説明

パワートレイン油

【課題】湿式ディスクを利用する制動用ブレーキの制動時におけるスティックスリックによるビビリ振動等の異常振動や、ブレーキ鳴き等の異常音の発生を防止して、制動操作をスムースに行うことができるとともに、大容量の湿式クラッチの動力伝達を可能とし、駐車時において駐車ブレーキを効かせて湿式ディスクの滑りを防止し、傾斜地においても安全に駐車を行うことが可能なパワートレイン油を提供する。
【解決手段】 高度精製基油に組成物全量基準で、アルケニルコハク酸イミド系分散剤2.0〜6.0質量%、アルケニルコハク酸エステル系分散剤0.1〜5.0質量%、アルカリ土類金属スルホネート系清浄剤0.4〜7.8質量%、アルカリ土類金属フィネート系清浄剤0.8〜4.5質量%、およびアルカリ土類金属サリシレート系清浄剤0.3〜0.8質量%を配合したパワートレイン油。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械のパワートレインに使用されるパワートレイン油に関し、特に多板湿式摩擦材ディスク(以下、湿式ディスクという。)を利用するクラッチとブレーキを含む建設機械のパワートレインに使用されるパワートレイン油に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建設機械では、油圧モータ、油圧シリンダ等の油圧アクチュエータを含む油圧機器が用いられている。このような建設機械では、エンジンの出力を装軌式ではキャタピラの起動輪へ、装輪式では車輪へ伝達するパワートレインを備えている。建設機械のパワートレインは、装軌式では、エンジンの出力をトルクコンバータ、パワーシフトトランスミッション、横軸、操向装置、終減速装置を経て起動輪へ伝達するものが一般的である。また装輪式では、エンジンの出力をトルクコンバータ、パワーシフトトランスミッション、差動歯車装置、終減速装置を経て車輪へ伝達するものが一般的である。
【0003】
このような建設機械のパワートレインでは、装軌式でも、装輪式でも、制動ブレーキ、駐車ブレーキ、リターダブレーキ等のブレーキとして、湿式ディスクを利用するブレーキが採用されている。そしてトルクコンバータ、パワーシフトトランスミッション、横軸、操向装置、終減速装置等のパワートレインを構成する他の装置とともに、制動ブレーキ、駐車ブレーキ、リターダブレーキ等の湿式ディスクを利用するブレーキも、潤滑油、作動油として、同一のパワートレイン油が使用されている。
【0004】
このような建設機械のパワートレイン油系では、パワーシフトトランスミッションが大容量の動力を伝達ができるパワートレイン油が用いられている。このような建設機械用パワートレイン油としては、鉱油、合成油等の基油に、増粘剤を配合して粘度調整し、さらに極圧剤、オイルシール剤、流動点降下剤、清浄分散剤、腐食防止剤、消泡剤等の一般的な潤滑油添加剤を配合したものが用いられている。上記の建設機械用パワートレイン油に配合する潤滑油添加剤としては、パワートレイン油の使用目的、使用環境等に応じて、種々のものが選択され、種々の配合割合で配合される。
【0005】
一般に自動車では、エンジン油、トランスミッション油、ブレーキ油など、個別の機器ごとに、それぞれの特性に合わせた異なる配合の潤滑油、作動油が使い分けられている。ところが建設機械では通常、エンジン油は別に特別なものが用いられるが、走行用のトランスミッション、制動用、駐車用のブレーキなども全体のパワートレイン系に組み込まれ、単一のパワートレイン油により操作されることが多い。このため建設機械用パワートレイン油は、大容量の動力を伝達ができ、かつ種々のパワートレイン機器を作動できるように、それぞれの特性に合致する総合的な性能が要求される。
【0006】
一般に建設機械では、油圧ショベルのような旋回部分のほか、装輪式、装軌式ともに制動用ブレーキ、駐車ブレーキ等のブレーキとして湿式ディスクを利用するブレーキが設けられている。このような湿式ディスクを利用するブレーキでは、パワートレイン油により湿式ディスクの潤滑性を持たせているので、パワートレイン油の摩擦係数によりブレーキ性能が変化する。駐車ブレーキは駐車状態において、傾斜地でも安全に停止していることが要求されるのに対して、制動用ブレーキでは、可動状態から停止状態に至る制動操作がスムースに行われ、停止状態では安定して停止していることが要求される。
【0007】
制動用ブレーキの制動操作がスムースに行われない場合、スティックスリックによるビビリ振動等の異常振動や、ブレーキ鳴きのような異常音が発生するので、これらを防止し、制動操作をスムースに行う必要がある。これを実現するためには、静止直前の動摩擦係数μoと高速回転時の動摩擦係数μdの比μo/μdが1に近いことが要求される。これに反してμo/μd比が高くなると、高速回転時の動摩擦係数と静止直前の動摩擦係数の差により、制動時に異常振動が生じ、ブレーキ鳴きが発生する。
【0008】
