間Tuは時間Tdよりも短いことから、時間Tdの間に距離データ毎ノイズ信号を1組以上取得することができる。そこで、時間Tdの間に距離データ毎ノイズ信号をNd組取得するとしたとき、Ndの最大値は(Td/Tu)の小数点以下を切り捨てた整数値となる。また、全距離データ毎ノイズ信号を取得するまでに要する更新周期Tcのサイクル数をNcとするとき、サイクル数Ncは(Nr×(m+1)/Nd)の小数点以下を切り上げた整数値となる。
【0063】
一例として、Tc、Tu、Td及びNrに上記の値を用いたとき、Ndの最大値は5となる。また、Nd=5としたときには、レプリカ信号が作成できるまでに要するサイクル数Ncは12となる。これより、レプリカ信号を最短で作成するようにした場合には、12サイクルの更新周期、すなわち1.2[s]でレプリカ信号を作成できることになる。あるいは、時間Tdの間に行う距離データ毎ノイズ信号の取得処理に余裕を持たせてNd=1としたときには、レプリカ信号の作成までに60サイクルの更新周期を要するが、この場合でも6[s]でレプリカ信号を作成できることになる。レプリカ信号は、周囲温度の変化や振動等によって比較的緩やかに変化すると考えられることから、レプリカ信号の作成に6[s]を要してもとくに問題はない。
【0064】
上記説明のように、本実施形態のパルスレーダ装置100では、対象物情報検出の処理とレプリカ信号作成の処理を並行して行うようにしており、それぞれの処理をレーダ機能切替部135で制御している。以下では、本実施形態のパルスレーダ装置の制御方法による処理の流れを、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態のパルスレーダ装置の制御方法を示す流れ図である。ここでは、対象物情報を更新するために更新サイクルTcの間に行われる処理の流れを示しており、併せてレプリカ信号の作成に必要なバックグラウンド信号を取得するために更新サイクルTcの間に行われる処理の流れを示している。
【0065】
なお、図6〜9を用いて上記で説明した不要波のレプリカ信号の作成方法では、第1〜第3バックグラウンド信号を順次作成した後、これらを用いてレプリカ信号を更新するものとしていた。レプリカ信号の更新方法はこれに限定されず、例えば距離データ毎ノイズ信号を取得する毎に、それに対応するレプリカ信号のデータを更新するようにしてもよい。また、距離データ毎ノイズ信号を第1〜第3バックグラウンド信号の順に取得していく必要はなく、これをランダムな順序で取得させるようにしてもよい。例えば、第1バックグラウンド信号の1組の距離データ毎ノイズ信号を取得すると、次に第2または第3バックグラウンド信号の1組の距離データ毎ノイズ信号を取得するようにしてもよい。
【0066】
そこで、以下では距離データ毎ノイズ信号を取得する毎にレプリカ信号のデータを更新する場合を例に説明する。説明容易のために、1つのパルス信号の出力で取得されるNp個の測定距離に対する距離データをRp(i)(i=1〜Np)とし、距離データ毎ノイズ信号をBp(i)(i=1〜Np)とする。また、全距離データをRA(i,j)(i=1〜Np,j=1,Nr)とし、全距離データ毎ノイズ信号をBB(i、k)(i=1〜Np、k=1〜Nt)、レプリカ信号をBA(i,j)(i=1〜Np,j=1,Nr)とする。但し、Nt=Nr×(m+1)である。m=2の場合、BB(i、k)(k=1〜Nr)が第1バックグラウンド信号、BB(i、k)(k=(Nr+1)〜2・Nr)が第2バックグラウンド信号、及びBB(i、k)(k=(Nr+1)〜3・Nr(=Nt))が第3バックグラウンド信号である。
【0067】
レプリカ信号BA(i,j)は、
BA(i,j)=BB(i、j)+BB(i、j+Nr)−BB(i、j+2・Nr)
(i=1〜Np、j=1〜Nr)
で与えられる。
さらに、距離データ毎ノイズ信号の作成順序をLN(k)(i=1〜Nt)で与えるものとする。すなわち、レプリカ信号の作成過程において、k番目に作成される距離データ毎ノイズ信号は、n2=LN(k)とおくと、RA(i,n2)(i=1〜Np)となる。距離データ毎ノイズ信号を作成する順序は、事前にLN(k)に任意に設定しておくものとする。
