説明

パルス電源

【課題】パルス出力値が変化する場合であっても、コンデンサなどの充電機器への充電を最小限または最小限に近い電力で適切に行うことができ、受電設備の小容量化や、電源系統の電源変動や高調波の発生を好適に抑制し得るパルス電源を提供する。
【解決手段】パルス電源の入力制御部11aは、充電機器5からの放電に基づくパルス出力が行われる都度、電圧検出回路6によって検出される充電機器5の充電量の変動から実際の消費電力を求めるとともに、前記パルス出力から次回のパルス出力までのパルス出力間隔と前記消費電力量とに基づいて、次のパルス出力までの平均充電電力を求める処理を実行するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の負荷に対してパルス状の電力を供給するためのパルス電源、さらに詳しくは、入力側の電力をパルス出力間隔で平均して充電機器に充電し得るように構成されたパルス電源に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビームや陽子ビームを扱う加速器は、物理学の研究や医療研究などの分野に広く利用されている。加速器に使われるビームは、電磁石によってビームを加速したり、軌道を曲げたり、遮断したりする緻密な制御がなされる。このような電磁石に瞬時的な電流を流すことを目的として、大容量のパルス電源が用いられる。
このような大容量のパルス電源において、間欠的なパルス電流を発生させるには、充電されたコンデンサからチョッパ回路を介して電荷を電力として負荷に供給し、パルス電流を発生させることが一般的であり、充電されたコンデンサを放電させることによって負荷に瞬間的なパルス電流を流す。また、放電されたコンデンサはダイオードブリッジを介して充電される。このようなパルス電源の従来例を図3に示す。
【0003】
図3に示すパルス電源においては、電力供給用の受電設備1に電磁接触器2を介して整流用のダイオードブリッジ12が接続され、その出力側にリアクトル4を介してコンデンサ13が接続されている。このコンデンサ13の出力側には、パルス電流発生用のチョッパ回路7および負荷10が接続されている。チョッパ回路7は、制御回路部14によって制御され、この制御回路部14には、出力電圧検出回路8と出力電流検出回路9とが接続されている。
【0004】
前記したパルス電源においては、電磁接触器2をオンにすると、受電設備1から供給される交流電力がダイオードブリッジ12によって整流され、コンデンサ13が充電される。充電されたコンデンサ13から放電を行わせ、出力電圧検出回路8及び出力電流回路9により検出された電圧値及び電流値をもとに出力制御回路14によってチョッパ回路7を制御し、パルス電流を発生させる。
このパルス電流を発生させるために放電されたコンデンサ13は、受電設備1から供給されてダイオードブリッジ12によって整流された電力によって再び充電され、このような動作が繰り返される。
【0005】
図4は、負荷10に流れるパルス電流波形の一例を示している。縦軸が電流値、横軸が時間である。このように負荷10には間欠的なパルス電流が一定時間毎に流れる。
前記したパルス電源においては、コンデンサ13に充電させた電荷をチョッパ回路7によって電力として負荷10に供給するものであるため、コンデンサ13の容量を大きくしておくことにより、瞬時的に大きなパルス電流を負荷10に供給することが可能である。
【0006】
しかしながら、前記したパルス電源においては、ダイオードブリッジ12からコンデンサ13への給電量の制御はなされておらず、コンデンサ13の充電は受電設備1の電源容量に依存している。したがって、出力パルス電流が大きくなると、より大きな受電設備が必要となる。
また、出力パルス電流が大きくなると、コンデンサ13に供給される電力も大きくなるため、コンデンサを充電するための突入電流によりパルス電源の入力側に電源変動や高調波を発生するという問題点がある。
【0007】
なお、従来においては、前記したパルス電源とは異なるパルス電源として、特許文献1に記載されたものがある。同文献に記載されたパルス電源では、ダイオードブリッジからコンデンサへの給電をスイッチング制御し、コンデンサへの充電を一定電力で行わせるようにしている。
このような構成によれば、受電設備の小容量化などを図ることが可能である。ところが、同文献に記載されたパルス電源においては、たとえばパルス電流の大きさが変化した場合に、そのような変化に対応してコンデンサへの充電を最小電力量で適切に行わせるための制御はなされていない。
同文献においては、たとえばパルス電流が大きくなった場合には、コンデンサの充電量に不足を生じる虞がある。また、このような充電量の不足を防止するには、コンデンサへの給電量に多くの余裕値をもたせる必要があるが、そのようにすると、余裕値を大きくする分だけ受電設備の容量を大きくする必要が生じるという問題点がある。