特許文献1(特開平5−105895)には、μo/μd比が1よりも大になると変速時に変速ショックとなり、不快感を生じること、これを防止するためにはμdを上昇させ、μoを低減させる必要があること、この摩擦特性を調整するためには適切な摩擦調整剤を潤滑油に配合することにより、上記の比を1以下にできることなどが記載されている。そして特許文献1では、動摩擦係数μdを高めるために、アルケニルコハク酸イミド分散剤、ホウ素化アルケニルコハク酸イミド分散剤、マンニッヒベースの無灰分散剤や、カルシウムスルフォネート、マグネシウムスルフォネートなど、潤滑油の分野では清浄分散剤と呼ばれる添加剤を、摩擦調整剤として配合することが示されている。清浄分散剤は潤滑油の汚染成分を分散させ、あるいは反応により除去する添加剤であるが、特許文献1では通常清浄分散剤として用いられているこれらの成分を作動油に配合することにより、摩擦係数調整剤としての機能が期待されている。
【0009】
しかしこのような摩擦調整剤を配合すると、μdの上昇によりμo/μd比が1に近づいて、ブレーキ鳴きが生じなくなるが、このときμdの上昇とともに、μoが低下し、同時に湿式クラッチが滑り始める摩擦係数として静摩擦係数μsも低下する。これによりブレーキが効いた状態で滑りが生じやすくなり、駐車ブレーキを効かせて安全に駐車を行うことができなくなり、坂道、傾斜地等で、建機が動き出す危険性が生じる。さらに、建設機械では土砂を押すためのパワーシフトトランスミッション中の湿式クラッチの大容量の動力伝達もできなくなる。この静摩擦係数μsは摩擦調整剤の配合により鋭敏に応答するため、摩擦調整剤の少量の配合により静摩擦係数μsが低下させることがあり、湿式ディスクが滑りやすくなる。
【0010】
特許文献2(特開2007−126541)には、優れたトルク伝達力と変速特性を有し、シャダー防止性能に優れる、自動変速機、無段変速機油等の潤滑油組成物として、潤滑油基油に、組成物全量基準で、(A)スルホネート系清浄剤を金属量(MeA)として0.01〜0.3質量%、(B)サリシレート系清浄剤を金属量(MeB)として0.001〜0.1質量%、及び(C)ホウ素含有コハク酸イミド系無灰分散剤をホウ素量(BoC)として0.001〜0.1質量%含み、かつ、(MeB)/(MeA)が0.01〜1.5であり、(MeA)/(BoC)が0.1〜20である潤滑油組成物が示されている。
【0011】
しかし特許文献2の潤滑油が対象とする自動車の自動変速機等は、湿式クラッチを用いるものであるが、湿式ディスクを利用する湿式クラッチでは、エンジンのトルクの変動を吸収したり、スリップ制御を行うために、静摩擦係数μsが低い領域で用いることにより、湿式ディスクの滑りを利用して制御を行っている。このため特許文献2の潤滑油を建設機械に用いると、静摩擦係数μsが低いため駐車ブレーキにより安全に駐車することができない。また、大容量の動力伝達もできなくなる。
【特許文献1】特開平5−105895
【特許文献2】特開2007−126541
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、上記従来の問題点を解決するため、湿式ディスクを利用する制動用ブレーキの制動時におけるスティックスリックによるビビリ振動等の異常振動や、ブレーキ鳴き等の異常音の発生を防止して、制動操作をスムースに行うことができるとともに、土砂を押すためのパワーシフトトランスミッション大容量の動力伝達も行え、駐車時において駐車ブレーキを効かせて湿式ディスクの滑りを防止し、傾斜地においても安全に駐車を行うことが可能なパワートレイン油を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は次のパワートレイン油である。
(1)高度精製基油に組成物全量基準で、アルカリ土類金属サリシレート系清浄剤0.3〜0.8質量%
を配合したパワートレイン油。
(2)高度精製基油に組成物全量基準で、
アルケニルコハク酸イミド系分散剤2.0〜6.0質量%、
アルケニルコハク酸エステル系分散剤0.1〜5.0質量%、
アルカリ土類金属スルホネート系清浄剤0.4〜7.8質量%、
アルカリ土類金属フィネート系清浄剤0.8〜4.5質量%、および
アルカリ土類金属サリシレート系清浄剤0.3〜0.8質量%
を配合したパワートレイン油。
(3)アルケニルコハク酸イミド系分散剤がポリブテニルコハク酸イミド系分散剤である上記(2)記載のパワートレイン油。
(4)アルケニルコハク酸エステル系分散剤がポリブテニルコハク酸エステル系分散剤である上記(2)または(3)記載のパワートレイン油。
(5)アルカリ土類金属スルホネート系清浄剤がカルシウムスルホネート系清浄剤である上記(2)ないし(4)のいずれかに記載のパワートレイン油。
(6)アルカリ土類金属フィネート系清浄剤がカルシウムフィネート系清浄剤である上記(2)ないし(5)のいずれかに記載のパワートレイン油。
(7)アルカリ土類金属サリシレート系清浄剤がカルシウムサリシレート系清浄剤である上記(2)ないし(6)のいずれかに記載のパワートレイン油。
(8)JCMAS P 047:2004に準拠し、SAE No.2試験機を用いて試験した動摩擦係数μoおよびμdの比μo/μdが1.10以下、かつマイクロクラッチ摩擦係数が0.130以上である上記(1)ないし(7)のいずれかに記載のパワートレイン油。
【0014】