【0068】
まず、ステップS1において、パルスレーダ装置100の使用開始か否かを判定し、使用開始と判定されたときはステップS3に進む一方、既に使用中と判定されたときはステップS2に進む。ステップS2では、当該更新サイクルの時間Tdの間にレプリカ信号作成用の距離データ毎ノイズ信号を取得した組数をカウントするn3を0に初期化する。その後、ステップS4に進む。
【0069】
一方、ステップS3では、対象物情報検出の処理及びレプリカ信号作成の処理を開始するための初期化を行う。ここでは、対象物情報検出の処理のために取得した測定距離の異なる距離データの組数をn1、及びレプリカ信号作成の処理のために取得した測定距離の異なる距離データ毎ノイズ信号の組数をn2とし、ステップS3でn1、n2、n3を0に初期化する。また、レーダ機能切替部135から出力される切替指令の初期値として、対象物情報検出を設定する。初期化後、ステップS4に進む。
【0070】
ステップS4では、距離データの組数n1に1を加算してステップS5に進む。ステップS5では、距離データの組数n1が全距離データの組数Nrを超えたか否かを判定し、n1がNrを超えたと判定されると、全距離データを取得済みと判定してステップS12に進む。一方、n1がNr以下であると判定されるとステップS6に進む。ステップS6では、レーダ機能を動作させる。このとき、レーダ機能切替部135から制御部133に対象物情報検出の切替指令が出力されることから、第1制御信号A、第2制御信号B、及び第3制御信号Cのすべてが出力されて距離データが取得される。
【0071】
続くステップS7では、ステップS6のレーダ機能の動作で受信した受信信号をもとに単位サンプリング処理部132aで距離データRp(i)(i=1〜Np)を取得し、これをレーダ機能切替部135からの切替指令に従って対象物情報検出部132bに出力する。次のステップS8では、取得した距離データRp(i)(i=1〜Np)を全距離データRA(i,N1)に設定して保存する。ステップS9では、距離データの組数n1が全距離データの組数Nrに達していないか否かを判定し、全距離データの組数Nrに達していないときはステップS4に戻って次の距離データを取得するためにステップS4〜S8の処理を再び行う。
【0072】
一方、ステップS9の判定で距離データの組数n1が全距離データの組数Nrに達したと判定されると、次にステップS10に進んで対象物情報検出部132bで対象物情報検出の処理を行う。この処理では、記憶部134からそれまでに作成されているレプリカ信号BA(i、j)(i=1〜Np、j=1〜Nr)を読出し、単位サンプリング処理部132aから入力した全距離データRA(i、j)からレプリカ信号BA(i、j)を減算した後、対象物までの距離や相対速度等の対象物情報を検出する。その後、ステップS11に進む。
【0073】
ステップS11では、当該更新サイクルの時間Tdの間に取得したレプリカ信号作成用の距離データ毎ノイズ信号の組数n3がその上限値Ndより小さいか否かを判定し、n3がNdより小さいと判定されるとステップS4に戻る。ステップS10からステップS11に進んだときは、n3=0となっていることから、ステップS11の判定ではステップS4に戻る。また、このときはn1=Nrとなっていることから、ステップS4でn1に1が加算されると、ステップS5の判定でステップS12に進む。
【0074】
ステップS12では、組数n2、n3にそれぞれ1を加算し、その後ステップS13に進む。ステップS13では、全距離データ毎ノイズ信号BB(i、k)のうち今回取得する距離データ毎ノイズ信号の番号kを、事前に作成したLN(n2)から求める。次のステップS14では、k番目の距離データ毎ノイズ信号を取得するための制御信号A,B,Cの条件を番号Kをもとに設定する。すなわち、1≦k≦Nrなら第1バックグラウンド信号、(Nr+1)≦k≦(2・Nr)なら第2バックグラウンド信号、及び(2・Nr+1)≦k≦(3・Nr)なら第3バックグラウンド信号、を取得するための条件を設定する。ステップS15では、ステップS14で設定された条件がレーダ機能切替部135から制御部133に出力されてレーダ機能を動作させる。