【0008】
【特許文献1】特開平6−78565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、パルス出力値が変化する場合であっても、コンデンサなどの充電機器への充電を最小限または最小限に近い電力で適切に行うことができ、受電設備の小容量化や、電源系統の電源変動や高調波の発生を好適に抑制し得るパルス電源を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のパルス電源は、交流電力を直流電力に変換する整流器と、該整流器の出力側に接続されて充電が行われる充電機器と、該充電機器からの放電に基づくパルス出力の増減変更制御が可能な出力制御部と、前記充電機器の電圧を検出してその充電量を判断するための電圧検出回路と、前記整流器から前記充電機器への給電量が変更可能で、かつ給電を所定の平均充電電力で行うように制御する入力制御部と、を備えているパルス電源であって、前記入力制御部は、前記充電機器からの放電に基づくパルス出力が行われる都度、前記電圧検出回路によって検出される前記充電機器の充電量の変動から実際の消費電力を求めるとともに、前記パルス出力から次のパルス出力までのパルス出力間隔と前記消費電力とに基づいて、次のパルス出力までの平均充電電力を求める処理を実行するように構成されていることを特徴としている。
【0011】
本発明によれば、パルス出力が行われる都度、入力制御部は、充電機器の充電量の変動から実際の消費電力を算出し、これに基づいて次のパルス出力までの平均充電電力を算出するために、平均充電電力の値は、実際のパルス出力の電力に応じた正確な値となる。
このため、パルス電流の大きさが変化した場合であっても、整流器から充電機器に供給される電力を最小値または最小値に近い値にしつつ、充電機器の充電量に不足を生じないように適切な充電が可能となる。このことにより、受電設備の小容量化がより徹底され、また電源系統の電源変動や高調波も好適に抑制される。
【0012】
本発明において、前記入力制御部は、前記充電機器を定格電圧となるように所定の初期平均充電電力で初期充電を行わせて1回目のパルス出力が開始された後には、パルス出力間隔とパルス出力電力から算出される初回平均充電電力で前記充電機器に対する給電を継続させ、その後2回目以降のパルス出力が開始される都度、その際における前記充電機器の電圧値と前記定格電圧の値とに基づいて充電誤差エネルギの値を算出し、それ以降の平均充電電力については、前記充電誤差エネルギを減少させるように前記初回平均充電電力を補正した値とする。
【0013】
このような構成によれば、実際のパルス出力がなされる都度、充電機器に対する充電誤差のエネルギ量が算出され、その誤差が解消されるように充電機器に対する平均充電電力の値が補正される。
したがって、平均充電電力の値は、実際のパルス出力のエネルギに対してより正確に対応したものとなり、充電機器への充電電力を最小限にしつつ、充電量に不足を生じないようにすることがより徹底される。
【0014】
前記充電機器については、コンデンサ、電気二重層キャパシタ、バッテリ、リチウムイオン電池、およびニッケル水素電池またはそれらのバンクのいずれかとする。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、パルス出力の電力が変化する場合であっても、コンデンサなどの充電機器に対する充電を最小限またはそれに近い電力で充電不足を生じないように適切に行うことが可能である。
その結果、充電機器に必要電力を供給するための受電設備の小容量化がより徹底され、また電源系統の電源変動や高調波も好適に抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明に係るパルス電源の一実施例を示すブロック図である。なお、図1において、図3に示した従来のパルス電源の構成要素と同一または類似の要素については、同一の符号を付しており、その詳細な説明は省略する。
【0018】
図1に示すパルス電源は、受電設備1に電磁接触器2を介して接続された整流器3、この整流器3の出力側に接続された充電機器(コンデンサバンク)5、このコンデンサバンク5の電圧を検出するための電圧検出回路6、充電されたコンデンサバンク5から電荷を電力として負荷10に供給するためのチョッパ回路7、及び制御回路部11を備えている。
整流器3は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのスイッチング素子を内蔵したものであり、コンデンサバンク5への充電電力をスイッチング制御によって制御可能である。