本発明で対象とするパワートレイン油は、建設機械のパワートレイン系の潤滑油または作動油として用いられるパワートレイン油であり、制動用ブレーキ、駐車ブレーキ等の湿式ディスクを利用するブレーキを含むパワートレインを潤滑ないし作動させるためのパワートレイン油である。本発明において建設機械とは、建設工事に使用される機械であって、油圧機器を備えたものである。このような建設機械としては、ショベル等の掘削機械;ホイールローダ等の積込み機械;ブルドーザ等の掘削運搬機械;ダンプトラック、不整地運搬車、ラフテレーンクレーン等のクレーン、ウインチ類;自走式破砕機等の骨材生産、リサイクル機械;モータグレーダ等の整地、路盤用機械;ロードローラ等の締固め機械、アスファルトフィニッシャ等の舗装機械、除雪車等の道路維持機械などが挙げられる。ブレーキとしては、制動ブレーキ、リターダブレーキおよび駐車ブレーキ等の湿式ディスクを利用するブレーキが挙げられる。
【0015】
本発明で用いる基油としては、高度精製基油と呼ばれる鉱油、合成油を使用することができ、特に、API(American Petroleum Institute,米国石油協会)基油カテゴリーでグループ1、グループ2、グループ3などに属する基油を、単独または混合物として使用することができる。ここで使用する基油は、硫黄元素分が0.8質量%未満、好ましくは0.5質量%未満がよい。また密度は0.8〜0.9よい。アロマ分は5質量%以下、好ましくは3質量%以下がよい。
【0016】
グループ1基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、溶剤精製、水素化精製、脱ろうなどの精製手段を適宜組合せて適用することにより得られるパラフィン系鉱油がある。粘度指数は80〜120、好ましくは95〜110がよい。40℃における動粘度は、好ましくは2〜150mm/s、より好ましくは8〜100mm/sである。また全硫黄分は0.8質量%未満、好ましくは0.5質量%未満がよい。全窒素分も50ppm未満、好ましくは25ppm未満がよい。さらにアニリン点は80〜150℃、好ましくは90〜120℃のものを使用するのがよい。
【0017】
グループ2基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、水素化分解、脱ろうなどの精製手段を適宜組合せて適用することにより得られたパラフィン系鉱油がある。ガルフ社法などの水素化精製法により精製されたグループ2基油は、全イオウ分が10ppm未満、アロマ分が5質量%以下であり、本発明に好適である。これらの基油の粘度は特に制限されないが、粘度指数は80〜120、好ましくは100〜120がよい。40℃における動粘度は、好ましくは2〜150mm/s、より好ましくは8〜100mm/sである。また全硫黄分は300ppm未満、好ましくは200ppm未満、更に好ましくは10ppm未満がよい。全窒素分も10ppm未満、好ましくは1ppm未満がよい。さらにアニリン点は80〜150℃、好ましくは100〜135℃のものを使用するのがよい。
【0018】
グループ3基油およびグループ2プラス基油と通称で呼ばれているものには、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して高度水素化精製により製造されるパラフィン系鉱油や、脱ろうプロセスにて生成されるワックスをイソパラフィンに変換・脱ろうするISODEWAXプロセスにより精製された基油や、モービルWAX異性化プロセスにより精製された基油も好適である。アメリカの広告審議を担当するNAD(National Advertising Division)の評決により「合成油」として表記が可能なものを含む。
【0019】
これらの基油の粘度は特に制限されないが、粘度指数は95〜145、好ましくは100〜140がよい。40℃における動粘度は、好ましくは2〜150mm/s、より好ましくは8〜100mm/sである。また全硫黄分は、0〜100ppm、好ましくは10ppm未満がよい。全窒素分も10ppm未満、好ましくは1ppm未満がよい。さらにアニリン点は80〜150℃、好ましくは110〜135℃のものを使用するのがよい。上記グループ2プラスはグループ2に属する。)
【0020】
さらにグループ3基油に属するものとして、天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)は、原油から精製された鉱油基油と比較して、硫黄分や芳香族分が極めて低く、パラフィン構成比率が極めて高いため、酸化安定性に優れ、蒸発損失も非常に小さいため、好適である。このようなGTL基油の粘度性状は特に制限されないが、通例粘度指数は130〜180、より好ましくは140〜175である。また40℃における動粘度は、2〜150mm/s、より好ましくは5〜100mm/sである。また通例全硫黄分は10ppm未満、全窒素分1ppm未満である。そのようなGTL基油商品の一例として、SHELL XHVI(登録商標)がある。
【0021】
上記基油は本発明のパワートレイン油の基材として、主要成分となる量で用いられる。本発明のパワートレイン油における上記基油の配合割合は特に制限されず、以下に述べる各添加剤成分の配合量の残余の配合割合で用いられるが、組成物全量基準で70〜90質量%、好ましくは75〜85質量%の配合割合とするのが好ましい。
【0022】
