説明

パンの製造方法

【課題】製パンの最終工程の焼成においては、表面を適度に乾燥させて香ばしく歯ごたえ良く焼き上げ、しかも内部に風味、香り、柔らかさを持たせたパンの製造方法の提供。また、特有の旨味をもつレーズン酵母パンの製造方法の提供。
【解決手段】酵母を含む中種または酵母をパン生地にミキシングして1次発酵させ、分割成型後、ホイロ工程で発酵させ、発酵したパン生地を焼成するパンの製造方法において、前記焼成する工程が、1段階以上の焼成工程からなり、少なくとも最終の焼成工程は過熱水蒸気による焼成工程とする方法。又、レーズンの水抽出物および小麦粉を発酵させて熟成レーズン種を生成し、次いで中種またはパン生地にミキシングして1次発酵させ、分割成型後、ホイロ工程で低温長時間発酵をさせ、発酵したパン生地を少なくとも最終工程で過熱水蒸気によって焼成することからなるレーズン酵母パンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パンの製造方法に関し、詳しくは焼成工程等が改良されたパンの製造方法に関し、特にレーズン酵母等を適用したパンの製造方法および半焼成された冷凍パンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、焼成直後のいわゆる焼き立てのパンは、風味・香味や食感に優れたものであり、消費者にも人気の高い食品であることから、ホテルやレストランその他の業務用のパン、または小売店で提供されるパンについても、できるだけ焼きたての状態で提供されるように製造・保管・流通技術の開発がなされている。
【0003】
また、消費者の自然食品に対する嗜好性の高まりに応じ、天然の酵母を用いたパンについても工夫が重ねられ、リンゴ、ブドウ(レーズンなどの干ブドウを含む)などに野生酵母の付着しているものを酵母種として用いたパンの製造法が周知である(例えば特許文献1)。
【0004】
また、製パン方法について発酵工程を基準にして区分けすると、ストレート法(直捏ね法)と中種法に大別されるが、後者は中種を原材料の一部と共に発酵させた後、残部の原材料とミキシングする方法である。
【0005】
前者は、風味の点で後者に勝るが、大量生産に適しているのは後者であることから、風味を改善するために、中種発酵の低温長時間で行なう方法、特に当初から0〜15℃程度の低温で10〜20時間という長時間発酵させ、仕上げ段階では13〜28℃で5〜15時間発酵させて改善する技術が知られている(特許文献2)。
【0006】
【特許文献1】特開2002−186409号公報(段落[0031]参照)
【特許文献2】特開2005−110698号公報(段落[0004]参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、中種発酵工程を所定時間の低温長時間で行なったとしても原材料の全体にまで風味や食感の向上を充分に改善することは困難であり、特に全材料を加えてホイロ工程で最終的に発酵させるときに、全体を熟成された風味のある生地にすることは容易なことではなかった。
【0008】
また、ホイロ(成形後の発酵)工程と焼成工程とを経て最終的に焼き上げられたパンの食感を充分に高めるということは、さらに困難なことであり、特によく熟成された深い風味を有するレーズン種を用いて発酵したレーズン酵母パンについては、その特有の旨味(香味、風味、食感)を充分に味わえるようにすることは容易なことではなかった。
【0009】
また、種々の製パン方法について、最終の焼成工程では、表面を適度に乾燥して香ばしく歯ごたえ良く焼き上げ、しかも内部に風味、香り、水分を適度に含んだ柔らかさを持たせることは容易なことではなく、特に流通状態で半焼成で常温保存または冷凍保存された後に上記の状態に確実に焼成する技術が求められていた。
【0010】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、製パンの最終工程の焼成において、表面を適度に乾燥させて香ばしく歯ごたえ良く焼き上げ、しかも内部に風味、香り、水分を適度に含んだ柔らかさを持たせてパンを製造することである。
【0011】