【0075】
ステップS16では、単位サンプリング処理部132aから距離データ毎ノイズ信号Bp(i)(i=1〜Np)を入力する。そして、ステップS17で距離データ毎ノイズ信号Bp(i)(i=1〜Np)を全距離データ毎ノイズ信号BB(i,k)に設定して保存する。さらに、ステップS18では、更新された全距離データ毎ノイズ信号BB(i,k)からレプリカ信号BA(i、j)(i=1〜Np、j=1〜Nr)を算出して更新する。
【0076】
ステップS19では、組数n2が全距離データ毎ノイズ信号の組数3・Nrに等しいか否かを判定し、組数n2が組数3・Nrに等しいときはステップS20で組数n2を0に初期化した後、ステップS11に進む。一方、組数n2が全距離データ毎ノイズ信号の組数3・Nrに等しくないときはステップS11に進む。
ステップS11では、組数n3がNdより小さいか否かを判定し、組数n3がNdより小さいと判定されたときはステップS4に戻る一方、組数n3がNdに等しいときはステップS21に進む。ステップS21では、組数n1を0に初期化する。その後、次の更新サイクルまで待機する。
【0077】
上記の本実施形態のパルスレーダ装置の制御方法によれば、対象物情報の更新が行えない時間Tdを利用してレプリカ信号を逐次更新することができ、レーダ機能を損なうことなくレプリカ信号を更新して対象物情報を高精度に検知することが可能となる。また、レプリカ信号を逐次更新するだけでなく、例えばパルスレーダ装置100の電源投入時に、対象物情報検出の処理を一時的に停止させてレプリカ信号の初期値を作成するようにしてもよい。
【0078】
なお、本実施形態では、ディジタル信号処理部132の処理において、相対速度を算出するために、入力信号に対して複素信号処理(FFT処理)を行って対象物のドップラー成分を算出している。上記説明のパルスレーダ装置100内で生じるノイズ信号はいずれも定常的なノイズであることから、ノイズ信号α、β、γ、δにはいずれもドップラー成分が含まれておらず、相対速度0に相当する0[Hz]成分のみである。
【0079】
これより、ステップS16、S17で行うレプリカ信号作成部132cの処理で得られるバックグラウンド信号は、相対速度0に相当する0[Hz]成分のノイズ信号のみであり、ステップS18で得られるレプリカ信号(α+β+γ+δ)のフーリエ変換データも、相対速度0に相当する0[Hz]成分のみである。従って、上記のステップS10では、全距離データを複素信号処理して得られる0[Hz]成分に対してのみレプリカ信号(α+β+γ+δ)を減算してもよい。
【0080】
また、対象物の相対速度を測定する必要がない場合には、ディジタル信号処理部132では上記FFT処理を行う必要はなく、各距離ゲート内に対象物の信号が検出されるかどうかだけを判断させてもよい。さらに、対象物の相対速度を測定する必要がない場合であっても、SN比改善のためにディジタル信号処理部132で上記FFT処理を行い、各距離ゲート内に対象物の信号が検出されるかどうかだけを判断させてもよい。これらの場合にも、対象物情報検出部132bで得られる全距離データから、レプリカ信号(α+β+γ+δ)の対応する距離データを差し引くことによって低ノイズ信号が得られるので、これに基づいて対象物の検出を高精度に行うことができる。
【0081】
(第2実施形態)
本発明の第2の実施形態に係るパルスレーダ装置を、図11を用いて以下に説明する。図11は、本実施形態のパルスレーダ装置200の構成を示すブロック図である。本実施形態のパルスレーダ装置200は、対象物Tの方位角を位相モノパルス方式で測定(測角)するために、受信アンテナ210として、第1アンテナ211及び第2アンテナ212の2つのアンテナを備えている。第1アンテナ211及び第2アンテナ212による受信信号は、ハイブリッド回路213に入力され、ここで2つの受信信号の和信号(Σとする)と差信号(Δとする)に変換されて切替器214に出力される。
【0082】