本発明では、上記基油から選ばれる高度精製基油に、摩擦調整剤として、組成物全量基準で、アルケニルコハク酸イミド系分散剤2.0〜6.0質量%、好ましくは3.0〜5.0質量%、アルケニルコハク酸エステル系分散剤0.1〜5.0質量%好ましくは1.0〜3.0質量%、アルカリ土類金属スルホネート系清浄剤0.4〜7.8質量%、好ましくは2.0〜5.0質量%、アルカリ土類金属フィネート系清浄剤0.8〜4.5質量%、好ましくは1.5〜3.5質量%、およびアルカリ土類金属サリシレート系清浄剤0.3〜0.8質量%、好ましくは0.4〜0.6質量%を配合する。
【0023】
アルケニルコハク酸イミド系分散剤は、一般の潤滑油の無灰分散剤として用いられているものが使用できる。このようなアルケニルコハク酸イミド系分散剤としては、ポリブテニルコハク酸イミド等が使用できる。例えば、炭素数40 〜 4 0 0 の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、あるいはアルケニルコハク酸イミドの変性品等が挙げられる。これらの中から任意に選ばれる1 種類あるいは2 種類以上を配合することができる。このアルキル基又はアルケニル基の炭素数は40 〜 4 0 0 、好ましくは6 0 〜 3 5 0 である。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40 未満の場合は化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下し、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40 0 を越える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が悪化するため、それぞれ好ましくない。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、具体的には、プロピレン、1− ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。
【0024】
アルケニルコハク酸エステル系分散剤は、一般の潤滑油の無灰分散剤として用いられているものが使用できる。このようなアルケニルコハク酸エステル系分散剤としては、ポリブテニルコハク酸エステル等が使用できる。
【0025】
アルカリ土類金属スルホネート系清浄剤は、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属のスルホネートであり、一般の潤滑油の金属系清浄剤として用いられているアルカリ土類金属スルホネートからなる金属系清浄剤が使用できる。アルカリ土類金属スルホネートは、アルキルベンゼン又はアルキルナフタレンをスルホン化することにより得られるアルキルベンゼンスルホン酸又はアルキルナフタレンスルホン化することにより得られるアルキルベンゼンスルホン酸又はアルキルナフタレンスルホン酸のアルカリ土類金属塩がある。このようなアルカリ土類金属スルホネート系清浄剤としては、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属スルホネートがあげられるが、特にカルシウムスルホネートが好ましい。
【0026】
アルカリ土類金属フィネート系清浄剤は、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属のフィネートであり、一般の潤滑油の金属系清浄剤として用いられているアルカリ土類金属フィネートからなる金属系清浄剤が使用できる。アルカリ土類金属フィネートは、アルキルフェノール又はアルキルフェノールサルファイドのアルカリ土類金属塩がある。このようなアルカリ土類金属フィネート系清浄剤としては、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属フィネートがあげられるが、特にカルシウムフィネートが好ましい。
【0027】
アルカリ土類金属サリシレート系清浄剤は、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属のサリシレートであり、一般の潤滑油の金属系清浄剤として用いられているアルカリ土類金属サリシレートからなる金属系清浄剤が使用できる。アルカリ土類金属サリシレートは、アルキルサリチル酸のアルカリ土類金属塩である。このようなアルカリ土類金属サリシレート系清浄剤としては、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属サリシレートがあげられるが、特にカルシウムサリシレートが好ましい。
【0028】
本発明では、前記基油から選ばれる高度精製基油に、摩擦調整剤として、前記アルケニルコハク酸イミド系分散剤、アルケニルコハク酸エステル系分散剤、アルカリ土類金属スルホネート系清浄剤、アルカリ土類金属フィネート系清浄剤、およびアルカリ土類金属サリシレート系清浄剤を、前記割合で配合することにより、湿式ディスクを利用する制動用ブレーキの制動時におけるスティックスリックによるビビリ振動等の異常振動や、ブレーキ鳴き等の異常音の発生を防止して、制動操作をスムースに行うことができるとともに、パワーシフトトランスミッションが大容量の動力を伝達ができること、駐車時において駐車ブレーキを効かせて湿式ディスクの滑りを防止し、傾斜地においても安全に駐車を行うことが可能な建設機械用パワートレイン油が得られる。