また、この発明の他の課題としては、特有の旨味(香味、風味、食感)を充分に味わえるレーズン酵母パンの製造方法とし、さらにそのような旨味が確実に現れる中間製品を製造するレーズン酵母冷凍パンの製造方法とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、この発明では、酵母を含む中種または酵母をパン生地にミキシングして1次発酵させ、分割成型後、ホイロ工程で発酵させ、発酵したパン生地を焼成するパンの製造方法において、前記焼成する工程が、1段階以上の焼成工程からなり、少なくとも最終の焼成工程は過熱水蒸気による焼成工程であることを特徴とするパンの製造方法としたのである。
【0013】
上記したように構成されるこの発明のパンの製造方法では、1段階以上の焼成工程とし、好ましくは複数段階の焼成工程として、そのうち少なくとも最終の焼成工程を過熱水蒸気による焼成工程で行なうことにより、表面を適度に乾燥させて歯ごたえ良く焼き上げ、しかもパンの内部に本来の風味、香り、水分を適度に含んだ柔らかさを持たせることができる。2度以上の焼成工程の間には、半焼成のパンを中間製品として冷凍保存しておくこともできる。
【0014】
過熱水蒸気による加熱は、例えば後述する周知な機構により、大気圧下、100℃で発生した水蒸気にさらに熱を加えて昇温した水蒸気を生成し、100〜350℃程度の過熱水蒸気を食品に接触させて加熱加工に利用するものである。
【0015】
このように過熱水蒸気による加熱は、周知の過熱水蒸気オーブンを使用して行なえるが、このような加熱は、電気やガスの輻射熱による加熱に比べて焼減率が低く、すなわち水分の減少量は低くなり、却って上昇する場合も見られるほどである。従って過熱水蒸気による加熱により、パン生地の内部からの水分の蒸発が抑えられ、しかも表面は炭化しない程度に適温で加熱され、パン生地にとって不利な炭化は防止される。
【0016】
焼成工程が複数段階である場合は、焼成工程が、直接または間接的に乾熱式加熱を行なう半焼成工程と、その後の過熱水蒸気による仕上げの焼成工程とを含む段階的な焼成工程であるパンの製造方法を採用することもできる。
【0017】
乾熱式加熱は、電気オーブンやガスオーブンによる熱源からの赤外線による直接加熱、または赤外線で加熱された鉄板などの金属や石やセラミックに接するように間接加熱する方式を採用できる。
【0018】
いずれの方式の加熱でも、パン生地は、表面または表面近くから乾燥した雰囲気内で加熱され、例えば80〜90%の半焼成(部分焼成とも呼ばれる。)状態に焼いて、その後で常温に放冷または冷凍状態にしてパンの内部に水分や風味を閉じ込めておけば、そのまま保存でき、食べる直前の仕上げの焼成工程として過熱水蒸気による焼成を行なうことによって、前述したものと同様に表面を適度に乾燥させてパリっと歯ごたえ良く焼き上げ、しかもパンの内部に本来の風味、香り、水分を適度に含んだ柔らかさを持たせることができる。
【0019】
上述したようなパンの製造方法では、特にレーズン酵母パンの製造方法に適している。
すなわち、レーズン酵母パンの製造方法では、先ず、レーズンの水抽出物および小麦粉を発酵させて熟成レーズン種を生成し、次いでこの熟成レーズン種を中種またはパン生地にミキシングして1次発酵させ、分割成型後、ホイロ工程で低温長時間発酵をさせ、発酵したパン生地を焼成し、この焼成の際に、1段階以上の焼成工程を採用し、焼成工程のうち少なくとも最終の焼成工程を過熱水蒸気による焼成工程とする方法を採用できる。
【0020】
この発明のレーズン酵母パンの製造方法では、レーズンの水抽出物を発酵させて熟成レーズン種を生成することにより、天然の酵母菌やその他の自然界に存在する乳酸菌、酢酸菌などの不特定多数の細菌類が生息する熟成レーズン種になると考えられる。
【0021】
次いで、この熟成レーズン種を、中種またはパン生地にミキシングして1次発酵させ、分割成型後、低温長時間発酵をさせると、生地は、水和と酵素作用によって熟成された状態に作り上げられ、水分含量が多く、旨味(風味・香り)を多く含んだ高品質のパン生地になる。
【0022】
そして、このように発酵したパン生地を焼成する際、1段階以上の焼成工程とし、このうち少なくとも最終の焼成工程を過熱水蒸気によって焼成する。このようにすると、生地内部からの水分の蒸発が抑えられ、しかも表面は適温で焼成されて炭化していない程度に適度の焦げ目が付き、熟成レーズン種特有の旨味(香味、風味、食感)を充分に味わえるレーズン酵母パンが製造される。
【0023】