本実施形態では、高周波受信部120及びベースバンド部130による和信号及び差信号の処理を、切替器214で切り替えて選択的に行う構成としている。切替器214による和信号と差信号との切り替えは、対象物Tの相対的な移動に比べて十分高速に行われることから、交互に切り替えて検出された和信号と差信号を用いて対象物Tの方位角を高精度に検出することができる。本実施形態では、高周波受信部120及びベースバンド部130の構成を変更することなく、モノパルス方式による測角を行うことが可能となり、小型で低コストなパルスレーダ装置200を提供することができる。
【0083】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係るパルスレーダ装置及びその制御方法の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態におけるパルスレーダ装置及びその制御方法の細部構成及び詳細な動作などに関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0084】
100 パルスレーダ装置
101 送信アンテナ
102 受信アンテナ
103 高周波用基板
104 低周波用基板
105 コネクタ
110 高周波送信部
111 発振器
112 第1ゲート部
113 第2ゲート部
120 高周波受信部
121 相関器
122 IQミキサ
123 第1ミキサ
124 第2ミキサ
125 移相器
130 ベースバンド部
131 A/D変換部
132 ディジタル信号処理部
132a 単位サンプリング処理部
132b 対象物情報検出部
132c レプリカ信号作成部
133 制御部
134 記憶部
135 レーダ機能切替部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された更新周期で所定の探知距離内の対象物の情報を検出して情報提供するパルスレーダ装置の制御方法であって、
所定周波数の搬送波を2以上の送信用制御信号に従ってパルス状に切出し、前記2以上の送信用制御信号のすべてが出力されたときに送信信号を生成する送信信号処理ステップと、
前記送信信号を電波として空間に放射する送信ステップと、
前記電波が対象物で反射された反射波を受信する受信ステップと、
前記送信信号処理ステップと前記送信ステップと前記受信ステップとを所定の繰返し周期で複数回繰り返してそれぞれで受信した受信信号を受信用制御信号に従って測定距離毎にサンプリングすることで距離データを取得する単位サンプリング処理ステップと、
前記距離データ毎に含まれるノイズ信号を取得する単位ノイズ処理ステップと、
前記単位ノイズ処理ステップで取得されたノイズ信号を用いてレプリカ信号を更新するレプリカ信号作成ステップと、
前記単位サンプリング処理ステップを前記測定距離を変えながら第1の設定回数だけ行わせることで前記探知距離内のすべての前記距離データを取得し、前記すべての距離データから前記レプリカ信号を減算して前記対象物の情報を検出する対象物情報検出ステップと、を有し、
前記更新周期内の第1の期間に前記対象物情報検出ステップを行い、
前記更新周期内の前記第1の期間を除く第2の期間に前記単位ノイズ処理ステップを前記送信信号処理ステップで用いる前記送信用制御信号の出力条件及び/または前記測定距離を変えながら所定回数だけ行い、
前記単位ノイズ処理ステップを、すべての前記距離データに対するすべてのノイズ信号を取得するまで繰り返し行い、さらに前記すべての距離データに対するすべてのノイズ信号を取得する処理を繰り返し行う
ことを特徴とするパルスレーダ装置の制御方法。
【請求項2】
前記送信用制御信号をX1〜Xm(m≧2)とするとき、
前記単位ノイズ処理ステップでは、
前記送信用制御信号のうちi番目の送信用制御信号Xiを出力せずこれを除く前記送信用制御信号及び前記受信用制御信号を出力して前記送信信号処理ステップと前記送信ステップと前記受信ステップとを前記繰返し周期で複数回繰り返したときに前記受信用制御信号に従って測定距離毎にサンプリングしたものを第i番目のバックグラウンド信号の距離データ毎ノイズ信号として保存し、