【0029】
本発明では、湿式ディスクを利用する制動用ブレーキの制動時におけるスティックスリックによるビビリ振動等の異常振動や、ブレーキ鳴き等の異常音の発生を防止するために、静止直前の動摩擦係数μoと高速回転時の動摩擦係数μdの比μo/μdが1.10以下となるように、パワートレイン油を構成する成分および組成割合が選ばれる。μoおよびμdはそれぞれ、JCMAS P 047:2004(社団法人日本建設機械化協会平成16年9月30日制定の建設機械用油圧作動油−摩擦特性試験方法)に準拠し、SAE No.2試験機を用いて試験した動摩擦係数であり、μdは800rpmにおける動摩擦係数、μoは停止直前の200rpm以下での最大トルク発生時の動摩擦係数である。
【0030】
また本発明では、駐車時において駐車ブレーキを効かせて湿式ディスクの滑りを防止し、傾斜地においても安全に駐車を行うために、マイクロクラッチ摩擦係数が0.130以上となるように、パワートレイン油を構成する成分および組成割合を選ぶ。マイクロクラッチ摩擦係数は上記JCMAS P 047:2004に準拠し、マイクロクラッチ試験装置を用いて20rpmで試験した摩擦係数である。JCMAS P 047:2004では、一般的な静摩擦係数μsが規定され、SAE No.2試験機を用いて0.7rpmで試験した摩擦係数が滑り始めの摩擦係数を示す値として採用されているが、建設機械の駐車ブレーキのための静摩擦係数を適正に表示しているとは言い難く、パワートレイン油の成分の差に対応した値の差が得られないため、本発明ではマイクロクラッチ摩擦係数を指標とする。
【0031】
静止直前の動摩擦係数μoと高速回転時の動摩擦係数μdの比μo/μdが1に近いと、高速回転時の動摩擦係数と静止直前の動摩擦係数の差が小さくなり、制動用ブレーキの制動時における高速回転から静止に至る過程においてスティックスリックによるビビリ振動等の異常振動や、ブレーキ鳴き等の異常音の発生を防止して、制動操作をスムースに行うことができる。μoおよびμdを測定する上記試験法は、自動車規格の自動変速機油摩擦特性試験法JASO M 348−95と同内容であり、自動変速機油摩擦特性と同基準である。自動車の自動変速機油は建設機械とは異なり、建設機械における駐車ブレーキ用の特性を要求されないから、静摩擦係数は低いのに対し、建設機械では駐車ブレーキ用の特性と、土砂を押す時の大容量の湿式クラッチの動力伝達が必要なため、静摩擦係数が高いことが要求される。
【0032】
すなわち建設機械では同一のパワートレイン油で、自動車の自動変速機油とは異なり、土砂を押すための大容量の湿式クラッチの動力伝達が必要で、さらに自動変速機油に要求されない制動用ブレーキ油としての特性と、さらに駐車ブレーキ油としての特性を兼ね備えるために、前記マイクロクラッチ摩擦係数を満足するようにパワートレイン油組成を決める。JCMAS P 047およびJASO M 348−95において採用されている静摩擦係数μsは、0.7rpmの低速で測定されるため、エンジンを切った静止状態における摩擦係数の指標として適しているが、エンジンの振動や微かな回転が伝わる状態、すなわちアイドリング状態あるいはスリップ状態では、静止状態から滑り始めるときの静止摩擦係数はμsよりも低くなる。このため後者のエンジンの振動や微かな回転が伝わる状態での駐車を安全に行うためには、若干高い回転数で測定されるマイクロクラッチ摩擦係数を指標とするのが適している。
【0033】
このため本発明のパワートレイン油では、高度精製基油に前記アルケニルコハク酸イミド系分散剤、アルケニルコハク酸エステル系分散剤、アルカリ土類金属スルホネート系清浄剤、アルカリ土類金属フィネート系清浄剤、およびアルカリ土類金属サリシレート系清浄剤を、それぞれ組成物全量基準で前記割合となるように配合するが、このときμo/μd比が1.10以下、かつマイクロクラッチ摩擦係数が0.130以上となるように配合して建設機械用パワートレイン油とされる。前記特許文献を含め一般の潤滑油では、ショック等を少なくするためにμo/μd比を1に近づける組成とされているが、これに伴って静摩擦は低くなり、マイクロクラッチ摩擦係数が0.130以上となるものは得られていないが、マイクロクラッチ摩擦係数が0.130以上とすることにより、大容量の湿式クラッチの動力伝達を可能とし、制動ブレーキの特性と、駐車ブレーキの特性を兼ね備えたパワートレイン油が得られる。
【0034】
本発明のパワートレイン油は、上記高度精製基油、アルケニルコハク酸イミド系分散剤、アルケニルコハク酸エステル系分散剤、アルカリ土類金属スルホネート系清浄剤、アルカリ土類金属フィネート系清浄剤、およびアルカリ土類金属サリシレート系清浄剤のほかに、増粘剤(粘度指数向上剤)、油性剤、酸化防止剤、腐食防止剤(金属不活性剤)、極圧剤、消泡剤、流動点降下剤、その他の潤滑油、作動油用添加剤を配合することができる。これらの他の添加剤を配合する場合でも、μo/μd比が1.10以下、かつマイクロクラッチ摩擦係数が0.130以上となるように配合することにより、制動ブレーキの特性と、駐車ブレーキの特性、さらに湿式クラッチの十分なトルク容量を兼ね備えたパワートレイン油が得られる。