そして、熟成レーズン種が、レーズンの水抽出物および小麦粉を発酵させ、さらに小麦粉と水を加えながら10〜20日間発酵させた熟成レーズン種であることにより、レーズン種を確実に熟成させることができ、種特有の旨味(香味、風味、食感)を充分に味わえるレーズン酵母パンになる。
【0024】
上記のレーズン酵母パンを、より確実に得るために好適な条件としては、ホイロ工程における低温長時間の発酵が、初期発酵として20〜25℃で0.5〜2時間であり、次に低温発酵として2〜10℃で7〜22時間であり、次に後期発酵として20〜25℃で1〜6時間の発酵である条件を採用することが好ましい。
【0025】
上記の所定温度範囲での所定時間の初期発酵、低温発酵、後期発酵を選択的に採用することにより、より確実に熟成レーズン種特有の旨味(香味、風味、食感)を充分に味わえるレーズン酵母パンが得られる。
【0026】
このようにして所期の旨みあるレーズン酵母パンが確実に得られ、焼成工程は2度以上に分けて行なってもよく、複数焼成工程同士の間には冷凍保存しておくこともできる。
【0027】
すなわち、上記したレーズン酵母パンの製造方法において、焼成が、不完全に焼成する工程である半焼成と、次いで冷凍保存後に完全に焼成する工程である再焼成とからなるレーズン酵母パンの製造方法とすることもできる。
【0028】
また、この方法によれば、レーズン酵母パンの中間製品を製造することもできる。すなわち、レーズンの水抽出物を発酵させて熟成レーズン種を生成し、次いでこの熟成レーズン種を中種法またはストレート法に従ってパン生地にミキシングして1次発酵させ、分割成型後、ホイロ工程で低温長時間発酵をさせ、発酵したパン生地を過熱水蒸気で不完全に焼成し、次いで冷凍することからなるレーズン酵母冷凍パンの製造方法としてもよい。
【0029】
冷凍された中間製品は、意図的に不完全に半焼成(部分焼成、パーベイクまたはパートベイクとも称される。)されたパン製品となり、通常では10〜20%程度の未焼成の部分を含むが、これをいわゆる最終工程で再焼成(リベイクとも称される。)することにより、必要に応じて焼きたてのパンを簡便に短時間で仕上げのために焼成することができる。これにより、流通の最終段階で消費者に食される直前の焼成が極めて好ましい焼き上がりとなる。
【発明の効果】
【0030】
この発明は、パンの製造方法において、1段階以上の焼成工程のうち、少なくとも最終の焼成工程として過熱水蒸気による焼成工程を採用したことにより、表面を適度に乾燥させて香ばしく歯ごたえ良く焼き上げ、しかも内部に風味、香り、水分を適度に含んだ柔らかさを持たせることができるという利点がある。
【0031】
また、半焼成工程と、その後の過熱水蒸気による仕上げの焼成工程とを含む段階的焼成工程を採用した発明では、仕上げの焼成工程で表面を適度に乾燥させて香ばしく歯ごたえ良く焼き上げ、しかも内部には風味、香り、水分を閉じ込めた状態で必要以上に逃がさないように焼き上げることができるので、半焼成工程後の流通や保存の多様性を充分に活用して需要者に高品質の焼きたてパンを供給できる利点がある。
【0032】
また、熟成レーズン種を中種またはパン生地にミキシングして1次発酵させ、分割・成型・発酵したパン生地を過熱水蒸気で焼成することからなるレーズン酵母パンの製造方法の発明では、特にパンの内部に特有の風味、香りを閉じ込めることができ、しかも水分が比較的多く必要なものであるため、通常の乾熱式加熱のみでは安定した高品質での製造が困難であるにも拘わらず、この種のパンに特有の旨味(香味、風味、食感)を確実に味わえるレーズン酵母パンの製造ができ、さらにそのようなレーズン酵母パンの中間製品であるレーズン酵母冷凍パンを製造できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
第1実施形態のパンの製造方法では、酵母を含む中種または酵母をパン生地にミキシングして1次発酵させ、分割成型後、ホイロ工程で発酵させ、発酵したパン生地を1段階以上の焼成工程で焼成し、少なくとも最終の焼成工程は過熱水蒸気による焼成工程を採用する。
【0034】
この実施形態では、使用する酵母を特に限定するものではなく、通常に用いられるイーストなどのパン酵母や天然の酵母を特に限定することなく採用できる。
【0035】