制御回路部11は、入力制御部11aと出力制御部11bとを含んでおり、入力制御部11aは、電圧検出回路6を介して検出された電圧値に基づいて整流器3を制御する。その詳細については後述する。これに対し、出力制御部11bは、チョッパ回路7を制御するための部分であり、チョッパ回路7の出力側に設けられた出力電圧検出回路8及び出力電流検出回路9に接続されている。
【0019】
次に、前記パルス電源の動作および作用について説明する。
先ず、電磁接触器2をオンすることにより、受電設備1から整流器3に交流電力が供給され、これが直流電力に変換されてからコンデンサバンク5に供給される。
その際、コンデンサバンク5の電圧を電圧検出回路6で検出し、入力制御部11aで整流器3を制御することにより、コンデンサバンク5に所定の平均充電電力で充電させる。
この平均充電電力の求め方の詳細については後述するが、この平均充電電力の値は、制御回路部11が外部から受ける出力指令値に基づいて算出される出力電力、次回出力までのパルス間隔、及びパルス出力によって変動したコンデンサバンク5の電圧値から実際に消費された出力電力を算出することにより求められる。
次いで、パルス出力を行うために、充電されたコンデンサバンク5から放電を生じさせる。
その際、出力電圧検出回路8および出力電流回路9において検出した電圧値及び電流値をもとに出力制御部11bでチョッパ回路7を制御する。
パルス電流を発生するために放電されたコンデンサバンク5は、受電設備1からの電力が整流器3を介して供給されることによって再び充電される。
このような一連の動作は、制御回路部11に対して外部から出力指令が継続する限り繰り返される。
【0020】
整流器3からコンデンサバンク5に対しては、平均充電電力で給電が行われるが、この平均充電電力の値は、常に一定ではなく、次に述べるような手法で求められる。
なお、図2は、コンデンサバンク5の電圧動作波形の一例を示しており、同図を参照して説明する。
先ず、コンデンサバンク5への初期充電が行われる場合、所定の初期平均充電電力で規定電圧Vaまで充電させる。負荷10は、たとえば電磁石であり、その負荷定数は予め判明している。また、出力指令値に基づき、パルス出力間隔T、パルス幅、電流設定値も判明する。これらの値により、1回目のパルス出力で消費されるエネルギが予測される。予測された消費エネルギとパルス出力間隔Tとから初回平均充電電力を求めることができる。
【0021】
図2の時刻t1において、1回目のパルス出力が開始されるとともに、コンデンサバンク5に対して、前記した初回平均充電電力で充電を行う。
ただし、このような充電動作を行いつつ、1回目のパルス出力によりコンデンサバンク5のエネルギが消費されるために、コンデンサバンク5の電圧値は図2に示すように変動する。
次いで、時刻t2において、2回目のパルス出力が開始されたときには、入力制御部11aは、コンデンサバンク5の電圧値から最大値Vb(時刻t2の電圧値)を検出し、「0.5×(コンデンサバンク静電容量)×{(規定電圧Va)―(1回目最大値Vb)}=1回目充電誤差エネルギ」の式から、実際に消費されたエネルギと予測したエネルギとの誤差(充電誤差エネルギ)を算出する。
この1回目の充電誤差エネルギ量をパルス出力間隔Tで割って2倍したものと1回目で予測された初回平均充電電力を加えて2回目平均充電電力を算出する。2回目のパルス出力発生が開始された以降は、コンデンサバンク5に対して前記の2回目平均充電電力で充電を行う。
【0022】
次いで、時刻t3において、3回目のパルス出力が開始されるときには、先の2回目のパルス出力で変動した電圧値から2回目最大値Vc(時刻t3の電圧値)を検出し、「0.5×(コンデンサバンク静電容量)×{(規定電圧Va)―(2回目最大値Vc)}=2回目充電誤差エネルギ」の式から、2回目の充電誤差エネルギ量が算出される。
2回目充電誤差エネルギ量をパルス出力間隔Tで割って2倍したもの、1回目で予測された平均充電電力、1回目充電誤差エネルギをパルス出力間隔Tで割ったものを加えて3回目平均充電電力を算出する。
そして、3回目のパルス出力発生が開始された以降は、コンデンサバンク5に対して前記3回目平均充電電力で充電を行わせる。
その後、時刻t4において、4回目のパルス出力が開始されるときには、3回目のパルス出力で変動した電圧値から3回目最大値Vdを検出し、「0.5×(コンデンサバンク静電容量)×{(規定電圧Va)―(3回目最大値Vd)}=3回目充電誤差エネルギ」の式から、3回目の充電誤差エネルギ量が算出される。