【0035】
本発明のパワートレイン油では、上記成分のほかに増粘剤(粘度指数向上剤)を配合することにより、パワートレイン油として要求される粘度、粘度指数に調整することができる。増粘剤としては一般的な作動油、潤滑油の増粘剤(粘度指数向上剤)として使用されているものがそのまま使用でき、例えばスチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、ポリメタクリレート系重合体、エチレン−プロピレン共重合体などが挙げられる。
【0036】
本発明のパワートレイン油においては、40℃における動粘度が50〜150m/s、好ましくは80〜120m/s、粘度指数が90〜200、好ましくは120〜160となるように、増粘剤(粘度指数向上剤)を配合するのが好ましい。増粘剤(粘度指数向上剤)の配合量は、基油の粘度その他の性状、量、ならびにポリ(メタ)アクリレート等の分子量、希釈剤の量などにより変化するが、一般的にはパワートレイン油の全量基準で15〜30質量%、好ましくは20〜25質量%とすることができる。
【0037】
本発明のパワートレイン油に添加される他の添加剤として、油性剤を配合する場合、油性剤としては従来より摩擦係数低下剤として潤滑油、作動油に配合されている油性の有機化合物、例えば脂肪酸、脂肪酸エステル、多価アルコールのエステル、アミン、アミド、ポリアミンのアミドなどを添加することができる。これらの油性剤は摩擦係数を下げる化合物であるため、パワートレイン油に配合しないことにより、パワートレイン油の摩擦係数を低くし、ブレーキの制動性を高くすることができるが、前記μo/μdおよびマイクロクラッチ摩擦係数の調整に必要な範囲で配合してもよい。油性剤を配合する場合、組成物全量基準で10質量%以下、好ましくは5質量%以下とするのが好ましい。
【0038】
本発明において他の添加剤として使用する酸化防止剤としては、潤滑油に使用されるものが実用的には好ましく、2−t−ブチルフェノール等のフェノール系酸化防止剤、p,p’−ジオクチル−ジフェニルアミン等の芳香族アミン系酸化防止剤、ジドデシルサルファイド等の硫黄系酸化防止剤、トリフェニルフォスファイト等のリン系酸化防止剤を挙げることができる。これらの酸化防止剤は、パワートレイン油の全量基準で5質量%以下、好ましくは0.01〜5質量%の範囲で単独でまたは複数組み合わせて使用できる。
【0039】
本発明のパワートレイン油に配合できる腐食防止剤(金属不活性剤)としては、ベンゾトリアゾール、アルキルベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール、アルキルイミダゾール等のベンゾイミダゾール誘導体、インダゾール、アルキルインダゾール等のインダゾール誘導体、ベンゾチアゾール、メルカプトベンゾチアゾール等のベンゾチアゾール誘導体、2−(オクチルジチオ)ベンゾオキサゾール等のベンゾオキサゾール誘導体、2,5−ビス(ヘプチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール等のチアジアゾール誘導体、1−アルキル−2,4−トリアゾール類等のトリアゾール誘導体などが挙げられる。これらの腐食防止剤(金属不活性剤)は、パワートレイン油の全量基準で0.01〜0.5質量%の範囲で単独でまたは複数組み合わせて使用できる。
【0040】
本発明のパワートレイン油に添加する他の添加剤である極圧剤としては、リン化合物を添加することができ、これによって更に耐摩耗性や極圧性を付与することができる。本発明に適したリン化合物としては、例えば、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、亜リン酸エステル、ホスフォロチオネート、ジチオリン酸亜鉛、リン含有カルボン酸、リン含有カルボン酸エステル、などが挙げられる。これらのリン化合物は、パワートレイン油の全量基準で0.01〜2質量%の範囲で単独でまたは複数組み合わせて使用できる。
【0041】
本発明のパワートレイン油に添加する他の添加剤として、消泡性を付与するために消泡剤を添加してもよい。本発明に適した消泡剤として、例えばジメチルポリシロキサン、ジエチルシリケート、フルオロシリコーン等のオルガノシリケート類、ポリアルキルアクリレート等の非シリコーン系消泡剤が挙げられる。その添加量は、パワートレイン油の全量基準で、0.0001〜0.1質量%の範囲で単独または複数組み合わせて使用できる。
【0042】
本発明のパワートレイン油に添加する他の添加剤としての流動点降下剤は、ポリメタクリレートなど、通常潤滑油添加剤として使用される公知のものが挙げられる。その添加量は、パワートレイン油の全量基準で0.0005〜0.5質量%の範囲で使用できる。
【0043】
本発明のパワートレイン油に添加する他の添加剤としてのオイルシール剤は、べゾエート、ラウリルアミン等の公知のものが使用できる。その添加量は、パワートレイン油の全量基準で0.0005〜5.0質量%の範囲で使用できる。
【0044】
上記各成分の配合量は、基油の粘度その他の性状、量、ならびに希釈剤の量等により変化するが、前記配合割合の範囲内で各成分の配合割合を変えて試料を調製して、上記の各特性を測定し、各特性が上記の範囲に入る合格品の中から、最良の特性、配合割合等を選ぶことにより、実験的に決めることができる。