採用できるパン酵母は、サッカロミセス・セレビシエ(saccharomyces cerevisiae)のように糖分をアルコールと炭酸ガスに分解する単細胞の微生物であればよく、これを天然で得られる複数の微生物が混在した天然の酵母として用い、または工業的に単一種または所定種に精製したイースト菌も用いることができる。
【0036】
因みに、天然の酵母は、ブドウなどの果実、穀物、野菜などに付着した野生の酵母を利用したものであり、複数種類の酵母の混在と野菜や果実から生じる香気がパンに独特の味や香りをつけることができるものである。
【0037】
このような天然の酵母または精製された酵母(イースト)を用いたパンの製造方法は、ストレート法(直捏ね法)または図1の(c)に示すような中種法のいずれの発酵工程を採用してもよく、通常行われる1次発酵、分割成型、ホイロ工程までは通常のパン製造工程を採用することができる。
【0038】
1段階以上の焼成工程を採用する場合の最終の焼成工程以外は、周知の直接または間接的な乾熱式加熱を採用することができる。直接加熱は、いわゆる直火焼きと別称される方法であり、電気ヒータや燃焼ガスなどの熱源からの放射熱を利用し、直接にパン生地を加熱する方法であり、通常の電気オーブンやガスオーブンを利用し焼成することができる。
【0039】
また、間接加熱方法としては、熱源と食品の間に赤外線を効率よく放射する鉄板やセラミックス、石材などの被加熱体を設けた調理器具を採用し、食品を加熱する方法であり、セラミックスなどを用いると遠赤外線を含む熱線で加熱することもできる。
【0040】
これらの乾熱式加熱と、過熱水蒸気による仕上げの焼成工程とを併用する場合には、乾熱式加熱によって半焼成状態までパン生地を加熱しておき、この状態のものを中間製品として冷凍保存または常温保存で流通・保存可能な製品とすることができる。
【0041】
過熱水蒸気を用いた仕上げの焼成工程では、調理用の過熱蒸気発生装置(例えば、サンプラント社製)を用い、大気圧下、100℃で発生した水蒸気にさらに熱を加えて昇温した水蒸気として、100〜350℃程度の過熱水蒸気を食品の加熱加工に利用することができる。
【0042】
図2、3を参照して調理用の過熱蒸気発生装置の構造例を説明すると、先ず図外の水タンクから供給される清浄な水を、水導入管1から各階層の焼成室毎に設けた電熱によるヒータ2で加熱し、100℃程度の飽和水蒸気として蒸発させ、次いでこの飽和水蒸気は焼成室上部に別途設けたヒータ3で加熱され、120〜300℃程度の過熱水蒸気となって各階層の天井部から下方に噴出させる機構を有する。
【0043】
過熱水蒸気は、焼成対象のパンAに接触して熱交換された後、各焼成室の床面孔から床面下に気流で引き込まれる。この気流は庫内後部のシロッコ型の耐熱循環ファン4で起こされたものであり、庫内を循環してヒータ3で再加熱された過熱水蒸気は、再度各階層の天井部から下方に噴出されて効率よく焼成がなされる。
【0044】
このとき、焼成機のヒータ2、3の温度や耐熱循環ファン4の流量は、コンピュータ制御され、いわゆる自動運転で庫内は予め設定された温度で過熱水蒸気が循環され、その循環速度も耐熱循環ファン4を回転させるモータのインバータでコントロールできる。また、熱交換された後の蒸気とパンAから出る水分煙などは排気ダクト5から適宜に排気される。なお、図3中の符号6は、開閉される前扉を示している。
【0045】
焼成機内の過熱水蒸気の一般的な加熱作用を説明すると、加熱空気と同様に材料への対流電熱量に相当する水分蒸発(乾燥)が起こるが、過熱水蒸気による加熱の初期では、水分凝縮量が蒸発量より多いため、見かけ上の材料水分は増加する。しかし、この加熱水蒸気の大量の凝縮熱は材料表面温度を急激に上昇させる。材料に水分が存在する間は、温度上昇は100℃に止まるが、乾燥が進行し、その間に材料の熱変性が起こる。
【0046】
次に、材料表面に水分がなくなると、材料が含有する酸素によって酸化を伴う分解が起こり、過熱水蒸気温度の100℃以上にまで材料温度が上昇し、成分の熱分解に伴う褐変が進行していわゆる「焦げ」が生じるから、適度に加熱時間を調整する。
【0047】
第2実施形態のレーズン酵母パンの製造方法について、その工程を簡略に図1(a)に示し、これを参照しながら詳細に説明する。なお、図1(b)は、比較のためのパネトーネ種の製造工程である。
【0048】