前記m個の送信用制御信号のすべてを出力せず前記受信用制御信号を出力して前記送信信号処理ステップと前記送信ステップと前記受信ステップとを前記繰返し周期で複数回繰り返したときに前記受信用制御信号に従って測定距離毎にサンプリングしたものを第(m+1)番目のバックグラウンド信号の距離データ毎ノイズ信号として保存する
ことを特徴とする請求項1に記載のパルスレーダ装置の制御方法。
【請求項3】
前記レプリカ信号作成ステップでは、
すべての前記距離データ毎ノイズ信号からなる前記第1番目から第m番目までのバックグラウンド信号を加算して前記第(m+1)番目のバックグラウンド信号を減算したものを(m−1)で除することにより前記レプリカ信号を算出する
ことを特徴とする請求項2に記載のパルスレーダ装置の制御方法。
【請求項4】
使用開始時に、前記単位ノイズ処理ステップをすべての前記距離データに対するすべてのノイズ信号を取得するまで行い、さらに前記レプリカ信号作成ステップを行うことで、前記レプリカ信号の初期値を作成する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のパルスレーダ装置の制御方法。
【請求項5】
予め設定された更新周期で所定の探知距離内の対象物の情報を検出して情報提供するパルスレーダ装置であって、
所定の周波数の搬送波を生成する発振器を有し、前記搬送波を2以上の送信用制御信号に従ってパルス状に切出し、前記2以上の送信用制御信号のすべてが出力されたときに送信信号を生成する高周波送信部と、
前記高周波送信部から前記送信信号を入力して電波として空間に放射する送信アンテナと、
前記電波が対象物で反射された反射波を受信する受信アンテナと、
前記受信アンテナから受信信号を入力して受信用制御信号に従って前記送信信号との相関をとってベースバンド信号に変換する高周波受信部と、
前記ベースバンド信号を入力してディジタル信号に変換するA/D変換部と、前記A/D変換部から前記ディジタル信号を入力して前記対象物情報を検出するディジタル信号処理部と、前記送信用制御信号を前記高周波送信部に出力するとともに前記受信用制御信号を前記高周波受信部に出力する制御部と、前記ディジタル信号処理部と前記制御部の動作を制御するレーダ機能切替部と、を有するベースバンド部と、を備え、
前記ディジタル信号処理部はさらに、
前記ディジタル信号を入力して測定距離毎にサンプリングすることで距離データを取得する単位サンプリング処理部と、
前記距離データに含まれるノイズ信号を取得してレプリカ信号を更新するレプリカ信号作成部と、
前記単位サンプリング処理部から前記探知距離内のすべての前記距離データを取得し、前記すべての距離データから前記レプリカ信号を減算して前記対象物情報を検出する対象物情報検出部と、を有しており、
前記送信用制御信号をX1〜Xm(m≧2)とし、前記制御部から前記送信用制御信号のうちi番目の送信用制御信号Xiが出力されずこれを除く前記送信用制御信号及び前記受信用制御信号が出力されたときに前記単位サンプリング処理部で取得される前記距離データを距離データ毎ノイズ信号とし、前記探知距離内のすべての前記距離データ毎ノイズ信号からなる信号を第i番目のバックグラウンド信号とするとき、
前記レプリカ信号作成部は、
前記第1番目から第m番目までのバックグラウンド信号を加算して前記第(m+1)番目のバックグラウンド信号を減算したものを(m−1)で除することにより前記レプリカ信号を算出し、
前記レーダ機能切替部は、
前記更新周期内の第1の期間に前記対象物情報検出部を実行させ、
前記更新周期内の前記第1の期間を除く第2の期間に前記レプリカ信号作成部を実行させる
ことを特徴するパルスレーダ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−202715(P2012−202715A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64871(P2011−64871)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】