【0045】
本発明のパワートレイン油は、前記建設機械として、油圧ショベル、ホイールローダ、ブルドーザ、ダンプトラック、不整地運搬車、ラフテレーンクレーン、自走式破砕機、モータグレーダ、ロードローラ、アスファルトフィニッシャ、除雪車など、主に建設工事に使用される建設機械の湿式ディスクを利用する制動ブレーキおよび駐車ブレーキを含むパワートレイン系に注入して、パワートレイン油として用いられる。本発明のパワートレイン油は、これを注入したパワートレイン系において、湿式クラッチ、制動ブレーキ、リターダブレーキおよび駐車ブレーキ等の湿式ディスクを利用するブレーキを含むパワートレイン機器を作動させるように使用される。
【0046】
このような建設機械のパワートレイン系の運転中、制動用ブレーキ、駐車ブレーキ等の湿式ディスクを利用するブレーキでは、パワートレイン油により湿式ディスクの潤滑性を持たせた状態で、パワートレイン油の油圧により湿式ディスクを圧着してブレーキを効かせ、制動または駐車を行う。建設機械ではトルクコンバータ、パワーシフトトランスミッション等の一般のパワートレイン機器ならびに制動用ブレーキ、駐車ブレーキ等のブレーキは同一のパワートレイン油で作動させられるが、本発明のパワートレイン油はこれらの一般のパワートレイン機器ならびに制動用ブレーキ、駐車ブレーキ等のブレーキをすべて効果的に作動できるように設計されている。
【0047】
本発明のパワートレイン油は、前記高度精製基油に前記アルケニルコハク酸イミド系分散剤、アルケニルコハク酸エステル系分散剤、アルカリ土類金属スルホネート系清浄剤、アルカリ土類金属フィネート系清浄剤、およびアルカリ土類金属サリシレート系清浄剤を、それぞれ組成物全量基準で前記割合となるように配合し、μo/μd比が1.10以下、かつマイクロクラッチ摩擦係数が0.130以上とすることにより、湿式ディスクを利用する制動用ブレーキの制動時におけるスティックスリックによるビビリ振動等の異常振動や、ブレーキ鳴き等の異常音の発生を防止して、制動操作をスムースに行うことができるとともに、大容量の湿式クラッチの動力伝達を可能とし、駐車時において駐車ブレーキを効かせて湿式ディスクの滑りを防止し、傾斜地においても安全に駐車を行うことができる。
【0048】
すなわち前記特許文献を含め従来の潤滑油では、ショック等を少なくするためにμo/μd比を1に近づける組成とされ、これに伴って静摩擦は低くなるが、マイクロクラッチ摩擦係数が0.130以上となるものは得られていない。これに対し本発明のパワートレイン油では、マイクロクラッチ摩擦係数が0.130以上とすることができ、これにより制動ブレーキの特性と、大容量の湿式クラッチの動力伝達を可能とし、駐車ブレーキの特性を兼ね備えたパワートレイン油が得られる。
【0049】
従来の潤滑油等で静摩擦係数の指標となっていたμsは、SAE No.2試験機を用いて0.7rpmで試験した摩擦係数で、滑り始めの摩擦係数を示す値として採用されていたが、エンジンを切った静止状態からすべり始めるときの摩擦係数の指標として適しているが、エンジンがかかった状態で、その振動や微かな回転が伝わる状態、すなわちアイドリング状態あるいはスリップ状態では、静止状態から滑り始めるときの静止摩擦係数はμsよりも低くなるので、駐車ブレーキにおいてエンジンの振動や微かな回転が伝わる状態での駐車を安全に行うためには、20rpmの回転数で測定されるマイクロクラッチ摩擦係数を指標とするのが適している。
【0050】
本発明のパワートレイン油は、μo/μd比が1.10以下であるとともに、マイクロクラッチ摩擦係数を0.130以上とすることことができるので、湿式ディスクを利用する制動用ブレーキの制動時におけるスティックスリックによるビビリ振動等の異常振動や、ブレーキ鳴き等の異常音の発生を防止して、制動操作をスムースに行うことができるとともに、大容量の湿式クラッチの動力伝達を可能とし、駐車時においてエンジンの振動や微かな回転が伝わる状態でも、駐車ブレーキを効かせて湿式ディスクの滑りを防止し、傾斜地においても安全に駐車を行うことができる。
【発明の効果】
【0051】
本発明のパワートレイン油は、高度精製基油にアルケニルコハク酸イミド系分散剤、アルケニルコハク酸エステル系分散剤、アルカリ土類金属スルホネート系清浄剤、アルカリ土類金属フィネート系清浄剤、およびアルカリ土類金属サリシレート系清浄剤を、それぞれ特定の割合となるように配合したので、μo/μd比が1.10以下、かつマイクロクラッチ摩擦係数が0.130以上とすることができ、これにより湿式ディスクを利用する制動用ブレーキの制動時におけるスティックスリックによるビビリ振動等の異常振動や、ブレーキ鳴き等の異常音の発生を防止して、制動操作をスムースに行うことができるとともに、大容量の湿式クラッチの動力伝達を可能とし、、駐車時において駐車ブレーキを効かせて湿式ディスクの滑りを防止し、傾斜地においても安全に駐車を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下本発明について、実施例および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。以下の各例中、m%は組成物全量基準の質量%である。