この発明に用いる熟成レーズン種は、水、レーズン(干しブドウ)、小麦粉を原料としてこれらを自然発酵させて得られる液種をさらに発酵し、熟成させたものであり、このようなレーズン種には、酵母菌、乳酸菌、酢酸菌など不特定多数の細菌類が棲息しているものであり、これらの微生物が時間をかけて独特の深い味わいを引き出すものになると考えられる。
【0049】
レーズン種は、周知の方法で液種とし抽出することができ、例えばオイルコーティングのない上質のレーズンを煮沸消毒した密封瓶に水と共に入れ、毎日ガスを抜きながら水を足すことなく約5日間程度発酵させ、レーズンの中身が溶け出して濃い茶色で甘い香りが強くする状態のものを液種に採用することができる。
【0050】
次に、図1(a)の当初の工程として示されるレーズン種熟成では、レーズンの水抽出物および小麦粉を発酵させ、さらに小麦粉と水を加えながら10〜20日間の低温長時間発酵をさせて熟成レーズン種とする。
【0051】
このような熟成レーズン種を得るには、例えばレーズン種50重量部(以下、重量部を単に部と略記する。)に対して、水90〜110部、小麦粉50〜70部を混合したものを一日目の種aとして21〜24℃で2日間保存し、さらに種aの100部に対して水15〜35部、小麦粉11〜14部を混合したものを4日目の種bとし、これを前記温度で5日間保存する。
【0052】
次いで、10日目から14日目には、9日目の種bを100部に対して水35〜55部と小麦粉20〜40部を混合し、これを4〜6時間保存したものを種Aとし、その後、種Aを100部に対して水40〜60部と小麦粉24〜44部を混合し、4〜6時間保存したものを種Bとし、さらに種B100部に対して水45〜65部、小麦粉27〜47部を混合したものを8〜12時間保存して種Cを製造し、これら種A〜種Cの種の育成工程を1サイクルとして5サイクル以上繰り返して、熟成工程初日から15日目以降に使用可能な熟成レーズン種が得られる。
【0053】
図1(a)に示すように、この発明では、得られた熟成レーズン種を、その後に中種またはパン生地にミキシングして1次発酵させ、分割し成型するが、これらの工程は、特に周知のパン製造工程に準じて行なうことができる。
【0054】
そして、この発明では、成型されたパン生地を所定の条件でホイロをとり、すなわち低温長時間発酵をさせることにより、水和と酵素作用により充分に熟成された水分含量の多いパン生地を得ることができる。
【0055】
ここで、この発明において好ましい低温長時間発酵工程は、初期発酵として20〜25℃で0.5〜2時間、次に低温発酵として2〜10℃で7〜22時間、次に後期発酵として20〜25℃で1〜6時間の発酵である。
【0056】
このように当初に初期発酵として比較的高温にて発酵させることにより、全ての材料からなる生地全体に必要な発酵が進行し、次いでその発酵速度を抑制するように温度制御しつつ、比較的長時間の低温発酵をさせる。
【0057】
この低温発酵では、酵母の活動はゆっくりとスピードダウンされる代わりに生地の風味、香り、食感、そして旨味がゆっくりと時間をかけて最大限引き出されていることになると考えられる。
【0058】
次いで、後期発酵として、発酵温度を短時間だけ上げて、仕上げのために充分な発酵を行なわせてホイロ工程を完了させる。このように長時間のホイロ工程を実行すると、短時間のホイロでは醸し出すことのできない複雑な味わい(風味・香味・食感)を引き出すことができる。
【0059】
このようにしてホイロ工程を経たパン生地は、次いで必要に応じた程度に焼成する。
焼成工程としては、過熱水蒸気を用いて1回で完全に焼成する工程を採用することもできるが、流通に便利であるように焼成工程を2度に分けて、いわゆるパーベイク(パートベイク)を行ない、不完全な焼成工程である半焼成と、次いで冷凍保存後に完全に焼成する工程である再焼成(リベイクとも称される。)してパンを完成させることもできる。
【0060】
不完全な焼成工程である半焼成を経て冷凍保存された冷凍パンは、中間製品としてそのまま商品として流通させ、または必要に応じて保存することもできる。
【0061】
不完全な焼成工程である半焼成をする場合には、特に過熱水蒸気による加熱に限定することなく通常のパンの焼成方法を採用すればよく、パン生地を電気オーブンなどの通常の乾熱式加熱オーブンで焼成する。
【0062】