この誤差エネルギ量をパルス出力間隔Tで割って2倍したもの、1回目で予測された平均充電電力、2回目誤差エネルギをパルス出力間隔Tで割ったものを加えて4回目の平均充電電力を算出し、4回目のパルス出力開始とともに前記4回目の平均充電電力で充電する。
よって、n回目の平均充電電力は、(n−1)回目の誤差エネルギーをパルス出力間隔Tで割って2倍したものと、1回目で予測された平均充電電力と、(n−2)回目の誤差エネルギーをパルス出力間隔Tで割ったものとを加算した値となる。
なお、平均充電電力の算式は上記以外でも、充電電圧がばらつかず、収束する算式であれば差し支えない。
以上の計算をパルス出力が停止されるまで繰り返すことで、実際のパルス出力の電力に対応させて、コンデンサバンク5に対して充電量不足を生じさせるようなことなく、最小電力で適切な充電を行うことが可能となる。
【0023】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。
たとえば、整流器としては、スイッチング素子を内蔵したものに代えて、たとえば整流用のダイオードブリッジを使用し、このダイオードブリッジの出力側にIGBTなどのスイッチング素子を別途設けた構成としても差し支えない。
充電機器としては、コンデンサに代えて、たとえば電気二重層キャパシタ、スーパーキャパシタ、バッテリ、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池またはそれらのバンク等を使用することが可能である。
また、負荷は、加速器用の電磁石に限らず、他の用途で使用される電磁石や抵抗等とすることもできる。
パルス電流波形は、台形波に限らず、これに代えて、三角波、正弦半波等であってもよく、要は、間欠した電流波形であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るパルス電源の一例を示すブロック図である。
【図2】図1に示すパルス電源のコンデンサバンクの電圧変化の一例を示す説明図である。
【図3】従来技術の一例を示すブロック図である。
【図4】パルス出力波形の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0025】
3 整流器
4 リアクトル
5 充電機器(コンデンサバンク)
6 電圧検出回路
7 チョッパ回路
8 出力電圧検出回路
9 出力電流検出回路
10 負荷
11 入出力制御回路
11a 入力制御部
11b 出力制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電力を直流電力に変換する整流器と、
該整流器の出力側に接続されて充電が行われる充電機器と、
該充電機器からの放電に基づくパルス出力の増減変更制御が可能な出力制御部と、
前記充電機器の電圧を検出してその充電量を判断するための電圧検出回路と、
前記整流器から前記充電機器への給電量が変更可能で、かつ給電を所定の平均充電電力で行うように制御する入力制御部と、
を備えたパルス電源であって、
前記入力制御部は、前記充電機器からの放電に基づくパルス出力が行われる都度、前記電圧検出回路によって検出される前記充電機器の充電量の変動から実際の消費電力を求めるとともに、前記パルス出力から次のパルス出力までのパルス出力間隔と前記消費電力とに基づいて、次のパルス出力までの平均充電電力を求める処理を実行するように構成されていることを特徴とするパルス電源。
【請求項2】
前記入力制御部は、前記充電機器を定格電圧となるように所定の初期平均充電電力で初期充電を行わせて1回目のパルス出力が開始された後には、パルス出力間隔とパルス出力電力から算出される初回平均充電電力で前記充電機器に対する給電を継続させ、その後2回目以降のパルス出力が開始される都度、その際における前記充電機器の電圧値と前記定格電圧の値とに基づいて充電誤差エネルギの値を算出し、それ以降の平均充電電力については、前記充電誤差エネルギを減少させるように前記初回平均充電電力を補正した値とすることを特徴とする請求項1に記載のパルス電源。
【請求項3】
前記充電機器が、コンデンサ、電気二重層キャパシタ、バッテリ、リチウムイオン電池、およびニッケル水素電池またはそれらのバンクのいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載のパルス電源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−295766(P2007−295766A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−122997(P2006−122997)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】