実施例および比較例のパワートレイン油の調製にあたり、下記の組成材料を用意した。
【0053】
基油1:高粘度鉱油(グループ1);
40℃動粘度:490mm/s、100℃動粘度:32mm/s
粘度指数:96
【0054】
基油2:GTL基油(グループ3);
40℃動粘度:24mm/s、100℃動粘度:5.1mm/s
粘度指数:148
【0055】
下記組成の混合摩擦調整剤:
ポリブテニルコハク酸イミド系分散剤;2.0〜6.0質量%
ポリブテニルコハク酸エステル系分散剤:;0.1〜5.0質量%
カルシウムスルホネート系清浄剤;0.4〜7.8質量%
カルシウムフィネート系清浄剤;0.8〜4.5質量%
【0056】
カルシウムサリシレート系清浄剤:(Caサリシレート)
【0057】
下記添加剤:
増粘剤;エチレンプロピレンオリゴマー
極圧剤;アリルジチオリン酸亜鉛(ZnDPT)
【0058】
比較例において、摩擦調整剤としてのカルシウムサリシレートに替わる追加調整剤として次のものを用いた。
(比較例2、3):エステル1;
SYNATIVE ES2427(コグニス社製、商標)
(比較例4):エステル2;
グリセロールモノオレエート
(比較例5):アルコール;
OLOA5693(シェブロンオロナイト社製、商標)
(比較例6):アミド;
OLONITE FM(シェブロンオロナイト社製、商標)
(比較例7):カルシウムスルフォネ-ト;
OLOA247E(シェブロンオロナイト社製、商標)
【実施例】
【0059】
〔実施例1、2、比較例1〜7〕:
上記した組成材料を用いて、表1〜表3に示す組成により実施例1、2、比較例1〜7のパワートレイン油組成物を調製し、以下の試験法で粘度性状および摩擦係数を測定した。各試験の結果を表1〜表3に示す。
【0060】
(粘度性状):
試験油の40℃動粘度および粘度指数は、JIS K2283原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法により測定した。
【0061】
(摩擦係数):
JCMAS P 047:2004に準拠し、SAE No.2試験機を用いてμo、μdを測定するとともに、マイクロクラッチ試験法により油温140℃の摩擦係数を測定した。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
表1〜3の結果より、比μo/μdが1.10以下、かつマイクロクラッチ摩擦係数が0.130以上になるのは、実施例1、2のみであり、比較例1〜7は上記摩擦特性を満足できないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明はパワートレイン油、特に建設機械用のパワートレイン油として、油圧ショベル、ホイールローダ、ブルドーザ、ダンプトラック、不整地運搬車、ラフテレーンクレーン、自走式破砕機、モータグレーダ、ロードローラ、アスファルトフィニッシャ、除雪車など、湿式ディスクを利用するブレーキを含む建設機械のパワートレイン機器を作動させるためのパワートレイン油として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高度精製基油に組成物全量基準で、アルカリ土類金属サリシレート系清浄剤0.3〜0.8質量%
を配合したパワートレイン油。
【請求項2】
高度精製基油に組成物全量基準で、
アルケニルコハク酸イミド系分散剤2.0〜6.0質量%、
アルケニルコハク酸エステル系分散剤0.1〜5.0質量%、
アルカリ土類金属スルホネート系清浄剤0.4〜7.8質量%、
アルカリ土類金属フィネート系清浄剤0.8〜4.5質量%、および
アルカリ土類金属サリシレート系清浄剤0.3〜0.8質量%
を配合したパワートレイン油。
【請求項3】
アルケニルコハク酸イミド系分散剤がポリブテニルコハク酸イミド系分散剤である請求項2記載のパワートレイン油。
【請求項4】
アルケニルコハク酸エステル系分散剤がポリブテニルコハク酸エステル系分散剤である請求項2または3記載のパワートレイン油。
【請求項5】
アルカリ土類金属スルホネート系清浄剤がカルシウムスルホネート系清浄剤である請求項2ないし4のいずれかに記載のパワートレイン油。
【請求項6】
アルカリ土類金属フィネート系清浄剤がカルシウムフィネート系清浄剤である請求項2ないし5のいずれかに記載のパワートレイン油。
【請求項7】
アルカリ土類金属サリシレート系清浄剤がカルシウムサリシレート系清浄剤である請求項2ないし6のいずれかに記載のパワートレイン油。
【請求項8】
JCMAS P 047:2004に準拠し、SAE No.2試験機を用いて試験した動摩擦係数μoおよびμdの比μo/μdが1.10以下、かつマイクロクラッチ摩擦係数が0.130以上である請求項1ないし7のいずれかに記載のパワートレイン油。

【公開番号】特開2009−242677(P2009−242677A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92811(P2008−92811)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】