次に、過熱水蒸気を用いた仕上げの焼成工程を行なうが、この焼成工程は、前述した第1実施形態で説明した通りであればよく、同様な機構の調理用過熱蒸気発生装置(例えば、サンプラント社製)を用いることができる。そして、大気圧下、100℃で発生した水蒸気にさらに熱を加えて昇温した水蒸気として、100〜350℃程度の過熱水蒸気でパン生地を焼成する。
【0063】
このように過熱水蒸気による加熱は、特に水分含量の多いレーズン酵母パン生地の焼成にとって極めて有利であり、後述する実験結果からも明らかなように、電気やガスの輻射熱による加熱に比べて、焼減率は低く、水分の減少量は低いか、または却って上昇する場合もある。そのため、生地内部からの水分の蒸発が抑えられ、しかも表面は適温で炭化しない程度に焦げ目が付き、パンの生地の不利な酸化が防止されて、熟成レーズン種特有の旨味(香味、風味、食感)を充分に味わえるレーズン酵母パンを焼成できる。焼成に当たり、焼成する空気単位体積当たりの過熱水蒸気量の多少は、適当量に調整したものを適宜に採用することができる。
【0064】
焼成は、半焼成として行なう場合に約80〜90%程度だけ行ない、その後はできるだけ急速に冷凍状態にして保存する。例えば−18〜20℃以下の極低温で急速凍結保存することにより、長期間の保存と流通が可能になる。
【0065】
最終的に完全な焼成(リベイク)をする際には、このような冷凍保存後のパンをその大きさや種類によって180〜250℃で3〜15分程度の比較的短時間だけ、過熱水蒸気で焼成し、その後は庫内より取り出して自然冷却すればよく、この自然冷却中にもパンの内部ではある程度の加熱が進行する。
【実施例】
【0066】
[実施例1〜4]
第1実施形態の製造方法に従って、イースト菌を用いたストレート法(直捏ね法)により表1に示す組成のパン生地を製造し、表2に示す条件にて、発酵、分割成型およびホイロ工程までを通常のパン製造工程を採用して製造した。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
その後は参考例1、2については通常の電気オーブンを用いて完全焼成し、実施例1、2では半焼成(いわゆる8割方のパーベイク)を行ない、実施例1、参考例1では72時間の冷凍保管、実施例2、参考例2では24時間の常温保管を行ない、その後はいずれも過熱水蒸気オーブンで180℃、7分の仕上げ焼成を行なった。
【0070】
得られたパン製品重量(g)と、水分蒸発量(%)を測定して表3中に示し、さらに焼成されたパンの味覚テストを(社)日本パン技術研究所の「フランスパン」の基準に従って行ない、その香味、風味、食感を点数評価(各項目別に15点満点)して表3中に併記した。
【0071】
【表3】

【0072】
[比較例1〜4]
実施例1、2、参考例1、2おいて、最終焼成の工程で過熱水蒸気オーブンに代えて、通常のベーカリーオーブン(電気オーブン)を用いたこと以外は、全く同様にしてパンを製造した。
【0073】
得られたパン製品重量(g)と、水分蒸発量(%)を測定して表3中に示し、さらに焼成されたパンの味覚テストを(社)日本パン技術研究所の「フランスパン」の基準に従って行ない、その香味、風味、食感を点数評価(各項目別に15点満点)して表3中に併記した。
【0074】
表3の結果からも明らかなように、焼成工程における完全焼成または半焼成のいずれであっても、また焼成後の冷凍保管または常温保管のいずれであっても過熱水蒸気によって再焼成(リベイク)することにより、表面を適度に乾燥させて香ばしく歯ごたえ良く焼き上げ、しかも内部には風味、香り、水分を閉じ込めた状態で焼き上げることができたことがわかる。
【0075】
次に、第2実施形態の製造法により、製造したレーズン酵母冷凍パンについても、パーベイクを行なった後、冷凍し、さらにその後、過熱水蒸気を用いて加熱するリベイクテストを行なった。
【0076】
[実施例3]
小麦粉1kgに対して、食塩21g、油脂10g、上白糖10g、水560g、および実施形態の方法で得られる15日目の熟成レーズン種を約250g添加し、第1発酵を28℃で4時間行ない、さらに100gに分割し、棒状のフランスパン型(カスクート)に成形した生地を低温長時間発酵させた。その際、初期発酵として21〜24℃で1時間、次に低温発酵として5〜6℃で10時間、次に後期発酵として21〜24℃で3時間の発酵を行なった。
【0077】
次に半焼成のため、通常のベーカリーオーブンを用いて230℃で18分間加熱して約80%のパートベイクを行ない、自然冷却後に−20℃で72時間冷凍した。これを室温で1時間放置して解凍した後、表1に示す210℃または250℃の焼成温度でリベイクし、所定時間室温で保管した。
【0078】
リベイク後のレーズン酵母パンについて、味覚テストを(社)日本パン技術研究所の「フランスパン」の基準に従って、香味、風味、食感を点数評価(各項目別に15点満点)した。
【0079】
[比較例5]
通常のベーカリーオーブン(電気オーブン)を用いてリベイクを行なうこと以外は、実施例3と全く同様にしてレーズン酵母パンを製造し、リベイク後のレーズン酵母パンについて上記同様に味覚テストを行ない、その結果を表4中に併記した。
【0080】
【表4】

【0081】
表4の結果からも明らかなように、過熱水蒸気で210〜250℃で加熱したリベイク後のレーズン酵母パンは、その特有の旨味(香味、風味、食感)を充分に味わえるようになったことが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実施形態(a)および従来例(b)(c)のパンの製造工程図
【図2】過熱水蒸気による焼成炉の正面図
【図3】過熱水蒸気による焼成炉の側面図
【符号の説明】
【0083】
1 水導入管
2、3 ヒータ
4 耐熱循環ファン
5 排気ダクト
A パン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母を含む中種または酵母をパン生地にミキシングして1次発酵させ、分割成型後、ホイロ工程で発酵させ、発酵したパン生地を焼成するパンの製造方法において、
前記焼成する工程が、1段階以上の焼成工程からなり、少なくとも最終の焼成工程は過熱水蒸気による焼成工程であることを特徴とするパンの製造方法。
【請求項2】
焼成工程が、直接または間接的に乾熱式加熱を行なう半焼成工程と、その後の過熱水蒸気による仕上げの焼成工程とを含む段階的焼成工程である請求項1に記載のパンの製造方法。
【請求項3】
半焼成工程の後に、常温保存または冷凍保存され、その後に仕上げ焼成工程が行なわれる請求項2に記載のパンの製造方法。
【請求項4】
レーズンの水抽出物および小麦粉を発酵させて熟成レーズン種を生成し、次いでこの熟成レーズン種を中種またはパン生地にミキシングして1次発酵させ、分割成型後、ホイロ工程で低温長時間発酵させ、発酵したパン生地を焼成する1段階以上の焼成工程からなり、この焼成工程のうち少なくとも最終の焼成工程が過熱水蒸気による焼成工程であるレーズン酵母パンの製造方法。
【請求項5】
熟成レーズン種が、レーズンの水抽出物および小麦粉を発酵させ、さらに小麦粉と水を加えながら10〜20日間発酵させた熟成レーズン種である請求項4に記載のレーズン酵母パンの製造方法。
【請求項6】
ホイロ工程における低温長時間の発酵が、初期発酵として20〜25℃で0.5〜2時間、次に低温発酵として2〜10℃で7〜22時間、次に後期発酵として20〜25℃で1〜6時間の発酵である請求項4または5に記載のレーズン酵母パンの製造方法。
【請求項7】
焼成が、不完全に焼成する工程である半焼成と、次いで常温保存または冷凍保存後に完全に焼成する工程である再焼成とからなることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載のレーズン酵母パンの製造方法。
【請求項8】
レーズンの水抽出物を発酵させて熟成レーズン種を生成し、次いでこの熟成レーズン種を中種またはパン生地にミキシングして1次発酵させ、分割成型後、ホイロ工程で低温長時間発酵をさせ、発酵したパン生地を不完全に焼成し、次いで冷凍することからなるレーズン酵母冷凍パンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−215454(P2007−215454A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−38208(P2006−38208)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000146973)株式会社神戸屋 (1)
【Fターム(参考)】